ブルームーンストーンおまけ話
ブルームーンストーンのオマケ話です。
小説…というわけでもないので(多分)
つぶやき板に立ててみました( ̄▽ ̄;)
どうぞお暇潰しに読んでいってやって下さいませm(_ _)m
- 投稿制限
- スレ作成ユーザーのみ投稿可
遅ればせながら
皆様のスレで探せたものをフォローさせていただきました。
目が疲れやすくなりどうにも色々と見て回ることが苦手になってきまして
数日かけてそれでも抜かしているかもしれませんが💦
暖かいメッセージを下さった方々
しっかり読ませていただきました。
一括のお礼で申し訳ありませんが
本当に本当に嬉しかったです。
同じ方々なのか別の方なのかはわかりませんが
共感を押して下さった方々、スレを見て下さった方も本当にありがとうございます。
胸に水が結構たまっていたらしく
外来診察時に抜いてもらうと
違和感&痛みが減りちょっと楽になりました。
同様にお腹の傷も順調です。
こうやって少しずつでも回復してきております。
また来ます。
ありがとうございました。
お腹の自家組織による乳房再建術が終わり退院してきた。
穿通枝皮弁法つってお腹の筋肉は取らずに
脂肪を血管をつけた状態で取り出し胸に移植する術で、顕微鏡を通して血管をつなぎ合わせるという高度な手術。
当然時間もかかり
8時間ほどかかったと後で聞いた。
この術式の良い点はお腹の筋肉が無傷なので腹筋が弱くならない。
ただ
しか〜し
移植した皮弁の血管は細く
ちょっと血流悪いと詰まる危険性があり
血管詰まる=移植した皮弁が壊死する
という重大なリスクがあるため
術前は2日と聞いていたのに結局は1週間くらいあった絶対安静期間+やたら不自然で寝づらい姿勢厳守で寝ることを義務づけられ
とにかく寝られない。
あまりの寝不足に耐えかね、
生まれて初めて睡眠薬のお世話になったが
それでもまともに寝られない。
しかも
長時間に及ぶ全身麻酔の挿管のため喉が傷つき
やたら出る咳に悩まされた。
右端から左端までバシーっと腹切って
組織を取ってるんだぜ?
ガッツリギチギチに何十センチも縫ってるんだぜ?
そこに咳だぜ?
もうね
人生の中でこんなに苦しい思いをしたのは初めてだって真剣に思った
退院してきた今もしんどい
10分も立っていられない
寝られない
あ
生存報告のつもりが愚痴を書いてしまった
すまぬ
ちょっとしんどくなってきたんで
また余裕できたら来ますが
でもとりあえず元気です!!
大ちゃんと最後に会ってからもう1年が過ぎた。
大人げなく拗ねて
「大ちゃんはいつもユッキーとばかり楽しく話すユッキーにばかり優しくする」
って書いたけど
本当は…違うんだ。
昨年の飲み会帰り
終電の時間が迫ってて
「大変!終電に間に合わないかも?!」
ってヨタヨタ走る私の後ろから
「大丈夫!まだ間に合うから!慌てないで?
危ないよ!」
って後ろからの声に振り向くと
バカじゃないの?と言わんばかりの冷めた目のユーヤの隣で優しく
「ゆっくり歩いても間に合う時間にちゃんと店を出たから大丈夫。」
と声をかけてくれた大ちゃん。
いつもは利用しない駅の構内で
「あれ?何番線のホームに行けば良いんだっけ?」
と少し狼狽えた私に
「2番線ね、そこの階段を上がって!」
といつの間にか近くに来て笑いながら優しく教えてくれた大ちゃん。
あれ?
さっき別方向に別れたと思ってたのに
もしかして…見ててくれた?
「姉さん何やってるの!僕らはこっちでしょ?!ほら森崎さんを待たせないで!」
ユーヤの呆れた声に慌てて大ちゃんに
「ありがとう!またね!」
と手をブンブン振って振り向きもせずに
2番線の階段に向かったから
何かそのまま終わってしまったのだけど
もうちょっと気の利いたお礼の言葉を言えば良かったかな…と思う。
翌日、やっと意識もハッキリして術後の胸をゆっくり見た。
ティッシュエキスパンダーを挿入しているおかげか胸の膨らみが若干あり予想以上に気持ちの落ち込みが少ない。
そうだ
携帯を全く見てなかったな
携帯チェックをすると
「まだ仕事中?いま〇〇駅の前にいるんだけど」
と大ちゃんからのメッセージが入っていた。
それは私の手術真っ最中の時刻だ。
更に時間を置いて
「牧田と室田と〇〇店近くの居酒屋にいるけど来れないかな?」とある。
更にまた時間を置いて、
「また呑みに行こな!」
とあった。
あ~
急いで返事を返す
メッセージに全部正直に
でも転移はなかったから安心してと大事なことは強調して書いた。
すぐに既読がつき
「それは良かった!お大事に!」
というような内容がすぐに届いた。
相変わらず既読も返事も早い
それにしても
よりにもよって私の手術の日に〇〇駅まで来たの?
なんでよりにもよって。
変な意味で勘が良いのか?
大ちゃんの自宅はかなり遠い地域にあるので平日にこちらに来ることはまずない。
ユーヤ達と呑む時はいつも大阪駅周辺辺りと決まっている。その呑みに私を誘うこともない。
なのに昨日は平日にわざわざこちらに来て
私を誘ってきたの?
もしかして…生存確認したかったとか?
真偽はわからないけどそうだと嬉しい
昔と同じだから
でも心配させてしまったのだな
ごめん
手術は5〜6時間かかったと聞いた。
本来は摘出手術だけなら半分くらいの時間で済むらしいのだけど、私は「乳房再建」を希望したため乳腺外科医による摘出手術の後、そのまま形成外科医に交代して乳房再建のための「ティッシュエキスパンダー」という胸の拡張器を挿入する手術が行われた。
これは磁石の口がついた袋の様なもので
毎月少しずつ注射器を使って磁石の口から
この袋内に生理食塩水を入れて膨らませ胸の皮膚を伸ばしていく。
あ、余談だけど磁石が体内に入ってるってことでこの期間はMRI厳禁です。
ある程度の期間を経てまた手術
今度はティッシュエキスパンダーを取り出して
シリコンが自分の身体の一部かどちらかを入れるという入れ替え手術だ。
まあ色々面倒臭いわな
金もかかるし
また痛い思いするし
しかも入れ替え手術までの何ヶ月にも渡るティッシュエキスパンダー時代、水を入れた後の胸の皮膚の突っ張り感や痛み、うつ伏せ寝禁止や腕回しや激しい動き禁止などの制限&辛さがたまらない
こりゃ再建希望する人も少ないの納得だわな
と頷きつつも胸にティッシュエキスパンダー入れてしまって今更後戻りできないつかここまでやったらGOしかないだろ?!な私がここにいますよ。
手術当日は穏やかな晴れだった。
病室は個室なので窓のブラインドの開閉など自分の自由にできる。
病室の階が高めで周りから覗かれないことを幸いに私はブラインドを全部引き上げ
大きめの窓の外に広がる広い景色と空を飽きることなく眺めていた。
大ちゃん…
ずっと大ちゃんに連絡を取っていない
でも
連絡しても心配させることしか言えないから
このままずっと連絡しない方が良いかな?
退院して容態が落ち着いてから
しれっと報告するのが良い気もするな
でもなんにしろ
しばらく連絡はできそうにない
ごめんね
でもね
私も怖いんだよ
今は自分のことで精一杯なんだよ
手術初めてなんだ
全身麻酔も初めてなんだ
他臓器への転移はなかったけど
術中にわかるというリンパ節への転移がもしあったらどうしよう
それにね
それにね
起きたら
胸が片方無くなっちゃってるんだよ
大ちゃん
今頃何してますか?
あ〜平日だから仕事中だね
遠く離れているけれど
大ちゃんの幸せをいつも祈ってます
連絡できなくてごめんね
でももしかしたらフェードアウトしていくかもしれないことを許してね
手術への不安と恐怖から
空を見上げながら色々な思いや涙が溢れてくる。
コンコン
「準備がお済みでしたらそろそろ手術室の方に…」
「あ、はい、わかりました!」
看護師さんの声に一気に現実に引き戻された私は慌てて涙を拭いた。
「石灰化が認められます。」
と要精密検査の指示が出た健康診断の結果。
石灰化の9割以上は良性という情報を事前に仕入れていた私は、
「大丈夫だろうけどまあ念のためにね」の
軽い気持ちで近くの乳腺外来を受診したら
細胞診からの〜紹介状持って大学病院へ
からの〜生検
からの〜
ガン告知になってしまった。
少し遡るが
ガンが確定する前に
大ちゃんの誕生日があったので
いつもの様に誕生日おめでとうスタンプを一つLINEで送ったのだが
「また呑みに行こうな!」
と返事が来た。
なんだよ
またユッキー達に会いたいから
私に飲み会のセッティングをしてもらいたいのか?
と思ったが、ユーヤや室田くんとも久しく会っていない。
久しぶりに皆に会うのも悪くないなと思い直し
「そうやねちょっと今はバタバタしてるから落ち着いたら連絡するね!」
と返す。
直ぐにキャラクターが「了解!」とOKのポーズをしているスタンプが送られてきた。
きっと楽しみに待っていてくれることだろう。
検査の結果が出て異常なしとわかったら
心おきなく飲み会に行けるな
その時に
今のこの精密検査結果待ちという恐怖体験を笑い話として皆に聞いてもらうか
そんなことを考えていると
数日後の検査結果の日への恐怖も少しは薄らいできた気がした。
結局は飲み会どころか
大ちゃんに連絡することすら
できなくなってしまったのだけど…
乳ガンに羅漢した。
医師から「ガンです」と告知されて
まさか自分が…
と思う人は多いらしいが
私ももれなくそう思った。
なんとなーく自分はそういうものには無縁かなという謎の確信があったというかなんというかね?根拠は全くないんだけどさ。
でも、
「ガンですね…」
と言われた時は
「ガーン」
とクソダジャレ的なセリフが本当に頭に浮かんだくらい意外な思いだった。
現在は手術も終え
無事退院して
寛解期?という名の様子見期間に入っているのだが、片胸全摘出したもんだから
身体の重みのバランス的に具合が悪いんじゃなかろうか?と思い
「再建希望します?」
の乳腺外科の主治医の言葉に
「します!」
と簡単に答え
全く何も深く考えず
気軽に乳房再建という道を選んだことにちょいとだけ後悔中…
後で知ったけど
日本で乳房再建希望する人って
摘出した患者全体の10%くらいなんだってね
うん
わかるよ
「大ちゃんは永遠に大ちゃんだからね〜」
と優衣はいつもの様に笑う。
「永遠?」
「私達って一度気を許して好きになった相手にはずっと変わらないの。
何十年も会えなくなったとして、美優ちゃんが私達の事を忘れてしまったとしても私達は忘れないの。
そして何十年後に再会したとしても
私達は昨日も会ったよねくらいの感覚なの。」
「うん、なんか私が大ちゃんの事を愚痴るといつも優衣はそう言うよね。
でもさ、それと何年も会ってなくて今度はいつ会えるかもわからないのに
ユッキーにばかり優しくして私にはふざけた態度ばかりで貶してくるというのと関係なくない?
本当に本当に久しぶりだったんだよ?
今度はいつ会えるかわからないんだよ?
なのに居酒屋で料理頼んでもユッキーのには美味しそう!俺も食べていい?とか言うくせに、私の頼んだやつには、何これ?いつも変なの頼むよな。とか言って笑うんだよ!
カラオケでもわざわざ皆にミューズは歌が下手だったよな?とか言うしさ、それもまだ歌う前に言うんだよ?歌う前に言うなっ!
そして笑うなっアホ〜〜っ!!!ゼイゼイ」
「おおっと!まあ落ち着いて。はい!深呼吸〜」
優衣は興奮した私に深呼吸をさせると、
「でもさ、それが大ちゃんだから。」
とさらりと答えた。
うっ
確かにそうであった。
私は大ちゃんと知り合ってから
性懲りも無く毎回同じことで怒っている…
妹の優衣と久しぶりに話した。
「そういや大ちゃんとの呑み会はどうだった?楽しかった?もう行ったんだよね?」
かなり前に話した事を優衣は気にしてくれていてしっかり覚えていてくれる。
私は…
忘れる…しかもがっつり…
姉妹なのに大違いだ。
占いなんてと言ってしまえばそれまでなんだけど、星座で水グループの星座とか風グループの星座とかに分けるのがあって、
魚座、蟹座、蠍座は水のグループらしい。
この水グループというのは人見知りがちで繊細で人の心の内を敏感に察知する能力に長けているんだそうな。
これだけでも凄いなと思うのに、
この方々の最大の良いと思う点は、
一旦、自分が気を許した相手にはとことん愛情深く、慈悲深く、相手から絶縁されない限りその思いはずっと続くんだそうだ。
私の好きな人たち、
妹の優衣と、ユッキー、大ちゃんは
揃いも揃って全員この水グループという偶然!
わかる気はする。
だって
3人ともめちゃ良い人だもん。
私はこの3人を好きだけど、
でも
私はこの人たちの得意とする
「人の気持ちを察してあげられる」能力が無いからすれ違いも多いんだろうなといつも思っててそれがちょっと悲しい。
私が辛くて辛くて
過呼吸を起こし
声も出せずに涙だけをポロポロ流した時
「姉さん、姉さん、ごめんね、辛いのに何もしてあげられなくてごめんね。」
と、私の背中をそっとさすりながら涙を流してくれたね。
普段は喧嘩友達みたいになってしまってるけど
私はあの時の嬉しさを忘れない。
まあ
セフレになりかけたりと
ちょっと危うい時もあったけど
それでも
「大ちゃんに秘密にする様なことはしたくない」の私の一言で
気まずくなるかと思いきや
君も同意してくれて
あっさり元の関係に戻れたのは良かったよ。
今はね私の心が狭いから
なかなかまだ大ちゃん含めた呑み会を計画する気にはなれないんだけど、
他にも縁があればまた呑みましょう。
ユーヤ
激務だけど無理をせず
ちゃんと自分を労わらないとだよ。
そして
これからも大ちゃんをよろしくね。
私が○○店にいた頃は
大ちゃんは圧倒的カリスマ力で部下に慕われていた。
厳しい中に優しさがある。
そんな上司についていきたい部下が多かった。
時代は変わり、現在大ちゃんは本社のIT関係業務に従事しほぼパソコン相手の仕事をしているらしい。
やり甲斐はあるらしいが直接現場と関わる事が無くなってしまった。
対して今やあの会社の現場からの絶対的カリスマ人物は牧田君になっている。
上司からも部下からも絶大な人気のある牧田君。
あの頃の
「はしゃぎ過ぎたスーパーサイヤ人」みたいなツンツン金髪頭は黒髪爽やか系の短髪になり、
「サンダルは靴に入りませんか?」のふざけたスタイルはビシッと決めたスーツスタイルになった。
時が過ぎ
何かが確実に変わっていく
でも
変わらないものもある
ねえ
ユーヤ覚えてる?
私が辛く落ち込んでいたあの時期の
呑み会の帰り道
私の手を取ってそっと繋いで
「僕はずっと姉さんの味方だから
友達だから」
って言ってくれたよね?
「お会計はそちらのお客様にもう済ませて頂いてますので…」
ええっ??!!
それぞれ牧田君と写真を一緒に撮り満足した後、
さて、会計をしようとフロントに行くと
フロントのスタッフさんにそう言われ私達は一切に牧田君を見た。
「さ、帰りましょうか。」
牧田君は、いつまでもフロント前にいると他のお客様の邪魔になると言わんばかりに私達を店の外に出るよう促しながらそう言った。
「お忙しいのに来てもらっただけでも嬉しいのに全額出してもらうわけにはいきません。
私達かなり飲み食いしましたし…
少しでも出させて下さい!」
亜美ちゃんがそう食い下がったが
「忙しくても来たいと思ったから来たんだよ。
松野さん誘ってくれてありがとう。」
牧田君はサラリと笑顔で答えると、
「じゃあ気をつけて!お疲れ様です!」
と私達に向けて軽く頭を下げ帰っていった。
翌日、
「昨日は来てくれただけでなく支払いまですみません。いつもありがとう。」
とお礼のLINEを牧田君に送ると、
「こちらこそ楽しかったし誘ってもらって嬉しかったですよ。是非また行きましょね!」
とすぐに返信が来た。
亜美ちゃんが見たら泣いて喜びそうな内容だ。
楽しい時間はあっという間に過ぎ
終了時間までそろそろ…という頃、
牧田君がスマホを片手に部屋を出ていった。
またか
大変だな
カラオケの最中
仕事絡みの電話がひっきりなしに入り
その度に部屋を出ていく。
本当に忙しいのに無理して来てくれたんだな
「あ、もう終わりですよね?」
スマホをスーツのポケットにしまいながら牧田君が戻って来た時には
「10分前です。」の表示がモニターに浮かんでいた。
「そうですね!そうだ!部長!せっかくだから写真撮りません?」
自分の入れていた予約曲を素早く取り消し
亜美ちゃんがスマホを取り出した。
「撮りたいです〜!森崎さん!部長を挟んで撮りませんか〜?」
アンちゃんが無邪気にそう言うとユッキーの手を取り牧田君の横に立たせ自分も反対側に立つと
「お願いしま〜す!」
と、とびきりの笑顔を作った。
「部長もお忙しいでしょうけどたまには私の企画する呑み会の方にも来てもらえるとありがたいですし嬉しいんですよ?」
大ちゃんとの呑み会は何をおいても最優先する牧田君の事をわかっているのか、口調はまだ少し拗ねた風ではあるが亜美ちゃんの表情は完全に和らいでいた。
ほっ
良かった〜
と安堵しつつ
私は亜美ちゃんの気持ちがわかる気がした。
私だって
いつもユッキーにばかり優しく気を使い話題も合うのかずっと楽しげに話す大ちゃんにモヤモヤしているもの。
もしも私の誘いはなかなか受けてもらえないのに
ユッキーの誘いは受けたと知ったらめちゃくちゃショックだよ。
でも今回は前々からの大ちゃん絡みの呑み会の約束だから亜美ちゃんも安心してくれたかな?
「えっ?うそ?そうなの?私や他の人が何回も飲み会にお誘いしても忙しいからと中々来てもらえないのに…」
「いや、ごめんね、本当に忙しいんだよ。」
「え?でもユキちゃんと美優ちゃんとは呑みに行ったん…ですよね?もうっ部長は昔から美優ちゃんが誘えばすぐに行くから〜な〜!私が誘った時もちゃんと来て下さいよ〜」
笑いながらそう言う亜美ちゃんであったが
いかんせん目が全く笑っていない。
牧田〜〜っ!!貴様〜っ!!!
前言撤回
やっぱり牧田は牧田であった。
「メンバーは他に誰ですか〜」
相変わらず笑ってはいるが亜美ちゃんの目はますます怖い。
「えとね、ほら、神谷さんだよ神谷さん!
後は、室田君!私達って○○店の初期メンバーでしょ?だからそれのプチ同窓会っつーか…」
浮気がバレて焦りまくる浮気男の様に
しどろもどろになりながら必死で説明する私の横で無言で首をブンブンと縦に振るユッキー。
「神谷さんとの呑み会はコロナ禍前から計画してたんでね。」
神谷さんとの約束は果たして当然でしょ?
というような口調の牧田君の言葉に
私&ユッキー
ブンブンと首を縦に振る。
アンちゃんはめちゃくちゃ可愛い。
ユッキーが古風な日本人形風の美人だとしたら
アンちゃんは西洋風のフランス人形風の美人というか、私の表現力が乏し過ぎて何とも形容し難いが、ともかく目が大きくてまつ毛が長く可愛い顔立ちをしているのがアンちゃんなのである。
そんなアンちゃんの隣に座り
テーブルを挟んだ正面には昔からの憧れなユッキーがいるという牧田君の状況に
(すまして座ってるけど内心は満更でもなかろ?)とついニヤニヤしてしまう。
それにしても
牧田君は大ちゃん達といる時と違って
受け答えも仕草もいちいちスマートでかっこいい。
やはり部下達の前だと頼り甲斐のあるカッコいい面が全面に出るのかな?
「美優ちゃん!牧田部長に会うのは久しぶりでしょ?!」
そんなニヤついた私の顔を見た亜美ちゃんが
私が久しぶりの再会に大喜びしていると勘違いをしてそう声をかけてくれた。
「え?」
と、聞き返す間も無く、
「久しぶりも何も姉さんと森崎さんとはこの前一緒に呑みに行きましたよ!」
と、牧田君が何の躊躇いもなく大声で返した。
大ちゃん、牧田君、室田君、ユッキー、私の5人の飲み会を先日したばかりだがまた牧田君に会った。
ユッキーと亜美ちゃんとアンちゃん
そして私といういつもの遊びメンバーの4人で
カラオケに行ったのだが
盛り上がりも最高頂に達した頃、
「お疲れ様!」
スラリとした細身のスーツ姿の男性が部屋に入って来た。
?!
「ええっ?!部長?!」
アンちゃんの素っ頓狂な声に驚き
選曲中の私は思わず顔を上げ
歌っていたユッキーは歌う事を忘れてマイクを握ったまま呆然とその男性を眺めていた。
「突然、松野さんからLINE来てカラオケやってるから顔出して下さいと呼び出されて…」
「キャーッ!ギャーッ!」
「ね?ビックリした?みんなが喜ぶサプライズ仕掛けてみたくて部長に連絡したんだ〜」
と、驚きと歓喜の声をあげてバタつく私達の様子に少し笑いを浮かべながら亜美ちゃんが満足げに頷く。
「部長っ!ここに座って下さ〜い!」
昔から牧田君のファンを自称するアンちゃんが嬉しそうな声でソファの自分の隣部分をポンポンと叩き、
「アンちゃんは相変わらず元気だな。」
と、呆れた声を出しつつも牧田君はスマートな仕草でスッと腰かけた。
大ちゃんの事を思うと
何だか自分の若い頃の写真を見たくなり
整理も兼ねてアルバムを引っ張り出してきた。
明るめのロングヘア
派手なデザインのトップスにミニスカート
ヒール高めのサンダル
それにしても
あらためて見ると
恥ずかしくなるくらい派手派手やな
おい…
自分のたぬき顔にコンプレックスがあり
メイクで大人びよう大人びようと
派手めに頑張り
ついでに服装も派手だったから
派手派手マンになるのは当然といえば当然なのだけど…
それにしても…
細かったな私…
今はあれより太っちゃったからなあ…
でも太ったといっても
プラス4kgくらいなのに
写真の派手派手マンはやたら細かった。
年をとると
筋肉が減り脂肪が増えるから
若い頃とほぼ同じ体重でも
見た目に雲泥の差が出る
ということをまざまざと実感する。
それにしても…
それにしても…
写真を眺めながら心の中で
「それにしても」を連発する。
それにしても
私
本当に
年とっちゃったんだなぁ…
ふらりと立ち寄ったマーガレットハウエルのショップ
そこで1枚のカーディガンに出会った。
一応はブルーという色に位置づけされているそれは
少しグリーンがかっていて
ブルーという単色より本当はブルーグリーンと言った方が正解かもしれない。
淡いけれど
引き込まれるような
どこか懐かしさを覚えるような色味
まるで海の色のような
手に取って見入ると
不意にあの頃の海を思い出す。
きれい…
あの時の海の色みたい…
ずっと感じていなかった
枯れかけた感情の底から
何か少しむず痒いような感情が沸き起こってくる。
「これください」
上質のリネン素材で
価格もそれなりな品を
ただ「色がとても綺麗だから」
という理由だけで衝動買いしてしまった。
でも後悔の気持ちは全くなく
大ちゃんと眺めたあの海を思い出させる色のカーディガンをそっと羽織ると心が少し踊る。
今度みんなで会う時に羽織って行こうか…
大ちゃんと会う時はいつも念入りに身支度して
少しでも綺麗な私を見てもらいたいと頑張ってた気持ちを思い出す。
聞いて良いのかどうかわからなかったので聞くのは遠慮していたのだが、今回話の流れでやっと謎が解けた。
リーズナブルな服をドン!とシーズン毎に買い
それらは何回か洗うと型崩れなど起こすため、そうなった物は処分するらしい。
型崩れを起こさなかった服は翌年のシーズンに持ち越す、そして翌年にまた追加分でドン!と買うというサイクルなんだそうだ。
へぇ!
へぇ!
いや、ほんと、尊敬した!
服はかなり安いらしいが
センスが良く高見えしかしない。
上手く着こなしている。
ほぼ新品ばかりだからきちんと感もあるし。
勿体なさがりの私には到底無理な芸当だ。
いやそもそも安いものを高見えで着こなす技術がまずないんでそこから無理なんだが…
そういえば
大ちゃんやユッキーも安い服を高見えに着こなすのが上手かった。
対して
私とユータンはなんかモッサリというか
垢抜けないというかなんというか
とことんダメなとこが似ている2人であったなぁ…
何か良さげなトップスないかな?
面倒臭がりの私が珍しくあれやこれやと見て検討した結果、結局はラルフローレンのビッグシャツを買うことに💧
この画像の様に、トップス長ぇボトムス長ぇファッションが大好きだから買うものが決まってきて当然といえばそうかもだが。
しかしっ
ラルフローレンのシャツは
とっても丈夫なのだよ!!
洗濯機でガンガン洗ってても何十年も着れるんだ。
画像と色違いのオフホワイトを買ったんで
汚れがついても気兼ねなく漂白できるしね!
とニヤニヤ。
さあ、このシャツも長く着るぞ!
と、謎に意気込んでいた私のところに
亜美ちゃんが遊びに来た。
亜美ちゃんはオシャレだ。
流行の服を若作りにならないように上手く着ている。
私は毎回亜美ちゃんのファッションチェックをして感心してるのだけど、2~3年前に買った服をまだ着ているのを見たことがなかった。
と、いうより
下手すると1度しか見たことがなかったりする時もある。
何故だろう。
「じゃあユッキーや牧田君にも連絡しとくね!楽しみ~!」
「了解!うん楽しみやな!」
「何日か候補日を挙げるから皆の都合が合えば行きましょ!」
「うん行こう!なるべく合わせる!」
昔に帰ったようなそんな何気ないやり取りがとても楽しい。
皆で会うなら
会いたいと思う気持ちも許されるかな?
皆と同じ昔からの仲間としてなら、
仲間達とで会うならたまには会ってもいいかな?
自分に言い訳しながらも
ユッキーに連絡をする。
「いつでも行けるよ!誘ってくれてありがとう!」
色々あってそれなりに忙しいはずのユッキーがそう返信してくれた。
大ちゃんとユッキーはどことなく似ている。
私はこの2人が好きだ。
この2人の中に
「昔も今もこれからもずっと変わらない」
ものを感じるのだ。
それは何なのだろう
漠然としているがおそらくそれは私が
「持っていない」ものなのだろうな。
でも残念ながら
大ちゃんに下心がないにしても私にはある。
好きな気持ちが少しでもあるうちは会いたくないんだよな…
でも2年も放置してたし
う~ん
皆で会うなら大丈夫…かな?
散々悩んだ末に、
「そういえばユッキーも大ちゃん元気かな?と気にしてたし、ユッキーと牧田君も誘って久しぶりに会おうか?」
と誘ってみたら
急に返事が来なくなった…
え
もしかして
会いたいとかそんな気持ちじゃなかったのに
いきなり誘われたから戸惑ってる?!
やば~
しくったかな…
やきもきしながら待っていると
しばらくしてから
「お~!行こ!」
と機嫌良さげな返事
ほっ
良かった~
気持ちが少し明るくなる。
なんなんだ?
まあ、特に深い意味はないか
「嬉しいよ!ありがとう!」
とメッセージをくれた3人に返すと外出した。
所用を済ませ携帯を見ると大ちゃんからまたメッセージが来ている。
「元気にしてる?」
げげっ
嫌な予感がした。
「うん元気だよ。もう忙しくて忙しくて余裕ないけど笑 そっちは元気?」
と「忙しい」を強調して返すが、
「うん元気!体調バッチリだからいつでも飲めるよ!」
妙にご機嫌な雰囲気の返事が速攻アタック
げげげっ
この「私の忙しい状況」フル無視パターンは…
奴と何十年にも渡る付き合いをしてきた私にはわかる
どんなに鈍感な私でも長い年月の間幾度となく繰り返されてきたこの流れはさすがにわかる。
こやつ…
私に会おうとしているな?
いや
別にいいんだけどさ
2年ほど前に「コロナ落ち着いたら飲みに行きたい」メッセージ来たのに「了解!」のスタンプ送ってずっと放置してたから
「そろそろ行かね?」と思ってるんだろうし
それにしても大ちゃんのすごいとこは
2年も放置されてても「そろそろ行く?」モードにすんなり入れるとこだ。
きっと下心もないだろうから余計に?かもしれないけど。
今年も私の誕生日が来た。
「お誕生日おめでとう!いつも変わらぬ美優ちゃんこれからも…」
朝、起きて携帯画面にユッキーからのLINEのメッセージ通知を見つけた。
ユッキー
毎年欠かさずメッセージくれるよね
ありがとうめっちゃ嬉しいよ
嬉しくてニヤニヤしながら他の通知にも目を配る。
ユッキーのより1時間ほど前にもメッセージ通知がある。
妹の優衣からだ。
ユッキーは朝の7時、優衣は6時に送ってくれている。
2人とも朝早いな
更にニヤニヤしながら優衣のメッセージより更に前に来ていた通知を見ると
「ミューズ!誕生日おめでとう!」
大ちゃんだ
受信時刻は00:14
げっ
いつもは昼前から夕方にかけての時間に
「誕生日おめでとう!」のメッセージかスタンプが来る。
真夜中に「ミューズ」なんてワードまで入れて送って来ることはなかった。
ニットの話を書いてたら久しぶりにラルフローレンのニットを見てみたくなりオンラインストアを覗いてみた。
おっ?
私のニットに少し似ているやつ発見!
私のはこういう感じにフルジップタイプで細身のカーディガンとしても着れるものなのだ。
?!
って
64,900円??!!
しかも綿100%で?!
高っ!!!!!!
ラルフローレンもますます高くなったよなぁ
まっでも最近はもっぱらマーガレットハウエルが気になってるからこっち見ようかな…
など
思いつつ
ふと思い出す。
そういや
なんで私マーガレットハウエルを知ったんだっけ?
……
何年か前にユッキーさんが着て…たん…だった…
………
………
まっ
いいけどね。
強引というかなんというかそんな所は全く変わらない。
でも会計時には
「俺が勝手に頼んだから」
と全額奢ってくれた。
もしかすると開店したばかりの知り合いの店の売上に少しでも貢献しようと私をダシに使ったのかもしれないな。
大ちゃんなら有り得る。
そんな細やかな心使いは私にはできない。
だから大ちゃんのそういう所を本当に尊敬したし好きだった。
最寄り駅までの帰り道
2人で並んで帰る
キス…したいな…
とふと思う
そっと大ちゃんの服の袖を掴み大ちゃんの顔を見上げる。
ん?
と不思議そうな大ちゃんの顔
「あ…周りに人いるから無理か…」
思わず出た私の言葉に
「ん~ん」
と言いながらそっと顔を近づけ軽く私の唇にキスをしてくれた。
何故わかったんだろう
あ、こういうのがわかるのが大ちゃんなんだ。
大ちゃん好きだよ
今でもやっぱり好きだよ
でもなんで上手くいかないんだろうね
あのね
星占いでさ蠍座と水瓶座は相性悪いんだって言ってたんだ
私達に限っては当たってるのかもしれないね
深く細やかな愛情を注ぎたい大ちゃん
軽くフランクな関係を望む私
でもそんな私でも
大ちゃんが褒めてくれたニットをますます大事にしようと決めたんだ。
とっくに元を十分取れるほど長い年月を過ごしてきたけれどそれでもこれからもこのニットを大切に大切に着ていこうと思う。
「相変わらず仲良いね」
私たちの「事情」を深くは知らない知り合いがニコニコと大ちゃんの横に座るようにと手招きをする。
「ミューズ痩せた?」
私が椅子に腰掛けるや否や大ちゃんが私を見回すようにしながら声をかけてきた。
「いやっ全く、むしろ太ったよ。」
「ふ~んそう?でもそんなに細かったかなって。」
「ああ、このニット着痩せ効果すごいんだよ。」
「へえ俺の好きな色だわ。ミューズっていつも俺好みの格好するよな。」
え
何故か胸がドキンとなる。
「あ、ありが…とう」
お礼を言う理由など皆無なのだが
ドキドキをさとられまいと必死な私はそのままメニューを開いて顔を埋める様に覗き込む。
「ここってお酒だけかと思ったら意外にフードも充実してるんですね?」
メニューに顔を埋めたまま
このBARのオーナー兼バーテンダーである知り合いにそう言うと、
「簡単なおつまみばかりだけどね。
種類だけは頑張って増やしたよ。」
特製カクテルと共にそんな返事が来た。
「そうだ!食べ物いっぱいあるから食べろ食べろ!」
横で上機嫌な酔っ払い男の大声が耳に刺さる
「え?なによ?なんでそんなに食べろ言うのよ?」
「だって痩せたやろ?ちゃんと食べろよ!」
「いや、だからそれはニットの着痩せ効果で…」
反論するも大ちゃんは
「これとこれとこれと…」
と勝手に注文してしまった。
「あれ?痩せた?」
そのニットを着ると必ず周りにそう言われた。
先述したが着痩せ効果が半端ないのだ。
そんなある日、
大ちゃんと共通の知り合いがBARを開店することになりお祝いを兼ねて呑みに行った。
その日はとても寒く、当然の様にラルフローレンニットの出番となる。
「こんばんは~」
とお店の扉を開けると、
「おおおっ?!」
カウンター席に当然の様に大ちゃんが座っていてビビる。
しかも既に酔っ払っているらしく
少し赤い顔をこちらに向け何が面白いのか私の顔を見ながら大笑いしだした。
「あははは!な、なんでここに来てんねん!!」
「は?えっ?!なんでって…」
なんでここに来てんねんはこっちのセリフだわと思いながら言葉に詰まる。
私たちは程よい距離感があると上手くいくのだが、恋人という括りになると途端に上手くいかなくなる。
2回付き合い2回別れたのだが
おそらく3回目に付き合っても別れることになるのであろう。
でも不思議なことに
互いに疲れるから上手くいかなくなって別れるくせに離れると途端に恋しくなる。
戻るとまた疲れるのがわかっているから
戻ろうとはしないのだけどなんかいつまでも気になる。
なんとも不思議な感覚なのだが
そんな相手は後にも先にも大ちゃん1人であった。
しかし…
50%offでも20,000円
普通にアウター買えちゃう金額でニット1枚とは…
しかも
カシミアも50%なんだよね
そんな素材にこの価格は…
こんな高額な服を買うのは初めてだった私は悩みに悩んだ末に
でもユッキーがラルフローレン着てるし…
と、まるで「推しが好きなブランドだから~」
の様なノリ&清水の舞台から10回くらい飛び降りる覚悟でそのニットを買った。
今思えばアホか?というくらいしょうもない理由だ。
でもこの時の私の「推し」は完全にユッキーだったんだなあ…
とちょっとその時のおバカな私を微笑ましく思う。
必死の思いで買ったニットは予想以上に役に立ってくれた。
まずぬくい
とにかくぬくい
ヒートテックインナーの上にそれを着てダウン羽織れば極寒のユニバにも行ける。
極寒のユニバを知らない方も多いだろうが
冬のユニバはとにかく寒いのだ。
真冬のユニバは冷凍庫があるのか?!と思うくらいの風がふく。
冷蔵庫じゃないよ?
冷凍庫!
先日、その極寒ユニバで迂闊にもジュラシックパークザライドの最前列に乗ってしまい、
頭から思いっくそ大量の水を浴びた。
ユニバも考えたもので
そんな迂闊な客のために出口付近にタオルを売っているが
原価200円くらいかな?
と思われるチープなタオルが1,800円。
ボッている。
XYZスレの皆様へスレの方に
私はセール品を買って得したことがないという様なことをつらつら書いたが、それは誤りだった。
1枚だけ「買って良かった!」とずっと思っているニットがある。
長年大切に大切に着ていて今でも満足しているはずなのに不覚にも先日クリーニングに出そうとしてそこでやっと思い出した。
私が大ちゃんと2度目の別れを迎えて間もなくのこと、
当時、ラルフローレンがものすごく流行っていた。
ちょっとオシャレな人はこぞってラルフローレンを着ていて、私が密かにコンプレックスを感じていた+憧れていたユッキーも例に漏れずラルフローレンの服などを愛用していた。
ラルフローレンは高い
少なくとも当時の私にはハンカチを買うのがせいぜいだったが、ある冬のバーゲンで40,000円のニットが50%offになっているのを見つけた。
それはサイズ表記はMとなっているにも関わらず見た目的にはXS?!と思えるほどに細い。
なのに試着してみると予想以上に着心地良くすんなり着られる。
しかも薄手な上にピッタリとタイトな作りなのに身体のラインを全く拾わない。
更に薄手な上にタイトな作りなので着痩せ効果が半端なく
「あれ?私こんなに細かったっけ?」
と錯覚する程だ。
素材もウール、カシミア50%混で
とにかくぬくい。
なんたってラルフローレンだしね?
私にはそのニットが完璧な1枚に思えた。
う~ん
何か久しぶりに大ちゃんにエキサイトしたわ
でもなんだかんだ言っても
元気そうではあるからそこは良かった。
「大ちゃんにそこまで怒る美優ちゃん久しぶりだわ。」
優衣が笑う。
そうだ
昔はよく大ちゃんの言動に怒って優衣に話を聞いてもらってたっけ。
大体は今回と同じくめちゃくちゃしょうもない内容だったんだけど…
なんでだろう
他の人にならこんなこと何とも思わないのに。
大ちゃんにはめちゃくちゃ腹が立つ。
本当に心配してるんだからね
いつもはぐらかすけどさ
他の人には詳しく病状なんか話すのに
いつも私にはあまり言わないじゃない
今回珍しく手術前に色々教えてくれたから
ちょっと可愛いとか思ったりもして
心を開いてくれてる様で嬉しかったりもして…
なのに手術が済んだらいつも通りかよおい
アホ
大輔のアホ
大人気ないのはわかってる
もう本当にわかってる
でも昔からなんかもう大ちゃんには腹が立つ
なんだろなあ
つまんないことで怒ってるのはわかってる
でも本気で心配してるのにその返しはないだろ?ってことない?
「リハビリは順調?傷は痛まない?ずっと心配してて早くよくなるように祈ってるんだよ?」
って送ったら
「暇~死にそう~」
って
は?
そんなことは聞いてねえわ
具合はどうなんだっつってんだよ!
暇のことより足のことが気になってんだよ
いらだちを抑えつつ
「そっか、死にそうなくらい暇と感じられる余裕があるのならとりあえず良かったけど😊」
と返信したら既読スルー
で、
終了
なめてんのか?
カーッとなって怒りが込み上げてきたら
あれほど辛かった頭痛が吹っ飛んだ。
頭に血が上って血行が良くなったのだろうか…
優衣は相変わらず爆笑しながら解説してくれた。
「美優ちゃん、大輔さん、ううん大ちゃんは昔のままだよ。ずっと美優ちゃんに甘えたままだよ。それに昔から人の心配はしても自分の心配をされるのは苦手な人だったでしょ?」
うん
まあ
そうだけど…
自分でも
「私の中では大ちゃんはずっと18歳の頃のままだ」と言いながらも会わない間に随分と大ちゃんのイメージを変えてしまっていた様だ。
「大ちゃんは喜んでるよ?美優ちゃんが心配してくれた気持ちはちゃんと伝わってありがたく思ってるはずだから安心していいよ?」
優衣は大ちゃんの心が読めるかのように言い切った。
やっぱり…
合わないな。
ずっと心配してたんだけどな
その気持ちが通じないのかな
それとも私の返答が期待してなかったものだったのかな?
ずっとそうだったから慣れてたはずだったんだけど、久しぶりにこのすれ違い感はかなり堪える
もう
いいかな
元々言葉が足りない人で
LINEとかも苦手な人で
だから…
と思ってたけど
付き合ってる間柄ならともかく
もう互いにそれぞれの道を歩んでる「大人」なんだよ?
親しき仲にも礼儀あり
が通しない人はやっぱり私には無理だ…
などと
ネガティブ思考で考える。
なんせ今朝から割れるように頭が痛かった
くっそ
こんな時に容態伺いのLINEなんかするんじゃなかった。
ホントにホントに心配してたのに
なんなんよあんたは!!
頭にきまくり収まりがつかないので
久々に優衣に愚痴の電話をしたら
「あら~美優ちゃんがそこまで怒ってるの久しぶりだわ~大輔さんも相変わらずの様で何より」
と大笑いされ一気に毒気が抜ける。
「美優ちゃん、大輔さんにとって美優ちゃんは自分が18歳の頃に知り合った頃のまま時が止まってる人なんだって何回も言ってるでしょ?」
いやいやいや
お互いもういい歳だし
他人に対する礼儀の1つの心得も…
「そこがほら美優ちゃんと大輔さんの大きな違いなんだって!」
優衣が笑う。
違い…
そういえば
そうだった。
極度の強がりで
極度の寂しがり屋の甘えん坊将軍
それが大ちゃんの本質だったんだろうね。
大ちゃんの手術はもう終わっているが
まだ連絡はしていない。
術後の容態はどうだろう。
大ちゃん
貴方を心配して
貴方の世話を焼いてくれるのは
貴方の愛する家族の役割
貴方もそれが1番幸せに感じていることでしょう。
私は
貴方のために特に何もしないけれど
こっそり心配して
こっそり貴方の一日も早い回復を祈っています。
大ちゃん
もうあんたもいい年なんだから
無理しなさんな
わかった?
体はもう無理はきかなくなってきてるんだよ?
お互い
本当に年をとったね
でもさ
私の中では
今でも
18歳の頃のままなんだよ君は。
いつまでも心配なんだよ
君のことは
でも大切な家族にはこんな心配かけちゃいけないよ?
ちゃんと養生して早く退院できるようにリハビリも頑張るんだよ?
お大事に
またそのうちLINEします。
ゆっくり思い出してみる。
私が至らない性格だから
大ちゃんをいつもイライラさせて怒らせていた。
頼り甲斐のある大ちゃんと頼りない私、
ブルームーンストーンにもそんな旨のエピソードを幾つか書いている。
だが
ちょっと待てよ?
本当にそうだったのか?
大ちゃんを1番怒らせたのはどういう時だった?
あれは確か…
私が大ちゃんの好意に気がつかなかった時…
次は?
私が大ちゃんをないがしろにした時…
他は?
強がる大ちゃんの態度を鵜呑みにして
大ちゃんのことをあまり気にかけなかった時…
う
大輔
おめぇどんだけ構ってちゃんやねん
それから
私はいつも大ちゃんに一方的に怒られてばかりで萎縮してた?
いや
腑に落ちないことはガッツリ言い返してたな私。
しかも
結構な頻度で凹ませてた気が…
大したことは言ってないけど
冷たく突き放すような言葉に奴は弱かった様な気が…
う
大輔
いやほんまちょっとやばいな
いやまじごめん
いつも怒ると縁切る勢いで冷たい態度取ってたよね私
そら大ちゃんも拗ねるわな
ごめん大ちゃん。
でも拗ねても私が歩み寄るとまた嬉しそうに近寄って来てくれてたよね。
まるでワンコだな。
強がっていつもキャンキャン吠えて
狂犬ってあだ名つけられて
でも本当はチワワな大ちゃん。
そんな大ちゃんの本質に
やっと気づきかけてる
今更な私がいます。
「どこの病院?」
「〇〇病院」
いつもの大ちゃんならこういうことは
「内緒」と教えてくれないのに今回はアッサリ教えてくれる。
「見舞いに行くわ!」と入力しかけて消した。
代わりに
「牧田君は知ってる?」と送る。
「いや知らせてない。」
そっか
牧田君が知っているなら一緒にお見舞いに行こうと思ったのだけど…
1人で行くことは避けたかった。
それが最低限のルールだろうと思った。
やはりやめておくか…
ああそれに
それにこのご時世だから
病院も面会禁止だろうしね。
ならやっぱりお見舞いに行こうとするのはやめて正解だわ。
散々頭の中でごちゃごちゃ考えた末に
「わかった。気にはなってるからそろそろ落ち着いたかな?という頃に容態伺いのLINEするよ。お大事に。」
といささか素っ気ないメッセージを送ったが、
「ありがとう~(*˘ ³˘)♥」
のチュッ顔絵文字付きの返事が来てビビる。
え?
こんなキャラの奴…だったっけ?
「ありがますざますます」
とある。
…………
なんだって?
若い嫁がいるから嬉しがって若者言葉にかぶれたのだろうか?
それにしても最近の若者言葉は随分と難解になったものだわい。
不思議に思いながら
まるで早口言葉の様なそれを何度も読み返しているうちにまた続いてメッセージが来た。
「せっかくの誕生日なのに明日手術なんだ泣」
とある。
へ?
は?
ええええっ?!
「.ちょっと!あんた!なんなん!どしたんよ!」
驚きすぎて昔の口調そのままにLINEのメッセージを送ってしまったが、考えてみれば随分と偉そうに物を言ってたんだなあと今更ながら思う。
「足の手術で、入院も1ヶ月くらいはかかるかも泣泣」
昔の私の物言いにつられたのか
大ちゃんも昔の頃の様な少し甘えた様に泣マークを連発してくる。
強がらない大ちゃんなんて何十年ぶりだ?
それだけ不安な気持ちがあるのだろうか
11月が来た。
「誕生日おめでとう」のスタンプを1つ送る。
「おめでとう」のスタンプに対して
「ありがとう」のスタンプ
会話はほぼない
たとえあったとしてもほんの少しのやり取りで直ぐに終わる。
そんなやり取りを何年も何十年も続けてきた。
もはやここまで来ると年賀状の様な感覚というか、互いの誕生日をあわせて年に2度の生存確認の感覚になりつつある。
なので
今年もいつものようにスタンプ1つ
そしていつものように既読がすぐにつく。
そして「ありがとう」のスタンプが来れば終わり。
今年も忘れることなく「おめでとう」スタンプを送れました。
ふう終わった終わった
もうあと少しで年末だなぁ…
などと
まるで年末大掃除でもやり遂げたかの様な気分に浸っていた私の元に大ちゃんからメッセージが返ってきた。
ハリーポッターも揺れる揺れる酔う酔う
「だーっ💦」と叫びながら揺られる私の横で
やはり無言のユッキー
終わったあとに
「酔った…」
とぐったりする私の横で、
「ん、ちょっと胃がおかしいね?」
ええええ
それだけ?
ユッキーとの初テーマパーク
記念に1枚
加工しまくったからもはや誰だかわからん🤣
でもどうしてもやはりどことなく面影は残るんよね
特に20代の頃の私たちに…
あまりリアクションが無くて楽しくなかった?と心配してたら
「また行きたいね」
とユッキーがポツリ
「うん!行こう!」
と私
「大ちゃん、どうしてるかな?」
と唐突に少し考えながら言うユッキー
ユッキーが何を考えたか何となくわかる気がした
「同じ会社なのに全く情報掴めないの?」
「うん、本社のことはなかなかね」
「そっか…きっと…元気だよ、大ちゃんは大ちゃんの世界や生活があるしきっと元気で楽しくやってるよ。」
「そうだね。」
大ちゃんの話を終わらせようとした私の言葉のニュアンスを何となく察したのか
ユッキーはみじかく答え
私たちはUSJの出口へと向かって歩き出した。
またいつか
きっとここに来よう
USJに行きたいとふと思った。
ダメ元でユッキーを誘ってみたら
「行く!」と即答。
今の時期のUSJはハロウィンの時期ということもあり強烈に混んでいたけれど
待望のマリオワールドはやっとの思いで入場整理券ゲットしてまで入ったのに人の多さで何もせず直ぐに出てきてしまったけれど
アプリで待ち時間を確認してなるべく多くの乗り物に乗ったりできた。
ユニバーサルモンスターズレジェンドオブファイア←いわゆるお化け屋敷みたいなもん
に入ったら、あろうことか自分の足で歩かなきゃなとこだった。
しかも道幅が異様に狭くて1列でしか歩けない。
いやぁ
ビビりましたわ
内容はオーソドックスなんだけど
そういうのが1番怖いねんてホンマに😱
年甲斐もなく「うわぁーっ!ギャーっ!」
とビビりMAXになりながらもずっと無言な後ろのユッキーが気になり振り向いたら
無表情で立つユッキーの後ろからモンスターの顔がいきなり出ててもうパニック😱😱😱
「ユッキー!!!後ろっ!!!」
と気づいてないユッキーに向かって叫んだら
「ぎゃーーーっ!!!」
と「ユッキーの後ろにいた女の子達」がビビりまくって叫びもうホントごめん状態💦
で、当のユッキーは「ん?」
軽くチラ見
また無表情
ええええ
出たあとも
「どうだった?」
「ん~こんな…もんかな?」
ええええ
なんてことを思っていたはずなのに
いつの間にかそんな気持ちも薄らいで
自分を卑下する気持ちだけが残ってしまってたね。
マーちゃん
ありがとう
こんなことを考えてると知られたら
また大ちゃんが激怒するところだったよ。
いつかまた大ちゃんに会った時にほめられる様に頑張っていきます。
マーちゃん
マーちゃんがさ
いつもみんなに好かれているのは
こういうとこなんだよね
ん~
変態キャラも捨てがたいから
そこも含めてかもだけど?
私もねマーちゃんのことがなぜ好きなのか
あらためてわかったよ
あ
続は頑張って続きupしていきます💦
どうか飽きずに読んでやって下さいm(_ _)m
いつもありがとう😊
あ…
そうだ…
もしもまた会うことがあったら
私を好きでいてくれたことを誇りに思ってもらえる様にずっと頑張ってきたんだった。
ずっと年の差を気にしていたのは私
「昔から変わってないよ」とずっと言ってくれてたのは彼
私だけが年老いていくのではなかった
大ちゃんも年をとっていく
同じように年をとる
「ミューズは俺の5歳上だったっけ?」
が、
「ミューズは俺の3歳上だったっけ?」
数年に1度顔を合わせるごとに大ちゃんの中で私との年齢差が縮まっていった。
そのうち
「同じ年だったっけ?」ってならないかなと本気で思ってたっけ。
私をオバサン扱いしてたくせに
私が自分をオバサンだと言うと
「そんなことはないよ!」
「俺だってオジサンだ」
と笑って言ってくれてたっけ
だから
そんな人だからずっとずっと好きで
ずっとずっと好きだから
どうしていいのかわからないことが増えてきて
結局2回目のお別れもして
それでもまた顔を合わせると
やっぱり好きな気持ちがモヤモヤしてて
でも
大ちゃんが今の奥様と結婚すると聞いた時
不思議とショックよりも
「今度こそはずっと欲しがっていた暖かい家庭を手に入れてね」
という少し寂しさの混じった願いの気持ちが強かった。
本当に本当に好きだったから
不倫や略奪なんてしたくない。
あの大切な思い出を大ちゃんの幸せを壊したくないんだ。
お風呂上がりにふと洗面所の鏡を見る。
そこには大ちゃんと付き合っていた20代後半の頃の私の「母」の姿が映っていた。
「あれ?お母さん?」
と一瞬思いそして苦笑する。
ああそうか
もうこんなに歳をとったんだ…
再婚をした大ちゃんの今の奥様はとても若い。
私より20歳近くも歳下だ。
女性として1番輝いている年齢だな…
それに比べて
不倫はご法度などとかいう以前に
もう私は女性として見てもらえないであろう現実。
だからもう二度と大ちゃんには会わないつもりだ。
こんな私にもちっぽけなプライドがあるんだよ。
付き合ってた頃の私を
多少なりとも「綺麗ですね」の声を幾人かに頂けていた頃の私を
いつまでもあの頃の私のままで覚えていてほしい。
中身はね、若い時より今の方が色々と成熟したけれどね
私自身は若い頃の自分より今の自分の方が好きだけどね
でも
男の人は若くて美しい女性に惹かれるんだよねきっと…
だからもう貴方には会わない
だからどうか
心のほんの片隅にでも
あの頃の私をいさせて下さい。
やっと…
やっと前編終わった💦
コピーして載せるだけ楽勝!かと思いきや
意外にしんどかった💦
文字数制限超えてるの幾つもあったし🥹
どうやって載せてたんだ私
多分その場で削って載せてたんやろなあ面倒くさっ
と思いながらまた投稿時にその場で削って載せました。
共感及びウオッチリスト及び読んで下さった方々本当にありがとうございます。
私の気まぐれにお付き合い頂いた方々がいる!と思うだけでめちゃくちゃ嬉しかったです😊
で
続の方がボコボコが酷いので
またおいおい続も投稿し直したいと思っております。
ミクルの小説担当?運営さんもありがとうございます。
本当に
本当に
皆さん色々とありがとうございましたm(_ _)m
今初めて気づきました。
私のスレをブルームーンストーンをウオッチリストに入れて下さってる方々がいて下さったのですね。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
私知らなくて
それで
ヤケになってて
あのころは何かもう色々辛い時があって
ミクルに対してもすごく嫌な感情抱いたこともあり意地もあり消してしまいました。
でも消しきれなくて
すごく汚い残り方をしていて
後悔していました。
もしも
許して頂けるのなら
もう一度
最初からブルームーンストーンを載せたいです。
データはほぼメールの下書きに残っているはずです。
足りない所は書き足します。
ダメなら削除されても勿論構いません。
大変失礼なことをしてしまったのだと今更ながら思っています。
本当にすみませんでした。
そしてありがとうございます。
自己満で勝手ですがワガママをお許し下さい。
ミューズ
ユーヤが本社でも花形の部の部長に…
ユーヤとも長い付き合いのある私としては
喜んであげるべき所なのだが
大ちゃんのことが気にかかりとてもそんな気持ちにはなれなかった。
以前の私なら兎にも角にもユーヤに連絡を取り
お祝いのひとつもするところなのだけれど…
私が会社を辞める時に大きな花束を持って田上さんと来てくれた阿東部長は降格されあまりパッとしない部の部長に任命されたと聞いた。
肩書きは同じ部長でも部があまりにも…なので事実上の降格と同じらしい…
長年に渡り
本社のトップ3として君臨してこられた方だった。
そんな方でも堕ちる時は一瞬なのか…
田上さんも他の部に配属されたらしいが詳しいことは現場専門の亜美ちゃんもわからなかった。
お2人とも前社長のお気に入りだった。
社長が交代し他企業との業務提携などで
大きく変わってしまった本社
大ちゃんも前社長のお気に入りで直属の部下だった。
〇〇課は大ちゃんのために社長が作った課だった。
大ちゃん
大丈夫だろうか…
亜美ちゃんとのLINEのやり取りで会社の内情を久しぶりに知る。
本社の大改革が行われたとかで
人事移動や降格、昇進、色々な交代劇があったらしい。
「牧田さんは部長になったよ!」
ユーヤを尊敬している亜美ちゃんの嬉しそうな報告を私はいささか複雑な思いで受け止めた。
大ちゃんは
大ちゃんはどうなったのだろうか
気になるが亜美ちゃんは大ちゃんのことをあまり心よく思っていないというか少し怖がっているふしがあるし
ストレートに聞くのは怖い気がして
回りくどく尋ねてみた。
「〇〇課はまだ存在してるの?
あそこの課長補佐さんと亜美ちゃんは確か仲が良かったよね?」
私は課長補佐さんの事を気にかけているフリをして〇〇課のことを聞き出そうとした。
〇〇課は大ちゃんが課長として取りまとめていた課だ。
「課長補佐さんはかなり前に他の課に配属されてるよ!」
事情を知らない亜美ちゃんはその一言で話を終わらせようとする。
「そうなんだ、じゃあ〇〇課の新しい補佐さんは誰になったのかな?」
必死で話を繋ぎ止めようとする私
「う~ん私もよく知らない、そもそも〇〇
課って昔と違って今は姥捨山?窓際?的な雑用課らしいからあまり興味も…」
え…
その後のやり取りは上の空
姥捨山…
雑用課…
LINEを早々に終えた後も私の頭の中ではそれらの言葉がぐるぐるといつまでも回っていた。
大ちゃんの誕生日がまた来た。
1年経つのは本当に早いな
今年もおめでとうのメッセージを送る。
「ありがとう自分の誕生日忘れてたわ笑」
の返事。
昔は自分の誕生日をしっかり意識してて
おめでとうメールを送るとすぐに既読がついたくせに返事はありがとうのスタンプのみ。
でも最近は少しだけメッセージのやり取りするようになってきたね。
そして今年の「忘れてた」はきっと素直な本音だね。
私もね自分の誕生日を忘れがちになってきたから笑
でも大ちゃんの誕生日は覚えてるよ
大ちゃんも私の誕生日を覚えてくれてるね
お互い自分の誕生日は忘れても相手の誕生日は覚えてる。
でも
いつか
それも忘れてしまう時が来る
大ちゃんからおめでとうメッセージが来なくなったら私もおめでとうメッセージをやめるつもりなんだ。
きっと大ちゃんも同じ気持ちなんじゃないかな?
でも
もう少しだけ
もう少しだけ
私とあなたの誕生日の年に2回だけ2言3言の
やり取りだけ
もう少しだけ
いつか
あなたに会いたくて仕方がない気持ちが消えたなら
そうしたら
昔のメンバーでまた集まりませんか?
あなたと付き合う前の仲間だったあの頃の仲間と…
一時でも純粋にあの頃に戻りませんか?
きっと
その日は来るよね
寂しいけれど
それを強く望む私がいます。
おやすみなさい
良い夢を
途端にぎょっとした表情になり、
「あ、ああ…」
と口ごもる大ちゃん。
あれ?
ちょっとした冗談のつもりだったのに
何か変なこと言ったかな?
大ちゃんのその態度の意味がわからず
狼狽えもしたが、
今は何となくわかる気もする。
大ちゃんは航也を本当に可愛いと思ってくれてたんだね
自分の子供の様にすら思っていたのかな?
私もねそうだったよ
そう
私たちは無意識に航也を入れて「親子ごっこ」をしていたんだ。
ごくたまにだったけど
航也と大ちゃんと3人で遊びに行ったこと楽しかったな。
あの小さかった航也はもうどこにもいないけど
航也の中には私達と過ごした記憶はもうどこにもないけど、
私は覚えてる。
そして
大ちゃんも
きっと
大ちゃん
航也のことが心配だったんだね
でも大丈夫だよ
航也が選んだ人だから
大ちゃん
ほんの僅かな時間だけど
楽しい夢を見させてくれた航也に
感謝を込めて言葉を贈ろうね
航
おめでとう。
そして…
私達にもかけがえのない幸せな時間を
ありがとう…
愛する人と末永くお幸せに。
あなたの束の間の両親より。
「奥さまですか?では失礼します!」
当時、航也を連れて〇〇店に買い物に行き、
ちょうど駐車場に出てきていた大ちゃんと話をしている所に、店内から出てきたメーカー担当者さんがニッコリそう微笑んで頭を下げた。
その担当者さんの顔は今まで全く見たことがなかった。
おそらくこの日初めて来た担当者さんで
私を大ちゃんの奥さんと勘違いした様だ。
「奥さまですか?」のくだりが聞こえなかったのか、
「ああ、ご苦労さまです。」
と特にいつもと変わりなく挨拶を返す大ちゃん。
「奥さまだって…ね~?」
わざと大ちゃんに聞こえるように小さな航也のほっぺをツンツンしながら話しかける。
「んっ?」
振り返り優しい目と声で大ちゃんも航也の頭を撫でる。
「こうやってると本当の親子みたい。」
「そうか?そうだな。」
「でも随分若いパパだね。」
「あはは」
穏やかな時間がそこには流れていた。
大ちゃん
可愛かったね航也
私達が結婚して子供がいたら
こんな感じだったのだろうか
大ちゃん
ふと思い出す。
あの日、大ちゃんが航也の彼女のことであまりにも怒っているから、
「大ちゃんは航也の陰のお父さんだから心配なんだよね。」
と何気なく言ってしまった。
「でも大ちゃんはあれだけ反対してて…
自分の思う様に進まなかったからきっと気を悪くするんじゃないかな?
それを思うと言いにくいよ…」
「直接話さずにLINEでもいいから!とにかく1番先に報告をしてあげなよ!」
優衣は引かない。
「わかった。」
諦めて翌日の朝に大ちゃんにLINEを送る。
「大ちゃんに一番先に報告させてもらうんだけど…」から続き、航也が美優ちゃんと籍を入れることを正直にそのまま書いた。
ドキドキしながら返事を待ったが、
朝に会議でもあったのか、通知設定で読むだけ読んだのか、なかなか既読が付かなかった。
いつもなら直ぐに既読がつくのに…
返事も直ぐに来るのに…
不安なまま午前中が過ぎ、
データ入力を終えて、さてランチにしようかと携帯を手に取った時にLINEの通知があることに気づいた。
大ちゃんだ。
急いでLINEを開ける。
「そうかそれはめでたい。歳をとった美優と、若い美優と、親戚間で呼ばれる様になるのか、面白いな。」
と、あった。
誰が歳をとった美優じゃ!!
やっぱり大ちゃんは大ちゃんのままだと腹を立てながらも少し安心している自分がいる。
それにしても文句や嫌味の1つも来るかとおもっていたけれど…
あ
もしかして…
これが
大ちゃんの精一杯の愛情なんだろうか?
「え…?」
「航也は…航也には…そこらにいる女の子なんか勿体なくて釣り合わないから…だから…別れろって…言え…もっといい子が絶対いるから…」
大ちゃん…
私は俯いたまま静かに首を横にふった。
「そうか。」
大ちゃんは短くそう答えると、もう航也の話は二度として来なかった。
それ以来大ちゃんとは会っていない。
そして、先日のこと、
「入籍することにしました。」
航也から連絡があった。
ようやく長かった春に終止符を打つ時が来たようだ。
お祝いのことなどを妹の優衣と話している時に、
ふと大ちゃんのことを話した。
あれだけ激怒して反対していた大ちゃんには隠しておきたいが、航也を可愛がってくれていた牧田君には言っておいた方が良いだろう。
でも、牧田君に知られるときっと大ちゃんにも言うだろうなそれが気がかりだなと…
「美優ちゃん、牧田さんにはもう連絡したの?
してないなら直ぐに大ちゃんに連絡しなよ!
1番先に報告しなきゃダメだよ!」
優しげだが語気をはっきり強めた優衣の言葉が妙に胸に刺さった。
話をまとめるとこうだ。
私から航也の彼女の話を聞いた大ちゃんは
こちらでの仕事の間にわざわざ美優ちゃんの店に客として行ったらしい。
しかし美優ちゃんの愛想の悪さに立腹し、
なんだあいつは可愛げのない性格だ!!見た目も可愛げないわ!!
と、中学生男子かお前は?!と突っ込みたくなる程の大人気無さで吠えてるというわけである。
そのためにわざわざ呼び出されたのか…
ややウンザリしながら話を聞いていた私に、
「聞いてるのか?!」
と大ちゃんの声が飛ぶ。
「え、あ、はい、聞いてます…よ。
でもねえ、航也本人が決めることだしね…」
私はごく当たり前の答えを返したが、
現に航也の親も、
「本人が良いなら特に何も言うことはない」スタンスを貫いている。
赤の他人の大ちゃん1人が熱くなって文句を言い続ける。
まるで頑固親父みたい…
ふっと可笑しくなった私に、
「 あのさ…航也はイケメンで頭が良いんだから…航也には愛想が良くてめちゃくちゃ可愛い彼女がいてもおかしくないから…」
と怒り疲れたのか少し元気の無くなりかけた声で大ちゃんがボソボソ言い出した。
「えっ?!えっ?!ちょっ!ちょっと?!」
狼狽える私に構わず、
「あんな愛想もクソもない、しかも顔も大して可愛くもない娘の何がいいんだ航は?!」
と大ちゃんは更に吠える。
「えっ?!顔は可愛いでしょ?性格は…いや、なんか、わかんないけど、長く付き合ってるんだから何か惹かれるものがあるのだろうと…」
「はあっ?!あれの何に惹かれるって?!」
私のしどろもどろの返答に更に火が点いたのか
大ちゃんが吠えたおす。
「おまたせしました。ハイボールは…」
「あ、俺!」
大ちゃんの話を遮るようにタイミング良く運ばれてきたハイボールをグッと飲み干すと、少し落ち着いたのか吠え疲れたのか
「ふぅ…」
と大ちゃんは小さくため息を漏らした。
やれやれ…
やっと狂犬が落ち着いた…
「あの…もしかして…わざわざ彼女を見に行った…とか?」
恐る恐る尋ねる私に、
「行った!!そして俺はガッカリした!!」
誰に頼まれたわけでもないのに
勝手に他人の彼女を視察に行き、
勝手に立腹して勝手にガッカリするという
冷静に考えればそれこそ「ガッカリ」な大ちゃんが何の恥ずかしげもなく威張ってそう答えるのを私も激しく「ガッカリ」しながら聞いていた。
「ちょっと話をしたいんだけど時間取れる?」
私が退職して数ヶ月経った頃、
大ちゃんからLINEのメッセージが来た。
「〇時くらいなら行けるよ。」
いきなりの誘いに戸惑いながらも仕事が終わるや否や電車に飛び乗り待ち合わせの場所に急ぐ。
「あんまり時間無いから適当に目に付いた店でもいい?」
大ちゃんはせかせかとそう言いつつも目は素早く動き、そこそこ雰囲気の良さそうな1軒の洋風居酒屋に目を留めると私を誘った。
「仕事の調子はどうなの?」
「う~ん、やっと慣れてきたって感じかな?
座りっぱなしで腰が痛いけどね。」
「そうか、まっ今までの立ち仕事は真逆だもんな。」
素早く注文を済ませ、予め決められたかの様な質問&会話を少しした後に、
「ところで…」
と大ちゃんは少し身を乗り出していよいよ本題を切り出してきた。
「航の彼女って子…」
大ちゃんはここで何かを言いかけ言葉を切る。
「え?美優ちゃんのこと?なによ?」
意味が分からずそう聞き返す私の言葉に背中を押されたのか、
「あれなんなんだ?!なんで航があんなのと付き合ってるんだ?!」
大ちゃんは人目も憚らずいきなり吠えだした。
「えっ?!ああっ…」
「相手は誰だ?!同じ会社の子か?!」
驚いてその後の言葉を飲み込んでしまった私を急かすように大ちゃんが矢継ぎ早に質問してくる。
「いや、えっと、前に航也がバイトしてた店の近くのカフェの店長をしてる人みたいで…名前が私と同じ美優なんだけど…」
モゴモゴ言いながら彼女の見た目の様子を大ちゃんに知らせて良いものか戸惑う。
私は航也のバイト先の店舗に何度か応援に行ったことがあり、その時のランチにそこのカフェを数回利用していたことから、航也が知り合う前から「美優ちゃん」のことは少し知っていた。
悪い子じゃない
悪い子じゃないけど
ちょっと
愛想が…
よく接客業やる気になったもんだと思いたくなる様な彼女の愛想のない淡々とした接客を思い出してため息をつく私の隣で、
「そうなのか!へえ、美優か!」
と大ちゃんが1人勝手に爆笑した
2人の交際は長く続き、学生だった航也も社会人になりそろそろ長い春に終止符を打たねばというムードが漂いだした頃、私が前の会社を退職することになった。
「暫く会ってないけど航也君は元気にしてるのかな?」
それは航也を可愛がっていた牧田君の何気ない一言から始まった。
私の送別会でのこと、
牧田君の言葉に私の隣に座っていた大ちゃんが目をギラリと光らせる。
「どうなんですかね?私もずっと会ってないんで…」
そこで止めておけば良かった。
なのにプラスアルファで余計なことを言う、
昔からの私の悪い癖が出る。
「でも彼女との結婚もそろそろ考え出しているみたいだし、航也君も大人になったなと…」
「なにっ?!航が結婚すんの?!」
私の言葉が終わるか終わらないかのうちに、
左隣から噛み付く様な大声で大ちゃんが食いついてきた。
月日はあっという間に経つもので、
可愛かった航也もいつの間にか大学生となり、
バイトを探しているとのことで、たまたまうちの会社の店舗が広くバイト募集をしていたことから航也に自宅近くの店舗を紹介した。
その店舗は牧田君がブロック長をしている地域の店舗で、牧田君から話を聞いた大ちゃんもわざわざ本社から様子を見に来るなど、航也への愛情は何年経っても色褪せない印象が微笑ましく、
私はそんな大ちゃんの気持ちを有難く思い感謝していたのだが…
航也のバイト先の近所に1軒のカフェベーカリーがあった。
こじんまりとした小さな店ながらお客さんがそこそこ入りそれなりに流行っていたその店に航也は朝から出勤の日などはランチを食べによく通い、
そのうちにそこのスタッフの女の子と付き合い出した。
スタッフの女の子の名前は美優。
何と私と同じ名前である。
しかし名前こそ同じであるもののキャラは私とはまるで違い、愛想の良さだけは人一倍で笑顔を振りまきやたらとうるさい私とは対象的に、若い方の美優ちゃんは人見知りがちで、慣れた人には誠心誠意尽くしとびきりの笑顔を見せるタイプであった。
私か大ちゃんかのどちらかのタイプに無理矢理当てはめるとすれば大ちゃんの方のタイプになるのだろう。
親戚の男の子がいる。
名前は航也(こうや)
赤ちゃんの頃はとても可愛くて女の子と間違えられるほどの愛くるしさと愛想の良さで、
20代の頃の私は彼にメロメロになっていた。
彼の可愛さを見せびらかすかの様に
休みの日にわざわざ彼を連れて〇〇店に買い物に行く。
周りがチヤホヤする中で、
群を抜いて彼にベッタリと夢中になったのが
誰あろう神谷大輔店長であった。
実は大ちゃん無類の子供好き、
可愛い航也を抱っこしたり、
「オムツ替えというのをやらせてくれ!」
とおっかなびっくりながらも嬉しそうにオムツを替えてみたり。
愛想の良い航也はくすぐったそうにしながらも愛くるしい笑顔を大ちゃんに向ける。
そのうち航也を預かった日は
大ちゃんとのデートにも連れて行き航也のために動物園や公園などに遊びに行くようになったが、航也は手のかからない子でぐずることもほとんど無く、知らない人の目には私達はまるで本当の仲良し親子の様に写っていたであろうと思う。
ちょっとオカルトチックな実話をなるべく怖くないように書こうと試行錯誤を重ねてたのだけど、どうしても怖め?になるから停滞中😅
いやあこういうのって意外に難しいのね💦
と新しい発見!
で、やはり話は進まずで…
そんな所にまたちょっとした話のネタが持ち上がった。
う~ん
大ちゃんにもう二度と関わらない関わることもしないだろうと強く思った時ほど、何かしらLINEなどをしなければいけなくなる不思議🤔
なにかの呪いか?
因縁か?
占い師の友達の
「切れない縁がある」
の言葉はあながち間違いでもないのか?と今更思う。
と、いうことで
身バレしない程度に脚色しつつちょろりとまた書きます🙇♀️
大ちゃんの「作り直したエプロン」は加瀬君にピッタリだった。
はあ…
裁縫までできるのか…
しかもチマチマ女っぽく縫うのではなくて
豪快にサクサク縫いすすめる姿は職人技の様でサマになってたし。
「すごいですね店長!!仕上がりもキレイです!!」
竹井さんが感心を通り越して感動に打ち震えながらひたすら誉めちぎる隣で私も加瀬君の
「にわかファッションショー」を感心しながら眺めていた。
「あのさ、ちょっと…ごめんなことがあるんだが…」
そんな私に大ちゃんが少しバツが悪そうに話しかけてきた。
「?なんですか?」
「いや、その、借りた針を…」
ボソボソ言いながら大ちゃんが見せてきたものは、分厚いキャンパス生地を無理やり縫われた針たちの哀れな末路だった。
見事に全部曲がっとるがな…
「このケースに書いてる文字ってあのブランドの名前だろ?あのブランドなら高かったんじゃないか?…ホント…ゴメン…」
大ちゃんが本当に申し訳なさそうにしている顔が妙に可愛く思え、
「いやいや、服はそこそこ高いですけど、こういう小物は安いんですよここ。これも1000円もしませんでしたから。」
と笑って答えると、
「そう?なら良かったけど、本当にごめんな。」
と大ちゃんは照れた様に笑った。
「店長?切ってどうするんですか?」
私と加瀬君が同じ疑問を口にしたが、
「いいからそのエプロンもこちらに寄越せ。」
「は、はいっ!」
大ちゃんの鋭い声に慌てふためきながらきついエプロンを脱いで渡した。
ジョキッ
大ちゃんは加瀬君から受け取ったエプロンにも躊躇なくハサミを入れる。
「継ぎ足して広げりゃいいんだよ。」
背中の横紐部分、肩紐部分を別のエプロンから切り取った物を継ぎ足して縦にも横にも広げる腹積もりらしい。
腰の部分のボタン留めは無理なので
更にもう1枚のエプロンから肩紐を切り取り
腰でくくる紐にするとなった。
「ちっ、生地がしっかりしてるから縫いにくいな…」
イラつき始めた気持ちを抑えるかのように
大ちゃんはタバコに火をつけフウッと煙を吐くと
タバコをくわえたまま強引にエプロンに針を通し始めた。
その姿はエプロンの裁縫というよりも
畳を縫うベテランの畳職人の様であり、丁度帰ってきた竹井さんも後で私に、
「店長、畳職人さんかと思った…」
と言ったことから思うことは同じなのだなと
可笑しくて仕方なかった。
「よし出来た!加瀬は?」
大ちゃんが満足気に顔を上げる。
加瀬君はとりあえず破れたエプロンをつけ直しまた店内作業に戻っている。
「私が呼んできます。」
ちょうど入口付近にいた竹井さんがそう言うと
すぐに出ていき加瀬君を伴って戻ってきた。
当時、女らしさの象徴と言わんばかりに
ソーイングセットと絆創膏などを持ち歩くのが流行っており
バッグの中に入れられる小さなソーイングセットや可愛いケースに入った絆創膏がよく売られていた。
私も絆創膏はもちろん買ったばかりの某ブランドのソーイングセットも持っており、バッグの中に忍ばせて自己満足に浸っていたのだが、これが思わぬ所で役に立つ時が来たようだった。
「私が綻びを縫うんですか?」
引っ掛けて破いただけあってかなりギザギザしてるけど…私に上手く縫えるかな?
少し不安になりながらソーイングセットを出し
そう聞く私に、
「いや俺が縫う。」
大ちゃんの大真面目な声が返ってきた。
え?
「早く貸せ!それと事務所からハサミもってきて!」
へ?
ハサミ?
呆気にとられる私の手からもぎ取る様にソーイングセットを奪った大ちゃんは「早くハサミ!」
と目で催促してくる。
なんなんだ
何をする気だ一体
不思議に思いながらも慌ててハサミを取りに行き戻って来ると、手に新しいエプロンをもう1枚持った大ちゃんが私からハサミを受けとるや否や、
ジョキッ
ジョキジョキジョキッ
まだ未使用の新しいエプロンを躊躇なく
ザクザクと切り出した。
「なんだそれは…加瀬?!」
大ちゃんが笑いを堪えながら加瀬君に問うも、
「前のと同じ特大サイズなんですけど…」
変わらずボンレス状態のまま、加瀬君は首を捻って頭を搔く。
あっ
!!
「前のと同じ…」
その言葉で忘れていた事を不意に思い出す。
「店長!そういえばかなり前にエプロンの発注先を変更するとか本社通信にありました。」
唐突な私の言葉に、
「そういやそんなこと書いてたな!
それで特大が特大でなくなったのか。」
大ちゃんも思い出したのか合点がいった様子で頷いた。
洋服や靴などでもアルアルなのだが、エプロンでもメーカーが違うとサイズもかなり違うということか。
特大サイズが1番大きなサイズなのでこれが合わないとなるともうどうしようもないのだが…
「あの、古いエプロンの破れを家で縫ってもらって使います…」
大きな体に似合わず気の小さい所のある加瀬君がまるで自分の罪の様に申し訳なさそうに言うのに対し、
「それだけ大きく裂けてたら縫ってもらっても…」
言いかけた大ちゃんが急に言葉を止めると、
「おい針と糸持ってるか?」
と何かを思いついた様に私に声をかけてきた。
シャバシャバシャバ
休憩室の奥の流し台の水道で豪快に手を洗う加瀬君の後ろ姿を何気なく見つめていた私は、加瀬君のエプロンの裾に大きな綻びを見つけた。
「あれ?加瀬君!エプロン破れてるよ?!」
「ええっ?!うわっさっき引っかけたやつか…」
あちゃーと言った顔の加瀬君。
どうやら什器を運ぶ時に角に引っかけてしまった様だ。
「加瀬、お前用の特大サイズも用意してあるからそれはもう捨てろ。」
大ちゃんが笑いながら休憩室の隅に置かれたダンボールの中から「特大」と印刷されたシールの付いたエプロンの袋を取り出すと加瀬君の後ろに座っていた私はに投げて寄こした。
「はい加瀬くん!」
「ありがとうございます。」
加瀬君は慌てて手を拭くと私からエプロンを受け取り古いエプロンを脱ぐと新しいエプロンを頭から被った。
?!
「あれ?!き、きつい…」
エプロンがくい込み、
ボンレスハムみたいになってしまった巨体を揺らしながら加瀬君が唸る。
このスタッフエプロン、紐を背中で✖の字にして腰の位置で結ぶエプロンとは違い、頭から被り腰の位置のボタンを留めるタイプである。
着脱が簡単な分、ある程度の大きさが決まってしまっているという難点が確かにあるのだが…
だからこそ…の特別注文の「特大サイズ」だよね?
私はサイズに間違いがないかもう一度サイズシールの文字を確認した。
「休憩終わっちゃうからとりあえず出しに行ってくる?焼きあがったら見せてね。」
私も慰めのつもりで明るい声を出し、
「そうだね、ありがとう。急いで行ってくるよ。」
気を取り直した竹井さんはカメラをバッグにしまうと急いで休憩室を出ていった。
ふぅ
………
「…………ってるな。」
「えっ?はいっ?」
いきなり声が聞こえ慌てて聞き返すと、
雑誌から目を離さずに大ちゃんがボソボソ何か言っている。
「いや、そのエプロン、ミューズに似合ってるな。」
「あ…そ、そう?、奥さまみたいかな?
ありがとうア・ナ・タ、な~んて…」
「…………」
シーン
くそっ
言わなきゃ良かった。
コンコンッ
そんな沈黙を破るかのようにノックの音がしたかと思うと、
「失礼します。ちょっと手を洗わせて下さい。」
と加瀬君が入ってきた。
お~ま~え~
見えないように竹井さんに背を向けて大ちゃんを睨んだが、
「早くしろ。」
大ちゃんはムスッとした表情でカメラを凝視したまま淡々と私に命令する。
ちいっ
「は~い撮りますよ~!」
座っている大ちゃんの横に立った私は大ちゃんの高さに合わせる様に少し屈み、
竹井さんの明るい声につられる様にニッコリ笑って…
「は~い!…あれ?ん?あれ?」
「どうしたの?」
ニッコリ笑顔を固定させたまま聞く私に、
「いや、なんか、フィルムが1枚残ってたのって…勘違いだったみたい…ごめんね…」
さっきまでの明るさはどこへやら、
すっかりしょげている竹井さんの手から、
「どれ?見せて?」
と大ちゃんがカメラを受け取って少し弄りながら眺めていたが、
「残数の数字がズレてたから勘違いしたんじゃないか?」
と竹井さんの気持ちを明るくするようにわざと楽しそうに笑ってみせた。
「すみません…美優ちゃんもごめんね…」
「いいよいいよ、元々余ってると思ったから撮っただけのものだし。」
大ちゃんは慰める様にそう言うと
また雑誌に目を落として読み始めた。
「ええっ?!いいよ~。」
大ちゃんが写真嫌いなのを知り尽くしている私はチラっと大ちゃんを盗み見ながらそう言うも、
「いいから!早く早く!」
と早く現像に出しに行きたい竹井さんは急かしてくる。
チラッ
私の盗み見に気づいているだろうはずの大ちゃんは相変わらず雑誌に目を落としたまま顔を上げようともしない。
コイツ~まただよ…
写真写りが悪いから絶対に撮りたくないとか
いつもグダグダ言うから大ちゃんと今までもまともに写真を撮ったことがない。
ところが、
「店長、店長、美優ちゃんと撮りたいんで顔を上げてもらっていいですか?」
「んっ?ああ。」
私がグダグダ躊躇していることにしびれを切らした竹井さんが今度は大ちゃんの方に声をかけると、あれだけ無視を決め込んでいた大ちゃんが
さも初めて気づいたかの様に顔を上げカメラのレンズをじっと凝視した。
「あっ…」
咄嗟のことで何を言って良いのか分からずそのまま黙り込んでしまう竹井さん。
「なに?」
大ちゃんはカメラを持ったまま立っている竹井さんとその隣に立っている私を交互に見て不思議そうな声を出したが、
「あっ!そうだ!店長、私達の写真を撮ってもらっていいですか?」
私の言葉に、
「いいよ。残り数枚か。全部撮りきっていいだろ?」
と快くシャッターを押して何枚か撮ってくれた。
お昼ご飯を食べた後、大ちゃんは雑誌を読み始め、竹井さんは早速現像に出しに行こうと用意をしかけていたが急に、
「あれ?まだ1枚分残ってるかも?!」
と言い出した。
「そうなの?じゃあ何か撮る?」
何気なくそう言った私の言葉に、
「じゃあせっかくだから店長と美優ちゃんを撮ってあげるよ。」
と竹井さんが早くも「並んで並んで」というふうに手を軽く振って合図をしながらそう言い出した。
早朝スタートの改装はお昼過ぎには
ようやく半分程まで進んでいた。
「竹井さん!田村さん!休憩に入って!!」
大ちゃんに声をかけられ私と竹井さんは2人で休憩室に入る。
「美優ちゃんのエプロン姿見慣れないね。」
私を見て竹井さんが笑う。
「店長命令は絶対だから。」
私も笑いながら答える。
今回の店内改装は大がかりなもので、
ストッカー、レジ台、陳列棚などの什器類の位置を大幅に変更する。
棚を動かした跡は埃が溜まり必然的に大掃除も兼ねることになるため、服もかなり汚れる。
汚れ防止にスタッフ用エプロンをつけて作業後は使い捨てろと大ちゃんがいかにも「らしい」豪快な指示をパートさんやバイトちゃん達に出していたが、
普段は白衣の社員、薬剤師さん達にも大ちゃんは
あらかじめ用意してくれていたスタッフ用エプロンを配ってくれた。
合計すれば結構な枚数になる。
このエプロン、当時はキャンバス地のかなりしっかりした作りでそこそこ値が張るものであった。
よくまあ本社が支給してくれたものだと今更ながら思う。
「まだ少しフィルム残ってるから美優ちゃんのエプロン姿を記念に撮ってあげるよ。」
「いやいやいや恥ずかしいからいいよ。」
押し問答をしている最中、
ガタンッ!
休憩室のドアが派手な音を立てたかと思うと、
「俺もキリがついたから休憩に入る。」
と疲れた声の大ちゃんが入ってきた。
店内一斉改装のため丸一日店を閉め、店舗スタッフと本社の改装応援スタッフ達でごった返す店内、怒号に近い大声が飛び交い、全員埃と汗にまみれながらも割り当てられた作業をテキパキとこなしていく。
独特のピリッとした緊張感はあれど、
活気と笑いに満ちた空気、
数枚の写真の中にはそんな店内の光景が上手く写りこんでいた。
この写真は確か竹井さんが撮ったんだっけ…
大ちゃんが○○店の店長の時代だ、
もうかれこれ20年以上も前になる。
「旅行の写真を早く現像に出したいんだけど、
まだフィルムが残ってて勿体ないから撮っちゃって良いですか?」
屈託なくそう言うと、当時の旅行には必須アイテムの使い捨てカメラで改装中の店内や休憩室を撮り始めた彼女。
カメラを向けられた人達はみんな笑顔でポーズをとったりピースサインなどをしている。
今の時代ならスマホで撮影というところだろうか。
しかし不思議なものでスマホを向けられると身構えてしまったり嫌な顔をする人がいる一方で、
カメラを向けられると笑顔でピースサインをする人の方が多いように思うのは私の偏見か?
いやスマホにしろカメラにしろ
昔の○○店はそうだったのだ。
一致団結しててノリが良くて、
大ちゃんは怖かったけど、
みんなでビビってたけど、
でもそれすらも笑い話にしてしまう所もあって、
若さかな?
若いってやはり素晴らしい
「ごめん、まだ納品の検品中で業者さんを待たせてるから…またね!」
そう言い慌ただしく戻っていく竹井さんの後ろ姿に、
「ありがとう!」
と声をかけると、竹井さんは振り返り大きく手を振ってくれた。
昔のままだな…
私が辞める前は色々とあったが、
やはり竹井さんは竹井さんだ。
ぎこちない空気を多少なりとも覚悟していた私は
少し肩透かしというか拍子抜けした感覚を覚えたが、その感覚は嫌なものではなく、むしろ心地よいものだった。
私はこの人をやはり好きなんだ…
この人とずっと友達でいたいんだ…
改めて自分の思いに気づく。
コロナが落ち着いたらまた昔の様に
楽しくランチでも行きたいけれど…
パサパサッ
そんな私の思いを中断させるかのように
手から数枚の写真が滑り落ちた。
いけない
いけない
大切な写真が…
慌てて拾いあげると写真を封筒の中に戻し、その封筒をバイクのメットインスペースに入れるとバイクにまたがりエンジンをかけた。
さて
帰ってからまたじっくり写真を見よう…
胸がザワザワし、気持ちがはやる。
予定していた買い物も取りやめ早々に帰宅するとテーブルに写真を広げて置き、
1枚1枚じっくりと大切に眺めた。
「これは…あの時の改装時の…だな…」
思わず出た言葉と同時に笑みがこぼれる。
そう
それは○○店の最初の「店内大改装」時の写真の数々だった。
昨年、今までの○○店から車で数分程の距離に
敷地面積が軽く倍を超える規模の店舗ができた。
新しい○○店である。
25年以上も前に建った○○店は何度も補修や改装を繰り返してきたが、老朽化も進み近場にそれなりの広さの土地を確保できたことから、
会社は○○店の新店舗建設に踏み切った。
「○○店の引越しの日にロッカーの奥から出てきてね、すぐに渡したかったんだけどあれやこれやで遅くなっちゃったごめんね。」
「ううん、ありがとう。ここで見てもいい?」
新○○店の駐輪場。
竹井さんから連絡をもらった日はちょうど日曜で私は休み、早速原付バイクで新○○店に向かった。
バイクを停め辺りを見回すと
たまたま外で納品チェックをしていた竹井さんに気づく。
声をかけると、竹井さんはすぐさま裏口へ向かい中に入ったと思うと、手に何かを持ち少し慌てた様に走って戻ってきた。
「これなんだけど。」
そう言いながら竹井さんが渡してくれた物は
少し膨らみのある封筒。
私はそれを有難く受け取り、早速中身を出してみた。
?!
中には数枚の写真
「これは…」
思わず写真に見入る。
「懐かしいでしょ。あの時の写真だよ。」
竹井さんが【あの時】を少し強調すると同時に
【あの時】の【思い】を自分も懐かしむかの様に遠い目をして微笑んだ。
オマケ話としたつもりが
タイトルが何故かひらがなの「おまけ話」になってしまってるために、「おまぬけ話 」に見えて仕方ないという…
こんにちはいきなりケチがついたミューズです。
ブルームーンストーンを完全に終わらせるべく、
少しずつセコセコとブルームーンストーンの削除から開始していたのだけど、
「ご無沙汰してます。元気で頑張ってますか?
美優ちゃんにずっと渡しそびれている物があるので○○店の近くに来た時にでも寄ってもらってもいいかな?」
久しぶりに来た竹井さんからのLINEメッセージ。
このメッセージで、また少し追加のエピソードを書きたいという思いがムクムクとわきあがりました。
いつもいつも遅筆で、次を載せる頃には前の話を忘れているというレベルなので、
今回はあらかじめ書き上げておいた物を一気に載せていきます。
よろしければまた暇つぶし程度にでも読んで頂けると幸いです。
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