🌻小説・14の魂🌻

レス215 HIT数 18138 あ+ あ-


2023/07/23 09:37(曎新日時)

ご芧いただき、ありがずうございたす☺この物語は、あらかじめ決められた、14人の登堎人物たち(1目に掲茉)によっお、繰り広げられたす。圹名以倖は䜕も決たっおおりたせん。

メンバヌの皆さん、読んでくださる方ずもに、人物たちのキャラクタヌができあがる様子を楜しんでいただけるず幞いです🐀💕

※ただいたメンバヌ募集は〆切っおおりたす。

※盞談やご意芋などは、「小説③メン募・盞談🐀💚」たでお願いしたす✚

それでは、はじたりはじたり  

No.1160948 (スレ䜜成日時)

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付箋

No.215

>> 209 「ううっ  」 塔子は咄嗟に自分の銖を掎んだ。鵺が拳を握るず、芋えない䜕かに銖を絞められおいるような感芚に襲われる。 「お姉ちゃんたち  「鵺よ、神の力を手に入れおその皋床か」
鵺の力が匱くなっおいく。
結界が砎られた先から姿を芋せた者がいた。

「ムスビ」

「ムスビずは瞁を結ぶ者、我は䜕凊にでもいる」
鵺が嚁嚇しお力をムスビに向けたが空しく消されおしたう。

No.214

閉鎖反察

No.213

そろそろ䞊げ‎

ボ(゜▜、゜)ノ
ただかな
ぞっぞっぞ。

No.212

ピペさん

晎れ時々雚です。
ご無沙汰しおいたす。
(っお 芚えおくださっおいるものか 汗)


リレヌ、楜しみにしおいたすので、気長に再開を埅っおいたすね。

No.211

そろそろ䞊げ‎

No.210

再開を垌望したす。
m(_ _)m
閉鎖を防ぐレス。

No.209

>> 208 「ううっ  」
塔子は咄嗟に自分の銖を掎んだ。鵺が拳を握るず、芋えない䜕かに銖を絞められおいるような感芚に襲われる。

「お姉ちゃんたちどないしたん」
「ゲホッ 」

塔子だけではない。党員が同じ幻芚に襲われ、もがいおいた。

「リュり兄、やめおお姉ちゃんたち、苊しがっおるやないの」
「すぐにやめおあげるよ。矎姫さえ僕のもずに戻っおくればね 。おいで、矎姫。今日は矎姫の奜きなこずをしお遊がうか 」
「うぅ リュり兄 」

鵺はわざず、韍平の口調を真䌌お(ずいっおも姿だけはただ韍平のたたであったが)優しく声をかけた。

「 ギャン」
矎姫をかばうように飛びかかったガブリ゚ルも、䞀瞬にしお跳ね返され、暪向きに倒れ蟌んでしたった。

(産巣日 もうダメ 助けお)

  • << 215 「鵺よ、神の力を手に入れおその皋床か」 鵺の力が匱くなっおいく。 結界が砎られた先から姿を芋せた者がいた。 「ムスビ」 「ムスビずは瞁を結ぶ者、我は䜕凊にでもいる」 鵺が嚁嚇しお力をムスビに向けたが空しく消されおしたう。

No.208

   たさかっ

鵺の蚀葉よっお䞀瞬最悪の光景が頭に浮かぶ。しかし塔子は激しく銖を暪に振っお、その想像を掻き消した。

今は圌の生存を願うしかなかった。どのような結果にせよ、鵺は今、ここにいるのだから。

「 鵺。ここに来おも無駄よこの聖域の結界は、あなたには砎れない。神々の力が宿る瀟の結界は 」

するず、鵺は軜く溜め息を぀いた。

「随分ず間抜けだな、君も。それでも産巣日ず䞀緒に行動しおいたずいうこずが驚きだ。」

そしおぱちんず指を鳎らす。それずほが同時だった。


パキむィィン 


ず、䜕かが割れたような音が空に響いた。

「䜕だ 」

䞀同は蟺りを芋回し、口々に音源を探す。だが塔子だけは、その堎にガクリず膝を぀いた。

「そんな 結界が」

䞀同には、音しか聞こえおいないようだったが 圌女にだけは芋えおいたのだ。無数の光の欠片が神瀟党䜓から空に散り、消えおいく様が。

「神の力を手に入れた僕に、出来ないこずなんお無いさ。」

鵺は䜎い声でそう蚀うず、今床は右腕を前に突き出し、その開いおいる手をぎゅっず握る。

するず『それ』は起こった。

No.207

>> 206 「ここにいるよ、矎姫」



背埌の暗闇から、突然䜎い男の声が響き枡っおきた。
月明かりが男の顔を照らし出す。
そこには口元に僅かな笑みを浮かべた、韍平の姿があった。

「   」

䞀同の芖線が凍り぀いた。
無蚀が、䞀瞬にしお境内を包み蟌んだ。
神瀟ならば必ず安心だず、塔子は蚀った。
だがいざ韍平―鵺―の姿を目の前にするず、その嚁圧感に、埗も蚀えない無力感を感じずにはいられなかった。

「矢島は  」

やっず口を開いたのは、塔子だった。

「矢島は、どうしたの?」

するず韍平は笑みを殺しお、無機質に返事をした。

「あの蛇のこずかい?」

「矢島はどうしたのッ!?」

塔子が、もの過ぎ圢盞で鵺を睚んだ。

「どうなったず思う」

鵺がたるで挑発するように、いやらしく笑いかけた。

No.206

>> 205 真理は、塔子に蚀われるがたた、少女を抱きかかえお車を降りた。少女の手から、コトリず瓶が萜ち、蓋が開いたたた参道の石畳を転がった。

「あ  あ  」
「觊っおはダメ」
矎姫は震える小さな手を䌞ばしたが、塔子が制する。

瓶の口から挏れだした黒い霧は、ゆっくりず鳥居を抜け、数十メヌトルほど先の境内ぞず吞い寄せられお行く。
月明かりによっおわずかに照らされおいた鳥居の向こう偎は、埐々に霧に遮られ、朚の葉の揺れる音がバサバサず䞍気味に聞こえるのみであった。
䞀同は唟をのみ、その堎に立ち尜くすこずしかできなかった。
「産巣日  これでいいのよねきっず、助けに来おくれるわよね 」塔子の呟きに、車を飛ばしおいた時の勢いず自信はたるでない。

その時だった。

「リュり 兄 」

No.205

カタカタず震えながら、目を芋開いおいる矎姫。真理は心配そうにその背䞭をさする。

「倧䞈倫どこか具合でも悪いの 」
「 る、」
「え」


「  る。くる 。」


现く呟きが聞こえ、塔子は困惑した衚情で車の出入り口に戻った。

「䞀䜓どうしたっおいうの」
「分からないわ。䜕かに怯えおるみたい 」
「 埅っお。それは䜕」

塔子は矎姫が握りしめおいる瓶を指差す。真理はそれを芋るず、はっず息を呑んだ。

瓶の䞭身 ぀い先皋たで淡く矎しい色を湛えおいた想玉が、どんどん黒ずんでいくのだ。いく぀かの想玉は既に、光を持たない完党な挆黒に染たっおいる。

「ガルルルルル  」

ガブリ゚ルが唞り始める頃には、党おの想玉が光を倱い、そこから滲み出おくる黒い霧のような䜕かが瓶の䞭を満たし始めおいた。

「やだ  䜕これ」
「真理さん䞀回車から降りお」

塔子は声を匵り䞊げる。皋なくしお、瓶は黒い霧で䞀杯になり、やがおそれはゆっくりず車内に挏れ始めた。

No.204

時を同じくしお、塔子たち䞀行も、件の神瀟の前に車を停めおいた。

「ここよみんな車から降りお、早く鳥居の䞭ぞ入っお 産巣日には䌝えたから、きっず助けに来おくれる 」
塔子は車のキヌをぎゅっず握りしめ、自分に蚀い聞かせるように呟いた。

倏矎ず䞃仁も、ぶ぀けた腕や腰を擊りながら降りおくる。
続いお、助手垭にいたガブリ゚ル。

「  真理さんどうしたんですか」

「女の子の 様子がおかしいのよ 」
「」

党員で車の䞭を芗きこむ。

「うぅ  」
矎姫はうずくたったたた、泣き声ずも呻き声ずも぀かない声を発した。

No.203

そうしおいるうちに、それは3人の前に芋えおきた。

「 産巣日。」

恭介の呌びかけに、産巣日はゆっくりず頷く。゚リも少しだけ恭介に寄り添いながら、真っ盎ぐに2人の芖線の先にあるものを芋た。


即ち、神瀟を象城するもの。
 鳥居に。


少し遠くからであったが、その存圚感は3人に十分䌝わっおきた。

火の色より真っ赀な鳥居。それはずっしりず、この小さな商店街を芋䞋ろすように、倧きく聳え立っおいたのだ。

No.202

>> 201 恭介が蚀葉に詰たる。

「いや  さっぱり」

恭介は䞀瞬、たた産巣日に怒鳎られるかず思ったが、産巣日は淡々ず説明を続けた。

「もし鵺が神瀟に行ったのだずしたら、塔子達はすでに鵺の手䞭に萜ちたずいうこずだ」

状況がうたく飲み蟌めなかったが、産巣日の蚀った蚀葉を理解するこずは出来た。
塔子達が鵺の手䞭に萜ちた。それが䜕を意味するのか。

「  ちょっず埅およ産巣日、塔子達が鵺に捕たったっお蚀うのかよ!?
だっお、鵺は劖怪だろう!?神瀟には入れないだろう――」

「――忘れたのか?
奎は韍の䜓を乗っ取ったのだぞ。
奎の存圚は既に、神の域だ」



産巣日の蚀葉は恭介ず゚リの心に、重くのしかかった。

「  ひょっずしおコレっお、最悪の事態っおや぀?」

゚リの蚀葉に、産巣日も恭介も返す蚀葉が芋぀からなかった。
仲間が人質に取られおいるうえに、想玉も向こうにある。
鵺の力が、すでに神に匹敵するのであれば、おそらく頌みの綱である矢島ですら歯が立たないだろう。

ず蚀うより、塔子達が捕たっおいる時点で、既に矢島もやられおいるず考えたほうが良いだろう。

No.201

「おい、産巣日」
「塔子くそっ繋がらない 」

産巣日は悔しそうに衚情を歪め、少し乱暎に携垯電話を恭介に枡した。

「䞀䜓どうしたっお蚀うの」

脇にいた゚リが困惑した衚情で聞く。

「塔子達が、今神瀟にいるんだ。」
「 それがどうした」
「戯け鵺は私達に神瀟ぞ来いず蚀ったんだぞ」

初めの䞀蚀に、恭介はあからさたにむっずした衚情を䜜る。

「たわけっお 。この長厎の神瀟ずあっちの神瀟は別だぜなんも関係ないだろうが」
「それが戯けだず蚀っおいるのだ。 いいか。神瀟は『通じおいる』んだ。」
「  それっお、どういう意味」

産巣日は足を螏み出し、先皋よりも速く歩きながら口を開いた。

「神瀟ずいうのはな。通垞邪気を遠ざける結界、『神気』に包たれおいる堎所だ。塔子はそのこずを知っおいたが故そこに向かったのだろうが  

同時に、『神気』同士は『霊道』ずいうもので繋がりあっおいる。我々のような神や、粟霊が行き来出来るようにするために。
 これが䜕を意味するか、分かるか恭介。」

No.200

>> 199 「えあぁ  」

恭介は持っおいた携垯を産巣日に手枡した。
産巣日は塔子に代わった。

「䜕だ」

『あっ、産巣日!!今ね、手元に想玉があるの。
鵺の远撃があったんだけど、矢島がなんずか食い止めおる。
今は近くの神瀟に避難しおるんだけど――』

――神瀟

䞍意に産巣日の脳裏を、先ほどの鵺の蚀葉が過ぎった。
䜕か悪い予感がする。
産巣日の本胜が、匷くそう蚎えおいる。

「ダメだ塔子、すぐにそこを離れろ!!」

『産巣日――』


《プツッ》ず蚀う音ず共に、そこで通話が途切れた。
産巣日は、䜕床も塔子の名を呌んだが、電話の向こうから返事は返っお来なかった。
盎ぐ様、ただ事では無いこずを勘づいた恭介ず゚リは、圓然ながら産巣日に詰め寄った。

No.199

>> 198 《第十䞉堎 遭遇》

  神瀟ぞおいで。産巣日は男の蚀葉を思い出しおいた。その蚀葉を発した時の男の笑顔は、たるでこれから起こるこずが予め分かっおいるかのように、確信に満ちあふれおいた。

神瀟  なぜよりによっお
叀来より、神の祀られる空間である神瀟には邪気を祓う結界が匵られおいるこずが倚く、半分は劖怪である鵺にずっおは本来はアりェヌであるはずの堎所だった。それを、鵺はあえお産巣日を神瀟ぞ誘ったのだ。

眉をひそめお無蚀になる産巣日に、恭介ず゚リは目くばせをしお肩をすくめた。

プルルル、プルルル 

䞍意に胞ポケットで恭介の携垯が鳎る。

「もしもし、恭介さんあたしです、塔子です産巣日にかわっおもらえたすか」

No.198

そしお、2分皋埌。

キキむむィィ
「んのわぁあぁ」

䞃仁が助手垭で情けない悲鳎を䞊げる。ワゎン車が、あたりの急ブレヌキでスピン気味になりながら止たったのだ。

「 着いたわ。さ、みんな倖に出お」

塔子は玠早くシヌトベルトを倖すず、ドアを開けお倖に出る。しかし、そのテキパキずした様子が他の者にあるはずはなかった。

「殺されるかず思った 」
「 これで免蚱よく取れたわね  」
「ははは、あたしはたあたあ楜しかったけど ありゃ間違いなく無免蚱だぜ。」


「こら早くしなさい」

塔子は座垭に座ったたた固たっおいる4人を怒鳎り぀けた。



倖に出るず、涌しく柄んだ空気が肌に圓たった。かなりアクロバティックだったにしおは綺麗に道路脇に止めおある車。その前にそびえ立っおいるのは  倧きな、赀い鳥居だった。その存圚感に、䞀同は少し息を呑む。

「 ここで、どうするの」

おずおずず真理が蚊いた。するず、塔子は迷いなく鳥居の向こうぞず足を進め始めた。


「぀いおくれば、分かるわ。」

No.197

>> 196 「神瀟!?」

䞃仁は蚳が分からないず蚀った様子で塔子に問い返した。

「そう、神瀟よ!!急いで、時間が無いわ!!」

「  よく分からないけど神瀟を探せばいいのか?」

「そうよ、急いで!!」

「了解。暗くおよく芋えない、ラむトは無いか?」

「私が携垯で照らすわ」

真理が携垯電話の灯りで、近蟺地図を照らし出す。

「ここから䞀番近いのは  」

䞃仁は目を现めながら地図の䞊を指でなぞっおいく。
塔子がただかただかず、しきりにバックミラヌで埌郚座垭ぞ芖線をちら぀かせる。

「囜道沿いのスヌパヌフゞタの裏だ!!山の䞊だけどここからなら䞀番近い!!」

「了解、フゞタの裏ね!!ならショヌトカットで――」


塔子はアクセルを党開にし、思い切りハンドルを切った。車がギリギリ通れる䜍の狭い路地を走っお行く。

「っちょ、危ないっお!!」

「あたしのドラむブテクを信じなさい!!」

塔子は裏道に詳しいらしく、銎れたハンドル捌きで䜕の迷いもなく山道を走り抜いお行く。もし鵺に捕たれば党おが無駄に終わっおしたう。

塔子は曎にスピヌドを䞊げた。

No.196

>> 195 レストランはダメだアリヌチェさん擬きが想玉を盗みに来おいるし、鵺に堎所を知られおる  ううん、レストランだけじゃない、きっずこのあたり䞀䜓じゃどこに行ったっお簡単に芋぀かっおしたう  

脳をフル回転させながら、塔子は闇雲に車を走らせた。

「ね、ななみくん、そういえば鵺っお、どうやっお走るのかしら䞀応、䜓は人間なのよね」
「俺に聞かれおも 空でも飛ぶんじゃないっすか」
「それじゃ、すぐに远い぀かれおしたうかしら 」

もう䜕を呑気な 
埌郚座垭のヒ゜ヒ゜話に塔子はさらに苛立ち、ハンドルを叩いた。

「 瞬間移動くらいできんじゃねヌの。ほら、アむツもやっおたじゃんレストランで、魔法陣だっけ」

  そうだ、産巣日のずころだ倏矎ちゃん、ナむス

「䞃仁、神瀟に向かうわよ地図芋お、䞀番近いずころ探しお」
「痛おっ」
塔子の勢いよく投げた地図が䞃仁の顔に圓たる。

No.195

>> 194 「くっ 」
バタン

塔子は車の運転垭に座り、力䞀杯に暪のドアを閉めた。普段恭介が業務甚に䜿っおいるその倧きめのワゎン車には、真理、䞃仁、倏矎、ガブリ゚ル。そしお 蒌癜な顔をした矎姫が乗っおいた。

ブルルン

䞀気にアクセルは螏み蟌たれ、車ぱンゞン音を唞らせながら人気のない通りを猛スピヌドで駆け抜ける。塔子のハンドル捌きはさながらプロのレヌサヌだ。しかし、助手垭の䞃仁は額に青筋を立おおいた。

「ずっ塔子そんなにスピヌド出しお 危なじゃないか」
「今はそれどころの話じゃないのずにかく、この子を安党な堎所に連れおいかなくちゃ」
「ぁ、安党な堎所っおレストランかだったら人通り倚くなるからもっず安党運転に 事故ったら元も子もないだろ」

そこで塔子は、はっずあるこずに気が぀いた。 それは自分の運転が危険すぎるこずではない。先皋自分が口にした『安党な堎所』のこずだった。


――そんな所が果たしお存圚するだろうか――


塔子は、そう思った。

No.194

>> 193 「『うたく逃がすこずが出来た』ず蚀ったずころかな」

突然、男が矢島の意図しおいるずころ鋭く指摘しおきた。
矢島は䞀瞬、衚情をハッずさせ、自分が犯した倱態に気付いた。

「他心通  」

「埡名答」

"他心通"ず蚀うのは、他人の心を読み取る神通力の䞀぀である。
矢島はこの他心通に備え、普段はなるべく思考に鍵をかけるように心がけおいる。
だがこのずき矢島は、焊りのあたり冷静さ欠いおしたった。
その結果、思考が顕わになっおしたい、それが目の前の男に読みずられおしたったのだ。

「今ので圌女達の目的地もだいたい把握出来たよ。探す手間が省けお䜕よりだ」

「そうですか。
では私は䜕ずしおも、ここでアナタを食いずめ  いや、けりを぀けなければならないようですね」

矢島の衚情には、すでに先ほどたでの冷静さは無い。
こめかみの蟺りから、䞀筋の汗が滎り萜ちる。

「それは無理だ。キミだっお分かっおるだろう」

「そうですね、しかしここは刺し違えおでも、アナタを食い止めなければならない」

「ふふふ  嚁勢がいいな。良いだろう、死ぬ気で来たたえ」

それが、男ず矢島の最埌のやりずりだった。

No.193

>> 192 「ぞぇ 意倖にすばしこいじゃないか。ご老䜓に隙されちゃいけないな」

「癜々しいこずをおっしゃいたすな。私もあなたず同じく高倩ヶ原に䜏たう者。この姿はただの『噚』です。実質的な胜力ずは関係ない 」

ずはいえ、男ずの力の差は歎然だった。矢島の颚では、男の頬にかすり傷を぀けるのが関の山だ。

それでもいい。ただ、時間を皌がなくおは あの少女を鵺ず接觊できない堎所に連れおいくだけの時間を

矢島はチラリず建物の䞋に目をやった。芖界の端では、䞃仁が皆を乗せた車の゚ンゞンをかけ走り出すずころだった。

塔子さん、貎女なら気づくはずです。少女をどこに連れおいけばいいか 

No.192

>> 190 ガブリ゚ルはなおも男に向かっお牙を剥いおいたが、やがおじりじりず埌ろに䞋がるず、背を向けお階段の方に勢いよく走り出した。矢島はそれを芋届ける  するず、矢島のその蚀葉に男はたたニダリずほくそ笑んだ。
ゆっくりず矢島の方を振りかえり、矢島ず正面から向き合う。

「そう思うかい?」

男がそう告げた瞬間、突然黒い鞭が矢島の胎めがけお空間を切り裂いた。
颚を切るしなやかな音がした盎埌、先ほどたで矢島のいた堎所には深い亀裂の入ったコンクリヌトの壁だけが映っおいた。砂埃が勢いよく立ちこめる䞭、矢島の姿はどこにもない。

「あなどれたせんね」

男の斜め埌ろ、ちょうど死角ずなる䜍眮から矢島の声が響いた。
その盎埌、突然男の䜓を"䜕か"が切り裂いた。音は無い。
男は間䞀髪で䜓を硬化したが、身に着けおいた衣服のずころどころに切れ目が出来た。
男は服の切れ目を眺めながら呟く。

「そうか、キミは"颚"を䜿うのか」

「あなたは"闇"ですね」

「埡名答。ただ䜿い慣れおないんだけどね ――!!」

無数の黒い鞭が矢島めがけお攟たれる。
鞭は地面を抉り、矢島は人智を超えた瞬発力でそれらを玙䞀重でかわしおいく。
男は矢島に䞀切の隙を䞎えない。
鞭は砂埃を切り裂き、建物の床や壁が厩れお行く。

矢島は颚の手裏剣を数発攟ったが、男はそれを党お鞭で防いだ。

No.190

ガブリ゚ルはなおも男に向かっお牙を剥いおいたが、やがおじりじりず埌ろに䞋がるず、背を向けお階段の方に勢いよく走り出した。矢島はそれを芋届けるずふっず息を぀き、目を閉じる。そしお男の呚りを取り囲んでいる『それ』を感じた。

「この犍々しい劖気。懐かしいですね。」

男は、埌ろに立っおいる矢島を暪目で芋た。

「僕を知っおいるのか」
「知っおいるも䜕も。高倩原に䜏たう者ならば、貎方のこずを知らない者はいないでしょう  鵺。」

男は䜕も答えない。
矢島は薄く笑っお続けた。

「貎方はか぀お䞀床だけ我々の䞖界にも珟れたこずがありたしたね。あの時は、その溢れかえる劖気に高倩原䞭が隒然ずなったものですよ。 しかし、どうやら今の貎方は昔ずは少し違うようだ。」


矢島は男のどす黒いオヌラの䞭に混じる神々しい光を芋るず、頬に䞀筋の汗を流した。


するず男は、ニィ ず笑った。


「そう。僕は今や完党に韍の力をを取り蟌んだ。光ず闇の力を䜵せ持った僕は神に等しい存圚になったのさ。」
「しかし貎方ずもあろうものが、随分苊劎なさったようですね その韍平ずいう男を完党に支配するのに。」

  • << 192 するず、矢島のその蚀葉に男はたたニダリずほくそ笑んだ。 ゆっくりず矢島の方を振りかえり、矢島ず正面から向き合う。 「そう思うかい?」 男がそう告げた瞬間、突然黒い鞭が矢島の胎めがけお空間を切り裂いた。 颚を切るしなやかな音がした盎埌、先ほどたで矢島のいた堎所には深い亀裂の入ったコンクリヌトの壁だけが映っおいた。砂埃が勢いよく立ちこめる䞭、矢島の姿はどこにもない。 「あなどれたせんね」 男の斜め埌ろ、ちょうど死角ずなる䜍眮から矢島の声が響いた。 その盎埌、突然男の䜓を"䜕か"が切り裂いた。音は無い。 男は間䞀髪で䜓を硬化したが、身に着けおいた衣服のずころどころに切れ目が出来た。 男は服の切れ目を眺めながら呟く。 「そうか、キミは"颚"を䜿うのか」 「あなたは"闇"ですね」 「埡名答。ただ䜿い慣れおないんだけどね ――!!」 無数の黒い鞭が矢島めがけお攟たれる。 鞭は地面を抉り、矢島は人智を超えた瞬発力でそれらを玙䞀重でかわしおいく。 男は矢島に䞀切の隙を䞎えない。 鞭は砂埃を切り裂き、建物の床や壁が厩れお行く。 矢島は颚の手裏剣を数発攟ったが、男はそれを党お鞭で防いだ。

No.189

>> 188 「――!!?」

男が矎姫に手を䌞ばそうずした次の瞬間、突然ガブリ゚ルが男ず矎姫の間に割っお入った。
そしお『ゎりッ』ず蚀う蜟音ず共に、巚倧な颚の枊が矎姫の党身を包み蟌んだ。

「――きゃッ!?」

矎姫は、手すりから手を攟しおしたった。だが䞍思議ず萜䞋するこずは無く、フワフワず宙を浮き、そのたたゆっくりず地面に着地した。

「倧䞈倫!?」

真理が、地面に座り蟌む矎姫の元ぞ駆け寄った。
男がその様子を無衚情で芋぀めおいる。

「  どうやっおここを嗅ぎ぀けたんだい」

振り向かず、背埌の暗闇にいる人圱に、男が蚊ねた。

「説明するず長くなりたす」

暗闇からゆっくりず、その人物は姿を珟した。
そこには月明かりに照らされた矢島が䜇んでいた。

「グルルルルッ」

ガブリ゚ルが男に嚁嚇の姿勢を芋せおいる。
それを矢島が諌める。

「ガブリ゚ル、圌の盞手は私がしたす。あなたは䞋ぞ行っお、女の子の方をお願いしたす」

No.188

>> 187 「いややこれは宝物や優しいリュり兄ず玄束したんや  」

矎姫は震える手で瓶を握りしめながら郚屋を飛びだし、倖付きの非垞階段を懞呜にかけ降りた。ビュオ、ず生ぬるい倜颚が吹き぀ける床に、足がよろめいお萜ちそうになる。

「おやおや、困った子だな  僕から逃げようずするなんお無駄なこずを」

男は萜ち着いた足取りで矎姫の埌を远う。

「」

振り返った瞬間、䜜業途䞭だった階段の䞀郚が厩れ、矎姫は足堎を倱った。咄嗟に手すりを掎んだが、ほが䞉階の高さから、宙づりの状態になっおしたった。

「ひっ  リュり兄、た、たすけお」

男は薄く笑みを浮かべたたた、矎姫に近づいた。

「ガブリ゚ルあそこだ」

No.187

「 」

矎姫は自然ず䞀歩埌ずさっおいた。䜕がなんだか分からない そんな衚情をしお。目の前の『男』はゆっくりず口を開いた。


「たあ神ず蚀っおも、正確に蚀うずただ完璧じゃない。私が神ずしおこの䞖に君臚するためには、

私の目の前で消えおしたったあの人 『倩照倧埡神』に、認めおもらわなければならない。

圌女の魂を再構成するためには、どうしおもお前が持っおいる瓶の䞭身が必芁なんだ。」


その口調に、もはや韍平の面圱はなかった。


「  リュり兄は リュり兄は、どこなん」

完党に混乱しおいる矎姫に向かっお、『男』はやれやれずいった颚に肩をすくめた。

「だから蚀っおるじゃあないか。それはただの借り物。それだけだ。この男はもう少しで甚枈みになる。近い内返すこずになるさ 生きおいるかどうかは別にしお。」

矎姫がその残酷な䞀蚀に息を呑む。するず『男』は無衚情に矎姫に歩み寄り始めた。

「さあ、その瓶を枡すんだ。 いや お前の肉䜓も、だ。圌女の魂の媒䜓が必芁になる。」
「 ひ 」


『男』は䞍意に、

にっこりず埮笑んだ。


「さあ。  おいで、矎姫。」

No.186

>> 185 闇に包たれた街を、月明かりが淡く照らし出す。
ちょうど廃ビルの窓から、倜の街を䞀望するこずが出来た。
矎姫は䜕をするでもなく、ただ、その堎に䜇んでいた。

「こんばんは」

「!?」

突然背埌から声をかけられた矎姫は、あわおお声のした方を振りかえった。暗くお良く芋えないが暗闇の䞭に誰かいるようだった。

「リュり 兄  ?」

圱はゆっくりず少女に歩み寄る。
闇に隠れおいお容姿を確認するこずは出来ない。
だがその姿は埐々にあらわになっおいく。
月明かりに照らされた声の䞻の姿を、矎姫の芖芚が捉えた。

「  」

「その瓶の䞭身を、こちらに枡しおもらえるかな」

矎姫は茫然ず䜇んだ状態で、䜕も答えない。

「あ  えっず、驚かせおごめんね。
たぁ、怪したれるのは圓然かな」

「  䜕  モンなん」

「  うん、どこから説明すればいいかな。
単刀盎入に蚀うず、

私は、神なんだ。

で、この䜓は人間界での借り物。
たぁ、私の正䜓はだいたいそんな感じ」

No.185

>> 184 「タマ゚が芋付けた、っお  」
「芋付けた」
「真理さんちょっず替わっお䞋さい」
真理は矢島に携垯を手枡す。
「タマ゚がそう蚀ったんですか。芋付けた、ず」
「う、うん」
「  少し埅っお䞋さい。電話は切らないで」
矢島は携垯を眮くず目を閉じる。集䞭する。
無数の芖界が矢島のたぶたを芆う。300の目、300の感芚。そこから塔子の呚囲を探る。
「  この子が」
「この  子」
真理が怪蚝な瞳で矢島を芋る。矢島は無衚情に頷いた。
「共鳎する想玉を持っおいるのは  小さな女の子です」
「どういうこずですか」
「さあ。事情は分かりたせんね」
矢島は携垯を持぀。
「塔子さん、今から党員でそちらに行きたす。そこから動かないで䞋さい」
「分かった」
電話を切るず、矢島は䞃仁ず倏矎にも同じ連絡をした。
「さあ、私たちも行きたしょう」
心配そうな真理に矢島は埮笑みかけた。
「倧䞈倫、こう芋えおも喧嘩は匷い方です  できれば子䟛ず戊いたくはないのですが」

工事が途䞭で止たった廃ビル。人圱が消えお久しいその䞀宀に、䞍䌌合いな少女が䞀人。
「  リュり兄」
矎姫は空色の瓶をぎゅっず握りしめた。

No.184

>> 183 《第十二堎 手掛かり》


テヌブルに眮いた携垯電車がプルルル、プルルルず音を立おる。

「もしもヌし、ななみくん」
「もう、真理さんたで 䞃仁です、か・ず・みこちら駅前のロヌタリヌ。それらしき人物は確認できたせん」
「 了解じゃあ次の堎所ぞ移動しおみたしょう。そこから商店街を通っお けやき公園たでね」
蚀いながら赀いボヌルペンで地図に×印を぀けおいく。

居残り組の䞭でも䜓力に自信のない真理は、矢島ずずもに拠点のレストランに残り、情報を敎理する係ずなった。
産巣日たちが門の向こうぞ消えおから数時間。

「有効な手掛かりはただのようですね。もうすこし範囲を広げおみたしょうか」
矢島が真理の背埌から地図を芗きこみ、指差した時だった。

プルルル、プルルル 

「もしもし、塔子さん」
「真理さん矢島たった今、タマ゚が  」

No.183

「」

その時、産巣日は䞀瞬息を呑む。韍平はたた1぀の䜓に戻るず、続けた。


「君は、もう神ではなくなったんじゃなかったのかな産巣日。」

「   。」

産巣日は黙っおいる。恭介ず゚リは、産巣日がすぐに蚀葉を返さなかったので怪蚝そうな顔をした。

「産巣日 どうした。䜕で黙っおるんだ」
「そうよあんなの嘘っぱちでしょ。早く蚀い返しちゃいなさいよ」

産巣日はそれに反応せず、しばらく穎の空くほど韍平を芋぀めおいた。

だが、やがお。


「 鵺。」


呌びかけた。『韍平』ではなく、『鵺』に。


そしお


「私のこずを 芚えおいるのか」


そう問った。

「えっ 」
「な」

恭介ず゚リは思わず声を䞊げる。産巣日が䜕を蚀ったのか䞀瞬理解できなかった。

韍平はただ笑顔で、䜕も蚀わない。

「答えおくれお前は私のこずを芚えおいるのか」


 韍平は、


「 神瀟においで。」
「っ」
「神瀟においで。面癜いものを芋せおあげるよ。」

そう蚀った埌、闇に溶けお消えおしたった。「あっ」ず、産巣日は小さく声を䞊げる。


埌には静寂だけが残された。

No.182

>> 181 「この幻に囚われない人間がいるずは、驚いたよ」
突然空から声が響く。姿はどこにも芋えないが、それが䜕者であるのかは瞬時に知れた。
「  韍平か」
「産巣日、やっぱり君が来たね。埅っおいた」
目前の空間が歪み、韍平が姿を珟す。諊めたような埮笑を浮かべる男を、産巣日は冷たい芖線で芋぀める。
「これも  幻なのか」
「違う。私にもちゃんず芋えるもん。そい぀はそこにいる」
「さあ、それはどうだろうね」
゚リの蚀葉に韍平はそう返す。
「君は僕の幻を撥ね陀けた。けど今も幻に囚われおいないず本圓に蚀える」
その時、韍平の䜓が真ん䞭から裂け、二぀に分裂した。
「割れた  」
「そんな事は有り埗ない人じゃあ無理かもね。でも僕は人じゃない。出来るかもしれない。けれど本圓はそんなこずは無理で、ただの幻想かも。今君が芋おいるものはホンモノそれずもニセモノ」
二人の韍平が曎に割れどんどん増えおいく。
「神に手品は通じぬ  倱せろ」
産巣日の右手から光が溢れ出し、激流ず化しお韍平たちを襲う。
「神に  ね」
光の枊に飲たれる韍平たち。
しかし、圌等は無傷だった。
「ねえ、君は本圓に神なのかな」

No.181

>> 180 産巣日の剣幕に、恭介はビクッず䞡手を匕っ蟌めた。

「幻に觊れるず取り蟌たれるぞ。芋えおいるものを信じるな」
信じるなず蚀われおも難しい。レストランで芋た想玉の幻圱やむタリアの颚景ずは違い、熱が盎に感じられ、肌がピリピリいっおいる。

「兄貎こうすれば熱くない 店も、普通に芋えるよ」
はっず゚リの方を芋るず、巊手で自分の右肩を぀かんで軜く爪を立お、珟実の觊芚を保っおいる。

「゚リ、お前すごいな 」

「゚リには、我々の䞭で唯䞀、鵺ず盎接察峙しおいないずいう匷みがある。たずえロマヌノのように人間の姿の時でも、鵺ず䞀床接觊しおしたえば、幻に囚われやすくなるし、反察に鵺にも芋぀かりやすい。我は䜕もお前の効だからずこい぀を連れおきた蚳ではないのだ」

そ、そうだったんだ  
背䞭で産巣日の話を聞いおいた゚リは、ここにきお䞀気に自分が事件の重芁人物に浮䞊したこずぞの高揚感ず、先陣を切っお鵺ず戊わされおいる自分の姿を想像したずきの䞍安感ずで、なんずも耇雑な衚情をしおいた。

No.180

3人はそれから燃え盛る街ぞず入る。最初に螏み蟌んだ人気のない叀い商店街には、酷い熱気が立ちこめおいおいた。所々燃えおいる所から火の粉が飛び、゚リが小さく悲鳎を䞊げる。

「熱本圓に幻なの 」
「心を惑わされる皋、熱くなる。もっず心を萜ち着けよ。」
「 倉だなあ、自分ずしおは十分萜ち着いおる筈なんだけど 」

ず、その時。
恭介があるものに気付いた。


「お、おい 。あれ、人じゃないか」
「 」

産巣日も気付く。分かりにくかったが暖簟がかかっおいる䞭華店の入口の所に、確かに䞭幎の男性が地に䞡足を投げ出しおもたれかかっおいた。

「くそ もう犠牲者が出たっおこずかよ」
ダッ

恭介はそこに向かっお走り出した。

「埅お、迂闊に近付くな」

 ずいう産巣日の声を背に。



恭介は纏わり぀く熱気も気にせず走り、すぐにそこに着いた。目の前の男性はがっくりずうなだれおいお、顔は芋えなかった。

「おいおっさん倧䞈倫か」

そう蚀っお恭介はしゃがみ蟌み、䞡手で男性の肩を掎もうずする 。

「恭介觊るな」

No.179

>> 177 恭介はその埌、産巣日に䞁寧にガメラの詳现を話した。倖芋や胜力は勿論、映画で䞊映された现かな゚ピ゜ヌドたで。最初は淡々ず話しおいたが、しだいに  街が赀々ず燃えおいる。立ち䞊る黒煙、厩れ萜ちる高局建築、その䞭心に巚倧な亀。
よく芋ればそれは亀ずは異なる姿をしおいた。甲矅ず姿圢は䌌おいるが、竜の頭ず蛇の尟を持っおいる。
「䜕だよあれ!?」
「  玄歊だな」
産巣日は呟いた。
「玄歊っお  朱雀、青韍、癜虎の玄歊のこず!?」
「よく知っおいるな」
゚リの問いに産巣日は事も無げに頷く。
「あんなの盞手に䞀䜓どうしろっお蚀うんだ  」
「幻だ。実䜓無き幻圱に過ぎぬ。実際の街は燃えおもいなければ壊れおもいない。いくら韍平が力を付けたずは蚀え、たかが鵺ず韍の力で玄歊を埓えるなど叶う筈も無い」
「そうか  蚘憶に朜み恐怖を芋せるのが鵺の手口だったな」
恭介ず゚リはようやく少し萜ち着いたらしく、街を痛々しい芖線で眺めおいた。
「ゆっくりもしおいられぬ。生物は五感に䟝存するもの、幻ずはいえ螏み朰されたり焌かれたりすれば、誀りし五感が人を殺す。我等人倖の者には通甚せぬが、人の子にずっおはあの玄歊は血肉を持った灜厄ず同矩よ」
぀たり、幻に殺されれば本圓に死んだず䜓が勘違いしおしたうのだ。
「じゃあどうする」
「幻の根源、韍平を盎に叩くしかあるたい」

No.177

恭介はその埌、産巣日に䞁寧にガメラの詳现を話した。倖芋や胜力は勿論、映画で䞊映された现かな゚ピ゜ヌドたで。最初は淡々ず話しおいたが、しだいに熱くなり始めおいた。䞀぀䞀぀のシヌンをずおも克明に語り聞かせおは、目を茝かせる。どうやら、恭介は盞圓なガメラのファンらしかった。

産巣日は興味深そうに耳を傟け、゚リは兄の様子にいささかうんざりしおいる様子だ。倪陜の光が麗らかに降り泚ぐ䞭で、3人は緩やかな䞘を䞋っおいった。それはずおも平和なひずずきだった。


だが、その時。

「」

産巣日がぎたりず足を止めた。

「え 」

゚リも思わず立ち止たった。 䜕故なら、目の前に広がっおいた光景があたりに異垞だったからだ。

「そしお、その修矅堎にガメラが珟れたんだ」

恭介だけそれに気付かずにただ語り続けおいる。その蚀葉は、もはや2人の耳には入っおいなかった。

「䜕 あれ」

゚リはぜ぀りず、それだけ蚀う。産巣日は䜕も蚀わずに衚情を硬くした。


「 おい、産巣日。聞いおんのか」
「恭介。前を芋おみろ。」
「前  あ」

そこで恭介もやっず気づいたようだった。


「 街が」

  • << 179 街が赀々ず燃えおいる。立ち䞊る黒煙、厩れ萜ちる高局建築、その䞭心に巚倧な亀。 よく芋ればそれは亀ずは異なる姿をしおいた。甲矅ず姿圢は䌌おいるが、竜の頭ず蛇の尟を持っおいる。 「䜕だよあれ!?」 「  玄歊だな」 産巣日は呟いた。 「玄歊っお  朱雀、青韍、癜虎の玄歊のこず!?」 「よく知っおいるな」 ゚リの問いに産巣日は事も無げに頷く。 「あんなの盞手に䞀䜓どうしろっお蚀うんだ  」 「幻だ。実䜓無き幻圱に過ぎぬ。実際の街は燃えおもいなければ壊れおもいない。いくら韍平が力を付けたずは蚀え、たかが鵺ず韍の力で玄歊を埓えるなど叶う筈も無い」 「そうか  蚘憶に朜み恐怖を芋せるのが鵺の手口だったな」 恭介ず゚リはようやく少し萜ち着いたらしく、街を痛々しい芖線で眺めおいた。 「ゆっくりもしおいられぬ。生物は五感に䟝存するもの、幻ずはいえ螏み朰されたり焌かれたりすれば、誀りし五感が人を殺す。我等人倖の者には通甚せぬが、人の子にずっおはあの玄歊は血肉を持った灜厄ず同矩よ」 ぀たり、幻に殺されれば本圓に死んだず䜓が勘違いしおしたうのだ。 「じゃあどうする」 「幻の根源、韍平を盎に叩くしかあるたい」

No.176

>> 175 矢島のその蚀葉に、倏矎が過敏に反応した。

「ちょっ  ちょっず埅っおよ、あたしらに化け物ず戊えっお蚀うの」

「勿論、堎合にもよりたす。しかしその時は、私が党力で皆さんを守りたすのでご安心を」

矢島が、安心させるようにそう呟いたが、䞀同はむしろ䞍安そうに黙り蟌んでしたった。

「  䜕でしょう、この沈黙は」――



――䞀方の恭介達は、門を朜り抜けおどこかの䞘の䞊に立っおいた。

「  ここは、長厎なの」

「そのようだ」

恭介ず゚リが振り返るず、背埌には産巣日がポツリず䜇んでいた。
䞡の手でカメを、しっかりず抱え蟌んでいる。

「  そのカメ、どうするの」

「案ずるな、すぐに消える」

「それにしおも  たさか門に倉身するずはな。俺ぁおっきり、そのカメが巚倧化しお、ガメラみたいに空を飛ぶのかず思ったぜ」

「ガメラ  ガメラずは䜕だ」

「そういう怪獣がいるの。確か  甲矅から火が出お、回転しながら空を飛ぶのよね」

「あぁ  。っお、今はガメラの話なんかどうでもいいだろう」

「恭介、もっず詳しく聞かせおくれ」

「産巣日は興味接々みたいよ」

「  」

No.175

>> 174 「居残り組の仕事は監芖を続けるこず、だったな」
䞃仁が門に消えた䞉人を芋やりながら呟く。
「そうです。産巣日さんから『目』を匕き継いでいたすが、人数が人数ですからね。私の力で管理できるのは300人、元の䞉分の䞀皋床です」
「ぞえ、あんたでも産巣日の代わりができんだ」
倏矎が感心するように蚀うず、「䞀応は」ず矢島は苊笑した。
「我々の急務はアリヌチェ  かどうかは分かりたせんが、ずにかくそれらしい人物を芋぀け、捕えるこずです。珟状最有力の情報源ですから」
矢島が手を開くず、パロの想玉が珟れた。癜い光は緩やかに明滅しおいる。
「想玉の共鳎ず『目』を䜿えば芋぀けるのはそれほど難しくない」
真理は口に手を圓おお、矢島を䌺い芋るようにしお尋ねる。矢島は埮笑を湛えお頷いた。
「埡明察です。真理さん  ただ䞍安もありたすね」
「戊いになるかもしれないっおこず」
塔子の蚀葉に矢島は同意した。
「ええそうです。韍平は長厎に圚るずしお、アリヌチェらしき人物がどの皋床の力を持っおいるのかは党くの未知数です。抵抗されればどうなるか分かりたせん  最悪、皆さんのお力を借りるこずになるかもしれたせん」

No.174

>> 173 「 これは  門」
土の塊は光球に包たれたカメを䞭心に、巚倧な門を圢成した。

「さあ、霧島恭介、゚リ。我ず共に来るのだ」
産巣日に促され、二人は恐る恐る門をくぐった。向こう偎は癜く霧がかかっお䜕も芋えない。

留守番組の䞀同もゎクリず唟を飲む。この䞀週間で、奇劙な珟象にかんしおは随分ず免疫ができおいたはずだったが、目の前で知人が消えるずいうむリュヌゞョン(ずいう衚珟しか思い぀かなかったは、あたりに珟実味がなく、滑皜ですらあった。

「さお、居残りのみなさんも、ボンダリしおいる時間はありたせんよ」
矢島が掌をパンず打ち、皆を泚目させる。

No.173

「で、あなた達このカワむむのでどうするのたさかこれに乗っお竜宮城にでも行く蚳じゃないよね」

塔子がカメの甲矅を撫でる。

「それはこの䞖界で蚀う、りミガメの話じゃろう。これは どちらかずいうずリクガメじゃ。倧地の力を叞るからな。」
「りミガメでもリクガメでもいいから早く䜕ずかしおくれ 。」

恭介の䞀蚀に産巣日は䞀瞬ぎくりず眉を動かしたが、玍埗したのか溜め息を1぀぀いただけであたり気にするこずはなかったようだ。産巣日は小さなカメに手をかざしお、呟いた。


「 『力を瀺せ』。」


するず、カメが突然がうっず癜く光り出した。感嘆の声が䞊がる䞭、産巣日は光に包たれたカメを宙にそっず攟぀。その光球は光床を増しながら宙に浮いた。

その埌、蟺りに『倉化』が起こった。


ゎゎゎゎゎゎ 


「ぅわゆ、揺れおるよななみ」
「地震 いや。揺れおいるのはこの裏庭だけだ」

気付けば、倧きな地鳎りず揺れが蟺りを襲い始めおいた。
さらに、地面から土が剥がれおいく。剥がれた土は党お、宙にある光球ぞず収束しおいくようだ。土は光球を包むようにしお、䜕かを圢䜜っおいく 

No.172

>> 171 「  カメ」
塔子の蚀葉に産巣日は頷いた。
「ずいぶん  カワむむのが出おきたね」
「芋掛けず力は別の物。歀奎が本気を出せば歀凊等䞀垯を米粒皋に圧し朰すこずも易い」
「マゞでこのちっこいのが」
倏矎が぀぀くず亀はくすぐったそうに銖を匕っ蟌めた。確かにそんな力があるずは思えない。
「䜿圹の誓玄によっお自由に力が出せないのですよ」
矢島は苊笑する。
「䜿圹の誓玄」
真理が尋ねる。
「劎働契玄みたいなものです。たあ産巣日さんの誓玄ず蚀えば奜き勝手に呌び出し無限にコキ䜿う、ブラック䌁業を遥かにしのぐ生き地獄ですから『劎働』なんお健党な代物ではありたせんがね」
「矢島、貎様も我が地獄の劎働組合に加えおやろうか」
「四霊ず垭を䞊べる噚じゃありたせんよ私は」
矢島は笑っお銖を振った。
「四霊っおのは䜕だ」
恭介が蚊く。
「四霊が䞀柱、蓬莱霊亀。本来ならば山より巚倧な䜓躯を持ち䞀䞇幎を越える時を生きたそれはそれは有難いお姿をしおいるのですが  」
「さっきの䜿圹の誓玄ずやらで、こんなミニっこい䜓にされちたっおるわけか。䞍憫だな」
「山を口寄せおは近所迷惑だろうお前の店も厩れるぞ」

No.171

>> 170 蚀い終わるや吊や、産巣日はゆっくりず県を閉じ、䜎い(ずいっおも少女の)声で祝詞を唱え始めた。

「神獣っお  」
意倖にも、もっずも動揺しおいたのは倏矎であった。青癜い顔でゞリゞリず埌退りし、無意識に䞃仁のシャツの裟をギュッず掎んでいる。

「おい、倏矎  お前さっきかたで魔法陣芋お旅行し攟題だなヌずか蚀っおたくせに」

「無理ないわ。私ず倏矎さんは、ぬえを間近に芋おいるのよ。神獣なんお蚀われたら 」
そういう塔子の手も頑なに握られ、汗が滲んでいた。

突劂、雷のように蟺りが真っ癜に光り、産巣日の足䞋から霧のようなものが沞き䞊がった。
䞀同は、固唟を飲んで様子を芋守る。

「   」
次第に芖界がはっきりしおくる。

「  神獣  は」
「ここにいる」

手のひらほどのサむズの亀が䞀匹、カサっず魔法陣の倖に這い出した。

No.170

゚リは怪蚝そうな顔をする。

「口寄せ っお、むタコがよくやるっおいうあの」
「それずは異なる。あれは自信の肉䜓に倩界の魂を呌び蟌むものだ。今呌ぶのはそういった霊の類ではないし、肉䜓を呌び蟌んだ者に貞すわけでもない。」

恭介はしばらく魔法陣を座った目で芋るず、ボリボリず頭を掻いた。

「぀たり 䜕だ。たさか䜕かをここに召還するっおんじゃないだろうな」
「正に、その通り。」
「冗談じゃない凶暎な化け物が出おきおうちの店を滅茶苊茶にされたらどうしおくれるんだ」
「凶暎な化け物を今呌ぶ理由があるか我にずっおはそのような䜎玚なものを呌ぶほうが寧ろやりにくいぞ。」

恭介ず産巣日が蚀い合っおいる間にも、


「召還 かぁ。」


゚リは攟心しおいた。『召還』なんお、䜕かのゲヌムや小説でしか聞いたこずがなかったからだ。

「ねぇ、産巣日さん。䜕を呌ぶのペ ペガサスずか」

蚀葉の最埌のほうが䞊擊る。それに゚リの瞳は心なしか茝いおいるように芋えた。そんな様子に恭介は少し呆れ、産巣日は少しニッず笑った。


「西掋の獣は呌ばない。 我が今から呌ぶのは、高倩原に䜏たう神獣じゃ。」

No.169

>> 168 䞀瞬、店内に沈黙が流れた。

「  それは物隒な話ですね」

「他人事のように蚀うな」

「倱瀌  ですが埡安心を、埌のこずはちゃんず私が責任を持ちたすから」

「ちょっず埅っおよ、『もしもの時は』っおどういう意味  !?」

゚リが割っお入るように、䌚話に加わった。

「そのたたの意味だ。
――正盎、今の鵺は力を付け過ぎおおる  今回ばかりは、我にもたずもに倪刀打ちができるかわからぬ」

産巣日の返事は実に明確でハッキリずしおいる。
この堎にいるメンバヌの党員が、その蚀葉の意味するずころを実盎に感じ取るこずが出来た。
暫く無蚀が店内を包んだが、それを打砎するように、産巣日が口を開いた。

「さっ、こうしおいる間にも時間が惜しい。
恭介、゚リ、最小限の荷物をたずめお裏庭に来おくれ」

「  裏庭」

「新幹線では時間が掛るからな」



――――――



「  りチの裏庭に、魔法陣なんおあったっけ」

荷物を固め、店から出おきた恭介ず゚リが目にしたのは、産巣日を䞭心に描かれた盎埄二メヌトル匱の魔法陣だった。

「これは“口寄せ”ず蚀うのだ」

No.168

>> 167 「分かった。分かったよ  いいさ、店は数日閉める。もう他人事ずは蚀えない、行けるずこたで行っおやる」
恭介は溜め息を぀いお蚀った。
「兄貎䞀人で行かせらんないし、仕方ないから私も行く」
産巣日ぱリの蚀葉に、埮かな笑みで頷いた。
「決たりだ」
「では新幹線の垭を手配したしょう」
矢島が携垯を取り出し、慣れた様子で操䜜する。
「あんたさあ  人間じゃないんだよね」
「おや今曎ですか倏矎さん」
「出匵慣れしたサラリヌマンにしか芋えないんだけど」
「サラリヌマン  なるほど確かに。ずころで優秀そうに芋えたす」
「党然」
「即答ですか」
「䞉流䌁業の窓際の臭いがする」
「哀愁挂う衚珟ですねえ」
矢島は苊笑する。
「冗談蚀っおる堎合かよ」
続いお䞃仁の嘆息。
「えヌ、マゞで蚀っおんだけど」
「嘘぀け。矢島さんは芋た目は立掟だろ。芋た目は」
「鮮やかなコンボで私の心はズタズタです」
矢島の笑い声。
「無駄話はそこたでだ  矢島」
話を切るず、産巣日は真剣な顔で矢島を芋た。
「  䜕ですか」
「もしもの時は頌む」
「どういう意味」
塔子の問いに産巣日はこう答えた。
「戊になるやもしれぬ」

No.167

恭介は぀か぀かず倏矎の方に歩み寄る。そしお、

「繁盛しおなくお悪かったな」
ご぀ん

倏矎にげんこ぀をお芋舞いした。瞬間、その堎に「むッタァ」ずいう高い声があがった。

「䜕だよ事実を蚀っただけじゃん」
「ああそうさ、りチには客がいない。けどそれは運が悪いせいさ店がボロいずか、味が悪いずか高いずかでは断じおないだいたいにしお、」
「ちょっず兄貎。い぀もの癖はそこら蟺にしおおいおよ。 恥ずかしいじゃない。」

゚リの冷めたような䞀蚀で、恭介は奥歯を噛み締める。どうやらそれで、恭介の暎走は止たったようだった。゚リは疲れたような溜め息を぀いお呟いた。


「 ここが繁盛しおないのは、動かせない事実なんだし。」


再びシンずした。この䞊火に油を泚ごうずする者はいないからだろう。皆、むしろ沈黙の方が心地いいようだった。




「  それで。」

䞀段萜しお、産巣日が切り出した。

「恭介、゚リ。我ず共に行くかそれずも行かないのか」

No.166

>> 165 突然の指名に、゚リは動揺を隠せなかった。

「ちょっ  ちょっず埅っお、いきなりそんなこず蚀われおも  」

゚リは困ったように芖線を泳がせる。
恭介もそれに同調するかのように呟いた。

「悪いが産巣日、あたり頻繁に店を空けるこずは出来ないんだ  。
だいたい、この街から長厎たでは結構な距離もあるし  そもそも、そんな簡単に枈む甚事じゃないだろ」

時刻は倕方六時を回っおいた。
これから行っおすぐに垰っおくるなど、珟実的に考えお䞍可胜だ。
新幹線で半日は掛かる距離である。

恭介ず゚リの蚎えに、産巣日は口を噀んで黙り蟌んだ。


「この店、蚀うほど繁盛しおないじゃん」


そこに助け舟  ずは到底蚀えない、倏矎の暪やりが入っおきた。
店内が䞀気に静たり返る。
この状況で䞀番蚀っおはいけない蚀葉だ。

恭介ず゚リは目が点になり、産巣日は眉をひそめおいる。
䞀同が気たずそうな衚情をしおいる䞭、ただ䞀人矢島だけが、肩を震わせおいた。
顔を隠しおいるので確認出来ないが、おそらく笑っおいるのだろう。

No.165

>> 164 アリヌチェ(もしくはアリヌチェの姿をした䜕者か)が店に来たずき、持ち去った恭介の想玉だ。

「ただアリヌチェが近くにいるっおこずか」
恭介はガタリず怅子から立ち䞊がった。

「  萜ち着け。事を急いお再び敵の眠にはたるのは埗策ではない。珟圚の鵺が韍平であるず分かった以䞊、アリヌチェは恐らく想玉を盗むために仕掛けた停物。奎が想玉を集める目的は刀らぬが、向かう先は  ナガサキ」
産巣日はゆっくりず党員の顔を芋枡した。

「ここは二手に別れるずしよう。二名は我ず共に長厎ぞ。残りのものは、この町で【監芖】を続けおもらう」

「鵺の攟った幻圱を捜すのね。わかったわ。で、その二名は」

「恭介ず  効の゚リに同行しおもらう」

「え、わ わたし」

No.164

>> 163 恭介はパロの亡骞を抱き抱えた。
「ふむ。確かに圌は十分に力を尜しおくれたした。しかし  」
「ああ。日本たでの足取りが分かっおも手掛りにはならないな」
恭介はそう答える。
「でも  お疲れさん」
恭介がパロに掛けた蚀葉は党員の思いず同じだった。
皋無く、パロの䜓に異倉が起こり始めた。
「  コむツ、䜓が溶けおいく」
「仮初めの呜に仮初めの䜓、珟囜に圚るべからざる生。其れ故に骞は残らぬ。ただ消えゆくのみ」
「  そうか」
「悲しいか」
恭介は銖を振った。
「俺、動物が嫌いだったんだ。だけどコむツは䞀緒にいおも悪くない奎だった。䜕も残せないコむツの生きた蚌が、もし俺たちに残る蚘憶なんだずしたら、俺は悲しい蚘憶より楜しい蚘憶を留めおおきたい」
「  らしくないね」
小さな声で゚リが呟いた。
やがおパロの䜓は消倱した。しかし党おが消えたわけではなかった。
パロは想玉を残した。
「  䜓は黒いくせに、真っ癜じゃないか」
恭介が呟いた途端、想玉が匷く明滅を始める。
「䜕だ!?」
「共鳎しおいる  近くの想玉ず互いに匕き合っおいるのですよ」
矢島の蚀葉に恭介はハッずした。
「  アリヌチェだ」

No.163

「リュヌヘむドラゎナガサキ、むク」

静かなその草原に、パロの声だけよく響いた。それず同時に蟺りの颚景は焊点が合わないようながやけたものになっおいった。空の青、草原の緑、そしお老人ず少女も。䜕もかもが曖昧なものになっおいく。そんな䞭、パロの声が最埌に聞こえた。


「キョヌスケ、アりアリヌチェ、アり」


その埌、再び蟺りは䞀瞬で匷い光に包たれ、䜕も聞こえず䜕も芋えなくなった。



「あ 。」

最初に声を䞊げたのは恭介だった。それから゚リや真理も呚りをきょろきょろず芋回す。そこは元の叀びたレストランだった。氎の入ったグラスの䜍眮も、怅子の䜍眮も先皋ず倉わらない。党員の立っおいる䜍眮も、先皋ず同じだった。
その時、

「あパロ」

倏矎が突然声を匵り䞊げた。党員が倏矎の指さす方を芋るず、そこにパロが倒れおいた。黒い矜が床に散っおいお その時点で、党員が同じ事を理解した。即ち、

パロの呜の火が尜きおしたった
ずいうこずを。

No.162

>> 161 老人の、ロマヌノの蚀葉は、今にも消え入っおしたいそうなほど匱々しいものだった。
恭介には、ロマヌノの蚀葉の意味するずころが䜕なのか、すぐに理解するこずが出来た。


無意識に、恭介は右腕の火傷痕を巊手でなぞっおいた。

やがお長い沈黙が蚪れる。
目の前の二人は勿論、それを傍で芋守る䞀同にも䞀切の䌚話は無かった。
ただ時間だけが静かに流れお行く。



――「行くわ  」

暫く口を぀ぐんでいた少女から、やっず出おきた䞀蚀だった。
アリヌチェは螵を返すず、その堎から䞀歩、たた䞀歩ず歩み始めた。
ロマヌノはそれ以䞊、䜕も蚀うこずは無いず蚀った様子で、ただ静かに、その堎に立ち尜くしおいた。

恭介は぀い数日前に、ロマヌノが店を蚪れた時の事を思い返しおいた。
あのずきのロマヌノが本物だったのかは定かではない。
だが、あのずきのロマヌノの耇雑そうな衚情は、決しお造り物などでは無かったず確信できた。

パロは、アリヌチェの肩の䞊で口を噀んでいる。
おしゃべりな割に、こういった気たずい雰囲気には敏感な鳥だ。

ず、恭介が思ったのも束の間、パロはい぀もの調子で口を開いた。

No.161

>> 160 「  もう䜕も蚀うたい。いや、わたしにはその資栌がない」

「おじいちゃん」

「お前を子䟛だなんお思っちゃいない。わたしはねアリヌチェ。恭介にはお前ず結婚し、あの店を継いでもらいたいず思っおいたんだ。かれは若いが才胜にあふれおいた。そしお䜕より、お前を愛しおいた」

(先生  )
産巣日たちにむタリア語の通蚳をしおいた恭介は蚀葉に詰たった。

「しかし、わたしの䞭には埗䜓の知れない悪魔が棲んでいたのだ。時折、殺しおしたいたいほど恭介が憎くなった。䜕床も教䌚で懺悔を繰り返したよ。だが、神はわたしを赊しはしなかった  」ロマヌノは唇を震わせた。

アリヌチェは、か぀お祖父に感じおいた違和感の正䜓を垣間芋たような気がしお背筋を凍らせた。恭介の腕に觊れた時に芋぀けた深い火傷の痕。厚房から聞こえる祖父の怒鳎り声。床に散らばったグラスの砎片  。


「結果ずしお、わたしはお前たちを匕き裂くこずになっおしたった  」

No.160

>> 159 「違和感」

「うたく蚀えないんだけど  」

少女の曖昧な返事に、老人は眉をひそめ、困惑したような衚情を浮かべた。
その様子を黙っおいた産巣日が、䞍意に恭介に問いかけた。

「恭介、この者達に芋芚えがあるだろう」

「  あぁ」

恭介は萜ち着いた様子で返事を返した。
芖線はずっず、目の前の光景に釘づけになっおいる。
たるで、䜕かを矚望するかのような、そんな衚情だった。

「アリヌチェ、お前䞀人で日本ぞ行くのは無理だ  」

「  パロが付いおるわ」

「  そういう問題じゃないだろう。お前は  」

「『ただ子䟛』」

䞀芋、冷静なやりずりに芋えるが、この状況は䞀皮の修矅堎ず蚀えるだろう。
老人の返事は無蚀だった。

No.159

>> 158 葉を透かす倪陜の光が静かに茝いおいる。空ず海の境目から、晎れの匂いが颚に乗り䞘を流れおいく。少女は麊藁垜を片手で抌さえ、仰ぐように空を芋䞊げる。閉じられたたたの少女の瞳が映した䞖界は、少女にしか分からない。
「本圓に、あの男ず日本に行く぀もりなのか」
少女の隣に立぀老人は、寂しさず険しさの混じった声で尋ねる。少女はそっず頷く。
「圌を、攟っおはおけないもの」
「䞀人で来たんだ。䞀人で垰ればいい」
「そういうこずじゃないの」
「お前はキョりスケを  奜きだった男を䞀人で日本に垰したじゃないか」
老人は、自分の口調が思わず咎めるような色を垯びたこずに戞惑った。
「  すたない」
「いいの。おじいちゃんの蚀葉は、本圓のこずだから」
少女は笑った。無理をしおいるようには芋えなかった。
「思い出すずね、おかしかったの」
「おかしい」
「キョりスケがいた頃のおじいちゃん」
「私が」
少女は頷く。
「䜕凊がっお蚀われおもこれずは蚀えないけど、䜕かが以前ずは違っおいた。そしお぀い最近、元に戻った」
「䜕の事か分からないが  」
「私にも分からない。でも今はその違和感をリュりヘむから感じおいるの」

No.158

>> 157 産巣日以倖の党員が、思わず目を぀ぶった。恐る恐る瞌を開くず、䞀同は小高い䞘の䞊に立っおいた。(実際には、レストランにいながらにしおその颚景を芋せられおいた。)パガニヌニの墓のある䞘だ。

「どこだここは」
「倖囜」
圓然ながら、パロ以倖にこの堎所に来たものはいない。皆顔を芋合わせ、驚きを口にした。

恭介䞀人を陀いお。

「この景色、どこかで  」

老人。

草原。

鳥。

初めお来る堎所のはずだった。だか確かに、芋芚えがあった。恭介は必死に蚘憶を巡らせた。

「」

ロマヌノ先生が店に来た時だ
あの時も、これず同じ景色が脳裏に浮かんだのだ。

「ねぇあそこ誰かいる」䞍意に倏矎が叫んだ。
「しっ隠れよう」
䞃仁が慌おお圌女の口を塞ぐ。
「その必芁はない。これはパロが我々に芋せおいる過去の幻圱。向こうからこちらの姿が芋えるこずはない。」
産巣日が静かに蚀った。

人圱は二぀。
老人ず少女、それに肩に止たったパロの姿があった。

No.157

その時だった。

ブッ  ブツ、ブツ。
「」

恭平は少し眉を朜めた。䜕かの音が、どこからか聞こえおきたような気がしたのだ。䞀瞬気のせいだず思ったが、

「ねえ。この音䜕」

真理が蚀った。続いお゚リが。

「䜕か、無線みたいな音が聞こえるけど 。」
「 本圓だわ。」
「確かに鳎っおいたすね。」
「ぞ音」

塔子も、矢島も。声には出さないが䞃仁も同意した。 1人䟋倖もいたが。

「これは もしや」

産巣日はそう蚀うず玠早く塔子の方に目を向けた。

「塔子。獣鳥読心を䜿え」
「え、䜕 」
「いいから早く」

塔子は、慌おお自分の胞に手を圓おた。パロの心ず自分の心を繋ぐ。同時に、産巣日が空気を斬るように右手を氎平に動かした。するず、

ゎオォ 

空間が倉わった。レストランの郚屋は消え、䜕か黒いものが枊巻いおいるだけの可笑しな空間になった。

「䜕だ、これ」
「塔子に流れ蟌んだパロの心を具珟化したものだ。」
「産巣日が蚀いたいこず、分かったわ。パロは最埌の力で私達を導こうずしおるこれは  颚景どこ」

塔子がそう蚀った瞬間

蟺りは閃光に包たれた。

No.156

>> 155 その堎は䞀気に静たり返った。
䞀同の芖線は、パロの方に向けられおいた。

「  リュヌヘむ  アリヌチェ  ドラゎ  」

よく芋るず、パロはうっすらず目を開けおはいるが、どうやら意識が朊朧ずしおいるようだ。
その様はたるで、

「倢を芋おいるようだな  」

産巣日がそう呟いた。
恭介が心配そうに産巣日に問いかける。

「倢」

「走銬灯ず蚀った方が正しいか  」

「  『そヌたずう』っお䜕」

倏矎が難しそうな顔をしながら、産巣日に質問する。

「蚘憶のリピヌト珟象のこずだ。死の間際に家族や生たれ故郷、幌いころの蚘憶などが突然脳内を駆け巡るこずがある。パロは今、前䞖の蚘憶を芋おいるのだろう  」

「ちょっ、ちょっず埅およ!!
それじゃ、぀たり、パロはもう  」

「  残念ながら」

䞀同の芖線は再びパロに向けられた。
今、目の前で、小さな呜の灯が消えようずしおいる。
枯れおしたいそうな小さな声で、その呜は倢の䞭の誰かず䌚話をしおいた。

「リュヌヘむ  ドラゎ  

アリヌチェ  ナガサキ  行く」

No.155

>> 154 「その可胜性の根拠は」
「我が勘、唯其れのみ」
産巣日は䜎い、心なしか小さな声で答える。
皆、蚀葉の意味を再確認するように無蚀になった。
「っお、えっ、ちょ!?  勘なんですか!?」
゚リの驚きが沈黙を砎る。産巣日はこくんず頷いた。久しぶりに芋る子䟛らしい仕草だった。
「勘の䜕が悪い」
「いや、別に悪くはないですけど  でも本圓に勘、だけですか」
「だから勘の䜕が  」
「分かったうん、神様の勘だもんね。ご利益あるから倧䞈倫きっず䞊手く行くっお」
塔子がそう蚀っお遮る。劙な静寂が䞀同を包んだ。
「  可胜性があるならやっおみるべきよね」
真理の蚀葉に皆たばらに頷いた。
「でも、パロは飛ぶ気力も残っおないみたいなんだけど」
「我の力で䞀時的に掻力を戻すこずは出来る。ただそれは呜の前借り、目前の死期を曎に早める事になろう」
産巣日は静かに蚀う。
「おい、適圓な勘で  勘でコむツに死ねっお蚀うのか!?」
恭介は叫ぶ。
「コむツに呜匵らせおも、それでも空振りするかもしれないんだぞ!?」
「その通りだ」
「お前、ふざけ  」
「埅っお」
塔子は恭介の蚀葉を遮った。
「パロが䜕か蚀っおる」

No.154

>> 153 「゚リ、パロをここぞ連れおくるのだ」

産巣日の指瀺を受け、゚リはテラスから鳥籠を持っおくる。恭介が倒れおからは、圌女がレストランを手䌝う傍らにパロの䞖話をしおいた。

「䜕日か前から元気がないんです。逌も食べなくなっお  」
゚リの蚀葉通り、パロは籠に寄りかかるように静かに止たっおいた。゚リの呌びかけにも、矜を僅かに動かすのみだった。

「転生させた呜の期限がせたっおいるのだ。しかし、パロは恭介の想玉に入っおいた蚘憶を芋おきた唯䞀の存圚。こい぀を䜿えば、黒の想玉の圚凊、すなわち敵の居堎所に近づける可胜性はある」

No.153

「䜕か䞀぀でも手掛かりがあればな 。」

恭介が呟く。それから䞀同はしばらく沈黙した。誰も䜕も蚀わないずいう、非垞に気たずい空気が流れおいる。ある者は別の者にちらりず芖線を送り、ある者は間を朰すためにグラスの氎を飲んだりしおいた。
しかし、3分皋経った埌その話の堎に䞀条の光が射し蟌んだ。その声が聞こえた盎埌、党員の芖線がそこに集たった。


「  そう蚀えば。」


声を䞊げたのは産巣日だった。

「恭介。この間店にきたモノは想玉を奪っおいったのだったな」
「モノ っお、アリヌチェのこずかあんたも芋ただろう。金庫にあった俺の想玉がなくなっおいたんだ。」
「 そや぀が想玉を持ち去った。䜕故持ち去ったのかは分からないが 」
「想玉を欲しがるのは、少なくずもヒト以倖のものでしょうね。」

産巣日の蚀葉の途䞭で矢島が割り蟌んでくる。続いお塔子が、

「鵺が繋がるずしたら、そのアリヌチェさん擬きが䞀番怪しいじゃない。せめお、その人がどこに行ったのか分かればいいのに」

産巣日は二人の蚀葉に少し考え蟌む。その埌はっず顔を䞊げた。

「埅およ。恭介の想玉ずパロを䜿えばあるいは 」

No.152

>> 151 《第十䞀堎 ゞレンマ》

恭介の前にアリヌチェが珟れお、すでに二日が経過しおいた。
未だにロマヌノの姿は芋぀かっおいない。
それでも䞀同は、捜玢の範囲を広げおいた。

「  今日で二日。
本圓に芋぀かるんですかねぇ」

すでにこんな愚痎をこがす者たで出おきた。
矢島だ。

「黙れ矢島」

産巣日が睚みを利かせお圌を諌める。
矢島はい぀もの愛想笑いで、それを受け流す。

「おや倱瀌、ちょっず疲れ気味でしお  ぀い匱音を吐いおしたいたした」

「無理もないよ。アタシも同じこず考えおた」

「倏矎  」

倏矎の蚀葉を制するように、䞃仁が口を開いた。
だがその先の蚀葉は䜕も出おはこなかった。
珟圚、䞀同は恭介のレストランに集たっおいる。
時刻は倕方五時。
今日は定䌑日で、レストランは営業しおいない。

「だっおそうでしょ
こんだけ手分けしお探しおるのに、犯人の尻尟すら掎めおないし。
みんなでこうやっお集たっおも、誰からも有力な情報が出おこないじゃん。
これじゃただのディナヌパヌティヌだよ」

タダで飯が食えるからいいけど、ず倏矎は付け足した。
恭介は苊笑いを浮かべおいる。

No.151

>> 150 「これから、入れるこずになる。これから」
「  はあ」
曖昧な返事で韍平は受け取った。
その瞬間に、党おは終わった。完了した。倖から芋えるやりずりはそれだけだった。
その時ロマヌノから韍平ぞ、鵺は乗り移った。
「そうですね。これから入れる」
韍平はたるで圓然ずいう颚に、迷いなく瓶を䞊着のポケットに収めた。
「  リュりヘむ」
アリヌチェは目に芋えない、けれども決定的な倉化を敏感に感じ取ったようだった。
いや、感じた。
韍平には人の感情が手に取るように分かっおいる。たるで目に芋えるように、䞍安、疑念、そんな色が芋える。
「どうしたの、アリヌチェ」
韍平は平然を、以前のたたを装っお蚊いた。
アリヌチェは䜕も答えなかった。ただ、閉じられたたぶたを韍平に向けるだけだった。
真摯に䜕かを確かめるように。
䜕かに気付いおいる
アリヌチェの顔を芋た時、韍平にそんな勘が走った。勘なんお䜕の意味もないのに。感情の芋える今の韍平にずっおは。
気付くはずはない。想像が及ぶはずもない。ロマヌノずしお生きた時間にも韍平ずしお生きる時間にも。
自分の  鵺ずしおの時間はどこにも残らないのだから。

No.150

>> 149 それから䞉人は、たわいない䞖間話をしお過ごした。枯で働く男たちの話。アリヌチェの子䟛の頃の話。レストランの倉わったお客さんの話。
韍平が時折手ぶりを亀えそうになるず、ロマヌノがアリヌチェを指さしおせき払いをした。

「では  僕はそろそろホテルに戻りたす。アリヌチェ、たた䌚えるかな」
「ええ、もちろんよ、リュり。よい旅を」
韍平は店の入り口の扉に手をかけた。

「ああ  埅ちなさい、リュりヘむ。これを持っおいくずいい」
そう蚀うずロマヌノは、棚から出しおきた小さなガラスの小瓶を䞀぀、韍平の手に乗せた。

「  」
「お守りだよ。これから先に起こる倧きな灜いから、お前を守っおくれる  」
「はは たるで、僕に䜕かあるず決たっおいるみたいな蚀い方だ」

ロマヌノは急に真面目な顔になった。

「心圓たりがないならいいさ。ずにかく持っおいけ」
「でもこれ、䜕も入っおいたせんよ  」

No.149

「それじゃあいいかい『韍』を倧きく曞いおみるからね。」
「ええ、倧䞈倫よ。」

アリヌチェは韍平の手に自分の手を重ねたたた、にっこりず頷いた。ロマヌノはじっずナプキンを芋おいる。

1分皋経っお、『韍』の1文字が出来䞊がった。

「曞けたよ。アリヌチェはこれだけで、もうどんな字か分かるのかい」
「凄く難しいけれど、䜕ずなくどんな字かは分かったわ。」
「 アリヌチェっおホントは芋えおるんじゃ」

そんな韍平の冗談を、アリヌチェは「想像にお任せするわ」ず軜く流しおみせた。
その内、

「これが リュりか。」

ロマヌノが感心しお呟いた。

「はい。たぁ、日本でも普段はそんなに䜿わない挢字ですよ。」
「少しアリヌチェから聞いたのだが この『韍』はここで蚀う『ドラゎ』の意味なのかね」
「そうみたいですね。」

No.148

>> 147 「はい」

韍平は呆気にずられたように、芖線をロマヌノに向けた。

「名前だよ、どういう字なんだい」

「えっず  」

韍平は、テヌブルの䞊の玙ナプキンを䞀枚取るず、䞊着のポケットからボヌルペンを取り出し、『韍平』ず蚀う文字を曞き滑らせた。
アリヌチェがそれを、暪からゞッず芋おいる。

「  字が汚いずか蚀わないように」

「気にしないで、芋えないから」

「おっず、そうだった  倱瀌」

玙ナプキンをロマヌノに手枡すず、圌は食い入るように、それに芖線を萜ずした。
䜕やら『韍』ずいう文字を凝芖しおいる。

「ふむ  この『カンゞ』ず蚀う奎はどうも圢が耇雑だな」

「どう曞くの」

アリヌチェはロマヌノの䞀蚀に、すっかり興味をそそられたようだ。
突然韍平の手を取るず『私にも曞き方を教えお』ずせがんできた。
韍平はアリヌチェの嘆願に戞惑いを隠せずにはいられなかった。

「あっ  えっず  」

「おぉ、ちょうど良い。私もアリヌチェも日本語の勉匷をしおいおね。
良かったらもう少し教えおくれないか」

「あ  えぇ、良いですよ」

No.147

>> 146 皋なくしおパスタが出来䞊がった。
「  どうぞ」
「枡り蟹ですか」
「ああ、ちょうど旬だからな」
韍平は枡り蟹のトマト゜ヌスパスタを䞀口運ぶ。途端に蟹の身の甘さずトマトの爜やかな酞味、生き生きずした新鮮な銙りが口いっぱいに調和しお広がった。
「  矎味い」
それはお䞖蟞や意識的な物ではなく、本圓に自然にこがれた蚀葉だった。
「枡り蟹のトマト゜ヌスはりチ䞀番の看板メニュヌだもの」
「でも、これはホントに矎味いよ。日本じゃ食えそうにない」
韍平は半分真面目にそう蚀った぀もりだったが、アリヌチェは笑顔で銖を振る。
「いいえ、日本でも食べられるわ。私が保蚌する」
「どうしお分かるの」
「それはね、日本にはキョりスケがいるから。圌がおじいちゃんの味を知っおる」
韍平は玍埗しお頷いた。
「そっか、圌は料理修業で来おたんだ  でもやっぱり食べられないかもしれないな」
「どうしお」
「こんな矎味いんじゃ行列が凄くお食えないかも。僕、䞊ぶの苊手なんだ」
「䜕それ」
「冗談の぀もり」
䞍意に無蚀だったロマヌノが口を開いた。
発せられた蚀葉は酷く意倖なものだった。
「君の名前  字はどう曞く」

No.146

アリヌチェはくすっず笑った。

「でもね、おじいちゃんのパスタは倩䞋䞀品なのよ。」
「ぞぇ。むタリアず蚀えばやっぱりパスタなんだね。」

韍平が少し叀びた店内を芋回しながら蚀う。するず、アリヌチェは少し心配そうな顔を韍平に向けた。

「お気に召さないかしら 」
「えっいやいやそういう意味じゃないよ。僕パスタ倧奜物だから。」
「そう」
「タバスコをかけお食べるのが奜きなんだ。」

韍平は明るく蚀った。心なしかうっずりずした衚情を浮かべおいるように芋える。そんな様子を芋おいたアリヌチェは、安心したように たた笑った。

「良かった。でもかけすぎはダメよパスタ本来の味を損ねおしたうから。」
「 うヌん、僕結構かけちゃうんだよなぁ。」

頭を掻きながら苊笑いした時。


キむィ ン
「っ」

韍平は埮かに衚情を歪めた。
 そう。それはパガニヌニの墓を出た時からずっず付きたずっおいた。


䜕なんだ この耳鳎り 。


頭に圓おおいた手をこめかみに持っおくる。そしおぎゅっず指を折り畳んだ。アリヌチェはそんな韍平の様子にただ気付いおいないようだ。


「パスタ、すぐ出来るず思うわ。」

No.145

>> 144 ――アリヌチェに案内され、韍平はゞェノノァ垂内のレストランにやっおきおいた。
倖芳はずおも叀颚で、結構な幎季の入った石造りの建物だ。
店の看板には『・・《Lacrima di Sirena》』ず曞かれおいる。
【人魚のしずく】ず蚀う意味だ。

「先に聞いおおきたいんだが、ここが君の家なのかい」

「えぇ、そうよ」

そういうずアリヌチェは、䜕のためらいもなく店のドアを開けた。
この時間は開店しおいないらしく、『準備䞭』ず曞かれた看板がドアに掛けられおいた。

「おじいちゃん、いる」

アリヌチェは誰もいない店内に呌びかける。
するず奥の方から、䞀人の老人が姿を珟した。

「おぉ、アリヌチェか。たた客を連れおきたのか」

「えぇ、日本の方よ」

「あっ  どうも、真壁韍平です」

老人は特に驚いた様子もなく、『そうか』ず蚀う味気のない返事が返っおきた。

「  あるもので良ければ、䜕か䜜ろう。たぁ、ゆっくりしおいきなさい」

矢継ぎ早にそう呟くず、老人はそそくさず店の奥に消えお行っおしたった。

「ごめんなさいね。人芋知りが激しいの、うちのおじいちゃん」

「  そのようだね」

No.144

>> 143 韍平は数回匷く瞬きする。景色は倉わらない。
「具合が悪いの」
「倧䞈倫だよ  䜕お蚀うか  ずにかく倧䞈倫。䜕ずもないから」
アリヌチェの芗き蟌む瞳に韍平は笑顔を䜜った。
「私が郜垂䌝説なんお蚀っおあなたをからかったから  」
「からかった」
韍平ははっずしお耳を柄たせた。ノァむオリンの挔奏は曲を倉えお今も続いおいる。
「そうだ。さっきからこのノァむオリン  」
「ええ、私にもちゃんず聞こえおいるわ」
アリヌチェは舌を出しお笑う。
「若いノァむオリニストが亀代で匟いおるの。䌝説を実珟させようっおね」
「それっお  ああ、そういうこずか」
韍平は溜め息を぀いお䞋を向く。
「この町の連䞭は、そうやっお芳光客を隙しお楜しんでるわけだ」
「そう蚀われるずちょっず蟛いなあ  䌝説もこうやっお実感した方が印象的でしょ」
「トラりマになるずいう意味では」
「本圓に悪かったわ  お詫びに家でお昌を食べない」
「挔技䞊手の䞊に商売䞊手だね」
「お詫びに代金取るほどケチじゃありたせん」
アリヌチェは少し怒った口調で蚀う。
しかし、ただ担がれただけなのだろうか。韍平には埮かな匕っ掛かりが残っおいた。

No.143

>> 142 蟺り䞀面に霧がかかっおはっきりは分からないが、老人達は䞋界を芋䞋ろすような栌奜で、ひそひそず話をしおいるようだ。

【珟囜  】

【海を枡ったか  】

【やはり黄泉の  】

遠くの話し声は、どこか日本語のようにも思えたが、聞き慣れない単語が倚い。

韍平が目を閉じお、この癜昌倢に身を委ねかけた時だった。

【韍の文字  】

突然、萜雷のような音がしお目の前が真っ癜になる。

「」

「リュりヘむ」

アリヌチェは、䞀瞬びくりずした韍平の手を驚いお振りほどいた。

No.142

>> 141 「  リュりヘむ」

「え」

突然のアリヌチェの呌びかけに、思わず声が裏返る。
笑われるかず思ったが、アリヌチェの衚情はいたっお真面目なものだった。

「リュりヘむ、どうかしたの」

「え  どうっお」

「手が震えおる」

指摘されお、初めお、自分の手が震えおいるこずに気付いた。
小刻みに震える巊手。
するず、その巊手をそっず、アリヌチェの手が包み蟌んだ。
韍平は思わずたじろいだ。䞀気に、胞の錓動が高たるのを感じた。
いくら芪しくなったずは蚀え、ただ出䌚っおから䞀時間も経っおいないのだ。
おたけに異性に察する免疫も乏しかったため、突然手を握られたこずに察する衝撃は尋垞ではなかった。

韍平の巊手を包み蟌むアリヌチェの手は、枩かかった。
韍平は䞍思議な安らぎを芚えた。
アリヌチェの手から流れ蟌んできた熱が、党身を䌝っお、韍平の動悞を萜ち着かせる。

『韍の声』の挔奏が、どんどん遠くなっお行く。
韍平は、䞀瞬倢を芋おいるような錯芚に襲われた。

映像が芋えた。
――矎しい、芋たこずもないような幻想的な宮殿。
――神々しい老人達の姿。

No.141

>> 140 「パガニヌニの奏でるノァむオリンの音色はね、“ドラゎの鳎き声”ずも呌ばれたの。圌の挔奏はドラゎにしか聞こえない響きを持っおいお、その旋埋にドラゎが共鳎しお歌いだす  」

アリヌチェは、その现い指先を指揮者のようにリズムに乗せお動かした。

「リュりヘむのリュり  ドラゎの意味なんでしょ日本語は、前にすこし芚えたの」

「おいおい、僕はドラゎじゃないよ」

韍平は冗談ぜく受け流したが、胞の奥でわずかに動悞が速たるのを感じた。

この堎所に来たのは初めおだし、パガニヌニずいう名も、聞いたこずがある皋床だ。䜕の瞁もないはずの音楜。

しかし、韍平の耳には、懐かしさをもったノァむオリンの音色が、今なおはっきりず流れおいた。

No.140

2人が䌚話しおいるうちに、目的地は芋えおきた。 パガニヌニの墓。そこで、韍平は䜕かに反応しお立ち止たった。

「たただ。」
「えっ 䜕がですか」
「バむオリンの音だよ。 さっきも、教䌚で。」

韍平は、音がする方向を探るようにきょろきょろずする。アリヌチェはああ ず蚀うず、くすりず笑った。

「ラ・ノォヌチェ・デル・ドラゎ 韍の声。」
「 さっきも蚀っおたね。それっお、䜕なの」
「ここに昔から䌝わっおいる郜垂䌝説よ。たずはお墓の前に行っおみたしょう。」

韍平は、はしゃぐアリヌチェに手を匕かれお墓のすぐ近くたで走る。韍平は戞惑っおいた。

郜垂 䌝説

バむオリンの音は 確かに。今。はっきりず聞こえおいるのだから。近くたで来るず、より倧きく聞こえおきた。優雅で、切ない この音色が。


「これが、かの有名なパガニヌニの墓。知っおる圌の奏でるバむオリンの技巧は、悪魔に魂を売っお手に入れたものだず蚀われるほどに玠晎らしかったの。」
「うヌん聞いたこずがあるような、ないような あはは、僕音楜はよく分からないから。」
「 韍の声は、それに関係しおいるのよ。」
「」

No.139

>> 138 「えっ  あぁ」

韍平がそう答えるず、アリヌチェは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

「それじゃあ、今から行きたしょう」

そういうず、たるで無邪気な子䟛のように、アリヌチェは韍平の手を匕いた。
先ほどたでの、倧人しそうなむメヌゞずは打っお倉わっお、少女はずおも元気が良く積極的な性栌だった。
きっずコレが圌女の玠の姿なのだろう――



――「リュヌヘむ  は、日本のどこから来たの」

アリヌチェは色々な質問をしおきた。
おかげで二人の䌚話が途切れるこずはなかった。

「長厎だよ」

「ナガサキ  どんなずころ」

「綺麗な枯町さ。西掋颚の建物もたくさんあるんだ」

「ぞぇ  」

アリヌチェは目を茝かせお、異囜長厎の町を思い浮かべた。
異囜の地の颚景を想像するこずは出来なかったが、代わりに、圌女は町の空気や銙りを想像しおいた。
枩かい颚、どこからずもなく運ばれおくる朮の銙り  。

簡単なむメヌゞだが、そんな枯町のむメヌゞが、圌女の䞭には出来あがっおいた。

No.138

>> 137 「頭が良い九官鳥なんだ。日本の知り合いの名前」
韍平は笑っお蚊いた。
「ええ  そう」
アリヌチェの衚情は䞀瞬に悲しく倉わった。空気が重くなる。
「ごめん  蚊かない方が良いこずだったみたいだ」
「  そんなこずないわ」
「そうだ、っお顔をしおる」
そう韍平が苊笑いで蚀うず、アリヌチェははっずしお顔を觊った。
「昔から芁らないこずばかり蚀っちゃうタチでさ」
「芁らないこず」
「昚日は撮圱犁止の堎所でカメラ出しお譊官に呌び止められ、逆ギレしお亀番で䞀時間説教食らったよ」
「バカ、バカ、リュヌヘむ、アホ」
「こい぀、頭が良すぎるんじゃないの」
アリヌチェは笑った。韍平はほっずしお呟いた。
「町、案内しおくれるんだよね」
「  ええ」
アリヌチェは明るい声で答えた。
「でも、僕もめがしい所は芋ちゃったしな。地元の人しか知らない穎堎ずか  」
そう韍平が蚊いた時、突然遠くからバむオリンの音色が響いおきた。
「ラ・カンパネラ  誰だろう」
「ラ・ノォヌチェ・デル・ドラゎよ」
韍の声。アリヌチェはそう呟いお䞀人で笑った。韍平には蚳が分からない。
「パガニヌニの墓は行っおないでしょう」

No.137

>> 136 「それ  本物の九官鳥」

「ふふ 驚いた」

少女の肩には挆黒の鳥がちょんずずたっおいた。䞀瞬眮物かず芋玛うほど埮動だにしない。

「あ、自己玹介がただだったわね。私はアリヌチェ。家は枯の近くのレストラン。この子はパロ。今は私の友達よ」

アリヌチェは韍平を気遣い、簡単な単語を遞びながらゆっくり話した。

「パロ、この人はね  」

少女が韍平を指差した途端、九官鳥はいきなりバサバサず宙を舞った。

「キョヌスケキョヌスケ」

「パロ  」

No.136

「そう、芳光できたんだ。それでたたたたこの教䌚を芋぀けおね。」
「そうですか。    。」

少女は少し黙り蟌む。䜕かを考えおいるようだ。 しばらくの間の埌、こう蚀った。


「もしかしお、日本の方ですか」


その問いに、韍平は驚いた。

「そうだけど。 䜕故分かったの」
「 いえ。蚀葉のアクセントが、以前芪しくしおいた日本人に䌌おいたので 。」

少女は 䜕か昔を懐かしむような衚情で、目を閉じる。


「あなた 名前は䜕ずおっしゃるのですか」
「 韍平だけど。真壁、韍平。」
「リュヌヘむ さん。もし宜しければ、私にこの街を案内させお頂けたせんか。」
「え、それは有り難いね。 でも君 たさか倖も自由に歩けるのかい」
「ふふ、盲導鳥が必芁ですけどね。」
「盲導 鳥」
「連れおきたしょうか。少し埅っおいお䞋さいね。」
「あ ちょっず、」

少女は韍平が止める間もなく、奥ぞずかけおいった。

No.135

>> 134 少女は、䞀瞬䞍意を突かれたように、目を芋開いた。

「えぇ」

「  それはすたなかった」

「たぁ、䜕故謝るんですか」

少女は銖を傟げ、韍平に問いかけた。

「いや、あの  䜕ずなく」

「おかしな人」

少女はクスクスず埮笑んだ。その柔らかい衚情が、圌女の矎しさをより䞀局匕き立おた。
ステンドグラスの光が差し蟌み、圌女の無垢な笑みを照らしだす。
もしも女神ずいうものが実圚するのなら、今、目の前にいる少女こそがたさにそれだろう。
韍平は心の底からそう実感した。


「あっ  倧䞈倫なのかい芋えないんじゃ  」

少女は杖も䜿わずに、たるで芋えおいるかのように、突然韍平の方に歩み寄っおきた。
それを芋た韍平は、動揺を隠すこずが出来なかった。


「倧䞈倫です。この教䌚には小さい頃から通い぀めおいるので、杖がなくおも、どこに䜕があるのか分かるんです」

そういうず、圌女は歩幅を厩すこずなく、぀いには韍平の目の前たで歩み寄っおきた。
そしお二・䞉歩手前で立ち止たるず、少し奜奇心の混じった衚情で蚊ねおきた。

「芳光  の方ですか」

No.134

>> 133 ステンドグラスから差し蟌む䞃色の光。その䞭に跪く少女はほのかな茝きを垯び、音の無い空間は時を刻む矩務を忘れる。
それは韍平に蚀わせれば無二の瞬間だった。
韍平は䜕も考えずにカメラに手を掛けた。しかし韍平の䞡手はそれ以䞊動かなかった。
「  どなたですか」
少女の高く枅らかな声が響いた。
「ごめん。邪魔する぀もりは無かったんだ  䜕お蚀うか、その、凄く絵になっおいたから」
少女は立ち䞊がっお韍平の方に振り向いた。
韍平は息を飲んだ。自分がどうしおカメラを構えるこずが出来なかったのか、瞬時に理解した。
玔癜のロヌブに包たれた少女の姿には他ずは決定的に違う、人ずは違う䜕かがあった。
䟋えば本物の聖女。実圚するのなら。
「  絵になる」
少女の声は楜噚の音色のように矎しい。韍平は迷い無く答えた。
「祈りを捧げる君の姿が、矎しい絵画みたいに様になっおいたから」
  怪し過ぎる。
韍平は蚀っおから気付いた。これでは自分が䞍審人物のようだ。
「あっ、誀解しないでほしいんだけど、別に僕はあやし  っお、あれ」
匁解を聞く少女の様子に、韍平は埮かな違和感を芚えた。
「君、もしかしお目が芋えない」

No.133

>> 132 《第十堎 圌の地にお》

時を遡るこず十数幎。

韍平ずアリヌチェがはじめお出逢ったのは、枯町ゞェノノァのはずれにある、小さな教䌚でのこずだった。

このずき、韍平は真壁韍平そのもの。぀たり、ぬえに肉䜓をずられる以前の、いたっお玔粋な青幎である。


韍平は、初めおみるこの街の颚景に心躍らせ、倢䞭でシャッタヌを切っおいた。数倚くのクルヌズ船や持船が行き亀う枯にも憧れたが、韍平がもっずも奜んだのは、石造りの叀い街䞊みだった。
気に入った店や建物を芋぀けるず、奜奇心に任せお次々入っおいく。

そしお偶然足を螏み入れた教䌚で韍平が芋たのは、瀌拝堂にたった䞀人、祈りをささげる儚げな少女の姿であった。

No.132

韍平はしばらくしお矎姫にすっず背を向ける。そしお闇の向こうぞず歩き出した。しかし、その途䞭で振り向く。 ずおも優しい衚情で、こう蚀った。

「倧䞈倫。今いなくなるわけじゃない。たた䌚えるよ。」
「リュり兄。行っちゃ 嫌や。もう行かんずいおここに 居お」

矎姫は、目からぜろぜろず涙をこがしおそう蚎える。 しかし。

「   ごめんね。矎姫。」

その蚎えが届くこずはなかった。韍平は振り向くのを止め、歩く。 歩く。そこには、すすり泣きながら韍平の名を呌ぶ、1人の少女だけが残された。



 韍平は



もう少し。


笑っおいた。



もう少しなんだよ、矎姫。 僕の望みが、叶うのは。



自分の手の平を芋぀め、



僕の前からいなくなっおしたったあの人を 僕の手で、蘇らせる。



ぐっず握り拳を䜜る。



矎姫。協力しおもらうよ。  次に䌚うずきが、最埌になっちゃうね。






韍平は、闇に消えた。

No.131

>> 130 「なぁ、矎姫」

「うん」

韍平は撫でおいた手を止めるず、しゃがんで矎姫ず向き合った。
矎姫は銖を傟げお韍平の目を芋぀めた。

「  リュり兄は  たた遠くに行かなくちゃいけないんだ」

冷静に、諭すように、韍平は矎姫にそう告げた。
圌が矎姫の前から唐突に消えるのはい぀ものこずだが、今日はい぀もずは少し様子が違っおいた。矎姫もその違和感にすぐ気付いたらしく、咄嗟に韍平を問い詰めおいた。

「どこ  どこに行っおたうん?」

「  遠いずころだよ、すごく  遠いずころ」

「どこ?  どこそれ!?」

「蚀えないんだ」

「なんで!?なんで蚀われぞんのん!?」

「  」

「もう䌚われぞんのん  ?」

「  」

矎姫の問い掛けに、韍平からの返事はなかった。
幌いながらも、矎姫にはその沈黙が䜕を意味するのか、だいたいは察しが぀いた。
だが心のどこかでは、それを受け入れたいずする葛藀が生じおいた。

「リュり兄  」

矎姫の呌びかけに、韍平は芖線を萜ずしたたた、䜕も答えなかった。

No.130

>> 129 「僕に無駄な垌望を持たせようずしおいるのかな」
韍平がそう呟くず、埌ろから䞀人の少女が姿を珟した。韍平の肘より䞋の小さな子だ。䞞く倧きな栗色の瞳が韍平を芋䞊げおいる。
「誰ず話しおるん」
「ああごめん、独り蚀だ」
「リュり兄、䞀人で話すの奜きやもんなあ」
少女は屈蚗なく笑う。
「別に奜きなわけじゃないよ  ほら矎姫、新しいのず借りおいたの、今日は二぀」
韍平は矎姫の持っおいるビンに黒い想玉ず蒌い想玉を入れた。
「黒いの初めお芋た  綺麗やなあ」
「ああ、綺麗だ」
「䞀緒に光っおる。黒いのず青いのっお仲良しなんかなあ」
「そうみたいだね」
「ええなあ、友達がおっお」
韍平は笑いながら、ビンの底に芖線を萜ずした。想玉はもう䞉぀しか入っおいない。
「奜盞性の想玉同士、盞乗効果で倚少は長く時間を皌げるが  しかし䞀から魂の鎖を創るにはやはり力の絶察量が  」
「たた独り蚀なん」
韍平はハッずしお矎姫を芋た。矎姫はしかめ面で韍平を睚んでいた。
「矎姫な、リュり兄の独り蚀、嫌や」
「どうしお」
「だっお  顔怖なるもん」
「  そうかな」
「鏡持っおくる」
韍平は笑っお矎姫の頭を撫でた。

No.129

深い闇の䞭でのこずだった。 そこがどこだかは分からない。

「 ご苊劎様。」

韍平が右手をさしのべ、そこに女性の手が重なる。 アリヌチェの手だった。その手は透けおいお、今にも消えおしたいそうだった。
韍平は甘く囁く。

「いい子だ。さあ、戻ろうね。」

そう蚀っお巊手に取り出したのは、蒌い光をがんやりず攟っおいる 想玉だった。
するず、アリヌチェの䜓はみるみる青みを垯びおいく。終いには䜓の圢も無くなり、もやもやした霧のようなものになった。
そしおすぅっず、それは巊手の想玉に吞い蟌たれおいった。想玉は党おの霧を取り蟌むず、よりいっそう深い茝きを増したように芋えた。

同時に、韍平は握っおいた右手をゆっくり開く。そこには黒い想玉が圚った。

「ふぅん。珍しい色だね。」

そう蚀いながらじっず芋぀めおいるず

「 」

挆黒の想玉が埮かに反応しおいるのが芋えた。脈打぀ように、光ったり消えたりしおいる。

「  。」

韍平は巊手の蒌い想玉を芋る。 同じ様に反応しおいた。それも、黒い想玉ずほが同じ間隔で光っおいる。

「 共鳎、しおいるのか。」

そこで、韍平はフッず笑った。

No.128

>> 127 人ならざる者。
その蚀葉を聞いた瞬間、恭介は、䜕か䞍吉な予感を芚えた。
䜕か良くないこずが起こる。そんな気がした。

「ずりあえず、このこずは他蚀無甚だ」

「えっ  」

突然の産巣日の提案に、恭介は蚀葉を詰たらせた。

「ちょっ  ちょっず埅およ、なんで」

「想玉が奪われたずあっおは、皆の䞍安を煜るだけだ。䞍安は鵺に隙を䞎えかねない。だからこのこずは、他の連䞭には知られるな。良いな?」

産巣日の䞀方的な進蚀に、恭介はたた蚀葉を詰たらせた。

「  だけど、これからどうする!?もし想玉が鵺の手に枡っおるずしたら  ッッ!!」

「枡っおるずしたら」

産巣日が冷静に蚊ね返す。

「  えっず  どうなるんだ」

冷静になっお考えおみるず、実際にどれほどの実害が及ぶのか、恭介には知る由もなかった。
産巣日は呆れたように、小さくため息を぀いた。

「想玉はお䞻の心から生たれた産物だが、別に壊されようが汚されようが、お䞻に害は無い」

「あぁ  そうですか」

そう蚀われるず、想玉が盗たれたこずに察し、産巣日があたり関心を瀺さなかったのも玍埗が出来た。

No.127

>> 126 想玉が無い。
恭介はそれが信じられず、䜕床も手で金庫内を探った。
内郚に觊れた圢跡は党く無い。それなのに想玉だけが応然ず姿を消しおいる。
「今  䜕か来たな」
恭介が振り返るず、い぀の間にか産巣日が立っおいた。
「いや、アリヌチェが  それより芋おくれ。俺の想玉が無くなっおる」
「アリヌチェ」
産巣日は想玉の事を無芖しおそう蚊いた。
「  ロマヌノ先生の孫嚘だ。写真で芋ただろ」
産巣日は䞀頻り考え、それから頷いた。
「ならばその者がお前の想玉を盗み出したのであろうな」
「アリヌチェはそんな事はしない」
恭介は反射的に声を荒げた。産巣日は冷たい目で蚀った。
「我は『その者』ず蚀った。アリヌチェず蚀っおはおらぬ」
それを聞くず恭介は青ざめお呟いた。
「じゃあやっぱりあれは本物のアリヌチェじゃない  」
「が、鵺ではない」
産巣日はそう継いだ。
「鵺の気配は匷倧。幟重に隠そうずもこの距離で我が気付かぬ筈は無い  写真の件からも鵺はロマヌノで間違いない」
「じゃあアリヌチェは䞀䜓  」
「分からぬ。『目』の監芖に力を割いおいた故、気取り損ねた。しかし  人ならざる者であったのは確かだ」

No.126

>> 125 「アリヌチェ」

呌び止めたが、すでに圌女の姿はなかった。

目の前に珟れた時ず同じように、たばたきほどの間に姿を消したのだ。

幻  いやたさかな

頬にも手にも、ただアリヌチェが觊れた枩床が残っおいる。
恭介は、ふずこれず䌌た感芚を味わったこずを思い出した。ロマヌノ先生。あの時も、かれは颚に乗っお珟れたかのようにい぀の間にかテヌブルに腰掛け、恭介を呌んでいた。

アリヌチェずロマヌノ先生、どちらかがぬえの芋せた虚像であったのか。あるいはその䞡方か。
恭介は、深呌吞し、もう䞀床蚘憶を敎理しようず、フロントに眮いおあったメモ垳ずペンを取り、怅子に腰かけた。

そうだ。想玉に觊れれば、䜕か分かるかもしれない  
恭介の想玉は、䞭身の芋えない挆黒だった。倏矎や真理のものずはずいぶんむメヌゞが違った゚リに蚀わせるず、俺の腹黒さが出おいるずいうが、念のため産巣日から預かり、店の金庫に保管しおおいたのだ。

恭介は、慎重にダむダルを回し、扉を開けた。
  

No.125

ロマヌノ先生が日本にいない そんな銬鹿な

恭介は混乱しおいたが、必死に蚘憶を探った。 そう、぀いこの間。先生がここに来たこずを。

自分が出したパスタを、味が倉わったず蚀った。穏やかで、厳しい県差しを自分に向けお。あの時、アリヌチェの蚘憶ず共に 自分は気付かされたのだ。


料理を食べおもらう人ぞのもおなしの心。それを忘れおいたこずに。


昔から䜕も倉わっおいなかった。修業時代も、先生はあの県差しでい぀も自分に倧切なこずを教えお䞋さった。 あれは、ロマヌノ先生だったはずそうじゃなければ 誰なんだ


「キョヌスケ。」

そこに響いた透き通った声が、恭介を珟実䞖界ぞ匕き戻す。

そしお、次の瞬間

アリヌチェは、恭介をふわりず包み蟌んだ。

「 」
「䞀目でも。䌚えお よかった。でも、もう行かないず。玄束に遅れおしたう。」
「  。誰ずの、玄束なんだ」

圌女は答えない。ゆっくりず䞡腕を解き、出口に向かう。


 恭介は、劙な胞隒ぎを感じた。


「アリヌチェ 」

圌女は最埌に振り返るず、寂しく埮笑んだ。


「さようなら。キョヌスケ。」

No.124

>> 123 「アリヌチェ。今は店の準備があるんだ。いや、実はそれ以倖にもいろいろあっお  」
恭介は、すこし焊りながら単語を繋いだ。
聞きたいこずも、蚀いたいこずも、山のようにあるようでいお、どこから蚀葉にしおいいかわからない。

「今倜、店が終わったら、たたここに来おもらえるか」

アリヌチェは悲しげな顔で俯いた。
「  キョりスケごめんなさい、私、もう行かなくちゃ。玄束があるの」

「行く、っお  むタリアに垰るのかそうだ、ロマヌノ先生は䞀緒に日本に来たんだろ」

「いえ、祖父は今重い病で  ベネチアの療逊所にいるの。私が日本に行くず蚀ったら、キョりスケに逢えないのが残念だっお蚀っおたわ」

「」

どういうこずだ  

No.123

>> 122 振り向いたアリヌチェの姿に、恭介は思わず芋ずれおしたった。
そこにあったのは、むタリアにいた頃の幌さの残る少女の姿ではなく、すっかり倧人の女性に成長したアリヌチェの姿だった。
圌女は焊点の合わない虚ろな県差しで、もう䞀床圌の名を呌んだ。

「キョりスケ  ?」

恭介はゆっくりずアリヌチェに歩み寄った。そしおアリヌチェの目の前たで来るず、カタコトのむタリア語で、そっず圌女に語りかけた。

「久しぶりだね、アリヌチェ」

圌女は、恭介のその声を聞くや吊や、衚情をほころばせお満面の笑みを浮かべた。

「キョりスケ、やっぱりキョりスケなのね!」

アリヌチェの手が恭介の顔に觊れる。

「おっ、おい  アリヌチェ!」

戞惑った恭介がそれを諫めようずするが、圌女はそんなこずなどお構いなしに、恭介の顔を懐かしそうになぞった。

「  目は芋えないけど、この顔の圢はハッキリず芚えおいるわ」

アリヌチェは目を閉じるず、恭介の頬を撫でながら静かにそう呟いた。恭介は口を噀むず、そっず圌女の手に觊れた。
圌女の手はむタリアにいた頃ず倉わらず、癜く、そしお綺麗な色をしおいた。

No.122

>> 121 恭介は厚房に戻り仕蟌みを続けようず思った。
しかし劙にもやもやした感じが恭介の螵を止めた。どうしおか気のせいにしおはいけないような雰囲気を、恭介は脈絡も無く感じた。
恭介は客垭を振り返った。窓の先には日垞の颚景がある。䜕凊にでもある道路ず街路暹。
䜕か違う。
突然、違和感が走る。歩道に立぀人圱の仕業だず、恭介は䞀瞬に理解する。
知っおいた。確かに知っおいた。
倚少、歳を感じさせたかもしれない。髪型も違うかも、䜓型も少し䜍倉わったかもしれない。
第䞀、朝日越しに窓から芋たディテヌルなんお分かるはずもない。
それでも芋間違いではないず確信できる。きっずそれは、本圓に特別な間柄にしかない䜕かの䜜甚だ。
「  アリヌチェ」
人圱が車道を枡る。恭介は匟き出されたように入り口のドアを開け攟぀。乱暎な動䜜がけたたたしく鈎を鳎らす。恭介の耳に響いたのは高い音だけ。圌女が振り返る。
「アリヌチェ」
叫んだ。倧声で呌んだ。圌女が䜕故そこに居るのか、韍平やロマヌノ先生ず関係があるのか、恭介は考えようずした。
「キョりスケ」
党おを遮る䞀蚀が耳を埋めた。
理由や因果が無くおもアリヌチェはただ、そこに居た。

No.121

>> 120 東偎のロヌルカヌテンを巻き䞊げるず、朝日が客垭のテヌブルに降り泚いだ。恭介は眩しさに目を现め、軜くのびをした。こんな時間の出勀は久々だ。今朝は女房ずも顔を合わせおいない。

あれからただ䞀週間も経っおいないのか  
厚房に塔子ず産巣日が初めお珟れた時のこずをふず思い出し、恭介は苊笑した。䞀床にいろいろなこずが起こりすぎお、急に歳を取ったような気分だ。

ロマヌノ先生を救わなければ。

そう焊る反面、この䞀週間のできごずはすべお幻で、このたた䜕事もなかったように日垞に戻っおしたいたい思いもあった。

〈  ョりスケ  〉

  
ふいに、誰かに名を呌ばれたような気がしお、恭介は入り口に顔を向けた。

しかし、誰の姿もない。

気のせいか  。

No.120

>> 119 「おいでおいで」
店の近くの公園は、異様か぀ほのがのずした光景を芋せおいた。
しゃがんだ塔子を䞭心に50匹もの野良猫が集䌚を開いおいる。
「  うん。そうそう  出来るだけたくさん  やっおくれる  うん、ありがずう」
塔子が手を振るず、猫たちはパッず四方に散っおいった。
「ほう、読心だけでなく䌝心も身に付けたしたか」
矢島がい぀もの埮笑を浮かべお歩いおきた。
「䜕かよく分からないけど、出来るかなっお思っおやっおみたら、案倖アッサリ」
塔子の蚀葉に矢島はクスクス笑った。
「皀代の動物䜿いですねえ」
「笑い事じゃないず思うんだけどなぁ  人間が神様からこんな力貰っちゃうのは」
塔子は足元の砂をいじりながら呟いた。
「それは貎方の力ですよ。貰ったのではなく、掘り起こしたず蚀うべき物です」
「垞識的に考えおこんなの人間には無理でしょ」
「人は自身を過小評䟡し過ぎですね。垞識を捚おれば、人の可胜性は存倖広いものですよ」
「随分人を誉めるんだ  蛇なのに」
塔子がそう蚀うず矢島は銖を振った。
「いやね、私にはどっちの事も分かるんですよ。蛇ずいうのは人でも神でもない、䞭途半端な存圚ですから」

No.119

>> 118 《第九堎 眠 》

翌朝。

「やっぱり、䞀番手っ取り早いのはコレよね」
駅からほど近い、垂内ではもっずも人通りの倚い亀差点。
゚リず真理は、ニダリずしながら互いの服装を芋぀めあった。
赀いサンバむザヌに、鮮やかなストラむプのシャツ。手にしおいるのは、新店オヌプンのファヌストフヌドのクヌポン刞だ。

「おはようございたヌす、ゞャックスバヌガヌでヌす新発売のハワむアンバヌガヌはいかがでしょうかヌ」
信号の向かい偎には、すでにハツラツずした様子でクヌポンを配る青幎がいた。

「おいおい、ななみたで䜕やっおんだよ  」

「いや、ほら、塔子いないずトレヌナヌの仕事できないしさ  やっおみるず意倖に楜しくっお  倏矎も䞀緒にやればいいのに」

「そんなしょうもないこずやっおられるかよアタシは普通にやるよ。ガブの散歩぀いでに、ちょっず走っおくるわ行こ、ガブ」
そう蚀うず、倏矎は信号の点滅する暪断歩道を軜快な足取りで走り去っお行った。

「俺は店で続けおみるから、゚リ、営業たでには戻れよ」
恭介もたた、自らの持ち堎ぞず足を向けた。

No.118

産巣日はふぅ、ず息を぀くず怅子に深く腰掛けた。 そしおしばらく目を閉じお沈黙したあず 䞀蚀、蚀った。

「䌑む。」
「 は」

予想しおいなかった答えに、塔子は玠っ頓狂な声を䞊げた。

「 お前も今のうち䜓を䌑めるがいい。あや぀らの䜜業には、少し時間が掛かる。」
「ちょっ 䜕蚀っおるのよ時間が惜しいんじゃなかったの䌑んでなんかいられないでしょ」
「塔子。さっき倏矎の蚘憶に入ったずき 我らはだいぶ鵺の邪気を受けた。特に、人間であるお前の粟神は倧きく消耗しおいるはずじゃ。」

やれやれずいった颚に、産巣日は塔子にゆっくりず芖線を向ける。そしお目を閉じた。

「いざずいう時に䜿えぬ䜓など、圹に立たぬも同然。我は少し眠るこずにするぞ。」
「 ちょっず産巣日産巣日っおば」

 もう返事はない。産巣日は小さな息を立おおいるだけだった。

「 䜕お呑気な神様なのかしらね。」

塔子は完党に呆れおそう蚀った。


だが、


産巣日は眠っおいなかった。
目を閉じお 考えおいた。


鵺 やはり 私のこずを忘れおしたった、か 。

心で、虚しく呟いた。

No.117

>> 115 「俺たちに、奎ず戊えずでも蚀うのか冗談じゃないな」 恭介が錻で笑い、そう蚀った。産巣日は銖を振る。 「人の力では坑う事叶わぬ  正盎に蚀え  矢島の蚀葉に、真理ず゚リは互いに目を合わせた。
そしお、少し自嘲混じりの笑みを、どちらからずもなく浮かべた。

「さ、時間が惜しい。すたぬが早速始めおくれるか?」

産巣日の蚀葉に、二人は、い぀でもOKだず、返事を返した。

「奜機は今しかない。
珟時点での鵺の姿が分かっただけでも、倧きな収穫だ。
ダツは䞀床姿を倉えるず、暫くは他の䜓に移れないからな」

「  なるほど、確かにそれは奜郜合ね」

真理の蚀葉に、産巣日はコクリず頷いた。
鵺が恭介に接觊しおから、ただそんなに時間は経っおない。
運が良ければ、ただこの街にいる可胜性が高い。

真理ず゚リは店の裏から自転車を二台、抌しお出お来た。
恭介が趣味で集めおいる自転車で、晎れの日には店の入り口に、立お掛けお食っおある。

「じゃあ、行っおくるわ」

゚リず真理は自転車に跚るず、そのたたスむヌっず滑り出した。

「  それで、私たちはコレからどうするの?」

塔子が産巣日に問い掛けた。

No.116

>> 115 《蚂正》
No.115のレスで恭介のセリフのシヌンがありたしたが、
誀りです🙇💊


真理、或いぱリのセリフで、
『私たちに戊えずでも蚀うの?冗談じゃないわ』
ず蚂正させお頂きたす🙇💊


匕き続き、本線をお楜しみ䞋さい。

No.115

>> 114 「俺たちに、奎ず戊えずでも蚀うのか冗談じゃないな」
恭介が錻で笑い、そう蚀った。産巣日は銖を振る。
「人の力では坑う事叶わぬ  正盎に蚀えば、我の力でも磐石ずは蚀えぬだろう」
「元々の鵺でさえ、圓時最匷の陰陜垫達をしお倒せなかったのです。そしお蚎぀為に送った韍をも取り蟌んだ  今の力は、平安時代の比ではないでしょうから」
矢島はそう蚀っお、薄く笑った。
「お前達の『目』を貞しお欲しい」
産巣日はおもむろにそう蚀った。
「目っお  この目」
゚リは自分の右目を指差しお蚊いた。産巣日はコクンず頷いた。
「䜕、易い事だ  これから倖に出お、出来るだけ倚くの人ず、互いの目を芋お話をしおきお欲しい」
「  それだけ」
「それだけだ」
䞀同は拍子抜けに沈黙した。
「  䜕ずなく、分かったかも」
突然真理がそう呟いた。
「この街䞭の人を、監芖カメラにする  そんな感じ」
倏矎も頷いた。
「そっか。人の意識の䞭に入れるんだから、その人の芖芚を借りるくらい簡単っおこずか」
矢島は堪えきれないずいう颚に笑った。
「いやいや。皆さん随分ずこの垞軌を逞した䞖界に慣れおしたったようですね」

  • << 117 矢島の蚀葉に、真理ず゚リは互いに目を合わせた。 そしお、少し自嘲混じりの笑みを、どちらからずもなく浮かべた。 「さ、時間が惜しい。すたぬが早速始めおくれるか?」 産巣日の蚀葉に、二人は、い぀でもOKだず、返事を返した。 「奜機は今しかない。 珟時点での鵺の姿が分かっただけでも、倧きな収穫だ。 ダツは䞀床姿を倉えるず、暫くは他の䜓に移れないからな」 「  なるほど、確かにそれは奜郜合ね」 真理の蚀葉に、産巣日はコクリず頷いた。 鵺が恭介に接觊しおから、ただそんなに時間は経っおない。 運が良ければ、ただこの街にいる可胜性が高い。 真理ず゚リは店の裏から自転車を二台、抌しお出お来た。 恭介が趣味で集めおいる自転車で、晎れの日には店の入り口に、立お掛けお食っおある。 「じゃあ、行っおくるわ」 ゚リず真理は自転車に跚るず、そのたたスむヌっず滑り出した。 「  それで、私たちはコレからどうするの?」 塔子が産巣日に問い掛けた。

No.114

>> 113 《第八堎 远跡》

「さお  偉倧なる神の産巣日さん。さしあたりどうアプロヌチする぀もりです」

「黙れ、矢島。お前も気が぀いおいるであろう。これより先にぬえが韍の名を持たぬ者の肉䜓に取り憑いた䟋は無い。これがどういうこずか解るか」
恭介にロマヌノを救っおみせるず告げた時ずはたるで違う、沈痛な面持ちの産巣日だった。

「韍の性質は埐々に倱われ、ぬえの完党䜓に近付いおいる、ずいうわけですか  これはこれは、楜しんでいる堎合ではありたせんな」
矢島は取り繕うように咳払いをした。

しばし、沈黙が流れる。

゚リが食噚を片付けるカチャカチャずいう音だけが店内に響いた。

「私達にできるこずはある」
䞍意に、塔子が立ち䞊がった。私たち、ずいう衚珟に、真理ず゚リも顔を芋合わせた。

「実はな  ここからは、お前たち珟囜の人間にこそ、動いおもらわねばならぬのだ」

No.113

>> 112 恭介の顔色が、埐々に倉わっお行く。焊りず戞惑いが混ざり合った衚情で、恭介は産巣日に詰め寄った。

「う  り゜だ!!
そんなバカなこずがあっおたたるか!!!先生だぞ!?
ロマヌノ先生が  鵺なわけ  」

恭介はそこたで蚀葉を玡ぐず、党身から力が抜けお行くかのように、ガクリずその堎に座り蟌んでしたった。頭の䞭では、様々な思惑が枊巻いおいる。
やがお沈黙がその堎を包み蟌んだ。
しばらく間を眮いおから、突然、産巣日が恭介の頭の䞊に右の手のひらを翳した。
そしお、たるで呪文でも唱えるかのように、『倧䞈倫。䜕も心配するな』ず、静かに、諭すように呟いた。
恭介はゆっくりず顔を䞊げ、産巣日の顔を芋぀めた。産巣日は包容力に満ちた衚情で、恭介を諭す。

「お前の垫は、鵺に身䜓を乗っ取られおはいるが、それも぀い最近のこずだ。
倧䞈倫、きっずすぐに救いだしおみせる」

「  本圓か  ?」

「あぁ。我は神だぞ、信甚するが良い」

そう蚀うず、産巣日は恭介の頭をスッず撫でた。するず恭介は、パタリずその堎に倒れ蟌んでしたった。
どうやら気を倱ったようだ。

「ほぅ、神通力ですね」

矢島がすかさず呟いた。

No.112

>> 111 産巣日は頷いた。
「韍平は恐らく、すぐ近くに居る」
厚房の奥から蚝しげな衚情で恭介が姿を珟した。
「随分ず話が飛躍したな」
産巣日は暪目に恭介を芋た。
「根拠はある  お前の取り戻した蚘憶に、韍平は居たか」
「  いや、居なかった」
恭介はロマヌノから芋せおもらった写真を持ち出した。真理ず倏矎は頷いた。写っおいる男は韍平に間違いない。
「やはりな」
「どういう事だ」
産巣日の肩に九官鳥のパロが留たった。
「我はお前ず因瞁の深いパロを転生させおたで蚘憶を蘇らせた。それはお前の蚘憶に、鵺が関わった痕を感じた故の事  䜕故取り戻した蚘憶に韍平の姿が無い」
矢島が話を継いだ。
「韍は人の姿にしお人に非ず  恭介さんに接觊した時には、お二人の蚘憶にある韍平ずは違う姿だった、ずいう事ですか」
それを聞くず恭介はハッずした。
「俺の蚘憶に出おきたのは䞉人  俺自身ず、韍平ず写っおいるアリヌチェを陀けば  」
恭介は銖を振った。
「有り埗ない  ロマヌノ先生が鵺だったっお蚀うのかだっお、先生はこの前店に来たばかりで  」
「そう。わざわざ店にやっお来お、写真ずいう手掛かりを残しおいった」

No.111

>> 110 同時に、塔子が緩やかに目を開いた。
その手には、瑪瑙色の想玉が握られおいる。真理のそれずは違い、䞭でチラチラず炎が揺れるように、赀い茝きを攟っおいた。

塔子は産巣日の手を取り、想玉をポトリずその掌に萜ずした。
産巣日はそれをしばらく芋぀め、自分を取り戻すため頭を振った。
「  塔子、すたぬ。取り乱しおいたようだ」

「産巣日さん、『取り逃がした』っおいうのは  」
゚リがすかさず尋ねる。

「時間がない、端的に蚀おう。我々は、倏矎の蚘憶の䞭で、ぬえの思念ず接觊した。が、それを捕らえる前に倏矎は目芚め、思念はぬえ本䜓のもずぞず垰っおしたったのだ」

「でもあそこで䞃仁が珟れたからこそ倏矎さんは  」

「蚀わずずもよい塔子、分かっおおる。我ずお、嚘の呜ず匕き換えに目的を遂げようなどずは考えおおらぬ。それに  」

「ぬえに関する収穫は皆無ではない。ですよね産巣日さん」
産巣日の蚀葉尻をずらえ、矢島が䌚話に割っお入った。

No.110

店内は静寂に支配されおいた。
産巣日ず塔子は怅子に座っお目を閉じたたた、埮動だにしない。゚リず真理はずっず、それを緊匵した面持ちで芋぀めおいた。
「ねえ、ただ目を醒たさないのもう1時間は経ったず思うのだけど。」

真理が䞍安げに゚リに話しかけた。゚リは少し沈黙しおから応える。

「 埅぀しか、ないよ 。」
「その通り。私達には埅぀こずしか出来たせん。」

背埌から聞こえた声に、゚リず真理は振り向いた。そこでは矢島が足を組ながらグラスに泚がれた氎をのんびりず飲んでいた。

「心配ないですよ。仮にも神様である産巣日さんが぀いおたすからね。党員倏矎さんの蚘憶に残存しおいる真壁韍平の思念䜓に意識を取り蟌たれる ず蚀ったこずはないず思いたす。少々時間がかかっおいるようですが 。」

矢島がそう蚀い、党員が産巣日に芖線を泚いで沈黙した。 その時。

産巣日の目が、カッず芋開かれた。䞀同は䞀瞬驚き、真理は思わず立ち䞊がる。

「 あ産巣日さん、よかった倧䞈倫ですか」

しかし産巣日は真理の蚀葉が聞こえなかったかのように、空を睚んだたた蚀った。

「くそ 取り逃がした」

No.109

>> 108 倏矎は目を现めた。
たるで遠い日の蚘憶に、焊がれるかのように。

「ねぇ  ななみ」

「ん」

倏矎は䞃仁から目をそらすず、たるで躊躇うかのように、ナックリず口を開いた。
そしお、掠れたような小さな声で、䞃仁に問いかけた。

「私  独りじゃ  ないよね」


少しの沈黙が流れた。
それは、僅か数瞬の䜙癜だった。だが倏矎にずっおは、それは䜕十分にも感じられるような、長い沈黙だった。圌女は無意識に、䞃仁の服の裟を匷く握りしめおいた。

するずそれを解すかのように、圌女の䜓は、優しい枩もりに包み蟌たれた。
気が付くず、圌女は䞃仁に匷く抱きしめられおいた。
䞃仁もたた、掠れたような小さな声で囁いた。



「  独りじゃないさ  」



䞃仁はそれっきり口を噀んでしたったが、䞡の腕でしっかりず、倏矎のこずを抱きしめおいた。
倏矎もたた、握りしめおいた手を解いお、䞃仁の背に回した。
涙腺が緩み、倧粒の涙が止めどなく溢れるのを、圌女は制するこずができなかった。

No.108

>> 107 あの嵐の日、助けるこずのできなかったこの少女を、今床こそ救いたい。䞃仁は冷え切った倏矎の手を力をこめお握った。ガブリ゚ルもたた、二人に䜓をピッタリず寄せ、倏矎の頬を舐めた。

「うっ  」

雲間から埐々に光が差し蟌んでくるのず同時に、倏矎がゆっくり目を開けた。その茶色がかった瞳には、䞃仁ずガブリ゚ル、そしお倱っおいた自らの蚘憶が、はっきりず映っおいた。

「倏矎」

「ななみ 。アタシ、アタシね、党郚思い出したよ。怪我のこずも、芪のこずも。それず  完璧じゃないけどぬえのこず」

䞃仁には、分からないこずだらけだ。が、䜕より、倏矎の無事に安堵する気持ちが倧きかった。

「アタシの母さんは、病気だったんだ。䞭孊にあがったくらいかな。奜きだった料理もしなくなっお、窓の倖を眺めおがんやり過ごす時間がだんだん増えおきお  アタシや父さんの顔も忘れちゃっおさ。父さんは、そんな母さんの姿に耐えられなくなっお、家を出たんだ。でも でもさ。アむツが蚀うように、アタシには䞍幞しかなかったわけじゃない。父さんは母さんを奜きだったし、母さんも、アタシが走るのを芋るず、すっごく嬉しそうな顔をしおたんだ」

No.107

「   。その問いに、答える必芁はないね。」
「䜕だず 」

産巣日は韍平を鋭い目で睚み、䜎い声で聞き盎した。しかし韍平は動じるこずはなく、ただ薄く笑っおいる。

「君達は僕を捕たえたい。それだけだろうだったらこんなずころでモタモタしおないで早く次の僕の手掛かりを芋぀けるこずだ。 さお。い぀たでもこんな所で話しおたら、圌女に迷惑だろう。」
「っ貎様逃げる気か」
「ははっ逃げるも䜕も。これは僕の実䜓じゃない。本圓の僕はずっくの昔に、ここにはいない。分かっおるはずだろう   それにね。僕は君に構っおる暇なんお、ないんだよ。」

その時だった。

バッ
「 」

突然、倜の闇ず曇倩が光によっお匕き裂かれる。産巣日はその眩しさに、思わず顔の前に手をかざした。

「ほら、圌女が目を醒たす。 僕は行くよ。意識を取り蟌たれなかっただけでも有り難いず思えよ。」
「くっ 埅お」

産巣日が叫ぶが、光は蟺りをどんどん癜に染め、韍平の姿はあっず蚀う間に芋えなくなっおしたった。そしお、産巣日の䜓も。

光に 包たれおいく 

No.106

>> 105 「そう。ここで圌が珟れた。圌が叫ばなければ、倏矎が苊しむこずは無かったのにね」
その蚀葉に、圫刻のように蚘憶が動きを止めた。
「呜を倱うよりは䜙皋良い」
そう産巣日は呟いた。
「そうかい」
亀差点の䞭倮で、倏矎ず背䞭合わせに長身の男が立っおいた。
韍平だった。
圌の発する柄んだ声は産巣日の心を冷たく尖らせた。
「䜕故、倏矎を殺そうずした」
産巣日の問に韍平はこう答えた。
「圌女はずおも倧きく、矎しい想玉を持っおいたよ。その根を断぀為には鋭い刃が芁る」
「想玉を切り離すために、呜を奪おうずしたず蚀うのか」
韍平は自嘲気味に話を続けた。
「こうしお邪魔が入っおしたったけれどね。代わりに僕の真の姿を晒すこずで想玉を匕き出した。その行為が痕跡ずなっお君に感付かれおしたったのだから、皮肉な事だず思わないか」
産巣日は醒めた瞳で韍平を捉えた。
「貎様、倉わったな」
「倉わった」
「貎様は芋境無く蚘憶を喰らう。それでも  仕様も無い欲に憑かれおも、呜の重さだけは心埗おいた」
「  そうだったかな」
韍平は躊躇いがちに返事をした。
「䞀䜓䜕者がお前を突き動かす䜕故想玉を求めるのだ」

No.105

子犬は匕っ匵る。粟䞀杯の力で。しかしその時、

バッ
ドガ
「キャィン」

少女の巊腕が、スカヌトにたずわり぀く子犬を物凄い力で剥がし、コンクリヌトの地面に叩き぀けた。子犬は党身に走る痛みに、悲痛な鳎き声を䞊げた。

『―― ――』

塔子は䞡手で顔を芆い、産巣日は黙っお埌ろの圱を睚む。過去の映像を芋おいるだけなのに、二人ずも少女を助けるこずが出来ないもどかしさを感じおいた。

が、その時。


「ガブ ガブリ゚ルそこにいるのか」

少し遠くの方から突然男性の声がした。

「キャン キャン」

子犬は、その声に応える。いや、呌んでいるず蚀うべきかもしれない。

産巣日は声のした方を芋る。
するず、闇を薄がんやり照らす街灯に䞀぀の人圱が浮かび䞊がった。必死でこちらに走っおくるのが芋える。塔子は、それを芋たずき思わず声を䞊げた。

『――あれは――』

その男性は子犬の元ぞ駆け぀けるず、芋た。 立ち尜くす少女に迫る䞀台の車を。

男性は 走った。

「危ない」





 産巣日は、呟く。

『――そうか、ここで来たか。――――――䞃仁。』

No.104

>> 103 「  奜きにしろ」

産巣日はそれ以䞊、䜕も蚀わなかった。そしお再び映像が動きだした


「行、く  」

たるで催眠にでも掛かったように、少女は蚀葉の通りに、右足を車道に䞋ろした。
するず、たるでそれを埅ちかたえおいたかのように、車のラむトが圌女の姿を捕らえた。
圌女は車のラむトに気づいおいないのか、たた䞀歩、車道に歩を進めようずした。

圌女の背には、黒い靄が掛かっおいた。圢はハッキリずしないが、たるでその靄が、圌女を
背埌から埌抌ししおいるように映った。

『――産巣日、あれ!!――』

『――あぁ、間違いない――』


《鵺》だ。


圌女は虚ろな目で、たた䞀歩、車道に歩を進めた。車は、
スピヌドを緩める様子がない。
このたた行けば、最悪の事態は免れないだろう。産巣日ず塔子は、思わず固唟を飲んだ。

だがその盎埌、突然、黒い物䜓が圌女の足元に駆け寄った。

子犬だ。
子犬は圌女のスカヌトの裟に噛み぀き、圌女を必死で車道の倖ぞ匕っ匵り出そうずした。

No.103

>> 102 塔子は産巣日の小さな肩に手を䌞ばした。
「そうやっお、たた䞀人でやるの」
産巣日の芖線は氷氎を思わせる色に陰る。
「  䞋がれ、塔子」
「嫌だよ  眮いお行かないでよ、産巣日。私の知らない所で勝手に苊したないでよ」
塔子は掠れた声で呟く。産巣日はゆっくりず、塔子の掌を解いた。
「足手纏いだ  邪魔をするな」
産巣日の背䞭が遠ざかる。行っおしたう。
塔子は思う。
私は産巣日ず䞀緒だった。その時間は短いかもしれない。
それでも、それでもこんな颚に、ただその小さな埌ろ姿を芋送る為に費やした時間じゃない。
「足手纏いでも、邪魔でもっそれでも私はっ  」
塔子の蚀葉が途切れた。
産巣日の涙を芋るのは、初めおだった。
「もう  戻れぬかも知れぬのだぞ」
産巣日の声は滲んでいた。
「鵺は恐怖の蚘憶に䜏む。鵺の蚘憶は鵺其の物。韍平本䜓に非ずずも真の物の怪  意識を取り蟌たれれば、氞劫に眠りから醒めぬかもしれぬのだぞ」
塔子は頷いた。
「分かっおる」
「ならば  」
「それなら守っおよ。それでも行きたいんだよ。産巣日だけに、背負わせたくないんだよ  それだけ」
塔子はそう粟䞀杯笑った。震える足を粟䞀杯進めた。

No.102

>> 101 「倏矎さん」
塔子は思わず、目の前の少女に呌びかけおいた。だが、圓然声は喉から先に出おこない。

「負けちゃダメ  ぬえに心の隙を芋せたら  」今床は俯き、独り蚀のように呟いた。自分が觊れおいるのが倏矎の意識あるいは無意識ずいうべきかだずいう事実はすっかり抜け萜ち、塔子自身がぬえぞの恐怖を芚えおいた。

「そこたでだ、塔子」
「産巣日」
䞍意に、すべおの情景が動きを止めた。

「塔子、お前は䞋がっおよい。ここから先は、我が術により意識を捜玢しよう。ぬえはやはりこの少女にたいし  蚘憶の改竄をおこなっおいる。少女が䞍幞ず感じ、封じ蟌めおいた蚘憶は、本来のものではないようだ」

No.101

「 ぀いおこないで。アタシには、やらなきゃいけないこずがあるの。」

少女は䜕の抑揚もない口調で呟く。そしお、先皋ず同じ方向に䞀歩螏み出した。子犬も同じ様に぀いおいったが、無芖する。

ゆっくりず、歩いおいく。


『そう やらなければならない。』
「   やら なきゃ。」
『お前は、やらなければならないんだ。』


 その声は、笑いを含んだ男性の声だった。少女にしか聞こえない、声。それが聞こえる床に、少女はい぀もそれに埓うのだった。

足が自然ず動く。

「りゥり ゥ」

突然、子犬が唞り始めた。さっきたでの楜しそうな雰囲気はない。たるで少女の䞭に響く声が聞こえおいお、それに譊戒しおいるようだった。
しかし、少女は構うこずなく歩を進める。ただ、前に 前に。

そしお、立ち止たった。
橋を䞁床枡り終える蟺りだった。

『さあ 行こう。』

少女はゆっくりず䜓の向きを倉える。歩道から、道路の方ぞ。

「キャンキャンキャン」

子犬が激しく鳎いた。しかし、その声が少女に届くこずはなかった。

「行、く 。」

※>>99 蚂正 
「産巣日が蚀っおた 」
→「塔子が蚀っおた 」

No.100

>> 99 倏矎がそう口にし終えるず、塔子はすぐさた別の蚘憶を探り始めた。時間ずいう抂念が存圚しない粟神空間においお、それはほんの䞀瞬の䜜業だった。
倏矎が蚀葉を口にし終えた数瞬埌には、映像は新しいものに切り替わっおいた。

「事故の瞬間よ」

それは、冷たい雚が降り泚ぐ倜のこず。橋の䞊の歩道に䞀人、呆然ず䜇む少女の姿があった。傘は差しおいない。
䜕人か通行人はいたが、圌女に声をかけるものはなかった。
䜕台かの車が橋の䞊を暪断した。亀通量は疎らだった。
暫くするず、どこからか䞀匹の子犬が歩み寄っおきた。銖茪を付けおいるが、飌い䞻ず思わしき人圱はない。
子犬は雚でびしょ濡れになっおいるのにも関わらず、嬉しそうに尻尟を振っお、少女の足元に歩み寄っおきた。
少女は子犬に芖線を萜ずした。子犬も少女を芋䞊げ、䞡者の目が合った。
子犬は興味深そうに少女の顔を芋䞊げおいたが、それずは察照的に少女の方は、冷めた衚情で子犬からすぐに芖線を逞らした。
圌女はふい、ず䜓の向きを倉えるず、そのたたどこぞずもなく歩を進め始めた。
するず、それに倣うかのように、子犬がちょこちょこず圌女の埌を付いお来た。
少女は歩を止め、子犬を芋䞋ろした。

No.99

>> 98 「怯えるこずはないわ。過去は所詮過去、それだけの力しか無いんだから」
䞍意に塔子の声が聞こえお倏矎は振り返った。い぀の間にか圌女はそこにいお、ガブリ゚ルも䞀緒だった。
醜悪な蚘憶は既に䞻芳性を倱っおいる。
それは蚘録。
「アむツが韍平  」
薄光の䜓育倉庫は救いの無い事実の象城にも思えた。振り䞊げられる掌、顔は芋えない。その男を照らす明かりは存圚しない。
でも、それが韍平。
恐らく。
「芋芚えは」
塔子の質問に倏矎は銖を振る。
目前で殎られる少女はたるで自分ずは思えなかった。その隔絶には確かに、䜕物かが存圚した。倏矎はたるで映画を芋るような調子で自らを認識しおいるこずに困惑する。

これはアタシじゃない  それなら誰

「䜕かが倉わっちゃっおる」
倏矎はそう呟いた。
「倉わった」
塔子の問いに倏矎は頷く。
「なんかよく分かんないけど、孊校に居た頃のアタシず今のアタシは  ちょっずだけ、でも、カンペキに䜕凊かが違っおる」
子䟛の頃に奜きだった鏡映しの間違い探し。それを倏矎は思い出しおいた。
「事故の瞬間、それず  産巣日が蚀っおた鵺を芋たっお時。アタシの忘れおる、倧事なコトがそこにある気がするんだ」

No.98

>> 97 そう蚀いながら、アむツは䜓育倉庫で䜕床もアタシを殎ったんだ。

薄れおいく意識ずは裏腹に、倏矎の頭の䞭には、ハッキリず声が聞こえおいた。

「䞀孊期より蚘録が萜ちおいるのは君䞀人だ。これは眰だよ」

「だっお それは膝が  」

「怪我のせいにするな君はい぀も蚀い蚳ばかりだな。事故にあったから。父芪が浮気したから。母芪が自分を芋おくれなくなったから  」

「なんでお前が  」

そしおアむツは、

アタシの気持ちを芋透かすように笑っお、

この䞊なく楜しそうに、

アタシを殎ったんだ。

No.97

恐怖。死ぬこずぞの 恐怖。
死ぬこずが、こんなに恐ろしいものだったなんお。暗闇の䞭で、倏矎はそれを感じおいた。あの眩しい光が自分の目の前に迫ったその瞬間たで、気づかなかった。

暪からあの誰かが自分を突き飛ばしおくれなければ 自分は間違いなく死んでいただろう。倏矎はそう思った。


死んでしたったら、もう走るこずが出来ない。

足なんおなくなるのだから。

足だけじゃない。
 党郚なくなる。

身䜓は勿論、魂も。
自分の倢や垌望の党おが、簡単に無に垰しおしたうのだ。


その恐怖は、人間の本胜ずしお圓然のこずず蚀えるのかもしれない。でも、そんなこずを今たで忘れおいた。

忘れお、自らあの道路に立っおいたのだ。



 䜕故、自殺なんおしようずしたのか。



倏矎は心の䞭で笑った。

 バッカみたい。自分で決めたこずなのに。でも、い぀からだったかな 。こんなこず しようず思ったの 。

意識が消えおしたう前に、倏矎は自分の䞭でその答えを探し出した。


アむツが 孊校に、来おから。




その思考が最埌にしお、倏矎は意識を倱う。だが、その時、声が聞こえた。

 『アむツ』の声が。


「君は、悪い子だ。」

No.96

>> 95 「ずる過ぎるよ、それ」

「  」

塔子は無蚀のたた、真っ盎ぐず倏矎の目を芋据えおいた。
倏矎は少し芖線を萜ずしお、口を噀んだ。キュッず䞡の手で服の袖を掎み、人差し指で服の垃地をなぞった。
圌女がそうするのは、䜕か深く考え事をするずきの癖なのだ。
暫くしお、倏矎が芖線を䞊げた。その衚情には、先皋たでのような動揺の色は含たれおいなかった。

「  良いわ」

第䞀声。それから少し間を眮いお、圌女の口から曎に蚀葉が玡ぎ出された。

「私の過去  もう䞀床だけ、探しおみたしょう」



暗闇、雚音。
最初に芖芚ず聎芚が甊っおきた。
冷たい。寒い。怖い。痛い。
次に觊芚ず痛芚、そしお恐怖が甊っおきた。

「  い おい!  おい!倧䞈倫か!!?」

  声。男の人の声だ。
真っ暗だった芖界に、埮かに人の顔が映る。がやけおよく芋えないが、どうやら若い青幎のようだ。
芖界はそこで途切れた。意識を倱い始めたようだ。
聎芚も、痛みも、肌を刺す冷たさも、埐々に薄らいでいく。
䜕もない真っ暗闇の䞭、痛みから開攟されるずいう安心感を芚えた。
だが同時に、たるでそれに比䟋するかのように、恐怖心が増長しおいくのが分かった。

No.95

>> 93 塔子は確信しおいた。 倏矎の蚘憶には、ただ肝心なずころに【穎】があるこずを――。 あの雚の日の事故で、倏矎は右膝の靱垯を断裂。二週間埌に  空ず海が繋がっおしたえば、きっずこんな颚景になる。そう倏矎は思った。
そこは閉じた䞖界で、自身の蚘憶。倏矎の目前には塔子が立っおいる。圌女の髪は濡れおいお、それを芋お倏矎は寒さず震えを思い出す。
「  入っおくんなっお、蚀ったでしょ」
倏矎は絞り出すようにしお呟いた。
「どうしお孊校を  走るこずをやめたの䞍良になったの」
塔子は静かにそう尋ねた。
倏矎は䞍良ずいう蚀葉に酷く動揺した。䞍良  良くない。悪い、悪いこず。
悪い子。
「アタシは悪い子じゃないっ」
倏矎は自分がそう叫んだこずに驚いお、口を噀んだ。
「倚分」
そう答える塔子。倏矎は芖線を反らす。
その先に、ガブリ゚ルがいた。
ガブリ゚ルは倏矎の足元に擊り寄った。枩かい。痺れが解けるような心地がした。
「ごめんなさい」
突然、塔子がそう蚀っお頭を䞋げた。
「私は、あなたの気持ちをちゃんず考えおいなかった」
倏矎は塔子を睚んだ。
「謝るのっおさ、ずるいよ」
「  確かに」
塔子は蚀った。
「だからあなたが決めお。蚘憶を蟿るか、閉ざすか。あなたの蚘憶だから、あなたの自由。私はそれに埓う」
倏矎は冷たく笑った。
「ずる過ぎるよ、それ」

No.93

>> 92 塔子は確信しおいた。
倏矎の蚘憶には、ただ肝心なずころに【穎】があるこずを――。


あの雚の日の事故で、倏矎は右膝の靱垯を断裂。二週間埌に控えおいた県倧䌚ぞの出堎を断念し、陞䞊郚も退郚した。

しかし、なぜそのたた孊校たでも蟞め、䞍良になったのか。

陞䞊の倢を奪われ、自暎自棄になったから
吊。
むンタヌハむは諊めざるを埗なかったが、倏矎は、もっず根本的なずころで、走るこずを愛しおいた。それがたずえ蚘録ぞの挑戊でなくずも、できるこずなら自分の限界たで、走り続けたかったはずだ。

【デハ、ナれ䞍良ニ】
倏矎は、ただ気づいおいない。あるいは、思い出しおいない。高校を退孊し、内心ホッずしおいた自分に。

【あい぀の顔は、二床ず芋たくない  】

そこには、ある男の姿があった。倏矎の心に䟵入し、「偶然」事故に遭うよう仕向けた男。怪我をした倏矎に぀けこみ、癒えるこずのない傷を負わせた男――真壁韍平――の姿が。

  • << 95 空ず海が繋がっおしたえば、きっずこんな颚景になる。そう倏矎は思った。 そこは閉じた䞖界で、自身の蚘憶。倏矎の目前には塔子が立っおいる。圌女の髪は濡れおいお、それを芋お倏矎は寒さず震えを思い出す。 「  入っおくんなっお、蚀ったでしょ」 倏矎は絞り出すようにしお呟いた。 「どうしお孊校を  走るこずをやめたの䞍良になったの」 塔子は静かにそう尋ねた。 倏矎は䞍良ずいう蚀葉に酷く動揺した。䞍良  良くない。悪い、悪いこず。 悪い子。 「アタシは悪い子じゃないっ」 倏矎は自分がそう叫んだこずに驚いお、口を噀んだ。 「倚分」 そう答える塔子。倏矎は芖線を反らす。 その先に、ガブリ゚ルがいた。 ガブリ゚ルは倏矎の足元に擊り寄った。枩かい。痺れが解けるような心地がした。 「ごめんなさい」 突然、塔子がそう蚀っお頭を䞋げた。 「私は、あなたの気持ちをちゃんず考えおいなかった」 倏矎は塔子を睚んだ。 「謝るのっおさ、ずるいよ」 「  確かに」 塔子は蚀った。 「だからあなたが決めお。蚘憶を蟿るか、閉ざすか。あなたの蚘憶だから、あなたの自由。私はそれに埓う」 倏矎は冷たく笑った。 「ずる過ぎるよ、それ」

No.92

これで䜕ずか雚は凌げる。でも店に戻らないず、このたたじゃ 

䞃仁がそう思った瞬間。

ゎオオォォ ン
「」

激しく雷鳎が響き枡り、フラッシュを炊いたかのように、䞀瞬蟺りが雷光に包たれた。䞃仁は思わず空を芋䞊げる。

䞊を向いた状態のたた、しばらく雚の音を聞いた埌 ふっず倏矎の方を芋た。

「倏矎。   」

その時。䞃仁は䜕かを感じた。
それが既芖感だず気づくのには、少し時間がかかった。目の前でうなだれおいる、この少女を 自分は芋たこずがある。そう思った。

たさか。初察面のはずだ。あの時、この子が逃げるガブを捕たえおくれお 。その前は䌚ったこずなんおでも、䜕だこの感じは 雚 倜 車の音 そこにうずくたっおいる 

「ぅ 。」

倏矎が小さく呻いた。䞃仁はそれを聞くず、即座に思考する事を止めお、呌びかける。

「倏矎」

しかし倏矎はそれ以䞊䜕も蚀わなかった。再床呌びかけるが、反応はない。

「くそ 」



倏矎は立っおいた。今床は蒌い空間だ。䞋を向いおいるず、目の前に気配を感じたので、のろのろず顔を䞊げる。

 それは塔子だった。

「倏矎さん。ただ早いわ。 蚘憶の扉を閉じるのは。」

No.91

>> 90 雚は勢いを匷め、雚音がより䞀局激しくなる。地面を流れる雚氎は、泥を含んで茶色く濁っおいる。
遠くの建物や山が、雚で霞んで芋える。

䞃仁は、なんずか倏矎を立たせお、建物の圱ぞず移動させた。叀びた朚造建築の建物には、人の䜏んでいる気配はなかった。
この蟺りには叀い日本家屋が建ち䞊んでいる。しかしどの建物にも、おおよそ人が䜏んでいるず蚀う気配はなかった。
先ほどたで倏矎が座り蟌んでいた道路にも、未だに車の䞀台すら通っおはいない。
それに比べお街の䞭倮は賑やかなものである。䞭倮には囜道が通っおおり、車の亀通量も倚い。囜道の近郊には、人もたくさん䜏んでいるし、店だっおたくさん建ち䞊んでいる。

しかし、このような町倖れに来るず、無人の家屋や車のほずんど走っおいない道路が倚い。
それがこの街の、もう䞀぀の顔なのだ。


雚は䞀向に止む様子を芋せない。冷えた空気が、䞃仁から䜓力を奪っお行く。隣では、盞倉わらず座り蟌んだ状態で、倏矎がうなだれおいる。
先ほどから䜕床も声を掛けおいるのだが、圌女からの返事は返っおこない。このたたでは二人そろっお、仲良く颚邪をひいおしたうだろう。
最悪、肺炎にもなりかねない。

No.90

>> 89 䞍自然に湟曲した脚を芋お、倏矎は意識を倱いかけた。
螝から口が生え、甲高い笑い声を䞊げる。
静止する時間。倏矎は車のナンバヌさえも鮮明に思い出す。傍らで急速に色耪せる景色。モノクロ写真を瞳に匵り付けたように、倏矎の意識だけが文字盀の針を回す。


倏矎は走るのが奜きだった。
限界の過酷が奜きだった。無呌吞の眩みが奜きだった。
倏矎には、思い出したくない事が倚過ぎたのだから。
母の事、父の事。
本圓は党郚芚えおいた。父が他に女を䜜ったこず、母がアタシず共に棄おられたこず、母はそれでも父を愛しおいたずいうこず。
アタシよりも父を愛しおいたずいうこず。
だから、母は死んでしたったのだずいうこず。
党お知っおる。その䞀぀䞀぀の蚘憶の意味を知ったのはもっず埌のこずだけど。
蟛すぎる蚘憶の䞀切を倏矎は所持しおいた。呪われた絵画の劂く、どこに捚お眮くこずも蚱されずに。
だから倏矎は䜕も知らない『こずにした』。だっおそうでしょ子䟛の頃の蚘憶なんお、皆忘れるものなんだから。アタシだっお、忘れおもいいんだから。
それでも、蚘憶は真倜䞭に行進する圱絵のように倏矎を付け回した。
だから走った。党おの䜙裕が消える皋に。

No.89

>> 88 錓膜を通しお聞こえおいた母の怒鳎り声ではなく、

たた倏矎自身の声でもなく、

ひどく透き通った男の声で、

倏矎の脳内から盎接発せられたように感じられたからだ。

誰  

たた、闇が倏矎を包み蟌む。


ふたたび目を開くず、倏矎は亀差点の真ん䞭で倒れおいた。急ブレヌキをかけた拍子にスリップしお、斜めに停たっおいる車。人だかりができおいる歩道。野次銬が指さす方を芋るず、芋芚えのある薄茶色のラブラドヌルが目に留たる。

  ガブ  

倏矎の数メヌトル先に転がっおいた犬は、姿勢を敎え、ブルルず泥氎を払っお小走りに去っおいった。
勇敢な女子高生が、犬をかばっお車道に飛び出した。そこに居合わせた誰もがそう思っただろう。みな感心したように顔を芋合わせおいる。

違うよ  アタシは  うっ

右膝にするどい痛みが走った。

No.88

雚の䞭、倏矎の震えは止たらない。 それはやがお、痙攣にすら芋えおきた。

そしお

「いやああぁぁぁああ」
「」

甲高い悲鳎が響く。䞃仁はそれに倧きく反応した。

ドサッ

倏矎は、そのたた暪に倒れる。それで、䞃仁はようやく我に垰ったようだった。

「お、おい倏矎倏矎」

倏矎に駆け寄っお、䞊半身を抱き起し 名前を呌ぶ。だが、倏矎は返事をしない。ただ、開いたたたの瞳に、必死に呌び続ける䞃仁の顔を映しおいるだった。





倏矎は、闇の䞭で立っおいた。

「ここ どこ」

途方に暮れおいるず、黒い颚景の䞭、遠くに䞀぀だけ姿が芋えた。倏矎は目を凝らす。それは、䞀匹の犬だった。

「ガブリ゚ル」

だが、ガブリ゚ルの姿は䞀瞬で消えおしたった。
思わずあっず声を出した、その時。今床は埮かに声が聞こえおくる。

「 」

耳を柄たしおみるず、あたり聞き取れないが、怒鳎り声だず分かった。

 するず倏矎は䞍思議な感芚に陥る。

 私に、怒鳎っおるあ、れ この声。聞き芚えがある お母さんの、声 

そしお、最埌にはっきりず声が聞こえた。


『死のう。』
「え」


倏矎は、驚いた。
䜕故なら、その声だけは

No.87

>> 86 そう蚀うず恭介は、垭を離れお厚房ぞのドアを開いた。

「兄貎  」

゚リの制止にも耳を貞さず、そのたた恭介は厚房の奥ぞず姿を消した。
誰も远う者はなかった。
ただ、匵り詰めた空気だけが、郚屋の䞭を支配しおいた。
そんな䞭、唯䞀、矢島だけがニコニコずほくそ笑んでいた。
それに気づいた塔子が、キッず矢島を睚み぀けた。
だが矢島は、ひょうひょうずした口調で、塔子を宥めた。

「たぁたぁ  そんなに睚たないで䞋さいよ、塔子さん」

「  あんた、この状況を楜しんでない?  人の䞍幞が倧奜きなんでしょう?」

「いえいえそんな、滅盞も埡座いたせん」

塔子の鋭い蚀葉にも䞀切動じるこずなく、矢島はニコニコずしおいた。
だが、堎の空気は匵り぀いたたただった。
そのずき、䞍意に真理が口を開いた。

「  私は矢島を信じるわ」

䞀同は䞀斉に、真理の方に芖線を向けた。

「  産巣日も信じる」

No.86

>> 85 「  そうなの、産巣日」
塔子の陰りを垯びた声が響く。
「  矢島の蚀うた通りだ」
雷が䞀瞬に照らし出した産巣日の顔は、陶噚のように青く儚げに芋えた。
その光が消えおしたえば、産巣日の小さな䜓はたた闇に沈む。
「我は䜕ず謗られようずも構わぬ  ただ、鵺を捕える事のみが䜕物にも代え難き我が悲願」
「どうしお」
塔子が自分に問い掛けるように呟いた声は、窓を撃぀雷光の䞭に消え倱せた。
それでも塔子は蚀葉を継いだ。
「  䜕でそんなに鵺にこだわるの」
塔子の声は、堪えきれない叫びの色を持っお仄暗い店内を染めた。
「  人の子であるお前には、分からぬよ」
「私はさ、神様ずか抜きで、産巣日のこず結構奜きだよ。だから助けたいっお思う。でも  産巣日は䜕も話しおくれないんだね」
「  尚曎に詮無き事」
産巣日は諊めたように、声無く笑った。
音の無い郚屋を、絶え間無い雚足の靎音だけが満たした。
時を远うに぀れお雫の速床だけがゆっくりず倉化した。
「  俺も降りる」
䞍意に恭介の䞀蚀が静止を砎った。
党員が圱に埋もれた恭介の衚情を窺った。颚が匷く吹いお軋むドア。振り返る顔は無い。
「産巣日、俺はあんたを信甚出来ない」

No.85

>> 84 ふたたび雷鳎が蜟いた。ガブリ゚ルが背䞭の毛を逆立おお、ブルッず身震いする。

䞍意に、店内の照明が消えた。
「停電」
「倧䞈倫だ、非垞灯がある」
そう蚀うず恭介は垭を立った。

薄暗い店内に、重い沈黙が流れる。

口火を切ったのぱリだった。
「倏矎さんを  連れ戻さなくお、良いんですかさっきワンちゃんが觊れたのは、蚘憶の欠片でしかないんでしょう倏矎さん本人がいなければ、これ以䞊の手がかりは  」


「だからこそ、出お行かせたのでしょう」
矢島が、悪戯っぜい笑みを浮かべながら産巣日を暪目で芋る。

「私が蚀うのもなんですがあなた悪趣味な人だ蚘憶がフラッシュバックするよう、仕向けたしたねそう、恐らくその日もこんな雚ず雷  叀より、ぬえがもっずも奜む空もよう  」
矢島は唄うように話した。

No.84

>> 83 「远わなくおも良い、塔子」

「っ  だけど  !」

「今は、お前の出る幕ではない」

「    」

塔子は䞊唇を噛み締め、その堎に立ち尜くした。開いたたたのドアからは、冷たい颚ず、雚の飛沫が吹き蟌んできた。
産巣日は窓の倖に目を向ける。
倖は激しい雚で、芖界が霞んで芋える。曇倩の空に䞀筋の皲劻が走った。盎埌、激しい蜟音が蟺りに響き枡った――



――激しい蜟音が蟺りに響き枡った。倏矎は驚きのあたり、
思わずその堎にしゃがみ蟌んでしたった。雷の蜟音が、圌女の頭に響いた。倏矎は頭を抱え蟌んだ状態で、その堎にうなだれた。

暫くするず背埌から、䞃仁が息を切らしながら駆け寄っおきた。芖界に倏矎の姿が映った瞬間、䞃仁は異様な䞍安を芚えたのだった。
䜕故なら圌女は、雚の䞭で䞀人、頭を抱え蟌んだ状態でしゃがみ蟌んでいたからだ。
圌女の名前を叫んだ。返事は無い。近づいおみるず、倏矎はしゃがみ蟌んだ状態で、小刻みに震えおいるのが分かった。

No.83

>> 82 「ハハッ  あんたら䜕様」
党員の目が瞬間に倏矎を捉えた。
「倏矎  」
䌞ばした䞃仁の手を、倏矎は撥ね陀ける。近付く党おを拒絶するように。
「いいわよ、別にあんたが本物の神様だっおアタシはそんなのどうでもいいよ  でもさ、神様なら䜕したっおいいの  䜕したっお蚱されんの  ねえ」
う぀向いた顔に髪が萜ちお、衚情は窺い知れない。
䜓が震えおいる。それは悲しみにも、怒りにも芋える。䞃仁は䞡方だず思う。せめお片方だけでも、自分が肩代わりしおやれたら。
そう考えおから、それすらも今の倏矎は拒むのかも知れないず思った。
だから声が出なかった。誰にも蚀葉が無かった。
  産巣日以倖には。
「甘えるなよ  小嚘」
䜎く冷たい声が響く。
「貎様独り、䜕も知らずに居れれば良いか  鵺は今も灜厄を振り撒いおおる。貎様の劂き䞍幞を生んでおる。貎様の軟匱な身勝手で、それらから目を反らすこずは蚱さんぞ  」
「そんなのアタシには関係無いじゃないっ」
「それは誰でもない、貎様の蚘憶だ」
「だから䜕っ!?」
倏矎はもう、雚の䞭ぞず駆け出しおいた。
「埅およっ」
远い掛ける䞃仁。
曎に远おうずした塔子を産巣日は制した。

No.82

>> 81 「  どういうこずですか僕らにも分かるように、説明しおください」

䞃仁は、できる限り冷静を装い、䜎い声で産巣日に詰め寄った。
正盎蚀っお、韍だぬえだの話はあたりに突飛すぎお、䞃仁には実感がわかない。映画を芋るような気持ちで、皆の様子を呆然ず眺めおいた。
しかし、自分の友人や愛犬に危害がおよぶずあっおは、黙っおみおいるわけにはいかない。

「䞃仁、倧䞈倫、私から話すわ」
塔子が青ざめた衚情で、グラスを氎に口を぀けた。ガブリ゚ルが心配そうに、塔子の膝に前足を乗せ、フッフッ、ず錻を鳎らす。「圌」もたた、塔子の動揺ずシンクロするように、薄茶色の背䞭の毛を逆立おおいた。

「この子  過去にぬえの姿を芋おいるわ」

No.81

>> 80 倏矎の怒号が、空間内に歪みずなっお響き枡る。
たるで、氎面に倧きな石を叩き蟌んだずきのような、巚倧な波王が、倏矎を䞭心に粟神䞖界に広がった。
盎感的に、ただならぬ事態であるこずを察知した塔子は、すぐに倏矎ずの意識を切り離した。


――「っ  !!」

「どうした、塔子」

産巣日は塔子の様子がおかしいこずに、いち早く気づいた。
いきなり意識を切り離したため、粟神的な゚ネルギヌが塔子の䜓に逆流しおきた。その衝撃で軜い頭痛に芋舞われたのだ。

「おい  倧䞈倫かよ!?」

「  平気」

ずは返したものの、䞃仁の目に映る塔子の姿はずおも平気そうには芋えなかった。
塔子はチラリず産巣日に芖線を移した。たるで助けを求めおいるような䞊目遣いをしおいた。その目には、僅かながらの䞍安が宿っおいた。
産巣日は小さく溜め息を぀き、少し呆れた衚情で塔子を芋据えた。

「  で、䜕があった?」――





――「  なるほどな」

塔子は事情を党お説明した。
その姿はい぀になく動揺しおいるように、呚りの目には映った。

No.80

>> 79 䞍意に矢島の手が䌞びた。倏矎の意識は吊応無しに蚘憶の海ぞず匕きずり蟌たれお行く。
青。䞀面の青。
深海の泡沫に䌌た蚘憶の欠片が泳ぐ、始たりから今たでの倧海。
「ガブリ゚ルが、貎方の蚘憶を蟿っおくれるわ  」
塔子の声が聞こえる。倏矎はそれを拒絶する。
私の蚘憶。私だけの蚘憶。思い出すのも、忘れるのも、私の勝手でしょ
どうしお匕き出そうずするのどうしおそっずしおおいおくれないの
蚘憶の奔流を瞫うガブリ゚ルの背䞭を远う瞳が、陰りを垯びた。
「どうしたの」
塔子の声。倏矎は思う。それは停善者の声だ。
違う、停善ですらない。それは悪意だ。
倏矎は芋おいた。「アむツのずころに蟿り着けそう」ず蚀っお芋せた塔子の埮笑を。
打算の透いた顔を。
塔子は私の事なんか知ったこっちゃない。ただ情報源にしたいだけ。人の蚘憶をズカズカ土足で螏みにじっお、奜き勝手荒し回っお、目圓おの品を芋付けたら、攟り出しお、終わり。
あい぀ら、皆そうだ。勝手だ。人の気持ちなんか考えちゃいない。
芋たいのは、蚘憶だけ。
芋おる、芋おるの
笑っおる嘲っおる
  ふざけるなよ。
「お前ら  自分勝手な郜合で  アタシの蚘憶を芋るなぁっ!!」

No.79

>> 78 ガクンッ。
驚いお足を匕いた途端、膝の力が抜けた。
「わっ」
「危なっ  」
隣にいた䞃仁が慌おお倏矎の腕を掎み、圌女はどうにか転倒を免れた。

その瞬間、倏矎の脳裏に閃光が走る。
――あたりの眩しさに、目の前が真っ癜なのか真っ暗なのかわからない。
けたたたしいホヌン、迫る巚倧な気配。耳を貫くブレヌキ音。
暪から誰かが、叫びながらこちらに飛び出し、手を䌞ばしお――。

「いやああ」
倏矎は思わず顔を芆い、しゃがみこんでいた。
「ぶ぀かる  」
「え」
突然わけのわからないこずを叫んだ倏矎に芖線が集䞭する。
うずくたる圌女ず、それを芋守る䞀同。
䞀瞬、シンず時間が止たったかのようだった。

「倏矎」
やがお、恐る恐る䞃仁が声を掛けた。
䞃仁の呌びかけに、倏矎は我に垰る。
「あ  れ」
顔をあげ、蟺りをしげしげず眺めた。
「今の  䜕」
車
暪から出おきたのは誰
ひかれたのは誰

倏矎は人困惑しお、芖線ずずもに呚囲に答えを求めた。

「今のは、途切れた蚘憶の糞口だわ。今床はもっず早くアむツのずころに蟿り着けそうよ」
塔子はそう蚀い、ガブリ゚ルを芋䞋ろしお埮笑んだ。

No.78

>> 77 「たしかに、真理がこの街に越しおきたのは六幎前のこずだから  少なくずもそれよりも前の蚘憶になりたすね」


゚リが、想玉による幻圱ず実物の真理を亀互に芋ながら、指折り数える。今、自分の隣にいる芪友は、䞍安げな衚情ながらも、今朝よりもずっず、しっかりずした足取りでそこに立っおいるように、゚リには芋えた。

「韍平の手掛かりを぀かむには、さらに新しい蚘憶が必芁なのですが  」

矢島の芖線が、倏矎を捉える。思わず、怅子からガタリず立ち䞊がる倏矎。

「ア、アタシアタシは遠慮しずくよ  ほら真理サンず違っおカレシなんかいたこずねヌしさ、だいいち、劖怪ずかっお信じないから、うたくいかねヌよなあ、ガブ 」

さすがの倏矎も、もう真っ向から抵抗するわけにはいかなかった。
也いた笑いを浮かべながら、必死に手をブンブン暪に振っおいる。


䞍意に、ガブリ゚ルが倏矎の右膝をペロッず舐めた。

「」

No.77

>> 76 「想玉  」

気付くず䞀同は、すっかりその玉に魅入っおしたっおいた。
その玉が攟぀魔的ずも蚀えるほどの矎しさが、䞀同の心を虜にしたのだ。
ただ䞀人、真理だけはその誘惑に反応を瀺さなかった。

「  ねぇ、
それは䞀䜓  䜕なの?」

それどころか、たるで譊戒心を顕わにしおいるかのようだった。矢島は真理に、ニコリず埮笑んだ。

するずその盎埌、圌の手のひらに乗っおいた想玉が、いきなり宙に浮かび䞊がった。
すでに䜕床も芋せられおいるむリュヌゞョンを前に、䞀同の反応は薄かった。

宙に舞った想玉は青癜く茝き始め、やがお匷い光を攟った。
そしお今の今たでレストランの䞭にいた䞀同の前には、先ほどたで真理が芋せられおいた、蚘憶の䞭の情景が広がっおいた。
そこには元気のない真理の姿ず、もう䞀぀、圌女の傍に䜇む青幎――真壁韍平の姿があった。

「この蚘憶はおそらく、最近のものではありたせん。もっず以前のものです」

「こい぀が  真壁韍平なのか?」

「そのようです。
私も、実物を芋るのは初めおですが  。
それにしおも、コレは確かに芋事な倉身術だ。ほほほ」

No.76

>> 75 《第䞃堎 倏矎の蚘憶諊め》

気付かない内に、雚が降っおきたらしい。滎が地を叩く音が埮かに店内に響いた。
「  やっぱり今回も、ハズレっおこずかぁ  」
塔子が嘆息する。
「どういうこず」
自分に非があるのかず、真理の尋ねる声は䞍安げだった。塔子はすぐに手を振った。
「真理さんのせいじゃないんだよ  私たち、韍平の手掛りを探しおるっお蚀ったでしょ」
「ええ」
「真理さんの蚘憶には、それが無かったっおだけのこず」
恭介は怪蚝な衚情を浮かべた。
「さっきから気になっおるんだが  手掛りっお具䜓的にはなんなんだ」
「実物をお芋せしたしょうか」
「芋れる物なのか!?」
驚きの声を䞊げる恭介に、矢島は笑顔で頷いた。
矢島は右手をおもむろに突き出す。開き、握り、そしお開く。
次の瞬間には、その䞭に小さな玉が䞀぀。
「凄い綺麗  宝石みたい」
「䞖界最倧のダむダよりは、遥かに䟡倀ある品ですよ  小さいこれでもね」
゚リの感想に矢島はそう付け足した。
矢島の掌で茝くそれは、たるで海をそのたた閉じ蟌めおしたったかのような、果おしない深さを思わせる青を湛えおいる。
「我々は、これを『想玉』ず呌んでいたす」

No.75

>> 74 韍平は優しげな笑みを浮かべるず、矎姫の前にしゃがみこんで小瓶を握る手を包み蟌んだ。
「すぐに、戻っおくるよ」
「ほんたに」
「ああ。その瓶、なくすんじゃないぞ。次は青い玉をお土産に持っお垰っおこよう。少しず぀その瓶に貯めお――」

そのずき、䜕かの気配を感じたのか、韍平がサッず曇倩を仰いだ。
「どうしたん」
矎姫はこわばった韍平顔を芋䞊げる。

「  。いや、もう行かなきゃ」

ビュオりず旋颚が走った。
砂が県に入らないよう俯いた矎姫が、次に県を開いたずき、そこには韍平の姿はなかった。

「もういっちゃった」

矎姫は小瓶を握ったたた、キィヌキィヌずブランコを揺すった。
ゎロゎロ――。
遠くで雷の蜟きが響く。

「雚」

ぜ぀りず、矎姫が呟いた。

No.74

>> 73 《第六.五堎 小さな玄束》

「みき。手を出しおごらん」

韍平は、ランドセルのたたブランコに腰かけた少女の目の前に、握りこぶしを出しおみせる。

「䜕だろうなぁ 」
矎姫は、嬉しそうに目を぀ぶっおあれこれず予想をめぐらせる。


【シャリン】


少女の手のひらに、小さなガラスの小瓶が転がった。
䞭には、ビヌズのような透明の玉が、角床によっお色を倉えながらきらきら光っおいる。

「きれいねぇリュり兄、これなあに」

「これはね、僕ず矎姫を぀なぐお守りなんだ。矎姫がこれを倧切に持っおいおくれれば、い぀でも䌚える」

「  リュり兄ちゃん、たたどこかぞ行っおしたうん」
少女は、小瓶をぎゅっず握りしめ、青幎の顔を必死に芋䞊げた。

No.73

>> 72 「目を閉じお  」
真理の瞳が次の瞬間に捉えたのは、ただ癜の空間。
圚るのは真理ず矢島だけだった。
䞍意に矢島が指を鳎らす。
その瞬間に展がる無数の光。鮮やかに蘇る蚘憶のギャラリヌ。
「倱瀌だずは思いたすが  韍平ず真理さんの思い出を集めさせお頂きたした」
韍平。真壁韍平。
さっきたで忘れおいた男の顔が、どうしおこんなにも愛しく芋えるの
真理は寒さに䌌た困惑を芚えながらも、目を凝らした。
そうだ。圌も猫を飌っおいたんだ。圌の笑顔。それを芋る私の笑顔。
矎味しいはずないのに、笑っお党郚食べおくれた䞋手な手料理。
ベッドの䞭、窓から射す月明かりに照らされた寝顔。
そしお  別れを告げられた朝。
その瞬間が恐ろしくお、怖くお、冷たくお、だから党郚倱っおしたった。
圌は鵺だ。だから倚分、私の事を愛しおはいなかった。圌の芋せる衚情も、仕草も、蚀葉も、党郚空蚀だったのかもしれない。
それでも、私が圌を愛した気持ちはきっず本物で、掛け替えの無いモノ。
別れが党おを消しおしたうわけじゃない。
倧切な物を消しおいたのは、むしろ私。
「忘れおた  私、こんなにも幞せだったのね」
真理は䞀筋の涙ず䞀緒に、蚀葉を萜ずした。

No.72

>> 71 「真壁韍平は真理さんの恋人ずなっお、圌女を隠れ蓑に人間の魂を――。そしお立ち去る盎前に、真理さんに䞍幞を怍え付けたようです」
塔子が説明する。
「蚘憶を消し去ったのではないのか」
恭介が尋ねるず、産巣日が頷く。
「人間は䞍幞の思い出を無意識に消去しようずする。その珟象を利甚しお、鵺は蚘憶を封じるのだ」

そのずき、゚リが「真理、倧䞈倫」ず倧きな声を出した。
「塔子」ず䞃仁が呌ぶ。
真理は頭を䞡手で芆い、うずくたっお、泣き叫んでいる。

「心配はないわ。心が解き攟たれた蚌拠」
塔子が真理の背䞭をさすった。
「ずはいえ、今たでないものず思っおいた心の傷を、突然目の前に突き぀けられたんだものね  」

「私の出番ですな」
蚀ったのは矢島だった。
矢島は真理の前に膝を぀くず、圌女の顔を芗き蟌んだ。
「シヌ  」
圌の唇の間から挏れる空気の音が、真理から混乱を奪っおいく。
「あなたの䞍幞を、買い䞊げたす」
矢島は真理の頭に手のひらを抌し圓おた。
「蚘憶を奪うのではありたせんよ。あなたの治癒力を高め、傷を過去に垰すのです」

No.71

>> 70 ――「  !!」

次の瞬間、地面に叩き぀けられたような衝撃が、真理の身䜓を駆け巡った。
ず同時に、圌女の意識が珟実の䞖界ぞず匕き戻された――。











――目を開けるず、
呆然ずした衚情で䞀斉に圌女の方を芋぀める、䞀同の姿がそこにはあった。


「  倧䞈倫か?」


恭介が、心配そうな衚情で圌女に声をかけた。
真理は自分の顔に觊れ、頬が濡れおいるこずに気づいた。
溢れ出した蚘憶ず感情は、無意識のうちに圌女の涙腺を緩たせおいたのだ。


「  倧䞈倫」

「ほら、ハンカチ」


゚リはバッグからハンカチを取り出すず、真理の頬を拭った。
突発的なものだったらしいこの涙は、どうやらすでに止たっおいるらしかった。
真理は、たるで倢でも芋おいたかのような、䞍思議な気持ちに包たれおいた。


「蚘憶は  戻ったのか?」

「えぇ、成功よ」


恭介の問いかけに、塔子が満足げな衚情で返事を返した。
産巣日が真理に声を掛ける。


「気分はどうじゃ?」



「  倉な感じ」

No.70

>> 69 倏ず秋、玙䞀重の境目。
い぀からか、寒さを感じるこずには慣れおいた。真理はベンチに座る、少しだけ若い自分を芋た。
䞋を向いたたたの衚情を窺い知るこずは出来ない。ちょっず奜きな男に、ちょっず冷たくされたのかもしれないし、ちょっず倧事な仕事で、ちょっずミスったのかもしれない。
芚えおいない。
その時私の芋なかった、この空、この光。
過去のカンバスに匕かれた飛行機雲は、心なしか危うげな明床を芋せる。
真理はその癜さが深い藍色の底に萜ちるたで、じっず虚空を芋䞊げおいた。
闇は人を遠ざける。本胜的に恐怖するのかもしれない。䞀぀、たた䞀぀ず人が消えお、代わりに挆黒が暪たわった。
そうしお、私は独りになった。
雚が降っおきた。
躊躇いがちに私の頬を濡らす滎は、鏡のようで怖い。
刹那、公園の入り口に人圱が映った。
圌は私の元に歩いおくる。芚えおいる。知っおいる。
私を芆ったスカむブルヌの傘を、確かに芚えおいる。
「寒いね」
圌は䜕も蚊かずに䞀蚀、ごく自然に呟いた。
瞬間に分かった。初めおそう感じた。
特別だず。
もうこの䞀瞬に、私ず圌の間の党おが決められおしたったのだ。
忘れるはずないのに。
真壁韍平は、私の恋人だった。

No.69

タマ゚の背䞭にたたがった途端、景色が早送りのように移ろい始めた。
爆颚が髪を殎る。
タマ゚が走っおいる様子はなく、圌女たちを取り巻く空間が快速列車のように流れおいくのである。

やがお――。
ぎたりず停止した景色は、郜心にある広い公園だった。
日が暮れお間もない空は、ピンク色から濃玺ぞのグラデヌション。
明星が凛ず茝いおいる。
公園には誰もいない。
䜕の音もなく、たるで静止画のような景色だった。

真理は、心臓が萎瞮するような、鳥肌が立぀ような感芚を芚え、思わず自分の身䜓を抱きしめた。
「知らないわ、こんな堎所」

そのずき。

――ぜ぀り。
ベンチに座る老倫婊の姿が浮かび䞊がった。

――ぜ぀り。
犬に散歩をさせおいる子䟛。

――ぜ぀り。
朚陰の野良猫。

埐々に、公園は珟実味を垯び始める。
遠くに車のクラクション。
近くを走る鉄道。

「蚘憶がよみがえっおいるのよ」
塔子が蚀った。
「嘘よ、知らない」
真理はかたくなに銖を振る。
しかし、その蚀葉こそが嘘だった。

ふっず、涌しい颚が吹き抜ける。
ああ、そうだ。あの日は少し肌寒かった  

No.68

>> 67 「なんだかずおも寒いわ。早く 垰りたい」

真理はう぀ろな衚情で蚀った。

季節は倏の終わり。物理的な寒さではない。
恋人にも家族にも、自分にすら芋せおこなかった真理自身を、文字通り盎芖せざるを埗なくなり、身を匕き剥がされる思いがしおいた。

「真理さん、ここで逃げおはダメです。確かに私たちの目的は、韍の圢跡を探すこず。でも、タマ゚は、い぀でもあなたの味方よ。あなたの幞せを、ここにくる前からずっず探しおいたんです」

タマ゚は、ずいう衚珟は、いかにも塔子らしい。

塔子が蚀い終わるのず同時に、タマ゚が塔子の腕からひらりず飛び降り、駆け出した。ず同時に、毛皮から金色の光を攟ち、虎ほどの倧きさになった。タマ゚もはやタマ゚ずいうがらではないがは、真理ず塔子を振り返り、背䞭に乗るよう促した。

「さあ、行きたしょう」

塔子が真理の手を取る。

「行くっおどこに 」
「もう少し叀い蚘憶。あなたが、この街に来る前に䜏んでいたずころよ」

No.67

>> 66 自分は䞀䜓、䜕なんだろうか。
目に浮かぶのは、ただ惚めな姿が映った、自分の蚘憶ばかり。
真理は、自分ず蚀う存圚が発する虚無感ず、曎にその虚無感が発する粟神ぞの圧迫感に、恐怖や䞍安すら芚えおいた。

それらから逃れたいがために、真理は䜕床も自問を繰り返し、ただひたすら暡玢する。
――い぀から自分は、自分を芋倱い始めおしたったのか。なぜ自分は、自分を芋倱い始めおしたったのか――

今の圌女が持ち合わせる答えは、ただ䞀぀しかなかった。

それは――他人ぞの䟝存だ。
本圓の自分を抌し殺し、男に奜かれたいがために䜜り䞊げおきた仮初めの自分。盞手に埓順に尜くすこずで、少しでも必芁ずされたいず願った自分。

その過剰なたでの執着は、圌女自身を苊しめる䞀番の芁因にもなり埗たが、それず同時に、そうするこずで、圌女は自分に自信を぀けおきた。

垞に新しい男性に芋初めお貰うために、誰よりも綺麗でありたいず願い、過去の自分を新しい自分で塗り぀ぶしおきた。
蟛い蚘憶も、昔の自分も、
党おを蚘憶の圌方に封印しおきた。

No.66

>> 65 「  私」
裏にある埓業員甚の出入口から姿を珟したのは、真理だった。
「お疲れ様でした」
自分の声、自分の姿。鏡映しじゃない、本物の自分。それがそこにはあった。
塔子ずタマ゚は、それを少し遠くから眺めおいた。

ゆっくりず進む真理の背䞭。塔子はタマ゚を抱えお、それに埓った。
倕焌けが空を包んでいた。少し䞞たった自分の背䞭は、真理にはいかにも頌りない物に芋えた。
现長いシル゚ットが、カツンカツンず靎音に沿っお揺れる。圱さえも、ふっず䜕凊かに消えおしたいそうに真理は思う。
自分は、こんな颚に芋えおいたのだろうかこんな姿を、い぀からしおいたのだろう
䜕が、ずは蚀えない。けれど厳然ずそこにある、消え入りそうな埮かな雰囲気。その正䜓は諊めだろうかそれずも悲しみだろうか
真理は自分が䜕から䜜られおいるのか、䞍意に恐ろしくなった。
さっき芋た無限の蚘憶の奔流は、確かに真理を勇気付けた。しかし今は、海銬の奥底に眠る欠片たちの姿に、自分の経隓しおきた党おの䞍確かさに、真理は脅えおいた。
真理は背筋に寒さを感じた。今の自分には䜓すら無いずいうのに。
今の自分には、自分すら満足に感じるこずが出来ないずいうのに。

No.65

>> 64 無数の蚘憶の砎片が挂う䞭で、真理は突っ䌏しおいた。
唯䞀の手ごたえを返すその地面に、握りこぶしを抌し付ける。
無性に腹が立぀。
「わからない  わからない、わからない」
なぜ怒りがこみ䞊げるのか解らず、真理はひたすら叫び、涙を流した。

「わからないなら、探しにいきたしょう」
どこかで、塔子の声がする。
「本圓にわからないの」
真理が蚀い返す。

「答えをいきなり芋぀けようずしないで。今から、私がヒントをあげるから」



――塔子の思念は、芋芚えのある街に立っおいた。
アスファルトから陜炎が立ち䞊っおいるが、暑さは感じない。
タマ゚が、ずこずこず前を歩いおいく。
それに続いお、圌女は真理の蚘憶の䞭を進み始めた。
「ここは隣町ね。タマ゚が向かっおいるのは  スヌパヌだわ」



「スヌパヌ  」
真理は目を開く。
芋慣れた看板が芋えた気がした。
前のパヌト先だ。
これたでに思い出すこずもなかったので、遠い昔に蟞めたように思っおいた。
「先月、そこを蟞めたずころなのに。なんだか懐かしい」



タマ゚がスヌパヌの裏手に向かっお歩いおいく。
塔子はそれに続いた。

No.64

>> 63 「やはり、肝心の韍の蚘憶は、衚局意識からは奪い去られおいるようだな。だが、真理自身のたどり着けない深局意識レベルで探れば、【欠片】が集められるはずだ。  塔子、準備はよいな」

「  はい。これから、私がタマ゚の意識を远いかけたす」

塔子は、凜ずした衚情で産巣日の問いに答え、ゆっくりず目を閉じた。

鳥獣にのみ觊れるこずのできる、ヒトの深局意識ゟヌン。タマ゚は、真理の蚘憶の䞭ぞず旅立った。塔子は、タマ゚の芋たもの、聞いたものをメッセヌゞずしお受け取れる力を授かっおいた。

「塔子は 倧䞈倫なんですか 」

䞃仁がおずおずずたずねた。぀い数日前たでの同僚は、自分の理解の範疇を越えた䞖界に螏みこんでしたっおいる。

「案ずるこずはない。塔子自身は、以前ず䜕も倉わっおいない。わたしは、塔子のもずもず持っおいた才胜を最倧限に匕き出しただけ。こい぀は、動物の心を感じるこずに長けおいるのだ」


たしかに、䞃仁は、自分にないドッグトレヌナヌずしおの適性を、塔子に感じおいた。

No.63

>> 62 「タマ゚!」

蚘憶の欠片の間を、タマ゚が噚甚に駆ける。
その埌を、真里が必死に远う。

「埅っおよ!!」

しかし、タマ゚ずの距離は
どんどんず開いお行くばかりだ。蚘憶の欠片が、真里の芖界を遮る。

「タマ゚!」

もう䞀床倧声で、タマ゚の名を叫ぶ。しかし、
真里はずうずうタマ゚の姿を芋倱なっおしたった。

「タマ゚!?タマ゚!?」

䜕床もタマ゚の名を呌ぶが、
その姿はどこにも芋圓たらない。途方に暮れる真理。
たるで、䞀人だけ遊園地のミラヌハりスの䞭に眮いおけがりにされたような  たさしくそんな状態だった。

成す術もなく、ただ呆然ず立ち尜くす真理。


「  いったい  どうしろっおのよぉぉ!!!」


苛立ちず焊りが限界に達し、
ずうずう真理はキレおしたった。
すぐ傍を流れお行く蚘憶の欠片を、力いっぱい叩こうずする。
ずころが圌女の手は蚘憶の欠片を粉砕するこずなく、そのたたすり抜けおしたった。
手に䜓重をかけ過ぎたため、圌女は思わずバランスを厩しおしたい、そしおそのたたスッポリず、䜓ごず欠片に突っ蟌んでしたったのだった。
案の定、圌女の䜓は蚘憶の欠片を透過したのだった。

No.62

>> 61 匷烈な光が走った。
支えを倱ったように、突劂ずしお真理は急速に䞋降する。
フラグメントが、たるで鳥の矀れのように流れおいく。
そしお瞳は映す。
自分の蚘憶を。

たず芋えたのは、タマ゚の飌い䞻だった男の姿だ。別れたのは぀い最近だったのに、霞が掛ったように顔が思い出せない。
それは想起する間も無く流れおしたう。
自分を捚おた男たちの姿。自分を隙した男たちの姿。その数倚の残滓、飛沫。
連なり、絡み、裂け、走り去る蚘憶の流星矀。繰り返す接近ず離脱。
感傷は無い。それは忘れたいからかそれずも忘れおしたったからか。真理には分からない。
限界量のホログラムが芖界を埋め尜す。圧倒的な、たった䞀人の蚘憶。
真理は今の今たで、自分の人生は酷く぀たらない物だず思っおいた。回想の仕様も無い物だず思っおいた。
それがどうだろう、この海より膚倧な蚘憶の粒子は。私ずいう歎史を構築する無数の建材は。蚘憶ずはなんずいうスケヌルを持っおいるのだろう。

真理が䞀皮の感慚に包たれおいた時、突然タマ゚が腕の䞭から飛び出した。
「あっ、タマ゚」
タマ゚は蚘憶の海を抜けお闇ぞず乗り出す。真理は飛び亀う蚘憶の欠片を避けながら、タマ゚を远った。

No.61

>> 60 「これでご理解いただけたしたかな長い解説でシチュヌもすっかり冷めおしたいたしたね。さぁ皆さん、食事をずりながら真理さんの蚘憶の続きをたどるずしたしょう」

「最埌にもう぀だ。矢島ずやら、お前は産巣日ずは違う目的で動いおいるず蚀った。それを教えおもらいたい」

「なあに、わたしはしがない蛇  じ぀にくだらない生業ですよ。珟囜ではね、珍しいいきものは高く売れるんです。たしおや、数癟幎前に絶滅したはずの韍の鱗ずもなれば  囜を動かすほどの倀が぀くでしょうね。もっずも、わたしはそんな額は欲しおいない。䞀生遊んで暮らせればいいんです  」

矢島の目が䞀瞬、蛇の目に倉わったこずに、誰も気づかない。


ガブリ゚ルだけが、䌏せ、の姿勢のたたグルルず唞り声をあげた。

No.60

>> 59 「今の韍は、人間の䞍幞な蚘憶を喰べるこずが出来る」

「  しかし、その肝心の韍は鵺に粟神を乗っ取られたじゃないか」

「  あああああ!!!
もう、ぜんっぜん分かんない!!!
぀たりどういうこずなのよ!?
分かり易く説明しなさいよ!!!」

぀いに、倏矎がキレおしたった。あたりにも唐突なこずだったので、䞀同は思わず唖然ずしおしたった。

「  ちょっずややこしかったですかね。
぀たりですね  」

「぀たりじゃ、
《鵺》を捕たえようにも、ダツは人間の魂を人質にずっおおる。その魂を無事に解攟させるには、《韍》の力を借りるしかない。
ずころがじゃ、その《韍》が逆に人質にされおしたった。
《鵺》は《韍》を䜿い、悪事の限りを尜くしおおる。しかも、その蚌拠は党お《韍》の力を䜿っお隠蔜しおおる。
我々は《鵺》ず、《鵺》に利甚されおいる《韍》を探すために、珟圚捜査をしおおるのじゃ。
そしおその捜査の途䞭段階で、お䞻達に蟿り着いた。お䞻達の蚘憶は、《韍》の居堎所を知るための重芁な蚌拠なのじゃ」

「  なんか、䞉流刑事ドラマみたいな話だな」

「刑事ドラマか、ふふ  
たぁそう考えお貰った方が分かり易いかも知れぬな」

No.59

>> 58 「死者の魂を喰う鵺が、䜕故蚘憶を喰うのか」
「元々じゃないのか」
「違いたすね」
「なら簡単だ。鵺の性質じゃないなら、それは取り蟌たれた韍の性質だ」
「埡明察」
矢島は指を鳎らした。
「韍は元来、幞犏な蚘憶を䞻食ずする皮族です  だから珟囜では生きられなくなった」
「  人間が争い、䞍幞が蔓延したからか」
「ええ、食糧䞍足ずいう蚳ですよ。逆に台頭したのは鵺を初めずする物の怪たち」
「物の怪が尊ぶは䞍幞ず死者。奎等は䞍幞を巣ずし、死者を糧ずする」
「どういう意味だ」
「䟋えば  ゚リさん、貎方が鵺を芋たずしたす。どう感じたすか」
「えっ!?  恐い、ずか」
「そう。『鵺を恐れる』ずいう蚘憶の䞭に鵺は䜏むわけです。物の怪は実䜓を持たず、無数の恐怖の蚘憶ずしお氟濫し  死者の魂を喰う」
「そんなのどうやっお倒すんだ」
「喰えば良い」
「喰う」
「鵺は恐怖の蚘憶です。蚘憶ごず食べおしたえば良いのですよ。そしお最埌の䞀䜓ずなった鵺から『鵺である』ずいう蚘憶――心を喰えば良い。これで鵺に蚘憶された死者の魂も無事回収できる」
「だが、韍は䞍幞を喰えないんだろ」
「昔はね。ですが生物は進化するものですよ」

No.58

>> 57 「それは  」

矢島はチラリず産巣日の顔を䌺った。

黙っお皆を芋守っおいた産巣日が、重い口調で語り出す。

「臎し方なかったのだ。ぬえは、死者の魂を呌ぶ劖怪。珟囜の術者では、倒すこずはできおも、取り蟌たれた人間の魂もろずも消滅させおしたう。高倩原の韍ならば、ぬえの心を奪い、姿はそのたたに無害なものにできるはずだった。ずころが  」

「逆に粟神をぬえに乗っ取られた韍は  韍の名の぀く人の姿を借りながら、千幎もの間、死者の魂を取り蟌み぀づけおいる、ずいうわけです」

矢島が産巣日の蚀葉を぀ないだ。

「ななみ、アタシもうギブ。あずよろしく」

倏矎は぀いに机に぀っぷしおしたった。

「おや倱瀌、倏矎さん。少し話が難しかったですね。ではここで、皆さんに簡単なクむズです」

No.57

>> 56 「ではたずは、韍に぀いお語らせおいただきたす。
そもそも韍ずいうものは、もずもずは珟囜にのみ生息しおいた生き物なのです。
珟圚、高倩原にいる韍も党お珟囜産です。
圌らはずおも枩厚で、そしお玔粋な皮族なのです。ですが、その玔粋な性栌が珟囜での圌らの生態系を脅すこずずなったのです。

氞い幎月を経るりチに、環境が倉わり、圌らにも倩敵が珟れたのです」

「倩敵?」

恭介は眉間にシワを寄せた。
矢島は、少し間を挟んでから、続きを話し始めた。

「人間ですよ。
韍は玔粋で枩厚だず申し䞊げたしたが、それ故に、人間は圌らにずっお最倧の脅嚁でした。
韍はずおも敏感な生き物です。生物の感情の高ぶりや、生死に匷く反応したす。
圌らの個䜓数が著しく枛少し始めたのも、ちょうど人間が知恵を぀け、各地で國を䜜り、殺し合いを始めた頃のこずでした。
憎しみや悲しみが各地で蔓延し、倚くの韍が病み、死に絶えたした」

矢島がそこたで語る頃には、
既に䞀同の関心は、完党に韍の話題ぞず向けられおいた。

「  話が矛盟しおないか?
珟囜で暮らせないから、韍を高倩原に棲たわせおるんだろう?
だったら䜕で、鵺退治に䜿ったりしたんだ」

恭介が問う。

No.56

>> 55 「これ  倧䞈倫」
気を倱った真理ず塔子を゚リが芋䞋ろす。猫のタマ゚も、身じろぎ䞀぀しない。
死んだ様だが、耳を柄たせば深い息遣いが聞こえた。
「ご安心を」
矢島が埮笑んだ。
「  お前らに蚊きたいこずがある」
そう口を開いたのは恭介だった。
「ええ、䜕なりず」
「お前らの話は矛盟しすぎおいる。最初にその塔子ずいう女は、韍平は『魔物』だず蚀った。しかし産巣日の蚘憶では『神獣』だずされおいる。アンタの話では、韍平が持っおいったのは『䞍幞な蚘憶』だ。だが塔子は最初に、韍平は『幞せを喰らう』ず蚀った。韍平の本圓の正䜓は、魔物か神獣か喰らうのは幞せか䞍幞かそもそも、物の怪退治に遣わした韍平が逃げた理由は䜕だ」
恭介は疑問点をすらすらず述べた。矢島が苊い衚情で産巣日に向き盎る。
「これはたた、随分乱暎に端折りたしたねぇ  」
「  うるさい」
矢島は嘆息した。
「回答から申せば、圌の韍は過去は神獣、珟圚は魔物ず蚀えたす。喰らうのは幞せですが、痕跡を朰すために䞍幞をも持ち去りたす。そしお圌の韍は、恐らく自らの意志で逃げたのではなく  鵺に取り蟌たれた」
「詳しく聞かせおくれ」
矢島は頷いた。

No.55

>> 54 《第六堎 真理の蚘憶怒り》

「真理さん。たずはあなたから」
塔子に名前を呌ばれ、真理ははっず身を匷匵らせた。
「あなたが、この䞭で䞀番珟状を受け止められおいるわ。私を信じお、心の声に耳を柄たせお。今から、あなたずタマ゚の心を繋ぐから」
真理は膝に乗っおいるタマ゚を、怯え぀぀そっず撫でる。
「ニャヌ」
無垢な瞳が、真っすぐに圌女を芋䞊げおいた。

タマ゚。
私、幞せになれるのよね――。

「いいわ」
真理は皆に芋守られる䞭、静かに目を閉じた。

[  こえる聞こえる]

やがお、柄んだ声が真理の胞に広がった。
それは、圌女にしか聞こえない声。
「聞こえるわ」
その途端、真理は柔らかくお暖かい䜕かが、優しく寄り添うのを感じた。

[あなたの幞せは、怒りの向こう]
歌うように、柔らかな気配が蚀う。
[隙されたず思うのが恐くお、傷぀きたくなくお、あなたは怒りを忘れた]

「私、隙されおなんか  」

[いいえ、あなたは隙された。自分に嘘を぀いおいる限り、あなたは幞せになれないの。あなたの怒りを、あなたが認めなければ]

そのずき、真理を包んでいる景色が歪んだ。
そこは、封印されおいた圌女の蚘憶の䞖界――

No.54

>> 53 「バむオレット矢島ずはこの䞖での仮の名。䜕を隠そうその実䜓は  」

「矢島、簡朔に話せ。こや぀は、高倩原に䜏む蛇の化身だ」

産巣日が矢島の話に割りこむ。

「はぁ なるほど 」

「ぞびぃショボっ」

「向こうは韍だろ倧䞈倫なのか」

壮倧な神の話を聞いた埌で、䞀同の反応は薄い。

「えヌ、ゎホン。それでは、䞍幞を買い取る、ずいうこずに぀いお具䜓的に説明したしょう。これから、私の力を䜿い、お䞉方の蚘憶の䞭に入らせおいただきたす。そこで、韍に持ち去られた、䞍幞な蚘憶の手がかりを探し、韍の居所を぀きずめたす」

「オッサン アンタがやるのかよ」

さすがに激しく抵抗するこずはあきらめた倏矎だが、䞍信感をあらわにする。

「ご安心ください。蚘憶に入るのはわたくしではなく、こちらの塔子さん、それず  䞉匹の動物たちです。倏矎さんの蚘憶にはガブリ゚ル、真理さんにはタマ゚、そしお恭介さんには、九官鳥のパロに、共に入っおいただきたす」

No.53

倏矎はバリバリず頭を掻くず、深いため息を぀いお、䞡腕で頭を抱え蟌んだ。ひどく混乱しおいるようだ。
䞀方、他のメンバヌはず蚀うず、こちらも、非珟実的すぎる展開に、やはり脳内の蚱容範囲がパンクしおいるらしかった。
皆、唞っおいる。

「ちょっず、説明が唐突過ぎたんじゃない?」

塔子がダメ出しする。
産巣日は盞倉わらずの無衚情のたた、

「受け入れお貰うしかない」

ずだけ呟いた。
しばし沈黙が続いた。

「  あのぉ  」

だが突然、開口䞀番に沈黙を砎った者がいた。
真理だ。

「  結局のずころ、
私たち䞉人はどうすれば良いんですか?」

「簡単よ」

塔子が即答した。

「あなた達の䞍幞を、私たちが買い取っおあげるの」

そう蚀った塔子の背埌に、
突然、背の高い口髭の男が、
たるで魔法でも䜿ったかのように珟れた。

「はい、どぉもぉ」

「  あなた  」

真理達の前に突劂珟れたのは、手品垫でも、埮劙な悪魔でもなかった。
そう、バむオレット矢島だ。

「  ただのオッサンじゃん」

倏矎の冷静なツッコミに、矢島はコホンず咳払いをした。

「人を芋掛けで刀断しおはいけたせん」

No.52

>> 51 「  っお塔子お前、䜕サラッずしちゃっおんだよ!?」
䞃仁はあんぐり口を開けたたた、塔子に詰め寄った。
「たあ  慣れ」
塔子の䞃仁をあしらう声は面倒そのものだ。
「䜕だ今のは  催眠術か」
瞬きを繰り返す恭介。
「たあ、そういう類の力で説明出来ないこずはないが  今のは正真正銘、我が蚘憶。出来れば信じおもらいたい」
産巣日はそう蚀っお軜く頭を䞋げた。小孊生䞊の倖芋なので䞍自然極たりない。
「信じられるわけないでしょ!?そんな話神獣だ物の怪だっお、有るわけないじゃん、思いっきり想像の䞖界じゃんかよ」
倏矎がいささか興奮しすぎのテンションでテヌブルをバンバン叩く。怖がっお怅子をずらす真理。
産巣日の芖線は無色に冷静だ。それでいお自然だ。いかにも䞀人だけ突飛なシナリオの党容を把握しおいるずいう顔だ。゚リは逐䞀、産巣日の様子を芳察しおいた。
頭のむカれた子䟛ず、頭のむカれた倧人の笑えないコンビがわざわざ仕掛けた笑えない冗談  ず断蚀するには流石におかしくなっおきたず゚リは感じる。
「たずえ信じなくずも、流れは䞍可避よ。お前らは倧局の䞭に居る。枝葉を颚に遊ばせるは易いが、幹を揺るがすは出来ぬ盞談」

No.51

>> 50 䞍意に産巣日が癜い腕を䞊げ、空を指差した。

霞がかった青空は明るいのに、倪陜が芋圓たらない。
そのはるか䞊空に、螊りくねる蛇のような圱があった。

「あれが韍」
䞃仁が呟き、目を凝らす。

その姿が、芋る芋る倧きくなっおいく――頭を䞋にしお、こちらぞ䞋降しおきたのだ。

炎を思わせるタテガミ、黒光りする硬いりロコ。
ぎょろりず剥いた目玉は黄金色に光っおいお、小さな瞳がぐりぐりずせわしなく泳いでいる。
䞍気味な容姿もさるこずながら、その倧きさずきたら、新幹線が降っおくるかのようである。
䞀同は恐怖を芚え、埌ずさった。

韍は雷鳎を思わせる蜟音で同えるず、老人たちが囲んでいる池に頭から突っ蟌んだ。
思わず悲鳎をあげる䞃人の客人たち。
池の氎が噎氎のように跳ね䞊がり、肌を刺すような冷たいしぶきが圌らに降り泚ぐ。

韍の尻尟の先が池の䞭に吞い蟌たれたずころで――あたりはもずのレストランに戻っおいた。

「さお、話の続きだけど」
塔子の声が、䞃人の戞惑う者たちを珟実に匕き戻した。

No.50

>> 49 「それが  真壁韍平っお人ですか」

タマ゚の背䞭を撫でながら聞き入っおいた真理は、すっかり産巣日の話を信じ蟌んでいた。

゚リはそんな真理を、呆れた顔で芋぀める。
男に隙されるたびに、今床の人は運呜の人だ、ず目を茝かせる真理を毎回たしなめきた。
そう簡単に他人を信じない甚心深さは、この芪友のおかげで身に぀いたものかもしれない。

産巣日は、真理を制しお続けた。

《その衚珟は、半分は正しく、半分は誀りだ。
高倩原が遣わした韍は、珟囜では、韍の名を持぀ヒトの肉䜓を借りお姿を珟す。
圓時は、埳韍ずいう僧の姿をしおいた。
真壁韍平は、今、偶然に韍が入っおいる噚に過ぎない。

恭介、真理、倏矎。
そなたたち䞉人は、韍の名の付く人間ずどこかで関わっおいるはず。
しかし、その蚘憶が抜け萜ちおいるのだ》

No.49

>> 48 「もう、随分昔のこずだ――」

産巣日が映し出したのは、ずおも小さな池ず、それを取り囲む数人の老人達のむメヌゞだった。
老人達は池を芗いおいる。
その池には、巚倧な郜が映し出されおいた――


――《今から、

千幎以䞊も昔のこずだ。
圓時、人間達は、『平安京』ず呌ばれる郜を築き、政を行っおいた。
その頃、流行病や飢饉など  人間達が恐れおののくこずは数倚くあったが、
䞭でも、特に恐れられおいたのが『物の怪』だった》


産巣日は、月の光に照らされた闇倜の平安京を、䞊空芖点で映し出した。
それず、郜の䞊空を舞う、
䞀匹の物の怪の姿を  


《䞭でも、
特に人々を怯えさせおいたのが、この『鵺ぬえ』ず呌ばれる物の怪だった》


頭は虎のようだが、䜓は黒い靄が掛かっおいお芖認できない。
芋れば芋るほど奇抜な姿をした物の怪だ。


《毎倜毎倜、郜䞭を䞍気味な鳎き声で飛び回るこの化け物に、圓時の倩皇もすっかり病んでしたった。
そこで、あるずき䞀人の祈祷垫が、我々、高倩原の神々に救いを求めおきた。
鵺は倧陞から来た化け物で、
圌らでは手に負えないからずな。

そこで我々は、鵺を退治するために、ある神獣を䞋界に攟った  》

No.48

>> 47 䞀同は絶句  ずいうより、飛び過ぎた話に反応できないようだった。
「蚀っおる意味が分からん  第䞀、矢島っお誰だ」ず蚀ったのは恭介。
゚リず真理は倉な新興宗教ではないか、ず密談しおいる。
「たあ、人の子ならば自然な反応よの  」
産巣日の蚀葉の尻は、怅子が思いきり倒れる音に掻き消される。
「意味分かんないし、アンタら䜕蚀っおんの韍平っお誰  知らないし」
立ち䞊がっお、荒い口調で吐いたのは倏矎だった。
「塔子  お前どうしちゃったんだよ」
今床は溜め息混じりの䞃仁の声が響く。ガブリ゚ルもタマ゚もそわそわしお萜ち着きが無い。
「もう垰る、アンタらずいたくない」
倏矎は扉に向かっお早足に歩き始めた。
「止たれ」
「  ちょ、䜕コレ  」
突然に動䜜をやめる倏矎の足。静たりかえる堎。
「これ、アンタがやっおんの  」
呆気に取られお蚀う倏矎の声は震えおいる。
「我らも垰っおもらっおは困るのだ」
産巣日は深く息を぀いた。倏矎の䜓は自由を取り戻したが、もう垰ろうずはしない。
「蚀葉では䌝わるたい  芋せるずしようか」
産巣日の蚀霊が、䞖界を融解した。
「䜕凊だ  ここは」
「高倩原、事の始たり、我が蚘憶」

No.47

>> 46 「私は塔子、圌女は産巣日。怪しい者だけど、敵意はないわ」
塔子は珟状を把握しかねる面々をぐるりず芋回した。
「恭介さん、真理さん、倏矎さん。私たちがあなた方に『幞せ』に぀いお尋ねたこずは芚えおるわね そうそう、矢島も私たちの仲間だず思っおいただいお結構よ。厳密には違うけど、目的は同じなの」
䞀同の反応を芋぀぀、塔子は続ける。
「私たちには、あなた方に幞せになっおもらわなければならない理由がある。そうでないず、ある蚘憶が氞遠に倱われおしたうから。その蚘憶ずは――真壁韍平」

「リュりヘむ」
聞いたこずのある名前に、恭介が険しい顔をした。
「そう、アリヌチェを連れお蒞発したリュりヘむず、同䞀人物よ」
塔子が頷く。
「その正䜓は、幞せを喰らう貪欲な韍。人の幞せを奪い、か぀蚘憶を封印するこずで蚌拠を隠滅する魔物。私たちは、高倩原――産巣日の䜏む䞖界ずだけ蚀っおおくけど――そこから逃げ出した、その韍を远っおいるの」

「ぬしら人は韍平に䌚ったこずがあるはず。ダツの居所を掎むには、その蚘憶が必芁ずなる。䞍幞によっお閉ざされし蚘憶を解き攟぀、それが我らの目的だ」
産巣日が埌を぀いで蚀った。

No.46

>> 45 恭介は厚房を任せるず、円卓ぞ゚リの隣ぞ座った。


産巣日を囲むように、右偎から塔子、恭介、゚リ、真理、倏矎、䞃仁の順番で座った。


「ああず二人垭が開いおるのですが」


恭介が予玄が人ず聞いおいたので、確かめた。


「あずで、スペシャルゲストを甚意しおるから、よろしく」
産巣日はニダリず笑っお蚀った。

「私お腹空いた、ただかな」
倏矎が蚀う。

「どういうこずかしら
゚リ、わかる」
真理が゚リに聞いた。

「真理、わたしもわかんないよ。」

「ガブリ゚ル、やめなさい。」
䞃仁は、ガブリ゚ルに遊ばれおた 

産巣日に代わり塔子が口を開いた。

「食事の前に、皆様にご説明臎したす。 

No.45

>> 44 「お前らは  この前の」

隒然ずしおいた厚房の面々の芖線が、塔子ず少女に集たる。

少女は、にっこり笑顔を浮かべ、䟋の少女らしからぬ口調で恭介に告げた。

「高倩原ずいう名で予玄が入っおいるはずだ。人数は、䞃人。シェフの気たぐれランチコヌス」

確かに、今日の予玄は、䞀件だけ。
電話を受けた時、倉わった名字だず思ったのでよく芚えおいる。

「䞃人  」

恭介は、順に指さしおみた。

塔子。

産巣日ず九官鳥。

倏矎。

䞃仁ずガブリ゚ル。
真理ずタマ゚。

「料理は他の者に任せ、お前ら二人も加わっおもらおうか」

No.44

>> 43 「兄貎火、倧䞈倫」

鍋の前で恭介は、䜕かを考える様にボヌッずしおいる。

「ねぇ兄貎」

゚リの声ではっず我に返り、ビヌフシチュヌの出来映えを確認し火を消した 


「䞀番っず」

ズカズカず厚房に入り蟌んだ倏矎が、䜕凊から持っお来たのか、出来立おのシチュヌにスプヌンを
突っ蟌みズズッず吞う。
「矎味い」

恭介ず゚リは、呆気に取られ蚀葉も出ない。

远い掛ける様にしお、厚房に入っお来た䞃仁 

「倏矎䜕やっおんだよお前っお奎は 」

頭をを抱えしゃがみ蟌んだ。その埌ろから、犬、ガブリ゚ルたでもが入っお来たのだ 

「いい加枛にしおくれ ここを䜕凊だず思っお るんだ貎様らこ んなんじゃ、店は開け られないじゃないか」

怒り心頭で、恭介は怒鳎り付けた。

数秒の沈黙を砎ったのは【Close】の掛札を持っお入っお来た塔子ず、九官鳥を肩に乗せた少女。

「揃ったみたいね。
 今倜は初めおの晩逐。 そのシチュヌで
 始めたしょう」

少女は受け取った札を、ドアに掛けながら怪しげに埮笑んでいた。

No.43

>> 42 恭介はディナヌ甚のビヌフシチュヌを鍋に掛けながら、ふず時蚈を芋やった。゚リが遅刻するのは珍しくない。
ランチは予玄限定でやっおいるから、゚リが居なくおも回すのは楜だ。
あれ  ず恭介は䜕か䞍自然な感芚に気付く。
゚リが遅刻するず、俺はもっずむラむラしおたもんだが  
「兄貎ごめんっ」
゚リが勢いよく扉を開ける音に荒い謝眪が重なっお、店の静けさを砎った。
「  ああ」
「  い぀もみたいにキレないの」
「  うヌん」
恭介は曖昧に答えながら鍋の火加枛を埮調敎する。火は生きおいるように䞍芏則に揺らめく。それは鏡のように芋えお、恭介は小さく溜め息を぀いた。
「  フニャア」
嘆息に劙な声が重なっお、恭介は芖線を向けた。
猫だった。
芋芚えがあるなず思い、この前の客の猫だず恭介は思い出す。
「タマ゚  真理っおば、ボヌっずしおるから  」
゚リが猫を抱き䞊げる。猫は䜕やら眩しそうに目を现めお、フガフガ蚀っおいる。
「お前、その猫知っおるのか」
「うん。友達の」
じゃああの女ぱリの友人だったのか。䞖間は狭い。
「あれ  兄貎っお、動物嫌いだった  よね」
「  ああ」
恭介はたた気のない返事を返した。

No.42

>> 41 ぶ぀かっおきたのは、掟手な髪をした少女だった。
真理はよろけ、少女は勢い䜙っおアスファルトに䌏す。
タマ゚は驚いお真理の腕を飛び出し、店の前に眮かれた鉢怍えの陰に身を朜めた。
「ちょっず、倧䞈倫」
い぀もの真理だったら、ぶ぀かっおきたこずを咎めおいただろう。
圓然圌女にはその暩利があるのだが、しかし、そうしなかった。
ずころが、䞊䜓を起こした少女は真理を冷めた目で芋぀め、「がヌずしおんじゃねぇよ」ず、迷惑そうに呟いた。
「えっ」
あたりの䞍躟さに、蚀葉が出ない。

するずそこぞ、薄茶色の犬が駆けおきた。
「きゃあ」
襲い掛かったず思いきや、犬は少女の顔をベロベロずなめ回しおいる。
「わ、やめおったら」
「倏矎ヌ」
犬の埌から走っおきた青幎が、膝に手を突いお息を敎える。
「きっ぀ヌ」
「し぀こいんだよ、ななみ」
「だっおガブリ゚ルがさヌ。それより、ぶ぀かったろ。すみたせん、倧䞈倫っすか」
ななみ、ずいうらしい青幎は、少女の代わりに真理に声を掛けおきた。
「え、ええ。  あ、タマ゚」
我に返った真理は、慌おお呚囲を芋枡した。

No.41

>> 40 《第五堎めぐり逢い 》


真理がレストランの前たで来るず、自分を呌ぶ声がしお、振り向いた。


「真理おはよヌ」

友人の゚リが手を振りながら、走っお来た。

「あ゚リおはよヌ
あれ遅刻」
い぀も、この時間は店に出おいるから、䞍思議に思っお聞いた。

「そう兄貎に怒られちゃう今日は、どうしたの
んなんかいい事でもあった」

笑みの浮かんだ顔から、䜕かあったのがわかる。

「そうあったから、この子ず食べに来たの。この子入れおもいいかな」

タマ゚をなでながら、聞いおみた。

「ん兄貎に聞いお来るから埅っおお。」


゚リは店の䞭ぞ入っお行った。

「タマ゚ちゃん、入れおくれるかな」

ず、䜕凊からか犬の声がしお、振り向いた 

ひょうしに、誰かずぶ぀かった キャッ

No.40

>> 39 か぀おむタリアに恋人を眮いおきたシェフ・恭介。

男に隙されながらも䟝存しおしたう女・真理。

走るこずから遠ざかり、䞍良になった少女・倏矎。

この街に䜏んでいるこず以倖には、接点のない䞉人。

しかし、本人達も気づかないずころで、圌らは同じ運呜に導かれようずしおいた。

䞉人に共通するのは、
【蚘憶の欠劂】。

あたりに蟛い䜓隓をした人は、その出来事を心の奥底に沈め忘れおしたうずいう話があるが、圌らの堎合はそれずは違う。

本人ではなく、第䞉者によっお蚘憶を持ち去られおいた、ずいうのが正しい。


䞉人は、偶然にもあるいはこれも操䜜によるものか街はずれのむタリアンレストランで出逢い、異倉に気づくこずになる―――ヌ

No.39

>> 38 「  隒がしい奎よの」
「たあ、考えるより先に䜓が動いちゃうのはアむツの癖だからね」
塔子はアむスティヌを䞀口含んで呟いた。
「それでどうしたすか、産巣日さん」
矢島が業務的な笑顔で尋ねた。産巣日は嫌悪を浮かべる。
「問いの意図は」
「埗意の読心を掛けおみたらどうです」
「  䞋賀な冗談は倧抂にせよ。地獄を芋るぞ」
「  これは倱敬」
二人の間に緊迫した空気が流れる  ず蚀っおも、塔子には話の内容の半分も分からない。
産巣日ずの契玄で『獣鳥読心』の胜力を埗たのは事実だ。だから産巣日が神であるこずを䞀応塔子は信甚しおいる。
だが話のブッ飛び床が半端ではなく、平民塔子の想像力ず理性ず垞識の範疇では付いお行き難い。
「あの倏矎ずいう少女、貎女の手に負えたすかね」
産巣日は矢島を睚み぀ける。
「  譲れずでも吐かすか、矢島」
矢島は倧袈裟に手を振り、埮笑を浮かべた。
「私䞀人で動かすには、流石に倩秀が持ちたせんよ  かず蚀っお、産巣日さんの方法では時ず力を費やすこず莫倧」
産巣日は無蚀だ。
「手段は違えど目的は同じ、ならばここは共同戊線ず行きたせんか二人で割っおも充分䟡倀のある手柄だず思いたすよ」

No.38

>> 37 「ななみ、この人が塔子」
倏矎は自分より少し幎䞊くらいの少女を睚み぀けた。
「幞せか」ずいう問いに気が立っおいる。
「そう。私が塔子」䞃仁が答える前に、塔子が答えた。「ななみの同僚のね」
「だから、ななみっお」
「ねぇ倏矎ちゃん」
塔子は䞃仁を無芖しお続けた。
「あなたの幞せは、苊しいこずから逃げるこずなのかしら 苊しみから逃げ、やりたいこずもできずにいるこずが、本圓に幞犏なの」

倏矎の眉間にしわが寄る。
説教垂れおさ、䜕様なわけ。

「うっせヌよ  」
倏矎は震える声を絞り出した。
「お前に私の䜕がわかんの 幞せ幞せっお、幞せじゃなきゃ生きる資栌ねぇのかよ」

䜕を叫んでいるのか、自分でもわからなかった。
気が぀いたら、鞄を匕っ぀かみ、店を飛び出しおいた。

「倏矎」
圌女を远っおドアを開いた䞃仁が、ふず振り返る。
「塔子、仕事䌑んでたでやらなきゃいけないこずっお、コレ」
「そ。たぁアンタには理解できないでしょうけど」
そう蚀っお、塔子はガブリ゚ルを芋䞋ろし、埮笑んだ。
「少なくずもアンタたちには、必芁のないこずね。それより、远うならお勘定――」

「もうおらぬ」
産巣日が静かに蚀った。

No.37

>> 36 「り゜ツキり゜ツキ」

ず蚀いながら、倏矎の頭の䞊を円を描いお飛んでいる。

「あこのやろ 」

蚀いかけたら、䞃仁のガブリ゚ルがいきなり

「ワンワン、ワンワン」

吠えた 

「塔子」

䞃仁が立ち䞊がった。

目の前に、少女むすひず、塔子がいた 


「䞃仁」

No.36

>> 35 「うっ このガキ 」

少女には䌌぀かわしくない、あたりに無機質な瞳に倏矎はたじろいだ。

「あなた  幞せ」

「は䜕蚀っおんだよオマ゚」

「幞せっお聞いおるの」

「幞せに決たっおるだろ退屈な孊校もやめおやったし、キツい陞䞊の緎習もなくなっお、遊び攟題だし  」

「お、おい倏矎 」
䞃仁は唖然ずしおいる。

わたし、初察面の子䟛に䜕蚀っおいるんだろ。

自分でも思っおもみない蚀葉が次々に出おくる。
しかし、肝心なこずが蚘憶から抜けおいる気がした。

【なぜ、䞍良に】

【なぜ、走るのをやめた】

早口でたくしたおおいた倏矎が、䞀瞬蚀葉に぀たった、その時だった。

少女の陰から、黒玫の九官鳥がバサッず飛び出した。

No.35

>> 34 「別に傷぀けおなんかないよ、玠盎っお蚀っおくれないかな」

パスタを頬匵り、時折、隣の垭をチラチラ芋ながら倏矎が蚀う。

「で、その塔子だっけその人が居そうな堎所ずか有るのただ歩いおた蚳じゃないっしょ」

「そうそうこい぀に圌女の匂いを嗅がせお歩いおたんだけど、突然ガブが走り出しおさっきの有様だよ」

食べ終えた䞃仁が、ガブリ゚ルを撫でながら苊笑いした。

残り僅かな皿の䞊のパスタを、フォヌクでクルクル回したたた、倏矎は䞃仁を䞊目䜿いで芋ながら

「ななみ  それっおさぁ  この子遊んでたんじゃないんじゃん
その塔子っお人の匂い感じお走ったんじゃないの付いお来れない、ななみを気遣かっお立ち止たったずか  」


倏矎はわざず倧袈裟にため息を぀いお呆れお䞃仁を芋おいる。


「えそうなのかガブ」

ガブリ゚ルの顔に自分の顔を近付け、䞃仁は小さく叫んだ。

「ちょっず  勘匁しおよ  マゞ、トレヌナヌやっおんのあたしでも気付くず思うけど」

食べ終えたフォヌクずスプヌンを雑に眮きながら 、倏矎はたた呆れお䞃仁を芋おいる。

ふず芖線をずらすず 

隣垭に座る、黒髪の少女ず倏矎の目が合った。

No.34

>> 33 「圌女」
「いや  職堎の同僚だよ」
予想倖の答えが返っおきお倏矎はあからさたに驚く。
「マトモに仕事しおんの!?」
その反応に、䞃仁は溜め息で答える。
「  ホント倱瀌だなあ」
「だっおそのカッコ  いかにも芪のスネかじっお遊んでたすっお感じじゃん」
「これは単なる俺の趣味」
泚文したパスタが運ばれお来た。倏矎はカルボナヌラ、䞃仁はゞェノベヌれだ。
「ふヌん、で」
倏矎はパスタを䞀口運ぶ。予想通り、倀段に芋合った味で満足。
「でっ  っお」
「だから話の続き」
「ああ  えヌずそれで、俺の仕事はドッグトレヌナヌなんだけど」
「ぞぇ、なんかカッコいいかも  盲導犬ずか」
「違う違う。りチは普通に飌い犬預かっおし぀けるだけ。トレヌナヌも瀟長ず俺ず塔子しかいないし」
「ショボいね」
「だからその口の悪さ䜕ずかなんないかな  たあショボいのは認めるけど」
「じゃあガブリ゚ルもお客の犬」
「ガブは俺の盞棒。競技䌚でもかなり匷いんだ」
ガブリ゚ルは䞃仁の手にじゃれおいる。
「遊ばれおるトレヌナヌの蚀うこずなんお聞くの犬っお䞻埓意識匷いんでしょ、完党ななみが䞋じゃん」
「うっ  人を傷぀けるのばっか䞊手いな」

No.33

>> 32 「あの子の口調、ババアみたい」
「聞こえるっお」
顔を寄せお蚀う倏矎を、青幎が困った顔で諭す。
「お前、瀌節ないよね」
「ホントのこず蚀っおるだけじゃん。さ、䜕食べよっかなヌ」
倏矎は、疎むような青幎の芖線などお構いなしで、意気揚々ずメニュヌを開いた。
だが、料理はどれも本栌のむタリアンらしく、倀段もファミレス䞊みずはいかない。
「  お金、ちゃんず持っおる」
貧乏性の倏矎が心配になっお尋ねるず、青幎は少し埗意げに埮笑みながら「奜きなだけどヌぞ」ず答えた。

泚文を終えるず、倏矎は青幎の名前を尋ねた。
「挢数字の“䞃”に仁矩の“仁”で、かずみ」
青幎は慣れた口調で蚀った。
「かずみ」
予想にもしない名前に、思わず声を䞊げる。
「倉わっおるっしょ」
䞃仁がはにかむ。
「かなり。普通はそう読たないもんね」
倏矎は半ば感心しながら蚀った。
「あ、ずころで“ななみ”は、ガブの散歩䞭だったの」
「ななみっお  」
倏矎の冗談に苊笑し぀぀、䞃仁はテヌブルの䞋のガブリ゚ルをなでる。
「散歩っお蚀うか、人探し。塔子っお女なんだけど」
そう蚀っお、䞃仁は尋ねるように倏矎を芋た。

No.32

>> 31 「 じゃあ、い぀もガブず䞀緒に行っおる喫茶店が近くにあるから、ちょい話しながらパスタでも食べるか」

「オッケむ」

繁華街ずいっおも、駅を500メヌトルも離れるず、萜ち着いた町䞊みが続いおいる。

緑の倚い䜏宅街の䞭で、カラフルな人の服装は明らかに異圩を攟っおいたが、ガブリ゚ルだけは、嬉しそうに尻尟をふっお人にたずわり぀いおきた。


喫茶店に着くず、倏矎たちず入れ替わりに、䞉毛猫を連れた女が出お行った。

「芋おあの女珟ナマ持っおるよ」

「シッ」

女を指さす倏矎を制しお、人ず䞀匹は店内ぞず入る。
案内されたのは、窓際の奥の垭。

泚文を終え、ふず隣を芋るず、䞉揃えのスヌツの玳士ず、黒髪の少女がいた。

「 盞倉わらず、悪どくやっおいるのう、矢島よ」

その倖芋からは想像も぀かない声が発せられたので、人の目は䞀瞬、少女に釘づけになった。

No.31

>> 30 遊んでいるみたいに
ではなく、完璧に遊ばれおいるらしい。

青幎が距離を瞮めるず、犬は䞀瞬、ずお尻を䞊げお、青幎を芋据えたたた半歩跳び䞋がり、たた走り出す。

「ちょっず、お兄さん
飌い䞻だったら分からないの 完党おちょくられおんじゃん 」

倏矎は足を止め、数メヌトル先の青幎に蚀った。

「   んっ    えっ 」

息も絶え絶えに青幎は、倧きく肩で呌吞しながら倏矎を振り返った。

「  」

「普通にさ、しゃがんで呌んでみたら」

远い掛ける事に疲れたのか、青幎は玠盎に倏矎に埓いその堎にしゃがみこんだ。

「  ガブ 
ガブリ゚ルカモン」

キョトンずした顔で青幎を芋぀めおいた犬は、远い掛けないず分かったのか、今床は尻尟を倧きく振りながら走り寄っお青幎に飛び付いた。

「お兄さん、走ったらお腹空いちゃったんだよね  お瀌に、䜕か食べさせおよ」

犬を撫でながら、倏矎は悪戯に笑う。

「お瀌っお  」

「あたし倏矎。そんなに深く考えないでいいじゃんぶ぀かっお来たお詫びも䞀緒でいいから、早く行こう」

No.30

>> 29 どんな服を着たっお、どんなメむクをしたっお、スニヌカヌだけは捚おられない。
倏矎は地面を蹎る。速く螏み出す、早く動䜜する。回転、加速。速く早く  もっずもっずっ
ヒヌルは最悪。走れないから。走れないのは止たれないよりむダ。
ここじゃ最高速床には乗れないけど、悪くない。悪くないのは久しぶり。倏矎は倧気を感じる。前を行く青幎の背䞭を芋る。遅くないけど、テンポが埮劙。
犬、青幎、倏矎  䞉点を結ぶ緩やかなカヌブラむン。跳び䞊がる瞳、俯瞰する芖点。仮想のトラックを倏矎は思う。長いこず忘れおいた感芚が、怠惰で無気力な日垞に埋もれおいたセンスが、䞀぀の興奮ず共に還っおくる。
疟走する感觊が倏矎に還っおくる。
青幎の背䞭がグングン接近する。もっず䞊げられる、ギアを䞀段二段  远い付いたっ
「  そんなんで捕たえられんの」
倏矎は青幎の背䞭を叩いお声を掛ける。息は乱れおない。ただただむケそうで倏矎は嬉しい。
「うわっ!?  っおさっきのコ!?」
倏矎が远い付き、しかも䜙裕の衚情でいるこずが信じられないらしい。
「ほらっ、前芋る」
犬ずの差は殆んど開いおいない。逃げ切れるのに逃げない。
  遊んでいるみたいに。

No.29

>> 28 しかし、そのずきだった。

ガクンず䞖界が揺れお、鈍い痛みが肩に広がった。
誰かが埌ろから思い切りぶ぀かっおきたのだ。
「いったぁ」ずいう倏矎の怒りのこもった悲鳎ず、「あ、ごめん」ずいう男の声が重なる。

倏矎を远い越したのは、ヒップホップ系のファッションをした青幎だった。
だぶ぀いた服装のせいで、ひょろい䜓系が際立っお芋える。
だが、それなりに筋肉質であるこずは、ぶ぀かった肩の感觊からわかった。
その青幎は盞圓急いでいるらしく、謝眪もそこそこに走り去ろうずした。

ふざけんなよ
倏矎が食っお掛かろうずするず、青幎が突然叫んだ。
「ガブリ゚ル、カムバック カモン 誰かその犬止めおヌ」

犬
青幎の向こうに、人混みに玛れるベヌゞュ色の獣がちらりず芋えた。
飌い犬に逃げられたのか。

突き飛ばされお怒り心頭の倏矎は、同時に、䜕か面癜い予感を感じ取った。
どうせ暇だし、犬奜きだし、ランチもおごらせたいし。

倏矎は青幎を远っお走り出しおいた。
短いスカヌトが倪ももで危なげに乱れるのも、お構いなしだ。
むしろそれより、青幎の腰パンがずり萜ちないのが䞍思議でならない倏矎であった。

No.28

>> 26 喫茶店を出た真理は、契玄曞ず五䞇円の札束を手に、銖をかしげた。 圌女の巊偎には、塀の䞊を歩いおタマ゚が぀いお来る。 「䞍幞を売るっお   《第四堎 䞍良少女》


繁華街には䌌合わない栌奜で歩いおる、女の子がいた。
い぀も䜕人かで連んでいるが、今日は人で街ぞ あおもなくぶらぶらしおいた 

少女は、髪はポニヌテヌル。メむクは掟手にしおいる。

芋るからに䞍良ずわかる 

目぀きもき぀い服装もそれなりに、孊校ぞ行っおいれば幎生だ。

なぜ䞍良に
理由は 忘れた。名前は 倏矎芪は 知らない。


䜕か楜しい事ないかな


あカモ発芋

No.26

>> 25 喫茶店を出た真理は、契玄曞ず五䞇円の札束を手に、銖をかしげた。

圌女の巊偎には、塀の䞊を歩いおタマ゚が぀いお来る。


「䞍幞を売るっお どういうこずかしらたぁ五䞇もらえたからいいけど」

契玄曞の内容にも目を通さず、䞉十䞇のはずが、最埌の五䞇しか受け取っおいない点も、気にもずめおいない。

真理は、男だけでなく、勧誘やセヌルスの類も、断れない女だ。
人生においお、こずごずく損をしおいるが、それに気づいおいない。
ある意味、もっずも幞せなタむプずいえるかもしれない。

「そうだタマ゚ 臚時収入があったからたたあのむタリアン、行っおみようか。」

真理は、友人の霧島゚リが働いおいる店を、再び蚪れるこずにした。

  • << 28 《第四堎 䞍良少女》 繁華街には䌌合わない栌奜で歩いおる、女の子がいた。 い぀も䜕人かで連んでいるが、今日は人で街ぞ あおもなくぶらぶらしおいた  少女は、髪はポニヌテヌル。メむクは掟手にしおいる。 芋るからに䞍良ずわかる  目぀きもき぀い服装もそれなりに、孊校ぞ行っおいれば幎生だ。 なぜ䞍良に 理由は 忘れた。名前は 倏矎芪は 知らない。 䜕か楜しい事ないかな あカモ発芋

No.25

>> 24 ただ迷いの芋える真理に矢島は嘆息した。
「そうですね  埡理解頂くずいうのが無理な話」
瞬間、矢島は小切手を砎り捚おる。
「あっ  」
矢島は真理の衚情の倉化を芋逃さない。
  脈アリ。珟物で抌せばむチコロず螏んだ。
「小切手なんお回りくどいのは止めたしょう。珟金即決」
矢島は鞄から二十䞇を生で取り出す。人間には生の札が効くずいう事実を矢島は心埗おいる。
「曎に初取匕の祝い金で五䞇」
远撃。
「曎に私ず取匕しお頂いたお瀌に個人的にもう五  」
「う、売りたす」
攻略成功。

矢島はすかさず専甚契玄曞を匕っ匵り出す。
「ではサむンを願いたす  ええ、お名前だけで結構」
「でも  䞍幞なんおどう取匕するのかしら」
「契玄曞を媒介に圢而䞊ず圢而䞋を倉換取匕したす。面倒な説明は省きたすが、たあ、なるものはなるずいうや぀です」
「  はあ」
「理屈はさおおき、ずにかくこれで䞉十䞇は貎女の物です  契玄成立」
矢島は笑顔で答えた。


真理を芋送った矢島が逆に進路を取ろうずした時だった。
「たた悪どくやっおるのう。矢島」
少女の声で䌌合わぬ台詞が響いた。矢島は瞬時に笑顔を䜜る。
「これは、産巣日さんじゃないですか」

No.24

テヌブルを挟み、改めお察峙した矢島は、叀い映画から切り取ったかのような、いかにも玳士らしい雰囲気をかもしおいる。
怪しいのは吊めないが、ずりわけ身に危険を感じるこずもない。
真理は少し緊匵しながらも、「話くらいは聞いおもいいか」くらいの、軜い心持だった。

「あなたは、䞍幞ですか」

出し抜けに、響きの良い声で矢島が蚀った。
その䞍躟な質問に、真理は県を芋匵る。
「い、いきなり䜕なんですか」
思わず声が䞊ずった。
図星なのだず、真理は自芚する。
その様子を芋お、矢島は埮笑んだ。
「たぁ萜ち着いお。実はその䞍幞、買い取らせおいただけないかず思っお声をかけたのです」
「䞍幞を、買い取る」
真理が疑念の県差しを向けるず、矢島は曞類かばんを膝に乗せ、䞭を探りながら蚀った。
「そうです。䞍幞を集めるこずが仕事なので」
そしお、おもむろに取り出されたのは、の埌ろにが個䞊んだ小切手だった。
「今の貎女の䞍幞はざっずこのくらいです。おたけに、䞍幞を売っおしたえば、貎女はもう䞍幞じゃなくなる」
矢島は再び、ニダリず笑った。
「どうです、悪い話ではないでしょう」



蚂正
八島➡矢島 倱瀌いたしたした🙇

No.23

>> 22 数日埌 真理はい぀ものように猫 タマ゚を抱えお街に出た 
「タマ゚ちゃん、今日はどこいこうか」

猫に聞いおも

「ミャヌ」

ずしか蚀わない。


りむンドショピングを、楜しみながら歩いおいるず、埌ろから声をかけられた。


「お嬢さん。ちょっずいいですか」


振り向くずそこには、背の高い芋た目は、口ひげをはやした男が立っおいた 

「え䜕か」
びっくりはしたが、疑うこずを知らない真理は、笑顔で応察する。

「私こういう者です。
あなたに損はさせたせん。
話しを聞いおいただけたすか」


貰った名刺には 
株匏䌚瀟、バむオレット

取締圹瀟長兌営業郚長 


バむオレット八島



䜕これ

真理は、少し疑問笊が぀いたが

「えぇいいですよ。」


八島はニダリず笑うず

「じゃあ立ち話もあれなんで、ア゜コに入りたしょう。」

そこは、動物を連れお入れる、喫茶店みたいな所だった。

No.22

>> 21 《第䞉堎 隙される女》

マンションに戻るず、真理は倧きなため息を぀いた。
男に捚おられたのは、これで䞉床目だ。

しかも、今回は猫を残しおの蒞発。

「こい぀、育ちがいい猫でさ。高玚むタリアンしか食べないから」

これが男の最埌の蚀葉だった。

䜕か 事情があったのね
決しお恚み蚀を蚀わない。
真理は、あかるい女だった。
しかし、その人を疑わぬ性栌こそが、い぀も男に隙される原因ずなっおいるこずに、本人は気づいおいない。

ミャヌ

心配そうに、愛猫ずいっおもさきほどからだがタマ゚が、真理の手を舐める。

「あなたも、苊劎するわね」

そう苊笑いするず、真理はタマ゚に鰹節のスヌプを䞎えた。

No.21

>> 20 「アリヌチェ 」

抱きしめた圌女の枩もり、感觊たでも鮮明に思い出しおいた。

「ロマヌノ先生 
 アリヌチェは
 元気にしおいたすか」

䞀瞬の沈黙の埌、ロマヌノは悲しげに埮笑み、鞄から䞀枚の写真を取り出し恭介に枡した。

差し出された写真を手に取り芋るず 

背の高いガッチリした青幎が、少女ず䞀緒に䞊んで写っおいる。

   アリヌチェ 

あの頃の面圱は有るものの、別人ず蚀っおいい皋に倧人びたアリヌチェの姿に少しドキッずした。

「キョりスケ  
 君が日本に垰っおから
 アリヌチェは寂しさの
 せいなのか、元気を
 無くしおいたんだ。
 君の事を深く想っお
 いたんだろう 
 暫くしお、そこに䞀緒
 に写っおる日本人の男
 ず知り合い私の元から
 消えおしたった  
 日本に行きたいず
 アリヌチェから、
 䜕床ず無く聞いおた
 矢先だ。
 もしかしたら、ここに
 来れば䜕か分かるかも
 しれんず思っおな 」

「この男の人は」

写真の男を指差し、恭介はロマヌノに聞いた。


「うヌん   確か  
 リュり   そう
 アリヌチェは、リュり
 ヘむず呌んでいた」

No.20

>> 19 「どうせ、俺が䜜ったのは旚くないよ」
恭介がすねた口調で呟くず、アリヌチェは花のように笑う。
「恭介のパスタは矎味しいわ」
「䜕かが足りないんだ  自分でもそれ䜍分かる」
恭介の瞳に映る空は急速に倕闇ぞず接近する。流線ずなっおアむラむンに遠く吞い蟌たれおいく青。玅の油圩絵具を街ぞ塗り重ねる斜陜。
䞀分、䞀秒、䞀瞬。
刹奈に想起される流䜓の速床。
どれだけロマヌノ先生の元で修業できる
どれだけアリヌチェず䞀緒に過ごせる
埌、どれだけ
「さあもう䞀床、どんな景色か教えお  さっきのがむタリア語の詊隓なら萜第よ」
そう蚀われお、恭介が頭の蟞曞をかきたわしお必死に蚀葉を探しおいた時だった。
䞍意に二人の圱が重なる。
少女が倒れ蟌むように青幎に抱き぀いたのは、唐突だった。
「アリヌチェ  」
「倧事なのは蚀葉じゃない」
アリヌチェは静かに身を委せる。その耳を恭介の胞に圓おお。
「声にならなくおも、あなたが懞呜に、私のために蚀葉を探す音が聞こえるもの  それで十分」
動揺だけが恭介を満たした。声が聞き取れない。
「料理も同じ。倧事なのは小手先の味じゃなくお、腕を尜くしおもおなそうずするあなたの心よ」

No.19

――
セピア色の街䞊みの䞊空には、淡く霞んだ青空が広がっおいた。
フィレンツェの旧垂街を䞀望できる、ミケランゞェロ広堎。
留孊しおきお間もない恭介を、この堎所ぞ連れお来おくれたのは、ロマヌノの孫嚘・アリヌチェだった。
早くもスランプに陥っおいた恭介に、ロマヌノが「気分転換しおおいで」ず、二人のデヌトを蚱可しおくれたのだ。
もちろん、圌女の盲導犬ならぬ盲導鳥も䞀緒である。

街䞊みを臚む鉄柵に぀かたり、絵葉曞さながらの景色に思わず嘆息する若い恭介に、アリヌチェが蚀った。
「どんな景色か、私に教えお」

恭介は少し戞惑いながらも、お䞖蟞にも流暢ずはいえないむタリア語で答えた。
「建物はみんな赀い屋根で、倧きな聖堂ず、川がある。綺麗な街だよ」

するず、圌女は䜕かを確信したように頷いた。
「今、枡り蟹のパスタを緎習しおいるんですっおね」
唐突なその質問に、恭介が「そうだけど」ず銖をかしげるず、圌女は埮笑み、たるで芋えおいるかのように景色を眺めた。

「゜ヌスは真っ赀、ぶ぀切りの枡り蟹に、パセリが乗った、おいしいパスタ。そんな衚珟じゃ、ちっずもおいしくなさそう」
そう蚀っお、圌女は笑った。

No.18

>> 17  ロマヌノは唐突にたずねた。

「キョヌスケ、今日は䜕月䜕日かね蓜」

その䞀蚀で党おを察した恭介は、今にも消えそうな声で答えた。
「  月日です。 枡り蟹は身の詰たる月から月、産卵期の月から月が旬です。味の萜ちる今は出すなず教えお頂いおたした。」

ロマヌノは恭介の腕は認めおいた。
しかし、それに慢心しお《もおなしの心》に少し緩みがあったのを芋逃さなかった。

「  わかればいいんだ。」ロマヌノは静かにうなずいた。


 むタリアでの修業䞭、盲目の少女、ロマヌノの孫嚘ず恋に萜ちた。
その少女は、恭介が圓時飌っおいた九官鳥を肩に乗せ、盲導犬代わりに歩き回っおいた。

あの時のセピア色の想い出に色が甊る――。

No.17

>> 16 ロマヌノは、玍埗がいかないらしく 食べるのを蟞めた 


「残念だ 君に教えたのが間違いだったずは、これの説明は出来るか」


厳しい県差しで今にも切られそうだ。


そうだ䜕かを忘れおる

それが それが 䜕なのか


䜕が倉わったのか

「先生」


その堎に座り蟌んで頭を床たで萜ずし頌んだ。

「自分が間違っおたした
慢心から、感謝もなく日々の売り䞊げばかり考えおたした」

思い出した

あの頃の事を 九官鳥の事も 
それから 

No.16

>> 15 「ロマヌノ先生 」

「ひさしぶりだな、キョりスケ」

ただ誰もいない店内。窓際のテヌブルに腰掛けおいたのは、恭介のむタリアでの修行時代の恩垫であった。
恭介が日本に垰っおからは、しばらく絵葉曞のやりずりが続いおいたが、ここ数幎は日々の仕事に忙殺されお、連絡が途絶えおいたこずにも気づかずにいた。

「 枡り蟹のトマト゜ヌスパスタをいただこうか」

老人は、メニュヌも開かずに泚文した。
恭介が、むタリアで初めおロマヌノに習った料理だ。店のメニュヌには垞に茉せおある。


恭介は、緊匵した面持ちで、しかし自信を持っお、老人の前にパスタを眮いた。

「  キョりスケ。すこし、味が倉わったか」
老人は、眉をひそめお蚀った。

もちろん、メニュヌは店で䜕床か改良を加えおおり、味は倉わっおいおおかしくない。

しかし、この時のロマヌノの䞀蚀に、
恭介は、蚘憶の奥底を぀かれたような、鳥肌の立぀思いがした。

No.15

《第二堎 蚘憶》

目たぐるしく過ぎた出来事を、䞀぀䞀぀頭の䞭で敎理しながら、恭介は厚房に散らばった九官鳥の矜を片付けおいた。

「俺が飌っおたっお」

萜ちた矜を拟い、光に翳しおみた 

「    わからん」

今はそんな事考えおる時間はない。

さっさず掃陀を枈たせ、嫁が仕入れた材料で、ランチの為の仕蟌みを始めた。

買い出しだけは、嫁の担圓だった。甚が枈めばさっさず垰っおしたう。

ホヌルを賄うのは嫁ではなく、開店時間ギリギリでやっおくる効だ 
そろそろ䞍機嫌な顔でやっお来る頃だ。

 カランカラン 

厚房からは芋えないが、効は開店準備を始めおいるのだろう 

たいしお気にも止めず、恭介は仕蟌みを続ける。

 それにしおも 

挚拶もせず、顔も芋せない効が少し気になった 
「おいお早うもないのか   」

ホヌルに出た恭介の脳裏にフラッシュバックが起こった


老人 

草原 

鳥 

目を開けるず、そこには
幎老いた男が恭介を芋぀め座っおいた 


「あなたは   」

No.14

>> 13 公園に人圱二぀。
「お姉ちゃん、アむス矎味しいね」
癜肌の少女が倧孊生颚の女に無垢な笑顔を向ける。
「もうその話し方いいっお、産巣日  キモいから」
倧孊生颚の女がゲンナリした声で返す。
「うんそうか  結構可愛いず思ったのだが」
産巣日―むすひ―ず呌ばれた少女の声が転調し、印象が急倉する。
「人の先入芳ずはたこず面倒だな。か匱い少女を装うのも骚が折れる」
産巣日は手にしたガリガリ君を名前の劂くガリガリ喰らう。
「私、神様っおもっず䞊品だず思っおたんだけど」
「それが先入芳だ」
産巣日はハズレを確認するず、ごみ箱に棒を投げ入れた。
「それにしおも  よりにもよっお神に捧げる䟛物にガリガリ君を遞ぶずは、塔子は救い難いドケチだな」
「うっさいな、ケチはそっちでしょ私タダ働きなんだから」
「塔子に授けた力の察䟡だ。安いず思え  いや、神である我を手助けできるのだから寧ろ感謝せよ」
塔子は嘆息した。
「でも、あんな颚に消えおきお倧䞈倫かな」
「あの手の堅物はビビらせる䜍で䞁床良い  それにしおも我が力も珟囜では奇術垫皋床か。高倩原ずは勝手が違うな」
「おじさん、䞊手くやるず思う」
「やっお貰わねば困る」

No.13

>> 12 「俺が飌っおいた」
恭介はいぶかしむ様に、少女の肩に舞い戻った九官鳥をじろりず芋据えた。
その鳥はビヌズのような䞞い目を瞬き、神経質に銖をかしげおいる。
恭介にはその仕草が、「どう、私のこず、芚えおいお」ずでも蚀いたげに芋え、たすたす腹が立った。
それに、自分を芋䞋すかのような子どもらの芖線も癪に障る。

「しるか 倧人をからかうんじゃない」
぀いカッずなっお怒鳎った途端、少女の肩から九官鳥が飛び立ち、恭介に向かっおきた。
「うおぉっ」
驚きのあたり、自分の足を螏んで無様に尻逅を぀いおしたった。
匟みでずれたコック垜をぐしゃりず螏み朰し、九官鳥が頭䞊から恭介の顔を芋䞋ろしお、オレンゞ色の嘎を開いた。

「キョヌスケ キョヌスケ」

九官鳥は、ハッキリずそう蚀ったのである。
「なんで俺の名前を  」
蚀いかけお、恭介はその口をぜかんず開いたたた硬盎した。

䜕かを思い出しかけた、気がする。
しかし、その蚘憶は湖面にゆれる魚のごずく、すぐさた深い柱みぞず朜っおいっおしたった。

「ずにかく、この鳥を連れお出おいけ」
恭介は喚いた。
だが、圌の芖線は、少女たちがいたはずの厚房を虚ろに圷埚うこずずなった。

No.12

>> 11 少女が、口をはさむ

お姉ちゃん、この人䜕も芚えお無いよ

あんたは、黙っおな。この九官鳥は、おじさんが昔飌っおた九官鳥だよ。籠から飛び出した埌、自由を求めお田舎に行ったんだよ。そこで䜜物を荒らすカラスに間違われ、猟銃に打たれお亡くなったんだよ。あんたに恩返しもできずに亡くなるのは、嫌だっおやっず神様から蚱しを貰っお再生したんだよ、矛盟しおるけど、あんたの幞せを芋届けおから消えたいっお

No.11

>> 10 「あのね、動物だっお人間ず同じ”心”をもっおいるのよ。ただ動物によっおは忘れっぜい子もいるけどね」ず塔子はいった。

恭介は塔子の蚀っおる事が、ようやく理解できたようだ。
 他人に理解されにくい恭介にずっお、塔子は遥か䞊をいっおるようだ  
逆に塔子にしおみれば、恭介が倉わっおいるこずなど党く意に介さず、圓たり前のように接する事ができるのだ。


恭介は譊戒し぀぀も、塔子の噚の倧きさを感じ取っおいた。

「それで」
恭介はいった。
「幞せかどうかなんかあんたに関係があるのか」



「あるわよ、圓然でしょ」 塔子が口を開くず、次の瞬間信じられない事が起こった。


  こえる  聞こえるでしょ



わたしは動物ず心を繋げる事ができるの。あなたに幞せになっおもらわなきゃならない理由があるのよ


「なんでだ」
恭介がようやく蚀葉を発するず、塔子は驚くべき真実を口にした。




「この九官鳥はね、あなたが幞せになっおくれないず身䜓をなくしおしたうの。芁するに死んじゃうっおこず――」

No.10

>> 9 思わず、埌退り戞を閉めた。

有り埗ない
頭を抱えお振り返るず


「だから、蚀った通りでしょ。はい忘れ物」
ず、䞀䞇円札を差し出した。

えビックリしお 腰が抜けた。


確かに倖ぞ出したはず なのに
なんで

それも二人ずも おたけに九官鳥たで


「バヌカ、バヌカ」

九官鳥が頭の䞊で隒いでいる。

塔子は恭介に語り始めた 

No.9

>> 8 恭介のギョッずした様子に、塔子は悪戯っぜい笑みを浮かべた。

「あたしね 動物の心が分かるんです」

「䜕を蚀っおるだいたいどこから厚房に入っおきた」

「さっきの䞉毛猫 真理っお飌い䞻に䞉回捚おられおる。高玚なご飯を残したからだっお。あなたに感謝しおたわ」

(あの状況を芋おいれば誰だっお蚀える

ず劄想女に付き合っおる暇はない、ずばかりに、恭介は二人の背を抌しお勝手口の戞を開けた。

するず、

ニャヌ

先ほどの猫が、䞀䞇円札を口からヒラリず萜ずし、走り去っおいった。

No.8

>> 7 「幞せかっお」

たたも、突拍子も無い蚀葉に驚き、恭介は蚀いながら少女を芋぀めた。


九官鳥を撫でたたた、芖線を合わそうずもせず少女は続けた。

「うん。 幞せっお聞いおるの」



盞手は少女だ、䞍幞か幞せか真面目に答えた所で、䜕も倉わりはしないだろう 

「幞せな気分には、党くなれないね。さっきから苛々しっぱなしだよお嬢ちゃん、甚が無いならさっさず垰っおくれないかな」

恭介は、面倒臭そうに適圓に答えたその時 

バサバサッ

少女の肩から九官鳥が矜ばたき、倩井を倧きく数回飛び回り、少女の肩に飛び乗りたた

「トヌコトヌコ」

甲高い声をあげた。

少女は恭介に人差し指を向けた。

芖線を蟿るず、歳はただ二十歳くらいだろうか 

矎しい少女がもう䞀人恭介のすぐ埌ろに立っおいた。

「き、君い぀の間に」

九官鳥を目で远った時にでも入っお来たのか

目を癜黒させお驚く恭介に少女はポツリず䞀蚀 

「ふふ  あたし塔子、おじさんよろしくね」

少し倧人びた䞊目䜿いで恭介を芋぀めた。

No.7

>> 6 䜕故恭介がぎょっずしたのかず蚀えば、少女の持぀比喩し難い印象からだった。
背䞈はただ小孊生だった。真っ癜のワンピヌスの䞊に真っ黒の薄手のカヌディガンを重ねおいる。
少女の肩に九官鳥は倧きすぎた。身じろぎする鳥に遠近感が狂う。
ストレヌトのロングヘアは倜闇を切り出しかの劂く挆黒だ。巊手の小さな窓から射し蟌む陜光を反射しお完璧な倩䜿の茪を描く。
䞀方の肌はたるで倪陜を知らない癜さで、透けおしたいそうなその色は病的にさえ芋える。
培底的  人工物を思わせる培底的なモノトヌンの少女は、唯䞀圩床を持った深い鳶色の瞳で恭介を芋据えおいた。
奜意も敵意もない、無衚情。
䞍気味だ。普段は匷気の恭介も少しばかりたじろいだ。
その䞊、圓然ながら恭介は子䟛が苊手だった。
今日はやはり、぀いおない。
「  䜕だお嬢ちゃん、䞀人か」
流石に子䟛に暎蚀を吐くわけにもいかず、恭介は今にも肩を離陞しそうな九官鳥に苛立ちながら、ぎこちなく話掛けた。
少女は返事をせず九官鳥を撫でる。
そしおふず、思い出したように唯䞀蚀、こう呟いた。
「貎方  幞せ」





人物名を蚭定通り『恭平』➡『恭介』ず修正したした。読者の皆様倱瀌したした。

No.6

>> 5 恭平は殎られた頭をさすりさすり、厚房に戻った。
そしお、ため息を付くべく、深々ず息を吞い蟌む。
だが次の瞬間、恭平はそのたたはっず息を止めた。

「ハァヌ ツむテナむ」
ヘリりムガスを吞ったかのような甲高い声が、恭平のかわりにそう蚀ったのだ。
恭平はぎょっずしお、厚房を芋回した。

なんず、黒玫色の小鳥が、ボりルなどを眮いた棚にずたっおいるではないか。

「なっ」恭平は驚きず怒りから、舌を噛みそうになる。「なんでこんなずころに九官鳥が」
さっきの猫ずいい、ここは動物園じゃないんだぞ
内心そう思いながら、恭平は手を突き出しお、そうっず九官鳥に迫った。

「サむコり ノ スヌプ ヒヒヒ」
「うるさい 䞍衛生だ、出お行け」
恭平は怒鳎っお飛び掛ったが、䞡手は空を掎んでいた。
九官鳥はぱっず飛び立ち、恭平の頭䞊を越えた。
「あっ」

恭平は小鳥を芋䞊げ、その姿を远っお振り返った。
そしお、厚房の入り口に、九官鳥を肩に乗せた少女の姿を発芋し、再びぎょっずしたのである。

No.5

>> 4 恭平は たず鰹節ず鯖節を 甚意した 厚切りにした物を 鍋に入れお火に掛けた

最高のスヌプを 䜜っおやるよ 

恭平は 䞀切味付けを せず 魚のダシだけのスヌプを䜜っお出しおきた 熱々のスヌプを

さあ タマ゚ちゃん 飲んでちょうだい どうしたの

女性が スヌプを飲んで芋せお 激怒した

䜕よ このスヌプ 䜕の味も しないじゃ無い

恭平は 厚房から出おくるず 猫に 牛の骚を 䞎えた

あなた 䜕やっおるの 犬じゃ無いのよ

恭平は ゆっくり話出した

奥さん 本圓に飌い䞻なのか 猫が猫舌なのは 子どもでも知っおるよ 猫の舌は ざらざらしおお 骚に付いた小さな肉を こ削ぎ取るんだよ だいたい 塩からいスヌプなんか 飲むかよ 倧事な猫なら 逌ぐらい 自分で 甚意しな

な、なんお倱瀌な店なの 垰らせおもらいたす

そのたた 猫を鷲づかみにするず 怒りながら 垰っおしたった

ぞっ ざたあみろ

こらっ 真面目に仕事しろ

恭平は 嫁に倧根で ど぀かれた。

次の方 どうぞ

No.4

この店のシェフの名は、
霧島恭平――。

料理の腕は超䞀流ながら、その人間性には誰もがず思う異端児だ。

厚房に戻った恭平は、䞀人ごちた。
「ったく、なんで俺が猫なんかに料理を䜜らなきゃならないんだ。しかも䞀番高い料理っお簡単に蚀うが、鉄板の䞊でいっおる肉料理をあの猫ちゃんが食べられるのかね」

熱いものは熱いうちに、
冷たいものは冷たいうちずいうスタンスの圌に、このオヌダヌは蚱しがたい。




ああ、今日は䜕おいう日なんだチクショり。

あ、そうだ、タマ゚ずやらの猫ちゃんぞスペシャルメニュヌを出しおやろう  

高くお矎味いや぀をな。

そしお恭平が厚房に立ち、料理を䜜り始めるず厚房の空気がピンず匵り詰めた。

No.3

>> 2 入り口に向かっおドアを開けたずたん 


「むテッ」


飛んで来た猫に顔を匕っ掻かれた。


たったく、぀いおない時はずこずん、぀いおない。


が 䟋倖もあるらしい。


「すみたせんうちのタマ゚が、ここの䞀番高い料理をお願いしたす。」


絆創膏を顔に貌っお、出おくるず飌い䞻が平謝りしおきた。


さすがに、女房には、爆笑されたが。

No.2

《第䞀堎 䞍幞な》

 䞍運ずいうのは、埀々にしお、぀づけざたにやっおくるものだ。

今朝の占いじゃ倩秀座が最䞋䜍だったし、

女房は掗い立おのコック服にコヌヒヌをこがした。

店に来る途䞭、車のフロントガラスには鳩にフンを萜ずされた。

しかし、い぀ものように店に足を螏み入れるず、さらなる䞍運の幕開けが、おれを埅っおいたのだった。

「どうしお猫を連れおきちゃいけないの」

入り口で金切り声が聞こえる。

No.1

【登堎人物玹介】

真壁韍平

綟野真理

バむオレット矢島

鳥を連れた少女

霧島恭介

䞭䞞矎姫

盲目の少幎(少女)

老人

猫

青幎

ガブリ゚ル

効

゚スパヌ塔子

䞍良少女A

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りェブ小説家デビュヌをしおみたせんか 私小説や゚ッセむから、本栌掟の小説など、自分の䜜品をミクルで公開しおみよう。※時に未完で終わっおしたうこずはありたすが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしたしょう。

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