冥途の土産にやり直すべき日を聞いて逝きます~さようなら~

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2023/05/23 15:04(更新日時)

桜の花が咲き誇る頃、妻が家を出て行った。

No.1695914 (スレ作成日時)

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No.51

その間、
生きるための食費だけは、
別に確保しておかなきゃならん。


アパートの家賃やら光熱費やらも、
生きてるうちの分は、
ちゃんと払わないとな。人として。


とりあえず、
20万位は諸々の引き落としのために、
銀行口座に入れておこう。


そのくらいあれば、
死んだ後で文句言われることもないだろう。


手元には、食費と酒代で10万あればいい。

No.52

当初の100万よりはちょっと減ったが、
軍資金70万もあれば、
一週間思う存分、パチンコができる。


この世とおさらばするのは、
70万円を使い切った日。


一週間後。


悔いはない。


決まりだ。


よしっ!
早速明日の朝から並ぼう!


開店10時。
閉店22時45分。


自殺へのカウントダウンが始まった。

No.53

一日目


9時50分にはパチンコ屋に並んでいた。


昨晩は胸が高鳴って、
なかなか寝付けなかった。


夢にまで見たパチンコができる喜びと、
金を使い果たしてしまう恐怖。

No.54

一緒に並んでいる人々が、
どういう類の人たちなのかは分からない。


ただ少なくとも、
一週間後に自殺を考えている人は、
私以外にはいないだろう。


だから負けても怖くない。
逆に勝ってしまったら困るってもんだ。


そんな余裕のある人もいないだろうな。


金がいくらでも使える。
当たるまでやれる。


自分だけが特別だという気持ちでいられた。

No.55

10時開店。


店内の騒がしいこの曲。
こもった空気。


懐かしい。


まるで遊園地に来た子供のように、
光る台に目が釘付けになった。


他の客は早々と座って打ち始めている。


忙しく打つ台を探すも、
もう20年以上もパチンコから遠ざかっている。

No.56

見たことがない機種ばかりが並ぶ。


どれにしようか。


おお!


SUPER鳥物語!!


若かりし私がハマりにハマった、
あの鳥物語の最新盤!


もうウキウキワクワク状態だ。


早速、5,000円をプリペイドカードに換えて、
SUPER鳥物語の台の釘を一台一台読んだ。


この台にしよう。

No.57

気に入った台の前に座ってカードを差し込んだ。


なんて楽しい瞬間なんだ。


できるんだ。
何の制約も制限もなく、
パチンコが本当にできるんだ。


チン。
ジャー。
カラカラカラカラ。


玉が出てきた。

No.58

思わず玉の中に手を突っ込んで感触を確かめる。


ああ。冷たくて気持ちがいい。


右手をハンドルにかけて捻る。


玉が次々と弾かれて上がった。


カシンカシンカシンカシン……


ううぉーーーー。


たまらん…。


チンチンチンチン……


早くも赤いランプが4つ点灯。


音楽と同時に、台が回り始めた。

No.59

バタン。


アパートに戻った。


布団の上に大の字に仰向けになった。


はあ。


頭の中にずっとサウンドが流れている。


比べてこの静かな家の中。


一日中、パチンコした。


爽快に負けた。


しかし10万円で夢が叶った。


失った10万円以上の価値だった。


明日こそフィーバーなるか。

No.60

2日目。


カシンカシンカシンカシン…


全然こない。


リーチ!リーチ!


そればかり。


玉がどんどん吸い込まれてなくなっていく。


まるで、さっさと死にましょうと言われているかのようだ。


隣の客が、高く積もれたドル箱の上に、
更にこれ見よがしにもう一段積んだ。

No.61

カシンカシンカシンカシン…


私も高々と積んでみたいものだよ。


もう「リーチ!」に期待することもなくなった。


こないことはわかっているから。


私が求めているのは、ただのリーチじゃない。


プレミアムなリーチ。


そう。
この鳥物語のプレミアムリーチは、
七色に輝く不死鳥リーチ。


それでないと、意味がない。


ただのリーチで満足などしない。


一度でいいから、
不死鳥を見ることができれば、
もう何もいらない。


ドル箱を積むこともなく、
不死鳥どころか確変もこず、
二日目が終わった。

No.62

三日目。


カシンカシンカシンカシン…


不死鳥目当てで来ているが、
もうかれこれ20万円以上使っている。


こんなに使っても出ないんだから、
1万、2万持ってたって出るはずがない。


若い頃、負け越した分を取り返すどころか、
負け越したことに納得できる有り様だ。


考えてみたら、確実に死に向かっている私が、
不死鳥が出ることを望んでいるというのも、滑稽だな。

No.63

リーチもこない。


何もこない。


台の変化は何もなく、
ただ玉が吸い込まれていくのを
思考停止状態でじっと見ていた。


物凄い速さで玉が無くなっていく。


ふと台を見上げると、
とんでもないところに玉が飛んでいた。


あーまずいまずい。

No.64

こんな無制限な金の使い方、
誰一人として真似できないだろう。


あっぱれ。


負けるということは、金が無くなるということだ。


分かり切ったことだが、それは死ぬということだ。


そしてそれは、あまりにもあっけなく訪れる。


今日が終われば、私の生存日数は残り4日。


それまでに、
どうしても不死鳥だけは見ておかないと、
死んでも死にきれん。

No.65

カシンカシンカシンカシン…


夕方になって、リーチの頻度が高くなった気がする。


鶏がやたらと卵を産むようになった。


コケコケコケコケとちょっとうるさい。


隣の客が私の台を覗きこむ。


これはそろそろ何かがくる前触れなのか?


Uの字で言うと、
ずっと底にいた私は、
ようやく上昇基調に転じたということなのか?

No.66

リーチっ!!


よーし。また鶏が卵を産むぞ!!!


うーーーーーん、うーーーーーーーん


鶏が踏ん張ってるけど卵がなかなか出てこない。


尻から少しずつ卵が見えてきた。


なんだこれー!!??


卵がデカすぎだ!!


うーーーーーーーーーん、うーーーーーーーーん

No.67

鶏が物凄いブサイクな顔でいきむ。


こいっ!!こいっ!!こいっ!!


鶏と同じくらいの大きさの卵だと思われる。


鶏の顔色がどんどん悪くなっていく。


うーーーーーーーん、うーーーーーーーーん


がんばれ!がんばるんだ!


あきらめるな!!


私の身体も、覗きこむ隣の客の身体も、一緒にいきむ。


うぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!

No.68

コケッ。


????????????


鶏、死亡。


あれ!?


死んでしまった。


全身の力が抜けた。


隣の客と顔を見合わせて笑った。


しかし楽しい。


なんだあれは…。


卵の色が金色だったぞ。


もし産まれていたら、あれが不死鳥だったのか?

No.69

上昇基調に転じたかに思えた期待も虚しく、
それからは、すずめが1回そろって、
オウムが一回そろって、
本日は大当たり計2回で終了した。


この三日間、惨敗だ。


しかしながら、その惨敗を吹き飛ばすほどの大収穫があった。


産まれてこなかった金色の卵・・・


気になって仕方がない。


あの卵の正体は一体なんだったのか。


滅多にお目にかかれない、レアなリーチを出してしまった。


初めて見た。


もしかして、私は今、
凄いことをやってのける寸前なのかも知れない。

No.70

なかなか寝付けなかった。


不死鳥リーチは若い頃も出したことがないリーチ。


幻のプレミアムリーチ。


今の私なら出せるかもしれない。


明日も同じ台を打とう。


誰かに台をとられてしまったら、それこそ死にきれない。


明日は今日より早く並ぼう。


はやる気持ちを抑えて、床についた。

No.71

4日目。


昨日まで使った金は30万。


残り40万。


今日を入れて、あと4日か…。


あっという間に三日過ぎた。


いつもより30分早く家を出た。


誰もいないパチンコ屋。


時刻は9時20分。一番乗り。


これで昨日の席は確保できた。


あとは打つだけ。


今日こそ出すぞ。不死鳥よ。

No.72

母さんの家に、美佐子と食事に行ってから数日が経った。


この頃、仕事がつまらない。


大学卒業してから2年半。


どうも気力が出ない。


何をしても面白くない。


ボケーッと考え事をすることが多くなった。


統計によると、
この国の新卒社員の4割近くが、
入社してから3年以内に会社を辞めているらしい。


俺もそういう道を辿るのかな。

No.73

これでいいのか。
このままでいいのか。


そんな思いが一日の中で数回、
心の中を訪れるようになった。


酷い時は、
こんなことをするために、
受験戦争を勝ち抜いてきたのか?
俺はこんなことをするために、生まれてきたのか?


そんな無意味な憤りが、心を支配しそうになった。


それは現状からの逃げなのか、
更なる高みを目指そうとしている気持ちの表れなのか、
自分でもよく分からない。


分からない気持ちに汚染されそうになって、
それを払いのけることができた日々は遠く、
今では寝ることも忘れて、
汚染された心に浸ってしまっている。


そんな時は、いつも思い出した。


親父のことを。

No.74

親父…親父はすげぇよな。


ずっと働き続けてきたんだもんな。


何十年も。


俺なんて、
たった2年半働いただけで、
もうギブアップ寸前だよ。


これでいいのか?なんて思い始めてさ。


だからと言って、何をすればいいのかわからない。


何かを始める気力もない。


どうすりゃいいんだよ、親父...。


親父の話を聞きたい。


俺の話を聞いてもらいたい。


叱ってもらいたい。


俺が考えつかないような言葉をかけてもらいたい。


情けないけど、そんな気持ちが膨らんでいた。

No.75

考えてみたら、
俺と母さんと親父は、心がバラバラだな。


お互いのことを何も知らない。


何も繋がっていない。


これを家族って言うのだろうか。


母さんと親父が離婚しても、
俺と母さん、俺と親父の関係は、
ずっと続くものだと思っていた。


本当は、離婚する前より、
俺と親父との関係は、
ずっとよくなるんじゃないかって期待していたんだ。

No.76

俺も大人になった。


だから男同士、話したいことだって、やりたいことだってある。


社会人になってから、相談したいことも増えた。


聞きたいこともある。


だけど、何だよ、これ。


親父が歩み寄ってくれなきゃ、
俺だってどうすればいいのかわからねぇじゃねぇか。

No.77

親父はいつも俺を遠ざけた。


俺が立ち入ってはいけない領域でもあるんだろ?


話しかけようとしても、親父の後ろ姿がそれを止めた。


話しかけるなと言ってる気がして。


俺はずっと、親父の背中に話しかけていたんだ。


いつ、俺のことを見てくれるの?ってさ。


こんな大人になってもまだ、
その疑問に答えられないなんてな。


ガキの時に我慢した甲斐がねぇよ。


俺、もういい歳なのに、
親父親父って、何言ってるんだろう。

No.78

会いたい気持ちと、失望とが入り混じって、
何か行動して決着させないと、
俺の心の中を、益々親父が占領してしまう気がした。


母さんは相変わらず、ちょくちょく電話してきた。


電話には出ないようにしていた。


どうせまた、面倒なことを言われる。


だけど留守電にはメッセージが入っていたから、
それだけは聞いた。


『和典。電話ちょうだい』


このメッセージを聞く度、気が重くなった。

No.79

だけど、親父と連絡をとるには、
一応、前もって、
そのことを母さんに言っておいた方がいいだろう。


母さんの機嫌が良い時に、それとなく話してみようかな。


俺が親父と連絡とりたいと思っていることを。


俺から母さんに電話をして、
親父のことだけを聞いて話が終わったら、
きっと母さんは悲しむだろう。


何気なく「そう言えば…」という感じで
親父のことをついでに聞いた方がいい。


俺から電話するのではなく、
あえて母さんからまた電話がかかってくるのを、待つことにした。

No.80

カシンカシンカシンカシン・・・


昨日と同じ台で再挑戦中。


私は一昨日は別の台を打っていた。


何人もの猛者たちが、
入れ替わりこの台を打っては敗れ去っていくのを、
間近で見ていた。


そして昨日の朝、
何となく、私もこの台が気になって、
他の客にとられそうになったこの椅子を
訳も分からず、ぶんどっていた。

No.81

この台に何かを感じたことには間違いないのだ。


だが、私も昨日は散々な結果で終わった。


そして今日。


午前が終わって午後になっても、
何も起こらない台。


嵐の前の静けさということなのか・・・


昨日よりも増してつきまとう、ミラクルなことが起こる予感。


昨日の朝からずっと温めてきたこの椅子を、
他の客に譲ることなど、考えられない。


途中、トイレに立つ時も、
他の客に狙われないように、
椅子が見えるギリギリまで目を光らせ、
ささっと済ませて小走りで戻った。

No.82

昼が過ぎて2時間ほど経った。


気のせいかも知れないが、
リーチが出る頻度が高くなってきたような…


何故そう思い始めたかと言うと、
昨日までの三日間、一度しか出なかった鳥群が、
やたらと画面の背景に出現し始めたからだ。


午後に入ってから5~6度はこの鳥群にお目にかかっている。


と、普通に説明しているが、これは普通の状態ではない。


今私は必死に平静を装うとしているのだ。


最初にお目にかかった時は、
一気に血圧が上昇して、
つい、画面にのめり込んで前かがみになってしまった。


何度か出現する間に、
私の心も徐々に冷静になり、
「どうせこないんだろ」と呟いてみるが、
心の中はもう、ワクワクドキドキ状態だ。

No.83

明らかに昨日までとは違う台の変化。


それを薄々感じながらも、踊り出す心を必死に抑えた。


表情がどうしても緩んでしまう。


何かがくる!私だけが今それを感じている。


誰かに喋りたくて仕方がない。


隣の客に言おうか?


何て言うんだ?


『あのー。私の台、何かが起こりそうです』


とでも言うのか?

No.84

そんなことを言ったところで、誰も信じないだろうし、
きっと変な人だと思われてしまいかねない。


話しかけるのはやめておこう。


ただ、顔が勝手にニヤニヤするのを、もう止められない。


誰か!私の台を見てくれ!


何かが起こりそうな気配が…??


冷静になれ、冷静に。


本日の大当たりは今のところ1回。


期待して裏切られての繰り返しだったが、
明らかに画面の回転速度が速くなってる。

No.85

これはもう、おそらく気のせいではないだろう。


なんだか台の方が、
今まさにお祭りモードに切り替わる準備をしているかのような、
意図的に回転し始めたような気までしてきた。


だが裏切られてきたこの数日のことを思うと、
やはり期待するのはまだ早い。


まだまだ早い。


期待するのはまだまだ早いぞーーーーーーーー。


落ち着けーーーー。


「ガラン」


えっつ!?やっぱり!?


画面が変わった!!


卵リーチきた!!


今度こそ、
今度こそ、
産まれるのですかーーーーーーー!!!??

No.86

コケコケコケコケ・・・


うーーーーーん、うーーーーーん


鶏がいきみ始めた。


待ちに待った卵リーチ!


必ずこの画面が見れると信じていた。


今度こそ、産まれるに違いない。


不死鳥が!

No.87

うーーーーん、うーーーーん


苦しそうだ。


頼むっ!こいっ!こいっ!


また鶏の顔色が悪くなってきた。


死ぬな!死ぬな!


鶏の尻から卵が見えてきた。


あれれ??


卵が小さい…


昨日の卵は確か金色で、鶏と同じくらいの大きさだったのに…。


これは一体…

No.88

グワグワグワグワ・・・


鶏が苦しんでる...


羽をバタつかせて羽毛が画面の中に浮遊し始めた。


だ、大丈夫か...


うーーーーん、うーーーーーん


鶏の背景に大量の鳥が飛んでる。


あの鳥は何だ??


「カッコー、カッコー」

No.89

かっこうが飛んできたらしい。


手前の鶏がいきみながら涙を流し始めた。


痛々しい…


徐々に卵の半分が出てきた。


もう少し…


頑張れ頑張るんだ!


うーーーーーん


ココココココココココココケーっ!!


あっ!!

No.90

産まれた!!


卵が一個出てきた!


と思った瞬間、ポロポロポロポロポロポロ。


えっ?


1,2,3,4,5,6,7。


7個出た!!!!!!!!


良かった!産まれた!


卵を産んだ鶏が飛び去った!


どこへいく?


どうなるんだ、これから…


「カッコウ、カッコウ」


画面の奥からカッコウの鳥群がこっちに向かって飛んできた。

No.91

卵が7個産まれて、カッコーの鳥群も出現!


もうこれは確実に、確実に、確定だろ。


やった!やったぞ!


画面手前の卵から何が産まれるのか。


7つの卵のどれかから、不死鳥か?不死鳥が産まれるのか?


卵たちに注目。


握る手に更に力が入る。


卵がプルプルと小刻みに動き始めた。


今まさに卵が割れるのかー!!


「カッコー、カッコー、カッコー、カッコー」


画面奥から飛んできたカッコウたちが画面を覆い尽くした。


卵が見えない…


バタバタと羽をバタつかせるカッコウたち。


何をしているんだ…?

No.92

しばらく画面の中に滞在した後、
カッコーたちは何かを口にくわえて飛んでいった。


物凄く嫌な予感…。


目が点になった。


無い。


卵が無い…。


まさか、あいつら…。


あいつら卵を盗んでいきやがった!!!!


おいっ!!思わず声が出かかって画面を覗き込んだ。


と、そのカラになった巣に、さっき卵を産んだ鶏が戻ってきた。


コッココッコと卵を探して、


あっちこっち探して、


卵が無くて…


鶏、ショック死。


呆気にとられて言葉が出ない。


頭を抱えて台にもたれかかった。


なんだ…この演出の長さ…。

No.93

またか…。


そりゃあ、ショックで死ぬよなー。


あれだけ苦しい思いをして産んだっていうのに、
全部カッコウに盗まれたんだから…。


一瞬でカッコウが嫌いになってしまった。


鶏も鶏だ。


卵産んだ後、飛び立っちゃだめでしょう。


そりゃあ、持ち去られちゃうってもんだよなあ。


大体、鶏が飛ぶところを初めてみたぞ。


体中を襲う脱力感。


カシンカシンカシンカシン・・・


虚しく玉を打つ音。


はあ。


そう簡単には出ないってことだ。

No.94

カシンカシンカシンカシン・・・


あれから惰性で打っている。


台が「リーチ、リーチ」騒いでるけど、どうせ出ない。


冷めた目で台を眺めた。


はあ。


たまに出てくる鳥群を見ると、イラっとした。


くそーーー、かっこうめ。


卵を盗まれた恨みは当分消えないだろうな。


はあ。


今日もまた収穫なしか…。

No.95

これで40万使ってしまった。


残り30万。


残り3日。


出そうで出ない台に、40万円も使ってしまった。


残り3日で、本当に夢は叶うのか?


心配になってきた。


このままプレミアムリーチにお目にかかることなく、
金が尽きてしまったら…。
三日終わってしまったら…。


今まで考えたことのなかった不安と同時に恐怖が湧いてきた。


これだけの時間と金と覚悟を費やして、
何も結果が得られなかったら、
私はどんな気持ちで死ねばいいんだ。

No.96

怖くなった。


机に並べた30万円を、
このまま一日に10万ずつ使っていったとして、
確実にこの金は消えてしまうわけで。


負けるのはいい。


金がなくなるのも、もう覚悟はできているんだ。


結局、生きていたところで、同じように金はなくなっていく。


それならば、夢であったパチンコを思う存分楽しみたい。

No.97

ただ、もう既に思う存分楽しんでいる。


求めているのは、
プレミアムリーチが出ること。


ただ、それだけのことなのに。


こんなくだらない夢はないだろうが、
今の私が見ることができる唯一の夢だ。


もうここまできて、やめることはできない。


途中で諦めることもできない。


そうだ。


最後まで、闘うんだ。


一か八か、最後に花を咲かせるんだ。


残り30万に、私の人生の運を全て賭けよう。

No.98

運など、もう無いのかも知れない。


いよいよ7日間の折り返し地点。


どうか私の夢を叶えてやってください。


私ごとき人間の、これまでの人生の行いの中で、
もし重箱の隅をつつくほどの価値のある良運となって、
返ってくるものがあるとしたら、それは…。


良い行いをしたと思い得る自分の過去の行動を、
できる限り、頭の中に映し出した。

No.99

家の中に飛んできたハエを、
殺さずに外に逃がしてやった。

そうだ。
生かしてやったハエは、
一匹や二匹ではなかったはずだ。


昔、電車の中で、
子連れの母親に席を譲ってやった。

そうだ。
電車だけじゃない。バスでもあったはずだ。


仕事で若い奴らに、
ありったけの知識と技術を注ぎ込んでやった。

『あーっす』とか『うーっす』とか、
ろくに挨拶もできない若造らを相手に、
心折れることなく立派に育てあげた。

No.100

後ろに並んでいた年寄りの婆さんに、
タクシーを譲ってやった。

そうだ。
いかにも譲って欲しそうな態度で、
後ろから強烈に視線を送ってきた。
私も急いでいるフリを精一杯演じた。
だが乗り込もうとした私に、
「あなたは鬼だ」と言わんばかりの形相で威圧してきた。

結局、根負けして譲ってやった。


他にも、
思い出せないような小さな良い行いなら、
たくさんしたはずだ。


見返りを求めるには忍びなさ過ぎる、
当たり前っちゃ、当たり前の行いなんだが、
この際だ。


それらを寄せ集めて、どうかどうか…。


祈りを込めて、翌朝、再び先頭に並んだ。

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