悪縁はどこまで続くのか
父親って本当はどういうものなの?小さいころ殴られたり蹴りを入れられたりした私にはよく分からないのです。
よくテレビドラマで観る父娘のような関係に憧れていた。
私の父親は銀行員だった。俗にいうノンキャリアなので今にして思えば職場でのストレスはかなりなものだったのかもしれない。
16/06/28 11:25 追記
『父』について書こう。父は旧満州からの引き上げ者だ。満州では良い暮らしをしていたらしい。父の父親は満州鉄道の職員で、具体的に何を生業としていたか知らないが、家には中国人のお手伝いさんが居たそうだから、まあまあ裕福であったらしい。父は姉2人と妹1人。あと母親がいた。具体的にどういう暮らしをしていたかはあまり知らない。
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戦後ロシア軍が家に来て高価なものをすべて持っていってしまった、と、生前祖母が悔しそうに何度も言っていたのを覚えている。日本に引き揚げてきてから後、父の父親は父が若い時分に亡くなったという。それからは女系家族で、父は長男として家族にもてはやされて育った…
父は銀行員となった。30の時、嫁を迎えた。田舎くさい、おとなしい女だった。
やがて一女をもうける。それが私だ。
父は『父』となったわけだが、私には父との楽しい、優しい時間を覚えていない。
父は私を何だと思っていたのだろうか。
私には妹がいた。毎日の生活のなかで、自分の気持ちの持って行き場がなかった。母は芯の強い女性だったと思うが、子供については放任主義。私は寂しかった。学校での生活もそれほど楽しくない、家には母がいたが、私に細かく世話をやいてくれるわけではなかった。私は時々鬱憤を下の妹にぶつけた。具体的に何をしたのか忘れてしまったけど、妹が泣き出すと、祖母や母が駆けつけてきて、私を嘆いた。
「また 妹を泣かせて!」
「お父さんが帰ったら言いますからね!」
今にして思えば、こんなこと、母が解決してくれれば済むこと。だけど、そういう時代ではなかったし、母もそういう人ではなかった。
私は夕闇を暗く待った。
口うるさい父だった。仕事から帰ると、必ず私達に「お帰りなさい」と言わせ、玄関の散らかった靴をすぐに直せ!と怒鳴った。
その度に私は(うっさいなー)と思うわけだが、そんな反抗的な態度を取ろうものなら、すぐ父は見逃さなかった。
仕事で疲れ多分相当気も使っていただろうその人は夕飯の前に私の素行を祖母などに報告されると、すぐに私のいる子ども部屋に飛んできて、
「何故そんな事をした!?」と、怒鳴るやいなや、私の腹に蹴りを入れた。私は「理由もよく聞かないで何すんだよ!」と言うが無駄。続いて「何でお前はそうだ!」と頭をグーで殴りつける。私は屈めて手では頭を守る。
一連の暴力が済むと、気が済んだのか「お前はご飯食わなくていい‼」と捨て台詞。
私は子ども部屋のベッドの横でわななきながら、悔しさと痛さ、情けなさでいっぱいだった。次に湧いてきたのは殺意だった。
(絶対殺してやる)
その時から私にとって父親は父でない、敵になったのだった。
暗い部屋で一人うずくまり、じーっとしていると、母がこっそり覗きにきた。
「あんたが悪いよ、お父さんに反抗的な態度とって…謝りなさい」
(は?私が悪いの?)その頃でさえわかった。私が悪いのではないと。悪いとしても少女の腹を思い切り蹴るのか?頭もぐうで
殴り付けていいのか?現代だったら完全に虐待です。誰も味方なんていないんだって思った。妹が母が開けた戸の隙間から覗いたのが見えた。
そして戸はまた閉まった。
お腹はすいていたが、何よりも憎しみに支配されていた。ずっと小声で呟いていた。
(殺してやる、絶対…)
暗い部屋の中でどのくらい過ごしていたのか、やっと自分を取り戻した私はぼやっと考えてた。(何時なんだろう)予想では20時過ぎていると感じた。部屋の入り口の戸がかさーっと少し開いた。母が入ってきたのだった。「ほら、おにぎり。あんたも…」と言いかけて皿を勉強机に置いて部屋を出ていった。母が言いかけた事は分かっていた。私が反抗的なんだと言いたいのだろう。確かに自分の主張はしたいほうだ。
私には親に言いたい事は山ほどあった。
私は涙に喉が詰まりながら、おにぎりを口に運んだ。
次の日は日曜で学校は休みだった。朝から子ども部屋のベッドの上で漫画を読んでいた。父の仕事も休みで、でも顔を合わせたくなかった。その頃からだろう。父を異様に避け始めたのは。
母は専業主婦でいつも家に居た。学校から帰ると、母のいる台所に行ってその日にあったことなどを話す。母はおとなしく聞いてくれている。唯一の安らぐ場だった。
夜、父親が仕事から帰ってくるのがとても嫌だった。帰ってこなくていいのに!と心の中で毒づき子ども部屋に入っていく。
父親が普段から日常的に暴力をふるっていたわけではなく、ああして、私の家での素行を告げ口されたり、何かきっかけがあると私に暴力をふるうのだった。
憎しみは消えない。ものすごい強い負の力だ。一度生まれてしまったものはどうにもできない。
憎しみは消えない。身体の中に巣くって、普段は忘れているようでもある時にふと滲み出てくる。トラウマ?というやつだろうか。
私は思春期に入った。ある夜、私は夕飯時台所に行った。そこには祖母と父親とだけがいてテーブルの上にはまな板に切られた刺身が置いてあった。私はそこに母もいないし、おかずが何だか知ったので、とりあえずその場を去ろうとした、その時、
テーブルとガス台の狭い隙間に立って居た私の尻をすれ違いざま、てろんと触ったのだった。
私はびっくりして「何すんだよ!」と怒鳴った。父親はニヤニヤしていた。私は鳥肌のたつ思いで自分の部屋へ逃げ帰った。部屋で膝を抱え込み、爪をかみながら思った。(気持ち悪い!気持ち悪い!)父親にそういう目で見られていたのかと思うショックは半端なかった。その事は世間知らずな母にももちろん誰にも言えなかった。私は一人で抱え込んだ。それから余計に父を避けるようになったし、父に『そういう目』で見られないよう気遣う私になってしまった。私はませていたのか、女が男にどういう目で見られるのかということを知っていた。それが自分の好きな人に好意的に見られるなら最高だが、なんと自分の父親に汚ない目で見られたのだ。私は必然的に洋服は露出の高いものは選ばなかった。家では特に注意した。暑い夏など、ノースリーブの服も避け、小学生では履いていたホットパンツははかなくなっていた。色味も派手なものは避け地味めの洋服を好んで着た。ある時母が「あんたも地味だねぇ、若い時分はもう少し明るい色を着ればいいのに」と言ったことがあったけど、私はそれを黙って聞いた。
テレビドラマなどで、特にアメリカのドラマで、父親の前でも露出の高いキャミソールやミニのスカートやパンツを身につけている娘がいたが私にはあり得ないことだった。でも平気でそういう格好のできる女性がうらやましかった。
私の父親は小学生のころから暴力、そして年頃の私には嫌らしい目を向けてきた。私の性格はだんだんと歪んでいった。
父親じゃなくて完全に他人と私の頭のなかでは認識し、「あの野郎」か「あいつ」だった。憎しみの火は私の心の中で消えずにずっとある。
家でのあいつは、私たち姉妹に口うるさかった。仕事から帰ってくると、玄関で怒鳴り声がする。
「お前たち、靴をちゃんと揃えろ!」
あわてて私たちは玄関に急ぐ。そして腹這いになって自分のくつ、下駄などそろえる。そうすると次は「お帰りなさいは?!」とくる。
私は少しむっとしながら、低めの声で言いたくもない「お帰りなさい」を言う。
未だにその言葉は嫌いだ。無理やり言わされていたからだ。
家族での食事の時間、父親はただ黙々と食べる。私たちが会話をしようとすると、
「うるさい!黙って食え!」
食事の時間は常に緊張を強いられる時間。
食事中あいつの口を規則的に、確実な咀嚼の音だけを聞くようになる。
食事の時間が、安らぐ時間なんだと知ったのはずいぶん後の事。
好きだった彼と食事に行く度、緊張ばかりしてしまっていて、苦痛だった。友達とご飯に行くのも嫌だった。今では、やっとその『病気』が治った。
自分は当時皆と違う、なぜ人とご飯を一緒にするだけでこんなにドギマギするんだろうかと。
そう思っていた。これがトラウマというやつか。
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