Happy Birthday

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2013/11/14 17:06(更新日時)

誰にも望まれずに


誕生した少女が


紡いでいく恋物語です。

No.1720624 (スレ作成日時)

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No.301

「ゴメン。今、彼女来ているから、その話はまた今度で…」


結局、電話相手と幾つかやり取りしていた様だが、そう言ってマサオは逃げる様に電話を切った。


そのまま、マサオは携帯電話の電源を落とす。


そんな様子を、わたしが訝しげに見詰めていると、マサオは訊いてもいない言い訳をしてきた。

No.302

「何か、また電話が掛かってきそうだから…」


「どうして…?」


「どうしてって…」


わたしの問い掛けに、マサオは困った様な顔をする。


「向こうが話し終わる前に、マサオが電話を切ったからじゃない?」

No.303

「そうだけど、今はリナと話している最中だし…」


「うん」


わたしが頷くと、マサオが少しホッとした様な顔をした。


別に、わたしはマサオをホッとさせたくて頷いた訳ではない。


しかし、確かに今は電話相手の事よりも、わたしとマサオの事を話し合わなければいけないと思った。


そのため、わたしは話を本題へと戻す。

No.304

「それで、わたしの言った事は、どう思うの?」


「…嗚呼、リナの言った通りだと思った」


「思った…?」


「嗚呼」


マサオは頷くと、言いにくそうに話し始めた。

No.305

「今の電話の相手、実は前に告白してきた女の子なんだけど…」


「うん」


「俺、彼女いるからって断ったんだ」


「うん」


「それなのに、今の電話でまた告白された」


「うん」


「だから、また俺は彼女いるからって断ったんだ」

No.306

「うん」


「だけど、彼女よりもわたしの方が可愛いじゃんとか言い出して…」


「うん」


マサオの話に相槌を打ちながら聞いているが、わたしの予想通り過ぎて少し悲しくなってきた。


しかし、わたしは気丈なフリをして、マサオの話に耳を傾け続ける。

No.307

「それに、彼女の事を本当に好きな訳じゃないんでしょとか言われて…」


電話相手は、よくマサオの事を見ている。


マサオのわたしに対する態度をよく見ていれば、マサオがわたしの事を本当に好きじゃない事なんて一目瞭然だ。


電話相手は、本当にマサオの事が好きなんだ。


マサオは、誰の事も好きになどなれないのに。


「でも、それは事実でしょう?」


それまで相槌を打って聞いていたわたしだったが、気付いたらそうマサオに言っていた。

No.308

「…嗚呼」


力なく頷いたマサオが、弱々しい眼差しでわたしの方を見上げる。


「結局、リナの言う通りだな…」


「わたしよりも可愛い娘なんていっぱいいるし、わたしと付き合っても女の子達が諦める訳ないでしょう?」


「…嗚呼」

No.309

「でも…」


「何だ?」


「それでも、女の子達が諦める方法を、わたしは一つだけ知っていたよ」


「何それ?」


「マサオが、本当にわたしの事を好きだったら、きっと女の子達も諦めていたと思う」


「……」

No.310

わたしの言葉に、思わずマサオは黙る。


「彼女が自分よりも可愛くないからって、きっと最初は諦めないで頑張るんだろうけど、次第に本気で彼女の事が好きなんだって気付いたら敵わないって思って諦めると思う」


「…かもな」


少し考えてから、わたしの言葉にマサオが頷く。

No.311

「本当に好きでもないのに彼女なんて作ったら、絶対にマサオの事を本当に好きな人達にはバレるよ」


「…嗚呼」


「マサオは、本当に人を好きになった事がないでしょう?」


「…嗚呼」


わたしの言葉に頷くと、マサオは立ち上がった。


そして、わたしの方へと歩み寄ってくる。


「何…?」


わたしは戸惑いながら、マサオの方を見詰める。

No.312

「リナ」


わたしとマサオの目が合う。


「本当に、今までゴメン…」


わたしの前まで来たマサオは、頭腰の辺りまで本当に申し訳なそうに謝った。


「じゃあ、別れてくれる?」


別れを切り出すチャンスだと思い、わたしは透かさずマサオに訊ねる。

No.313

「…嗚呼」


「ありがとう」


ココで言うべき言葉なのか迷ったが、わたしはマサオに礼を言った。


「わたし、マサオの事が本当に好きだったよ」


「…ありがとう」


マサオは顔を上げると、本当に嬉しそうに笑った。

No.314

しかし、すぐにマサオの表情が淋しそうに曇った。


「でも、今のリナは別の人が好きなんだよね?」


「…うん」


本当はまだマサオの事が好きだが、ココでそう言ったら話がややこしくなりそうなので、わたしは取り敢えず頷いておいた。

No.315

「付き合っているの?」


「…うん」


「そっか…」


マサオの淋しそうな表情に、何だか心が痛む。


わたしは、出来るだけマサオの方を見ない様に、マサオの部屋の壁を見詰めていた。


「何となく、分かっていたよ。俺と別れたいと言ってきた時から…」


「…うん」

No.316

「リナ、幸せになってね」


「ありがとう」


マサオに嘘を吐いた事に罪悪感を感じながら、わたしは精一杯の笑顔を作る。


「マサオも、本当に好きな人に出逢えたらいいね」


「…嗚呼」


「じゃあ、わたし行くね」


「…嗚呼。リナ、元気でね」


頷いたマサオは、わたしに手を振る。

No.317

いつもなら、玄関まで送ってくれるのに、今日はココで別れるつもりらしい。


わたしも、それでいいと思った。


これでマサオとお別れなのに、見送りなんてされたら余計に淋しくなりそうだ。


わたしは、精一杯の笑顔を作ってマサオに手を振りながら、マサオの部屋を後にした。

No.318

マサオの家を出ると、わたしは達成感を感じながら、バスに揺られて真っ直ぐ家へと帰った。


しかし、今のわたしが感じている感情は、達成感だけではない。


確かに、マサオと別れられた事には達成感を感じるが、それと同時に淋しいとか悲しいという感情も押し寄せてくる。


自分が望んだ事なのに、心から喜ぶ事が出来ない。


わたしは、本当にマサオの事が好きだったから。

No.319

マサオの本性を知ってしまったというのに、どうして未だにマサオの事を好きなままなのだろう。


至極、不思議に思う。


そう何度も思ったが、やはり自分の思い通りにはいかないのが、恋愛感情というモノなのだと思う。


そして、そんな淋しいとか悲しいという気持ちは、家へ着いてからも続いていた。


そんな時、わたしの携帯電話の着信音が鳴る。

No.320

わたしは、急いで携帯電話を手に取り、その画面へと目をやった。


マサオからの電話かと、わたしはまた期待してしまった。


『やっぱり別れたくない』とか『よく考えてみたらリナの事が好きだった』とか、そんな言葉をマサオに言って欲しいと思った。


もっと正しく言うなら、思ったというよりも願ったという方が正しかったかも知れない。


しかし、やはり現実は思い通りにはいかないモノだ。


期待すればするだけ、ガッカリするのが現実。

No.321

携帯電話の画面を見ると、表示されているのはケイタさんの名前だった。


またガッカリしてしまった事で、ケイタさんに対して申し訳なく思う。


そして、わざとではないが昨日は電話を無視してしまったので、今日こそは電話に出なければと思いながら通話ボタンを押す。


それに、今はマサオと別れたばかりで淋しくて、誰かと話したい気分だったから丁度いいとも思った。


黙って一人で部屋にいると、余計に気持ちが沈んでくるんだ。

No.322

「…もしもし」


『おう、俺だ!』


「…はい」


電話越しのケイタさんの声は、相変わらず元気そうなので、わたしにも元気を分けてくれないかと思った。


そして、その直後に今日は高校が終わった後に逢う事を提案されたのに、それを断ってしまった事を思い出した。


ケイタさんには、本当に申し訳ない事ばかりしている。


そんな自分に自己嫌悪しながら、わたしは口を開く。

No.323

「今日は、スミマセンでした…」


『いや、いいって!俺も、急に言ったしな』


「また誘って下さい」


社交辞令ではなく、本当にそう思った。


今は一人でいるよりも、誰かと一緒にいた方がいたい。

No.324

その方が、マサオの事を考えなくて済む様な気がするんだ。


『おう!明日は?』


「大丈夫です」


『じゃあ、明日は高校が終わる頃に迎えに行く!』


「はい」


ケイタさんの言葉に頷きながら、ふとわたしは部屋の壁に飾ってあるカレンダーに目がいった。

No.325

今月は、お姉ちゃんの誕生日があった。


そして、今月はわたしの誕生日でもある。


わたしの誕生日は、お姉ちゃんの誕生日の3日後。


そして、お姉ちゃんの誕生日があった日から、明日は3日が経つ事になる。


マサオの事ばかり考えて忘れていたが、明日はわたしの誕生日だ。

No.326

そう思った瞬間、わたしの脳裏を様々な想いが過ぎる。


明日の朝、お父さんはわたしに誕生日プレゼントに何が欲しいか訊ねてくると思う。


そしたら、わたしは誕生日プレゼントにはハートのイヤリングが欲しいと言おう。


少しでも、お姉ちゃんみたいに美人だと思われたいから、可愛いイヤリングが欲しいと前々から思っていたんだ。

No.327

そして、問題は誕生日パーティーだ。


今年も、お父さんとお姉ちゃんだけしか、わたしの誕生日を祝ってくれないのだろうか。


そんなの淋し過ぎる。


折角、ケイタさんという彼氏が出来たんだ。


ケイタさんにも、わたしの誕生日を祝って欲しいと思った。


ケイタさんを誘ったら、誕生日パーティーに来てくれるだろうか。


しかし、相手に訊かれた訳でもないのに、自分から誕生日を教えてもいいものなんだろうか。


祝ってくれと言っている様なものだと思う。

No.328

実際、わたしは祝って欲しいという願望を抱いているのだが。


それは、スゴく厚かましい事の様に感じた。


『リナ?』


考え事に没頭していたわたしの耳に、電話越しからケイタさんの声が届く。

No.329

「…スミマセン。ちょっと、考え事をしていました」


『考え事?』


「はい」


『何を考えていたんだ?』


「えーと…」


わたしは、ケイタさんへの返答に困った。


この様な場合、正直にカレンダーを見たら今月が自分の誕生日である事を思い出して、その事を考えていたと言っても良いモノなのだろうか。

No.330

しかし、ココでそれを言ってしまえば、ケイタさんはわたしの誕生日を知る事になると思う。


そしたら、やはり祝ってくれと言っているのと変わらない様な気がする。


そして、やはりわたしはそれをスゴく厚かましい事だと感じた。


しかし、他にケイタさんに返す言葉も思い付かない。


恐らく、人と関わる事に慣れている人なら、この様な場合は適当な事を言って誤魔化すのだろう。


しかし、わたしはそんなに器用な事が出来る人間ではない。

No.331

『リナ、言ってみろ』


「……」


『俺は、リナの考えている事とかが知りたい』


ケイタさんは、わたしが何を考えていたかを言うまで、引き下がる様子はない。


やはり、ココは正直に言うしかないのだろうか。


そう思ったわたしは、何と言ったらいいか迷いながらも、取り敢えず口を開く。

No.332

「あの…」


「何だ?」


「わたしの部屋に、カレンダーがあるんです」


「嗚呼」


「それを見ていて、今月は――」


お姉ちゃんの誕生日があったと思った。


そう言おうとしたが、わたしは途中で言葉を止めた。

No.333

お姉ちゃんの誕生日の日、わたしはお姉ちゃんの誕生日パーティーに参加せずに、ケイタさんと一緒にいた。


そのため、お姉ちゃんの誕生日の日にちを訊かれたら、ヒドい人間だとケイタさんに軽蔑されそうな気がしたから。


『どうした?』


途中で言葉を止めたわたしに、不思議そうにケイタさんが問い掛ける。

No.334

『今月が、どうかしたのか?』


「…誕生日なんです」


覚悟を決めて、わたしは言った。


『誕生日?』


わたしの予想通り、ケイタさんは鸚鵡返しに呟く。

No.335

『誰の?』


お姉ちゃん。


そして、わたし。


心の中で呟くだけで、わたしは口には出さなかった。


「……」


『リナのか?』


わたしが黙っていると、ケイタさんは予想通りの言葉を口にした。

No.336

「…はい」


わたしは、ケイタさんの言葉に頷く。


これで、いい。


これで、お姉ちゃんの誕生日があったと思った事を話す必要がなくなったし、わたしの誕生日が今月だという事も分かってもらえた筈だ。


しかし、やはり自分の誕生日を教えた事は、祝ってくれと言っている様な気がして厚かましく感じた。


そのため、ケイタさんに厚かましく思われていないか、とても不安に感じた。

No.337

『いつだ?』


「え…?」


『リナの誕生日。何日だ?』


「あの…」


「あ?」

No.338

「別に、祝ったりとかしてくれなくていいですから…」


厚かましく思われたくない気持ちから、わたしは心にも思っていない事をケイタさんに言った。


本当は、物凄く誕生日を祝って欲しいと思っているくせに。


普段は、知り合いを家族には逢わせたくないのに、誕生日パーティーの日は家族に見せ付けるために、家に来て欲しいと思っているくせに。

No.339

『リナ、本当にそう思っているのか?』


「え…?」


『本当に、誕生日を祝ってくれなくていいと思っているのか?』


「……」


ケイタさんに問われて、思わずわたしは黙り込む。


『リナ、黙っていたら分からないぞ』


「スミマセン…」


『もう一度、訊くぞ。本当に、誕生日を祝ってくれなくていいと思っているのか?』

No.340

「…いえ」


『だよな』


最初から、訊かなくても答えは分かっていたという様子で、ケイタさんは呟く。


『リナは、どうして祝ってくれなくていいなんて言ったんだ?』


「自分から誕生日を教えたら、祝ってくれと言っているのと同じの様な気がして…」


ケイタさんは、黙ってわたしの話に耳を傾けている。

No.341

「厚かましいと思われそうで、不安だったんです…」


『そんな事、俺は気にしないぞ』


わたしが話し終わると、ケイタさんは優しい声で言った。


『誕生日を祝いたかったら祝うし、祝いたいと思わなかったら聞いても祝わない』


「はい」


わたしは頷きながら、ケイタさんは自分に正直な人だと思った。

No.342

人の言葉で、自分の行動を決めたりしない。


自分の気持ちで、いつも自分の行動を決めているんだ。


『それに、リナが何を思っていたのか訊いたのは俺だ』


「はい」


『だから、リナは自分から誕生日を教えた訳ではないと思うぞ』


「はい」


わたしは頷きながら、確かにケイタさんの言う通りだと思った。

No.343

マイナス志向なわたしは、いつも一人で考えていると悪い方にばかり考えてしまう。


しかし、そんなわたしをケイタさんは、いつもプラス志向な方へと連れて行ってくれる。


そのため、このままケイタさんといる時間が増えれば、いつかわたしもプラス思考になれる日がくるのだろうか。


漠然と、そんな事を思った。

No.344

『それで、リナの誕生日は何日なんだ?』


「…明日です」


『明日!?随分と急だな!』


「…ですよね」


これは、祝ってはくれないかも知れない。


そう思って、わたしは諦め掛けていた。


しかし、ケイタさんは良い意味で、わたしの期待を裏切ってくれる。

No.345

『リナ、明日は盛大に祝おうな!』


「はい」


ケイタさんの言葉に、わたしは物凄く嬉しい気持ちが込み上げてきた。


しかし、人間とは更なる幸せを求めてしまう生き物。


「あの…」

No.346

『何だ?』


「明日、家族がわたしの誕生日パーティーを開いてくれると思うんです」


『嗚呼』


「それで、もしご迷惑じゃなければ…」


『俺も、行っていいのか?』


わたしが全て言い終わる前に、そうケイタさんが訊ねてきた。


それを、わたしは嬉しく思う。

No.347

「来てくれるんですか?」


『勿論!』


「嬉しいです」


『明日、楽しみだな!』


わたしが嬉しくて少し微笑むと、ケイタさんも電話越しで少し笑った。

No.348

『それにしても、リナは幸せだな』


「え…?」


いきなり、携帯越しに発されたケイタさんの言葉に、わたしはヒドく戸惑った。


わたしは、自分が幸せだと思った事はない。


いつも、お姉ちゃんが幸せな姿を見て、羨んだり妬んでばかりいた。


そして、人から幸せだと思われている事もないと考えている。


当然、人から幸せだと言われる日が来るとは、夢にも思っていなかった。

No.349

それなのに、ケイタさんはわたしの事を幸せだと言う。


一体、どうしてなのかは分からない。


しかし、何か理由がある筈だ。


「どうして、そう思うんですか?」


わたしは、真剣な様子で訊ねる。

No.350

すると、ケイタさんは疑問を疑問で返してきた。


『リナは、家族から誕生日を祝ってもらえなかった事があるか?』


何故、この様な事を訊いてくるのだろうと思いながら、私は今までの自分の誕生日を振り返ってみた。


そして、いつの誕生日を振り返っても、いつもお父さんとお姉ちゃんが祝ってくれた光景が頭を過ぎっていく。

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