優しさ
今までの人生を振り返ります。今までずっと色々な過去を思い出して泣いてきたので…。
もう色々な過去に振り回されず生きていきたい。
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父は無口でお酒を飲むと口が軽くなりベラベラとよくしゃべる。職業酒屋。
母はパートをしていて普段からよく喋りとても気が強く、姉や私は小さい頃からよく叱られ、縁側で正座をされられたりと…とにかく怖かった。
姉は8歳上のとても温厚で優しい人だ。小さい時は何をするにも姉の後ろをついて回ったぐらい私は姉ちゃんっ子だった。
私が中学3年生になった時に姉は結婚をして家を出た。私は見ず知らずの男に姉を捕られた悔しさで、心から祝福してあげられなかった。
中学3年にもなると学校では話題が‘彼氏’の話題がちらほら…。
その頃私にも意識している人がいた。その相手は母のパート先のバイトのお兄さん。トモユキ。私より3つ上で中卒。中学卒業してからブラブラしていたらしいが、あまりにもだらだらしているのでトモユキの母が仕事を見つけてきて面接まで約束してきてしまったらしい。お金もないのでしぶしぶ面接に行ったら受かってしまい今の職場にいる。
でもその職場で仕事の面白さを知ったようで真面目に働いていた。
私はトモユキの顔が見たくてよく母の職場に行っていた。
ある時、母が夕飯を食べていた時にトモユキの話になり「なんかお兄(母はトモユキをこう呼んでいた)って趣味でギターをやってるんだってさぁ。」と話をしていた。
何を思ったか私は、その年のお年玉でギターを買った(笑)
当たり前に何も弾けず、何からやればいいのかわからない私は、買ってから一度も触る事もなく放置(笑)
ただギターを持っていればトモユキと近くなった気がしていた。
しばらくしてから、いつものように母の職場へ顔を出した時だった。
母が「この子なんでか知らないケド、ギター買ったのよ。でも一度も弾いてなくてさ(笑)」
と職場の人に話をしていた時に
「あぁ!そうだ!お兄に教えてもらえばいいじゃない。年も近いし!ねぇお兄!」
「いいっすよ。」とトモユキが言った。
「ぅええぇぇぇ???!!!いいの???」と心の中で叫んだ。(笑)
「いつがいい?」とトモユキに聞かれ、私は「いつでも。」としか答えられず。
母が「何照れてんの?(笑)バカだねぇ」と母がゲラゲラ笑っているそばで、トモユキが
「じゃあ…今日仕事終わったら暇だから、今日にする?」と聞いてきたので「はいはい。いいわよ~。」と母が答えてた(笑)
私は母より先に家に戻り、急いで部屋中の掃除をした。
母と一緒にトモユキが来た。私の家に若い男の人が来るなんて初めての事だったので、何も知らされていない父は「??!!」な感じの顔をしていた(笑)
来てさっそくギターを触り始めるトモユキ。
「いいギター買ったんだね。とりあえずコードを教えるから。」と挨拶も早々にギターをやり始めた。
トモユキは足がものすごく長くて、足を組みながらギターを弾いてる姿にドキドキした。しばらく弾いてから「じゃあコード教えるからギター持って。」とギターを渡され、いざ弾こうと思ったが、私の指が短くて弦が押さえられず(笑)
トモユキは「(笑)キツそうだなぁ。でも慣れだから頑張って。」と私が届かない弦を抑えてくれながら、ギターの練習を1時間ぐらいした。
夜7時ぐらいになり、母が「夕飯出来たケド。お兄も食べていきな~。」と言われ、みんなで夕飯を食べる事になった。
夕飯を食べ終わりトモユキが
「じゃあ復習したら俺帰るからもう1回やろう。」
と言ってきたので「えぇ↓疲れたからちょっと休憩。少し話しようよ。」と私は言った。
トモユキは割とよく喋る人だった。趣味や好きな音楽など、たわいもない話をしていたら…
「俺泳げないんだよ(笑)」
「私も!だから水族館大好きなの!」
「泳げないと水族館って関係あんの?(笑)」
「あるよ~!泳げなくても水の中にいるみたいっしょ?(笑)」
「おぉなるほどねぇ!水族館行きてぇなぁ。…今度行く?」
「えっ…うん!行きたい!!」
ってな感じで予想以上の展開で今度遊ぶ事になった。
その日は携帯とメアドを交換してトモユキは帰っていった。
私はどんどんトモユキに想いを寄せていった。
それからトモユキとは毎日メールをしていた。
そんなある日トモユキから
「水族館どこ行きたい?」とメールが入っていた。
私は「八景島水族館に行きたいなぁ。」と返した。
「今度の日曜日に行こう。」
私たちは初めて出かける約束をした。
日曜日が待ち遠しくて、まだ覚えたてのメイクを何度も練習したり、服を何日も前から選んだりしてた。
その当時、親友だったマイにトモユキとデートをする事を伝えた。
「え??よかったじゃん!頑張って落としてこい!(笑)」とすごいエールを送られたのを覚えている。(笑)
日曜日当日。
地元の駅で待ち合わせをしていたので、支度をして家を出た。
母から「変な事したらぶっ飛ばす。」と言われ、少しビビッていた(笑)
駅に着くと10分前。駅前の店のショーウィンドウの前に立って服装をチェックしていると…
「おぉ、大人っぽいな。中3には見えん(笑)」
とトモユキに声をかけられた。
トモユキはロングコート姿で私を待っていた。その当時の私は148センチと小さく(今も大して変わりませんが(笑))178センチのトモユキは大人っぽくドキドキした。
「んじゃ、行くべ。」
トモユキと私は八景島へ向かった。
ト
八景島に着くと、さっそく水族館のチケットを買った。
「うわぁ!!すごいキレイッッ!!!」
大きな水槽の魚たちを、感動しながら見ていると
「この魚食えるヤツだ、うまそう(笑)」
と、トモユキはなんともまぁムードのない言葉を連発(笑)
「この魚は〇〇だなぁ。」と魚屋さんだったトモユキは色々魚の事を知っていて、教えてくれた。
水族館を出てお昼を食べ、午後は遊園地で色々な乗り物に乗ったり、お土産屋を見て回った。
当時、中3の私の門限は7時半。時間もそろそろ近づいてきたので帰る事にした。楽しい時間はあっというまで、なんだかここに来た思い出を残したくてトモユキに
「プリクラをとりたい。」と言った。
ふたりとも緊張していて出来上がったプリクラは、顔が強ばっていた(笑)
帰り際、トモユキがイルカの人形をプレゼントしてくれた。
それからトモユキとは学校が終わってからよく会うようになっていた。
季節は春。
私は高校1年生。うちの学校は中高とエスカレーター式だったため、高校受験もせず高校を迎えた。
私は新しい制服をトモユキに見せたくて、母の職場に顔を出した。
「おぉ!高校かぁ。制服かわいいなぁ。行けなかったから楽しめよ!」
トモユキが言ってくれた。
その日の夜、トモユキに「夜桜見に行かない?」とメールを入れた。
「いいよ。」返事が帰ってきた。
さっそく母に、門限の時間を延ばしてほしいとお願いをした。
母は「お兄がしっかり送ってくれるなら。」と了承してくれた。
夜桜を見に行く日、いつも通りトモユキの仕事が終わるのを待って近くの公園へ行った。
私はこの日、はっきりさせたい事があった。私はよくトモユキと遊ぶけど、トモユキが彼女がいるのかとかは全く知らなかった。私たちの関係もはっきりさせたくて、私の事をどう思っているのか、それとなく探りを入れようと思っていた。
夜桜を見ながら「お兄って彼女いるの?」と聞いてみた。
「彼女いたらこんな事出来ないっしょ?(笑)」と言われた。
私はしばらく沈黙してから…
「私たちってどんな関係なの?」と聞いてみた。
トモユキはしばらく黙って…
「…ん~。付き合ってみる?俺と。」
と言われた。
嬉しくて嬉しくてドキドキした。この日、私に初めて彼氏が出来た。
それからトモユキとは何度もデートを重ねた。
付き合って3ヵ月目ぐらいの時に、マイから「彼氏と初めてHした。」と聞かされた。
私はその時、トモユキと手はつなぐけどキスすらしていなかった。
その数日後に母にトモユキと付き合っている事を伝えた。
母は「やっぱりねぇ。まぁいいんじゃない。仲良くしなさい。」と言われた。
母がその日に「じゃあお兄呼んで、夕飯うちで食べようって伝えて。」と言われ、さっそくトモユキを呼んだ。
トモユキが来て、母は「よろしく頼むね。」と伝えていた。
母公認の付き合いになってから、トモユキはよく私の実家で夕飯を食べていた。母はトモユキを気に入っていたらしく、自分からよく夕飯を誘っていたぐらいだ。
いつものように、夕飯をうちで食べる約束をしている日。
学校でマイから「そろそろキスぐらいしたら?」と言われた。
「そんな事言わないで。変に意識しちゃうでしょ!!」と私が言い返した。
その日の夕方、トモユキと駅で待ち合わせをして実家に向かっている最中、変に意識してしまってうまく話せなかった。
トモユキが異変に気づいたのか
「なんか変じゃね?どしたの?」と言われた。
「…友達が付き合って少し経ったんだからキスぐらいした?って聞かれて…」と言ったら、
「あ~…なるほどね。…でも俺怖いんだよ。」
「なにが?」
「お前の母ちゃん。変な事したらぶっ飛ばすって言われてるし…(苦笑)」
なんじゃそりゃ(笑)と思った。
「付き合ってんだからそれぐらいすると思ってるよ。」
「そっかなぁ。俺平気?ぶっ飛ばされない?(笑)」と聞いてきたので
「大丈夫っしょ(笑)」と言ったら…
いきなりキスされた。目も閉じるのも忘れたぐらい早かった(笑)
「結構我慢したよ?俺(笑)…でも徐々に深めていこうな。」
と頭を撫でられてまたキスをされた。すごく幸せだった。
それから私は、トモユキをどんどん好きになっていった。
友情や家族よりも、愛が1番と思っていた。友達とも仲良かったが、トモユキを最優先に考えていた。今思えば依存だ。
トモユキも私の気持ちに答えるように、私を最優先に考えてくれた。喧嘩もよくしたが、やはり私にはトモユキ以外考えられなかった。
付き合って半年ぐらい経った日、私は初めてトモユキと結ばれた。高校1年生の夏、またひとつ大人になった気がした。
トモユキと付き合って1年が過ぎた頃から体に異変を感じた。
私のお腹にはトモユキの赤ちゃんがいた…。
…私はどうしようとも考えず、真っ先に産みたいと思った。
トモユキに話をしたら「マジ?!…俺絶対幸せにするよ。」と言ってくれた。
その日の夜、母に話があると持ちかけた。
母は予想していたのか
「家じゃなく外で話をするから、お兄に伝えて。」と言われた。
夜に母とファミレスに向かった。トモユキはもう来ていて、母と私が着いて注文をすると…
「お腹の中に俺の赤ちゃんがいます。まだまだ未熟者ですが、どうか娘さんと結婚させてください。」トモユキが言った。私も「お願いします。」と言った。
頭を下げていた2人に母が「無理に決まっているでしょ?お兄はまだバイトだし、あんたいくつだと思ってんの?まだ高2だよ?」と言われた。
私は「どうしても産みたいんです!授かった命だから…。だからお願いします!」と頭を下げた。
その瞬間…ファミレスに置いてあるナイフを投げつけてきた。
「絶対に産ませない。あんたたち自身が子供なのに、産ませられるわけないでしょ!!!!」
私が言葉を出そうとした瞬間…
「…わかりました」とトモユキが言った。
えっ…??諦めるの??絶対幸せにするって言ったじゃない…。
「お金を用意するから産婦人科に行ってきなさい。」母は言い残し、私を引っ張りファミレスを後にした。
母に「お父さんには黙っていなさい。こんな事言ったらお父さん悲しむから。」と言われた。
…私は大切な赤ちゃんを犠牲にした…
しばらくトモユキと連絡をとらないようにしていた。あれだけ信用していただけに、ショックで声すら聞きたくなくなっていた。
1ヶ月経った頃、学校の帰宅途中にトモユキが待っていた。
トモユキが「…ごめん。本当にごめん。守れなくてごめん。」
泣きながら謝ってきた。私も泣いた。
赤ちゃんごめんなさい…。
「ちゃんと責任とるから。お前とちゃんとやり直して結婚するから。そうしたらかわいい赤ちゃんを作ろうな。」と言われた。
この頃から私の人生がおかしくなっていたのかなぁ…。
自分で自分自身の人生をおかしくさせたんだね…
それからの私たちは変わっていった…。
喧嘩をするたびに赤ちゃんの話が出てきて、私はトモユキを責め立てた。トモユキも赤ちゃんへ対する罪悪感などない素振りや行動を見せてきた…。
そしてある日、大喧嘩になり、私たちは別れた…。
トモユキと別れてから、私はトモユキのいない寂しさに襲われ、夜眠れなくなっていった。夜中起きていて、朝にやっと眠りにつけるような体質になってしまった。
学校も度々遅刻をし、挙げ句の果てには学校を多々休むようになった。
いつものように学校を遅刻し、学校の近くの駅でブラブラ1人で歩いていると、1人の男が声をかけてきた。
「すいません…今暇ですか?」
私はナンパが大嫌いで、声をかけられても無視をする。でも、この時はなぜか振り向いてしまった。
「なに?」
これが私とマサとの出会いだった…。
「…いやぁ~暇かなと思って(笑)」その制服って〇〇女子の制服でしょ?チョーお嬢様じゃん。お嬢様がなにサボッてんの?
「サボッてないし。今から行くとこ。ってかお嬢様じゃないし。あんた誰?」
「俺、マサ!〇〇大学の2年!かわいいね。」
「下手くそなナンパの仕方だね(笑)それじゃ。」
「うわうわ~。冷てぇ~!(笑)ちょっとだけ話しようよ!」
マサは一方的に喋り出した。マサはお笑い系みたいで、よく喋りよく笑わしてくれた。
私がちょっとずつ笑う姿に、マサは…
「おぉ!ぜってぇ笑った方がいいよ!マジかわいい!」
「…ありがとう」
マサはとても優しく誠実そうで、人とのコミュニケーションが上手かった。でも…私のタイプではないし、私にはとてつもなく重い過去もあったので、男の人と付き合うのが、怖かった…。
マサとは1時間ぐらい喋って
「あっ!学校行く途中だったんだっけ?ごめんね!」
「ううん!今日はもういいや(笑)」
「じゃあ飯でも行く?」
マサとご飯を食べに行った。食べている最中もずっと私の笑顔を、絶やさないようにしてくれていた。
優しいマサは、とてもお兄ちゃんみたいに接してくれた。
私は…
「ってかなんで私に声かけたの?」
「…なんかつらそうだったから声かけちゃった。今にも死にそうな顔してんからさぁ…(苦笑)これは正義の味方の俺様が助けなくては!と思ってね(笑)」
私は涙をこらえた…。私は何も言っていないのに…。
「…なんかあったら連絡して?いつでも行くから」
マサが言った。私は笑いながら
「正義の味方だもんね(笑)」
マサから連絡先を教えてもらって、少し話してから別れた。
しばらく、マサとはメールだけの日々だった。マサは毎日必ずメールをくれる。その態度や、メールの内容を見る度に私は、マサにどんどん惹かれていく。でも私には誰にも言えない過去を背負っている。
当時の私は、幼稚園の先生になりたかった。でも自分の赤ちゃんを守り抜く事すら出来ない私が、他の子供たちを守る事なんて出来ないと諦めていた…。
ある時マサから一通のメールが届いた。
「付き合ってほしい。」
いつものおちゃらけたメールではなく、真剣な様子が文字から伝わってきた…。
私は…「会って話がしたい」と送った。
「今から行く。」
マサのメールが届いた時には、夜中の2時を過ぎていた。
マサの家から、私の家まで車で飛ばして1時間ぐらいの所にあった。
2時半を過ぎた頃、マサからメールで「〇〇あたりに着いたんだけど、どこらへん?」とメールが来たので、私は電話をした。
「もしもし?そこらへんにいて?今からそっちに行くから。」
「夜遅いし近くまで行くから、場所教えて。」
数分待っていたら、マサから
「着いたよ。」とメールが入った。
私は親が寝てるのを確認し、家を出た。
マサは車の中でタバコを吸いながら待っていた。
「来るの早くない?(笑)」
「チョーすっ飛ばしてきちゃったよ~(笑)事故るかと思った(笑)…でも会いたかったから…」
マサは言った。
長い間、沈黙が続いた。車のCDからは、‘ゆず’が流れていた。
「…すいませ~ん(笑)俺告ったんすけど~!…まさかフラれた感じ?(😱←みたいな顔してた(笑))」
「(笑)……あのね、私には言えない過去があって…男の人と付き合うのが怖いんだ…」
「…そっか。」
マサは何も聞かなかった。
「でも俺、思ってる以上に想ってるよ?つらい過去も全部含めて好きになったつもり。怖いなら触れない。ゆっくり俺と前に進もう?」
私は泣いて頷いた。
この人となら前に進める気がする。そう思った。それが間違いだと気付くのは、それから半年ぐらい先の事になる。
マサと付き合い出してからも、マサは優しかった。私がいつでも笑えるように色々喋ってくれていた。マサは約束通り、私には一切触れないでいてくれた。私は幸せだった…。
半年を過ぎた頃、私の誕生日が近づいてきていた。季節は冬。私ももうすぐ高校3年になる。
マサは「なんか欲しい物ある?」と聞いてくれた。
「なんもいらない。だから誕生日は一緒にいてほしい。」と私は言った。
誕生日の前日は学校だったので、学校に行き、帰りは学校まで車で迎えに来てくれていた。
私は私服を用意していたので、トイレで着替えてご飯を食べに行った。
夜、初めてマサの部屋に行った。
マサは一人暮らしだった。男の人なのにすごく綺麗に片付いていてびっくりした。
「適当にくつろいで。今コーヒー入れるね!」
と、マサはキッチンへ行った。
コーヒーを飲みながらテレビを見た。
「そろそろ風呂入ろっか。先に入っておいで。」
マサに言われたので、私は
「ありがとう」と言ってお風呂に言った。
お風呂から上がったら、マサはテレビを見ていた。
「風呂上がりいいねぇ!スッピンもかわいい~(笑)じゃあ俺も入ってこよ~かな」
マサがお風呂に入った。私はテレビを見ながら、マサの優しさを噛み締めていた。
マサがお風呂から上がったら、私は寝ていた。
マサが「おーい。時間だよ~。」と私を起こした。
「ごめん!寝ちゃった?…」
私が起きたらマサの部屋は暗く、テーブルの上にはケーキとロウソクがたっていた。
寝ぼけていた私は、理解するのになかなか時間がかかった。
「ハッピーバースデー。」マサが言った。
私はやっと理解して、嬉しくて泣いた。
マサが「泣かない~(笑)はい!プレゼント!」とプレゼントをくれた。
プレゼントを開けたら、かわいいカバンが入っていた。
「…かわいい。プレゼントなんかよかったのに。ありがとう。」
「いやそれは俺の気持ち。大したモンじゃないけど、使って。」
マサが「俺、結婚したいんだ。本気で想ってる。今は学生同士だし、まだ先の話になるんだけど…でも本当に愛してる。ずっと一緒に居て?」
マサの本気な気持ちを聞いた。素直に嬉しかった。本気で一緒にいたいと思った。
だから、私は頷いて「うん。」と言った。
この日、私とマサが初めてひとつに結ばれた日だった…。
後に起こる事など知りもせず、幸せの絶頂に浸っていた。
私は、マサの腕枕の中でマサの話を色々聞いた。お父さんが亡くなっている事や、実家の話、学校の話。今までは、バカ話や趣味の話ばかりだった。
マサの真剣な話を聞いて、またマサの事を知れた気がしていた…。
マサに裏があるなんて思いもしなかった…。
私が朝起きたら、マサはもう起きていた。
なんだかマサが不機嫌そうな顔をしていた。
「…おはよう」私が言った。私はマサより遅く起きた事に、怒っているのだと思い
「ゆっくり寝過ぎちゃってごめんね…」と声をかけた。
マサが「…ううん。それよりそこ座って。」と言ってきた。
私は何もわからず座った。
マサが私の携帯をテーブルの上に置いた。
「男のアドレス全部消して。」と言われた。
「中見たの?」と聞いた。
当時私はバイトをしていた。バイトの男の子の連絡先や店長の番号が入っていた。バイトの人からはシフトを代わってほしいとかしか、メールした事がなく何故消さなければいけないのか、わからなかった。それよりも携帯を勝手に見られた事に腹が立っていた。
「なんで消さなきゃいけないの?何もやましい事してないし。それに人の携帯を勝手に見る方がおかしいよ。」
マサは「…消せないの?俺とずっと一緒にいるって言ったじゃん。」と言ってきた。
私は嫉妬だと思った。私も結構嫉妬深い。なんとなく気持ちがわかってしまった。
「…わかった。でも心配しないで?本当になにもないから。」と言った。
マサは「わかった。勝手に見てごめん。」と言ってきた。
それから何日かは、変わらず優しいマサだった。
マサといつものようにデートをしている時だった。車を駐車場に停め、ブラブラとショッピングをしていた。
マサが「見たい服屋がある。」と言うので一緒に見に行った。
マサが色々服を選んでいた時に、私もマサの似合いそうな服を選んでいた。私に1人の男の店員さんが話かけてきた。
「こちらの服なんかどうですか?彼に似合うと思うんですが…」と服を勧めてきた。
私は「あ~似合いそうですね」と返した。
その時、私は強く腕を掴まれた。ビックリしていると、マサがすごい勢いで引っ張り店から出た。
店員さんも唖然としていた。
「ちょっと何?!」私はマサに言った。
マサは無言で、私の腕を掴んで引っ張りながらどこかへ向かっている。
車を停めてある駐車場に着いた。
私は「…どしたの?帰るの?」と聞いた。
「…乗れ。」
私はわけがわからず車に乗った。
私が乗った瞬間に、太ももからすごい痛みを感じた。見るとマサが思いきりつねっていた。
「…痛っ。ちょっとやめて!痛いから離して!!」
マサの手をどかそうとしても、男の力には勝てず…。
マサが「お前俺の彼女だろ?ずっと一緒にいるって約束したじゃんか。何男と喋ってるんだよ!」
私は「…ただ…マサに似合い…そうな服…を…探し…てて…もぉいいかげん…離して…痛い…」
泣きながらマサに訴えた。
マサは「…ごめん!…男と喋ってる姿見てたら…ついカーッとなって…ごめんな?痛いよな…」
私の太ももをさすりながら、何度も謝ってきた。
「…私はただマサに似合う服を探してて…」私は泣きながら言った。
「ごめんな。でもすげぇ不安だったんだ…。俺、だめだ…。…もう二度としない。だから…許してほしい…」
マサは泣きながら謝ってきた…。
私はこの時、マサが泣いていたし‘もうしない’と言った言葉を信じてしまった。
この日を境に、マサはどんどんエスカレートしていった…。
道を歩いている男の人と目が合ったと、髪を引っ張りながら引きずり回され、コンビニの店員さんも男だとキレ、お腹を蹴られた。
マサは暴力を加えた後、必ず泣きながら謝ってきた。でもマサは、絶対顔を殴ったり叩いたりしなかった。だから周りからは気付いてもらえなかった…。私も気づかれないようにした。もし誰かに、気付かれて何かされたらもっとヒドイ事をされる…。
別れ話も、したくても出来なかった。本当に怖かった…。
ある時、マサと電車ででかける事になった。
私は道を歩く時には、必ず下を向くようにした。これで目を合わす人もいない…。
ホームに着き、マサが話しかけてきた。私は下を向きながら話をしていた。
マサはそれが気に入らなかったらしい…。私は線路の方に向かって突き飛ばされた…。あと2センチぐらい前にいってたら、線路に落ちていただろう…。
私はこの時、頭の中で何かが弾けた…。次の瞬間…
私は駅の改札に向かって思いっきり駆け出していた…。
私は急いで改札を出た。
私は自慢じゃないが足は速い。取りあえず駅前のタクシー乗り場まで、ひたすら走った。
私はタクシーに乗ると「〇〇駅までお願いします」と言った。
窓の外を見るのが怖かった。だから下だけ見ていた…。
私の頭の中は、意外と冷静だった。
「自分の家の近くで降りたら、車で先回りして待ってるかもしれない。…そうだ。お姉ちゃんの家に行こう。」
私はお姉ちゃんの家に電話をした。
「…もしもし。お姉ちゃん?」
お姉ちゃんが電話に出た。
「おぉ!どしたの?こんな昼間に。」
「今から遊びに行ってもいいかなぁ?」
私は、お姉ちゃんに気付かれないように話した。
「別にいいけど~。ぢゃあ駅まで迎えに行くよ!」
私は、タクシーを降りお姉ちゃんの家の最寄り駅まで行く事にした。
擦りむいた膝がジンジンする…。
駅に着くと、お姉ちゃんが待っていた。
「久しぶりだね!今日旦那もいるけど…」
お姉ちゃんが言ってきた。
「うん。全然いいよ!ごめんね?いきなり押しかけちゃって…」
そう言えばお姉ちゃんの旦那さんに会うの、結婚式以来だなぁ…。
「ただいま!妹がきたよ。」
「いらっしゃい。ゆっくりしていってね。」
旦那さんが出迎えてくれた。
お姉ちゃんともあまり会っていなかったので、色々話をした。なんだかとっても癒された…。
辺りが暗くなってきた頃、
「そろそろ帰ろうかなぁ。」
私は言った。
「もう遅いから、送っていくよ。」
お姉ちゃんの旦那さんが言ってくれた。
私自身も、マサが待ってるんじゃないかと怖かったので、甘える事にした。
実家に近づくにつれて、また恐怖が戻ってきた。マサの車が停まっていたらどうしよう…。
実家の前に着いた時、辺りを見まわしたが、マサの車はなかった…。
「じゃあまたね。またおいで!」お姉ちゃんが言ってくれた。
私は実家に戻り、マサにメールを送った。
「耐えられない。別れよう。さよなら。」
その後すぐに電源を切った。その日の夜は、何故か優しかったマサを思い出した…。どうして蹴られたり殴られたりしたのに、怖い思い出じゃなくて、楽しかった思い出ばかりが出てくるのだろう…。一睡も出来なかった。
朝になり、学校へ行く支度をした。
母は「あら珍しい。時間通りに学校に行くなんて。いつもちゃんと行けばいいのにね~。」と言われた。
時間になり、外に出たら…
マサの車が停まっていた…。マサは車の中で、毛布にくるまりながら私を待っていた。
私はすぐ家に戻り、学校を行くのをやめた…。
マサの顔を見たら、恐怖が一気にフラッシュバックしてきた…。
「…苦しい…」
玄関先で倒れ込んだ。
母が慌てて走ってきた。私はそのまま救急車で運ばれた。
病院の診察結果は…
‘過換気症候群’だった。いわゆる過呼吸。
とりあえず休んでから、帰宅していいとの事だった。
帰る時に母は…
「…あんたなんかあったの?」と聞いてきた…。
「…」
「言いたくないならいいわ。とりあえず学校は休みなさい。」
そう言われ、ほっとした…。今、外には出たくない…。
家に着くと、マサの車はいなかった…。
家に着いて、携帯の電源を入れた。
友達から「今日もサボり?私も抜けるからご飯食べよ~」
とメールが入っていた。
とりあえず友達に電話をした。
「もしもし?今日はサボりじゃないんだよね。ぶっ倒れた 笑」
気付かれないように、明るく話した。その時…キャッチが入った…。マサだ…。
マサの電話には出なかった。友達と電話を切った途端に、また電話が鳴った…。ゆずの着信音は、マサだ…。
その後、ずっと鳴っていた…。
私は電話に出た…。
「もしもし…。」
「…俺。やっと出た。」
マサの声のトーンは低い。落ち込んでるようだった…。
「…俺別れないよ?だって結婚するって言っただろ?一緒にいるって言ったじゃんか!!」
マサは話しをしている間に、だんだんとイライラして怒っているようだった。
「…なんで何にも言わねえんだよッッ!!」
ガシャーン!!!
電話の向こうで何かが割れた音がした。その音でまた私は、怖くて体が震え始めた。
「…もう殴ったりされるのは…嫌だから…。怖いの…マサが…」
「…一緒にいるって約束したのに…。今から行くから話をしよう…。」
「私は…」
プチッ…ツーツー…
一方的に切られた…。…どうしよう…。
今日は家から出たくない。家から出なければ…大丈夫…。
マサから電話が鳴った…。出ないでいると切れた。
私の部屋の窓から、マサの車が停まる所が見える…。マサはいつも同じ場所に停めていた。
私はおそるおそる窓の外を見た。
…マサの車だ…。
今日は外に出れない…。
私はまた、携帯の電源を切った…。
もう嫌だ…。私は、浮気もしていないし、自分なりにマサを愛していた…。なのに、マサの暴力は収まる事はない。むしろどんどんエスカレートしていくばかり…。
…私を心から愛してくれる人は、この世の中にいるのだろうか…。
自分自身の精神状態が、カタカタと崩れ始めていった…
その日は1日中、外には出なかった。早く帰ってほしい…。そう願いながら一晩明かした。
朝早くに、もう一度外を見た。
…まだいる…。家には帰ってないみたい…。
それからマサは、3日間ずっと外で私を待っていた。その間、携帯を入れれば、すぐに電話がなる…。
母が部屋に入ってきた。
「…もういいかげん話しなさい。」私に言った。
私は今までの事を少し話した。母は話を一通り聞いた。その後、私の携帯の電源を入れるよう言った。
私の携帯の電源を入れたら、案の定すぐにマサからかかってきた。
マサはずっと1日中電話をかけ続けているんだろう。私の家の前から…。
母が無言で電話を取った。
「やっと出やがったなこの野郎!!てめぇ!いいかげんにしろよ?ぶっ殺すぞ!早く家から出てこい!!!」
マサが物凄い剣幕で、叫んでいるのが聞こえた。私は体が震え始めた。
母が「…どうも。娘がお世話になっております。」
そう一言言った。
「あぁッ?!」
マサはまだ気づいていないようだった。
母は「私の娘が何かご無礼な事しましたでしょうか?」
マサはやっと気づいたのか
「…いえ。」と言った。
「娘から話を一通り聞いたのですが…。このままそこに居らっしゃるおつもりでしょうか?」母が言った。
「…娘さんとお話できるまでは…」マサが言った。
「わかりました。後日、娘をそちらに行かせるように致します。…ただし、娘1人で行かせる訳には行きませんので、警察の方などに付き添って頂いて…」
「!!…いや…それなら…今娘さんと電話を変わって頂けますか?…話がしたいので…」
母はわかりましたと言って、電話を渡してきた。
私は「…もしもし」と電話に出た。
マサは泣きながら「…ごめんな、また俺…もうこんな事しないからもう一度やり直そう…俺にはお前しかいない…」
「…もう怖い…別れてください…お願いします…」と私は言った。
「…わかった。でも俺待ってるから…ごめんな…」
マサはそう言って電話を切った。
私は別れられた事で、ほっとしたののと怖さで泣いた。
母は私が泣き止むまで、背中をさすってくれた。
マサはきっと警察が怖かったんだと思う。マサのお父さんは亡くなっている。お母さんは田舎で、独りで暮らしている。お母さんの事をいつも心配していた。迷惑かけたくなかったんだろう…。
私はしばらく泣いて、母に
「ありがとう…」と言った。
私は母がいなければ、もっと酷い事になっていただろうと思う。私は母に感謝した…。
私はそれから、大きな音で過呼吸になるようになった。もちろん若い男の人が怖くて、目も合わせられなくなっていた…。夜になると怖い…眠れないと色々思い出すから…。
マサから、あれ以来連絡はなかった。マサと別れてから、男の人とは付き合えずにいた。
でも私も少しずつだけど落ち着いていた…。
私が高3の時に、私は就職する事に決めた。大学も考えたが、私は中学から私立に行っていたし、うちもそんなにお金があるわけじゃないのを知っていた。幼稚園の先生の夢はあったけど、やっぱり過去が気になり諦めた。そのかわり、人のお世話をしたい。
私は看護助手の面接を受ける事にした。
私の受けた病院は、地元では、たぶん1番大きい大学病院。
面接なども本当にしっかりしていて、受かるかすごく心配だった。
私は面接に受かった。ものすごく嬉しくて、早く仕事がしたくなった。
18歳の春。
新しい職場に、新しい人達。やっていけるか不安もあったけど、それ以上に楽しみだった。
でも仕事内容は、想像以上に大変だった。私の科は、呼吸器外科。いわゆる、癌病棟だ。
初めての仕事だったし、プレッシャーもあった。患者さんのお世話も、苦ではなかった。
ただ…職場の人達は、物凄い怖かった。
私と一緒にやっている先輩の助手さん。とてもベテランさんで、最初は心強かった。
でも、仕事を覚え始めると…違った。
先輩がミスをすると、私がやったと言われた。私は驚いたが、ベテランさんだしミスをした事を言いたくないのだと思い、私は謝った。
すると、それからミスする毎に、すべて私に押し付けてくるようになった。挙げ句の果てには、私の事を「何も出来ない、ミスばかりで疲れちゃう」と影で笑って話していた。
私が、仕事をし始めて3ヵ月経った頃、あまりにもミスが多いために上の人から呼び出された。
「3ヵ月経つのに、初歩的なミスが多くて…少し困りますね。」
「すいません…」私は言った。
「色々、苦情も出ていますし…少し気持ちを改めてください。」
私は、上司と少し話をして仕事に戻った。
自分の職場へと戻り、休憩所に入ろうとすると…
「だめなんだよね、あーいう子。生理的に受け付けない 笑 」
先輩の声が聞こえた。すると、1人の看護師さんの声も聞こえてきた。
「今日はどんなミスすんの?」
…言葉が出なかった。
いい大人がこんな姑息な手を使って、いじめみたいな事してるなんて…。なんだか、バカらしくなってきた。こんな人をかばっていたなんて…。
私は、休憩所の中に入った。
「…ッ!!…おつかれ~」
先輩と看護師さんは驚いて、急いで話を変えてた。
私はしばらく休憩所に座っていた。
看護師さんが突然…
「〇〇さんてそろそろ死ぬと思うよ~。」
「マジ?じゃあまたベッドメイキング入るのかぁ。量多くなるなぁ。あと2日待ってって感じ 笑」
私は絶句してしまった…。なんて頭の悪い人達なんだ…。
私は祖父や祖母を癌で亡くしている。裏でこんな事を言われていたら…。
そう思ったら頭に血がのぼってしまった。
「…死ぬとか言ってんじゃねぇよ。家族がどんな思いで、看病してんのか知ってんの?それと、さっきの話聞こえてんだよ。バカじゃねえの?いい大人が。やめてほしかったらやめてやるよ。」
…吐き捨てるように言って、私は病院を出てきてしまった。
今になれば、私も途中で仕事を投げ出した事はよくなかったと思う。でもどうしても我慢できなかった。
出てきてしまったが、どうしたらいいのだろう…。実家に帰れば、きっと母は私の心配をするだろう。
私は実家には帰らず、親友のマイの家に向かった。
マイも就職をし、1人暮らしをしていた。最近会っていなかったので、急に会いたくなった。
マイに電話をかけた。
「もしもし?元気?チョー久しぶりじゃん!」マイが出た。
「おぉ!久しぶり!ってかマイ。仕事は?今休憩?」
マイは「辞めちゃった。今夜の仕事してんの!そーいう自分はよ? 笑」と聞いてきた。
私は事情を話した。マイは、それなら一緒に住む?と言ってくれた。
そして私は、マイの家に住む事になった。
マイは、中学の時に仲良くなった。お互い団体行動が苦手だった。そんな繋がりか、気がつけば、よく一緒に喋ってた。
マイは、美人だ。私とは、性格も全然違う。
性格は違うのに、一緒に暮らす事は苦じゃなかった。
マイと住み始めて一週間が経った頃、母から電話がかかってきた。
「もしもし?!あんた何やってんのよ!仕事抜け出して、しかも行ってないんだって?」
「…ごめん。」私は言った。
「とりあえず職場に電話しなさい。」
私は職場に連絡をした。
上司は、あまり怒っている様子はなく、心配だったと言ってくれた。
上司に理由を話すため、上司と会う約束をした。
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