【掌編】アホ(笑)

レス3 HIT数 703 あ+ あ-


2021/08/16 17:14(更新日時)

バス停があって、川があって、そして美しい山々が広がっていればよかったのに。
わたしは毎日ラブホを見つめねばならんのだ。
制服で。朝から。
――この前梅ガムっての見つけたんだけどさあ、いる?
こいつと一緒に。
――いらん。

イナカ過ぎて高校がない。
家を出ないで通えるのはギリギリ二つだけだ。
賢い方と、賢くない方。
わたしは賢い方へ行き、アスミは残念ながら、賢くない方へ進んだ。
まあ当然だな。
朝が美しいと書いて朝美。
名前に似合わない丸刈りの男。
こいつは昔からアホだった。
――なあ、6×9が54になるって、なんか少なくね?
――どういうこと?
――もっとこう、せめて59だろって感じしない?
こんな会話がいつまでも続くのだ。
クラス替えのない中学校で、三年間。

高校に入るとき、わたしとアスミのほかは村を出てしまった。
外へ向かうバスを使うのは、だからわたしたち二人だけとなった。
錆びたガードレールの狭間に作られた申し訳程度の待合所。
の、田んぼを挟んで向こうにラブホテル。
よせばいいのに話を振ってくるアスミ。
――こんなとこにこんなんあったのな。
――じぇーけーにラブホの話をするんか君は。
――え?
――いや、もういいわ。そうだね。
――朝食無料だって。
――うん。
――食いに行ってみようか。
――宿泊者限定でしょ。
――そっか。

また別の日も。
――なんでこんなお城っぽいのかな。
――あんまり想像したくないかな。
――なんで?
――アスミはさあ、あれが何のホテルか知らんの?
――ホテルはホテルだろ?
――……そうだね。

また別の日も。
――今日は客多いな。
――いやな情報を言うな。
――しかしこのへんってさあ、なんか観光地あったっけ?
――説明しなきゃダメ?

アスミはアホだなあとつくづく思う。
おかげでわたしのセーシュンとやらはラブホの観察日記で終わりそう。
いいのかこれで。
いいわけないよ。
――なあ。
なんだよう。今日もふってくるのかよう。
――なに、アスミ。
――あれ親父の車だわ。
――え?
――昨日の夜からどっか行ってくるっつってたけど。こんなとこにいたのか。
――ほんとにアスミのお父さんなの?
――うん。
――アスミんちこれから大変だね。
――そうなの?

アスミは本当にアホだなあ。
呑気だなあ。
――アスミ。
――なんだよ。
――アンタのそういうとこ、いいと思うよ。
――何が。
――うん。好きだよ。
――急に告白?
――ばか。
――ええ? どうした?
――ばーか。







No.3353064 (スレ作成日時)

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No.1

古谷実さんなどのような、絶妙にエロくて非現実的かつ現実的な青春を書きたいなあと思いました。

No.2

面白かった

No.3

>> 2 ありがとうございます。
次はそのうち出るような気がしてきました。

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