箱の中、箱の外
ある日突然やってきた謎の女性。
わけがわからない征也をよそに、日常はつつがなく過ぎていく。
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その女(ひと)が現れたのは、親父が死んで2ヶ月過ぎた頃だった。
海外旅行に行くような大きなスーツケースをかかえ、いきなり「征也(せいや)くん?」と、玄関のドアから入ってきた。
「、、、、はい?」
「征也くんよね?」
「、、、、どうやって、入ったんですか?」
「合鍵」
事態がよく飲み込めないオレにかまわず、その女は、ずかずかと部屋の中に入ってくる。
年は、たぶん、50前後。少しくたびれた感じの、ゆるいパーマがかかった長い髪で、スリムな赤いワンピースを来ている。
「ねえ、お昼ごはん食べた?何か作ろうか?」
「いえ、、、、」
その女が、いつのまにか白いエプロンをつけ、キッチンに立つと、なぜか、その場の空気に同化してしまった。
その様子に、どういうわけか、オレは圧倒されてしまい、何か言おうとしても、言葉が見つからなかった。
そんなオレにかまわず、その女は、レンジの下の扉を開け、「やだ、鍋、ごちゃごちゃにつんでるじゃない」などと言っている。
やっとの思いで、オレが、
「、、、、あなたは、誰ですか?」
と、言うと、その女は、レンジの下にかがみ込んだまま、
「私?お父さんの友達」
と、答えた。
「まあ、なんていうか、愛人だよな」
「愛人?」
「うん。おまえのお父さんも、長いこと独り者だったろ。さみしかったんだろうな」
「うーん、、、、」おじさんと酒を酌み交わしながら、オレはうなった。さみしい?親父が?
脳裏に、黒ぶちの眼鏡をかけた生真面目な親父の顔が浮かんでくる。「さみしい」という単語と、どうも、結びつかない。
「でも、愛人だからって、なんで、ウチに来るのかな」
おじさんは、しばらく黙って、グラスをかたむけていた。
この人も、長年、独り者だ。独り身特有の、生活感のなさが、体のまわりに薄ぼんやりと漂っている。
「親父さんが死ぬ時、一番心配だったのは、何だと思う?」
「、、、、オレ?」
「そう」
「、、、、ちょっと待ってよ。いくら心配だからって、いきなり家に来るなんて、短絡的すぎない?」
オレがそう言うと、おじさんは、再び黙った。もともと、会話のテンポがゆっくりめの人なので、オレは、返事をあてにせず、ぐいぐい飲んだ。
「人生なんて、予測のつかない事だらけだから」
「なんだよ、それ。答えになってないよ」
「まあ、別に、あやしい感じじゃないんだろ?」
「、、、、うーん、、、?」
「じゃ、いいじゃない。しばらく世話になれば」
「世話になるって、、、 オレのうちだぜ?」
おじさんは、あいまいに笑っていた。オレも、なんだかめんどくさい気持ちになり、つまみの塩辛を、箸でつつき散らしていた。
朝、朦朧(もうろう)とした頭の中に、小気味いいテンポの音が、断続的に、聞こえてくる。
昨日、飲んだな、、、、 と思いながら、浅い夢と、現実との区別をしようとして、途中でわからなくなる。
けだるい気分でしばらく天井を見つめているうちに、ああ、そうか、あの女(ひと)がいるんだな、と思い出す。
台所でネギでも刻んでいるであろう包丁の音は、相変わらず同じペースで、壁越しに聞こえてくる。
家の中に女がいる風景というのは、おっくうだろうと思っていたが、現実になると、案外慣れてしまうものだ。
枕元のデジタル時計を見て、おもむろにベットに起き上がる。裸の上半身に、部屋の空気がひんやりと張り付いてくる。
トランクス一枚で椅子に座ってタバコをふかし、窓を開けて、Tシャツとジャージのズボンを着て、部屋を出た。
「おはよう。もう10時よ」
台所では、ゆかりさんが白いエプロンをつけて、洗い物をしている。
オレが食卓の椅子に座ると、ラップのかかったオムレツを手にとり、レンジの中に入れてくれる。
ゆかりさん-というのは、ここに来た日に、本人が、
「おばさんとか言わずに、ゆかりさんとでも呼んで」と言い出し、それ以降、そう呼ぶようになった。
聞くところによると、スナックのホステスをやっているそうで、そこで、親父と知り合ったらしい。たしかに、台所仕事は、テキパキと手際がよかった。
「、、、、親父とは、長かったんですか」
「長いなんてもんじゃないわよ」その日、ゆかりさんは、化粧を落とした後、オレの問いに答えた。
「あの人は、私に会いに店まで来てたからね」
「結婚とか、しようと思わなかったんですか?」
「ああ、もう、そういうのはお互いコリゴリだったから」
そう言って、ゆかりさんは、オレの顔をのぞき込んだ。
「征也くん、お父さんから、裏切られた、とか、思ってる?」
「は?」オレは、少しあわてて、思考をまとめる。
「そんな、親父だって男だし、オレも、もう成人してるし、親父には親父の世界があって当たり前だと思うし――」
本心だった。裏切られて悲しいとか、いなくなってさみしいとか、そんな強い感情は、もともと、オレの中にはない。
親父が死んだ時でさえ、そうだった。健康診断で引っかかったからと病院に行き、そのままずるずると入院して、いつの間にか、もう手遅れの状態だった。もちろん、見舞いにも行ったし、手も尽くしたつもりだったが、オレが親父の死に関して一番感じたのは、なんというか、「無常感」のようなものだった。
こんなオレだから、女の子からは、よく「クールすぎる」「つめたい」と、言われてしまう。でも、そういう性格だから、しょうがない。
この性格が、先天的なものか、後天的なものか、時々考えたりする。たぶん、小さい頃から、父一人子一人で育ち、母親のぬくもりを知らないから、女性に心を開くことが苦手なんじゃないかと思うが、どうなんだろう。
「征也くん、今日は、仕事何時から?」
「夜、7時からです」
ぼんやりとオムレツを食べながら、とりとめのない事を考えていたオレは、あわてて思考のスイッチを現実に切り替えた。
「そう。深夜のコンビニの仕事っていうのも、大変よね。私もずっと夜の仕事だから、そう思う」
オレは、黙ってオムレツを食べ続ける。
「夜のお店って、どんなにみんな陽気に騒いでても、お客が持ってきた疲れとか憂いとかストレスとか、そういうのが充満するのよね。すごく明るくてにぎやかなんだけど、空気の質がね、ちょっと、沈んでるの」
ゆかりさんの話を聞きながら、オレは、深夜のコンビニの店内を思い出す。確かに、騒々しいヒットナンバーが流れたり、酔っぱらい集団が入ってきたりしても、店の中は、いつも深海のような夜の空気が漂っている。
「、、、、でも、がんばって、働かなきゃね。あの店には、お父さんとの思い出もあるし」
そういって、ゆかりさんは、にっこり笑った。オレは、黙って、オムレツを食べ終えた。
「なんかさぁ、それって、あぶないんじゃない?」
大きな瞳が、目の前でチラチラする。いつもより薄いまつげの様子に、妙に違和感を感じる。
「あぶないかなぁ」
「だって、セイヤにとっては、見知らぬ他人でしょ?よく一緒に住めるよね。私だったら、考えられない」
「なんか、追い出すのも面倒で」
「うわぁ~っ」うら声で言うと、エミは、眉をしかめ、ベットからするりと抜け出した。
そのまま小さな冷蔵庫まで歩き、しゃがんで、中からポカリスエットを取り出すと、その場で片手でひざをかかえながら飲んでいる。
しばらくして、「うっ、冷えるぅー」と、立ち上がって、飲みかけをテーブルに置くと、戻ってきて小さなパンティをはいた。
ベットに腰かけて、横に置いてあるドレッサーの上のリムーバーをコットンに染み込ませ、爪をぬぐっている。つんとした匂いが、部屋の中を漂(ただよ)い始めた。
「貴重品とか、かくしといたほうがいいよ」
「別に、金目の物とかないしなあ」
「それとも、若いセイヤのカラダが目的かなぁ?夜中にベットにもぐりこんできたりして」
「ありえねー」
「ほんとにありえない?」
ふいに、くるっとオレをふり向き、エミは、顔を近付けてくる。
「ねえ、そのおばさんと、寝てないんだよね?」
「当たり前だろ」
「だって、いくつであろうと、女は女だよ?一緒に住んでたら、変な感じになって、結局寝ちゃうんじゃないの?」
「拒否するから、オレが」
エミは、しばらくまじまじとオレの目を見つめ、そのおかげでオレが体の芯まで見通されてるような心地になってきたころ、やっと、彼女の顔がはなれていった。
「いいけどさ、別に。セイヤがそれでいいんだったら、私が口出しすることじゃないしぃ」
そう言って、ぷいっと顔をそむけ、再びリムーバーを手に取り、もう片方の手で、コットンを乱暴に5、6枚取り出す。
エミの背中を見ながら、オレは、妙にさめた気持ちになった。
女の子とベットを共にすると、最後はいつも、もう一人の自分が、しらじらとした視線で全てを見定めてしまう。
背中にシミがあるとか、よく見ると髪の毛が傷(いた)んでるとか、無造作に床の上に食品があるとか。
エミとも長いつきあいになるが、「セイヤは、箸の持ち方がおかしい」と指摘され、ちょっとイヤな思いをかかえたまま、なんとなくそのまま続けている。
「しばらく会えないね。私も、しばらくまとめて休みとるし」
「どっか行くの?」
「うん。たまには、家の仕事も手伝えって言われたから。ここに来ても、1ヶ月くらいはいないからね」
「1ヶ月?」
「だって、うち、うるさいんだよー、たまに帰ると。1ヶ月で戻れないかもしれない」
「ふうん」
オレは、枕代わりのクッションに頭をのせ、ゆっくりと目を閉じた。
本当に家に帰るのかどうかあやしいが、また、こいつと連絡がとれたら、そのうちここに来てしまうんだろう。
「ねぇ、今度来た時は、お好み焼き食べたくない?プレートあるからさ、材料持ってきてよ」
「うん、、、、」
うとうとしながら、オレは、生返事をする。
エミの使ったリムーバーのつんとした匂いが、眠りの中まで入り込んできそうなくらい、辺りにただよっていた。
「ずっと、ネコを飼いたかったんだよねぇ」
ある日突然、ゆかりさんが、小さな茶色いものを、買い物袋と一緒にかかえてきた時は、ちょっとびっくりした。
エメラルドの指輪をはめている右手の中で、もぞもぞと動いている物体は、よく見ると、子ネコだった。
「どうしたんですか、それ」
「うずくまってたのよ、そこの大きな木があるでしょ、その前でじっとしてたから、死んでんのかと思ったら、もぞもぞ動いてるから、かわいそうになってねぇ、拾ってきたわよ」
買い物袋をテーブルの上に置き、ゆかりさんは、冷蔵庫から牛乳を取り出して、白い皿についだ。
「飲むかなぁ」
テレビから目をはなして、じっと見ていると、小さいネコは、ぐったりと床にふせたまま、ピクリともしない。
しばらくすると、弱々しく目を開きはじめ、ゆっくりと、力をふりしぼるように、皿のほうがへと歩き出した。片方の足をケガしているようで、歩き方が、バランスが悪い。
やがて、皿にたどり着いた子猫は、一口牛乳をすすると、また、力なくその場にうずくまった。
しばらくその様子を見守っていたゆかりさんとオレは、思わず顔を見合せた。
「、、、、動物病院とかに、連れて行ったほうがいいんじゃないですか?」
「あら、治療費は、征也くんが出してくれるの?」
そう言って、ゆかりさんは、にっこり微笑んだ。ホステスをやってるだけあって、お金に関してはクールでシビアな人だ。
オレがちょっとバイト代で飲む割合が多くなると、「征也くんは、外でいいごはん食べてるんだろうから」と、自分の分しか食事を作ってくれなかったり、缶ビールを分けてくれなかったりする。このあいだは、調味料やウィスキーが値上がりしたからと言って、差額を請求され、払ってしまった。
「ここで使ってる日用品で、お父さんが残していった物あるでしょう。それ、私に使わせてよ。そのうち補充しとくから」と、言ってたのに、、、
ぼろぼろの、茶色い綿くずみたいな子猫を見下ろしながら、オレは、ぼんやりと考えていた。
「でも、ここでは飼えないですよ。そういう決まりだから」
とりあえず、そう言ってみたが、ゆかりさんはとりあってくれない。
「大きくなるまではいいじゃないの。自分でエサにありつけるようになるまでは」
「そんな、ケガした小鳥とかじゃないんですから」
「ま、とにかく、私が仕事の時は、征(せい)ちゃんが面倒みててね。この分じゃ、この子も、動く気力もなさそうだし」
ついに、オレは、征ちゃんと呼ばれるようになってしまった。
「、、、、今日は、仕事なんですか、ゆかりさん」
「うん。お客の都合で、遅くなるかもしれないからね。あ、ネコ缶なんて、まだ食べられないわよ。こんだけ弱ってるから。征ちゃん、宅配で、なんか送ってきてたでしょ、電機屋から、CDだかなんだか。あの段ボールあったでしょ、その中に、とりあえず入れときなさい。いい?」
「はい、、、、、、」
買い物袋から次々と食料を取り出し、冷蔵庫に入れながら、指示を出すゆかりさんに、オレは、テレビを見ながら、生返事するしかなかった。
今や、家の中でのことは、この人が仕切るようになってきている。
子ネコは、あいかわらず、ぴくりとも動かない。
ゆかりさんが出かけたあと、オレは、段ボールにタオルを敷いて、茶色い子ネコをそっと中に入れた。
このぶんじゃ、しばらく逃げだすこともないよなぁ、、、、 と気にしながら、切れていたタバコを買いに、コンビニへ向かう。
帰ってきてみると、ネコは、段ボールの中で丸くちぢこまっている。
ペット禁止なのに、まいったなぁ、、、と思っていると、時々、がさがさと音をたてて動きまわり、牛乳を飲んでいるような気配がする。
しばらくたって、またのぞきこむと、小さなまぶたを、ゆっくりと見開いた。
なでてやっても、身動きひとつしない。皮ごしに、ガリガリの骨が浮いている。
「どうしたもんかなぁ」
今まで動物を飼ったことのないオレは、とりあえず、その日の夜はリビングにほったらかしておいた。
次の日、帰ってきても、そのネコはぐったりと横になって、動いた形跡もない。
心配になって、バイト仲間に、電話で聞いてみた。
「、、、、、あ、オレ、あのさ、前、ネコ飼ってたじゃん?エサ、何やってた?、、、、、いや、ちょっと拾ってきてさ、、、、、キャットフードとか、種類いろいろあるけど、どう違うの?、、、、あー、なるほどね、はいはい。うん。明日ね。あ、よかったら連絡して。じゃ、サンキュー」
とりあえず、キャットフードを買ってきて、皿の上に置いてみたが、なかなか食べようとしない。
仕事から帰ってきたゆかりさんは、「当分は仕事もヒマになるから私も面倒みるけどさ、また弱らないように、気をつけててよ」と、トイレ用の砂を買ってきてくれた。
「ネコ飼ってたことあるんですか?」
「お客さんがね、ネコ好きが多くてねえ、どうかすると、珍しくて変わったネコの自慢大会よ」
親父も、定年になったら、ネコか犬でも飼うか、って話してたな。一瞬思い出して、少しさみしくなった。
それから数日間で、どうやら子ネコは元気を取り戻したようで、なんだかひとまわり大きくなったようだった。
うるさく鳴くこともなく、爪を立てて段ボールをといだりすることもなく、しばらくの間は、時たま箱の小さなカベをよじ登って、横にあるトイレで用を足していて、すごく手のかからないネコだったのだが、ある日突然、いなくなってしまった。
どうやら、うっかり開けていた窓のすき間から、外に出たらしい。
「ネコが、いなくなったんですけど」
「いつから?」
夜の仕事から帰ってきたゆかりさんは、分厚い長方形のバックをテーブルの上に投げ出し、いきおいよく椅子に腰をおろした。
「僕がバイトから帰ってきた時は、もう、見あたらなくて、、、」
「ふうん」
しばらく、沈黙が続いた。怒っているのかな、と思いゆかりさんの顔を見たが、表情からは何も読みとれない。
「私もさ、最近、お客にふりまわされて、面倒みてなかったけどさ」
「、、、、」
「連れて帰った時に、ちゃんと、征ちゃんに頼んだわよね?様子を見てって」
「、、、、、はい」
「生き物を飼うっていうのは、ちゃんと、責任を引き受けるってことじゃない?私はそう思うけど」
「、、、、、はい」
とりあえず、はい、と答えたものの、オレは、釈然としないものを感じていた。
もともと、ここは親父とオレの家のはずで、この人は突然やってきて住みついて(多少、生活面で助かってはいるものの)、ペット禁止なのにネコを連れてきて、それがいなくなったからって、なんで、オレが、説教されなくっちゃいけない?
ちょっと、反抗的な気分で、ネコがいなくなったフラストレーションも感じつつ、投げやりな口調で、オレは、言った。
「、、、、、でも、もともと、飼い主がいない捨てネコなんでしょう?こんな狭い所で段ボールに入れて飼うなんて、無理だったんですよ」
しばらくじっと黙って壁時計を見ていたゆかりさんは、
「捨てられてたわけじゃないと思うわよ」
と言って、おもむろに、目をつぶった。台所の照明の下で目をつぶると、ちょっと、厚化粧に見える。いなくなったネコのために、祈っているようにも見えた。
そのまま、椅子に座ったままで、眠ってしまいそうな感じだったので、
「ゆかりさん、あの、もう遅いから、自分の部屋で休んで下さいよ」
と、肩を揺り動かす。
「うーん、そうねえ、今からシャワー使ったら、下の階から苦情がくるかもねえ、まあいいわ、化粧だけ、おとしておかないと、、、、
ああそうだ、洗面所のお湯、あれ、修理してもらいなさいよ、修理代出すから。もう私もね、残業が重なると、かなりしんどいんだからね、、、」
そう言いながら、酔っているようないないようなゆかりさんは、立ち上がり、部屋に向かう。
残されたオレは、ソファーから立ち上がり、ふと、ネコがいた段ボールを足先で軽く蹴った。
(あのネコ、外に出て、ちゃんと、生きていけるのか?
薄汚れた野良ネコにならなきゃいいけど、、)
そう考えて、あの子ネコに、ちゃんとした名前をつけてやらなかったことに気付いた。
やっぱり、自分には、動物を飼うのは向いてないのかな、とも思った。
毎日は、なんとなく過ぎていく。
仲間の一人が彼女と別れたり、別の一人が地元へ帰ったり、そんなことがあるたびにみんなで集まって安い酒を飲んで、少しずつ変わっていく自分たちのことを、笑い話にしていた。
そんなある日。
ネコの次は、ゆかりさんがいなくなってしまった。
「お店が、新しくなるかもしれない。その前に、海外にも行きたいし」
そう言ってはいたのだか、オレが、それまでのバイト生活から、なんとか正社員になれそうな会社を見つけ、ゴタゴタしている時に、いつのまにかゆかりさんも外泊が多くなり、顔を合わせなくなり、そして、ある日突然、テーブルの上に、
家賃、払っておきました。
荷物は持っていきます。使いかけの食べ物は、食べるなり、処分するなりして下さい。
お父さんの命日くらいは、覚えておくように。
と、書き置きがあった。
最後まで、携帯のメールどころか、番号さえも知らずじまいだった。
「なんだったんだ、あの人、、?」
しばらく、狐につままれたような心持ちだったが、気をとりなおし、おじさんに電話をかけてみた。
「おう。やっと、社会人になれそうか?」
「うん。あのさ、ゆかりさんって人、あの人、なんなの?いなくなったみたいなんだけどさ、また、なんか誰かの愛人かなんかになっちゃったわけ?」
「ああ、いなくなったか、どこに行ったのやら、なぁ」
おじさんが笑っているので、オレは、少しムッとした。
「征也の事が心配になったら、またそのうち、来るんじゃないか?」
「えっ、なんだよ、それ、、 オレ、あんまりふりまわされたくないんだけど」
「親父さんの供養と思って、愛人さんの世話くらいしてやれよ」
オレは、なんだかバカバカしくなって、早々に電話を終わらせた。
時々、茶色いネコを、近所で見かけることがある。
もう、小さなネコではなく、目が合うと、しなやかに走り去って、木立の中へと見えなくなってしまう。
オレは、コンビニの袋を降って歩きながら、とにかく、もうゆかりさんに心配かけないように、仕事をしっかりしよう、と、心に誓った。
〈END〉
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
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