日めくり

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2012/03/07 23:22(更新日時)

あれは、私がまだ10歳だった頃の事。

夏休みになると、訪れる母方の実家。

従姉妹たちとめいっぱい遊んで、騒ぎ疲れた頃。

昼寝をするように言われて、みんなで座敷に寝転がると、婆ちゃんが真ん中に座り、話し出す。

「日めくりは、絶対にめくり忘れちゃあなんねぇ」

見上げる部屋の壁には赤い日めくりがかけられている。

「忘れたら、どうなるの?」

無邪気に聞く私。

「わかんねぇ。忘れたことぁねぇからなぁ」

婆ちゃんは、ちょっとだけ笑って言うと席を立った。

みんなは、いたずらしようとヒソヒソ相談して、疑われないように昼寝をした。

なぜだか、ぐっすり眠り込み。

夕飯だと起こされるまで、皆眠っていたので。

「損したなぁ」
「もっと遊びたかったのに」
なんて、言い合い夕飯を食べ始める。

「明日は、帰る日だからね」

母に言われてシュンとなる。

「ねぇ、もっと泊まりたいよ」

言って見ると、困り顔の母が言う。

「一人で泊まる?」
一人っ子の私はそんな勇気もなく黙るしかない。

「じゃ、荷物リュックに詰めておいてちょうだいね」

母に言われて部屋に戻る。

従姉妹の一人がついてくる。

「手伝ってあげる」

これは、示し合わせたもので。

例の日めくりを私のリュックに隠したのだ。

「できたよ」

母に報告すると、風呂に入るように言われた。

最後の夜なので、従姉妹たちと一緒に入り、一緒に寝る。

婆ちゃんも一緒だ。

昔話を聞きながらいつしか眠りに付いた………。

次の日……………。

帰り支度をして居間に行くと。

「れなちゃん、帰るの明日でしょ?」

従姉妹の一人に言われた。

「あれ?」
だってママが、と言おうとして。

昼寝する座敷を眺めた時…。

昨日の日付のままの日めくりがかけられている事に気づく。

「ごめん、勘違いしてた、荷物置いて来るね」

荷物を持って部屋に駆け込む。

リュックの中を確認すると、日めくりは隠した場所に入れてあった。

「こっちが本物のはずだよ」

じゃ、今かけられている日めくりは何だろう?

二冊あった訳じゃないはず。

婆ちゃんに聞いてみなくちゃ。

「ママ、婆ちゃんはどこ?」

朝食を食べている母に聞いて見ると。

「え?」

母は驚いた顔をして私を見た。

「何、言ってるの?婆ちゃん、会ったことないわよね?」

「え?」

なんでそんな事を言うんだろう。


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No.1

わけがわからず、聞き返すと。

「婆ちゃんは、あなたが生まれる前に亡くなってるもの」

母は真顔で言った。

「昨日、昔話聞いたもん」

食い下がる私を見て母は笑い、

「夢でも見たんじゃないの?」

と言われてしまう。

婆ちゃんの部屋に駆け込むと妙にガランとしている。

まるで、何年も使われていないような部屋。

「どうして?」

私は、その部屋を飛び出して、従姉妹たちの所に走った。

「昨日、婆ちゃんに日めくりの話し聞いたよね?」

「え?」
「何言ってるの?」
怪訝そうな二人。

「婆ちゃん、あたしが小さい時に亡くなったもん。れなちゃん、会ったことないわよね?」

お姉さんの明子ちゃんが言う。

「どうして?」

聞くと。

「こっち来て」

連れて行かれたのは、一度も入ったことのない部屋。

「これが、婆ちゃんだよ」

白黒の写真が飾られた小さな仏壇。

「わああんっ」

私は、泣き出していた。

私がやったいたずらの所為なの?

「どうしたの?」

私の泣き声に母が飛んで来る。

「婆ちゃんがしんじゃったぁ」

どうしていいかわからず泣きじゃくる。

「れな…………」

母の顔に、婆ちゃんの顔が重なって見えた。

「日めくりは絶対にめくり忘れちゃあなんねぇ」

「ああ…………」

抱えていたリュックがしたに落ちる。

中身がばらけ、隠していた日めくりがとびたした。

私の回りがビデオテープの早送りみたいに動いた。

「れなちゃん、帰り支度できたの?」

母の声が私を起こした。

「うん」

飛び起きて、返事をし、リュックをつかんで婆ちゃんの部屋に行ってみる。

「帰るがぁ?」

優しい婆ちゃんの笑顔。

「婆ちゃん、日めくりちゃんと毎日めくるからね」

大きくうなずいた婆ちゃんは、何もかも知っているようだった………。


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