○三日月の白猫と満月の白狼○

レス136 HIT数 16059 あ+ あ-


2013/01/25 00:49(更新日時)

『月夜の黒猫』でノンフィクションを書かせて貰いました
黒猫です🙇


今回は、『運命』ってものを題材に フィクションを書かせて頂きます。

気怠い少女が運命の人と出逢い、凜とした大人になっていく
そんな内容にと考えています。


誤字、脱字、解りにくい描写など、気をつけますが、あると思います💦すみません💦



お付き合い頂けると嬉しいです☺
よろしくお願いします☺✨



No.1721546 (スレ作成日時)

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No.51


「柚は、常に誰か居る感じなんだよ
かなりの寂しがり屋なんだろうね
彼氏が居ない時ってあんまないみたいだし

別れたらすぐ、てか
別れる前にもう次を探すタイプ?」


「ぁあ、何気に多いよね
ちょっと被る時アリマスがみたぃな(笑)

アタシは結構1人も好きだし
彼氏が居ないのも平気」


「俺も!って、確かCLUBでもこんな会話したよね?」


「したかも。したね。
ごめん同じ話ししたぁ~~~!」





ウソ 覚えてた

でも また言いたかった

同じだねって 話し





「いいよいいよ!
お互い1人も好きだって
そうゆう気ままなとこも
気が合うなって、思ったんだ」


「アタシも思ったよ!
似てるのかな?って思うトコが何気にけっこうあって
気が合うなって」


「だねぇ~~。
琉那もそう思ってくれてて
良かった」





柔らかい笑顔の旭の顔を見て
やっぱり、タイプな顔だなって 思った



だからって 顔で好きになった訳じゃない

それ以上に 中身がィィ



まだこれで3回しか会ったコトがないのに
中身だなんて
何が解るんだってカンジだけど


なんか 旭のコトは
よく解るような気がしてる


似てるのかなって感覚がある分
これからも
理解出来るコトが多いんじゃないかな? って思うし


アタシの気持ちも
理解して貰えるんじゃないかって……



そう 思ってた



No.52


食べてる間も 食べ終わってからも
いろんな話しをした



お互いのコトを だんだん知っていく

こうやって 少しづつ
お互いを知り合って 解り合ってくものだよね



恋の始まりの
ウキウキ気分は楽しい

恋愛で一番楽しい時期って
仲良くなっていってる
今くらいの時期だなって思う





アタシのマンションに向かいながら
旭のアパートは 20分もあれば着く距離だと解った



「時間が合えば気軽に遊べるね」

「うん。また遊ぼうねぇ!」







会話が弾んでいる内に 
もうじき マンションに着きそうになる



だいたいのオトコは
部屋に上がろうとするパターン

モチロン 下心アリでね



旭はどうなんだろ……

部屋に行きたいとか言うのかな?
てか 最初からそのつもりで
送ってくれたのかも

てか アタシはもうちょっと 一緒に居たいけど……
旭タイプは 女の子からあんまり押すのは微妙そう?



なんて考えてるうちに
マンションに到着した







「いいトコじゃぁん!実家といい、マンションといい、いい暮らししてんだね」


「そうでもないよ。ここも払ってるの親だし
別に自分のお給料でも払えるけど、出したいんだって」


「琉那は大事にされてるんだね。いい親だねぇ」


「そんなコト……!
そんなコト無いょ。」



アタシは つい 感情を出して強く言いそうになってしまって
気づいてすぐに 抑えた



「んでも、いいトコ住んだり、好きな物買えたり出来るのに越したコトはないじゃん?」


「まぁねぇ~~~」



旭は アタシのささやかな挙動に
気付いたのか 気付いてないのか
解らなかい



「じゃぁ、また連絡するね」



旭が言った
部屋に行こうとかゆう気はないみたいだ

なんか 深読みし過ぎてた気がして
自嘲したくなるゎ(笑)



「うん、また遊ぼうねっ。
昨日も今日も、送ってくれてぁりがとう。」







アタシは 昨日と同じ様に
車の白が闇に溶け込むまで 見送った



No.53


冷えた室内から逃れるように
すぐにお風呂に入ろうと バスタブにお湯を貯める


2日間 地元の友達と居たり 旭と居たり
日向ぼっこのように暖かな空気に包まれていたから
この室内に居るのは なんだか久しぶりのような気がした


珍しく 寂しいって感傷的な感情が
指先からよじ登って来る……



それを振り払うように
手首をプラプラと振るってゆう意味のナイ動きをして
さっさとお風呂に入りに行く







バスタブの中で考えてみる

これから旭と どうなるんだろう……?


旭は アタシのコトを
何とも思ってないってコトは
ナイだろうなぁ……

でもなんか 好きってゆうより
『気の合う友達』
って思ってる感じがするトコも 度々あるしなぁ……





好きなヒトが出来て

好きだからこそ 悩んだりする

それが やけに嬉しかったりする



気持ちがある分
楽しさも 嬉しさも 感じられて
小さなコトも 大きなモノになる



アタシは 相手が好きになって
アピられたり 告られたりして
そこから気になったりするコトが多いから
自分からの恋愛って 殆ど経験がなかった
それこそ初心者だ







それに いつも 考えてしまう

アタシを好きだと想ってくれるヒトと 付き合っても
自分も好きになったなって 付き合っても


このヒトが アタシに冷めたら
どうなんだろう……



アタシは アタシを好きなそのヒトを
好きになった訳で
相手の気持ちが無くなっていったら
何を好きなんだか 解らなくなるし


哀しいとかショックより

自分も冷めていく……





それって 本当に 好きって 言えるの?



自分から 本気で 好きになれるヒトに出逢いたい
密かに 切望していたコト……






そして 旭と 出逢った

旭に 恋をして 嬉しかった







だけど 怖い

本気で 人を 好きになるコトが……





浮気されたら?

嘘をつかれたら?

裏切られたら?





宙を浮く軽い風船なら
突き刺して割ってしまえばイイ

そのくらいに思えるけど


想いが強ければ強い程
破裂した時の痛みも強いから……





アタシは いつもどこか 矛盾してる



不安と不信に取り巻かれる

アタシって人間は

基本的にマイナス思考





No.54


いろんなコトを考えてたから
お風呂に入ってスッキリとゆうより
逆にモヤモヤしたりして
なんだか疲れちゃってた



スキンケアをしてから携帯を見ると
少し前に旭からメールがきていた





「昨日と今日、楽しかったよ🎵ありがとう☺

言おうかどうかって、迷ってたんだけど
直接はなんか言いづらいから、📧で言うね!

初めて会った時に、連絡先聞かなくて後悔してた😣
でも、そうゆうの苦手で……💦聞けなかった

昨日も、友達のおかげで聞けたようなもんだし😥
だから、友達には感謝してる✨
あの場所で再会出来たのは
奇跡的な偶然だと思う
低確率とか、そんなレベルじゃないよって😲
マジ、嬉しかった!マジ!☺

これからも、ご飯食べ行ったり、遊び行ったり、いろいろしたい!✨
改めて、よろしく😃」



もう 舞い上がっちゃぃそうな 長文メールに
既に舞い上がっちゃってた

髪も濡れたままで 直ぐにメールを返す



「アタシも 聞かれないのかな?聞こうかな?って迷ったょ😣💦
交換出来て、旭の友達にアタシも感謝だょぉ✨😉

マジ、奇跡的な偶然だょね🎵✨旭もそう思っててアタシも嬉しいョ☺✌

きっと、いつかまた再会出来てたんだょ☺まぁ、astrayでいつかは再会してたかもだけど😁
そぅじゃなくてさ😉

アタシも旭ともっと仲良くなりたぃし❤これからいっぱい遊ぼうねぇ🎵😃」





これは マジで イイ感じなんじゃなぃのっ!?
思わずにやけてしまいます……(笑)


なんか この一通のメールで
不確かだったコトが確かになったってゆうか
旭もアタシが気になってるって
自信持ってイイのかな?
って思えた





それから何通かメールのやりとりをした

ラブっぽい内容もチラホラとぁる

意外と趣味も合うトコが多い
天体観測的なコトももその一つで
数日後にあるふたご座流星群も
一緒に観る約束をした







オヤスミを言ってメールが終わる
間接照明に照らされた淡い色彩の室内で
ベッドに寝ころんだまま
天井を見つめる





……旭……

ねぇ アタシ 本気になっても イイの?


本気で 好きに なりたいょ……


でも なんか なりたくないょ……


アタシのコト 好きだって 思ってもイイの?






相反する感情の狭間で

揺れ動く感情の真ん中



アタシは 浅い眠りに 堕ちる




No.55



揺らめく夢の真ん中で

佇んでるのは

白いフリルの付いたワンピースを着た

小さな小さな 女の子



握り締めた掌の中には

白い華が 一輪





悪魔の羽根と 尻尾を生やした
ワルイカオのアタシは 囁く



『ねぇ 知ってる?
それは 造り物なんだよ?』





小さく幼い女の子は
首を振って 足をバタバタして
ぃゃぃゃをする



聞こえはしない 音の無い声で

『違うもん!そんな事ないもん!』


必死で否定する





アタシは 黒い羽根を羽ばたかせながら
尚も追い詰めるように 言う



「偽物は偽物だよ
本物にはなれないよ」






女の子は
足元から這い上がって来る
ドロドロに濁って液状化した黒い感情の坩堝に

呑み込まれそうになる



その濁流に流されまいと
必死に抵抗する





握り締めた白い華は
みるみる黒く染まって行き
あっという間に漆黒に染まり

グニャリと枯れた途端に
パラパラと
崩れ落ちてしまう





女の子は
『ぁあっ』 っと 声無き声で叫び
必死で 枯れ落ちる華を
掴み取ろうとするけど



その 小さな掌には

欠片さえ残らない







『オボレチャウヨ……』

『クルシイヨ……』

『タスケテ……』









ぅん 助けてあげる でもね





真実をねじ曲げて

嘘を吐くコトが

優しさなの?



巧く嘘を吐いたら

アタシは 天使なワケ?



その華は 白いまま 

凜として いられた?





ねぇ 誰か 教えてよ……








その 小さな女の子は


幼い頃の アタシだった





No.56


真夜中に 悪夢から 目を覚ます



夢の中で 必死で抵抗してた幼いアタシのように
スポーツでもしてたかのような
汗をかいていた

起きあがると 背中を汗が伝う


照明もテレビも点けたまま
うたた寝をしてしまった



何も今 あんな夢を視なくても……

いや 今だから 視たのかもね……







本気で旭を好きになりそうで


楽しい反面 不安で

嬉しい反面 躊躇する



イイコトとイヤなコトは
いつだって背中合わせで
密着してるモノだから

どっちに転ぶかなんて
本人にだって解らない

どっちを選ぶかは
自分で選べるクセにね



アタシってゆう人間が
そうゆうのに敏感で
ワルい方へと考えがちだから
余計にこうなってる

それは 自覚してるコトなんだ……








いつだって アタシは



『裏切られるかもしれない』

『大切にされないかもしれない』

『愛されないかもしれない』

『愛されてないかもしれない』


そんなマイナス思考が 頭の片隅に

いや 片隅どころじゃない

きっと 思考の中心に 
そんな気持ちの塊があって

ダメなんだ……





だから いつだって
適度に適当に ヒトと付き合ってきた

ある時から いつだって


友達でも 恋人でも 
一定以上は 深入りされないようにって



透明なシャボン玉で

自分自身を覆ってきた









差し伸べた手を

振り払われる痛みは

身体を斬りつけられるよりも

もっと鋭い痛みで



だから アタシは



誰かを 救うコトを 避けて来た





求めて差し出した手を

握って貰えないコトは

求める前よりももっと

重く暗い深淵に 沈んで逝く



だから アタシは



誰かに 求めるコトを やめた






時々 優しさを 拒むように

アタシは 笑顔を 繕うけど





唇の端っこを 無理矢理引き上げて
縫い合わせただけなんだ





アイカックルスマイルの

端っこから垂れ下がる

黒い糸を引いちゃダメ



たちまち 崩れて しまうから




明日も 明後日も その後も

ずっとずっと 巧く笑わなきゃ







アタシとゆう人間を

必要として貰う為に



No.57


いつだって
明るく 元気で 軽やかな自分を
演じて来た


本当の自分を見せようとはせず
創り上げてきた
虚像の自分





自分自身にバリアを張るコト

裏切られるコトを考えてしまうコト

ヒトを信用出来ないコト



そんな事柄の理由は 2つある






一つは

アタシが産まれた理由にある





パパには 愛人が居た

兄のくぅちゃんが1歳になる頃
その愛人との関係が始まったらしい


ママはじきにそのコトを知った
勿論 その女とは二度と会わないようにと約束をさせたけど
密かに続いていたらしい


ママも それには気付いていた


だから くぅちゃんに余計に厳しくなった
後継ぎになるのに必要以上の勉強をさせ 教育をしてきた
実際 そこまでの教養が必要な程の事業でもないと思う



もしも愛人との間に子どもが出来て
万が一にでも
そっちの方が可愛いからとか 優秀だからとか
そんな感じで 何かと理由をつけて
後継ぎの立場を奪われない為に……



本妻のプライドってやつなんだろう

愛人なんかに負けてたまるか
妾の子にイイ思いをさせてたまるか

そんな気持ちだったんだと思う





そんな不安定な生活の中

ママの恐れてた事態が発覚したらしい



愛人に 子どもが出来たんだ





パパが それまでに増して
外出してる時間が増えて
不信と不安に駆られたママは
探偵を雇ったのだとゆう



妊娠5ヶ月めで ママはそれを知った





それを知ったママの考えたコトは
自分も妊娠するコトだった



パパを自分の元に繋ぎ止め
男なら 第2の後継ぎ候補や副社長にする為に……





アタシは 計算された上で 

造られた人間ナンだ

しかも ママの希望に反して 

出来たのは女の子の アタシ





可哀相なママ



笑っちゃうね





アタシは 最初から 道具扱いだったんだ

自分に利潤があるから 製造されて

利用価値を 値踏みされて 

昔も今も この通りの放任ぶり



自らの手で 育てる価値もナイ




それよりも パパを見張る意味でも
仕事に早期復帰して
くぅちゃんには 手をかけ続けた





期待ハズレだね



残念なママ





残念なアタシ



No.58


でもアタシ イイコなフリをしてあげる



ママが心配しなくて済むように

パパが可愛がってくれるように



お勉強も頑張って

お行儀良くして

言うコトを聞く

聞き分けのイイコになるから





ねぇ いつか 愛してくれる……?








その希望は 叶うコトはなく


アタシの健気な気持ちは


崩れて堕ちた








必死だった 信じようと

希望や 愛を



欲しかった 当たり前が

笑顔や 温もりを





幼いアタシには 遠い夢みたいで

蜃気楼のように揺らめいて
近づいたら 視えなくなる
そんな 幻みたいに危うい

だけど 幼子には 唯一の希望


石ころだらけの岩の階段を
両手でしがみつきながら
必死で登り続けた


白い息を切らせて
溢れる涙を拭いながら
指先に血を滲ませた





虹色に輝くお花畑は どこにあるの?
真っ白なお花が いっぱい咲いてるんだよ







無かった 何処にも 

存在して無いんだ





奈落の底ってモノが 存在するなら
アタシはその底を 知ってるよ


崩れた崖から堕ちて 行って来たから







オトコなんて 浮気するモンなんだ

ヒトなんて 表と裏が激しく違うんだ

真実の愛なんて 存在しないんだ

だって 親にすら 愛されないじゃない







小さなアタシの中に

仄暗い 深淵が産まれた



今もまだ 小さなアタシは

膝を抱えてうずくまってる



No.59


そんなアタシも お年頃になって
友達に次々に彼氏が出来た



アタシ自身は 好きなヒトもいなければ
彼氏を作りたいとも イマイチ思えなかった

あんな親を見ていて 恋愛をしたいとは思えなかった





くぅちゃんとは仲良しだから
習い事やお勉強の合間に ちょっとだけ遊んだり
夜寝る前に お話し出来る時もあった
少ない時間だったけど……



パパは アタシのコトをけっこう可愛がってくれてたけど
忙しくて あまり遊ぶ時間もなかったし

家族みんなでお出かけ なんてゆう
いかにも家庭的な休日も
数えられる程しかなかった

それも パパの仕事の用事の近場に行って
パパは途中で抜けて仕事に行く なんて時もあった



仕事が忙しいのは 解る しょうがナイ

でも 一体
そのうちのどのくらいが
本当にお仕事だったんだろぅネ?







彼氏を作るってコトも 周りに順応するコトだった

だから とりあえず 彼氏を作ってみた



初彼は同校の別クラスの男の子

半年で別れた



それからも何人か 
良さそうなヒトに告られると
とりあえず 付き合ってみたけど

本当にヒトを好きになるって気持ちは
解らないままだった



そんなモン
一生解らないんじゃないかと思ってた







専門に通ってる時
違う学部の祥平と付き合った



祥平は今までの彼氏とは違って
相性が合うなって思える相手で
一緒にいて本当に楽しかったし
楽にいられたし 癒されていた




アタシは一緒にいるうちに
祥平のコトを 本気で好きになっていた





自分もヒトを愛せるんだって 嬉しかった



好きだからこその 楽しさや 喜びや 幸せを
会ってる時も 別々にいる時も 日々感じていて

ほとんど毎日のように アタシ達は会っていた





No.60


祥平と付き合って 一年が過ぎた
ある冬の日のコトだった



その日は祥平は男友達とスノボに行くと言って 会わなかった
美里と都内でショッピングをしてた
クリスマスが近いから お互い彼氏のプレゼント探しが目的



ジュエリーショップを見ようとすると
見覚えのある顔があった

美里もアタシも同高で共通の友達 エミだった



「あれ、エミじゃない?」

「あっ本当だぁ~~!彼氏といるんじゃん?ひやかすかぁ~~~!」

笑ってショップに入ろうとした時 オトコの顔が見えた





………しょう……へい………?


アタシは 放心しそうになる



「ねっ、ねぇ、アレ……祥平くんに似てんじゃなぃ!?」


放心しそうなアタシの様子に気付いて
本人に間違いナイと悟った美里は
アタシの肩を揺すった


「琉那、琉那!しっかりして!
とりあえず、様子見よう!」





幸い 2人はスタッフと話してて
アタシ達のいる通路の方を見る気配はナイ

アタシと美里は ガラス張りのディスプレイ越しから
2人を見ていた

スタッフがショーケースから出したのは ペアリングだった……





2人は リングゲージで指のサイズを測ってる

どう見ても クリスマスプレゼントのペアリングを選ぶ
ラブラブなカップルに見える







ショックだった……

信じたくなかった……

でも今 この目で見ているのは

紛れもない 現実……





なんで…… どうして…… いつから…… エミ…… 

中途半端に途切れながら
紙吹雪みたいに 頭の中を駆け巡る思考



エミと祥平は 当然ながら
アタシを通して知り合ったんだった





ショックで何も言えないアタシとは逆に
美里はアタシの代弁者のようにぽつぽつ言ってた



「何あれ……信じらんない!」

「あの子最低!琉那の彼氏だよ!?」

「スノボなんて嘘じゃん!最悪!」





どうやら 買うリングを決めたらしく 
レジへ行く2人の姿



「ちょっと!今乗り込んで問い詰める!?
修羅場にしてやろうよ!」


美里が言う







でもアタシは 静かに首を横に振った



瞳孔の開いた目の縁に

ギリギリに溜まってた涙が

音も無く 床に零れ落ちた







美里は何も言わずに アタシの手を握って
外に向かって歩き出した






No.61


夜 まだ美里といるうちに
祥平からスノボから帰って来たってメールが来た

如何にもホントっぽい内容の
今日のスノボの様子の報告つきで……





「嘘ばっかり!よく平気でこんな嘘報告出来るね!

……まぁ、当たり前かぁ。
スノボ自体が嘘なんだもんね」

「だよね。
てか、どうしよう……」





とりあえずここは 普通に返信するコトにした
まだ美里と遊んでるコトも書いた

そしたら 電話がかかってきた!



アタシは動揺して 普通に話せる気がしなくて
焦ってるうちに電話が切れた


とにかく 今は普通に話そう
出来たら 尻尾を掴んでやろうよ
美里と相談して決めてから
かけ直す







祥平は 予想外のコトを言った


「琉那が大丈夫だったら会いたかったんだけどなぁ~~」



……さっきまでエミといたクセに
アタシと会おうとするって
どうゆう神経!?



「てか、さっき何で電話出なかったの?
ホントに美里チャンといるの?
まさかオトコいないだろうなぁ?」



……自分がオンナといたんでしょうが!
ナニ?ナニ!?コイツ!!
マジ意味ワカンナィんだけど!?

何でアタシのコト疑うようなコトが言えんの……?



「まさかぁ~~そんなワケナィじゃん!何で?」

「いや?何となく言ってみただけだよ」

「祥平こそ、男友達とか言って
ホントは女の子もいたんじゃないのぉ~~?」



精一杯 冗談ぽく言ってみる
オーバー過ぎて不自然じゃなかったかと思うくらい
囁かな探りを入れてみる



「ン~なワケねぇじゃん!マジ男だけだって!
てか、俺は琉那一筋だっつぅ~の!」



『悪びれもせずよく言えたもんだ』
ってセリフは
きっとこうゆう時に使うべき





解ってんだろ?
と 祥平は言う

解ってるよ
と 言いながら


解ってる……つもりだったよ
って 心で呟いた








電話を切ると 美里は噴き出したように怒って
祥平とエミを罵倒しまくった



アタシは それが嬉しかった

キレるコトも出来ないアタシの代わりに
美里がキレてくれて 
なんか ちょっとスッキリした


美里がいてくれたから 笑えた


No.62


次の日の夜 アタシは意を決して
祥平のアパートへ行った


裁判所にでも行くような気分だ

最も プチ裁判じみた話しをするつもりなんだけどね



去年のクリスマスに祥平が買ってくれた 
指輪を薬指につけて……

アタシのは ペアリングじゃない……







いつものように イチャつこうとしてくる祥平

アタシはそれをさり気なくかわしながら スノボの話題を振る

作り話しを 如何にもホントっぽく話す祥平に
真顔で真面目に言った



「……で?
本当は何処で、誰と、何してたの?」





アタシは 頭の中で

アーミー柄のトレンチコートを
静かに 羽織った









「ぇえっ……?ナニ言ってんだょぉ
ナニ不安になっちゃってんの~~?」



頭を撫でて誤魔化そうとするけど
動揺は隠しきれてない



「昨日、見たよ。エミと居るとこ」


「えっ……マジか!?
イヤ、違うんだよ!誤解だって!
エミチャンが買い物したいってぇ~から付き合っただけでさ!

琉那に変な心配かけたくなかったから
あえて言わなかっただけっつ~かぁ……」


「アタシの友達が何でアタシの彼氏に買い物付き合って貰うワケ?
てか、いつの間にケー番交換とかしてたワケ?」


「ゃ、それはさ、別にそうゆうつもりじゃなくて、流れでさ……

エミチャンも、ちょうど暇な友達居なかったから俺誘っただけみたぃだし?」


「わざわざアタシと会えないって言ってまで付き合ったんだ?
やっさしぃ~ねぇ~~~っ」





やっぱり誤魔化そうとするんだ

そりゃそぅか

でも 正直に謝るなら まだマシだと思ってたのに……


アタシはタバコに火をつけようとする
でも タバコもライターも 小刻みに震えてる

怒りのせいか ショックのせいか
ワカンナィ





「アタシケー番交換も、エミからも聞いてなぃし

てかさ、見たんだょ。
ペアリング買うとこも。見たから」


「ぁっ……」


「もうこれ以上言い訳しないで
正直に話してよ」



何か言おうとする祥平を制するように言った
どうせまだ言い訳しようとしてんだ
冗談じゃない





戦 闘 開 始


アタシの思考回路は

臨戦態勢に切り替わって

ピストルに 弾を込めた




No.63


「もう嘘はつかないでよ!
隠さないで正直に話して!全部!
ミカからも聞いたんだから。
解ってるんだからね!」



ミカはエミと共通の友達
ミカなら何か聞いてるだろぅと聞いたら
実は……とエミから相談されてたと言われた


そこまで詳しい話しは ミカも知らなかったけど
如何にも詳しく聞いたように見える様子で言ってやる



裏切ったのは祥平とエミだ

嘘吐きに ちょっと嘘混じりに言うくらい
全然マシな嘘だろう


ミカを巻き込んじゃうのは悪いけど

ミカだって アタシに隠してたんだ
裏切り者のエミの味方をして騙してたんだ



一体 何人の友達が

アタシを欺いてたんだろう……






祥平は 観念したように
エミとのコトを話し始めた……




始まりは 3ヶ月前

みんなで遊んだ時 アタシがトイレ行ってる間に
携帯交換を言ってきたのはエミ

琉那の友達だからと気軽にしたけど すぐに

『今度2人で遊ぼうね❤琉那にはヒミツだょ❤』

ってメールがきて
後ろめたくなってアタシには内緒にしたらしい


それでも その時点で断らなかったのは
俺も浮気心が生まれたからだと思う……
と 自ら認めた



それから ご飯に行ったり遊ぶようになって
最初は気持ちはほとんどなかったし
気晴らしみたいに思ってたらしい

身体の関係になったのは
1ヶ月くらい前



ちょうど アタシと 一年目の記念日あたり……

そんな時に……!?



身体の関係になって
ますます邪険にも出来なくなって
気持ちも強くなって……

昨日も ペアリングが欲しいとせがむエミに断り切れなくて
地元じゃなく都内なら安全だろうと
買いに行ったと……



しばらく 相づちと ちょっと質問するくらいで
静かに聞いてた





祥平と過ごした一年1ヶ月の間にあった


楽しかったコト……

嬉しかったコト……


いろんな思い出が蘇って

思い出の中の自分が幸せなら幸せな程

胸の痛みは 鋭く
氷のナイフで突き刺されるように
痛かった……



裏切られてるコトに まるで気付かなかった自分を

疑うコトすら忘れていて
それに幸せを感じてた自分を

心底バカだと思った





氷のナイフの痛みは
憎しみへと変わり
怒りの炎でナイフは溶け出した


今度は アタシが突き刺してやろうと思った



これより もっと 深く 痛く……

No.64


「寄りによってアタシの友達と……
てか、友達の彼氏とか エミもありぇねぇだろ……

ナンなんだよ!
アンタも!あのオンナもっ!!」





アタシは キレた

夜中近くなっていたにも関わらず
構わず大声を張り上げた


祥平は ちょっとビックリした顔をして
すぐにうつむいて
ゴメンナサイ……と繰り返した



「記念日の前なワケ?後なワケ!?」


「……ちょっと前……」


「あっそぉ~~~
じゃぁアンタは、アタシの友達を抱いておきながら

アタシに大切な記念日だねとか
アイシテルとか
ずっと一緒にいたいとか言って
アタシも抱いてたんだ!?

スゴィね!マジっすか!?
どんな神経してんだょテメェ!!」





思い浮かぶ限りの言葉で攻め

出来る限り最大限の悪態をつき

クッションを投げつけ


心のマシンガンを撃ち続けた







「本当に、本当にごめん……
でも、本気で好きなのは琉那だけなんだよ!
エミとは遊びだったんだ!
誘われなければ、浮気なんてしなかったよ!考えもしなかったよ!」


「はぁ?
琉那だけとかさぁ、そんなん信じろっての?
バッカじゃないの!?
信用出来るワケないじゃん」



「ホントだよ!気持ちは嘘なんかじゃない!
魔が差したってゆうか……
後戻り出来なくされたってゆうか……」


「ご丁寧に履歴もメールも消し続けたり
アリバイ工作までしたり
こんだけ嘘重ねて隠し続けてたヤツの言葉を信じるほど
アタシはバカじゃねぇんだよっ!

そんでフツゥ~にアタシと会って?ラブラブ気取り?
随分嘘が巧いんだねぇ~~?」


「だって……隠さなきゃと思ったし
琉那とのラブラブは唯したかったからだし
俺、マジで琉那が好きだから……」


「てか、もうどっちでもいいし

エミんとこ行きなよ」


「別れるって事……?」


「当たり前でしょ?」





祥平は ウルウルと目を濡らして
鼻を啜りだした
再び俯いて 鳴き声混じりで言う



「信じてよ……頼むよ……
別れたくなかったから
証拠消したり、隠し通してたんだよ……

エミとはもうマジ会わないし
もう終わりにするって言うよ」


「そんな必要ないし
エミと付き合ってやんなよ
アタシを裏切るくらい、アンタのコトが好きなんでしょ?」


「イヤだよ!エミと付き合いたくなんてねぇよ!
俺が一緒に居たいのは琉那なんだよ!」



No.65


アタシは 怒りを通り越して 呆れた



泣きたいのは アタシの方だよ
泣けば攻められないとでも思ってるワケ?

なんか アタシが酷いコトしてるみたいな気になるじゃん

でもここで
情に流されるワケにはいかない……!

優しくなんて してやらないんだから!






ワザと大きく溜め息をついて

「エミが可哀相……」

と呟く



別に本気で可哀相なんて思ってないけどね
ムカついてしょうがないくらいだ 

てか 友達の彼氏を誘惑するようなヤツ

友達なんかじゃない








真実なんて 確かめようがない


ヒトの気持ちは 見えない

だから ホントの意味で

確かめるなんて 出来ない



例え 全部ホントだとしても

アタシには 信用出来ない

許すコトも 出来ない



もし 今別れなかったとしても

これからも 疑い続けて

何かある度に

いや

何もなくても……だ



不安になり 心配になり

安心なんて 出来ない

信頼なんて 築けない



今までみたいに 幸せに

一緒にいるコトは

もう 出来ないだろう……








パパを ママを 思い出してた


この家庭環境で ずっと
ヒトを 特に オトコを

信用出来なくて
本気で好きになれなくて


やっと 本当にやっと だよ
祥平に出逢って
愛してるって気持ちになって

本当に 幸せだったんだ……



いや 
幸せだと 勘違いしてたんだよね……





結局さぁ……
信じた方が バカなんでしょ?

永遠に続く愛なんて ナイんでしょ?
ナイんだよ 何処にも……







家の外でも 幸せゴッコするなんて

そんなの 冗談じゃない

もう ウンザリだよ




No.66


アタシは 信じきっていた事を後悔した

祥平のコトを 運命のヒト

そう思ってたし 祥平もそう言ってた


そんな自分を 恥じるくらいに……





祥平は アタシの家庭の事情も 知ってた
信じるコトに躊躇する気持ちも 話してた

それなのに こんな裏切りをされたんだ





いくら弁解されても
もう全部 言い訳にしか聞こえなかった

これだけ嘘を重ねてきたヤツなんだ
また嘘言ってんだ と思えてしまうし
何がホントで何がウソだったのか疑問だ 



今まで祥平が くれた言葉 してくれた行動
アタシへの愛ってやつも


もう 何もかも 総てが
信用を喪っていた



純金だと思っていた指輪が

チープな鍍金だったんだと

気付いたみたいに……







必死な様子で話し続ける祥平を無視して
掴んでくる手を振り払いながら
自分の物をショップバックに詰め込んでいく





「本当にもうダメなの?
もう絶対会わないから!
今すぐエミに電話して言うから!」


「無理。
そんなコトしなくていい」



持ち帰る物と捨てる物を選びながら
振り向きもせずに 答える



「マジ俺がバカだったんだって!
もう一生琉那しか見ないから!
だから、考え直してよ!」


「そんなに別れたくないんなら
浮気なんてしなければよかったじゃん」


「違うんだよ……だって……
Hだって一回だけだよ?
たった一度の過ちじゃん」


「Hは一回だけ?
一回なら許されるとでも思ってんの!?
何回も連絡取って会ってたんでしょうが!!

アタシがどんだけ傷ついたか
アンタ解ってんの!?」



解ってるけど……でも……だって……
と 口ごもって
床に這いつくばるように
額をこすりつけるバカは 

廃棄処理決定



更に呆れたアタシは
捨ててく物をゴミ箱に投下して

薬指の指輪も外して
四つん這いになってる祥平の目の前で
ゴミ箱に落として捨てた



今 アンタも 棄てたから……








これが もう一つの
人間不信の理由





No.67


それ以来 アタシは更に

人間不信になり

恋愛を嫌煙した



本気になるなんで バカらしい
本気になったら 負けなんだ
そんな気すらしていた


てか 本気になる心配すらないくらい
アタシの恋愛は 薄っぺらいモノばかりだったけど



唯一の 祥平への愛情は


放心状態の思考と

震えた身体と

許せなかった終わりが

いつまでも 何処までも

本物だったと刻み込まれてた


おぞましいくらいに







だけど そろそろ
ちゃんとヒトを 好きになりたいと思ってた

だって いつだって
まるでオママゴトみたいに
ツマンナイ恋愛を繰り返して


結果は最悪だったけど
また 祥平の時みたいに
本気でスキになって
ちゃんと付き合ってみたいって
思うようになってた







今度は 裏切ったりしない

本当に アタシを愛してくれる

本物の 運命の相手に出逢いたい







そんな中に 現れた 旭

運命かもって思うトコもある

だけど やっぱり躊躇する

不安が頭の中を占領したがる





アタシは 臆病者だから……

ココロを閉じて 丸まりたくなるんだ

小さい頃の アタシのように……



もう あんなに辛い想いは
したくナイよ……



No.68

○流☆星☆群○






天空の双生児が

頂点に降り立ち

肩を組んだまま

羽衣を翻しながら

乱舞する時





星々は次々と 雨垂れを残して

地上に向かい 流れ落ちる







消える前に 願い事を唱えるから


どうか 叶えて欲しいのです


叶うはずも 無いのだけど








舞い踊る程に

羽衣の風はそよぎ

絹触りの優しさで

星を撫でると





まるで 地球に 

吸い込まれる様に


次々と 零れ落ちる 

小さな宇宙の原石





No.69


皆既月食から3日後の 12月14日

旭とふたご座流星群を観る約束をしていた



観測場所は月食を観たのと同じ公園
旭がお店まで迎えに来てくれる約束



お互い仕事だったけど
深夜2時がピークだから 余裕で間に合う

アタシの地元のあの公園は近くはないけど
綺麗に観えるだろうしってコトで





それに アタシにとって あの場所は
旭と運命的な再会を出来た
特別な場所になってた

だから 旭もあの岩の上がいいと言ってくれて
すごく嬉しかった







手早く仕事の後片付けをして旭に電話すると
もう着いてて待ってくれてたと知り
足早にお店を出る





「お待たせ!ごめんね」


「ううん、俺早めに上がれたからさ
琉那が終わったらすぐ出れるようにと思って早く来ただけだよ」


「ぁりがとう~~!
てか、2日ぶり?」


「うん、2日ぶりだね」





またすぐに会えて嬉しかった

お互い笑顔で 楽しい会話が続く車内で
やっぱり 旭と一緒にいると楽しいし
嬉しくなるって感じる





とりあえず 夕ご飯を食べに行ってから
公園へと向かった








深夜ちょうどくらいに公園に着いた
ピークまで まだ2時間近くある



とりあえず車の外に出て
しばらく眺めてみると
たまに流れ星が流れるって程度だった





「どうしようか
今からずっと外に居ても、冷えちゃうよね?」


「そうだよね
今日はこないだより寒い気がするし」


「岩の上に行くのはもう少したってからにして
今はまだ車の中にいよう

琉那が冷えちゃうとイヤだから」



最後の優しい一言に
思わず笑顔になっちゃう!

満面の笑みで ぁりがとうって言って
アタシ達は車の中に戻った




No.70


車の中でいろいろな話しをした

基本的にアタシ達の会話は
旭が喋ってアタシが聞き役になるのが多い

アタシ自身もその方が何かとイイから
こうゆう会話の仕方もアタシにとっては
楽しく話せる事に繋がっていた




ズルいかもしれない

でも アタシには
知られたくナイ事が
きっと 多いから





日常的な些細な事も
旭に影響があった大きな事も

今までより 深い話しもたくさんしてくれて
旭をより深く知る事が出来た

旭が話してくれる その分だけ
アタシ達の仲も深まっていってるような気がした







時間がたち 少し流れ星が増えてきた頃
フロントガラス越しに空を覗き込んで見ていた旭が言った


「もうそろそろ外に出てみようか」

「そうだね、行ってみよう」





旭はブランケットを持ってくれて
この前皆既月食を観た時と同じ場所
洞窟の岩の上を目指して歩き出した

No.71


岩の上に立ち 空を見上げる



風と共に流れる少し乾いた匂いがして
でもそれは
苦しくなるような匂いじゃなくて

自然から生まれる
土や植物、息吹の在る風だった




「ぁっ」

お互い小さな声をあげて
満天の星空を指差す



見逃してしまいそうな 小さな短い流星

一色の虹のような形に 流れる流星

雫が流れ落ちるように 垂直な流星



大小様々だけど
かなり頻繁になってきた





「ここに座ろうか」

旭は 皆既月食を観た時と同じ場所を差し示す


「うん、あの時と同じだね」


穏やかに笑いながら ァタシは膝を抱えて座る


「違うよ。あの時とは」

「ぇっ?そうだっけ?確か……」


自分の居る場所からの景色や枯れ木の位置を
キョロキョロと確認しながら言うと
旭が隣に座りながら言った


「あの時と違うのは、俺と琉那だよ」

「確かにぃ~~」


いつものように明るく言うァタシの横
今までで 一番近い すぐ隣に座って
同じように膝を抱えた旭は
ァタシの足の上にブランケットをかけてくれた



もう夜空を見上げてはいない


真っ直ぐに ァタシを視ていた






「こんな時に何だけど……
いや、今、だからかな……
琉那に話したい事があるんだ」


街灯のぁまり届かない暗闇の中で
旭の潤いのある瞳が 光ってた




ァタシは 何に対してかもよく解らないけど

何だか 覚悟をする気持ちで



旭の話しを聞こうと

唯 旭の瞳を見つめ返して

静かに頷いた

No.72


ちょっと覚悟が必要なような
ちゃんと聞こうと思ったのは

だんだん旭の事が解ってきたから……






旭は太陽みたい

そう思っていた



でも 太陽よりも
満月に近いんだと

最近気付いたんだ





世界中を照らすような光の強さじゃなくて

仄の明るくて
優しくて暖かい月光



弱くても 強く届くようにと
祈るような光は

どことなく 寂しいような青白い光も 
何となく 感じていたんだ





ァタシはか細い三日月

不安定なバランスで
かなり頼りない月


ぶら下がったらポッキリと折れて
落っこちてしまいそうだ



行き先を明るく照らせるような
輝く光は放てなくて


静かに ひっそりと
暗闇に 浮かんでるだけなんだ







そんな事を感じてたから



旭の事を 太陽みたい から
満月の月みたい に
イメージが変わった理由が


きっと 今から話してくれる事で
解るような気がした



それは きっと
旭にとっての 大きなお話し……


No.73


旭は 一つ深呼吸をしてから 話し始めた





「俺さ、実は、実はね……」

「……うん」

「トラウマみたいなもんがあって……
その理由は、友達とその時の彼女の嘘と裏切りなんだ」

「……ぇっ?」





ァタシは驚いた

まさか旭もァタシと同じような事を
された事があるとは思っていなかったから





その内容も 似ていた



高3から付き合った彼女
名前は『ルカ』微妙な事にルナと一時違いだ

結婚して支えたいと思うくらいに好きになって
結婚しようってお互いに言っていた

早く結婚したかったから進学はせずに就職
激務に追われて疲れてても会う時間を作ったり
自炊して節約をしたりして
旭は数年付き合いながらお金を貯めていった

夢を現実に出来るだけの
安心出来るリアリティーと証明を作っていってたんだ





二十歳になった時
いざ ちゃんとプロポーズしたら

答えはNO 



NOの理由は

「私は学校に行って自由や新しい仲間や遊びが出来て楽しみたい中
旭は仕事ばかりで、会える時間も減ってたし
『節約節約』ってケチっぽく思えた
だから会う回数も余計減った

今は一人に縛られるより遊びたいから
付き合ってはいられるけど
結婚はまだ出来ない」

だったそうだ



「誘っても課題が忙しいとか言ってルカも断ってたじゃん」

とツッコんだら
実は、その半分くらいは友達と遊んでいたと……

彼女とは共通の友達が何人か居て
その子達と新しい友達と遊んでるのが殆どだったと





「俺は一生懸命、彼女との約束を守ろうと、実現しようとしてたし
近付けてるつもりだった
でも、彼女にとっては、俺達は遠くなってってたんだ」



友達にも一緒に遊んでる事を隠されてて
一気に裏切られた気分になって
旭は気が治まらないのと
かなり沈んだから相談したかったのとで
親友に電話をかけた と言った


No.74


「親友はさ、勿論、オレが結婚する気でいる事も
それなりに頑張ってる事も知ってたよ」

「うん、マジだったんだね……
就職は大変だもんね」



聞いてる程 ますます自分のされた浮気を思い出す
まかさ…… と 鼓動がはやくなってしてしまう







旭は親友に電話をかけて言った


「ルカから聞いたよ
プロポーズしたら、見事にフラれてさ~~~!
それで、お前達が俺に黙って……」


話してる最中に親友が


「ぁあ~~~……話したんか、アイツ……

あぁ、その、悪いな。マジで

マジ、最初はそうゆうつもりなかったんだけどさ
俺もけっこーテキトーだったしな」

「あぁ、まぁ、しょうがなぃよな。結婚てなると、まだ早いは早いし
でも正直、ショックだよ
特にお前にはそうゆう話しもしてたんだからさ
隠されて分かるより、教えてくれれば良かったのにって思うし」

「ぃゃぁ~~~言えねぇだろ!親友の彼女だぜ?
俺だって罪悪感くらいあるしよぉ
それに、今は、テキトーじゃねぇっつぅか……
まぁそれもルカに聞いただろぅけど」



……? なんか 話しが違う方向な気がすると思いながら聞いてると

親友は 決定的な一言を口にしたそうだ



「まぁ、なんだ、ルカも
近いうちに言うとは言ってたけど
けっこーいきなりだけどさ、俺としては。
でも、受け入れる気持ちはあるからよ

オマエにはホントわりぃことしちゃったけど……
ルカとテキトーに付き合う気はねぇから、そこは安心してくれょ」



「……っぇっ?
オマエらが付き合って事!?」




最悪だ………っ!!!



No.75


親友の話しによると

親友と彼女は よく一緒に遊ぶうちに
まぁ 友達以上恋人未満の関係になり……



旭の彼女は

「近いうちに旭に正直に話して別れるから付き合おう」

と言ってらしい



だから もう別れていて
彼女より先に旭から連絡が来たんだ
と思ってたみたいだった



だから ぶっちゃけた話しをしたら
旭にとっては

「それは聞いてないし、別れてもいない
結婚は今は出来ないから付き合ってるままでいようと言われた」

な訳で……

3人の話しが 完全に噛み合っていなかった





「マジかよ……」

2人の男は お互いにそう漏らして 暫し沈黙をした


彼女は彼らが思っていた程も
ちゃんとしてなかったって事になる



こうなってしまうと
一体どっちが本命なのかすら
この時点では不明だ





「アイツ、どうするつもりなんだろうなぁ……」

最早 ショックを通り越した
冷静な口調で旭は言って

「ホントだょなぁ、何考えてんだろ
つぅか、何なんだろ~~!」

親友も溜め息混じりだけど強い口調でぶつけるように言ったらしい



この話しはとにかく 本人に聞こうとゆう事で
その時は終わったと




旭はァタシに静かに言った

「ショックとかより
意味が分かんなかったし
そうゆう子だっだって……
信じてたのがバカバカしく思えた
仕事頑張ってきた事も
専門行きたいの蹴って就職したのも
意味なかったのかよってさ……」


No.76


翌日 3人で話し合い
彼女は 旭が本命だ とぶっちゃけたらしいけど

旭にはもう 気持ちが殆どなくなっていて
「付き合い続ける事は出来ない 」 と
お別れを申し出たそうだ


親友も 罪悪感と 彼女の旭を選んだ言葉と態度に
もう
「付き合う気持ちにはなれない」
と言い

二兎を追う者は一兎をも得ず

となったワけだ




そろから旭はすぐに、専門学校に入って、銀細工の勉強をして
アクセサリーショップや今のお店バイトをしながら学び
そのまま就職をしたんだとゆう事だった





「辛かったね、旭。」
いつの間にか 繋いでだ手の温もりに
少し力を込めて アタシは言った



増え続けるような流星群を眺めながら
アタシも 決心をした





「アタシも、同じような事があったの。
聞いてくれる?」




アタシも 親友と浮気をされた事や
それからちょっと男性不信とゆうか
信用するのが難しくなっていた事を話した





旭は 優しく抱きしめてくれた

「なんとなく、琉那には話そうって思った
解ってくれるような気もしてたんだ
そう思った意味が、今解った」






風と共に流れる乾いたた息吹の風は

お互いの胸の中に流れる雫を
乾かしてくれるように感じられた

その雫がシンクロして
混ざり合える時
お互いの瞳から雫は零れ落ちて
スリヨセタ頬で
一つの雫となって
溶け合える



息吹の風に雫は乾いていく

心は渇くんじゃなくて 
潤いを増してる気がした





アタシは きっと

見つけたんだ やっと



もう一人の 自分じゃない 自分を

No.77


優しく抱き締め合いながら空を見上げると
今までで一番多いくらいの流星が流れ落ちていた



ピークの2時は過ぎていたけど
実際のピークは2:30くらぃみたいだった

なんていいタイミングなんだろう
空はアタシの味方なんじゃないかと思いたいくらいだ




アタシと旭は抱き締め合ったまま
流星群を見上げてた

密着度を増して 
より暖かく 心地良い体温を感じる



アタシの想い

旭の想い

煌めき宇宙



それら総てが一体化して
土の上から夜空の中へ
ゆっくりと螺旋を描きながら
舞い昇ってるような気がした



まるで 宇宙全体からの祝福の流星シャワーを
浴びてるような気分





何も言わない旭
何も言わないアタシ

言葉なんて要らない





皆既月食の時に感じたのと同じように
この宇宙に 今存在するのは
旭とアタシの2人きりのような気持ちになっていた

No.78


流れ星もだんだん減ってきた
2時ピークと聞いていたけど、実際のピークは2時30分くらぃだったみたい


「そろそろ行こうかかなり冷えてきたし」


旭の言葉に くっついていたァタシ達は離れた

それが少し寂しく感じけど
旭は直ぐに手をにぎってくれたから
また暖かい気持ちになれた





そのまま 「付き合うのかどうか」 の話しはしないままで
車はァタシのマンションの方へと向かった言った




どうしよう どうするんだろう


他愛もない話しをしてる中で

これは両想いなんだろうとか

でもまた誰かと付き合う気持ちにはまだなれないのかなとか

ァタシから言い出すのも微妙かなとか


いろんな事を考えていた

No.79


いくら 運命的に感じるところがあっても

運命なのかどうなのか 確認のしようもない

第一 運命って本当に存在するのだろうか



ァタシは 与えられたらパズルのピースを
自分の願望や都合に良く当てはめていってるだけかもしれない……

でも 旭の行動や言葉は
紛れもなく現実の事で

事実 今日も一緒に流星群を2人きりで見て
助手席に座ってる



焦ってるのかな?ァタシ

何も、今答えを決めなきゃいけないワケじゃない
旭もそう思ってるんじゃないかな





様々な事をの中でグルグル考えてると
あと数分でァタシのマンションに着く距離になっていた



これは カケだな 時間も時間だけど




ァタシは 「マンションに上がってって」
と言ってみる事にした

No.80

>> 79
2人を乗せた車が マンションの前に着いた

それから少しだけ車内で話をしていた

ァタシはその中で
「上がってって」
の一言を 言い逃してしまった……

言いにくい雰囲気とかじゃないんだけど
なんか 旭に変な意味にとられるのもィャだし

なんだかィロィロ考えてしまう



「ぁりがとう。じゃぁ、きをつけてね」

静かにドアを閉めて
旭は手を振りながら走り去って行った……



こうやって 手を振って車を見送るのは
なんだか セツない……





今まで告られてばかりだったけど
自分から告るのに抵抗がぁる訳でもない

久々の本気の恋に 不安を感じたり
躊躇する気持ちもある



でも、なかなか前進する為の一歩の言葉を
自分から言い出せないのには

もうひとつ 理由があった……


No.81


暗い室内に間接照明だけで灯りを灯す

琉那はそのままソファーの上に倒れ込むように寝転がった
暫くそのまま動かないままだ



その顔は
嬉しさと 寂しさと そして何よりも
迷いが
色濃く浮かんでいた


仰向けになり、薄暗い天井を見つめるその眼には
様々な思いのスクリーンが広がっているのだろう



暫くそうしてから 起き上がり、煙草に火をつける
そしてまた何かを考え込むようにぼ~~~っとしながら
白い煙がくゆりながら昇り行くのを眺めていた





それから、思い立ったようにクローゼットを開き
ルームウェアや下着を持つと、バスルームへと向かった



琉那は、シャワーを浴びながら
髪や身体の汚れと共に
疲れや寒さ
それに、心の汚れも洗い流すように
ゴシゴシと念入りに洗い続けた


No.82


お風呂上がりのスキンケアやヘアケアを済ませた琉那は
再び考え込むようにぼ~っとしていた







安心して 満たされると

この両手に もっと欲しいと
欲張りになって 求めて

きっと そのうちに

溢れて零れ落ちてしまう



アタシは卑しい







幸せに 包み込まれると

その 包み込んでくれてる
優しくて 柔らかな 羽根が

無くなってしまわないか

不安になっていく



アタシは臆病者







だから旭とこれ以上の関係になる事に躊躇してる

だけど 他にも躊躇する事があった







暫くしてから、ゆっくりと立ち上がり
ベットサイドのチェストからゴソゴソと何かを取り出す



その手に握られていたのは
緑色をした丸っこい何か……





それは マリファナだった

No.84


琉那がマリファナを初めて吸ったのは
18歳の頃だった



きっかけは麻美
とゆうよりも あのclub astrayだった

astrayのオーナーはclub経営だけじゃなく、クスリの売人もやっている
恋人のような存在の麻美は いつでも無料で
好きな物を貰える

麻美が一緒に居ない時でも
麻美の友達である琉那も無料で貰える



そんなお手軽な環境に居て
次第に量や回数が増え
マリファナ以外の物も使うようになっていった





ピークは二十歳の頃
毎日何かしらをやっていた

astrayで
公園で
車の中で
友達の家で
実家で
マンションで



まるでドラッグを使う事が当たり前の事のようになっていた琉那は
完全にヘビーユーザーだった





今は週2、3回くらいに減ったけど
それでも少ないとは言えない回数だ





マリファナは身体的依存がないけど
精神的依存がある

他のクスリは 中毒になる程の量ややり方をしてないから
減らす事はそれ程困難ではなかったけど
マリファナ特有の多幸感や心地よさからは
なかなか離れられずにいた



マリファナ以外のドラッグも
使う時があるし
最近のモノはどんどん品質が落ちていて
合法ハーブ つまり脱法ハーブ等にも手を出していた



それも astrayのオーナーのアドバイスとゆうか
悪いアドバイスのお陰様だ



astrayに居る時、アルコールだけの時もあるけど
ドラッグを使っている時の方が多かった





旭は 勿論 その事実を知らない


……旭はこうゆうのやってるタイプじゃないもんね……



それが 躊躇する大きな原因になっていた





ちなみに、旭と出会った時はノードラックで
アルコールだけだった

No.85


琉那はパイプにマリファナを入れる

火を点けて深く吸い込み

出来るだけ息を止めてから吐き出す

それを繰り返す





旭と出会って生まれた罪悪感のような気持ちと
心地よさを求める気持ちとで
迷いながら、揺らぎながらも

火がつかなくなり燃えなくなるまで吸い続けた







……あんまり悪い方に考えすぎてバッドに入ったらイヤだな……
楽しい方に考えよう……





静かだった室内に、明るいヒップホップの曲を流して
気持ちをアップさせていく

それから
旭と過ごした楽しい時間や
嬉しい気持ちになれた事を考えるようにした



出会った日のシンクロ感

再会の運命を感じたあの時

今日過ごした温もり……





気怠い気持ち良さと
渦巻くように身体に響く音に
揺られるまま身を任せて

その世界に自分を浸し
ふんわり笑ったまま
目を閉じる



陶酔状態のまま
ベットへ倒れ込むように横たわった

No.86


翌日の夜 琉那はastrayに居た
爆音のプログレが流れる中、麻美と莉央と3人でVIPルームへ向かう
麻美のお陰でいつでも出入り自由だ



clubのVIPルームは出演のDJや友達
イベントのオーガナイザー(主催者)や関係者、その友達などが入れる特別ルームのようなもので、
フロアーに人が多い時でもここならゆっくり出来る



でも琉那達、と言うより、麻美達が行くのは
もうひとつのVIPルーム

オーナー専用のVIPルームだった

通常のVIPルームと違い、出入り出来る人間はかなり限られている
ゆっくりゆったり過ごせるだけではなく


オーナー専用VIPルーム=何かをキメる

ほぼそんな感じでその部屋は使われていた



普通の来客は、フロアーやトイレでキメる人も勿論居るし
琉那達も別のclub友達と居たりすると、そうゆう時もあるけど

やっぱりVIPルームは私服警官とか気にしなくていいから
安全だし、安心してキメられる場所だ

そして、一目を気にせずブッ飛べる





莉央が麻美に問いかける

「今日は何キメるのかなぁ」

「さぁ?行ってみれば分かるよ」

ニコリ、とゆうよりニヤリ、と笑いながら
麻美が莉央と琉那を振り返って見た

麻美はドラッグが大好きだ
今でも毎日のように何かをしていた

No.87


麻美がVIPルームのドアを開ける

「来たぉ~~~ん」

手を上げながらルーム内に入る


「どぉ~~も」
「ぉはでぇす」

琉那と莉央も軽い感じでご挨拶する


「おう、いらっしゃぁい!まぁ座って座って」

オーナーが待ちかねていたように
3人をソファーへ促す



それは高級な物で、適度にふんわりする座り心地がいいソファーだ

その部屋は6畳程の決して広くはない部屋だけど
通常のVIPルームより何倍もお金をかけているであろう
ソファーもテーブルも絨毯も
置かれている物の何もかもが、高級感を伺わせる





オーナーはすかさずバックに手を入れ、ゴソゴソと何かを探している



「今日はねぇ~~~、これだ!」



オーナーが言うのと同時にテーブルに置いたのは
正方形に近い長四角のパッケージ
絵と銘柄が書いてあるシールが貼られている





それは合法ハーブだった

合法と言っても名ばかりで規制をくぐり抜けた科学成分で造られているから
中身の成分も特定出来ない、何が入っているか分からない物だ


質の悪いドラッグと比べたら
どのくらい身体に負担がかかり
脳や身体を蝕むのだろう

どっちの方が悪魔のしっぽを持つような副作用がマシなんだろう……

No.88


「今日はハーブの日かぁ~~」

合法ハーブのパッケージを手に取りながら麻美が言う

「そうなんだよ。今さぁ、ケミがいいモノなくてさぁ、だったらハーブの方がいいくらいなんだよ~~。
混ぜモン多かったりとかでさぁ~~」

「まぁそぅだよねぇぇ~~~」


おもむろにパックを空け
オーナーが、これはなんて名前で吸うとこんな感じで
とか説明してる中
とりあえずみんなで匂いを嗅いでみる



見た目は細かいマリファナみたいな葉っぱだけど
合法ハーブの匂いは完全にケミカルの匂いがする

得体の知れない何かの葉っぱに
科学合成の粉をまぶしたり染み込ませたりしているらしい





それでも手を伸ばすアタシ達はやっぱりジャンキーなんだ

まぁ覚醒剤やコークだって
何がどうなって何が入ってるかなんて
信用ならない世の中だけど





オーナーがパイプに葉っぱを詰めて麻美に渡す
麻美から琉那へ、琉那から莉央へ
莉央からオーナーにパイプを回す



昔の合法と違って、今の合法ハーブは、一口、二口で十分な効果が得られる

正直、本物のマリファナより少量でブッ飛んでキマル

葉っぱを詰め替えて2周回した頃、琉那と莉央は
既に効きがきてて
酩酊状態へと入っていった



オーナーと麻美はドラッグ慣れしてるから
まだ吸い続けてる





みんなで話す笑い話しがいつもより笑える
全員何がおかしいのか分からなくなるくらい笑いまくる

その楽しさと
フロアーから響いてくる音に持ってかれて
いい気分になっている



飲み物を飲みながら
タバコを吸いながら
1時間くらいその状態を楽しんでると

琉那の携帯が鳴った

No.89


見てみると、旭からの着信だ

「ぁっ!旭だ!……どうしよう」

追い焚きもしてた琉那は、果たして今マトモに話せるのか
ちょっと自信がない



「なんか変な様子とか勘ぐられても微妙だから、今は出ない方がィィんじゃなぃ?」



旭はアタシがドラッグやってるの知らないし
やるタイプでもないから……
とゆう話しを聞いていた2人は
念の為にストップをかける



「そぉだよねぇ~~今話すのは流石にチッとやばそうだょ」



琉那は電話が鳴り終わるのを待ち
かけ直しはせずに
メールを打つことにした

それでも、文章を作るには一苦労だ;



「こんばんはぁ🌙どぉしたの❓☺今アタシastrayにいて
音デカいから💌にしたょ」


短い文章を打つのにも、いつもより時間がかかる



その間みんなは

「がんばれぇ~~~シラフを装え~~~ぇ」

と、面白半分に応援してくれる(笑)



やっと送信ボタンを押して、一息つく琉那



旭から返信が入る

「俺も今からastrayに行こうと思ってて、📱したんだ!
まだ友達と待ち合わせてる最中なんだけど
会えるかな❓✨」



会う!?
会いたい でも
こんな状態で会ってバレないのかな!?



再び、どうしようと言ってる最中、麻美からアドバイスが入る

「とりあえずさ、まだ来るには時間もちょっとかかるみたぃだし、
旭が来てからも、今VIPに居るからそのうちに行くねってすればょくない?」



確かにそれが一番良さそうな切り抜け方だから
そうする事にして、返信を送った



「じゃ、もぅちょいしたら、コレ飲みなよ」

オーナーが安定剤をくれた

キメてる時に終わらせたい時とかに
安定剤を飲んで落ち着かせるのはいい方法だ

No.90


安定剤は キマリ過ぎたり、バッドになっちゃった時にも使える


旭から返信がきた

『わかったぁ😃とりあえず着いたらまた💌するね✨』

『ぅん😃きをつけて来てね』



旭とのメールも無事に終えて、もぅちょっと楽しみ
少ししてから安定剤を飲む


あとはお酒を呑んでる事にすればいい




そのうちに旭からメールがきて


琉那はみんなに
かお大丈夫?
ピヨってない?
と確認してから、みんなに言った

「じゃぁちょっとリアル世界に行ってくるゎぁ~~~」

「行ってらっしゃぁ~~い
うちらはもうちょいあそんでるゎ」



みんなにバイバイと手をふられながら
ルームを出て行った



確認はしたものの、このハーブ
とゆうより最近のハーブはは強いから
内心心配だった



琉那が出て行った後、麻美は言った

「旭くんもやればィィのにねぇ~~こうゆうの」

「まぁねぇ~~それが一番琉那にとってもうちらにとってもィィ事だけど
やってる事自体がょくない事だかんね、一応」


そりゃそうだぁ~~~うちらはダメダメだかんねぇ~~~
と3人は笑い転げた


脱法ハーブやパウダーは、ニュースになる事も多くなり
決して身体や脳にいいモノではない事は
みんな分かっている

でも、こんくらいのやり方と量なら
そこまでダメージないでしょうともタカをくくっていた



No.91


実際、ニュースになるような何かやらかした人達は
軽い考えだったり
よく分かってないままヤリすぎたり
上を求めて行き過ぎたりして
コントロールが効かず、自分を見失ってるような内容の事件ばかりだった





行き過ぎたらヤバいのは

合法でも非合法でも同じ事だ



一歩間違えば

病院送りになるか
事件になるか
おかしくなるか
死に繋がるか……

後遺症だって残る
これらは、そんな物なのだ



それを分かっていながらも、琉那達はドラッグに手を伸ばす
分かってると言っても、軽視している事も
間違いなかった



その甘さには
散々、覚醒剤やMDMAやLSDや合法ドラッグををしょっちゅうやっていたのに
結婚してマトモな子供を産んでる子が普通に居る事もある

「脳や身体に悪いと言ってもその程度」

そんな考えをみんなしている



一口に合法ドラッグと言っても
ハーブ、パウダー、リキッドなど
色々な種類があり
商品数も色々なモノがある

一つ一つ、副作用があり
それには脳を一度壊したら再生しないような成分も含まれている



合法ドラッグと言っても、所詮は脱法ドラッグ
法律から逃げ、規制された成分を避け
少しずつ成分を変えて潜り抜けてるだけで
規制が進めば進む程、身体や脳への負担も強くなっているのが実際の事



そんなモノを、旭に勧める気にならなかった

だから琉那は、旭を取り込もうともしないし
ドラッグをしている事を、知られたくはなかったのだ


No.92


お酒を呑んでると思われる為に注文したノンアルコールのカシスオレンジを受け取った琉那は、
チルアウトのソファーで待つ旭を見つけて手を振った

旭の友達も一緒に居る





「旭!お待たせ~~~。こんばんはぁ」

旭の友達に笑顔で軽く頭を下げる

内心、変なかおしてないかな!?おかしいと思われたらどうしよう!
と、ドキドキしている



「俺らもさっきここ着いたばっかだよ。
こいつ、健一。琉那と初めて会った時一緒に来てたヤツなんだ」

「旭からよく話しには聞いてたよ。よろしくね、琉那ちゃん」
「よろしくね~~」

握手を交わす琉那と健一
と同時に旭が言う

「よくって……!そんなに色々話してないだろ~?」

照れたように焦り気味の旭に琉那がツッコむ

「ぇえ~~~何を話してたのかなぁ?」

「何でもないよ。別に、お前とclub行った時に知り合ったとか、偶然再会したとか、そんな感じ!」

「うんうん、そんな感じだなぁ!」

健一はニヤニヤしながら言う

「そんな感じかぁ」

笑いながら期待混じりで琉那は言った
全然大丈夫そうな様子の自分にも安心した
笑顔でばかりいるのも
そう可笑しい事ではない
酔ってると思われていれば尚更だ



旭をくすぐるような笑い話しは、琉那もくすぐったくなるような気持ちになる





チルアウトで少しお喋りをしてから
3人はメインフロアーに行く事にした

メインに向かいながら旭が問い掛けた

「てかさ、友達は大丈夫なの?」

「うん、今日はVIPでゆっくり過ごすって言ってたから。
気が向いたら、出てくるんじゃん?」

「そっか。それなら大丈夫か、良かった」



こんな風に自分の友達の事も気にかけてくれる
そこも旭にひかれる理由である

No.93


今夜は人気DJが来る事もあり
ちょっと混みぎみのメインフロアーで3人で踊る



健一にも琉那の踊りは好評で、褒めちぎられていた

勿論、褒められて悪い気はしない、ハーブの効果もあって
いつになくハイテンションになる



そして、初めて出会った日のように
旭とセッションをする
club初心者とは思えない踊りに
琉那は一層魅了されてしまう



やっぱり旭と踊るのは楽しい……!
琉那はまたそう感じていたし、旭も同じだった
旭もまた、琉那のテンポのいいしなやかな踊りに魅了されていた




2人のセッションに健一も加わり、3人で小さな円を描いて
笑い合いながら、時々お喋りもしながら
3人は何曲か踊り続けた





そこへ、麻美と莉央がやって来た
ポン、と琉那の肩を叩き、琉那が2人に気づく

爆音の中、琉那は旭と健一に麻美と莉央を紹介する

4人は握手をして、みんなで踊り始めた






もう、殆どハーブが抜けている様子の麻美に
一応琉那が問い掛ける

「2人とも今シラフ?」

「ほぼシラフってるょ!だぁいじょぶだょ~~~!旭くんにバレるような様子で来たりしなぃよ!」


ポンポンと琉那の背中を叩く


「あの後、パウダーもスニったけど、もう抜けてるしね。
もうすぐメインLIVEだし
とりあえず楽しもぉ~~~!」

莉央も笑顔で話しかけてくる



パウダーをスニるとは、コークのように脱法ケミカル、
パウダーをスニフと言って、鼻から吸う事



「ぅん!踊ろぉ~~~!」

再びみんなで踊り出す


No.94


大盛り上がりのメインLIVEも終わり、休む事になった

フロアーのテーブルに行き、みんなで
「はぁ~~~っ」と椅子に座る


みんなでたわいもない話しをしながらフロアーを見渡す

「今日マジ混んでるね」

「そだね、でも人気LIVEも終わったし
明日早い人とか帰るからだいぶハケるんじゃん?」

「だねぇ~~っ」



そこに健一が話しかける

「みんなVIPに居たって言ってたけど、そこって俺らは入れないの?」

「おい健一、それは図々しいだろぅ」

旭が牽制に入る

「ぁあ~~、今さぁ、オーナー帰っちゃったから、もう入れないんだよね~~
ごめんねぇ~~~」

麻美が答える

「そっかぁ、VIPて入った事ないから興味あってさ
そりゃ残念だけどしょうがない」

「また今度、機会あったらね」

にっこりと麻美が返す





オーナーは実際、もうastrayから出て行っていた

でもVIPルームに2人を連れて行けない理由は
他にもあった



しょっちゅう何かキメるのにつかってるあの部屋は
換気扇がついてると言っても
マリファナ臭やケミ臭い匂いが染み付いている



オーナーなら多分、琉那の友達って事で
入室をO.K.してくれるけど
アンチドラッグな子だと、多分微妙……



しかも、ちょっと前までやってたんだから
尚更、2人をルーム内に入れられなかった





メインが終わったせいか、さっきよりかなり人が減っていってた

爆音の中ではあるけど、話しやすくはなった
みんなそのままドリンクを飲みながら暫く話す事になった

No.95


すると、琉那の隣に座ってる旭が琉那に話しかけた



「琉那、クリスマスとイブは予定あるの?仕事」

「ぁ~イブは早番でクリスマスは遅番だょ。
予約もぁるけど、駆け込みのお客様が来たりするから彼氏居る子が休み優先なの。
まだ何も予定決めてないょ~~」


もしかして、お誘い!?と内心ドキドキだった

「俺もイブは早番なんだ。クリスマスは休み貰えたんだけど
……良かったら、イブ一緒に過ごさない?」


やっぱり!!!
と琉那は心の中で飛び跳ねた!

「ぃぃょぉ~~!予定入って良かったぁ!」



旭はクリスマス休みかぁ
アタシも休みだったらなぁ~~ってちょっと思う琉那

クリスマスシーズンはネイルの予約も増える
琉那のお店は人数もいるし、それ程バタバタしなくてすみそうだ
ちょうど土日がクリスマスなので、イブの予約が多かった


残業にならず早番の時間で上がれるかどうかで
旭と過ごせる時間も決まる



琉那のテンションは踊ってる時と同じくらいになっている



そのままみんなの話しは盛り上がり
もう一度フロアーへ出て踊ってからバイバイした


No.96


ドラッグをやってる事がバレないか……
ケミ臭い匂いが自分からしてないか……
しょっちゅうそれを気にしていた琉那にとって

クリスマスのお誘いは
予想外のクリスマスプレゼントとなった





その後日、電話をして、イブは大規模なイルミネーションを見に行く事に決まった

イルミネーションが大好きで旭が大好きな琉那にとって
それは楽しみで仕方ない1日となっている







そして、イブ当日

きっちり早番で上がれた琉那と旭は、イルミネーション会場へと向かった

色とりどりのかなりの数の電球で彩られたイルミネーションは

花や動物の形をしていたり
一面のイルミネーション畑になっていたり

煌びやかで美しい広々とした光のアートは
非日常を感じさせて、仕事の疲れなんて吹っ飛んでいった


音楽に合わせて色や形が変わるイルミネーションもあり
2人は踊り出す寸前なくらいにハイテンションでイルミネーションを楽しんでいる



広い会場をゆっくり歩いたり、立ち止まって眺めたり、写メを撮ったりしてると
思っていたより時間がかかっていた

特にどこでと決めていなかった夕食は、会場内のレストランで食べる事にした

No.97


会場はかなり寒かったけど、レストラン内は暖かい
冷たい風に吹かれて冷えた身体は、みるみる温もりを取り戻した

バッチリ防寒対策をしていた琉那は
毛糸の帽子と白いダウンコートを脱ぐ
旭も厚手の黒いトレンチコートを脱いだ



まずはオーダーをして
イルミネーションの話しで盛り上がる2人



「あの音楽に合わせて点灯するやつ!スゴイ良かったね!」

「うん!俺はあれが一番好きだなぁ~~」

「アタシも~~!あっでも、ハート型のイルミもかなり好きだなぁ~~」

「ここに来て良かったね」

「うん!旭が選んで連れてきてくれたおかげだよ!ぁりがとうね」

「良かった!琉那が喜んでくれて……!
ちょっと遠かったけど、めちゃくちゃ来た甲斐があったよ」


2人の話は尽きない





家族連れやカップルが大多数で賑わう会場で、レストラン内で
2人は周りからみたら、どう見ても付き合って見える2人

だけど、付き合ってはいない2人……



その2人の関係は、帰りに変化する事となった

No.98


帰りはもう深夜近くなっていた

琉那を送って、マンションの前で

「ちょっと待ってて」

と、トランクに向かい、何かを出してきた





それは、クリスマスプレゼントだった!

「えっ?もらってもいいの?」

プレゼントを貰えると思っていなかった琉那は
驚いた様子で旭に問いかける



リボンをほどき、綺麗な包装を開ける

プレゼントは、旭が造ったオパールを使ったブレスレットだった

アメジストが3個づつ並ぶ真ん中に
キラキラ光る大きなオパールは
華やかに存在感を示していた



「スゴイ綺麗!ぁりがとう、旭!サイズもピッタリだょ」

琉那は感激していた



それから、琉那もバックから旭へのプレゼントを取り出して渡しながら言った

「実は、ァタシもあるんだ、旭にクリスマスプレゼント!」

「えっ!マジで!?」



琉那が旭にプレゼントしたのは
ストールだった



「旭はアクセサリーは自分で造れるし、どうしようか悩んだんだけど
ストールなら色々使い方もぁるし、寒い時期だからいいかと思って」

「ぉお~~カッコイイじゃん!マジぁりがとう!いっぱい使うよ」



旭も早速ストールを巻く

付き合ってもいないのに、流石に手作りマフラーとかそんなのにはならないけど
ネイビーブルーとブラックの生地を使ったストールは
旭によく似合っていた



「サプライズのつもりが、逆サプライズされちゃったな」

笑顔でストールをいじりながら旭は言った

「ァタシもだよ。旭に似合いそうと思って買わずにはいられなくてさ」

と言う琉那は、実際は旭のプレゼントを買うために
何件もお店を回って探していたんだ







琉那は、今日こそ勇気を出して言った



「良かったら、上がって行く?」

No.99


「いいの?でも明日、仕事でしょ?大丈夫なの?」

「明日は遅番だから夜更かししても大丈夫だょ」

「じゃぁ、ちょっとだけ、おじゃまします」



旭はあの、くったくのない笑顔で答える

こうして旭は、初めて琉那の部屋に入る事となった






マンションの13階にある部屋の前に辿り着く
お互いに少し、緊張している空気を感じる



……ャバィ、なんかドキドキする!旭の事だからいきなり何か起きるとかナイと思うけど……

琉那はそう思っていた





「ソファーにでも適当にくつろいで。」

一声かけてから、琉那は温かい紅茶をいれる





「ホントいいとこ住んでるんだねぇ~。綺麗にしてあるし、置いてある物もかわいいし、女の子らしい部屋だね」

「そぉ?ぁりがとう」

とか言いながら
普段からあまり散らかす方ではないけど
もしかしたら旭が来るかもと期待をして
いつもより念入りに掃除をしてあった



琉那の部屋は黒とピンクと白の色の家具で纏めてある

中でも、黒地にピンクで蝶と華が描かれているカーテンはお気に入りだ



琉那は

「どぉぞ」

とアプリコットティーを旭の前に置いた

No.100


琉那は旭の隣に座り、テレビを点ける
もどかしいような恥ずかしいような気持ちと状況を紛らわすように



それから2人は再びイルミネーションの話しで盛り上がり
違うとこにも行く約束をした

テレビでやっている映画の予告を見て
お互いに観てみたいと言って
映画を観る約束もして

2人は観るテレビや映画の好みも似ていた
もう、似てない所の方が少ないくらいだった



「またastrayで遊ぶ約束もあるし、琉那とはだいぶ約束したね。
そんなに時間俺が奪っちゃっていいの?」

旭は問いかけた

「いいんだよ!てゅうか、旭と居ると楽しいし。」

ホクホクの笑顔で琉那は答えた

「俺も、琉那と一緒だと楽しいよ」





僅かに、2人の間に流れる空気の香が変わった

ソファーの隣に座る2人

旭が琉那の手に、手を伸ばす
そして、琉那の手を優しく掴んで
旭は言った





「琉那。良かったら、俺と付き合って欲しい。」



旭の眼は、真っ直ぐに琉那の顔を捉えていた
唯、真っ直ぐに……

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