Journey with Day
少年ジョニーは、バイクのデイと共に、旅に出る。
旅の途中で出会う、それぞれの生活を生きる、わけありの人たち。
出会いと別れをくり返し、ジョニーはひたすら、西へと走る。
いちばん大切な何かへと向かって、、
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ふと見ると、バイクのディが、木陰でじっとオレを待っている。
キィを差し込むと、カチャリと手ごたえがあって、すぐにエンジンは始動した。
そして、オレは走り出した。目的地であるセント・グレイスへ。
背中のリュックには、パーシーが作ってくれたサンドイッチが入ってる。
オレは、なんだか、グランドマザーがよく作ってくれたブルーベリーのサンドイッチを思い出して、涙が出そうになってきた。やさしかったグランマ。
まぶしく輝いていたパーシーの笑顔。そして、ミスター・ロイ。
もう少し、あのバルコニーの中にいたかったような気もするけど、とどまるわけにはいかなかった。
ミスター・ロイ、あの黒真珠の瞳にまた会える日もあるだろうか。
リリアナは、そっと立ち上がり、壁のモザイクを指でさわった。
「この白いタイルはね、私が貼ったのよ。何回も失敗したけど。
たくさんの人達が、タイルを貼りに来るわ。アメリカ中から。この間来た親子は、外国から来たって言ってたわ。海を渡って、列車を乗り継いで、一番近い駅から、ここまで歩いて来たんだって。
きれいな、かわいい子供たちだった。パパとママがタイルを貼る間、お庭でおとなしく待ってたの。パパとママは、ここに来るために、畑を売ってきたんだって言ってたわ」
「リリアナ」
リリアナは、青い瞳で、オレの目をじっと見つめた。
「オレにも、タイルを貼ることは、できるかな?」
ふっと、彼女は遠い目をして、顔を小さく横にふった。
「いま、タイルはないの。もうすぐ、この壁も仕上がるわ。これから先は、カテドラルの設計士が選んだ人達しか、ここには入れなくなってくる」
オレは、リリアナの細い手を握りしめた。ひとつひとつの指が冷たくて、強く握ったら、折れてしまいそうだった。
「君はもう、イースト・サイドには戻らないの?」
リリアナは、じっと、オレの手のひらに包まれた、自分の細い手を見つけている。
「ええ。戻らないわ。パパとママとも、よく話したことなの。
私のできることなんて、ほんの少ししかないだろうけど、でも、私はここで、神様から許された時間を、生きていくの。それがいつまでかは、わからないけど。
ごめんね、ジョニー。せっかく来てくれたのにね」
リリアナは、そっと、オレの右手の上に、自分の左手を重ねた。
一瞬、その手があまりにも冷たくて、ぞくっとした。そのあいだに、彼女の右手も左手も、椅子の向こう側へと遠ざかっていった。
リリアナは、少しうつむいた後、天井に近い窓を見上げて、つぶやくように話した。
「このカテドラルの周りには、鳥がたくさんいるの。小さいころは、鳥になって、大きな空を飛んでみたいって、思ってたわよね。
私は今でも、ずっと考えているの。もしこの体がなくなったら、鳥になって、大きな山を越えて、イースト・サイドに帰りたいって。
でも、私は鳥にはなれない。飛び立つには、いまの私の体は、重たすぎるの」
ベールを少しずらしたリリアナの顔は、逆光の中で、いちだんとほっそりして見える。オレは、何と言っていいかわからず、黙っていた。
「今日はありがとうね、ジョニー。会えてうれしかったわ。
イースト・サイドに帰ったら、昔のお友達に、伝えてちょうだい。私は元気だから。パパとママにも、手紙で伝えてあるわ」
オレは、椅子から立ち上がり、リリアナの瞳をじっと見つめた。
「オレには、バイクのディビットがいるから、鳥にならなくても、いつでも山を越える事ができるよ」
「そうね」
リリアナは、青い瞳を閉じた。
「あなたは、旅を続けてちょうだい」
そして、オレは、バイクのディに乗って走った。もと来た道を。
空回りするような排気音の中、もうもうと砂ぼこりをあげながら。
だいぶ、長く走ったような気がする。100㎞も200㎞も。
逆回りの景色が、デジャブのように、視界からちぎれ飛んで、後方へと流れていく。
いつか必ず、もう一度、あのカテドラルへ到着するんだ。
リリアナ、君はその時まで、オレを待っていてくれるかい?
少しずつ、スピードをあげる。おい、どうした、ディ、お前は、もっと、速く走れるだろう?
ディは、オレの問いには答えず、ただまっすぐに、一本道を走り続ける。
もうすぐ、町の明かりが、見えてくるはずだ。
夕暮れを追い越し、オレとディは、ひたすらに、ずっと、ずっとずっと走り続ける。
〈End〉
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