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葉月( AmcTnb )
21/01/06 15:06(更新日時)

近くにいてもつかめない想い。

距離だけではない隔たりに戸惑う沙奈。


沙奈からは、レンズの向こうのジンの心は見えない。



No.3112103 20/07/30 16:51(スレ作成日時)

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No.1 20/07/30 16:59
葉月 ( AmcTnb )

ジンが、シャッターを切る音が続いている。
モデルの子が、得意気に片手を上げる。
私がじっと見つめているその前で、モデルの子は、上着を脱いで、
「ジン、はやく撮って!!」
と、せかす。
まぶしいフラッシュがたかれて、女の子は、けらけらと笑い声をあげた。
こつんと、ジンのひじが三脚にあたり、私は、あわてて手をのばす。


春ぐらいだったと思う。街の中があわただしいざわめきに包まれるころ、ジンと出会った。
伸びっぱなしだった髪の毛をどうしようと思っていた時に、「カットモデル募集」の貼り紙を見つけた。

No.2 20/08/06 15:53
葉月 ( AmcTnb )

「ねえ、これ、タダなの?」友人にたずねると、
「あたりまえじゃない。アツミでしょ?その人評判いいよ。あんた、髪、そろそろ切りなよ。夏になったら暑苦しいよ」と、言われた。
「そうかなあ、パーマかけたいんだけど、、」
「冬にかければいいじゃん。夏はショートだよ。明日、また、授業終わったら、おいで。予約入れとかなきゃ」
翌日、アツミという人が、私の髪を切ってくれることになった。
空いている教室の片すみで、ブルーの丸いイスに座り、大きな白い布にくるまれる。
「学生?沙奈ちゃんって」
「はい。今年、二十歳になるんです」
「ふーん、ね、耳くらいまで切っちゃっていい?」
「あ、いいですよ。バッサリ、涼しい感じにしてください」
アツミさんは、黒いシャツに、タイトなジーンズをはいて、器用に私の髪を切り落としていった。

No.3 20/10/07 16:38
葉月 ( AmcTnb )

明るい日ざしが、大きなガラス窓からさし込んでくる。
車の排気音が、どこかの民族音楽のように、心地よくまわりをとり囲む。
「アツミさん、今、何やってるんですか?」友人がたずねる。
「んー、オレ、最近、バイト。ジンさんのところに、また、やとってもらおうかなって思ってるんだけど」
「へぇ。あたしも、また遊びに行こうかなぁ、呼んでくださいよぉ」
「でも、おまえこのあいだジンさんから怒られたでしょ。ご機嫌がなおるまで、しばらく行かないほうがいいと思うよ」
 アツミさんのハサミが、うなじのあたりを通過する。
 パサッと音をたてて、私の髪の毛のひとふさが、床に落ちる。
「ね、沙奈ちゃんは、学校で何の勉強してるの?」
「私ですか?イヌとかネコとかの、お医者さんになりたいんです」
「あ、じゃ、もしかして、あっちの学校から来た?」
 アツミさんは、細いクシで、窓の向こうにぼんやりと見える動物の専門学校を示した。
「はい。ここは、知り合いも多いから、時々ごはん食べに来たりしてるんです」
「そっかぁ」シャキ!と音がして、パラパラと頭上から髪の毛が落ちてくる。

No.4 20/10/31 16:19
葉月 ( AmcTnb )

「前髪、どうする?」
「まゆ毛ギリギリくらいにしてください」
「はい」
 目をつぶったら、街の音がガラス越しに伝わってくる。
 ゆっくりとトラックが遠くを通り過ぎていく音。友人が、雑誌のページをめくる音。時々、ひたいを通り過ぎていくアツミさんの冷たい指。
「沙奈ちゃん、獣医さんになりたいんだ」
「はい」そっと、目を開ける。
「ネコとか、飼ってるの?」
「いいえ、、、アパートの大家さんが、飼わせてくれないんです」
「内緒で飼っちゃえばいいじゃん。みんな、そうしてるよ」
「でも、狭い部屋で飼うのって、なんかかわいそうで、、、学校に行けば、イヌもネコもいるんですよ。ほとんど放し飼いで。このあいだ、空き地に、小屋を建ててあげたんです。みんなで」
「ふーん、すごいね。いいね、楽しそうで」
 そう言って、アツミさんは、私の目の前に鏡を差し出した。
「どう?」
「うわ、、、すごい、みじかくなってる!」
「すごいでしょ。沙奈ちゃんに似合ってるよ」
 アツミさんにそう言われると、今までしたことのないショートヘアも、自分に似合うような気がしてきた。
「あー、沙奈、かわいい。みじかくなったねぇ。ね、アツミさん、今度あたしも切ってぇ!」
 友人が、アツミさんにまとわりつく。
「空いてたらね」
「空けて下さいよぉ」
「じゃ、例の件、OKしてくれる?」
「え?みーちゃんのケータイ?あーでもあのコ、最近、機種変わったみたいだしぃ、、、、、、」

No.5 20/11/03 16:14
葉月 ( AmcTnb )

ガチャガチャと、机の上のハサミが片付けられていく。
 立ち上がると、私の肩から、パラパラと小さな髪の毛が、ゆっくりこぼれ落ちていった。


三日後、アツミさんから電話がかかってきた。
「あのさぁ、沙奈ちゃん、今度いつ、うちの学校に来る?」
「え?、、、、明日、行きますけど、、」
「じゃ、そのとき、また会えないかな?写真とりたいから」
「写真?」
「カットモデル募集の、貼り紙につける写真」
 私は、一瞬迷ったが、三日たっても、アツミさんの切ってくれた髪型にはすごく満足してたので、OKすることにした。
「いいですよ。アツミさんが撮るんですか?」
「いや、もっと上手い人が撮ってくれるよ」
「へぇ、何着て行こう?」
 アツミさんは、受話器の向こうで、ちょっと笑って言った。
「いつものカッコでいいよ。オシャレしなくても。あ、あれから、髪の毛染めてないよね?」
「染めてません」
「ああ、よかった。沙奈ちゃんの髪、キレイだから、黒でも十分イケてるよ。じゃ、1時くらいに、来れる?」
ということで、翌日は、アツミさんたちの学校のテラスでダッシュでランチを食べ、このあいだ髪を切ってもらった教室に向かった。
 1時10分前。ちょっと緊張してドアを開けると、そこに、背が高くてがっしりした男の人がいた。
「ジンさん、沙奈ちゃん、来ました」
アツミさんが、紹介してくれた。ジンさんは、カメラを準備しながら、ちらっと私を見て、すっと、向こうへ行った。

No.6 20/11/07 16:18
葉月 ( AmcTnb )

かなり、緊張してきた。アツミさんのようにかるい感じの人かと思ったら、なんだかこわそうな人だ。
 ジーパンに、薄いペラペラのブラウス、という私の格好が、気に入らないんだろうか。
「よろしくお願いします、、、、」
という私に、ジンさんは、「そこに座って」と、青いイスを示した。
 あわてて座ると、1分もしないうちに、カシャ、と、シャッターが切れる音がした。光がまぶしくて、思わずまばたきする。
 おかまいなしに、ジンさんは、連続でシャッターを押していき、私は、だんだんと目がくらんできた。
 ジンさんのかたわらでアツミさんが、ブラインドのひもを動かしている。
「はい。おしまい」
 アツミさんの、やさしい声がした。え、これだけ?と思った私は、イスから立てずにいた。カメラマンの撮影なんて、30分くらいはかかると思ってたのに、、
「じゃ、アツミ、俺、時間ないから、ここ頼む」
 そう言って、ジンさんは、素早くカメラをショルダーバックに入れ込み、ドアのほうに向かって歩き出した。
 途中、ぼう然としている私と一瞬目が合い、「じゃ、どうも」と、表情を変えずに言った。
 すごく、低い声だった。
「ありがとうございました」
 アツミさんは、ちょっとだけ頭を下げて、ジンさんを見送った。

No.7 20/11/16 16:24
葉月 ( AmcTnb )

そして、アツミさんは手際よく何本かハサミとかクシを片付け、その後、書類や、袋に入ったネガフィルムとかを整理していた。
 しばらくの間、教室の中は、アツミさんが片付けている書類のガサガサいう音が響くだけで、あとは沈黙が続いていた。
 キキッ、、と音をたててイスから立ち上がった私に、アツミさんは、「一週間くらいしたら、貼り紙するからさ、また、ごはん食べる時、見においでよ」と、にっこりと笑った。



 ジンさんが撮ってくれた私のショートカットの写真は、なんだか遠くを見つめていて、私じゃないみたいだった。
「カットモデル募集! by ATSUMI」と、マジックで簡単に描かれた貼り紙の右下に、まるでモデルのような顔で、私が写っている。
 ふうん、プロが撮ると、こういう感じになるんだ、、と、妙に客観的に眺めてしまう。
 ジンさんは、「スタジオ•ジン」というお店のカメラマンだった。後で聞いたのだが。本名は、仁(ひとし)といって、名字はわからない。ちょっと、近寄りがたいムードの人だ。
 あれから、何回か、居酒屋でアツミさんに会った。
 アツミさんは、いつもきれいでかわいい女の子や、モデル系の男の子たちとワイワイ楽しそうにしていたが、私を見つけると、「沙奈ちゃん!」と手をふり、「髪、もうちょっとふわっとしてごらん」というしぐさをした。

No.8 20/11/27 17:17
葉月 ( AmcTnb )

今日も、同じクラスの女の子とカウンターにいると、いつものようにアツミさんが突然、ポン!と肩をたたいて、
「今度、ジンさんの所でパーティーするから、来ない?」と、聞いてきた。
 迷った私は、「どうする?」と、一緒にいた女の子に聞くと、「私、会ったこともないし、課題もあるから、、、」と言うので、私もやめとこうかなぁ、と思っていると、アツミさんは、
「オレのともだちがさー、今度、4区に、ヘアサロンの店、出すんだよね、その前祝いって感じの、くだけたパーティーだからさ、沙奈ちゃん、キミもカットモデルまたやってもらうかもしれないし、ぜひ、おいでよ!ね、そっちのお友達も。ちょっとしたエステやカウンセリングも、してくれるんだよ。今度、チケットあげるから、よろしかったら、おいで、ね?」
と、やや強引に誘ってきた。
 私の横にいる女の子は、警戒心が強いタイプなのだが、なにしろ美形に弱く、アツミさんは酔ってはいても、貴公子のようなきれいな顔だったので、「じゃ、お店がオープンしたら、沙奈と一緒に行きます」と、よそゆきの顔でやさしげに答えていた。

No.9 21/01/06 15:06
葉月 ( AmcTnb )

結局、好奇心もあって、その祝賀パーティーには、私一人で行ってみることにした。
「スタジオ•ジン」は、裏通りのちょっと入り込んだ所にある。
 アツミさんの描いてくれた地図を頼りに、2、3回路地を迷いながら、やっと探しあてた「スタジオ•ジン」は、わりとそっけなく無機質な感じの白い建物だった。
 ガラス張りのドアの前に立ち、さあ、中に入るぞ、と思って、ふと、ドアに続いているガラスの壁の向こう側を見た時、ジンさんが、こちらを見ていた。その視線に、ぶつかった。
 あらためてジンさんの顔を見ると、なんだか、日本人ばなれした線の太い輪郭だった。無造作に切りそろえた焦げ茶色の髪に、まっすぐな瞳。ハンサム、とかいう言葉ではいいあらわせない男っぽさが、顔全体からただよっている。

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