百丁のコルト

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2008/11/30 19:07(更新日時)

こんにちは、ここで「誰も見ない月」という小説を書いていた者です。もう書かないつもりだったんですが、小説を書くことが楽しくなってしまい、もう一作書くことにしました。前作とは雰囲気がだいぶ違うので驚かれるかもしれませんが、ぜひ最後までお付き合い下さい。

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No.1157396 (スレ作成日時)

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No.1

14:00(月)渋谷



薄くぼやけた灰色の空から、傘をさす程でもない静かな雨が、さっきから降り続いていた。
須藤翔は特にその雨を気にとめる事もなく、新発売のファンデーションのCMをするオーロラビジョンを眺めながら、巨大な街の空洞の中に立っていた。
(あと10秒…)
須藤は心の中で、出来るだけ正確に時間をカウントする。
(たった…!)
その瞬間、空洞に人が激流の様に流れ込み、録画映像の街がまた動き出す。
誰も自分を気にしないし、自分も誰も気にしない。こんなに人がいるのに、全てが群島の様に孤立している。
自分が下手くそな哲学の真似事をしている事に、須藤は思わず笑みを浮かべた。
(…だからどうした?どうにも出来ないじゃないか…)
須藤は今自分が、笑っている様な嘲っている様な、とにかく変な表情をしているだろうと思った。
でも…誰もその顔を見たりはしない。
人は…前しか見えていない。
須藤は短い深呼吸をすると、交差点の波に飛込んだ。

No.2

15:20(月)渋谷



須藤はゆっくりとフライドポテトを口に運びながら、マクドナルドの窓から交差点を見ていた。
「よっ翔!大学はまたサボリか?」
「…高瀬か、お前こそバイトはサボリかよ?」
「違ぇよ、今夜ライブだからな…なんか食っとかねぇともたないだろ?」
高瀬順一は自然な笑みを作った。
「お前と違って俺はマジメだからな、サボリはしねぇよ」
「…それもそうだな」
須藤の頭の中に、ふと高瀬が走る。
高瀬は大学で知り合った親友だった。自慢じゃないが、自分も高瀬も東大だ。
高瀬はほとんど休まずに2年通った後、大学を中退した。理由は…今の会話の通りだ。
須藤は、やりたい事のために何かを捨てられる高瀬を羨ましく思っていた。
それに比べて自分は…まともに通いもしない東大にしがみついている。
東大に受かった時、須藤はそこに何かあると思っていた。でもそこには、売店の知恵パンくらいしかなかったのに。
(…何も、無いのに)
「高瀬、ライブのチケット、残ってるか?」
「最高の席、タダで用意してやるよ」
「スタンディングだろ、席なんてあんのか?」
高瀬はぽかんとして、すぐにこみあげる笑いを堪えた。

No.3

21:10(月)下北沢



気持ち悪い程に隔絶された異様な空気が漂っていた。
高瀬のバンド「シャドウレイ」は本日三組目、ちょうど観客のテンションも最高潮に達していた。
愛用のベース「リッケン」を手に、トリッキーなリズムを次々に放つ高瀬の目は、自信に満ち溢れている。
もう…三曲目。
須藤はだんだんと、この空気に耐えられなくなってきていた。
いや違う、正確にはこの空気を作り出した高瀬たちに、耐えられなくなってきている。
あいつらの影響力を妬んでいるのだ。
自分には、あんな風に誰かの心を動かしたりは出来ない。
そう須藤は思った。
(タダで入れてもらっておいて悪いが、耐えられない、もう出よう…)
ギターの強烈な爆音リフが炸裂した後で、須藤は高瀬の立つステージに背を向けた。
一歩ライブハウスの外に出ると、いろいろな物を溶かし付けた様な、雑多で生ぬるい風が顔を撫でた。
細い路上には、外までせりだしてきている古着屋があり、すすけたビルの窓からは稽古をする劇団の声が響いていた。
(皆、するべき事を持っている)
須藤は逃げる様にして走った。それも全力で。

全力で走った。

No.4

21:25(月)下北沢



須藤の鍛えられていない肺は、走り出してすぐに音を上げた。
「本当に…何やってもダメだな…俺……」
ゆっくりと時間をかけて息を整える。
顔を上げた時、須藤は左手の狭い路地に何か光る物を見た…気がした。
須藤はそれが何か確かめるために、路地に足を向けた。
空のポリバケツを乗り越えると、その先にジュラルミンのケースが見えた。よくドラマで身代金が入っている様なやつだ。
「さすがに現金が入ってるって事は無い……よな?」
鍵はかかっていない、須藤は恐る恐る留め金を外した。

中は現金ではなかった。
携帯電話と……
「エアガンか?これ…」
銀の銃芯と茶色のグリップ、サバゲー好きな奴の持っていたエアガンを見たことがある。
「…思い出した、コルト・ガバメントだ」
手に取ってみる。
予想外に重い……プラスチックのエアガンでは当然ない。
「じゃあ、凝ったモデルガンか?」
良く見ると銃のあった所の下に、マガジン二つと袋が入っている。
袋の口を覗く。
見てすぐに閉じた、あれは……実弾だ。
「これ……ホンモノか?いったいどうすりゃ……」
その時、突然にケースの中の携帯が鳴った。

No.5

21:35(月)下北沢



須藤は携帯を取った。
(出るな……)
自分の意識が警告している。それでも、須藤は心を振り切って、六回目の呼び出しで電話に出た。
この電話が、自分を何か大きく変えてくれる気がしたのだ。
「……もしもし」
「おめでとうございます。たった今貴方はゲームへの参加を認められました」
須藤は当惑した。
「ちょっとまて!ゲームってなんだ?第一俺はまだ参加するなんて言ってないぞ!」
電話の奥で無機質な笑い声が響く。
「貴方がこの電話を取った瞬間、ゲームの参加は貴方の義務になりました。逃げることは出来ません」
「ゲームって…この銃を使うのか?……嫌だ!俺はやらない、そもそもお前は誰なんだ!!」
「貴方の質問に答える義務はありません」
須藤は必死に叫んだ。
「いいや!答えろ、そして俺をゲームとやらから降ろせ!!」
また笑い声。
「先に申した筈ですが?……貴方の要求はどちらも無理です」
電話を握る須藤の手は震えていた。もしかしたら…自分はとんでもない事になっているのかもしれない……
「……よろしいでしょうか?それでは、ルールの説明をさせて頂きます」

No.6

21:40(月)下北沢



「そのケースと同じ物が東京都内に百個設置されています。つまりゲームの参加者は百人、貴方もその一人…ということです」
男は淡々と続ける。
「ルールは簡単、そのコルトで自分以外の参加者を全て……殺害してください。最後に残った一人の方に賞金として100億円を差し上げます」
「バカだろ?そんなの無理に決まってるだろ!」
「なぜですか?」
「殺人は犯罪だからだよ!このアホ!」
こちらの怒鳴り声にもまったく動じず、男は平然と返した。
「貴方が参加者をコルトで殺す事に関しては、ゲーム中殺人罪には問われません。また、そのコルトには内蔵型の高性能特殊消音器を搭載しております。所持している所を直接見られない限りは発砲しても通報される心配はありません。ご安心下さい」
男は有無を言わさず説明を続けた。
「端末の画面をご覧下さい、顔から離してもらってけっこうです。声は聞こえますので」
須藤は言われた通りに携帯の画面を見た。右上には97、という数字が出ている。画面いっぱいに地図が浮かんでいる。多分この辺りの物だろう。その中心に青い点、そして北東に赤い点が一つ、マークされていた。

No.7

21:43(月)下北沢



「画面をご覧になっての通り、それは携帯電話ではありません。通信は付属機能であり、主機能はそのGPSマップです」
「これが、何だっていうんだ?」
「まずその右上の数字、それは現在のゲーム参加者の数です。そして画面上のマップは今貴方のいる地点の半径10kmのものです」
「この二つの点は?」
「中心のブルーのポイントは…お気付きだとは思いますが貴方自身です。そしてレッドは今貴方に一番近い位置にいる参加者を表しています」
参加者?
須藤はもう一度、よく画面を見た、どうやら拡大も出来るようだ。
「……ちょっとまてよ、もう300m無いぞ!!」
「もちろん相手にも貴方の位置は分かっています」
須藤は混乱した。
どうすればいい?戦うのか……?
いやそれは無理だ、じゃあどうする……?
答えは一つだ、逃げるしかない。
だが、銃は置いて行くのか……?
駄目だ、ゲームから本当に逃げられないのなら、最悪の場合使うことになるかもしれない。
「なお、貴方からこちらに連絡を取ることは出来ません。また、武器弾薬の補給も出来ません……それでは、御健闘をお祈りしています」
電話が切れた。

No.8

21:46(月)下北沢



背後に黒く不穏な気配が流れる。
須藤はそっと振り返る。
視線の先にはホームレスの様な男が一人、銃を握って立っていた。
「お前がゲームの相手か?」
須藤は答えない。
「悪いな、死んでくれ!」
(ほ、本気だ!)
須藤は考えるよりも早く逆方向に走り出した。
直感的な恐怖に筋肉が唸り、須藤を前へと運ぶ。
(クソっ、ダメだ…間に合わない)
この狭い路地では当てない方が難しい。全力で走りながらも、須藤は絶望していた。
「死ねぇ!!」
勝ち誇った様な声が響いた。
(……?)
銃声もしない、弾も飛んでこない。
「お、おい!何で弾が出ねーんだよ?」
そうか、奴はセーフティを解除していない。これなら逃げ切れる。
須藤は本当の全力で走り続ける。
「これを解除するのか!」
男はセーフティを解除した。
(間に合え!)
須藤には出口が見えている。
「今度こそ……」
男が照準を合わせる。
須藤は出口に転がり出る。
「当たれぇ!」
パンパンパンパン!
エアガンの様な控え目な銃声が立て続けに聞こえた。
須藤は……無傷だった。弾は当たっていないらしい。
須藤は路地の出口の壁に張り付いた。

No.9

こんにちは🙋この小説を読ませて頂きました😃おもしろいです‼続きを楽しみにしてます

No.10

>> 9 ガフさんありがとうございます。
更新してみます。

No.11

21:49(月)下北沢



須藤は恐怖にあえいだ。
心臓の速すぎる鼓動がうざったく響く。
心の中では悪い冗談だと思っていたが、本当にまずい状況らしい。
(落ち着け……)
須藤は素早く辺りに視線を送る。隠れられる場所も、人影もない。
とにかく逃げるしかない。少なくとも、相手には殺意がある。
(逃げなきゃ…殺される)
須藤は左に向かって全力で地面を蹴る。駅の方向だ、人通りの多い所なら相手も迂濶には撃てないはずだ。
須藤は自分の持つ能力に驚いた。
息が切れていたのが嘘の様に肺が波打ち、筋肉が敏感に反応する。
チュイン!
突然に足元のコンクリートが弾ける。
(追い付いて来る、このままじゃその内やられる…)
須藤は片手でセーフティを解除すると、振り返らずに銃口を後ろに向けた。
パンパン!
発射と同時に右手が反動に震えた。だがその振動は同時に、心の動揺を相殺した様だった。
「クソっ!危ねえ…」
背後から情けない声が聞こえた。
当てるつもりはない。相手が怯めばそれでいい。
頭の中が淡水の様にシンプルに動く。
ただ走る、それだけに集中している。
須藤は何か、自惚れに似た余韻の中にあった。

No.12

主サン💕
初めまして🙌✨
小説読みました😚💕
前作の『誰も見ない月』
もとても面白かったです✌✨
百丁のコルトの方が好きですが☺💕
頑張ッてくださぃ❤
1ファンょり😉💕

No.13

>> 12 ありがとうございます。
前作も読んで頂いたみたいで、嬉しい限りです。
またご意見がありましたら、ぜひ教えてください。

No.14

21:52(月)下北沢



パンパン!
男はすがる様にコルトの引き金を引き続けていた。
須藤はちらりと後方をうかがう。
さっきの威嚇射撃で怖じ気付いたのか、男はだいぶ距離を取って追い掛けて来ている。
この距離で、自身も走りながら動く目標に当てる事は、素人にはかなり難しいはずだ。
パン!
須藤はもう一度威嚇に弾を放った。
(逃げ切れる!)
自らの射撃が希望の号砲となり、須藤を勇気付けた。

「ぐあっ!?」
突然に左腕を高熱が駆け抜ける。
(当たったのか?)
そう意識すると同時に、傷口の熱は急速に逆転し、氷の冷たさに変わった。
ピシュ!
空気を切り裂く鞭の様な音。
第二射が須藤の頭をぎりぎりでかすめた。
不自然な切口の黒髪がクルクルと回転しながら落ちる様子が、スローモーションで須藤の瞳に焼き付いた。
何かのスイッチが入り、突然に足が言うことを聞かなくなる。走ることを止め、ガタガタと震える。
振動が心臓に、心に伝波して、強烈な動揺と心拍が交互に鳴り響いている。
(こ、殺される……)
須藤はゆっくりと体を回転させた。
銃口……
須藤はふと、今自分がどんな表情をしているのか気になった。

No.15

テスト期間なんすけど読んでみた
表現力がすげぇ✨(笑)

応援する🐤

『誰も見ない月』見てみたかったな

No.16

>> 15 小人さん感想ありがとうございます。
テストなんですか?頑張ってください。
私の高校は六月なのでまだ余裕ですから、更新します。

No.17

>> 16 ずるっ😲(笑)
羨ましい✨

初日は
日本史と英語っすね🐔

読ませて貰います📖

  • << 19 日本史と英語なんですか? 私は世界史クラスなので、日本史と聞くと懐かしい感じです。 いい成績を残せることをお祈りしております。

No.18

21:54(月)下北沢



男は一歩一歩確実に接近して来る。その目はすでに勝利を確信している様だった。
(もう駄目だ…足が動かない)
男はすぐに須藤の目の前までやってきた。
おもむろに男の右腕が持ち上げられ、須藤の瞳は必然的に漆黒の穴を捉える。
男のコルトと須藤の頭が致命的なラインを形成した。
撃たれれば……
即死だ。
(俺は……死ぬのか?)
「悪いな、お前の負けだ……死ね」
男が引き金に指をかける。
「お前は、俺をクソ野郎だと思うか?その通りだ、俺は今まで道端のクソと同じ生活をしてきた…それに戻るくらいなら、人を殺すくらいワケねぇんだよ!!」
(嫌だ…死にたくない、俺だって……人を殺したって、コイツを殺したって、それでも……)
「……生きたい…」






どれだけの時間、そうしていたのか分からない。
須藤の視線の先には、過去形が転がっていた。
もう、死んでいる。
自分が…殺した。
須藤は恐怖と恍惚が入り混じった様な不思議な感覚を覚えていた。
そうだ……
俺が、この男を決定したのだ。
須藤は、自分が求めていた物が、ふとここにある気がした。
それと同時に、猛烈な吐気に襲われた。

No.19

>> 17 ずるっ😲(笑) 羨ましい✨ 初日は 日本史と英語っすね🐔 読ませて貰います📖 日本史と英語なんですか?
私は世界史クラスなので、日本史と聞くと懐かしい感じです。
いい成績を残せることをお祈りしております。

No.20

>> 19 私は2年時
世界史だったんよ📖

Thank you❗
I'll be back😊

  • << 22 テスト終わったら、ぜひまた読んで下さい。 お待ちしております。

No.21

0:10(火)上野



自宅に着いてからも、須藤は今の状況に必死に頭を巡らせていた。

このゲームは誰が主催しているのか?
賞金は100億円、人を殺しても警察には捕まらない…
現に、俺が殺した男の事はニュースにもなっていない。いくら人通りが少なくても、道の真ん中に落ちている死体が見付からないのは不自然だ。

……これだけ大がかりな準備と100億を用意する資金力と、一国の警察権力を封じ込める影響力を持った組織があるということか?

いったいこのゲームに何の目的があるのか?

……こういうのを見て喜ぶ物好きな金持ちが、世界にはたくさんいるのかもしれない。

ゲームの主催者はどうやって俺の位置を調べているのか?

……銃か端末に発信機がついているのか?

……いや違う、それではケースごと川に捨てられたらゲームが成立しなくなる。
参加者は俺の顔は知らない。つまり、端末の位置情報をもとに相手を判断している。だから、相手の端末に俺の位置が表示されないなら、俺はゲームに参加していないも同然だ。
ということは、他の方法で参加者の位置をモニタリングしているのか?
(分からない事だらけだ……)

No.22

>> 20 私は2年時 世界史だったんよ📖 Thank you❗ I'll be back😊 テスト終わったら、ぜひまた読んで下さい。
お待ちしております。

No.23

0:21(火)上野



(分からない事を気にしても仕方がない)
須藤は気をとり直し、今出来る事をしようと思った。
そうだ、左腕を撃たれたのだ。ここまで必死で、須藤は全く気が付かなかった。
腕を見てみる。すると、傷口は転んだ程度のかすり傷だった。だから痛みもすぐに引いたのだろう。
もう傷は完全にふさがっている。取り立てて手当てをする必要はないだろうと須藤は思った。

次に、須藤はコルトに手をかけた。
(…俺はこの銃で人を殺した。だけど…撃たなきゃ俺が死んでいたんだ)
……考えても無駄だ。

マガジンを抜いて弾を詰め直す。
コルトの装弾数は7発、予備のマガジン2つも弾で満たした。

今度は端末を確認してみる。
参加者は74人にまで減っていた。
地図を確認してみると、近くには敵はいない様だった。
ホッとした。
「この地図、以外と大雑把だな……」
よく見ると、参加者の位置は建物単位でしか分からない様だ。つまり、相手には俺がこのアパート内に居る事は分かるが、どの部屋に居るかは分からない……

という事だ。
(屋内の方が有利なのか……)
そんな事を須藤が考えていると、突然端末が鳴った。

No.24

0:31(火)上野



須藤は端末の通話スイッチを押した。
「生き残られた様ですね、おめでとうございます」
須藤は返事をしない。こちらの声が何も影響を及ぼさない事を知っているからだ。
「追加の説明をさせて頂きます」
「ゲームの終了についてです。来週の月曜日になった段階でゲームは終了となり、賞金は生存参加者で頭割りとなります」
(つまり、一週間逃げ切ればゲームから解放されるのか)
「ゲストについて説明します。ゲストとは我々が依頼して、参加して頂いている方々の事です。職業は殺し屋、退役軍人、ギャングなど……いうなればプロの方々です」
(迂濶に逃げ回るのも危険……という事か)
「ミッションについてです。ゲームが停滞した場合、参加者にミッションが課せられます。ミッションは特定参加者の殺害、指定場所への移動など様々です。ミッションを放棄した場合、処分となります」
(処分……か)
「これで追加の説明を終わります」
淡々とした通話は切れた。

ふと、端末を見ると、赤の点が約1kmの地点まで動いている。
「……クソっ!」
さっきのゲストの説明が頭によぎる。
コルトを握る手に一つ汗が走った。

No.25

やほ✋

test終わった(笑)✨✨✨
いつも更新楽しみ待ってる👍

ちなみに
誰も見ない月と言う作品はどんなジャンルの作品だったんすか❓

No.26

>> 25 こんばんは、いつも読んで頂いてありがとうございます。

誰も見ない月は、私が初めて書いた小説です。
簡単にあらすじを話すと、主人公の高校生、冬馬が親友の司の自殺を通して
「友情とは何なのか?」
という問題に、迷いながらも答えを出していく……
何てたいそうなテーマを掲げながらも、技量不足でグダグダしちゃった小説です。

多分過去ログを見たらあると思います。
(なにぶん駄作なものですから、人の目にさらしたくない気持ちもあるのですが……)

No.27

>> 26 愛読なん👍✨


いゃいゃじゅうぶんスゴイ📖✨
うぉっ😲

過去ログっすね✨
見てみます💨(笑)

No.28

0:34(火)上野



赤の点がリアルタイムで直線を伝う。
逃げるのは無理だ。この速度はどう考えても車かバイクだ。
(どうする?室内にたてこもるか…?)
だが、相手がゲストだったら?いくらこっちが有利でも、真っ向勝負は危険すぎる。
須藤は最大速度で頭を働かせる。何か上手い作戦はないか?



赤の点はすぐ近くまで来ている。もうアパートの目の前にいるはずだ。
須藤は接近してくる頃合いを見計らって電気を消す。こちらの位置と防戦の意志を知らせるためだ。
(よし…行くぞ)
須藤はコルトを握ると、反対側の窓から裏庭に出た。そのまま建物づたいに進む。
アパートの側面の壁に張り付いて、玄関側をうかがう。
少し先に見慣れない自動車が見える。
暗くて相手は視認出来ないが、この先にいるのは確かだ。

作戦はこうだ。
こちらが部屋で防戦するふりをして注意を引き、裏から出て表に回り込む。
建物ぎりぎりで動けば相手の端末の、俺の位置を示す点は動かないはずだ。
これなら、相手の背後をつける。

はずだった。

「惜しいねぇ…策に溺れたかな?」
冷たい銃口の感覚。
背後を取られたのは

須藤の方だった。

No.29

0:36(火)上野



後ろから聞こえる声は少なくとも、男の物ではなかった。
「お、女…?」
「そうよ、私は女……女にやられちゃ悔しい?」
クスクスと笑い声。
「さあ、手を上げて…武器をよこして」
「なんで……俺の作戦が分かった?」
女は須藤の右手からコルトを取り上げながら話す。
「部屋で防戦するフリをして、裏から回り込んで、後ろから奇襲……表示の大雑把な端末の盲点を突いた、効果的な作戦ね」
須藤は口を挟まず聞いている。
「でもね、それは私が馬鹿じゃなきゃ成功しない……残念ながら私は慎重なタイプなの、そっちが小細工してくるかも…っていうのは予測済みってワケ」
「あんた、ゲストか?」
「だったら?何か問題ある?」
女は堪えられないという様に、まだ笑っている。
「俺を……」
女は須藤の口調を真似して遮った。
「殺すのか?……
って聞きたいの?殺すなら最初からそうしてるわ」
「じゃあ、どうするつもりだ?」
「君次第…かな?」
「俺次第?」
「そう、全ては君次第よ」
(どういう意味だ?)
女は須藤の手にコルトを返した。
「私と手を組まない?代わりに君の知りたいこと、教えてあげる」

No.30

0:50(火)上野



「ところでさ…俺はまだ手を組む件、OKしてないんだけど」
須藤は自分の部屋に図々しく座り、コーヒーを飲んでいる女に向かって、皮肉混じりに言った。
外では顔が見えなかったが、女は予想外にかわいい顔立ちをしていた。きっと、まだ23か、24歳くらいだろう。
「そんなのダーメ!君に選択権は無い、分かる?」
笑顔で脳天に銃口をつきつけられ、須藤はたじろいだ。
「第一手を組んでも、君にデメリットはないでしょ?」
確かにそうだ。手を組めば生き残れる可能性は格段に上がるし、彼女はゲストらしい。ゲームに関する情報も得られる。
「……分かったよ…手を組もう」
「よし!交渉成立ね。あ、そうだ、君名前は?」
「須藤……」
「そう、須藤君ね。ヨロシク」
彼女は握手を求めてきた。須藤はそれに応じる。
「アンタは?何て呼べばいい?」
彼女は少し悩む様な表情を浮かべた。
「別に…何でもいいわ。彼女の名前ででも呼べば?」
「…………」
「あ!…彼女いなかった?」
「…………」
「しかたないな、じゃあ…セシルって呼んで」
セシル?外人?
「日本人…だよな?」
「まさか、コードネームよ」

No.31

1:00(火)上野



「手を組む代わりに、俺に情報をくれるんだろ?」
「もちろん…知っていて、話せる事ならね」
セシルは意味もなくコーヒーをかきまぜながら言った。
「セシルはゲストなのか?」
「ええ、あっちがそう呼んでるだけだけどね」
「コードネームってことは、その、どこかの…組織みたいな物の人間なのか?」
「簡単に言っちゃえばそうね」
「雇い主は?」
「それは言えないわ、ノーコメント」
ここまでは分かる、須藤は少し思いきった質問をしてみる。
「このゲームに参加する目的は……金じゃない?」
「須藤君、鋭いね。
その通り、私の目的は金じゃない……このゲームの裏側を知ること」
裏側?ゲームの開かれる目的や、主催者の事だろうか?
それを知りたいという事は、セシルもゲームについてはそれほどの事は知らないのだろう。
「須藤君、私が目的を果たすために一番大事な事、何だか分かる?」
須藤は少し考えて、控え目にこう答えた。
「生き残る事?」
「そうよ、私は須藤君を守る、だから君は私を守って」
「努力してみるよ」
「期待してるからね、須藤クン」
セシルはまた、分かりやすい笑みを浮かべた。

No.32

23:45(月)下北沢



「ジュン!打ち上げ行こうぜ!」
ボーカルの由良が待ちきれないらしく、高瀬を呼びに来た。
「悪い、これからちょっと用があるんだ、また今度な」
「フジー!ジュンが来ないってよ!」
由良に呼ばれて、ギターの藤原がやってきた。
「ジュン、今日は俺達に目をかけてくれてるレコード会社の担当も呼んでる。シャドウレイのデビューが決まるかもしんないんだ。それより大事な用なのか?」
リーダーの藤原は、流石に今日の打ち上げを重く見ているらしかった。
高瀬は、無理に深刻そうな表情を作って言う。
「フジ、どうしても外せないんだ、ホントゴメン」
藤原はスキャナーの様な視線を高瀬に向けた。
「……分かった、話は俺がなんとかしとく、来れんなら遅くなってもいいから、顔出せよ」
「ああ、間に合ったらな」
藤原だけは何か不信感を感じたんじゃないかと、高瀬はふと思った。
だが、彼等は何も知らない。知る必要もない。
何も言わずに去る事に罪悪感が無い訳じゃない。
だが、それが皆のためだ。
(……ゴメン)
高瀬はシャドウレイのメンバーとは逆方向に、まるで光を受けて伸びる影の様に、早足で歩き出した。

No.33

23:55(月)下北沢



少し歩いた所で、高瀬はふらりと路地に入った。
高瀬の視線の先には、スーツを着た黒ずくめの男が立っていた。暗くて顔はよく見えない。
だが、高瀬にはこの男の顔など関係なかった。どうせこいつは「伝書鳩」その先にいる、俺の契約者とは何の関連も無いのだから。
「確認しておく、そっちは俺の要求を呑むんだな?」
「義務を果たさぬ者の権利を守るほど、我々は寛大ではない」
「それは分かっている……お前らの指示はちゃんと守ってやる」
「義務を果たした者の権利を守らぬほど、我々は卑怯ではない」
そう言うと、男はジュラルミンのケースを持ち出した。
「いいのか?これを受け取れば、もう引き返せないぞ?」
「どっちみち消されるだけだろ……第一、俺は降りるつもりもない」
「あんな要求を呑むなんて、私にはお前が解せん」
「お前には関係ないだろう。さっさとガバメントをよこせ」
高瀬はそれを受け取るのと交換に、背負っていたベースを男に渡した。
「何だ、これは」
「見て分かんねぇのか?ベースだよ」
「何で私にベースを渡す?」
「俺にはもう必要ない」
そう言い残して、高瀬は雑踏に消えていった。

No.34

うぉ~~ぃ

誰も見ない月読ませてもらいました✨

とっても
良かったょ👼✨

No.35

>> 34 ありがとうございます。
これも完結できるよう頑張ります。

No.36

10:05(火)上野



瞼の裏にふと、ちらちらとした感覚があった。
「ん……朝?」
疲れが出たのか、須藤はすっかり熟睡していた様だった。

眠っていた?
とっさに飛び起き、銃を握った。危ない…意識が無ければ、戦いようがない。
「起きた?須藤君」
キッチンからセシルがトーストとスクランブルエッグを持って出てきた。
「セシル?……そうか、そうだった」
「大丈夫、ちゃんと見張ってたから。一応これでも私、プロなんだからね」
「悪い…俺だけ寝ちゃって」
料理をテーブルに置きながら、セシルは言った。
「ギブ&テイクよ、今夜は須藤君が見張りなんだから、しっかりしてよ?」
「ああ、分かってる。俺だって死にたくない」
「見張りって言えば、須藤君の端末ちょっと見して……やっぱり、私の位置が表示されてる」
そういえばそうだ。一番近い参加者はセシルだから、これじゃあ索敵のしようがない。
「……よし!これでOK、私の表示を消したわ」
セシルから返された端末を見ると、確かに一番近い参加者はセシルではなくなっていた。
「じゃあ、とりあえず朝食にしよう、須藤君食べられる?」
「ああ、食欲はあるみたいだ」

No.37

10:30(火)上野



セシルの料理は旨いのだが、どことなく無機的な味がした。
それはきっと、職業的な要素なのだろう。
須藤はそう考えた。
ふと、須藤はセシルの事をじっと見ている自分に気付いた。
彼女の横顔…
思えば、彼女は俺と同い年くらいの普通の女の子なんだ。

瞬間に視線に気付いたセシルと目があう。
「須藤君…変なコトしたらぶっとばすからね?」
「ち、違うって!」
「じゃあいいけど…」
須藤は実際そんな事は考えていなかった。
ただ、お互いにこんなにも違う境遇にあるのは、何が理由なのか?
そんな取り留めの無い事を考えていただけだった。
「セシル、一つ聞きたいんだけどさ」
「何?須藤君」
「セシルはどうして…その仕事に就いたんだ?」
セシルは自然な微笑を浮かべる。
「うーん…もう忘れちゃった」
上手くかわされた…
そう須藤は思ったが、それ以上は追及しなかった。
「でも…これだけは言えるわ」
「何?」
「私は今も、自分の意志で生きてる…これで答えになる?」
「ああ、十分…」
それは今の須藤にとって、精神的にも十分な答えだった。

その時、突然に須藤の端末が冷徹に鳴り響いた。

No.38

10:35(火)上野



須藤は端末に出た。
「須藤様にミッションが与えられました、画面をご覧下さい」
須藤は言われた通りに端末の画面を見た。セシルもそれを後ろから覗き込んでいる。
上野からマップが南に移動する…芝公園だ。
さらにマップ上に緑の点が追加される。
「ミッションは本日16時までに、緑のポイント…東京タワー展望台まで移動する事です」
「それだけか?」
「ただし、同時にある参加者に『本日17時までに須藤様を殺害する』というミッションが与えられています。」
「その参加者には俺の位置は分かるのか?」
「はい。ミッション中に限り、須藤様の位置情報は緑のポイントで常時表示されます」
こちらの位置は常に相手に分かる…ミッション中は警戒を強化する必要があるな、と須藤は思った。
「健闘をお祈りします」
そう言い残して通信は切れた。
「ふーん、いよいよゲームも本番ってことね」
そう言うと、セシルは携帯でどこかに電話を始めた。
「どこにかけてるんだ?」
「援軍を頼むのよ」
通話はすぐに終わった。
「OK、じゃあ出発しましょう」
「ああ、だが…」
「大丈夫、須藤君を殺らせたりはしないわ」

No.39

12:00(火)新宿



「ギリアム、貴方の方の首尾はどうですか?」
「こちらは問題無い、予定通りゲームにも参加している。ゲームの様子はどうだ?アシュレイ」
「今の所は特にトラブルはありません。先ほどセシルから連絡が入りました、全て予定通りです」
「そうか、組織の人間に気取られるな、奴らは何処から監視しているか分からない」
「それは分かっています。私はゲームには参加していませんから、少しはマシでしょう……ギリアム、貴方こそ気を付けて下さい。貴方の位置は組織に筒抜けですから」
「……そうだな、その通りだ」
「……どうしました?ギリアム、何か気にかかる事でも?」
「いや、何でもない。これからセシルを迎えに行くのか?」
「はい、貴方は?」
「俺は当初の予定通り動く」
「分かりました、ではまた後ほど」
「GoodLuck、アシュレイ」
「ThankYou、ギリアム」

No.40

中間テストなのでしばらく書けません。
少々お待ち下さい。

  • << 48 早く書いて下さいね😁毎日が楽しみです😍
  • << 51 早く書いて下さいね😁毎日が楽しみです😍

No.41

14:00(火)大手町



セシルの駆るスカイラインはすぐには東京タワーの方角には向かず、さっきからふらふらとオフィス街を縫っていた。
「何ですぐに行かないんだ?時間稼ぎか?」
「半分は正解」
セシルはサイドミラーに映る黒い車を気にかけている。須藤は端末を見た。参加者の点…あれが自分を殺そうとしている奴だという事は確実だ。
もう一台、青い車もいたが、どうやらそっちはたまたまの様だ。
「残りの半分は?」
「後ろの車、さっきから尾行して来てるでしょ?」
「ああ、そうみたいだな」
「じゃあ須藤君、敵の気持ちになって考えてみて…もし、相手の目的地が分かってるならどうする?」
行き先が分かるなら…
「それは……その目的地か、その途中で……ああ、そうか」
「分かった?須藤君」
セシルは待ち伏せを警戒しているのだ。もし一直線に向かえば、ルートや目的地に見当を付けられてしまう。それを防ぐために、わざとクネクネと走っているのだ。
「見えない相手を警戒するよりは、尾行させた方がいいって事か」
セシルはふぅっ、と息をついた。
「まあ……あんなにつけ方が下手なんじゃ、大した相手じゃなさそうだけどね」

No.42

お待たせしました。
テストが終わったので再開します。

No.43

>> 42 テストお疲れさまです😊前作から読ませてもらってた者です✌相変わらず面白いですね😉続き待ってます✨

No.44

>> 43 ありがとうございます。
誰も見ない月も読んで頂いた様で嬉しいです。
描写重視の前作とは違い、この作品はかなりストーリー展開を重視しています。
皆さんを驚かせる様なラストを用意できるよう頑張ります。

No.45

15:00(火)日比谷



セシルは相変わらず蛇行運転を繰り返していた。青い車は既に途中で曲がり、今はいない。黒い車体が下手な尾行を続けているだけだ。
「須藤君、後ろのをひっぺがして東京タワーに向かうわ、しっかりつかまってて」
そう言うやいなや、セシルはアクセルをめいっぱいふかす。突然に急減速し、直角に曲がる、ギアが流れる様に動き、ハンドリングにシャフトが悲鳴を上げる。
敵も懸命に喰らい付く。
だが、勝負はあっさりとついた。
稲妻の様にジグザクに高速で折れる、セシルの残像を追う事は不可能だった。
「よし!まいたみたいね、須藤君どうしたの?」
須藤は驚愕の表情に自分の顔が固定されている事に気付かなかった。
「いや、あんな運転初めてだったから……」
「もしかして……びびった?」
「少し…」
セシルはさっきまでの真剣な顔から笑顔に変わった。
「笑うなよ…」
須藤はぼそりと呟いた。

セシルは高速で交差点を走り抜ける。
その時、須藤は青く引き延ばされた影を瞳にしっかりと捉えた。
「セシル!!」
ハンドルが一気に回転する。
駄目だ、間に合わない!
次の瞬間
強烈な衝撃が体全体を駆け巡った。

No.46

15:15(火)日比谷



フロントへの衝撃で車がスピンする。エアバックが膨らむ。
二回転した後、オフィスビルの壁面に激突して止まった。
「……須藤君!大丈夫?」
「……ああ、なんとか…」
「早く外に出て!」
セシルは既に銃の安全装置を解除している。
「くそっ!黒は囮か!」
「そうみたいね…迂濶だったわ」
少し先に停車している青い車からは、既に二人の男が降りていた。
まんまとはめられた。
尾行はこちらの目を引き付けるための囮。途中でまかれたふりをして、俺達を油断させる。
そして本命は途中で消えた青い車だ。最初からこっちにぶつけて動きを取れなくするつもりだったのだ。
「須藤君隠れて!」
ダダダダ!!
敵がサブマシンガンを乱射する。街中に悲鳴が響く。
「こんな所で銃なんか撃たないでよ!」
車の裏に隠れてセシルが反撃する。
パン!
「ぐぁっ!?」
セシルの銃弾はマシンガンを持つ男の右腕に正確に着弾した。
須藤ももう片方の男に向かって銃弾を放つ。
パンパン!
弾は相手には当たらず、敵が隠れている車に当たった。
「須藤君、無理しなくていいから隠れてて!」
「俺だって足手まといにはならない」

No.47

15:21(火)日比谷



須藤達と敵は車線を挟んで膠着状態になっていた。だが、敵の黒が追い付いて来れば、こちらが圧倒的に不利になる。
「ごめん、須藤君だけでも逃がせるチャンスがあればいいんだけど…」
須藤の視界に黒が入り込む。
「セシル、黒い奴だ!」
黒い車から降りたのは四人、絶体絶命だ。
「滝沢!?…何で奴がここに……」
セシルが敵を見て固まっている。
須藤は直感的に危機を察知した。
「セシル!伏せろ!」
ダダダダダ!!
敵が一斉に引金を引いた。轟音が響き、盾にしている車体が頼りなくその弾丸に呼響する。
もう長くは持ちそうにない。
「くそっ!敵が多すぎる……」
須藤はやけくそになって銃を乱射する。だが、その軌道上に敵は一度も入らなかった。
「須藤君、諦めないで…もう少しだから」
セシルは必死に反撃を試みる。だが、すぐに敵が数十倍の弾幕を張り、埒があかない。
「よし!前に出るぞ!お前らは援護しろ!!」
「分かりました」
敵が迫る。
「セシル!!」
「ちょっと待って……来たわ!!」
その瞬間、一台の車が須藤達と敵の間に割って入った。
「申し訳ありません、セシル、遅くなりました」

No.48

>> 40 中間テストなのでしばらく書けません。 少々お待ち下さい。 早く書いて下さいね😁毎日が楽しみです😍

No.49

>> 48 更新が遅くなってすいません。
なにぶん受験生なものですから、勉強もしないとやばいので。
それでは、続きをどうぞ。

No.50

15:23(火)日比谷



割り込んだ白のクラウンの運転席から、なぎ払う様に銃弾が放たれる。迫っていた男の内一人はその場に倒れ、残りは自動車の後ろに引き上げた。
「アシュレイ!ホントに遅い!」
「だから謝ってるじゃないですか…」
ダダダダ!!!
アシュレイのクラウンに激しい銃撃が浴びせられる。
「アシュレイ!須藤君をお願い。私は奴らを足止めする」
「分かりました。須藤さん、後ろに乗って下さい…早く!」
アシュレイが強い語調で急かした。
「でも…セシルは……」
「私なら大丈夫、一人なら何とかなるから…早く出してアシュレイ!」
アシュレイは持っていたサブマシンガンをセシルに投げた。
「使って下さい、少しはマシでしょう?」
「ありがと。……須藤君を頼んだからね」
「分かっています……須藤さん、車を出します!伏せて下さい!」
タイヤが唸りを上げてアスファルトを掴む。
「車を狙え!!」
銃口が一斉にこちらを向く。
「あんたらの相手はこっちよ!!」
セシルがマシンガンを連射した。その音が背後に響く。
アシュレイは東京タワーに向けてスピードを上げる。
ギアがまた一段上がるのを、須藤は体で感じた。

No.51

>> 40 中間テストなのでしばらく書けません。 少々お待ち下さい。 早く書いて下さいね😁毎日が楽しみです😍

No.52

>> 51 ありがとうございます。
できるだけ早く書けるよう頑張ります。

No.53

15:27(火)日比谷



「何で彼女を…セシルを置いてきた!」
アシュレイは前方の車を避けながら答えた。
「誰かが足止めに残らなければ逃げ切れません」
「でも彼女一人じゃ勝ち目は無い!これじゃあ見殺しだ」
アシュレイは突然に笑みを浮かべた。
「須藤さん、貴方はセシルを過小評価しているようですね。彼女はプロです、大丈夫。それに……」
アシュレイはちらりと横目で須藤を見た。
「彼女は一人じゃありませんしね………ん?」
アシュレイがサイドミラーを気にしている。
「どうしたんだ?」
「まずいですね、追手のようです……滝沢の奴、まだ人を隠していたか……」
敵の車の助手席側の窓から人が身をのりだす。手にはライフル。
アシュレイはそれをミラー越しに確認した。
「…ちっ!撃つ気か、須藤さん伏せて下さい!」
ダダダダ!
敵のライフルが火を吹く。アシュレイは車体を左右に振ってかわす。
「須藤さん、こっちからも反撃します」
そう言うとアシュレイは助手席からアサルトライフルを取り出した。
「AKS-74です…とにかく車を狙って撃って下さい!」

No.54

何でこんな面白い物書けるのと思いながら見ています☺続き待ってます😚

No.55

>> 54 感想ありがとうございます。
自分では、やはりアクション系の話は上手くいかないなと思っていたので、面白いと言って頂けると嬉しいです。
早く更新できるように頑張ります。

No.56

ネットで見つけたのですが、「パラノイア」というゲームが、スレ主さんの小説とコンセプトが似ているので、参考になるのでは?とレスしました。ただ、冷戦時代の共産主義社会を批判した問題作で、かなりキツイ内容ですので、よく考えてから閲覧してください。検索ワードは、『パラノイア紹介』です。

No.57

久しぶりです😁✨

期末も終わり資格取得試験も終って
やっと解放されました🌷✨

更新楽しみしてます😊✨

No.58

>> 57 遅れてしまって本当にすいません。
更新します。

  • << 60 えぇ⁉💦💦 大丈夫だょ❗😲✨ 主さんのペースで書いてください😉🌷

No.59

15:31(火)御成門



東京タワーはもう近いが、追手を撒くか倒すかしなければ止まれない。
(まさかライフルまで撃つはめになるとは…)
須藤は覚悟を決めた。
敵の銃撃が止む。
「須藤さん今です!」
「頼むから人には当たるな!」
須藤は素早く窓から身を乗り出すと、敵の車めがけて弾丸を放った。
ガガガガ!!
拳銃とは比べ物にならないほどの反動と、耳をつんざく様な轟音が響く。
敵の車の挙動が乱れるが、車体にも人にも当たった様子は無い。
「その調子です!当たらなくてもいいから続けて下さい!」
弾倉を入れ替えた敵が射撃体制を取る。
「させるか!」
須藤はそいつを狙って引金を引く。
ガッ!
不吉な音。
AKがジャムを起こしたのだ。
「アシュレイ!弾詰まりだ!」
無抵抗のこちらに敵は容赦無く攻撃を加える。
ダダダダ!
アシュレイは車体を振って照準をそらす。
「ライフルはそのAKしかありません…こうなったら無理矢理撒くしか………!!」
「うわっ!!」
瞬間に須藤は強い揺れを感じた。
「ちっ!タイヤに当たったか!」
アシュレイがスピンしかけている車体を必死に立て直す。
「このっ!言う事を聞け!」

No.60

>> 58 遅れてしまって本当にすいません。 更新します。 えぇ⁉💦💦
大丈夫だょ❗😲✨

主さんのペースで書いてください😉🌷

No.61

>> 60 ありがとうございます。
できるだけ早く書ける様に頑張りますので、気長に見て下さい。

No.62

15:33(火)御成門



絶対絶命。
こちらの車はパンク、AKは使えない。
敵は車も銃も無傷。
殺られるのは時間の問題だった。
「須藤さん、私の腕ではこの車をスピンさせない事だけで手一杯です。スピードも出せませんし、ましてや敵を撒くことなんて不可能です……」
冷静なアシュレイの声にも、幾分諦めの色が感じられた。
ガガガガ!
考える間も無く敵が銃弾を浴びせてくる。
「私がここに残って何とか敵を足止めします、ですから…」
「無茶だ!走ってる車を足止めなんて出来っこない!」
「しかし、何もしない訳には!」
「まだだ…何か方法があるはずだ…」
須藤は最高速度で頭を巡らせる。
敵の銃声…
頭から排除する。
必要な事だけを思考の対象とする。
こちらの武器はコルトガバメント一丁。
この距離ではいくら撃っても当たらないだろう。
タイヤのパンクした車ではまともには走れない。ライフルを持つ相手に殺られるのは時間の問題。
逃げる事は不可能、だったら倒すしかない。
この状況で、どうしたら勝てる?
須藤は決心した。
危険だが、一つだけ方法がある。
「アシュレイ、方法は一つしか無い。俺の作戦に乗ってくれ」

No.63

15:34(火)御成門



「危険過ぎます!…それに、須藤さんが手を汚す事に…」
「そんなの分かってる!いいからやってくれ!」
須藤はアシュレイに怒鳴った。
「………分かりました、やってみます」
アシュレイは運転に集中した。
さっきからの銃声騒ぎで車は周囲には居ない。
「………!!」
アシュレイはアクセルを放すと同時にサイドブレーキを引いた。
タイヤがロックし、衝撃が車体に走る。
「スピンするなよ!」
ブレーキを踏み込み、ステアリングを一気に右に回す。
後輪がアスファルトを滑る。
180度のドリフト。
フロントが真後ろを向いた。
「よし!」
ブレーキを解放し、アクセルを踏む。
敵の車に向かって一直線に加速。

そう…当たらないなら、こっちから敵に接近するしかない。

敵の銃弾がフロントガラスを割って車内を貫通する。
アシュレイと須藤は身を屈めてかわした。
車体が横に並ぶ
その殺那

二発の銃声。
一瞬の出来事だった。
敵の車はそのままガードレールに激突した。
須藤には見えていた。
自分の放つ銃弾が、二人の人間の頭を狂い無く貫通する様を。
まるで油絵の様に
その目に焼き付けていた。

No.64

15:38(火)御成門



さっきの戦いで車は動かなくなってしまい、そのうえひどい騒動になってしまった。
須藤たちはそれを避けるために、現場から離れる様に歩いていた。
「大丈夫ですか?須藤さん」
「ああ…何とか、別にこれが初めてじゃない…」
そう言った途端、昨日あの男を殺した時の、気味の悪い感情がまた込み上がってきた。
だが…それは前の時ほど強く拒絶はされない。
耐性?
いや…そんな聞こえの良い物じゃない。
人の死に対する感覚が麻痺し始めている。
気持ちの悪い、蝕む様な慣れだ。
でも…不快でありながらも何か快楽の様な、いや…優越感の様な物も一方にはある。
それが……余計に須藤の気分を悪くさせた。
「アシュレイ、この騒ぎ…どうするつもりだ?」
須藤は今の思考を払い除けながら言った。
「そうですね…映画の撮影でもあった事にしましょう」
「圧力をかけて揉み消すって事か?」
「まあ、簡単に言えばそういう事です」
警察だけでは無い、彼等の組織は日本の政府にまで力が及ぶということか?
「須藤さん、ここからなら徒歩でも十分間に合います。まずは東京タワーに行きましょう」
「ああ…そうしよう」

No.65

15:29(火)日比谷



「作戦ポイントに着いた……辺りも気にせずまた派手にやってるな、本部も事後処理が大変だ」
ギリアムはビルの屋上から問題の交差点を見下ろしながら、無線に皮肉った。
「呑気にしてないでさっさと援護してよ!!ホントにピンチなんだから!」
無線から鼓膜が破れるほどの怒鳴り声が響く。
「分かったよ!了解!!」
そう言うとギリアムは肩に掛けていたバッグを下ろし、中身を取り出した。
まず二つに分かれた本体を組み立てる。
続いて銃口にサイレンサーを接続。
最後にスコープと足を付けた。
漆黒の機能美が浮かび上がる。
高性能狙撃銃 PSG-1
交差点までは直線距離でざっと300メートル。
問題無し。
ギリアムはフローティングポジションを取り、スコープを覗き込んだ。
敵の位置を確認する。
「セシル相手には隠れてるみたいだけど、こっちからは丸見えだな」
ギリアムは再度無線に話し掛けた。
「こちらギリアム…セシル、準備OKだ。これより援護射撃を開始する」
「了解、頼むわ」
無線が切れると同時にギリアムは思考回路を切り替える。
「悪いな、お前らに個人的な恨みは無いが、これも仕事だ」

No.66

いつも楽しく見てます☺主さんは銃に詳しいのですか❓

No.67

>> 66 いや、全然詳しくないです。
何せ思いつきの話なものですから。
コルトガバメント以外は、全部メタルギアソリッドと言うゲームに登場した銃をそのまま使っています。
一応実際に存在してるかどうかは調べていますが。

  • << 72 この小説読んでたら久しぶりにメタルギアソリッドやりたくなりました✨PSG-1好きです☺

No.68

15:45(火)芝公園



「須藤さん、東京タワーまでもう少しです、急いで」
前を行くアシュレイが声をかけた。
(そうだ……)
須藤は端末を確認した。敵は奴らだけではない。偶然に近くに参加者が居る可能性もある。
参加者は現在42人
敵は近くには居ない。
「待てよ……アシュレイはゲームには参加していないのか?」
アシュレイは立ち止まって答えた。
「はい、参加しているのはセシルと、あと一人ギリアムというエージェントです。私はそのバックアップを担当しているのでゲームの参加者では無いんです」
「その…ギリアムって奴が?」
「ええ、彼女の援護に回っています。彼は組織でもトップクラスの狙撃手です。滝沢の手下のゴロツキじゃ相手になりませんよ」
滝沢…セシルも言っていた。
「滝沢って誰なんだ?」
「暴力団の幹部ですよ。数年前に私達と仕事でぶつかりまして……刑務所送りになったはずなんですが、何故か出所しているみたいですね」
「それはゲームの主催者と関係がある?」
「恐らく、奴らが何らかの方法で外に出したんでしょう」
ゲーム主催者、セシルたちの組織……
俺の見えない所で、大きな力が静かに動いている。

No.69

15:49(火)東京タワー



須藤たちは東京タワーの真下に立った。
タイムリミットの16時には何とか間に合った様だ。
展望台へ上がるエレベーターの前に一人のスーツの男が立っている。顔には黒のサングラス。
「須藤様、ミッション達成おめでとうございます。どうぞ上へお上がり下さい」
「あんたは?」
「私はこのゲームを司るお方の使い…貴方をここでお待ちしておりました」
「……そうか、分かった」
「どうぞ…お乗り下さい」
須藤とアシュレイは展望台に上がった。
エレベーターが止まり、無人の展望台へ須藤たちは立つ。
眼前の青い空……
今は何の感慨も無い。
そんな物を感じている余裕が無い。
須藤の端末が鳴った。
「須藤様、ミッション達成おめでとうございます」
「それはさっきも聞いた」
「ミッション達成の特典として、今より48時間の間、須藤様の位置情報は他の参加者の端末に表示されなくなります」
端末の参加者人数表示の下に、48:00というカウントダウンが新しく表示された。
とりあえず、ゲストに見つかる危険度は低くなったという訳だ。
「それでは、ご健闘をお祈りしております」
通信は切れた。

No.70

15:34(火)日比谷



「1…2…3…4…全部で6人、その内一人は負傷者か」
ギリアムは敵の中の一人に照準を合わせる。
「せめて苦しまない様にしてやるからな」
スコープに浮かぶクロス。その交点が頭部を捉える。
ギリアムは引金をためらい無く引いた。
音も無く弾丸は滑空し、正確に男の脳天を貫く。
男がその場に崩れ落ちるのを、ギリアムはスコープ越しに確認した。
だがそれによって躊躇や罪悪感が生まれる事は無い。
生まれない様に心を訓練してきた。
これは…仕事だ。
会社員がキーボードを打つ様に、俺は人間を撃つ。
そうでも思わなければ、すぐに押し潰されてしまう。
「よし……まずは一人だ」
敵は突然の攻撃に困惑している。
混乱している奴ほど警戒が甘くなる。
ギリアムは照準を別の男に合わせた。
こういう時に迷いは禁物だ。あっちにはセシルがいる、いち早く敵の数を減らさなければならない。
「これで……二人!」
弾が外れない事は放った瞬間に分かる、すぐに奴は倒れる。
そう……死ぬ。
俺が殺す。
「迷うな……いつもと同じ様にやればいい……仕事だ、仕方ない」
二人目が倒れるのを確認した。
即死だろう。

No.71

15:39(火)日比谷



ギリアムの射撃で二人は死んだ。残り4人、負傷者が一人だから、滝沢を入れて戦力は実質3人。
敵は銃を撃つ度胸はあっても、所詮は日本人。撃たれる度胸は無い。
味方が殺されれば、すぐに恐怖に飲まれる。
敵が戦意を喪失しているのは明らかだった。
「ギリアム、もう殺す必要は無いから、威嚇に切り替えて」
「……了解」
ギリアムの威嚇射撃が車や足元すれすれに次々と放たれる。だが、人には決して当てない。
「どっから撃ってんだ!?」
「ここにいたら殺されちまう!逃げろ!!」
「待ってくれ!置いてかないでくれ!!」
セシルの予想通り、敵は逃げ出した。
「ギリアム、撃ち方止め!」
セシルはギリアムを制する。用があるのは滝沢だけだ。他はどうでもいい。
「おい!お前ら待て!!逃げるな!!」
滝沢が仲間を追って逃げ出した。
「逃がす訳ないでしょ、このバカ!」
セシルはコルトガバメントを抜き、照準を滝沢の左足に合わせた。
パンっ!
「ぐあっ!?」
銃弾を足に受けた滝沢がその場で転倒した。
「動かないで!動いたら撃つからね!」
セシルは銃口を滝沢の頭に向ける。
「待て!撃つな、頼む」

No.72

>> 67 いや、全然詳しくないです。 何せ思いつきの話なものですから。 コルトガバメント以外は、全部メタルギアソリッドと言うゲームに登場した銃をそのま… この小説読んでたら久しぶりにメタルギアソリッドやりたくなりました✨PSG-1好きです☺

No.73

>> 72 こんばんは。
メタルギア経験者なんですか?あれ面白いですよね。
最初に小説の構想を思い付いた時に、メタルギアに銃がいっぱい出てたなって思って、使わせて貰っています。
M4やM9、ソーコムも機会があったら出して行きます。
(流石にスティンガーは無理ですが)

No.74

>> 73 メタルギア面白いですよね✨

スティンガーで街を破壊とか☺


どんな風に武器が使われるかも楽しみにしながら続き待ってます🙌

No.75

>> 74 ありがとうございます。
ご期待にそえるよう頑張ります。

No.76

15:46(火)日比谷



「あんたが須藤君を殺すミッションを与えられたんでしょ?」
「いったい何の話だ?」
「とぼけてると刑務所じゃ済まないかもよ?……ゲームの主催者があんたを刑務所から出したんでしょ?ゲームについてどれだけ知ってるの?」
「ゲームって何だ?俺は知らない!」
セシルは銃口を滝沢の額に押し付けた。
「ホントに殺すわよ?」
「俺は雇われただけだ!お前らを殺せって……成功したら無罪にしてやるってよ…それに金まで」
「それを本気にしてこんなバカ騒ぎにしたの?」
「あいつがこうしろって命令してきたんだ……それにな、あいつは俺を無罪にする位訳ねえよ」
滝沢は…須藤君を殺すために雇われた。じゃあ雇い主がゲームの参加者?
「あんた誰に雇われてるの?」
「……言えない。言ったら報酬が無くなる。」
「言わなきゃ命が無くなるわよ?いいの?」
パンっ!
セシルは滝沢の足元を一発撃った。
「あんたは私たちが平気で人を殺すってこと…知ってるわよね?」
「………分かった。その変わり俺の身の安全を約束しろ」
「刑務所の中でも良いならね」
滝沢は重い口を開いた。
「仙石晃だ…知ってるだろ?」

No.77

15:50(火)日比谷



「仙石晃って……警視庁の仙石警視!?」
「そうだ」
仙石晃……
組織のリストで名前を見たことがある。
組織の調べでは
警視庁幹部クラスとの繋がりが強く、警察関係での影響力は広域に及ぶ。組織についてかぎまわっている様子があり要注意人物である……
といった内容が書いてあった。
ウチの「仕事」で、でっち上げられた詐欺容疑で逮捕されていた滝沢を仮釈放にするのは容易いだろう。
「仙石警視が須藤君を狙っているゲーム参加者?………ちょっと待って!じゃあ今、仙石はどこにいるのよ!?」
滝沢は困惑した表情で答えた。
「知らねえよ……俺は指示通りにやってただけだからな」
須藤君たちだって滝沢が自分たちを狙っていると思っているはず。
滝沢を振り切ったと思った彼等は無防備になっている……そこを狙われたら……
二人が危ない。
セシルは携帯を取りだし、アシュレイに電話をかけ始めた。
「………繋がらない、まさかもう…?」
「諦めるのは早い」
絶望するセシルの前に、一台の白いフォレストが現れた。
運転席にはギリアムが乗っている。
「まだアシュレイたちは生きている……追い掛けよう」

No.78

15:52(火)東京タワー



突然に機械の稼動音が、無音の展望台に響いた。
「アシュレイ、誰か来る」
エレベーターが到着し、ドアが開く。
須藤とアシュレイは素早く銃を構えた。
瞬間。
二人が撃つ間も無く左右に数人の男が躍り出ると、半円に二人を包囲する様に展開した。
エレベーターからゆっくりともう一人、スーツの男がコルトガバメントを手に現れる。
「動かないで貰おう、警視庁の仙石だ…ふむ、君が私のターゲットか」
仙石は須藤の方を見て頷いた。
(どういう事だ…?)
「簡単に銃を使うなんて、警官のする事でも無いでしょう」
「実際私の身分などは関係の無い事だ。お互いにゲームのプレイヤー…それで十分」
「敵のプレイヤーは殺す…そうですか?」
「君達の出方次第だな。君達に君達の狙いが有る様に、私には私の狙いが有る……そういう物だろう?アシュレイ?」
「何故私のコードネームを知っている!?」
「理由はどうでもいい…銃と携帯電話を渡せ」
アシュレイが小声で囁いた。
「須藤さん…抵抗しても勝ち目はありません」
二人は敵の部下に銃と携帯電話を渡した。
「それでいい、こちらに従えば殺しはしない…来い」

No.79

16:20(火)???



目隠しをされたまま、ずいぶん長いこと動かされた。
車が止まり、背中を銃で押されて降ろされた。
「どうぞ、大したもてなしは出来んがね」
男たちに誘導されるがままに歩く。
「目隠しを取りたまえ」
須藤とアシュレイは目隠しを自分たちの手で外した。
暗黒に慣れていた目に光が突き刺さる。
明順応……
目が力を取り戻し、脳に周囲を理解させていく。
(ここはどこだ……?)
辺りを見回す。
何も無い室内に、包囲する様に男が六人。手足が自由でもまず勝利は有り得ない。
出口は一つ、一人男が付いている。
剥き出しのコンクリート壁、タイルの無い床から推測すれば…廃ビルか、もしくは建設途中のビルのようだ。
室内は広くは無いが…狭くも無い。会社の小オフィスぐらいだろう。
窓から外が見える……少なくとも一階じゃない。
「須藤さん……」
アシュレイが聞こえるか聞こえないかの声で囁いてきた。
須藤は周囲に分からない様に無反応で耳を澄ました。
「仙石は……多分ですが、私たちをすぐには殺しません……ですから、何があっても反抗しないで、時間を稼いで下さい。助けは必ず来ます」

No.80

16:26(火)???



仙石とアシュレイは一言も発すること無く視線をぶつけていた。
無言のまま時間だけが流れていく。
「君たちは……ロストチルドレンと呼ばれているらしいね、失われた子供たち…そう呼ばれている」
沈黙に耐えかねたのか、仙石が口を開く。
「そう呼ぶ人もいますし……そうでは無い人もいます」
アシュレイはその無色の眼光を瞬かせること無く答えた。
「私は……自分の力に、というよりも自分への他者の信頼に自負があった。だが…その私にも隠された機密がある。ある時それに気付いた」
仙石はゆっくりと話し続けた。
「組織に機密はある、それは当然だ。だが…私に触れられない機密は無かった。もちろん不当な方法で探り当てる訳だが…とにかく探れない事は無かったのだ」
「………」
「だが君たちは違った。私があらゆる手段を使っても、その存在とわずかな足跡しか掴むことが出来なかった、だから……」
「だから?」
「私は『あらゆる』のその『先』の手段を使うことにした、このゲームへの参加だ……とても苦労したがね」
仙石の声色が明度を増す。
「そうして、ついにロストチルドレンに接触出来た……そういう訳だ」

No.81

16:31(火)???



「このゲームの存在、ゲームの中の君たちの存在……辿り着くのには相当に苦労した、何度も私自身の身を危うくしたよ」
「ならば私たちの事など探らなければ良かった、忘れれば良かったのでは?……私たちの事を知って何の得になりますか?誰が認めますか?誰が信じますか?」
アシュレイは嘲笑する様な口調で言った。
「その通りだ。リスクは有るがメリットは無い……ただね、知りたいだけなのだよ、君たちが何のために在るのか」
「そんなつまらない探求心のために?」
「それほどまでに知りたい……暗示にかかった様なものだ。隠喩の中に閉じ込められたと言ってもいい」
「そのメタファーの裏側に触れて、貴方はどうするつもりですか?」
仙石は気味の悪い微笑を浮かべた。
「どうもせんよ……言うなれば、知ることそのものが目的であって、その先は無い」
アシュレイの視線が強まる。
「私が簡単に喋るとでも?」
「君は……喋らんだろうな。そこでだ、まずは私の話を聞いて欲しい……」
「ロストチルドレンという存在についての一つの仮説…ですか?」
「そうだ。その上で君の意見を聞かせて貰おう、私はそれで構わない」

No.82

16:36(火)???



「私は君たちについて微かな…そう、香りの様な情報しか持ち合わせていない。しかし、その情報は、100%警察の関係筋から私の前に姿を現した」
仙石は最後に探偵が自らの推理を披露する様な、全てを内包した口調で進めた。
「つまり君たちは警察と繋がりを持っている。大なり小なり、正なり負なりだ」
アシュレイは心を閉塞させ、ただ音を通している。
「私が君たちについて一番大きく知るきっかけになったのは……そう、滝沢だ」
仙石の口調は劇じみた物に変化していく。
「彼の話では、君たちは人を消すこともあるそうだね?滝沢が一人名前を上げたからね、試しに調べてみた………驚いたよ、その男は逮捕されていた。だが刑務所にはそんな奴はいない、形式的に居ることになっている……つまり『消された』わけだ」
「これは警察が君たちを法から隠しているということだろう?実際、君たちは逮捕されたりはしないし、事件にも関わってはいない…もちろん形式上の話だ」
「君たちは少なくとも警察とは友好的な関係にある……では警察側から見て、殺人者を無罪にして友好的に関わる理由は一体何なのか?」
仙石は蛇の様に笑った。

No.83

16:40(火)???



「日本の警察の官僚体質というものを知っているかね?利益追求体質と言ってもいい」
仙石は左右にゆっくりと歩きながら話し続ける。
「警察は、ご存知の通り正義の機関ではない。利益を享受するためであれば……犯罪を隠蔽する、犯人をでっち上げる、犯罪者と取引をする、自ら犯罪を犯す……見つからなければ何でもする悪党だ」
暫しの沈黙。
「警察は、その歪んだ官僚体質のお陰で政界、財界に多くのパイプを作る事に成功した。だが同時に、多くの敵も作ってしまった……相反性という奴だな。往往にして、良い物には悪い物がついてくるものだ」
仙石はくるりと回って須藤たちに背を向けた。
「では、その凶悪で残忍な敵対者から、我等が誉れある日本国警察を守るためには、いったいどうすれば良いのだろう?」
仙石はまた向き直る。
「基本は同じだ。仲間を作る様に、敵を懐柔すればいい。金やら人脈やら弱みやらを使ってね……だが、世の中には基本が通じない物がある。基本がある限り特殊がある。その特殊なケースの場合の最終手段……特殊な事態における特殊な解決手段、それが君たちロストチルドレン」

「それが私の仮説だ」

No.84

16:32(火)新宿



新宿の外れの小さなビルの屋上に、二人はいた。ここらにはバブルの頃に建設されたものの、今では借り手のいない廃ビルがいくつもある。
「見張りは…表に三人。二人は三階に閉じ込められてるみたいね」
反対側のビルを双眼鏡で覗きながら、セシルは淡々と言った。
「発信機は生きてるから二人は無事だろう。こっちの三階から見てみよう」
ギリアムがそう言うと、二人は階段を降りて三階へと向かった。
オフィスに入るための扉には、一応の南京錠が掛っている。
「………よし、開いた」
ギリアムが針金で中をいじると、鍵はものの数秒で降参した。
ここは敵からも視認できる。二人は幾分慎重に対岸を窺った。
「……少なくとも5人以上はいるわ、拘束されてる二人を逃がして、なおかつ相手をするのは辛いわね……」
セシルは忌々しそうに呟いた。
「悪い知らせだ」
ギリアムは携帯電話を閉じながら後ろで言った。
「本部からたった今指示が出た」
「何?」
「仙石以外は殺すなってさ…大方手下の奴らは仙石の息のかかった警官なんだろう」
「ただでさえ厳しいのに……やれやれね」
「時間はある……作戦を考えてみよう」

No.85

16:36(火)新宿



「……わかった。その作戦でいきましょう」
「決まりだな。よし、じゃあこれを持ってけ」
ギリアムは狙撃銃の入ったバッグから、ベレッタ17と赤外線ゴーグルを取り出した。
「そのベレッタには弱装のゴム弾が入ってる……人を撃っても死なないから安心して使っていい」
セシルは少し驚いた。
「弱装を持ち歩いてるなんて、用意がいいのね」
「備えあればなんとやら……だ。スナイパーは用心深いんだ、何でも用意しておくに越したことはない」
ギリアムは当然と言わんばかりに返した。
「赤外線ゴーグルは突入用だ。作戦の正否は突入の瞬間にかかっている。頼んだ」
「了解」
「手筈通り俺はここから支援する……とは言っても基本はお前一人だからな。中はどうなっているかわからないから、焦って進んで殺られるなよ」
「大丈夫よ。何かあったら無線で呼ぶから」
セシルは大袈裟に話すギリアムをたしなめる様に言った。
「三階の扉に着いたら連絡してくれ。その後、突入タイミングはこっちから指示を出す」
「話は以上でいい?」
「ああ…OKだ」
セシルは合図の様に、パンと一回手を叩いた。
「よし!救出作戦開始!」

No.86

16:44(火)新宿



傾いた日が作る、ビルの影の生む安全地帯。その窪みにセシルは立っていた。
ビルの入り口とは斜めの位置関係だ。見張りは三人の内一人しか見えない。
中の奴らに気づかれても、連絡されてもまずい。静かに、全員を片付けなければならない。
「左と入り口前の奴は俺が麻酔銃で黙らせる。お前は右を頼む」
「了解」
無線で常に連絡を取り、作戦を進める。
「……一人やった。もう一人もOK」
その連絡を聞きながら、セシルは風の様に駆け出した。
敵は味方が倒れるのを見て、携帯を出している。……こっちに気づいた。
セシルは銃を抜こうとする敵を無視して、一直線に突進する。
敵は銃を構える。その時、セシルはすでに目の前まで接近している。
左肘で、敵の右手首を打ち上げる。敵は反射的に左拳を顔に打ち込んできた。成程、確かに警官のようだ。
セシルは首を降り、その一撃を造作も無くかわす。
敵は一旦距離を取るため、バックステップしようとした。
「遅い!」
それを読んでいたかの様に、セシルは敵が動くよりも早く距離を詰め、みぞおちに一撃を入れた。
敵は姿勢を維持出来なくなり、がっくりと崩れ落ちた。

No.87

16:46(火)新宿



「こっちも片付いたわ。ギリアム、こいつら縛って隠す?」
「相手がターゲットを殺すタイムリミットは17:00だ。時間が無い、ほっとけ」
「了解、じゃあ中に入る」
「気をつけろよ」
「分かってるって」
セシルはベレッタを右手に、慎重にビルに入った。
真っ直ぐ廊下を行くと、道が左右に分かれている。壁に張り付いて、セシルは先を窺った。誰もいない。
セシルは右に進み、そのまま階段を上る。警戒は怠らない。
「入り口と、二人のいる部屋以外には、人はいないみたい。私たちを相手にするには、無用心ね」
「敵がいないなら、こっちには好都合だ」
無線からそっけない声が返ってきた。
二階にも、人の気配は無い。そのまま三階までセシルは上がった。
三階にも、人は居なかった。滝沢なんかを使っている割には、無用心にもほどがある。
二人のいる部屋は、すぐに察しがついた。中からアシュレイの声が聞こえたからだ。
そこまで行って、セシルはギリアムに無線を入れる。
「扉の前に着いた。ギリアム、本番よ」
「ああ、二人を救出するぞ」

No.88

16:44(火)新宿



さっきから隣のビルに人影が写る。ギリアムだ。
……まだ誰も気づいていない、彼らが行動を起こすまで、自分に仙石たちの視線を引き付けておく必要がある。
「貴方は私に意見を求めると言いましたね」
「その通りだ」
「では……貴方の仮説に対する私の意見は『沈黙』です」
仙石は卑しい笑い声を上げた。
「全くもって君の返事には予測がついていたよ」
仙石はホルスターからニューナンブを抜いた。
「拳銃というヤツだな。威力は無いが…ちゃんと人は殺せる」
仙石はそれの銃口をアシュレイの額に突きつける。
「自分の命で組織は売りません」
仙石は無言で腕を水平に動かした。須藤の頭の前まで。
「どうだね?」
……万一情報を漏らしても、ここにいる全員を消せば済む。
だが、『全員』には須藤も含まれる。
彼は助けたい…
アシュレイは賭けに出た。
「…それで?」
アシュレイの返事に、仙石はまた声を出して笑った。
「それでこそだ、エージェント・アシュレイ!」
仙石は銃口を須藤の左肩に向けた。
パンっ!
乾いた銃声、鋭い痛み。
「ぐぁぁ!!」
(早く、急いでくれ…)
アシュレイはただ祈った。

No.89

16:49(火)新宿



熱の塊が須藤の肩を突き抜ける。かすった時とは比べ物にならない激痛が続いて走る。
息が吸えない。
「須藤さん!!…貴様!!」
「言わないのなら…また別の所を撃つだけだがね、どうする?」


「ギリアム!室内から銃声一発!」
セシルが無線に叫ぶ。
「すぐに突入に移る!タイミング逃すな!!」


ギリアムは煙幕を込めたグレネードランチャーを構える。
射角を目測し、引金を引く。
弾は放物線を描き、窓ガラスの一枚を貫く。
「10秒後に突入!」


バリンっ!!
室内に不吉な音が響く。
「何だっ!」
仙石は動揺し、窓に向かって歩いた。
その次の瞬間。
「うわっ!!」
弾頭から勢い良く黒煙が噴き出し、一瞬にして室内を闇夜の如く染め上げた。
「くそっ!二人を確保しろ!逃がすな!」
「仙石さん、何も見えません!無理です!!」
「奴ら、味な真似を」


(…7、8、9、10!)
セシルは扉を開けて突入した。
赤外線ゴーグルを装着する。
中は黒煙で視覚的には何も見えない。
だが、人間の体温から発する赤外線を感知すれば、二人の位置はすぐに分かる。
(今助けるから、無事でいて)

No.90

16:51(火)新宿



室内に入るとすぐに、セシルはしゃがみ込む二人を発見した。
周囲の警官は煙幕に混乱して、セシルの侵入には全く気づいていない様だった。
「…大丈夫?」
近づいてきたセシルが、敵に聞こえないよう小声で話しかける。
「須藤さんが撃たれました……」
「須藤君歩ける?」
「ああ……大したことない」
アシュレイが肩を貸そうとする。
須藤はその腕を右手で払いのけた。
「須藤さん……」
「触るな……撃たれたのは肩だ、一人で歩ける」
「……分かってもらえないとは思いますが、私にはああする事しかできなかったんです。」
須藤はアシュレイの弁解に、一言も応じなかった。
アシュレイは平然と俺を仙石に差し出した。俺の命よりも組織の機密を取った。
須藤は錯乱した。
俺は今、一体どんな状況にあるのか?
誰が味方で誰が敵なのか?
第一、味方なんて……いるのか?
ゲームが終わる時……

俺は……
生きていられるのか?


「二人とも、今は脱出しなきゃ……そろそろ敵も気づくかもしれないし」
セシルの声で現実に引き戻される。
「……分かった」
須藤は一言だけ返事をして、それから立ち上がった。

No.91

16:54(火)新宿



部屋の扉を出て、三人は階段へと駆け出す。
「くっ……」
鈍い痛みに須藤はうめいた。
肩の痛みが伝波して、足まで上手く動かなくなる。
「こっちだ!逃げたぞ!!」
すぐに気づいた警官たちが部屋から追ってくる。
「邪魔しないで!」
セシルがベレッタを三発撃った。だがわざと誰にも当てない。弱装だと気取られないようにするためだ。
銃声に臆した警官たちは部屋の入口に身を隠した。
「先に行って!下にギリアムがバックアップに来るから合流して!」
「分かりました!」
「ちょっと待てよ!またセシルを……」
アシュレイが右手を引っ張った。
「気持ちは分かりますが……私達が残っても足手まといです」
「アシュレイの言う通り。早く!!」
右手でベレッタのトリガーを引きながら、セシルは振り向かずに左手で須藤の背中を押した。


「何をしている!!」
仙石が後方で激を飛ばす。
「しかし、敵も銃を……」
「防弾盾を使え!何のために持ってきたと思ってる!」
「りょ、了解!」
警官達は透明の盾を持ち出し、廊下に一列に並んだ。
「お前らはもう片方の階段から先回りしろ!絶対に逃がすな!」

No.92

16:56(火)新宿



階段の手前の角に身を隠しながら、セシルは盾を構えた警官隊に銃撃を加えていた。
「盾か…ちょっとやばいかな」
盾があれば銃撃の抑止力は低下する。事実、一塊のその集団は、冷静に突撃の機会を窺っている様に見えた。


階段の生み出す上下の振動は、須藤の肩にはさらに堪えた。
「須藤さん!一階です!」
やっとのことで階段を下りた須藤の前方で、アシュレイが先を窺う。
一階はT字路の様な構造になっていた。自分たちのいる階段、その先にもう一つの階段。
そしてその中間に出口へ繋がる道……
「いたぞ!!」
奥の階段から数人の警官が躍り出た。
「先回りか!?」
アシュレイは素早く拳銃を抜く。
道は直線、途中に遮蔽物は無い……
先に銃撃で牽制し、怯んだ隙に強行突破するしか無いとアシュレイは踏んだ。
「須藤さん走れますか?」
「それしか方法が無いなら…」
アシュレイが敵前に身を晒そうとしたその瞬間。
「撃つな!アシュレイ!」
突然に出口から男が一人駆け込んで来た。敵の警官を視界に捉えたと同時に、迷い無く連続で引金を引く。
怯んだ警官は一旦身を隠した。
「今の内にこっちへ来い!」

No.93

16:58(火)新宿



「ん?…何だこの弾は?」
盾を構えた警官の一人が、足元に落ちていた弾丸の一発を拾った。
「ゴム?…仙石さん、敵の弾は非殺傷弾です!」
「何!?…奴らには私達を殺す気は無いのか……よし、強行突破する、盾で押しきれ!」
前方の一群が一つの個体となり、突進する。
「弱装がバレた!?」
ベレッタの音は、もう敵を止められなかった。


須藤はギリアムであろう男の顔を見た瞬間、戦慄で動けなくなった。
「お前…高瀬!?何でここに……」
「俺は、お前の高瀬じゃない……アシュレイ、早く連れて逃げろ」
アシュレイはいぶかしげな表情をしていたが、すぐに了解した。
「須藤さん後は彼に…」
「動くな!!」
出口に拳銃を真っ直ぐに構えた男が一人。
「チィっ!セシルが気絶させた奴が目を覚ましたか」
ギリアムが男に銃を向ける。
「そこまでだ…」
背後から、仙石の絶望と同義の声が響く。
挟撃の形…
「降伏したまえ、もう逃げられはしない」
警官の後ろに、捕縛されたセシルが見えた。
「君のその銃も、ゴムのオモチャかね?」
ギリアムは苦悶の表情を浮かべる。
「私の勝利、君らの敗北……だよ?」

No.94

17:00(火)新宿



仙石の勝利は誰の目にも明白だった。
「組織の駒が三つも捕まるとは、全く私にも予想外だったよ……君らをカードに新しい権力を握るのも夢で…わ無…い!?」
仙石の優越に浸りきった表情が、突如として豹変する。青ざめ、視線が定まっていない。
(何だ……?)
須藤にはその現象が飲み込めない。
仙石は立位を維持出来ずに、片膝をついた。
「何……何、だ…突然、心臓が……」
仙石は胸を押さえて、ほとんど空気の様な声を発した。須藤の目にも呼吸が急速に速く、浅くなるのが見て取れる。
尋常では……無い。
「く……クそ、奴ら、これ…に、細工を?そんな馬鹿な……有り得、無い」
仙石は息絶えた。
須藤ははっとして時計を見た。
17:01……
(確か、俺を殺すミッションの期限は17:00…)
端末の説明が、須藤の記憶から鮮やかに想起される。
(ミッションの放棄は……)
「……処分?」
(確かに自然死にしては状況が出来すぎている……
だが、殺されたと仮定して、いったいどんな方法で……?)
須藤は突発的な悪寒に襲われた。
寒気で足が震える。
いや、違う。
俺は…
この瞬間を恐れている?

No.95

17:04(火)新宿



突然の仙石の死に、警官たちの間に動揺が津波の様に走った。
無理もない事だ。
こいつらは皆、仙石という権力の象徴にすがっていただけで、何も知らない下っ端なのだから。
「お前ら、頼みの仙石は居なくなったが…どうする?」
ギリアムの声に一頻りざわついた後、一人が逃げる様にドタバタと走り出すと、群衆心理に従ってビルの中はたちまち静かになった。
アシュレイが仙石の亡骸を業務的に調べた。
「間違い無く心臓発作ですね……」
「まあ……考えられる理由はそれくらいだけど」
須藤はふと、無言で立っているギリアムの横顔を見た。
やはりその顔はどう見ても、昨日ステージでベースを弾いた高瀬の物に相違なかった。
ギリアムは一度もこちらを見なかった。まるで、面倒な状況を作る須藤という存在を、徹底して消し去っている様だった。
同じく須藤も無言で横に立った。言った所で簡単に進展するような位置に自分が居ないことだけは、明白だったからだ。
瞬間
(え……?)
天井が暴れる。
(何だよ?)
肩が突然強く痛み、そして一切の感覚が消え失せた。
「ちょ…須藤君!?」
何もかも、幕を降ろして白くなる

No.96

こんにちは。

久々に来ました。
わたしには良くわからない拳銃も、それぞれ特徴があってわかりやすい内容で面白いです。

セシルと警察のバトルシーンは、わたしがゲーセンでゾンビ倒す感覚かな?と想像したりしました(笑)

お互い受験生なんですよね…。
小説の方は自己ペースで頑張ってください。
これからも楽しみにしています。

No.97

>> 96 こんばんは、お久しぶりです。
また読んで頂けて嬉しいです。
確かにもうすぐ受験ですから、勉強の邪魔にならないよう息抜きに更新していこうと思っています。
ペースは多少遅れるかもしれませんが、なんとか見捨てないで読んで頂ければ幸せです。
小人さん、来て頂いてありがとうございました。
お互いに受験頑張りましょう。

No.98

Intermission~幕間~



こんにちは、この小説の作者です。ここまで読んで頂いた読者の皆様、本当にありがとうございました。
ついに火曜日が終わりました。
延べ29000字、原稿用紙72枚半……非常に時間がかかりました。
ところで、話の最初の部分を覚えてますでしょうか?前から読んで頂いている皆様には
「高瀬って誰?」
と思った方がたくさんいらっしゃると思います。
この先の展開は物語の謎が解かれ、そしてラスト……
という形を取るつもりなので、冒頭からセシルが合流する辺りまでを一旦読み返して頂けると、より一層この先の展開が楽しめると思います。(もちろんタイムラグが生じたのは私の不手際なので、そのまま進んでも理解できるよう努力するつもりです)
もう一つ、読者の皆様にお願いがあります。
ぜひ感想を書いて下さい。
ここが良い、ここが悪い、面白い、つまらない……何でも構いませんので、横レスとかは気にせず思ったことはドンドン教えて下さると私としても勉強になります。
大学受験なので更新が遅れるかもしれませんが、最後まで書けるよう頑張りたいと思っています。



全ての読者の皆様へ

作者より

No.99

??:??(?)???



意識が朦朧とする。まるで……そう、自分の体がそっくりそのままどこかへ行ってしまった様な感覚だ。
須藤は『自分』の欠片を拾い集める。それには時間がかかる。
確固たる自分を、ジグソーパズルの様に一から構築していく。
ゆっくりと目を開く。
(何だ……?)
不思議な場所だった。
意識だけが浮遊している。
暗い……
だが真っ暗という訳ではない。
黒の下地に、薄墨色の流線が幾重にも重なり、独特の模様を描いていた。それは前衛美術の様であり、夜風の様だった。
(寒い……)
温度ではない…
それは容易に想起された。相対的な感覚ではない、寒さそのものが概念として存在している。
なんとなく、そんな感じだった。


(……声?)
声が…微かに聞こえる。
誰の声……?
須藤は思い出そうとする。
わからない……
その内容を聞き取る事もできない。
ただ、それは不吉な呪文の様に須藤の感覚器官を揺さぶるだけだった。
やがて、強い光が空間を照らし始める。
ここがどこなのかはわからない。
それでも、自分の行き先は確信できた。
(俺は……自分の場所に帰るんだ)
光が全てをまっさらに還していく。

No.100

20:18(水)上野



いつの間にか、須藤は現実としての意識を取り戻していた。
目をゆっくりと開ける。視線の先には、気だるく光る蛍光灯が浮いていた。
「……夢か」
目をぐるりと一回転させると、ここが上野の自宅だということがすぐに分かった。
物凄く長い旅路の果てに、故郷に帰って来た……
不思議とそんな心地がしていた。
須藤はゆっくりと上体を起こす。
「…っ!」
突然に左肩が酷く痛んだ。
恐る恐る肩を触ってみる。少し圧迫して痛みを調べる。
大した事は無い。突然の痛みに痛覚が驚いただけだ。目の粗い包帯の質感が掌に伝わった。
(仙石に捕まって、撃たれて、その後……その後、俺はどうした?……思い出せない……夢を見ていたことしか……あれ?夢?……どんな夢だったかな?凄く重要な気が……)
……止めた。
夢の事なんか考えても仕方がない。それよりも今の状況の方が余程重要だ。
「端末……」
須藤は枕元に置いてあった端末に手を伸ばした。
周囲には……誰も居ない。今のところ安全だ。
参加人数は……33人。
(だいぶ減ったな……)
「須藤さん!目が覚めましたか?」
奥の方から、アシュレイの声が響いた。

No.101

20:22(水)上野



「肩は痛みますか?」
「別に……」
須藤とアシュレイの視線が不意にぶつかった。
アシュレイはふっと無言で目をそらした。
「弾は貫通していましたし、化膿も見られませんから…じきに良くなると思います」
「セシルと高……」
高瀬、と言いそうになって須藤は思わず口をつぐんだ。
彼は高瀬では無い、ギリアム……
須藤は少し目眩がした。
「…セシルとギリアムは連絡のために本部の人間と会っています」
アシュレイが察して須藤の質問に答えた。
「須藤さんは48時間は敵プレイヤーの端末に映らないでしょう?ですから二人は移動させた方が須藤さんが安全だと判断したんです」
確かに筋は通っていた。プレイヤーの二人が見つかれば、須藤も一緒に発見される可能性は高い。

須藤はアシュレイと二人きりだというのは好都合だと思った。
二人なら、心置き無く今から真剣な話ができる。
そう……真剣な話だ。
「……聞きたい事がある」
須藤は唐突に、鋭く話を切り出す。
こちらの雰囲気を悟ったのか、アシュレイの目にも冷たい鈍色が浮かび、神妙な顔付きになった。
「……何ですか?」
「お前らの組織の事だ……」

No.102

20:25(水)上野



須藤は強い口調でまくし立てる。
「いいか?俺はお前が仙石に盾突いたから撃たれたんだ!俺には聞く権利があるはずだ!答えろ!お前らは何者だ!?」
アシュレイはうつ向きがちに目線をそらし、少し考えている様な表情をした。その様子を、須藤は下手な演技だと思った。
「……そうですね。須藤さんはもう無関係では無い……分かりました、私の知る限りでお教えしましょう」
須藤は少し息を整えてから、ゆっくりと言葉を引き出した。
「お前らの組織は、何を目的に設置されたものなんだ?」
アシュレイは言葉を選ぶ様にゆっくりと答えた。
「……仙石の推論が全て間違っていた訳ではありません。実際、警察庁との繋がりは仕事柄深いものですし、彼の言った様な警察庁サイドが主導の任務も無いわけではありません」
「という事は……それは本来の仕事ではない?」
「そうです……須藤さんは、日本がスパイ天国だという話を聞いた事がありますか?」
「聞いた事はあるけど……大袈裟に誇張してるだけだろ?」
「……信じられないかもしれませんがそれは事実であり、対外政策上とても深刻な問題なんです。今も、そして昔も……」

No.103

20:28(水)上野



「資源、経済力、人口、国土、軍備……冷戦下において日本政府はあらゆる物が国家として足りない現状に気づきました。そして危惧しました……このままではいずれ日本は先進諸国の食いものにされてしまうだろうと」
須藤はただ黙って聞いた。彼の言葉の一つ一つを入念に点検する様に。
「日本を国際的に確固たる地位に据えるには、各国に先んじる要素が必要でした。時の日本政府はそれを技術力と……」
「情報力に置いた?」
須藤の言葉にアシュレイはうなづいた。
「そうです。冷戦期から近代外交は情報戦の時代に入りました。当時アメリカとソ連は睨み合いながらも、水面下では互いに人工衛星を飛ばし、諜報員を送り、情報を収集しあっていました」
「その様子を見た日本政府は情報の有効性に気づき、世界の情報を牛耳る情報大国となることに将来の活路を見い出したのです」
ふと須藤は話の矛盾に気がついた。
「ちょっと待て…日本には他国の諜報員がわんさか居るんだろ?」
「その通りです。情報国家になるためには情報を収集すると同時に情報の漏洩を防ぐ必要があります……そこに一番の問題がありました……」

No.104

20:30(水)上野



「アメリカからの圧力です」
「圧力?」
と須藤は言った。
「敗戦国である日本はアメリカに対してあまりに無力でした…在日米軍や沖縄問題を見れば分かるでしょう」
「それで?」
「アメリカの影響で、日本には公的な諜報機関を設置する事が困難だったんです」
アシュレイは続ける。
「それだけではありません。日本を対ソ連、対中国の情報拠点とするため、国内のアメリカ諜報員を日本の法律で裁くことさえ許されなかった」
「情報を集めることも、守ることもできないってことか」
「ええ…しかし、日本としてもアメリカに黙って屈服しているわけにはいかなかった。日本を守るために」
「日本を守る…ために」
須藤は繰り返した。
アシュレイは須藤の目をじっと見た。
「そして日本政府は一か八かの賭けに出た……超法規的権限を持ち、諜報活動及び他国諜報員の監視を任務とする特務機関を秘密裏に設置したのです」
須藤の中で、意味を成してはいなかったアシュレイの話が、この一言で明確な答えとなって集約された。
須藤は、既に分かりきった解答を、今一度音声として確認する。
「それが……組織『ロストチルドレン』」

No.105

20:34(水)上野



「そう、それが組織です」
一応筋は通っている。須藤はさらに疑問をぶつけてみる。
「だが、それなら行動も秘密裏に行う必要がある。他国の諜報機関にどうやって干渉する?」
アシュレイはその質問を予測していた様に、間を置かずに答えた。
「それは不可能…当然アメリカやソ連も私達の存在を知っていました」
「なら組織はなぜ潰されない?」
アシュレイはゆっくりと話を始めた。
「1970年代に内閣官房情報対策室の中に準備課が設置され、他国に気取られない様に段階的に組織を拡張したようです。そして1990年代にはほぼ現在の形になった」
「答えになっていないんじゃないか?」
「大事なのはここからです…ポイントは他国が知り得ない状況で組織を立ち上げたという事です……組織の活動により重要な情報を持った諜報員は抹殺されるようになりました。各国は当然それを調査します。諜報員の足取りを追う、証拠を探す、容疑者を絞る……だがそれらは全て『ロスト』する……絶対に何かがいる。だがそれが何なのか分からない……まるで幽霊、各国は組織を『ゴースト』と呼びました……なぜ見つからないか分かりますか?」

No.106

20:37(水)上野



その理由は、須藤には大方見当がついていた。
「お前らは『存在』していない……違うか?」
アシュレイはふっと息をつく。
「本当に勘がいいですね……そうです。私たち組織の構成員は形式的に『存在』していません。戸籍も無い、名前も無い、親も居ない、友人も知人も無い……私たちは居ない事になっているんです」
「そして、それは組織に与えられた任務の性質上、必要不可欠な要素だった」
と須藤は付け足した。
「この非存在こそが、一番重要なことです」
アシュレイは続ける。
「組織は仕事をする際、徹底して証拠を隠滅しました……その上で、日本政府がその権力を持って私たちの存在を隠蔽するのですから、潜入諜報員の力だけでは尻尾を掴むのは容易ではありません。さらに万が一足取りを掴んだとしても……」
「その足取りは形式的に存在するだけの、言わば幽霊の足ってわけだ」
と須藤は続けた。
「そうです。証拠が無い以上、あくまでしらを切り通す政府に正式に抗議を出したり、調査を求めることは強国と言えどもできません。この点が、日本政府が組織を作ったもう一つの目的であり、一世一代の大きな賭けでした…」

No.107

20:40(水)上野



「賭け……?」
アシュレイはうなづいた。
「組織の活動によって、日本は一つの宣言をしたんです……日本はお前らの言いなりにはならない、と」
成程、と須藤は思った。
これは日本の宣言であり、反抗だったのだ。しかし、一度尻尾を掴まれれば、その代償として日本は国際的な立場をかなり悪くすることになる。それをアシュレイは『賭け』と表現したのだ。
「組織の成り立ちについて私が知っているのはこの程度です……他に聞きたい事は?」
「じゃあもう一つ、お前らはいつ、どういう経緯で組織に入ったんだ?」
「気づいた時には…私は組織の一部でした」
とアシュレイは自嘲する様にぼそりと呟いた。
「どういう意味だ?」
須藤は真意を計りかねた。
アシュレイはさっきと同じ調子で答えた。
「そのままの意味ですよ……物心ついた時には施設、まあ組織の養成所ですが、そこにいて……そのまま訓練や教育を受けて、気づいたらこうなっていたんです」
「じゃあ……」
「ええ、生まれや本当の親は勿論、自分の本名さえ私たちは知りません……私たちは存在しない『存在』として、外界から完全に隔離されて生きてきたんです」

No.108

20:44(水)上野



アシュレイの言葉の意味について、須藤は少し考えてみる。
隔離、孤独、教育……
それは辛い事なんだろう。それは苦しい事なんだろう。
そして、高瀬もその中で……
「でも……親が分からないってのは俺も同じだよ」
「え……?」
戸惑うアシュレイの顔を見て、須藤自身も困惑した。
(何で……俺はこんな事を言ったんだろう?)
「俺さ……養子なんだよ。母親は俺を産んですぐに死んだらしい。父親はそんな俺を見て邪魔になったのかもしれない……逃げたんだってさ。それで、まだ赤ん坊だった俺を叔父だか叔母だか……とにかく親戚の誰かが仕方なく一旦引き取った……それからすぐに養子に出されて今の親ん所に来た……よく有る話だろ?」
そんな事をわざわざ言う必要は勿論無かった。
かといって、アシュレイの慰めになるはずも無かった。
でも、何だか訳も無く、言わなければいけない気がしていた。
何故?
そうか……
だから高瀬は俺の中で……
「そうだ……俺の周りにはいつだっていい奴なんて一人も居なかった。でも……その中で高瀬だけが信じられた、唯一の親友だった。少なくとも今まで俺はそう思っていた……」

No.109

20:48(水)上野



信じたくは無かった。
でも、信じざるを得ない。それが必要なプロセスだった。
そして、そのプロセスの先にある物は多分……
須藤は考えないようにする。
「あいつは……高瀬は……組織の命令で俺と接触したんだろ?」
アシュレイは何も言わない。
言えないのかも知れない……そう須藤は思ったが、今更そんな事は関係無い。
須藤には、既に全てがクリアな物になっている。
「お前と話してはっきり分かったよ……俺は組織に誘導されてゲームに参加したんだ。偶然なんかじゃ無いんだ……」
薄々感付いてはいた。
だが、信じたくない……
何も、信じたく無かった。
全ては仕組まれた絶望のトリックだ。
「そもそも冷静になって考えれば、最初からおかしかったんだ……何でお前らが俺と手を組む必要がある?
お前らはプロ、俺は素人。居たって足手まといになるのは目に見えているし、実際そうだ。じゃあ何で俺を連れていった?
答えはもう一つしか無いだろ?……理由は分からないが、お前らの任務の中に、俺が組み込まれていたって事だ……違うか?」
アシュレイはやはり無言だった。それはまだ、彼の中で『機密』なのだろう。

No.110

20:51(水)上野



「俺が何かしらの理由で組織のターゲットになっているなら、高瀬が俺に接触してきたのも筋が通る」
須藤はアシュレイの目をじっと見て、その奥にある何者かを見定めようとした。しかし、アシュレイは無言で、平坦な視線を送り返すだけだった。
須藤は諦めて話を進めた。
「さっきのもそうだ……仙石が聞いた時は、組織の情報は意地でも教えないって感じだったのに、今になって俺にはあっさり喋る……おかしいだろ?
組織から、今度は俺に組織の事を教えろ……そういう指示が出てるんじゃないか?」
須藤はもう堪えられなくなっていた。
「なあ?答えろよ!
お前らは俺に何をさせたい?何が目的なんだよ!?
確かに生い立ちは多少不幸だ。東大生は珍しいかもしれない。人と考え方が違う所もある……でもさぁ、俺は余裕で一般人だよ!お前らと違って普通の奴なんだよ!分かるだろ?
そんな俺にお前らは何を望む?そもそもなんで俺じゃなきゃならない?
答えろよアシュレイ……おい、なんとか言えよ!!」
一息で言った須藤はぜえぜえと息を切らした。
その時、アシュレイの石の様に硬直していた唇がゆっくりと、再び動き出した。

No.111

20:54(水)上野



「……分かりません」
アシュレイの口から重苦しく出てきたのは、つまりはこういう事だった。
「分からない……って何だよ?まだ隠すのか?」
須藤は詰め寄る。
「違います!本当に知らないんです。私達は任務に直接必要な情報以外は知らされません……」
「機密のため?」と須藤は聞き返す。
「『命令に疑問を持たない』それが組織の鉄則です。与えられた情報で、与えられた任務をこなす……それが私達の鉄則です」
思えば当然だ。組織としては不要のリスクを背負う価値は無い。
「ただ、一つ言える事があります」とアシュレイは強い目で続けた。
須藤はアシュレイの言葉の続きを注意深く待つ。
「組織の目的は分かりません。あなたの選ばれた理由も分かりません。それは絶望的な事かもしれない、それでも……それでも最後まで生きることだけは諦めないでください」
「組織のシナリオの中で、俺が死ぬことになっていても?」
「ええ、もちろん」
須藤は堪えきれず、くすりと笑った。
「これも組織の命令で言ってるのか?」
「ただの……個人的な願いですよ」
須藤は、何だかホッと……体の奥深くから『ホッ』とした。

No.112

1:04(木)上野



須藤は念のため、部屋の明かりを消していた。
窓枠とカーテンの作る鋭角の入り口から、控え目な青白い月明かりが差し込み、室内の濃密な闇を切り裂いていた。

あの話の後、須藤が敵に見付からない事を考えればそれほど危険は無いだろうという事になり、合流までアシュレイは仮眠を取ることにした。

たっぷりと眠り、目の冴えきっていた須藤は見張りとして、端末をじっと見ては時々窓の外を自分の目で確認し、ついでに月を眺めるという作業を延々繰り返していた。
真っ暗な部屋は、よく目を凝らせば繊細なモノクロの抑揚があり、浮彫りの様な、微かな主張を所々にたたえている。
何処かで見た風景。
(夢……?)
そうだ。この部屋はさっき見た夢にどことなく似ている。
鮮やかな想起。
不吉な予言の様な声……
その持ち主は誰だったのか?
(駄目だ……止めろ)
須藤は見張りを始めてから、あの夢の事ばかり考えている。

夢には……不思議な力がある。
強い夢は現実に何かしらの引力の様なものを働かせるのだ。

須藤は必死に、その夢の残像を追い払った。
きっとその魔力は、悪い方向に自分を誘うに違いないから。

No.113

1:39(木)上野



セシルから連絡があったのは、ちょうど十分前だった。
「今須藤君の家の近くの公園に居るんだけど……二人で話したい事があるから、ちょっと一人で来てくれないかな?」
セシルはおおよそそんな事を言った。
それはもちろん不信な事だ。
と、須藤は歩きながら自分に言い訳の様な言葉を吐いた。
(それでも……)
須藤は何かから逃げる様に早足で歩き続ける。
前に進む。
程無く眼前に目的地が見えて来る。だが、それは夜の闇に包まれてどちらかと言えば黒い……少なくとも緑とは言えない、濃密な表情を浮かべている。
近付くにつれて、その輪郭は詳細を明示していく。
それは公園というよりは、自然の丘だ。
遊具は一つも無い。周辺に木が植えてあり、中央の少し小高くなった部分が芝生として整備されている。
そこにセシルはいるのだろう。
須藤は着ている上着のポケットを探る。
冷たい感覚が指先に伝わった。
コルト・ガバメントのグリップ。
それは今の須藤にとって何よりも暖かく、リアルな実感だ。
須藤は公園に入り、階段を上っていく。
視界が一段一段変化する。その様子に須藤は当惑した。
(あと……少し)

No.114

1:45(木)上野



須藤はゆっくりと、しかし確実に階段を上りきった。
セシルは少し先に見えるベンチに座っていた。
彼女の頭上には青白い光を降らす外灯が輝き、その下のセシルは薄いベールを纏い、何だか白く、そしてどことなく儚く見える。
突然にセシルが女性であるということを、須藤は強く実感する。
彼女は気付く。
彼は知っている。
二人は同時に、今完全に二人だけの空間である公園の中心に歩み寄る。
急いだりはしない。
ゆっくりしている暇もない。
それは二人にとっては、暗黙の了解となっている……繊細で適切な速度だ。
二人は目を逸らさずに一つ一つ歩み寄る。
月明かりの作る陰影がセシルの表情を刻一刻と変化させる。
そしてそれは彼女にとっての須藤の変化でもある。
そして……
二人は出会う。
「一人?」
「ああ……一人だよ」
「……そう」
セシルはうつ向く。
殺那……
二人は同時にコルト・ガバメントのグリップを握り、抜き出し、そして突きつけた。
銃身が白銀の光を放ち、時間は一点に集約される。
「なあ、セシル?」
「何……?」
「俺はさ……ここに来る前から、こんなふうになる気がしてたよ……」

No.115

1:49(木)上野



「どうして?」
セシルの言葉に須藤は頷いた。
「夢を……見たんだ」
「夢……?」
とセシルは聞き返す。
「そう……凄く不吉な夢だった……」
「どんな風に?」
須藤は少し間を置いてから話し始める。
「俺は何処か知らない場所に浮いていて……みんなバラバラなんだ。だから、自分を集めなくちゃならない……でもそうすると、不吉な予言みたいな声が聞こえてくるんだ……底の方から響くように。その声は何処かで聞いたことがあるんだけれど、誰の物か分からない……そして何て言っているかも分からない……でもその言葉は感覚的にひどく不吉なんだ……最悪に」
「それはつまり……今この状況を表している?」
「そう……あの声はセシルの声だったんだよ」
須藤はまた頷いた。
「でも……だから何なの?」
「さあ、何なんだろう?俺には分からないよ」
須藤の銃口は確実にセシルの額を捉えている。
今引金を引けば、彼女は為す術無く即死するだろう。
だがそれは同様に、彼女が引金を引けば須藤が即死することを意味する。
お互いがお互いを絶対の危険に晒している。
その中で、
会話は静かに、緩やかに進行していく。

No.116

前回の作品、誰も見ない月から読ませて頂いてる林檎と申します。書き込みしたのは、恐らくは今回が初めてかと思います。百丁のコルトも前作同様、更新を楽しみにしております。作者さん、受験生なのかな?最近、更新速度が鈍いような…勿論、一番尊重すべきは作者さんのプライベートな訳で…読者としては、ちょっと複雑。
勉強の息抜きがてら、更新して下さい♪楽しみにお待ちしております。
(*^-^*)

No.117

>> 116 こんばんは、林檎さんはじめまして。作者です。
更新が遅れてしまい、申し訳ありません。
センター試験が近付いているので……
個人的な理由ですが、今は勉強にウェイトを置かせて貰っています。
かなりスローペースになるとは思いますが、絶対に完結させるつもりです。
勝手なお願いではありますが、林檎さんや他の読者の皆さんにはのんびり待っていて頂けたら嬉しいなと、これまた勝手に思っています。
どうか見捨てないで、最後まで見守ってやって下さい。


作者でした。

No.118

1:54(木)上野



既に色彩を失った領域。
その中で一対の男女だけが、鮮やかで意味のある存在だ。
止まった世界が言葉に揺らぐ。
「ねえ……聞いていい?」
女の言葉は、男の中にゆっくりと吸引される。
「何……?」
男の言葉は、大事な宝物の様に静かにその役目を果たす。
「須藤君にその引金が引けるの?」
月の光が彼女を照らし、銀の銃口は宝石の輝きを放つ。
それは善でも悪でも無い、言わば冷たい中性だ。
「引けないよ……多分ね」
(多分……)
それは一種の強がりなのかもしれない。
須藤はふとそんな事を思う。
「俺も聞いていいかな?」
「何?須藤君……」
答えは分かっている。
それでも聞かなければならない。
そうしなければ……
時は動かない。
「セシルはその引金を引けるの?」
悲しい予言が須藤の脳裏をよぎった。
「私には……撃てる」
須藤は少しうつ向いた。
「多分……そうだと思ったよ」
「どうして?」
「セシルはそういう世界で生きてきたから」
「君に私の世界が分かる?」
「よく分からないよ……でも」
須藤は言いかけて口をつぐんだ。
「でも?」
「でも……そこはきっと、悲しい場所だよ」

No.119

1:57(木)上野



悲しい場所……
須藤はその自分の表現について考えてみる。
それは……自惚れかもしれない。
「悲しい?私は悲しくなんか無い」
とセシルは静かに口にする
「でも君は俺を撃たなきゃならない……多分それが組織の命令だから」
須藤の言葉をきっかけに、セシルの視線が強くなる。
「須藤君にはもう関係ないわ……これから死ぬんだから」
「セシル……君は組織の一部でいなきゃならない……だから」
「もう止めて!」
セシルが引金に指を掛ける。
須藤にはそれが、まるで映画のワンシーンの様に無感情に瞳に映っていた。
「だから、君は俺を撃たなきゃならない……それが俺は、たまらなく『悲しい』んだ」
セシルは感情を必死に押し殺している様に見える。
「そう……それでも私は、須藤君の言う通り組織の一部、だから……」
「……それでいい」
須藤は静かに、そして穏やかにそう伝えた。
須藤はしゃがみこみ、ゆっくりと銃を足元に置く。
「撃ってくれ、セシル」
「須藤……君?」
セシルは混乱している。
「自分でも不思議なんだけど……」
須藤は静かに立ち上がる。
「今は、死んでもそれでいい気がしてるんだ」

No.120

こんばんは、作者です。
センター試験が終わったので、スローペースではありますが更新再開したいと思います。
読者の皆さん、これからもよろしくお願いします。

No.121

>> 120 センター試験、お疲れ様でした。速報で答え合わせしました?(笑)最終結果が出るまでは不安だろうけど、無事、志望校クリアすると良いですね😉陰ながら、姉御、受かるよう念を送っときます😁

作品も佳境に入って来てるみたいだけど、時間の許す時にラストまで更新して頂ければ幸いです。

No.122

>> 121 ありがとうございます。
センターはギリギリ8割は取れてたのでとりあえずホッとしました。
恐らく完結するのは二次試験が終わってからになると思いますが、気長に待って頂けると助かります。
今回はストーリー重視ということで、自分では結構自信のあるラストを用意しています。
何とか最後まで行きたいと思うので、出来れば見捨てないで読んでやって下さい。
作者でした。

No.123

✨こんにちは💕おっじゃましま~す🐾はい💡キラ猫です😺🌟教えてもらったのでバッチリ読ませてもらいましたよ🎵めちゃめちゃ気になる所で終わっててモダモダします💦

感想ですが…

おっもしろいです🎊描写が細かく、かつテンポがいいので一気に読めちゃいました🙆描写の細かさや、セリフの言いまわしが高校生とは思えないです❗キラの小説が幼稚にみえましたよ(笑)見習わなきゃですねッ😼🌟今は忙しいかと思いますが、続きも楽しみにしてますよ😽💕

あ、そうそう❗キラもメタルギア好きです💕ゲーム大好きな主婦なのです🙆

お互い更新頑張っていきましょうね😸🌟また来ます💓キラの小説にもまた遊びに来てくださいね😺💕✨

No.124

>> 123 こんばんは。
早速読んで頂いたみたいでありがとうございます。(なんか急かしちゃったみたいで……申し訳ないです)
やっぱり面白いって言って頂けると嬉しいですね。
キラ猫さんにはまだまだ及びませんが、自分なりに良いと思える作品を目指して頑張っていきたいと思います。
感想ありがとうございました。
受験が終わったらキラ猫さんの他の作品も読んでみたいと思います。

No.125

2:01(木)上野



「どうして?」
そうセシルは須藤に尋ねる。
どうやら会話はもう少し続くらしい。
どうして死ねるのか?
言ってみたものの、その理由は分からない。
ただ分かるのは……
自分は本気だという事だけだ。
死にたい事は何度かあった。
周囲に嫌気がさす。
自分に絶望する。
ただ漠然とした、絶命への使命感とでも言うべきもの。
そんな事が俺の中には控え目に見ても数回はあった。
そしてそれは全て本気……だった気がする。
少なくとも、そう思った瞬間は行動を伴う覚悟みたいな物はあったはずだ。
しかし、あえて『本気』という概念に指数を付けるとしたら……
(俺の今までの本気は……今この瞬間には全く及ばない)
じゃあその理由は?
セシルはそれを知りたがっている。
理由は分からない?
違う、それは嘘だ。
本当は知っている。
でもそれに自信が無いだけだ。
だから……だからこそ
(俺は……伝えなきゃならないんだ)
それが引金。
須藤は自信を持って、その『自信の無い答え』を口にする。
「今言うのもなんだし、自分でも不思議な感覚なんだけど……俺は、セシルのことが好き……なのかもしれないんだ」

No.126

ご無沙汰しております。作者です。
受験で更新できず、読者の皆様には大変ご迷惑をおかけしています。
25日に国立大学の試験があり、それが終わったら完結させたいと思っています。
受かるか落ちるか分かりませんが、どっちにしても小説は書くつもりです。
もう少しお待ち下さい。
作者でした。

No.127

こんばんは、作者です。
大変長い間お待たせしました。
更新再開したいと思います。
早速続きを書きたい所ではありますが……だいぶ時間も空いてしまいましたので、ラストに向けて登場人物、作中用語、あらすじ、作中の謎などについてザッとおさらいしたいと思います。
次からの内容を読んで頂ければ、物語の結末が更に面白くなると思います。
作者でした。

No.128

登場人物その1



須藤翔

本作の主人公。
東京大学の学生だが、あまり真面目に通ってはいない。
ひょんな事から『コルト・ガバメント』を拾ってしまい、謎の殺戮ゲームに巻き込まれ、実際に人を手にかけることになる。
子供の頃、肉親が居なかったせいか世の中を斜に見ている様な感がある。とっさの判断力や思考力はかなり優秀で、非現実的な現状を的確に推理し理解していく。


高瀬順一

須藤の親友。『シャドウレイ』というバンドのベーシスト。自らもゲームに参加する。参加の時の『伝書鳩』との会話は意味深な内容……物語の謎の一つ。


伝書鳩

ゲームの主催者の使い。須藤たちには端末で連絡するが、高瀬には直接接触してきた。


セシル

『組織』のエージェント。ゲームの参加者で『ゲスト』の一人。須藤に手を組むことを持ちかける。最初はゲームの黒幕を知る事が目的だと言っていた。
近接射撃戦や格闘術を得意とし、高い戦闘能力を持つ。
絶望的な状況でも諦めずに戦う強い精神力がある。

No.129

登場人物その2



アシュレイ

組織のエージェント。主に後方サポートが担当。
東京タワーミッションの時に須藤を助けた。
セシルやギリアムと違って直接ゲームには参加していない。
須藤に『組織』についての重要な情報を与える。丁寧な言葉使いが特徴。


ギリアム

『組織』のエージェント。主に狙撃が担当。
高精度の狙撃を容易にこなす優秀かつ冷静なスナイパー。
実は高瀬順一と同一人物で、その事が判明してからは須藤に冷たくあたる。


滝沢

東京タワーミッションの時にセシルと須藤を追い詰めた人物。セシルたちと因縁が有るらしい。
須藤を殺害するミッションを与えられたのは彼だとセシルは考えていたが、実際は仙石に雇われていただけだった。


仙石晃

警視庁の警視。ゲームの参加者で須藤殺害のミッションを与えられた男。
『組織』の正体に異常な執着があり、それを突き止めるためにゲームに参加したらしい。
かなりの権力があるらしく、本物の警官隊を私的に率いて須藤とアシュレイを拉致した。
求め続けた真実まであと一歩に迫るものの、心臓発作で急死した。

No.130

用語解説その1



『ゲーム』

須藤が参加することになってしまった殺人ゲーム。
銃の入ったケースを拾い、同梱の携帯端末に出た瞬間に強制参加させられてしまう。
東京都内、百人の参加者が自動拳銃『コルト・ガバメント』を使って一週間の間互いに殺し合う。
百億円の賞金があり、ゲーム終了時の生存参加者で頭割りになる。
どういう訳かゲーム中の殺人は犯罪に問われないが解せないのはそれだけでなく、多額の賞金、参加者の位置監視方法、『処分』の方法など謎が多い。


『ゲスト』

銃を拾っていない招待参加者。多くは元軍人やギャング、殺し屋などその道の人間。セシルや仙石はゲスト。


『ミッション』

参加者が消極的であるなど、ゲームが停滞した時に課せられる任務。ミッションを達成出来ない場合はその場で『処分』されてしまう。
須藤には制限時間内に東京タワー展望台へ行くというミッションが与えられた。また同時にその須藤を制限時間内に殺害するミッションが仙石に与えられていた。


『処分』
ミッション失敗者が殺されること。
仙石は心臓発作で死んだが自然死とは考えずらい状況だった。
もちろん方法は不明。

No.131

用語解説その2



『ロスト・チルドレン』

セシル達の所属する諜報機関。単に『組織』と呼ばれることが多い。
諜報機関と言ってもCIAの様な物ではなくむしろそれらに対する抗体的な存在。
本部は内閣官房にある様だが、実際には組織はもちろんエージェントも全て存在しない『ことになっている』ので、他国の諜報員からは『ゴースト』と呼ばれることも。
詳しくは本編の該当箇所を参照。


『端末』

参加者の位置や人数表示、主催者との連絡などに使われる携帯端末。
連絡は一方通行で、こちらから接触することは出来ない。
須藤の予想では発信機は仕込まれていない(もし発信機なら、ゲームに関係する品を全て捨ててしまえば自分の位置は敵に表示されず、実質的に不参加になるため)ので、参加者の位置監視方法は不明。


『コルト・ガバメント』

ゲームに使われる自動拳銃。型は1911A1タイプ。
その名の通り1911年から使われていて、約100年間原型は変わっていない。現在でも根強い人気を誇る傑作拳銃。
装弾数は7発プラス銃身内に1発。45口径で高い威力を持つ。
なお、ゲーム用に特殊小型消音器を搭載している。

No.132

あらすじ

ゲーム開始~セシル登場


主人公、須藤翔は東大に通う以外はいたって普通の大学生。だが、真面目に大学に行くことは無く、その日常に何処か否定的な感情を持っていた。
ある日偶然に親友、高瀬順一と久しぶりに再会し、彼のライブを見に行くことになった。
だが、その帰りに須藤は恐ろしい殺人ゲームに参加することになり、何も理解出来ないままに突然参加者だという男に襲われる。そして成り行きとはいえ、男を殺してしまう。
何とか無事に家に辿り着いた須藤だが、新たな敵が迫っていた。
車相手に逃げることはできない。
敵の背後を突く奇襲作戦を取る須藤だったが、敵に簡単に見破られてしまう。逆に背後を取られ、須藤は死を覚悟する。
しかしそれは敵ではなくむしろ味方だった。
彼女はセシルと名乗り、お互いの身を守るために手を組むことを須藤に持ちかける。状況の読めない須藤は怪しむものの、それを承諾するのだった。



時を同じくして、高瀬もまた謎の人物『伝書鳩』と会っていた。
「約束は果たす、代わりに条件を飲め」
そう言って高瀬もまたコルト・ガバメントを受け取り、ゲームに身を投じるのだった。

No.133

あらすじ

東京タワーミッション


夜が開けゲーム二日目、須藤にミッションが出る。それは東京タワー展望台に16時までに辿り着く事だった。だが同時に、ある人物に17時までに須藤を殺害するミッションが与えられていることも知ることになる。
須藤とセシルは車で東京タワーに向かうが、尾行がついていた。
一旦はまいたものの、それは敵の陽動であり、衝突で車を破壊された須藤とセシルは敵に囲まれ、身動きが取れなくなってしまう。
その敵はセシル達と因縁のある暴力団幹部、滝沢だった。
絶体絶命の状況にセシルの『援軍』エージェント・アシュレイが現れる。
彼は自分の車に須藤だけを乗せて東京タワーへ向かう。セシルは足止めに残ったのだ。
死は確実と思われた状況にセシルを残した事に怒る須藤だったが、息着く暇も無く滝沢の手下が追撃してきていた。
須藤はAKで応戦するが突然に弾詰まりを起こし、その上アシュレイの車のタイヤに敵の弾が当たり絶体絶命の状況に陥る。
しかし、一か八が反転し敵に急速接近するという須藤の決死の作戦により、辛うじてその場を切り抜ける。
そして須藤は死線をくぐり抜け、東京タワーに到着したのだった。

No.134

あらすじ

仙石との戦い


東京タワーに着いた直後、須藤とアシュレイは仙石晃率いる一団に包囲されてしまう。
勝ち目の無い戦いを避けた二人は、仙石に捕まってしまうのだった。


足止めのセシルは防戦一方だったが、新たなエージェント、ギリアムの狙撃援護のお陰でピンチを切り抜ける。
滝沢を問い詰めた結果、彼は仙石に雇われていただけで、須藤を狙うのは仙石だったとわかる。二人はアシュレイの発信機を追う。


組織の正体に執着を見せる仙石は、自らの仮説に意見を求めるという形でそれに迫ろうとする。しかしアシュレイは沈黙でそれに答えた。その代償に須藤は肩を負傷してしまう。


一方でセシルとギリアムは煙幕を使った強行突入を計画する。
ギリアムの煙幕弾によって戦わずして部屋から脱出した三人だったが、敵の対応が早く、セシルはまた足止めに残ることに。
既に敵は反対側に先回りしていた。そこに救援に来たギリアムを見て須藤は愕然とする。
ギリアムは親友、高瀬順一だったのだ。
結局四人は仙石に包囲されてしまう。
仙石が勝利を確信したその時、仙石は突然心臓発作で死亡する。
そして須藤もその場に倒れてしまうのだった。

No.135

あらすじ

須藤の夢~組織の秘密~夜の公園


自分がバラバラになり、宙に漂っている。
自分を形作ると、今度は予言の様な声が聞こえてきた……
須藤はそんな不吉な夢を見る。
目が覚めると、そこは自宅だった。
セシルとギリアムは須藤を安全にするために移動していた。
須藤はアシュレイに組織の事を問い詰める。
アシュレイは衝撃的な答えを口にした。
スパイ天国と化した日本……それには取り締まりを潰すアメリカの圧力があった。
このままでは日本は他国に飲まれる。しかし表向きには諜報員は逮捕できない。
徹底した『非存在』によりそれを可能にする組織……
それがロスト・チルドレンだと言うのだ。
須藤はアシュレイが組織の秘密を明かしたことで、自分が組織の誘導でゲームに参加させられた事を確信する。それによって高瀬=ギリアムも説明がつくのだ。
その事に関してはアシュレイは知らないと言った。



深夜、須藤はセシルに呼び出されて一人で公園へ向かう。
それは危険だとわかっていた……夢が想起された。
だが、会わなければ答えは出ない。
須藤はセシルと対峙する。


そして……

No.136

物語の謎



物語中の謎を順番に紹介します。須藤が推理しているものはその内容も紹介。

1.ゲームの主催者と目的
須藤の推理
・主催者は経済力だけでなく警察を封じ込める権力もある
・目的は娯楽?

2.参加者の位置監視方法
須藤の推理
・少なくとも発信機ではない

3.高瀬の要求と『伝書鳩』の指示の内容

4.仙石の『処分』の方法
須藤の推理
・死因は心臓発作
・制限時間ちょうどに死んでいるため、自然死とは考えずらい

5.須藤がゲームに参加させられた理由
須藤の推理
・自分は恐らく組織の誘導で参加させられた
・この仮説ではセシルが接触してきた事も、ギリアムが高瀬として接触してきた事も説明がつく
・組織が自分を誘導したとして、そんな事をされる理由は須藤には覚えがない

6.組織がゲームに関わる理由
須藤の推理
・当初セシルはゲームの裏側を知ることが目的だと言っていた
・現在の状況から考えれば、組織の目的は自分の誘導そのものだったのでは?
・そうだとすると、組織が自分を誘導する理由がわからない



こんな所に注目して読んでみて下さい。
それでは、本編を再会します。

No.137

14:24(水)東京大学



東京大学、1年前まで俺の母校だった大学。
もちろん試験を通った訳じゃない。あくまで俺にはここの学生である『必要』があったのだ。
そして組織に『必要』があれば、大概の障害は意味を成さないのである。
巨大な赤門。それを見上げるのはずいぶん久しい感覚だった。
ギリアム、いや高瀬順一は急ぐでも無く門の前まで歩く。



俺のミッションが開始されたのは4年前……
『須藤翔の親友となり、彼を監視する』
それが俺のミッションだった。
ミッションの資料として須藤の生い立ち、経歴、能力、嗜好、性格分析といったかなり綿密なレポートが事前に届いた。
正直に言えば……俺は困惑した。
彼の監視?
いったいそんな事に何の意味がある?
レポートを見る限り須藤は組織のミッションとは無縁の、いささか不幸な人物に思えた。
だがそんな詮索に意味は無い。
俺は任務を果たす事しか知らなかった。
毎週の様に演技プランが届き、須藤の居る高校に転校した『高瀬順一』は忠実にプランに従い、学校生活を送った。
須藤の性格から導き出した組織のプランは完璧だった。
次第に彼は俺に好意を持つようになっていった。

No.138

14:25(水)東京大学



須藤と付き合ううちに、俺の中で困惑はどんどん膨張した。
しかしそれは当初のミッションに対する困惑と違い、ごく私的な物であり、凄く恐ろしい物だった。
俺は……一個人として須藤という人物に、いつの間にか強く惹かれていたのだ。
須藤は悩んでも、迷っても、人に左右されても、最後は自分で決断した。自分で責任を背負った。自分の足で立っていた。
自分の涙を流した。
自分の痛みを感じていた。
それが……組織のマリオネットだった俺にはたまらなく眩しく見えた。
大学に入学する頃には、俺はもう『組織のギリアム』では居られそうになかった。
俺は……高瀬順一という、ある男の親友に仕立てられた人格に侵食されつつあった。
それでも組織の指示に従っていたのは俺の中にプリントされた本能なのかもしれない。あるいは……
怖かった……のかもしれない。
その時既に、俺は組織への疑問を飛び越え、ある種の憎しみさえ抱いていた。
だが、組織はそれに気付いたのか……もしくは今のタイミングから考えればそもそも期限が来たということかもしれないが……
俺は退学という形でこのミッションから手を引くことになった。

No.139

14:26(水)東京大学



俺がミッションの意味を知ったのはその後だった。
組織の存在を主催者に隠す偽装プラン。
須藤はゲームの主催者を欺くための駒として利用され、そして……


処分される。


俺のミッションは須藤という人物が作戦に適合するかどうか見極める為のものだったのだ。


そんな事……俺には耐えられない。

高瀬はスーツの男……伝書鳩が近付いているのに気付いていた。
「我々の主からの指示を伝えに来た」
伝書鳩は一枚の紙切れを高瀬に手渡す。
それを確認する様な事は高瀬はしない。どのみち中身の見当はついている。
「いいか?もう一度聞く……俺がお前らの条件を飲めば……須藤翔をゲームから降ろしてくれるんだな?」
伝書鳩は即答した。
「もちろんだ。我が主の目的はゲームを楽しめる物に昇華させること。お前の行為はその目的を満たす」
高瀬にはもう迷いは無かった。
組織の指示を無視し、ミッションプランを外れて、敵であるはずのゲームの主催者と連絡を取っている。
俺はもう立派な反逆者だ。
それでも……
たとえ全てを失っても……


俺は……組織と関係無い俺自身の意志で


須藤翔を助けたい。

No.140

2:04(木)上野



須藤とセシルの対峙。それは儚さや、脆さの象徴でもあった。
「須藤君の感情は……多分もっと別の物よ」
須藤に不安がよぎる。
そうだ……
好き……とは違うのかも知れない。
じゃあ何だ?
(……高瀬?)
そうだ、セシルは俺の中で高瀬と同じなんだ。
俺は、セシルを大切に思っている。
「そんなのどうだっていい。俺はセシルに生きてほしい」
それだけでいい。
「……須藤君……ごめんね」
死が現実として足音を立てて接近する。
「私は君の期待に答えられない」
パンッ……!
乾いた一つの音とともに銀の閃光が駆け抜けた。
(………っ!)
殺那
目の前の大切な人はゆっくりと崩れ落ちた。
「え?……何だよ?」
何が起きた?
意味がわからない。
俺が死ぬべきだったのに……
セシルが……撃たれた?
「セシル!!」
セシルが立っていた空間を抜けて、一つの影がそこにはあった。
闇を切り裂く銃口。コルト・ガバメントを構える無慈悲なシルエット。
「何でだよ……何でお前がそこに立ってる!?」
そこにはかつての親友の姿がある。
「お前はそこで何をやってんだよ……何をしたんだよ?答えろ高瀬!!」

No.141

2:07(木)上野



「何をしているだと?参加者が参加者を撃っただけ……ルールを踏襲した行為だ」
高瀬、いやギリアムは事もなげに答える。
「俺はそんな事を言ってんじゃねえ!!」
須藤は銃口を突きつけ言い放つ。
「じゃあ何の話だ?言ってみろよ」
須藤は怒りに我を忘れそうになる。
「セシルはお前の仲間じゃないのかって言ってんだよ!!」
ギリアムは嘲笑う様に須藤に宣告した。
「……違うな、俺とセシルは仲間なんかじゃない……必要とあらばお互い切り捨てるだけの関係だ!!」
「高瀬!!俺はお前を許さない!」
須藤が引金に指をかける。
それと同時にギリアムが動きも無く放った銃弾がすぐ足元に弾けた。
「前にも言ったはずだ……俺は高瀬じゃない、エージェント・ギリアムだ」
「んな事関係ねえよ!!俺はお前を許さないんだよ!!」
須藤はギリアムに向かって突進し、顔面めがけて拳を繰り出す。
「馬鹿が……」
ギリアムがふっと息を吐くと、一瞬にして無条件に須藤の体は地面に打ち倒された。
(何だ?今投げられたのか?)
「お前とはここでお別れだ……次に会ったら俺は、お前の敵だ」
ギリアムは闇に溶けていった。

No.142

2:10(木)上野



ギリアムの放った銃弾はセシルの胸部を貫いていた。
「待ってろ、すぐに救急車を呼ぶ」
須藤が携帯にかけた手を、セシルは荒い息で制した。
「須藤君、私はもう助からない……ギリアムがそんな撃ち方するはずないもの」
「わかんないだろ!!助かるかもしれないだろ!!」
セシルは虚ろな目で
「組織の規則で民間の病院とは接触できない……」
と言った。
「こんな時まで組織組織って……このままじゃ死ぬんだぞ?規則もクソも無い!!」
須藤の必死な顔を見て、セシルは少しだけ笑みを浮かべた。
「須藤君……最後に話したい事があるの……聞いてくれる?」
「嫌だ……明日にしろよ、最後なんて言うなよ!」
「私ね……須藤君に嘘ついたの」
「……」
「本当は私にも……須藤君は撃てなかったよ」
「セシルが生きていてくれたら嘘じゃなくてもいい」
「不思議……会ったばっかりなのにね、何か本当に不思議な感じ」
セシルの瞳が微かに濁った。
「視界……が、もう……ダメみたい」
「セシル!!」
「一つだけ……頼み事……していい?」
「……ああ」
「必ず生きて……お願い」
セシルの呼吸はそれきり止まった。

No.143

3:45(木)上野



それからセシルの事は、驚くほどあっさり片がついた。
目を覚ましたアシュレイは俺がいなかったことを不安に思ったのだろう。
彼女が倒れてから十数分後に、彼は公園に姿を現した。
もちろん、感情を表に出して涙を流す様な事をアシュレイは好まなかった。
少しばかりトーンの低い声で、彼は須藤に最期の状況を聞く。
須藤の話にアシュレイは少し戸惑っている様だったが、それは須藤の希望的観測に過ぎなかったのかもしれない。
実際、今に至るまでアシュレイの表情が揺らぐことはそれきり一度も無かったのだから。
30分ほどで組織の回収要員がやって来た。男はTシャツにジーンズ姿の、須藤と同い歳くらいの普通の若者だった。
彼はアシュレイに淡々と話を聞くと、黒い袋に彼女の抜け殻を入れて、乗って来た真っ黒なバンに積んだ。まるで手際の良い引っ越しを見ている様だった。
彼女は『荷物』になった。
バンが走り去る時に須藤は
「悲しくないのか?」
と一言だけアシュレイに質問した。
その言葉は、少しだけ宙を漂い、霧の様に大気に吸収された。
「……すいません」
そう言ったきり、横の男は口を開かなかった。

No.144

5:00(木)上野



須藤のアパートに戻ってからは二人は一度も口をきかなかった。
その沈黙は須藤の苦痛になるどころか意識もされなかった。
須藤はただ考えていた。

なぜギリアムはセシルを撃ったのか……

須藤には納得のいく解答は一つしか見付からなかった。何度推理しても……
「アシュレイ、なんでギリアムはセシルを撃ったと思う?」
突然に須藤が口を開いた。
「……組織から別の指示が出たんでしょう」
「じゃあセシルを撃つ必要のある指示っていったい何だ?」
「それは……」
アシュレイは黙ってしまう。
「むしろ逆なんだ……あいつは組織を裏切ったんだよ」
「そんなはずは無い!」
アシュレイは強い口調で反論する。
「どうして?」
「組織の人間は……そういう感覚じゃないんですよ」
須藤はため息をついた。
「だからって可能性を否定する理由にはならない」
須藤は落ち着いた口調で続ける。
「セシルは組織を抜ける恭順の姿勢の証明のため殺された……これなら説明がつく」
アシュレイは沈黙を守る。
「そしてもし俺の推論が正しいなら……そんな事のためにセシルを殺したなら」


「俺はあいつを……許せない」

No.145

作者です。
突然なんですが、前からスレでも私の受験の話をしていたので……
やっと進学先が決まりました。
地元の国立大学に後期日程で滑り込み合格です。
入学準備に日が無いので、当分書けないかもしれませんが、落ち着いたら完結させるつもりです。
作者でした。

No.146

>> 145 大学進学、無事に決まったみたいですね。おめでとうございます。桜、咲きましたね🎵準備やらで多忙期が過ぎて落ち着いたら、また更新して下さいね😁待ってま~す❤

No.147

>> 146 向日葵さん応援ありがとうございます。
普段はあんまり文面に出てないかもしれませんが、感想や応援は本当に励みになります。
実は私の受験した所は3人しか枠が無くて、発表見る前から諦めてたんですが……それが奇跡的に合格してまして、あまりの嬉しさにここに発表してしまったんです。
小説には関係無い内容だったにもかかわらず、暖かいレスをありがとうございました。

No.148

>> 147 誰も見ない月…この作品に出会ってから、主様のこと応援してますから😃無事に受験クリアしたのを聞いたら、素直にコメントしちゃいますよ(笑)
しかし、枠が3人とは…なんか理系の特殊専門系の匂いがしないまでもないような😠
何はともあれ、めでたいのですよ🎵
今日は飲むかな(笑)

No.149

>> 148 向日葵さん再レスありがとうございます。
前作から読んで頂いていたんですね。長い間見捨てずに応援してくださり本当に感謝です。
まだまだ下手ではありますが、読者の皆さんの応援に答えられるように一生懸命いい小説を書きたいと思っています。
向日葵さん、これからも応援宜しくお願いします。

No.150

こんばんは、ご無沙汰しています。作者です。
そろそろ再開しようと思っていますのでしばしお待ち下さい。

話は変わるのですが、高校を卒業し、大学の入学式も終わり、いつまでも『高校生』じゃおかしいな……と思いまして、この度ハンドルネームをつけることにしました。

『I'key』と書いて『アイカギ』と読みます。
小説を書く事で自分も成長し、私の小説を読む事で読者の皆さんにも何かささやかな変化を起こしたい……
お互いのまだ開いていない、小さな心の扉を開け放つ『合鍵』のような存在になりたい……
ちょっと大袈裟ですが、そんな思いを込めてみました。
(実際ちょっとどころかかなり大袈裟ですが、目標は大きくってことで勘弁して下さい)
名前は変わりますが、今後ともよろしくお願いします。

No.151

>> 150 I'key=合鍵。ちょっとだけ、一瞬ダジャレめいてるなと(笑)す、すいません🙇💦

普通、合鍵=マスターkeyだと思うしねん。

誰しも、少なからず心の中に隠しておきたいものが存在すると思うのね。だから、見られたり覚られたくないから鍵をかける。そんな風に閉ざした心を持ってても、本当は誰かに救って欲しい、暗闇にいる自分を光の射す方へ導いて欲しい…そんな風に思ったりする。主様の作品が合鍵となって、読んだ人が何かを感じて、前に進めたり、何かを始める(と言っても、人倫を踏み外すようなのは🙅)きっかけになったら、良いですね😃

長々と失礼しました💦

No.152

>> 151 向日葵さんいつもレスありがとうございます。
ダジャレついでにこの名前には
『I'm a key→I'key』
という意味もあります。
(実際にはまだ
『I want to be a key』
ですが……)
それともう一つ、スペルを変換して手を加えると私の本名になるようになっています。(簡単にはわからないのであんまり詮索しないで下さい)
名前も変わり、生活も小説も仕切り直して再スタートして行きたいと思っています。
向日葵さん、これからもよろしくお願いします。

No.153

>> 152 等身大だったり、時には背伸びしちゃったり、え~そっち行きますか的な冒険してみたり。色々、作品の進行で壁にぶつかることもあるかと思いますが、前向きに頑張っていきまっしょい🎵
o(^∀^o)(o^∀^)o

No.154

3:00(木)???



「……そうだ、そちらの条件は一つ満たした……
何を言っている?ちゃんと見ていたんだろう?お前らがそういう所で抜かりを持つはずは無い……
そうだ、組織のエージェントを一人撃った。コードネーム『セシル』だ。これでこちらの意志は示しているはずだ……
分かっている、条件は二つだろう?そちらこそ分かっているんだろうな?これは交換条件だ。俺が約束を果たせば、お前らも約束を果たす……
分かっているならいい。こちらは大丈夫だ、お前らの望みどおりにやってやる……
何でこんな条件を飲んだのかだと?どうしてそんな事を聞く?むしろお前のボスが何でこんな条件を出したのか聞きたいくらいだ……
関係無い?……その通りだ。理由なんてどうでもいい。お前らは須藤を保護してくれればいい。彼を安全を保証してくれさえすればいいんだ……
最後の場所は?……
分かった。連絡を待つ……」

No.155

15:40(木)上野



須藤はおもむろに端末を開き、その画面に表示された情報に目を通す。

『9:00』

プレイヤーの端末に位置が表示されなくなる隠れ蓑……
その効果があと10分足らずで失われてしまうのだ。
だが、だからと言って焦る必要は無い。

『10』

現在プレイヤーは東京都内にたったの10人。恐らくタイムリミットの月曜日まで一度も戦わずに逃げ切る事は可能だろう。
第一、他のプレイヤーだってここでわざわざ頭数を減らしに行くリスクは犯さないはずだ。
現在の人数で割っても、十分に莫大な額の賞金が手に入るのだから……
(そうだ、俺は生き残る……絶対に生き残るんだ)
セシルは俺に生きてくれと頼んだ。
だから……
(だから?)
このまま逃げ回って生き残るのか?

違う……そうじゃない。
俺には危険を侵してもやらなければならない事があるはずだ。
その運命からは絶対に逃れられない、逃れるわけには行かない。
ギリアム……いや、高瀬との決着をつけなければならないのだ。
それがたとえ、どのような形になったとしても……
(たとえ……)

結果としてどちらかが命を落とすことになったとしても。

No.156

19:02(火)警視庁



「失礼します……高橋です」
高橋は一度ノックをしてから、返事を聞かないままに警視総監室の重い扉を開けた。
視線の先には、威厳と風格のある初老の男の姿がある。笠松警視総監だ。
「高橋警視長か……何の用かね、私に」
笠松はずいぶんとゆったりとした口調でそう言ったあと、高橋の顔を見た。
「仙石警視が死んだそうです」
とだけ、高橋は至極簡潔に述べた。
「知っているよ、まあ仙石の奴も馬鹿と言うものだ……飼い犬とは自分の分をわきまえる事を学習するものだよ。君もそう思うだろう、高橋警視長?」
と笠松は少しだけ、含む様な笑みを浮かべながら言った。
(飼い犬……か)
「まったくです。仙石の奴も首を突っ込まなければ命を落とさずに済んだものを」
高橋は表情を変えずに所見を述べた。
笠松は二人しかいるはずの無い部屋の中を形式的にか、もしくはただの癖としてか……とにかく慎重にうかがってから
「ところで……『ゲーム』はどうなっている?」
と突然に口にした。
「問題無く終わりそうです。我々は殺人を黙認するだけで構わないでしょう」
高橋はあくまで事務的に、必要な情報だけを笠松に伝えた。

No.157

19:04(火)警視庁



「そうか!ならば取引も問題は無い」
笠松は部屋の隠し棚の中から一冊のファイルを取り出す。
「奴らがこれを持って交渉に来た時は驚いたものだ……」
それはゲームの主催者が誠意の印として持参した、十人の凶悪未解決事件の犯人についてのファイルだった。
全て本物だ。
「ええ、いったいどれだけの力を持つ組織なのか……」
高橋はファイルの一枚を手に取った。
「ゲームに協力すれば国際指名手配犯を含むあと50人分のファイルを用意する……ただ殺人を揉み消すだけでだ!これほどの話は無いぞ!」
笠松は柄にも無く興奮しているようだ。
「そのファイルを使えば警察への不信は完全に払拭されるだろう!予算も取り放題だ!」
笠松は声を上げて笑った。
「ところで、警察庁ですが……手出しする気は無いようです」
警察庁にこの事を叩かれれば自分は確実に失脚する。
笠松には唯一の不安材料だ。
しかし我々を叩きに行けばファイルも危険にさらす事になる。
警察庁にとっても省庁間の予算争いへの効果は計り知れないのだ。
警察庁側はプライドよりも実益を取ったという事だ。
「素晴らしい!」
笠松はまた笑いだした。

No.158

18:00(木)上野



その宣告は午後6時きっかりにやってきた。
端末が鳴動する。
そして決まり事の様に無機質な音声が流れる。
「おめでとうございます。あなたは最後の10人の生存者の一人です」
何もめでたくない。
「用件を言え」
「最終ミッションが通達されました。現時点をもってプレイヤーの位置情報は非表示になります」
端末から、彼方にいた参加者のポイントが消滅する。
須藤は一応、不意の死からは解放された。
「ミッションは明後日12:00に開始されます」
「内容は?」
「プレイヤー同士の一対一の戦闘です。我々が指定する会場で、我々が指定するプレイヤー同士でどちらかが死亡するまで戦って頂きます。生き残った5名をこのゲームの勝者とし、それぞれに賞金20億円を差し上げます」
「会場は?」
「端末のマップをご覧下さい」
須藤は端末を見る。
新しいポイントが地図上に追加される。
東京大学……恐らく安田講堂だ。
「もし、12時までに会場に行かなかった場合は……」
答えは明白だったが一応確認してみる。
「ミッション失敗となり、処分となります。それでは、ご健闘をお祈りします」
通信は切れた。

No.159

18:34(木)上野



「明後日、全てに決着が着く」
須藤はアシュレイに教わった手順で、念入りにコルト・ガバメントをクリーニングしている。
「怖いですか?須藤さん」
アシュレイの言葉に須藤の手が不意に止まった。
「どうだろう?自分でもよくわからないんだ」
須藤は部品を一個一個丁寧に点検する。
「多分……俺の相手は高瀬だと思う」
と須藤はふと口にした。
「何故ですか?」
「何となくそうなる気がするんだ」
須藤は銃を組み上げて行った。
「もしそうだったら……手を出さないでくれ、アシュレイ」
須藤は顔を上げずにそう言った。
「彼はプロですよ?私が……」
「そんなのはわかってる」
と須藤は遮った。
「わかってるよ……そのままやりあっても俺に勝ち目が無い事くらい」
「じゃあどうして?」
須藤は弾を込めずにスライドの動作を確認してみる。
「それでもさ、俺がやんなきゃダメなんだ……そうしないと多分、俺自身が耐えられなくなるんだ」
カチンとスライドが稼動音を立てた。
その音は空間に奇妙に反響した。
「でも、俺は勝つ……相手が誰でも、たとえ高瀬だったとしても」

「俺は勝って生き残ってみせる」

No.160

7:15(木)上野



その朝、驚くほど自然に須藤は目を覚ました。
ほんの数日前まで、手のひらにあった退屈で平穏な日常……
そんな事を思うと、自分が解離しそうになる。
俺の日常は帰ってくるんだろうか?
須藤は久しぶりにアパートの狭いキッチンに立ってみた。
冷蔵庫には卵と牛乳しか入っていない。
テーブルには賞味期限ギリギリの食パンがある。
(そうだ、フレンチトースト)
須藤は棚から出したボウルに卵を割った。



「須藤さんが作ったんですか?」
四枚焼いた内の一枚を須藤は既に食べてしまっていて、二枚目を皿に取りながら
「二枚はお前のだから、良かったらだけど」
と押し付けない程度に勧める。
アシュレイも皿に一枚を取って
「じゃあ、頂きます」
と言った。
卵の加減も、焼き具合もちょうどいい感じだった。
「……美味しいです」
ふとした賛辞。
「そうか?良かった」
須藤は笑った。
「須藤さん、始めて笑いましたね」
「そうかな?」
とまた笑う。
「俺さ、今を悲観するのはやめにしたんだ」
「ええ……」
アシュレイも微笑む。
「とりあえず、今日は大学に行くよ」

「もう最後かもしれないから」

No.161

すいません、間違えました。160番は『金曜日』です。

No.162

12:21(金)東京大学



最後に講義に出たのは、たしか先週の水曜だった。
久々の講義は何故かすごく楽しかった。
勉強が楽しいと思ったのなんて、何年ぶりだろう?
昼になると友人たちは
「今回はちょっと長かったな、一週間位だろ?経済学とか単位ヤバイんじゃねえの?」
とか
「ノート貸してあげるから今日は昼飯おごりね」
とか
「経営数理は出席取ってないぜ、あの准教授もお前とおんなじでサボリ魔だから」
とか
「ドイツ語は俺が出席にしといてやったから俺にも昼飯おごれよ」
とかそんな事を次々に言った。
須藤は失ってしまった何かを見る様な懐かしさを感じた。

須藤が本当に昼飯をおごろうとすると
「何か気持ち悪いな……須藤が本気で飯をおごるとは」
なんて事を言うから
「いいだろたまには、本当にこんなのもう無いかもしれないぜ?」
と無理矢理全員分の代金を出した。
(こんなのは、最後かもしれない)
俺は何で今を無意味に思っていたんだろう?
何に不満足だったんだろう?
俺の日常はこんなにも素晴らしいものだったのに……
何で気付かなかったんだろう。
「あれ須藤君……泣いてる?」
須藤は無理に笑って見せた。

No.163

12:37(金)東京大学



(明日で終わりだ。もうここに来ることも……どこに行くことも無い)
高瀬はそんな事を思いながら、赤い安田講堂の壁を見上げた。

須藤翔を守りたい……

それが俺の唯一の意志、今俺をここに存在させる意義だ。
沢山の学生達が行き来している。笑ってる奴もいれば、困ってる様な奴もいる。
皆、生きている。
(俺はあいつに……翔に会うまでは生きてるなんて言えなかったよな)
翔の事を考えると、気付かない内に笑顔になっている自分がいる。
翔が俺に、生きてるって事を教えてくれた。
俺はあいつといると、仕事とか組織とか命令とか……そんな事全部忘れて笑っていられた。
俺は翔を……ずっと騙していたのに。
俺はただの組織の人形だったのに。
だから俺は……
(いや、きっとそんなのは関係ない)
義理とか罪悪感とか、そんなんじゃない。

須藤翔を守りたい……

最初で最後の、俺の……胸を張って言える俺自身の意志。
ただの人型だった俺に翔がくれたかけがえの無い宝物。
そのためだったら俺は何を犠牲にしても構わない。
(なあ、翔……俺はお前がいたから生きてるんだ、だからお前だけは絶対に守る)

No.164

12:42(金)東京大学



「あれ……高瀬じゃねえの?」
友人の一人がそう言った瞬間、須藤の体に確定的な電流が走った。
「悪い、先行っててくれ。俺ちょっと話してくるから」
須藤と高瀬の視線がぶつかる。
「そうか?午後の講義さぼんなよ」
友人達は何も知らない。知る必要も無い。
須藤と高瀬は一直線に歩み寄った。それはごく自然で適切な速度に思えた。
「そうか、明日お前がここに来るんだな……高瀬」
高瀬は須藤の言葉を撥ね除ける様な、ある種の悪意を持った視線を向けた。
「俺は高瀬順一じゃない……何度言ったらわかる?
俺はお前の抱く過去の幻想とは違う、リアルな殺意をお前に向ける存在だ。俺はお前を殺すんだ……確実にな」
高瀬はほぼ平坦な口調と表情でそれを言い切った。
「お前の主張は現実にはならない。いつまでも架空のままだ。俺がお前を殺すんだ……確実にね」
須藤がそう言った時、高瀬は少しだけ笑みを浮かべた。
「そうだ、それでいい。お前は明日その決意を持ってここに来い。……死にたくないなら俺を殺す気で来い」
須藤は高瀬がわざわざそんな事を言うのに、何かしらの違和感を感じた。
(それでいい、翔……)

No.165

18:12(金)上野



「今日大学で高瀬と会ったんだ」
と須藤は子供が親に今日一日の出来事を話す様に言った。
「じゃあやはり彼が……」
アシュレイはなかば絶望的な口調になる。
「ああ、明日は高瀬が来る」
対照的に須藤は事もなげに言った。
「やはり私にも手伝わせて下さい……正直に言ってあなたには彼の相手は重すぎる」
「そうかもな」
アシュレイは須藤に詰め寄った。
「いいや、あなたは分かってない!彼の強さを、エージェントとしての彼を知らなすぎる……彼の射撃の腕は半端じゃない。相手が隠れてるつもりでも、ギリアムにとっては身を晒しているも同然だ。須藤さんには攻撃する機会すら与えられませんよ?あなたはそんな奴と真っ向から戦うと言ってるんですよ!」
須藤は表情も変えなかった。その顔は水面の様に穏やかな波紋を残しただけだった。
「……分かってる」
アシュレイは必死で食い下がる。
「須藤さん、私はあなたを死なせたくない。私が……俺がなんとかする。だから助けてくれって言ってくれよ……頼む」
須藤にその言葉は通じなかった。
「明日は俺一人でやる……すまない」
それ以上は二人とも何も言わなかった。

No.166

18:15(金)上野



「そうですか……何を言っても無駄なんですね、じゃあ私も考え方を変えます」
アシュレイはそう言って部屋の隅にあった真っ黒なバッグを持って来た。
「考え方を変える?」
「ええ、そうです」
アシュレイはバッグの口を開けた。
「……これは?」
バッグの中にはさまざまな武器や道具が入っている。
「ギリアムは用心深い男でした。彼は常にあらゆる事態を想定して準備をします……これは彼が今回の任務のために用意した装備です」
アシュレイは中身を一つ一つ取り出して行く。
PSG-1狙撃銃、セシルが使った弱装ベレッタ、須藤の監禁されたビルの窓を貫いた小型グレネード・ランチャー、各種グレネード、麻酔弾……
そんな物が出てきた。
「それで、考え方は結局どう変わったんだ?」
アシュレイは須藤を真っ直ぐに見た。
「あなたがどうしても一人で戦うと言うなら……あなたが一人でギリアムに勝つ方法を考えます」
須藤はアシュレイの目の奥の色を確かめる様にその瞳を見た。
「俺が高瀬に……エージェント・ギリアムに勝てると思うか?」
須藤はわざとそうアシュレイに訊いた。
「勝たせてみせます……絶対に」

No.167

1:20(土)上野



どうしても眠る事ができなかった。緊張したり恐れていた訳ではなく、ただ眠る事が適切ではないと須藤は感じていた。
アシュレイの方は寝る気すらないようで、窓の近くに置いた椅子に腰掛け、静かに月を見ていた。
月明かりに照らされた彼の横顔は、彫像の様に艶やかで美しかった。
須藤は暫くその一枚の絵画の様な情景を見ていた。
「眠れないんですか?」
突然にアシュレイは口を開いた。
その質問への回答を須藤は一頻り考えてみたが、適切な言葉が見付からなかった。
「なあ、俺がもし勝ったら高瀬は死んでしまう……アシュレイはそれでいいのか?」
と須藤は逆に訊き返した。
「私は……彼に死んで欲しくはないのだと思います。でも、セシルは彼に殺されてしまった。私はあなたには死んで欲しくない……でも二人の内どちらかは死んでしまう……ハハ、混乱しています。私はどうしたいんでしょうね?分からない……」
少し笑った後で、その合理性について考える様な複雑な表情をアシュレイは浮かべた。
須藤は答えを与える。
「俺は助かりたい……でも高瀬も助けたい。どうすればいいか分かんないけど二人で生き残りたい」

No.168

11:50(土)東京大学



安田講堂には黒服の男が例の如く立っていた。東京タワーにいた奴と同じ様に見えたが、違うかもしれない。匿名性という点においてそれは最上級に優秀だった。
講堂に入るといくつもある部屋の内の一つに案内された。開始までそこで待つのだ。
戦いは大講堂で行われる。須藤は大講堂の作りを頭に思い浮かべる。壇上、席の配置、勾配……
どこに隠れ、どこから撃つか。高瀬はどんな戦術を採るか。
昨晩アシュレイが必死になって勝つ手段を考えてくれたが、どのみちあまり頼りにはならない。それほどにギリアムとして高瀬の戦闘能力は高い。
考えた結果、やはり会場に行く途中で高瀬を待ち伏せて襲撃するしかないとアシュレイは言った。
もちろん須藤はそれを許さなかったし、恐らくアシュレイも実行しなかった。
だから良くも悪くも須藤一人でなんとかする他ない。
(そうだ、俺がなんとかしてやる……俺自身も高瀬も)
一つだけ勝てる方法を思い付いた。奥の手だ。
でもそれは同時に命の賭けでもある。
上手く行けば俺も高瀬も助かるかもしれない。
失敗すれば死ぬかもしれない。
「須藤様、時間です」
須藤は無言で席を立った。

No.169

11:55(土)東京大学



控室から黒服の男二人に連れられて出た。
一人は前、もう一人は須藤の後ろについた。
大講堂に入ると、一番端の入口に高瀬の姿が見えた。
(あと三分)
須藤は自分が恐ろしく冷静であることに気付いていた。
今から本気で命のやりとりをしようとしている。そんなことが俺の人生の中で存在しうる物だったろうか?
だけどその行為は、今ひどく自然な形で目前に有るのだ。
俺はもしかしたら、何かを究極的に損なってしまったのかもしれない。
そんな漠然とした仮説が須藤の頭をよぎった。
(あと二分)
「ルールの確認を行います」
と黒服の一人は言った。
「ミッションは講堂内で行い、決着がつくまで講堂から出ることはできません。戦闘においてはゲーム中のルールをそのまま適用します。時間制限はありません」
須藤はその話を聞きながら、高瀬が今考えていることを予測してみた。しかしそれは途中でぼやけてしまい、脳内で形になることは無かった。
「カウントダウンを始めます……10、9、8、7、6……」
須藤はコルト・ガバメントのグリップを握り締めた。
「5、4、3、2、1……」
(高瀬……)


「開始!」

No.170

12:00(土)東京大学



「開始!」
その声と同時に二人は動き出した。
高瀬は壇上に向かって全力で走り出すと同時に、拳銃をよどみ無い動作でホルスターから引き抜く。
須藤は素早く高瀬の動きに照準を合わせる。
しかし高瀬の動きは須藤のそれよりワンテンポ早い。
その銀の口が須藤に向いた瞬間、引金が三回連続で引かれた。
須藤の頭があるはずの場所を弾丸は正確に通過する。須藤は反射的に手近の客席に身を隠した。
高瀬は走りながら須藤の隠れる席に銃撃を加え続け、その場に釘付けにする。
主導権を取ったのは高瀬だ。
高瀬は悠々と壇上に立った。
「おい……隠れてるだけか?撃ってこいよ、須藤翔!」
須藤は高瀬の挑発には乗らずに冷静に現状を分析する。
ここまでは予想通りだ。
壇上からはこの講堂全体を瞬時に見通すことができる。つまり最も攻撃に適した位置だ。だが逆に言えば壇上には何も遮蔽物が無いし、どこからでも姿を確認されてしまう。反対に防御には最も不向きだ。
高瀬が開戦直後に壇上に陣取ることは分かっていた。高瀬には常に須藤より速く攻撃する自信があるのだ。
(冷静になれ、まずは防御と攪乱……戦いはこれからだ)

No.171

12:02(土)東京大学



須藤は体勢を低く、素早く身をかわす。
「そこかっ!」
高瀬の放つ銃弾が身をかすめる。
須藤は反撃の姿勢を取る。だがそれは高瀬に無駄弾を撃たせるためのフェイクだ。
高瀬はさらに銃弾を吐き出した。
(6、7……よし)
須藤は身を晒し攻撃に移る。
銃口が高瀬を捉えた。
高瀬は反撃しない。いや出来ないのだ。コルト・ガバメントの装弾数は7発、須藤は高瀬の放つ銃声をカウントして、弾切れの瞬間を狙った。
銃声が三回連続で講堂に反響した。
高瀬は壇上でローリングしながら素早くマガジンを入れ換える。
木をえぐる音。
一発も当たらない。
須藤の腕では動く人間に的を合わせるのは辛い距離だ。
高瀬は片膝を突いてすぐさま反撃してきた。
一瞬にして正確無比の射撃攻勢が須藤を襲う。
(1、2、3、4、5……?)
おかしい、どう考えても変だ。
高瀬は明らかに不必要な……無駄な攻撃をしている。これではわざと弾切れを起こして隙を作っているようなものだ。
(わざと……隙?)

もしかしたら……高瀬はわざと俺に撃たれるつもりなのかもしれない。
二回の銃声、また弾切れだ。
須藤は銃をかまえた。

No.172

どうも、向日葵🌻です。I'keyさん、大学生活は如何ですか?90分講義には慣れました?ちょくちょく更新してくれてるみたいだけど、無理しないで下さいね。課題提出とかバイトだとかサークルだとかに時間を費やすこともあるでしょうし。ただ、読者がいることは忘れちゃ嫌ですよ?楽しみに更新チェックだけはしてますから(笑)
物語がクライマックスに近付いてるので、ハラハラしながら読んでる向日葵でした🙋

No.173

>> 172 向日葵さんこんばんわ、レスありがとうございます。
今の所レポートなんかはなんとか大丈夫です。大学に結構ちゃんとした図書館があるので暇な時はそこで本を読んで過ごしてます。
話も本当に完結に近付いてきました。
これが終わったら夏辺りから携帯じゃないマジメな作品を書いてみようかな、なんて構想中です。
ミクルでの次回作は短めで読みやすい物を、短期集中で書こうかと思っています。良かったら次も読んで下さいね。
I'keyでした。

No.174

12:04(土)東京大学



銃を向けても高瀬は動じない。俺の弾が当たるはずないから?
違う、あれはそういう目じゃない。
高瀬はわざと負けようとしている。須藤はそう確信した。
高瀬が痺れを切らした様に銃を撃った。
須藤は身を隠す。だが恐らくそれは動かなくても当たらないはずだ。
「どうした?須藤、怖じ気付いているのか?勝ちたかったら死ぬ気で来い!俺を殺す気で来い、須藤翔!」
挑発と同時に高瀬が意味の無い攻撃をまた繰り出してきた。
(やっぱり高瀬は俺を殺す気が無い)
なら奥の手を実行に移す価値はある。それならこの手で……
高瀬を救う事が出来るかもしれない。
「高瀬……こんなのは止めにしよう」
須藤はその場に立ち上がり、両手を上げた。
全くの無抵抗だ。
高瀬は一瞬不審がる表情を浮かべた。状況を理解できない様だった。
高瀬は照準を須藤の脳天に向けて言い放つ。
「何の真似だ?頭がおかしくなっちまったのか、須藤……お前は生き残るんだろ?だったらつまんねえ事してんじゃねえよ!」
須藤は高瀬の顔を見て笑みを浮かべた。
「今から死ぬのに何笑ってんだ!」
高瀬の怒号が飛ぶ。
「俺は死なないよ……絶対に」

No.175

12:07(土)東京大学



「抵抗する気の失せたお前に何ができんだ?俺に撃たれるくらいだろうが!」
高瀬が激昂する。
須藤はまた気味の悪い笑みを浮かべた。
「誰が抵抗する気が無いって言った?」
「何……?」
カラン……
奇妙な音が講堂内に響いた。
刹那
「なっ!?」
須藤の足元から暗黒に突然出現した太陽の様な眩い閃光が噴き出した。
「ぐっ、目が……フラッシュ・グレネードだと!?」
投降の姿勢を見せた須藤に完全に注意の向いていた高瀬は、その光をもろに受けてしまう。
須藤の決死の作戦。それは高瀬の視線を確実に自分に向け、足元に置いた閃光弾を奇襲的に転がす事だった。
もちろん高瀬の考え次第では撃たれる可能性もあった。だが、閃光弾を確実に高瀬の視界に入れるためにはこれしか無かった。
もし直接投げたとしてもすぐに察知され、かわされただろう。

だが俺は賭けに勝った。

須藤は猛然と高瀬に向かって突進する。
「クソっ!」
高瀬の目は使い物にならない。今なら攻撃を気にせずに接近できる。
須藤はゆっくりと、高瀬の胸に向け銃をかまえた。
「終わりだ、高瀬」
躊躇の無い動作。
講堂に終演の音が響いた。

No.176

12:09(土)東京大学



講堂に高瀬の崩れ落ちる音だけがこだました。
「素晴らしい、君の勝利だ」
突然に黒のスーツに身を包み、眼鏡をかけた男が現れた。例の黒服を二人連れている。
「なんと自己紹介しようか……まず私はこのゲームの主催者だ」
その言葉の続きを須藤は男を睨み付けながら言う。
「そしてお前は組織『ロスト・チルドレン』の幹部……そうだろ?」
ほう、と声が聞こえた。
「成程な、そこまでは察しがついた。やはり君は素晴らしい。だがそれでは70点だ……もう一つあるんだ」
男は薄い微笑を湛える。
「私は君の父親だ」
「なっ……?」
須藤は困惑の色を抑えきれなかった。
「ふざけるな!何で俺の父親がこんな所にいる、そんなはずは無い!」
須藤は必死に反駁する。顔も知らない父親を侮辱されたからではない。
もしそれが事実なら……
(俺は……最初から?)
男の笑いは堪える様な声を添えた物に変わっている。
「かまわないよ、それでかまわない。それが正常な反応というものだ。ちゃんと一つ一つ説明してあげよう。種明かしと言ってもいいかな……とにかく君にはそれを聞く権利があるし、私には君に伝える義務がある」

No.177

12:13(土)東京大学



「君は何故私たちの組織がゲームの主催者だと判断したのかな?」
男……須藤の父である可能性のある男、はカツカツと靴底を鳴らしながら歩みよる。
「つじつまが合い、尚且つ実行できる者は俺の知る限り組織しか無い」
「その通りだ、警察にも可能かもしれんが動機は無い……では我々に動機はあるかね?」
男は今度は革靴のつま先をコツコツ鳴らした。
「わからない、俺には判断できるだけの情報が無い」
「よろしい、ではそこから始めるとしよう……ゲームの第一の存在意義」
男はひょいと壇上に上がる。
「君はアシュレイから我々の『仕事』の内容を聞いているはずだ。そしてその仕事は超法規的なものだ……我々のしている事は一般的には犯罪の塊だからね」
須藤は黙って聞く。
「つまり必然的に警察権力の協力が必要なんだ。そこらの事情は仙石が話しただろう……警察の官僚体質の事もね」
須藤は気付いた。
「理解が早いな。その通り、現在の警察は我々に非協力的なんだ。奴らは我々の特権を妬み、事有るごとに条件を持ち出し、何も考えずに我々の権力を奪おうとする……奴らがいる限り我々は十分に活動する事ができない」

No.178

12:15(土)東京大学



「警察というものはね、ごく控え目に言って愚かな存在なんだ」
と男は言う。
「彼らは権力に執着しすぎている。だれそれの特権、どこそこの予算、自分たちに無いものに嫉妬し、何も考えずにそれを消そうとする。自分たちより強大な存在に耐えられない。だから自分たちが一番強大でありたい……彼らは国家という入れ物の中である種の、もしくはあらゆる種の陣取りゲームに興じているに過ぎないんだ」
陣取りゲーム、その表現を須藤は内部で咀嚼してみる。
「そして組織は不幸にも陣取りゲームに晒されることになった」
と須藤は接いだ。
「その通り、今までは内閣官房の後ろ盾があったからなんとか上手くやってこれた。だがそれは諸事情により失われてしまった。それによって我々の行動がかなり制限されることになった。その上警察がバックが弱まったのをいいことに協力を拒むようになった。だが我々の仕事は今も山積している、多くの目と耳によってこの国は侵されている」
須藤はその整合性に気を配った。
「我々は殆んど身動きがとれなくなってしまった。やるべき事は山程あるのにだ!
そして私たちは状況の打開を余儀無くされた」

No.179

12:16(土)東京大学



「それは、つまり警察庁を転覆させるということか?」
須藤は問う。それに男は慎重に答えた。
「正確に言えば転覆させるのではない。交換するんだ」
「交換?」
「そうだ、警察内部にも現状を憂いている派閥はある。彼らは我々に理解があるし、ある程度日本の現実も認識している」
「つまり、その協力的派閥と現在の非協力的幹部たちを『交換』する?」
「そうだ。彼らは警察庁の実権を握りたい、我々は現在の幹部から実権を取り上げたい……利害は一致している。我々は協力し、現在の警察のトップ達を排斥する計画を立てた」
男はまるで教師の様な調子で続けた。
「行うべき事は難しくない。要は何か逃れようのない大事件を起こし、幹部どもを失脚させればいい。その派閥というのは実際の所かなりの力を持っている。何かきっかけさえあれば……古狸どもの城壁に穴さえ空けば陥落させるだけの力はあるんだ」
と男は言った。
「だが、行う事は簡単でもその手段が難しい。幹部どもは愚かであっても馬鹿ではない。そう簡単に罠にはかからないし、彼らを不可避的に失脚させる大事件など起こせるはずもなかった……普通の方法ではね」

No.180

12:17(土)東京大学



「その方法が『百丁のコルト』……つまりはこのゲームだ」
須藤は一瞬頭がリセットされた。何?このゲームが警察庁の派閥争いと何の関係があるっていうんだ?
「俺たちは警察庁の幹部を失脚させる手段について話していると思ったんだが」
男は軽く頷いた。
「その通りだ」
「どう繋がるのか、話が読めない」
男は笑って
「ああ、そうだろうな……すまない、何せこれは本来の意図を読ませないよう作った計画だからね、いくら鋭い君でもわからないのは無理も無い」
と言った。
「じゃあ説明してくれないか?お前は確か最初にそうする義務が有ると言ったはずだ」
男は癖のようにまた軽く頷いた。
「無論だ……つまり、我々の目的は彼らを出し抜いて大規模な犯罪を起こす事だった……失脚を余儀無くされる規模の。だがそれは不可能な話だ。警察は有能とは言えんかもしれんが、大規模な組織だ。彼等相手に犯罪ラッシュなど起こせるはずも無い……殺人が数件起きればたちまち東京全域が警視庁の要塞と化す」
「だから話が……」
男は無視して続けた。
「だから我々の目的達成のためにはなんとしても警察を無力化する必要があった」

No.181

12:18(土)東京大学



「警察庁、警視庁と取引したんだ……国際指名手配犯の情報提供と引き替えに……」
須藤はやっとこのゲームの意図を理解した。
「そうか!引き替えにゲーム中に起きる殺人を黙認させたのか!」
「ご明察、その通りだ」
「しかし……」
「そもそもなぜ我々が警察と取引できたのか……だろう?それは簡単だ」
男はそう言い切った。
「作ったんだ」
「作った?何を?」
「全部だ。ゲームの主催者、実行組織、出資者……全部存在しない。存在しない物を存在させるのは我々の専売特許だ。何せ私たち自身が存在せず、尚且つ存在する存在……ややこしいがそういう物だからね」
彼らは警察との交渉のために存在しない組織を一つでっち上げたのだ。彼らの持つノウハウとコネクションを活用して。
「彼らは取引に応じた。つまり都内数十件の殺人事件を揉み消す事にしたんだ……隠蔽の期限、つまり月曜に我々自身の手によってそれが全て明るみにされるとも知らずにね」
ゲーム中に彼らの目標とする数の事件は既に発生した。そしてそれらの一つとして発見は勿論、捜査もされていない。
そしてその警察の取り返しのつかない失敗が暴露される。

No.182

12:19(土)東京大学



「まとめて言えば我々のシナリオはこうだ……
我々はまず架空の組織を作りそれを通じて警察と接触した。組織は世界的資産家たちの娯楽として東京都内で殺人ゲームをしたい、礼として国際指名手配犯で日本に潜伏する者の情報を提供する、と言う。
当然警察は警戒するだろう、しかしここで我々は誠意の証明……言わば餌として手配犯のファイルをいくつか提供した。これは正真正銘、調べもすぐ付く本物だ。これを見た警察はこの組織の力が信頼に足る、取引に足るとした。
そしてゲームと称し殺人が多数実行される。だが警察は一切手を出さない。
月曜日には我々の手の内の者が一斉に死体発見の電話を入れる事になる。各社マスコミにも情報を流す。初動捜査は混乱を極めるだろうし、マスコミも前代未聞の殺人事件群を大々的に報道するだろう。
難航する捜査、飛ぶ憶測……そして犯人は一人も捕まらない!
何故捜査が遅れたのか、何故犯人が捕まらないのか……収拾の付かない事態に我々と協力する派閥も動く。
彼らのコネクションによってあらゆる方向から警察関係の有力者は責任を取る事を迫られる。
そして彼らは『交代』する事になる」

No.183

12:20(土)東京大学



「第一の存在意義とお前は言ったな」
と須藤は確認する。
「ああ、第一と言うからには第二もある……それは君自身の根本に関わる事だ」
須藤の噛み潰し損ねた言葉が、口から自然に溢れてしまう。
「俺は、お前の息子……ってやつか」
須藤は自分の口からそれを発音してしまった事を少し後悔する。
「そうだ。ああ、勘違いしないでもらいたいんだが……君と私の関係は血縁的、戸籍的な物ではない」
その意外な言葉に須藤は逆に異様な不安を覚えた。
「じゃあ……俺はいったい何の理由でお前の子供なんだよ?」
男は悩む様な仕草を取った。だが恐らく彼にはそういう感情は無いのだろう。
「それを表現するのは少し難しい問題だ……だが、強いて言葉を充てるなら、君はシステム的に私の息子の一人なんだよ」
須藤はその言葉に軽く目眩を覚える。システム的息子とはいったい何なのか。それならシステム的兄弟も存在するのだろうか?
「まずは事実を正確に伝える事にしよう。全ての説明はそれからだ」
「事実?」
「実は君はね……」
男の口から想像を越える言葉が飛び出した。
「『ロスト・チルドレン』のエージェントなんだよ」

No.184

12:21(土)東京大学



須藤には今度こそ本当に男の意図する言葉の解釈が思い浮かばなかった。
自分がエージェント?いったい何を言っているのか訳がわからない。
第一俺はゲームに参加するまでロスト・チルドレンなどという、言わば裏側についての知識など一切持ち合わせない、ただの大学生だったというのに。
「俺はただの学生だ。お前らとは関係無い人間だ」
「それは違う」
と男はきっぱり言い切って見せた。
「君は知らぬ内に……いや、君の意識のある前の時間から君は組織の人間なんだ」
男は、まさか自分が組織の人間としてこの世に誕生したとでも言っているのか、親が居ないだけで普通の暮らしをしてきた自分が……
「どこかのくだらない映画みたいに、俺はお前らのために生まれてきたって言うのかよ?」
男はまた、悩むポーズを取った。実際には彼にはプランがある。
「それも、まあ厳密にはちょっと違う。別に組織に必要があったから君を産ませたとかそういう事ではない。
君はごく普通に誰かの子供として誕生したし、ごく普通に人生を歩んだかもしれない。
だけどね、何か偶然みたいなモノによって、君は組織に組み込まれてしまったんだよ」

No.185

12:22(土)東京大学



「この計画は……もともと別物だったんだ。こんなに大袈裟な物でも、大規模な物でもなかった」
「もともと?」
「そう。これは別目的のためにあったプランに、第一の目的を加えて転用したものだ」
そう男は言った。
「じゃあそのもとの目的が……」
「このゲーム、第二の存在意義だ」
男は少し深めに息を吸った。
「アシュレイから組織のエージェントがどうやって養成されるかを聞いてるだろう」
「ああ、どこぞの施設に子供を集めて教育してるんだろ」
と須藤は答えた。
「そうだ。ところでそれはすごく非人道的な事だと思わないか?」
と男が聞いたので
「そうだな」
と須藤は素直に答えた。
「さっきも言ったが、我々の立場は弱体化していた。体裁を気にした政府の意向でこういうやり方が行えなくなる可能性が高まった」
男はわざとらしく苦々しい顔で続けた。
「子供を集めて養成するのは途上国のやり方でね、先進国ではウチだけだ。だからこそ、我々はどんな国の諜報員にも遅れをとらなかった」
須藤はだんだん男の言う事が読めてきた。
「では、我々は優秀なエージェントを確保するためにはどうすればいいだろう?」

No.186

12:23(土)東京大学



「エージェントは一般社会からある程度の年齢になった人間を確保する、そこからの訓練と経験で差をつけるしかない」
男はそう言った。
「19年前、我々の任務に適応すると判断した幼児を100人、候補者として選抜した。その時から君は私の子供になった。だが、最後まで『私の子供』だったのは5人だけだ。他はその途中の適正判断などで淘汰された」
その淘汰を担当したのが高瀬たちという事だろうと須藤は考えた。
「高瀬は俺の審査役だったのか」
「そうだ。4年前の段階で我々は候補を10人まで絞った。それからエージェントを一人ずつ付け、最終的に半分の5人に絞った……彼らは皆このゲームに参加している」
男は真っ直ぐな視線を向けた。本題に入る準備というように。
「ではゲームの意味だ。人間が何かを学習する時、最も効果的な方法は何だと思う?」
須藤は男の質問と自分の状況を繋いでみる。
答えが見えた。
「……実戦か」
「その通り、訓練や指導ではなく実戦経験を積むのが一番効果が高い。だが素人を実戦に投入してミッション失敗……なんて事は許されない。そこで限りなく実戦に近い訓練を施すことにした」

No.187

12:24(土)東京大学



「その疑似実戦プランが本来のゲームの意味だったんだ」
男の言葉でバラバラになっていたピースが一つの絵画となっていく。そして、その絵は隠喩的に最も悪なる物を暗示している。
「その意味でこれは本当にゲームなんだよ。『サバイバルゲーム』ではなく『ロールプレイングゲーム』」
須藤は込み上げてくる嫌悪感に耐えられなくなっている。
「やっぱそうか……俺が必死になってやっていた事は、全部お前らのシナリオ通りってことかよ!」
「そうだ」と男は平然と言った。
「セシルが高瀬に殺されるのも、高瀬が俺に殺されるのも……」
「その通り、不吉な予言の如く全ては始まる前から決まっていたんだ」
最も不幸で救いの無い結末が須藤を襲った。
「セシルは……高瀬は、その事を知っていたのか?」
男は少し考え、おもむろに口を開いた。
「セシルは、彼女は何も知らなかったよ。彼女は立派にロールを果たした。崇高な死だ」
その後で、男は顔をしかめて続けた。
「だがギリアム、つまり高瀬君は違う……君に撃たれることも全て知っていたし、承知していた」
やはりそうだった。
高瀬には勝つ気なんて最初からなかった。

No.188

12:25(土)東京大学



「シナリオという物は書いていく途中に進化するものだ。君は映画は好きかな?」
須藤はその質問には答えない。それは空間を不適切にする響きを含んでいる。
「新しい要素がより展開を複雑で面白い物に変えていくんだ。例えば仙石晃……彼は何故死んだと思う?」
須藤は自分を殺そうとした警察官僚の顔を思い出してみる。
『処分』なんて便利な事は人間には出来ない。そこには必ずトリックがある。
彼の最後の言葉……
『細工』
「彼はペースメーカーをしていた……それを特殊な電磁波で誤作動させた」
男は二回拍手をした。
「御明察、いい余興だったろう」
「人の死は余興じゃない……お前らの行為は狂っている」
男は少しだけ神妙な面持ちになる。ポーズとして。
「失敬……確かに我々は狂っているよ、人の死に鈍感過ぎる。君にそれを押し付けるつもりはない……押し付ける必要もない!」
男の嘲笑。
「何がおかしい?」
「だってそうじゃないか!君はたった今、親友を撃ったのに平然としている。一週間前までただの学生だったのに、今や人を撃つ事に躊躇も無い……我々の実験は成功した!それを喜ばずにどうする!」

No.189

12:26(土)東京大学



「ああ、一人で喜ぶのはフェアじゃないな。私の助監督を紹介しよう」
その声と共に講堂の扉が開き、一人の男――須藤の見覚えある男――が入ってきた。
その展開を須藤は予測していた。それは驚くことではない。
「……アシュレイ」
須藤は静かにその名を呼んだ。
「彼が君の端末を操作した。君のことだから位置情報が気になっていたろう?何のことはない、彼がついていただけだ……彼がシナリオ通り事を進め、君を生きてここまで連れて来た」
須藤はその言葉を無視し、アシュレイの目を見つめた。
その水面の様な平かな輝きは、朝見たものとすっかり同じだった。
「アシュレイ、全部知ってたのか?」
「ええ」といつもの静かな声が帰ってきた。
「お前が俺に言ったことは……嘘だったのか?」
「……そうです」
その答えを聞いて男はまた笑い出した。
「アシュレイ、君は本当に優秀な男だ……そこのギリアムと違ってね」
「どういうことだ?」
須藤は男の言葉の真意を計りかねた。
「ギリアムは君付きの任務の中で須藤君、君に情が移ってしまっていた。感情を持つ事はエージェントにとって罪だ……だから彼をテストした」

No.190

12:27(土)東京大学



「テスト?」
「つまり彼が私情を抑えて任務を達成出来るかを調べた」
男はまたゆっくりと語り出した。
「ギリアムとセシルにはゲームの主催者と組織が同一であることは伝えていない。嘘の情報しか伝えていなかった……つまり彼らにとってのミッションとは、主催者の正体を突き止めることだった。セシルが最初に会った時そう言っていたろう?」
彼女は嘘はついていなかった。知らなかっただけだったのだ。
「その中で須藤君、君は死ぬ予定だった……ギリアムはそれでも任務を遂行できるか?」
「結果は?」と分かりきった答えを須藤は敢えて訊いた。
男はうやうやしく首を振り「ノー」と一言言った。
「任務を失敗するだけではない……あろうことか彼は主催者――つまり組織だが――にコンタクトを取った。あろうことか君を助けてくれと交渉を持ち掛けた。任務の対象にだ!これが何を意味するか君に分かるかな?」
そんな事は須藤に限らず誰にでも分かることだった。自明の理。
「……組織への背徳行為」
男はいよいよ隠しきれない感情が表に出始めていた。
「背徳?そんな綺麗でレトリックな物じゃないさ、単なる裏切りだよ!」

No.191

12:28(土)東京大学



「セシルと自分の命を引き替えに須藤君……君をゲームから降ろす、それが取引の内容だった」
ふと、高瀬は今日どんな心持ちでここに来たのか想像してみる。
それは蒼だ。その色が心に浮く……たまらなく哀しい
「そうして彼はめでたく死体になった、君に殺されてね!……全く、出来損ないには似合いの最期じゃないか!」
男は高らかに笑う。
この男には人の感情が無いのだろうか。
須藤は突然に吐気に襲われた。
「どうした、須藤君」
須藤は唾を吐いた。
「お前、本気で腐ってんだな……あんたには一生高瀬の気持ちは分かんねえよ」
男はおかしくてたまらないという様子だ。
「気持ち?くだらん……理解したくもないよ、そんな物があるから彼は死んだんじゃないのか?」
「お前に高瀬の死を笑う資格は無い」
男の笑いがふっと収束した。それは波紋が消える過程に似ていた。
「そんな事は……まあどうでもいい。あまり重要な事じゃないんだ」
須藤は大体のところ次に来る言葉は分かっていた。
「君は全てを知った。それで満足してもらわなければならない」
金属の擦れる音が気味悪くこだました。
「君には死んでもらおう」

No.192

12:29(土)東京大学



男の手に握られたそれはガバメントとは違う。もっと優雅で、冷たい。
須藤にはその銃の名前が何か分からない。しかし須藤は知っている、自分がその銃と言葉を交せるということを。
多くの人は銃は人を殺す、戦争の道具だと思っている。だが、それは少し違うということが須藤には分かる。
銃でしか感じられない命があるのだ。或いはそれは銃によってしか感じられないのかもしれない。
今この瞬間、虚構の中のリアルを全身で感じる。つまり、自分が生きているということを。
男の持つ銃と言葉を交わす。通訳はいらない、それは言葉であって言葉じゃない……何か通念の様な物によってなされるから。
須藤は『撃つな』なんて言ったりはしない。それは彼――男の持つ銃――を困惑させ、悲しませるだけだ。
俺は恐れているんだろうか?
ふとそんな考えが頭をよぎる。
限り無い虚空の現実の海に身を浸している一方、そのリアリティは硝煙の香りによって焦がされた意識の欠片によって何かしら湾曲……もしくは麻痺しているのかもしれない。
現実は現実の外にしか無いのか?
須藤はそんなことを一瞬の内に思索した。

それから
――銃声

No.193

>> 192 すっごいラストですね‼
もうドキドキで一気に192まで読みました⤴

I'keyさん、これからも頑張ってください⭐
作者さん共に須藤を応援してます🎵

「現実は現実の外にしかない」
ですか…、いい言葉ですね。分かる気がします
その中にいる時は気付かないことってありますよねw

No.194

>> 193 詞帆さんわざわざ読んでくれたんですか?ありがとうございます。
駄文で恥ずかしい限りですが……
実は、まだこれ終わってないんです。これからもう一ひねりあるんでよかったら続きも読んでください。
私も今度詞帆さんの作品読んで感想入れますね。

No.195

>> 194 ありがとうございます💖

ネタバレになってしまうならノーコメントで構わないんですが百丁のコルトで伝えたい思いとかありますか❓
よかったら教えてください🎵

No.196

>> 195 伝えたい思い……ですか?
そうですね、強いて言えば『読むことを楽しんでほしい』ってことですかね。
私は小説は娯楽だと思っています。
メッセージ性が小説には必要だって人もいます。面白いだけじゃ駄目だって人もいます。
でも私は小説を読んでドキドキしたり、ハラハラしたり、泣いたり笑ったり……そんな感情から生まれるささやかな何か。
それが『小説』が存在する意義だと思います。『伝える』なんて大それた物は必要ないって思うんです。
だから百丁のコルトには特にメッセージはありません。ただ楽しんでほしい、よかったらちょっとだけ何かを感じてくれたら嬉しい。
それだけです。


ちょっとなげやりですかね❓

No.197

>> 196 正答のない質問だったとおもいます。だから、けして投げやりなんかじゃないですよ⤴

これからも百丁のコルト、頑張って下さいね🎵

No.198

12:30(土)東京大学



銃声の主は――高瀬だった。死んだはずの高瀬は確かに、そこに立っていた。
その銃撃で男の護衛の一人は脳天に風穴をあけることになった。
もう一人が銃を構えようとしたが、その前に高瀬は正確に胸の中心を撃ち抜いた。
それは疾風のように、比類無き攻撃だ。
二人の護衛を失った男とアシュレイはその様子を赤子のような目で見ていた。
それから、男は不適な笑みを浮かべて「まさか、黄泉還りとでも言うんじゃないだろうね?……ギリアム」とごく冷静に声をかけた。
「ああ、違うな。それは」と高瀬も冷たく返事をする。
「君は、銃で胸を貫かれたと記憶してるんだが……ほら、そこの奴みたいに」と言って男はさっきまで忠実な部下であった骸を平然と示す。
「須藤翔は俺を殺していない」
男は須藤を見た。そして、須藤がガバメントを持っていないことに気付いた。
「そうか……ギリアム、君の用心深さがこんな形で救いになるとはね」
「そうだ、翔は弱装弾……撃っても死なないゴム弾で俺を撃った。俺がセシルに貸した弱装のベレッタを使ったんだ」
須藤は高瀬の放棄した荷物をアシュレイと調べた時、それを見つけたのだった。

No.199

12:32(土)東京大学



とにかく高瀬を死なせない、それが須藤の一縷の望みだった。
可能性は限りなくゼロに近くても……今この瞬間生きてさえいれば二人でゲームを終えられるかもしれないと思った。
高瀬は組織の男――自らの主――に銃口を向ける。彼の中の全てが直線的に対象に延びていることを須藤は肌で感じる。
今までにない、硬質な大気が周囲を結んだ。
「お前にその引金が引けるか、ギリアム?」と男はそこにある一つの試行を摘むような、無粋な挑発をする。
「引けないとでも思ってるのか?」
高瀬の目には果てなく暗く深淵な、闇に生きる者特有の眼光が蘇っていた。
死を運ぶ鉛のラインが二人の間で交錯する。
刹那
キィンとまるで剣を交えたような場違いな金属音が響いた。
「くっ……」手を押さえギリアムがうめく。
「よくやったアシュレイ」
アシュレイの手にはいつ構えたのか分からない、漆黒のハンドガンが握られていた。
彼は高瀬の持つ銃だけを正確に撃ち抜いたのだ。
パワーバランスは崩壊した。
これで死のラインは二つ、一方的に高瀬を捉えた。
「これで正真正銘、ゲームオーバーだよ、ギリアム」と男が高笑いの声をあげた。

No.200

12:33(土)東京大学



「アシュレイ……お前は最後まで組織の人間なんだな」
高瀬はアシュレイを見つめた。その視線には諦めが青く滲んでいる。
終わった
そう須藤は確信した。
高瀬も俺も、ゲームオーバー。
信じたくはないが、そういうことらしい。
(セシル……悪い、約束は守れない)
「ギリアム……」
最期の言葉を訊く牧師のような彼の声が谺する。
「さあ!さっさと撃てアシュレイ。裏切り者を始末するんだ!」
男の歓喜にも似た号令が飛ぶ。
「ギリアム、あなたが手を汚すことはない」
信じられない事が須藤の目の前で一瞬に展開していった。
アシュレイの銃口が素早く向きを変えて、新たな敵に顔を見せた。
それは彼の主。
男は振り向き、その顔は驚愕と怒りと失望が一つになった、混沌の表情に変貌した。
「アシュレイ!貴様何を……」
アシュレイはその声にも動じず、引金を絞った。その一切迷いの無い動作には一種の神々しささえ漂っていた。
審判の剣の如く。
不可視の弾丸は死を運び、鮮血によって到達の鐘を鳴らす。
男の口から一筋の紅が流れ落ちた。
ゆっくりと体は支えを失う。
須藤は無言で、その一部始終を焼き付けた。

No.201

12:35(土)東京大学



鮮血を吹き出しながら、男は口をもごもごと動かした。
「アシュレ、イ……どういう、つ、もりだ」
地に膝をつく男に向かい、アシュレイは笑顔で言い放った。
「私も組織の駒じゃいられなくなってしまった……というところですかね?」
男は血に口を染めながら、ケラケラと笑った。
「ふん、俺は……影だ。お、れを……殺し、ても……何も変わ、らんぞ?」
「知っていますよ。ただの『ポーン』のあなたよりは、もっと深いところまでね」
その言葉を聞いたとたん、男はがくがくと震え出した。
「お前……組織の、なに、を……」
そこで、男は力尽きた。
「アシュレイ、ありがとう……でも、これからどうすれば」
須藤の困惑の声にアシュレイは冷静に答えた。
「……逃げてください。ここから早く」
その言葉に高瀬は怪訝な表情を浮かべた。
「逃げるって、組織からどうやって逃げるっていうんだ?あいつらの情報力から逃げ切れるわけがないだろ」
アシュレイはいつもの微笑をたたえている。
「そうでもありませんよ?……味方がつきましたから」
「味方って……」
アシュレイは二人にその『味方』の名を告げた。
「ここに警察が来ます」

No.202

12:37(土)東京大学



須藤には状況が飲み込めない。
組織の目的は警察に気取られずに、大量殺人を発生させること。そうして現在の警視庁・警察庁上層部を失脚させることだったはずだ。
しかし、ここに警察が来るということは……警察が組織の計画に気付いていることになる。組織に騙されたままなら、こちらの殺人行為は一切黙殺するはずだからだ。
それならば組織の計画は失敗……そしてその事実をアシュレイは知っている。
と、いうことは
「アシュレイ、お前が警察サイドに『百丁のコルト』の情報をリークしたのか?」
答えはおのずと一つに絞られる。
アシュレイもまた、組織を離反したのだ。
「そう、須藤さんとギリアム、あなたたちの身の安全と引き替えにね」
警視庁はこれから全力で捜査体勢に入るだろう。これで彼らは最悪の事態――自らの退任は避けられる。
代わりに俺たちの隠れ蓑を作らせたというわけだ。
「……ちょっと待て、二人って」
笑顔のままアシュレイは平然と答えた。
「私は組織に残ります」
「お前、そんなことして大丈夫なのか?」と高瀬が不安気な表情を浮かべる。
「さっき言ったでしょう?私はポーンじゃないんです」

No.203

12:39(土)東京大学



彼はポーン――兵隊じゃない。
「私はね、見届けなきゃならないんです……『失われた子供たち』の行き着く先を」
よく分からないが、彼が言うのだからそういうことなんだろう。
「そうか、分かった……俺はアシュレイにやるべき事……いや、やりたい事があるんなら、やればいいと思う」と須藤は言った。
「ありがとう、と応えるのは少し変ですかね?」
そう言って、アシュレイはクスリと笑った。
高瀬は――ギリアムは右手を差し出した。
「アシュレイ、上手く言えないが……お前と組んだ時は、任務も少しはマシだって思ってたよ」
アシュレイは彼の手をしっかりと握った。
「それって……感謝してるつもりですか?」
「もちろん……ありがとう」と高瀬は優しさのこもった、素直な口調で言った。
「こっちこそ、あなたはすごく……素敵な人でしたよ、ギリアム。ありがとう」
二人は笑った。

「須藤さん、あなたは不思議な人だ。そうやって、いろんなものを還していくんですね。もしあなたが組織にいたら……まあ、それはいいです」
アシュレイは懐かし気に言う。
「さあ、もう行って」
三人同時の、静かなサヨナラが響く。

No.204

14:00(日)渋谷



須藤はあの日と同じスクランブル交差点に立った。
あの日……一週間前の月曜日。ここから始まったんじゃないか、と思う。

なんだか、折り紙の夢を見ているようだった。色とりどりの正方形が、墨染の上をただくるくると回り続ける。
子供の頃、そんな夢をよく見ていた気がする。怠惰で、優雅で、少しもの悲しい夢。
でも、俺は長い夢を見て、ここに戻ったんじゃないよな?ちゃんと俺は前に進んだ、そうだろ?セシル。


明日から、俺の日常は帰ってくるんだろうか?また普通に暮らせるんだろうか?
そんな想像に、須藤は馬鹿らしくなる。
俺の生きる世界は、最初から録画でもリピートでもないんだ。だから明日は帰ったりしない。

須藤は待った。
(あと……10秒)
須藤はその10秒を正確に、心を込めてカウントする。そうして決別する。何故?
そんなの決まってる。

街が生命を取り戻す力強い息吹を感じる。
人は前しか見えないんじゃない。前を見なきゃいけないんだ。
須藤は顔を上げた。
絶え間無い未来がそこに見える。ああ、充分だ。


拒絶された『録画映像』の中を須藤は歩き出した。


――Fin.

No.205

あとがき



ついに、ついに完結しました!
ホント長かった。受験との二重戦線に耐えつつ書き継ぐこと一年余、なんとか完結です。

単純な思い付きで始めました。それが書いてるうちに膨張に次ぐ膨張、完結の日は遠のくばかり。それでも何とか話をまとめ、ここまでやってこれたのは読者の皆様のおかげです。

『百丁のコルト』を書いてみて感じたことですが、小説は生きているんですね。
スタートとゴールでは全く別の作品になってました。それは初めて長い話を書いてみての感覚で、この作品にはとても貴重な経験をさせてもらいました。

あと……余談なんですが、私は幼少から仙台在住でして、東京には数えるほどしか行ったことがないんです。ですから僅かな資料と微々たる想像力頼みで書いてました。地理的に変な所が多々あったと思いますが、田舎者の憧れに免じてカンベンしてやってください。

それと私の気持ち的お願いです。ぜひ感想をお寄せください。
お誉めの言葉は大歓迎。欠点指摘も大歓迎。「読んだよ」だけでもとても嬉しいです。


最後に、読んで頂いた皆様、これから読んで頂く皆様に最大の敬意を込めて

I'key

No.206

>> 205 おはよう、I'keyさん。あとがきで気付いたんですけど、まさか同県に住んでるとは思わなかったですよ(笑)地震の被害、なかったですか?うちんとこは、相変わらず自衛隊の皆さんが往来してますけども(苦笑)

さて、本題。
最初に予想したラストと、だいぶ違ってましたね。なんとなくですが、受験を挟んだこと等で、作者さん自身、ラストの描き方で苦戦したのかな~とか思いました。長編書いてると、本人すら気付かないうちにラストが変わってることは、よくありますから(笑)懲りずにまたトライして下さい。新作、期待してますよ😁

No.207

>> 206 こんにちは、向日葵さん。大学の図書館から書いてます。暇な時は大抵図書館で本を読んで過ごしてます。

まさか宮城に住んでいらっしゃるとは思いもよりませんでした。
仙台市内なんで地震は大丈夫でした。
私は宮城教育大学で国語教育を専攻してます。『宮教』、分かりますかね?


まあ、それはそれとして小説の話ですね。
最初から決まってたのは高瀬=ギリアムと高瀬がセシルを殺すシーン。あと須藤と高瀬の対決だけです。組織のディテールとかもさっぱり設定してませんでした。
そういうのが固まったのは東京タワーのあたりですね。仙石なんかもホントはいなかったんです。書いてる途中に必要に迫られて……の繰り返しでした。
それて、ラストにどう持ってくかな~と苦悩するうちにこんな恐ろしいことに……
まあ……自分でも驚くほど突拍子も無い話ですね。

それでも書き始めた以上なんとか成立させなくては!と奮起し、とにかく伏線を張りまくりました。もう一回通しで読んで頂くと、いろいろ気付くかな、と思います。

次回作も近々書く予定です。今度は短編にします……絶対。

そんなところで、向日葵さん。御愛読ありがとうございました。

  • << 212 宮教、もち知ってますよ。じゃあ、目指すは現国か古文かの先生かな?しっかしまぁ、I'keyさんも私と似たような学部に在籍してますね。私は聖和短大の今は総合コミュニケーション科かなんかになってたと思いますが、当時は国文科にいましたから。なんか、同じ匂いが…(笑) そういえば、処女作と今回と共通のテーマがあるとすれば、「生か死か」って感じがするんですが、何か意識して書いてるのかな?それとも、ヒューマン系(ちと違う?)を好んで作品化してるのかな?基本、人間愛みたいな?みたいな。 次回は、どんな感じになるんだろ?姉さん、楽しみざます😁

No.208

かなり前から読ませてもらってました🎆
完結おめでとうございます🎊

すごくしっかりした文体と、話の複雑さに惹かれ、初めから興味深く読んでいました💡
ラストは少し不思議な終わりかたでしたね…!

質問ですが、I'keyさんがこの作品のテーマを一文で表すとしたらどうなるのでしょう?👀

もし次回作がありましたらまた読ませていただきます💕
長編執筆、お疲れ様でした☺✨

No.209

>> 208 桜さんこんにちは。
読んで頂いてありがとうございました。

テーマですか?
ホントはあるんだけど無いです(笑)

強いて言えば私のテーマは常に『面白いということ+α』です。
私は、小説は面白くなければ始まらない、と勝手に思ってます。(私の作品が面白いかどうかは別……ですけどね)作者のメッセージ性とかはその次なんです。少なくとも私の中では。
そう思うのは何故かと言うと、私にとっての小説とは「娯楽」にほかならないからです。本質的にはテレビとかゲームとかと同じもの……人を楽しませるために有るんだと思っています。

だから私にとってはハラハラドキドキしたり、感動したり、笑えたり、元気になれたりするような……広義の「面白さ」が一番大事なんです。

でも桜さんが「+α」を感じてくれたなら、私はとても嬉しいです。それは多分、本当は私が作品に込めたかった「何か」だから。

ホントは楽しくて、「何か」を伝えられる作家になりたい。でも、今は二つ同時には出来ない。
だからまずは「面白く」書きたい、というのが本音ですかね。

  • << 211 お返事ありがとうございます✨ 小説は面白くなくてはいけない…私もそう思います! いくら知識に富み、たくさんのことを描いても、無味乾燥の文では読み手は苦痛なだけですし… 私は逆に、面白いことが小説でなにかを「伝える」ことの要件なんじゃないかと思ったりもします🎆 井上靖だったと思いますが、「小説は贅沢な心の遊び」という言葉がありました。 ここで(勿論普通の本でも)小説を読むことは、私の最大の楽しみです☺ I'keyさんの次回作もじっくり楽しませていただきますね🙌 では、何度も失礼いたしました🙇⤴

No.210

読みました。

良かったです。

よく考えていらっしゃる。

次回作も楽しみです。

頑張って。

因みに次回作はどんな作品ですか?

ちょっとだけ告知して欲しい…。

  • << 215 ロウさん初めまして。ありがとうございます。 ここまで持ってくるのは本当に苦労しましたね。一気に引っくり返したいんだけど、話のまとまりも持たせなきゃならない……そういうジレンマの中でなんとか捻り出したラストなので「考えている」というのは最高の褒め言葉です。 次回作は恋愛モノをやろうかなと思っています。そういう方面は初めてなのでチャレンジですね。 成功するか失敗するか……やるだけ何でもやってみようと。 恋愛系は携帯小説では一番多いジャンルです。だからこそ、そういういわゆる『携帯小説』とは、ちょっと違った作品にしたいですね。

No.211

>> 209 桜さんこんにちは。 読んで頂いてありがとうございました。 テーマですか? ホントはあるんだけど無いです(笑) 強いて言えば私のテーマは常… お返事ありがとうございます✨

小説は面白くなくてはいけない…私もそう思います!
いくら知識に富み、たくさんのことを描いても、無味乾燥の文では読み手は苦痛なだけですし…
私は逆に、面白いことが小説でなにかを「伝える」ことの要件なんじゃないかと思ったりもします🎆

井上靖だったと思いますが、「小説は贅沢な心の遊び」という言葉がありました。
ここで(勿論普通の本でも)小説を読むことは、私の最大の楽しみです☺

I'keyさんの次回作もじっくり楽しませていただきますね🙌
では、何度も失礼いたしました🙇⤴

  • << 213 桜さん再レスありがとうございます。 個人的な話なんですけど、私は携帯小説を読むのがすごく苦手なんです。普段読んでる本の小説とのギャップが強すぎるんです。 携帯小説って展開がすごく早いし、会話しか無かったり、ストーリーが無理矢理だったり……ちょっと辛いものがあります。 別に携帯小説が悪いって言ってるわけじゃありません。そういうのが求められてることも分かります。 でも、やっぱり私みたいな苦手意識のある人は沢山いると思うんですね。だからそういう読者の皆さんにちゃんと読んでもらえる作品が書きたかった。『小説』に近いスタンスを保持したかったという個人的な志向はありました。 そういう中で桜さんみたいな読者の方に面白いと言って頂けるのはすごく嬉しい事です。

No.212

>> 207 こんにちは、向日葵さん。大学の図書館から書いてます。暇な時は大抵図書館で本を読んで過ごしてます。 まさか宮城に住んでいらっしゃるとは思いも… 宮教、もち知ってますよ。じゃあ、目指すは現国か古文かの先生かな?しっかしまぁ、I'keyさんも私と似たような学部に在籍してますね。私は聖和短大の今は総合コミュニケーション科かなんかになってたと思いますが、当時は国文科にいましたから。なんか、同じ匂いが…(笑)

そういえば、処女作と今回と共通のテーマがあるとすれば、「生か死か」って感じがするんですが、何か意識して書いてるのかな?それとも、ヒューマン系(ちと違う?)を好んで作品化してるのかな?基本、人間愛みたいな?みたいな。

次回は、どんな感じになるんだろ?姉さん、楽しみざます😁

  • << 214 向日葵さん国文科だったんですか?それじゃあ向日葵さんも小説書いたりするのかな? 国語教師になれたらいいんですが……最近は中高の採用が厳しいんですよね。ウチの国語専攻から一人、東北大文学部から一人って感じです。 ちょっとローカルな話になりましたね。 「生か死か」というのは……特に意識したわけではないんですが、結果的にそうなりましたね。 命っていうのは書く側にすれば魅力的なテーマではあるんだけど、ホントは軽々しく触れるのは良くないと最近は思ってます。 だから次は人の死なない話にしようと(笑) それで次回作なんですが…… 恋愛モノをやってみようかと思ってます。ちょっとチャレンジですね。いったいどうなるか……まあ、何はともあれ書いてみなければ分かりません。 上手くいくかどうか分かりませんが、何事も経験。頑張ってみます。

No.213

>> 211 お返事ありがとうございます✨ 小説は面白くなくてはいけない…私もそう思います! いくら知識に富み、たくさんのことを描いても、無味乾燥の文で… 桜さん再レスありがとうございます。

個人的な話なんですけど、私は携帯小説を読むのがすごく苦手なんです。普段読んでる本の小説とのギャップが強すぎるんです。

携帯小説って展開がすごく早いし、会話しか無かったり、ストーリーが無理矢理だったり……ちょっと辛いものがあります。
別に携帯小説が悪いって言ってるわけじゃありません。そういうのが求められてることも分かります。

でも、やっぱり私みたいな苦手意識のある人は沢山いると思うんですね。だからそういう読者の皆さんにちゃんと読んでもらえる作品が書きたかった。『小説』に近いスタンスを保持したかったという個人的な志向はありました。
そういう中で桜さんみたいな読者の方に面白いと言って頂けるのはすごく嬉しい事です。

No.214

>> 212 宮教、もち知ってますよ。じゃあ、目指すは現国か古文かの先生かな?しっかしまぁ、I'keyさんも私と似たような学部に在籍してますね。私は聖和短… 向日葵さん国文科だったんですか?それじゃあ向日葵さんも小説書いたりするのかな?
国語教師になれたらいいんですが……最近は中高の採用が厳しいんですよね。ウチの国語専攻から一人、東北大文学部から一人って感じです。
ちょっとローカルな話になりましたね。

「生か死か」というのは……特に意識したわけではないんですが、結果的にそうなりましたね。
命っていうのは書く側にすれば魅力的なテーマではあるんだけど、ホントは軽々しく触れるのは良くないと最近は思ってます。

だから次は人の死なない話にしようと(笑)

それで次回作なんですが……
恋愛モノをやってみようかと思ってます。ちょっとチャレンジですね。いったいどうなるか……まあ、何はともあれ書いてみなければ分かりません。

上手くいくかどうか分かりませんが、何事も経験。頑張ってみます。

No.215

>> 210 読みました。 良かったです。 よく考えていらっしゃる。 次回作も楽しみです。 頑張って。 因みに次回作はどんな作品ですか? ちょ… ロウさん初めまして。ありがとうございます。
ここまで持ってくるのは本当に苦労しましたね。一気に引っくり返したいんだけど、話のまとまりも持たせなきゃならない……そういうジレンマの中でなんとか捻り出したラストなので「考えている」というのは最高の褒め言葉です。

次回作は恋愛モノをやろうかなと思っています。そういう方面は初めてなのでチャレンジですね。
成功するか失敗するか……やるだけ何でもやってみようと。
恋愛系は携帯小説では一番多いジャンルです。だからこそ、そういういわゆる『携帯小説』とは、ちょっと違った作品にしたいですね。

No.216

I'keyです。読者の皆様に御報告です。
新作スタートしました❗
タイトルは
『俺達の Love Parade In The Novel』です。
ちょっと長いですね……呼ぶときは適当に短縮して下さい。
最期まで行けるよう頑張っていきますので、応援よろしくお願いします❗

No.217

「百丁のコルト」凄く良かったです👌
携帯小説にハマったのが最近なので完結したのを3日かけて読みました。
長編の小説を一冊読んだ感覚でした。
こんなストーリーを書けるなんて凄いなぁと感心しまくりです。
ましてや仙台在住だなんて驚きでした。
私も宮城ですから🎵
仙石(せんごく)→仙石線をイメージしてしまいした。(石巻なので)
次の作品も楽しみにしてますね😃
頑張って下さい💪

No.218

>> 217 マミーポコさん、ありがとうございます。
けっこう近場に住んでるかたがいらっしゃるんですね~ 世間は狭いと実感しますね。
この小説は受験を挟み、本当に長い時間をかけて書きました……一年以上かかっています。だから、一気に読むと矛盾とかが出てしまうかな、と気になっていたんですが……おかしい所は無かったですか❓

早速ですが、新作を始めました。
『俺達の Love Parade In The Novel』という無駄に長いタイトルのヤツです。
もしお時間があって気が向きましたら、こちらも読んでやって下さい。

No.219

>> 218 おはようございます
違和感はありませんでしたよ💮
他の方とのレスのなかで将来は教師になりたいとありましたが小説家として活躍されるのでは?なんて勝手に思ってしまいました。
余談ですがウチの息子と余り変わらない年齢なのにキチンとした受け応えや言葉使いには脱帽です。
作品も含め感心ばかりです。
これからも頑張って下さいね🌼

No.220

>> 219 再レスありがとうございます。
小説家ですか……なれたらいいですけどね。でも、ちょっと買いかぶりすぎですよ。私くらい書ける人はプロじゃなくても山ほどいますから。
でも、小説は読むのも書くのも大好きです。だから読書の楽しさを子供たちに教えるのも悪くないかな……なんて思いながら国語の先生を目指してます。

ありがとうございました。新作も読んで頂けたら嬉しいです。

No.221

>> 220 今さらかもしれませんが、『誰も見ない月』と『百丁のコルト』読ませていただきました✨
どちらもとても引き込まれました☺
読んでいて、I'keyさんは知的な方なんだろうなぁ…とすごく感じました✨
前作では自然と涙がこぼれました。
またあなた様の作品を見つけられるのを楽しみにしています☺💖

No.222

>> 221 匿名さん、ありがとうございます。

『今さら』なんてとんでもありませんよ。書いている側にとっては、こうやって感想を頂けるのが何より嬉しいですから。
『誰も見ない月』は探すの大変だったでしょう?

今は『俺達のLove Parade In The Novel』という作品をここで書いてます。暇な時にでも覗いて頂けたら嬉しいです。


知的……ですか?
ホントに自分に知性があると喜ばしいのですが……大学で少しはマシになるかな?と期待しつつ勉強しています。

なんか話がゴチャゴチャになってしまいました。
匿名さん、これからも宜しくお願いしますね。
I'keyでした。

No.223

>> 222 お忙しい中お返事ありがとうございます😃✨

実は『誰も見ない月』の方を先に読んでました☺
それからファンです🎵
『俺たち…』も昨日発見できて喜んでるところです✨

I'keyさんは学業にもしっかりと励んでいて素敵です😃
これからも無理せず更新してくださいね✨
楽しみにしてます🌷

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