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妻の感情…VS 相手女の感情…

レス148 HIT数 196638 あ+ あ-

真澄( 0DD7nb )
12/02/09 22:51(更新日時)

私の彼…。

まさかの 既婚者…。

奥様からの電話。

世界は止まった。



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No.1727290 12/01/01 16:55(スレ作成日時)

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No.148 12/02/09 22:51
真澄 ( 0DD7nb )

中途半端なまま、小説は終わる。


なぜなら それが現実だから。


涼子の幸せを願いつつ、彼女がその後 どうしたのか、


翔平の全快を祈りつつ、彼の姿は 見ることもなく、


私は 一歩も進めないまま、過去の記憶に 捕われていて、


今もなお 毎日が未解決のまま過ぎていく。


いつか 優しい気持ちで 思い出を抱きしめる日が来るだろうか。


陰りゆく時が まばゆい光に 変わるだろうか。


悩める誰かが 新しい世界を見つけられますように。


読んで下さり ありがとうございました。



No.147 12/02/09 22:01
真澄 ( 0DD7nb )

それ以来、私は涼子とも、もちろん翔平とも 連絡を取っていない。


あの時、もう少し 頑張っていれば…。


そんな風に 今なら思えても、それは、後の祭りだし、


例え 頑張っても うまくいったとは 思えない。


人には 許容範囲というものがあって、


限界は自分が心得ていて、私には無理だった。


私は 弱い人間だった。


そして、その弱さゆえ、今でも 彼を忘れられない。


彼の職場の病欠は 3年で それ以上は認められない。


その後 涼子に対しての保障はもちろん 自分の生活さえ どうするのか私は知らない。


見えない未来に向かって 闘い続ける勇気を持てなかった私は 負け犬だった。


涼子の生活を奪っておいて 逃げ出した私は 卑怯者だった。


それでも 私は翔平をひたすら愛していた。


時たま 堪えきれずに 叫び出したくなる。


会いに走りたい気持ちを 堪え、


遠くからでも 一目見たい気持ちを堪え、


いったい 何を我慢しているのか わからなくなりながら、


一日一日を ただひたすら超えている。


物語が ハッピーエンドで終わるのは 童話の世界で、


もしくは 私以外の世界で、


エンドレスな苦い想いが 私を包みこむ。


もし…、本当に神がいるのなら、


救いがどこかにあるのなら、


せめて 涼子に幸福を。


私は彼女も愛してる。


まるで 片思いであるように、


翔平と供に 愛してる。


No.146 12/02/09 09:11
真澄 ( 0DD7nb )

ほんの少し間を置いて 涼子は話し始めた。


「翔平ね、地元の病院に移ったわ。昨日よ」


私の家で倒れた翔平は こちらの病院に入院していたが、


ご家族は 自分たちの家に近い病院を希望していた。


当然の成り行きだろう。


「遠くても、病院にいる間は なんとか会える時もある。
退院したら、会えないわよ?
いいの?」


「彼が……。会いたくないそうです」


「本心じゃないでしょ?」


「………。」


「貴方たちのことを思って カッコつけてんのよ。
そんなに強い男じゃないわ。」


「………」


「諦めたの?」


「……」


「そんなもの?」


「………」


「貴方の覚悟は そんなものだったの?
それだけのために 私は…」


彼女の言い方は 責めてる様子も 腹をたててる様子もなく、


呟きのような声で…。


それが、余計に私の胸に刺さった。


「すみません」


「いいのよ。別に貴方が悪いわけじゃないわ。
貴方の気持ちも わかるしね…」


「うまくいかないものね。人生なんて こんなものかもね」


涼子は続けて そう言った。


「真澄さん? 貴方 あんまり自分を責めちゃダメよ。」


涼子が 初めて 私を下の名前で呼んでくれた。


私は 気付いていたけど、そこには触れられなかった。


「ありがとうございます」


No.145 12/02/09 08:10
真澄 ( 0DD7nb )

翔平とのことを 今 誰とも話したくなかった。


でも 彼女には 骨を折ってもらった。


そんな筋合はひとつもないのに、彼女は私の頼みを聞いてくれた。


黙ったままでいるわけにいかない。


携帯を耳にあてる。


「桜田さん?」


涼子の声に安堵する自分が少しおかしい。


すべてを知っている人。


この人の前でだけは、私は素になれる。


「すみません。熱を出して寝込んでました」


「そう。体調も悪くなるわよね。もう いいの?」


「はい」


No.144 12/02/09 07:52
真澄 ( 0DD7nb )

「えっ? ちょっと! 真澄! 本当なの?
あんた 嘘で 人が死んだなんて 言ってるんじゃないでしょうね?」


無言の私に 母は怒りまくる。


「嘘?… なのね?
なんて子なの! 真澄! あんたは…! あんたって子は!」


母の目に涙が浮かぶ。


私は 見つめ返すことが 出来ずに 視線を外した。


可哀相な母。


でもいい。これでいい。


私は なにがあっても 本当のことを言いたくない。


このまま うやむや。


望む結果だ。


私は 黙って自室に閉じこもった。


三日ぶりに携帯を開く。


会社の優子からメールが2件。


涼子から 着信が2件…。


涼子さん……。


No.143 12/02/09 07:41
真澄 ( 0DD7nb )

「まったく! 離婚する時も 事後報告。
大事なことを いつも簡単に決めて 別れたり 引っ付いたり、何 考えてるの?!」


言わないことを簡単だと、結び付けるのは 何故だろう。


散々 苦しんだし、傷ついたし、でも その内容を他言するのは 憚れた。


元夫は 私以外の人間から 中傷されるような人物ではなかったし、


私たちは 和解して別れを選んだ。


それで いいじゃないか。


うるさい。うるさい!


私は 心配する母に対して、まったく優しくなれず、


一言 言い放った。


「翔平は死んだのよ」


大嘘だ。


まったく事実じゃない。


でも、私の中で 彼は死んだ。


そうじゃなければ、納得いかない。


愛してるのに。


彼だって 私を愛してるのに。


No.142 12/02/09 06:53
真澄 ( 0DD7nb )

「いったい どうしたの?
先生は『相当疲れが溜まっていたんでしょう』って おっしゃっていたけど、
莉子に聞いたわ。翔平さんも入院しているんですって?
何が どうなっているの?」


母には 何一つ言っていなかった。


「真澄さんを一生大事にします」と、
挨拶をした 翔平が実は既婚者だったなんて 口が裂けても言えなかったし、


そんな 彼が入院したとなれば、お見舞いに行くと言うだろうし、
彼の親に会わせるわけにはいくまい。


今さら 本当のことを話して 母を傷つけたくない。


かと言って どう説明していいかわからない。


「もういいの。終わったの。」


母は 憤慨した。


「真澄! いい加減にしなさいよ!
子供じゃないのよ。
簡単に付き合ったり、簡単に別れたり、いい大人が みっともないことしないの!
莉子に恥ずかしくないの?」


黙れ! 私は恥ずかしいことなんて 一つもしていない。


真剣に愛したし、たくさん努力した。


でも 願いはまるで叶わなかった。


私一人の力じゃどうすることも 出来ないんだよ!


と、心の中で叫んだだけで 何も答えなかった。


No.141 12/02/08 15:12
真澄 ( 0DD7nb )

鍵をカチャっと 開ける音が聞こえた。


莉子。お帰り。

せっかく 莉子の帰宅時間に ママはいるのに、なんだか 動くことが出来ないの。


ごめんね。 少し休みたい。


少し 眠らせて。


「ママ?」


「ママっ!」


遠くで人の声がする。


私の髪を撫でる大きな手。


大きな…?


いいえ。小さな、でも 力強く優しい手。


莉子…。 愛しい娘。


「気付いた? ママ 熱出してね、倒れてたんだよ。
すぐ 良くなるよ。
大丈夫だよ。すぐ治るんだから」


入院は たったの三日で 私はその間 圧倒的な対比で眠り続けた。


田舎から 母が来てくれていて、退院後 私はすぐに現実に直面しなければ、ならなかった。


No.140 12/02/08 14:48
真澄 ( 0DD7nb )

翔平と出会ったのも

不倫だったのも

やがて 私の元に来てくれたことも

倒れて生死をさ迷ったのも

そして 結局別れを迎えたのも


すべて すべて架空のことみたいに思えた。


この過去たちも、翔平との楽しかった日々も もうこの世の何処にもなくなった。


今、現実にあるのは 疲れた体を横たえた 西日の射す和室だけだ。


ふふっと 私は軽く笑う。


現実の翔平と 現実の私を繋ぐ絆は どこにもない。


記憶だけが、愛の証で そんなものは クソの役にも立たなかった。


愛を盾に 愛を鉾に 闘い続けて みんな不幸になった。


翔平…。 私たちは 大事な人たちを傷つけただけで


何一つ 手に入れたものはなかったね。


ははっ 馬鹿みてー


涼子さん… ごめん…


No.139 12/02/08 12:25
真澄 ( 0DD7nb )

重い足を引きずって なんとか 家にたどり着いた。


ブーツを乱暴に脱ぐと、揃えるのも めんどくさくて、

這ったまま 和室に寝転んだ。


障子を通して 西日が柔らかく私の背中を照らした。


莉子の作りかけのミサンガが ほうり出されていて、
それを 横目で眺めた。


「翔ちゃんとお揃いで ママにも作ってあげるね」


莉子ちゃん…。


ごめんね。


大人の都合で 振り回しちゃったね。


翔ちゃんは また、いなくなっちゃった。


今度こそ 戻って来ないみたい。


もう 翔ちゃんに そんな力は無いみたい。


ママも疲れちゃった。


とっても疲れちゃった…。


もう 頑張れない。


頑張りたくない。


胸を抑えて 丸くなる。


もう 髪を撫でてくれる人はいない。


しっかりしなくちゃ。


莉子が帰ってくる。


こんな姿を見せられない。


なのに、起き上がることが出来ない。


No.138 12/02/07 19:59
真澄 ( 0DD7nb )

余談です。


二泊三日で 莉子を連れ 沖縄に行って来ました。


2/5(日)那覇空港は、摂氏20度という暖かさで レンタカーの窓全開で風を受けながら、


旧海軍指令部豪と、首里城を回り、


翌日は 23度の中、今帰仁城と桜を堪能しました。


桜は すでに半分葉桜でしたが、揚羽蝶がヒラヒラと飛び回り 卵を産むのでしょうね。


ビンクと黒のコラボに 世界遺産の石階段は 見事な調和を産んでいました。


翔平と付き合い始めて 初めて二人で旅行に訪れたのが、沖縄で、


あの頃の私は まだもう少し若く マリンスポーツにハマっていたので 観光よりも 海がメインでした。


いつだって また一緒に来れると 固く信じていた私ですが、


人生に絶対は 無いものですね。


皆さん 今の幸せを大事にしましょう。


明日から また続きます。


よろしくお願いします。

No.137 12/02/04 11:09
真澄 ( 0DD7nb )

「ここからが本番ね!」


【その健やかなる時も、病める時も、
この女性を愛し、慰め、助け、敬い、
その命の限り、誠実を尽くすことを誓いますか?】


「翔ちゃん?」


「あっはい。誓います」


♪パパパパーン パパパパーン パパパパンパカパパン パパパパンパカパパン
あいらーびゅー ふぉえーばー あなたーだけーのためー♪


調子っぱずれの 私のでかい歌声に乗せて


翔平は 私にリングをはめてくれた。


私は「おめでとう!翔ちゃん!」と、飛びつき、


翔平は 「えっ?俺? いやいや おめでとう真澄ちゃん」と、私を抱きしめた。


遠い昔なんかじゃない。
ついこの間だ。


病める時も…


慰め… 助け…


命の限り……


私は 泣いた。


大声で…。


道行く人が 振り返る。


どうでもよかった…。


No.136 12/02/04 10:45
真澄 ( 0DD7nb )

翔平の笑顔が蘇る。


リビングの真ん中で 私は嬉しくて はしゃぎながら 神父様のマネをした。


照れ臭かったのだ。


【愛は寛容であり親切です。
愛は自慢せず 高慢になりません。
不正を喜ばずに 真理を喜びます。】


「ほら、翔平!あんたは以前、不正をして 真理を破ってんだからね。
良く 聞いてよ」


翔平は苦笑する。
「はい。すみません。聞いてます」


【すべてを我慢し、すべてを信じ、すべてを期待し、すべてを堪え忍びます。
愛は 決して絶えることは ありません】


「真澄……。まだ続く?」


「まだまだだよ!」


「ふぇー!」
クスクス笑う翔平。


「いつまで残るのは、信仰と信頼と愛です。
その中で1番優れているのが愛です。」


「俺、信仰ないよ」


「私もよ!黙って!」


No.135 12/02/04 07:07
真澄 ( 0DD7nb )

「えっ? あの… 」


弟さんが何か言いかけたが、私は それを遮った。


「ご両親にも お伝えください。
いろいろと申し訳ございませんでした」


背中に視線を感じながら 私は歩いた。


彼等に会うことも 今日で最後だ。


終わったのだ。


なにがなんだか よくわからないままに、私の愛した人が 私を拒絶した。


何も考えたくない。


もう 何も考えられない。


モノクロの映画のように 色彩が消え、


私の薬指にはめられたダイヤのリングだけが まるで世界の一点みたいに鮮やかに輝いていた。


二度と私を放さないと約束した 誓いのリング。


こんなものはもう ただのゴミだ。


誓いは破られた。


私の指にはめてくれた その手が 私を突き放した。


そっと 指輪を外す。


すっかり 葉を散らした街路樹に向かって 私は指輪をぶん投げた。


「嘘つき!」


No.134 12/02/04 06:42
真澄 ( 0DD7nb )

談話室でテレビを見ながら 待っていてくれた弟さんとそのお嫁さんに声をかける。


「ありがとうございました」


「あ…。いえ…。」


二人とも少し困ったような顔をしている。


縁も所縁もない私に こうして時間を作ってくれたのは ひとえに兄貴のためで


ご両親と看病の交代を申し出て この場を設けてくれた。


ありがとう。そして…。

ごめんなさい…。


「お話できました?」


ぎこちない笑顔で お嫁さんが声をかけてくれる。


「はい。もう来ません。
それが 彼の望むことでした。
お世話になりました」


深く頭を下げて、私は彼等を見た。


どうぞ 翔平をよろしくお願いします。


だが、それは 私が口に出す一言ではあるまい。


No.133 12/02/03 06:55
真澄 ( 0DD7nb )

人に器があるのなら、


私の器は まるで三々九度の盃並に浅すぎて、


すぐに いっぱいいっぱいに 溢れ返る。


やっと 掴んだはずの 翔平との幸せが いとも簡単に 流れ出す様を なんとか止めようと、


動けば動くほど、盃は揺れて…


とうとう 全部こぼれ落ちてしまった。


「それが…。 翔ちゃん。
あんたの答えなんだね。
もういい。わかった…」


私は疲れてしまった。


なんだかもう いろんなことが うまくいかなくて…。


もがけば、もがくほど 蜘蛛の巣に絡め取られるように 身動きが取れなくて…。


「翔平? 本当に終わるのね?
真澄がいらないんだね?
結局、そんなもんなんだね?」


目を開けない翔平に、


「ばかやろう」と、呟いて 病室を後にした。


No.132 12/02/03 06:32
真澄 ( 0DD7nb )

私は 翔平の前だと、いつだって直情型で、

すぐに怒ったり ムキになったり 泣いたり 喚いたり、


落ち着いて 冷静に考えて、状況を汲み取り、言葉を選ぶ


そんなことは とても出来ないほど、愛してて


「嘘つき! 嫌! 別れないから!
翔ちゃん! 嫌だよ!
なんとか言ってよ!」


言いたくたって 何も言えない翔平に向かって、


こんな言葉を投げつけて、


こんなはずじゃなかった


こんなことに なるなんて 私はどうしたらいいの?


ただ そればかりがグルグル頭を駆け巡って…


ただ翔平を罵った。


No.131 12/02/02 18:15
真澄 ( 0DD7nb )

どうして? ねぇ、どうしたの?


「まさか、こんな中途半端に別れたいんじゃないよね?」


悪い冗談だった。 本気で聞いたんじゃない。


そうじゃないと教えて欲しかったし、


ただ沈黙が 辛かったから、ふと、口に出しただけだ。


肯定されるなんて 思ってもなかった。


それなのに…。


翔平は 弱々しく私の手を握った。


「嘘だ…。なんでそんな嘘をつくの?
別れるなんて そんなことが出来るの?
こんな時に 私たちは お互いを放り投げるの?
翔平、あんた馬鹿じゃないの?」


また 無反応。


「こっち見なよ! 私を見て答えなよ。
ねぇ、本気で私と別れるの?
一人ぼっちになるつもり?」


彼は 小さく頷いた。


鳥肌がたった。


ワナワナと唇が震える。


手を振りほどき 私は大きな声を出す。


「嘘つき! もう 絶対 私を一人にしないって誓ったくせに!
愛してるくせに!
私を愛してるくせに!
私は ちゃんと知ってるんだから!」


No.130 12/02/02 07:13
真澄 ( 0DD7nb )

つぶったままの両目から 涙が ツーっと左側に流れていた。


私は 右側のパイプ椅子に座っていて それが見えなかったのだ。


「いろんなこと いっぺんに言い過ぎたよね。
ごめん…。
私、焦ってたんだ。このまま 二度と会えないんじゃないかって…。
翔ちゃん、一つだけ約束して。
私たちは これからも 一緒だからね?」


何も答えない翔平。


私は 彼の手を取った。


「約束してくれるなら、手を握って。
少し不安で それが聞きたいだけなの」


しかし…。


翔平は 手を握り返してくれなかった。


No.129 12/02/02 07:05
真澄 ( 0DD7nb )

せっかく マトモに会えたのに。


やっと 二人の時間なのに。


人間は 本当に勝手な生き物で

翔平が生きてさえくれればいいなんて願ったことは、

もう どこかへ吹っ飛んで、それ以上のことを望むように なってしまう。


早く 回復しますように。


ご両親が 理解してくれますように。


仲良く 一緒に暮らせますように。


望みは尽きなくて 後から後から湧いて出てくる。


「翔ちゃん? 私 悲しいよ? ここは、一緒に頑張るって約束するとこだよ?
肝心なとこで なに、無視してんのさ?
ねぇ、私の顔見てよ!」


私は 翔平の顔を覗き込んだ。


泣いてるの?


No.128 12/02/01 20:46
真澄 ( 0DD7nb )

翔平は今 普通の心と身体じゃないのだ。


それなのに 私はイライラした。


毎日 毎日 仕事を終えて クタクタの足を引きずりながら


ただ 会いたい一心で病院へと足を運んだ。


罵倒されたり、無視されたり、


その上 会わせてもらえず、


泣きべそをかきながらも、一日も欠かさず それを続けてきたのは、


私の気持ちが中途半端だと思われないよう


この先の 私たちに繋げようと、


必死に努力してるんじゃないか。


なに そっぽ向いてんだよ。


こっち向けよ。


ちゃんと 意思表示しろよ。


なんで 私を見ねーんだよ!!


No.127 12/02/01 20:34
真澄 ( 0DD7nb )

「あのね、翔ちゃんの お父さんとお母さんがね、
私にもう来て欲しくないって…。
仕方ないよね。突然、孫に会えなくなって 翔ちゃんが倒れて、私に構ってる暇なんてないもの」


翔平を責める言い方にならないように 一生懸命考えながら 言葉に出してみたが、


うまく 話せない。


でも、努めて明るく現状を話した。


翔平の視線が 何故 こんなに辛いのだろう。


「翔ちゃん。一緒に頑張るからね。
ずっと一緒にいるからね」


彼は……。


握っていた 私の手を ダラリと放した。


翔平…?…。


頭を反対の窓の方に ほんの少し傾け


それきり 私を見なくなった。


おい……。


なんなんだよ。


こっち向けよ。


「ねぇ、どうして そんな態度? 」


もう ピクリとも動かない。


No.126 12/02/01 12:18
真澄 ( 0DD7nb )

ほんの少し触れただけで 腕は 落ちてしまったけど、


今度は 私の頬に触ってくれた。


肘がベッドについてる分 ラクなんだね。


「これね、莉子の手作りのミサンガだよ。
翔ちゃんが 早く良くなりますようにって 作ってくれたの」


私は 細くなってしまった翔平の手に ミサンガを巻いた。


「切れる時にね、願いは叶うんだよ」


「翔ちゃんの願いも もちろん叶うんだよ」


結びながら 私は泣けてきて


泣かないって決めてきたのに、


涙が次々出てきて


「……あ………り………と……」


【ありがとう】


「うん。莉子に伝えるね」


泣きながら 笑った。


お父さん、お母さん。


お願いします。


こうやって 翔平のそばに少しでもいたいのです。


あぁ。どうしたら、そうさせてもらえるのだろう…。


No.125 12/02/01 12:02
真澄 ( 0DD7nb )

彼は親指で 私の手の平を 優しくこすった。


指先から 愛が流れ込んでくるようで


思わず翔平の手に口づける。


「………ま………す……」


「うん。真澄だよ。会いたかったよ」


「……………ご………」


しばらく待ったけど それ以上は 言葉が続かないようだった。


【ごめん】きっと そう言いたかったのだと思う。


「今日はね、絶対に会えたるのわかってたから、お洒落したんだよ。
ほら、見て。
ネイルに行ったの。
グラデーションにね、桜の花を書いてもらったよ」


空いてる方の手を 翔平の顔の前に持って行った。


「綺麗でしょ? 桜田の桜だよ?
縁起も良さそうでしょ?」


また 翔平が笑った。


私は 嬉しくて 喋り続ける。


「翔ちゃん。髪型もちゃんと見て。
気合い入れたんだよ。
クルーさんみたいでしょ?
翔ちゃんの好きな夜会巻きだよ」


翔平が手を伸ばして 私の髪に触ろうとした。


腕が ずいぶん上がるようになったんだね。


触ってよ。翔ちゃん。


翔ちゃんのために 髪をあげてきたんだよ。


No.124 12/02/01 11:43
真澄 ( 0DD7nb )

窪んで 黒ずんだ目許を しばらく黙って眺めていると、


ふと、翔平が目を開けた。


ぼんやりとした瞳に焦点が定まるのを確かめて


「起こしてごめんね。おはよう」


昼過ぎだけど 私は そう言った。


頷く彼が 少し微笑んだ気がした。


だから 私も笑顔を返した。


ベッドを起こして 座らせてあげたかったけど、


そんなことをしたら 身体の負担になるかもしれない。


普段 ご両親と看護士さんが どんな風にしてあげているのか 私は 一つも知らない。


悲しくなった。


でも、久しぶりに会えた翔平に 私の笑顔だけを見て欲しい。


「翔ちゃん。ちっとも会えなくて ごめんね」


横たわった翔平の手を取り 祈る形に自分の手を絡めた。


二人で いつも 手を繋いでいた時みたいに。


No.123 12/01/31 20:25
真澄 ( 0DD7nb )

彼に会う機会が訪れた。


涼子だ。


私は 涼子に泣きつき 涼子が彼の兄弟に頼んでくれた。


「桜田さん。意地悪で言うんじゃないわ。
この先 翔平とまともな生活を送れる保障はないのよ?
貴女はまだ若いんだし、お子さんもいるのよ。
翔平を忘れた方が 貴女のためじゃない?」


言いにくいことを 躊躇うように 涼子は言ってくれた。


でも、それではダメなのだ。


無計画で 無鉄砲でも 今、翔平の手を放してしまったら 後悔する。


それだけは わかっていた。


ため息をついた後、涼子は兄弟に連絡を取ってくれた。


そして、私は翔平と対峙する。


私の命…。


オシャレな彼の見る影はなく、やつれ、無精髭をはやし、髪もグチャグチャだけど、


私の心は 愛しさに震えた。


No.122 12/01/31 20:12
真澄 ( 0DD7nb )

通りかかった 看護士さんに声をかけられる。


「どうされました?大丈夫ですか?」


いいえ。大丈夫じゃありません。


私の愛する人の命が 助かったというのに、


私は 彼を失わなければ ならない。


どうか 助けて下さい。


翔平に会わせて下さい。


翔平が 私の命です。


お願いします。


「いえ、大丈夫です。すみません」


私は…。


いつまで 平気なふりを続けなければ いけないのだろう。


No.121 12/01/31 20:05
真澄 ( 0DD7nb )

「翔ちゃんから 離れるのが 本当に翔ちゃんのためですか?
お父さんとお母さんが そう思っても 翔ちゃんは そうは思ってないはずです」


言い方は 確かにマズかったと思う。


もっと お願いの姿勢を取るべきだったのに、


私は 引き離される恐怖に つい 本心を話してしまった。


翔平のために 貴女に何が出来るのよ!


もっともな理屈で 怒らせてしまった…。


彼と話させてくれと 懇願しても


あなた達が苦しいだけだから、やめなさいと言われ、


何よりも まともな会話はできないわけで…。


それでも、私は食い下がった。


翔平自身が それを望むのなら 諦めます。


だから 二人っきりで話させて下さい。


願いは 叶わなかった…。


病室の前で 思わず座り込む。


翔ちゃん。翔ちゃん…。


城壁がご両親の手でずっしりと閉まる。


どうして…?


たった一度のチャンスも 貰えないまま、私は諦めるしかないのだろうか。


No.120 12/01/31 10:34
真澄 ( 0DD7nb )

扉の向こうに 翔平がいるのに、


それは、城壁のような厚さを持って 私を阻止する。


ご両親を張り倒して ドアを蹴破りたいが 出来るはずもなく、


ある日 とうとう


「翔平のためを思うなら もう来ないでくれ」


と、はっきり口に出された。


先に書いたように、お金の問題や 看病について


私に出来ることが あまりにも少ない現状は


どうにも解決できることではなく、


ご両親にとっては、正当な意見だと思う。


でも 私は 納得できなかった。


No.119 12/01/31 10:24
真澄 ( 0DD7nb )

翔平の後遺症は 決して軽いものではなく


一週間たっても 指先や足先くらいしか動けなかったが


根気強くリハビリをしていけば、成果は期待できるということだったが、


問題は失語症の方で 思ったことを 口にすることが難しく


その姿を見るのは痛ましかった。


でも 私は そんなに頻繁に 翔平には会えなかった。


ご両親が 嫌がったからだ。


お花や入院のための備品などは 受け取ってくれたが、


渡っていたかは 定かではない。


時々 彼の兄弟が病室にいる時は 入れてもらえた。


気の毒に思ってくれたようだ。


私は どんどん憔悴していった。


会いたい…。


そんなちっぽけな願いすら 叶わない。


それでも、ただ、ただ 足を運んだ。


No.118 12/01/28 23:06
真澄 ( 0DD7nb )

余談です。


ネタばれをしたい訳では ないのですが、


どうしても 寂しくて やりきれなくて


悲しくて ただ哀しくて…。


たった一晩の夜を越えることが


とてつもなく苦痛で、

薬の力も お酒の力も


保証してくれる時間は 3時間。


うなされて 淋しさに耐え兼ねて 眠りから目覚めて


ただ、淋しくて…、


もう どうしても 生きることが 苦痛で


親のために 子供のために なんとか 踏み止まる毎日は


渇いて 飢えて


女である前に 母親だとか、人間だとか


そんなことは 理想論で


親への愛と 子供への愛と 男への愛は 似ていて比なるもので、


優劣など つけれるものではなく


それぞれが 各々大切なもので、


何一つ 欠けても 私は私でいられない。


すべてを欲することが、欲張りだと言われても、


すべてが 揃わなければ 不十分で


心に空いた穴は どれか一つが満たされても 埋めることは出来ない。


子供のために?


子供は 私の命だ。


親のために?


親への 感謝は言葉では 言い尽くせない。


愛する男は?


私の分身だった。


彼を失って 生きてる自分に笑いが込み上げる。


死んだように生きることに 意味はあるのか。


私は、己の生きる目的を見失った。


悲しみ。痛み。苦しみ。後悔。絶望。


乗り越えるよりも 終わりが欲しい。


そんな気持ちを どうしても 拭え切れない。


皆様が 幸せでありますように。


No.117 12/01/28 12:34
真澄 ( 0DD7nb )

翔ちゃん…。


ベッドに駆け寄り 抱き着きたい感情を抑える。


ご両親にとって、それは 嫌な光景でしかないだろう。


そっと 近付き


「翔ちゃん。真澄だよ。分かる?」


ご両親に見えない角度で 翔平の手を握った。


温かい。生きてる手だ。


翔平は 何も答えず 身動きもしなかったけど


私の顔に 曇ったままの瞳を動かした。


「うん。翔ちゃん。
起きてくれて ありがとう」


『真澄。ごめんね。起きたよ』


翔平が そう言った気がしたから。


No.116 12/01/28 12:15
真澄 ( 0DD7nb )

病院の受付の待合室で 薄暗い蛍光灯を見つめながら


翔平が 本当の意味で、いなくなってしまう恐怖に身を震わせた。


怖い。怖いよ。翔ちゃん。


私を呼ぶ声も 優しい笑顔も 抱きしめてくれる腕も


なにもかも 過去の産物となってしまうのか。


もう 二度と取り戻せないの?


パタパタと足音が聞こえたのは 明け方近く。


「桜田さん。意識が戻ったわよ」


涼子が神に代わって 私に知らせてくれた。


No.115 12/01/28 11:59
真澄 ( 0DD7nb )

お母さんにとって、私が必要ではなくても


翔平は私が必要なはずだ。


でも、そんなこと言えない。


「お義母さん。頭痛をすぐ脳梗塞に結び付けるのは 誰でも難しいことだわ」


涼子が 中に入ってくれる。


「翔平が このまま死んでしまったら 貴女たちのせいよ!」


涼子まで とばっちりを受けてしまった。


その後 あーだこーだと 言いあっても 結局埒外は開かず、


私は ご両親に見えないところで 夜を明かすことに決めた。


No.114 12/01/28 11:50
真澄 ( 0DD7nb )

翔平の両親は 私を一瞥しただけで、


いないもののように扱った。


涼子と何やら話していたが、


結局 その夜 医者の説明を受ける場に 私も涼子も入れては 貰えなかった。


「帰ってちょうだい。
貴女に もう用事はないわ」


彼の母が 初めて私に言った一言。


「いさせて下さい。翔平さんが目を覚ますまで。
お願いします。」


「そして、その後は?
目を覚ました後に 貴女、つきっきりで 翔平を看病出来るの?
出来ないでしょ」


「………」


仕事を休めるのは 限界がある。


私が仕事をやめたら、生活が出来ない。


莉子を ほったらかす訳にはいかない。


でも 今は そんなことより、翔平の容態を見届けたい。


「翔平さんの容態がわからないまま 帰ることはできません。」


お母さんの言いたいことは分かるが、


はい。 そうですね。と引き下がる訳にはいかない。


「貴女がいたのに。
夕べのうちに 病院に行ってさえいれば、こんなことには ならなかったのに。
貴女は 必要ないわ」


No.113 12/01/28 08:47
真澄 ( 0DD7nb )

外は薄暗くなり始めていた。


莉子が帰って来ているだろう。


近所の同級生のお宅に 電話をかけ、莉子をお願いする。


その後に 莉子に連絡を入れて 簡単な説明をすると


「ママ 翔ちゃんは 目を覚ます?」
と、聞かれてしまった。


わからない。わからないんだよ。


「そう信じてる」

それだけ答えた。


「娘さん?」


「はい。」


「翔平は 可愛がってくれる?」


「はい」


「あの人 あれで、子煩悩だからね」


たくさんの意味が 詰まった言葉だ。


私は下を向く。


「もっと 堂々としてなさいよ。
貴女のせいじゃないんだから」


ポンッと背中を叩かれ、


「そんなんじゃ 翔平の親にやり込められるわよ。
覚悟しなさい。
相当な癖もんよ。簡単に話しが通じる人たちじゃないの。
私も 散々苦労させられたわ」


No.112 12/01/28 08:23
真澄 ( 0DD7nb )

「桜田さん!」


涼子の声に 我に返る。


涼子さん…。涼子さん…。


止まっていた涙が また溢れ出す。


「両親と兄弟には連絡しておいたわ。」


「はい。ありがとうございます」


「しっかりして。大丈夫よ。
あの男が 簡単に死んだりするもんですか」


私を励まそうと わざと悪態をつく涼子。


「ちょっと待ってて」


そう言って 涼子は飲み物を買ってきてくれた。


差し出された 缶コーヒーの温かさは 涼子の温かさだ。


缶を握りしめる。


この人は 強くて優しい。


一通り こうなった状況や 医者から受けた簡単な説明を話す。


まだ、本当に簡単なことしか 説明されていなかったのだ。


目を覚ます可能性は 五分五分だと。


覚ましても 障害が発生するかもしれないと。


No.111 12/01/28 08:06
真澄 ( 0DD7nb )

翔平の会社にだけは なんとか連絡して


廊下の長椅子で 胸を抑える。


私たちは……


私と翔平は……


こんなにも 現実から掛け離れていたのか。


愛して 愛されて


他には 何もいらないなんて


そんなことは、夢物語だ。


愛だけでは 翔平を支えられない。


こんな風に 結ばれた結果、私は翔平の両親さえ知らない。


いつか。そのうち。


何故 そんな風に 呑気に物事を捕らえていたのだろう。


愛の絆なんて 蜘蛛の糸のように 細くて軽くて


今、風が吹いたら 吹き飛ばされそうだ。


翔ちゃん。


目を覚まして。


一人にしないで。


置いていかないで。


もう一度 やり直そう。


ちゃんと リアルの中で 二人で 生きようよ。


お願い。死なないで。


No.110 12/01/27 08:17
真澄 ( 0DD7nb )

涙が溢れ、くちびるがガクガクと震えて


うまく説明できない。


「落ち着いて」


涼子に励まされ、なんとか状況を伝えると、


「すぐに行くわ。大丈夫よ。泣かないで。
遠いから 時間はかかるけど、今すぐ 出るから。」


涼子が来てくれる。


涼子が 大丈夫だと言ってくれた。


大丈夫。きっと大丈夫。


私は 涼子を待っていればいい。


翔ちゃん。涼子さんが来てくれるよ。


もう大丈夫だよ。


なんの根拠もないのに、私には それが 一本の藁で


涼子は地獄の中に咲いた 一体の仏だった。


No.109 12/01/27 08:08
真澄 ( 0DD7nb )

「非常に危険な状況です。ご家族に連絡して下さい」


私は…。


途方にくれる。


知らない。


何も知らないのだ。


翔平の携帯から履歴を出そうとするが、


手が震えて うまく操作できない。


機種も違う上に、焦って 動転してて


思うように 携帯を扱えない。


私は……


涼子に電話した。


「もしもし?」


怪訝そうな涼子の声に縋り付く。


「涼子さん 助けて 助けて!」


「どうしたの? 何があったの?」


No.108 12/01/27 07:58
真澄 ( 0DD7nb )

翔平が倒れてから
ストレッチャーで運ばれ、
診察を受けて
救急車が来るのを待ち、
受け入れ可能な病院を探し、
それから 運ばれ
また、診察。


この際 所用した時間が 3時間。


素人目にも スピードが勝負なんだと、明らかにわかるのに…。


眠り続ける翔平に 私が出来ることは


神に祈る。


それだけだった。


神様。


どうぞ翔平を助けて下さい。


私から 翔平を取り上げないで下さい。


なんでもします。


どんな努力でもします。


翔平を助けて下さい。


どうか。どうか…。




神はいたのだろうか。


私の願いは半分叶い、


半分は叶わなかった…。


No.107 12/01/26 22:27
真澄 ( 0DD7nb )

「頭が痛い」


ある晩 彼は そう訴えた。


「大丈夫? 薬飲む?」


「いや、いい。寝る…」


「明日 仕事行ける?」


「うん。大丈夫だよ」


一応 頭痛薬を飲ませる。


「翔ちゃん?」


「平気だよ。おやすみ」


あくる日 翔平の頭痛はひどくなっていた。


車の運転も ままならない彼を 私も仕事を休んで車に乗せる。


病院に到着し、


「歩ける?」


彼は 黙って助手席を降りる。


そして…。


そのまま 倒れ込んだ。


「翔ちゃん!翔ちゃん。」


私は 何故 前の晩に 彼を救急へ連れて行かなかったのだろう。


予兆が きちんとあったのに。


脳梗塞と診断した病院は 救急車を手配した。


何故?


ここが病院なのに。


救急隊員は 電話をかけまくり病院を探す。


何件も 断られた。


何故?


医師の手が 今すぐ必要なのに。


No.106 12/01/26 21:02
真澄 ( 0DD7nb )

それからの私たちが どんなに濃厚な日々を送ったか、


離れていた日々を取り戻そうと


これからの毎日を感謝しようと、


謙虚に生きようと


涼子をいつも 片隅に置きながら、


翔平と 一歩づつ前へ進み出した。


なんだか 生き急ぐように 私たちは 愛しあった。


何かにせき立てられるように、


追いかけられるように。


息が詰まりそうなくらいの 翔平の愛情に満足しつつ、


どこかで 不安を感じつつ。


そして…。


私たちの 幸せな生活は たった八ヶ月で崩壊した。


私は 今でも 因果関係を信じない。


これは、私の信念で 人はいつだって 努力でやり直しが出来るはずだ。


では この結末は なんなのだろう。


翔平。


私たちは たくさんの過ちを犯したけど


貴方に逢えたことを 後悔しない。


私は 貴方を心から愛した。


愛が喜びなのは、ほんのひとときだね。


愛は、哀しみなんだね。


人は 哀しみに生きるために 喜びを知るんだね。


歯を食いしばる。


誰が なんと言おうと 翔平は 私を愛してくれた。


それだけは 真実だと信じてる。


No.105 12/01/26 19:35
真澄 ( 0DD7nb )

なんだよ。


まるで 私が待っていたかのように 言うなよ。


なにが ごめんだよ。


私は別に…。


私は…


翔平が私の方に一歩 踏み出したとたん


私は 翔平に向かって 駆け出した。


翔平の胸に飛び込んで


「待ってないよ。待ってなんかなかったよ。
翔ちゃん。翔ちゃん!」


私をギュッと抱きしめた 翔平の腕が 力強くて


「うん。そうだね。
待ってるわけないね。
ごめん。ごめんね」


そう言う翔平が たまらなく愛しくて


「お帰りなさい」


翔平の胸の中で 小さく呟いた。


「ただいま」


翔平は 私の声をちゃんと聞きとってくれて


「莉子ちゃんも、ただいま。おいで」


右手で莉子も抱き寄せる。


「ママ。お家 入ろ」


そうだね。 お家に入ろうね。


No.104 12/01/25 21:08
真澄 ( 0DD7nb )

階下を降りると 開けっ放しのリビングの窓に 大きなお月様が浮かんでいた。


あれ、莉子?


莉子がいない。


部屋に上がる1時間前には 確かにリビングで 本を読んでいた。


莉子ちゃん?


何度呼んでも返事がない。


私は 玄関を飛び出した。


「莉子!?」


「ママ!」


安堵して 声の方向に駆け出す。


私の足が止まった…。


「ママ!翔ちゃんが!」


懐かしい顔が 少し照れたように 私を見た。


待ち焦がれた人。


心と裏腹に 待ち望んだ人。


立ちすくむ私に 翔平が口を開いた。


「真澄。遅くなってごめん」


No.103 12/01/25 11:21
真澄 ( 0DD7nb )

あの呪わた日から 10ヶ月がたっていた。


たったの 10ヶ月…。


でも その10ヶ月に 翔平のいない季節が三度も巡り、


私は もう10年も離れてしまったように感じた。


早く。早く 忘れたい。


なのに、どうして 思いはつのるばかりなのだろう。


こんな気持ちと いつまで闘えば 明るい明日が来てくれるのだろう。


私は 中途半端のまま クローゼットの扉を閉めた。


もう 何もしたくなかった。


No.102 12/01/25 11:06
真澄 ( 0DD7nb )

ゴミ袋にテキパキとほうり込む。


これは ただの不用品だ。


でも…。

一枚のセーターで とうとう手は止まった。


誕生日に買ってあげたもの。


「真澄。俺、これがいい」


「素敵だね。でも 翔ちゃん。
私 もう少し予算あるよ?」


「ううん。これがいいんだ」


翔平の笑顔は まるで昨日のことのように 蘇る。


私は 思わず セーターに顔を埋めた。


「翔ちゃん…」


彼の温もりは ほんの少しも残っていなかった。


かすかなナフタリンの匂いがするだけで、

それが いっそう私を苦しめた。


翔ちゃん。

私、寂しい。

会いたい。



逢いたいよ…。


No.101 12/01/24 20:54
真澄 ( 0DD7nb )

結局、離婚は取りやめになったのかもしれない。


涼子の気が変わったのかもしれないし、


土壇場で 翔平の方が躊躇したのかもしれない。


私は 翔平の持ち物を整理始めた。


さっさと捨てるべき 翔平の服や下着は 箪笥の二段目と三段目に しまわれていて


私は そこに触れることを避けてきた。


触りたくなかった。


見るのが 怖かった。


開ける勇気が持てずに 開かずの引き出しにしていた。


三年間の 夥しい数の写真も


買って貰った たくさんの品物も


クローゼットに眠らせて ただ放置していた。


すべてのものから 逃げ出して 目を閉じて


なにもかも夢であって欲しいと願ってた。


でも これは 現実だ。


神様。


私に勇気を下さい。


No.100 12/01/24 20:36
真澄 ( 0DD7nb )

頭でわかっていることを 心が裏切るのは何故だろう。


ダメなものはダメなのだ。


なのに、誰にも止められない。


自分自身すら 止められない。


私は 限りなく妄想する。


こんな男を 一瞬にして忘れさせてくれる 申し分のない男性が現れる。


私を強く強く欲してくれる いい男だ。


優しくて 裏切らなくて 私だけを見てくれて


ついでにお金持ち(笑)


私は いくつになっても乙女で 白馬の王子様を期待している。


だがしかし、現実には いるわけもなく、


私は 嘘つき王子を待っている。


どうして?


世の中には男も女も こんなにうようよいるのに、


何故 翔平以外の男性が 私をさらってくれないのだろう。


何故 翔平以外の人を見れないのだろう。


No.99 12/01/24 20:24
真澄 ( 0DD7nb )

何日過ぎても 翔平からの連絡はなかった。



私は 待ち続けている自分に気が付いた。



フッ フフ…

笑いながら 涙が溢れてきた。


あぁ まだ枯れてないんだな。


ここのところ 涙を忘れていただけだったみたい。


答え出ちゃったじゃん。


もし、翔平が来てくれたら、許す気満々じゃん。


だから、待ってるんじゃん。


情けない。


私は 本当に情けない女だ。


人は嘘をつく生き物だ。


宗教的に絶対許されない国もあるが、


日本では【嘘も方便】という言葉が 日常的に使われている。


でも これにも 絶対的なお約束がある。


人を傷つける嘘で あってはならない。


翔平は 御法度を破り


私を傷つけた。


涼子を傷つけて、子供達を傷つけた。


許してはならない嘘を 私は すでに許している。


迎えにきてくれるのなら…。


No.98 12/01/23 22:57
真澄 ( 0DD7nb )

雑談です。

今日 私のいる場所では雪(みぞれ)が降りました。


本日 社用で自家用車を使っての 出勤でした。


フロントガラスを叩きつけ、視界を邪魔しなから、降り続けるそれは、


寒くて 悲しくて なんだか世界中が 冷たく私を非難するように 荒れ狂っていました。


私は 敢えて 最初から自スレを設定しました。


なぜなら、批判を受け付けるほどの 心の余裕がないからです。


百人いれば 百人の考えがあり、


批判の意見は 数多くあるでしょう。


私は それを恐れます。


自分のしたことに自信がないからです。


でも 今 それらの意見を聞き入れる器の大きさを持ち合わせていません。


人は 恐ろしく自分勝手な生き物ですね。


意見は求めず 自分の話には聞き耳を持って欲しい。


言い訳でしょうか?


そうと思っても 発散させる場所を求め 自分をなんとか保ちたい心情は


止めることができません。


【サレ妻】


これは ミクルだけの言葉でしょうか。


一般的ですか?


それなら 私の立場は


【サレ女】?


みんな 心を持っています。


こんにち そうじゃない 奇想天外人間が進出しすぎて、


なんだか もう世の中 グチャグチャです。


涼子は そんな言葉で汚さるような 女性ではありませんでした。


多くの人が そうであるはずです。


ほんの一部の 心無い人と 全部がひとくくりにならないよう


願うばかりです。


あくまでも独り言です。


よろしく どうぞ。


No.97 12/01/23 17:22
真澄 ( 0DD7nb )

胸を抑える。


痛い。 ハンパなく痛い。


涼子の気持ちが痛かった。


翔平は この先 いったいどうやって生活するのだろと考えると痛かった。


今まで やみくもに逃げ回るしかなかった私に 思いがけず選択肢が与えられたのに、


何も考えられない自分が 馬鹿みたいで痛かった。


ミクルを開く。


そんな男が腐るほどいて、


これ、実は全部 翔平なんじゃないの?


なんてことを考えながら、


レス者の意見を見直す。


あぁ ダメだ。


やっぱり そんな男はずっとそんな男の気がする。


こんな風に考えること自体 私はすでに 翔平とやり直したがってるのだろうか…。


ブンブンと頭を振り 違う違う!と 否定する。


だいたい 翔平は 何も言ってはこない。


もうとっくに 次の女を見つけたのかもしれない。


No.96 12/01/23 13:57
真澄 ( 0DD7nb )

「じゃあ、あの人を頼むわね」


えっ?


不意に涼子は そう言うと


プツっと 電話が切れた。


プー プー プー


最後の最後に 毒ではなくて
翔平を思いやる言葉。


今 涼子は携帯を握りしめて 泣いているに違いない。


きっと 泣いている。


ごめん…。ごめんなさい。




涼子は 格好いい。


私に 格好いいと思わせる涼子は 本当に格好いい。


翔平…。



大ばかやろう…。


No.95 12/01/23 13:44
真澄 ( 0DD7nb )

「何故 私だけを見てくれなかったのかしらね。
私は 翔平だけを見ていたのに。
貴女なら違うのかしら?
それとも 一緒かしら。
見物(みもの)だわね」


涼子は 私と翔平がやり直す前提で そう言った。


「涼子さんと離婚したからといって 私と付き合うとは限らないですよ」


「そう? 貴女なら、ほっとけないんじゃない?
まぁ どっちでもいいけど」


ドキリとした…。


ほっとけない?


愛情があるからといって 信頼をなくた彼と どう向き合えばいいか、


そんなことは 今 何も考えられない。


「涼子さん。どうか、お元気で」


「貴女もね」


そう言っても お互いすぐには 電話を切れなかった。


何か言い残してる気がするし、何かこう もっとこの場に相応しい言葉があるのじゃないかと、


私は探してみたが 見つからなかった。


No.94 12/01/22 09:40
真澄 ( 0DD7nb )

「バイトしてる高校生の方が 彼よりよっぽどお金持ちですね」


涼子があんまり楽しそうに言うから、翔平は少し気の毒だけど、私はつい笑いながら 答えた。


「そうね、うちの息子も小遣いとは別にバイトしてるから、息子より金のない男になっちゃうわ」


決意した女は強い。


こんなに明るい涼子は 初めてだ。


「こんな条件を受け入れても なお、離婚したいのかと思うと 複雑だけどね。
まぁ と、いうことで 後は 桜田さん好きにしてちょうだい。
この経過を知ってる貴女なら、好都合だわ。
減額の要求なんて 絶対できないものね」


まだまだ 涼子も辛いはずだけど、


別の感情だって たくさんあるはずだけど、


とにかく 涼子は区切りをつけたようだ。


後は……。


私だ……。


No.93 12/01/22 09:21
真澄 ( 0DD7nb )

★家の名義を涼子の名前に変えて、これにかかる贈与税はもちろん、 ローンも終了するまで払い続けること。


★そのためにも、慰謝料 養育費の代わりに 今まで同様給料を入れ続けること。


★子供が成人した後も、涼子に生活費を払い続けること。


★例え 再婚しても 減額の裁判をおこさないこと


★保険の受取人は 今まで同様涼子であること。


「毎月のお小遣の四万円だけは、きちんとくれてやるわよ」


アハハと涼子は笑う。


「公的証書を作るのにね、弁護士に頼んだら
『これは、無茶じゃないですか?』って言われちゃったわ。
知らないわよ。本人が了承したんだもの。
親に世話になるのか、貴女に食わしてもらうのか、好きなようにすりゃいいわ。
野垂れ死んだって 私にはお金が入ってくる。
ざまあみろよ!」


No.92 12/01/22 06:58
真澄 ( 0DD7nb )

「疑ってたのよ。
だから、仕事場まで言ったの。
翔平は これが許せないみたいだけど、後悔してないわ。
だって あの時はどうしても そうしたかったんだもの。
あの後ね、興信所を使ったのよ。
貴女たち 全然会ってなくて 拍子抜けしたわ。
安堵したけど がっかりもしたのよ。
変な話ね」


「………」


「ねぇ桜田さん。教えといてあげるわ。
貴女、この先 翔平と一緒になったら ひどい苦労をするわよ」


涼子は なんだか楽しそうに笑った。


「離婚の条件を あの人全部のんだの」


その内容に 私も思わず笑った。


涼子さん。やるね…。


あっぱれだよ。


No.91 12/01/22 00:03
真澄 ( 0DD7nb )

【ないがしろにしなかった】
その言葉は痛かった。


たぶん 涼子は本気で言ってくれたのだ。


彼女は嘘をつかない。


「私 本当は涼子さんの電話を嫌々受けていたんです。」


私は 喘ぐように そう答えた。


涼子は低く笑った。


「そういうところよ。嫌いじゃないのは」


私はこうなんだとか 私はこう考えてるとか どうしてもっと 本音で答えてあげなかったんだろう。


今さら 涼子の正直さを知った訳じゃない。


私は ずっと気付いていたはずなのに。


「ねぇ 一つだけ教えてくれない?
貴女 今でも翔平が好き?」


涼子の質問に私は 戸惑った。


だが、正直に答えよう。
それが今 私にできるただ一つの誠意だと感じた。


「はい。どうしても忘れることが出来ずにいます。
いつもいつも考えています」


「そう…。そうだと思ってた」


「でも 誓っていいます。
私は 涼子さんを騙して彼と付き合ったりしてません。
それは、」


「知ってるわ。」


涼子は私の言葉に被せて返事をした。


No.90 12/01/21 17:43
真澄 ( 0DD7nb )

私は 本当にスカした女で

涼子が見栄や外聞をかなぐり捨てて 本心でぶつかってきても、


動じないふりや 平気なふりをすることに 一生懸命で


ひどく傷ついた自分を 彼女だけには 知られまいと


勝つだ負けるだ くだらないなんて 一段上から見下ろして


ただ時が過ぎるのを待っていた。


「貴女にしか言えないのよ!
だって 私の気持ちがわかる人は 貴女だけなんだもの!」


いつか こんな風に 捨て身で叫んだ涼子に向かって 私はこう言った。


「いいえ。私とあなたは まったく違う立場にいて わかりあうなんてことは無理です。」


ただ、冷たい言葉を浴びせた。


私だって 過去には妻だったことがある。


涼子の気持ちが痛いほど わかってるはずなのに


拒絶の態度ばかり取ってきた。


No.89 12/01/20 16:29
真澄 ( 0DD7nb )

私は 泣くまいと唇を噛み締める。


涼子が泣かずにいるのに、どうして 私が泣けるものか。


「私、貴女を好きにはなれないけど、嫌いじゃなかったわ。
貴女、決して私をないがしろにしなかったもの」


私は 恥じ入った。


違う。それは、違うのだ。


私は 本当は涼子の聞き役になどなりたくなかった。


だから、たびたび電話を無視したし、


それでも 完全に断絶しなかったのは、


私に非はないという自負で


だからこそ あなたの話を聞けるのだという パフォーマンスだった。


知りたくもない 二人の過去を聞くのは 地獄だった。


知らないことが、自分を救う方法でもあるのに


私は黙って聞いていた。


それもこれも ただの意地でしかなかった。


No.88 12/01/20 16:14
真澄 ( 0DD7nb )

そうだよね。わかる。
すごく わかるよ。


でも 私は友人ではない。

そう言ってあげたくても、それはやっぱり間違いだと思う。


だから 結局無言でいるしかない。


「子供がいるのよ。
それは、他のどんなものより 守るべきものでしょ?
子供より大切なものが、この世にあってはならないのよ。
例え 夫婦仲がどんなに変わろうと それは不変でなければ、いけないものよ。」


涼子は……、


正しい……。


彼女を支えていたものは その一点で


それは この世の どんな理屈も 退ける正当な愛で、


彼女の正義が 私の存在を許せなかった。


「私は貴女に負ける訳にはいかなかったの。
貴女のせいじゃないけど それを認めるのは、世の中の理不尽を認めることだもの。
でも、もういいの。
疲れたわ」


No.87 12/01/20 10:30
真澄 ( 0DD7nb )

「仕方ないじゃない」


涼子は 諦めに満ちた声で そう言った。


「ずいぶん急に決めたんですね。」


私は少し疑っていたのかもしれない。


今日そんな風に決意しても、明日になれば 気が変わるかもしれない。


涼子の感情の起伏は 台風みたいな勢力を持っていたし、


何よりも 涼子は とても翔平を愛していた。


「あの人ね、離婚届を持ってきたのよ。
印鑑とサイン済みでね。」


涼子は ハハッと渇いた笑い声を立てた。


「破り捨ててやったわ。
馬鹿にするのも たいがいにしろっての。
どうして 私があいつの持ってきた 離婚届にサインしなきゃならないの?
私が用意しておいた届けに あいつがサインするべきよ。
そうでしょ?」


No.86 12/01/20 09:39
真澄 ( 0DD7nb )

ためらうように また沈黙が流れる。


息をひそめる涼子の表情が見えるようだった。


へのへのもへじの顔であった頃とは 比べようもなく現実味を帯びていた。


「明日 離婚届けを出すわ。
散々 貴女に絡んだけど 訴えたりしない。
それだけ 言いたかったの」


「…………………。
いいんですか?」


それが 離婚に対してか、訴訟しないことに対してか、


自分でもわからなかったけど、


たぶん それらを含めて 涼子の気持ちとか 子供のこととか、


すべてに対しての【いいのか】であったと思う。


No.85 12/01/19 09:54
真澄 ( 0DD7nb )

手の中の携帯がブルブルと鳴った。


「はい」


「………。前嶋です」


「はい」


携帯の向こうで涼子が、また息を呑んだ。


私は黙って待った。


「貴女の携帯に録音機能があれば、これからの話を録音してくれていいわ」


……?


たぶん 機能はあるだろうが、使ったこともなければ、使い方もわからない。


仮にわかったとしても 涼子の電話は長い。


すべて録音できるほど 私の携帯が賢いとも思えない。


(結構。古いタイプだと思います)


でも もちろん そんなことは、言わなかった。


「はい」


ただ そう答えた。


No.84 12/01/19 09:39
真澄 ( 0DD7nb )

何かを答えろと言うから、仕方なく 私は口を動かす。


「夜の夫婦関係なんて 自分たちで解決して下さい」


涼子は 怒る。


だって…。 他になんて言えばいいの?


「ショックです」とか?


「辛いです」とか?


女房がいたってことが 救いようのない苦しみだったよ。


もう 今さら そんなこたぁ どうでもいいよ…。


「涼子さん。話の内容がその類いのことなら、私には もう関係ないので切りますね」


涼子は叫ぶ。


「逃げる気?」


うん。逃げたいよ。


でも ホントは私だって知ってる。


涼子は ただ 気持ちをぶつける相手が欲しいのだ。


悲しくて 悔しくて 苦しくて、寂しいのだ。


実はね、私もだよ…。


No.83 12/01/19 09:25
真澄 ( 0DD7nb )

むろん 話したくなかった。


彼女はきっと いつだって冷静であろうと努力している。


しかし、それは必ず失敗するのだ。


自分の話に 興奮してしまう。


言わなくても良いことまで 話してしまうからだ。


例えば、こんな風に。


「この間 Hしたわ。
嫌だって言ってるのに、無理矢理よ。
屈辱よね。貴女としていたことを私は知ってるのよ?


私は答えない。


答えられない。


いったい どんな返事を期待しているの?


「ねぇ 聞いてるの? 何故 何も言わないのよ?」


涼子はどんどん興奮する。


こんな時の 彼女の本意はどこにあるのか 私には知る由もなく、


ただ私を傷つけたいのか


寝室が一緒なことを誇示したいのか


結局は 女房ともすることはするんだと言いたいのか、


はたまた 言葉通りなのか。


No.82 12/01/18 16:09
真澄 ( 0DD7nb )

どんな出来事も 必ず過去になる日は来る。


やがて 私にも 結末はやって来た。


私に 答えをくれたのは 涼子だった。


涼子の顔を認めて以来 私の脳裏には いつも彼女がいて、


あの日から パタッと電話は 止んでいたが、


ある晩 それは青いランプをチカチカと点滅させた。

(この頃、バイブにしてありました)


彼女の名前を確認した途端、私の手はピタリと止まった。


携帯の振動は やがて消え 今度は留守電の通知が入った。


私は恐る恐る留守電を耳にする。


「前嶋です。その…。
出たくはないとは思うけど、どうしても話したいの。
10分後にまたかけます。」


「………」


涼子の声には 刺がなかった。


No.81 12/01/17 14:49
真澄 ( 0DD7nb )

私の元夫は 苦しみながら、女性を買った。


最後には 一人の女性に救われたようだが、


だからと言って ひどい奴じゃない。


彼は 本当に良い人だった。


私とでは ダメだった。


それだけだ。


みんな違う。


一人一人が みんな違うのに


呆気なく最低という分類訳ができるのか。


私は 翔平が好きだから、こんな風に考え 感じるのか。


自分が見えてないだけなのか。


答えは見つからないまま

あっという間に1時間がたち、最寄の駅到着。


あっ… 莉子ちゃんのマロンプリン 忘れた…


No.80 12/01/17 14:37
真澄 ( 0DD7nb )

悩みを抱えて ミクルに投稿してる人は


要点をしぼらなければいけなくて、


ピンポイントで話を綴って 皆に意見を求めるしかなく、


レスする側も 多少の想像は働かせるにしても


一般論で考えを述べる。


でも 悪いだけの奴なんか ホントはそうそういなくて


ダメな部分と同じくらい 良いところもあって


だからこそ 妻は夫との離婚を躊躇するし、


相手女も 引きずったりするわけで


一般論はあくまでも一般論で


人は そんなにひとくくりに まとめられるのだろうか。


No.79 12/01/17 14:22
真澄 ( 0DD7nb )

電車に飛び乗ると 空席があり 私は両手で鞄を抱え込んで胸を抑えた。


痛くないのに、痛い。


私は 逃げてばかりだ。


でも これが正しい道だよね?


だって ミクルには みんな口を揃えて書いてある。


彼は離婚などしませんよ。家族が1番なんです。


離婚ができるなら 最初からしてるはずですよ。


誰かを傷つけてまで 欲しい男ですか?


騙す形でしか付き合えない最低の男です。


嘘ばかりついてきた男を 今さら信用できますか?


例え一緒になっても 今度は貴女が 不倫される番です。


みんな みんな 正当な意見で


世の中は たぶん そういう風にできているのだと思うけど、


これは 本当に正しいの?

No.78 12/01/16 17:44
真澄 ( 0DD7nb )

「勝手な人だね。
奥さんの気持ちも 私の気持ちも 全部無視して、自分のことしか考えてない。」


「涼子には悪いと思ってるよ。
でも だからと言って もう夫婦でいられない。
なら、別れるしかない。」


立ち話をする内容ではなかった。


辺りを憚りながら 小声でごちゃごちゃと、埒外があかない。


でも 私は それ以上聞きたくなかった。


今度こそ 共犯になってしまうじゃないか。


自分のことしか考えてないのは 私も一緒だ。


でも 私は逃げ出した。


「翔平のクソっタレ!」


小学生みたいな 捨て台詞を吐いて…。


No.77 12/01/16 17:29
真澄 ( 0DD7nb )

「ダメ! ダメだよ!」


理性が そう言わせたのではない。


私は 震え上がった。


涼子が またやって来る…。


翔平が実家に戻ったなんて 涼子は信じていなかった。


それは 女房として 当然の疑惑だと思うけど


水面下で、私と翔平が繋がっていると思われるのは 心外だ。


離婚なんて…


離婚なんてしたら、また私が悪者じゃないか。


私は 今だに 翔平が好きだけど、


私は こんな状況で 翔平と一緒になるよりも


莉子と二人で静かに暮らしたい。


他人から後ろ指を指されたり


誰かに 強く憎まれたり、

そんなことは これっぽっちも望んでない。


No.76 12/01/16 13:19
真澄 ( 0DD7nb )

「約束は守るよ。必ず離婚するから」


翔平……?


彼は またスッと私から離れた。


一瞬 ほうけた私だが、弾けるように 彼を追った。


「待ちなさいよ」


毅然とした声を出したかったのに 少し震えた。


振り返る翔平に向かって 私は言った。


「約束なんかしてない。
どういうつもりか知らないけど、
あんた達 二人で 私に構うのやめてよ。」


「もう決めたことだから。
俺は もう家には帰ってない。
実家にいる。
あいつは お前のところにいると思ったみたいで、迷惑かけてごめん」


「………。」

何か言わなきゃ…。


でも 何を?


言葉を失った私に 翔平はもう一度言った。


「もう 決めたんだ。
今まで ごめん」


No.75 12/01/16 13:06
真澄 ( 0DD7nb )

仕事は 生活の為でもあるが、精神の支えでもあった。


私生活で苦悩があっても、翌日の仕事のためには なんとか 自分を整える。


その支えとなる場に 行きたくないという思いは


私に 大きなダメージを与えていた。


さすがの私も 食事が通らなくなる。


涼子に負けるのは平気でも 自分には負けたくない。


なんとか 光を見つけたいと願いながら、


暗澹たる日々は過ぎていく。


そんなある日 私は季節限定のプリンを 莉子のお土産に買って帰ろうと、


ある店舗のケースの前に並んでいた。


5、6人が列の前にいたと思う。


ふっと 私の横に人が立ち

私に小声で囁いた。


No.74 12/01/15 21:17
真澄 ( 0DD7nb )

私は私のできることを


精一杯やったつもりだ。


翔平を無視し続けるたびに 私の心は 刃物で切りつけられたように痛んだ。


傷口の回復もままならなく かさぶたは涼子に剥がされ続けた。


そして、今 毎日職場に行くたびに 針のむしろだ。


いったい 私に どうしろと言うのだろう。


今度 涼子に あのサポートセンターの女を紹介してやるか…。


きっと 手放しで涼子の気持ちに賛同してくれるに違いない。


もう 私のできることなんて それだけだよ…。


No.73 12/01/15 20:58
真澄 ( 0DD7nb )

きっと 誰しも


少なからず 騙された側にも問題があるとか

思うんだろうな。


なら・明確には、私の罪はなんなのだろう。


イジメられた子にも 問題がある。


なんだか似てるな。


イジメられっ子の罪は なんなんだろう。


イジメっ子の罪ならわかるよ。


恐喝 脅迫 暴行傷害。


イジメっ子なんて 可愛らしい言葉で ごまかしてんじゃねーよ!


あっ… 話が逸れた…(笑)


No.72 12/01/15 20:49
真澄 ( 0DD7nb )

「いいえ。
『奥様は少し思い違いをしていらっしゃるようですね。
法的な手段に出るというなら、こちらも 筋道を立て 逆に男性を訴えましょう』
と、言うことでした。
あなたとは違い 私の立場を理解してくれる方でしたね」

と、私は はっきり答えた。


「………。」


「もう けっこうです」


私は 涼子に腹をたてることもあったが、


少なくとも涼子には 文句を言いたい理由がある訳で、


この女に文句を言われる筋合いは まったく無く、

心のケアどころか、ストレスの原因になる相談役など


「お前が仕事を辞めちまえ!」

の、勢いで 家の電話を叩きつけた。


No.71 12/01/15 20:38
真澄 ( 0DD7nb )

私の相談の内容の1番重要な部分は


どうしたら 前向きな姿勢で 職場に行けるかということで、


それは 何度も伝えたにもかかわらず


彼女は 私のしていたことは、結果『不倫』だったということに


異様な食いつきを見せ、


涼子のしたことは 仕方ない、彼女が妻だからと、


世間は奥さんの味方だとか、


私の意図とは違うことばかり 言い続け、


「法テラスでも 同じように言われませんでしたか?」


と、まるで 鬼の首を捕ったように 質問してきた。


No.70 12/01/15 20:29
真澄 ( 0DD7nb )

誰にも 何も 聞かれないのに、


「違うんです。あれは、違うんです。」


そう言って回りたい心境で、


みんなが私に呆れてるんじゃないかという どうにもならない妄想が私を苦しめた。


私は 以前 法テラスで教えていただいた 女性専用の心のサポートをしてくれるという場所に電話をしてみた。


結果 それは大失敗だった。


電話の相手は すごくムカつく女で、


私は余計にストレスを感じるハメになる。


No.69 12/01/15 20:21
真澄 ( 0DD7nb )

涼子の目的が、

私への嫌がらせだったのか、


電話を無視してることの 腹いせなのか


はたまた 私に仕事を辞めさせたいのか、


なんだか 結局はわからないままだけど、


どれもこれも 成功したと思う。


私は 仕事を辞めることは なかったけど、


相当 嫌な思いをした。


もちろん 面と向かって どうこう言う人はいなかったし、


実際に 噂されてるかどうかなんて 本人にはわからないけど、


私は 人の視線が恐かった。


No.68 12/01/13 17:22
真澄 ( 0DD7nb )

「莉子のパスタも 優子ちゃん食べてみて」


「ありがとう。私のハンバーグも美味しいよ」


その夜 優子が泊まりに来てくれて


3人での外食は 有り難かった。


何事もないふりには ほとほと疲れていて


口を利くのも 億劫だった。


莉子が部屋に上がってから、優子もため息をつく。


「奥さん 仕事場にまで現れちゃって ちょっとまずいよね?
真澄は あいつに騙された側で もう別れたっていうのにさ。
ちょっと しつこいよ」


「人にそう言ってもらえると 安心するよ…」


「やり直しが上手くいかないんだろーね。
でも それは夫婦の問題で、真澄にゃ 関係ないっつーの」


夫婦…

関係ない。


優子の 当たり前の言葉に まだ 傷つく自分が うんざりだ。


「なんだかなぁ どうすりゃいいのかなぁ」


私は ソファーに ひっくり返る。


「前嶋が情けないよね。
どんだけ 真澄に迷惑かけんだよ。
あいつが悪い」


「まったくだよ。
あいつ 浮気しまくりだって。
馬鹿な男だね」


「なんだか それもどうなの?
そんなにモテるのか?
女房が思うほど 亭主はモテねーよ!」


「確かに。でも、私がその一人だったよ?
情けねー」


私と優子は 顔を見合わせて笑った。


涼子は もう話せる友人がいないって 言ったな…。


ホント、なんだかなぁ…。


No.67 12/01/13 16:44
真澄 ( 0DD7nb )

翔平は 黙ったまま涼子の腕を引っ張り 立ち去った。


「大丈夫?」


優子は 心配そうに私を見る。


「ありがとう。一人じゃどうにもならなかった…」


「チーフは なんにも知らないから 早く戻ろ」


「うん。ありがとう」


同僚が私の顔を見て 足早に駆け寄る。


「真澄さん! 平気?」


「あぁ 迷惑かけてごめんね」


「そんなこと! あの… さっきの人は?」


「もう帰ったはずよ。誤解があったのよ」


優子が 答えてくれたけど、


同僚だけではなく、他にも見ていた人は たくさんいた訳で


これから、何かと噂されるのは もう致し方ない。


気が小さい私にとって それは 大きな恐怖だった。


どうして… 涼子は ここまで 執拗に私を追いかけるのだろう。


どうして そっとしておいてくれないのだろう。


いつまで これは続くのだろう。


翔平! お前がやめさせろよ!


お前のせいだろ?


いい加減にしとけよ?


私は 胸の中で唾を吐いた。


No.66 12/01/13 16:18
真澄 ( 0DD7nb )

パイプ椅子を出されたが、


涼子と並んで座るのを ためらった私は


それを断った。


「いったい どうされたんですか?」


私に向かって 投げかけられた問いに


私は下を向いた。


彼を困らせたくはなかったが、いったいどう説明していいかわからなかった。


黙ったまま気まずい空気が流れ、


警備員さんが 何か言おうと 口を開きかけた時


コンコンと扉を叩く音がした。


現れたのは 翔平と優子だった。


同僚から話を聞いた優子が 翔平を連れてきてくれたのだ。


翔平とほんの一瞬 視線が絡んだが


それだけだった。


翔平は警備員に頭を下げた。


「すみません。家内です。
お騒がせしました。」


優子は 黙って私の腕を取って 涼子を眺めている。


その後 警備員さんとの話で、特に怪我があった訳でもないので、


迎えの方がいるならば まぁいいでしょうと いうことにして下さり


私たちは 警備室を後にするわけだが、


扉を閉めて 翔平は私にも頭を下げた。


「申し訳なかった」


「何故 謝るのよ」


私ではなく 涼子が答えた。


No.65 12/01/13 14:59
真澄 ( 0DD7nb )

名前は知らないけど 顔見知りの 警備員さんは


困った顔で 私と涼子を見た。


私も すがるような目で 警備員さんを見つめていたと思う。


「大丈夫ですか? どうされました?」


警備員は涼子に声をかけ 両方の二の腕を 支えながら、立ち上がらせる。


「とにかく 警備室へいきましょう。
歩けますか?」


警備員さんは私も促し、


仕方なく、支えられながら歩く二人の後を 少し離れてついて行く。


まるで 私の足首には 囚人が足枷を嵌められたように、重かった。


処刑場にでも、連れていかれる気分で、


同僚には 「休憩内には戻れないかも。悪いけど後はよろしく」と、
丸投げして


この先 いったい どうすればいいのだろうと、


暗い気持ちで とぼとぼと歩いた。


No.64 12/01/12 21:57
真澄 ( 0DD7nb )

倒れた彼女が 次に行った行為は


私を怯えさせるには充分だった。


彼女は 悲鳴をあげた。


「助けて!」


私は 硬直したまま動けなく 同僚は目を見張るばかりだった。


周囲の人間は 好奇に満ちた目で こちらを見つめ


制服の私に 私服の彼女。

空港関係者と 一般の人間。


その 一般人が悲鳴をあげたのだ。


為す術もなく 立ち尽くす私が やがて目にしたものは


警備員の姿だった。


No.63 12/01/12 21:49
真澄 ( 0DD7nb )

私は もしかしたら こんな出来事を 漠然とどこかで 想定していたのかもしれない。


そんなことを、ぼんやり考える自分がいた。


涼子の顔を知らないで いることは、


自分に降り懸かった この忌ま忌ましい現実を


直視したくない私にとっては 好都合で


どんなに厳しい状況におかれても、


知らないということが どこかで大きな救いになっていた。


でも私は 彼女を知ってしまった。


彼女の姿形を 確認してしまった。


それは 今までのどんなことより衝撃的なことだった。


No.62 12/01/12 21:38
真澄 ( 0DD7nb )

涼子は 想像とは まったく違って…


小柄の身体に ショートカットの彼女は


翔平と同い年とは、とても思えない 幼さを持っていて


それでいて 憎しみに燃えるその瞳は 老練の熟年さすら感じるアンバランスさを兼ね備えていて


涼子の次の行動を 私は野生の感で 察知してしまい、


私をひっぱたこうとする その行為を……


私は 呆気なくかわした…。


ドラマのように 頬を叩かれるというのは


現実には なかなか難しいもので


人は危険予知という感性を 備えていて


身を護る術は 脳よりも 身体が確実に知っている。


それを予知できないのは むしろ 彼女の方で バランスを失った 涼子は 倒れ込んだ。

No.61 12/01/12 07:43
真澄 ( 0DD7nb )

だからと言って どうすることもできず


なんだかもう 投げやりな気持ちもあって


私は ほったらかす訳だが、


事件は起きた。


休憩に入った私は 同僚の女の子と並んで 歩き始めた。


「桜田真澄」


背後から 呼び捨てに私を呼んだこの声。


まさか……?。


No.60 12/01/12 07:35
真澄 ( 0DD7nb )

嫌な予感はあった。


私は旅行に 携帯を持っていかなかった。


莉子の携帯さえあれば、何かあっても 用は足りるし、


日常から 掛け離れるために 私は出かけたのだ。


自宅に放りっぱなしの携帯は 充電が切れていた。


おそるおそる充電機に差し込み 中を開くと、


涼子の履歴に埋めつくされたそれは、


カーソルを下に押しっぱなしにしても


物凄い早さで 涼子の名が駆けていくほどで


私の 背筋が冷たくなった。


No.59 12/01/11 16:56
真澄 ( 0DD7nb )

皆様にお知らせです。


今日 他のスレを覗いたところ、


そのスレ主様は ハンネとは別に、本編では 涼子という名前で 浮気に苦しむ奥様の立場の方でした。


偶然とはいえ、本当に申し訳ないことを しました。


気付いていた方も 多数いらっしゃると思いますが、


まったく別の話です。


皆様 わかってらっしゃるとは 思いますが、


この場で 訂正させていただきます。


どうぞ、よろしくお願い申し上げます。


No.58 12/01/10 21:12
真澄 ( 0DD7nb )

結論から言えば、北海道は素晴らしかった。


美味しいものを 美味しいと食せて


雄大な自然を 美しいと感じる 自分の心を、


私は 抱きしめたい気持ちだった。


大丈夫。 ほら、やっぱり私は大丈夫。


いきなり ふっ切れたりする訳ではないけれど、


突然 気持ちが変わる訳ではないけれど、


こうやって 翔平のいない生活を 少しづつ受け入れていく自分に満足しつつ、


それは、やはり 哀しいことだった。



気分転換という意味では 大成功で


意気揚々と 凱旋した私を迎えていたのは、


過酷な現実だった。



No.57 12/01/10 15:55
真澄 ( 0DD7nb )

「ママ 決まった?」


「バッチリよ」


「どこ?」


「網走」


「何があるとこ?」


「???………。刑務所?」


「え〜〜〜!莉子 刑務所に行きたくない」


「何をおっしゃいますか!
脱走囚のマネキンとか すごい所なんだから!」


知識の無い 私の説明は まったく つまらなそうで、

(網走の方 ごめんなさい)

でも、もう決定事項だ。


決まってしまえば ワクワクだ。


美味しい蟹料理に、美味しいお酒。


この3年間 旅行の時には、いつだって 翔平がいたな…。


チクリと 胸が痛むこともあったが、


それは、意識して 追いやった。


No.56 12/01/10 15:36
真澄 ( 0DD7nb )

「どこ行こうかね?」


「海!マレーシア!」


「ダメよ!」


「どうして?」


それは…。 だって…。


翔平と行ったことのある場所は 思い出を辿るみたいで 悔しいし、


これは、傷心旅行だよ?


常夏の青い海に 燦々と輝く太陽の元で

水着にサングラスで トロピカルカクテルなんて 飲んじゃう ご機嫌な旅じゃないんだよ?


そうだ! やっぱり 心に傷を抱えた人間の旅といえば、


北だよ! 北しかない!


荒れ狂う黒い波に シンシンと降り積もる雪。


断崖絶壁の縁で コートの衿を立てて、一筋の涙。


これが! 傷心の旅だよ!

うん!間違いない!


No.55 12/01/10 13:14
真澄 ( 0DD7nb )

「ねぇ真澄。 最近どうよ?」


優子の問いは もちろん翔平のことで


私はそれを知っていながら、うすらとぼける。


「仕事と家の往復じゃ なんの変化もないよね〜。
まぁ みんな そうなんじゃん?」


「旅行にでも行ってくれば?」


「先立つものが ないのよん」


「気分転換は必要だよ?」


「………」


いくら平気なふりをしていても そんなものは けっこうバレていて、


気を使う回りの人が 疲れちゃったりするもので。


「莉子ちゃん連れて パァーっと 行こっかな…」


「うん。行ってこい。行ってこい」


そんなわけで 私は翌月 連休を取ることにした。


(参考までに 莉子とは 娘の名前です。)


No.54 12/01/10 00:16
真澄 ( 0DD7nb )

前ページ訂正

泣いたりしたい。→ 泣いたりしない

です。


あまりにも間抜けな間違いですので 訂正します。


ここで 余談ですが、


前に 何かのスレに対するレスで


投稿する前に 確認があるはずなのに 何故間違えるのかという厳しい意見を 目にしたことがあります。


それは、思い込みです。


そう書いたと確信をしている時には


間違えに気付かなかったりするのです。


皆さん 大きな目で 見てあげて下さいね(笑)


No.53 12/01/10 00:00
真澄 ( 0DD7nb )

二度と醜態を晒さないと 自分に誓った。


泣いたりしたい。


化粧が崩れたら、仕事にならない。


私に残されているのは プライドだけで


それは今 私にとって何よりも 重要な位置を占めていて


涼子の正直さが 少しだけ羨ましかったけど、


この姿勢を崩すわけにはどうしてもいかなかった。


「真澄。信じてもらえないと思うけど、愛してるよ」


背中に 翔平の言葉を受け取って


私は 振り返ることも しなかった。


歪んでいく顔を 見せたくなかった。


No.52 12/01/09 23:52
真澄 ( 0DD7nb )

「何度も見かけていたよ。
元気そうで 良かった」


元気…?


もちろん 私は元気だ。


男に騙されたくらいで どうにかなるほどヤワではない。


ご飯もモリモリ食べてるよ。


体重は 1㌔だって減ってない。


私は 平気だ。


むしろ、あんたの女房の方が大変だよ。


でも だからといって 傷ついてない訳じゃない。


そんな説明 する気はまったくないけどね。


「私、もう、休憩終わりだから」


そんなのは もちろん嘘で 今 休憩に入ったばかりだ。


「あっ。うん。引き止めてごめん」


私は 踵を返して また歩き始める。


No.51 12/01/09 23:40
真澄 ( 0DD7nb )

翔平も 無言で私を見つめている。


と、彼の口許が動いた。


「真澄…」


もちろん、声は聞こえないけど、


唇の動きが私を呼んだ。


私は拳を握る。


先に視線を落としたのは 私の方で…


そのまま 私はくるりと背を向けた。


小走りに近付く 翔平の足取りが 私を捕まえる。


「会いたかった」


彼は 耳元で そう告げた。


私は 黙って歩き続けた。


「真澄。何か言ってくれないか。
責めてもいいから。罵倒してもいいから」


私は立ち止まり 彼を見上げた。


「私は 会いたかくなかった」


たった一言 呟いた。


「………。
うん。それでも 俺は会いたかったんだ」


私を騙し続けた男が 私をまっすぐに見つめた。


その瞳に 堪えられないのが 何故私の方なのか、不思議だった。


No.50 12/01/09 19:22
真澄 ( 0DD7nb )

でも そんな私のセコい努力は たびたび涼子に阻止される。


彼女は 彼女の方法で 毎日をなんとか過ごすには



私に電話をするしかなかったようだ。


「マイホームを購入するにはね、私の力が大きかったの」


それは、すごいですね。


「子供たちは 優しい子で 私を助けてくれるの」


なら・私とではなく 子供と話せよ。


涼子の着信を無視すると、鬼のような連続履歴で 私は 何度も根負けした。


私は 私の意地で 携帯の番号を変えないで いたけれど、


もう、限界かなと、職場の近くにあるショップに 出向いた。



私の全身が硬直した。


偶然は 時に ひどく残酷で


身構えていない時の人間は 本当に無防備で


逃げ出すことも シカトすることも忘れて…


私は 翔平を見つめた。


No.49 12/01/09 19:01
真澄 ( 0DD7nb )

行き場のない想いを どう処理するのか


人によって様々だと思うけど、


私は 沈黙を続けた。


休みの日のほとんどは 娘と桃鉄対決に励み(笑)


一人の時間は DVDを観たり ミクルを読みながら 悪態をついたりして(笑)


時が過ぎるのを待った。


大丈夫。 今日も眠れた。


大丈夫。ご飯も食べれる。


大丈夫。 映画を観てる時間は 翔平を思い出さなかった。


そんなふうに、自分の大丈夫加減を 確認しながら、


楽しいとは言えないけど、なんとか 気を紛らわせながら。


No.48 12/01/09 14:16
真澄 ( 0DD7nb )

ここで 本編とは関係ありませんが、


メラトニンの話をさせてください。


これは 不眠に良く効く薬で、時差ぼけにも バッチリです。


日本では、もちろん処方箋が必要ですが


海外では 薬局に普通に売っています。


旅行に行かれた時に 買っておくと便利です。


ただ 本当なら お酒と薬を一緒に飲むのは 危険な行為ですし、


常用 乱用は ダメですよ😡。


悩みによって 眠れない方が 身体をボロボロにするくらいなら、


ぐっすり寝て下さいと、オススメしたく 書いておきます。


でも 私は医師でも看護士でも ありません。


皆さん 頼みますよ〜😄


No.47 12/01/09 13:49
真澄 ( 0DD7nb )

ダメだ…。


ぐすぐずと考え込んだって 仕方ない。


私は 自分が眠れる方法を ちゃんと知っていて、


メラトニンを少量のブランデーで 流し込んだ。


睡眠が明日の活力の元で どんなに落ち込んでも 悩んでも


眠るということは とても大事で


嫌になるくらい、私の精神は健全で


今 自分に必要なのは睡眠だとか 冷静に判断しちゃう心に うんざりしながらも


あっという間に 眠りに落ちた…。(笑)


No.46 12/01/08 23:34
真澄 ( 0DD7nb )

私は右手で胸を抑え丸くなった。


いつもの癖。


醜い傷。


離婚の直接の原因だった。


気胸(ききょう)という 病気は 痩せ型の男性が発病しやすいもので、


肺に穴があいて 呼吸困難に陥るのだが、


女性には稀なために 私は喘息と診断され 治療が遅れた。


すでに開胸しなければならないほどの症状で


長い入院生活の後に待っていたのは


主人とのセックスレスだった。


彼は優しい人だった。


それ故の弱さが 私を苦しめた。


私の傷を直視できない彼は 他の女性に癒しを求めた。


お金を払って 女性を買った。


そのたびの悔恨が 彼を更に追い詰め 私たちは 傷つけ合うだけの存在になった。


そんな私の胸に躊躇なく 口づけた翔平を


私は どれだけ愛しただろう。


No.45 12/01/08 22:22
真澄 ( 0DD7nb )

もう、一刻も早く電話を切りたくて…


「とにかく彼は 最終的にあなたを選んだのだから、後は二人で どうとでもして下さい。
もう、私に構わないで」


息も継がずに それだけ言って 強引に話を終了させた。


なんだか、薄暗く感じていた リビングの照明が 一本切れていた。


天井に張り付くようなタイプのそれは、椅子を使っても 私には届かないほど高くて…


眺めているうちに 涙が溢れてきた。


届かねーよ。


どうすんだよ!


電球替えてよ!


私には届かないんだよ!


すぐそこにあるのに、簡単に届きそうなのに、私の力量じゃ届かない たった一本の電球は


まるで 私と翔平の距離で、


私は 天井を見上げたまま ボロボロと涙をこぼした。


涼子の言う通りだ。


私は悔しい。


私は悲しい。


愛されてると 思ってた。


でも それは勘違いだった。


翔平と私がしていたことは、絵空事の ままごとだ。


愛していたのは 私の方だった。


No.44 12/01/08 12:40
真澄 ( 0DD7nb )

本音なんて話したら


私たちは もっと言い争いだよ?


だって 私は あの日から時が止まったままで、


毎日がただ過ぎていくだけで、


いつだって 頭の中に翔平がいるよ。


翔平が どんなにひどい奴でも


優しくて、元気で、陽気な翔平しか私は知らなくて


楽しくて、暖かくて、幸せなあの日々は 紛れもない事実で、

たった二ヶ月で 心の整理がつくほど 私は潔くないんだよ。


どうか、早く忘れさせてと祈ってるのに、

蒸し返してくるあなたが ムカつくよ?


それなのに、とても可哀相なあなたが、気の毒だよ。


可哀相だなんて 私に言われたくないでしょ?


本音なんて 黙ってる方が あんたが救われるんだよ!


No.43 12/01/08 09:47
真澄 ( 0DD7nb )

「例え貴女が翔平に勝っても 私は貴女に勝つわ。
そうでしょ?
法は妻の味方よ。
私に落ち度はないんだから!」


また 出た…。

勝つ…。


「涼子さん、別に私の負けでいいです。
私の望みは、あなたに勝つことじゃなく、今回のことを早く忘れることなんです。
だから、あなたの勝ちで 全然構わないの。
そんなこと どうだっていいの!」


「止めてよっ!」


涼子が叫ぶ。


止めて欲しいのは こっちだよ!


「どうしてよ! どうして そんなふうでいられるの?
私が… 私だけが…
もっと 本音で話してよ!
貴女だって ホントは 悔しかったり、悲しかったり してるでしょ?
私だって 貴女にこんなふうに言うことが 本当は筋違いだって わかってるのよ!
でも どうしようもないのよ!」


正直な涼子。


激しい涼子。




でも、ごめんなさい。


あなたを受け止めてあげるのは、私じゃないよ…。


No.42 12/01/08 09:10
真澄 ( 0DD7nb )

「あの人が貴女にしたことなんか、私に関係ない。
だいたい 詐欺じゃないわ。
貴女 お金は取られてないんでしょ?
これは、詐欺じゃなくて 浮気なんだから!」


まだ 続くのか…。


「それは、涼子さんが決めることではないです。
あなたは 私を訴える。
それなら、私は彼を訴える。
第三者に きちんと判断してもらいましょう」


翔平を訴えるなんて 考えもしなかった。


ただの 売り言葉に買い言葉で、


でも 本当に涼子が私を訴えるなら、

私は 自分の潔白を証明するには、それをしなければいけないと、


漠然と考えた。


私は 私の愛した相手と法廷で 闘うのだろうか。


私は 唇を噛んだ。


No.41 12/01/07 12:28
真澄 ( 0DD7nb )

ふと 気付くと、話しはじめてから もう、4時間以上がたっていて、


なんだか ひどく疲れてしまって、


言われっぱなしの私は、イライラもしてて………。


「奥さんが どんなに強くても、前嶋さんが私にした 結婚詐欺をなかったことには できないでしょうね」


と、恐ろしく冷たく 言い放った。


絶対的に 意地悪をしたかった 自分を否めない…。


涼子には なんの責任もなく、


翔平一人が 悪なのに、


本人を置き去りにして、


私と涼子が 理不尽ないさかいをする馬鹿馬鹿しい行為を


なんとかしなければならない。


No.40 12/01/07 12:04
真澄 ( 0DD7nb )

でも きっと…


そんな私の言い分なんて

別に求めていないだろうし、


知りたくもないだろう。


この不毛な電話を終わらせる糸口が見つからない。


彼女は 興奮したり、落ち込んだりしながら、


「私が離婚の決意をした時は 主人と一緒に貴女のことも 訴えるわ」

と、言った。


私は うんざりした。


「そうされたいのなら どうぞ そうして下さい」


「するわよ。
あの男に 自分のしたことが、社会的にどういうことなのか、教えてやるの。
貴女にも 妻がどれほど強いのか 教えてあげるわ」


立場の強さなんて 興味ない。


どうして みんな、そんなことに 躍起になるんだろう。


慰謝料や養育費とか 生活の上で必要なものを 取り決めをしてもらうのは 大事なことだけど、


どっちが強いとか弱いとか、


それは、そんなに重要なことなのだろうか。


No.39 12/01/07 11:18
真澄 ( 0DD7nb )

たくさんのことを 涼子は一気に 喋って、


それは、私にとって やっぱりイチャモンではあったけど、


「貴女に言うしかないじゃない!
だって どんな気持ちも あの人には届かないんだから!」


どこかに 吐き出さなきゃ 気持ちの行き場がないのだろうし、


それは、やっぱり 相手女である私しか ないのだろう。


でも、やっぱり 罵倒されるのは 心外だった。


「貴女も お子さんがいるんですってね」


「母親のくせに、男を家に引きずりこんで 恥ずかしくないの?」


「私なら、恋愛なんかより 子供を取るわ。
同じ女として 貴女を軽蔑するわ」


私は 子供にとって、恥ずかしい恋愛をしているつもりがなかったし、


いずれ 結婚するだろう翔平を隠すつもりがあるわけもなく、


恋に浮かれて 娘をほったらかしにしたことなんて 一度もない。


なんでもかんでも 一緒くたにして、


人をおとしめるのは 違うんじゃないかな…。


No.38 12/01/07 10:38
真澄 ( 0DD7nb )

「私… あの日以来、前嶋さんと 一度も話していません」


どう答えたらいいのか、わからなくて…


とにかく 事実を伝えた。


「そこじゃないのよ」


???


「主人は 貴女に毎日電話しているのでしょう?
毎日 メールをしているのでしょう?
それを 貴女が無視してるだけでしょう?
それが、気に入らないのよ!
我慢ならないの!」


「私は主人のアドレスさえ知らないのよ?
本当は 知っているけど、それは 私が盗み見しただけで、
私はショートメールで連絡をするのよ。
そんな 馬鹿な話がある?」


「妻は私なのよ? あの人がどんなに頑張っても、
世間は貴女を認めないんだから!」


「返してって言ったでしょ?
心も付けて返してくれなきゃ 貴女を許せない」


「父親なのよ? 子供たちがいるの。
貴女なんかに 渡せないのよ!」



No.37 12/01/06 19:55
真澄 ( 0DD7nb )

「それは 涼子さんの責任じゃないでしょう?
みんなが呆れているのは、あなたにじゃなく、ご主人にでしょう?
気にする必要なんてない」


「何度もね、相手の女と対決してきたの。
みんな、頭にくる女ばかりだったわ。
ひっぱたいてやったこともあるの。
貴女はマトモなのね。
でも、それが、苦しいの。
わからないでしょ?
貴女が 嫌な女であってくれれば、私は救われるのよ。
馬鹿みたいな話だけど」


私は やっと気付いた。


涼子は熱くて 噴火しやすくて まったく憎たらしい女ではあるけれど、


誰よりも正直で まっすぐで 言わなくていいことまで 素直に言ってしまうほど 純粋で


そのせいで 孤独になってしまうのだ。


No.36 12/01/06 19:29
真澄 ( 0DD7nb )

私は 涼子が好きではなかったけど、


一生懸命生きようと ジタバタもがく人間の 人間らしさが愛しくて


それは立場を超えて 共感できる姿で、


今 置かれている状況よりも 過去の涼子の姿勢を 絶対に否定したくなかった。


「貴女がそんな風に言うなんて 思ってもなかったわ」


涼子は 静かにそう言った。


「私ね、翔平が浮気するたびに 友達まで巻き込んで 大騒ぎしちゃったの。
それなのに、結局 離れない私の行動にね、
みんな 呆れてるのよ。
だから、もう、誰にも言えないの。
みんな 飽き飽きしてるの。
私が いつだって そうして来てしまったの」


No.35 12/01/06 19:14
真澄 ( 0DD7nb )

「私ね…。ずいぶん前のことだけど…。
離婚しようと思ったことがあったのよ…」


涼子は まるで独り言のように 話しはじめた。


「あの頃、子供たちは まだ小さくて、
でも、その分私は まだ若くて…
保険の外交の仕事にありついたのよ。
市営住宅も当たったの。
私は 人生をやり直すはずだったの。
それなのに…。
結局 私はそれを、しなかったの。
私は 間違えたの。
間違えちゃったのよ。
あの時 決断していれば…」


彼女の呟きは とても真摯で…


そこには 厭味も強がりも 含まれてなくて…


ただただ、後悔の念しかないことが、本当に伝わってきて…


私の胸が ズキンと痛んだ。


「踏み止まった涼子さんの決断は 別に間違えじゃないでしょう?」


私は 思わずそう言った。

「えっ?…」


「その時はその時の事情があって、やり直すことが正解だと 涼子さんの直感がそうさせたんだと思います。
今回のことと それは、全然別問題で 過去の自分を責めるのは、
その頃の涼子さんが あまりにも可哀相じゃないですか。
きっと いつだって 誰もが その時々で、精一杯の決断をしているんです」


私も離婚を経験している。


苦しかった。


辛かった。


何が正解なのか ひとつもわからない中で、


私は 別れの選択を選んだ。


それが 正しかったのか、間違っていたのか そんなことは、未だにわかっていなくて、


でも あの暗闇の中での決断を否定することは 自分の存在を否定することになる。


No.34 12/01/06 12:02
真澄 ( 0DD7nb )

「修復されると決めたのなら、これから一生をかけて償ってもらえるのでしょう。
いずれ 私のことなど、なかったかのように…」


だって…。


そうじゃないか。


償ってもらいたいのは、私だって一緒だ。


ひどい裏切りを受けたのは、涼子だけではないのに、


何故 私だけが 責められるのだろう。


「奥さんさえいなければ 私は翔平と結婚できたのに!」


立場をひっくり返せば、そうイチャモンをつけているようなものじゃないか。


No.33 12/01/06 10:38
真澄 ( 0DD7nb )

なんだか、いきなり 尖んがった気持ちが 消えてしまい、私の心も 萎んでいく。


「内容証明を送ったわ」


「えぇ、届いています」


「あの人 家に戻る約束をしたのよ」


心臓がわしづかみされたように 痛んだ。


私は 固く目を閉じた。


良かったではないか。


わざわざ ご丁寧に 頼みもしない連絡をくれて、ご苦労さんでした。


「あなたに嫌な思いを二度とさせないって条件付きでね…。」


はっ?


「そんなこと言われなくても、もう、するつもりはなかったのよ。
ねぇ、この屈辱がわかる?」


「………」


「妻は私よ? 家族を守るのが夫でしょ?
何故 貴女ばかりを守ろうとするの?」


「………。」


「黙ってないで、なんとか言ったら どうなの?!」


No.32 12/01/06 10:09
真澄 ( 0DD7nb )

【もう 電話しない】

そう言ったのは 自分じゃないか。

何度も かけてくるんじゃねーよ。


ひどく意地の悪い感情が 沸き上がり、

それを 表に出さずにいるには、無言でいるしかなかった。


「携帯の番号もアドレスも まだ 変えないのね。
そんなに あの人と 繋がっていたいの?」


何、寝ぼけたことを言っているんだ。


「番号もアドレスも 変えなきゃいけないことをしたのは、
私ではなく、前嶋さんの方ではないですか」


自分でも驚くほどの 冷たい声が出た。


「……。
そう…。そうね。
そうだわね……。」


思いの他、萎れた返事に 私は動揺した。


No.31 12/01/05 22:45
真澄 ( 0DD7nb )

携帯に電源を入れる。


だんだんと 翔平からの着信の数は 減ってきている。


毎日の定例行事のように、翔平の履歴を ぼんやり眺めていると、


知らない番号の通知で 携帯が鳴った。


涼子だ…。


絶対に 涼子だ。


なんの確信もなくたって、こういう予感は的中するものだ。


「もしもし?」


私は やけくそに 電話を取った。


「前嶋です」


私が勝手に そう思うだけかもしれないけど、高圧的な彼女の声にイラっとする。


No.30 12/01/05 22:19
真澄 ( 0DD7nb )

「ご相談の内容をどうぞ」


受話器の向こうで 思いがけず 若い女性の優しい声が響いた。


どこから話していいのやら、私の説明は たぶんわかりにくかったはずなのに、


女性は 根気強く 聞いてくれて、


こう言った。


「そういう事情がおありなら、無視していいと思います。
あちらでも、それ以上のことは なさらないでしょう。
また、なにか あったら いつでもご相談下さい」


実際には もっと たくさんのことを 話しましたが、要するに こんな内容だった。


そして、驚いたのは、


「差し出がましいようですが、桜田さんも相当 気持ちが参っているでしょう。
心のケアをしてくれる、機関を ご紹介できますよ」


と、住んでいる地域に近い サポートセンターの電話番号を知らべてくれた。


彼女にしてみれば、仕事の一部だったかもしれないけど、ひどく優しい口調が ささくれ立った私の心に沁みた。


No.29 12/01/05 10:49
真澄 ( 0DD7nb )

そんな中 異変が起きた。

郵便受に一通の封書。


差出人は 前嶋涼子。


慌てて 封をきると、中には、内容証明たるものが 入っていた。


私は………。


怒りに 身を震わせた。


感情を押し殺し 砂を噛む思いで 毎日をやり過ごしてきた。


言いたいことが山のようにある中で、ひたすらだんまりを決めこんできたのは、


道理を通すための やせ我慢だった。


こんなことをされる 筋合いは 一つもない。


ミクル愛読者の私は 嫌というほど 目にしてきた『法テラス』に 電話をする。


No.28 12/01/05 10:26
真澄 ( 0DD7nb )

嘘をつく側は その嘘を突き通す 様々な努力をする訳で、


つかれる側は、自分の愛した人を信じきっていて、


一挙一動に不信感を抱きながら 探るように付き合う恋人たちは 実際に存在するのだろうか。


【私なら そんな男いりません】


【そんな人を まだ好きでいられるのですか?】


自分の恋心を、算数みたいに割り切れちゃう人たちばかりだけど、


本当にその立場にたった時、今までの本気を そんなに簡単に捨ててしまえるのだろうか。


読めば読むほど、混乱して、益々凹んだりするくせに、


私は 毎日ミクルを読み続けた。


何故って…。決して慰められることは ないけれど、

時間だけは 有り難いほどに潰せる 掲示板だから。

(ミクル大好きな方ごめんなさい。悪意はありません。実際、私は依存してます)


No.27 12/01/05 09:59
真澄 ( 0DD7nb )

【きっと あなたを大事にしてくれる男性が現れますよ】


【そんな男は 必ず罰が当たります】


なんとか、励まそうとしてくれる優しい人達が たくさんいて、


私のスレじゃないけど、なんだか私も感謝しつつ、


それでも、『なんで、そんな風に断言できるのさ? 死ぬまで悲惨な人は 気の毒なほど たくさんいるし、悪い奴が 平気で大往生しちゃう世の中だよ?』


って 卑屈な自分が確かに 存在して、


そして、それよりも、否定的な意見が 私をやさぐれさせた。


【本当に なにも気付かずに いられるものですか?】


【そんな男を選んだ あなたにも 責任はあります】

No.26 12/01/05 09:37
真澄 ( 0DD7nb )

前ページ 訂正

見を隠した→身を隠した

見直したつもりが、すみません💦

続きます。



一日は いつだって24時間のはずなのに、毎日が長すぎて、


とっとと忘れてしまいのに、日を増すごとに、怒りや憎しみは薄れ、


恋しさばかりが 募ってくる。


私は 【不倫】 【悩み】 【恋人の忘れ方】などの キーワードを PCで、手当たり次第検索し始めた。


ご想像通り、最終的に ミクルにたどり着き、


不倫のスレを 片っ端から読み漁る。


拍子抜けするほど、不倫は 巷に溢れていて、


慣れないうちは、自分と同じケースを見つけることが なかなか出来ず、


参考にもならない スレを ひたすら読み続けたりしながら、


いつの間にか ミクルの達人になり始めた(笑)


No.25 12/01/04 21:01
真澄 ( 0DD7nb )

孤独な夜に堪えかねて、何度も携帯を握った。


もう なんでもいいから 声が聞きたい、


ひとめ会いたい、


そんな気持ちを どうにか押し殺した。


カタッと 家のどこかで音がすれば、翔平かと思ったり、


遠くのエンジン音に 耳を澄ましたりした。


職場では いつも どこかで翔平を探し、


気配に神経を尖らせた。


そのくせ 後ろ姿を見つけると、私は忍者のように見を隠した。


No.24 12/01/04 20:40
真澄 ( 0DD7nb )

どうしたらいいとか、


どうしたいとか、


そんな 範疇は超えていて、


どんなに悩んでも、どんなに考えても、どう努力しても


解決する問題じゃなく、


私は 私の出来る ただ一つのことを するしかなかった。


翔平を避けた…。


携帯は 一人娘 親 友人等の連絡を確認する時にだけ 電源を入れた。


履歴のほとんどが 翔平の羅列で、たくさんのメールには、


「連絡が欲しい」とか


「話がしたい」とか


言葉を変えて 並び立てられていたけど、


私は なんのアクションも 起こさなかった。


No.23 12/01/04 11:49
真澄 ( 0DD7nb )

後になってわかることだけど、


図式は いたって単純で、私と付き合い始めた翔平は、先手を打った。


「他人に言うことでもないから 黙ってたんだけど、俺、実は離婚しちゃったんだよね」


世の中は… 良くも悪くも 無関心。

もしくは みんな大人だから、


「それは それは…」

で、終わってしまう。


本社の庶務課に問い合わせて ホントか嘘かなんて 確かめる人間なんていやしない。


いたとしたら、そのほうが、異常だし。


要するに、自己申告さえすれば、回りはみんな納得するのだ。


No.22 12/01/04 11:33
真澄 ( 0DD7nb )

「真澄…。その顔で仕事する気?
あんたって 勇気あるわ…」


翌日、いつもと変わらない優子の態度が 少しだけ私を慰めてくれた。


一睡も出来ずに 泣き腫らしたブスさ加減は ハンパないし、


ヘロヘロでヨロヨロだったけど、

ひとりぼっちで膝を抱えてるくらいなら、仕事をしていたかった。


夕方 遅めの休憩を終えた優子が、


「余計なことかもしれないけど、奴の会社の人がいたから、聞いてみたわ。」
と、戻ってきた。


私の手が止まる。


「なんて…?」


「前嶋さんって、今までずっーと独身なんですか?ってね。
元気にストレートに聞いてみたら、
『離婚したらしいよね』
って あっさり言ってた。
ねぇ、なんか 話がおかしくない?」


No.21 12/01/04 10:41
真澄 ( 0DD7nb )

自ら終わりだなんて言っておきながら、


さよならなんて 強がっておきながら、


本当は なんの覚悟も出来ていなかった。


たった数時間前まで、翔平は 私の彼氏で、


別れなんて想像もしたことがなくて、


今日も明日も 幸せな昨日の続きだと 信じていて、

ほんの3時間ほどの出来事の方が、よっぽど嘘みたいだった。


ガチャリとドアの閉まる音を最後に 静まり返る家の中で、私は立ちつくす。


消えてしまいたかった…。


No.20 12/01/03 19:10
真澄 ( 0DD7nb )

「ごめん。でも、どうしても 顔を見て謝らなくちゃって思ったんだ。
真澄が、会いたくないなんて 考えてなかった。
俺は なにがなんでも ここに来なきゃと、思ったんだ」


「本当にごめん。 帰るよ。涼子と話してくるよ」


涼子…?
それが 奥さんの名前なんだね。


「真澄。迎えにくるから」


行ってしまう。


翔平が 行ってしまう。


もう 二度と来ないかもしれない。


でも………。


拳を握りしめたまま、私は翔平を睨みつけた。


「終わりよ。」


「……。」


「早く…。行って」


「真…」


「さよなら」


No.19 12/01/03 18:58
真澄 ( 0DD7nb )

「だいたい よくも のうのうと、うちに来れたわね!」


あんなに 話したかったくせに…。


「顔向け出来ないのが、普通じゃないの?」


これっきりにされたら、自分が乗り込んだかもしれないくせに。


「あんたみたいな男は こっちから願い下げよ!」


翔平だけを 見てたくせに。


これじゃあ、なんにも話にならない。


それなのに、止まらない。


「出てってよ! あんたの顔なんか 二度と見たくないんだから!」


翔平…。 翔平!


行かないでよ。


このまま 私を置き去りにしないでよ!


「愛してるって 言ったくせに!
私だけを守るって 言ったくせに!」


神様 助けて…。


No.18 12/01/03 11:21
真澄 ( 0DD7nb )

離婚?


私は…。


笑った。


泣きながら、鼻水を垂らしながら。
唾まで飛ばして。


はは…はは…
あはははは…


「そんなことが出来るもんなら、やってきなさいよ!
今、すぐ! ほら、早く行って?
ちゃっちゃと 離婚してこいよ!」


なんて みっともないんだろう。


たくさん 取るべき態度がある中で、


私は 1番醜い態度を取ったに違いない…。


No.17 12/01/03 11:12
真澄 ( 0DD7nb )

「悪かった。言えなかった。
どうしても 言いたくなかった…」


「そんなことで 済むと思ってんの?!」


「すまない…」


「言えなかった?
言わないどころか、将来を約束して、親まで騙して、友達も… みんな みんな騙して!
妻帯者?
妻? 子供?
じゃあ 私は? 私は何?
あんたは誰?
何がしたいのよ!
どうしたいのよ!
私に どうして欲しいのよ!」


筋道を立てて 冷静になるなんて 私には 到底出来なくて。


今なら、もっと違うことが言えると思うけど、あの日、あの時の私には、これが精一杯で。


「真澄。今さら後付けみたいだけど、俺、ちゃんとするから…」


「ちゃんとって何よ?」


「離婚して 迎えに来るから」


No.16 12/01/03 10:54
真澄 ( 0DD7nb )

携帯をパタンと折り畳む姿に 私は飛びかかった。

「なんで切るのよ! なに勝手に切ってんのよ!」


届かない位置に手を挙げる翔平。


「返してよ!私が切ったと思われるじゃない!
返して!」


言わなきゃいけないことは、そんなことでは無いはずなのに、私はそこにこだわった。


「ごめん…」


翔平の言葉を私は無視した。


「かけ直すんだから! あの人の話を最後まで聞くんだから!」


「真澄。ごめん」


涙が 勝手に溢れてくる。

「返してよ。あたしの携帯返してよ。」


他に言葉が浮かばない。


【主人を返して】


彼女の声が 脳裏をぐるぐる回る。


「返して…。
あんたを知らなかった私に帰してよ!」


No.15 12/01/03 00:10
真澄 ( 0DD7nb )

奥さんの心が悲鳴をあげている。


私の心も助けを求めている。


やめて。


もう、やめて。


いったい どうして こんなことになったの?


私は 何を間違えたの?


私が 何をして こうなっているの?


「私が 何をしたって いうの?!」


彼女の声が 耳に響いた。

自分が叫んだのかと、呆然とした。


彼女の叫びは 私の叫びだった。


混乱…。混沌…。


宙を見据えたまま、どのくらい、そうしていたのだろう。


長い時間のように感じたけど、実はほんの少しの間だったのかもしれない。


いきなり、私の手から携帯が引ったくられる。


えっ…?…

驚いて見上げた先に、翔平が立っていた。


No.14 12/01/02 18:22
真澄 ( 0DD7nb )

余裕なんて ある訳もなく…。


私は ただただ 必死だった。


翔平と話したかった。


嘘もごまかしも 効かない状況で 翔平の言葉を聞きたかった。


それだけなのに…。


「いないわよ。逆ギレして出て行ったわ」


「………。」


「桜田さん。貴女のところにでも向かってるんじゃない?」


「………。」


「返してよ!主人を返して!
3年も貸してあげたのよ?
もう返してよ!」


悲痛な叫びが 私の胸をえぐった。


彼女は泣いていなかったけど、それは、涙を流さないだけのこと。


翔平…。


この声が、あなたには 聞こえないの?


No.13 12/01/02 18:00
真澄 ( 0DD7nb )

他人から嫌われたり、争ったり、誰だって できれば避けて生きたい。


でも、社会に出れば そんな願いも虚しく、知らないうちに 嫌われちゃったりすることもある。


でも、これほどアラワに憎しみを向けられる経験はなくて…、


【死ねばいい】の一言は 私の胸に突き刺さった。


折れかかった心を必死で修正する。


「それなら、今 ここで ご主人と電話を代わって下さい。
あなただって、家族がいるのに、浮気を繰り返すご主人の気持ちが知りたいでしょう」


「余裕なのね。貴女…。」


はいっ?


「何様のつもりかしら?」


私は…。何か おかしなことを言ったのだろうか…。


No.12 12/01/02 15:57
真澄 ( 0DD7nb )

「冗談じゃないわ! なんで私が貴女なんかと会わなきゃいけないの?
こちらから 提案するならだけど、どうして貴女に指図されなきゃ ならないの?」


「指図?してる覚えはありません」


「口の減らない女ね。 貴女なんか 死ねばいいのに!」


彼女の名誉のために 最初から 書いておきますが、
奥さんは、この時 怒りに我を忘れていて、こんな風に言いました。

が、実際は 訳のわからない人ではありません。


それは、後の話から感じることですが、


正直、この時は なんて嫌な人なんだろうと 思いました。


No.11 12/01/02 15:48
真澄 ( 0DD7nb )

優子との電話を切った途端に 着信が鳴る。


翔平の携帯だ。


本人だろうか。


奥さんだろうか。


電話に出るべきか。


否か。


結局 私は 通話ボタンを押した。


「貴女のせいよ! どうしてくれるのよ!」


いきなりの切り口上に 私は 押し黙った。


「貴女がいなければ…。貴女さえいなければ!」


私…? の、せい…?


いやいや 待って下さいよ。


相手が逆上すると、こちらが冷静になるものだと、妙なことを考えたのを覚えてる。


「そちらで どんな話になっているのか知りませんが 三人で話し合いをさせて下さい。
片手落ちになるのは、たまりません」


正直な気持ちだった。


私は 奥さんからではなく、翔平の口から 事実を説明して欲しかった。


それが、例え どんなに残酷なことでも。


奥さんの前で、包み隠さず 話して欲しかった。


No.10 12/01/02 11:45
真澄 ( 0DD7nb )

「明日、仕事 来れる?」

行きたくない。


みんな、私を笑っていたかもしれない。

どんな顔をして出勤すれば、いいのだろう。


翔平に会ったら、私は どうしたらいいのだろう。


でも、永久に行かないということは、辞めることを意味する。


私には 生活がある。


簡単に辞めるわけには いかない。


「行くよ。こんなことで みんなに迷惑かけられないもん」


「真澄。どうなるかわからないから、とにかく 誰にも言わないつもりだけど、事情によっては 私 黙ってる自信がないわ…」


優子は 正直だ。


人の口に戸は建てられない。


私が 自分から告白したのだ。


もう 今までと 同じようには、いかない。


何かが 動き始めたのだ。

No.9 12/01/02 11:31
真澄 ( 0DD7nb )

また、ずっしりと現実が のしかかってくる。


両親に なんと言えばいいのだ?


考えたくない。


何から 考えたらいいのか、わからない。


「真澄? ねぇ、大丈夫?」


優子の声に 我にかえる。

大丈夫…?

ううん、大丈夫じゃない。


でも そんなこと 言えない。


「わからない…」


仕方なく そう答えた。


「前嶋…。サイテーだわ。」


最低…。 そうだね。


でも、なんだか ピンとこない。


「本人から 連絡は?」


「まだ、ない。
今頃、家で修羅場かも」


何故。 そこに 私はいないのだろう。


これは、私の問題でもあるのに。


No.8 12/01/02 10:12
真澄 ( 0DD7nb )

混乱した私は 職場の友達に電話した。


「優子ちゃん…。翔平にね、奥さんがいたんだって…」


「へっ?」と、優子はとぼけた声を出した。


「えっ? え〜〜〜っ? ちょっ! なにそれ? ホントなの?」


優子の驚愕した声に 私はまた ボロボロと涙が込み上げてくる。


「奥さんって人から 電話がきたの。
翔平が結婚してたなんて 私、考えたこともなかった。
彼の職場の人たちは みんな知ってたのかな?
堂々と不倫してるって 呆れてたのかな?」


「そんなんだったら、誰かしら、噂するでしょ?
陰で何か言ってたら、少しは耳に入るものじゃない?
みんな 知らないんと違う?」


「………。そんなことが、あると思う?」


「だって!実際 知らないしっ!
奥さん 何だって?」


私は電話の内容を伝える。


「真澄…。あんた 結婚の約束してたよね?」


二年間のクリスマス。

私は翔平にダイヤの指輪と一緒にプロポーズされ、両親に彼を紹介した。


No.7 12/01/02 09:53
真澄 ( 0DD7nb )

翔平と半同棲を始めたのは、3年前。


空港に勤める私たちは まったく別会社であったが、接点はたくさんあった。


お互い 別方向からの 通勤で、1時間ほどかかるそれぞれの自宅は、かなり遠かった。


シンママの私は 家を空けることが出来ないために、翔平が私の家へと通っていた。


この3年間、私たちが一緒にいる時間に 翔平の家族から電話を受けている姿など 見たこともなく、

怪しい気配など 感じたことなどなかった。


職場の人間のほとんどが、私たちの付き合いを知っていて、誰も翔平の家族の話題を 口にしたこともない。


そんなことが 可能なのだろうか。


そんなことが、有り得るのだろうか?


No.6 12/01/01 23:34
真澄 ( 0DD7nb )

鳥肌がたった。

降って湧いたような この事実が にわかに信じがたかった。


ふと、気付くと、携帯を握りしめた手が白く固まっている。


ひどく喉が渇いていたが、立ち上がる気力はなかった。


「あなたが奥さんで…、彼は私を騙していた。
と、いうことは、あなたのご主人は 私に対して詐欺を行った…。
そういうことですね」


私は力無く 要点をまとめた。


いつのまにか チクチクと頭が痛み、締め付けられるような胸を、右手が押さえていた。


自分が放った言葉の意味を、自分自身が あまり重要と捉えていなかった。


が…、


淡々としていた彼女は 突然私に噛み付いた。


「人の旦那を寝とった女が 女房を脅す気?
冗談じゃないわ!」


突然の大声に 私は唖然とする。


「とにかく さっさと別れなきゃ こっちにも考えがあるわ。
自分の立場をわきまえることね」


通話は 切れた…。


シンっと 辺りは静寂に包まれる…。


考えなきゃ…。

何を…?

自分の身に起きたことを…。

考えたら 何か 良い案がある…?


途方に暮れて 膝を抱える。


「翔ちゃん。翔ちゃん…。」


声に出して 彼の名を呼んだ途端、大粒の涙が 後から後から溢れ出した。


No.5 12/01/01 22:46
真澄 ( 0DD7nb )

「奥さん…?」

私は、とうとう声を搾り出した。


「えぇ。子供もいるわ。二人。」

「知らない。そんなこと、聞いてない」


「そのようね」


「彼…は…? 翔平さんは…?」


「呑気に風呂に入ってるわ。
バレてることも知らずに。
貴女に電話してることも知らずに。
今から、青ざめるでしょうね」


「何故…? こんなことを?」


「知らないわ。そんな男なのよ。
浮気は これが初めてじゃないわ」


浮気…?
私が3年間、大事に育んできたこの思いを、たった二文字で片付けるの?

なーんだ。私ってただの浮気相手だったのね。
そう、納得しろと?


「私は…。こんなことは、初めてです。
意味がわからない。
どうして?どうして、こんなこと…?」


「脳がイカレてるのよ。病気よ。タイガーウッズと同じね。性依存症?だっけ?
私から言わせれば、脳障害だわ。」


「そんな言葉で すべて片付ける気ですか…?」


「仕方ないじゃない。馬鹿は死んだって直らないもの」


「私は納得いきません。
彼の口から 説明を頂きたいです」


「説明? 必要ないわ。 女房 子供がいたのよ。貴女は別れるしかないじゃない。」


No.4 12/01/01 18:14
真澄 ( 0DD7nb )

つま…?ツマ…?

妻……?


思考が止まった。


【私も前嶋とお付き合いしてます。】


不倫なんて言葉を彼女は 使ったのに…。

私は、そんな言葉を想定したのだ。


嘘だ…。 そんなの嘘だ…。


これは、何かの間違いだ。

話し合えば誤解が解ける。

そうだ! 話さなくては。

ちゃんと 違うって説明しなくては。


「貴女には悪いけど、別れてもらうわ。
私は 離婚するつもりはないの」


喉を何かに押さえ付けられたように、言葉が出ない。


「あの男が何をしたのか、もうわかったわ。
貴女がこれで別れるなら、もう電話しないわ」


何が…? どう…? わかったの…?


私は 何もわからないよ?

何故、もう完結したかのような話し方をするの?


あなたが それで良くても 私は良くないよ?


No.3 12/01/01 17:49
真澄 ( 0DD7nb )

「図々しいのね。不倫をするだけあるわ。
調子に乗って いつまで続けるつもり?」


「はっ? あの…、どなたかと間違えてらっしゃいますか?
私、桜田ですけど?」


「………。」


「もしもし? こちら桜田です」


「桜田 真澄…さん…でしょ?」


「はい。そうですが、何か 間違いがありませんか?」


嫌な予感は 振り払えない。

でも、彼女の言ってる意味がわからない。

不倫?

それ、私じゃないよ?


「………。
もしかして、貴女 何も知らないの?」


「……?」


何?なんなの?

嫌だ…。
何かが、私の胸をチカッと駆け抜けた。

でも…。嫌だ。
何も気づきたくない。


なんだか、知らないけど、知りたくない!


「そう…。そうだったのね…。

私 前嶋の妻です」


No.2 12/01/01 17:19
真澄 ( 0DD7nb )

彼の携帯から着信。

私は迷わず 通話ボタンを押した。

「はい」

「………。」

「もしもし?」

「……。 貴女、どういうつもり?」

知らない女性の声が、彼の携帯から、聞こえた。


「??? すみません…。どちら様ですか?」

「知らないとでも言うつもり?」


えっ…? マジで分かんない…。


でも…。

尋常じゃないことが、始まる予感がした。

胸を打ち始めた鼓動が 口から飛び出しそうになる。

恐ろしく嫌な感覚が モゾモゾと身体を駆け巡る。


「すみませんが、どちら様でしょうか…?」


私は 馬鹿みたいに 同じセリフを口にした。


No.1 12/01/01 16:59
真澄 ( 0DD7nb )

初めに。

私が 相手女の立場です。

奥様の感情は 話の中から 感じ取ったもので、なるべく忠実に再現しますが、

勘違いもあるかもしれません。

その辺りを ご了承下さい。

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