ちょっとした未来
※このスレはリレー小説です。
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それは突然だった。私の身にそんなことが起こるなんて。
退屈な毎日を、ただ安穏と過ごしていたし、でも、穏やかに過ぎていく日々。生活に支障をきたすような大きなトラブルもなく、かといって、特筆すべきハッピーな事件も起きない。それに満足していた自分もいる。
このままゆっくりとした時間を過ごしていくのだろうな。そんなふうに思っていた。
他人事。
その場に居合わせたほとんどの人たち、いや、当事者以外は、皆一様にそう思っていたはず。
喧騒に包まれた都会の日常では、見ず知らずの人の何かにかまってあげられるような心の余裕を持つ人は少ない。
痴漢か何かかな?
駅のホームでひとりの女性の悲鳴があがるようなことといえば、そんなものだと思うけど、私は、そのことに関しては、それ以上のことは考えなかったし、特別な興味もなかった。
それよりも、もし自分の身に予期しない出来事が起こったとしたら、どんな行動を取るんだろう。どんな声を発するんだろう。平穏な毎日を送り続けている私には無縁なんだろうな。頭の中で、それがぐるぐるとまわっていた。
悲鳴をあげた本人にとっては良いことではないのだろうけれど、なんの刺激もない人生を送り続けている私には、少しだけ羨ましくも思えてしまう。
自分でもおかしいことだと思うのだけど、なんなんだろう、この感覚。
何分ほど経ったのかは定かではないけれど、脳内にいる小さな私たちの会話は、特段の結論にいたることもないまま、待っていた電車がいつもどおりやって来た。
急いでそちらの方に視線を向けた。
たくさんの人に囲まれている隙間から見える限り、その女性はしゃがみこんでいるようだった。
ホームで聞こえた悲鳴と同じ人だろうか。同じようにも、違うようにも感じる。何せ都会の電車や駅のホームでの事件やトラブルというのは日常茶飯事だ。一つひとつのことを注意深く観察しているわけなんてない。
でも、今日に限っては、同じようなことがこの短時間で二度も続いたので、いつもよりもなんだかミステリアスな感じがして好奇心が勝ってしまったのだと思う。
普段なら、変なトラブルに巻き込まれないよう、無関心を装うはずだけど、私は、一歩そちらへ近づいた。
社内のざわめきをよそに、電車は普段と変わらず進んで行く。
「麻梨子、眠いだろうけれど、そろそろ時間だよ」
夫の声が聞こえる。
ムクリと顔を上げると、開きっぱなしのカーテンの外には、すでに清々しい朝を伝えるお陽様がいた。
そういえば、昨日は朝方まで、自宅に持ち帰った仕事をしていたんだっけ。あまり記憶がないけれど、途中でそのまま自宅デスクに突っ伏して寝てしまったみたいだった。
「ありがとう。シャワー浴びてくる」
「急がないと遅刻だよ」
夫に言われるまでもなく、出社しなくてはいけない定時にはギリギリ間に合うかどうかの時間だった。いや、分かっていてギリギリまで寝かしておいてくれたのだろうけれど。
こんな些細なことでも愛情を感じる。若い頃は、やれ愛の言葉だ、やれサプライズだと、強めの愛情表現を求めていたけれど、今から振り返ると幼かったなって思うし、でもそれが若さの特権だったのかなと感じたりもする。
夫はフリーランスで特に時間の縛りのない仕事をしているので一日中家にいる。
結婚当初は、いつも家にいる夫のことを鬱陶しく思っていた時期もあったけれど、家事全般は無難にこなしてくれるし、仕事についても、実際にお互いの収入をシェアしたときには、当初想像していた以上の金額だったので、キョトンとした表情をしてしまった記憶もある。結婚しても仕事を続けたいという意思を持つ女性からすると、羨ましがられるケースなのかもしれない。
私は私で、それなりの会社でそれなりに働いていて、特に不満もなく過ごしていたのだけれど、ここのところは、急に入った案件の対応で忙しくしていたりした。
普段は一緒に朝食を取り、他愛もない会話をしてから出かけるのだけど、今はそんな余裕もない。
慣れないことはするもんじゃないな、なんて思いながらも、時間は刻々と過ぎてゆく。シャワーを終えてから急いで身支度を整え、最寄りの駅へ駆け足で向かった。
そういえば、寝姿勢が悪かったからか、あまり心地よくない夢を見たような気がする。身体のどこかに痛みがあったり、熱があったりするときは、夢見も悪くなると聞くけれど、本当にそうなんだなぁって思いながらも、足早に駅のホームへ向かった。
いつもと変わらない景色。
ホームにいる人たちも、いつもと同じように見える人たちだけれど、きっと違う人たちなんだろうな。
毎朝、全く同じ時間の、同じ電車の、同じ車両に、毎朝一緒に通勤しているであろう同じ人たちが並んでいるわけはないのだから、そのようにみえる景色でも、きっと何かが違うはずだ。
そもそも、私だっていつもとは違う遅刻ギリギリの電車を待っているのだし。
そんな、ごく当たり前のことを考えながら電車を待っていると、同じホームの少し先の方から、女性の悲鳴が聞こえた。
普段なら気にもしないところなのだけど、なんだろう、なぜだか少しだけ気になった。
疑問を解決する間もなく、待っていた電車が到着した。これに乗らないと遅刻になってしまう。
私は、そそくさと乗り込み、定位置である入口付近のカドを確保し、ほっと一息ついた。
満員で、不快極まりない息苦しい電車からスタートし、また、いつもと同じ日常が始まるんだ。
しばらく、ふわっとした感覚のまま、自分自身がどういう状態にあるのか分からなかった。
気がつくと何気ない、いつもの朝が訪れ、自然と夫に起こされシャワーを浴び身支度を整えた私は、いつもの駅のホームへ向かった。
でも、確実に覚えている。この日常、風景、感覚。少しだけ身体が痛いのも同じだ。
繰り返し続いているいつもの日常ではない。電車の中で変な感覚を覚えると、なぜかここにいる。その瞬間は「あ、まただ」と思うのだけれど、抗おうとすることすらもできず、ここに戻ってしまう。
どこかで、私の時間がストップしている。でも、少しずつ進んでいるようにも感じる。
この先を見なくては。いや、見なければ進めないのかも知れない。
《でも、なぜ?》
本当に平凡な日常を過ごしてきただけなのに。
そんな事を考えていると、また、あの女性の悲鳴が聞こえる。ここまでは把握している。きっと、電車の中でも悲鳴を上げる女性なのだろう。
その女性の方に近づこうかとも思ったのだけれど、電車がホームに到着する。電車に乗らなければ、おそらくこの繰り返しのストーリーは進まないはずだ。
仕事のことはもうどうだってよくなっていた。とにかく、この電車にのって、この続きを見なくては。知らなくては。
真相を、確かめなければ。
私は電車に乗り込むと、急いで、おそらく悲鳴を上げるであろう女子高生のもとへ近づくべく、満員の電車の中をかき分けながら、無理やり車両の奥へと進んだ。
幸い、あの子が悲鳴を上げるのは、まだ先だ。
「ねえ、体調は悪くない? 無理していない?」
唐突に声をかけた私に、怪訝そうな表情を浮かべる女子高生。もっともな話だ。まだ、何も起こってはいないのだ。
「えっと、変なことを言っていると思われるかもしれませんが、次の、学校の校舎が見える大きなカーブする手前で、あなたが悲鳴をあげて、しゃがみ込む姿が見えるんです」
女子高生は、さらに怪訝な表情で私を見上げ、周囲の大人たちも、なんだなんだ? と少しざわついているのを全身で感じた。
この方法では駄目なんだ、駄目なんだ。ではどうしたら? いや、何が起こって、この子は悲鳴をあげてしまうの? そんなことを考えながら、彼女の肩に両手を伸ばし「心配ないから、落ち着いて」などと声を発しながら、彼女のことを真正面から凝視しているとしていると、その女子高生は悲鳴を上げ、意識が朦朧とした感じでへたりとしゃがみこんだ。
「あの、大丈夫ですか?」
え、この子は何もされていない。私が、声をかけ続けていただけだ。そして、しゃがみこんだこの子に、「あの、大丈夫ですか」と、声をかけているのも私だ。
《どういうこと?》
電車が大きくカーブを曲がったところで、私はバランスを崩し、 気持ちの悪い一瞬の浮遊感とともに、体がふわりと浮き上がって、その女子高生を突き飛ばすような形で倒れた。
「麻梨子、眠いだろうけれど、そろそろ時間だよ」
夫の声で、はっと目覚めると、今までの状況を急いで回顧した。
私は、いつもの電車に乗ろうと駅のホームへ行くことになるはずだ。
そして、ホームの端の方で女性の悲鳴が聞こえるけれど、気にせず、いつものように電車に乗り込む。
電車の奥にいる女子高生は確実に悲鳴を上げて朦朧とした表情でしゃがみ込む。しゃがみこんだんだ。
さっきは、早めにその女子高生のもとに向かい、何が起こるのか、真相を確かめようとした。でも、誰が何をするわけでもなく、突然、その子は悲鳴をあげながらしゃがみこんだ。意識は朦朧としていた。
「大丈夫ですか?」と声をかけているのは、紛れもなく私自身だった。
女子高生は、誰かに何かをされた形跡は一切なかった。
何が起こっているのか、理解できないままだ……。
- << 15 「助けて」女子高生は私にそう訴えた。 「え?何かされたんですか?まさか!痴漢!?」私は女子高生に聞いた。 「いいえ」女子高生は首を横に振る。 「じゃあ何があったのか教えてくださいませんか?」と聞いた。 女子高生は「あ、あ、あれ見て」と震える指をさした。 私も女子高生が指をさす方を見て悲鳴を上げてしまった。 それは、血を流して倒れているおじさんだった
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