富田さくら
『富田さん。中へどうぞ』
富田さくら22歳。彼氏はいない、結婚もしていない。社会人2年生の、暇とお金を持て余した、どこにでもいるOL。
そんな私が今いるのは産婦人科。
富田さくら…実話まじりのフィクションです。性に関して不快な点が多々あると思います…
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『どうされましたか❓』
一週間前の水曜の夜、知り合ったばかりの健の棒を私の中に入れた。車の中で。
その後からどうも痒いような痛いような…明らかにおかしかった。
携帯で性病について調べまくった結果、専門の人に診てもらうのが一番だと気付き、平日にも関わらず会社に遅刻させてもらい、産婦人科に来ている。
『あの…痒いし痛いんです』
『そうですか。では隣りで診てみましょう』
隣りの部屋を見てビビった。
ロボットのような椅子。その椅子には足置き場がついていた。
『下着をはずしてこの台に乗ってくださいね』
看護師さんが笑顔で言う。
その台に乗った。
『足はココに乗せてくださいね』
そう言って看護師さんは笑顔でカーテンを閉めた。
何これ…❓カーテンの向こうは私のアソコ丸出し…私今から何されるの❓
怖かった。
『では診ますね』
先生がゴム手袋のような物をつけていたのが分かった。
『少し力を抜いてくださいね』
そう言って細い筒のようなもの、その後に綿棒のようなものが入ってきた。
痛かった…
『オリモノの量も色も特に異常ありませんが、念のため検査しますので一週間後にまたおこしください』
私は先生のその言葉に安心はしなかった。私の体のことは私にしかわからない。絶対おかしいから。絶対何かなってるから。念のため、じゃなく絶対検査してよ…
痒みを止める塗り薬を処方してもらい、会社に向かった。
『すみませ~ん遅くなりました~』
私は事務所に入り、みんなに聞こえるよう大きな声で言った。
『おいさくら、お前どっか具合悪いんか❓』
主任が心配そうに話かけてきた。
『いや~女性特有の事情があってですね~また来週も来いって言われたんで遅刻させてください』
『なんじゃそりゃ❓まぁ、わかった。よくわからんがお大事にしろよ』
男である主任はそれ以上聞いてこなかった。
それから検査結果までの一週間は誰とも連絡をとらなかった。
健は、俗に言う'ヤリ友'別に彼氏でもないし好きでもなかった。
その頃、月1ペースで逢っていた智と康浩も健と同様、ヤリ友。
もし私が性病だったら、これらの男の中で、誰かが私に移した。それと、私がまた誰かに移す可能性がある。
明らかに健だとは分かっていたが…
6時、仕事を終え、家に帰るのもなんなんで、毎日室見川へ向かった。
『室見川❓ここ、私も知ってる~いつの時期だったかな❓シロウオってちいさな魚を踊り食いするんだよ~さくらも食べたい❓』
母に教えてもらった事を思いだし、1人で笑っていた。
こんな私にも初々しい恋愛経験がある。
中学2年の夏、私が通う塾に新入生が入ってきた。
その男の子は中学生の癖に靴はN○KE、今じゃ香水の火付け役とも言われてるCK-1の香りをプンプンさせていた。
私の横に座り、
『見ない顔だね』
『この塾じゃ私だけ中学違うから…』
『何何❓どこ中❓仲良くしようよ~』
押しの強い彼、渉と夏期講習の間にすごく仲良くなり、私は渉にどんどん惹かれていった。
中3の春、受験生になりたての時期。
『さくら頭悪くね❓』
『渉に言われたくないし』
『んじゃ、同じ高校目指そうぜ』
『はぁ~❓渉は無理やろ❓』
こんな感じで、二人とも同じ高校に行けるよう、目一杯勉強した。
合格ってHAPPYだけじゃないんだね…渉が呟いた。
私だけ落ちたのだ。
私立は二人とも同じ高校に受かってたから、渉はせっかく受かった公立を辞退して私と同じ私立の高校に行く、と言い出した。
私は止めた。
『何それ❓同情❓そういうの迷惑なんだけど。渉は公立受かったんだから、公立行くべきやろ❓別に一生のお別れってわけじゃないんだし…』
私は受験に失敗した事、渉と一緒の高校に行けない事、辛い気持ちを押さえ、涙をこらえながら渉に言った。
『ちょっと俺ん家来る❓』
私は初めて渉の家におじゃました。
初めて渉の部屋を見た。今時な男向けの雑誌やエロ本❓みたいな雑誌、CK-1のボトルが2本、ほかにもわんさか散乱していた。
『ま、座れ』
『いや、座るところないし…笑』
とりあえずベッドに座った。
『これ。さくらにやる。お前の名字、富田だろ❓』
綺麗にラッピングされている手のひらくらいの大きさの箱。包装をはがすと、'トミーガ○ル'の香水だった。
『私富田だからって…意味わからんし笑』
『ま、匂ってみ』
何というか…草原で紅茶を飲んでいるような…すごい爽やかな香りだった。
『ほんとは合格祝いのつもりだったんだけどさ』
すごく嬉しかった。
そして私達は初めてキスをした。キスというよりチューって感じの…ママが赤ちゃんにするような軽いキス…
それぞれ違う高校に通い始めた。
といっても地元は同じだから、通学時にバッタリ会うこともあったし放課後は遊んだりもしていた。
私はTの香水を気に入っていた。
まるで渉の代わりかのように毎日手首につけていた。
高校生活も慣れ、夏休みも近い頃、渉とは体を重ねる関係になっていた。
『エキデマッテル』ポケベル時代。渉にメッセージを送り、ベンチに座っていた。
今日は遠出をしたいらしい。
『さくらー。待たせて悪い。いくぞ』
地下鉄に乗れる駅まで電車で行った。
地下鉄のある駅で降り、20分くらいだっただろうか…しゃべりながら歩いた。目の前には大きな川。室見川。
『何この川‼メチャでかいんですけど』
それから2人でじゃれあった。あれ❓なんか渉いつもと違う…気のせいか…
2時間ほど遊んで帰ろうとした頃、
『別れよう。好きな子ができたんだ』
突然の渉の言葉。私は何も言えず、涙を浮かべながら、ただただ川を眺めていた。
そんな思い出もありつつ、とうとう明日が検査結果を聞きに行く日。
私は仕事を終えてまっすぐ家に帰り、お風呂を済ませてすぐに寝た。
朝。産婦人科の待合室。妊婦が圧倒的に多い、私は立って名前を呼ばれるのを待っていた。
『富田さん。中へどうぞ』
私は先生の前に座り、先生がカルテを広げるまでじっと先生の顔を見つめていた。
先生の顔が歪んだ。
『あらら。クラミジアがでてますね』
やっぱりね。
わかってはいたけどカナリショックを受けた。
『淋病の検査もしておきますから、隣りの部屋に移ってください』
またあのロボット台にのってあの検査❓もう苦しかった。
診察を終え、二週間分の飲み薬を処方された。きちんと飲まないと、治らないそうだ。
私は会社に休むと連絡をいれ、室見川へ向かった。
川に着いて、コンビニで買ったおにぎりを食べた。さっき処方された薬を口に入れ、お茶で流し込み、しばらく川を見つめていた。
私は健に電話をした。
『お~さくらちゃん。何で連絡くれなかったの❓今日また会おうよ~また車でさ…』
『私今性病中だから無理だよ』
健の上からかぶせて言った。
『…俺❓だよな…』
『たぶんね。健もちゃんと病院行くんだよ』
すぐに電話を切り、健と智、康浩、3人のヤリ友の番号を消去した。
私何やってんだろ…
自業自得じゃん…
私には父と母、五つ年下の弟がいる。
まだ小さな頃、母に一度だけ言われた事がある。
『さくら。ママとさくらはね、血の繋がりがないんだ。分かるかな❓でもママはね、血の繋がりなんて関係ないって思ってる。さくらも剛も、ママの子供に違いはないんだからね』
ママは産まれたばかりの剛を抱いて、涙を流しながらそう言った。
私はただママが泣いている事が悲しくて、溢れそうな涙をぐっとこらえて頷いた。
まだ5歳の私には'血の繋がり'の意味を理解していなかった。
理解していなかったわりには、あのママの言葉はずっと忘れずにいた。
でも小学生を卒業する頃にはそれなりの人間事情たる常識も身についていたので、なんとなく理解できていた。
ただ、何故幼い私にそんな酷な事を言ったのかだけは理解できないでいた。
ママはずっと優しかったし、私が悪い事をすれば目一杯叱ってくれた。剛も私になついていた。
ただ私とママの血が繋がっていないだけで、普通の家族となんら変わりはなかった。
中学の頃、塾を終えて家に帰り着くのは22時を過ぎていた。
いつもは寝ている剛。この日だけは寝付けなかったようで、母とおしゃべりをしていたようだ。
『ただいま~』
母は私の声にビクッと反応し、とっさにキッチンへ向かった。
『さくらお帰り。お腹すいたでしょう。今支度するからね』
母は私の夜ご飯の準備を始めた。
『姉ちゃんお帰り~でさぁ母ちゃんさっきの話なんだけ…』
『さくら、今日はトンカツだよ~、さっ早くお風呂済ませておいで~』
母は剛を無視するかのように、剛の上にかぶせて私に言った。
『なんだよ…ほんと母ちゃんは姉ちゃん姉ちゃんだな』
ムスッとして自分の部屋に戻ろうとする剛を、母に気付かれないように階段で呼び止めた。
『剛、さっきお母さんと何話してたの❓』
『あのね~今日さとちゃんとみっくんとサッカーしてたらさ、みっくんがブーって屁こいたんだ~』
何だ。ただの他愛のない話じゃん。
『ほんとは剛が屁こいたんじゃないの~❓はいはい。子供は早く寝な~』
『うるせーざけんなくそ姉』
剛ったらやんちゃな顔してあんな言葉使いして…きっと友達の間であーいうしゃべり方流行ってるんだろな…
私は風呂場に行き、体を洗い流して湯船に浸かった。
この出来事から、母は私に気を使ってるんじゃないか…と思い始めた。
よく考えてみたら、母は私を中心に行動する事が多かった。その行動は凄く極端だった。
小学6年の頃の授業参観。母は授業の始めから終わりまで私のクラスにいた。剛の学年だって授業参観はあっているのに…
『今日のご飯何がいい❓』と聞いては、剛の意見よりも私の意見を優先した。毎回。
小さな事かもしれないが、この特別扱いは長女の特権とも思っていた。が、いくらなんでも極端すぎる…剛が可哀相だ。
気を使う理由はある。母と私は血が繋がっていないから。
母は私に孤独な思いをさせまいと精一杯理想の母親を努めてくれたんだと思う。
きっと子を持つ母親は、私の母を見てこう言うだろう。
『人間できた人ね。すごいわ。』
でも私はそんな母を素直に受け止めることができなかった。
まるで、職場で強い立場にいる上司にヘコヘコお世辞を言ってる部下のような…とにかく普通に接してほしかった。
でも母は私に対して悪意がある訳ではなかったから…'普通に接してほしいよ'
本音も言えなかった。
ま、ちょうどこの頃は渉と仲良くしてた頃だし、あまり深くは考えていなかったが…
渉と別れてから、放課後がぐっと暇になった私は、なんだか家に居たくないな~と思っていたし、週3回のアルバイトを始めた。
毎月の給料の半分は遊び代。半分は貯金していた。
その貯金で、高校卒業してすぐ車の免許をとった。
母が赤飯を炊いていた。たかが免許とれたくらいで笑。
高校卒業後の進路は専門学校。ビジネスマナーやパソコンの基礎を勉強し、マグレなのか誰もが知ってるくらいの大企業に就職。
ローンをくんで車を買った。
仕事が終わって、友達と約束がない日は毎日その車で室見川へ向かった。
ある日、父と母が夜中にもかかわらず口喧嘩をしていた。
詳しい内容はわからなかったが、おそらく父が風俗かなんかに行ったのが母にバレた…か、浮気❓みたいな事だったのだろう。
私は泣いている母を車に乗せ、室見川まで走らせた。
母は川に着くまで、窓の向こうで流れていく景色を無言で眺めていた。
川に着き、母は言った。
『ここ室見川でしょ~私知ってる~。シロウオって名前の小さな魚がいるんだよ~踊り食いで有名なんだって。さくらも食べたい❓』
母の目が腫れている日がしばらく続いたが、そのうち本当の笑顔も取り戻し、昔の母に戻っていた。和解したのだろう。
私にとって相変わらず居心地の悪い家。私がいなければ母も実の子、剛を思う存分可愛がってあげれるだろう。そんな遠慮から、仕事を終えても直接家に帰ることはあまりなかった。
渉以来、私の彼氏履歴は2人。2人とも渉の時のような、『他に好きな子ができた』的な理由でサヨナラしていた。
本気で惚れて後で痛い目みるくらいなら、軽い気持ちで付き合うほうがまだマシ…❓
私は'恋'の素晴らしさを見失ってしまっていた。
遊んでくれる友達はいたけど、学生だったり主婦だったりで、そう毎日遊べるわけではない。
誘われた合コンには必ず行くようにしていた。
暇潰し…いや、ただ寂しかっただけかもしれない。
合コンで出会った男に、『今度2人で会おうよ』と言われ、その男の身形が私の中の合格ラインより上回っていれば、躊躇せずほいほい付いていった。
私のアフターファイブスケジュールはどんどん充実していった。暇潰しにはなったが、心は全然満たされなかった。
一度体の関係もってそれっきりな男、『また会おう』と、体だけを求めてくる男。
中には『付き合って』と言ってくる男もいたが、軽く流すと簡単に切れた。
世間は狭い。
今まで私がかかわった男同士が偶然知り合いだった、なんて事もあった。
今の私みたいなのが世間で言う'ヤ○マン'ってやつなんだろな…
影でどんな事言われてるんだろ…
そう考えるようになってから、男の棒を抜いた後、すごく虚しく感じるようになった。
私何やってんだろ…
何が欲しい❓
快感❓…いや、好きでもない男と寝ても私は果てる事なんてない。何イキがってるのか、『俺、テクってるから』なんて言ってる男もそう対した事ない。なんでそんな男に感じてるフリしてやらなきゃならないんだ…
でも体を重ねている時、少しだけ安心感があったのは確かだった。
自分が何をしたいのか、これからどうすればいいのか、とりあえず今のままって訳にはいかない事は分かってるけど…
完全に'自分'を見失っていた。
そんな自分にピリオドを打つ事ができたのが'クラミジア感染'
誰にいつ移されたかハッキリ分からない'性病'を治す為に産婦人科に通う自分、病院に通う本当の理由を誰にも言えない事、遅刻や休みをして会社の皆に迷惑をかけている事…私、消えて無くなりたかった。自分が汚らわしくて仕方なかった。
何時間たっただろうか…夏の終わりの季節、日が沈もうとしている時間は半袖のシャツじゃ少し肌寒い。
私は薬を飲んでからずっとココにいた。
寒いしもう帰って寝ようかな……
『やっぱり君だったんだ。あの…君、いつもココにいるよね❓』
男の声。なんだろう…ナンパかな…❓
私は顔をうつむけたまま無視をした。
『ずっとココに居るつもり❓風邪ひくよ❓』
なんなの❓早く向こういけよ💢
私はカバンを手にとり、立ち上がって車へ向かった。
『ちょっと待ってよ』
そういって私の腕を掴まえてきた。
『なんなんですか❓ナンパならお断りしますけど💢』
『忘れてるよ。これ』
………私はクラミジアの薬が入った袋をカバンに入れ忘れていた。
『どうもすみませんでした』
私はふてくされたように言った。
『クスクスッッもう帰るの❓』
私はその男の顔を見た。というか見上げた。
2メートルくらいあるんじゃないかと思うくらい高い所に小さな顔、クリッと真ん丸な目、パーマがとれかかったようなくせっ毛。
すごく優しい表情で私を見てた。夕日がかって茶色に染まって見える彼の黒目がキラキラしていた。
『身長いくつ❓』
『182だよ』
なんだ。2メートルまではなかったんだ。
処方された薬を二週間飲めば治る。治れば性病とも今までのカラッポな自分ともさよならできると思って、面倒くさがりな私だったが毎日キッチリ飲んだ。
室見川には行かなかった。
たぶんあの男が居るだろうから。
すごく気にはなっていたが、会ってどうする❓それにまた緊張しそうだし…
私は暇潰し用にレンタルビデオ屋に行き、『東京ラブストーリー』を全巻借りた。
小学生の頃、夕方の再放送で何度か見た事あったが、当時の私はおそらく理解していなかっただろうし…
『かーんち‼セッ○スしよう』
今でも有名な名台詞。
大胆な台詞だけど、すごく愛があって、素敵な言葉に聞こえた。
ドラマの中の登場人物はおそらく今の私と同じ年頃だろう。一人の人に恋をして、怒ったり泣いたり笑ったりしている。たとえその恋が永遠に続かなかったとしても、いずれは'大切な思い出'として心のアルバムに綴られることだろう。
そんな恋ができるなんて、すごくうらやましかった。
私の『セッ○スしよう』とは全然ちがう。
はぁ…こんな素敵なラブストーリー見てると、どんどん自分が汚く思えてきた。
見なきゃよかったな…
薬を飲み終えた。でも多少違和感が残ってる…いや、サボらずちゃんと飲んだし、きっと大丈夫。
治ったかどうかの検査の為、またあのイスに乗った。三回目ともなれば慣れてしまっていて怖くはなかった。
『淋病には感染していませんでしたよ。今日は…少しオリモノの量が多いみたいですね。薬はちゃんと飲みましたか❓』
『❓はい。治ってないんですか❓』
『検査の結果は一週間後です。また起こしください』
……そっか。結果はすぐには出ないんだった…
一週間後の検査結果は、まだ完治していないとの事だった。
'性病'と、初めて聞かされた時と同じくらいショックだった。
また同じ薬を二週間飲み、そしてまた検査…いったいいつ終わるんだろう…
私は室見川に来ていた。あの男がいるかもしれないからって、なんで私が遠慮しなきゃならない❓
腰を降ろし、体育座りの膝の上に顔を埋めた。
治ってなかった。治ってなかった。やっとさよならできると思ってたのに、早く汚い私とさよならしたかったのにっ
涙が出てきた。
『ひさしぶり』
私はとっさに顔を上げた。
あの男だった。
男は涙を流す私を悲しそうな目で見ていた。
男は私の横に座った。
『ガムでも食べる❓』
そう言って私にガムの束を差し出した。
『……いただきます』
一枚抜こうとした時
『ペチっっ』
痛っっ
『引っ掛かってやんの~』
それはガムではなく、昔流行ってたイタズラのおもちゃだった…
『古っっ古すぎて存在すら忘れてたしっ』
イタズラに引っ掛かった恥ずかしさを誤魔化そうと、怒り口調で言った。
とくに話すこともないし、何もしゃべらずにいた。チラッと男を見ると、また優しい表情で私を見ていた。五秒ほど目を合わせたが、たえきれず私から目を反らした。
『治ったの❓』
え…❓性病の事❓私は健にしか言ってなかったからこの男が知っているわけがない。
『何の事❓』
『クラミジアだよ。薬袋に書いてあった薬の名前でわかったよ。』
この男は薬剤師なんか❓普通薬の名前見ただけで病名なんてわからんだろ。
『大丈夫だよ。クラミジアはウイルス性の菌だから、薬飲めばきれいに治るから』
『ちゃんと飲んでたのに治ってなかったしまた二週間だよ❓もう嫌だ』
『次は絶対治ってるよ。だから大丈夫だよ。』
'大丈夫だよ'
私が今凹んでいる事情を私は誰にも話してなかった。軽蔑されそうで親にはもちろん、親友にも相談できなかった。
一人で思い詰めていたせいか、この得体の知れない男の励ましでさえ救われた気がした。
いや、優しい表情で私を見るこの男だったからかな…
『君はいつも寂しそうだったよ。でも薬袋を持ってた日は泣きそうだったよ。』
『私のストーカーですか❓』
『あそこ、俺ん家。』
男が指さした先にはアパートが建っていた。
『俺の部屋からこの場所がよく見えるんだ』
『それで私をずっと監視してたってわけですか』
『君が勝手に視界に入ってきたんだよ❓』
そう言って二人で笑った。
『お腹空かない❓俺、家で何か作ってあげるよ』
『うん』
私にはこの男に下心があるようには見えなかったから着いて行くことにした。それに…もう少しこの男の事を知りたいと思ったから…
アパートに着いた。築何十年なんだろう…階段はペンキがはがれ、錆付いていた。
『うち二階だから』
階段を登り、玄関の前で表札を見たが、名前は書いていなかった。
『どうぞ。適当に座って』
私は川が見える窓を見つけた。
窓の外を見てみると…ほんとだ……私がいつも座ってた場所がよく見えた。
『おまたせ』
男はお湯を入れたカップラーメンを私に渡した。
『これ、作る、とは言わないんですけど』
『食べたくなければ食べなくていいんだよ❓』
『……いただきます。』
『はい。めしあがれ』
カップラーメンってこんなにおいしかったっけ❓私は黙って完食した。
私は処方された薬を飲もうと、薬袋をテーブルに出した。
『俺も最近同じ病気なってたよ。んで、同じ薬飲んでた。』
だから薬の名前で病名わかったんだ…
『風俗でうつされた💦それ以来風俗行けなくってさ涙』
そんな事情女の私に言うかよ…どう返せばいいかわからない私は、黙っていた。
『俺もちゃんと治ったから…君も絶対治るから』
男はずっと優しい表情で私にそう言ってくれた。
私は薬を飲み終えた。男はキッチンの換気扇の下で一服していた。私もカバンからタバコを取り出し、男の横に駆け寄った。
この背の高い男、立って横に並ぶとなんか圧を感じるな…
私はタバコに火を着けた。
たぶん男は私をみてる。優しい表情で。だから私はタバコを吸い終わるまで隣りを見上げることができなかった。
火を消し、テーブルに戻ろうとした時、後ろから優しく抱きつかれた。私は心臓が飛び出てくるんじゃないかと思うくらいドキドキしてた。
私達はベッドに行き、私が後ろから抱き付かれた状態で横になってた。
すごく安心した。今までの後悔なんて忘れることができるくらい救われた気がした。
男は何をしてくるわけでもなく、ただ私を包み込んでくれた。
しっかりアソコは起ってはいたが…笑
私のおしりに一度だけ硬いモノが触れたから分かった。
でも、男は隠すかのようにとっさに私のおしりから遠ざけた。
私は気付いていないフリをした。
今日は遅刻ではなく、前もって有休をもらっていた。私は男に包まれながら一眠りした。
夕方、目が覚めて焦って体を起こした。
そうだ…あの男の家に居たんだ…
男は換気扇の下でタバコを吸いながら携帯で誰かと話していた。
『うん。わかってる。うん。うん。ごめんなさい。また連絡するよ』
内容まではわからなかったが、なんとなく親❓と思った。
『どうしたの❓』
『ちょっとね…』
男は、まるで'君には関係ない'とでも言いたそうなオーラを出していたから、それ以上何も聞かなかった。
夜の七時。夕日が落ちて外は暗くなろうとしていた。
『んじゃ、私もう帰ろうかな…』
『あっゴメン💦』
男が電話を切ってから、なんだか居づらくなった私は帰ることにした。
家に帰るには早すぎだったから、コンビニでおにぎりとお茶を買い、室見川のいつもの場所で食べて、薬を飲んだ。
後ろを振り向くと男の家。
私が帰るまで部屋の電気は消えたままだった。
私はまた二週間キッチリ薬を飲んだ。
検査をして、一週間後の結果は無事完治。
終わった。これでやっと今までの私とさよならできる。
すごく嬉しくて、真っ先にあの男に知らせたかった‼が、携帯の番号は知らない…
遅刻や休みをもらい続けていた私は同僚達からの目が気になり、この日は産婦人科を出てまっすぐ会社に直行したが、仕事を終えてダッシュで室見川へ向かった。
川に着き、車を降りていつもの場所へ駆け足で行った。男は居ない。アパートを見ると男の部屋の電気が着いていた。
この男の存在を知ってから私が室見川に来た時は、この場所に座って4・5分たつと男は現れていた。私は座って待つことにした。
『こんばんは』
来た‼私は声のした方を見上げた。
そこには期待通りの、あの優しい表情の男が手を広げて立っていた。
は❓これは俺の胸に飛び込んでこい‼とでも言いたいのか❓
躊躇したが
恥ずかしがり屋な私は
『お腹すいた』
と言って誤魔化した。
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