パレット
友人に物語を書いてみたら?と勧められていたが、なかなか筆が進まない…
携帯小説で地道に書いていけたら友人にも読んでもらえるし良さそうと思った。
自分のペースでツラツラ書くフィクション。面白くなかったらごめんなさい
私は今、好きでもない男と歩いている。
(何か話してよ…)
男は照れた感じを出してうつむいたままただ歩いている。
母のお気に入りで、付き合う事を半ば強制されて、嫌々会ってみた。
「あの…」
「はい!」
大声にビビる。
「今日会ったのは、母に言われたからで私は貴方に興味ないんです。ごめんなさい」
母は多分私の方が好意を持っていると嘘をついている。「え…」と言ったきり固まった男の顔からは獲物を逃がした情けない顔がぶらさがっている。毎度こういう顔を見ているのでため息が出る。
母が男を騙して私に引き合わすのは、これで何回目だろう。
「本当にごめんなさい」
私は再度謝った。
考えてみれば私に落ち度はない。しいて言うなら、親にこういう事は止めるよう説得出来なかった事だろうか。しかし、40過ぎておばさんに手伝ってもらわないと彼女も作れない男もどうかと思う。
「どうしてもダメですか?」
「はい」
私はハッキリと告げてその場を去った。
こういう事はちゃんとした方が良いのだ。
じゃないと後で面倒な事になる。
「見て。修羅場だ修羅場(笑)」
若い子達が騒いでる。
キャイキャイしてて可愛いものだ。あの男も、どうせなら若い子狙えば良いのに。
「わっ見てるよ」
男が彼女達を見たらしい。
「気持ち悪い」
「行かない?」
彼女達にもフラれている。
あの男の悪い所は、なんでも人任せな所。
きっと私にしたように、悲しそうな目をして見つめてみたのだろう。若い女の子がすれば可愛いだろうが、オッサンのそれは不気味以外の何者でもない。いくつになっても自分は若いままだと勘違いしているのか、はたまたそうすれば今まで生きて来れた程の楽な人生だったのか…吐き気がする。
私はテレビを着けた。
(そういえば見たかった映画があったんだっけ。あんな面倒がなかったら観に行ったのに。男と映画観ると、すぐ体触って来るし、ずっと喋りぱなしの奴もいたし、ゆっくり観れないから嫌なんだよなぁ)
男が欲しいと毎日のように言っている友人がいるが、あんな面倒なもの、なぜ欲しいのか疑問だ。男が優しいのはセックスするまでだし、その後もベッタリ男はだんだんストーカーっぽくなっていくし、ろくな事ないが…
(付き合った事ないんだろうな)
私は結論に至った。
私も好きな人とは付き合った事ないので人の事は言えないけど…
いつも親や世話好きなおばさんの影に隠れた男ばかり…
好きだと言われた事もないが、なら止めようと言うと決まって「え…」と固まる。付き合いたかったくせに憎まれ口をたたく男。おばさん達に持ち上げられて、自分はどんなワガママを言おうと女が来る、なんでも自分の思い通りになると思っている男。
そういう男に限っておばさんは良い人だと言って聞かない。若かった頃うっかり信じてえらい目にあった。それからは、そういう人に対して嫌悪感しかわかなくなったが、私は世話好き女にやたら世話を焼かれる。
…ほっとけないらしいがほっといて欲しい。
(一人になりたいな…どこかに行くとすぐ声かけられるし、ゆっくり出来ない…安心出来るのは部屋だけか…)
私は話しかけやすいとよく言われる。優しそうとか…私の何が人にそう思わせるのか?
(勝手に決めつけやがって)
良いイメージかもしれないが、思い込みで私の全てを知ってます顔をするおばさんと男が多すぎる。
(大体見た目で全てを判断されても…人の事全部分かったら逆に怖いだろ。なんで「君はこういう人のはずだ」と決めつける。会ったばかりのお前に何が分かる。おとなしそうな奴に限って思い込みが激しいんだよ。なんで私は気が弱いくせに主張の強い男にばかり好かれるんだろ。ウザイとハッキリ言うべきなのかな)
つきまとわれる事はよくある。怖いが相談出来ない。相談すると主婦はモテていいだの人の気も知らないでいい加減な事言うし、独身女性が一番良いアドバイスをくれるが、なかにはヤキモチやいてキレる奴がいるし。
つーか最近しつこい男増えてないか?
結局その日はレンタルビデオで1日過ごした。こういう時間が一番安らぐ。
次の日は普通に仕事をして、レイトショーを観た。
私は映画が好きだ。一人でゆっくり観るのも、映画館の大スクリーンで観るのも好きだ。映画を見ていれば幸せ…これはマズイのだろうか。私は生活出来る仕事があって、趣味を楽しめれば幸せなのだ。無理に男をみつくろわれても迷惑なのだが、ハッキリ言っても賛同されない。
誰もが異性がいなければ寂しい訳じゃない。少なくとも私はそうなのだ。パートのおばさんにはやせ我慢に聞こえてしまうみたいで口惜しい。
私は映画が終わると適当に夕食を買って帰る。料理は嫌いなのだ。
帰って風呂入って夕飯食べてテレビを見て1日を終えられれば、とりあえず良い1日なのだ。
今の私には付き合っている男が5人いる。どいつもおばさんに押し付けられただけで好意はない。相手も黙って一緒に歩ければ満足なのか、それ以上を求めて来ない。いや、私から切り出してくれるのを待っている感じだ。
と、電話がなる。メールだ。
「松崎さんとはうまくいってるの」
「まずまずですかね」
「次のデートはいつ?」
「決まってないです。先輩、私やっぱり彼とは合わない気がします。この前のデートだって、先輩がお膳立てしたんじゃないですか。彼は本当に私と付き合いたいんですか。おとなしい人だし、断れなかっただけだと思います。私も一緒にいても楽しくないし」
「あなたがリードしてあげればいいじゃない」
「好きでもない人に気をもたせる事をするのは、やっぱり抵抗があります。それに私には付き合っている人が」
「その人とすぐ結婚する訳じゃないんでしょ」
「それはまぁ」
「じゃ松崎君とも付き合ってあげてもいいじゃない?良い子なんだから」
女性の先輩だが、とても押しが強い。
「先輩はなんでそんなに彼にこだわるんですか。彼はただの後輩ですよね。もう40過ぎて立派な大人なんだし、自分で交際したい人に声かけられるんじゃないでしょうか。いつまでも先輩の後ろに隠れてるだけじゃ、彼の為にも良くないと思います。大体、先輩がいるなら私は必要ないと思うのですが」
私は一気にまくしたててみたが
「それとこれとは話が別よー。私は結婚してるしね」
……なんか急に丸投げされた気がする。
唖然としながら、それでも負けずに言ってみる。
「私別れたいんですよね。まぁ私達の事たし、先輩に言わずに勝手にしていいんでしょうけど」
先輩からの返事はない。
その後もなんの音沙汰もなくなった。慌てたかな。
私には男の肩を持つおばさんが数人いてみんな私とコンタクトをとりたがる。この前なんて、おばさん同士で自分の男の方が私に合うはずだと言い合ってケンカをしていた。男は二人してそれぞれおばさんの後ろで立ちすくんでいるだけだった。
私にとっては、どちらも休みの日には家に引きこもってゲームかネットしてるだけの、オタクをバカにしながらオタクと同じ事をしているつまらない男でしかないのだが。
女主人は笹原といった。
「さて、私の話を聞いて頂いた上で、まずお客様が片付けたい人を教えて下さい。まず名前、それと会社の住所ですが、これは同じ職場なので分かりますよね」
「本当にいなくなってくれるんですね。私の前から」
「ええ。どう消えるかは教えられませんが、確実にお客様とその方との接触はなくなります」
片付け屋は、面倒な人間を片付けるという仕事らしい。
私としては、これほど有難い事はない。
いなくなってくれれば日々の生活の安心と安定は約束される。ただ騙されてるのではないかという気もしていた。
こんな上手い話があるはずがない。
「私どうにも不安なんですが。出来れば、成功報酬という形に出来ませんか」
「良いですよ。」
断られるだろうと思ったが、意外にすんなり話が通った。
「ただし、入金されない場合はそれ相応の罰を受けて頂きます……宜しいですか」
笹原は声のトーンを低くした。私は頷いた。
「では成功したらここに振り込んで下さい。それでは一週間後をお楽しみに」
「はぁ…」
私はなんとも言いがたい思いがした。
「不安に思う事はありませんよ」
「そうですね、やっと落ち着いた暮らしが手にはいるんですしね」
一応笑顔を作った。
それから一週間、何事もなく過ぎた。口やかましく結婚しろだの、今の男が気に入らないなら良い男がいるだの、余計なお世話を焼くパートに頭を悩ませている事を除けば。私が消して欲しいのは、この女だ。
人の世話を焼きたいが要領が悪いオバサン。
女の仲間が作れず、男にばかり構っている女。
汚ならしい中年女。
毎日続く余計なお世話は、だんだんと怒りから憎しみに変わり残酷な願いを私に望ませた。
「私、まだ結婚する気ないので」
私はいつも通りの言葉を、今日はこの女の目を刺すように見つめて言った。
店長が愚痴をこぼしながらさまよっている。
「小林さん?」と私は考えるふりをした。小林とは私に絡んでいた女の事だ。
私は腹を立てていたので、告げ口してやる事にした。
「あの人いつも仕事してないですよね。おしゃべりばかりして付き合わされる方の身にもなって欲しいですよ。こっちは仕事しながら相手してやってるんですよ。普通気がついて話すの止めますよね。でもあの人って、こっちが忙しければ忙しいほど邪魔してくるんだから。店長からも言ってくれませんか?仕事しろって」
私は腕を組み、怒りをあらわにしてやった。
「そうだな……長い事やってくれてるけど、いまだに何も出来ないし。これでサボるようになったらおしまいかなぁ」
「おしゃべりも立派なサボりになってますけどね、あの人の場合」と私は真顔で付け足した。「手が完全に止まってますから」
「でもね、知ってるとは思うけど、あの人すぐにパニックになるでしょ。辞めてくれと言ったところで素直に辞める人なんかじゃない。なんとか居座ろうとすると思うんだよね」
「面倒な人ですからね。でも、ご主人がいるんだから、そんなに必死に働く事もないんじゃないですか」
「子供も自立したって言ってたしね。でもあの人と結婚する人ってどんな人だろうね」
私は乾いた笑みを浮かべた。
「頭のおかしい男でしょ」
店長とざっくばらんに話している間に戻って来るだろうと思っていたが、遂に小林は帰って来なかった。
それから数日、小林は完全に姿を消した。
警察が来たりちょっとした騒ぎにはなったが、結局小林が見つかる事なく一週間が過ぎた……
一週間が過ぎたある日、窓辺に猫がやって来た。可愛らしい姿に癒され、部屋に入れてやると首輪に紙が挟まっていた。取ってやり、なんとなく広げてみるとこう書いてあった。
こんな事が数日、約2ヶ月続いた。
会う度男は私が通り過ぎる場所に立っていて私は(気持ち悪い)と思いながらも関わらないようにしていた。
怖かったのもあるし普通じゃない気もしたからだ。
「それって貴方に気があるんじゃないの。若いっていいわねー」
たまたま昼食を一緒の時間に取った先輩には、こんな風に笑われた。
「怖いわね。防犯ブザーでも持ったらどうかしら」
こんな風に優しい言葉をかけてくれる先輩もいた。
私の尊敬している女性だ。いつの間にか側に来て庇うように言ってくれた。
「そうですね」
その先輩は嫌な女の先輩に当たる為か、嫌みを言った女はうつむいてうなずいた。
悪い事した奴って大抵うつむいている。
子供っぽいなと思いつつ、私は尊敬している桂木という先輩と話ながらその場を去った。嫌な女は一人で昼食をとり始めた。
男は見た目から30後半から40くらいだった。何も言わずに付きまとい行為を続ける男は何が望みなのか?先輩に言われた通り私に好意があると思って良いものか?
(勘違いだと言われればそれまでだし。)
「着いてこないでよ!」
私はまた悲しそうな顔をしながら追って来る男をなんとか撒こうと走り回った。
会社からの帰りにあるこのやりとり、いつまでこんな日が続くのだろう。誰かなんとかして欲しい。
その時、あの片付け屋の事を思い出した。
「もしもし」
家に帰ってすぐにもらった連絡先に電話する。
すぐに「はい、片付け屋でございます」と相手が出た。
私は「助けて下さいっ」と悲鳴のような声を出してしまった。
それほどに追い詰められていたのだ。
私は一旦落ち着いてもう一度言った。
「仕事を頼みたいんですが、相手の名前も何も分からないんです。ずっと付きまとってる男がいて、怖いし腹も立つし、もうどうにかなりそうなんです」
どうしても感情的になってしまう。辛いのに誰にも分かってもらえないのが怖くて仕方ないのだ。
明日も明後日もあいつのあの悲しそうな顔が追いかけて来ると思うと気分が悪くなる。
すると片付け屋はサラッと言った。
「では相手の身辺調査をした後に片付けるという事で宜しいでしょうか。料金は少々かかりますが」
私は喜び勇んで
「はい。宜しくお願いします」
(随分簡単に言うけど、前回の事もあるし、大丈夫。今はあいつをなんとかしたい)
前回の時に感じた恐怖は何処かに飛んでいた。
「調査が終わった時点で、今回は明細と相手についての情報を一旦お渡しします」
「笹原さんに会えるんですか」
もう一度会って話した方が良いかもしれない。
「いえ、ご自宅に郵送します。その時に調査の代金の振り込みと、もし本当に片付けるのを希望される時は、その分の振り込みをされて下さい」
「調査が終わったらすぐに片付けてもらえませんか」
私は早くなんとかして欲しかった。
「関わりがあったのに忘れているかもしれないとか、気になりませんか?」
「嫌がらせしてくる相手が知り合いかどうかが問題ですか?」
「なかには気が変わる方がいるんですよ。けれどそこまで仰るならそのまま全額振り込んで下さい」
淡々とした口調で言われた。
「分かりました」
「報告書はどうしますか」
「え?」
「先ほどの話だといらないかもしれないと思いまして。それなら明細だけお送りしますが」
私は迷ったが、一応もらっておく事にした。知りたくはないが後で気になるかもしれない。
私は、住所を伝えて電話を切った。
直後電話がなった。知らない番号だったので出なかったが、その後何度もかかってくるので、5回目くらいに出てみると無言だった。
男はうつむいて黙りこくる。
これでよく社会生活が送れるものだ。
世話好きオバサンに世話焼かれているのだろうか。
なんにせよ、もうこんな面倒な奴に関わるのはごめんだ。
何も言わないなら、何も言わずに消えるが良い。
私は汚い物を見るような目をしてるつもりでその場を去った。
少し歩いた時、男が「あー!!!!!」
と叫んでいるのが聞こえた。
私が驚いて振り返ると、私と目があった男がまたうつむいた。
そうしていれば、誰かがなんとかしてくれる。
構ってもらえる。そう思って生きて来ましたという感じ。バカじゃなかろうか……腹が立って仕方なかった。なんて他力本願なんだ……私がこの手が殺せたら、どんなにいいだろう。
「さよなら」
私は挨拶として言った。
「なんで…?」
小さく聞こえたその声に
(まだ言うか?)と思いながら無視した。
(明日にはいなくなるかな)
私はうっすら笑みを浮かべながらその場を去る。
(勝手に私を良い人だと思ったんだろうけど、私はこういう女よ。見た目が可愛ければ、優しい人と勝手に思うんだから男ってバカよね。なんで自分の思い込みが分からない訳?世の中の女全てが自分に惚れるとでも思っているのかしら。正直あんた不細工だし服シミだらけで汚いし、デブだしあり得ないから)
私は色々言いたい事を飲み込んで帰った。何も言わないなら黙ったまま消えるがいい。
3日後には男は姿を表さなくなった。
それが消去されたからか、諦めたのかは分からない。けれど消えた事には化わりないので、私はスッキリした気持ちで仕事に向かった。
「彼氏とはその後どうなってるのかしら」
「え?」
「だから、結婚はまだ?」
ある日突然話しかけてきたのは大して仲良くもない職場の先輩だった。
「付き合ってる人、いるんでしょ?
もうどのくらいになるのよ。結婚はしないの?」
「今は予定ないですね」
「結婚したくないの?」
「そんな事はないですよ」
結婚なんて面倒な事したくないが、そうとも言えないのでごまかす。
「今の彼氏が嫌なら良い人紹介するよ。同じ職場の人なんだけどね」
乗り出すようにして急に鼻息荒くするオバサンに嫌悪を感じながら「でもまだ付き合ってますよ?」
「別れればいいじゃない」
「そんな事言われても…」
と言葉を濁す。
正直大して好きではない男だし別れられたら楽だとも思う。
しかし相手の男が納得しないだろう。今の彼氏を紹介してきた先輩オバサンも。
「とにかく連れて来るから!」
先輩…いやオバサンは勝手に話をまとめようとする。人の話聞かないんだから。
「結構です」
(これ以上、男増やしてたまるか)
私はその時は仕事もあったし去る事が出来たのだが、帰りに捕まってしまった。
「うわ…」
(出入口で待ってるよ)
「あのね!この人なんだけどね」
(また冴えないオッサンだな。気が弱い男は大抵ババアに引率されんだな)
男は目線は下だが、ニヤニヤしていて気持ち悪い。
「どう?この子なんだけど」
(オバサンの力借りないと彼女も作れないのかよ)
「この人真面目で優しいのよ」
「はぁ」
(ていうか、この見た目でオッサンで、真面目と優しい以外に良い所ないだろ。つうかこいつ真面目と優しい以外に何もないから彼女出来なかったんじゃないのか。つまんなそうな男の匂いプンプンなんですけど?)
私は言いたい事をどう伝えるべきか悩む。
イライラしてはいるがそのまま言うのはマズイ。しかしこのままだと付き合う事にされてしまう。
「私、彼氏いますけど?」
「でも別れるでしょ。この人なら間違いから」
「別れるなんて言ってませんけど?」
「でも別れた方がいいわよ。この人の方が絶対いいから。すぐに結婚してくれるわよ」
そんな悩み事はないし、オバサンに相談してもいない。
「結婚焦ってませんけど?」
「でもしたいでしょ」
「誰でもいいわけじゃないし」
「誰でもいいじゃない。してくれれば」
「あなたはそんなに気持ちで結婚されたんですか」
男は黙ってうつむいている。付き合えれば何でもいいのか。
「私の事はいいからこの人ね」
オバサンは、自分の事になるとはぐらかす。
(家庭が上手くいってないのかな)
そのうっぷんをここで晴らしているのかもしれない。それともこの男に気があるのか。
自分では相手にしてもらえないから、若いのに声かけてまわっているのかもしれない。
私に自分を重ねて、この男との恋愛を楽しみたいのだろう。
オバサンは私に付きまとうようになった。
男は犬のようにオバサンの後を付いてまわっている。
彼女を作る為とはいえ、オバサンの力を借りないといけないのか。それともオバサンに連れまわされているのか。嫌と言えないのかもしれない。
しかし、いい歳したオッサンがオバサンの後を付いて歩いてあるのは、誠に情けない光景だ。
彼の場合、気が弱いを通り越している。友達もいないとオバサンが言っていた。
人とコミュニケーション取れないのに、彼女だけは欲しいか。
その他人任せな所が嫌いだと言ってやったが、オバサンに私になんとかしてやって欲しいと言われてしまった…
男が「痛いです。止めて?」と言ってきた。
「じゃ離して下さい。このオバサンが無理やり私の手を差し出したの見てましたよね?」
「だって」
男は自分は悪くないという風に言った。
この男の為にやってるんじゃないか。結局オバサンは利用されてるだけなのか。
「私が好きなら私の嫌がる事しないで下さい」
「でも……」
「何ですか?」
「あの」
「離して下さい。大声出しますよ。掴んでいるのはあなたですよね?」
私が強めに言うと、男はやっと離した。うつむいて「分かりました」と言って。
オバサンもうつむいている。
(利用されてる事に気づかなかったのだろうか)
自分を頼りにしているとでも思っていたのか?好き好んでオバサンの相手をするオジサンなんているわけないだろう?本当にオジサンならまだしも、この40代前半かと思われるくらいの男なら、若い女の子と付き合えるという特典がなければ子持ちのオバサンと関わりたいとは思わないだろう。
私はうつむいている男を睨み付けた。
男は黙ってうつむいている。私はここぞとばかりに文句をまくし立てた。男は唇を噛んで黙っている。
ひとしきり言い終わると私は一旦落ち着いた。ここまで言われて、まだ私と付き合いたいならただのバカだ。
するとすかさずオバサンが
「終わった?じゃ付き合えるわね」と言ってきた。
なぜそうなる。言えば気が済むのはアンタだけだよ。
男がニヤついている。
バカだったか。
「まだ分からないんですか?」
私はまた付き合いたくないという事をまくし立てた。
何回言えば分かるだろうか。
それとも気が済むまで言わせようという魂胆か。しつこい。
(このババアは、付き合うと言うまで離さない気だな。)
この何を言っても通じない図々しいオバサンはなんなのだ。
男はなぜこんなオバサンに付き従っているのだ?
分からない。
何か、弱みでも握られているのか?
そんな風には見えない。
とにかく寒いし早く帰りたいが会う気もない男とデートの日を決めろと言うこのオバサンはどうしたら引き下がるだろう?
嘘でも会うと言ってやれば気が済むだろうか。
しかし、期待させたと後から文句を言われないだろうか?しつこい男はどうして欲しいのだろう?断るのは許さないし、会うなら付き合えと言うし、好意がないなら会うなと言うし、なら会わないと言えば嫌だと言うしどう生きたらここまでわがままになれるのだ?
幼稚園から成長してないとしか思えない。自分に自信がないくせに嫌われる自分がいる事が理解出来ない。自分に自信ない奴が好かれる訳ないのにそれが分からない。人の好意に甘え過ぎている。
または女を美化し過ぎているのか……。
母親じゃないんだから、男の全てを受け入れられる女なんていない。いると思う奴は、本当に人と付き合った事がないのだろう。女性だけじゃなく、男性とも。人間とまともに付き合えない奴が恋人を作ろうなんて、身の程知らずとはこの事だ。
私は考えたあげく逃げ出した。
「なんで?!」
オバサンは追いかけて来る。
男もその後ろから追って来る。そのぶっ格好な走り方に寒気がする。
なんでそこまで私に執着するのだ。
いい加減にしてくれ。
もう気が狂いそうだ。
「待って待って!なんでデートくらいいいじゃない?」
このオバサンは、男の母親なのか。
「何がですか?!」
立ち止まり詰め寄る。
「私は、嫌だと言ってるでしょう!もういい加減にして」
「会うだけいいでしょう?良い人だから」
男が追い付いて、困った顔して見ている。
「彼が良い人だったら、なんでつきまとうんですか。良い人はそんな事しないでしょ。追いかけて来ないで下さい」
「付き合ってあげてよ。あなたにピッタリだから」
もう何を言っても通じない。
もう消えて欲しい。
その時、また思い出した。
あの片付け屋を。知らない間に携帯を握りしめていた。
私は付き合うと言ってやった。
オバサンは「本当に?」としつこく詰め寄ったので、何度も何度も言った。
最後は泣いていた。男はうつむいて、微動だにせずにつっ立っていた。
情けない男…。
その日の夜、私は片付け屋にまた依頼した。
一刻も早く消して欲しいと言ったが二人は無理だと言われた。私は男とオバサン、どちらにするか悩んだ。
悩んだあげくオバサンにした。
「あのオバサンがいなければ、こんなに苦しむ事はなかったんです!」
私は泣き叫ぶと、今夜中に消す事を約束してくれた。
私は祈るように朝を迎えた。あの二人が、また来たらどうしよう。あの一人じゃ何も出来なさそうな男、いやオッサンに、これから付きまとわれるのかと思うと、悲しくて辛くてたまらない。
多分あのオバサンだろう。
いつもこの男の側にいて、こいつがオロオロするとすぐに現れていた。
しかし今日は来ない。
男はうつむいたままただ立ちすくんでしまったので、私は会社に向かった。
あの後も、職場のあちこちで壁にピッタリと張り付き、こちらを向いてうつむいている男を見かけた。
声をかけて欲しいのだろうが、私は無視した。
ここまでしたら、気のない事に気づくものだが、この男はダメだ。
オバサンに能なしにされたのだろう。
人の好意に甘えている奴が私は嫌いだ。親切を押し売りする奴も嫌いだ。もっと言えば、人に親切にしろと怒りの形相で迫ってくるオバサンが大嫌いだ。
こういう奴は自分が嫌われている自覚のない嫌われものだ。
表面ではみんな褒め称え、裏では悪口大会だ。
だが気づかない。
何故なら、甘えた奴も押し売りするババアも鬼の形相のババアも、みんなプライドが凄く高いからだ。
うちの職場には、若さに固執したオバサンがいる。
「アンタは若いんだから、もっと仕事しないと。ほら、これとこれやっといて」
若い人に仕事を任せて、自分はおしゃべりに忙しい。
人の失敗は言いふらし、バカにし、自分は笑ってごまかしている。
まぁよくいる怠け者の給料泥棒だ。
それだけなら何処にでもいるオバサンだが、このオバサンの面倒な所は、とにかく若い娘へのヤキモチが酷い。今から若くはなれないんだし別に誰もアンタの歳なんて気にしちゃいないのに、若いと言わなきゃキレるし若いと言ってもキレる。綺麗と言われりゃキレるし、ブスだと言われりゃキレる。
もう会話が成り立たない。
仕事の話だけしてれば良いかと言うとそうでもなくて「アンタの話はつまらない!」とキレる。
そんな八方塞がりにされるオバサンと職場が一緒だと、会話したくなくても仕事上交わさなければならない会話がある。
上司からの言伝てが一番困る。
「これ伝えておいてくれる?」
嫌だとは言えないので伝えに行く。
「あの…結城さんがこれをやっておいて欲しいと…」
「え~…」
あからさまに面倒な顔をする。
私は頭を下げて頼むしかない。私が頼む訳でもないのに、なんで私が頭を下げないといけないのか。
「面倒だなぁ」
「お願いできませんか?」
私は再度頭を下げる。
ニヤニヤしながらオバサンは大声で「仕方ないわね!」と言って去っていく。上司はこの人と関わりたくないみたいで、この人に仕事を頼む時は、いつも私任せだ。
だから私は嫌でもこの人と関わらないといけない。
「あんな人と関わらなきゃいいのに」と言われるが、仕事なんだから仕方ない。
「嫌なら辞めちゃいなよ。他に良い仕事あるよ」
「そんな事で辞めてたら仕事なくなっちゃうよ。何でも思い通りにはならないものでしょ?」
同期との飲み会で交わされる会話。
毎度のガス抜き。
愚痴を聞いてくれる人は本当に優しいと思う。おかげで明日も頑張れる。
(普通に仕事してれば、思い通りにならないなんて当たり前だと思うけど…)
私の前に現れた、自分勝手な男達を思い出す。
自分に惚れない女はいないと思えるのは何故だろう。フラれる事なんてある訳ないと思える、その自信はあるのに、何故声をかけるなんて当たり前が出来ないのか。
「そういえば、彼氏とはどうなってるの」
さてどいつの事だろうか。
「玉木さん。この前紹介されてた……」
以前にも書いたが、私には彼氏と思われる男が5人いる。どれもが別々のオバサンに押し付けられた、断り切れなかっただけの男どもだ。
「ああ、あいつね。付き合った気になってるみたいで、会えば後ろから黙って付いて来るけどそれだけ」
「会話もないの?」
驚いた事に、私と男どもは会話が全くないが、男どもは笑って付いて来るのだ。
うつむいて、黙って少し後ろから付いて来るだけ。私は話す事などないし、男から会話がふられる事もない。
これで付き合ったと言えるならこの世に他人はいなくなる。
ハッキリ言って全員別れたい。が、全員嫌だと言う。
「付き合ってるうちに好きになれないなら別れなよ。相手に話してみたらどうなの」
同期の女の子が当たり前な事を言った。
「別れたくないって言うのよ」
「でも理由言わないんでしょ」
毎度の話なので、彼女も先に話してくる。
私は別れたくて、何度も相談した。
アドバイスを受け実践してみたが、男共は揃って黙るだけ。
(黙ってりゃなんでも周りが解決してくれるって訳?)
何度繰り返しても子供のような男共に心底嫌気が差していた。オバサンの言う良い人に、良い人はいない。
その後は他愛ない話をして別れた。
あまり遅くなるのは危ない。
というのも、暗い道に最近、変なオバサンが出没するからだ。
まるで痴漢かスリかという程、ピッタリくっついて歩くのだ。何か取られた事はないが、毎度その道に来るとくっついて来る。
全く気持ち悪い。
その日はオバサンだけではなかった。暗いが、かなり大きなシルエットが見える。相変わらずピッタリくっついて来るオバサンの後を、ドタドタと追いかけている。
私はそぉっと後ろを見てみた。薄ら笑いを浮かべているオバサン。その後ろに、うつむいている体の大きな男。
私は走ろうと思ったが、怖くて上手く動けない。歩くのが精一杯だ。それでもなんとか早足で歩く。
時折振り向いていたら、オバサンが私が気づいている事に気がついた。オバサンの目が泳ぐ。
踏切の所で遂にオバサンが、男に話しかけた。
「あの子可愛いよね」
いきなりなんだろうか。
「声かけてみたらどうなの」
男はニヤけるだけで話そうとしない。
オバサンは自分の事も語り出した。
何処に住んでいるかも、家族構成も、仕事も分かった。
分かったからどうという事はない。
私は、このオバサンに興味はない。
「でね、これは孫に買った物なの」
持っている紙袋の中を見せながら言う。
「はぁ…」
「あなたは何を持ってるのよ」
私は答えなかった。この人に答える必要はない。オバサンはしつこく聞いてきたが無視した。イライラする。無視しても気のない返事をしても着いてくる。
寂しいのか。
孫と会えるのだからそれでいいではないか。
「私、急ぎますので失礼します。って一緒に走らないで下さい」
「私も途中まで一緒だし、気にしないで?」
「そうじゃなくて…迷惑ですから!」
「いいですよ」
片付け屋は簡単に言った。
「私との接点は何もない人なんですけど…」
私は少し不安になって言った。今まで嫌な奴らを何処かにやってくれたけど、今回は難しいのではないか。
「帰り道にその方が現れなくなればいいんですよね。簡単ですよ。」
片付け屋は軽く言ってのけた。
「じゃお願いします。出来るだけ早くお願いします。しつこくてしつこくて、もう疲れてしまっているんです」
ただでさえ面倒な人間関係を抱えているのに、他人になど構っていられるか。寂しいなら、家族がいるんだから頼ればいい事だ。
それとも頼れない何かがあるのか……。
それでも、その助けを見ず知らずの他人に頼るのはむしがよすぎる。
私は明日にはいなくなっているという片付け屋の言葉に、信頼して頼む事にした。
今まで頼んだ仕事は必ずやってくれた。今度もきっとそうだ。私は明日が楽しみになった。
「ではお願いします」
私はもう一度頼むと電話を切った。
そして次の日の帰り道、私は期待と不安の入り交じった気持ちでその道に入った。
(いたらどうしよう)
あの妖怪のようなしつこさに、私は片付け屋がどう立ち向かうのか気になっていた。でも、それを知る術はない。
私が恐る恐るその道を歩いていると、後ろに誰かが来た感じがした。やっぱりあいつだろうか。
「安心して下さい。片付け屋です。振り向かなくて結構です。お姿を見かけたのでご報告しようと思っただけですから」
私は感嘆した。
あれだけしつこかったババアを片付けるとは…。
「ありがとうございました」
休憩中でもないので仕事を続けていると男がまた話し出した。
「俺に似合うのは可愛い人だよ」
間があったが、大した事言わない。
美人よりは可愛いがいいとは、最近テレビや雑誌でよく言っている。オバサン達もこいつに言っていた。受け売りだろうな。
「ふーん」
大して興味もないので、話は終わりと言う代わりに、素っ気なく返事した。
「歳は出来れば20代。30代なら若く見えなきゃダメだ。性格が優しくて料理が上手いの。顔が可愛くてね」
そんな子に彼氏がいない訳ないだろ。
いなかったとしても40過ぎたお前は相手にされないよ。私はツッコミたくなったが止めた。
「それじゃそんな子探さないとね。合コンとか行けば?」
男は鼻で笑った。
「えー…」
人の集まりに顔も出せないのか。そんなに引っ込み思案なくせに、どこで出会うつもりだ。
男は人の集まりが苦手なようで友達もいないそうだ。
趣味もなく仕事して帰るだけ。
そのせいか、あまり帰りたがらず、仕事が終わってもオバサン達と喋っている。
内容は声がデカイので丸分かりだ。
「早く女見つけなさいよー!紹介してあげようか。」
オバサン達が、男をおだてている。
余計な事を…
「アッハッハッ」
オバサン達のおだてを真に受けて、男は大喜びだ。
顔中で笑っている。
「出来ました…」
書類を上司に提出して帰る。
と、オバサン達がジッとこちらを見ている。
「あの子は?」
オバサンの一人が小声で男に言ったのが聞こえてしまった。
男はニヤニヤしながらこちらをチラ見した。
「行きなさいよ」
男は挙動不審にニヤニヤしているだけだったので、一人のオバサンが私に寄ってきて、
「アンタ彼氏いるの?いないならあの子どう?優しい子なのよ」
私はこの男が、影で女を値踏みしている事を知っている。
オバサン達の事も、ウザイけど構ってやってると言っていた。
オバサンは人を見る目がないと常々思っていたが、まさかあれを優しいと思っていたとは…
「私、彼氏いますので…」
帰ろうとすると、凄い力で腕をつかみ、男の所へ無理やり連れていかれた。
「ほら、連れて来たよ!」
オバサン達はニヤニヤしながらこちらを見ている。恋愛ドラマの見すぎだ。こんな事がきっかけになると思っている。冴えない男が、こんな事で彼女作れる訳ないだろ……
私は面倒になって走り出した。
途中気になって振り返ると、男はいなかった。
ほっとした。
次の日、男がオバサン達と何やら話していた。私は見ないようにして席に着いた。もう関わりたくない。
私の願いは叶わず、オバサンが私に近づいて来る。
私は席を立ち、給湯室に避難した。
そこは女の子達の溜まり場になっている。私はそっと立っていた。
と一人が話しかけてきた。
「昨日小田さんに付きまとわれてたでしょ?大丈夫だった?」
私は嬉しくて涙が出そうになった。
見るとみんな心配そうに見つめている。私は昨日の事をぶちまけた。
オバサン達の女の子いびりは今に始まった事ではない。
被害者は続々と出ている。
中でもモテない男を押し付ける嫌がらせは多かった。
モテない男はバカが多いから、オバサンの言う事を鵜呑みにし自分はモテていると勘違いして女の子を追い回すのだ。
「可哀想でしょう」
笑っているところを見ると、全然堪えてないのだろう。
オバサンの目は節穴だらけだ。
男は濁った目でこちらをチラチラ見ている。
みるんじゃねぇよ、気色悪い。
上司の言っていた事はまともだった。こちらも、不真面目な男が「真面目だけが取り柄です」という顔をしているのがムカつく。この男には叱るだけの価値もなかったという事だ。
「アンタが悪いんでしょ」
突き放すように言うと、男はあからさまに傷つきましたという顔をしてきた。顔を作るのだけは上手だ。
どこまでも図々しい男だ。
「反省しないならまた同じ事繰り返して叱られなよ」
(どう見ても40過ぎたオッサンなのに、中身は幼児なの?)
ママの所に帰れと言いたかったがやめた。この男をいい子いい子と可愛がるババアにくっついてる限り、こいつに彼女が出来る事はないだろう。本当の母親ならまだしも、会社のババアがくっついてる男なんて、誰も欲しがらん。
こいつがどうなろうと、私には関係ない。
「ちょっと!なんでそんな事言うのよ」
「そんなにこの男が可愛いならアンタが慰めろ。それとも面倒なの?私に押し付けられても迷惑ですから」
私はハッキリ言ってやった。
(手に負えないなら関わらなければいいのに。なんで私に押し付けるの?)
私は呪ってやりたくなった。
「…じゃ二人でどこかへ遊びに行ったら?」
オバサンが下を向いてボソボソと言った。
「なんでそうなるんですか」
「…」
「断ってるのが分からないんですか?」
私は眉をひそめて言った。
オバサンはなかなか諦めない。しつこいババアだ。
「聞こえないんですか?」
「聞こえてる」
オバサンがボソボソと言う。
「もういい加減にして下さい。私、付き合っている人いますから」
「えっ」
オバサンが言葉を失った。男も困惑している。失礼な。でもまぁこれで諦めてくれるだろう。
>> 70
「あの人、どうして辞めたんですか?」
「課長と不倫してたらしいよ。普段から旦那の話絶対しなかったし、恋がしたいって言ってたしねぇ」
オバサンの辞めた理由が気になって、仲の良い先輩に聞いた結果だった。私には〔結婚はいいわよ~〕と早く結婚しろとうるさかったのに自分は浮気かよ。
主婦には、いつまでも女でいたいとか言う奴がいる。
旦那にそう思われたいなら分かるが、旦那はもういいと言う。じゃ浮気したいって言ってるようなもんじゃないか。
「まぁ相手がいるだけ良かったのかもね~」
先輩は羨ましいと言って去って行った。
浮気相手が見つからない主婦は若い女の子に湯アカのようにへばりつき、恋愛をしろとけしかける。
あのオバサンも「どんな男が好みなの?」としつこく聞いてきた。男と付き合わせて、話を聞き出し自分が恋愛している気分にでもなりたかったのだろう。
(自分じゃもう誰からも相手にしてもらえないと思ったのか)
哀れな女だ。
結婚しなければ良かったのに。
「ねぇあの人、貴方のロッカー開けてるよ」
同僚の声に自分のロッカーに目を向けると、あの男が私のロッカーを開けている。
(何やってるの?なんで勝手に開けてるのよ?)
>> 71
男はじっと私のロッカーの中を見ている。
私は嫌な予感がして近寄った。
見ると男は自分の股をまさぐっている。
「何をやってるの?」
震える声で質問すると、男は私の方に振り向いた。
「何もしてない。すみません」
彼はぽつりと言い、またロッカーに向き直った。
(まだ続けるつもりなの!?)
私は腹を立て、男を突き飛ばした。
男は股の物を出したままひっくり返った。周りの人達も驚いたようだ。男は、そのまま動かない。私はロッカーの中を確認して、異常がないと分かると閉めた。
「早く立ったら?」
彼は立ち上がった。
「なんでこんな事したの?もう二度としないで。いいわね」
私がその場を離れようとすると男は「失礼します」と言ってまたロッカーを開けた。
「なんで開けるの?」
>> 72
男はうつむいて黙っている。
私は男をもう一度突き飛ばすとロッカーの前に立ち睨み付けた。
男は私の目を見ようとしない。
しばらくの沈黙の後男は一回顔を上げた。私の睨み付けた顔を見ると、またうつむいた。
どういうつもりで顔を上げたのだ。
許してもらえるとでも思っているのか。
この男はしっかり怒らないとダメな奴だ。
私はじっと睨み付けていた。
すると一人のおばさんが近寄って来た。
「もういいじゃない」
私は空いた口がふさがらなかった。
こんな変態を許せと言うのか。私はおばさんを見て怒りが更に沸き上がった。おばさんもうつむいていた。
私も一向に動こうとしない男に苛立っていたので、とりあえず席に戻ろうとその場を離れた。
すると、男がまたロッカーを開けた。
私の怒りは頂点に達した。
>> 74
しばらく職場は静かになっていたが、すぐにいつもの騒々しさが戻ってきた。
中にはまだ騒いでる連中もいたが無視した。私には急ぎの仕事があった。
男は帰って来なかった。
自殺でもしようとしているのかもしれない。
でも大丈夫だ。
情けない奴程生きたいものだから。
死んでくれても良かった。とにかく嫌いだったから。
「これをコピーしてくれるかな」
上司に頼まれコピー機に向かう途中で、廊下にあの男が立ってるのが見えた。
「あの人何やってるんだろ」
「誰か呼びに来てくれるの待ってるんじゃねぇか?情けねぇ…」
「うざ」
みんなさすがに文句を言い出した。
それはそうだ。子供のように迎えを待つ男の姿は、笑いさえ込み上げてくる。
私は「出来ました」と上司に渡し、そのまま定時まで仕事をして帰った。
「帰えんのかよ」
あの男の側を通る時に、男がボソッと言ったので「悪いかよ」と言ってやった。
まだ懲りてないらしい。
まだ私に関わるつもりか。今度はケンカ相手にでもなりたいのか。
「仕事しないならアンタも帰れば?」
軽蔑の眼差しと共に言ってやったが、下を向いている男には見えなかったらしい。
「えっ…」
嬉しそうに顔を上げた男は、私の表情を見てまたうつむいた。
(一緒に帰るつもりだったのか?)
声には出さなかったものの、私は驚いた。
ここまでの流れからして、私がこいつを受け入れるという考えがどこから出てくるのだ。
女をなめているのか。
「アンタ…今まで甘やかされて育ったんだねぇ」
ババア達が甘やかしているのは知っていたが、女に守られて生きてないとここまで情けなくならないだろう。
男をダメにするバカな女としか関わって来なかったのが分かる。
「アンタ、それじゃ一生彼女出来ないね」
>> 77
私はもう諦めて帰る事にした。
「じゃおばさん達に可愛がってもらうなね」
私は哀れみを込めて言った。男は下を向いて固まっていた。
帰りにおばさんが話しかけてきた。
「どんな人が好みなの」
「いきなりなんですか。少なくとも、おばさんの後ろに隠れない男ですよ」
「そんな…」
「大人の男性なら、女性に自分で声くらいかけられるはずです」
何も、いきなり口説く必要はない。
同僚なのだから、普通に話しかければいいのだ。
おばさん達と会話は出来るのに他がダメなんて理解出来ない。
つまりはおばさん達みたいにおだてて、持ち上げてもらわないとダメだという事だろう。惚れた女に最初から「自分を持ち上げてくれ」と願うなんて勝手過ぎる。
「まともに会話出来ない男と付き合うなんて無理ですね」
おばさんはこちらが気を使えばいいとぬかすので無視してやった。
そりゃ誰にも相手にされないおばさんなら、おだてないと会話してくれる男もいないんだろうけど、こちらは男には困ってないのだ。
まともに話す事も出来ない程手のかかる40過ぎた坊やに、なんで気まで使ってやらなけりゃならんのだ。
結構キツめに言ったのだが、おばさんはまだ着いてきた。
「彼氏いるの?」
「いますけど?」
「上手くいってるの?」
しつこい。
私がおばさんをくっつけてくる男を嫌うのは、おばさんが嫌いだからだ。おばさんなら誰でもという訳ではない。男をやたら構いたがるおばさんは、必ず面倒な女だからだ。
「関係ないでしょ」
「上手くいってるの?」
「上手くいってますよ」
いつまで着いてくる気だ。
「結婚すればいいのに。したくないのかな」
やかましい。
お前に関係ない。
(恋したいと叫んでいる割には恋する暇を与えたくないんだ?)
恋がしたいおばさんは、恋する暇なく結婚したのだろう。
働きたくないとか、周りがうるさいとかの理由で結婚したから旦那にすぐに飽きて恋がしたくなるのだ。
「あなたはなんなんですか?」
頼んでもいないアドバイスを、つけ回しながら言うババアに、呆れながら口にした。
このおばさん、おばさん達からもはぶられていた。
女の輪に入れないから男にしがみついているのだろうか。
(やっぱり面倒な人だから?)
理由は後で誰かに聞こう。
私は何やらわめいているおばさんをまく事にした。
おばさんは「私、嫌いな人いるの。あなたもあいつ嫌でしょう」と笑いかけてきた。誰かを悪者にしないと友達作れない人なんだな。
(哀れだなぁ。なんで職場にいるんだろ。結婚してるなら、友達と遊んでりゃいいのに。)
ああそうだ。
この人友達いないんだ。
友達いない奴は駄目だ。男も女も駄目だ。
異性なら許してしまう事も同性ならちゃんと叱ってくれる。
いけない所を教えてくれる。
異性に依存している奴はダメ人間だ。
同性でも仲良くないと教えてくれないから、ちゃんと友達いる人は人間としてちゃんとしている。
こんな面倒な女、旦那にも飽きられ友達と出来ない、職場の人に面倒ばかりかける女なんて、いなくなっても悲しむ人もいないだろうし、消してしまおう。
私は、またあそこに頼む事にした。
>> 80
もう何度もかけていたので、番号を覚えていた。
仕事の帰り道に私はさっさと電話した。
「じゃ宜しくお願いします」
私は面倒だったので、おばさんと男の両者を消してもらうようお願いした。
さすがに貯金がヤバくなってきた。
私はかなり片付け屋に頼っていた。
私は人の本性を暴くのが得意だ。
面倒な人の面倒な部分、情けない奴はより情けなくなる。
(そして付きまとわれるんだよなぁ)
私は人に頼られるのが苦手なのだが、すぐに頼られたり期待される。
いや、使われる場合もある。
まぁどちらにせよ、私の周りをワンワンとハエが飛ぶように面倒な女が寄って来ていた。
時に情けない男まで連れてくるおばさん達と、どう関わればいいのか分からない。
>> 82
同僚に何気なく言われ、そういえば連続で消してもらっていたなぁと思う。
それでも事件にならないのは、自然といなくなっているから。有難い。あの面倒なだけの奴らがいなくなってせいせいしている。あれらに名前をつけるとしたら、ストーカーババアかな。
しかし高い。つり上がる値段にそろそろまずい感じだ。どうにかしてお金を工面せねば。
うちの職場は副業が許されている。
簡単なバイトでもするか。また面倒なババアが現れたらだけど。
そしてウザイ男共。なんでババアの力借りないと女に声掛けられないヘタレにばかり惚れられるのか。人の世話なんか焼いた事ないくせに、男に気に入られたいだけで口出してくるババアなんか間に入れやがるから、もめるしうるさいしたまらねぇんだよ、アホ野郎共。
>> 83
隣の部署とうちは部屋が隣同士だが、普段交流はない。
しかし、ある日突然呼び止められた。
さすがに私も少し戸惑ったが、話を聞くと何て事はない、いつもの男性の紹介オバサンだった。
世話好きオバサンが減っているとテレビで言っていたが、私の周りにはわんさかいる。
「彼氏いるの?」
余計なお世話ないつものオバサンの確認。
「いますけど?なんですか、突然」
私は毎度の事に飽きてしまい、あくびが出てしまう。
「…あの、結婚はしないの?」
「そのうちしますけど?」
「…」
男をチラチラ見ながら、ニヤついているオバサン。
(なんか言えよ。)
男はまたうつむいてニヤついている。
私はそのまま「では」と言って帰る。
と、手を捕まれた。
「なんですか」
「あの…」
>> 84
「…」
オバサンは悲しそうな目をしてただ見つめている。
「そんな目をしてもダメです」
情に訴えようとしたのだろう。
そんな事で付き合ってたら、男が何人出来るか分かったもんじゃない。
それに人の優しさにつけこもうとする奴は大嫌いだ。
私は手をブンブン振った。
「離して!」
私が叫んだところで「早く。ほら」とオバサンが男に言う。
「何する気!?」
すると、男が私の手を握ってきた。
オバサンは満足そうに頷いている。
私は「気がすんだ?」と男に言ってやった。
男はどうしていいか分からないといった顔をしている。
「離して!」
私は声をあげたが離してくれないので、思いっきり引っ掻いてやった。
「何が嫌なのよ!」
ババアがいきなりキレた。
「あなたがくっついてる事が嫌なんです!どっか行って下さい」
何故に側で監視するように見ているのだ!お見合いだって二人の時間作るだろ!なんだ、ババアとも付き合えってか!
「この方(男性)と二人で話したいんです!席を外して下さい!」
男だけならなんとかなる!つーかババア抜きで話が出来なきゃ付き合うなんて無理だろ!ババアは「え~?」って顔してる。そんなにお気に入りなのか!じゃお前が付き合えよ!
ここまでのやり取りになるまでなんと6時間半も経っていた。どんだけ暇な奴らなんだ。そりゃ女作る為なら男は必死だわな!でもこのババアはなんだ。男好きなババアは、大体旦那はほっぽり離しなんだよな。
結局、ババアが離れようとしたら男がキレて、ババアは逃げて行った。
>> 87
「私、酷い目に合わされたの。あの子酷いのよ」
次の日職場では、ババアが必死になって噂を広めていた。
あっちこっち渡り歩き、仕事なんてしやしない。ババアにとっては悪口が何よりも優先されるのだ。
「あの子そんなに悪い子じゃないですよ」
庇ってくれる優しい先輩からはプイッと逃げていく。
私の仲間の所にも行っていたが目で合図した。
(相手にしなくていいよ)
仲間は(分かった)と頷いてくれて、話を流してくれた。
「あいつに酷い事をされたのよ~。あいつは酷い奴なのよ…」
「何されたの?」
付きまとわれてる人が、不機嫌そうに聞いている。
「せっかく萬田君を紹介してあげたのに付き合おうとしないの」
男を顔で選んでるだの、お金持ってないからだの、勝手な事を言ってる。
まぁそれも基準ではあるけど。
「付き合うかどうかは本人次第でしょ。なんであなたがそんなに必死になってるの…」
当たり前の事を言われただけだが、ババアは憤慨して何やら叫んでいる。
>> 88
「面倒臭いなぁ」
その声が後ろから聞こえたと思い振り向くと、仲間の一人が立っていた。
手をパタパタさせて不機嫌な顔をしている。
オバサンは私を仲間外れにしようと、あっちこっちで「あいつがあいつが」と大暴れ。
私は思わず吹き出してしまった。
正直、ここまでバカとは思ってなかった。私より先にいるくせに、若い子いびる以外何もしてこなかったのがよく分かる。
オバサンは若い子みんなが気に入らないのか、とにかく悪口ばかりあっちこっちで言っている。若い子達にバカにされて相手にされないのにつきまとったあげく嫌われて、今度は悪口言って更に嫌われる。
「私がこんなに言ってるのに!彼だって可哀想でしょ!」
「フラれる事も経験よ」
今度はあの男を挟んで騒いでいる。
「ダメよ!私が気に入っているのに、彼女が出来ないなんておかしいわ!」
そう言って、また私の所に来た。
「どこが気に入らないのよ。付き合ってる人いないならいいじゃない」
「いや、いますから。騒がないで下さい」
オバサンの一文字に閉じられた口から、歯ぎしりしている音が聞こえてきそうだ。
子供の頃から、いじめや人をからかう事だけが楽しみだったんだろうな。
(残念。もう少しやかましくしてれば、消してやったのに。お金貯めてたのにな)
バカがバカをみるのを見た面白さと、仕返し出来なかった悔しさとか混ざる。
ヘタレ男はどうするだろう。
「あいつ、こっち見てるよ」
同僚の声に男を見てみると、目が合った。
ニヤリと笑ってうつむいた。ババアに隠れる奴は、決まってうつむくな。
鬱陶しい。
男はうつむいたまま立ち止まった。
「話しかけて欲しいみたいね」
「手間のかかる男って嫌い」
人の優しさに甘える奴が、私は大嫌いなので、男に聞こえるように言ってみた。
「俺、可哀想でしょって感じが腹立つ。オバサンの同情誘って生きてきたのが分かるよね。女に守ってもらわないと生きられない僕ちゃんに彼女は早いんじゃないの?だって男性として見れないじゃん」
>> 93
それからしばらくはおとなしいものだった。
(でも油断出来ない。)
男という者は、おとなしい奴ほどしつこい。
オバサンに甘えている男は、十中八九しつこい。
「あんたの後ろ。あの男が立ってるよ…」
同僚に言われて振り返ると、うつむいた男がボーッと立っている。
「何なの…言いたい事があるなら言えば?ないなら、どっか行ってくれない?」
男は黙って立っている。
私はわざとぶつかって、別の場所に行った。男はじっとしている。死んでるみたいで気持ち悪い。
それから、気づくと男が背後に立つようになった。
声かけられるのを、ただひたすら待つつもりらしい。
「鬱陶しいなぁ。付いて来ないで」
>> 94
私はだんだん耐えられなくなってきた。
これが目的だろうか。
男は俯いたまま固まっている。
ぞくっとした。
どうしていいか分からないでいると、またあのオバサンがご機嫌な顔して寄ってきた。
オバサンは私と男を準に見て、丁度真ん中に立った。
そのままニヤけた顔で俯いた。
「やっぱりあなたと付き合いたいのよ。付き合ってあげれば?」
俯いたままオバサンが言ってきた。
なんでこの状況でそのセリフが出るんだ。
男はニヤニヤしている。
「何言ってんの。バカじゃないの。いい加減にしてよ」
「エヘヘヘ。そんな事言って、本当は嬉しいんでしょ。あまり焦らさないであげればいいのに」
「あんたの頭はどうなっているの?」
「え~…」
ババアが人をバカにしたような顔をした。
もう消そう。
「もう死ねば?」
「なんでそんな事言うの~?」
相変わらず人をバカにした言い方をして喜んでいるので、私はキレた。
(消えてしまえ)
私はまたあそこに電話する事に決め、二人を置いて帰ろうとしたら、ババァが立ちふさがって来た。
「どいてよ!」
「え~?」
「小学生かよ」
私は呆れてボソッと言った。
ババァが俯いたので、その間に振り切った。
二人が見えなくなると
「あの片付け屋さんですか。お願いしたいんですが」
「何人ですか?いつまでに?」
今回は細かい事まで聞かれた。
「面倒だな!」
怒りが爆発していたので、電話を切った後、少し大声をあげてしまっていた。
しつこい奴は腹が立つ。
(でも、これで消える!)
ふと気づくと、知らない女の子がこちらを見ていた。
>> 96
「あのオバサンが嫌なんですか」
「え?」
「なら連れて行きますね」
「え、あの…」
女の子は、私のいた方へ走って行く。
電話口でも、出るのはいつも女性だったが、あんな幼くはないはずだ。
「なんだろ、あの子」
気味が悪いが気になる。
私は女の子の後を着けて、元いた場所に戻ると、まだ男とオバサンが立っていて思わず「ゲッ」と言ってしまった。
二人は向かい合わせに立っている。二人とも足元に視線を落とし固まっていた。ああいう人に迷惑を平気でかける人って受け入れてもらえないと、すぐどうしていいか分からなくなるんだよね。
余計な事して人に絡んで自爆するバカ。
「オバサン、そこいると邪魔だよ。何やってんの?」
オジサンに怒られて更に固まっている。
「あの、大丈夫ですか?」
「え、はい。あら女の子」
「こっち…」
女の子に手を引かれオバサンが歩いて行く。困惑している。
>> 97
だが、女の子はお構い無しにドンドン歩いていく。
「ちょっと!離してよ!」
オバサンが叫びながらもがいているが振りほどけないらしい。
あんな幼い女の子にオバサンが力で敵わないなんて事あるとは思えないのだが。
男は身動ぎ一つせず固まっている。
「ちょっと、どこ連れて行く気よ。私帰る。離しなさい!」
鋭いオバサンの声が小さくなる。
(じゃ連れて行きますねって、あの子どこに?)
あの子が今まで、私の依頼した人を消してくれていたのだろうか。
女の子がオバサンを連れて歩き去ると、今度はものすごい勢いで別のオバサンが走って来た。
(今度は何?)
「あんたね?」
オバサンが男の前で立ち止まると、突然男に話しかけた。
男が困惑しているとオバサンは男の周りを回り出した。
その異様な光景に、彼が固唾を飲んでいるのが分かる。
「あんたオバサンが好きなんでしょ。オバサンいないと不安なのよね」
>> 98
オバサンがニヤリと笑うと、男は一目散に駆け出した。
「あらどうしたの。一緒にいてあげるわよ?待ちなさい」
オバサンが追いかけて行く。
「何あれ…」
「もうすぐ消えますよ」
私の後ろから、女の人の声がした。
(この声は聞いた事がある。)
振り向くと、ロングヘアーの美人が立っている。
いつも電話で聞いていた声。
この人が、片付け屋だと確信した。
その人は、ゆっくりと男達が走って行った方へ歩き出した。
その表情は、まるで人形のように無機質だった。
「見に行きませんか」
彼女は振り返り、無表情のまま私に語りかける。
「あなたが片付け屋さんですよね?これから消えるってどういう事ですか?」
私は酷く戸惑っていた。
どこからか大きな音がした。
>> 100
あのオバサンはどうなっただろうか。
今までの人はどうだったのだろう。色々考えていたら、先ほどまで気になっていた片付け屋の存在を忘れていた。
彼女はスッカリ姿をくらましていた。
私は気がついたら家に着いていた。色々な事に頭が軽く混乱していた。
「良かったけど…。死んだよねあの男。…殺された訳じゃないよね?」
片付けるという事はそういう事だったのか。
でも、あくまであれは事故だった。
いなくなったのは嬉しい。しかし、なんともスッキリしない感じがした。怖くもあった。
それでも次の日からなんら変わらず、私は仕事をしていた。
どんな事が起こったのか分からないけど、考えてても仕方ないからだ。
「あれやってありますか」
「あれやっといて」
「あれどこやった?あれ、そういえばあいつは?」
みんな自分の事でいっぱいだから、オバサンみたいに、他人の事ばかり気にしている人はいない。
>> 101
でもそれでいいのだと思う。
オバサンみたいに人の世話焼きたいならそういう仕事をすればいい。
結婚相談所とかに勤めればいい。
まともに仕事しないで、モテない40男にへばりついているよりずっといい。いちいち男を連れて追いかけ回される女の子はいい迷惑だ。
大の男が人と会話出来ないってなんだ。
それでも大人か。
女の子と話すのが恥ずかしいって、オバサンの後ろに隠れる以上の恥ずかしい事かよ。
(単に面倒なだけでしょ。黙ってりゃババアが女連れて来てくれるんだから、利用しない手はないもんね。)
おとなしくしてりゃ可愛いと言って世話焼いてくれるんだから、男にとってオバサンは利用価値のあるバカだろう。
男にへばりつくババアは大抵若い女の子は嫌いだけど、仲良くしてくれるオバサン仲間がいないから、若い子に仲良くしてくれとしつこく迫る。
話しかけるネタに男を使っているのだろう。
お互い利用しあっているから達が悪い。
それでいて、女の子をいじめたり、嫌がらせしたりして喜ぶのも、こういうオバサンやモテない男なのだ。
「俺、ゆとり嫌いなんだ。あいつ仕事出来ねぇじゃん。アハハハ」と笑っておいて、隠れてその子を口説くが、女の子は悪口言われてるの気づいてるから落ちない。それでキレるからモテない。モテない男は中身がオバサンだからモテないのだ。
>> 102
仕事をしながらこんな事を考えていたらあっという間にお昼になった。
「何を食べよう?」
(色々考えていたらお腹空いたな)
私はボーッと歩きながら店を覗いて歩いた。
すると、感じのいいお店を発見した。
(ここにしようか?高いかな?)
ランチなら大丈夫だろう。私はそこに入った。
席に着くと、慌てて後から入って来た客がいた。
「相席宜しいですか?」
店員に言われ、頷いた。
別に気にならない。食べ終わったらさっさと出よう。
「すみません、ハハハ!」
一人の男が席に着いた。
男はやたら話しかけてきた。
(話す事が好きなのかな)
初対面の人と話すのは苦手なので、ただ聞いていた。
男の話は主に自分の事で、自慢とも取れる話も多く、あまり面白くはなかった。
男は自分の事を話続けていた。
食べながら聞き流していると、つまらないかと訪ねてきたので、そんな事はないと一応弁解したが、他人の事に対して興味がない私は、何一つ聞いてはいなかった。
私は食べ終わると、先に店を出た。男が追いかけてきて、隣を歩調を合わせて歩いている。
ナンパなんだろうか。こういう男は、ナンパと思って怒れば勘違いするなとキレるし、気づかないフリをすれば気づかないのかとキレる。
鬱陶しい。
乙女ババアにしてやれよ。
何されたって喜ぶから。
私は走ってまいた。
しばらく男は追いかけて来たが途中で消えた。
「大丈夫?」
職場に戻ると、仲の良い子が心配して駆け寄ってきた。
私は息が切れていた。結構走ったらしい。
「べ、別に…」
私は慌てて大丈夫なフリをした。
1日仕事をしての帰り、女の子だけで集まって飲みに行く事になったのだが、何故か一人男が着いて来た。
女性ばかりの中恥ずかしくないのかと思うが、こいつは逆に女の集団に混ざりたがる。
モテない40男。
これも努力なのだろうか。
ウザイと思ったが、しつこく食い下がるし、面倒なので連れて行く事にした。だが、一向に話さないのは何故か?
恥ずかしくはないはずだ。
だったら来なければいい。まぁいいか。私はどうでも良いので仲間との会話を楽しんだ。
(今日は飲みたいな。)
予約してあった店にそれぞれ適当に座った。
お酒で乾杯をして話し出す。
「凄いね」
いつの間にか隣に来ていた男が話しかけてきた。
>> 105
話題は大体愚痴になる。
会社の飲み会と違って、仲間同士なので気楽だからだろう。
うちの職場は他の部署に比べて女性が多い。
だからか、女性同士のいざこざも多いし、男性は男性らしくない。
良く言えば優しいと言えなくもないが、中には腹黒い奴とか女の子にだけふんぞり返る奴もいて、あまり良い男はいない。
独身のオッサンが多い為、乙女ババアは男に仕事を頼まれるだけで舞い上がる。表向きは可愛い人という事にしているが、仕事出来ないわお節介だわ、若い子嫌いなくせに若い子につきまとうわで、私達のブラックリストに乗っている。
(あの男、ババアのスパイかな)
そういえば、職場を出る時にババアが彼を引っ張ってどこかに行くのを見たな。
男の方ばかりもつこのババアをおばさん連中も良くは思っていない。
だが、ババアは嫌われてるとは絶対思ってない。
このババアの何が驚くかって、思いやりというか常識がない所だ。最近、このババアがやらかしたある事が、私達だけではなく、職場で噂になっている。
うちの職場の一番若い女の子にババアはずっとストーカーのごとく張り付いていたのだが、最近は彼女の携帯に毎日電話をかけ、あなたのお父さんと私とあなたで旅行しないかとしつこいらしい。
私も休憩室にいる時に、ババアが女の子に詰め寄っているのを見た事があるが、彼女の母親は健在なのに、なぜお母さんだけ仲間外れにしようとするのか。
「そういえば、あのオバサン、その後どうなったの」
「今でもしつこいみたいよ」
「両親に話してもしょうがないしね…会わさなければいいだけだけど。家にまでは来てないんでしょ?」
私が飲みながら考えていた事が、いつの間にか話題に上がっていた。
すると、男が話に入ってきた。
「別に普通だよ。いいんじゃないかな」
と男が言ったものだから
「お母さんないがしろにしようとしてるのに?」
「人の家庭に入りこもうとしてるじゃん」
「つーか乗っとる気満々だよね」
男の一言に、女性陣大ブーイング。
まぁ娘に母親を裏切れと言ってるような言動だからね。そして父親との仲を取り持てと言ってるように聞こえるからね。あのババアにそこまでの気持ちがないかもしれなくても、誠実な女性なら嫌悪感を持つよね。
男は仲のいいオバサンを庇おうとしたのだろうが、そもそもオバサンと仲良くしたいなら若い子の群れには参加しない事だ。嫁姑が仲良くなるのが難しいように、若い子とオバサンは水と油なのだから。
それに男好きババアは考えてる事が理解出来ない。
単に寂しい夜の相手が欲しいだけなのを恋という言葉でごまかしている。
欲求不満のババアを理解出来るのは、女日照りの男くらいだ。
「俺とエリカさんは歳が近いからさ」
>> 107
「だから何よ」
「歳取ると、男ってオバサンに近い考え方になるの?」
「じゃ彼女出来ないね」
男の頬がピクッと震えた。
「オバサンの所帰れば!」
男は黙って固まった。
庇ってくれる人が出ないか、チラチラこちらを見ているが、みんな無視。
話題はすぐに変わったけど、男は固まったままだった。
私も会話を楽しんでいた。ら、とたんに男がバタバタと店を出て行ったので驚いた。
それから2時間後、帰る時には奴の事はスッカリ忘れていたのだが、店の前に立っていたのでまた驚いた。
いつもオバサンに甘やかされてるから、誰か自分を気にしてくれると思っているのね。小さい子ども相手にしてる訳じゃないし、40過ぎのオッサンを甘やかしてくれる女は、アンタより年上だけだよ。
「二次会行こう!」
声を掛け合って去っていく女の子達。
私も。
男は黙って見送っていた。
知らんし。
>> 110
あの人は、とにかく若い子が嫌いだったようで、気に入らない子にわざと近づいては、近くで監視するという事ばかりしていた。
まぁ友達もいた人だったのだがその友達に気づかれないように社員食堂に行く度に、その子の近くの席に着いては見ていたらしい。
「気持ち悪いんだ…」
その子に相談された事があるのだが、チラチラと見ては聞こえないように何か言ってるらしく席を代えても追いかけてくるので気持ち悪いらしい。
「気にして欲しいんだよ。構ってちゃんてやつ」
甘えた女だ。
痛めつけて気晴らししたいのだろう。普段は大して口もきかないくせに意地悪だけは上手いのだな。
「はぁ…」
「執着してるのは向こうなんだけどね。無視するとムキになるし、構うと騒ぐし、家庭が上手くいってないのかな」
私は乾いた笑いを浮かべた。
あの人はああいう人だと、知ってる者は多い。男性陣からは、関わりたくない女と思われている。
まぁ男性はどうでもいいだろうけど。結婚してて友達もいて何が不満なのか。とにかくいつも獲物を狙うハイエナのように、しつこくエグい女である。
「でも私、疲れました!」
まだ新人の女の子には、あやつは天敵だろう。
なんと言えばいいか考えたあげく、とりあえず励まして愚痴を聞いてやる事にした。
吐き出す場所は救いになる。
「愚痴を言えるだけで有難いです」
悪い子ではないんだがなぁ。しかし、色々大変な子だ。
「もう一ついいですか?」
仕事に集中したいのに、周りがどうも騒いでいるので、悩みが尽きないのだろう。
「何?」
(そういえば、この子を狙ってるオッサンいたから、それか?能無しオヤジ程、しつこいってやつか?)
独身の上司に彼女を狙ってるというか、告白してフラれた奴がいるのだ。
「あの人、なんであんなにしつこいんでしょう?」
「仕事出来ないのを独身だからだとか言ってたし、周りも結婚を急かすから焦ってるのかもね」
「私の物を勝手に使ったり、ニタニタ笑って来たり気持ち悪くてたまらないんですけど、いつもああなんですか?同僚の黒川君と話すなとか言ってくるし…」
あいつは、付き合う前の女に命令したりするんだよね。気に入った女は全部自分の女ってか。
ウザイ。
「黒川君は仕事出来るし、イケメンだけど、係長は不細工だからかなぁ」
軽口叩いてみる。
「あの人の性格が何より嫌いなんですけど、仕事一緒にしないといけないから、普通に接してはいるんです。構ってくれてると思ってるんでしょうか?」
「なんでも良い方に取るのも考えものだよね。ポジティブはいいけど、なんでも思い通りになると思い込むのは、傲慢だよ」
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