優しさ
今までの人生を振り返ります。今までずっと色々な過去を思い出して泣いてきたので…。
もう色々な過去に振り回されず生きていきたい。
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私は上司と会って、何故そんな事をしたのか理由を聞かれた。
今まで、あった事を話した。
上司が「…やっぱり。あの人いつもそうなんだ…。だから新しい人が入ってもすぐ辞めちゃうんだよ。…違う科にするから戻ってこれない?」
私は「お気持ちは有り難いのですが…」と言った。
いくら嫌だったとはいえ、会社を勝手に抜け出すのはよくない。
上司は「…うん。わかった。」と言ってくれた。
私は上司に何度もすいませんでしたと、頭を下げ別れた。
家に戻って一息ついていたら、マイが話しかけてきた。
「仕事どうするの?」
「う~ん…。」私が悩んでいたら…
「うちの店で働けば?」
マイが言った。
マイは、私の過去を知らない。
「…うーん…コンビニで働こうかな!」私は言った。
「え~!絶対楽しいよ!時給いいし、タダで酒飲めるしぃ、タダでカラオケも出来るしぃ!変な人いないし!大丈夫!一緒にやろ~!!ねっ!今からママに電話するから!」
「えっ…うん…。」私は気があまり乗らなかった。マサの傷は少しずつだけど、癒えてきた。でも…
その間にマイは、ママに電話をしていた。
「人足りないし、今日面接来てだって!」
「…う~ん」
私が生返事をしていたら、
「ねぇ!一緒に働こうよ!変なお店じゃないし!お願い~」
「…うん。わかった。」
私はそのお店で働く事にした。
私はその夜、いつもより濃いめの化粧をしてマイと一緒にお店に向かった。
私自身、夜のお店で働くなんて考えもしなかったので、変に緊張していた。
お店はスナック。なかなか広く、キレイなお店。
「おはようございまぁす!面接の子連れてきましたよ~!」
マイがママに言っていた。
「…よろしくお願いします。」
私の緊張はピーク。
「いらっしゃい。よく来てくれたね!マイでかした!かわいい子じゃない!」
奥からママが出てきた。ママはすごくキレイな人で、40歳ぐらいの若いママ。
「この子ならOK!今日から働いちゃう?」
私がビックリしていると…
「うちのお店は常連さんばっかりだし、お店の外では会わせない。そういうの基本的に禁止してるの。触ってきたりするようなお店じゃないから安心して。」ママが言った。
私は少し安心した。
マイは「今日から働いちゃいなよ!私も出だし!」
私は「…じゃあよろしくお願いします。」と言った。
「よし!じゃあ名前どうする?源氏名を使う子もいるし、自分の名前を使う子もいるよ?」
「…ん~。どうしよう」私が悩んでると、ママが…
「じゃあ、エリちゃん!あなたエリって顔してる!笑」
「じゃあエリでお願いします!笑」私は言った。
私はもうひとつの名前を持つ事で、妙な安心感があった。エリというもう1人の私でいると、マサに怯えていた自分を忘れる事が出来る気がした。
その夜から、仕事を始める事になった。今までの自分を、エリと言う存在で掻き消すために…。
スナックの仕事は、思った以上にとても大変だった。お客さんへの気配り。常に笑顔。でも、とてもいい勉強だと思った。
スナックは、年配の人達がくるお店だと思っていたが、若い男のお客さんもいた。マイや私は、他の女の人よりも飛び抜けて若い。だから若いお客さんが来ると、よく席に着かされた。
店外デートや同伴、アフターは禁止だったが、マイはママやチーママに隠れてよくお客さんと、会ったりしていた。そういう事もあり、マイは結構お客さんと付き合っていた。
ある日、若いお客さんの団体がお店に来た。マイと私は、いつものように席に着いた。
その中にサトシくんという、ちょっと大人しめな感じの男の子がいた。サトシくんは以前、ここのボーイさんをしてたらしい。
私はサトシくんの隣に座った。
サトシくんはマイが席に立ったり、トイレに行ったりしているのを目で追っていた。
「マイに気があるんだ」と思った私は、マイと場所を変わった。
その日、家に着いてからマイは…「サトシくんてどう思う?」と聞いてきた。
私は「優しそうだよね。感じも悪くないし…。なんで?」
「番号もらったんだけど…今までのタイプの人とはちょっと違うから…」マイが言った。
マイは基本的に、ちょっと軽そうな男の人が好みで、付き合ってきた人もそんな感じの人ばかり。確かにマイのタイプではなさそうだ。
「ん~…連絡して遊んでみよっかなぁ」マイは言った。
「まぁ今の彼氏と別れてからにしなよ~」と私は言った。
私はその時、これから何年か先に起こる事態など知らずに、マイの話を軽く聞いていた。
それからしばらくして、マイは彼氏と別れて、サトシくんと付き合う事になった。
私はもちろん応援していた。
マイと暮らし始めて2ヵ月ぐらい経った頃、久しぶりに父から連絡が入った。普段、私に連絡もしてこない。
私は、なんだかわからず電話に出た。
「もしもし?どうしたの?」
父は「お母さんが出て行った。」と言った。
私は突然の事で、訳がわからなかった。
とりあえず近々、実家に帰る事を約束して電話を切った。
その日の仕事は、なかなか手につかなかった。
とりあえず、私は実家に顔を出した。
玄関を開けてビックリした。目に飛び込んできたのは、部屋の汚さ。ホコリまみれで、とてもじゃないが人が住める状態じゃない。
部屋の中から父が出てきた。
「…おかえり」
「ただいま。っていうか、どうしてこんな昼間から家にいるの?仕事は?」私は言った。
「仕事クビになって…」と言われた。
とりあえず少し掃除をして、父の話を聞いた。
母は、私がマイと住み始めた頃から出て行った事、父は私と暮らしている頃から仕事をしていなかった事、母に私には仕事をしているようにして。心配かけてしまうと言われていた事など…。
私は唖然とした…。自分の事ばかりに気を取られていて、家庭が崩壊していた事にすら気づかなかった。
父は昔から何も出来ない人だ。インスタントコーヒーすら作れない。家の事や父の身のまわりの事は、母が全てしていた。
私はなるべく早く実家に帰る事を父に約束し、とりあえずその日は帰った。
実家から帰る途中、母に連絡を入れた。
「お父さんとはもうやっていけない。お母さん、違う人と住んでいるから」と言われた。
なんだか寂しかった。母に置いていかれたような気がして…。私は、母に実家に帰る旨を伝え電話を切った。
私は帰ってから、マイに話そうとした。そしたら、マイから話があると言われた。
「大屋さんに今月末で出て行ってくれって言われちゃった…」
私は理由を聞いた。
実はマイの住んでいた家は、夜の仕事をする人はダメだったらしい。それが大屋さんにバレたそうだ。それをサトシくんに話したら、サトシくんの実家に住ましてくれるとの事。それでスナックの仕事も続けていくと話をされた。
私も事情を話して、実家に帰る事を伝えた。
その夜、ママに話をしたら「大変!早く帰ってあげなさい。またいつでもおいで。」と言ってくれた。私の無理なお願いを、聞いてくれたママに感謝した。
私は最後の仕事をして、実家に戻った。
父と2人の生活が始まった。父に仕事を探してほしいとお願いした。私も実家に戻り、2日間かけて掃除をして、すぐに仕事を探した。
私はすぐ仕事が決まり、カフェと飲食店のバイトを掛け持ちで週6日働き、家事もした。
その後、しばらくして父も仕事に就いた。
仕事も慣れ、実家での父との2人暮らしも慣れてきた頃。
私がカフェでバイトをしていた頃、若い男の人と40歳代ぐらいの女性の2人が店に入ってきた。
「いらっしゃいませ!こちらへどうぞ!」
私は席に案内すると若い男の人が私をじーっと見ていた。
その人が私の人生を大きく変える人だったなんて…。
話の途中ですが…
この物語は実話です。でも話の中に出てくる人物は、ほぼ偽名です。
でも、私自身の名前が思いつかず、名前を出さないようにしてきました。
読みにくいでしょうか…?
もし読んでくださっている方がいらっしゃったら、ご意見を頂けたらと思います。よろしくお願いします。m(_ _)m
「…なんでこの人、じっと見てくるんだろ…」私は思った。
「…あの~俺の事覚えてます?」
「すいません…」
私は全然思い出せなかった。
「小学校で一緒だった、大田です。」
「…大田?…あっ!もしかしてリョウちゃん??」
これがリョウちゃんとの再会だった。リョウちゃんは、小学校の時に引っ越してきた。背が小さく、色黒で、お猿さんみたいな子だった。
再会した時は、背も高くなっていて、短髪で、爽やかな感じになっていて全く気付かなかった。私は私立の学校へ進学したため、公立に行った子達とは疎遠になっていた。
「元気だった~?」
「うん!!」リョウちゃんが言った。
話していると、お店が混んできたので、とりあえず注文を聞いて仕事に戻った。
私がレジに立っていると、リョウちゃんが会計に来た。
「ごちそうさま。」声をかけられた。
会計を済ますと、私に小さな紙を渡してきた。レシートだった。
「またね。」リョウちゃんは、そう言うと帰っていった。
レシートの裏には、連絡先が書いてあった。
私は夜までバイトだった。
「夜のバイトの休憩時間にでも、メール送ってみようかな?」
私はなんとなく思った。小学校の時は、それほど仲が良いわけでもなかった。不思議と何か惹かれるモノがあった。今になってみれば、一目惚れだったのだろう。
「こんばんわ!番号ありがとうね!今日はリョウちゃんが店に来て、ビックリしちゃったよ!」みたいな感じでメールを送った。
返信がすぐに来た。
「こっちこそビックリしたよ!」
それから、たわいもない話をメールでやりとりした。
「今日バイト何時まで?」
「10時半までだよ」私は言った。
「迎えに行くよ!俺の新品の愛車で 笑 どっか行こうよ!」
私は、嬉しい半分少し怖かった。車の中でも何度か殴られたりしたから…。
バイトが終わり、店から出るとリョウちゃんは車の前で待っていた。
「お疲れ様!」
「お疲れ様!どこ行こうか?」
リョウちゃんは言った。
私は「じゃあ…海がいいなぁ。」
「夜の海かぁ。いいね!気持ちよさそう!乗って!」
行きの車でリョウちゃんは、色々話してくれた。今は社会に出て働いてる事、今もずっと社会人野球をしてる事など。私は、怖いなんて気持ちはなくなり、楽しくて海まで1時間ぐらいかかる道のりを短く感じた。
海に到着した。夜の海は真っ暗で、何もかも引きずり込んでしまうような、すごい感覚を感じた。
「…真っ暗だね。」私は言った。
「うん。外出て座ろうか。」
リョウちゃんは外に出た。
「真っ暗だけど気持ちいいねぇ。…引きずり込まれちゃいそう。」私はトモユキやマサを思い出しながら言った。
リョウちゃんがタバコに火をつけ、口を開いた。
「…俺、実は会う前に一度見かけてるんだ。声かけようと思ったんだけど…」
「嘘?声かけてくればよかったのに!いつ?」私は聞いた。
「ずいぶん前だなぁ…。高2ぐらいの時かな?…でも声とかかけられる雰囲気じゃなくて…」
……マサだ……
私は一瞬で思い出して、苦しくなってきた。
それを見たリョウちゃんは、「大丈夫?」と言いながら背中をさすってくれた。
しばらくして苦しさがおさまってきた。
「…ありがとう。大丈夫。ごめんね。」私は言った。
「なんかあったんだね、やっぱり。…声かければよかったなぁ。何か少しでも出来たのに…。ごめんな。」
私の背中をさすりながら、リョウちゃんは言った。
私はその気持ちが嬉しくて泣いた。
「泣かないで…。」そう言って、リョウちゃんは私を抱きしめた。
私は、不思議と怖いと思わなかった。むしろ、リョウちゃんの匂いがやけに落ち着いた。
「…気晴らしにカラオケでも行っちゃう?!」
リョウちゃんは私の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
私はその笑顔に安心して、頷いた。
私たちは付き合ってない。けど、リョウちゃんは帰りの車で何度も何度も私の髪を撫でてくれた。
その度に、私はドキドキした。
カラオケに着いて、歌を歌った。
リョウちゃんはケツメイシを歌っていた。
しばらく歌っていたが、急にリョウちゃんが歌うのをやめた。
「…」
「どしたの?」私は言った。
「…やばいなぁ。」リョウちゃんは言った。
「なにが?」
「…すげぇ好きかも…」
私は困った。確かに私は惹かれていた。でもやっぱり…怖かった、男の人と付き合うのは…。嬉しいはずなのに…。
私はマサの事だけを話す事にした。
私は思い出すと過呼吸になる…。でも話さなければ前に進めないと思った。リョウちゃんと付き合いたい。ちゃんと向き合っていきたいと思った。
リョウちゃんはただ、背中をさすりながら話を聞いてくれた。
「…つらかったね。怖かったろ?…寝れなかったら毎日一緒に居る。苦しくならないように、思い出させないように毎日笑えるようにするから。」
そう言いながら背中をさすってくれていた。
嬉しかった。こんな弱い私を受け入れてくれた事が…。
…でも私には言えない事がもうひとつだけあった。トモユキとの間に授かった子の事は言えなかった…。
寝れずに過ごす毎日の中で、たまに寝れると夢に出てくる。産婦人科の病院の中から、赤ちゃんの声が聞こえてくる。ゆっくり近づくと、赤ちゃんのかわいい泣き声が「…殺さないで」と叫ぶ声に変わる。その声を聞いて私は「私は殺人者だ」と自覚する。
私はリョウちゃんに殺人者だと知られたくなかった。…やっぱり言えない。
最低だと思った…。
それでも私は、自分が幸せになりたくてリョウちゃんと付き合うようになった。
リョウちゃんは私を想い色々な所に、連れて行ってくれた。
私は幸せを感じていた。ずっと一緒に居たいと思った。
付き合い出してから、2ヵ月ぐらい経った日。
リョウちゃんといつものように、デートをしていたらリョウちゃんが「プリクラをとりたい」と言った。
プリクラをとり、私は嬉しくて携帯に貼ろうと思った。リョウちゃんに話すと「俺も貼る」と言ってくれた。
帰りの車の中でプリクラを貼っていた。お互い汚れるのが嫌だから、電池パックの中に貼る事にした。
私は貼っているのに、リョウちゃんは貼らない。あれだけ一緒に貼ると喜んでくれていたのに…。
私は聞いた。
「なんでプリクラ貼らないの?」
「えっ…?…うん!車暗いし、家帰ってから貼る!」リョウちゃんは言った。
不思議に思ったが、リョウちゃんは確かに目が悪い。私は、特に何も気にしなかった。
次の土日の話をしていた時に
「今度どこ行こうか?」私が聞いた。
「あっごめん。俺、今度の土日に岐阜に行くんだよ。」
リョウちゃんは小学校の時に、岐阜から引っ越してきた。
「そっかぁ。じゃあお土産楽しみにしてる!笑」
なんて呑気な事を言っていた。
その日、リョウちゃんが家に呼んでくれた。きっと、体の関係を持つと予感した。でも、リョウちゃんは実家暮らし。
前にお父さんは、単身赴任していてお兄さんは、同棲していると話していた。家にいるのは…お母さん1人だ…。
彼氏の親に会った事のない私は、緊張していた。
「大丈夫!俺の母ちゃんは何も言わないから。」リョウちゃんが言った。
「わかった。じゃあお邪魔します。」
リョウちゃんの家に着いた。
「ただいまぁ!彼女連れてきたぁ」リョウちゃんがドアを開けた。
「お邪魔します。」私が入った。
中からお母さんが出てきた。
「リョウ、おかえり。」
「彼女連れてきたから、部屋になんかお茶でも持ってきて。」
「初めまして!…」言いかけた時、
「うん、わかった。」お母さんが遮った。
なんだか変だと思った。お辞儀をして、リョウちゃんの部屋に入ろうとした時、お母さんと目が合った。
…今一瞬だったけど…睨んでいたような…
私なんかしたかなぁ…
リョウちゃんは気づいてないようだった。
部屋に入り、リョウちゃんに聞いてみた。
「そうかぁ?そんな事ないと思うけど…」
その時、お母さんがお茶を持って部屋に入ってきた。
「いらっしゃい。いつもリョウがお世話になってます。仲良くしてやってね。」
お母さんは、優しく言ってくれた。
私の勘違いだったんだ。優しいお母さんでよかったと安堵した。
「こちらこそよろしくお願いします。」
しばらくお母さんと会話していたが、お母さんは
「いけないっ!電車に間に合わなくなっちゃう。じゃあゆっくりしていってね。」
どこかへ出掛ける様子だった。
「お母さんどこかへ出掛けるの?」
「あぁ。毎週、親父の所に行くんだよ。だから2人で暮らしてても、ほぼ1人暮らしみたいな感じ 笑」リョウちゃんは言った。
私は、家族みんなが仲いいのが羨ましかった。
「じゃあ、お母さん行くから。戸締まりしっかりね!ご飯ちゃんと食べてね!何かあったらすぐ連絡してね!すぐ帰ってくるから!」
色々リョウちゃんに言っていた。心配性なんだなぁと、思った。
お母さんが出掛けてから、しばらく話をしていた。
リョウちゃんがいきなり抱きしめてきた…。「今日泊まる?」
私は「うん。」と頷いた。
リョウちゃんが「シャワーあびてくる。一緒に入る?」と聞いてきた。
私は「私は、後でいいよ。リョウちゃん先に入ってきて。」
リョウちゃんがシャワーを浴び、戻ってきたので私も入った。
シャワーを浴びながら私は、緊張していた。でも付き合ってるんだし、こうなるのが自然なんだろう。
シャワーから出て、リョウちゃんの部屋へ戻った。
リョウちゃんは、ベッドの中で携帯をいじっていた。
私が入ってきたのに気づくと、私をベッドの中に呼んだ。
ベッドに入ると、リョウちゃんは「やっとひとつになれる。」と言って、私を抱いた。
リョウちゃんの腕の中は、心地よくて幸せだった。
私を抱いた後、タバコに火をつけ腕枕をしてくれていた。
私はふと思い出した。
「リョウちゃん!プリクラ貼って。」
「…え?…うん。」リョウちゃんは目をそらした。
…リョウちゃんの様子が変だ。家に帰ってから貼るって、言っていたのに…。携帯見られたくないのかな…。なんだか怪しい…。
「…リョウちゃん。携帯貸して?」
「…なんで?」
リョウちゃんの目が泳いでる。
「中身じゃないよ?私がプリクラ貼ってあげる。」
私は半ば強引に携帯を取った。電池パックを開けた。
知らない女の子とリョウちゃんが、肩を組んで幸せそうに笑ってるプリクラが貼ってあった。
…やっぱり…
…自然と涙が落ちてきた。
「…なにこれ…」
「ごめん…前の彼女とのプリクラ剥がすの忘れてて…でも浮気じゃない。信じて。」
私は信じられなかった。ずっと黙って、リョウちゃんの話を聞いていた。
リョウちゃんが「彼女と別れ話してまだ、あんまり経ってなくて…」
「…別れ話したのいつなの?」私は聞いた。
「先週ぐらい…あっ…」
私とリョウちゃんは、付き合って2ヵ月経つ。浮気されたのではなく、私が浮気相手だった…
私は、その言葉で一気に頭に血がのぼった。私はキレて、リョウちゃんを問い詰めた。
リョウちゃんは彼女と遠距離をしていた。別れ話をしたが、彼女が納得してくれず、会いに来ないと別れないと言い出した。彼女の住んでいる場所は…岐阜…。
それだけではなく、彼女の名前はアミ。アミは…リョウちゃんのイトコだった…。
…信じられない。イトコと恋人同士になるなんて…。しかも、私に内緒で岐阜まで会いに行こうとしてたなんて…。
「…別れる」私は言った。
「待って!本当に俺はどうかしてたんだ!ちゃんと行って別れてくる!絶対!だから待っていてくれないか?」
「無理です…私には耐えられない。気持ちがないにしろ、まだ付き合っていたなんて…。しかも相手がイトコなんて…信じられるわけないでしょ!」
私はリョウちゃんの携帯を投げつけた。
…バキッ!
リョウちゃんは突然、携帯を真っ二つに折った。
「ちゃんと終わらせる。携帯も新しいのに変える。二度と嘘はつかない…。二度と、他の女とも2人で会わない。だからもう一度チャンスをくれ。絶対悲しませないから。」リョウちゃんは言った。
リョウちゃんは、元元彼女と別れた時に、アミに相談していたらしい。アミに突然、前からリョウちゃんの事が好きだったと告白をされ、その時の感情でOKをしたと言った。それからアミと会ったのは、1度だけ。体の関係もない。そう言った。
私は、リョウちゃんの言葉を信用した。
ただ、そのかわりすぐには信用出来ない。女の子とは2人で会わないでほしい。嘘はつかない。そう約束させた。
リョウちゃんは私を抱きしめて「…ありがとう。愛してる。絶対幸せにするから。…俺、結婚したいと思ってるんだ…。」
私の付き合ってきた人は、すぐに「愛してる」「結婚」「幸せにする」の言葉を口にした。
私もその言葉を聞くと、私は愛されてると思った。
私は、またリョウちゃんに抱かれた…。
その後、リョウちゃんは岐阜に行った。岐阜に行ってちゃんとケジメをつけた後、新しい携帯を買いたいと本人が言った。
私は岐阜に着いたら、公衆電話から電話をするよう伝え、リョウちゃんを送り出した。
岐阜に着き、リョウちゃんはしっかり約束を守っていた。
私の信用を一生懸命取り戻そうとしてくれていた。
私にも、それは伝わってきていた。
リョウちゃんは無事、アミと別れて私の元へ帰ってきてくれた。私は複雑だったが、嬉しかった。
それから、リョウちゃんとは上手くいっていた。ただ…私には一つ悩みがあった。
それは…リョウちゃんの性欲が強い事。
岐阜から帰ってきてから、毎晩のようにリョウちゃんと過ごす事が多かった為、毎晩必ずだった。
ひどいのは、休みの日。1日通して、体を求めてくる。1日3回は当たり前。
私は正直、性行為に関してあまり知識がなかった。興味もたいしてなく…。性行為を重視していなかった。
でもリョウちゃんは性行為=愛情表現だったため、一度断ったら「俺はこんなに愛してるのに…俺は愛されていない…」とひどく落ち込んでしまった。
それからなかなか断れず、悩んでいた。
そんな日が続いていたある日、私の携帯が鳴った。ミサキだ。
ミサキは中、高と仲良かった友人。
久しぶりで驚いたが、嬉しくて電話に出た。
「もしもし、ミサキ?元気?」
私は勢いよく電話に出た。
「うん!元気!元気!」
そんな会話をしていたが、ミサキから結婚をすると聞いた。
「実は…妊娠してね…で、式もやるから来てもらおうと思って。」
私は心から祝福した。ぜひ行かせてもらうと言い、電話を切った。
私の同級生も結婚かぁ…。なんだか家庭に入って落ち着くんだ。なんかいいなぁ…私もいつか…暖かい家庭を築けるのかな…。
私は、ミサキの事をリョウちゃんに話した。
リョウちゃんは「俺たちも早く一緒になって幸せになろうな。」
そう言って私を抱きしめた。
ミサキの結婚式に参加した。
ミサキは、キレイで幸せそうに笑っていた。私も幸せな気分になった。
クリスマスに近づいたある日、リョウちゃんからクリスマスの相談を受けた。
「クリスマス、どっか泊まりがけで遠出しようか。」
私達は、旅行パンフレットをいっぱい持って色々な所を探した。
私は夏より冬が好き。雪が降ると、走り回りたくなるぐらい大好きだった。
私は「那須高原がいいなぁ」
そう言った。
那須高原の温泉を、リョウちゃんが予約してくれた。
私はクリスマスが来るのが待ち遠しかった。
クリスマスの前日。私達はお互い仕事を休み、朝早くから出掛ける事にした。
朝方、リョウちゃんからメールが来た。「行くぞぉ~!」
私は、メールを見て思わず笑った。
急いでリョウちゃんの車へ向かった。
リョウちゃんと車内では笑いが絶えず、那須までの距離も全然遠く感じなかった。
那須に着く頃、いつのまにか雪景色に変わっていた。
私は雪を見て、大騒ぎ。
リョウちゃんはそれを見て、微笑んでる。
こんな関係がいつまでも続きますように…私は心の中で思ってた。
温泉に着くと、そこは老舗の高級旅館のようだった。
とても静かで、キレイな場所。
部屋に着く頃には、夕方になっていた。
リョウちゃんが部屋に着いて倒れ込んだ。
「お疲れ様。ありがとうね」
私はリョウちゃんに言った。
リョウちゃんは私の腕を引っ張って、そのまま押し倒した。
「リョウちゃん?!お風呂も入りたいし、後にしようよ?!」
リョウちゃんは「嫌。今お前を感じたいの」そう言ってやめてくれなかった。
私は、仕方なくその行為に応じた。
行為が終わると、お互いお風呂に入る事にした。
お風呂は、そんなに広くはないが、露天風呂は雪が積もっていて、雪見風呂だった。
お風呂から上がり、リョウちゃんと一緒にご飯を食べに行った。
リョウちゃんはビールが好きだ。私は、お酒があまり得意じゃないのでお茶をもらった。
ご飯を食べ終わった頃、リョウちゃんはほろ酔いになっていた。
部屋に戻ると、リョウちゃんは鞄の中をゴソゴソと何かを探していた。
「どしたの?」
「…ん~…あっ!あった!…じゃじゃ~ん!」
リョウちゃんは私に、黒い小さな箱を渡してきた。
よく見ると、箱にGUCCIと書かれた文字。
「クリスマスプレゼントと結婚指輪!」
私はビックリして「結婚指輪?!」と聞いてしまった。
「結婚しよ!俺も二十歳になって職にもついてる。…幸せにしたいんだ。」
「なにより…俺のそばにいてほしいんだ。」リョウちゃんは、真剣な顔でいった。
私は嬉しかった。とても幸せで涙が溢れてきた。私ももうすぐ二十歳になる。…幸せになりたい…。
「ありがとう。よろしくお願いします。」そう応えて、リョウちゃんに抱きついた。
そのまま…私はリョウちゃんに抱かれた。この時は、苦痛だとも思わなかった。幸せを感じていた。
腕枕をしてもらいながら、リョウちゃんに「…でも結婚指輪より、普通婚約指輪とかが先なんじゃない?笑」
リョウちゃんは、しまったぁ!と笑っていた。私も笑ってた。
私はこの時、この指輪を一生大事にすると心に決めた…。
クリスマスも終わり、私達は日常に戻った。
私は、母に会ってほしい人がいると連絡をした。
母の仕事は年末が忙しいので、年明けにしてほしいと言われた。
リョウちゃんも、自分の両親に言った。お父さんがいる時に、一度連れておいでと言われたらしい。
大晦日。
私とリョウちゃんは、年明けに初詣をするために夜中、神社へ向かった。
リョウちゃんと幸せになれますように…
そう願った。
帰りの電車の中で、私は突然のめまいに襲われた。
リョウちゃんが途中で降り、ホテルを探した。でもどこのホテルもいっぱい。唯一、駅前のビジネスホテルが空いていたのでそこへ入った。
しばらく横になっていると、体調も少しよくなってきていた。「ビックリしたよ。大丈夫か?」
リョウちゃんが心配そうにみている。
「ありがとう。大丈夫。」
「なんでめまいなんか起こしたんだろ?風邪かな?」リョウちゃんが言った。
そういえば、生理が1週間ぐらい遅れている…。
リョウちゃんにその事を伝え、検査薬を買ってきてほしいと言った。
リョウちゃんは、急いで買いに行った。
リョウちゃんが戻ってきて、検査薬を試した。
…陽性…。
結婚したいと話をしていた矢先の事だった。
嬉しかった。…でも、また母に反対されてリョウちゃんが諦めてしまったら…。
私は、もし反対されても絶対にこの子は産む。シングルマザーになったとしても、絶対諦めない。そう決意しながら、リョウちゃんの所へ戻った。
「…リョウちゃん。赤ちゃんが出来た。私…産みたいの。」
リョウちゃんは、泣いていた。
「マジで嬉しい…。絶対幸せにするから…。どんな事してもお前らを守るよ…」
泣きながら、抱きしめてくれた。
私も嬉しくて泣いた。
元旦、私の妊娠発覚。
年も明け、まずはリョウちゃんのご両親に話す事にした。
リョウちゃんの実家には、お父さんも戻ってきていた。初めて会う。緊張する…。
リョウちゃんと実家に向かい、挨拶をした。
リョウちゃんのお父さんは、とても真面目な人で、優しい印象だった。
「親父、母ちゃん。…俺、結婚したいんだ。…お腹の中には、俺の子もいる。…だから結婚させてください。」
リョウちゃんは、土下座をして頭を下げた。私も、一緒に頭を下げた。
「えっ?リョウ!ちょっと待って!今ビックリして…」
お母さんが言った。
「リョウ。頭を上げなさい。」
お父さんは言った。
リョウちゃんと私は、お父さんを見つめた。
「まだ社会人になりたてで、2人で頑張れるのか?子供を育てるのは、とても大変な事だぞ?」
リョウちゃんは「絶対幸せにする自信がある。」言い切った。
リョウちゃんのお母さんが、私を見つめながら言った。
「あなたはどう?」
「結婚したいです。リョウちゃんでないと、だめなんです。」
私は言った。
「わかった。…しかしリョウが結婚かぁ。まだ向こうの親御さんに報告していないのか?」
お父さんは聞いてきた。
「明日、行くつもりです。」
リョウちゃんは答えた。
「リョウの事、よろしくお願いしますね。私たちもリョウが挨拶に行った後、ちゃんとご両親にご挨拶させていただきます。今は体冷やさないように、暖かい格好でゆっくりしてください。」
リョウちゃんのお父さんは、にこやかにそう言ってくれた。
リョウちゃんのお母さんは、どこか少し寂しそうな顔をしていた。
その日は、リョウちゃんの家に泊めさせてもらった。
残るは…うちの両親だ…。
そう思っていた矢先、リョウちゃんは体を求めてきた。
「…ッちょっと待って!リョウちゃんのご両親も居るし…お腹の赤ちゃんも…」
「俺の両親に認めてもらって、俺嬉しいんだ。早く一緒になりたい。夫婦になりたい…そう思ったら、愛し合いたくなって…」
リョウちゃんは言った。
私は‘愛’という言葉に弱い。私は、拒否出来なかった。
次の日、母と父に連絡を入れた。母は、父に会うのが嫌そうだった。なんとか説得し、夜に来てもらうことにした。
私の実家に行く時間になった時、リョウちゃんのお父さんが口を開いた。
「仕事のパンフレットと、源泉徴収を持っていきなさい。後、菓子折りと…」
私は「いや、そんな…いいですよ」
「そうでもしないと上手く丸め込めないだろう?まだ十九のお嬢さんを傷つけてしまったんだし。」お父さんが言った。
…傷?子供が出来る事は傷なの?しかも丸め込むだなんて…そんな言い方しなくても…。
私はなんだかショックだった。
リョウちゃんを見ると、お父さんの話に深く頷き「さすが親父!」と言っていた…。
この頃に、気付いていれば…。
私とリョウちゃんは、私の実家へ向かった。リョウちゃんと私の家は、歩いて5分ぐらいの所にある。
私は「ただいま。」
実家の玄関を意気込んで開けた。
部屋に入ると、母は和室。父はリビングに居た。
「初めまして。大田涼一と申します。これ、つまらないものですが…」
リョウちゃんは、緊張しながら喋っていた。
席に着くと母が
「同じ小学校の同級生なんですって?うちの娘が、お世話になってます。」にこやかに話している。
父が「で、お話しは何でしょう。」切り出した。
「…実は娘さんと結婚させてください。お腹には僕の子がいます。絶対幸せにします。お願いします。」
リョウちゃんは、頭を下げた。
私も「お願いします。」と深く頭を下げた。
「…そんな事だと思っていたわ。」母が口を開いた。
リョウちゃんが源泉徴収と会社のパンフレットを出して
「これが僕の勤めている会社です。それで少ないですが…これが僕の源泉徴収です。」
差し出した。
母が会社のパンフレットを見ていた。父は何も見ずに…
「俺は娘が決めた結婚相手なら反対するつもりはないよ。ちゃんと2人で頑張りなさい。」
そう言ってくれた。
「…許してくれるの?」私は、母と父の顔をみた。
「お前がそう決めたんだろう?」父は言った。
母も「もう大人だしね…」そう言ってくれた。
リョウちゃんは「ありがとうございます!」
そう言ってまた頭を下げた。
私も深く頭を下げた。
「たまにはみんなでご飯でも食べようか。」母がご飯の支度をし始めた。
私も手伝おうとキッチンへ向かった。
母に「あんた悪阻は?大丈夫なの?」言われた。
「うん。全然ない。」そう言って一緒にキッチンに立った。
リョウちゃんは、とても愛想がいい。人懐っこい性格で、すぐうちの両親もリョウちゃんを気に入
り、打ち解けた。
「あんた、成人式はどうするの?」
母親に聞かれた。
「一生に一度の事だし、やりたいなぁ…。」
私は答えた。
「俺も一緒の場所だし、一緒に行こう。はしゃがれてなんかあったら大変だし。笑」
リョウちゃんは笑顔でそう言った。
それから少し経ち、私は病院へ向かった。リョウちゃんは仕事だったので、私一人で向かった。
初診で、いっぱい記入する所がある。
‘過去に流産、人工中絶した事がありますか?’
私はまた思い出した。少しずつ過呼吸も治ってきていたのに…。胸が苦しくなってきた…。
「ごめんね…」そう小さく呟いて、記入した。
診察を待っている間、過去の赤ちゃんを思い出していた…。
怖くて…苦しくて…。
名前を呼ばれ、診察室に入った。
人生で二度目のエコー写真。前の赤ちゃんより、少し大きく真ん中がピコピコ動いている。
「順調ですね~。」
先生が言った。
先生は優しい女の先生だった。エコーを見て嬉しかったけど、何故あの時産めなかったのか…。どんどん後悔していった…。
私の曇った顔を見て、何かを察し
「…水子神社って知っている?」先生が言った。
「…いえ」
「水子神社は、安産祈願やご事情で産めなかった赤ちゃんをお参りする所なの。私は産婦人科医になってから、毎月行ける時は行っているの。とても静かで心が落ち着くわよ。」
そう言ってくれた。後で聞いた話だが、私はかなり顔色が悪かったらしい…。ストレスを貯めすぎて、お腹の赤ちゃんに何かあってはよくないと思い、私に水子のお話しをしてくれたらしい。
私は家に帰り、水子の事や水子神社の場所を調べてみた。
私の家から近い所だと…鎌倉…。
このままの気持ちだと、産まれてくる赤ちゃんも可哀相だ…。何か少しでも、変わるかもしれない。
気づいた時には、私は電車に乗っていた。
鎌倉に着いた私は、すぐに水子神社へ向かった。
緊張しながら神社に入ると、神社の中は子供のお地蔵様が立っている。
供養先に向かった。色々な人がいた。私と同じ思いをした人、子供を早く授かりたい人、様々だろう。でも子供を想う気持ちは一緒で、みんな悩みを抱えながら生きてるんだと思った。
今まで私は、私だけが悩んでいるかのような考え方だった。
間違った考え方を、改めようと思った。
初めての赤ちゃんは、私の都合で産む事すら出来なかった。それは、決して許される事ではないけど、その子に恥じぬよう生きていこう、そう決意した。
そう決意してからは、気持ちが穏やかになった。
家に帰ってから、リョウちゃんにメールをした。
「お腹の子、順調だって。」
連絡を待っていたかのようにすぐ返事が来た。
「本当に?!よかったぁ!お疲れ様!仕事終わったら行くね!」
私はリョウちゃんが帰ってくるのを待った。
夜9時過ぎ、私の実家にリョウちゃんが来た。
「お疲れ様!これ、赤ちゃんのエコー写真。」
私はリョウちゃんに、エコー写真を渡した。
「うわぁ!…初めて見た、って当たり前だけど 笑 …小さいなぁ」
リョウちゃんはエコー写真を、見つめていた。
「あっ!バイトの事なんだけどさぁ。赤ちゃんに何かあると心配だから、辞められないかな?俺、頑張るからさ!」
リョウちゃんは言った。
「すぐには無理だけど、店長に聞いてみるよ。」
「あと、うちの親が挨拶したいって言ってるんだけど…どう?」
リョウちゃんが言った。
「うん。早い方がいいもんね。とりあえず親に聞いておくね。」
親同士の挨拶は、その週の日曜日になった。
私は次の日、バイト先の店長に辞めたいと伝えた。
店長はビックリしていたが、笑いながら「幸せになってね」と言ってくれた。
バイトは急には辞められず、とりあえず今月いっぱいでとの事だった。
妊娠してからは、話がどんどんとんとん拍子に進んでいる。こういう状況を、順風満帆と言うのだろう。
親同士の挨拶を控えた前日、リョウちゃんの家で食事をご馳走になった。
「妊婦さんなんだから、いっぱい食べなさい。」
リョウちゃんのお父さんが言った。
「頂きます。」
「そういえばリョウ。結納はしなくていいよな?」
お父さんが突然言い出した。
「結納?なにそれ」
リョウちゃんが言った。
「結納は、簡単に言えばお嫁さんをもらうかわりに向こうの家にお金を渡すんだ。でも、妊娠なんて一人の責任じゃないし、お嫁さんをもらうって言ったって家近いし。いいよな?笑」
リョウちゃんのお父さんが言った。
「あぁいいよいいよ。」
リョウちゃんと、聞いていたリョウちゃんのお母さんは頷いていた。
私は、なんだか違和感を感じた。確かにそうだけど…わざわざ私の前で言う事なのだろうか…。なんだかやるせない気持ちだった。
- << 103 でも、私は結婚させてもらうんだからしょうがない。そう思い、作り笑いをしてみんなの話を聞いていた。 親同士の挨拶の日。 私は、夕方から両親と待ち合わせしてお店へ向かった。 そこにはリョウちゃんとリョウちゃんのご両親が待っていた。 「どうも初めまして。大田と申します。この度は、うちの息子が…」 リョウちゃんのお父さんはものすごい勢いで挨拶をしていた。 母は「いえいえ、こちらこそ。川辺と申します。」 と挨拶をしていた。 最初は緊張していたが、リョウちゃんのお父さんがよく喋る方だったので、話題は途切れなかった。 話を聞いていると、リョウちゃんのお父さんは営業職。だからこんなに色々しゃべれるんだなぁと感心していた。 すると突然、 「今回の事では、色々とリョウがご迷惑おかけしまして…。大事なお嬢さんに…順序が逆になってしまいましたが、若い2人の意見も堅いようですし、なんとかお許しを頂ければと思いまして…」 と、頭を下げた。 「いえいえ。リョウくん1人の責任じゃございませんし、私共も出来る限りの事をしてあげたいと思っております。」 母は言い返した。
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