扉を開ければ『非』日常!

レス58 HIT数 7395 あ+ あ-


2011/06/27 00:03(更新日時)

普段何気ない日常……


そんな日常に、見慣れない扉があったら?


そして『絶対開けるな』と書かれていたら?


少しは覗いてみたいと思いませんか?


気楽に覗いてみませんか?


大丈夫ですよ、書いてる人間も、気楽に書いてるんですから……















あ、たとえ何かがあったとしても、


自己責任ということで……


ではではノシ

No.1601923 (スレ作成日時)

新しいレスの受付は終了しました

投稿順
新着順
主のみ
付箋

No.58

カッチャン。

また一つ扉を閉じました。

本当のところ、娘さんはどうしたかったのでしょうね?

両親を仲直りさせるのなら、ほかにもっと良い方法があるでしょうに……。

もしかしたら、娘さんは、ただ自分の未来に絶望し、両親を道連れにしたのかも知れませんね……。

それは、娘さんしか知らないことですが。

では、またお会いできましたら幸いです。

No.57

燃える塩見家を見ながら、如は携帯電話を取り出す。

「ご近所の魅惑になるから、消防署に連絡しなくちゃ」

事務的に火災通報を済ませ、如は呟く。

「どこでボタンを掛け違えたのかしら、あの家族は?」

そして、考えた。

「あれ、私、今回もしかしてタダ働き……?」

No.56

如はせせら笑った。

「それは逆恨みというものでしょう?」

『黙れ……!!』

二人の手が如の首を絞める。如は娘の部屋の中に押し込まれる。

「私はもう付き合ってられませんので……」

そう呟くと、如は懐からジッポライターを取り出した。

チィーン、シュボッ!

そのままライターを、ぶら下がった娘に投げつけた。

娘の衣服に火が点いた。

『あああ、サキッ!』

二人は如を放り出すと、娘に点いた火を消そうと駆け寄る。

「ふー、やれやれ」

如はそう呟き、急いで部屋を、塩見家から逃げ出した。

No.55

「いま、その未練も断ってあげますよ」

そう言うと、如は振り返り様ドアを蹴った。

ドアが軋み、悲鳴を上げる。

ドアは意外な根性を見せ、いまだ何とかドアの役割を果たそうとしていた。

しかし、先ほどよりもより強力な、二撃目には耐えられなかった。

ばたん!!

大きな音とともにドアが開いた。

部屋の中から、家中の臭いよりも濃い死臭――いや、腐臭が流れた。

「ああ、サキ……」

「サキちゃん……」

涙を流し、二人は言葉を詰まらせた。

天井から二人の娘が、無残な姿でぶら下がっていた。

天井と少女の首を繋ぐ、頑強そうなロープがギシギシと音がした。

泣き崩れる二人の体が、砂のように崩れだす。

「おそらく、あなた方がお互いに毒を盛った頃に、娘さんは自分の命を絶ったんでしょうね、絶望とともに……」

「お前は、お前は許さない……」

「あなたがドアを開けなければ……」

二人は崩れる身体で如に迫る。

『お前も道連れにしてやる』

No.54

部屋から返事は無かった。

それも予想済みと、如は余裕のような笑みを浮かべ言葉を続けた。

「あの薬を、あなたはただ台所に置いただけ。その薬に気が付いて、二人が仲直り出来ればと考えたのよね?相手が殺そうと思ってる、それが分かったら、お互い謝って、仲直りできると思ったのよね?ところが二人は、謝るどころか、お互いに毒を盛った、あなたの用意した毒を……」

如はサキの両親に振り返り、優しい笑顔を見せた。

「お分かりになりましたか?あなた方はお二人とも死んでるんです」

「もし、そうだとして、なんで生き返って……」

塩見は口の中で呟くようにそう言った。

「お二人とも、お嬢さんへの未練でしょうね。娘を残して逝けない、そう言った強い想いでしょうね」

如はため息をついた。

No.53

戻って来た如をみて、塩見は驚いていた。

「どうしたんですか……あ、お前……」

自分の妻を見て、一歩下がる。

「再びお邪魔します。奥様とはそこでお会いしました」

「あなた、サキは?」

突然の妻からの質問に、塩見は、

「いつものように、部屋の中だと思うが」

と、反射的に答えた。

そしてそのまま、如は、二回の娘の部屋の前に案内された。

「サキさん、お話が聞きたいのですが?」

如は、自分の後ろで不安そうにしている両親をちらりと見た。

「実は娘は、その、何と言うか、世間で言う……引篭もりでして」

塩見は苦しいそうにそう言った。その顔を妻がキッと、鋭い視線で睨んだ。

「それが原因の一つで、お二人は不仲になったんですよね?」

「な……」

如の言葉に二人は絶句した。

「お互い、殺されるかもしれないと疑心暗鬼にかかるくらいに、仲が悪くなったんですよね?」

「疑心暗鬼など、あなたは何を言って……」

「あの薬、誰が用意したんでしょうね?」

「それは……」

二人はお互いの顔を見る。その様子を如は、皮肉な笑みを浮かべて眺めていた。

「お二人はそれそれが、自分を殺すために用意したと思ってるようですが……」

如は娘の部屋のドアを見、ドアに向かって叫んだ。

「あれは、あなたが用意したのよね、サキさん?」

No.52

「結果毒でなければ、あの人は何事も無く、私も気の迷いだったと……」

女性は、旦那と同じような表現で、同じ事を告白した。

「そして、三日前に血を吐いて死んだと?」

女性は如の言葉にうなずいた。

「あの人は確かに死んだんです!なのにあの人は……」

血を吐き倒れ、冷たくなっていく旦那を前に、彼女は放心状態になってしまったらしい。もしかしたら気を失っていたのかもしれない、何しろその辺の記憶が、本人にもハッキリしないらしい。

ただ気が付いたときには、死んだはずの旦那がそこには居なくなっていて、何事も無かったように帰宅した。

「家中、ひどい臭いだったでしょう?その時から日ごと臭いもひどくなっているんです」

そこまで話を聞いて、如は深々とため息をついた。

あー何というか、笑っちゃうくらい似たもの夫婦……。

そして、家に入る前に確認した表札を思い出していた。

「一つ、お尋ねしたいことが?」

「なんでしょう?」

「娘さん、いらっしゃいますよね?」

「ええ、サキのことですか?十六歳になる娘が一人居ますが……」

「私を娘さんに会わせてていただけますか?」

No.51

女性があの毒を見つけたのも二週間前……。

それまで台所に入りもしなかった旦那が、漢方か何かの粉薬を飲む為、白湯が必要だと台所に出入りするようになった。

その頃から女性の体調が崩れだし、痩せ顔色がどんどん悪くなった。

そして、偶然にも調味料棚にある、あの小瓶を発見したのだ。

女性も、直感的にそれが毒であると考えたらしい。

しかし、証拠も無く、またあの用心深いあの人が、すぐに毒と分かるものを用意するはずが無い。

そこで、女性は旦那の漢方薬に、その薬を密かに混ぜたのだ。

No.50

「え、何でそれを……」

思わぬタイミングのため、如はそう言い、慌てて口を手でふさぐ。

「ホホホ、やっぱり……」

上品そうに、でもやはり顔色の悪い女性は笑った。

「死んでいるのは、自分の方だと言うのに」

女性は意地の悪そうな微笑を如に向ける。

「仕事の話と言うのは嘘ではないでしょうけど、あなた、いわゆる霊能力者か何かね?」

「はぁ、それに近いものでしょうか」

「ホホホ、あの人の正体を見破れないようでは、『自称』なのかしら?」

「別に霊能力者とは自分では言ってませんから」

如はにこりと笑い、皮肉を受け流す。

「逆なのよ、私があの人を殺したのよ」

「台所にあった毒で、ですか?」

「ええ、あなたのお仕事の役にも立つでしょうから、少し話を聞いてくださいな」

そう言って女性は話し出した。

No.49

如は玄関を出、塩見の話を思い出し、頭の中を整理しようと考えた。

死んだはずの妻が……って、簡単に言えばゾンビか……。

庭を抜け、通りに出ようとする如に、女性が声をかけた。

「お客様ですか……?」

痩せた、顔色の悪い女性が立っていた。

如は頭を下げた。

「奥様ですか?旦那様にお仕事の件でお邪魔しておりました」

「まぁ、私の留守中に間の悪い。あの人のことだから、お茶も何もお出ししなかったでしょう?薬を飲むしか台所に入らない人だから」

ため息をつき、女性はクスクス笑い出した。

「どうかなさいましたか?」

「あの人、私が死んでるとか言いませんでしたか?」

No.48

血を吐き絶命した妻を前に、塩見は激しく動揺したらしい。

頭が真っ白になり、どうして良いか分からない。

ただ、この場所には居たくない、逃げ出したいと家を飛び出したらしい。

しばらく近所を歩き、落ち着きと、してしまったことに対する後悔と恐怖が、今度は家路を急がせた。

家に戻ると、台所から物音と、食欲をそそるいい匂いがする。

台所を覗くと、そこには死んだはずの妻が、鼻歌を歌いながら夕食の支度をしていた。

「それから、この家に死臭が漂い始め、今では家中この匂いで充満しています……」

「確認ですが、奥様は本当に亡くなられたのですか……?」

「何度も脈も呼吸も心音も確認しました。それのどれもありませんでした……」

「ですが、相当動揺はされてたでしょうから……」

「それは仰るとおりです。ですが、この家中の、この臭い、これはどう説明しますか?」

身を乗り出すように塩見はそう主張した。

確かに……。

この家を支配するかのようなこの臭いは、生者の出しえる臭いではない。

「それで、私にどうして欲しいのですか?」

「殺しておいて何ですが、死して迷っているなら、妻を、安らかに眠らせてください……」

「……分かりました。確かに、私はその方面の処理屋ですからね、ご依頼をお受けしましょう。日を改めて奥様にお会いしましょう」

「……よろしくお願いします」

塩見は深々と頭を下げた。

No.47

「本当に偶然でした。調味料棚に隠すように置いてある、これを発見したのは……」

如の顔を見、塩見は苦笑した。

「どう思います?直感的にこれは毒だと思いました。妻が自分を殺そうとしていると……。しかし、これが毒と言う証拠も無い。事実、私の体調不良は、医者でも原因は分からなかったんですから……」

「それで、まさか……」

「妻はコーヒーが好きなんですよ。インスタントコーヒーを一日に何杯も飲みます。私はそれに、インスタントコーヒーのビンに、この薬を密かに混ぜました……」

「……」

「結果毒でなければ、妻は何事も無かったでしょう。私も気の迷いだとふっ切れます。しかし、妻は日に日に弱っていき、ついに三日前に血を吐いて倒れました。そしてそのまま――」

「亡くなられたと……」

「はい……」

うなだれる塩見を見て、如はため息をついた。

正直、そう言う事は警察にいって欲しい……。

「それで私に何を?犯罪に手を貸すことは出来ませんよ」

「いえ、この件が無事終われば、私は自首します。あなたに来ていただいたのは、あなたがこの方面の処理屋だとアハ=ロッテン=プライさんから聞いたからです」

「と、いいますと?」

「死んだはずの妻が、今も何事も無くこの家で、生活を続けているんです」

No.46

塩見は重々しく口を開いた。

「私は、妻を殺したんです」

「はい?」

突然の発言に如は、思わず上ずった声で問い返していた。

塩見は席を立ち上がり、急に台所に向かった。戻って来た時には、手に茶色い小瓶を持っていた。その小瓶を如の前に置く。

「英語、でもないし、何語で、これなんですか?」

「書かれているのが何語かは私も分かりませんが、これは毒です」

「これで奥様を……?」

「はい……結果的には……」

「結果的……?」

奇妙な言い回しに如は首を傾げた。

「これは私が手に入れた物ではないんです」

塩見はため息をついた。

「これを私が台所で発見したのが、2週間前です。実はその前から体調がどうにも悪く、病院からも原因不明と言われ、気休めに貰っていた薬を飲む毎日でした」

ほら、顔色がいまだ悪いでしょう?と塩見は笑った。

「それまで、正直台所に入ることなんか無かったんです。台所は言わば妻の聖域だったんです。が、薬を飲むのに水が必要でして、その為に台所に入るようになったんです。それで、これを発見しました」

No.45

中に入って一番最初に気が付いたのは、異様な臭いだった。

如はその臭いに覚えがあった。いや、自身は認めたくないが良く知っている臭いだった。

これは、死臭……。

心の中で呟いた。

「やはり気になりますか?」

「何がですか?」

塩見の問いに、如は微笑でそう返した。

「この臭いです。死臭、と言うのですかね、家中この臭いが充満しています」

「……」

「この臭いの原因は、多分妻です」

「奥様が?一体何故?」

「それをご相談したくて、アハ=ロッテン=プライさんに連絡したのです」

「その前に、彼女とはどういった知り合いですか?」

勧められた椅子に座りながら、如はそう尋ねた。

「繁華街のあるバーで、占いの営業をしてるところを偶然……」

塩見はそう言って、名刺を一枚如に見せる。

「何か困ったことがあったら、ここに連絡くださいと」

それは如もよく見知ってる、彼女の営業用の名刺だった。

「はぁ、ここまでの経緯は察しました……。相談の内容をお話ください」

何かあきらめたように、如は塩見に話を促した。

塩見は頷き、話を始めた。

No.44

「あ、えーと、申遅れました、私、香 如(カガイク)と申します」

如は慌てて名乗り頭を下げた。

「光に弱いものですので、サングラスを外さないのは、お許しください」

にこりと笑う美少女に、塩見は鼻の下を少し伸ばし、頷いた。

「詳しい話は家の中で、丁度妻が出掛けているところなので」

塩見はそう言うと、玄関のドアを開けた。

No.43

頭髪に白いものが混じりだした、中肉中背の、ひどく顔色の悪い50代くらいの男が玄関に立っていた。

「塩見と申します。アハ=ロッテン=プライさんから聞いておりませんか?」

男は不安そうな声を出した。

「あ、ああ、伺っていますよ」

少女は咄嗟に話を合わせた。

実は何も聞いていない。

アハ=ロッテン=プライからは、今朝携帯電話で、ただ『タクシー回したから、それに乗って』としか言われていない。

いつものことながら、少女はここにはいない美女を呪った。

No.42

では扉を開けましょう。

溢春市郊外の住宅街にある、とある一軒家。

その前で一人の少女が、途方に暮れていた。

「ここで、どうしろと……」

口の中で小さくそう呟いた。

歳のころは、十七、八くらい。
色の濃いサングラスと長い前髪(癖の無い黒髪も腰まで届くほど長いのだが)が、目元を隠している。

それでも、やや細身ではあるが、美少女なのは間違いない。

「おや、あなたが彼女の言っていた方かな?」

庭から男の声がかかる。

少女は、声の方向に意識を向けた。

No.41

カッチャン。

また一つ扉を閉じました。

さて、その後のA子さんと、A子さんへの贈り物、気になるところですね?

しかし、それはまた別の扉の向こうのお話……。

その扉を開く機会があるかどうか、それはまた皆様次第でございます。

それでは、またお会い出来る事を心よりお待ちしております……。

No.40

「あれは、人の感情、死の断末が何よりの好物であり、快楽なのです。私、あれに立ち向かい、勝ち残った人間を始めて見ました」

A子の両目にアハは両手を優しく置く。

「私、あなたが気に入りました。これは珍しいものを見せて頂いた、お礼です」

そう言い微笑むと、A子に置いた両手を外した。

包帯と、ハンカチも外す。

血も傷もそこには無くなっていた。

「視力は『人』が踏み込んではいけない領域を犯したペナルティです。その代わり、あなたには贈り物をしました。傷は、綺麗な顔には似合わないので、私からのおまけです」

アハは、意地の悪そうな微笑を浮かべた。

「もっとも、私の贈り物が、あなたにとって最良かどうかは分かりませんが……。今後、私の楽しみが増えたことは間違いないでしょうね」

アハそう言うと、A子をその場に残し立ち去った。

やがて道場に朝日が差し込み出した。

No.39

大きく息を吸い込み、腹の底から声を出す。

「うあぁぁぁあぁぁぁっ!」

道場全体の空気が震える。

A子の右手には銀色に光る、ナイフが握られていた。

ナイフを握る右手に左手を沿え、ためらいも無く自分の左目に――!

左目に火を押し付けられたような熱さと、激痛、無くなる視界、左頬を生暖かいモノが覆う。

そして――。

「ぎやぁーーーーーっ!!」

断末魔の悲鳴が道場に響いた。

A子は力なく崩れ、その身体をアハが後ろから抱えるように支えた。

左目に突き刺さったナイフを慎重に抜き、アハはハンカチでA子の左目を押さえる。

「お見事です」

「ど、どうなったの?」

震え力無いA子の声に、アハは優しい声で答える。

「あなたの勝ちです。あれは悲鳴を残し、消えました。よく、自分の目にあれが寄生してることが分かりましたね」

「ただの勘、だったんだけど、ね」

荒い息の中、A子はやっとそれだけを言い、気を失った。

アハはA子を畳の上に優しく寝かせた。

そして、もう聞こえないであろうA子に説明を続けた。

「あれは、合わせ鏡を行い、あなたが認識した瞬間に、あなたの目に自身の種子の様な物を植え付けたのです。精神生命体である自身の、器という核のようなものです。そして、鏡の中であなたを殺すことにより、あなたが感じた恐怖やその他の感情をエネルギーとし、合わせ鏡一枚一枚あなたに近付き、器に自身を移動させていました」

No.38

鏡の中には自分が二人、やはり一人は悪意ある微笑を浮かべている。

指を首に這わせ、グッと、力を込める。爪が、指が白い喉に食い込んだ。爪で皮膚が裂け、血が流れる。

まず、一人目……、いや、5人目。

あと、七人!

いくら覚悟を決めてはいても、自分が殺される様を見るのは、かなりダメージがあった。

後ろから滅多刺しにされ、口や鼻を押さえられ窒息し、顔の形が無くなるほど滅茶苦茶に殴られ……。

思いつく限りの方法で、嬉々として自分を殺し続ける自分。

幾度も目を逸らしたくなるのを堪え、その場に崩れ落ちそうになるのに耐え続ける。

堪え耐え続けながら、A子は反撃の時を待ち続けた。

十一人、十二人目。

いよいよ最後の……。

凄絶な笑顔とでも言うのだろうか、もはや自分の顔をした人ではない悪魔の形相の自分。

A子の身体に緊張が走り、右手が動いた。

No.37

自宅の道場に案内され、アハは興味津々の顔で周囲をキョロキョロする。

「ここで、何をするおつもりで?」

「これから、B子の敵討ちをします。あなたにはそれを見届けていただきたい。万が一、いや、その可能性が高いんですけど、私が返り討ちにあった場合は、そのときはよろしくお願いします」

A子は淡々とそう言った。

「それって、私の立場が悪くなりませんか?」

冗談っぽく言うアハに、A子は笑顔で答えた。

「そのリスクは、あなたに対するささやかな復讐ということで、ご納得ください」

A子はアハに背を向け、目を閉じた。

深く深呼吸をする。

目を開き、鏡の前に歩き出す。

あんなこと、無理にも止めるべきだった……。

いまさらの思いが心を過ぎったが、首を振ってそれを振り払う。

覚悟を決めて、鏡をA子は睨みつけた。

No.36

「言えなかったんですよ、だって、相手があなたですから」

アハの言葉に、驚きを飛び越え怒りが込み上げる。

「な、冗談は」

「故人のためにも、冗談ではありません」

「そんな……」

「どうしてもあなたとの未来を知りたかったのでしょう。だから合わせ鏡を実行した」

アハは運ばれてきたコーヒーにミルクを入れる。

「あれは、確かに確実な未来を告げます。誰に対しても『死』という未来を……。そして、それを実行するのですから、その未来は確実です」

「あれは一体何なの?」

「あれは、精神生命体です。私たちの世界の隣の世界の住人です。鏡の中でターゲットの影を殺し、十三人目に現実の世界にも干渉し、目的を果たします」

A子はうつむき、テーブルを見つめた。

色々と混乱はしているが、やることは決まった。

「アハ=ロッテン=プライさん」

「アハとお呼びください」

「では、アハさん」

「はい」

「これからちょっと、私に付き合ってください」

「……」

「ことの始まりたるあなたには、ぜひ見届けていただきたい。いや、見届ける義務があると思いますが……」

脅迫のような迫力がある、A子のその言葉に、アハは無言でうなずいた。

No.35

「あなたに復讐をしても何も変わらない。もちろんそんな気も無いわ。ただ確認を幾つかしたかっただけ」

「何をです?」

「B子は何のためにあなたに会ったの?」

「……占い師にも守秘義務はありますかね?」

「さあ?たとえあったとしても、話してもらうわ」

アハはため息をついた。

「何でも、昔から好きな人がいて、その人との将来が気になるとのことでした。占いの結果はあまり良くなく、ガッカリした様子でした」

A子はアハの話を聞いて、驚いていた。

あの子に、好きな人がいて、そのことで悩んでいたなんて……。

あんなに一緒にいたのに……。

何にも知らなかった。

何にも気付きもしなかった。

「何で、私に……」

思わず呟き、口を閉じた。

No.34

アハ=ロッテン=プライは、向かいに座り言葉を続けた。

「または、こうも呼ぶ人たちもいますね……。

 『日常に漣起こす者』

 『幻想の商人』

 『日常に這いより潜む者』

 『嘲笑う女』

 などなど、まあ、お好きなようにお呼びください」

A子は気を取り直し、アハに微笑む。

「なぜ、私があなたを探してると……?」

「ふふ、占い師ですから」

アハはそう言って微笑むと、自分のコーヒーと、A子のコーヒーのお代わりを頼んだ。

「と、言うのは冗談です。知り合いの者から、あなたが私を探していると聞いたものですから」

喫茶店の一角に、何とも怪しい、複雑な空気が淀んだ。

店内の人間で、この二人に注目しないものは無かった。どうやっても目立つ容姿の二人が、剣呑な空気をにこやかな表情で店内に振りまいているのだから……。

「鏡をお見せしたのは、謝罪いたします。確認のため、鏡を見たあなたの反応を見たかったものですから」

「……」

「あなた方、合わせ鏡をやりましたね?そして、B子さんはすでに……」

A子は表情を崩さず、変わらず微笑を浮かべている。が、思わず周囲の人間がA子を見るほどに、内面は穏やかではないらしい。

「それで、あなたは私を探してどうするおつもりです?私にB子さんの復讐を?」

No.33

振り返った、A子の目の前に鏡があった。

驚いた顔の自分と、あの例の微笑を浮かべた自分……。

鏡の中で、あっという間に自分に自分ののどを掻き切られた。

A子は半ば腰を浮かし、声の主、鏡を掲げてる人物を睨んだ。

「……!?」

一瞬、A子のすべての感情が停止した。

腰まで届く長く美しい白金髪――いわゆるプラチナブロンド、褐色の肌に細くしなやかな肢体、整った目鼻立ち。

以前、何かで見たインドの美女をA子は思い出したが、その面影には日本人のような趣もある。

一言で言えば、美女だった。

「あなた、誰……?」

鏡や瞳を見ないよう、注意深くA子はその人物に尋ねた。

「おや、あなたが私を探していたのでは……」

にこりと笑い、その女性は鏡を背中に回した。どんなトリックがあるのか、戻した両手には鏡が無かった。もちろん、背中ににリュックなどの入れるようなものも無い。

「あなたが、占い師……?」

「はい、あなたがB子さんが仰っていた、A子さんですね」

やはり、B子はこの占い師に会っていたのだ。

「あなた、一体何者なの?」

得体の知れなさを感じ、A子は思わずそう聞いていた。

「申し送れました、私は、アハ=ロッテン=プライ、占い師です」

No.32

運ばれて来た2杯目のコーヒーを手に取り、A子はもう一度ため息をついた。

とは言え、行き詰った感じだな……。

冷静になれば、その占い師に会ったところで、何の解決にもならない気がするし、そもそも会うことすら出来ないでいる。

鏡を見なければ良いんじゃない、と思うけど……。

それでは何の解決にもならないし、何よりB子の敵討ちにもならない。

それに――。

心理戦的には、見なければと意識した時点で負けだ。

おそらくB子もそう考えたはずである。

だが、そう意識した時点で、鏡を意識しているのだ。鏡を避ける、その為には鏡を認識しなければ実は避けられない。

A子は痛む右目に触れながら、コーヒーを一口飲んだ。

ある事を実行しようと、A子は考えていた。

だが、そのある事を実行するには、相当な覚悟が必要だった。

もとより覚悟は出来ているが、ただ、確信が持てなかった。

だから占い師に会いたくもあったのだが……。

悶々とするA子の背中で、クス、と笑い声がし、

「お嬢さん、何かをお悩みですか?たとえば、誰かをお探しとか?」

と、澄んだ女性の声が響いた。

No.31

ズキン、と右目が痛んだ。

首を振り、A子は感傷を振り払う。

思い出に浸り、涙を流すのはすべてが終わってからだ。

もっとも、すべてが終わったときには、思い出にも浸れず、涙も流すことが出来ない結果になるかもしれないが……。

ふぅーっ。

自嘲気味にため息をつき、A子はコーヒーのお代わりを頼んだ。

確信はもてないけど……。

私が鏡を見ない限り、私の命のカウントは減ることが無い……。

もし、鏡に映ることが命のカウントを減らす条件なら、自分はとっくに死んでいることだろう。夢中で歩き回ったため、鏡に気付きもしなかったが、この繁華街に鏡、または鏡足り得るものがまったく無いはずが無い。

私が見て、それを認識することが条件なんだと思う……。

No.30

まずは……。

A子は、コーヒーを一口啜った。

①鏡を覗くと自分が自分に殺される

②B子は鏡の中で十二回、十三回目に自分が殺された

③自分は現在、鏡の中で三回殺されている

④この状況は、二人で合わせ鏡をした時から始まっている

⑤B子は二組の子から噂を聞いた

⑥二組の子は、若い女性占い師から聞いたらしい

⑦その女性占い師は、繁華街の飲食店に出没するらしい

A子は空になったカップをソーサーに戻した。

考えれば、肝心の占い師の情報が不確かだった。先に二組の子を探し出し、そっちから話を聞けばよかったか……。

A子がそうしなかったのは、実は不確かだが理由があった。

二組の子は存在せず、その噂はB子が、直接占い師から聞いた可能性が高いのではないか、と考えていた。

昼間の情報で、占い師が存在するのは事実だが、B子にA子以外の親しい友人、噂話をしあうような友人というのを、A子は知らなかった。休み時間、放課後……常にB子はA子の側にいたのだ。B子はA子以外と、ほとんど会話すらしなかったのだ。

No.29

夜……。

溢春市の繁華街にA子はいた。

病院を抜け出し、一度自宅に戻って用意した。

昼から現在まで、飲食店を探し回り、その辺中の人に話を聞く。形振り構わない行動が祟ってか、右目が疼く様に痛み出す。

少し、休憩をしよう……。

A子は喫茶店に入り、ため息をついた。

運ばれて来たコーヒーを一口飲む。口の中に苦味が広がり、A子を少し落ち着かせた。

店内を見回すと、薄暗い照明が落ち着いた雰囲気を演出している。

「昼間とはずいぶん違うのね」

A子はそう呟いた。

昼間に一度来た店であることに、今気付いたA子だった。

A子は、B子の会話に出てきた『占い師』を探していた。

会ってどうなる訳でもないが、会わないことには次のステップにも進めない、A子はそう考えていた。

鏡の中で自分に殺される自分……。

A子は少し考えを整理することにした。

No.28

『退院したら、あの子に会いに来てあげて』

そう言葉を残し、B子の母親は退室した。

残されたA子は、ベッドに倒れるように寝た。右手で右目の巻かれた包帯に触れた。

あの時……!

B子は自分の瞳に見たんだ。

自分自身を、自分が殺される姿を――。

A子はB子の母親の瞳の中で、自分が殺される姿を見た。

両目をえぐられ、なぶられ、首を引きちぎられる自分と、それを嬉々として実行する自分。

混乱していた感情が、A子の中でスッキリしていく。

悲しみや後悔、恐怖や不安……。

それらが今、一色に染まっていく。

怒り。

A子はベッドから起き上がる。

これは、復讐だ……。

「待っててB子。あなたの仇は私が取ってあげる……」

呟くようにそう言った。

「もし、もし失敗したら……あなたの所に謝りに行くわ」

No.27

「A子ちゃん、あの子に何があったか……もし何か知っていたら……何でもいいの、おばさんに教えてくれない?」

「……」

A子は沈黙した。

感情が混乱し、言葉が出ない。

幼い頃から知っているはずのB子の母親が、自分のまったく知らない姿を見せている。そして、自分と彼女を繋ぐB子……その彼女はもういない。その事実を、彼女の姿が何よりもA子に現実として突きつける。

A子の手を優しく握り締め、B子の母親は真っ直ぐに視線を合わせた。

「ごめんなさいね、本当に、だめな母親で……。こんなことになって、あの子のこと何にも分かってなかった……」

「おばさん……」

言葉が続かなかった。

涙が溢れる彼女の瞳に、自分が映っている。

右目に包帯を巻き、複雑な表情の自分――皮肉気に唇を歪め、微笑んでいる、包帯を巻いていない自分……。

強張るA子の表情に気付き、B子の母親が心配そうに顔を覗く。

「A子ちゃん?大丈夫、傷が痛むの……?」

A子は彼女の視線から逃れるように俯き、肩を震わせた。

深いため息をつき、何とか言葉を継ぐ。

「大丈夫です……ごめんなさい、おばさん」

No.26

二人の刑事の意外な態度に、A子は驚き好感を少し持ったが、合わせ鏡の件は話さなかった。

話して信じてもらえるはずも無いだろうし、話すにしてもどう説明して良いかも分からない。

間もなく、丁寧な謝罪と挨拶と、連絡先を残して二人の刑事は退室した。

A子はため息をつく。

混乱する頭や感情を整理したいところだったが、落ち着く間もなく次の面会者が来た。

A子はその人物を見て、沈黙した。いや、言葉が出なかった。

B子の母親だった。

B子に似た明るく溌剌とした面影が、今はやつれ力無い。

彼女は、開口一番にA子に謝罪し、容態を案じた。

A子は戸惑いながら、B子に対するお悔やみと、葬儀などに出席できなかったことを詫びた。

B子の母親は、力無く微笑み、微笑みながら涙を流した。

No.25

あの学校の騒動から四日が経っていた。

A子の意識を失っていた四日間に、B子の葬儀は執り行われていた。

B子の死因は、出血性のショック死……。

掻き切られた首と、全身22箇所の刺し傷からの、多量の出血がB子の命を奪った。

「発作的な自殺と考えています」

四角い岩のような顔の刑事がそう言った。

「自殺……!?」

A子は鋭くそう言い、左目だけでその刑事を睨み付けた。

横の若い刑事が、複雑そうな声を出した。

「あなたが言いたいことは、我々にも分かります。とても自殺とは思えない、ですが、周囲の目撃証言からも、彼女が他殺とも考えられません」

若い刑事は、少し躊躇いながら言葉を続けた。

「正直言います。我々も疑問に思ってるのです、ですから、こうしてあなたからお話を伺っている次第なんです……」

「まあ、少しでも何かが分かれば、いや、私も正直に言いましょう、あなたからお話を伺い、少しでも納得できれば……」

二人の刑事は口を閉じ、俯いた。

「申し訳ありません……。刑事二人が、友人を亡くし、意識を回復して間もない、怪我までしているあなたに、愚痴を……」

No.24

目が覚めると、病院のベッドだった。

意識回復の報せを受け、駆けつけた医者から、A子は説明を受けた。

「残念ですが、右目の視力は……」

言いよどみ、歯切れの悪い医者を冷たく一瞥し、A子は確認した。

「失明ですか?」

「いや、まだ完全にそうと決まった訳ではなく、ただ、視力の回復が現状困難で……」

「そんなことはどうでも良いんです。それより、B子は……」

「それに関しましては、刑事さんがいらっしゃってますので、そちらからお聞きください、あなたから事情も伺いたいそうなんで……」

医者は、逃げるザリガニのように退室した。

No.23

「あたしを見るなっ!」

半狂乱でB子は、腕を振り回しA子から逃げるように後に退く。

A子は混乱しながらも、何とかB子を落ち着かせようと声をかけ、顔を覗き、そばに歩み寄る。

「見るなっ!あたしを……見るなぁー―!!」

B子は廊下の窓の側に走りより、右腕を振り上げ、渾身の力を込めてガラスを叩き殴った。

ガラスが割れ、廊下に破片が散る。B子はその破片の一つを拾い、握った。右腕を血が伝う。

駆け寄るA子の顔、目に向かって、鋭利なガラス片を突き出した。

咄嗟の事に、A子の反応が遅れた。

右目にガラスの先が刺さり、血が流れる。

バランスを崩し、A子が廊下に転がった。右目を手で押さえ、A子は立ち上がりながら、B子を見た。

自分とA子の血で真っ赤に染まったガラスを握り締め、B子は立ち尽くしていた。B子の全身がガクガクと震える。

A子はB子の視線の先を無意識に追った。

集まりだした野次馬の一人、女子生徒が握ったままの鏡……。

そこには二人のB子が……。

一人は、A子が見た、自分自身を殺した自分と、同じ微笑を浮かべている。

ナイフを握り、愛しむように銀色の刃を、B子の首筋に当てる。

スッ。

躊躇いも何もなくナイフが横に引かれた。

「ごふぁ、ハ」

B子がむせる様に呻き、口から血が溢れ出した。首が赤くぬらりと濡れ光る。

鏡の中で、銀色の光が乱射し、B子の身体に吸い込まれる。

全身から血を噴出し、B子が自身の血溜りの中に崩れた。

野次馬の悲鳴や叫びが聞こえ、A子は意識を失くした。

No.22

鏡を見るたびに自分が殺される。

それも、自分自身に……。

首を絞められ、背中から刺され……。

自分を殺して、自分を見て微笑む自分自身。

鏡を見ないようにしようとするが、意識するとどうしても鏡を見てしまう。停車中の車のサイドミラー、カーブミラーこんなに通学路に『鏡』と呼ばれるものは多かっただろうか?

「あたし、もう11回も殺されている……」

B子はすがるようにA子にそう言った。

青ざめ、泣きじゃくるB子の顔が強張り、B子の目が見開かれる。

「……どうしたの?」

明らかな様子の変化に、A子はB子の頭を撫でながらそう言った。

B子は突然A子の手を振り払い、叫んだ。

No.21

A子は教室に向かい、B子を探した。

教室の窓側、前から三番目、そこがB子の席だ。

……まだ来てない……。

A子はその横の自分の席に鞄を置き、校門までB子を探しに行こうと思った。一刻も早くB子に会わなければいけないような、何かイヤな予感、不吉な予感がA子はしていた。

教室を飛び出る勢いで、入り口に向かうと、廊下を力無く、青い顔をしたB子が歩いているのを見つけた。

「B子……!」

A子は、走り寄りながら声をかけた。

B子は虚ろな瞳をA子に向け、顔をクシャリと歪め、泣きながらA子にしがみついた。

「A子ちゃん、A子ちゃん……あたし、あたし……」

B子の小さな肩が震えてる。

「殺される……鏡の中のあたしに……!!」

No.20

今のは一体何何?

A子は鏡を睨みつけた。そこには、自分を睨みつける自分が映っていた。

鏡は鏡として正常に機能していた。

まさか、あの時のB子も、自分と同じものを見たのだろうか?

A子は制服に着替え、身支度を整えた。鏡は使わないようにした。

学校に行って、B子に会って、話をしよう……。

でも、何と言おうか?

鏡の中の出来事が、すべて自分の幻覚や幻聴だったら……。

B子に余計な心配をさせてしまうことになる。

あれやこれやと考えてるうちに、いつの間にか学校に着いてしまっていた。

No.19

いつもの朝……、とはいかなかった。

ほとんど眠れぬまま、朝を迎えたA子だった。

幻覚?幻聴?も気になったし、何より普段見せないB子の様子が気になって仕方がなかった。あれやこれやと考えてるうちに、携帯電話の目覚し機能が勤勉に働き、アラームを鳴らした。

頭がボーっとする。

少しでもスッキリしようと、A子は洗面所に向かった。

蛇口を捻り、水を勢いよく出す。

エコを謳う人間には怒られそうだが、今はそんなことを気にしている余裕は無かった。

顔を洗い、タオルに手を伸ばす。

顔を拭きながら、鏡に目をやった。

白いタオルで顔を拭いている自分と……、その後ろでニヤリと笑っている自分……。

「!?」

鏡の中の自分が、自分自身に首を絞められ悶絶した。

自分に自分が助けを求めるように、手を伸ばし、その手が細かく震え、やがてピーンと伸びて硬直し、パタリと力無く落ちた。

舌を出し白目を剥いた自分がそこに映っていた。

その後ろで、せせら笑う自分……。

No.18

「本当に大丈夫!?」

A子はB子に声をかける。

「期待してたのと違って、ガッカリしちゃって……何か急に眠くなっちゃった」

B子はカバンを肩にかけ、A子に笑いかけた。いつもとはどこか異なる笑顔だった。

「あたし、帰るね……」

「遅いし、途中まで送ろうか?」

「ふふ、それ、男の子の台詞だよ。やっぱり、惚れちゃうなー」

「『残念な女』って、また言うんでしょ」

「違うよー『残念な美少女』だよー」

No.17

A子は鏡から視線を外した。

幻覚?幻聴?

そう思ったが、もう一度確認するために鏡を見るのは躊躇われた。

A子は、横のB子に視線を移す。

先程までの笑顔は無く、無表情で鏡の向こうを睨んでいた。

A子はB子の肩を掴んで、少し乱暴に揺すった。

「ちょっと、大丈夫!?」

B子は、やや遅れて反応し、A子を見た。

「あ、A子ちゃん、大丈夫だよ、どうしたの?」

力無い、どこか気の抜けた声だった。

「様子が変だから……何かあった……?」

「A子ちゃんだって、何か変だよ?」

「……」

「……」

二人は沈黙し、お互いに俯いた。

B子はため息をつくと、キャスター付きの鏡を片付けようと、鏡の前に立った。

ビクン!

B子の肩が弾み、しばし全身が硬直した。鏡に伸ばした手が細かく震える。

「?……どうしたの……?」

A子はB子の背中に声をかけた。

「あ、ちょっと静電気でビックリした……」

そう言うと、B子は鏡を元の場所に戻した。そして、持参した鏡をカバンに戻そうと手を伸ばし、またそこで鏡を睨んだまま動きを止めた。

No.16

鏡には、何を期待しているのか、満面の笑みを浮かべたB子の顔と、不安少しと明らかな不満の表情のA子……。

二人の顔が無数の鏡の中に、重ね連なっている。

時計は、00:00を指した。

前もってセットしてあったらしく、後ろに放り出されているカバンの中で、B子の携帯電話が、ピピピ・ピピピとアラームを鳴らしている。

「何とか間に合ったね、A子ちゃん」

間に合わなければよかったのに、とA子は心の中で思った。

鏡の中の自分たちが、自分を観察してるような錯覚を覚える。めまいにも似た不快感をA子は感じた。

その時だった――。

噂にあった、13番目の自分と目が合ったような気がした。

ニヤリ

と、自分が笑う。他のどれもが同じ表情なのに、その顔だけがどこか邪悪な気配を漂わせ、皮肉気に唇を歪めて笑った。

「……見たな」

13番目の自分の唇が動き、ハッキリとA子の耳元でそう言った。

そして、何とも優しげで慈悲深く、なのに邪悪な微笑をA子に向け、

「死ね!」

と、言い放った。

No.15

B子は手際よく、キャスター付きの、縦長の鏡を用意し、壁の鏡に向かって角度をチェックする。かつて知ったる我が家、元門下生は、道場の備品に詳しかった。

「持って来た鏡、意味ないじゃない」

A子は思わず皮肉を言う。B子は笑って、

「記憶が確かじゃなかったから、万が一に備えました」

と、自分の鏡を足下に置いた。

二人は鏡の前に並んで立った、

No.14

怒りに任せ、友人にした仕打ちを後悔しているA子は、一も二も無く道場に案内したが、一体何故だろう?と疑問はある。

「何で、道場?」

畳と板の間が半々の道場の、畳の上に座り、B子はA子の質問に不敵な笑顔を見せた。

「A子ちゃんトコロの道場に、大きい鏡があったと思って」

「鏡?」

確かに、練習用に壁に鏡はあるが……。

「あんた、まさか……」

「これ」

そう言って、彼女はカバンから30センチ四方の鏡を取り出した。

「合わせ鏡!シャワーも着替えもしたいけど、時間が無いからサ」

「あんた、本当に馬鹿?」

「うっさいな~、あー時間ないよ、A子ちゃん早く鏡の前に立って!」

B子はA子の手を引き、鏡の前に立たせる。

A子は何かを言おうとしたが、ため息をついて、あきらめた。

「分かったわよ、付き合えばいいんでしょ……」

この後、A子は一生後悔することになる……。

No.13

A子はB子にタオルを渡し、自宅の道場に案内した。

びしょ濡れになった――いや、びしょ濡れにしたB子にシャワーと着替えを用意しようとしたが、彼女はタオルだけで良いから、道場に案内してくれと頼んだのだ。

A子の家は、代々古流の武術を教えていて、両親が近所の子供などを相手にしてたのだが、現在は某国の警察や軍にインストラクターをしている。余談だが、A子も物心が付く前から武術を習っており、その為、中学時代は彼女を見かけたら、まず逃げろ、と近隣の不良に恐れられていた。彼女には迷惑なことに『溢春のアテナ』と言う二つ名がある。(溢春は彼女たちの住む北海道の市。アテナは戦の女神で処女神)B子曰くは『残念な美少女』である。

No.12

ガチャガチャ、ガチャ

ドアを開けようとしてるのか、チェーンが鳴る。

「誰……!?」

A子は鋭くそう言うと、玄関に飾ってあった花瓶に手を伸ばした。花瓶から活けてあった花を取り、脇にそっと置く。

がちゃがちゃ

「あーん、もう」

ドアの向こうから聞きなれた声が……。

「A子ちゃーん、開けてー、あたし!あたし!」

A子とは何とも対照的な、のん気なB子の声だった。

……。

手に持った花瓶が、細かく震える。

「ドアを閉めなさい……チェーンが外せないから……」

「ほーい」

ドアがカチャンと閉まる。A子は慎重にチェーンを外すと、ドアの向こうのB子に声をかけた。

「ドア開くわよ……」

「おっじゃましまーす」

B子が勢いよくドアを開けた。

A子は開いたドアに向かって、花瓶の水を、花瓶ごと投げる勢いで撒いた。

No.11

ピンポーン

突然のチャイムにA子はビックリした。

時計を見ると23時ちょっと。

こんな時間に、誰……。

仕事の都合で、両親が海外にいる為、A子は現在一人暮らしだった。最近、一人の夜の不安に慣れてきたが、こんな時間の訪問者は初めてだった。一瞬、無視しようかと考えたが、そう言う訳にもいかないか、とため息をつき、A子は玄関に向かった。

「どちら様ですか?」

ドアの向こうに呼びかけるが、反応がない。

鍵を開け、様子を窺おうとしたときだった。

ガチャーン!

突然ドアが引かれ、チェーンが開くドアをストップした。

な、何……!?

あまりの事態に、A子は悲鳴も言葉もなかった。

No.10

では、扉を開けましょう。


鏡にまつわる話というのはよく聞く話だ。

A子も高校の友人B子から、よく聞く話だけど、とこんな話を教えてもらった。

夜中の12時ピッタリに、合わせ鏡をすると、13番目の自分が未来を告げるらしい……。

「ふーん、私が知ってるのは、夜中の2時に合わせ鏡をすると、13番目の自分の姿が、真実の自分の姿だって言うの、かな」

「あー、心が醜いと醜い姿に映っちゃうとか言うのね」

「でも、最近合わせ鏡の噂、何か流行ってるよね……?」

「そう言えばそうね、なんかさー2組の子の話だとね、ファーストフード店とか飲食店とかに出没する、若い女性占い師から聞いたって」

「占い師?」

「うん、なんかよく当たるって評判らしいけど、その占い師が必ず最後にい言う、キメ台詞見たいのがあって……」

「ちょ、キメ台詞?」

「合わせ鏡の、13番目の自分が告げる未来には敵いません、って」

「変な人ねー」

「会ってみたいよね」

「えーっ、私はいいよー」

「もう、ノリが悪いなー、じゃ、今日家に帰ったら、合わせ鏡実行ね?」

「やりません!」

「ダーメ、明日お互いに報告、ネ?」

「やりません!!」

「じゃ、明日学校で!楽しみにしてるから~」

No.9

カッチャン!

一つ目のとびらは開き、いま、閉めさせていただきました……

ああ、申し送れました、私、『ダメな主』の代理人

AHA=ROTTEN=PLY

アハ=ロッテン=プライ

と申します。

以後、お見知りいただけるかは、皆様次第でございます……。

No.8

明日は休みだし、めずらしく何の予定もなかった。男はしばらく考えてから、たまには実家に帰るのもいいか……、と考えた。健気にも妹が迎えにも来た事だし……。

「一年前の葬式から、帰ってないもんな……」

男は闇の中、手探りでイスを引き座った。その瞬間、疲れと酔いが一気に襲ってきた。気が抜けたのか、眠くなってきた。

「いいよ……明日一緒に……」

「一緒に、行ってくれる?」

「ああ」

「本当、約束だよ?」

「ああ、約束ナ、分かってるよ」

「お兄ちゃん……」

「何……?」

「……ありがとう」

「別に、礼を言われることじゃないだろ」

「お兄ちゃん」

「悪い、もう眠いんだよ、明日ナ、明日」

「お兄ちゃん、一年前のお葬式って、誰のお葬式?」

「……」

あれ、誰の葬式だったっけ?親戚の誰かだったか?

そう言えば、何でオレ、両親と話す暇もないほど忙しかったんだ?

いや、二人が事故で死んだから、オレが喪主になって……

「お兄ちゃん」

「……」

「お兄ちゃんって、一人っ子だって、知ってた?」

くすくす、と少女の笑い声が部屋に響き、やがて反響し始める。

男は、背後に何かの気配が近付くのを感じたが、身体は反応しなかった。

首に、細く長く冷たい、十本の何かが絡みつく。

「お兄ちゃん、では、私はだーれだ?」

No.7

「……お兄ちゃん……?」

少女の声が沈黙を破った。

お兄ちゃん……?

男の全身から力が抜けた。ドアを開け、玄関に入るとそのまま崩れるように座り込んでしまった。

「お兄ちゃん?どうしたの、大丈夫……?」

心配そうな少女の声に、

「大丈夫だ、ちょっと飲み過ぎただけだから……」

そう答え、男は急に可笑しくなり、ついで腹が立ってきた。

こんな何でもないことが、『あの占い師』のおかげで!、

寿命が縮むかと思ったじゃないか!

「いつ来たんだよ、お前?」

男は闇の中の少女にそう言った。立ち上がって、部屋の明かりを点けようとする。

パチン。

壁のスイッチは、音だけして結果を出さなかった。

「?」

「何か、電球でも切れてるみたいだよ、私がやっても点かなかったもん」

昨日は何ともなかったはずなのに……。

「夕方にお兄ちゃんの部屋について、いつの間にか寝ちゃったみたい」

「鍵はどうしたんだよ?」

「あーお兄ちゃん、無用心だよ!鍵開けっ放しだったよ」

「いや、ちゃんと鍵閉めたって……」

思い込みか?あれ?

いまだ続く耳鳴りと頭痛で、頭が回らない。

「それより、何の用だよ?」

「お兄ちゃん、お父さんとお母さん寂しがってるよ」

そう言えば、両親と会ったのはいつだったか?

最近実家に帰ったのは、一年前、葬式の時だ。あの時は何だか慌ただしかったから、まともな会話したのはさらにその前だな……。

「帰って来いってか?」

「お父さんもお母さんも……二人とも何も言わないけど、サ」

「……」

「お兄ちゃん、お父さんとお母さんのトコロに、一緒に行こうよ……ね?」

No.6

その何かは、規則正しく微かに上下に動き、丸まった塊のようだった。

耳を澄ますと、微かな呼吸音のような、空気の漏れるような音が聞こえる。

しゅーー、すーーー、しゅーー……

その音が止まった。

闇の中に青白い鈍い光が二つ、ボーっと浮かんだ。

ずるずる、しゅるう、しゅる……。

何かが擦れる音にあわせ、二つの光と塊がぐぐぅーと伸び、辺りを窺うように二つの光がゆっくりと、右に左に動いた。そして、ドアの方を向くと、ピタリと止まった。



















どっどっどっどっどっど、

            ヒュー……ヒュー……



















男は全身が心臓のように感じ、のどが情けない音を出す。

耳鳴りが、吐き気がする。

思考は完全に止まってしまった。

オレノヘヤニ イッタイ ナニガイルンダ?

No.5

カチャ、ン。

キィィィーィイ。

造りの古さが恨めしい。

最善の努力をしたはずだが、音が鳴ってしまった。実際は、微かな音で、普段なら男は気にもしてなかったが、今は状況が違う。

男は身体を強張らせ、気配を窺う。

……、……。

中からは何のリアクションもない。

男は、呼吸も忘れたように開けた隙間から、中をのぞき見る。

当然だが、中は真っ暗だった。

視線が、右から左、左から右に忙しなく動く。

……!

部屋の右隅に、何かを感じた。

そこは、ベッドがある場所だ。

男は、目がこぼれ落ちそうな程、目を見開いた。じっとベッドを窺う。

な、なんだ……!?

男は反射的に左手で、鼻と口を塞いだ。

思わぬ悲鳴や、荒くなる呼吸音を少しも漏らすまいと、ぐっ、と左手に力が入る。

男は確認してしまった。

ベッドの上に、闇よりもなお黒い、何かがあることを。

No.4

男は塗料が剥げ、サビの浮いた階段をゆっくりと登り始めた。

カーンカーン、カーンカーン

やけに階段の音が、今日は高く響く気がする。

カーンカーン……カーンカーン

目の前が真っ赤に光り、点滅する。階段の音が耳鳴りのように響く。

めまいと頭痛がする。

”警報……?踏切……?”

手すりと壁を支えに、やっとの思いで部屋の前に立つ。鍵を開けようとするが、なかなか鍵穴に鍵が定まらない。

何とか鍵を挿し、鍵をまわす。

「……!」

鍵が開いている?

鍵を閉め忘れたか?いや、それはない、しっかりと閉めた記憶がある。

男はゆっくりと、音をたてないように、ドアノブを回した。

No.3

「水難……」

前髪を掻揚げながらそう呟いた。

「ば、馬鹿たまたまだよ、偶然!」

そう言った友人の携帯が鳴った。

どうやら彼女かららしい。

「え、いま、友達と飲んでるよ、え、浮気?そんなわけないだろ、相手は男だよ、男、お前もほら、会ったことあるだろう?いや、聞けって、人の話、あ、おいこら……」

携帯を耳にあてたまま、ボー然としている。

「女難って、これかよ……!?」

携帯を乱暴に胸ポケットに戻し、男の顔を見た。ずぶ濡れの友人も男の顔を見た。

「とにかく、おれ、帰るわ……」

「俺も……」

「……そうだな、その方がいいよ……」

「……何て言うか」

「お前……気を付けろよ」

そう言うと、二人は男を残して駅に向かって歩き出した。

「気を付けろったって、何に、どうだよ……」

人ごみに消えていく二人の背中に、男はそう呟いていた。

No.2

男と友人二人は会計を済ませ、店を出た。

何とも気まずい空気だ。

「まあ、気にするなよ、あの女占い師が言ってたろう、酒の余興だって、な」

「そうだよな、あんな所で間借りしてるような占い師、当たるはずないよな」

「そうそう、当たるんだったら、行列の出来る占い師、って店くらいあるって」

三人は笑い出した。

男三人が占いくらいで、一瞬でも不安になったことが可笑しくて仕方がなくなった。

お互い自分を棚に上げて、こいつらも意外に小心者だな、と。

「気を取り直して、もう一軒行こうか?」

ヨシ!、と三人が意気投合しようとしたとき、

「うわっひゃっ!?」

一人が奇妙な悲鳴を上げた。悲鳴のほうを見ると、ずぶ濡れの友人がそこにいた。

「どうしたんだよ、おい」

「ご、ごめんなさい~」

頭上から女の声がした。見上げると、ビルの二階の窓に、半身を乗り出し、大きな花瓶を抱えてる女の子がいた。

「お店の花瓶の水を替えようと思ったら、こけちゃって……」

花瓶を落とさないようにするのが精一杯で、中身の水はぶちまけてしまったらしい。

平謝りする女の子に、大丈夫ですよ、とずぶ濡れになりながらも紳士の欠片を見せて、男と友人二人は何故か逃げるようにその場を去った。

No.1

では、扉を開けましよう


腕時計は、まもなく翌日になるところだった。

男は、階段の前で足を止めた。

駅から徒歩10分、築30年の二階建てのアパート、その二階の一室が男の部屋である。

男は自分の部屋を見上げて、ため息をついた。

”やめとけば良かったな……”

男はもう一度、先程よりも深いため息をつく。

友人二人と楽しく酒を飲み、酔った勢いで、二軒目に入った飲み屋の片隅にいた、『若い女性』占い師に声をかけた。店主と知り合いらしく、週の何日か場所を借りて、占いをさせてもらっているらしい。誰ともなく、占ってもらおうかと言い出した。

一人目が、

「水難の気配を感じます、帰り道はご用心ください」

占い師はいびつな水晶を覗き込み、そう言った。

二人目が、

「女難の気配を感じます、ご用心ください」

そして男の番になった。

「!……、……」

占い師は男の顔と、水晶を何度も見、沈黙した。

心なしか唇が震えてるように見える。

男は不安になってきた。

「いやだな、焦らさないでくださいよ」

笑いながらそう言ったが、心中は穏やかではない。

「今日は、ご自宅に帰られないほうが……」

占い師は、男と視線をあわせず、小声で呟くようにそう言った。

「え、何でです?」

「命に関わるかもしれません、あ、いえ、申し訳ありません、楽しい酒の席で、こんなことを……。お忘れください、酒の席の余興です、もちろん御代は結構ですので……」

占い師はそう言うと、逃げるように身支度を済ませ、店を出て行った。

投稿順
新着順
主のみ
付箋

新しいレスの受付は終了しました

小説・エッセイ掲示板のスレ一覧

ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少

新着のミクルラジオ一覧

新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧