九つの哀しみの星の歌

レス1 HIT数 198 あ+ あ-

小説好きさん
2024/05/12 09:54(更新日時)

ひとつまたひとつと
花弁を落とす白百合
もう死んでしまうんだね

さようなら、さようなら

貧しいスラムで育った
華奢で可憐な女の子が
大層な夢を見て
意を決して異国に来たけれど

悪い大人に騙されて
今では卑しい娼婦です

でも誰よりも心は綺麗です
涙が心の汚れを洗い流したのです

でも彼女は直に死んでしまう

どこか儚げで、憂いを帯びていて
目は伏し目がちで

良かったね、良かったね
辛いだろうに
だから死んで良かった

優しい心の持ち主は
そう長くは生きられません

悪質な土壌に育ち
汚水をかけられ
陽の当たらない花は
早々と枯れるのが運命なのです

かわいそうに、かわいそうに

今から３００年も昔に
たくさんの人を殺めた男がおりました
その男は孤児で
母親の愛を知らず
おまけに忌み子だったので
人々から蔑まれて育ちました
何も悪いことはしていないのに

この男の苦しみは
如何なるほどのものだったろうか
人格が歪んでしまったことは
言うまでもありません

ある日、男は石を投げられ
頭から血を流しました
さも変哲もない
いつものことでしたが
堪忍袋の緒が切れたのです
鉈と斧を振り回し
手当たり次第に人を殺めました
男も、女も
子供も、大人も見境なく

でも、その村で
ただ一人、その男を気にかけて
哀れむ優しい女がおりました
その女は人知れず
その男のことを愛していたのですが
他の人達のことを気にして
話しかけることはありませんでした

しかしただ一度
一度だけ子供の頃に
いじめられて泣いている男に
優しく抱擁して
手にしている蜜柑を
そっと渡したことがありました

男はそのことをいつまでも忘れず
心の慰めとして秘めて
覚えていたのですが

憤怒と悲哀の心と
理性を失った頭には
目の前で血を流して倒れている女が
その人だとは知り得ません

どこかで誰かが
あなたの幸せを祈っている

でもその男には
あまりにも愛が足りなかった

二人が再び廻り合い
幸せを手にするには
まだ幾世もの生を受けなければなりません