私のココロが壊れてく
雲ひとつない青い空、澄んだ空気、濁りのない水‥
目に入るすべてが、綺麗に見えた。
私は、恋をしたんだ。
誰かを愛する事などないと思っていた私が‥
かつて、幼少時代の私は親が共働きで忙しく、ほとんど放置状態だった。何をするにも自分で決めて、自分で解決するしかなかった。相談したり、自分の気持ちを伝えることなんか出来ないまま‥時は流れる。
だから、両親は私が誰と遊んでいたか、生理がいつきたか、どこに行ったか、何も知らない。
そして、私は自分の気持ちをどう伝えればいいのか方法を知らない。
未熟なまま、大人になった。
そんな、未熟な私に出会いは、突然やってきた。
彼は、私の友人の友人。在り来たりだけれど紹介みたいなものだ。
彼の性格は、プライドが高く 人を認めない。俺様だった。
きっと、私は こんな人を好きになるはずがないと思ってた。
でも、似てた。
客観的にみたら、私もこんな奴なんだ。だから、魅かれた。
1つ1つの行動、言葉が愛しく思えた。
女は、時に目覚める。
「私だけを見つめて欲しい」
そんな感情を抱いてしまった。
つづく
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付き合い始めたのは‥夏の夜、彼に誘われ車に乗り あてもなく走り続けた。「なぁ。俺と、つきあわないか❓」車を止めた彼は、私に言った。「え‥」なんてあっけない返事だろう。一番最初の言葉が「え」だなんて。本当は、気持ちを伝える言葉が準備されているはずだった。2人の間に3分も経たないだろう時間。会話が、変わった。たわいもない話を彼は始めた。1時間も経っただろうか、「帰ろうか」私が切り出した。「もう帰る?そっか‥。なぁ、俺と真面目に付き合わないか?」「いや。私は傷ついたくないし、傷つけられたくもない。だから彼氏はいらない。」好きなのに それなのに言った答え。「は?なんでよ‼俺は、他の奴とどんな付き合いしたのか知らないけど、一緒にすんな。間違いなく大事にする。」どこからくるんだろう、その自信。そんな気持ちを持ちながら、私は答えた。「ムリ。私を理解できる人はいないし、めんどくさい。」私は、嘘をつくと手が勝手に動く。指をつかんだり、にぎりしめたり。彼は、見破っていた。「大丈夫」強い口調で彼は言った。
臆病者で、素直じゃない。
自分でも わかっていた。
付き合っていけるかな‥
不安な気持ちを抱えて、彼に伝えた言葉は
「考えとく」
はぁ、本当にめんどくさい性格。
なぜ、『はい』が言えないのだろう。甘える事も、頼る事も出来ない。いや、出来ないんじゃない、する方法が わからないんだ。
「じゃ、考えといて」
笑顔で彼は言った。
彼は私よりも、一枚も二枚も上だ。
「うん。またね」
私が言えた たった1つの本当の気持ち『また会いたい』
イコール→『またね』
屈折した性格‥ また遊ぼうねじゃなく またね。
自宅に帰ると私の頭の中は、計算だけだった。
次会ったら、こう言おう。
いや、こう言ったら伝わらない。ダメだ、こんな言葉じゃ‥
恋愛偏差値 0に近いココロの中は、妄想的なことばかりだ。
素直に言えばいいだけなのに。
4日後に彼に会った。
なに食べに行こうか、今日の仕事は‥たわいもない話をしていた彼の会話の中で、私の頭の中は『返事をなんて言おうか』ばかりだった。
答えは決まっているのに、伝える言葉がみつからない。
違う違う‥
そんなだから、会話の流れもギクシャクしていた。
「疲れてんの❓帰るか?」
彼は、私を察してくれてた。
「ううん。うん。違う。」
なに言ってんだろ‥私。
「違うの。宜しくお願いします。」変な言葉が、私から飛び出した。
「は?なに?どうゆうこと?」
不思議そうな顔して私を覗き込む彼は、確実に笑ってた。
「まかせとけ」
伝わってたんだな。
多分、変な私を見て 答えを準備してる事を。
それからの会話は、付き合い始めたばかりの 中学生みたいな感じだったに違いない。
彼の仕事は、営業だった。
普通に仕事が終わる時間は、10時から11時。フレックスタイム、主に土日や祝祭日が休みだった。
私はサービス業の小さい会社の事務。8時30分に始まり5時には終わるが、土日は休めない。
無理をしてでも、彼の時間に合わせ 休みも彼に合わせるようになった。
会いたい‥
そう思う気持ちが、自分をがんばらせてくれた。
私のアパートから、彼のアパートまで車で1時間30分。それも、途中で高速を利用しての話。
でも、次の日に仕事がある日は泊まる事はなかった。
彼が私のアパートに来る事は、ほとんどなかった。
どこかで待ち合わせるか、私が行くか‥ 付き合いが1か月2か月と続いていく毎に、待っている事が多くなっていった。
私は彼を待つ事は苦ではなかった。幼少に学んだ、待つことが生かされているみたいだ。
仕事だから‥
遅いんだ。
そう思ってた。
でも‥それは、自分が美化した思いに過ぎなかった。
彼には、別に女がいた。
どちらを本命に思っていたかは‥ わからない。
少なくとも、自宅に呼ばれているうちは 私にも余裕がある。
そんな女の影に、私の存在を匂わす為に彼の部屋に私物を置き忘れたふりをしていた。
「歯ブラシ忘れてったぞ」
「ピアス落としてたぞ」
彼は、チェックしていたようだ。そう、もう1人の影に悟られないように‥
私の中に、おぞましいくらいの嫉妬心が芽生え始めていた。
ココロに余裕がない‥。
もう1人の影。
なぜ私から彼の時間を奪う。
ユルセナイ‥
見た事も、彼に確認することもなく。
日増しに、執拗に行くようになり 電話やメールで「どこにいるの?」が増えていった。
会えば いつもの彼だった。
‥影と別れた?
あてのない希望。
私は、私の恋愛の法則を押し付けていた。
『10好きだと言ったら、10好きだと返してほしい』
『愛情のバロメーターは、同じレベルでなければならない』
1人1人、愛情の度合いも 形も違うから寄り添うものなのに すべてが思うようにしたいと思ってしまった。
だんだん彼の気持ちを締め上げていく‥
わかっていながら止めることが出来なかった。
それは、曲がった愛情になり 彼が影から離れる為に 食事を高カロリーにし 沢山 与え太らせた。
「あなたは、すこし痩せすぎだわ。男は貫禄がなくちゃ」
と言い続け、食後には糖度が高いフルーツを与え ドーナツや甘いものも常備して置いた。
彼が太るのは当たり前だった。
彼の体は、私次第でどうにでも出来た。
これで影も離れるわ。
キッチンに立つ私は、ほくそ笑んでいた。
端からみたら‥きっと、悪魔に見えただろう。
彼が体調を崩すまで、私は気付けずにいた。
「ちょっと走ると息が切れるんだ。寝ていても苦しいし。」
彼が言った。
「そう。あまり変わらないように見えるけどなぁ。」
手を細かく動かしながら、言った。
「太ったからだろ。お前、言わないけど手が‥動いて‥る」
彼が倒れた。
病院の一室で、彼のそばに ただ顔を見ながら座っていた。
「う‥ぅっ」
彼が唸るような声を発した。
「気が付いた?」
‥ごめんなさい
私がしていた事は、影を切り離す事じゃなくて彼を傷つけているだけだった。
影も彼が倒れた事など、知りもしないだろう。
先生から「食事に注意して下さい。糖尿になってしまいますよ。少なくとも、血液がドロドロです。急激な体重の変化と軽い心筋梗塞みたいなものですが‥」
と言われた彼は、私の方を一度も見なかった。
彼には、わかっていたのかもしれない。
過剰な愛情と行き過ぎた嫉妬。
それからの私は、献身的に看病に通い 食事も治し 早く良くなるように努めた。
彼が死んでしまったら、意味がないのだ。
私だけのものになりますように‥
いつも願うことだった。
時に、忙しい仕事にさえも嫉妬していた。
彼が倒れてから、彼を痛める事はやめた。
あれも、これも アイシテルから‥。
付き合い始めて初めての彼の誕生日が間近に迫っていた。
ナニヲシテアゲヨウ
通りがかりのショップで足が止まる。プレゼントを選ぶ為に‥
これも あれも似合うだろうなぁ。
私が幼少に誕生日を祝ってもらう事はなかった。
たった1つ、ショートケーキが小さな皿に上げられていた。
ロウソクもない。
そんな私は、大きなケーキとワイン、シャンパン。
沢山の料理を作る為に、いろいろと準備をしていた。
「ねぇ、もうすぐ誕生日だね。仕事早く終われない?沢山お祝いしたいの。」子供が明日は遠足ってくらいに、はしゃいだ声で言った。
「わかんない」
ワタシのテンションとは真逆だった。
『誕生日なんて祝うホドのもんでもない。毎年くるもんだし。』
と言わんばかりだった。
影?
影なの?
頭の中に妄想に近い形で、嫉妬心が燻り始めた。
いゃ、違うハズ。
自分に言い聞かせるように、首をふった。
もし、また‥だったら。
ドウシヨウ
‐誕生日当日‐
沢山の荷物を抱え、私は彼の部屋の前で待った。
鍵は、ある。でも入らずに待った。
もし、彼が女と2人で帰ってきたら‥
そう考えると、部屋の中よりも すぐに追いかけられる玄関の前で待った。
0時をまわった‥
結局、彼は帰ってこなかった。
間違いない。女だ!
私は、首をダラリと下げ 玄関先に プレゼントと準備した すべての物を置き その場を去った。
どうして私の邪魔をするの
ココロの中で低い声が響いた。
ユルセナイ
彼は、その頃 まだ得意先と一緒にいた。
私の変わっていくココロに気付かないまま。
しばらく、私は彼に連絡を入れなかった。
私は、ココロが2つになろうとしていた。
①ユルサナイ
②一緒ニ イタイ
冷静に考えたかった。
嫉妬に狂う自分が犯した過ちを繰り返さない為に。
一緒にいたらダメになる
いや、一緒にいたい
本当は、泣き喚きたかった。
体の中の すべての涙を出してしまえたら きっと嫌な自分とサヨナラ出来ると思いたかった。
でも、分かれてしまったココロは別々に感情をもたらした。
久しぶりに連絡を入れてみた。
「忙しい?」
そっけなく聞いてみる。
「うん。会社に数字を求められててさ。思うようにいかない。」
と半ば、疲れたように話す彼に
「そぅ。傍に誰かいるの?」
と探るように聞いていた。
「いや、いないよ。今、家。」
「そう、じゃ‥またね」
突き放すように言った。
ウソだ!
彼の部屋に明かりは、ついてなかった。
ドコニイル
15分後、また電話をした。
「今から行くね」
「え!?」
「困る?」
「いや‥」
「やっぱ行かない」
「どっちだよ」
行ったら困ることは わかってる。でも、言いたかった。
困らせてやりたかった。
追い詰める事が私の愛情?
違う。こんなの恋愛じゃない。
離れよう。まともに愛を表現出来ない私に 彼氏は存在しちゃいけない。
私は、別れを いや彼を自由にすることを決めた。
その後、私は 何も言わずに黙って彼の前から消えた。
1日が長くて長くて、ふとした瞬間に彼を思い出しては涙ぐむ。そんな日が続いた。
本当に好きになれた人。
こんな私に そうある話じゃない。
でも、最低な自分になる前に‥
私が私じゃないような感覚。
こんな事にも、きっと慣れる。いつの間にか、3か月が過ぎようとしていた。
日が昇り、朝がきて、日は沈み、闇がくる。
毎日が、そんな繰り返しだった。
まわりに目を向ける余裕さえなかった。
一方的に連絡を絶った私に、彼は1度も連絡は くれなかった。
そう‥それが彼の答えだ。
ある日 玄関に、人の来た気配を感じた。なんとなく残る足跡。
郵便配達?
新聞屋?
どれも当てはまらないような、不思議な感じ。
誰だろう‥
でも、普通の毎日を過ごすうちに そんなことも忘れていった。
この間までの自分は、本当の自分だったのか それとも屈折したココロが生んだものだったのか‥
それは、未だに わからない。
ピンポン‥
チャイムが鳴った。
また、新聞か何かの勧誘だろう。
「はい」誰だよって感じで玄関を開けた。
足元から見上げた私は、驚いた。
彼だった。
「お前‥どうしたんだよ」
彼が冷ややかな目で言った。
『何のこと?』頭の中で考えたが何を指し示して言っているのかわからなかった。
意味がわからない。
「何で俺を苦しめるんだ。消えるなら、すべて消し去れ! 黙っていれば、いつか気付くだろうと思って我慢してたけど、もう耐えられない」
苦痛にゆがんだ彼の顔。
私が何をした??
ただ‥あの日から、黙って消えたハズ…
何、なんなの!?
訳が わからなかった。
「ちょっと待って。私が何をしたの?何をしたってゆうの?」
本当にわからなかった。
「何とぼけてんだよっ!」
彼が言うには、ここ最近 身の回りの変化に気付いたらしい。
ポストにあった郵便物が開けられていたり、ゴミが開けられていたり、玄関に誰かが来た気配があったそうだ。
夜に帰宅し明かりを付けると非通知の無言電話がくるという。
私には、記憶になかった。
『私じゃないっ!』
そう言っても信じてもらえる訳がなかった。
何?
なんなの?
わからない‥
私じゃない。
そんな言葉ばかりが、頭の中を駆け巡った。
「あの女じゃないの?」
そう思ったのは、3日程経った夜だった。
カエッテキテクレタ‥
ワタシノモトニ‥
頭の中のずっとずっと奥で低い声が聞こえた気がした。
私は、自分の誤解を解くために彼の部屋に行った。
彼は、苦痛で歪んだ顔で 毛布を被り 電気を消していた。
少しの物音でドアの覗き窓を見る習慣がついたみたいだ。
この人‥病んでる。
フッ‥
ザマーミロ‥
え?
自分でも理解出来なかった。
誰の言葉?
低い声。
自分の後ろの方から聞こえているような気がして振り向いた。
もちろん誰もいない。
私のココロの声なの?
まさかっ‥
そんなハズない!
初めて愛した彼を、私は彼を傷つけない為に離れたのよ。
そんなハズがないわ。
私の声のハズがない。
自分が自分じゃない気分‥
こんなコト 今まで有り得ただろうか。
確かに、他の女の影が見えた頃
密かに芽生え始めた重い嫉妬に狂い、許せない思いと彼を壊す為の計画。
今までの自分じゃ考えられなかった。
だから??
だからって無意識の内に私が彼を?
そんなバカな‥
だったら離れるハズない。
ずっと彼の側にいて、彼を束縛という鎖で繋いでいただろう。
たとえ、彼の体が不自由になろうとも‥
ねぇ‥
アナタは自信家で、何一つ 自分の思い通りにならなかったコトはなかったんだろうね‥。
私には考えられなかった「恋心」と「嫉妬」を教えてくれた人。
そう、ずっとずっと一緒にいるんだろうって思ってた‥毎日。
ちょっとした 仕草でトキメキ、
さりげない言葉に胸が弾んだ。
なのに、今 目の前にいるアナタは
小さな生き物にしか見えない。
そんなだったっけ?
気持ちが、上から目線になりかけた夏の終わり。
きっと冷ややかな目で彼を見ていただろう私。
秋になり、彼は病院へと入院した。
眠れなかったらしい。
極度の不眠症と怯えきった顔に「この人、狂ってるのかしら」と思ったホドだ。
私が彼の部屋に行った時には、何の異変にも気が付かなかった。
と、いうより何事もなかった。
身の回りの物を取りに行った時も、片付けしている時も何もなかった。
あのオンナも諦めてくれたんだろう。
そう思ってた。
そして、そんな彼を見ている私はココロが満たされていた。
彼の苦しんでいる姿を近くで心配している態度を見せては、ほくそ笑む自分がいる。
そう思ったのは、彼の病室で花瓶の水を換えている時だった。
ふと、目の前の壁にある鏡に目がいった‥
ニヤリと笑う自分が写った。
そして‥愕然とした。
手が滑り、花瓶は支えを失い澄んだような音を発てて落ちた。
花瓶はクチが欠けてしまった。
そう私達も本当は何かが欠けているのだ。なのに気が付かないフリをして、健気に通っているフリをしていただけだ。
ココロのどこかで、解りきっていたハズなのに 見ないフリをしてきた関係。
ふと振り向くと彼は寝息をたてて眠っていた。
細い管は、彼の痩せた腕につながっていた。
とめどなく涙があふれた。
ナニシテンダロウ‥あたし。
ココロの中には、以前の私がいた。
彼を傷つけたくないから離れよう。
そう決めた時の私がいた。
でも、今回は違う。
私が傷つけた訳じゃない!
じゃぁ‥誰が?
誰が、彼を追い詰めたの?
守ってあげなきゃ。
マモル?ナニカラ?
低い声が小さく聞こえた気がした。
自問自答を繰り返し、まるで深夜のテレビの砂嵐のような音が頭の中に響く。
答のない問題。
まるで水が流れるように質問が溢れ出し、広い海へと流れ込む川のように、答は深い海の底へ沈み 自分が理解するには 時間が解決してくれるようなものでは なかった。
私は、黙って病室をあとにした。
ガラスと陶器のぶつかる甲高い音で、ふと我に返ったような感覚。
あの低い声は?
わからない。
私は、自分の部屋に帰った。
自分の顔を鏡にうつして、自分の気持ちに問い掛けた。
彼に対しての気持ちが何なのか、自分でもわからなかった。
すべてを書き出してみた。
心配
愛おしい
側にいたい
疎ましい
イラ立つ
許せない
いなくなればいいのに
‥‥後半になればなるほど、別の女の存在や彼の態度に腹立たしさが溢れた。
また鏡を覗き込んだ。
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