戦闘メカ ザブングル 〜青い疾風の傷痕〜
あらすじ
イノセントの支配をアイアンギアーの一団が解放してから数年、惑星ゾラはシビリアンたちの手に委ねられた。
……かに見えた。
しかし、宇宙に住むイノセントはひそかに惑星ゾラへの支配を諦めてはいなかった……。
かつてザブングル、ウォーカーギャリアを駆った丸顔の人物は何処へ消えたのか。伝説の内へ消えたのか。
この物語は、かつてアイアンギアーの一団と丸顔の人物に憧れた若きシビリアンの物語である。
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惑星ゾラの砂漠の地表より遥か彼方にある宇宙にはかつてイノセントが誇った宇宙植民地が未だ冷たい宇宙に浮いていた。
しかし、ゾラの住民たちシビリアンのなかでそれを知る者はいなかった。
「惑星ゾラをシビリアンの手に委ねるとは」
「たしかに彼らは人類の可能性として我々が作り出した第三の存在」
「人類としてたしかに必要な知能、経済交易などは備えている。それは否定せんが、彼らは我々の支配なくしてはいつ旧時代のようなことが起きるかわからんぞ」
「そうならないためにイノセントたる我々がいるのです。彼らには更なる支配者がいるのです」
惑星ゾラと呼ばれる地球の側に浮く宇宙植民地のとある一室で密かにそのような会話が行われていた。
そして彼らの下に唯一、暗闇から透明な輝きに照らされた新型ウォーカーマシンが彼らの会話を耳に傾けるように立っていた……。
彼らは言う。
「支配を我らイノセントの手に!!!」
まだ惑星ゾラにいるシビリアンは知ることもなかった。
真夏のような太陽が照りつける岩と砂漠の大地。二本足で立つのは人間ではなく旧式と化したウォーカーマシンの一体、背中の排気筒から煙を吹き出してガガガと動くクラブタイプである。
「オンボロめ!まだブルーストーンを掘ってないんだぞ!」
クルマのようなコクピットの内でハンドルやアクセル、クラッチに手や腕をぶつけ悪態をつくのはまだ十代の少年。ベビーフェイスでありながら瞳はゾラの太陽のようにギラギラしている。
悪態をついていると、クラブタイプの腕がかたい岩の内を削りはじめた。
ウォーカーマシンはイノセントが人類復活の意味を込めて「二本足」であることが多く、旧式であるクラブタイプも腕のアタッチメントを変えることで人間のように作業することが可能である。
「そうそう。その調子で頼むぜ相棒」
悪態をついていながらも、旧式であるクラブタイプは彼にとっては愛すべき相棒であった。
岩を削る音が聞こえるなかかたい岩の音とはちがう音が耳に聞こえた。
その先に目を凝らすとわずかに青い輝きが見えたようだった。
「よっしゃ!お宝発見!ブルーストーンちゃん!」
喜びをあげる少年が掘った穴の外側に、彼よりさらに野性味溢れる男たち、いやギャングと呼ぶにふさわしい男たちが駆るウォーカーマシンが飢えた狼かハイエナのように静かに音をそろえながら群がっていた。
「ここのブルーストーンは俺のもんだぜ」
それからどの程度の時間が過ぎただろうか。赤い陽が沈み夕闇になりかけ男たちが痺れを切らしかけた頃にブルーストーンのある洞窟からクラブタイプがギクシャクした音を立てながらゆっくり地を踏んで現れた。
「大漁、大漁!ここは隠れた穴場だったようだ」
少年は汗水にまみれた顔を手の甲で拭いながらご満悦だった。
粗野な男たちが声をかけた。
「おい、ボウズ!そのウォーカーマシンの背中にあるブルーストーンをよこしな!」
「痛い目にあいたくなかったらな」
「ボウズ?俺のことか?」
少年は汗水にまみれた顔をブルル、と左右に振りながら辺りを見回した。まわりにはクラブタイプよりも上級のウォーカーマシンのダッガーやガバメントタイプが数台、洞窟の出入り口を囲んでいた。
「他に誰がいやがる!さっさとそのブルーストーンをよこせ!!」
「俺たちがここらで有名な“黒い嵐”なのを知らねえのか」
洞窟の出入り口に風がぴゅー、と西部劇のようになった。
「……知らない。なんだそれ?」
思わず黒い嵐を名乗る男たちはウォーカーマシンごとマンガのようにズッコケそうになった。
「て、てめえ!俺たちをコケにしてんのか!野郎ども、やっちまえ!!」
リーダー格と思われる男の命令に、ダッガーやガバメントタイプのウォーカーマシンが少年のクラブタイプに野獣のような群れをなして近づいてきた。
しかたねえな、と少年はクラブタイプの背中にブルーストーンを包んだ麻袋を砂ぼこりの舞う地に置いた。
「コイツがほしいなら、俺を倒して持っていきな」
不敵な笑みを浮かべた少年のつぶやきに、リーダー格の男はコイツ、と憎々しげに思った。旧式のクラブタイプじゃねえか、赤子の手を捻るよりかんたんじゃねえか。
「野郎ども!やっちまえ!」
いまだゾラにはこういうギャングや盗賊団が組織の大小に関係なく存在し叫び声が大地に響いた。
少年はハンドルを握り、アクセルにブレーキ、ギアチェンジに手をやった。
黒い嵐のウォーカーマシンのダッガーとガバメントが彼のクラブタイプに襲いかかってきた時だった。
クラブタイプは背中の排気筒から煙を吹きながらおっとっと、とよろけた瞬間にダッガーとガバメントの二台は金属音を立てながら衝突した。
「てめえ!どこ見てんだよ!!」
「てめえこそどこ見てやがる!!オレ様のダッガーに傷つけやがって」
「なんかあったの?おっちゃんたち」
クラブタイプに乗る少年は、コクピットからひょこっ、と頭を出しながら聞いた。
「ざけやがって!てめえ!」
「傷つけられたぶんは返してやる!」
ぶつかり合った二人の悪党は自分たちでぶつかったのを棚にあげながら、怒り心頭にクラブタイプに砂塵を上げる。
「気をつけよう。ウォーカーマシンと安全運転、とかいわないもんかな」
つぶやきながらクラブタイプの排気筒から煙が戦う意志をあらわすかのように空に上がる。
彼らにしたら旧式のクラブタイプは本来ならすぐに倒せるはずだった。
少年は逃げるわけでもなく愛機の両腕をがちゃがちゃと振りだした。まるで子どもが駄々っ子のように。
----瞬間、接近してきた二台のウォーカーマシンから爆発の煙が上がった。
「なんだと!?」
「あ、さっきブルーストーンを掘る時にコイツの手に爆薬をセットしたままだったわ」
よく見ると、クラブタイプの両手には旧式のダイナマイトが粉々になった焼け跡があった。
「あちゃ、貴重なマニピュレーターが……」
「てめえ、何者だ!?」
「何者だと言われても、ただのロックマン?いや……」
「なんでもいい!!やっちまえ!!」
いきなり仲間をコケにされたリーダー格は残りの仲間たちに命令し、自らも突撃した。
「……」
少年は、クラブタイプのハンドルを握りギアチェンジをし足元のアクセルをゆっくり踏んだ。
砂塵がゾラの大地に舞い上がった。
砂塵が舞い上がるなか、リーダー格の男は「待てぃ、やめろ!」と仲間たちの動きを止めた。
「あれ?おっちゃんたちどったの」
こいつ、と苦々しく感じた。四、五台いるウォーカーマシンが囲んだなかからクラブタイプはその名の通りの怯える蟹のように身を屈めながらいつの間にか数メートル先に瞬時に移動してたのだ。
性能だけならダッガーやガバメントタイプが上位であるはずなのに、だ。
「さっきからふざけんな!てめえ!」
リーダー格の男の声を無視し粗野な男の乗ったダッガーが牛のように突進してきた。
「!? いねえ!どこいった」
男は左右に目をやるが見えるのは岩と砂漠だけである。だけど、よく見ると目の前にはクラブタイプの足跡があるのに気づいた。
いったいどこに----。
「馬鹿野郎!う、上だ!やつは上にいる!」
「!?」
男がリーダーの声に上を向いた瞬間、ひしゃげた音がしたと同時にダッガーは砂漠に倒れた。
リーダーは目を疑った。旧式のクラブタイプが跳んだだと!?
ウォーカーマシンクラスがジャンプしたのだとしたら、10メートル以上は跳んだはずでありさらにその高度から落下すればいくら上位の機種でもひしゃげるのは当たり前であった。
さいわいにして部下の男は命からがらひしゃげたコクピットから逃げていた。
「なんなんだよ!お前は」
いつの時代の悪党は、自分で存在がわからない者にぞんざいな言葉を吐き怒気に包まれる。
「だからロックマンかな?いやいや……」
よく見ると、クラブタイプの脚は一見するとノーマルのままだがサスペンション、改造されたサスペンションらしいのが見えた。
「あ、あれ?ブルーストーンが入った袋は?」
クラブタイプの背中を見ると、洞窟を出てきた時に持ってた麻袋が消えていた。
あ、と少年はつぶやきぎこちなく愛機を動かした。それを見たリーダーは辺りを見回すと、先ほどの麻袋が自分たちの近くにあるではないか。
「野郎ども!袋だ!あれにブルーストーンがある!!」
へい、と彼らは叫びながら一様に麻袋のもとに駆け掴んだ。
「これさえ入りゃ、お前に用がねえよ」
「ああ!俺が手にいれたブルーストーン!」
あばよ、とリーダー格の男と仲間の男たちは駆けていった。
ドタドタとウォーカーマシンの足音を立てながら、麻袋を黒い嵐は奪い取った。
やつが運んでたブルーストーンの量は麻袋ふたつ分。実際にウォーカーマシンを通して重みは伝わってたのだが、ある程度距離を取り逃げ切ったと思ったところで部下の男が声をあげた。
「ぼ、ボス!待ってください!!」
なんだ、とリーダーの男は振り返ると麻袋は先ほどのジャンプの衝撃で少し破れていた。
破れていたところからあらわれたのはブルーストーンではなく、砂漠や岩と同じ色や形をした岩が彼のウォーカーマシンの手からドスドスと落ちていた。最後の岩がドスン!、と砂漠の上に落ちた。
やられた、と思った。
「なんだ!?こりゃあ!」
砂漠に驚愕の声を上げながらふと思い当たる。
はじめからやつは、あの少年は麻袋にブルーストーンを入れてなかったのだと気づいた。それで、自分たち悪党をあしらいながらわざと麻袋を落としたのだ。
なんのために?
自分たちが逃げたように、やつはいまごろは本物のブルーストーンが入ってるであろう麻袋を手にしどこかへ逃げてるはずだった。
「あの野郎!おぼえてろ!!」
ん?、と少年は洞窟の内で振り返りリーダー格の男が考えた通り本物のブルーストーンは洞窟の内にあった。
クラブタイプの腕でよろよろと掴みながら、左の排気筒に引っかけると機体はゆらゆらする。が、器用に反対の腕でバランスよく掴み右の排気筒に麻袋を引っかけると、ふしぎなものでクラブタイプのバランスはよくなる。
「ま、ここのブルーストーンにロックマンやブレーカーが群がるのは少し先かな」
ガシャガシャと、ウォーカーマシン特有の音を立てながら洞窟を後にした。
すでに暗い闇の中に銀色の星空が輝いていた。その中に流星のようにひとつの星がこのゾラの地に落ちたのをこの少年を含め誰もが知ることはなかった。
ギクシャク、と音をクラブタイプのウォーカーマシンがちいさな町に着いたのは夜になってからだった。
「帰ってきた!ジモスが帰ってきた!オヤジが帰ってきた」
ちいさな町に、少女の喜びの混じった声が響くように伝わる。
「うっせぇぞ、スズ!ジモスさまが帰ってくるのはあたりまえだのクラッカーてな」
クラブタイプがギクシャクし排気筒から煙を出しながら、なんとかこの町ウィンズにあるウォーカーマシン修理兼整備工場についた。
修理兼整備工場といっても現代の地球でいえばちいさな自動車整備工場に近い。
「あんた、それブルーストーンかい?」
「ああ、ちょっとばかし遠くいったでべそみたいにデカい丘にあった洞窟の奥にあった」
ジモスはスズと呼ばれる自分より歳がひとつかふたつくらいしか違わない少女に、汗を拭きながら自慢げに伝えた。
少女は、クラブタイプの腕や足に目をやり思わず声をあげた。
「あんた、またコイツでムチャしたろ!腕がボロボロじゃないか!足だってサスペンションがイカれちまってるし!」
オヤジ〜、とスズは工場の奥に叫ぶように声をかける。すると、工場の奥からいかにもいかつい筋肉を身につけたいかにも“オヤジ”と呼ぶにふさわしい中年親父がゆっくり現れた。
「うっせぇぞスズ!こんなちいさな町の工場で大声出すねぇ!」
「見てよコイツ!つい二週間前に改造してやったのにもうこわしやがった、ジモス」
ゴツン!ゴツン!、とオヤジと呼ばれた親父からかたい鉄拳がジモスとスズのまだ若いあたまに岩のように飛んだ。
ふたりとも仲よくおおっ〜、とあまりの響くような痛さに悶えていた。
「少しは静かにしろ!!」
いやあんたがいちばんうるさいよ、とジモスは痛みに堪えながら思うのだった。
よっ、オヤジと称する親父はクラブタイプの右にあるブルーストーンを入れた麻袋を手にする。瞬間、左側の重みにクラブタイプがよろけるのを見て慌てジモスは左側の麻袋をはずしてホッとする。
「オヤジ、麻袋を手にするなら両方ごと取れよ!」
「なんだと!?ふたつともくれるのか?」
「んなわけねえだろう!」
「なら今月の修理や改造代はこっちの分だけで勘弁してやらあ」
麻袋のなかにあるブルーストーンを手にしながら、オヤジはガハハと豪快に笑う。
「ぼったくんなよ!こっちはこのクラブちゃんと一緒に汗水鼻水たらしながらやっと掘ったんだぞ」
「ちいさな町でぎゃあぎゃあわめくな!」
オヤジの町に響くような声に、ジモスは若い顔がたじたじになる。それを見てスズはニコッ、と少女らしい笑みをする。
「オヤジにはまだまだ勝てないね」
「うっせぇ」
惑星ゾラにおいては、ブルーストーンは価値ある石とされる。もともとはイノセントが決めた経済交易であった。
ブルーストーンにより物々交換やジモスとオヤジの会話のように、ウォーカーマシンの修理や整備を行う者たちもいる。
ゾラにおいての生活は、ブルーストーンが必要不可欠なのである。
ウィンズの町から遠く離れた黒い嵐の岩肌だらけのアジトに突如、赤い炎の爆発が起こった。
「な、なんだ!?」
リーダーは慌て自分のガバメントタイプに乗り込み、クルマよろしくエンジンを始動させる。しかし、その瞳には恐怖の色があり呼吸さえするのがやっとのよう。
あ、あのガキを相手にした時は銃や火薬はつかわなかったが、と先ほどの少年との戦いを思ったがどうやら黒い嵐のそばにいるヤツはとんでもないヤツ、いや存在だと経験から感じた。
盗賊団が寝込みを襲われたとあっては名が廃るという一握りのプライドが彼にあった。
しかし、仲間のウォーカーマシンはまるで目に見えない悪魔か死神の手によりことごとく炎や爆発をあげていく。
それは地獄から甦った悪魔や死神、あるいは別な何者の誕生を祝うかのように闇に炎をあげてゆく。
「な、なんだ!?俺たちをどうしようというのだ!?」
ガバメントタイプに装備された機銃は並みのウォーカーマシンの装甲を貫く程度の威力はある。彼は広くはないコクピットのなかで機銃を闇に放った。
が、うんともすんとも手応えはない。闇の空を掠めただけだ。
上か、と少年との戦いを思い出し見上げるが星々が輝いているだけだ。星空は瞬いている。
瞬間だった。
「な、なんだ!?」
自らの機体が背後から金属がスクラップのようにされる脆く砕かれ壊される音がゆっくりしていた。まるで目の前にある仲間の残骸たちが手招きするように。
恐怖に顔を歪ませ彼は汗に濡れた顔をなんとか背中にやる。
そこで見た時だった----。
最期に見たのは、自らを地獄に招く黒い悪魔の姿らしきものだった。
「!?」
彼が助けを求める叫び声をあげる間もなく機体は炎を包む爆発をあげた。
闇に溶け込むような黒い謎のマシンは自らがした行いを睥睨していた。
しばらく見つめていた後、再び闇に還るかのように何処かへ消えていた。
太陽が昇りはじめウィンズのちいさな町を照らすなか、オヤジの工場ではジモスのクラブタイプからバチバチと火花が上がっていた。
「まったく、ガキが!ウォーカーマシンを扱えるからといい気になるもんじゃねぇ」
「オイッス!いてっ、なにすんだよ」
「オイッスじゃなくておはよう!オ・ハ・ヨ・ウ・!」
ジモスはスズたちの住む工場の隣近所に住み毎日、こんなやり取りだ。
スズはいつもジモスの野蛮な挨拶に叱ってばかり。
「おはよう……。やっぱ、オイッスだな!」
ゴチン!と彼女の鉄拳がたんこぶをつくるほどに町に鳴らす。
「うっせぇぞ!スズ、朝飯は出来てんだろうな」
「出来てるよオヤジ。それよりジモスのマシン直るかい?」
「マニピュレーターはなんとか直るが、サスペンションは新しいのに換えたいが換えがあんのかないのか」
なおんねえ?、のと聞くとふたつの鉄拳が再び彼の頭を襲い声が出ないほどに頭を押さえる。
「どこの世界に旧式のクラブでジャンプしやがる!たしかに跳べるがものごとには道理があるんだ!ガキ!」
「ガキいうな!しかたねえだろう。跳べるかどうかためしてみたくなったんだよ!」
ジモスのクラブタイプ、たしかにもとから旧式なタイプのウォーカーマシンではあるが実は見た目以上に改造が施されている。
改造したのがここのオヤジだった。
マニピュレーター、脚のサスペンションはなどは当然だがコクピットだけはかつてのザブングルタイプの性能を誇るとか誇らないとかどっちだ。
「ああ〜!あの空を飛んでみてぇ〜!!」
「はぁ、オトコてどうしてそんなおバカなのよ。空を飛べるのは鳥さんと一部のウォーカーマシンだけよ」
「なんだと!?」
「なに?やるつもり」
「はじめて会った時から思っていたが、言っていいか?」
スズのあどけなさを残した頬がほんのり薄く赤くなった気がした。
……。
「お前……、ムネがないな」
ガコン!、と再び工具の塊みたいな鉄拳が襲ったのは言うまでもない。
ガハハ、とオヤジはウォーカーマシンを整備しながら高笑いした。
アイツ(ジモス)がこのちいさな町に来て何年か、と空を見上げた。
ジモスがこのウィンズにやって来たのは、まるで風のようにぶらりとしたようだった。
年端こそいかない少年だったが、旧式のクラブタイプと共にやってきてそのまま居着いてしまった。
オヤジは年頃の似たスズと遊ばせると時に仲良く時にケンカをしながら幼馴染みのようにいまにいたる。
またウォーカーマシンを扱える者はこの町では少なく、ジモスはロックマン健ブレーカーとして旧式クラブタイプでありながら悪党たちはのしていける腕前だった。
ちなみにロックマンはブルーストーンを掘り生業とする者、ブレーカーとは用心棒のことであった。
ジモスは悪党のように高い要求はせずオヤジやスズたちの世話になりながら気ままに暮らしていた。
オヤジ 「どこかでバザーをやればいいがな」
ジモス 「また来るんじゃないの?ぶんかぶんかとはしゃぐやつらとか」
スズ 「文化をバカにすんな!これを見ろ!」
スズが手にしたのは『風の者たちとソルト』というかつてイノセントを戦った者たちの物語を記した本であった。
ジモス 「かぁ〜!ザブングルにウォーカーギャリア、あいあんぎあー格好いいね」
スズ 「絵だけを見ないの!中身、中身を読みなさい!」
バカな弟を叱る姉のようにスズに、ジモスはそこは閉口する。だけど、なぜかアイアンギアーはひらがな読み。
『風の者たちとソルト』はシビリアンの間では伝説と化した物語であり、ジモスはかつてザブングルとウォーカーギャリアを駆ったけっして二枚目ではないそいつに憧れをひそかに胸に秘めていた。
またこの本には、まだまだ未発達ながら本、詩集、刺繍、踊りなどわずかながら文化というものが紹介されていた。それらは少しずつではあるが、シビリアンの人々に影響を与えていた。
愛機の修理や整備が終わるまではしばらく時間がかかりそうだった。
ウィンズの町はちいさく歩いて10分も端から端へとすぐだ。
しかし、ここにもスズ以外に文化を愛する男が町の片隅にいる。目を向けると、椅子に座り腰を屈めた男はナイフを手に手のひらよりやや大きい枝より大きい木を一心に削っている。
ジモス 「相変わらず熱心だな。シラキ」
シラキ 「……」
歳は二十歳を迎えるくらいのシラキと呼ばれた男は、白い肌にメガネをしながらナイフの刃と木を見つめながら削っては、時に角度を変えたりしながらほぼ無言。
ジモス 「またつくってるのかい?」
シラキ 「……」
相変わらず無口な男だ。とはいえ、この町では若者は少なく他に見るものはない。
どれくらい時が経っただろうか。ちょうどお腹が鳴り太陽が真上に上がった頃に、シラキはわずかに笑みを見せ一言つぶやいた。
できた、と。
その掌にはスズによく似た女の子に似た木を削った人形があった。
ジモス 「女の子?」
シラキ 「……うわっ!?ジモス、いたのか!?」
ジモスの傷だらけの顔が目の前に気づいて、彼は椅子を倒すほどに驚いた。
ジモス 「だいじょうぶかよ」
シラキ 「あ、アハハ。人形は無事か……」
ジモス 「あんた、ほんとに木からモノを作るのうまいんだな」
シラキ 「ぼ、ボクがつくってるのはモノじゃないぞ。モケイというボクの芸術品だ!」
やれやれ、とジモスは髪を指でかく。年上なわりに、この男もまた文化というものに影響を受けているらしかった。
ジモス 「なあ、作るんならウォーカーマシンみたいなのつくってくれよ」
シラキ 「まえにも言っただろう。人形くらいは枝からでも作れるが、ウォーカーマシンみたいな巨大なものは大きな木がいるんだ」
ジモス 「大きな木ね。この辺りをあちこち見たけどなかったな」
惑星ゾラの大半は、干上がった砂漠や岩の大地であり、自然溢れる木があるのはわずかである。
シラキ 「モケイを見てくれるのはキミや村の老人ばかりだからな」
なかなか自分の芸術が理解されないことに、年上の青年は髪をかく。
ジモス 「文化とか芸術はわからんないだよ」
ジモスの言葉は風のように通りすぎる。
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
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4レス 109HIT 小説好きさん -
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酉肉威張ってマスク禁止令
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1レス 125HIT 小説家さん -
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ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
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