Happy Birthday

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2013/11/14 17:06(更新日時)

誰にも望まれずに


誕生した少女が


紡いでいく恋物語です。

No.1720624 (スレ作成日時)

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No.401

リナ」


「…はい」


わたしは、お父さんの様子を窺う様に頷いた。


これから、恋人同士は何でも言い合える関係でなければいけないとか、誕生日パーティーに恋人を招待してはダメだととか、そんな事を言われるのだろうか。

No.402

取り敢えず、ケイタさんを誕生日パーティーに招待する事は、お父さんから許しが出ない様な気がする。


そう思って、わたしはガッカリしたが、仕方がないと諦める事にした。


そんなわたしの前で、ドコか淋しそうで懐かしそうな顔をしながら、お父さんが口を開いた。


「お母さんも、リナと同じだったんだよ」


「え…?」

No.403

突然、お母さんの話が出てきた事にも、そのお母さんがわたしと同じだったと言われた事にも、わたしは驚いていた。


横を見ると、お姉ちゃんも少し驚いている様だ。


ムリもないだろう。


お母さんが亡くなってから、この家では誰もがお母さんの話をしなくなったから。


お母さんの話をしない事が、この家では暗黙の了解になっていると思っていたから。


そして、それはお父さんがお母さんの事を思い出すと辛いからだと考えていたから。

No.404

それなのに、そんなお父さんの口からお母さんの話が出てくるとは、わたしもお姉ちゃんも想像していなかったんだ。


そんなわたし達など構わずに、お父さんはお母さんの話を続ける。


「お母さんもリナと同じで、なかなか心の中で思っている事を外に出さない人間だったんだ」


「はぁ…」


お姉ちゃんだけではなく、お父さんも意外とわたしの事を分かっていると思い感心しながら、わたしはお父さんの話に相槌を打つ。

No.405

「だから、お母さんは死んだんだ」


そう言ったお父さんの目尻には、涙が光っている様だった。


「え…?」


わたしとお姉ちゃんは、お父さんの言った言葉の意味が分からず、思わず顔を見合わせる。


「お母さんが自殺した事は、二人とも知っているだろう?」


「…ええ、知っているわ」

No.406

「…わたしも、一応は知っています」


伏し目がちに頷いたお姉ちゃんに続いて、わたしも小さく頷く。


「これは、お母さんが死んだ後に発見された日記を読んで分かった事なんだが…」


お父さんの話に、わたしもお姉ちゃんも黙って耳を傾ける。


「お母さんは、ずっと一人で悩んでいた事があったらしい」


確かに、わたしと同じだ。


「そして、それを誰にも相談出来ずに生きていた」


それも、わたしと同じだ。

No.407

「だけど、ある時にその悩みを一人で抱え切れなくなって、思い詰めたから自殺したんだ」


涙を堪えながら、お父さんが悔しそうに言う。


「その事を知った時、俺はもっとお母さんの事を分かって上げられていたら、悩んでいる事も分かって上げられたかも知れないのにって物凄く後悔したよ」


恐らく、お母さんもお父さんに打ち明けたかったと思う。

No.408

しかし、言いたくても言えない事もある。


そもそも、どんな悩みでも多かれ少なかれ打ち明けるには勇気がいるんだ。


そして、なかなかその勇気を持てない人間も、世の中にはいる。


お母さんだけではなく、わたしもそうだからスゴく気持ちが分かる。


「だから、リナにはお母さんみたいになって欲しくない」


「はい」


わたしの事を想ってくれる気持ちを、物凄く嬉しいと感じながら、わたしはお父さんの言葉に頷く。

No.409

「恋人に何でも話せなんて言わないけど、本当に悩んだり困ったりしている事がある時には、ちゃんと話した方がいいぞ」


「はい」


「リナの恋人が、本当にリナの事を想ってくれているなら、全力でリナの事を助けようとしてくれる筈だから」


「はい」

No.410

「でも、リナは人と関わる事に興味がないのかと心配していたから、一緒にいて安心出来る恋人がいた事に、ちょっとだけお父さんは安心したよ」


「はぁ…」


お父さんから、そんな風に思われていたのかと思いながら、わたしは相槌を打つ。


しかし、お父さんがそう思うのも、ムリはないかも知れない。


今まで、誕生日パーティーに友達を招待しても良いと言われても、わたしは誰も招待した事がない。


それどころか、今まで誰かを家に連れて来た事がない様な気がする。


それは、友達が欲しいと思っても、友達が出来た事がなかったからなのだが。

No.411

どうやら、わたしは人と関わる事に興味がないから、意図的に友達を作っていなかったのだと、お父さんは思っていたらしい。


「リナの恋人と逢うのが、今から楽しみだな!」


そう言って、お父さんは微笑む。


どうやら、誕生日パーティーにケイタさんを招待する事を許可してくれた様だ。

No.412

高校へ行ってからも、わたしはお父さんが話していた事を思い返していた。


お母さんが自殺した事は知っていたが、詳しい話は誰からも聞いた事がなかった。


そのため、少し驚いていたりする。


もしかしたら、お母さんの死の真相よりも、お母さんがわたしと似ていた事の方が驚いているのかも知れないが。


お母さんが死んだ時、わたしはまだ小学生だった。


そのため、お母さんがどの様な人だったのか、ハッキリと覚えていないんだ。

No.413


しかし、お父さんの話を聞いていて、少しだけお母さんの気持ちが分かった様な気がする。


お母さんが、日記を書いていた理由も、何となく分かるんだ。


人間は、思っている事を外に吐き出す事で、ストレスが溜まらない様にしている部分がある。


しかし、わたしやお母さんみたいに、なかなか思っている事を外に出せない人もいる。


そういう人は、心の中に思っている事が溜まっていく一方で、ストレスも解消出来ないままだ。

No.414

そのため、お母さんは思っている事を外に出すために、日記を書いていたのだと思う。


誰にも悩みを打ち明ける事が出来ないなら、文章という形でしか外に出す事は出来ないから。


そう思うのは、やはりわたしがお母さんに対して、自分と同じ部分がある事を感じたからなのだと思う。


そんな事を考えながら、一日を過ごしているうちに、全ての授業が滞りなく終わった。


そして、帰りのホームルームが終了すると、わたしは急いで教室を飛び出す。


そのまま、廊下を抜けて下駄箱があるところまで行く。


そして、靴を履き替えようと下駄箱に近付いた時、そこに一つの人影がある事に気付いた。

No.415

「リナ」


そう言って、わたしの方へ近付いてきたのは、マサオだった。


「な、何…?」


いきなりの事に、思わず声が上擦ってしまう。

No.416

わたしとマサオは、昨日で恋人という関係が消滅した。


しかし、高校が同じなので擦れ違う事くらいはあると思っていた。


それは仕方がない事だと割り切っていたし、別に避けようとも思っていなかった。


しかし、こうして話し掛けてくるとは思わなかったんだ。


しかも、昨日の今日だ。


おまけに、待ち伏せしていた可能性すらある。

No.417

昨日、マサオはわたしに何か言い忘れた事でもあったのだろうか。


それとも、わたしが帰った後になってから、新たに言いたい事でも出来たのだろうか。


もしかして、よく考えたらわたしの事が好きだったとか、そういう事が言いたいのだろうか。


期待したらダメだと、ちゃんと分かっている。


それなのに、わたしは期待せずにはいられなかった。


やはり、まだマサオの事が好きだから。

No.418

「昨日、リナが帰ってからなんだけど…」


「うん」


「例の女が家に来たんだ」


「マサオに告白してきた人?」


「嗚呼」

No.419

いきなり、別の女の子の話を始めたので、わたしはマサオの話に興味がなくなってきた。


これは、わたしの事が好きだという内容ではないだろうから。


恐らく、また彼女にして欲しいと言われて困るとか、そういった話なのだろう。


しかし、もうわたしには関係ない。


わたしとマサオは、もう恋人同士ではないのだから。


いい加減、わたしに頼ってくるのは止めて欲しい。


ハッキリ言って、迷惑だ。

No.420

「もうわたし達は別れたんだし、マサオがその人と何があっても、わたしには関係ないよね」


そう言って、わたしは下駄箱から外履きを出し、上履きを仕舞った。


「そんな冷たい事、言うなよ」


マサオが、馴れ馴れしくわたしの肩に手を置く。


それを振り払いながら、わたしは外履きに足を通す。

No.421

「もうマサオに、都合のいい様に使われるのは嫌なの」


「取り敢えず、話だけでも聞けよ」


建物から出ようとしたわたしの両肩を、マサオが思い切り掴む。


「痛い!放してよ!!」


わたしが叫ぶと、周りの視線が集中した。


みんな興味津津な様子で、わたし達二人を見ている。

No.422

何故、人は口では揉め事が嫌いと言いながら、自分とは関係のない第三者の揉め事は楽しそうに眺めているのだろう。


わたし達は、見せものではないのに。


しかし、マサオは周囲の視線など気にならないらしく、わたしの両肩を掴んだまま放そうとしない。


「あの女、手切れ金として五万くれたら、俺の事を諦めるって言ったんだ!」


手切れ金なんて言葉、ドラマや小説でしか聞いた事がない。

No.423

少なくとも、もっと大人の人がする恋愛で出てくる単語で、高校生の恋愛でその様な単語が出てくるとは思わなかった。


マサオの場合、彼女にするつもりもないのに女の子にちょっかいを出していたみたいなので、その様なモノを請求されても当然なのかも知れないが。


しかし、マサオが被った被害に、わたしにも巻き込まれる形となった。


「だから、俺もリナに手切れ金として五万を請求する!」


何とマサオは、他の女の子から請求された手切れ金と同じ額だけ、わたしにも請求すると言ってきたんだ。


恐らく、マサオは五万という額を自分一人で用意するのは難しいと判断した。

No.424

そのため、わたしからお金を巻き上げに来たのだろう。


本当に、最低なヒドい男だ。


自分の後始末くらい、自分でして欲しい。


至極、そう思う。


こんなに連続で嫌な部分ばかり見ていると、マサオに対するわたしの気持ちも徐々に離れていくのを感じていた。


マサオの事を嫌いになりたかったから、それはそれで都合がいいが。

No.425


「人のお金ばかり当てにしていないで、自分で蒔いた種なんだから、自分で払いなよ」


マサオの手を振り払おうとしながら言うが、なかなかマサオの手はわたしの両肩から外れない。


寧ろ、わたしが抵抗すればする程、マサオは両肩を掴んでいる力を強めてきた。


「リナが俺に払ったら、ちゃんと俺も払うよ!」


「わたしは、昨日でマサオと別れたんだから、マサオに手切れ金を払う義務なんてない!」

No.426

「いや、ある!」


「ないって!」


わたしとマサオの言い合いは、どんどんヒートアップしていく。


最初は、人目を気にしていたわたしも、何時の間にか気にならなくなっていた。


人目を気にする気持ちよりも、不条理な事を言うマサオに対する怒りの方が上回っていたから。

No.427

「寧ろ、わたしがマサオに浮気されていた慰謝料を請求したいくらい!!」


「結婚している訳じゃないんだから、そんなの請求出来る訳ないだろ!?」


「分かっているよ。だから、請求していないでしょう!?」


「分かったなら、俺に手切れ金を払えよ!」


「その事に対して、分かったって言っているんじゃない!そもそも、手切れ金って払う方が善意で払うものでしょう!?」


「だから、善意で――」

No.428

マサオは言い終わる前に、途中で言葉を止めた。


そして、驚いた様な顔をしている。


マサオの手が両肩から解放され、わたしも驚いて目を見開いた。


そして、そんなわたしの前には、マサオの両手を掴んでいるケイタさんがいた。


「ケイタさん…」


「リナ、大丈夫か?」


驚いて目を見開いたままのわたしに、ケイタさんが優しく微笑み掛ける。

No.429

「…は、はい」


「取り敢えず、外に行こうぜ」


わたしが頷くと、ケイタさんが外へ出る様に促した。


そして、わたしは周囲を軽く見回して、随分とギャラリーが増えている事に気付く。


マサオに言い返すのに夢中になっていて、今まで全く気付かなかった。

No.430

確かに、このままココで言い争い続けるよりも、別の場所に移動してから話し合った方が良い。


そう判断したわたしは、素直に校舎の外へと出た。


「ほら、お前も」


そう言って、ケイタさんはマサオの身体を引き摺る。


「引き摺ったりしなくても、ちゃんと自分で歩く!」


ケイタさんの手を振り払い、マサオは自分の足で歩き出す。

No.431

そんなマサオを見張る様に、ケイタさんはマサオの後ろを歩く。


そして、わたしもマサオの前は歩きたくないので、ケイタさんの横に並んだ。


「取り敢えず、近くに公園があるから、そこまで歩こうぜ!」


「はい」


わたしは、ケイタさんの言葉に頷くが、マサオは無反応だ。


しかし、黙々と公園に向かって歩き続けている。

No.432

「リナ」


マサオが歩いている様子を見ながら、ケイタさんはわたしに声を掛けてきた。


「はい」


わたしも、マサオが歩いている様子を見ながら、ケイタさんへ返事をする。


「公園に着くまでに、簡単にでもいいから何があったか聞いておきたい」


「…はい」


ドコから話せばいいのか考えながら、わたしはケイタさんの言葉に頷く。

No.433

「まず、この人はわたしの元彼なんです」


「嗚呼」


「それで、わたしが別れたいと言って、一度は別れる事を承諾してもらったんです」


「嗚呼」


「それなのに、今日になって手切れ金として五万を請求されたんです」

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