ある男の物語

レス0 HIT数 205 あ+ あ-


2024/09/03 21:51(更新日時)

彼が陰のある物事に惹かれたのは、いつからだろう。子供の頃、シジミチョウの羽を摘んだまま、指を擦り合わせるのが好きだった。地面にポトリと落ちたシジミチョウは体をガクガクさせながらおぼつかない足取りでその場から急いで逃げようとする。彼はそれを見ながら興奮していた。

蟻を靴で踏み潰す感覚と同じだ。別に他の子ども達だって、皆んなしていたこと。だから悪いとは思わない。いや、違う。そもそも何かが欠落していたのだろう。きっと。

大人は子供を純粋で可愛いと言う。だけど彼の場合は違っていた。ある種の狡猾さ、闇の部分を持っていて、子供という役を演じていたからだ。また他人をランク付けして、格上にはとびきりの笑顔で接して、格下には酷い扱いをする。だからほとんどの大人にはバレない。彼は子供の良いところだけを盗み、裏ではやりたい放題やっていた。

その癖、強気で正論を語る。そして時に弱者になる。彼はそうやって相手の心を揺さぶる。彼は太陽よりも月を好んだ。光より闇を好んだ。しかし、世間一般的には太陽が光が良いとされているし人気だから、彼は太陽と光を好きだと言った。嘘のはじまり。

嫌なことはとにかく誰かにさせろ。それが彼の信条だった。自分はいつもラクな位置にいて、誰かを指差してケタケタ笑っている。悪魔の子。

だけど、彼はとにかく異性の気を惹く。見た目が良かったからだ。たったそれだけの理由で異性が彼に群がった。ああ、これがさらに彼を付け上がらせることになる。

気に食わない相手は、裏で評判を落としていく。それも彼の絶妙で迫真の演技の為せる技だった。味方を作るのも、敵を作るのも、上手い。だから強烈に好かれるし、強烈に嫌われる。彼は極端な人間だった。

彼は小さい頃からずっとそうやって自分の帝国を築き上げたつもりでいた。でもね、神様は見ているんだよ。だから、今、彼はとても苦しんでいる。ああ、報いだね。

タグ

No.4130838 (スレ作成日時)

投稿順
新着順
付箋
該当のレスが一つもありません。
投稿順
新着順
付箋
このスレに返信する

小説・エッセイ掲示板のスレ一覧

ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少
新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧