百丁のコルト
こんにちは、ここで「誰も見ない月」という小説を書いていた者です。もう書かないつもりだったんですが、小説を書くことが楽しくなってしまい、もう一作書くことにしました。前作とは雰囲気がだいぶ違うので驚かれるかもしれませんが、ぜひ最後までお付き合い下さい。
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20:22(水)上野
「肩は痛みますか?」
「別に……」
須藤とアシュレイの視線が不意にぶつかった。
アシュレイはふっと無言で目をそらした。
「弾は貫通していましたし、化膿も見られませんから…じきに良くなると思います」
「セシルと高……」
高瀬、と言いそうになって須藤は思わず口をつぐんだ。
彼は高瀬では無い、ギリアム……
須藤は少し目眩がした。
「…セシルとギリアムは連絡のために本部の人間と会っています」
アシュレイが察して須藤の質問に答えた。
「須藤さんは48時間は敵プレイヤーの端末に映らないでしょう?ですから二人は移動させた方が須藤さんが安全だと判断したんです」
確かに筋は通っていた。プレイヤーの二人が見つかれば、須藤も一緒に発見される可能性は高い。
須藤はアシュレイと二人きりだというのは好都合だと思った。
二人なら、心置き無く今から真剣な話ができる。
そう……真剣な話だ。
「……聞きたい事がある」
須藤は唐突に、鋭く話を切り出す。
こちらの雰囲気を悟ったのか、アシュレイの目にも冷たい鈍色が浮かび、神妙な顔付きになった。
「……何ですか?」
「お前らの組織の事だ……」
20:25(水)上野
須藤は強い口調でまくし立てる。
「いいか?俺はお前が仙石に盾突いたから撃たれたんだ!俺には聞く権利があるはずだ!答えろ!お前らは何者だ!?」
アシュレイはうつ向きがちに目線をそらし、少し考えている様な表情をした。その様子を、須藤は下手な演技だと思った。
「……そうですね。須藤さんはもう無関係では無い……分かりました、私の知る限りでお教えしましょう」
須藤は少し息を整えてから、ゆっくりと言葉を引き出した。
「お前らの組織は、何を目的に設置されたものなんだ?」
アシュレイは言葉を選ぶ様にゆっくりと答えた。
「……仙石の推論が全て間違っていた訳ではありません。実際、警察庁との繋がりは仕事柄深いものですし、彼の言った様な警察庁サイドが主導の任務も無いわけではありません」
「という事は……それは本来の仕事ではない?」
「そうです……須藤さんは、日本がスパイ天国だという話を聞いた事がありますか?」
「聞いた事はあるけど……大袈裟に誇張してるだけだろ?」
「……信じられないかもしれませんがそれは事実であり、対外政策上とても深刻な問題なんです。今も、そして昔も……」
20:28(水)上野
「資源、経済力、人口、国土、軍備……冷戦下において日本政府はあらゆる物が国家として足りない現状に気づきました。そして危惧しました……このままではいずれ日本は先進諸国の食いものにされてしまうだろうと」
須藤はただ黙って聞いた。彼の言葉の一つ一つを入念に点検する様に。
「日本を国際的に確固たる地位に据えるには、各国に先んじる要素が必要でした。時の日本政府はそれを技術力と……」
「情報力に置いた?」
須藤の言葉にアシュレイはうなづいた。
「そうです。冷戦期から近代外交は情報戦の時代に入りました。当時アメリカとソ連は睨み合いながらも、水面下では互いに人工衛星を飛ばし、諜報員を送り、情報を収集しあっていました」
「その様子を見た日本政府は情報の有効性に気づき、世界の情報を牛耳る情報大国となることに将来の活路を見い出したのです」
ふと須藤は話の矛盾に気がついた。
「ちょっと待て…日本には他国の諜報員がわんさか居るんだろ?」
「その通りです。情報国家になるためには情報を収集すると同時に情報の漏洩を防ぐ必要があります……そこに一番の問題がありました……」
20:30(水)上野
「アメリカからの圧力です」
「圧力?」
と須藤は言った。
「敗戦国である日本はアメリカに対してあまりに無力でした…在日米軍や沖縄問題を見れば分かるでしょう」
「それで?」
「アメリカの影響で、日本には公的な諜報機関を設置する事が困難だったんです」
アシュレイは続ける。
「それだけではありません。日本を対ソ連、対中国の情報拠点とするため、国内のアメリカ諜報員を日本の法律で裁くことさえ許されなかった」
「情報を集めることも、守ることもできないってことか」
「ええ…しかし、日本としてもアメリカに黙って屈服しているわけにはいかなかった。日本を守るために」
「日本を守る…ために」
須藤は繰り返した。
アシュレイは須藤の目をじっと見た。
「そして日本政府は一か八かの賭けに出た……超法規的権限を持ち、諜報活動及び他国諜報員の監視を任務とする特務機関を秘密裏に設置したのです」
須藤の中で、意味を成してはいなかったアシュレイの話が、この一言で明確な答えとなって集約された。
須藤は、既に分かりきった解答を、今一度音声として確認する。
「それが……組織『ロストチルドレン』」
20:34(水)上野
「そう、それが組織です」
一応筋は通っている。須藤はさらに疑問をぶつけてみる。
「だが、それなら行動も秘密裏に行う必要がある。他国の諜報機関にどうやって干渉する?」
アシュレイはその質問を予測していた様に、間を置かずに答えた。
「それは不可能…当然アメリカやソ連も私達の存在を知っていました」
「なら組織はなぜ潰されない?」
アシュレイはゆっくりと話を始めた。
「1970年代に内閣官房情報対策室の中に準備課が設置され、他国に気取られない様に段階的に組織を拡張したようです。そして1990年代にはほぼ現在の形になった」
「答えになっていないんじゃないか?」
「大事なのはここからです…ポイントは他国が知り得ない状況で組織を立ち上げたという事です……組織の活動により重要な情報を持った諜報員は抹殺されるようになりました。各国は当然それを調査します。諜報員の足取りを追う、証拠を探す、容疑者を絞る……だがそれらは全て『ロスト』する……絶対に何かがいる。だがそれが何なのか分からない……まるで幽霊、各国は組織を『ゴースト』と呼びました……なぜ見つからないか分かりますか?」
20:37(水)上野
その理由は、須藤には大方見当がついていた。
「お前らは『存在』していない……違うか?」
アシュレイはふっと息をつく。
「本当に勘がいいですね……そうです。私たち組織の構成員は形式的に『存在』していません。戸籍も無い、名前も無い、親も居ない、友人も知人も無い……私たちは居ない事になっているんです」
「そして、それは組織に与えられた任務の性質上、必要不可欠な要素だった」
と須藤は付け足した。
「この非存在こそが、一番重要なことです」
アシュレイは続ける。
「組織は仕事をする際、徹底して証拠を隠滅しました……その上で、日本政府がその権力を持って私たちの存在を隠蔽するのですから、潜入諜報員の力だけでは尻尾を掴むのは容易ではありません。さらに万が一足取りを掴んだとしても……」
「その足取りは形式的に存在するだけの、言わば幽霊の足ってわけだ」
と須藤は続けた。
「そうです。証拠が無い以上、あくまでしらを切り通す政府に正式に抗議を出したり、調査を求めることは強国と言えどもできません。この点が、日本政府が組織を作ったもう一つの目的であり、一世一代の大きな賭けでした…」
20:40(水)上野
「賭け……?」
アシュレイはうなづいた。
「組織の活動によって、日本は一つの宣言をしたんです……日本はお前らの言いなりにはならない、と」
成程、と須藤は思った。
これは日本の宣言であり、反抗だったのだ。しかし、一度尻尾を掴まれれば、その代償として日本は国際的な立場をかなり悪くすることになる。それをアシュレイは『賭け』と表現したのだ。
「組織の成り立ちについて私が知っているのはこの程度です……他に聞きたい事は?」
「じゃあもう一つ、お前らはいつ、どういう経緯で組織に入ったんだ?」
「気づいた時には…私は組織の一部でした」
とアシュレイは自嘲する様にぼそりと呟いた。
「どういう意味だ?」
須藤は真意を計りかねた。
アシュレイはさっきと同じ調子で答えた。
「そのままの意味ですよ……物心ついた時には施設、まあ組織の養成所ですが、そこにいて……そのまま訓練や教育を受けて、気づいたらこうなっていたんです」
「じゃあ……」
「ええ、生まれや本当の親は勿論、自分の本名さえ私たちは知りません……私たちは存在しない『存在』として、外界から完全に隔離されて生きてきたんです」
20:44(水)上野
アシュレイの言葉の意味について、須藤は少し考えてみる。
隔離、孤独、教育……
それは辛い事なんだろう。それは苦しい事なんだろう。
そして、高瀬もその中で……
「でも……親が分からないってのは俺も同じだよ」
「え……?」
戸惑うアシュレイの顔を見て、須藤自身も困惑した。
(何で……俺はこんな事を言ったんだろう?)
「俺さ……養子なんだよ。母親は俺を産んですぐに死んだらしい。父親はそんな俺を見て邪魔になったのかもしれない……逃げたんだってさ。それで、まだ赤ん坊だった俺を叔父だか叔母だか……とにかく親戚の誰かが仕方なく一旦引き取った……それからすぐに養子に出されて今の親ん所に来た……よく有る話だろ?」
そんな事をわざわざ言う必要は勿論無かった。
かといって、アシュレイの慰めになるはずも無かった。
でも、何だか訳も無く、言わなければいけない気がしていた。
何故?
そうか……
だから高瀬は俺の中で……
「そうだ……俺の周りにはいつだっていい奴なんて一人も居なかった。でも……その中で高瀬だけが信じられた、唯一の親友だった。少なくとも今まで俺はそう思っていた……」
20:48(水)上野
信じたくは無かった。
でも、信じざるを得ない。それが必要なプロセスだった。
そして、そのプロセスの先にある物は多分……
須藤は考えないようにする。
「あいつは……高瀬は……組織の命令で俺と接触したんだろ?」
アシュレイは何も言わない。
言えないのかも知れない……そう須藤は思ったが、今更そんな事は関係無い。
須藤には、既に全てがクリアな物になっている。
「お前と話してはっきり分かったよ……俺は組織に誘導されてゲームに参加したんだ。偶然なんかじゃ無いんだ……」
薄々感付いてはいた。
だが、信じたくない……
何も、信じたく無かった。
全ては仕組まれた絶望のトリックだ。
「そもそも冷静になって考えれば、最初からおかしかったんだ……何でお前らが俺と手を組む必要がある?
お前らはプロ、俺は素人。居たって足手まといになるのは目に見えているし、実際そうだ。じゃあ何で俺を連れていった?
答えはもう一つしか無いだろ?……理由は分からないが、お前らの任務の中に、俺が組み込まれていたって事だ……違うか?」
アシュレイはやはり無言だった。それはまだ、彼の中で『機密』なのだろう。
20:51(水)上野
「俺が何かしらの理由で組織のターゲットになっているなら、高瀬が俺に接触してきたのも筋が通る」
須藤はアシュレイの目をじっと見て、その奥にある何者かを見定めようとした。しかし、アシュレイは無言で、平坦な視線を送り返すだけだった。
須藤は諦めて話を進めた。
「さっきのもそうだ……仙石が聞いた時は、組織の情報は意地でも教えないって感じだったのに、今になって俺にはあっさり喋る……おかしいだろ?
組織から、今度は俺に組織の事を教えろ……そういう指示が出てるんじゃないか?」
須藤はもう堪えられなくなっていた。
「なあ?答えろよ!
お前らは俺に何をさせたい?何が目的なんだよ!?
確かに生い立ちは多少不幸だ。東大生は珍しいかもしれない。人と考え方が違う所もある……でもさぁ、俺は余裕で一般人だよ!お前らと違って普通の奴なんだよ!分かるだろ?
そんな俺にお前らは何を望む?そもそもなんで俺じゃなきゃならない?
答えろよアシュレイ……おい、なんとか言えよ!!」
一息で言った須藤はぜえぜえと息を切らした。
その時、アシュレイの石の様に硬直していた唇がゆっくりと、再び動き出した。
20:54(水)上野
「……分かりません」
アシュレイの口から重苦しく出てきたのは、つまりはこういう事だった。
「分からない……って何だよ?まだ隠すのか?」
須藤は詰め寄る。
「違います!本当に知らないんです。私達は任務に直接必要な情報以外は知らされません……」
「機密のため?」と須藤は聞き返す。
「『命令に疑問を持たない』それが組織の鉄則です。与えられた情報で、与えられた任務をこなす……それが私達の鉄則です」
思えば当然だ。組織としては不要のリスクを背負う価値は無い。
「ただ、一つ言える事があります」とアシュレイは強い目で続けた。
須藤はアシュレイの言葉の続きを注意深く待つ。
「組織の目的は分かりません。あなたの選ばれた理由も分かりません。それは絶望的な事かもしれない、それでも……それでも最後まで生きることだけは諦めないでください」
「組織のシナリオの中で、俺が死ぬことになっていても?」
「ええ、もちろん」
須藤は堪えきれず、くすりと笑った。
「これも組織の命令で言ってるのか?」
「ただの……個人的な願いですよ」
須藤は、何だかホッと……体の奥深くから『ホッ』とした。
1:04(木)上野
須藤は念のため、部屋の明かりを消していた。
窓枠とカーテンの作る鋭角の入り口から、控え目な青白い月明かりが差し込み、室内の濃密な闇を切り裂いていた。
あの話の後、須藤が敵に見付からない事を考えればそれほど危険は無いだろうという事になり、合流までアシュレイは仮眠を取ることにした。
たっぷりと眠り、目の冴えきっていた須藤は見張りとして、端末をじっと見ては時々窓の外を自分の目で確認し、ついでに月を眺めるという作業を延々繰り返していた。
真っ暗な部屋は、よく目を凝らせば繊細なモノクロの抑揚があり、浮彫りの様な、微かな主張を所々にたたえている。
何処かで見た風景。
(夢……?)
そうだ。この部屋はさっき見た夢にどことなく似ている。
鮮やかな想起。
不吉な予言の様な声……
その持ち主は誰だったのか?
(駄目だ……止めろ)
須藤は見張りを始めてから、あの夢の事ばかり考えている。
夢には……不思議な力がある。
強い夢は現実に何かしらの引力の様なものを働かせるのだ。
須藤は必死に、その夢の残像を追い払った。
きっとその魔力は、悪い方向に自分を誘うに違いないから。
1:39(木)上野
セシルから連絡があったのは、ちょうど十分前だった。
「今須藤君の家の近くの公園に居るんだけど……二人で話したい事があるから、ちょっと一人で来てくれないかな?」
セシルはおおよそそんな事を言った。
それはもちろん不信な事だ。
と、須藤は歩きながら自分に言い訳の様な言葉を吐いた。
(それでも……)
須藤は何かから逃げる様に早足で歩き続ける。
前に進む。
程無く眼前に目的地が見えて来る。だが、それは夜の闇に包まれてどちらかと言えば黒い……少なくとも緑とは言えない、濃密な表情を浮かべている。
近付くにつれて、その輪郭は詳細を明示していく。
それは公園というよりは、自然の丘だ。
遊具は一つも無い。周辺に木が植えてあり、中央の少し小高くなった部分が芝生として整備されている。
そこにセシルはいるのだろう。
須藤は着ている上着のポケットを探る。
冷たい感覚が指先に伝わった。
コルト・ガバメントのグリップ。
それは今の須藤にとって何よりも暖かく、リアルな実感だ。
須藤は公園に入り、階段を上っていく。
視界が一段一段変化する。その様子に須藤は当惑した。
(あと……少し)
1:45(木)上野
須藤はゆっくりと、しかし確実に階段を上りきった。
セシルは少し先に見えるベンチに座っていた。
彼女の頭上には青白い光を降らす外灯が輝き、その下のセシルは薄いベールを纏い、何だか白く、そしてどことなく儚く見える。
突然にセシルが女性であるということを、須藤は強く実感する。
彼女は気付く。
彼は知っている。
二人は同時に、今完全に二人だけの空間である公園の中心に歩み寄る。
急いだりはしない。
ゆっくりしている暇もない。
それは二人にとっては、暗黙の了解となっている……繊細で適切な速度だ。
二人は目を逸らさずに一つ一つ歩み寄る。
月明かりの作る陰影がセシルの表情を刻一刻と変化させる。
そしてそれは彼女にとっての須藤の変化でもある。
そして……
二人は出会う。
「一人?」
「ああ……一人だよ」
「……そう」
セシルはうつ向く。
殺那……
二人は同時にコルト・ガバメントのグリップを握り、抜き出し、そして突きつけた。
銃身が白銀の光を放ち、時間は一点に集約される。
「なあ、セシル?」
「何……?」
「俺はさ……ここに来る前から、こんなふうになる気がしてたよ……」
1:49(木)上野
「どうして?」
セシルの言葉に須藤は頷いた。
「夢を……見たんだ」
「夢……?」
とセシルは聞き返す。
「そう……凄く不吉な夢だった……」
「どんな風に?」
須藤は少し間を置いてから話し始める。
「俺は何処か知らない場所に浮いていて……みんなバラバラなんだ。だから、自分を集めなくちゃならない……でもそうすると、不吉な予言みたいな声が聞こえてくるんだ……底の方から響くように。その声は何処かで聞いたことがあるんだけれど、誰の物か分からない……そして何て言っているかも分からない……でもその言葉は感覚的にひどく不吉なんだ……最悪に」
「それはつまり……今この状況を表している?」
「そう……あの声はセシルの声だったんだよ」
須藤はまた頷いた。
「でも……だから何なの?」
「さあ、何なんだろう?俺には分からないよ」
須藤の銃口は確実にセシルの額を捉えている。
今引金を引けば、彼女は為す術無く即死するだろう。
だがそれは同様に、彼女が引金を引けば須藤が即死することを意味する。
お互いがお互いを絶対の危険に晒している。
その中で、
会話は静かに、緩やかに進行していく。
前回の作品、誰も見ない月から読ませて頂いてる林檎と申します。書き込みしたのは、恐らくは今回が初めてかと思います。百丁のコルトも前作同様、更新を楽しみにしております。作者さん、受験生なのかな?最近、更新速度が鈍いような…勿論、一番尊重すべきは作者さんのプライベートな訳で…読者としては、ちょっと複雑。
勉強の息抜きがてら、更新して下さい♪楽しみにお待ちしております。
(*^-^*)
1:54(木)上野
既に色彩を失った領域。
その中で一対の男女だけが、鮮やかで意味のある存在だ。
止まった世界が言葉に揺らぐ。
「ねえ……聞いていい?」
女の言葉は、男の中にゆっくりと吸引される。
「何……?」
男の言葉は、大事な宝物の様に静かにその役目を果たす。
「須藤君にその引金が引けるの?」
月の光が彼女を照らし、銀の銃口は宝石の輝きを放つ。
それは善でも悪でも無い、言わば冷たい中性だ。
「引けないよ……多分ね」
(多分……)
それは一種の強がりなのかもしれない。
須藤はふとそんな事を思う。
「俺も聞いていいかな?」
「何?須藤君……」
答えは分かっている。
それでも聞かなければならない。
そうしなければ……
時は動かない。
「セシルはその引金を引けるの?」
悲しい予言が須藤の脳裏をよぎった。
「私には……撃てる」
須藤は少しうつ向いた。
「多分……そうだと思ったよ」
「どうして?」
「セシルはそういう世界で生きてきたから」
「君に私の世界が分かる?」
「よく分からないよ……でも」
須藤は言いかけて口をつぐんだ。
「でも?」
「でも……そこはきっと、悲しい場所だよ」
1:57(木)上野
悲しい場所……
須藤はその自分の表現について考えてみる。
それは……自惚れかもしれない。
「悲しい?私は悲しくなんか無い」
とセシルは静かに口にする
「でも君は俺を撃たなきゃならない……多分それが組織の命令だから」
須藤の言葉をきっかけに、セシルの視線が強くなる。
「須藤君にはもう関係ないわ……これから死ぬんだから」
「セシル……君は組織の一部でいなきゃならない……だから」
「もう止めて!」
セシルが引金に指を掛ける。
須藤にはそれが、まるで映画のワンシーンの様に無感情に瞳に映っていた。
「だから、君は俺を撃たなきゃならない……それが俺は、たまらなく『悲しい』んだ」
セシルは感情を必死に押し殺している様に見える。
「そう……それでも私は、須藤君の言う通り組織の一部、だから……」
「……それでいい」
須藤は静かに、そして穏やかにそう伝えた。
須藤はしゃがみこみ、ゆっくりと銃を足元に置く。
「撃ってくれ、セシル」
「須藤……君?」
セシルは混乱している。
「自分でも不思議なんだけど……」
須藤は静かに立ち上がる。
「今は、死んでもそれでいい気がしてるんだ」
✨こんにちは💕おっじゃましま~す🐾はい💡キラ猫です😺🌟教えてもらったのでバッチリ読ませてもらいましたよ🎵めちゃめちゃ気になる所で終わっててモダモダします💦
感想ですが…
おっもしろいです🎊描写が細かく、かつテンポがいいので一気に読めちゃいました🙆描写の細かさや、セリフの言いまわしが高校生とは思えないです❗キラの小説が幼稚にみえましたよ(笑)見習わなきゃですねッ😼🌟今は忙しいかと思いますが、続きも楽しみにしてますよ😽💕
あ、そうそう❗キラもメタルギア好きです💕ゲーム大好きな主婦なのです🙆
お互い更新頑張っていきましょうね😸🌟また来ます💓キラの小説にもまた遊びに来てくださいね😺💕✨
2:01(木)上野
「どうして?」
そうセシルは須藤に尋ねる。
どうやら会話はもう少し続くらしい。
どうして死ねるのか?
言ってみたものの、その理由は分からない。
ただ分かるのは……
自分は本気だという事だけだ。
死にたい事は何度かあった。
周囲に嫌気がさす。
自分に絶望する。
ただ漠然とした、絶命への使命感とでも言うべきもの。
そんな事が俺の中には控え目に見ても数回はあった。
そしてそれは全て本気……だった気がする。
少なくとも、そう思った瞬間は行動を伴う覚悟みたいな物はあったはずだ。
しかし、あえて『本気』という概念に指数を付けるとしたら……
(俺の今までの本気は……今この瞬間には全く及ばない)
じゃあその理由は?
セシルはそれを知りたがっている。
理由は分からない?
違う、それは嘘だ。
本当は知っている。
でもそれに自信が無いだけだ。
だから……だからこそ
(俺は……伝えなきゃならないんだ)
それが引金。
須藤は自信を持って、その『自信の無い答え』を口にする。
「今言うのもなんだし、自分でも不思議な感覚なんだけど……俺は、セシルのことが好き……なのかもしれないんだ」
ご無沙汰しております。作者です。
受験で更新できず、読者の皆様には大変ご迷惑をおかけしています。
25日に国立大学の試験があり、それが終わったら完結させたいと思っています。
受かるか落ちるか分かりませんが、どっちにしても小説は書くつもりです。
もう少しお待ち下さい。
作者でした。
こんばんは、作者です。
大変長い間お待たせしました。
更新再開したいと思います。
早速続きを書きたい所ではありますが……だいぶ時間も空いてしまいましたので、ラストに向けて登場人物、作中用語、あらすじ、作中の謎などについてザッとおさらいしたいと思います。
次からの内容を読んで頂ければ、物語の結末が更に面白くなると思います。
作者でした。
登場人物その1
須藤翔
本作の主人公。
東京大学の学生だが、あまり真面目に通ってはいない。
ひょんな事から『コルト・ガバメント』を拾ってしまい、謎の殺戮ゲームに巻き込まれ、実際に人を手にかけることになる。
子供の頃、肉親が居なかったせいか世の中を斜に見ている様な感がある。とっさの判断力や思考力はかなり優秀で、非現実的な現状を的確に推理し理解していく。
高瀬順一
須藤の親友。『シャドウレイ』というバンドのベーシスト。自らもゲームに参加する。参加の時の『伝書鳩』との会話は意味深な内容……物語の謎の一つ。
伝書鳩
ゲームの主催者の使い。須藤たちには端末で連絡するが、高瀬には直接接触してきた。
セシル
『組織』のエージェント。ゲームの参加者で『ゲスト』の一人。須藤に手を組むことを持ちかける。最初はゲームの黒幕を知る事が目的だと言っていた。
近接射撃戦や格闘術を得意とし、高い戦闘能力を持つ。
絶望的な状況でも諦めずに戦う強い精神力がある。
登場人物その2
アシュレイ
組織のエージェント。主に後方サポートが担当。
東京タワーミッションの時に須藤を助けた。
セシルやギリアムと違って直接ゲームには参加していない。
須藤に『組織』についての重要な情報を与える。丁寧な言葉使いが特徴。
ギリアム
『組織』のエージェント。主に狙撃が担当。
高精度の狙撃を容易にこなす優秀かつ冷静なスナイパー。
実は高瀬順一と同一人物で、その事が判明してからは須藤に冷たくあたる。
滝沢
東京タワーミッションの時にセシルと須藤を追い詰めた人物。セシルたちと因縁が有るらしい。
須藤を殺害するミッションを与えられたのは彼だとセシルは考えていたが、実際は仙石に雇われていただけだった。
仙石晃
警視庁の警視。ゲームの参加者で須藤殺害のミッションを与えられた男。
『組織』の正体に異常な執着があり、それを突き止めるためにゲームに参加したらしい。
かなりの権力があるらしく、本物の警官隊を私的に率いて須藤とアシュレイを拉致した。
求め続けた真実まであと一歩に迫るものの、心臓発作で急死した。
用語解説その1
『ゲーム』
須藤が参加することになってしまった殺人ゲーム。
銃の入ったケースを拾い、同梱の携帯端末に出た瞬間に強制参加させられてしまう。
東京都内、百人の参加者が自動拳銃『コルト・ガバメント』を使って一週間の間互いに殺し合う。
百億円の賞金があり、ゲーム終了時の生存参加者で頭割りになる。
どういう訳かゲーム中の殺人は犯罪に問われないが解せないのはそれだけでなく、多額の賞金、参加者の位置監視方法、『処分』の方法など謎が多い。
『ゲスト』
銃を拾っていない招待参加者。多くは元軍人やギャング、殺し屋などその道の人間。セシルや仙石はゲスト。
『ミッション』
参加者が消極的であるなど、ゲームが停滞した時に課せられる任務。ミッションを達成出来ない場合はその場で『処分』されてしまう。
須藤には制限時間内に東京タワー展望台へ行くというミッションが与えられた。また同時にその須藤を制限時間内に殺害するミッションが仙石に与えられていた。
『処分』
ミッション失敗者が殺されること。
仙石は心臓発作で死んだが自然死とは考えずらい状況だった。
もちろん方法は不明。
用語解説その2
『ロスト・チルドレン』
セシル達の所属する諜報機関。単に『組織』と呼ばれることが多い。
諜報機関と言ってもCIAの様な物ではなくむしろそれらに対する抗体的な存在。
本部は内閣官房にある様だが、実際には組織はもちろんエージェントも全て存在しない『ことになっている』ので、他国の諜報員からは『ゴースト』と呼ばれることも。
詳しくは本編の該当箇所を参照。
『端末』
参加者の位置や人数表示、主催者との連絡などに使われる携帯端末。
連絡は一方通行で、こちらから接触することは出来ない。
須藤の予想では発信機は仕込まれていない(もし発信機なら、ゲームに関係する品を全て捨ててしまえば自分の位置は敵に表示されず、実質的に不参加になるため)ので、参加者の位置監視方法は不明。
『コルト・ガバメント』
ゲームに使われる自動拳銃。型は1911A1タイプ。
その名の通り1911年から使われていて、約100年間原型は変わっていない。現在でも根強い人気を誇る傑作拳銃。
装弾数は7発プラス銃身内に1発。45口径で高い威力を持つ。
なお、ゲーム用に特殊小型消音器を搭載している。
あらすじ
ゲーム開始~セシル登場
主人公、須藤翔は東大に通う以外はいたって普通の大学生。だが、真面目に大学に行くことは無く、その日常に何処か否定的な感情を持っていた。
ある日偶然に親友、高瀬順一と久しぶりに再会し、彼のライブを見に行くことになった。
だが、その帰りに須藤は恐ろしい殺人ゲームに参加することになり、何も理解出来ないままに突然参加者だという男に襲われる。そして成り行きとはいえ、男を殺してしまう。
何とか無事に家に辿り着いた須藤だが、新たな敵が迫っていた。
車相手に逃げることはできない。
敵の背後を突く奇襲作戦を取る須藤だったが、敵に簡単に見破られてしまう。逆に背後を取られ、須藤は死を覚悟する。
しかしそれは敵ではなくむしろ味方だった。
彼女はセシルと名乗り、お互いの身を守るために手を組むことを須藤に持ちかける。状況の読めない須藤は怪しむものの、それを承諾するのだった。
時を同じくして、高瀬もまた謎の人物『伝書鳩』と会っていた。
「約束は果たす、代わりに条件を飲め」
そう言って高瀬もまたコルト・ガバメントを受け取り、ゲームに身を投じるのだった。
あらすじ
東京タワーミッション
夜が開けゲーム二日目、須藤にミッションが出る。それは東京タワー展望台に16時までに辿り着く事だった。だが同時に、ある人物に17時までに須藤を殺害するミッションが与えられていることも知ることになる。
須藤とセシルは車で東京タワーに向かうが、尾行がついていた。
一旦はまいたものの、それは敵の陽動であり、衝突で車を破壊された須藤とセシルは敵に囲まれ、身動きが取れなくなってしまう。
その敵はセシル達と因縁のある暴力団幹部、滝沢だった。
絶体絶命の状況にセシルの『援軍』エージェント・アシュレイが現れる。
彼は自分の車に須藤だけを乗せて東京タワーへ向かう。セシルは足止めに残ったのだ。
死は確実と思われた状況にセシルを残した事に怒る須藤だったが、息着く暇も無く滝沢の手下が追撃してきていた。
須藤はAKで応戦するが突然に弾詰まりを起こし、その上アシュレイの車のタイヤに敵の弾が当たり絶体絶命の状況に陥る。
しかし、一か八が反転し敵に急速接近するという須藤の決死の作戦により、辛うじてその場を切り抜ける。
そして須藤は死線をくぐり抜け、東京タワーに到着したのだった。
あらすじ
仙石との戦い
東京タワーに着いた直後、須藤とアシュレイは仙石晃率いる一団に包囲されてしまう。
勝ち目の無い戦いを避けた二人は、仙石に捕まってしまうのだった。
足止めのセシルは防戦一方だったが、新たなエージェント、ギリアムの狙撃援護のお陰でピンチを切り抜ける。
滝沢を問い詰めた結果、彼は仙石に雇われていただけで、須藤を狙うのは仙石だったとわかる。二人はアシュレイの発信機を追う。
組織の正体に執着を見せる仙石は、自らの仮説に意見を求めるという形でそれに迫ろうとする。しかしアシュレイは沈黙でそれに答えた。その代償に須藤は肩を負傷してしまう。
一方でセシルとギリアムは煙幕を使った強行突入を計画する。
ギリアムの煙幕弾によって戦わずして部屋から脱出した三人だったが、敵の対応が早く、セシルはまた足止めに残ることに。
既に敵は反対側に先回りしていた。そこに救援に来たギリアムを見て須藤は愕然とする。
ギリアムは親友、高瀬順一だったのだ。
結局四人は仙石に包囲されてしまう。
仙石が勝利を確信したその時、仙石は突然心臓発作で死亡する。
そして須藤もその場に倒れてしまうのだった。
あらすじ
須藤の夢~組織の秘密~夜の公園
自分がバラバラになり、宙に漂っている。
自分を形作ると、今度は予言の様な声が聞こえてきた……
須藤はそんな不吉な夢を見る。
目が覚めると、そこは自宅だった。
セシルとギリアムは須藤を安全にするために移動していた。
須藤はアシュレイに組織の事を問い詰める。
アシュレイは衝撃的な答えを口にした。
スパイ天国と化した日本……それには取り締まりを潰すアメリカの圧力があった。
このままでは日本は他国に飲まれる。しかし表向きには諜報員は逮捕できない。
徹底した『非存在』によりそれを可能にする組織……
それがロスト・チルドレンだと言うのだ。
須藤はアシュレイが組織の秘密を明かしたことで、自分が組織の誘導でゲームに参加させられた事を確信する。それによって高瀬=ギリアムも説明がつくのだ。
その事に関してはアシュレイは知らないと言った。
深夜、須藤はセシルに呼び出されて一人で公園へ向かう。
それは危険だとわかっていた……夢が想起された。
だが、会わなければ答えは出ない。
須藤はセシルと対峙する。
そして……
物語の謎
物語中の謎を順番に紹介します。須藤が推理しているものはその内容も紹介。
1.ゲームの主催者と目的
須藤の推理
・主催者は経済力だけでなく警察を封じ込める権力もある
・目的は娯楽?
2.参加者の位置監視方法
須藤の推理
・少なくとも発信機ではない
3.高瀬の要求と『伝書鳩』の指示の内容
4.仙石の『処分』の方法
須藤の推理
・死因は心臓発作
・制限時間ちょうどに死んでいるため、自然死とは考えずらい
5.須藤がゲームに参加させられた理由
須藤の推理
・自分は恐らく組織の誘導で参加させられた
・この仮説ではセシルが接触してきた事も、ギリアムが高瀬として接触してきた事も説明がつく
・組織が自分を誘導したとして、そんな事をされる理由は須藤には覚えがない
6.組織がゲームに関わる理由
須藤の推理
・当初セシルはゲームの裏側を知ることが目的だと言っていた
・現在の状況から考えれば、組織の目的は自分の誘導そのものだったのでは?
・そうだとすると、組織が自分を誘導する理由がわからない
こんな所に注目して読んでみて下さい。
それでは、本編を再会します。
14:24(水)東京大学
東京大学、1年前まで俺の母校だった大学。
もちろん試験を通った訳じゃない。あくまで俺にはここの学生である『必要』があったのだ。
そして組織に『必要』があれば、大概の障害は意味を成さないのである。
巨大な赤門。それを見上げるのはずいぶん久しい感覚だった。
ギリアム、いや高瀬順一は急ぐでも無く門の前まで歩く。
俺のミッションが開始されたのは4年前……
『須藤翔の親友となり、彼を監視する』
それが俺のミッションだった。
ミッションの資料として須藤の生い立ち、経歴、能力、嗜好、性格分析といったかなり綿密なレポートが事前に届いた。
正直に言えば……俺は困惑した。
彼の監視?
いったいそんな事に何の意味がある?
レポートを見る限り須藤は組織のミッションとは無縁の、いささか不幸な人物に思えた。
だがそんな詮索に意味は無い。
俺は任務を果たす事しか知らなかった。
毎週の様に演技プランが届き、須藤の居る高校に転校した『高瀬順一』は忠実にプランに従い、学校生活を送った。
須藤の性格から導き出した組織のプランは完璧だった。
次第に彼は俺に好意を持つようになっていった。
14:25(水)東京大学
須藤と付き合ううちに、俺の中で困惑はどんどん膨張した。
しかしそれは当初のミッションに対する困惑と違い、ごく私的な物であり、凄く恐ろしい物だった。
俺は……一個人として須藤という人物に、いつの間にか強く惹かれていたのだ。
須藤は悩んでも、迷っても、人に左右されても、最後は自分で決断した。自分で責任を背負った。自分の足で立っていた。
自分の涙を流した。
自分の痛みを感じていた。
それが……組織のマリオネットだった俺にはたまらなく眩しく見えた。
大学に入学する頃には、俺はもう『組織のギリアム』では居られそうになかった。
俺は……高瀬順一という、ある男の親友に仕立てられた人格に侵食されつつあった。
それでも組織の指示に従っていたのは俺の中にプリントされた本能なのかもしれない。あるいは……
怖かった……のかもしれない。
その時既に、俺は組織への疑問を飛び越え、ある種の憎しみさえ抱いていた。
だが、組織はそれに気付いたのか……もしくは今のタイミングから考えればそもそも期限が来たということかもしれないが……
俺は退学という形でこのミッションから手を引くことになった。
14:26(水)東京大学
俺がミッションの意味を知ったのはその後だった。
組織の存在を主催者に隠す偽装プラン。
須藤はゲームの主催者を欺くための駒として利用され、そして……
処分される。
俺のミッションは須藤という人物が作戦に適合するかどうか見極める為のものだったのだ。
そんな事……俺には耐えられない。
高瀬はスーツの男……伝書鳩が近付いているのに気付いていた。
「我々の主からの指示を伝えに来た」
伝書鳩は一枚の紙切れを高瀬に手渡す。
それを確認する様な事は高瀬はしない。どのみち中身の見当はついている。
「いいか?もう一度聞く……俺がお前らの条件を飲めば……須藤翔をゲームから降ろしてくれるんだな?」
伝書鳩は即答した。
「もちろんだ。我が主の目的はゲームを楽しめる物に昇華させること。お前の行為はその目的を満たす」
高瀬にはもう迷いは無かった。
組織の指示を無視し、ミッションプランを外れて、敵であるはずのゲームの主催者と連絡を取っている。
俺はもう立派な反逆者だ。
それでも……
たとえ全てを失っても……
俺は……組織と関係無い俺自身の意志で
須藤翔を助けたい。
2:04(木)上野
須藤とセシルの対峙。それは儚さや、脆さの象徴でもあった。
「須藤君の感情は……多分もっと別の物よ」
須藤に不安がよぎる。
そうだ……
好き……とは違うのかも知れない。
じゃあ何だ?
(……高瀬?)
そうだ、セシルは俺の中で高瀬と同じなんだ。
俺は、セシルを大切に思っている。
「そんなのどうだっていい。俺はセシルに生きてほしい」
それだけでいい。
「……須藤君……ごめんね」
死が現実として足音を立てて接近する。
「私は君の期待に答えられない」
パンッ……!
乾いた一つの音とともに銀の閃光が駆け抜けた。
(………っ!)
殺那
目の前の大切な人はゆっくりと崩れ落ちた。
「え?……何だよ?」
何が起きた?
意味がわからない。
俺が死ぬべきだったのに……
セシルが……撃たれた?
「セシル!!」
セシルが立っていた空間を抜けて、一つの影がそこにはあった。
闇を切り裂く銃口。コルト・ガバメントを構える無慈悲なシルエット。
「何でだよ……何でお前がそこに立ってる!?」
そこにはかつての親友の姿がある。
「お前はそこで何をやってんだよ……何をしたんだよ?答えろ高瀬!!」
2:07(木)上野
「何をしているだと?参加者が参加者を撃っただけ……ルールを踏襲した行為だ」
高瀬、いやギリアムは事もなげに答える。
「俺はそんな事を言ってんじゃねえ!!」
須藤は銃口を突きつけ言い放つ。
「じゃあ何の話だ?言ってみろよ」
須藤は怒りに我を忘れそうになる。
「セシルはお前の仲間じゃないのかって言ってんだよ!!」
ギリアムは嘲笑う様に須藤に宣告した。
「……違うな、俺とセシルは仲間なんかじゃない……必要とあらばお互い切り捨てるだけの関係だ!!」
「高瀬!!俺はお前を許さない!」
須藤が引金に指をかける。
それと同時にギリアムが動きも無く放った銃弾がすぐ足元に弾けた。
「前にも言ったはずだ……俺は高瀬じゃない、エージェント・ギリアムだ」
「んな事関係ねえよ!!俺はお前を許さないんだよ!!」
須藤はギリアムに向かって突進し、顔面めがけて拳を繰り出す。
「馬鹿が……」
ギリアムがふっと息を吐くと、一瞬にして無条件に須藤の体は地面に打ち倒された。
(何だ?今投げられたのか?)
「お前とはここでお別れだ……次に会ったら俺は、お前の敵だ」
ギリアムは闇に溶けていった。
2:10(木)上野
ギリアムの放った銃弾はセシルの胸部を貫いていた。
「待ってろ、すぐに救急車を呼ぶ」
須藤が携帯にかけた手を、セシルは荒い息で制した。
「須藤君、私はもう助からない……ギリアムがそんな撃ち方するはずないもの」
「わかんないだろ!!助かるかもしれないだろ!!」
セシルは虚ろな目で
「組織の規則で民間の病院とは接触できない……」
と言った。
「こんな時まで組織組織って……このままじゃ死ぬんだぞ?規則もクソも無い!!」
須藤の必死な顔を見て、セシルは少しだけ笑みを浮かべた。
「須藤君……最後に話したい事があるの……聞いてくれる?」
「嫌だ……明日にしろよ、最後なんて言うなよ!」
「私ね……須藤君に嘘ついたの」
「……」
「本当は私にも……須藤君は撃てなかったよ」
「セシルが生きていてくれたら嘘じゃなくてもいい」
「不思議……会ったばっかりなのにね、何か本当に不思議な感じ」
セシルの瞳が微かに濁った。
「視界……が、もう……ダメみたい」
「セシル!!」
「一つだけ……頼み事……していい?」
「……ああ」
「必ず生きて……お願い」
セシルの呼吸はそれきり止まった。
3:45(木)上野
それからセシルの事は、驚くほどあっさり片がついた。
目を覚ましたアシュレイは俺がいなかったことを不安に思ったのだろう。
彼女が倒れてから十数分後に、彼は公園に姿を現した。
もちろん、感情を表に出して涙を流す様な事をアシュレイは好まなかった。
少しばかりトーンの低い声で、彼は須藤に最期の状況を聞く。
須藤の話にアシュレイは少し戸惑っている様だったが、それは須藤の希望的観測に過ぎなかったのかもしれない。
実際、今に至るまでアシュレイの表情が揺らぐことはそれきり一度も無かったのだから。
30分ほどで組織の回収要員がやって来た。男はTシャツにジーンズ姿の、須藤と同い歳くらいの普通の若者だった。
彼はアシュレイに淡々と話を聞くと、黒い袋に彼女の抜け殻を入れて、乗って来た真っ黒なバンに積んだ。まるで手際の良い引っ越しを見ている様だった。
彼女は『荷物』になった。
バンが走り去る時に須藤は
「悲しくないのか?」
と一言だけアシュレイに質問した。
その言葉は、少しだけ宙を漂い、霧の様に大気に吸収された。
「……すいません」
そう言ったきり、横の男は口を開かなかった。
5:00(木)上野
須藤のアパートに戻ってからは二人は一度も口をきかなかった。
その沈黙は須藤の苦痛になるどころか意識もされなかった。
須藤はただ考えていた。
なぜギリアムはセシルを撃ったのか……
須藤には納得のいく解答は一つしか見付からなかった。何度推理しても……
「アシュレイ、なんでギリアムはセシルを撃ったと思う?」
突然に須藤が口を開いた。
「……組織から別の指示が出たんでしょう」
「じゃあセシルを撃つ必要のある指示っていったい何だ?」
「それは……」
アシュレイは黙ってしまう。
「むしろ逆なんだ……あいつは組織を裏切ったんだよ」
「そんなはずは無い!」
アシュレイは強い口調で反論する。
「どうして?」
「組織の人間は……そういう感覚じゃないんですよ」
須藤はため息をついた。
「だからって可能性を否定する理由にはならない」
須藤は落ち着いた口調で続ける。
「セシルは組織を抜ける恭順の姿勢の証明のため殺された……これなら説明がつく」
アシュレイは沈黙を守る。
「そしてもし俺の推論が正しいなら……そんな事のためにセシルを殺したなら」
「俺はあいつを……許せない」
作者です。
突然なんですが、前からスレでも私の受験の話をしていたので……
やっと進学先が決まりました。
地元の国立大学に後期日程で滑り込み合格です。
入学準備に日が無いので、当分書けないかもしれませんが、落ち着いたら完結させるつもりです。
作者でした。
こんばんは、ご無沙汰しています。作者です。
そろそろ再開しようと思っていますのでしばしお待ち下さい。
話は変わるのですが、高校を卒業し、大学の入学式も終わり、いつまでも『高校生』じゃおかしいな……と思いまして、この度ハンドルネームをつけることにしました。
『I'key』と書いて『アイカギ』と読みます。
小説を書く事で自分も成長し、私の小説を読む事で読者の皆さんにも何かささやかな変化を起こしたい……
お互いのまだ開いていない、小さな心の扉を開け放つ『合鍵』のような存在になりたい……
ちょっと大袈裟ですが、そんな思いを込めてみました。
(実際ちょっとどころかかなり大袈裟ですが、目標は大きくってことで勘弁して下さい)
名前は変わりますが、今後ともよろしくお願いします。
- << 151 I'key=合鍵。ちょっとだけ、一瞬ダジャレめいてるなと(笑)す、すいません🙇💦 普通、合鍵=マスターkeyだと思うしねん。 誰しも、少なからず心の中に隠しておきたいものが存在すると思うのね。だから、見られたり覚られたくないから鍵をかける。そんな風に閉ざした心を持ってても、本当は誰かに救って欲しい、暗闇にいる自分を光の射す方へ導いて欲しい…そんな風に思ったりする。主様の作品が合鍵となって、読んだ人が何かを感じて、前に進めたり、何かを始める(と言っても、人倫を踏み外すようなのは🙅)きっかけになったら、良いですね😃 長々と失礼しました💦
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