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普通の日常の、異質な彼等
誰にも言えなかった秘密。
同じ経験をした友人や、一緒に体験をした彼を通し、私の秘密は秘密でなくなってきた…。
そんな私の秘密と、それに関わってきた人達を書いていこうと思います。
若干のフェイクはありますが、殆どが実話です。
(o>ω<o)ゞ
高校生活最後の日、お世話になった勉強部屋(仏間)に泊まった。
私なりに感傷に浸っていたのだと思うんだけど、寝る前にご先祖様にお礼を…と思い、仏壇に手を合わせ、最後の夜を楽しみながら布団に横になった。
電気を消してもしばらくは寝付けなかったが、やはり足音は聞こえてきた。
ぺりっ ぺりっ ぺりっ…
ああ、来たな。
そう思ったとき、あることに気づいた。
私が寝ている布団は、片側を壁につけている。
だから、壁を通り抜けない限り、周りをぐるぐる回ることは出来ない筈だ。
でも足音は、当たり前のように布団周囲を同じペースで歩いている。
なんで?
不思議に思うも、少しずつ瞼が重くなり、足音に聞き入りながらも寝てしまっていた。
目を開けたら、何が見えたのだろう?
足音をたてている人物が見えたのだろうか?
でも、これも不思議なんだが足音が聞こえている間は、目を開けよう!とは思わなかった。
これは何年経っても、謎だった。
ただ、何かしら「存在」するものがあるのだろう。で、帳尻を合わせていたと思う。
コインランドリーへは大体夜中に通っていた。
リュックに洗濯物と飲み物、お菓子、マンガ本を詰め、原付バイクで行っていた。
洗濯から乾燥までで大体1時間20分くらいかかったので、その間、マンガを読みながらオヤツタイムにしていた。
私が行く時間帯には、いつも同じような学生(大体男)が1人や2人は大量の洗濯物と共に来ていた。
私は高身長、痩せ型、まな板胸だったし、ショートカットで中性的に見られていた。
だから、他の客が男でも自然と雰囲気的に溶け込めていた。
ナンパや声かけなどされたこともなく、そういった危険は自分とは無縁だと自負すらしていた。
コインランドリーでのひとときすら、日常のひとこまになっていたそんなある日…。
コインランドリーの隣に小さな駐車場があり、その道路沿いの片隅に電話ボックスがあるのだが、いつも誰かが使用していた。
当時はまだ携帯電話なぞ普及しておらず、通信手段といえば家の固定電話か公衆電話のみの時代だった。
だからいつも誰かが使用していても違和感はなかったのに、今日は何故か違和感を感じた…。
ゴトンゴトンと乾燥機が回る騒音の中、マンガを読みながら意識は公衆電話へと向かっていた。
違和感の正体を探るため、窓からチラッと電話ボックスを覗いたりもした。
いる。
まだ話しているようだ。
こちらに背を向けた、長いスカートの女性の後ろ姿。
あ、そうか!
違和感が分かった!
いつも、同じ女性だからだ。
いつも、同じスカートの長さで、同じ後ろ姿を見ていたから違和感を感じたんだ!
テレビもラジオもステレオも何もない部屋では、娯楽といえばマンガだけ。
中学生の頃から変わらない習慣の一つに、「勉強は試験直前のみ」というものがあり、今までそれで何とかやってこれたので、今更その習慣が改善されることはなかった。
本棚のない部屋に大量に積まれたマンガが、当時は最高の娯楽だった。中でもお気に入りは北斗の拳と、スケバン刑事。
しばらく読み耽っていたが、ふと、例の電話ボックスが気になり出した。
あの後ろ姿の女性。
肩までの髪に淡いオレンジのカーディガン。
薄茶色のロングスカート。
頭の中でぼんやり思い出していた女性の後ろ姿。
その頭がクルッと回転し、顔を向けた瞬間、ニッと笑った。
いつもと同じ道順で、近付くにつれ気分も落ち着きだした。
コインランドリーの明かりと、薄緑の淡い光。
電話ボックス前を通過する時、いつも通りに女性がいるのが見えた。
駐車場にバイクを停め、コインランドリーに入り、いつものように洗濯を始めた。
今日は客がいない…。
静かな店内に、洗濯機の給水音だけが響く。
椅子に座り、マンガを手に取る。
チラッと窓から外を見た。
薄緑の光を放つ電話ボックスで背中を向けて立つ女性は、淡い光に包まれたまま誰と話しているのか、微動だにしなかった。
いつものように、乾燥まで終えると、洗濯物をテーブルに広げ、丁寧に畳んだ。
それをリュックに押し込み、コインランドリーを後にする。
向かったのは駐車場ではなく、電話ボックス。
拳をギュッと握り、フッと息を吐き、静かにノックをした。
振り向かない女性。
私はもう一度、今度は少し強めにノックをした。
全く気がつかないのか、振り向くこともなく身動きすらしない女性。
業を煮やした私は、ドアを開けた。
「すみません。」
「あの~、まだ話し中ですか?私も電話かけたいんで、早くして欲しいんだけど」
すると、先程まで全く反応のなかった女性が、ゆっくりこちらを向いた。
真っ赤な目から涙を滝のように流し、赤い口を歪めていた。
『電話が繋がらないの…』
と、私の頭の中に声が入って来た。
『あの人に何度も何度もかけているのに、電話が繋がらないの…』
また頭の中に響いてくる。
「ああ、この電話ボックスは、移転したらしいから。新しい場所は、この先を右に曲がった商店街の入り口にあるみたいだよ。」
数時間前に見た移転先を思い出し、教えた。
何処かで通夜でもやっているのだろう。
ポクッ ポクッ チーン
は、木魚を叩く音だと漸くここで気が付いた。
そうは思っても、読経の声や木魚の音は、段々大きくなってゆく。
まるで向こうから近付いて来ているように、不自然な大きさだ。
ついには、まるで窓のすぐ外から聞こえるような音量となり、堪えきれずマンガを閉じた。
誰かのイタズラかとも思い、少し開いている窓を、思い切り全開した。
ガラッ!
そこには植木が疎らに植えられた、真っ暗な裏庭があるだけで、誰も居なかった。
居ないのに、読経は止まない。
益々、大きくなってくる。
頭に直接響くように、大音量となった読経と木魚は、容赦なく頭痛まで引き起こしてくれた。
こんな時、誰かいれば手分けして音の出所を探せるのに…。
くッ。
痛む頭をどうにか持ち上げ、無人島にいるような心細さをかなぐり捨てると、窓から顔を出し
「いい加減にしろ!!近所迷惑だッ!!」
と叫んだ。
ピタリと途絶えた音に本来の変な自信を取り戻し、急いでTシャツの上にパーカーを羽織った。
サンダルを引っ掛けると玄関から飛び出し、アパートの裏側に回った。
1階にある自分の部屋の窓まで来ると、辺りを見回してみた。
幸い、両隣は留守のようで、電気は自分の部屋にしか点いていなかった。
他所から見れば、まるで私の方が怪しいが、とにかく細心の注意を払い、気配を探った。
何もない。
何も、聞こえない。
あれだけ大音量だった読経も喧騒も、まるで嘘のように止んでいたのである。
しばらく周囲を彷徨き、後ろ髪引かれながらも部屋に戻った。
当時、宜保愛子さんという霊能者が一躍脚光を浴びていた。
テレビでもオカルトブームで、よく心霊特集等取り上げられていた。
実際はそんなに興味がなかったが、オカルトマニアを探すには、この話題しかなかった。
郷に入れば郷に従え、だ。
小学生の頃には、口裂け女。
中学生の頃には、コックリさん。
高校生の頃には、心霊写真が流行っていた。
今は…。
うん、やはり宜保愛子だろう。
とにかく他人との会話に、巧妙に「宜保愛子」なるキーワードを入れ込んでみた。
餌が大きいせいか、食い付く食い付く。
ただ、殆どの情報源はテレビや雑誌、友達からの又聞きだった。
私が求める「経験者」と「体験談」は、釣り上げることは出来なかった。
だが、好機は突然、何の前触れもなくやって来た。
地元では割りと大きなお祭りに、高校時代の友達と行くことになった。
みんなが浴衣姿の中、私だけ唯一、ジーンズにTシャツ姿だった。
「あゆみも浴衣着ればいいのにぃ~」
「あ、でもあゆみの場合は甚平の方が似合いそう!」
(今更ながら、あゆみは私の仮名です)
など、てんでに好きなことを言いながら、きゃあきゃあはしゃいでお祭りを楽しんだ。
こういった友達との遊びでは、私はボディーガード的な役割も兼ねていた。
風貌からの役割なのだろう。
きゃあきゃあ言えないのだから、仕方ない。
「みんな、もうお祭りも終わったし、これからどうする?解散する?」
と私が切り出すと、数名が駄々を捏ねだした。
「まだ帰るの早いよ~!もう高校生じゃないんだから!!そうだ、飲みに行かない?知ってるお店があるんだぁ~」
という浴衣娘Aの発案で、お祭り二次会として場所を飲み屋に変えることになった。
内心「うげッ」と思ったが、この浴衣娘Aのおかげで私は欲しかったものを手にいれることになる。
まさに、好機は突然到来する!だ。
長い夏休み期間だけあって、みんなテンションが高かった。
飲み屋はマスターと奥さんが切り盛りする小さなお店で、言うなれば小綺麗な場末のスナックという感じだった。
カウンターと、ボックス席2つ。
カウンターにはサラリーマン風の男性客が、マスターと談笑していた。
私達は6人連れだったので、ボックス席2つを使うことが出来た。
浴衣娘Aの友達がマスターとママさんの娘らしく、Aもたびたび娘さんに連れられて来ているようだった。
あ。
ちなみに二十歳未満ではあるが、一応大学生と社会人の混合グループということで、飲酒は黙認してもらっていた。
カウンターの角には、硝子の花瓶に豪華な薔薇の花束が挿してあった。
大人の雰囲気と、女性的な雰囲気が居心地良かった。
お祭り屋台でたこ焼きやお好み焼き、焼き鳥等を買い食いして満腹になっていたが、乾杯のビールは美味しかった。
お通しに出された枝豆やチョコレートをつまみながら、ママさんを交えて女子会は盛り上がっていた。
23時になる頃にはカウンターの男性客も会計を済ませ、帰ったようだった。
客は私達だけとなり、カウンターの片付けを済ませたマスターも私達の女子会に参加して、益々賑やかになっていた。
ふっ…ッとカウンターの花瓶が気になった。
そちらを向くと、花瓶に挿した薔薇のすぐ上に、男性の顔が見えた。
後ろのボトル棚が見えるくらい透けた男の無表情な顔。眼鏡を掛けた中年だ。
すーッと前進したと思ったら、上半身まで透けて見えた。
そのまま前進し、こちらに向かって来る。
言葉を発する前に、そのまま私と隣に座っていた浴衣娘Bとの間をすり抜け、壁に消えてしまった。
なんだ。
ただの通りすがりか。
と思って何気なくBを見たら…
なんと、普段から大きめな目を更に1.5倍程大きく見開いて、口をポカンと空けていた。
見ている先は、男が消えていった壁。
「大丈夫?」
と聞いたら、私の方を振り返りながら
「今の何!?今の何!?今の何ィ~!?」
と半泣きで聞いてきた。
「見えたの?アレ。」
と聞くと
Bは首が折れるんじゃないかという程、コクンコクンと何度も頷いた。
涙目で唇が震えていた。
私とBのやり取りを聞いて、他の浴衣娘達が
「何!?何!?どーしたのォ!?」
と、興味津々に聞いてきた。
Bはただただ、首をフルフルと横に振るだけ。
仕方ないから私から
「何でもないよ。ただ、Bが少し酔ったみたいだ。」
と、然り気無く濁しておいた。
みんなビールや水割りで、かなり顔が赤くなっていた。
そろそろ御開きにしたかったが(明日も朝から晩までバイト)、マスターから意外な提案があった。
「みんな、夜食でも食べないか?近くに深夜までやっているファミレスがあるから、みんなで行こうか!」
ママさんも、マスターの援護射撃で
「そうよ!せっかく盛り上がったんだもの。行きましょうよ!お店は閉めちゃうわ(笑)」
ということで、お祭り三次会はファミレスへ場所を移すことになった…。
Bは私のTシャツの裾を掴んで、帰っちゃダメ!と言いたげなチワワの目をしていた…。
ゾロゾロ歩いて5分程で、裏地から表通りに出た。
信号を渡ってすぐに、チェーン店のファミレスがある。
中に入ると店員さんの元気な「いらっしゃいませ何名様ですかぁ?」の声が響いた。
こんな時間なのに、割りと人がいるもんだな。
店内は、カップルや学生グループ、飲み上がりのサラリーマンやOLが席の半分くらいに着いていた。
私達は人数も多いので、一番奥の席を2席くっつけてもらい、そこへ座った。
それぞれに好きな物をオーダーしていく。
オーダーを取り終わった店員が去ると、店内の明るい照明や雰囲気に精神を回復させたBが
「ねえねえみんな聞いて!さっきね、凄いの見ちゃった!!」
と、テーブルに身を乗り出し話し始めた。
私はみんなの反応が怖くて、ポーカーフェイスを決めていた。
Bは、マスターとママさんをチラッと見ながら、
「カウンターの方から、オバケがこっちに来たの。うわあって思ったら、壁の中へ消えてっちゃった!あゆみも一緒に見たんだよ!ね、あゆみ!!」
話を振られた私は
「2人で同時に同じ錯覚を見るなんてあるのかな?Bが言ったように、半透明の男が、すうっと通って行ったよ。」
みんなびっくりした顔で、私とBを交互に見ていた。
私とBが黙って頷くと、口々に、怖いだの酔いすぎだのワイワイ言い始めた。
するとマスターが
「ああいうのは初めて見たのかな?繁華街や飲み屋では、結構目撃談は聞くよ。実は私もね、うっすらとした人影や気配は感じることがある。だから2人が言ってることも、多分そうなんだと思うよ。さっきは怖かったよね…可哀想に。」
と、Bを労るように話してくれた。
あ、そうか。
だから場所をここに移したんだ。
Bが怖がっていたから。
アレを見た現場で話せと言っても、Bは怯えて震えるだけだったろう。
私はマスターに感謝した。
時間も深夜に達していたし、私達はまだ未成年だと言うことで、注文した料理を平らげたら御開きとなった。
マスターがタクシーでみんなを送ってくれると言ってくれたが、各々自宅に電話し、駅まで迎えに来てもらうということで、マスターには駅まで送って貰うことになった。
私とBの体験談を聞いてから暫くは怪談話となったが、いつの間にかに話題は恋愛話となっていた。
一頻り恋話が終わるくらいにはデザートまで食べ尽くしていたので、ちょうど良いタイミングだったみたいだ。
駅で家族の迎えを待っている間、マスターが私にだけ小声で
「またお店においで。今度は一人で。紹介したい人がいるから、必ず来て欲しい。」
何だか意味深な発言だったが、声に出さずに了解のサインを送った。
ファミレスではマスターがご馳走してくれたので、最後にみんなで感謝し、迎えが来た順に解散となった。
私は実家の父に迎えを頼んでいた。
もっと早い時間帯ならアパートまで電車で帰れたのに、実家のある地元に来ていては深夜帰宅は実家に帰るしかない。
明日は始発でアパートに戻って、バイトに行かなきゃな~なんて考えていたら、父の車が駅前に到着した。
みんなに「おやすみ」と、マスターとママさんには「ありがとうございました。おやすみなさい」とお礼をし、父の車に向かった。
車から降りていた父も、マスター達に一礼してくれていた。
しかし車の中では
「酒くさいぞ!まさかタバコまで吸ってないよな?」等々の説教を食らいながら、久しぶりの父と家路についた。
この日が私にとって、世界が広がる第一歩となった日でもあった。
久しぶりの実家。
元々、自室は妹と同室だったが、アパートにベッドと机を移したので、妹の私物で占領されていた。
寝ているのかと思っていた妹が、ムクッと起きて
「姉ちゃん、久しぶり!」
と、笑顔を向けた。
「まだ起きてたの?てゆーか起こしちゃった?ベッドがないこと忘れてたよ。ここで雑魚寝するけどいい?」
と聞くと、妹の笑顔が曇り
「もう寝ちゃうの?聞いて欲しいことがあるのに…。少しだけ、相談に乗ってよ…。」
いつも無邪気な妹に悩み事があるなんて…
何だろう。
恋愛相談は苦手だ。
「恋愛相談ならねーちゃんでは無理だぞ。経験値が低い。」
「そんなことだったら学校の友達にするよ。姉ちゃんに相談したいのは、お母さんのことだよ?今日、お父さんが姉ちゃんを迎えに行ったんでしょ?お父さん、何か話さなかった?」
「うーん…。酒くさいと言われたり、タバコ吸ってるかは聞かれたけど…。あと、いつもの説教ね。勉強しろとか、夜遊びするなとか、女らしくしろとかかな?」
妹は溜め息混じりに息をふうーッと吐き出すと
「お母さん、離婚を考えてるみたいなの…。まだ内緒にしてね?お父さん、付き合ってる女の人がいるみたいで、よくお父さんに電話がかかって来てたの。いつもお母さんが電話を取るんだけど、同じ女の人からで、凄く怪しんでた。」
私は黙って聞いていた。
「でね、少し前の日曜日、またお父さんに女の人から電話があって、お父さん出掛けて行っちゃったの…。それからお母さんはお父さんを無視してる。」
お父さんが浮気?
まさか…。
「その女の人って、誰か分からないの?」
「お父さんの会社の人なんだって。何年か前、お父さんぎっくり腰で入院したじゃん。その時、会社の人達でお見舞いに来てくれたでしょ?そのなかにいたって、お母さんが言ってた。」
うわー。
会社の部下(父は役職だったので)と浮気かよ。
ドラマみたいで現実味ない。
「それでお母さんは離婚って騒いでるの?帰って来た時、普通に会話したよ?明日の朝食どうするか聞かれた。」
「騒ぐってより、準備をしているみたい。住むところとか、引っ越しの準備とか。お父さんは気付いてないみたいだけど、お母さんはいつでも出て行けるようにしてるみたいだよ?私も直接は言われてないけど、隣の市(母の実家のある市)の高校を受験するように言われたからね…」
今でこそ不倫だ何だと良く耳にするが、当時はまだ「不倫」はあまり馴染みがなく(石田純一の不倫は文化発言でブレイク)、浮気とか愛人とか、そんな言い回ししか思い付かなかった。
父がどうしたいかは、妹も分からないらしい。
話をして安心したのか、妹はしきりに欠伸をし始めた。
「うん、話は分かったよ。お盆にはまた帰ってくるから、その時、お母さんに聞いてみる。お盆は何日か泊まると思うから、ちゃんと話をしよう。明日は始発で帰らなきゃならないから、もう寝るね。」
その言葉を合図に、妹も
「おやすみ~…」
と寝入ってしまったようだ。
突然聞いたから、全然実感が湧かないけど、美樹(妹)は毎日見ていたんだよな~。
はあッ。
どうしよう。
てかもう2時過ぎてるじゃないか!!
ダメだ寝なきゃ。
今日はたくさんのことがあり、酷く疲れていた。
ラグの上にタオルケットを敷き、毛布にくるまって眠った。
この一連の出来事も、今となっては全て1本の糸で繋がっていたんだと、当時はしらずにいた。
運命なんて大袈裟だけど、たった1つの切っ掛けで、なるようになっていく。
もうすでに、その流れは始まっていた。
遠くから聞こえてくる
ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ…
一定のリズムを保ちながら、時に遠く、時に近く感じる
ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ…
おばあちゃん、あの音は何?
お前にも聞こえるんかい?
ええ子じゃから耳、塞いどき
お前を迎えに来たらばあちゃん守れんけんの
ドンッ ドンッ ドンッ …
おばあちゃん、怖い
大丈夫じゃ
じさまが守ってくださるけ
ええ子じゃから安心して眠らんと
うん、あーちゃん寝るからおばあちゃん、ここにいてね
ドンッ ドンッ ドンッ …
ばあちゃんはいつでも、お前のそばにおるけん
見つからんうちに目を瞑らんね
うん、おやすみなさい…
真っ暗な世界に堕ちてゆく
さすがに朝食をいただく余裕はなかったので、身支度を済ませると母に声をかけた。
「準備出来たのなら、駅まで送るから待ってなさい。今、お父さんの朝食を準備してるから。」
「お父さんはまだ起きてないの?いつも早起きだったのに。」
「最近はギリギリまで寝床にいるわよ?」
台所でせわしなく働く母を見て、昨夜の美樹の言葉を思い出した。
お母さん離婚したいみたい…
何度か躊躇ったが、やはり時間のある時でなきゃ、こんな話は出来ない。
今は知らない振りをしていよう。
鬱々と考えているうちに、朝食が出来たようだ。
「早く車に乗りなさい。始発に間に合うか分からないけど、急いで向かうから。」
駅までは車で7~8分。
早朝だからか、道路も駅の駐車場も空いていた。
停車した車から母も降りようとしたので
「ここで良いよ、またお盆に来るから連絡するね。ありがとう。」
ニコッと笑って、母に手を振りながら構内へ早足で向かった。
母はずっと、車の中で見送ってくれていた。
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