○三日月の白猫と満月の白狼○

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2013/01/25 00:49(更新日時)

『月夜の黒猫』でノンフィクションを書かせて貰いました
黒猫です🙇


今回は、『運命』ってものを題材に フィクションを書かせて頂きます。

気怠い少女が運命の人と出逢い、凜とした大人になっていく
そんな内容にと考えています。


誤字、脱字、解りにくい描写など、気をつけますが、あると思います💦すみません💦



お付き合い頂けると嬉しいです☺
よろしくお願いします☺✨



No.1721546 (スレ作成日時)

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付箋

No.1


~*~*~prologue~*~*~






隙間だらけの身体に
気付かないフリをして
アルコールと煙で満たす



ツマラナイ

クダラナイ

バカラシイ



そんな毎日を
ただ何となく繰り返して

辿り着いたのは
もっとクダラナイ生き方







友達は 多い
一度でも絡んだら もう友達でしょ?

次にまた会ったら
友情の握手して 笑って話して
笑ってまたねって 手を振るんだ



それだけで 十分

深入りなんてしなくていい


アタシの細部なんて
見せたくもない物ばかりが
詰め込まれてるから







フッと夜空を仰ぐ

高い空に輝く

丸い月を見上げる



昼間は太陽の光に呑み込まれて
見えなくなってしまうけど

確かに月は
ここに存在して居ると
うっすらと
その輪郭を見せている





まるで

アタシみたいだ





そして今日もまた
耳の中を埋め込むみたいに
ボリュームを上げて
隙間を埋めたフリをする







でも 月は

太陽の光が無ければ

輝く事は出来ない







アタシにも

いつか

見つかるのだろうか





太陽のような 存在が……







No.2


時は深夜……
繁華街から路地裏に入った地下にあるCLUBに
その姿は在った



160cm で細身の身体は モデル体型と言うには小さいけど
整った顔立ちが人目を引く

モノトーンで統一された服に無造作に垂らされた
ロイヤルブルーのストールが栄える



琉那(ルナ)
今が遊び盛りの23歳





小さな丸いテーブルを囲む6人の男女の輪の中に
彼女は居た

CLUBの中は 親世代が迷い込んだら

「頭が痛くなる!!」

と金切り声を上げそうな音とボリュームが
室内を満たしていた





「あっヤバいじゃん!琉那もう終電なくね?」

ホストかと思うくらいに盛った髪を、カッチリキープしてる男
亮(リョウ)が耳に顔を近付けて言った

「あぁ、さっき気付いたんだけど、もぅいいやと思って。タクる事にしたぁ~」

パッチリの猫目を細めてグッドサインを突き出して笑う

「タク代勿体ないじゃ~ん
俺んち来ればいいじゃん!泊まってきなよ~」

「大丈夫~~!タクチケあるし、ここだってタダで入れてるしねっ」


如何にも軽々しそうに言う亮の目の前に、グッドサインをブイサインに変えて滑り込ませ、琉那は言った



内心……顔が近過ぎなんだけど。
その氷柱刺さるんだけど。
髪も下心もマジウザいし

と笑顔と裏腹に、見下した目が
その作り笑いの中にあった



No.3


「俺また琉那にフラれちったよぉ~~~!ちぇ~~っ」

亮が唇を尖らせてテーブルに凭れて拗ねた様子を見せると
ナニナニ~~?と 女の子が面白がって亮をつつく


「うっせぇ~なぁ~~~っっ俺のハートは今傷ついちゃってんの~~!」

て笑いながらジタバタする男は
まるで発達途上の子供みたいだ
22歳には思えないその様子は
思春期の少年にすら追いつけてない



「どうせまた琉那をお持ち帰りしようとして、失敗したんでしょ~~?」

ケラケラと笑う2人の女の子は
麻美(アサミ)と莉央(リオ)




麻美がこのCLUBのオーナーと知り合いで、琉那も莉央もいつも無料で入らせて貰えていた

知り合いと言っても、身体の関係があるから
知り合い以上、恋人未満
友達以上、ではない
『友達』なんて関係は、フッ飛ばされている
そんな関係の人は麻美にとって
オーナー一人だけではない



でも、不思議と汚れて見えないのは
天真爛漫な彼女の性格だからなのかもしれない

麻美は 無邪気に 自分の欲望や利益に正直に従ってるだけ








亮は琉那を気に入ってる
いつもベタベタしようとして、誘いをかけては
するりとかわされていた



亮がアタシに求めてるのも、オーナーと同じだ
2人のように、面倒も後腐れもなく
愛情のない 楽でお互い様な関係



アタシは男に対して
麻美みたいに
楽しいだけの関係は望まない
好きな人じゃなければ
プラトニック希望



一時の快楽を求めて
真夜中に舞うの蝶のように
軽やかに華麗に舞えないし 舞いたくはない

そうゆう事が全くなかった訳じゃないけど



でも、時々羨ましくもなる
麻美は自分の欲望に忠実で
それに従う事を厭わない

麻美のライフスタイルはステップを踏むように
明るくて、楽しそうだった


勿論、そんな麻美にも、悩みや辛い事くらいあるけど





No.4


まだグダグダ言いながらグラスを立ててアルコールを飲み干す亮に
亮の連れの男2人もちゃかしに入って
爆音の中に騒がしさが加わる

龍也(リュウヤ)と成人(ナリト)

だいたいいつもこの3人でここに来てる





彼らとは ここで知り合って
会えば一緒に飲んだり 踊ったりする事も多い
そんな感じ


メアドも番号も交換してるから 約束して落ち合う事もあるけど
それは殆どない


連絡は

「今居るの~?」
「今日行くの~?」

ってだけ、メールがくる方が多いくらいだ

彼らも、だいたい居るだろうと解ってる



それくらい頻繁に アタシと麻美と莉央は
このCLUBに来ていた



ここで一緒に過ごす仲間も
亮達以外にも いっぱい居たし
常連はみんな顔見知りだから、会えばいつも一緒にって訳でもない





適当にいこうよ

それがモットーだった

No.5


その時、好きな曲がかかった
アタシは莉央と麻美に

「ちょっと踊って来るね~」

と耳元で言って、スピーカー近くのフロアの前の方に行く






音に集中して呑まれたい時は、一人がいい
周りに友達や仲間が居ると、気が散るから

それを知ってる2人は
敢えてついて来たりせずに
アタシに自由になる時間を与えてくれる







規則正しい重低音と
不規則なうねる音が混ざり合って
異質な音は不協和音のようなのに

螺旋を描きながら
空に向かって上昇して行く



音と光の洪水に引き込まれるように
身体が動くままにくねりながら踊る

VJの幾何学模様が一層
思考の無い世界へと誘う





少なくとも この音が終わるまでは

アタシは解放されて
自由になれるんだ

考えたくもない余分な事や
日々起こる煩わしい事は

思考しなくて済む








アタシは

目を閉じて

溢れる空間と溶け合って

一体となった





No.6


やがて アタシを天高く押し上げる曲は
別の曲へと変わってしまった



それでも 満足だった
十分に集中して 放出出来たから


次にかかったその曲も なかなか良かった



テンションが上がったアタシは
満足はしていても
まだまだこの空間と感覚と
離れたくはなかった

右スピーカーの前を陣取ったまま
踊り続ける事にした





さっきよりは控えめに、ステップを踏んで踊る


すると、壁に凭れて身体全体でリズムをとっていた男が
こっちに近付いてきた



彼はアタシの右側に来た

チラッと横目で見ると目が合う

可愛い系の顔をしてる
けど
どこかクールさが漂う強い目が
印象的だった

このCLUBの客層にしては、ちょっとナチュラルめな服が
彼によく似合っていた





彼はアタシの耳に口を近付けて、話しかけてきた

「こんばんは。さっきの踊り方、凄くカッコよかったよ」

ニコッと笑った顔は幼さが残っていて
可愛らしい笑顔だった



「こんばんは。そう?ありがとう」

アタシも耳元で返す



「俺、CLUBってあんまり来ないんだ。
音を聞くのは好きなんだけど、どう踊ればいいのかイマイチわかんない」

「そんなの、簡単だよ!
音に集中して、ステージやVJだけを見る
形なんて、決まってないし
後は踊りたいように踊ればいい」

「その、踊りたいように、が難しくない?」

「リズムに合わせて自然に身体が動くでしょ?
それをベースにして、動いていけば
自然と気持ち良く音に乗れるよ」



いざ、『踊り方』を説明するとなると
意外と難しいものだなぁ

と思いながら、説明してみる
アタシは本当に自然に
自分の好きなように動いてるだけ

音とシンクロ出来る動きがあれば
それを繰り返したり……



「なんか、解ったような気がする!教えてくれてありがとう
俺、アサヒ。
難しい漢字の方の旭。よろしくね」



旭……太陽の名前
いい名前だなぁ

「アタシは、ルナ。琉球の琉に那覇の那で琉那。
よろしくね、旭」

「琉那かぁ。俺達、月と太陽だね」



無邪気に笑って旭が言った

それがやけに嬉しかった



アタシも 旭と
同じ事を考えていたから



No.7


「ねぇ琉那。良かったら一緒に踊らない?
教えてもらったみたいに、踊ってみたい」

「いいよ。一緒に音に乗ろう」


爆音のスピーカー前は、顔を近づけても
大きな声を出さないとなかなか聞こえにくいから
話しをする為に壁際に寄っていた



アタシ達はフロアーに出る
さっきアタシが居たあたりに行った
そのスペースは空いたままだったから
スピーカーは2人の貸し切り状態になる

今夜は平日で 余り混んでいないから
ゆとりを持てるくらいのスペースが十分にあった





「まずは、さっきやってたみたいに、リズムを身体全体でとって
それから、動きたいように自然に任せて動きを足してけばいいよ」

「解った!」

「頭で考えないで
旭の全部で音を感じてね」

旭は笑って頷いた



なんか インストラクターみたいだなぁ
なんて思いながら
いつものように 音に身を任せていく





思ってたよりこっちに長居しているのが気になって
麻美達の方を見ると
他の友達にも会ったみたいで、人が増えてた



莉央がアタシの目線に気付いて手を振る
アタシも振り返す

『心配ないよ』のサインだ
何かヤバい時やイヤな時は手招きをするのが
ウチらの暗黙の了解サイン



安心して、また音に身を任せていく






チラッと隣の旭を見ると
いい感じにのれてるみたい

良かった
インストラクター気分のアタシは
自分の説明が伝わった事にホッとした





その時 音がピーク
いわゆるサビに入って
アタシのテンションもアゲに入る

加速する音速と高鳴る音域に
歓声を上げる人もいるくらいに
より一層フロアーの熱気は一気に上昇していった



No.8


旭とアタシは顔を見合わせて 満面の笑みになる

すっかりコツを掴んだらしいその動きは
自然に音に乗れていると見て取れる



アタシのボルテージもMAXになって
ハイな音とシンクロする





全身でしなやかにトランス(陶酔)して
いつの間にか旭と向き合っていた



お互いに見つめ合ったまま踊る

旭もアタシの動きを真似するように
しなやかに揺れ動いていて

アタシ達は 自然にセッションしていた





不思議と 動きが合う

いつもは一人で踊るのが気持ち良いのに
旭とのセッションは
凄く心地良い感覚に包まれて



フィーリングが合うって
こうゆう事なのかなぁ……





旭は目を閉じて
自分の世界に入り込んでいく

アタシも目を閉じる





アタシの意識は
CLUBの天井を抜け出し、上階のビルも突き抜けて

夜空の彼方へ飛翔して行った





きっと 旭も 今
同じ夜空の中を浮遊しているんだ

一緒にこの感覚を共有出来ている
自然と そう思えた







今迄にないくらいの開放感を

身体全部で

脳内の全部で

アタシの全部で感じていた


No.9


最高の陶酔が
アタシの奥深くまで浸透して

まるで エクスタシーに達したような気分だった



頬が火照っているのは

全身で踊ったせいだけじゃないような気がした



実際 ヘタクソなSexより

よっぽど気持ちイイし
満足出来る





曲が変わった時 旭が言った


「CLUBで踊る事がこんなに楽しいなんて、思わなかったよ
めちゃくちゃいい気分だ!」

「でしょ?音とシンクロするって、最高じゃない?」


アタシは旭が本気で楽しんでるって解って
凄く嬉しかった


「琉那と一緒だから、最高に踊れたんだよ」



なんだか ガラにもなく照れてしまって
ピースしながら歯を見せて笑った

踊る姿を褒められる事とか たまにあるけど
なんだか妙に嬉しかった





それからもう一曲踊って
流石に疲れてきていた

一休みしようよ、と耳打ちする






アタシ達は柔らかいソファーに身を沈めた



「ちょっと待ってて、飲み物買ってくるよ。」


旭はドリンクを買いに行ってくれた







ハンドタオルで汗を拭きながら 携帯を見ると
麻美からメールが入っていた


時間はもう深夜3時を過ぎていた


『ルナ~~~🎵かなり調子ィィじやん😉
イケメンみっけちゃったぁ⁉⤴

てか、ユウキが車で来たから送るって言ってくれてるんだけど🎵
ぅちら乗っけてもらぅけど
どうするぅ~~❓』



ヤバ!20分も前のメールだ;
フロアを見回したけど
2人の姿は見当たらない……

どうしようかと迷ったけど
今は 旭ともうちょっとゆっくりしたかったから



『今気付いた❗ごめんねぇ❗😣
今、一緒踊ったコがドリンク買い行ってくれてるし
アタシはタクるからぃぃょ👍ぁりがとぅね✨』


とメールを返した

すぐに返信が来た


『今ちょぉど🚻来てた
👍だょぉ😉
ぢゃウチらはこのまま帰っちゃうねぇ~~✋
楽しんでねっ🎵』





その時の状況で バラけたり 帰りが別になる事は度々あった

麻美はオーナーと途中で抜ける事も 時々あったし
ウチらは基本的に自由行動だ



No.10


ミネラルウォーターとオレンジジュースを持って
旭が戻って来た



「この時間になるとお酒はもういいかなと思って
お酒の方が良かった?」

「ううん、こっちの方がいいよ」



どっちがいい?と差し出される

ありがとう、と オレンジジュースを受け取った



乾いた喉に甘い潤いが行き渡り
萎れた花にお水を与えたみたいに

潤いと共にパワーが戻ってくる







「琉那の友達は?大丈夫なの?
考えたら俺、かなり引き止めちゃってたよね」

「大丈夫だよ。さっき連絡したから
友達は他の友達が車で送ってくれるからって帰ったよ」

「先帰っちゃったの!?
なんか、悪かったなぁ~~……」


そう言いながら頭をかく


「よくある事だよ。
ウチらは基本自由だから、気にしないで」

「本当に?なら良かった
俺は友達と2人で来てたんだけど
連れが行き会った女友達と、イイ感じになってさ
抜けるゎとか言って行っちゃって~
マジかよぉ~~って感じだったんだ」


参ったって顔をして
くったくのない笑顔で彼は話す

「旭はその時帰ろうと思わなかったの?
あんまCLUB慣れてないって言ってたよね?」

「うん、めったに来ないから
なんか逆に勿体無いなって気がして
ゆっくりしてこうと思ったんだ」


CLUBに来た事自体、まだ5回目くらいだと言う
アタシは そうなんだぁ~、と頷く






「音を聴くのは好きなんだ
だけど、一人で慣れないとこって
なんか居心地悪いってゆうか……
どうしようかなと思いながら、暫く眺めてたんだよ

そしたらさ
一際目を引く、カッコよく、気持ち良さそうに踊る女の子が居てね」


笑いながら 旭はアタシを見る

「あんな風に、一人で心底楽しんで踊れるっていいなって
ガラにもなく、思わず声をかけちゃったってワケ」





ナンパをしそうな感じのない旭が
アタシに声をかけた理由に
妙に納得した



声をかけられたその後も
軽々しいような雰囲気や素振りは感じなかったし


だから アタシも安心して
一緒に楽しんで踊る事が出来たんだ



No.11


アタシは 見た目こそ 軽そうに見える
自他共に認めるところだ

でも 中身は 意外と軽くない


ナンパなんて よくある事だけど
軽々しくナンパをするヤツは
信用出来ないと思ってる



たまたま居たアタシに

たまたま声をかけただけ



他にも何人にも しょっちゅう声をかけてるんだろう


そうゆうタイプは その場限りや ここに来た時に
テキトーに楽しんで過ごす事は出来ても
付き合うとかゆう対象にはならない


最も みんながみんな 軽いヤツとは限らないけど





亮も典型的にその類だった


亮に関しては
今はマジでアタシに惚れていて
他の女にも手を出してないらしかった



こないだ龍也が

「アイツマジだから。今迄とは違うよ」

そう言っていた けど

そんなの 本当かどうかも解らないのが実際だよ







アタシは なかなか人を信用しない所がある



過去 酷く裏切られた経験や
ちょっとした家庭の事情……

そんな事柄から
『心を開く』 
って事が 出来なくなっていた


薄い上澄みを掬うだけのような付き合いで
アタシには十分

深く潜れば潜って行く程
濁って行くんだ



相手も アタシもね



不透明に汚濁した心の中にも
ドロドロと纏わりつく人間関係にも

もう ウンザリだった







もし亮のそれが 本当だったとしても
アタシへの気持ちが 本物だったとしても

アタシが亮に惚れる事は
ないだろうなぁ~~~



No.12


明日、てゆうか、今日
お互い仕事が休みとゆう事で
この際ゆっくり夜更かししようよって事で
ァタシ達は朝帰りする事をを決めて

上のフロアーにあるチルアウトスペースに移動した







そこには、幾つかのソファーとビーズクッションも置いてあって
まったりしやすいスペースになっている

音楽も、ヒーリング音楽のような静かめな曲
チルアウト、アンビエントのジャンルの音が流れていて
ゆっくり、ゆったりと、過ごせるようになっていた





私はハイになれるメインフロアーも勿論好きだけど
チルアウトスペースもかなり好きなんだ



このCLUBはチルアウトスペースにも力を入れていて
時々デコが変わって、飽きないで居られるし
季節に合わせて変わるルーム内が
ここに来る楽しみの一つになっていた



今は、星空をテーマにしている

「冬は空気が澄んで、星が綺麗だからね
クリスマスが近いから、イルミネーションみたいにしたいんだけど
前やったら、ピカピカして落ち着かないって言われちゃってさ~~」

オーナーがこのデコに変えた時に言ってた

ァタシ的には、このままでいい 今のデコが好き





満点の星の夜空を連想させるようなデコのライトや
飾りがぶら下がっていて

エアコンの風に静かに吹かれて
ゆらゆらと揺れながら、キラキラと煌めいてる



まったり感を増してくれるし、夜空のように
ずっと眺めていていられる気分になる



ブラックライトで演出される壁紙やライティングも
合わせて変えられていくから
頻繁に来ていても、飽きない感じになってる







私と旭は 一番奥のソファーに座り
私は ビーズクッションに身を預けて
ゆっくり沈み込んで リラックスモードに入る





「ん~~~!落ち着くねぇ~~~!」


旭がノビをしながら、ビーズクッションを背中に置いて、浅く寄りかかり
長い脚を更に長く出した



No.13


アタシは煙草に火をつけて ひと息つく



「琉那も吸うんだね
あっ、煙草、同じだね」


旭もアタシも、SevenStarsのアラスカメンソールだった


「マジで?気が合うね♪
白いパッケージにひかれてさ
こないだまでは、SevenStarsブラックメンソールだったよ」


「マジで~~~!?オレもだよ!これ見つけてこないだ変えたんだ」



同じ事を 笑い合って 
喜べる 喜び合える

1時間たつかたたないか前に出会ったばかりだけど

それだけ旭は 親しみやすい





暫く いろんな話しをしていた
旭は 自分の事をいろいろ話してくれた





歳は23歳で タメだ
もうちょっと下かと思ってた


シルバーアクセサリーのショップで働いてる

言われて見てみると
凝った細工のシルバーリングと
ネックレスをしている

どっちにもターコイズが使われていて
彼によく似合ってた


革細工も趣味だと 自分で作った
ヒップバックや財布 キーケースを見せてくれる


どれもお世話ではなく
センスがいい カッコいい物だった





アタシはネイリストで
働いてるネイルショップと旭のショップは駅一つ分の距離で
意外と近いと知った



意外と近場で働いていて
お互い行く所も、同じお店があったりもする


「もしかしたら、今までも、何処かで会ってたのかもしれないね」


同じ時 同じ場所に 居たのかもしれない





すれ違い様に ぶつかって
「すみません」
と、頭を下げた人



ショップの友達と
帰りに寄ったファーストフードで
後ろに並んでた人



アタシがライターを落とした時隣のテーブルに居て

拾って渡してくれた人





そのどれかが 旭だったのかもしれない







旭と話しながら
気が合うな 似てるのかな
と思うところや

なんだか 他の人とは違う
と思った事が

実感に変わっていった




No.14


何がどう って、ハッキリ言うのは難しいけど……





話しが合うから
考え方や感覚が似てるのかな?
って思うのもあるし


此処や日常で出会う人達とも
今までの友達とも
違うようなタイプの感じがした




水面を撫でるような
表面的な付き合いばかりのアタシが

曖昧にしたり 
流したりしない

誤魔化さないアタシ自身で
話せる安心感があって……





出会ったばかりなのにも関わらず

不思議と 素に近い感じで

リラックスして話せていた





旭には
警戒心を解く柔らかな雰囲気がある


旭自身が
真っ直ぐで素直なんだなぁ
と、思える人だからだろうなぁ……



No.15


楽しむ事が 最優先

適当に 盛り上がればイイ



そんな場所で

そんな人ばっか集まる中で

そんなスタイルのアタシ





それが
こんな風に

すぐに息が合うセッションで踊れて
笑い合って話せる相手に


出逢うなんて


思ってもみなかった








「俺、本当は結構人見知りするし
ちゃんと話せたり仲良くなったり出来るまで
時間かかるタイプなんだよ

でも琉那は、話しやすいし、気が合うなって思うから
全然大丈夫で良かったよ」





旭もそう言ってくれたから
お互い合うなって思えてて

素直に嬉しかった



打ち解けるのに時間がかからなくて
アタシも良かったって思う





こんな気持ちになれるのは
女の子同士でだって
そうそうない



No.16


話しが盛り上がっているうちに
電車の始発が出てる時間になっていた

アタシも旭も タクシーで帰るって話してたけど
電車で帰る事にした









もう 12月になった

冬の空は 始発の時間になっても
まだ暗く 星も見えるくらい





星って言っても


排気ガスに汚染された 空

ネオンで明るいままの 街


暗く鈍い光が あれは星だろうなって
解るくらいにしか
見えないんだけど……






今年はやけに暖かい気がするけど
明け方ともなると
白い息が立ち登って行くくらい冷えていて


コインロッカーに詰め込んでた
カーディガンとコートを着ても

暖房の効いたハコから出ると
かなり寒さを感じる







「サムイねぇ~~~」


「マジ、冬なんだねぇ~~~」

と、身をかがめ気味に2人で歩くけど

急ぎ足にはならない







ゆっくりと

駅までの 長くはない道のりを

アタシ達は

オシャベリしながら 歩いた







No.17


ビルの合間から
うっすらと明るくなってる

朝日が登ってきていた





「旭……だね」


アタシは呟いた





この夜が明けていって
既に見えにくくなってる
数少ない星達も見えなくなっていく





照らす陽は 希望なのに

いつも 少し


寂しく感じるんだ







でも 今 この時は

旭が 隣を 歩いてる


太陽の 名を持つ 彼








「俺さ……思うんだ」


旭が 朝焼けを眺めながら言った


「ウチの親は
希望とか、光とかさ
明るいプラスな子になるようにって願って
昇る太陽の『旭』って名前
つけたんだよなって」


「うん。きっとそうだよね
いい名前だよね

旭って名前が似合ってる」



アタシは笑って答えて
旭の顔を見た けど……







その笑顔は

なんだか寂しそうで……



遠くの朝日を見つめたまま


旭は 唯 黙って



口角を上げて 作った笑顔の上に

切なそうに細めた瞳があった








アタシも
それ以上は 何も言わなかった

哀しそうな笑顔を見つめるのも
止めておいた







旭と同じように
朝焼けの空を眺めながら

少しづつ騒がしくなって来た道に響く
自分のブーツのヒールの音を聞いていた



コツ コツ コツ コツ



遅めのBTMを アタシのブーツが刻む





まばらな人の 話し声や 物音
カラスの鳴き声と 羽音が
時々 音を プラスする








柔らかな沈黙が 2人を包み込んで


アタシ達は ゆっくりと


ゆっくりと 歩き続けた




No.18


目を覚ますと もう
オヤツの時間に近いくらいの時刻を
デジタル時計は示していた



遮光カーテンの室内は
時計を見なければ
何時なのかイマイチ解らない暗さを保っている





「ヤバ……寝過ぎ……
てゅうか……まぁ、いっか……」



アタシは 回らない頭で独り言を言ってから
リモコンに手を伸ばし エアコンを入れる



毛布にくるまり直してから
再び瞼を閉じた

ハロゲンヒーターをつけたままの室内は
そこまで寒くはなかったけど

毛布の肌触りが好きだから





瞼の裏側で 旭との別れ際を
思い出していた




No.19


「琉那、今日は本当に楽しかったよ
ぁりがとう」


「アタシもスゴく楽しかったよ
こちらこそ、ぁりがとう」



アタシの乗る電車は別の電車だった
ホームまで送ってくれた旭と
握手をする







連絡先は 聞かれてなかった


どうするんだろう……
どうしよう……

笑顔の中のアタシは考えてた





「あそこには、結構行くんだよね?」


「うん、週半分くらい行く時もあるよ
astrayはウチらの遊び場って感じ」





『astray』(アストレイ)はあのCLUBの名前
道外れ とか、堕落 とか
そんな意味

あの自堕落なオーナーにピッタリな名前だ





「じゃぁ、また会えるかな?」

「うん。声かけてね!アタシもかけるよ」







アタシ達の手は 握手したままだった



「また行ったら、捜すよ
琉那の事……」

柔らかい笑顔で旭はそう言って

「じゃあ、気をつけてね」



と、ゆっくり 手を 離した



「ぁりがとう
旭も気をつけてね
じゃぁ、またね」



手を振って 旭は階段を降りて行った








メアドも番号も交換しなかった

だけど
astrayに行けばまた会える





また いつか

それは いつなんだろう……


もう既に 待ち遠しい気持ちになっていた


No.20



柔らかな毛布にくるまりながら
まどろんでいる


この心地良い時間が大好き





二度寝も気持ち良いけど

夢と現の狭間のような
ゆったりとした 揺り籠に揺られてるような心地良さは

常日頃 せわしくて
目眩い生活をしてるアタシにとって
癒やしの時間だった







最も ワザと忙しいくらいに
仕事のシフトを入れたり
遊びに出掛けたりしてるとこもあるんだけどね……







ヘタに時間があると

考えたくもない 余分な事まで
考えてしまうから……







だから このまどろみの時には
いつもは なるべく何も考えない



だけど 今は 唯ぼ~~っとするよりも
旭の事を 考えていたかった








記憶や感覚が薄れて行く前に


脳内から追い出されてしまう前に



思い出して

思い出に変換されないように

留めて置きたいんだ







こんな気持ちになったのは
久しぶりだった



誰かの事を
こんな風に考えたり
思い出したくなったりするのは
いつぶりだろう……



元彼とかにも
こうゆう気持ちには
なかなかならなかったなぁ……


No.21


それから 頭の中で

旭と踊った時の感覚を思い出す






振動して鼓動と呼応する音と

全身でシンクロする一体感



重ね合わせたかのように

シンクロする2人のリズム








そのうちに アタシ達は

astrayを飛び出して飛翔し

夜空を一緒に浮遊する





セッションしてた時に
空中で踊ってるのを想像していたように



あの時は 旭も同じ感じなんだって思ったけど
一人での想像だったから



今度は旭と 同じ夜空の中を浮遊してみる






頭の中のアタシと旭は

スカイダイビングしてるみたいに

両手を繋いで宙に浮いている







アメジストやガーネットよりも美しい

煌めく満天の星達の中



どんなに精巧で綺麗な照明も適わない

凜と光り輝く満月の真下







ゆっくりと お互いを


手繰り寄せながら近付いて


間近で じっと 見つめ合う








引き寄せられ合うように



キスを した……



No.22


アタシは ハッとして
正に我に返ったような気持ちになった



何を妄想してるんだろぅ;;;




思い出してるつもりが
いつの間にか
想像になっていた



キスとか 最早、妄想だろう





一人暮らしの部屋の中は
誰に観られてる訳でもないけど
妙に恥ずかしくなって

「ぅゎぁ~~~っ;」

っと、ベッドの上をコロコロと転がって
毛布を身体に巻き付けて
枕に顔を沈めた








アタシは 旭とキスを

したかったのかな……?







したかったんだ きっと





キスを と言うよりも



触れたかったんだ



その 身体の何処かに



何処でもいい



触れてみたかった








でも いつもみたいに
CLUBや友達の友達で仲良くなって
ノリでするような感じでは



軽々しく 触れられない感じがしたし

軽々しく 触れたくはなかった






旭自身が そうゆうノリの雰囲気を
持ってなかったってゆうのもあるし



何がどうとか 説明するみたいなのは
難しいんだけど





唯 なんとなく……







勿論 取っつきにくいとか 壁を感じたとか
そうゆう事じゃない



むしろ かなり親しみやすかったし
警戒せずに 気持ちよく 本当に楽しく
一緒に踊れたし 話しも出来たし





唯 なんとなく……







そこがまた 旭が

他の人とは違う

と 感じた理由の一つ






No.23

  ○皆●既●月●食○





月がね 隠れんぼ するんだって


暗く赤く 変わるんだよ





黄金に輝く 柔らかく明るい光は
その輝きを弱めて
まん丸の満月夜だけど 

夜空は仄暗くなるから



いつもは視えないような
控えめな暗い星も

観えるようになるんだって



都心でも沢山の星が
観れるようになるくらいに







たった30分程の
完全な非日常的な現象



雲に邪魔されずに観れたら
奇跡のような時間






キミも 何処かで

同じ月を 同じ星を

見上げるのかなぁ……









No.24


今年は 暖かい秋の流れで
そんなに寒くはないように思う


でも 今夜は夜中まで外に居る予定だから

暖かなニットワンピに、ショートパンツ、厚手のタイツ

その上に ふんわりとした
白いポンチョを被った



ニーハイブーツで脚を覆って
ラビットファーの帽子を被る

防寒対策は万全







アタシは 白が好き

純粋そうに映るから



本当は薄汚く汚れた灰色の自分
腹ン中は漆黒に蠢いてる



それを隠すかのように

白を被せては 覆い隠した





……誰も 触らないで
アタシの中身を 覗かないで
暴かないで……



脅えて膝を抱えながら
小さく丸くなって 震える
頭から毛布を被ってたい



それが 本当の アタシ……





時には、戦闘服を身に纏って
マシンガンを撃ち放つ


近寄るなって牽制する言葉なら
幾つもの舌の裏側に転がしてある





丸くて甘い飴玉

辛いタブレット

粘着質なフーセンガム



どれが転がり出るかは 気分次第



どうぞ お気をつけ下さいね



No.25


皆既月食を観る為に連休をとっていた琉那は
実家に帰って来ていた

地元の広い公園の芝生の広場
その真ん中に
琉那は 男と2人で 空を見上げていた





白いポンチョとブーツ
ベージュのニット帽子に覆われた琉那は

白猫を連想させた



元々 猫目なのと
自由奔放で 伸びやかな性格を見せている琉那は

猫っぽいとよく言われている





自分を『黒』だと思っている琉那は

琉那の周りの多くの人達には

『白』に視えていた








白猫の手袋をした前脚は
黒のトレンチコートを着た男の手に 握られた


強引だけど 無理やりではない……



空を見上げてた白猫は

「そうゆうのはダメ」

って笑って言いながら
直ぐに 笑顔を作るのを やめた


男の顔を 真っ直ぐ刺す
猫の瞳







「琉那……やっぱり、俺じゃダメなのか?」


「アタシ達は友達だよ
コウとは、そうゆう風にはなれない」


「俺は、前からオマエの事が
好きだったよ
いつかは言おうと思ってた」


「……マジですか」





コウ と呼ばれた男は 
28歳で 琉那より5歳年上だ
20代後半の割には 若い服装と見た目をしてる

それでも 年齢に相応しいような
しっかりした男らしい雰囲気がある



琉那の地元の友達の先輩で
学生の頃から 仲良くなって

一人暮らしのコウのアパートで
みんなで宅飲みをよくしてたし
みんな流れで適当に寝て泊まって行ったり

気心の知れた仲間内の一人だ



琉那が地元を離れて一人暮らしを始めてからも
実家に帰った時とかたまに遊んでいる


コウは それなりに長い付き合いの友達だった



No.26


……マジか……



正直 予想してなかった

コウの気持ちには 気付いていなかった



アタシは
人の事や気持ちには敏感な割には
自分の事には 時々非常に鈍かったりする







地元に戻るから、ってコウに連絡をして
皆既月食を観ると言ったら
一緒に観ようってなって……



別に 普段遊ぶのと同じような感じにしか
思ってなかった

誰と観るって まだ決めてなかったし



他の友人が 都合が悪いからとか
寒い中頑張る程興味が無いとか


他の誰も誘いに乗らなかった理由は
これだったのかと

アタシはこの時解ったんだ



多分 みんな気を遣ったか……
コウが頼んだのか……

どちらにしても
2人きりにする って状況なんだから


コウが告白をしたって事は
仲間内のみんなは知ってるんだろうな……



コウとなら
邪魔にもならず
つまらなくもならず

眺められると思ってたのに……


参ったなぁ~~~……



No.27


頭上では もう
部分皆既月食が始まっていて
見慣れた月は ゆっくりと 
その姿を変えて行っていた


あと1時間もすれば
完全皆既月食になる時刻だった







「俺、ずっと琉那の事、気になってたよ
でも、お前は彼氏が居る時も多かったし
今の友達の関係が壊れるのも嫌で……言い出せなかった」







琉那は彼氏が出来ても 数ヶ月で別れて
またそのうち彼氏が出来て……
と言う付き合いが殆どだった



相手が深く踏み込もうとすると
自分自身の詳しい話しをする事を避けて居るから
本当の自分をさらけ出す事が出来ず

もう一歩、と 琉那の核に踏み入れられる前に
別れてしまうのだ







「お前が地元離れて、俺も彼女が出来たりもして
諦めようと思ったし
諦めたと思った時もあった

いや、諦めたくて、彼女作った
だけど、会うとやっぱり
まだ気持ちがあるんだって
毎回思ったんだ」


「ありがとう
でも、アタシにとって
コウはコウ兄って感じだから
そうゆう風には 見れないよ……」


「うん、そうだよなぁ……

解ってたんだけどな
言っておきたかったんだ」


「ごめん……」


「いや、こっちこそ、ごめん
お前天体観測好きなのに、こんな時に

ま、こうゆう時だから言いたかったんだけどな」


「ううん
コウの気持ちは、嬉しいよ
長い間 気付かなくてごめんね
アタシ、無神経なコト
言ったりしたり してたよね、きっと」


「ンなコトねぇ~よ」



コウが琉那の頭を ポン と軽く叩く
くしゅっと軽く握る



「あっ……!ごめんな、ついクセで……」


「ゃ、大丈夫だよ」




No.28


……アタシは 正直 戸惑っていた



大丈夫と言いながらも
今までなら何とも思わないような
そんないつもの仕草にも
お互い過剰に反応しちゃってる





本気じゃないんだろうなと思うような
軽く言ってくる相手だったら
軽く流しておくし

知り合って間もないような相手だったら
真面目に言ってくれても
断りつつ 逸らしたりする





だけど 今目の前に居る相手は コウで
空言とはとても思えない



誠意を持って 答えを伝えたかった








「皆既月食見ながら告白なんて
俺って意外とロマンチストだろ?」



コウは 綺麗に並んだ白い歯を見せて笑った



アタシは 複雑で 俯いてしまったけど

ちゃんとしようと思った



意識的に息を吸ってから 言った





「コウ」


「ん?」



コウは 月を眺めたまま
小さく返事をした



「なんかさ、断っちゃって ごめんね
でもこれからも、コウとは今迄みたいに
いい友達で、楽しい仲間で、居たいと思ってる」


「ありがとう
良かったぁ~~っ!
なんか、この雰囲気じゃもう
友達で居るのも微妙なんじゃねぇかと思ったよ」


「アタシだって、コウとの関係は 壊したくないよ

……でも、今このまま一緒に居たら
微妙になる気がするから
今日はもぅ バイバイしよう」




これ以上気まずくなって
ぐちゃぐちゃするのは避けたくて
アタシは言った

これからもコウといい友達で居る為に
その方がいいと思ったから


今 変わらずに笑って話すとか
流すようなコト

コウには出来ない……したくない





「そっか……まぁ、確かにな……」


「ウン……今はお互い普通になんて、無理だよね
せっかくコウが想ってくれて、言ってくれたコト
今すぐ何もなかったみたいにしたくないし」


「ありがとう
お前やっぱり優しいわ」


「そんなコトないよ」



アタシは 少し 泣きそうになる


コウの横顔を見ると
その眼はやけに 濡れたように
 光って見えた……



きっと 泣きたいのは コウの方だよね




No.29


「誰かに迎えに来てもらうから 大丈夫」


と、コウとバイバイする








琉那は 人工岩で造られた洞窟に向かう

その洞窟は滝のように水が流れているけど
夜は止まっている

その洞窟の岩の上に登る

立ち入り出来ないように張ってあるロープを越えて
枯れ木を避け 岩の端っこまで行き
足をぶら下げて座った





さっきまで居た芝生や小さな丘には皆既月食観測に来た人が
何人か居たけど
岩の上には 誰も居なかった







……人が居なくて良かった 静かに観れる……





こんな時間に女が一人で公園に居るのだから
警戒するし 危険も感じる


一応 近所に住む男友達の番号をすぐかけられるように表示したまま
ポケットに入れた携帯を握っておく







見上げれば 月にはもう
いつも観ている明る部分は 弓張りの三日月程になっていて

殆どが 皆既月食独特の
仄暗く 赤味がかった姿になっていた








……アタシは コウの事を考える



もしも コウを好きになって 付き合ったら……

きっと 楽しいし 大切にしてくれるんだろう

それなりに幸せに付き合っていけるんだろう



でも それは
太陽に照らされるような幸せではなくて

夕日に照らされるような
気を抜いて 胡座をかいた幸せに
なるんだと思う



心の底から コウに何かを求めて
この深淵の底を見せたいと
思えるコトはないだろうなぁ



No.30


そんなコトを考えてながら
公園内や 景色を見渡す





ここからの眺めは なかなかいい
少し高い位置に居るから
疎らながらの近い夜景も それなりに綺麗に観える



アタシの地元は
都会ではないけど 田舎って程でもない
普通って感じの よくある街だ







再び空を眺めて居ると……



足音が一つ こっちに近づいて来た



カサカサ…… パキンッ

枯れ木の枝を踏む音がする




枯れ木の音ってコトは
ロープを越えて来たんだ!
まさか……この辺に来るの!?




一人きりの静寂を破られて
ガッカリするのと同時に
変なヒトだったら……と 心臓の辺りに不安が広がる



単純に 皆既月食を観に来ただけだろうけど
用心して損は無い




アタシはポケットから携帯を取り出して
いざとなったら すぐに友達に電話をかけられる準備をして


すぐに立ち上がれるように
投げ出した脚を体育座りみたいに折り曲げた体制に変えて

警戒態勢で 足音の主を待ち構える





ガサッ という音と共に
足音の主は 姿を現した



No.31



……!?







そこに立っていたのは

旭だった……





アタシも 振り返って見上げてるアタシを見た旭も

正にその言葉の通り
眼を丸くして お互いを見詰めていた







「……っえっ?琉那?……だよね?」


「うん……旭」





突然の 思いもよらない この場所での

旭との再会



たった数日前に出逢って

また逢いたいと 密かに願っていたヒトが

今 眼の前に居た








「マジで!?えっ?何でここに居るの?」


「ぁ、アタシ、地元こっちなんだよね
実家がこのへんで。

皆既月食観に来てたんだ
この公園なら観やすいかなって。それで、居たみたいな……」


「そうなんだ!?
俺も皆既月食観にここ来たんだよ
友達がこの辺住んでるんだ
いいとこあるからってここ連れて来て貰ってさ

てか、今夜こんな時間にこんなとこ居たら、皆既月食か変態かのどっちかだよねぇっ」





あの くったくのない顔で 旭が笑う


アタシも その笑顔を見て 同じように笑う



「ホントだよねぇ~~~っ!」







嬉しかった


旭に逢えたコトが



嬉しかった


旭の笑顔を見れたコトが



嬉しかった


奇跡のような偶然が

必然のような気がした



No.32


旭は オジャマシマス と
アタシの隣に座って
夜空を見上げた





「うゎあ~~~!よく観えるね!」





今夜の星と同じくらいに
キラキラ煌めいた眼で
少年みたいな表情をしてる



アタシはその横顔を見つめて

自分の脈拍が上がる音を聞いた



その音が 旭に聞こえてしまうんじゃないかと
動揺しそうになり 余計に鼓動が響いてしまう

それを誤魔化すように アタシは聞いた





「てか、友達は?」


「あそこら辺で観てるよ」





と、公園内に流れる川にかかってる橋を指差す
この岩に流れる水と繋がってる川だ

その辺りには琉那が居た芝生の広場のように
何組かの人が集まっていて 賑やかそうだった





「旭だけ、こっちに来たの?」

「うん。こうゆうのってさ、静かに眺めてたくて……
この岩の上なら空いてそうだし、眺め良さそうだと思って
俺ちょっと散策してくるゎ~~とか言って来ちゃった」


「特等席だよね。ここ
アタシも穴場だと思ったんだ」


「そしたら、琉那が居るんだもんなぁ~~~
マジビックリだよ!
琉那の地元がこの辺なんて知らなかったしさ

めちゃくちゃ特等席じゃんっ!」





『めちゃくちゃ特等席』
と言う言葉に 
琉那は思わず照れ笑いする





「アタシも、こんなとこで再会するなんて
思いもしなかったよ」


「凄い偶然だよね!
しかもこんな誰も居ないとこでさ

てかさ、琉那は一人で来たの?
こんな時間に公園に女の子が一人なんて
いくら今日は人が多いからって
危ないんじゃないの?」





旭は気がついたように
心配そうな表情になる





「ん~~~、友達と来てたんだけど
一人で観たくなって……
さっきバイバイしたんだょね」




No.33


……アタシは 友達に告白されちゃって……
と言うか言わないか ちょっと迷って
言わなかった



話したら どう思うんだろう……
と考えたら 躊躇ったんだ





『友達は恋愛対象にはならない』
と思われたら
アタシ達は 友達なんだから
『俺もナイんだな』
と思われたくないし……



てか 友達 なのかな?
一回会って 一緒に踊って 数時間話しただけだけど……



じゃぁ 友達か
今まで 挨拶交わしただけで
もう友達ぃ~~~
みたいなノリだもんね



でも 旭には
何だかいろいろ考えちゃうみたい

普通なら気にしないようなコトも
気になっちゃうみたい







「その友達は、帰っちゃったの?
俺みたいに来て、友達はどっかで観てるの?」


「うん。帰ったよ
アタシは地元だから、頼めば誰か迎え来てくれる子居るし」


「友達、大丈夫だったの?
何かあったの?
皆既月食観に来たんでしょ?



「うん、そうなんだけどね……」





旭の悪気ない質問に
コウに告白されて 今は一緒に居るのは……と
バイバイしたコトを 言わずに話すのが

だんだん難しく 噛み合わない感じになってしまう





誤魔化すようなコトでもナイよね
そう思い直して

実はね……
と やっぱり さっきの出来事を
正直に 旭に話した



No.34



旭は アタシの話しを
頷きながら 静かに聞いてくれた

話し終わってから 旭は言った




「そっかぁ。
長い間友達だったって、難しいよね
俺はそうゆうコトないけど、複雑なんだろうなぁ
そんな長くはない友達に告白してもらったコトはあるけど」





『告白してもらった』
って言い方に 謙虚さを感じるとゆうか
旭の人柄を感じる

やっぱり 優しいヒトなんだろうな

『告られて困った』
なんて思うアタシとは
やっぱり 違うんだなぁ……





「友達に告白された時、どぉしたの?」


「俺も、その子のコトは、友達としか思ってなかったから
断ったよ
悪いとは思ったけど
好きじゃないのに付き合う方が
もっと悪いコトしちゃうから

それは、琉那と同じ考えだね」


「でもアタシは、今回は
ありがたいけど困ったなって感じだけど
どうでもぃぃヤツとか、軽い感じにとか告られたら
迷惑とか普通に思うよ

全然、イヤなヤツだよ」


「しつこいとか軽いとか、迷惑な告白だったら
そう思ってもしょうがないよ

でも、どんくらいかわかんなくても
自分をイイと思ってくれたってコトは
ありがたいと思わない?
その気持ちには、俺は感謝するよ」


「感謝……感謝かぁ

旭は、思い遣りがあるんだね
誠実ってゅぅか……スゴい」


「全然だよ!
告白なんて、めったにしてもらえないし
俺なんかを気に入ってくれたんなら
そりゃ感謝もするよ」


「俺なんかってコトなぃよ
まだ知り合って間もなくて まだ知らないコトだらけだけど
アタシは旭がヒトに好かれるの 解るよ

女の子に恋愛とかだけじゃなくて
男友達にも好かれてそうだなって」


「そんなコト言われるとなんか照れる……

あっ!!観て!」





旭は空を指差した

No.35


見上げると もう殆ど完全皆既に近い状態で
細い線くらいにしか
明るく光る部分が残っていなかった

アタシは待ち遠しいような
名残惜しいような気持ちで 言う





「もうすぐ 完全皆既月食だね
話してて気づかなかったよ」


「うん。うっかり見逃さなくて良かったね
琉那と話してると
なんか、時間がたつの忘れちゃう」


「アタシも!楽しいよね
まぁ今のは楽しい話しではないかもだけどね」





まぁそんな時もあるよねぇ~~~
と、笑い合って

こうやって笑い合えるのも
イイなって思った





「てか、こんなに晴れて雲がない中に観れるなんて思ってなかったよ」


「スゴいよね。
ちょ~~~綺麗!!ココで観るの選んで正解だったし
今夜は恵まれてるんだねぇ」


「俺、晴れた夜にこんなに星がいっぱい観れるなんて
今まで知らなかったよ」


「ホント、綺麗だね
皆既月食ってスゴいよねぇ」


「ぁっ……消えた……かな?」

「うん……完全皆既月食ってヤツだね」





アタシ達は 仄明るい月を見上げながら
静かに話していたけど

完全皆既月食になって
どちらともなく 話すのをやめた





それは
この間と同じように
気まずい無言なんかじゃなくて

今 この空間に或るのは 
心地良い静寂だった







少しの静寂の後

旭は ポツリと言った





「琉那は、イヤなヤツなんかじゃない」






アタシは少し驚いて 旭を見た
穏やかな笑顔で 言ってくれた




「全然イヤなヤツなんかじゃないよ」





No.36


アタシは


「ぁりがとう」


とだけ 静かに言って

再び 月を 星を 眺めた







今 この時に 

楽しみにしていた皆既月食を
一緒に見上げてるのが

旭で良かったと

心底思った







普段はぼんやりとしか見えない
小さくて 弱い光の星も
しっかりと瞬いて
この眼にその光を届けてくれる


晴れていたら
月の明るさに紛れて 
地球上のアタシ達には
なかなか姿を観るコトが出来ない

そのおびただしい程の星達の瞬きは

とても 貴重に思えた







少し離れて でも隣に 
旭が居る



もっと 近づきたい でも
それはダメ







時間をかけずに急接近するような恋愛が多かったから
もどかしいようなむず痒い感じがする



でも もどかしい気持ちと共に
その距離感に心地よさも感じる




ゆっくりと 仲良くなって行きたい


ゆっくりと 近づいて行きたい







アタシは 旭が好きなんだと

この時 自覚した



胸の真ん中が暖かくなるのを

ハッキリと 感じていた

No.37


携帯のバイブ音が控えめに響く


「ぁっごめんね、ちょっと電話するね」



旭はポケットから携帯を取り出して
電話に出る




「もしもし……観てるよ。
うん、たまたま友達に会って、一緒に……
うん、女の子
えっ?違うよ~~ホント偶然だって!
何言ってんだよ~~」





アタシの耳元にに小声で

「すぐに戻るね」

と言って 立ち上がって行った




友達のとこに一旦戻るんだろうな と思った







少しして 戻って来た
意外と早かった



「ハィ、寒いからあったかいの買って来た」



とホットティーを差し出してくれる


「ぁりがとう
これ買いに行ってくれてたの?
一緒に来た友達のとこに行ったんだと思った」


「違うよ。まだこっちに居るからって言ったよ」


「友達、大丈夫なの?」


「うん全然。5人で来てるし
俺は、琉那と居たいから」


「マジで?ぁりがとう」


「マジです。」





そう言いながら座った

さっきより 近い位置


身動きをとったら

触れそうな 距離







ヤバい……ドキドキする……!!!





『一緒に居たい』 って言ってくれたのも
内心かなり嬉しかったし


すぐ隣に座ったコトに
さっき 『ゆっくり』 と思ったばかりなのに

何だか期待しちゃう自分も居たけど



旭がすぐ近くに居る
それだけで 満たされた気持ちになった





アタシの心臓は

全力疾走したり 
深呼吸したり

かなり忙しいみたい





No.38


「あと、車2台で来てるんだけど
一台は俺の車だから、琉那のコト送って行くよ」


「えっ?いいの?友達にも迷惑じゃない?」


「大丈夫だよ。それもさっき言っておいたから
もう誰かに頼んじゃった?」


「ううん、まだ。助かったょ~~。ぁりがとう!」


「いいんだよ」





旭は優しい笑顔で 言ってくれる



無邪気な笑顔も

穏やかな笑顔も

どっちも好きな表情







「もうそろそろ、完全皆既も終わるね」



デジタルの腕時計で時間を確認しながら言う







旭と2人 脚をぶら下げながら
特別な夜空を見上げてると


まるで この地球上に
2人きりのような気分になった






赤い月は 幻想的で 美しく
妖しい光を称えながら
その存在の大きさを

アタシ達地球上の人間に
まるで 示してるかの様だった




でも それは
決して 傲慢に感じる様なものではなくて

月とゆうものの存在が
如何に偉大なのか
アタシ達が感じ取ってるんだろう







この心地良い静かな時間が

もっと長く続けばいいのに……







やがて 月は 徐々に
明るさを取り戻していった



暗く浮かぶ妖しい月から
静かに 煌めくように 
月明かりりが露出する



その姿も 時間も寒さも忘れるくらい
感動的なものだった

No.39


それから少しして
旭の友達達と合流した

友達は5人
男の子が3人 女の子が2人

カップルの2人だけここが地元で住んでるらしく
他中で1コ上だったから

『もしかして知り合いがいるかも!?』

と思っていたけど
それはなかった





「こんばんは~初めまして。琉那です」


「こんばんは~~琉那ちゃん」

「待ってたょ~~よろしくね」


みんな、明るく挨拶してくれて
話しかけてくれた

そのウェルカムムードに安心した






「ホントは約束してたんじゃないの~?」


「いつ知り合ったの~?」



とか 旭がみんなに茶化されてる
アタシも どうなの~? と
半ば質問攻め状態(笑)



「そんなんじゃないって~~!マジ偶然だょ!
番号もメアドも知らないモン」

「うそ~~~!?」





じゃれあうように茶化し合いをする旭は
みんなに好かれてるんだなぁって感じがして
何だか嬉しかった







みんなに言われたからなのかは解らないけど

この時初めて番号とメアドの交換をした



「えっと、連絡先教えて貰ってイイデスカ?」



照れたようにはにかんで 携帯を差し出す旭は
カワイかった!!!







それから 旭の白いミニバンで
柚香ちゃんてゆう旭の友達と一緒に
実家まで送って貰った



白い車が旭らしい
似合うなと思った

車内も整理されて綺麗で
静かめに Jazzが流れていた








実家まではこの公園から
車で10分もかからない



実家に着くまでの車内では
ほとんど柚香ちゃんがしゃべっていた





No.40


柚香ちゃんは
どうやら 旭のコトを

好きらしかった





話し方や 話しの端々に
それは 見え隠れ……程度ではない


むしろ アタシに解るように
まるで 示すように
彼女は現していた



「でも、ビックリしちゃったぁ~~~!
旭が女の子を友達って連れてくるなンてっ!
珍しいよねぇ~~?」


「まぁ、俺、女友達少ないしね」





オーバーリアクション
と言いたくなるくらいの
ブリッ子ギリギリな感じで
柚香ちゃんは 探るようなコトばかりを言う



そしてそれは アタシに対する自慢のようになる



専門からの友達で
しょっちゅう連んでたとか

就職してからも
月1は必ず遊んでるとか

2人で遊ぶ時もあるとか





「旭って、モテるんだょぉ
柚、専門の時も、何人かに彼女なの?って聞かれたしぃ

でも、なかなか彼女も作ンないの
何でかなぁ~~~?」



助手席から 運転する旭の顔を覗き込むように
如何にもカワィく見えるような顔を作ってる



「いい子がいてお互い好きになれれば、付き合うよ
なかなか機会がないだけ」





そうなんだぁ~~~
彼女 居ないんだぁ

てか あんま居たコトも無いんだ



ホッとする反面

ブリッ子がキライなアタシは
イラッとする(笑)

仲良し自慢話しも
だからナンだ マジウザィ……!

と思いながらも 
内心気になってるアタシ……





旭は 柚香ちゃんの気持ちに
気付いてるのか いないのか
イマイチ解らないってゆうか

あまり気にしてる様子もなく
普通に前を見て
運転しながら 話してる

そんな風に見えた





No.41


「今日柚と旭は、さっき同棲してるって言ってた子ンちに一緒にお泊まりするんだょぉ」



わざとらしい満面の笑顔で
アタシを見てから



「ねぇ~~旭ぃ~~」



と如何にも嬉しいデスって声と身振りで言った



「うんそうなんだ。
アイツんち、リビングと寝室2部屋あるから
たまに泊まらせて貰うんだ

今日は柚が居るから俺はソファーだね」


「ぇえ~~~!?一緒に寝ようよぉ~~~」


「ぁははっ
まぁた、何言ってんだよ
いくら長い付き合いでも、一応それは、ダメっしょ」





あからさまに誘ってる……
てか 人前でよく……

て まぁ よく見る光景なんだけどね



旭にこのブリッコ女が言うのは

イラッとを通り越して
ムカついてくるけど


それよりも 旭が断ったコトが
嬉しかった





「ぁっ、てゅぅかぁ~~、聞いてない?
今リビングにマットレスあってぁの2人寝てるんだよ~
だから、ぅちらは元寝室で寝るンだょぉ?」


「えっ!?ナニソレ!?聞いてないよ!
寝室どぉなってんの?」



マジ ナニソレですけど!?



「なんか、物が増えたから物置&クロゼ部屋にしてあるんだって
でも前使ってたマットレスもあるから
心配ナィよっ」




「心配ないって……
まぁ、いいや。俺床で寝るし
毛布一枚くらいはくれるだろ」

「ぇぇ~~~!?ナニソレぇ~~~」





マジ ナニソレ~~は こっちが言いたいってば

アタシは思わず



「旭はマジちゃんとしてるんだね
そうゅうとこも旭の良さで
人に好かれるんだろぅねぇ」


と ニコちゃん顔で口を挟む





柚香ちゃんは
残念~~ 寂しいなぁ~~
と 変わらずあからさまな感じだけど

旭は意外と 動じない様子で


こうゆう子なんだろうなぁ……
て思った




No.42


お気に入りなオトコにはこうゆう感じ
なのか

旭が好きだからこうゆう感じ
なのか は解らないけど



リビングのソファーが使えないなら
同じベットで寝るコトになるかもしれない……



幸い 旭にその気はナイみたいだから
そうはならなそう!
だけど 同じベットじゃないにしても 
同じ部屋だ



柚香ちゃんのこの勢い……

気になるに決まってる……





今までもこんな感じだったのかな?
今までは何かあったのかな?

いろいろ考えてしまう





でも アタシがいくら気にしても
しょうがないコトだ





No.43


そんな話しをしてるうちに 家に着いた





「えっ!?ここ家なの?スゴくない!?お金持ちぃ~~!!」


また大袈裟に柚香ちゃんが言う
と思ってたら 旭も言った



「マジで!?豪邸じゃん!」


「ゃ、大したコトないよ~~
芸能人んちとか、もっと凄いじゃん?
この辺土地安いし」



アタシは弁解するように言う







ウチは 確かに 大きい
そんな 豪邸って程じゃないけど
家とゆうより 邸って感じ


高い塀に囲まれていて
大きなガレージがあって
広い庭には噴水もある


玄関から門まで 徒歩1分
意外と面倒だし 時間がナイ時はマジで煩わしい





人からはよく
『恵まれてるね』
って言われるけど
実際 そうでもないんだ





マンションと飲食店を経営してるパパ

そのサポートをしてる経理兼秘書のママ


仕事で忙しい中
アタシのお世話は
ベビーシッターに始まり
ホームヘルパーに任せきり

産みの親と育ての親が 違う状態


親の愛情は お金で示されてきた





だから逆に
『普通の暖かい家庭』
に憧れている

正直 寂しい幼少期と 思春期を過ごした



そう思うコト自体 贅沢だ

と言われれば
正にその通りなのかもしれないけど……



まぁ でも
放任で それなりのお金を自由に使わせて貰って
遊んだりしてたから
それがイイ環境
って思った時期もあるし

別に 親を恨んでる訳じゃない






だけど アタシの
心の奥底に 抜けたような穴は

この家庭が 最初の原因だった



アタシの中の

暗く 深い

深淵を作った場所……





No.44


一通り柚香ちゃんの

親の仕事についてとか
部屋が何部屋だとか
車は何を何台だとか

よくされる質問に答えて
アタシはちょっとウンザリしてた



それよりも 旭の反応が気になってた



「俺んちはちょ~~普通だし
俺のアパートも普通に1LDKだよ
あの辺の1人暮らしにしてはマシな方だと思ってたけどなぁ~~」





アタシのマンションは 広めの2LDK
家賃は親が出してくれてる

そうしたいって言ってくれたコトに甘えてる

ダメな社会人かもしれない



けど 親は アタシに
そうゆうコトで 罪滅ぼしをしたいみたいだし

『ちゃんと親やってます』
て気分になりたい
自分達の周りに示したい
ってゆうのを 感じていたから

利害が一致する ってコトで
ご好意に甘えさせて頂いてる







家や 親の仕事を知られて
よくある反応は

単純に羨ましがるヒト

タカる気出して目を光らせる最低なヤツ

何でか世界が違うみたく引くヒト



旭は 一体 どうなんだろう……



多分 羨ましい って感じかな……







お礼を言って 車を降りると
旭が 窓を開けて言った



「琉那、今日はありがとう。楽しかったよ
メール してもいい?」

「アタシも楽しかった!旭に偶然会えてよかったょ!
ぅん!モチロン!アタシもするね」





ちょっと不安になってたアタシは
ちょっとだけ 安心した



白い車が 闇に消えて見えなくなるまで
そのまま 見送っていた

No.45


リモコンキーのボタンを押して
門を開いて 家に入る



アタシの部屋は2階の角にある

実家から出て行ってからも
部屋はそのままにしてあって
ヘルパーさんが掃除してくれてるお陰で
いつ帰って来ても綺麗になってる



エアコンと床暖房をつけてから とりあえず
二階のお風呂に入りに行く


洗面所と浴室は 気を効かせてくれたのだろう
ヒーターと浴室暖房がついたままになっていた



ちょっと久しぶりの 大きな浴槽に ゆったりと浸かる

せっかくだから ミストサウナもやろう





なんて 贅沢なんだろうね

確かに 贅沢なんだよね



だからって 物と便利に囲まれたら

満たされるって訳じゃ ない







マッタリとベットに横たわると
旭からメールが来た!



『初メールだね😃
🌙も⭐もマジで綺麗だった
琉那にあんなとこで再会するなんて
マジビックリだったよ😲
楽しかった🎵ありがとう✨
ゆっくり休んでね』



アタシはすぐに返信をした

メールの中で



『柚がイロ2言って、微妙なとこあったと思うけどごめんね😣
彼氏にフラれて不安だったり寂しかったりしてるみたいだからさ💧
気にしないで』



って内容もあった



そぅなのか……


でも 旭に気持ちがあるのは 間違いないだろうな……

寂しいだけだとしても
変な焼き餅を焼いたんだとしても

誰でもイイって訳じゃないと思う



『大丈夫だょ😃気を遣ってくれてありがとぅ✨
でも柚香ちゃんは、旭のコト好きみたいだね💕』



現状と旭の気持ちを探るような返信をした



『柚は、別れたり彼氏居ない時は、あんな感じによくなるんだよ💦
身近なとこにたまたま俺が居ただけだよ😁

俺は、好きじゃないと、付き合うとか嫌だって言ったじゃん❓』


『じゃぁ、ぁぁゅぅ感じももぅ慣れてるんだね😁(笑)
ぅん😃言ってたね✨』


『そうだよ。だから一緒に寝たりもしないよ✋』





アタシにそう言ってくれたのが嬉しくて
なんか うっかり期待なんてしちゃう……!






メールだけど 旭とオヤスミを言えるようになった
それだけでも 嬉しかった



その夜 アタシは
ちょっと幸せな気分で
眠りについた





No.46


遅めの朝に目覚めた 

リビングに行くと 両親は勿論もう出社していた



兄弟は兄が1人 4歳年上 
名前は空斗 くうちゃんって呼んでる
くうちゃんも親の会社で働いてるから もう居ない



幼い頃から後継ぎに成るべく 
いろんな習い事や勉強をさせられてきたくうちゃんとは
仲良しだったけど
あまり遊んだりは出来なかった

多分 普通の家庭の兄弟よりも
かなり少ないと思う



アタシの相手は ベビーシッターとヘルパーが居れば十分

琉那の相手をする暇があれば 一問でも多く計算問題を解きなさい

そうゆう母親だからね





ママは くうちゃんに教育熱心で
英才教育をしながら仕事熱心に打ち込む中で

『アタシってゆう赤ちゃんを作った』のは 
理由があってのコトだった……







ホームヘルパーの中居さんが清々しい笑顔で言う


「おはようございます。
朝食はもうご用意して宜しいですか?」


「はい、お願いします」



アタシの 仕事はどうか 1人暮らしに不便はないか とか
最近のニュースとか
他愛もない世間話をする





中居さんは アタシが専門に通ってる時に
前のヘルパーさんと交代で来て
以来 ずっとこの家で働いてる




それなりに仲良く話したりはするけど
まぁ 所詮は他人
中居さんにとっては 従仕関係

いいカオして いいコト言って 当然の関係性だ


No.47


朝食を済ませて
お昼から 約束してた地元の友達
美里と遊びに出かける


美里とは小学校からの親友で
幼なじみだ





アタシを一番 知っていて理解してくれてる

アタシが一番 本音を話せる唯一本物の親友







ランチをしながら お互いの近況報告
って言っても 電話もメールもよくしてるから
詳しい話しをするってカンジ

だから 旭に出逢って ィィナって思ってる
ってコトは話していた





「で、どうなのよ。その、太陽みたいなコ?」

「太陽って(笑)アサヒだょ、旭
それがさ、昨日皆既月食観に行った公園で、偶然会って!
マジかってカンジだょ~~っ!」



旭との再会と柚香ちゃんのコトも話した


コウに告白されたコトも話す

美里は コウ達と連む仲間内ではないけど
何度か一緒に遊んでたから面識もある



「ぇえ~でもさぁ、なんか、旭くんは琉那の地元がここだって知らなかったんでしょ?」


「うん、せっかくだから、都心の方より、綺麗に観えるとこのがィィって思って
こっちの友達んトコ来たんだって」


「コウくんの告白がなければ琉那は1人になんなかったんだし
2人しかいない洞窟の上とかさぁ
偶然に偶然が重ならなきゃなんないし
なんか、呼び寄せられたみたぃなカンジ?

それって、運命っぽくない!?」





内心 密かに思っていたコトを
美里に言われて
なんか気恥ずかしくなる


ケド やっぱそんなカンジにも思える再会だょね?
って 嬉しくもなる





「思う思う~~~!つきあっちゃえばィィのに~~~!」


「ゃ、でもなんか、草食系?ってゅぅか……ガツガツしたカンジしなぃし
アタシのコトどぅ思ってんのかも
イマイチわかんないってゅうか……」





なんか 実際 すぐにどうこうなりたいって訳でもナィんだょね……


ゆっくり 時間をかけて 仲良くなりたい

そう思ったのは ホントの気持ちだし



No.48



2人でガールズトークしながら
スイーツも食べてのんびりしてると もう夕方近くになってた

美里は夕方から彼氏と会う予定だから そのうちバイバイになるねと話してた時
アタシの携帯が鳴る



旭からの着信……!!



美里に着信画面を見せて
ぉお~~~!? と
ちょっとはしゃいでから 電話に出た





「もしもし、何してた?」


「今友達とカフェでのんびりおしゃべりしてたよ
旭は?」


「そうなんだ。俺もう友達んち出たんだ。、
琉那も今夜帰るって言ってたから、良かったらご飯でも食べて送ってこうかなと……
方向同じじゃん?そんなにアパート遠くなさそうだし」


「マジで?送って貰ってぃぃの?夕ご飯は実家で食べようと思ってたから
全然ィィょぉ~~一緒に食べょっ」



美里がニコニコ……てゅぅより ニヤニヤしながら見てる(笑)


アタシは旭とカフェの前で待ち合わせをして
電話を切った





「やったじゃぁ~~~ん!
昨日の今日でお誘いなんて、やっぱぁっちもィィ感じなんじゃん?」


「マジでそうならィィんだけどねぇ~~~!」





美里は 旭を見てみたい~~! と言って
彼氏と会うまでまだ時間に余裕もあったし
旭が迎えに来てくれるのを
そのまま一緒に待つコトになった



アタシも美里に旭と会ってみて欲しいかもって思った

好きになった浮かれた勢いで
カンチガイしてたらィャだし
親友に冷静に見て欲しいってのもあった




No.49


「はじめまして~~~!琉那の親友の美里です」


「はじめまして!琉那の友達になりたての旭です(笑)
遊んでたのに、ごめんね?」


「全然大丈夫!
夕飯は約束ぁるからそろそろ帰るくらぃの時間だから
気にしないで連れてっちゃって~~♪」



カフェの駐車場でちょっと話してから
旭の助手席に乗る
こないだは後部座席だったから
助手席に乗るのは初めてだった


「じゃぁね!
旭クン、琉那のコト、お願いねっ」


「ぁっ、ハイ!」



意味深なカンジの
『お願いね』 に
『ハイ』 って言ってくれたコトに
密かに喜ぶアタシは 深読みしすぎだ(笑)







「ご飯、どうしようか?
この辺でいいとこあれば、教えて?」


「まずこっちで食べるか向こうで食べるかだよね~~
なかなか機会ナィだろうから
食べてっちゃおうか」


「うん。琉那のおススメの店、行ってみたい」



相変わらずの くったくない笑顔が嬉しい……♪





行き先は
アタシのお気に入りのエスニック料理屋に決まった



柔らかいオレンジの照明と
カワイイアジアン雑貨がたくさん飾ってあって
どの席も 凝った造りになってる

一席毎に仕切りや壁があって
隣合う席がないようになってる造りは
半個室状態になってる

落ち着いてゆっくり過ごしやすい
カップルにも人気のお店





「お洒落なお店だね!俺、こうゆうアジアンな雰囲気好きだよ」



旭も気に入ってくれたみたいでよかった!


早めに来たおかげか、普段は混んでる店内も
それ程混み合ってなかったし
ゆっくり出来そうだ



No.50


昨日 メールでも言ってたけど
旭はリビングからソファーを引っ張って来て
柚ちゃんとは別々で寝たみたい


「琉那が帰った後は
あれ程一緒に寝るとかは言ってなかったよ

柚は、なんてゆうか
負けず嫌いってゆうか
変に対抗心とか競争心があるからさ」


「そうなんだぁ。
酔った勢いで襲われちゃうんじゃなぃかと思ったょ(笑)」


「口で言ってる程、柚も軽いヤツじゃないよ」


「……っ そっか、そぅだょね、ごめんね」



アタシは 旭の友達なのに
悪く言っちゃったかな……?とちょっと焦った
イヤなカンジに思われちゃったかな!?



「いや、謝る事じゃないよ!
なんてゆうか、心配しなくていいよって
言いたかったってゆうか……

いや、琉那がそんな事心配なんてしないか!
何言ってんだ?俺!」



焦ったように身じろぎしながら


「ぁあ~~~もう!気にしないで!」



って言う旭は 照れてるように見える

少し 顔が赤くなってる



「心配……したよ?」





ちょっとだけ考えてから
アタシは 素直な気持ちを言った

胸の真ん中で 脈が速くなるのを
感じていた





「マジか」


旭はちょっと真顔になって言った


「マジだ」


アタシも真顔で言った後
照れ隠しに笑った






「マジ、なんもないからさ」


「ウン、解ったょ
てか、何もなかったんだろうなって
思ってたよ」


「じゃぁ、良かった……!

てか、柚はお昼くらいに
デートに行くとか言って帰ってったしさ」


「そぉなんだ?
柚香ちゃん、デートするヒトいたんだ」





落ち着かない様子で
旭はタバコに火を点ける

アタシもつられて タバコに火を点けた



同じタバコ アラスカメンソール

アタシはペア物とかお揃いが好きじゃない方だけど

旭と同じなのは 嬉しい



No.51


「柚は、常に誰か居る感じなんだよ
かなりの寂しがり屋なんだろうね
彼氏が居ない時ってあんまないみたいだし

別れたらすぐ、てか
別れる前にもう次を探すタイプ?」


「ぁあ、何気に多いよね
ちょっと被る時アリマスがみたぃな(笑)

アタシは結構1人も好きだし
彼氏が居ないのも平気」


「俺も!って、確かCLUBでもこんな会話したよね?」


「したかも。したね。
ごめん同じ話ししたぁ~~~!」





ウソ 覚えてた

でも また言いたかった

同じだねって 話し





「いいよいいよ!
お互い1人も好きだって
そうゆう気ままなとこも
気が合うなって、思ったんだ」


「アタシも思ったよ!
似てるのかな?って思うトコが何気にけっこうあって
気が合うなって」


「だねぇ~~。
琉那もそう思ってくれてて
良かった」





柔らかい笑顔の旭の顔を見て
やっぱり、タイプな顔だなって 思った



だからって 顔で好きになった訳じゃない

それ以上に 中身がィィ



まだこれで3回しか会ったコトがないのに
中身だなんて
何が解るんだってカンジだけど


なんか 旭のコトは
よく解るような気がしてる


似てるのかなって感覚がある分
これからも
理解出来るコトが多いんじゃないかな? って思うし


アタシの気持ちも
理解して貰えるんじゃないかって……



そう 思ってた



No.52


食べてる間も 食べ終わってからも
いろんな話しをした



お互いのコトを だんだん知っていく

こうやって 少しづつ
お互いを知り合って 解り合ってくものだよね



恋の始まりの
ウキウキ気分は楽しい

恋愛で一番楽しい時期って
仲良くなっていってる
今くらいの時期だなって思う





アタシのマンションに向かいながら
旭のアパートは 20分もあれば着く距離だと解った



「時間が合えば気軽に遊べるね」

「うん。また遊ぼうねぇ!」







会話が弾んでいる内に 
もうじき マンションに着きそうになる



だいたいのオトコは
部屋に上がろうとするパターン

モチロン 下心アリでね



旭はどうなんだろ……

部屋に行きたいとか言うのかな?
てか 最初からそのつもりで
送ってくれたのかも

てか アタシはもうちょっと 一緒に居たいけど……
旭タイプは 女の子からあんまり押すのは微妙そう?



なんて考えてるうちに
マンションに到着した







「いいトコじゃぁん!実家といい、マンションといい、いい暮らししてんだね」


「そうでもないよ。ここも払ってるの親だし
別に自分のお給料でも払えるけど、出したいんだって」


「琉那は大事にされてるんだね。いい親だねぇ」


「そんなコト……!
そんなコト無いょ。」



アタシは つい 感情を出して強く言いそうになってしまって
気づいてすぐに 抑えた



「んでも、いいトコ住んだり、好きな物買えたり出来るのに越したコトはないじゃん?」


「まぁねぇ~~~」



旭は アタシのささやかな挙動に
気付いたのか 気付いてないのか
解らなかい



「じゃぁ、また連絡するね」



旭が言った
部屋に行こうとかゆう気はないみたいだ

なんか 深読みし過ぎてた気がして
自嘲したくなるゎ(笑)



「うん、また遊ぼうねっ。
昨日も今日も、送ってくれてぁりがとう。」







アタシは 昨日と同じ様に
車の白が闇に溶け込むまで 見送った



No.53


冷えた室内から逃れるように
すぐにお風呂に入ろうと バスタブにお湯を貯める


2日間 地元の友達と居たり 旭と居たり
日向ぼっこのように暖かな空気に包まれていたから
この室内に居るのは なんだか久しぶりのような気がした


珍しく 寂しいって感傷的な感情が
指先からよじ登って来る……



それを振り払うように
手首をプラプラと振るってゆう意味のナイ動きをして
さっさとお風呂に入りに行く







バスタブの中で考えてみる

これから旭と どうなるんだろう……?


旭は アタシのコトを
何とも思ってないってコトは
ナイだろうなぁ……

でもなんか 好きってゆうより
『気の合う友達』
って思ってる感じがするトコも 度々あるしなぁ……





好きなヒトが出来て

好きだからこそ 悩んだりする

それが やけに嬉しかったりする



気持ちがある分
楽しさも 嬉しさも 感じられて
小さなコトも 大きなモノになる



アタシは 相手が好きになって
アピられたり 告られたりして
そこから気になったりするコトが多いから
自分からの恋愛って 殆ど経験がなかった
それこそ初心者だ







それに いつも 考えてしまう

アタシを好きだと想ってくれるヒトと 付き合っても
自分も好きになったなって 付き合っても


このヒトが アタシに冷めたら
どうなんだろう……



アタシは アタシを好きなそのヒトを
好きになった訳で
相手の気持ちが無くなっていったら
何を好きなんだか 解らなくなるし


哀しいとかショックより

自分も冷めていく……





それって 本当に 好きって 言えるの?



自分から 本気で 好きになれるヒトに出逢いたい
密かに 切望していたコト……






そして 旭と 出逢った

旭に 恋をして 嬉しかった







だけど 怖い

本気で 人を 好きになるコトが……





浮気されたら?

嘘をつかれたら?

裏切られたら?





宙を浮く軽い風船なら
突き刺して割ってしまえばイイ

そのくらいに思えるけど


想いが強ければ強い程
破裂した時の痛みも強いから……





アタシは いつもどこか 矛盾してる



不安と不信に取り巻かれる

アタシって人間は

基本的にマイナス思考





No.54


いろんなコトを考えてたから
お風呂に入ってスッキリとゆうより
逆にモヤモヤしたりして
なんだか疲れちゃってた



スキンケアをしてから携帯を見ると
少し前に旭からメールがきていた





「昨日と今日、楽しかったよ🎵ありがとう☺

言おうかどうかって、迷ってたんだけど
直接はなんか言いづらいから、📧で言うね!

初めて会った時に、連絡先聞かなくて後悔してた😣
でも、そうゆうの苦手で……💦聞けなかった

昨日も、友達のおかげで聞けたようなもんだし😥
だから、友達には感謝してる✨
あの場所で再会出来たのは
奇跡的な偶然だと思う
低確率とか、そんなレベルじゃないよって😲
マジ、嬉しかった!マジ!☺

これからも、ご飯食べ行ったり、遊び行ったり、いろいろしたい!✨
改めて、よろしく😃」



もう 舞い上がっちゃぃそうな 長文メールに
既に舞い上がっちゃってた

髪も濡れたままで 直ぐにメールを返す



「アタシも 聞かれないのかな?聞こうかな?って迷ったょ😣💦
交換出来て、旭の友達にアタシも感謝だょぉ✨😉

マジ、奇跡的な偶然だょね🎵✨旭もそう思っててアタシも嬉しいョ☺✌

きっと、いつかまた再会出来てたんだょ☺まぁ、astrayでいつかは再会してたかもだけど😁
そぅじゃなくてさ😉

アタシも旭ともっと仲良くなりたぃし❤これからいっぱい遊ぼうねぇ🎵😃」





これは マジで イイ感じなんじゃなぃのっ!?
思わずにやけてしまいます……(笑)


なんか この一通のメールで
不確かだったコトが確かになったってゆうか
旭もアタシが気になってるって
自信持ってイイのかな?
って思えた





それから何通かメールのやりとりをした

ラブっぽい内容もチラホラとぁる

意外と趣味も合うトコが多い
天体観測的なコトももその一つで
数日後にあるふたご座流星群も
一緒に観る約束をした







オヤスミを言ってメールが終わる
間接照明に照らされた淡い色彩の室内で
ベッドに寝ころんだまま
天井を見つめる





……旭……

ねぇ アタシ 本気になっても イイの?


本気で 好きに なりたいょ……


でも なんか なりたくないょ……


アタシのコト 好きだって 思ってもイイの?






相反する感情の狭間で

揺れ動く感情の真ん中



アタシは 浅い眠りに 堕ちる




No.55



揺らめく夢の真ん中で

佇んでるのは

白いフリルの付いたワンピースを着た

小さな小さな 女の子



握り締めた掌の中には

白い華が 一輪





悪魔の羽根と 尻尾を生やした
ワルイカオのアタシは 囁く



『ねぇ 知ってる?
それは 造り物なんだよ?』





小さく幼い女の子は
首を振って 足をバタバタして
ぃゃぃゃをする



聞こえはしない 音の無い声で

『違うもん!そんな事ないもん!』


必死で否定する





アタシは 黒い羽根を羽ばたかせながら
尚も追い詰めるように 言う



「偽物は偽物だよ
本物にはなれないよ」






女の子は
足元から這い上がって来る
ドロドロに濁って液状化した黒い感情の坩堝に

呑み込まれそうになる



その濁流に流されまいと
必死に抵抗する





握り締めた白い華は
みるみる黒く染まって行き
あっという間に漆黒に染まり

グニャリと枯れた途端に
パラパラと
崩れ落ちてしまう





女の子は
『ぁあっ』 っと 声無き声で叫び
必死で 枯れ落ちる華を
掴み取ろうとするけど



その 小さな掌には

欠片さえ残らない







『オボレチャウヨ……』

『クルシイヨ……』

『タスケテ……』









ぅん 助けてあげる でもね





真実をねじ曲げて

嘘を吐くコトが

優しさなの?



巧く嘘を吐いたら

アタシは 天使なワケ?



その華は 白いまま 

凜として いられた?





ねぇ 誰か 教えてよ……








その 小さな女の子は


幼い頃の アタシだった





No.56


真夜中に 悪夢から 目を覚ます



夢の中で 必死で抵抗してた幼いアタシのように
スポーツでもしてたかのような
汗をかいていた

起きあがると 背中を汗が伝う


照明もテレビも点けたまま
うたた寝をしてしまった



何も今 あんな夢を視なくても……

いや 今だから 視たのかもね……







本気で旭を好きになりそうで


楽しい反面 不安で

嬉しい反面 躊躇する



イイコトとイヤなコトは
いつだって背中合わせで
密着してるモノだから

どっちに転ぶかなんて
本人にだって解らない

どっちを選ぶかは
自分で選べるクセにね



アタシってゆう人間が
そうゆうのに敏感で
ワルい方へと考えがちだから
余計にこうなってる

それは 自覚してるコトなんだ……








いつだって アタシは



『裏切られるかもしれない』

『大切にされないかもしれない』

『愛されないかもしれない』

『愛されてないかもしれない』


そんなマイナス思考が 頭の片隅に

いや 片隅どころじゃない

きっと 思考の中心に 
そんな気持ちの塊があって

ダメなんだ……





だから いつだって
適度に適当に ヒトと付き合ってきた

ある時から いつだって


友達でも 恋人でも 
一定以上は 深入りされないようにって



透明なシャボン玉で

自分自身を覆ってきた









差し伸べた手を

振り払われる痛みは

身体を斬りつけられるよりも

もっと鋭い痛みで



だから アタシは



誰かを 救うコトを 避けて来た





求めて差し出した手を

握って貰えないコトは

求める前よりももっと

重く暗い深淵に 沈んで逝く



だから アタシは



誰かに 求めるコトを やめた






時々 優しさを 拒むように

アタシは 笑顔を 繕うけど





唇の端っこを 無理矢理引き上げて
縫い合わせただけなんだ





アイカックルスマイルの

端っこから垂れ下がる

黒い糸を引いちゃダメ



たちまち 崩れて しまうから




明日も 明後日も その後も

ずっとずっと 巧く笑わなきゃ







アタシとゆう人間を

必要として貰う為に



No.57


いつだって
明るく 元気で 軽やかな自分を
演じて来た


本当の自分を見せようとはせず
創り上げてきた
虚像の自分





自分自身にバリアを張るコト

裏切られるコトを考えてしまうコト

ヒトを信用出来ないコト



そんな事柄の理由は 2つある






一つは

アタシが産まれた理由にある





パパには 愛人が居た

兄のくぅちゃんが1歳になる頃
その愛人との関係が始まったらしい


ママはじきにそのコトを知った
勿論 その女とは二度と会わないようにと約束をさせたけど
密かに続いていたらしい


ママも それには気付いていた


だから くぅちゃんに余計に厳しくなった
後継ぎになるのに必要以上の勉強をさせ 教育をしてきた
実際 そこまでの教養が必要な程の事業でもないと思う



もしも愛人との間に子どもが出来て
万が一にでも
そっちの方が可愛いからとか 優秀だからとか
そんな感じで 何かと理由をつけて
後継ぎの立場を奪われない為に……



本妻のプライドってやつなんだろう

愛人なんかに負けてたまるか
妾の子にイイ思いをさせてたまるか

そんな気持ちだったんだと思う





そんな不安定な生活の中

ママの恐れてた事態が発覚したらしい



愛人に 子どもが出来たんだ





パパが それまでに増して
外出してる時間が増えて
不信と不安に駆られたママは
探偵を雇ったのだとゆう



妊娠5ヶ月めで ママはそれを知った





それを知ったママの考えたコトは
自分も妊娠するコトだった



パパを自分の元に繋ぎ止め
男なら 第2の後継ぎ候補や副社長にする為に……





アタシは 計算された上で 

造られた人間ナンだ

しかも ママの希望に反して 

出来たのは女の子の アタシ





可哀相なママ



笑っちゃうね





アタシは 最初から 道具扱いだったんだ

自分に利潤があるから 製造されて

利用価値を 値踏みされて 

昔も今も この通りの放任ぶり



自らの手で 育てる価値もナイ




それよりも パパを見張る意味でも
仕事に早期復帰して
くぅちゃんには 手をかけ続けた





期待ハズレだね



残念なママ





残念なアタシ



No.58


でもアタシ イイコなフリをしてあげる



ママが心配しなくて済むように

パパが可愛がってくれるように



お勉強も頑張って

お行儀良くして

言うコトを聞く

聞き分けのイイコになるから





ねぇ いつか 愛してくれる……?








その希望は 叶うコトはなく


アタシの健気な気持ちは


崩れて堕ちた








必死だった 信じようと

希望や 愛を



欲しかった 当たり前が

笑顔や 温もりを





幼いアタシには 遠い夢みたいで

蜃気楼のように揺らめいて
近づいたら 視えなくなる
そんな 幻みたいに危うい

だけど 幼子には 唯一の希望


石ころだらけの岩の階段を
両手でしがみつきながら
必死で登り続けた


白い息を切らせて
溢れる涙を拭いながら
指先に血を滲ませた





虹色に輝くお花畑は どこにあるの?
真っ白なお花が いっぱい咲いてるんだよ







無かった 何処にも 

存在して無いんだ





奈落の底ってモノが 存在するなら
アタシはその底を 知ってるよ


崩れた崖から堕ちて 行って来たから







オトコなんて 浮気するモンなんだ

ヒトなんて 表と裏が激しく違うんだ

真実の愛なんて 存在しないんだ

だって 親にすら 愛されないじゃない







小さなアタシの中に

仄暗い 深淵が産まれた



今もまだ 小さなアタシは

膝を抱えてうずくまってる



No.59


そんなアタシも お年頃になって
友達に次々に彼氏が出来た



アタシ自身は 好きなヒトもいなければ
彼氏を作りたいとも イマイチ思えなかった

あんな親を見ていて 恋愛をしたいとは思えなかった





くぅちゃんとは仲良しだから
習い事やお勉強の合間に ちょっとだけ遊んだり
夜寝る前に お話し出来る時もあった
少ない時間だったけど……



パパは アタシのコトをけっこう可愛がってくれてたけど
忙しくて あまり遊ぶ時間もなかったし

家族みんなでお出かけ なんてゆう
いかにも家庭的な休日も
数えられる程しかなかった

それも パパの仕事の用事の近場に行って
パパは途中で抜けて仕事に行く なんて時もあった



仕事が忙しいのは 解る しょうがナイ

でも 一体
そのうちのどのくらいが
本当にお仕事だったんだろぅネ?







彼氏を作るってコトも 周りに順応するコトだった

だから とりあえず 彼氏を作ってみた



初彼は同校の別クラスの男の子

半年で別れた



それからも何人か 
良さそうなヒトに告られると
とりあえず 付き合ってみたけど

本当にヒトを好きになるって気持ちは
解らないままだった



そんなモン
一生解らないんじゃないかと思ってた







専門に通ってる時
違う学部の祥平と付き合った



祥平は今までの彼氏とは違って
相性が合うなって思える相手で
一緒にいて本当に楽しかったし
楽にいられたし 癒されていた




アタシは一緒にいるうちに
祥平のコトを 本気で好きになっていた





自分もヒトを愛せるんだって 嬉しかった



好きだからこその 楽しさや 喜びや 幸せを
会ってる時も 別々にいる時も 日々感じていて

ほとんど毎日のように アタシ達は会っていた





No.60


祥平と付き合って 一年が過ぎた
ある冬の日のコトだった



その日は祥平は男友達とスノボに行くと言って 会わなかった
美里と都内でショッピングをしてた
クリスマスが近いから お互い彼氏のプレゼント探しが目的



ジュエリーショップを見ようとすると
見覚えのある顔があった

美里もアタシも同高で共通の友達 エミだった



「あれ、エミじゃない?」

「あっ本当だぁ~~!彼氏といるんじゃん?ひやかすかぁ~~~!」

笑ってショップに入ろうとした時 オトコの顔が見えた





………しょう……へい………?


アタシは 放心しそうになる



「ねっ、ねぇ、アレ……祥平くんに似てんじゃなぃ!?」


放心しそうなアタシの様子に気付いて
本人に間違いナイと悟った美里は
アタシの肩を揺すった


「琉那、琉那!しっかりして!
とりあえず、様子見よう!」





幸い 2人はスタッフと話してて
アタシ達のいる通路の方を見る気配はナイ

アタシと美里は ガラス張りのディスプレイ越しから
2人を見ていた

スタッフがショーケースから出したのは ペアリングだった……





2人は リングゲージで指のサイズを測ってる

どう見ても クリスマスプレゼントのペアリングを選ぶ
ラブラブなカップルに見える







ショックだった……

信じたくなかった……

でも今 この目で見ているのは

紛れもない 現実……





なんで…… どうして…… いつから…… エミ…… 

中途半端に途切れながら
紙吹雪みたいに 頭の中を駆け巡る思考



エミと祥平は 当然ながら
アタシを通して知り合ったんだった





ショックで何も言えないアタシとは逆に
美里はアタシの代弁者のようにぽつぽつ言ってた



「何あれ……信じらんない!」

「あの子最低!琉那の彼氏だよ!?」

「スノボなんて嘘じゃん!最悪!」





どうやら 買うリングを決めたらしく 
レジへ行く2人の姿



「ちょっと!今乗り込んで問い詰める!?
修羅場にしてやろうよ!」


美里が言う







でもアタシは 静かに首を横に振った



瞳孔の開いた目の縁に

ギリギリに溜まってた涙が

音も無く 床に零れ落ちた







美里は何も言わずに アタシの手を握って
外に向かって歩き出した






No.61


夜 まだ美里といるうちに
祥平からスノボから帰って来たってメールが来た

如何にもホントっぽい内容の
今日のスノボの様子の報告つきで……





「嘘ばっかり!よく平気でこんな嘘報告出来るね!

……まぁ、当たり前かぁ。
スノボ自体が嘘なんだもんね」

「だよね。
てか、どうしよう……」





とりあえずここは 普通に返信するコトにした
まだ美里と遊んでるコトも書いた

そしたら 電話がかかってきた!



アタシは動揺して 普通に話せる気がしなくて
焦ってるうちに電話が切れた


とにかく 今は普通に話そう
出来たら 尻尾を掴んでやろうよ
美里と相談して決めてから
かけ直す







祥平は 予想外のコトを言った


「琉那が大丈夫だったら会いたかったんだけどなぁ~~」



……さっきまでエミといたクセに
アタシと会おうとするって
どうゆう神経!?



「てか、さっき何で電話出なかったの?
ホントに美里チャンといるの?
まさかオトコいないだろうなぁ?」



……自分がオンナといたんでしょうが!
ナニ?ナニ!?コイツ!!
マジ意味ワカンナィんだけど!?

何でアタシのコト疑うようなコトが言えんの……?



「まさかぁ~~そんなワケナィじゃん!何で?」

「いや?何となく言ってみただけだよ」

「祥平こそ、男友達とか言って
ホントは女の子もいたんじゃないのぉ~~?」



精一杯 冗談ぽく言ってみる
オーバー過ぎて不自然じゃなかったかと思うくらい
囁かな探りを入れてみる



「ン~なワケねぇじゃん!マジ男だけだって!
てか、俺は琉那一筋だっつぅ~の!」



『悪びれもせずよく言えたもんだ』
ってセリフは
きっとこうゆう時に使うべき





解ってんだろ?
と 祥平は言う

解ってるよ
と 言いながら


解ってる……つもりだったよ
って 心で呟いた








電話を切ると 美里は噴き出したように怒って
祥平とエミを罵倒しまくった



アタシは それが嬉しかった

キレるコトも出来ないアタシの代わりに
美里がキレてくれて 
なんか ちょっとスッキリした


美里がいてくれたから 笑えた


No.62


次の日の夜 アタシは意を決して
祥平のアパートへ行った


裁判所にでも行くような気分だ

最も プチ裁判じみた話しをするつもりなんだけどね



去年のクリスマスに祥平が買ってくれた 
指輪を薬指につけて……

アタシのは ペアリングじゃない……







いつものように イチャつこうとしてくる祥平

アタシはそれをさり気なくかわしながら スノボの話題を振る

作り話しを 如何にもホントっぽく話す祥平に
真顔で真面目に言った



「……で?
本当は何処で、誰と、何してたの?」





アタシは 頭の中で

アーミー柄のトレンチコートを
静かに 羽織った









「ぇえっ……?ナニ言ってんだょぉ
ナニ不安になっちゃってんの~~?」



頭を撫でて誤魔化そうとするけど
動揺は隠しきれてない



「昨日、見たよ。エミと居るとこ」


「えっ……マジか!?
イヤ、違うんだよ!誤解だって!
エミチャンが買い物したいってぇ~から付き合っただけでさ!

琉那に変な心配かけたくなかったから
あえて言わなかっただけっつ~かぁ……」


「アタシの友達が何でアタシの彼氏に買い物付き合って貰うワケ?
てか、いつの間にケー番交換とかしてたワケ?」


「ゃ、それはさ、別にそうゆうつもりじゃなくて、流れでさ……

エミチャンも、ちょうど暇な友達居なかったから俺誘っただけみたぃだし?」


「わざわざアタシと会えないって言ってまで付き合ったんだ?
やっさしぃ~ねぇ~~~っ」





やっぱり誤魔化そうとするんだ

そりゃそぅか

でも 正直に謝るなら まだマシだと思ってたのに……


アタシはタバコに火をつけようとする
でも タバコもライターも 小刻みに震えてる

怒りのせいか ショックのせいか
ワカンナィ





「アタシケー番交換も、エミからも聞いてなぃし

てかさ、見たんだょ。
ペアリング買うとこも。見たから」


「ぁっ……」


「もうこれ以上言い訳しないで
正直に話してよ」



何か言おうとする祥平を制するように言った
どうせまだ言い訳しようとしてんだ
冗談じゃない





戦 闘 開 始


アタシの思考回路は

臨戦態勢に切り替わって

ピストルに 弾を込めた




No.63


「もう嘘はつかないでよ!
隠さないで正直に話して!全部!
ミカからも聞いたんだから。
解ってるんだからね!」



ミカはエミと共通の友達
ミカなら何か聞いてるだろぅと聞いたら
実は……とエミから相談されてたと言われた


そこまで詳しい話しは ミカも知らなかったけど
如何にも詳しく聞いたように見える様子で言ってやる



裏切ったのは祥平とエミだ

嘘吐きに ちょっと嘘混じりに言うくらい
全然マシな嘘だろう


ミカを巻き込んじゃうのは悪いけど

ミカだって アタシに隠してたんだ
裏切り者のエミの味方をして騙してたんだ



一体 何人の友達が

アタシを欺いてたんだろう……






祥平は 観念したように
エミとのコトを話し始めた……




始まりは 3ヶ月前

みんなで遊んだ時 アタシがトイレ行ってる間に
携帯交換を言ってきたのはエミ

琉那の友達だからと気軽にしたけど すぐに

『今度2人で遊ぼうね❤琉那にはヒミツだょ❤』

ってメールがきて
後ろめたくなってアタシには内緒にしたらしい


それでも その時点で断らなかったのは
俺も浮気心が生まれたからだと思う……
と 自ら認めた



それから ご飯に行ったり遊ぶようになって
最初は気持ちはほとんどなかったし
気晴らしみたいに思ってたらしい

身体の関係になったのは
1ヶ月くらい前



ちょうど アタシと 一年目の記念日あたり……

そんな時に……!?



身体の関係になって
ますます邪険にも出来なくなって
気持ちも強くなって……

昨日も ペアリングが欲しいとせがむエミに断り切れなくて
地元じゃなく都内なら安全だろうと
買いに行ったと……



しばらく 相づちと ちょっと質問するくらいで
静かに聞いてた





祥平と過ごした一年1ヶ月の間にあった


楽しかったコト……

嬉しかったコト……


いろんな思い出が蘇って

思い出の中の自分が幸せなら幸せな程

胸の痛みは 鋭く
氷のナイフで突き刺されるように
痛かった……



裏切られてるコトに まるで気付かなかった自分を

疑うコトすら忘れていて
それに幸せを感じてた自分を

心底バカだと思った





氷のナイフの痛みは
憎しみへと変わり
怒りの炎でナイフは溶け出した


今度は アタシが突き刺してやろうと思った



これより もっと 深く 痛く……

No.64


「寄りによってアタシの友達と……
てか、友達の彼氏とか エミもありぇねぇだろ……

ナンなんだよ!
アンタも!あのオンナもっ!!」





アタシは キレた

夜中近くなっていたにも関わらず
構わず大声を張り上げた


祥平は ちょっとビックリした顔をして
すぐにうつむいて
ゴメンナサイ……と繰り返した



「記念日の前なワケ?後なワケ!?」


「……ちょっと前……」


「あっそぉ~~~
じゃぁアンタは、アタシの友達を抱いておきながら

アタシに大切な記念日だねとか
アイシテルとか
ずっと一緒にいたいとか言って
アタシも抱いてたんだ!?

スゴィね!マジっすか!?
どんな神経してんだょテメェ!!」





思い浮かぶ限りの言葉で攻め

出来る限り最大限の悪態をつき

クッションを投げつけ


心のマシンガンを撃ち続けた







「本当に、本当にごめん……
でも、本気で好きなのは琉那だけなんだよ!
エミとは遊びだったんだ!
誘われなければ、浮気なんてしなかったよ!考えもしなかったよ!」


「はぁ?
琉那だけとかさぁ、そんなん信じろっての?
バッカじゃないの!?
信用出来るワケないじゃん」



「ホントだよ!気持ちは嘘なんかじゃない!
魔が差したってゆうか……
後戻り出来なくされたってゆうか……」


「ご丁寧に履歴もメールも消し続けたり
アリバイ工作までしたり
こんだけ嘘重ねて隠し続けてたヤツの言葉を信じるほど
アタシはバカじゃねぇんだよっ!

そんでフツゥ~にアタシと会って?ラブラブ気取り?
随分嘘が巧いんだねぇ~~?」


「だって……隠さなきゃと思ったし
琉那とのラブラブは唯したかったからだし
俺、マジで琉那が好きだから……」


「てか、もうどっちでもいいし

エミんとこ行きなよ」


「別れるって事……?」


「当たり前でしょ?」





祥平は ウルウルと目を濡らして
鼻を啜りだした
再び俯いて 鳴き声混じりで言う



「信じてよ……頼むよ……
別れたくなかったから
証拠消したり、隠し通してたんだよ……

エミとはもうマジ会わないし
もう終わりにするって言うよ」


「そんな必要ないし
エミと付き合ってやんなよ
アタシを裏切るくらい、アンタのコトが好きなんでしょ?」


「イヤだよ!エミと付き合いたくなんてねぇよ!
俺が一緒に居たいのは琉那なんだよ!」



No.65


アタシは 怒りを通り越して 呆れた



泣きたいのは アタシの方だよ
泣けば攻められないとでも思ってるワケ?

なんか アタシが酷いコトしてるみたいな気になるじゃん

でもここで
情に流されるワケにはいかない……!

優しくなんて してやらないんだから!






ワザと大きく溜め息をついて

「エミが可哀相……」

と呟く



別に本気で可哀相なんて思ってないけどね
ムカついてしょうがないくらいだ 

てか 友達の彼氏を誘惑するようなヤツ

友達なんかじゃない








真実なんて 確かめようがない


ヒトの気持ちは 見えない

だから ホントの意味で

確かめるなんて 出来ない



例え 全部ホントだとしても

アタシには 信用出来ない

許すコトも 出来ない



もし 今別れなかったとしても

これからも 疑い続けて

何かある度に

いや

何もなくても……だ



不安になり 心配になり

安心なんて 出来ない

信頼なんて 築けない



今までみたいに 幸せに

一緒にいるコトは

もう 出来ないだろう……








パパを ママを 思い出してた


この家庭環境で ずっと
ヒトを 特に オトコを

信用出来なくて
本気で好きになれなくて


やっと 本当にやっと だよ
祥平に出逢って
愛してるって気持ちになって

本当に 幸せだったんだ……



いや 
幸せだと 勘違いしてたんだよね……





結局さぁ……
信じた方が バカなんでしょ?

永遠に続く愛なんて ナイんでしょ?
ナイんだよ 何処にも……







家の外でも 幸せゴッコするなんて

そんなの 冗談じゃない

もう ウンザリだよ




No.66


アタシは 信じきっていた事を後悔した

祥平のコトを 運命のヒト

そう思ってたし 祥平もそう言ってた


そんな自分を 恥じるくらいに……





祥平は アタシの家庭の事情も 知ってた
信じるコトに躊躇する気持ちも 話してた

それなのに こんな裏切りをされたんだ





いくら弁解されても
もう全部 言い訳にしか聞こえなかった

これだけ嘘を重ねてきたヤツなんだ
また嘘言ってんだ と思えてしまうし
何がホントで何がウソだったのか疑問だ 



今まで祥平が くれた言葉 してくれた行動
アタシへの愛ってやつも


もう 何もかも 総てが
信用を喪っていた



純金だと思っていた指輪が

チープな鍍金だったんだと

気付いたみたいに……







必死な様子で話し続ける祥平を無視して
掴んでくる手を振り払いながら
自分の物をショップバックに詰め込んでいく





「本当にもうダメなの?
もう絶対会わないから!
今すぐエミに電話して言うから!」


「無理。
そんなコトしなくていい」



持ち帰る物と捨てる物を選びながら
振り向きもせずに 答える



「マジ俺がバカだったんだって!
もう一生琉那しか見ないから!
だから、考え直してよ!」


「そんなに別れたくないんなら
浮気なんてしなければよかったじゃん」


「違うんだよ……だって……
Hだって一回だけだよ?
たった一度の過ちじゃん」


「Hは一回だけ?
一回なら許されるとでも思ってんの!?
何回も連絡取って会ってたんでしょうが!!

アタシがどんだけ傷ついたか
アンタ解ってんの!?」



解ってるけど……でも……だって……
と 口ごもって
床に這いつくばるように
額をこすりつけるバカは 

廃棄処理決定



更に呆れたアタシは
捨ててく物をゴミ箱に投下して

薬指の指輪も外して
四つん這いになってる祥平の目の前で
ゴミ箱に落として捨てた



今 アンタも 棄てたから……








これが もう一つの
人間不信の理由





No.67


それ以来 アタシは更に

人間不信になり

恋愛を嫌煙した



本気になるなんで バカらしい
本気になったら 負けなんだ
そんな気すらしていた


てか 本気になる心配すらないくらい
アタシの恋愛は 薄っぺらいモノばかりだったけど



唯一の 祥平への愛情は


放心状態の思考と

震えた身体と

許せなかった終わりが

いつまでも 何処までも

本物だったと刻み込まれてた


おぞましいくらいに







だけど そろそろ
ちゃんとヒトを 好きになりたいと思ってた

だって いつだって
まるでオママゴトみたいに
ツマンナイ恋愛を繰り返して


結果は最悪だったけど
また 祥平の時みたいに
本気でスキになって
ちゃんと付き合ってみたいって
思うようになってた







今度は 裏切ったりしない

本当に アタシを愛してくれる

本物の 運命の相手に出逢いたい







そんな中に 現れた 旭

運命かもって思うトコもある

だけど やっぱり躊躇する

不安が頭の中を占領したがる





アタシは 臆病者だから……

ココロを閉じて 丸まりたくなるんだ

小さい頃の アタシのように……



もう あんなに辛い想いは
したくナイよ……



No.68

○流☆星☆群○






天空の双生児が

頂点に降り立ち

肩を組んだまま

羽衣を翻しながら

乱舞する時





星々は次々と 雨垂れを残して

地上に向かい 流れ落ちる







消える前に 願い事を唱えるから


どうか 叶えて欲しいのです


叶うはずも 無いのだけど








舞い踊る程に

羽衣の風はそよぎ

絹触りの優しさで

星を撫でると





まるで 地球に 

吸い込まれる様に


次々と 零れ落ちる 

小さな宇宙の原石





No.69


皆既月食から3日後の 12月14日

旭とふたご座流星群を観る約束をしていた



観測場所は月食を観たのと同じ公園
旭がお店まで迎えに来てくれる約束



お互い仕事だったけど
深夜2時がピークだから 余裕で間に合う

アタシの地元のあの公園は近くはないけど
綺麗に観えるだろうしってコトで





それに アタシにとって あの場所は
旭と運命的な再会を出来た
特別な場所になってた

だから 旭もあの岩の上がいいと言ってくれて
すごく嬉しかった







手早く仕事の後片付けをして旭に電話すると
もう着いてて待ってくれてたと知り
足早にお店を出る





「お待たせ!ごめんね」


「ううん、俺早めに上がれたからさ
琉那が終わったらすぐ出れるようにと思って早く来ただけだよ」


「ぁりがとう~~!
てか、2日ぶり?」


「うん、2日ぶりだね」





またすぐに会えて嬉しかった

お互い笑顔で 楽しい会話が続く車内で
やっぱり 旭と一緒にいると楽しいし
嬉しくなるって感じる





とりあえず 夕ご飯を食べに行ってから
公園へと向かった








深夜ちょうどくらいに公園に着いた
ピークまで まだ2時間近くある



とりあえず車の外に出て
しばらく眺めてみると
たまに流れ星が流れるって程度だった





「どうしようか
今からずっと外に居ても、冷えちゃうよね?」


「そうだよね
今日はこないだより寒い気がするし」


「岩の上に行くのはもう少したってからにして
今はまだ車の中にいよう

琉那が冷えちゃうとイヤだから」



最後の優しい一言に
思わず笑顔になっちゃう!

満面の笑みで ぁりがとうって言って
アタシ達は車の中に戻った




No.70


車の中でいろいろな話しをした

基本的にアタシ達の会話は
旭が喋ってアタシが聞き役になるのが多い

アタシ自身もその方が何かとイイから
こうゆう会話の仕方もアタシにとっては
楽しく話せる事に繋がっていた




ズルいかもしれない

でも アタシには
知られたくナイ事が
きっと 多いから





日常的な些細な事も
旭に影響があった大きな事も

今までより 深い話しもたくさんしてくれて
旭をより深く知る事が出来た

旭が話してくれる その分だけ
アタシ達の仲も深まっていってるような気がした







時間がたち 少し流れ星が増えてきた頃
フロントガラス越しに空を覗き込んで見ていた旭が言った


「もうそろそろ外に出てみようか」

「そうだね、行ってみよう」





旭はブランケットを持ってくれて
この前皆既月食を観た時と同じ場所
洞窟の岩の上を目指して歩き出した

No.71


岩の上に立ち 空を見上げる



風と共に流れる少し乾いた匂いがして
でもそれは
苦しくなるような匂いじゃなくて

自然から生まれる
土や植物、息吹の在る風だった




「ぁっ」

お互い小さな声をあげて
満天の星空を指差す



見逃してしまいそうな 小さな短い流星

一色の虹のような形に 流れる流星

雫が流れ落ちるように 垂直な流星



大小様々だけど
かなり頻繁になってきた





「ここに座ろうか」

旭は 皆既月食を観た時と同じ場所を差し示す


「うん、あの時と同じだね」


穏やかに笑いながら ァタシは膝を抱えて座る


「違うよ。あの時とは」

「ぇっ?そうだっけ?確か……」


自分の居る場所からの景色や枯れ木の位置を
キョロキョロと確認しながら言うと
旭が隣に座りながら言った


「あの時と違うのは、俺と琉那だよ」

「確かにぃ~~」


いつものように明るく言うァタシの横
今までで 一番近い すぐ隣に座って
同じように膝を抱えた旭は
ァタシの足の上にブランケットをかけてくれた



もう夜空を見上げてはいない


真っ直ぐに ァタシを視ていた






「こんな時に何だけど……
いや、今、だからかな……
琉那に話したい事があるんだ」


街灯のぁまり届かない暗闇の中で
旭の潤いのある瞳が 光ってた




ァタシは 何に対してかもよく解らないけど

何だか 覚悟をする気持ちで



旭の話しを聞こうと

唯 旭の瞳を見つめ返して

静かに頷いた

No.72


ちょっと覚悟が必要なような
ちゃんと聞こうと思ったのは

だんだん旭の事が解ってきたから……






旭は太陽みたい

そう思っていた



でも 太陽よりも
満月に近いんだと

最近気付いたんだ





世界中を照らすような光の強さじゃなくて

仄の明るくて
優しくて暖かい月光



弱くても 強く届くようにと
祈るような光は

どことなく 寂しいような青白い光も 
何となく 感じていたんだ





ァタシはか細い三日月

不安定なバランスで
かなり頼りない月


ぶら下がったらポッキリと折れて
落っこちてしまいそうだ



行き先を明るく照らせるような
輝く光は放てなくて


静かに ひっそりと
暗闇に 浮かんでるだけなんだ







そんな事を感じてたから



旭の事を 太陽みたい から
満月の月みたい に
イメージが変わった理由が


きっと 今から話してくれる事で
解るような気がした



それは きっと
旭にとっての 大きなお話し……


No.73


旭は 一つ深呼吸をしてから 話し始めた





「俺さ、実は、実はね……」

「……うん」

「トラウマみたいなもんがあって……
その理由は、友達とその時の彼女の嘘と裏切りなんだ」

「……ぇっ?」





ァタシは驚いた

まさか旭もァタシと同じような事を
された事があるとは思っていなかったから





その内容も 似ていた



高3から付き合った彼女
名前は『ルカ』微妙な事にルナと一時違いだ

結婚して支えたいと思うくらいに好きになって
結婚しようってお互いに言っていた

早く結婚したかったから進学はせずに就職
激務に追われて疲れてても会う時間を作ったり
自炊して節約をしたりして
旭は数年付き合いながらお金を貯めていった

夢を現実に出来るだけの
安心出来るリアリティーと証明を作っていってたんだ





二十歳になった時
いざ ちゃんとプロポーズしたら

答えはNO 



NOの理由は

「私は学校に行って自由や新しい仲間や遊びが出来て楽しみたい中
旭は仕事ばかりで、会える時間も減ってたし
『節約節約』ってケチっぽく思えた
だから会う回数も余計減った

今は一人に縛られるより遊びたいから
付き合ってはいられるけど
結婚はまだ出来ない」

だったそうだ



「誘っても課題が忙しいとか言ってルカも断ってたじゃん」

とツッコんだら
実は、その半分くらいは友達と遊んでいたと……

彼女とは共通の友達が何人か居て
その子達と新しい友達と遊んでるのが殆どだったと





「俺は一生懸命、彼女との約束を守ろうと、実現しようとしてたし
近付けてるつもりだった
でも、彼女にとっては、俺達は遠くなってってたんだ」



友達にも一緒に遊んでる事を隠されてて
一気に裏切られた気分になって
旭は気が治まらないのと
かなり沈んだから相談したかったのとで
親友に電話をかけた と言った


No.74


「親友はさ、勿論、オレが結婚する気でいる事も
それなりに頑張ってる事も知ってたよ」

「うん、マジだったんだね……
就職は大変だもんね」



聞いてる程 ますます自分のされた浮気を思い出す
まかさ…… と 鼓動がはやくなってしてしまう







旭は親友に電話をかけて言った


「ルカから聞いたよ
プロポーズしたら、見事にフラれてさ~~~!
それで、お前達が俺に黙って……」


話してる最中に親友が


「ぁあ~~~……話したんか、アイツ……

あぁ、その、悪いな。マジで

マジ、最初はそうゆうつもりなかったんだけどさ
俺もけっこーテキトーだったしな」

「あぁ、まぁ、しょうがなぃよな。結婚てなると、まだ早いは早いし
でも正直、ショックだよ
特にお前にはそうゆう話しもしてたんだからさ
隠されて分かるより、教えてくれれば良かったのにって思うし」

「ぃゃぁ~~~言えねぇだろ!親友の彼女だぜ?
俺だって罪悪感くらいあるしよぉ
それに、今は、テキトーじゃねぇっつぅか……
まぁそれもルカに聞いただろぅけど」



……? なんか 話しが違う方向な気がすると思いながら聞いてると

親友は 決定的な一言を口にしたそうだ



「まぁ、なんだ、ルカも
近いうちに言うとは言ってたけど
けっこーいきなりだけどさ、俺としては。
でも、受け入れる気持ちはあるからよ

オマエにはホントわりぃことしちゃったけど……
ルカとテキトーに付き合う気はねぇから、そこは安心してくれょ」



「……っぇっ?
オマエらが付き合って事!?」




最悪だ………っ!!!



No.75


親友の話しによると

親友と彼女は よく一緒に遊ぶうちに
まぁ 友達以上恋人未満の関係になり……



旭の彼女は

「近いうちに旭に正直に話して別れるから付き合おう」

と言ってらしい



だから もう別れていて
彼女より先に旭から連絡が来たんだ
と思ってたみたいだった



だから ぶっちゃけた話しをしたら
旭にとっては

「それは聞いてないし、別れてもいない
結婚は今は出来ないから付き合ってるままでいようと言われた」

な訳で……

3人の話しが 完全に噛み合っていなかった





「マジかよ……」

2人の男は お互いにそう漏らして 暫し沈黙をした


彼女は彼らが思っていた程も
ちゃんとしてなかったって事になる



こうなってしまうと
一体どっちが本命なのかすら
この時点では不明だ





「アイツ、どうするつもりなんだろうなぁ……」

最早 ショックを通り越した
冷静な口調で旭は言って

「ホントだょなぁ、何考えてんだろ
つぅか、何なんだろ~~!」

親友も溜め息混じりだけど強い口調でぶつけるように言ったらしい



この話しはとにかく 本人に聞こうとゆう事で
その時は終わったと




旭はァタシに静かに言った

「ショックとかより
意味が分かんなかったし
そうゆう子だっだって……
信じてたのがバカバカしく思えた
仕事頑張ってきた事も
専門行きたいの蹴って就職したのも
意味なかったのかよってさ……」


No.76


翌日 3人で話し合い
彼女は 旭が本命だ とぶっちゃけたらしいけど

旭にはもう 気持ちが殆どなくなっていて
「付き合い続ける事は出来ない 」 と
お別れを申し出たそうだ


親友も 罪悪感と 彼女の旭を選んだ言葉と態度に
もう
「付き合う気持ちにはなれない」
と言い

二兎を追う者は一兎をも得ず

となったワけだ




そろから旭はすぐに、専門学校に入って、銀細工の勉強をして
アクセサリーショップや今のお店バイトをしながら学び
そのまま就職をしたんだとゆう事だった





「辛かったね、旭。」
いつの間にか 繋いでだ手の温もりに
少し力を込めて アタシは言った



増え続けるような流星群を眺めながら
アタシも 決心をした





「アタシも、同じような事があったの。
聞いてくれる?」




アタシも 親友と浮気をされた事や
それからちょっと男性不信とゆうか
信用するのが難しくなっていた事を話した





旭は 優しく抱きしめてくれた

「なんとなく、琉那には話そうって思った
解ってくれるような気もしてたんだ
そう思った意味が、今解った」






風と共に流れる乾いたた息吹の風は

お互いの胸の中に流れる雫を
乾かしてくれるように感じられた

その雫がシンクロして
混ざり合える時
お互いの瞳から雫は零れ落ちて
スリヨセタ頬で
一つの雫となって
溶け合える



息吹の風に雫は乾いていく

心は渇くんじゃなくて 
潤いを増してる気がした





アタシは きっと

見つけたんだ やっと



もう一人の 自分じゃない 自分を

No.77


優しく抱き締め合いながら空を見上げると
今までで一番多いくらいの流星が流れ落ちていた



ピークの2時は過ぎていたけど
実際のピークは2:30くらぃみたいだった

なんていいタイミングなんだろう
空はアタシの味方なんじゃないかと思いたいくらいだ




アタシと旭は抱き締め合ったまま
流星群を見上げてた

密着度を増して 
より暖かく 心地良い体温を感じる



アタシの想い

旭の想い

煌めき宇宙



それら総てが一体化して
土の上から夜空の中へ
ゆっくりと螺旋を描きながら
舞い昇ってるような気がした



まるで 宇宙全体からの祝福の流星シャワーを
浴びてるような気分





何も言わない旭
何も言わないアタシ

言葉なんて要らない





皆既月食の時に感じたのと同じように
この宇宙に 今存在するのは
旭とアタシの2人きりのような気持ちになっていた

No.78


流れ星もだんだん減ってきた
2時ピークと聞いていたけど、実際のピークは2時30分くらぃだったみたい


「そろそろ行こうかかなり冷えてきたし」


旭の言葉に くっついていたァタシ達は離れた

それが少し寂しく感じけど
旭は直ぐに手をにぎってくれたから
また暖かい気持ちになれた





そのまま 「付き合うのかどうか」 の話しはしないままで
車はァタシのマンションの方へと向かった言った




どうしよう どうするんだろう


他愛もない話しをしてる中で

これは両想いなんだろうとか

でもまた誰かと付き合う気持ちにはまだなれないのかなとか

ァタシから言い出すのも微妙かなとか


いろんな事を考えていた

No.79


いくら 運命的に感じるところがあっても

運命なのかどうなのか 確認のしようもない

第一 運命って本当に存在するのだろうか



ァタシは 与えられたらパズルのピースを
自分の願望や都合に良く当てはめていってるだけかもしれない……

でも 旭の行動や言葉は
紛れもなく現実の事で

事実 今日も一緒に流星群を2人きりで見て
助手席に座ってる



焦ってるのかな?ァタシ

何も、今答えを決めなきゃいけないワケじゃない
旭もそう思ってるんじゃないかな





様々な事をの中でグルグル考えてると
あと数分でァタシのマンションに着く距離になっていた



これは カケだな 時間も時間だけど




ァタシは 「マンションに上がってって」
と言ってみる事にした

No.80

>> 79
2人を乗せた車が マンションの前に着いた

それから少しだけ車内で話をしていた

ァタシはその中で
「上がってって」
の一言を 言い逃してしまった……

言いにくい雰囲気とかじゃないんだけど
なんか 旭に変な意味にとられるのもィャだし

なんだかィロィロ考えてしまう



「ぁりがとう。じゃぁ、きをつけてね」

静かにドアを閉めて
旭は手を振りながら走り去って行った……



こうやって 手を振って車を見送るのは
なんだか セツない……





今まで告られてばかりだったけど
自分から告るのに抵抗がぁる訳でもない

久々の本気の恋に 不安を感じたり
躊躇する気持ちもある



でも、なかなか前進する為の一歩の言葉を
自分から言い出せないのには

もうひとつ 理由があった……


No.81


暗い室内に間接照明だけで灯りを灯す

琉那はそのままソファーの上に倒れ込むように寝転がった
暫くそのまま動かないままだ



その顔は
嬉しさと 寂しさと そして何よりも
迷いが
色濃く浮かんでいた


仰向けになり、薄暗い天井を見つめるその眼には
様々な思いのスクリーンが広がっているのだろう



暫くそうしてから 起き上がり、煙草に火をつける
そしてまた何かを考え込むようにぼ~~~っとしながら
白い煙がくゆりながら昇り行くのを眺めていた





それから、思い立ったようにクローゼットを開き
ルームウェアや下着を持つと、バスルームへと向かった



琉那は、シャワーを浴びながら
髪や身体の汚れと共に
疲れや寒さ
それに、心の汚れも洗い流すように
ゴシゴシと念入りに洗い続けた


No.82


お風呂上がりのスキンケアやヘアケアを済ませた琉那は
再び考え込むようにぼ~っとしていた







安心して 満たされると

この両手に もっと欲しいと
欲張りになって 求めて

きっと そのうちに

溢れて零れ落ちてしまう



アタシは卑しい







幸せに 包み込まれると

その 包み込んでくれてる
優しくて 柔らかな 羽根が

無くなってしまわないか

不安になっていく



アタシは臆病者







だから旭とこれ以上の関係になる事に躊躇してる

だけど 他にも躊躇する事があった







暫くしてから、ゆっくりと立ち上がり
ベットサイドのチェストからゴソゴソと何かを取り出す



その手に握られていたのは
緑色をした丸っこい何か……





それは マリファナだった

No.84


琉那がマリファナを初めて吸ったのは
18歳の頃だった



きっかけは麻美
とゆうよりも あのclub astrayだった

astrayのオーナーはclub経営だけじゃなく、クスリの売人もやっている
恋人のような存在の麻美は いつでも無料で
好きな物を貰える

麻美が一緒に居ない時でも
麻美の友達である琉那も無料で貰える



そんなお手軽な環境に居て
次第に量や回数が増え
マリファナ以外の物も使うようになっていった





ピークは二十歳の頃
毎日何かしらをやっていた

astrayで
公園で
車の中で
友達の家で
実家で
マンションで



まるでドラッグを使う事が当たり前の事のようになっていた琉那は
完全にヘビーユーザーだった





今は週2、3回くらいに減ったけど
それでも少ないとは言えない回数だ





マリファナは身体的依存がないけど
精神的依存がある

他のクスリは 中毒になる程の量ややり方をしてないから
減らす事はそれ程困難ではなかったけど
マリファナ特有の多幸感や心地よさからは
なかなか離れられずにいた



マリファナ以外のドラッグも
使う時があるし
最近のモノはどんどん品質が落ちていて
合法ハーブ つまり脱法ハーブ等にも手を出していた



それも astrayのオーナーのアドバイスとゆうか
悪いアドバイスのお陰様だ



astrayに居る時、アルコールだけの時もあるけど
ドラッグを使っている時の方が多かった





旭は 勿論 その事実を知らない


……旭はこうゆうのやってるタイプじゃないもんね……



それが 躊躇する大きな原因になっていた





ちなみに、旭と出会った時はノードラックで
アルコールだけだった

No.85


琉那はパイプにマリファナを入れる

火を点けて深く吸い込み

出来るだけ息を止めてから吐き出す

それを繰り返す





旭と出会って生まれた罪悪感のような気持ちと
心地よさを求める気持ちとで
迷いながら、揺らぎながらも

火がつかなくなり燃えなくなるまで吸い続けた







……あんまり悪い方に考えすぎてバッドに入ったらイヤだな……
楽しい方に考えよう……





静かだった室内に、明るいヒップホップの曲を流して
気持ちをアップさせていく

それから
旭と過ごした楽しい時間や
嬉しい気持ちになれた事を考えるようにした



出会った日のシンクロ感

再会の運命を感じたあの時

今日過ごした温もり……





気怠い気持ち良さと
渦巻くように身体に響く音に
揺られるまま身を任せて

その世界に自分を浸し
ふんわり笑ったまま
目を閉じる



陶酔状態のまま
ベットへ倒れ込むように横たわった

No.86


翌日の夜 琉那はastrayに居た
爆音のプログレが流れる中、麻美と莉央と3人でVIPルームへ向かう
麻美のお陰でいつでも出入り自由だ



clubのVIPルームは出演のDJや友達
イベントのオーガナイザー(主催者)や関係者、その友達などが入れる特別ルームのようなもので、
フロアーに人が多い時でもここならゆっくり出来る



でも琉那達、と言うより、麻美達が行くのは
もうひとつのVIPルーム

オーナー専用のVIPルームだった

通常のVIPルームと違い、出入り出来る人間はかなり限られている
ゆっくりゆったり過ごせるだけではなく


オーナー専用VIPルーム=何かをキメる

ほぼそんな感じでその部屋は使われていた



普通の来客は、フロアーやトイレでキメる人も勿論居るし
琉那達も別のclub友達と居たりすると、そうゆう時もあるけど

やっぱりVIPルームは私服警官とか気にしなくていいから
安全だし、安心してキメられる場所だ

そして、一目を気にせずブッ飛べる





莉央が麻美に問いかける

「今日は何キメるのかなぁ」

「さぁ?行ってみれば分かるよ」

ニコリ、とゆうよりニヤリ、と笑いながら
麻美が莉央と琉那を振り返って見た

麻美はドラッグが大好きだ
今でも毎日のように何かをしていた

No.87


麻美がVIPルームのドアを開ける

「来たぉ~~~ん」

手を上げながらルーム内に入る


「どぉ~~も」
「ぉはでぇす」

琉那と莉央も軽い感じでご挨拶する


「おう、いらっしゃぁい!まぁ座って座って」

オーナーが待ちかねていたように
3人をソファーへ促す



それは高級な物で、適度にふんわりする座り心地がいいソファーだ

その部屋は6畳程の決して広くはない部屋だけど
通常のVIPルームより何倍もお金をかけているであろう
ソファーもテーブルも絨毯も
置かれている物の何もかもが、高級感を伺わせる





オーナーはすかさずバックに手を入れ、ゴソゴソと何かを探している



「今日はねぇ~~~、これだ!」



オーナーが言うのと同時にテーブルに置いたのは
正方形に近い長四角のパッケージ
絵と銘柄が書いてあるシールが貼られている





それは合法ハーブだった

合法と言っても名ばかりで規制をくぐり抜けた科学成分で造られているから
中身の成分も特定出来ない、何が入っているか分からない物だ


質の悪いドラッグと比べたら
どのくらい身体に負担がかかり
脳や身体を蝕むのだろう

どっちの方が悪魔のしっぽを持つような副作用がマシなんだろう……

No.88


「今日はハーブの日かぁ~~」

合法ハーブのパッケージを手に取りながら麻美が言う

「そうなんだよ。今さぁ、ケミがいいモノなくてさぁ、だったらハーブの方がいいくらいなんだよ~~。
混ぜモン多かったりとかでさぁ~~」

「まぁそぅだよねぇぇ~~~」


おもむろにパックを空け
オーナーが、これはなんて名前で吸うとこんな感じで
とか説明してる中
とりあえずみんなで匂いを嗅いでみる



見た目は細かいマリファナみたいな葉っぱだけど
合法ハーブの匂いは完全にケミカルの匂いがする

得体の知れない何かの葉っぱに
科学合成の粉をまぶしたり染み込ませたりしているらしい





それでも手を伸ばすアタシ達はやっぱりジャンキーなんだ

まぁ覚醒剤やコークだって
何がどうなって何が入ってるかなんて
信用ならない世の中だけど





オーナーがパイプに葉っぱを詰めて麻美に渡す
麻美から琉那へ、琉那から莉央へ
莉央からオーナーにパイプを回す



昔の合法と違って、今の合法ハーブは、一口、二口で十分な効果が得られる

正直、本物のマリファナより少量でブッ飛んでキマル

葉っぱを詰め替えて2周回した頃、琉那と莉央は
既に効きがきてて
酩酊状態へと入っていった



オーナーと麻美はドラッグ慣れしてるから
まだ吸い続けてる





みんなで話す笑い話しがいつもより笑える
全員何がおかしいのか分からなくなるくらい笑いまくる

その楽しさと
フロアーから響いてくる音に持ってかれて
いい気分になっている



飲み物を飲みながら
タバコを吸いながら
1時間くらいその状態を楽しんでると

琉那の携帯が鳴った

No.89


見てみると、旭からの着信だ

「ぁっ!旭だ!……どうしよう」

追い焚きもしてた琉那は、果たして今マトモに話せるのか
ちょっと自信がない



「なんか変な様子とか勘ぐられても微妙だから、今は出ない方がィィんじゃなぃ?」



旭はアタシがドラッグやってるの知らないし
やるタイプでもないから……
とゆう話しを聞いていた2人は
念の為にストップをかける



「そぉだよねぇ~~今話すのは流石にチッとやばそうだょ」



琉那は電話が鳴り終わるのを待ち
かけ直しはせずに
メールを打つことにした

それでも、文章を作るには一苦労だ;



「こんばんはぁ🌙どぉしたの❓☺今アタシastrayにいて
音デカいから💌にしたょ」


短い文章を打つのにも、いつもより時間がかかる



その間みんなは

「がんばれぇ~~~シラフを装え~~~ぇ」

と、面白半分に応援してくれる(笑)



やっと送信ボタンを押して、一息つく琉那



旭から返信が入る

「俺も今からastrayに行こうと思ってて、📱したんだ!
まだ友達と待ち合わせてる最中なんだけど
会えるかな❓✨」



会う!?
会いたい でも
こんな状態で会ってバレないのかな!?



再び、どうしようと言ってる最中、麻美からアドバイスが入る

「とりあえずさ、まだ来るには時間もちょっとかかるみたぃだし、
旭が来てからも、今VIPに居るからそのうちに行くねってすればょくない?」



確かにそれが一番良さそうな切り抜け方だから
そうする事にして、返信を送った



「じゃ、もぅちょいしたら、コレ飲みなよ」

オーナーが安定剤をくれた

キメてる時に終わらせたい時とかに
安定剤を飲んで落ち着かせるのはいい方法だ

No.90


安定剤は キマリ過ぎたり、バッドになっちゃった時にも使える


旭から返信がきた

『わかったぁ😃とりあえず着いたらまた💌するね✨』

『ぅん😃きをつけて来てね』



旭とのメールも無事に終えて、もぅちょっと楽しみ
少ししてから安定剤を飲む


あとはお酒を呑んでる事にすればいい




そのうちに旭からメールがきて


琉那はみんなに
かお大丈夫?
ピヨってない?
と確認してから、みんなに言った

「じゃぁちょっとリアル世界に行ってくるゎぁ~~~」

「行ってらっしゃぁ~~い
うちらはもうちょいあそんでるゎ」



みんなにバイバイと手をふられながら
ルームを出て行った



確認はしたものの、このハーブ
とゆうより最近のハーブはは強いから
内心心配だった



琉那が出て行った後、麻美は言った

「旭くんもやればィィのにねぇ~~こうゆうの」

「まぁねぇ~~それが一番琉那にとってもうちらにとってもィィ事だけど
やってる事自体がょくない事だかんね、一応」


そりゃそうだぁ~~~うちらはダメダメだかんねぇ~~~
と3人は笑い転げた


脱法ハーブやパウダーは、ニュースになる事も多くなり
決して身体や脳にいいモノではない事は
みんな分かっている

でも、こんくらいのやり方と量なら
そこまでダメージないでしょうともタカをくくっていた



No.91


実際、ニュースになるような何かやらかした人達は
軽い考えだったり
よく分かってないままヤリすぎたり
上を求めて行き過ぎたりして
コントロールが効かず、自分を見失ってるような内容の事件ばかりだった





行き過ぎたらヤバいのは

合法でも非合法でも同じ事だ



一歩間違えば

病院送りになるか
事件になるか
おかしくなるか
死に繋がるか……

後遺症だって残る
これらは、そんな物なのだ



それを分かっていながらも、琉那達はドラッグに手を伸ばす
分かってると言っても、軽視している事も
間違いなかった



その甘さには
散々、覚醒剤やMDMAやLSDや合法ドラッグををしょっちゅうやっていたのに
結婚してマトモな子供を産んでる子が普通に居る事もある

「脳や身体に悪いと言ってもその程度」

そんな考えをみんなしている



一口に合法ドラッグと言っても
ハーブ、パウダー、リキッドなど
色々な種類があり
商品数も色々なモノがある

一つ一つ、副作用があり
それには脳を一度壊したら再生しないような成分も含まれている



合法ドラッグと言っても、所詮は脱法ドラッグ
法律から逃げ、規制された成分を避け
少しずつ成分を変えて潜り抜けてるだけで
規制が進めば進む程、身体や脳への負担も強くなっているのが実際の事



そんなモノを、旭に勧める気にならなかった

だから琉那は、旭を取り込もうともしないし
ドラッグをしている事を、知られたくはなかったのだ


No.92


お酒を呑んでると思われる為に注文したノンアルコールのカシスオレンジを受け取った琉那は、
チルアウトのソファーで待つ旭を見つけて手を振った

旭の友達も一緒に居る





「旭!お待たせ~~~。こんばんはぁ」

旭の友達に笑顔で軽く頭を下げる

内心、変なかおしてないかな!?おかしいと思われたらどうしよう!
と、ドキドキしている



「俺らもさっきここ着いたばっかだよ。
こいつ、健一。琉那と初めて会った時一緒に来てたヤツなんだ」

「旭からよく話しには聞いてたよ。よろしくね、琉那ちゃん」
「よろしくね~~」

握手を交わす琉那と健一
と同時に旭が言う

「よくって……!そんなに色々話してないだろ~?」

照れたように焦り気味の旭に琉那がツッコむ

「ぇえ~~~何を話してたのかなぁ?」

「何でもないよ。別に、お前とclub行った時に知り合ったとか、偶然再会したとか、そんな感じ!」

「うんうん、そんな感じだなぁ!」

健一はニヤニヤしながら言う

「そんな感じかぁ」

笑いながら期待混じりで琉那は言った
全然大丈夫そうな様子の自分にも安心した
笑顔でばかりいるのも
そう可笑しい事ではない
酔ってると思われていれば尚更だ



旭をくすぐるような笑い話しは、琉那もくすぐったくなるような気持ちになる





チルアウトで少しお喋りをしてから
3人はメインフロアーに行く事にした

メインに向かいながら旭が問い掛けた

「てかさ、友達は大丈夫なの?」

「うん、今日はVIPでゆっくり過ごすって言ってたから。
気が向いたら、出てくるんじゃん?」

「そっか。それなら大丈夫か、良かった」



こんな風に自分の友達の事も気にかけてくれる
そこも旭にひかれる理由である

No.93


今夜は人気DJが来る事もあり
ちょっと混みぎみのメインフロアーで3人で踊る



健一にも琉那の踊りは好評で、褒めちぎられていた

勿論、褒められて悪い気はしない、ハーブの効果もあって
いつになくハイテンションになる



そして、初めて出会った日のように
旭とセッションをする
club初心者とは思えない踊りに
琉那は一層魅了されてしまう



やっぱり旭と踊るのは楽しい……!
琉那はまたそう感じていたし、旭も同じだった
旭もまた、琉那のテンポのいいしなやかな踊りに魅了されていた




2人のセッションに健一も加わり、3人で小さな円を描いて
笑い合いながら、時々お喋りもしながら
3人は何曲か踊り続けた





そこへ、麻美と莉央がやって来た
ポン、と琉那の肩を叩き、琉那が2人に気づく

爆音の中、琉那は旭と健一に麻美と莉央を紹介する

4人は握手をして、みんなで踊り始めた






もう、殆どハーブが抜けている様子の麻美に
一応琉那が問い掛ける

「2人とも今シラフ?」

「ほぼシラフってるょ!だぁいじょぶだょ~~~!旭くんにバレるような様子で来たりしなぃよ!」


ポンポンと琉那の背中を叩く


「あの後、パウダーもスニったけど、もう抜けてるしね。
もうすぐメインLIVEだし
とりあえず楽しもぉ~~~!」

莉央も笑顔で話しかけてくる



パウダーをスニるとは、コークのように脱法ケミカル、
パウダーをスニフと言って、鼻から吸う事



「ぅん!踊ろぉ~~~!」

再びみんなで踊り出す


No.94


大盛り上がりのメインLIVEも終わり、休む事になった

フロアーのテーブルに行き、みんなで
「はぁ~~~っ」と椅子に座る


みんなでたわいもない話しをしながらフロアーを見渡す

「今日マジ混んでるね」

「そだね、でも人気LIVEも終わったし
明日早い人とか帰るからだいぶハケるんじゃん?」

「だねぇ~~っ」



そこに健一が話しかける

「みんなVIPに居たって言ってたけど、そこって俺らは入れないの?」

「おい健一、それは図々しいだろぅ」

旭が牽制に入る

「ぁあ~~、今さぁ、オーナー帰っちゃったから、もう入れないんだよね~~
ごめんねぇ~~~」

麻美が答える

「そっかぁ、VIPて入った事ないから興味あってさ
そりゃ残念だけどしょうがない」

「また今度、機会あったらね」

にっこりと麻美が返す





オーナーは実際、もうastrayから出て行っていた

でもVIPルームに2人を連れて行けない理由は
他にもあった



しょっちゅう何かキメるのにつかってるあの部屋は
換気扇がついてると言っても
マリファナ臭やケミ臭い匂いが染み付いている



オーナーなら多分、琉那の友達って事で
入室をO.K.してくれるけど
アンチドラッグな子だと、多分微妙……



しかも、ちょっと前までやってたんだから
尚更、2人をルーム内に入れられなかった





メインが終わったせいか、さっきよりかなり人が減っていってた

爆音の中ではあるけど、話しやすくはなった
みんなそのままドリンクを飲みながら暫く話す事になった

No.95


すると、琉那の隣に座ってる旭が琉那に話しかけた



「琉那、クリスマスとイブは予定あるの?仕事」

「ぁ~イブは早番でクリスマスは遅番だょ。
予約もぁるけど、駆け込みのお客様が来たりするから彼氏居る子が休み優先なの。
まだ何も予定決めてないょ~~」


もしかして、お誘い!?と内心ドキドキだった

「俺もイブは早番なんだ。クリスマスは休み貰えたんだけど
……良かったら、イブ一緒に過ごさない?」


やっぱり!!!
と琉那は心の中で飛び跳ねた!

「ぃぃょぉ~~!予定入って良かったぁ!」



旭はクリスマス休みかぁ
アタシも休みだったらなぁ~~ってちょっと思う琉那

クリスマスシーズンはネイルの予約も増える
琉那のお店は人数もいるし、それ程バタバタしなくてすみそうだ
ちょうど土日がクリスマスなので、イブの予約が多かった


残業にならず早番の時間で上がれるかどうかで
旭と過ごせる時間も決まる



琉那のテンションは踊ってる時と同じくらいになっている



そのままみんなの話しは盛り上がり
もう一度フロアーへ出て踊ってからバイバイした


No.96


ドラッグをやってる事がバレないか……
ケミ臭い匂いが自分からしてないか……
しょっちゅうそれを気にしていた琉那にとって

クリスマスのお誘いは
予想外のクリスマスプレゼントとなった





その後日、電話をして、イブは大規模なイルミネーションを見に行く事に決まった

イルミネーションが大好きで旭が大好きな琉那にとって
それは楽しみで仕方ない1日となっている







そして、イブ当日

きっちり早番で上がれた琉那と旭は、イルミネーション会場へと向かった

色とりどりのかなりの数の電球で彩られたイルミネーションは

花や動物の形をしていたり
一面のイルミネーション畑になっていたり

煌びやかで美しい広々とした光のアートは
非日常を感じさせて、仕事の疲れなんて吹っ飛んでいった


音楽に合わせて色や形が変わるイルミネーションもあり
2人は踊り出す寸前なくらいにハイテンションでイルミネーションを楽しんでいる



広い会場をゆっくり歩いたり、立ち止まって眺めたり、写メを撮ったりしてると
思っていたより時間がかかっていた

特にどこでと決めていなかった夕食は、会場内のレストランで食べる事にした

No.97


会場はかなり寒かったけど、レストラン内は暖かい
冷たい風に吹かれて冷えた身体は、みるみる温もりを取り戻した

バッチリ防寒対策をしていた琉那は
毛糸の帽子と白いダウンコートを脱ぐ
旭も厚手の黒いトレンチコートを脱いだ



まずはオーダーをして
イルミネーションの話しで盛り上がる2人



「あの音楽に合わせて点灯するやつ!スゴイ良かったね!」

「うん!俺はあれが一番好きだなぁ~~」

「アタシも~~!あっでも、ハート型のイルミもかなり好きだなぁ~~」

「ここに来て良かったね」

「うん!旭が選んで連れてきてくれたおかげだよ!ぁりがとうね」

「良かった!琉那が喜んでくれて……!
ちょっと遠かったけど、めちゃくちゃ来た甲斐があったよ」


2人の話は尽きない





家族連れやカップルが大多数で賑わう会場で、レストラン内で
2人は周りからみたら、どう見ても付き合って見える2人

だけど、付き合ってはいない2人……



その2人の関係は、帰りに変化する事となった

No.98


帰りはもう深夜近くなっていた

琉那を送って、マンションの前で

「ちょっと待ってて」

と、トランクに向かい、何かを出してきた





それは、クリスマスプレゼントだった!

「えっ?もらってもいいの?」

プレゼントを貰えると思っていなかった琉那は
驚いた様子で旭に問いかける



リボンをほどき、綺麗な包装を開ける

プレゼントは、旭が造ったオパールを使ったブレスレットだった

アメジストが3個づつ並ぶ真ん中に
キラキラ光る大きなオパールは
華やかに存在感を示していた



「スゴイ綺麗!ぁりがとう、旭!サイズもピッタリだょ」

琉那は感激していた



それから、琉那もバックから旭へのプレゼントを取り出して渡しながら言った

「実は、ァタシもあるんだ、旭にクリスマスプレゼント!」

「えっ!マジで!?」



琉那が旭にプレゼントしたのは
ストールだった



「旭はアクセサリーは自分で造れるし、どうしようか悩んだんだけど
ストールなら色々使い方もぁるし、寒い時期だからいいかと思って」

「ぉお~~カッコイイじゃん!マジぁりがとう!いっぱい使うよ」



旭も早速ストールを巻く

付き合ってもいないのに、流石に手作りマフラーとかそんなのにはならないけど
ネイビーブルーとブラックの生地を使ったストールは
旭によく似合っていた



「サプライズのつもりが、逆サプライズされちゃったな」

笑顔でストールをいじりながら旭は言った

「ァタシもだよ。旭に似合いそうと思って買わずにはいられなくてさ」

と言う琉那は、実際は旭のプレゼントを買うために
何件もお店を回って探していたんだ







琉那は、今日こそ勇気を出して言った



「良かったら、上がって行く?」

No.99


「いいの?でも明日、仕事でしょ?大丈夫なの?」

「明日は遅番だから夜更かししても大丈夫だょ」

「じゃぁ、ちょっとだけ、おじゃまします」



旭はあの、くったくのない笑顔で答える

こうして旭は、初めて琉那の部屋に入る事となった






マンションの13階にある部屋の前に辿り着く
お互いに少し、緊張している空気を感じる



……ャバィ、なんかドキドキする!旭の事だからいきなり何か起きるとかナイと思うけど……

琉那はそう思っていた





「ソファーにでも適当にくつろいで。」

一声かけてから、琉那は温かい紅茶をいれる





「ホントいいとこ住んでるんだねぇ~。綺麗にしてあるし、置いてある物もかわいいし、女の子らしい部屋だね」

「そぉ?ぁりがとう」

とか言いながら
普段からあまり散らかす方ではないけど
もしかしたら旭が来るかもと期待をして
いつもより念入りに掃除をしてあった



琉那の部屋は黒とピンクと白の色の家具で纏めてある

中でも、黒地にピンクで蝶と華が描かれているカーテンはお気に入りだ



琉那は

「どぉぞ」

とアプリコットティーを旭の前に置いた

No.100


琉那は旭の隣に座り、テレビを点ける
もどかしいような恥ずかしいような気持ちと状況を紛らわすように



それから2人は再びイルミネーションの話しで盛り上がり
違うとこにも行く約束をした

テレビでやっている映画の予告を見て
お互いに観てみたいと言って
映画を観る約束もして

2人は観るテレビや映画の好みも似ていた
もう、似てない所の方が少ないくらいだった



「またastrayで遊ぶ約束もあるし、琉那とはだいぶ約束したね。
そんなに時間俺が奪っちゃっていいの?」

旭は問いかけた

「いいんだよ!てゅうか、旭と居ると楽しいし。」

ホクホクの笑顔で琉那は答えた

「俺も、琉那と一緒だと楽しいよ」





僅かに、2人の間に流れる空気の香が変わった

ソファーの隣に座る2人

旭が琉那の手に、手を伸ばす
そして、琉那の手を優しく掴んで
旭は言った





「琉那。良かったら、俺と付き合って欲しい。」



旭の眼は、真っ直ぐに琉那の顔を捉えていた
唯、真っ直ぐに……

No.101


琉那も、旭の眼を
真っ直ぐに見つめ返していた

「うん。嬉しい」

その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる



旭は思わず琉那を抱きしめた



「良かったぁあ~~~!断られたらどうしようかと思った!」
深夜とゆう事を忘れたように旭は大きな声を出した



琉那も、旭を抱きしめた

「そんなヮケないじゃん」

ちょっと涙声になっている





抱きしめる腕を少し緩めた旭は
琉那の顔を見つめる

琉那は照れたように目線を外す



ギリギリに溜まっている涙を親指受け止めながら
旭は問いかけた

「何で涙目になってるの?」

目線を外したまま、琉那は答えた

「嬉しいから……」



旭は優しく、ふんわりと笑って、琉那を見つめまたまま言った


「ねぇ、こっち向いて?」

琉那は旭の眼をゆっくりと見上げる





旭は、ゆっくりと

キスをした

No.102


時間は深夜12時を回っていた

なので、記念日は12月25日のクリスマス



旭と琉那は、いつ頃から好きになったのかとか話しながら
再び抱きしめ合ったりキスをしたりして
1時間程たってから、旭は帰って行った





旭が居なくなって、少し寂しさを感じていた琉那
でも、旭が仕事がある事を心配して帰って行ったので
一人で更に夜更かしする訳にはいかない

仄かに残る旭の温度や
マグカップとか、旭の居た形跡に余韻を感じながら
バスルームに向かった





今夜はシャワーだけじゃなく、バスタブにお湯を張り
ラベンダーの匂いの入浴剤を入れて
ゆったりと浸かる





温かいお湯に包まれながら
今日はまるで夢のような1日だった、と
照れたり喜んだりしながら、思い返していた



これからは彼氏として、旭が居る
今までより、メールや電話をしたり
会う事も出来る
これからの毎日を、楽しみに思えた





旭もまた、琉那と同じように
バスタブに浸かりながら
琉那の事を考え、余韻に浸っていた

No.103


それから、琉那と旭は順調に付き合っていた



勿論約束していたイルミネーションとかも見に行き
一緒にastrayにも遊びに行き
お互いのマンションとアパートを行き来して
お泊まりもして……

予想通り、2人の相性は良く、日々楽しく過ごしていた





それでも琉那は、元彼の祥平の痛手を拭い去る事も
ドラッグをやめる事も出来なかったけれど……





旭と一緒に居て

嬉しい

楽しい



だけど、それと同時に

寂しい

不安



そんな気持ちも混在していた





今まで自分自身が本当の自分自身を見せずに付き合ってきた分でもある

その根底の祥平の裏切り
複雑な親への気持ちや家庭の事情




どうしても疑いを持ったりしてしまう

旭がいくら優しくても
琉那だけを見ていても……

その想いが、まるで水の中に墨汁を流し込んだように
奥深くまで浸透し、水底に溜まり

心の底から安心する事はできなかった



それは、旭にも伝わっていた

ケンカや言い争いがある訳ではない
いや、ないからこそ、旭は疑問に思っていた



どことなく、琉那は遠慮しているような……
戸惑っているような……
それに、何か知られたくない事があるような雰囲気も
旭には伝わっていたのだ





旭の方は、元カノの浮気の事は、もう克服出来ていたし
琉那が浮気をする心配もしていなかった

旭は、琉那を信じていた
だからこそ、琉那にも自分を信じて欲しいと思っていた

No.104


4月の過ごしやすいとある日
その日は、翌日がお互いに休みで、旭のアパートにお泊まりをしていた




旭は隣で寛ぎながら雑誌を見ている琉那に切り出した



「ねぇ、琉那」

「なぁに?」



寝っ転がってる体制からちょっと起き上がり
旭の方を見た



「なんかさ、前に言ってたじゃん?元彼の事とか……」

「ぁぁ……うん……」

「まだ、忘れる事は出来ないの?」

「忘れられないとかじゃないよ。もうとっくに何の気持ちもないし……」

「うん、それは分かってるんだけどさ。
なんてゆうか、トラウマ的なさ……」

「それは……なんか、そのコトでイヤな気持ちになったり、投げやりになったりしたから……
トラウマと言われたらそうなんだろうけど……」



旭も、上手く言葉に出来ない
琉那も、そんな感じで

旭からの突然の問いかけに
少し戸惑っていた



「それは、俺に対しても、そうゆうのあるの?
なんてゆうか、浮気の心配とかさ」

「旭が浮気してるとか、するかもとか、そんなコトは思ってないよ!」



琉那は起き上がり、旭と向かい合った



「どうしたの?いきなり」

ふいに自分の不安感を言い当てられた感じで
琉那の顔は不安に曇っている

No.105


旭は琉那の顔を見つめて答える

「う~~ん、なんてゆうか、琉那はどこか一歩引いてるような感じがして……
遠慮ともちょっと違う気がして、その事なんじゃないかなと思ったんだ」

「……そっか。ごめんね?」

謝る琉那に少し焦る

「いや、謝る事じゃないんだよ!なんか、心配になっただけで……」

「ん、心配させちゃってごめんね」



まただ。前も軽くこんな話しになった時も
結局琉那が謝って、その時は話しが曖昧に終わった



琉那の不安感は好きだからこその不安

旭の不安感もまた、好きだから産まれた不安や疑問だった



「旭のコト、好きだよ?疑ったりもしてないし……」

「うん、俺もだよ」

「唯、少し……不安になる」

「それは、何の不安なの?」

少し考えて、琉那は答えた

「……ワカンナイ……」



不安そうな顔をする琉那を、後ろから抱きしめて
優しく頭を撫でる

「分からないんじゃしょうがないよね、ごめんね」

「ううん、旭は悪くないよ!心配させちゃってごめんね」





その夜、2人は
抱きしめ合いながら眠った

No.106


次の日、公園を散歩したり、のんびりデートをしていた

その時、琉那は考えていた
昨日の話しを……

旭は、心配させちゃってごめんね、と笑って言う琉那を
強く抱きしめて、言った

「泣かないで」

って、そう言ったんだ……







……
もう 踏み込んで来ないでよ


ナンで 旭は 解っちゃうの?


誰も 気付かないような 小さな異変とか

ナンで そんなに 優しいの?


笑ってるアタシに

『泣かないで』

なんてさ


おかしなコトを 言うんだね





暖かい手で 優しく頭を 撫でたりしないで


アタシは 弱く ナリタクナイんだ


強がり 積み重ねれば 強さにナルんだ



旭のちょっとした言葉や行動で
アタシの存在が持ってかれる


それが 少し 怖いんだ……








優しさ

それは、大きくて

たまに、怖い事



元々、リアリティーから逃げたくて
単純に簡単に楽しくなれるドラッグに手を伸ばしてきた琉那だ

なかなかリアルに向き合えないところがある


No.107


勿論、旭を信じていない訳じゃない

多分、誰が相手でも、琉那はダメなんだ

刻み込まれた
寂しさや
冷たさや
裏切りや……

いろんなマイナスの感情の渦巻く水底の漆黒を
綺麗な透明にするには、時間も手も必要だ



視界が悪いままの水面を
琉那は泳ぎ続けている

深く潜る事すら、琉那にとっては恐怖を伴うものだった



それから逃れるように
手を染めたドラッグ……
それを断ち切る事もまた、出来ない



だけど、それを言う事は出来ない
旭に嫌われるかもしれない……
その恐怖感も強くあった






旭は、琉那が浮かない顔をしている事に気づいていた

灰皿のあるベンチで一休みしよう、と声をかけ
2人並んでベンチに座る





「体調悪いの?大丈夫?」

旭は琉那を気遣う

「ううん、大丈夫だょ」



琉那は考え込むようにしている時
いつも『大丈夫』と言うのだ
それはもう、旭も分かっていた


「昨日の話し、気にしてるんでしょ?」

僅かに、ピクリと反応する

「そんなコトないょ」

それでも琉那はやっぱり取り繕ってしまうんだ





「琉那。俺は、何でも話して欲しいと思ってるよ。
琉那のトラウマが俺より強いって事も分かってるし、
それが無くなるように出来る事は何でもしたいと思ってる」





……チガウ チガウ チガウ
そうだけど チガウの……



旭は何も悪くない
だけど、琉那は追い詰められてしまうんだ



言えない事に余計罪悪感を持ち
やる事に更に罪悪感を持ち……
最近は悪循環になってしまいつつある

No.108


……旭は追求しようとしてる
でも、言えるワケがないよ
家と元彼のコトも、これ以上どうにもなんない気がするし……





琉那の両肩に置かれた旭の温かい掌は
だんだんと重みを増していっている



「琉那。俺は、何でも話して欲しいと思ってるよ。
独りで考えないで、一緒に考えていこうよ。
琉那?」



何も答えない琉那に、旭はまた問いかけたりしている





「もぅ……やめて……お願い」

そう一言言った琉那に旭はハッとする

「ぁ……ごめん!俺は、唯……」


戸惑いとも動揺とも思える感じの旭は
上手く言葉が見つからない





「……もう、帰ろう……」



琉那は前を見て立ち上がり、歩き出した



旭は何も言わず小走りで追いかけ
それ以上はしゃべらずに
琉那の隣に並んで歩いて行った



夕暮れが近づき
グラデーションの空が
美しくそこに在って

混ざり合うブルーとオレンジとネイビーが
やけに2人の視界に入ってた……

No.109


旭のアパートに着く
旭が鍵を開け、琉那を先に入れる


琉那は入ってそのまま、自分の荷物を纏め始めた



「何してるの?」

不安そうとも怪訝そうともとれる表情で
旭は聞く

「今日はもう、帰る」

琉那は、旭を振り返る事もなく
荷物を持って言った



「どうして?俺、そんなに悪い事言ったのかな?」

「旭は悪くないよ」

「でも……」

「今日は、もう一緒に居ない方がイイと思っただけだから」

琉那は作り笑いの顔で
旭に顔を向けた
そのまま荷物を持った身体も向ける



「それだけだから。今日はバイバイするね」

その言葉や表情に
旭はそれ以上引き止める言葉が出てこない

確かに、今、これ以上話しをしても
琉那を辛くさせちゃうだけなんじゃないかとも思った





ちょっと納得は出来ないのが
旭の正直なところ

それでも旭は

「分かった、送るよ」

と言った



「ううん、いいよ、電車で帰るから」

琉那は旭の申し出を断った

いつもならだいたい旭が送り迎えをしてくれているけれど……




旭は、もう一緒に居たくないのかな……と思うと
余計にそれ以上、何も言えなくなり

「分かった。気をつけてね」

と、ドアの外まで出ただけで、琉那の背中を寂しげに見送った……

No.110


これを『喧嘩』と言うのなら
旭と琉那にとって、初めての喧嘩になる



やり切れないような気持ちで、旭はタバコに火を点けた



聞いた事自体が間違いないだったのか……

一体どうすれば良かったのか……

引き止めたら良かったのか……


色々と考えていた



でも、もし引き止めていたとしても
あんな雰囲気になった琉那が
話してくれる気もしなかったけれど





でも、この先もこのまま
琉那の潜在意識にある、何か……
それをそのままにしている事も出来ない

旭はそうも考えていた



最近、旭が目指す所には

琉那と結婚したい

とゆう気持ちが芽生えていた


だからこそ
もっと琉那を理解したいし
不安や不満があれば自分が解消したいし
苦しいのなら、自分の手で救い出せたら……

そう思っていた



ソファーに浅く座り、煙草の煙りを吐き出すその仕草は
まるで、溜め息のようだった

No.111


一方、マンションに着いた琉那も
煙草に火をつけて、ソファーに座り込んだ



それもまた、旭と同じように
溜め息を吐き出しているように見える





今、一緒に居ずに離れるのは
いい選択だったのか……

電車に揺られながら考えもしたけど
今、一緒に居ても、お互いに楽しく過ごせるワケでもない

やっぱり、旭には知られたくない、嫌われたくない……
その気持ちの方が強かった





そして、ベッドサイのチェストの引き出しから
マリファナを出す



このモヤモヤした気持ちをなんとかしたくて
心配してくれているからと分かってはいるけど
色々聞いてくる旭から逃げ
結局、マリファナに頼るのだ……



琉那自身、そんな自分に嫌気が差していたけれど
こうなっちゃうんだなぁ~~~、と
反省をしながらも
諦めのような気持ちも持っていた



実際、精神的依存が強いから
そう簡単にはやめられないと
琉那自身、痛感している







いつものパイプで、マリファナを吸う

どんどん酩酊状態になり

心地よい恍惚感に浸る

録画していたバラエティーを見て、爆笑し

乾いた喉にお酒も流し込む





旭と楽しむ時間より
マリファナで楽しむ時間をとった気がして
罪悪感も感じるけれど

旭にいつか言うか……
秘密にし通すか……
それも迷うけど



それを考えるより
飛んでる楽しさを感じようとしていた



唯、楽しく
唯、気楽に



今までの琉那に戻りそうな感じもする今の琉那

それに気づいている自分……


No.112


次に会う日は、5日後に決まった

あれからも喧嘩が続いたとかはなく
メールや電話でやりとりをしていた


琉那の心の中には
メールや電話はやり過ごせても
いざ会うとなるとこの話しをやり過ごせなくなる

今は、あまり会いたくない



そんな気持ちをもっていた







だけど、予想とは違い、旭がその話しをしてくる事はなかった



琉那はそれに安心感を感じていた

次に聞かれたら、何て言っていいのかわからなかったから……





5月21日は、朝に金環日食が観られる
2人は一緒に観る約束をしていて
それもいよいよ明日となった





その日も旭のアパートに泊まり、早起きをして観ようと約束していた

またお泊まりとゆう同じ状況に
またあの話しになるんじゃないかと琉那は少し不安だった



でもその日も話題にも上がらず
また問い詰められるような事もなく
2人でゴロゴロとリラックスしながら他愛もない話しをして笑って過ごせていた

そのままなだらかに時は過ぎて行った



明日、早起きする為に早寝をしたから
時間もそれ程なかったからかもしれないけれど……

とりあえず、琉那にとっては
一つ障害物を避けれたような気持ちだった……


No.113

●金○環●日○食●





まるで

月が太陽に負けじと

勝つかのように

2つの丸は重なり

一つの輪を織りなす






ホラ 見て

みんな 空を 見上げてる

月を 太陽を 見上げてる





欲しい物があるのです

月の雫を 一滴と

太陽の欠片を 一つ

どうか この掌の上に

静かに落として欲しいのです



月の雫は ガラスの華に 一粒落とし
銀細工のスプーンでくるりと回し

瑠璃色の華畑を創って



太陽の欠片は 真っ白な華の中に 静かに燃やし
作り物の白い華を

本物の純白の華にして





それがあれば
アタシは きっと

今までよりも強く
誰よりもアナタを愛し
歩いて行ける 



それで きっと

アナタもアタシを
今より深く
愛してくれると



そんな気がするから……





No.114

早朝5時起床

普段ならまだ遊びから帰ってきてこれから寝ようかって時もあるくらいの時間



着替えて、メイクして……
女はいろいろと忙しい
旭はそんなに準備する事がないから
のんびりしながらコーヒーをいれてくれた

ミルク一つとシュガーを2つ
もう慣れた感じで入れてくれた
旭は何も入れないブラック派





琉那の準備も終わり、6時前にアパートを出た



今回は、旭のアパートから自転車で行ける距離にある大きめの公園で
金環日食を観る事になっている

自転車を2人乗りして
その公園を目指す

普段は旭と自転車わ2人乗りする事もあまりないから
それもこんな朝早くから



何だか新鮮な気分になる
きる風を感じながら公園を目指していると
穏やかな気持ちになれた






今日は2人共早番で、仕事が終わったらまた会う約束もしていた



おしゃべりをして 笑って
こんな感じのまま、夜も過ごせる
こないだみたいに困らなくて済むと

琉那は思っていた



No.115


公園に着き、真ん中に円形の石作りのベンチに座る
金環日食を観ようと、もう既にたくさんの人が集まっていた

時間がたつにつれて、どんどん増える人達



もう、金環日食は始まっていた





「観て!もう太陽が欠けて来てるよ」

旭は無邪気な子供のように、日食グラスを目に当てながら言う

「ホントだぁ~~~こんな太陽と月が観れるなんて、ラッキーだょね」

琉那もワクワクしながら日食グラスごしに太陽を見上げる





「もう、3回目だね。琉那とこうやって空を見上げるの」

日食グラスをしてるのに
まるで眩しいように目を細めて旭は言った

「そうだねぇ。こんなに天体ショーがあるなんて、最近は凄いよね
しかも、たまにしか観れないのとかさ」

「また、何かあったら、一緒に観ようね!流星群とかもさ」

「うん、一緒に観よう」

「夏になれば花火もあるし、冬にはまたイルミネーションが観れるし
あの、規模大きかったイルミネーション、あれ今年もまた観たいな。行こうね」

「綺麗だったよね~~!うん、また行こうね」

「うん。今年も、来年も、再来年も……あれは毎年観たいな」




旭は、ハッキリと そう言った訳じゃないけど
今年も、来年も、再来年も……
琉那と一緒に居たいと言う気持ちが込められていた



それは、琉那に伝わっていて、照れたように満面の笑みで答えた





そうなったらいいな

そう出来るのかな?

No.116


どんどん 空が 暗くなる



いよいよ、完全金環日食になった
まわりもわいたように歓声を上げる


それはとても綺麗で
大きな金色のリングが空にぶら下がっているようで
月と太陽は、とっても仲良しのように
重なって観えた



2人も、その場に居る誰もが
その光景に見とれていた




完全金環日食の時間は、そう長くない
空は、絶えず動いて見えるものだから



「なんかさ、あれを婚約指輪に見立てて、プレゼントする、とか言う人、絶対居るよね」

小声でクスクスと笑う

「俺はそんなロマンチストじゃないからやんないよ~~。
婚約指輪あげるんなら自分で造るよ」

「アタシも恥ずかしくてイヤだよ
確かにそうかも。旭は銀細工職人さんだもんね」

旭も琉那も笑い合いながら言う






……婚約指輪……婚約かぁ~~~
もしプロポーズしてくれたら
嬉しいけど
今のアタシじゃ、全然ダメだなぁ~~~……

琉那はその言葉に、そう思っていた



……今だって、何かしながら観てたら
もっと綺麗に観えたかなとか、楽しいかなとか
思っちゃうもん……

罪悪感と戦いながらも、そう思ってしまう琉那……





手を繋いで金環日食を見上げてる2人

琉那の腕には 旭が創ってくれたブレスレットが光っていた


No.117


夜、お互いに仕事が終わってまた会い
この日は琉那のマンションで過ごした



琉那が作った夕食を食べてる
旭は琉那の料理が口に合うようで
いつも「おいしいおいしい」と褒めてくれている



洗い物は旭も手伝ってくれた

旭も自炊もしているのもあるだろうけど
何もしてくれない人も居るから、旭はやっぱり優しいと琉那は思った



旭の気遣いは、さり気なく、紳士的に感じる事もある
スマートな気遣いをしてくれる人だ

それって、結構大事な事





洗い物も終わり、2人共テレビを見ながらマッタリとしていた
膝枕をしたり、くっつき合ったり……



それは、お互いにとって安らげる
日溜まりのような暖かで幸せな時間だった





観てたテレビも終わり
そろそろお風呂に入ろうかと話す
琉那はバスタブにお湯を入れたり、お風呂の準備をした
2人はだいたい一緒にお風呂に入る
ゆったりとお湯に浸かりながら話しをするのも
身体的にも気持ち的にも、いいスキンシップになる



「今日はどうする?」

琉那が聞く

「一緒がいい」

甘えるように琉那を抱き締めながら旭が言う

旭もお風呂に入る準備をする



バスタブにお湯が溜まると、まず琉那が入る
メイクを落としたりと、琉那の方が時間がかかるから
洗顔を終えて、バスタブに浸かったた頃に旭が来る

いつもこんな感じで一緒に入っていた

No.118


2人共お風呂から出て、髪の毛を乾かしたり
琉那はスキンケアもしたり
さっきよりも本格的にゆっくりマッタリ出来る時間になった

相変わらずソファーで仲良くテレビを見たりいちゃいちゃと2人の時間を楽しんでいた





「今日は琉那も調子良さそうで良かったよ」

旭が言う言葉に、こないだの事かな、と思いながら琉那は返す

「うん、大丈夫だょ。
こないだ、調子悪いって言うか……なんか、苦手な話しだからさ」

「それは、そうなんだと思う」
旭はソファーに座り直して、琉那の手を握った

「俺は、琉那に頼られたいよ。
頼られたいし、支えになりたいし」

「十分頼ってるし、支えて貰ってるよ」



琉那も体制を変えて、ちゃんとお互いの顔が見えるようにする

「元彼の事はね、ホントにほとんど大丈夫。
そのトラウマから救ってくれたのは旭だよ」

「俺が琉那を救えたの?良かった」



旭はそっと、それから少し強く、琉那を抱きしめた
琉那も抱き締め返す

その眼には、決意と揺らぎが同時に浮かんでいた



「親や家の事は……ホントにトラウマになっちゃってるってゅぅか
もうぁぁゅう家だって諦めてるって言うか……」



旭の腕に力が入り、より深く琉那を抱きしめながら、頭を撫でる



「でもね、ぁぁゅう家で良かったなって思う事も結構あるんだよ。
このマンションに住めてるのも、親のおかげなんだしさ」

「うん、そうゆうのは、あるよね。大人になってから、分かる事や気付いた事もあると思うし」

「そうなんだよね。仕事してお金を稼ぐって事が如何に大変かも分かるしさ」

「うん。俺は普通に一人暮らしだから、そのへんは凄く思うよ」

「人を愛するって事は、旭が教えてくれたんだよ」



旭と抱き合ったまま、琉那はキスをした
お互いの隙間を埋めるように、2人は抱き合い、キスをした

No.119


琉那は再び、旭と顔を向き合わせた

そして、その顔は、覚悟を決めていた






「旭、もう一つね、言わなきゃいけない事があるの」

内心、ドキドキしながら琉那は言った



「言わなきゃいけない事?何?」

旭は、少し驚いた様子で、琉那に問い返す

「……うん……ちょっと待ってて」





そう言うと琉那は、ベッドサイドに向かい、チェストから取り出した

マリファナとパイプと巻紙を……





「これ……」

と言いながら、旭に渡す



「これって……マリファナじゃん」

旭は驚いた後、少し怪訝そうな顔をした

「これが、旭に言えなくて、悩んでた最後の一つ」





旭は少し考えてる様子で、それから聞いた

「いつも家で吸ってたの?」

「家でも……astrayでも……」


琉那は、何故マリファナを吸うようになったかとか
出所がastrayのオーナーである事も話した

旭は、言った

「それは、分かったけど、これは、しちゃいけない事だよ。
マリファナ意外のモノも勿論……
そっちの方が、ヤバいんじゃないの?
合法ドラッグだって、脱法ドラッグって、事故が起きたり、ニュースになってるじゃん」

「うん……ダメな事だって、分かってる」



それから、ドラッグがどんなに悪いかと、旭は話し続けた

「脳や身体に影響が出たりするもんなんでしょ?
琉那はどうか分からないけど
俺は琉那と結婚して、子供も欲しいと思ってる」

「ァタシもそう思ってるよ」

「でも、タバコだって良くないって言うのに、こんな事続けてたらダメだよ。
やめようよ、今すぐ」



旭は強い眼で琉那を見た

No.120


「やめようと思ったよ。旭と付き合ってから、何度も
旭にも言うか言わないかずっと思ってた
でもやっぱり、いつかはやめないとと思って話したの」



旭はさっきまでより強い口調になり、琉那に言った

「いつかはって?今までどれだけ何をしてきたのか分からないけど
いつかはなんて悠長な事言ってないで
今すぐやめようよ」



琉那は旭の反応に、困った顔をして言った

「今すぐとか、出来るんならもうやめてたよ
それが出来ないから……」

話してる琉那に被せるように言う旭

「出来ないなんて、甘えなんじゃないの?
世の中、ドラッグをやっててもやめた人なんて山程いるじゃん」

「そうなんだけど……他のケミカルとか合法がホントに身体に悪いってゆうのは分かってるけし
かなり減らしてるんだけど
マリファナだったらって気持ちでつい……」





実際、astrayのVIPで、MDMAや合法ドラッグを出されても、琉那は断ったりもしていた

みんなも、やめようとしてるんだって事は分かってるから
無理に勧めもしていなかった





「マリファナだって何だって、同じだよ。実際マリファナが最初でいろんなモンにハマってったんでしょ?
今すぐやめようよ。それも、捨てようよ」



すぐにスッパリとやめられないから困ってるのに、と琉那は少し落ち込んで、再び悩む

つい、口をついて言葉が出た


「そんなに今すぐって言われても……難しいんだよ
そんな風に言われるんなら、隠したままにしておけばよかったょ」



その言葉に、旭も感情的になる

「正直な事がバカな事になるなら
俺はバカでいいよ
騙すより、騙される方がマシだよ

そうゆうのは無い方がいいに決まってるし
琉那の心境を含めてさ
疑うのも信じる事が怖いのも解る

でも、信じ合える相手を探して
付き合ったりとかするんじゃないの?」



琉那から離れて、足元を見ながら眼を伏せて言った

「隠されてたのだって、俺はショックだよ……」

No.121


「ごめん……ごめんね」

旭の言葉と様子を見て、謝った

「いいよ。謝って欲しい訳じゃない」

眼を合わせないままで旭は言った





お互いに、どうしたらいいか分からない……
そんな様子で、少し、静寂の時間が流れた……





琉那は、考えていた



……やってない人がやめろって言うのは当たり前なんだ
覚悟はしてたつもりだけど……

かと言って、減らしたり、他のをやめたりはしてたけど
今すぐマリファナを0には出来る自信がない……



旭は結婚したいとまで言ってくれた

本当に嬉しかった

自分の望みでもある 旭との結婚



旭が運命の人だと思うからこそ……



今の自分じゃ旭に無駄に傷を作ってしまうし
きっと旭自身にも作らせてしまうから

ちゃんとマリファナもやめて

強くしなやかな自分になれるまで もう会わないほうがいいんじゃないかな……





予想も覚悟もしていたけど
正直ここまで今すぐと言われるとは思っていなかった

でも、ここまで言われるなら、早く0にしないと、と思った





運命だと思うからこそ

琉那は 決断をした

No.122


混沌の静寂を破ったのは
琉那の声だった



「旭」

旭も顔を上げる
ちょっと気まずいような感じで、戸惑いながら琉那を見る



その姿を見て、琉那は本当に申し訳ないと思った





「旭、ホントにごめんなさい……
自分でも全部やめたいと思ってる。ホントに、思ってる
でも、、もう中毒なんだろうね……
今すぐ全部って自信がナイんだよ……」

「それは……中毒になっちゃったら、そうなっちゃうのかもしれないけど……」



ウン、と琉那は小さく頷く



「でも、なるべく早く、マリファナもやめるようにするから。するから……」



次の言葉を琉那は覚悟して言った



「別れよう。
今のままじゃ、旭に心配させたり、迷惑かけちゃうと思うから……
アタシに旭と付き合ってる資格はないよ」

「琉那……!何も俺は別れようなんて言ってるんじゃないんだよ?」

「分かってる。
そうかもしんないけど、今のままじゃ、アタシも苦しくなるし
ちゃんとやめられて
その時まだ旭がアタシを好きだと思ってくれてたら、やり直して欲しい」



強い言い方ではなくても、強い意志が伝わってくる、琉那の言葉

「付き合ってるまやめる事は出来ないの?」

別れるつもりはなかった旭は、琉那に問う

「出来るかもしれないけど……旭と話して、それじゃぁ自分自信も納得出来ないと思って……」



再び、少しの静寂が訪れる

No.123


「分かった。信じて待ってるよ」

琉那は声なき声で頷き
眼から溜まっていた涙が溢れ出した





旭は、優しく琉那を抱きしめて、背中を撫でてくれた

そして、言ってくれた

「話してくれてぁりがとう
待ってるから、無理しないでね」



優しく 優しく 抱きしめて
背中を 頭を撫でながら
優しい声で旭は言った


琉那は暫く 旭の胸の中で泣いた……
包み込むような旭の温もりと優しさに
余計に涙が流れた……



「アタシも……旭とずっと一緒に……居たいから……」

泣きながらも琉那は自分の気持ちを伝えた

旭が大切だから
あえて離れようと思った事を
伝えたくて……

旭は相づちをうちながら 聞いてくれた





この日は 一時的だけど、最後の夜となった



2人は 強く抱きしめ合いながら、眠った

No.124


朝……
琉那の顔は泣きはらしたものになっていた



今の自分じゃ無駄に傷を作ってしまうし
作らせてしまうから

強くしなやかな自分になれるまで もう会わないほうがいいんじゃないかって
そう思ったのは自分だけど

大好きな旭と離れるのは
勿論、辛い



旭は

「やっぱり、今すぐとは俺ももう言わないからさ
別れないで一緒に居よう?」

と言ってくれた



それでも琉那は
イエスとは言わなかった

自分は、ずっと嘘をついてきたし
その上すぐにやめられないなんて……
苦しむべきなんだと思っていたから







……優しい長い指

フンワリ柔らかな髪

少し高めの声

くったくのない笑顔……



その総てを見つめながら

本当に愛しいと思った



でも バイバイ

今は バイバイ

今のままじゃ ダメだから……

だから バイバイ

また 手を繋いで
仲良く笑って歩ける日が来るのを
信じて バイバイ……







帰り支度をする旭を眺めながら
また涙が溢れる
それを気づかれないように
コッソリと涙を拭いた





「じゃぁ、帰るね。またね」

旭の言葉に

「気をつけてね。またね」

と答える



旭はそのまま琉那の頬に手を触れて
また、優しく抱きしめる



「待ってるからね」

囁くような優しい声で旭は言った

涙をこらえながら、琉那は頷いた





琉那は旭が去って閉まったドアを眺めて
独り 泣き崩れた

それでも、早くやめなきゃとその決意も固く強く持っていた

No.125


幸せとは そう簡単に手に入らない

もし容易く手にした幸せなら ありがたみも少ないだろう





それからの琉那は、大変だった

続けていたのはマリファナだけとは言え
他のドラッグも抜ききれていた訳じゃない
その中毒の依存症状も出ていた



それもずっと 旭にバレないように隠していた

astrayで勧められた時も
どれ程手を延ばしたかったか……



でも、それに打ち勝ち、クスリ断ちをしてきた
それは、マリファナの力を借りてあったモノだけど……

そのマリファナも無くす

琉那にとってそれは
自分との戦いだった





ちょうど、次のシフト希望を出す時だったので
5連休の希望を出した

仕事をしていれば気が紛れるし
少なくとも勤務中は吸う訳にはいかないけど


マリファナも断つ事により
他のケミカルの禁断症状が酷くなり出ても困るし
閉じこもるのが一番だと考えたからだ





麻美や莉央から連絡が来ても
全部やめたいからと
誘いも断っていた

麻美も莉央も、理解をしてくれて
クスリ断ちを応援してくれた



そこで、2人も、自分達も減らしてっていつかは……と
琉那の事で考えて、自分達もやめる事を考えていた

特に莉央はその必要性を感じていた

莉央や琉那よりも多くやっている麻美は
最近特に具合が悪そうに見える事が多かったし
取り返しのつかないトコロまでは行きたくなかったから

No.126


5連休が近づいていた
接客業で5連休もとれるのは稀な事で
他のスタッフに負担もかけてしまう
貴重な連休だ

勿論理由は、本当の事は言わず
ちょっとゆっくり実家に帰る、としていた





それまでは
他のモノをしたくなってキツい時や、落ち着かない時は
軽くマリファナを吸う

マリファナの量も完全に、今までのように楽しむ為ではなく
クスリ全般をやめる為にと
最低限で済むようにとしていた




不調を職場でバレないようにしていたけど
店長や他のスタッフから、体調悪いの?と聞かれた時もあった

琉那は、大丈夫です、と笑顔で答えていたが
離脱の疲労もプレッシャーも睡眠不足も
表立って見え隠れしていた



時々震えてしまう手で、ネイルをするのが大変な時もあった
ネイルは繊細な仕事だ
仕事に影響してしまう事を恐れて、困惑した

震えが長引きそうな時は
麻美から貰った医者で処方される安定剤を飲んだりして
なんとか震えと不安を鎮めた





……あと少し、あと少しで連休だから
それまでを乗り切れば
その間になんとか……

既に疲れてしまっている琉那だけど
その5連休に賭けていた





そして、いよいよ明日から連休、という夜を迎えた

No.127


その夜は、岩盤浴にデトックスをしに行った

クスリは汗からも出て行くので、とにかく汗で排出して
早く身体から抜こうと思った



薄暗い室内
一人分づつ仕切られているスペースにバスタオルを敷いて寝転がる

琉那は元々岩盤浴が好きで
度々訪れていたが
この日はいつもの倍近く
水分補給をしながら
出たり入ったりを繰り返して、なるべく長く汗をかき続けた





岩盤浴をしながら目を閉じていると
旭の顔や言葉が浮かんでくる



それは、楽しい思い出だったり
最近の哀しい感情だったり……

笑顔だったり

涙だったり……



それがどんなモノでも
思い浮かぶのは、旭だった



あの日、別れ際に
抱きしめながら

「俺と琉那は運命だから。大丈夫だよ。」

と言ってくれた



……運命……運命の人……
それなのにアタシは……





琉那は、周りにバレないように
静かに涙を流した



No.128


汗と涙を流してスッキリした琉那は
少しだけ、元気を取り戻した



……禁断症状に負けてられない!岩盤浴も休み中にまた来よう!……



改めて、明日からの5日間を貴重に感じ
マリファナも断ち切ろうと
心新たに思っていた





けれども……

3日目の日……



ケミカルのクスリの離脱症状と思われる状態に耐えきれず
とうとうまたマリファナを吸ってしまった……!

気持ちでは、もう吸いたくないと思ってるのに
身体と脳は吸いたくない気持ちに追いつけないでいる

やはり、クスリをやめるとゆう事は
簡単な事ではないと
思い知らされた……



琉那は、また吸ってしまった事を後悔し
更に自分を責めた



旭の事を思い浮かべては
自分を責めて泣いた

No.129

時がたち 古ぼけた空に浮かぶ青い小鳥は 溶け堕ちてしまう
地上に着く頃には 青い砂となる





……この両手で受けとめようとしても
サラサラと滑り落ちて
このちっぽけで 黒く焦げた両の手では
綺麗なモノは受けとめられないんだ

アタシは 汚れているから……




毎日のように 唯 ひたすらに
幾つもの時間が流れ落ちて逝く

考える事すらままならなくて

今日もまた 何も出来ずに空は曇り果て
光が足りないんだって 静かにランプを灯す


闇の中は落ち着くけど
真っ暗闇は イヤ


一体 何をど うすれば いい?

いや そんなコト 分かり切ってる

正しい答えなんて 何処にもなくて
選ぶのは アタシ自身



それでもまた コレに火を点けるの?
アタシの答えは コレ?

イヤ 違う…違うんだ……!



焼き付いて 離れない
キミは誰?
なんて 解りきってる

これを 焼き切ってしまえば
キミは消える?
消えるの?





極彩色の熱帯魚の海が見たい
なぁ~~んにも考えずに海の中に留まって
熱帯魚と一緒に 浮かんでたいから
10分くらいもつ肺が欲しいな



グニャグニャの海月になりたい
何も考えずに 海に漂ってたい
ユラユラ フワフワ
海月は死んだら 水に溶けるって聞いた事がある
いいな 海月って
アタシも溶けちゃえばいいのに……

No.130


……それでもアタシはまた立ち上がる

明日からまた仕事だってある
がんばらなくちゃ

仕事をしなきゃ生活も出来ない


ホントは実家に言えば生活費くらいポンと出してくれると分かっている
でもそれはしたくない
アタシの深淵を作り上げた親に今以上に甘えたくはない

だから 言わない しない





それに、どんなに辛くても
寂しくなっても
助けを求めたくなるのは旭だし
旭と前のように戻れる事を目標にしているから

どんなに逃げたくなっても
また過ちを繰り返して、連絡するのが遅くなっても
旭とやり直したいと思う

その気持ちに変わりはなかった




今は連絡をとれなくても……

No.131


翌日が仕事とゆうその夜
琉那は麻美に電話をした



「ごめん、ケミカルはもうやんないけど、実はマリファナが終わっちゃって……」

この数日間の葛藤と苦しみを麻美に伝えた

「そろそろかもなって、思ってたよ。
琉那の分ちゃんとあるから、届けに行くよ」



こうして、麻美がマリファナを届けてくれる事になった


琉那は悩みに悩み抜いた結果、麻美に電話をした

このままないからヤラないとゆう選択肢も
勿論考えたけど
仕事にならないと困るし……とゆう考えの末だった





麻美が琉那のマンションに着いた
琉那は麻美から見ても、葛藤して頑張ったんだと分かるくらい
衰弱してる様子だった



「ごめんね、頼んじゃって……」

申し訳なさそうにする琉那に麻美は言った

「全部やめるなんて、キツいに決まってるって分かってたよ。
だからマリファナだけは、いつ言われてもいいように
とっといたんだから」



世間から見たら
それは悪友なのだろう……

でも、琉那にとっては、救世主だった





ジョイントを巻き、交合に吸う

勿論明日には響かないように
夜中までには寝るつもりだったし
麻美もタクシーだから帰りの心配はない



「なんかさ、久しぶりだね。琉那んちで吸うの」

「そうだよね~だいたいastrayだからね」

「琉那がastrayにあんま来なくなって寂しいよ
今はまた誘惑が困ると思うからイイけど
そのうちまたみんなで踊ろうね!
莉央もオーナーも心配してるよ。
お酒だってあるんだし!」



無理に誘ったりはせず、薬抜きを応援してくれる麻美と話しながら
琉那は嬉しくて涙目になっていた

No.132


けれども、旭に連絡出来るのが遅くってしまうのが現実だ

本当はこの5日間で……と思っていたのに
この5日間でおかわりをしてしまった事は
罪悪感が突き刺さった思いだった……



麻美は、琉那の話しをいろいろ聞いてくれた
どんなに旭を好きか、必要な存在か
改めて噛み締める思いで麻美も聞いた



「こないだも話したけど、ウチらも減らしてこってなってるし
その考えになれたのは琉那のお陰だよ
オーナーも、前よりホント量減ったし
琉那は今、いい事をしてるんだよ」



いっぱいいっぱいで、ここ数日間連絡もしなかったのに
そう言ってくれた麻美の言葉は
乾いてひび割れた琉那の心に
新鮮な水が注がれたように
染み渡った





夜中、麻美は笑顔で帰って行った

No.133


それから、ひと月の月日がながれた





一方旭は
ひと月たっても琉那からの連絡はなく
旭は考え込んでいた



……まだ、無理なのかなぁ……
ここで連絡したら、琉那は頑張ってくれてる筈なのに
中途半端に邪魔しちゃうのかな……



クスリとはほぼ無縁旭にとって、それは難しい問題だった
どうするのがいいのか分からない
琉那が自分に対しての気持ちが変わってしまってないかも
不安に思っていた







……例えば もしも
琉那が出血多量で死んでしまいそうになってしまうとする

そしたら オレは

自分の血を ギリギリまで抜いて琉那に流し込んでくれと言う

いや 多分

オレはどうなってもいいから
琉那が助かるのに必要な分だけ
流し込んでくれと頼むだろう



オレが そうしたいから



そうしたら 琉那の中には
オレの血が流れて
ある意味 一つになれて
共に生きていれてると
思える

オレが死のうと 生きていようと



琉那も きっと
オレの血が流れる自分自身を
大切にしようと思ってくれるだろう



でも そうゆう事じゃない

解ってる

そうゆう事じゃないんだ……



実際医者がそこまで血を抜いたりしてくれないのも解ってる


でも そうゆう気持ちなんだ

琉那を失いたくない……




No.134


旭も旭なりに、理解しようとして
ネットでドラッグと合法ドラッグについて調べたりもした



でも、情報は莫大で、サイトや人により
内容もバラバラで、イマイチ容量を得ない
理解しようとはしても、それも難しい事だった

それでも旭は、一生懸命読み続けた

詳しい成分なんて、見ても意味が解らなかったから
体験談を中心に……

そして、ドラッグをやめるのは本当に困難な事なんだと
改めてはっきりと理解した





自分の為にその困難に立ち向かってくれている……
それがより一層、愛しく感じさせた





とにかく琉那を想い

琉那を心配し

琉那を信じ

泣いた……



No.135


一方、琉那も勿論旭の事を考えていた



心配させたくない

声が聞きたい

会いたい

旭のが気持ちが変わってないか……

同じような事を考えながら
あともう少しで2ヶ月が過ぎようとしていた





マリファナは
まだ、やめられない……

それでも一度近況報告のような感じででも
連絡をしようかどうか……



イヤ、やっぱりダメだ!
ぬか喜びもさせたくはないし
自分の中の『やめるまでは』のルールは、守りたかった



仕事を辞めてクスリを抜く事に専念しようかとも考えたけど
お店のみんなに迷惑はかけたくないし
お金がないと生活も出来ない

実家にも頼りたくもない
家事とかをしなくて済むから楽だし
抜けの苦しさは辛いけど
集中して抜く事が出来る

家族にバレる心配がある程会う時間も少ない



それでも実家には帰りたくはない

トラウマの実家だから……





実家 元彼 クスリ……

様々な苦悩を抱えたまま
後遺症や依存症に苛まされ続けていた

マリファナだって、育てる過程で効きを良くする為に
ケミカルが使われている物も多いと聞く

麻美は、なるべくナチュラルなマリファナを選んでくれている

それでもマリファナも、解禁国があると言っても
日本ではご立派に違法薬物だ





だからこそ、旭に寄りかかる事が出来ない薬物の恐ろしさを身に染みて、身を持って、体験した事で、改めて

『もっと早くやめようとすれば良かった』

とゆう後悔

『今気づいてやめようとして良かった』

とゆう安堵





……もし、あのままみんなで続けていたら
本当にやめられなくなるところまでいってしまったんじゃないかと思う

鶏ガラのように痩せ細ったり、注射の痕だらけで皮膚が堅くなったり
鼻が溶けたりするなんて

ごめんだ!


No.136


マリファナでは
鶏ガラのように痩せ細ったり、注射の痕だらけで皮膚が堅くなったり
鼻が溶けたりするなんて事は勿論ないけど……

以前やっていた物では
そのリスクの可能性があった





しばらく考えて……
琉那は、旭に電話をする決意をした



でも それは

途中報告でもなく

今のままやり直すのでもなく

別れる為にだった……




……このまま いつになるかも解らない状態で
いつまでも旭を待たせてしまう事に
罪悪感を持っているから……



アタシを待ってたりしなければ
旭ぬいい出会いがあった時
自分の存在が邪魔になってしまうし……



今回の決意も
考えに考えて
出した答えだった……

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