世界キライの愛し方

レス0 HIT数 404 あ+ あ-


2021/08/21 16:07(更新日時)


自己紹介なんて、
大抵の人間は聞いてはいない。
だってこれから相手のことを知っていくものだから。


面接なんかでよく
「私の長所は明るい所です」
「僕は真面目です」
なんて言われても、結局は自分自身がカテゴライズしただけの説明で
本当にそうなのかなんて確める術がない。
だから興味を象徴するもの、よっぽどのインパクトがない限り自己紹介なんて覚えている訳がないんだ

そう、

その限りの彼女を除いては




「初めまして。転校してきた




         ー世界キライです。」


__________


教室はざわめく。
それはひどく分かりやすく向けられた好奇の目。そして案の定、休み時間に入った瞬間に彼女は質問の嵐だった

「ねぇ、世界キライって本名なの?」

「誰がつけたの?」

「名前で呼んでいい?」


なんて聞くのはまだ可愛げがある方で

「本当に世界がキライなの?」

なんて聞く奴もいた。
ああ、本当に嫌になるもんだ

そんな質問を受けた世界キライだが
表情は大して変わらない。
むしろ歓迎するかの様に笑顔で答えていく。

「そうだよ、本名なんだ」
「ごめんね、親に聞いたことがあるんだけど教えてくれなかったの。」
「うん、大丈夫だよ」



「私は世界のこと愛してるよ」



予鈴もなり、
散り散りに席につく生徒達。

先ほどから隣の席の彼女を横目でみていたが、いよいよ我慢が出来なくなり、

「なぁ、あんた」
と声をかける。

「なあに?」
さっきの奴らに向ける笑顔と変わらない顔だった。それがたまらなく面白くない。



「好きなお菓子、なに?」


俺としては、60点の答えだった。

好きな教科は?なんて聞いて
勉強の話が好きじゃないかもしれないし
好きな音楽は?って聞いて
全く趣味の違うアーティストを答えられても良いリアクションは出来ないし、

それほどまでに女子が聞かれて嬉しい質問が思い浮かばなかったからだ。


沈黙が長く重く地獄の様に感じた俺は
直ぐ様

「いや、別に、答えたくなかったら良い」

窓に顔を向け逃げる様に視線をそらす。

苛立ちや気恥ずかしさからか、
シャーペンのカチカチとする音が止まらない。
カチカチ、カチカチ、カチカチ…
長く出過ぎた芯を戻そうとノートに押しつけ、芯がちょうど良い長さに収まった時


「……チョコレート」

小さいながらもハッキリときこえた音




「チョコレートが好き。」






俺はこの時はじめて他人の自己紹介をきいて、覚えた。


………………………………………………………………………………
気が向いたら続きます。
………………………………………………………………………………












No.3356595 (スレ作成日時)

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