冥途の土産にやり直すべき日を聞いて逝きます~さようなら~

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2023/05/23 15:04(更新日時)

桜の花が咲き誇る頃、妻が家を出て行った。

No.1695914 (スレ作成日時)

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No.151

玄関ドアの前に呆然と立ち尽くしたまま、
親父が出てくるのを待った。


何度も戸を叩いた。


何度も親父を呼んだ。


いくら待っても親父は出てこなかった。


俺がここまで来て、ここで待ってるというのに…


『嘘だろ…』


さっきまでの胸のドキドキ感は消えて、
重い空気がまとわりついてきた。


状況の把握に懸命に努めた。


だけどもう何がなんだか…


今起こっていることは、
俺が家に入れてもらえずに、
「帰れ」「二度と来るな」と言われたまま、
ここに突っ立っていること。


自分の無力感が辺りの夜の暗さと同化して、
一瞬自分が消えてしまったのではないかと思うくらい、
ただ呆然と目の前の固く閉ざされたドアを見ているしかなかった。

No.152

来ないほうが良かったってこと…?


親父に期待した俺が馬鹿だったってこと…?


そんなこと、とっくに分かっていたはずなのに、
どうして俺はこんな所までのこのことやって来たんだよ…


話しがしたかっただけなのに…


いい関係を築いていきたいと思ったのに…


怒りで涙が出てきた。

No.153

こんな人間に俺は何を期待してたんだよ…


ドアの向こうにいるそいつが許せない。


帰れ?


いい加減にしろよ…


いったい何が不満だっていうんだよ…


漬物が入ったデパートの袋を、思いっきりアパートの廊下に叩きつけた。


悔しくて蹴り上げた。


袋が破けて包装紙に包まれた漬物が宙を舞った。


アパートの通路にボトボトボトっと落ちて、破けた包装紙から漬物が見えた。

No.154

親父の名前が書かれた帯が見える。


目を逸らして階段を降りて走った。


悔しかった。


早くここから離れたい。


早く親父の住む町から離れたい。


あんな奴、父親なんかじゃねえ…


思い出の町でもあったこの場所が、
一瞬で憎しむ相手の住む町へと変わった。


そうやって周りを一切シャットアウトして、一生一人で生きてろよ…


言われた通り、二度と、二度と来るもんか…。

No.155

その前日の土曜日。


-常雄宅-


昨夜買ってきた競馬新聞は、山折り谷折りを繰り返されて、
既にグシャグシャになっていた。


二十年以上もご無沙汰だから、馬名を見ても知らない馬だらけ。


そりゃそうだ。


うーん。どのレースに賭けようか…。


このレースは難しい…このレースはつまらない…


競馬新聞をひっくり返したり閉じたり開いたりしながら、
翌日の日曜日の全レースを夢中になって研究した。


気づいたら昼食も食べずに夕方になっていた。


どうすんだ。どのレースにするんだよ…。

No.156

胡坐をかいて頭を掻きながら、あっという間に時間が過ぎた。


『そうそう。アレが必要なんだよ、アレが…』


いろんな箪笥の引き出しを開けて、ようやく見つけた。


先が少し丸くなったまま数年使われていなかったであろう赤鉛筆。


『おまえの出番だぞ』


赤鉛筆は常雄の耳に挟まれたり、
はたまた上唇と鼻の間に挟まれたり、


人差し指と中指に挟まれて振られたり、
頭を掻く道具にされたりしながら、


久しぶりに仕事ができる嬉しさを、
シャシャっという心地よい音で表現した。


『いい書き心地だ』

No.157

日曜日の午前中。


常雄は書き込んだ競馬新聞と赤鉛筆を手に競馬場にいた。


昨日、一日かけて勝負レースを決めた。


競馬新聞に穴が開くほど分析を重ねた結果、
当てにならない数値や血統よりも、
賭けたい馬はどれかというところに照準を絞った。


人生最後の賭けレース。


好きな馬に賭けたいと思った。

No.158

今現在強い馬と言われる馬に賭けようと思ったが、
それはやっぱりつまらない。


愛着のある馬もいなかった。


余計な情も情報もなかったおかげで、
ただ単純に賭けたいレースと馬を絞ることができた。


ほぼ寝ずに考えて、結論が出た。


今日は10月一週目の日曜日。


勝負するレースは一本だけ。


私が人生最後の日に賭けたいと思った馬。


その馬が走るレース…


それは、崖っぷち「三歳未勝利」最終レースだった。

No.159

残金40万円。


全額注ぎ込もう。


複勝で。


未勝利戦でこんな無謀な賭けができるのは、私くらいなもんだ。


しかも注目度が一番低い馬。


死ぬ気じゃないと、そんなことはできない。


まさに死ぬ気だからできるんだよな。

No.160

愚かなんだか、潔いんだか、
自分でもわからなくなってきた。


私が有り金全部叩いてもいいと思ったその馬の名前は…


ミラクルボーイ。


鹿毛の牡馬。


重賞レースでまあまあな成績を収めた父母と違って、
ミラクルボーイは新馬戦からずっと着順掲示板にも上がらず、
出場5回目となった前戦でようやく五着に入った。


そんな馬だ。

No.161

だから走る馬の中でも三着に入る可能性なんて、ほんのわずか。


今日のレースで優勝しなかったら、この馬たちの未来はどうなるのか。


競走馬の世界は実に厳しい。


私がもし競走馬として産まれていたら、やはり三歳未勝利戦を走り続けていたんだろう。


いや、そもそもレースに出場できる能力があったのかさえ分からない。

No.162

産まれた馬たちのうち、無事に新馬戦に出場できる馬。


そこから活躍して古馬となっていく馬。


それだけじゃなく、500万、1000万、1600万、オープンと勝ち上がって重賞レースに出る馬。


GⅠレースで優勝する馬。


その体系はまさにピラミッドだ。


この未勝利の馬たちは、そのピラミッドの底辺で去っていく。


三歳にして将来が決まってしまう。


まさにその瞬間を私はこれから見ることになる。

No.163

敗れ去った馬たちは、
無理を承知で格上げ挑戦するか、
障害レースに行くか、
乗馬となる道があるのか、それは分からない。


ただ今の時点で言えるのは、
このレースに出場するどの馬も、紛れもなく「崖っぷち」だということだ。


そして私はその崖っぷち状態の馬の中でも、
特に優勝する可能性の低いミラクルボーイに賭けることにした。


なぜだろう。

No.164

ミラクルを起こすことを期待されて名付けられたであろう、その名前。


悪い意味で期待を裏切ることになって、
ミラクルボーイ自身、
本意ではなかっただろう。


そんな期待に応えられなかった虚しさに、
親近感を覚えたからなのか、
今まで一度も日の目を見ることなく走り続けた馬が、
最後の最後に一発逆転する瞬間を見てみたいと思ったからなのか。


No.165

ただ賭けというより、
どんな結果に終わっても、
この馬の未来が輝くものであるように、
願いを込めて賽銭するような、
そんな気持ちだった。


今、彼はどんな顔でいて、
どんな心境でいるのか。


馬に自分の状況が分かるとは思えない。


だが、競走馬として産まれて活躍を期待され、
そして競走馬としては無理だと、
烙印を押されて淘汰されていくであろう
この馬の最後の勇姿を、
私はちゃんと見届けたいと思った。

No.166

パドック。


馬たちが項垂れて歩いている。


みんな目が死んでんなーおい。


未勝利って感じだな。


後ろの方でチャカついてる一頭がいた。


大きい目をひん剥いてハミを噛んで、白目まで見えてる。


ここで入れ込んでもしょうがねえんだよ。


パドックが本番だと思ってんじゃねえのか?


チャカつく一頭の後ろで一段と白い汗が背に光る馬が見えた。


ミラクルボーイだった。

No.167

周回二周目に入り、馬影からその姿を現して、


ようやくミラクルボーイの顔が見えた。


うつ向いて歩いてはいるが、踏み込みはしっかりしている。


少々汗をかいているが、馬体の艶はいい。


いかにも落ちこぼれてそうな顔立ちで、


貧相な馬体というのを想像していたのだが、


目の前に現れたその馬は、


気品が高く、賢そうな顔立ちの馬だった。



No.168

私は一目でミラクルボーイを気に入った。


成績は散々で、
周囲の期待を裏切り続けてきた馬らしからぬ堂々とした面構えと、
悠然と歩く姿。


人間だけが、
この馬の行く末を勝手に心配して右往左往している。


当のミラクルボーイは、
そんな心配はお構いなく、
まるで他人事のように違う次元で歩いていた。

No.169

馬は自分の置かれてる状況を
理解しとらんもんなあ...。


そう思った時、
目の前を通り過ぎ行くミラクルボーイがフウッと顔を上げて、
その大きな目で真っ直ぐ私を捕らえた。


ドキッとした。

No.170

競馬に夢中だった若い頃、
今日のようにパドックに何度か足を運んだ。


馬たちが歩いている姿を静かに眺め、
馬の能力、馬体の状態、雰囲気など、
諸々を加味してその日賭ける馬を決めた。


たくさんの馬が
私の目の前を通り過ぎて行った。


何十頭、何百頭と通り過ぎた。

No.171

ただの一度も、
馬と目が合ったことはなかった。


だからまさか、
ミラクルボーイがこちらを向くなんて、思いもしなかった。


なんで私を見るんだよ...。


その視線は、2秒ほど私を捕らえて離さなかった。


なぜ今私を見たのか。


疑問の余韻を残しながら、
私に背を向けて遠ざかっていった。

No.172

私が思ったことが、
ミラクルボーイに伝わってしまったからなのか、
何か私に言いたいことでもあったのか、
何かを感じとらなければならない2秒だった気がした。


下を向いてタラタラ歩いていた馬が、
自分の未来と私の未来を見据えたような顔をして、
私を捕らえて離さなかったのだから。


私を威圧したのか?

No.173

いや違う。


ただ目が合っただけじゃない。


未来を達観した顔とも違う。


悟りを開いた優しい顔とも違う。


それこそ馬ヅラだが、
その目はまるで仁王か
阿修羅のように強い目だった。

No.174

黒い目の奥に、
どれほどの思いがあるのか想像もつかない程、深く黒い目をしていた。


その目の黒さに鳥肌が立った。


私を中身のない薄っぺらな人間だとでも思ったか?


薄紙を光に透かして
向こう側が簡単に見えてしまうかのように、
たった2秒という短い時間で
心の中まで見透かされて、
私という人間の価値を判断された気がした。

No.175

いつも柵の外で馬を見ている側の私が、
今日は柵の内側から馬に見られ、
そして瞬時に判断されてしまった嫌な感覚。


少し心外な気分になった。


いつも人間にそうされてきた馬の気持ちが、何となく分かった気がした。


今日ほど、馬たちが人間をどう思っているのかを聞きたくなった時は無い。


人間をどう思っているのかではなく、私を見て何を思ったのか。


ミラクルボーイに聞いてみたいと思いながら、
本馬場へと入場する彼らを見送った。

No.176

まばらな観客席。


椅子に座って馬券を確認した。


たった一枚。


複勝ミラクルボーイ。


賭け金40万円。


我ながら、思い切ったことをしたもんだ。

No.177

返し馬を目にしながら、
この光景をしっかり見ておこうと思った。


ここにはもう二度と来ることは無いから。


この晴れた清々しい空も、
耳に聞こえてくる場内の音も、
どれも今日で最後。


死ぬことを決めた日から、
一週間が経った。


パチンコやら競馬やら、
考えることがあったおかげで、
この一週間、自殺することを考えなくて済んだ。

No.178

やりたかったことは全てやれた。


納得いくまでやれた。


感謝の思いでいっぱいだった。


こんな私の望みを聞いてくれまして、
ありがとうございました…


涙が出そうだ。

No.179

私の前を観客が通った。


見られてはマズイと顔を伏せた瞬間、
溢れた涙が手の甲に落ちた。


どうして涙が出る?


この一週間を楽しめたことが嬉しかった。


楽しい日々は続かないことも分かっていたし、
この日々は人生を諦めたからこそ、
得られた日々。


必ず最後の日がやってくる。


その楽しかった日々とセットにやってきた、
最後の日というのは、
自ら望んだ日であり、
ありがたいものじゃねえか…。

No.180

ありがてぇよ…


一週間前にあった100万円、
賭け事に全部使っちまった。


これでよかったんだよな…


だって、もうやることが何も無いんだから。


やるべきことも、
やれることも、
やりたいことも、もう何も無い。


あとは死ぬだけ。


このレースが終わったら、
死ぬだけ。

No.181

だけど、こんな晴れた空を見てるとよ、
もう少し私に何かできなかったかと考えてしまうんだよ。


結局自殺することになったとしてもよ、
もう少し、もうちょっとだけ、
何か頑張れることがあったんじゃねぇかってさ。


そんなもん無いと思ったから、
今私はここにいるんだけどな。

No.182

一週間前の私が、
少しだけ、ほんのわずかでもいいから、
私自身を諦めずにいたら、
まだ何か頑張れる選択肢を見つけられていたのかなって。


少し考えてみた。


すぐにやめた。


やっぱりねぇか…そんなもん…。


生きてたってよ、
なんもいいことねぇ。


いいことがなんも無いこの世界に、
今までずっと生きてきて、
それでもよ、
なんかできないか、
なんかやれることがあるんじゃないかって思って生きてきたよ。

No.183

家族が去って行って、
仕事も無くて、
一人で孤独で年とって死んでいくなんて、
考えたことも無かった。


今死のうが、
10年先、20年先に死のうが、
同じなんだよ。


きっと変われない苦しみは何も変わらない。


だけどよ…

No.184

天を見上げた。


空があまりにもきれい過ぎるんだよ…


頭上に広がる青い空。


日に照らされて光る雲。


なんだよ、この空…


ずっと見ていたいと思うほど、美しい。

No.185

胸が熱くなった。


見れるものなら…


こんな空を
これから先もずっと見ていたかったと思ってよ…。


詰まる言葉が涙となって出てきた。


もうすぐミラクルボーイが出走する。


スタートが出遅れないか、ちゃんと見てやらないと…


だけど…


顔を覆い隠した競馬新聞の中で、
鼻をすすりながら泣いた。

No.186

スタート!


ゲートが開いた。


スタートは皆きれいに揃った。


1,800メートル、ダート。


どんな結果になっても


何着になっても


最後まで私が見届けてやるから。


馬番9番のミラクルボーイだけを目で追った。

No.187

馬群の中で走るミラクルボーイを見ながら思った。


おまえ、さっき、どうして私を見たんだ?


今日が最後のレースだってこと、
おまえ知ってるか?


競走馬としての重圧から解き放たれるから嬉しいか?


期待に応えられず、悲しい気持ちになんてなってないよな?


馬だからな。

No.188

だけど、おまえを見ていて思ったことがあるよ。


人間だけだな。


死にたいって思うのは。


きっとおまえらは、
どんなに腹が減っても、
どんなに苦しい状況でも、
生きたいって思うんだろうな。


生きる道を必死に探すんだろうな。


生きていくことだけ考えるんだろうな。


人間はどこまでも我儘な生き物だよ。


自分から死のうなんてさ。

No.189

だからさっきパドックで、
おまえは私を見て怒ったんだろ?


そうなんだろ?


流れるように
こっちに向かって馬群が近づいてきた。


コースを曲がり切った。


鞍上の騎手が必死にムチを打つ。


最後の直線。

No.190

馬群後方を懸命に走るミラクルボーイ。


残り200メートル。


もう二度と、こうして走ることはないかも知れない。


競走馬として走ることはないのだろう。


おまえにそれが分かるのか?


五着でも三着でも二着でもダメなんだぞ。


一着でなきゃ…

No.191

もう無理だとわかっても、
懸命に走るミラクルボーイから目を離さなかった。


既に数頭ゴールした。


かけてやる言葉が思い浮かばない。


一着じゃないなら、
ビリでも良かったのに、
それでもおまえ、最後まで一生懸命走ったんだなぁ。

No.192

ゴールし終えて
減速するミラクルボーイの姿をずっと目で追った。


ありがとよ…


静かにレースが終わった。


直ぐに席を立てなかった。


暫くの間、
目を瞑ってこの余韻を、
この場内の空気を目一杯、感じていた。


最後まで必死に追い続けたミラクルボーイの着順は、6着だった。

No.193

40万円が消えた。


だけど、そんなことはどうでもよかった。


わかっていたことだから。


ミラクルボーイがゴールした瞬間、思った。


決まった、と。


ミラクルボーイの人生も、私の人生も。


彼は最後まで諦めずに懸命に走った。


私ができなかったことをした彼は、
それだけで尊い。


負けた40万円の馬券を握りしめ、
人生最後の電車に乗り、
帰宅の途に着いた。

No.194

自宅に着いて、大きくため息をついた。


あとは...
あれをするだけか...。


幸子と和典が出て行って以来、
2年以上もの間、一度も掃除されていない家。


部屋にある、
ありとあらゆる物全てが埃をかぶって白くなっていた。


床は埃の玉が所々で動めき、
歩くと私を避けるように床を滑りながら四方八方へ広がった。

No.195

サビた流し。
蜘蛛の巣ができた天井の片隅。
黒ずんだ便器。


無造作に投げ掛けられた服。
落ちたハンガー。
飲みかけの酒の瓶。


食べ終わったまま毎日重ねていったインスタントラーメンの容器と箸の山。


溜まったゴミ。


「よくもまぁここまで...」

No.196

玄関、台所、トイレ、
6畳の2部屋、4畳半の部屋、
廊下を一通り眺めた後、
6畳の部屋の隅の壁にもたれながら座りこんだ。


激しく汚い家だが、
もう今さらきれいにする気持ちもない。


このまま私と一緒に...


競馬場を一歩出た瞬間から、
私は無気力になっていた。

No.197

電車に乗っている間も、
このまま家に帰らず、
どこか知らないところまで行ってしまおうか、
その知らない場所で果てようかと、
フラフラした気持ちで座っていた。


もうやることは全部やって、
あとは死ぬだけなのだから、急ぐこともない。


ダラダラと右へ左へ無意味に蛇行しながら、
通常かかる時間の3倍の時間をかけて、
家にたどり着いた。


腹が減ってお腹がグーグーと騒ぎだしても、
ぽかんと口を開けたまま、ずっと部屋の空を見ていた。


そうしている間に、
閉めきった窓からカーテン越しに射しこんでくる陽の光が
左から右へと移っていって、
いつの間にか部屋一面が暁色に変わっていた。

No.198

その優しい色に心が徐々に温められて、いつの間にか穏やかな気持ちになっていた。


こんなに安らぐ気持ちになったのは、いつ以来だろう...。


こんな私にも暖かい光が注がれたのかと思ったら、嬉しくて有り難くて胸が一杯になった。


自然と涙が溢れた。


No.199

どこの誰に向けるでもなく、にっこりと微笑んでみたくなった。


部屋の片隅に座り込んだまま、人知れず優しい笑顔を作ると、目に溜まった涙が頬を伝って流れた。


よし…。


このまま生きていたら益々腹が減ってきてしまうから…。


そろそろ逝くとするか…。

No.200

立ち上がろうとして、ふと目を落とした先に、昔使っていた定期入れが転がっていた。


開いて見ると、もう使用できなくなった定期券と運転免許証が入っていた。


5年前に撮った運転免許証の私の顔。


免許証の写真だから、かしこまってはいるものの、私の顔はこんなにも暗い顔だったのかと少し驚いた。

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