まだ母ではない女
排卵障害を放っておいて
「生理ない分、生理痛もないし仕事もやりやすい」
そんなこんなで、諦めた「母」としての人生。
結婚。
いろんなパターンの『満足』をうめる
男がいれば、それでよかった。
それが、、突然の妊娠。
「あと3年、妊娠していたい」
産むことも
諦めることもできない。
優柔不断なまま歩む道の中で
自由な女って
自由な結婚って
どこかにあるのか
築くことができるのか
ただ、もがくだけなのか。
仕事に走り続けた20代。
30代、女としての喪失と安定
はじめて振り返った、人生。
高校女友達みずほが、どうしても紹介してくれというので
インド式痩身エステに、一緒にきていた。
東銀座のビルにある、リラクゼーションとは無縁な
とにかくリンパを苛め抜くエステは、私のお気に入りだった。
みずほは、花柄のワンピースに、水色のカーディガン
つま先のあいたパンプス、に濃い目の肌色のストッキングが見えている。
今から授業参観にでも、すぐに合流できそうな格好だ。
私は白いコットンシャツに、ダメージあるボーイズデニム。
足首だけはしっかり出し、素足にローファー。
くたっとした皮のディレクターズバッグ。
同い年、同じ趣味だった学生時代のふたりなのに
こうも違うものかと、30を迎えて思った。
みずほはもう、6歳の子供がいる。
「小学校に塾、、自由な時間少し増えたのー」
と、笑っている。
自由な、、時間か。
>> 1
八時半に起きて、電車に揺られ
9時半には会社でコーヒーを飲んでいる。
残業があれば22時くらいに帰社。
終電まで、どっかしらで飲んでいる。
たまには男捕まえることもある。
3時頃就寝するとして
22時~3時の5時間が私の自由時間×週5
土日の就寝時間除いた16時間×2
計算すると、週の自由時間は57時間。。
みずほは、朝ごはん、お弁当、買い物、PTA会合、塾のお迎え、夕飯、旦那の相手。。
一人気ままにいられる時間はないのであろう。
そんな生活を6年。
それを彼女は幸せと、今でも言っている。
尊敬している。。しかし羨望はしていない。
仕事ができることは評価されても、
私には主婦のようなマルチタスクは絶対無理だ。
主婦の会話よりも
赤ちょうちんのおやじの愚痴のがよっぽど理解もできる。
無理なのだろう。
冷静にその判断に至ったのは、28歳の頃。
気が付いたら、年に生理が3回しかなかったこと。。。
そしてそれすら便利に思った自分。。
>> 2
みずほは産後から体重が落ちないことを
悩んでいるらしい。
産後って、何年前の話なのだろうと思うけど
ホルモンバランスやらなにやら体質も変わるらしいし
骨盤も崩れるから内臓が落ちるし、太りやすいのもわかる。
高級エステはそんな、もっともな言い訳を沢山聞いてくれる。
「お子さんいると、お時間もないですしね?」
しかし、痩身に必要なのはエステではない。
1キロ痩せるのに何が必要か、、、
それはー7200カロリーだ。
時間でも、エステ器具でもなんでもない
基礎代謝、消費カロリー、、、それからの摂取カロリーで
7200のマイナスを作り出すのだ。
基礎代謝を上げるためのインド式であって、
酒量が多く、水分摂取が少ない自分は代謝を落とし始め、太り始め
冷え性もはじまり、このエステに通いだした。
酒は水分ではない、炭水化物だ。糖質だ。
なので、酒量の改善と、水分摂取の調整
摂取カロリーの調整で、この2年、二十歳のころの体重をやっと取り戻した。
楽ではないのだ。
でも、わかりやすいのだ。
ただマイナスカロリーを食事や消費、基礎代謝で作る出す計算していれば
どうにかなるのだ。
「子供の食べ残し」
「ママさんとのお付き合いのスイーツ」
「旦那との2度目の食事」
それは、確かに太ると思う。
でも、波風を立てぬ生き方をすれば
惰性で太る。
私もどうでもいい同僚のランチなど無視。
切り捨てるものは捨てる。
「この人って、こういう人」を貫くことで
達成されること、流されないことは多いと思う。
現に、波風をたてないで生きてきたみずほが
必死で痩せたいのは
「お前、女捨てるのはやくない?」という旦那のひとこと。。
(あなたの帰りが遅いから太ったのよ)と、思ったらしいが
それでも、悔しいから痩せたいたしい。
>> 3
セックスレスなことは、別にストレスでもなく
家事や育児に忙しい自分へのねぎらいや、
母としての自分への敬意だと思っていたらしいが
その旦那の一言で、
みずほは、女として見られていないことに気付かされたらしい。
どんな理由でも構わないが、痩せたい女の気持ちは応援はするが
どうでもいい惰性には、負けてほしくない。。
しょうがないを言い出したら、ダイエットなんてするほうが無意味。
現に、このインド式は、施術後2~3時間は
断食を守るべきで、カロリーの吸収力を増す身体になっている。
「施術でちょっと痩せた」気になって食べて、
永遠に痩せない人々が多い。
痩せさせてもらえることなんてないのだ。
痩せるのは自分だから。
それは結婚も似ていると思う。
幸せにしてもらう、、と思っていたはずが
その夫がわからなくなる
夫が変わったとすら思えてしまう。
でも最初から違うのだ。
してもらえることなんてない。
自分の意思で常にゴールと着地点、成果を決めていないといけない。
誰も自分の身体のライン
自分の人生
手助けはしてくれても
何も決めては、してはくれないのだ。
そう思うと、、
あえて結婚なんてしなくても
自分の幸せを決めて生きていれば
結婚していく友人をうらやむことも
一人で生きていくことも
甲乙、上下なんて
つけられないような、気がしていた。
>> 4
「沢井さんのお友達なの?」
施術台に寝そべった私に、中堅ベテランの今井セラピストが尋ねる。
「高校時代の友達です」
オイルで、軽めのならしマッサージがはじまる。
「同い年に見えないわね」
「どっちが上~?」
「お友達のが、お母さんの貫録あるからね」
「貫録ですか。。あたし薄いよなー」
仕事のプロジェクトリーダーだけど
きっと私が今やめたところで、次はいる。
しかし、みずほが「母やめます!妻やめます!」
といったらどうだろう。
代打はそうそういないし、
唯一無二の存在であるといっていいだろう。
そういう部分の責任や、背負うもの。
この6年仕事しかしていない私に
ないキャリアが彼女にはあるのだ。
年齢の若さだけって、最近よろこべなくなってきた。
「30の女なのに、皺以外に何も持ってないの?」みたいな
そういう顔にはなりたくはないのだが。。
それかとことん「本当に苦労知らない、つやっつやのハリ肌」
で、在りたい。。
「沢井さんは結婚とかしないの?代謝あがってるし、生理はくるようになった?」
「いや、結婚しないです。子供もいらないよ、せっかく痩せたのに」
「1年くらいの脂肪ならやわらかいから落ちるわよ」
「いや、自分がさ、、母的なものっもってないのよ。
母性じゃなくて、おっさんだもん」
セラピストが笑いながらも、膝の上の肉を引きちぎるようにもんでいる。
セルライトというのは、骨のそばにつきやすいらしく、
その辺を揉まれると激痛だ。
「やっぱ慣れないな、、痛いわー」
「沢井さん、強くなったわよね。最初はどこもかしこも痛がって」
セラピストは手を緩めない。
「みずほ平気かなあ」
「初回だからね、痛いんじゃないの?」
施術代は、カーテン越しに仕切られており、
初回ビジターは、悲鳴を上げるケースが多い。
今日もみずほを含めて数名ビジターがいるようで、
四方から悲鳴や笑い声が聞こえる。
痛いと笑いたくなる、、私もそれだ。
痛すぎると「ばかじゃねーの、何するの」って笑いたくなるのだ。
「沢井さん、は、子供嫌いなんだっけ」
「嫌いっていうか、全然私立派でもなんでもないので、
むしろ、ダメな子なので、私の遺伝子はストップ、、おしまい。国民の義務」
私は自傷気味に笑った。
半ば本心でもあるのだが。
「実はあたし、結婚するんですよ」
セラピストは、なぜか申し訳なさそうに言った。
「え、やめるの?」
「うん、ここはバイトになると思う」
中堅ベテランの彼女の、痛みのコントロールのできた施術は好きだったので
とても残念に思った。。
「あたし痛がりだから、他の人きついんだもん」
「沢井さん、大丈夫ですよ~。ちゃんと引き継ぐし、週三日は私も出てますので」
肩甲骨のコリを流しながら、セラピストは笑った。
結婚か。。
- << 9 学生時代の付き合いは、 多少なりとは違うけど、学校という箱の中で、同じベクトルがあるもの同志 だったから、継続した関係を保つことができた。 仕事という組織だと、 それなりの関係にはなるが、 仕事終わりに飲む仲間、、休日に会いたくは無い仲間、程度の関係は 自然と築ける。 でも、30を迎えて思う。 分岐していくのだ。 結婚して家庭をもって 「夜は出れないの~」ということもごく普通で、 子供がいれば尚更。 私は未だに、何からも縛られることなく、ただ仕事しかしていない。 学生時代の課題のように。。 着る服や肌感が変わったところで 精神的にはなんの変化も成長も遂げていないのではないだろうか。
>> 7
施術代は、カーテン越しに仕切られており、
初回ビジターは、悲鳴を上げるケースが多い。
今日もみずほを含めて数名ビジターがいるようで、…
学生時代の付き合いは、
多少なりとは違うけど、学校という箱の中で、同じベクトルがあるもの同志
だったから、継続した関係を保つことができた。
仕事という組織だと、
それなりの関係にはなるが、
仕事終わりに飲む仲間、、休日に会いたくは無い仲間、程度の関係は
自然と築ける。
でも、30を迎えて思う。
分岐していくのだ。
結婚して家庭をもって
「夜は出れないの~」ということもごく普通で、
子供がいれば尚更。
私は未だに、何からも縛られることなく、ただ仕事しかしていない。
学生時代の課題のように。。
着る服や肌感が変わったところで
精神的にはなんの変化も成長も遂げていないのではないだろうか。
>> 9
「最近、寝落ちするね」
軽く頭をこづかれて、目を開けると
恵比寿のバーで、呆れた顔したバーテンがチェイサーを交換してくれた。
ふと、隣を見ると、鞄がおかれたまま、
本人はいない席が残されてた。
「彼氏、電話」
「帰ってなかったんだ」
最近私が寝落ちると、
彼、、彼氏ではない男「保田」は居なくなることが多い。
エステにいった日は、血行が良くなる分、酔いも回る。
高確率で、寝落ちしてしまうことが多いのだ。
「沢井さー、あの男は俺、よくないと思うよ」
バーテンの俊樹は、保田をよく思っていないらしい。
「私も思うけど、どの辺が?」
「もう40でバツイチでしょ?そこはいいとして、
何かに落ち着く気ないじゃん、、あの人。んで金あるくせに
ここの勘定お前もちでしょ?いつもさ。。なんか汚いんだよな」
私は笑った。
何かに落ち着く気がないから、一緒にいるのだ。
そして、彼女でもないので、奢られる気もしないのだ。
「まあ、いいんだよ。お互いそういうのではなくって
仕事の愚痴も聞きたくない、他の職種でバカ話して、酒のんで、
たまにやったりやらなかったり、、で」
「沢井さ、もっと自分大事にすれば?」
「ちゃんと誰かと付き合えってこと?」
俊樹は頷いた。
「あんたにも彼女が出来たら考えます」
「沢井、、一生独身の道だぞ、それ」
俊樹はゲイだったので、苦笑いした。
あぁ、恋人や駆け引きや
面倒な人生の先みたいなやつが、、ないから
真剣に恋をしなくていい、この環境が
落ち着くんだろうな。
>> 11
今日いったエステのおかげで
背中と腰回り、おしりに
少しの青あざがあるのだ。
風呂にゆっくり入れば消える程度なのだが。
その痣に、保田は異常に興奮するので
面倒なのだ。
わざとらしいエス口調のプレイに合わせなければいけない。
普段は寝たきりのマグロのような男なのに、、と毒づいてしまいたくなるが。。
そして保田は今日、どっかの若いモデルとでも
やりに行くのだろう。
そして帰宅後、私に対しては王様のような振る舞いで
もう一度するのであろう・・
「俺はまだ若いのだ」と、確認するだけの行為を。
嫉妬もなにもないのだが、
その日のうちに、他の誰かに入った男性器を、
そのまま入れられるってのは
あまり気分のいいものではない。
みずほなら発狂するだろうし。。
その場で3Pとかなら、生理的嫌悪はないのだが、とは思うが。
そう思う、私も歪んでいる。
「んじゃ、もう一回ズブで」
ウォッカのお代りを頼み、私は保田に手を振る。
保田はなかなか、その場を動こうとしない。
「あのさ、話もあるから家にいっといてよ。
鍵いつものところにあるからさ」
「何、話って」
「沢井、もーわかってあげなさい、男心」
「ですよねぇ」
俊樹と保田が微笑みあう。
「んじゃ、いけたらいく」
私は曖昧な返事で、保田を送り出した。
>> 12
保田の仕事は
雑誌にもちょろっと出るくらいの
売れっ子美容師だ。
とはいっても
美容室乱立
価格競争
薬剤市場の変化などなど。。
保田自体が雇われ店長なので、そんなに手取りがいいほうではない。
いいように見せることはしても。
ちょっと、店を出すにはもう遅いのかもしれない。
適当に食い漁って
適当な余生を迎えていくのを望んでいるような気がする。
その生き方に対しては、激しく、、ではないが
なんとなく賛同する。
でも保田はバツイチなので、娘がいるらしい。
いつか、面倒みてくれるのではないだろうか。。
知らない家庭の話だが、勝手にそう思う私がいる。
20歳で子供を産んでおけば、、40で成人式。。
それは羨ましいと、今なら思うところなのだが。
時は既に遅し。
今から産んで、子供が成人になっているころに、、
ヒョウ柄のスパッツとか履いちゃってる自分がいたらどうしよう。。
子供のいない老後を、考えるのが怖いけど
貯金して、豪華施設に入りますよっていうのも
悪い話ではない。
「沢井、保田さんの話ってなんだろう?」
「金の無心なら、いやだな」
冗談ぽくいって、笑った。
100パーセント冗談でも、ないけれど。
そんなことよりも、、今考えている老後プランのほうが
よっぽど恐怖だ。
>> 13
その後も詮索してくる俊樹がうるさいので
適当に店を出た。
(俊樹、好きなんじゃないのかな、、保田のこと)
酔いも回り、そんなふざけた選択肢も浮上した。
酒ばかり飲んで、何も食べていないことに気付く。
一人で飲んでるとこ、絡まれるのも面倒なので
私は、富士そばに入った。
深夜に富士そばに入れる、、そういう女なのだからしょうがない。。。
だから独身なんですね、、と自分に笑いながら、富士そばの食券を買う。
ほうれん草のおひたし、げその天ぷら、ビール。。
チェイサーにあったかい蕎麦湯を飲む。。大好きなスタイル。
- << 16 「おにーさん、東京はじめて?」 「あ、出張でたまに、、今は引っ越してきました」 「国はどこ?」 インド人は、キョトンとしていた。 「まあいいや、そのおいなりさんの油揚げだけ食べたいから 中身だして」 相手が外人だから、何かやりやすさを感じて 好き放題なことを、初対面なのにいってのけた 「あ、ちょっとタクシー乗るけど、お寿司たべにいこうよ、 おいなりさんしか、ここないから。すーしー、、ね」 私は食べかけ飲みかけのトレイを奪うように片づけ、 相手の手を引いて富士そばをでた。 恵比寿観光大使にでもなった、、気分で。
- << 17 抵抗することも、 行きたいと胸を躍らす様子もないインド人は 「きょとん」としたまま、タクシーに乗った。 「これ、ナンパか何かですか?」 笑いもせずに、インド人は聞いてくる。 カタコトの日本語ではなく、流暢な日本語で 「特別だよー。明日休みだし、これから予定があったんだけど、 行きたくないのって、日本語は全部わかる?」 インド人は少し笑って、頷いた。 「運転手さん、築地の場外おねがいします」 酔っているからもあるけど 見知らぬ外人との行動は 旅行気分にさえなれた。
>> 14
カウンターで一人
蕎麦も食べずに飲んでいると
隣のサラリーマンが私を凝視していた。
酔いも手伝って、私は蕎麦湯を注ぎ、相手に差し出した。
「体にいいから、飲みなよ」
サラリーマンの顔は、一見日本人には見えなかった。
浅黒く、目は大きくぎょろっとしており、
くるくると、毛はひろがっている。
あだ名をつけるのなら「インドの数学者」と、言った感じだ。
「日本語、わかる?」
「あ、、ええ」
蕎麦湯を受け取り、彼はそれを両手で収めた。
絡まれたくないと、いいながら
自分から絡んでいるのだから、しょうがない。。。
「あの、ここってお酒のんでいいんですね」
インドの数学者は、ぼそっと呟いた。
確かに、終電間際、そばをすすって足早に去る人しかいない。
ゆっくりと飲んでるのは私だけのもんだ。
「あ、飲む?」
瓶ビールが多かったこともあり、私は水用のグラスに
ビールをついで相手に差し出した。
富士そばの主でもなんでもないのに。。。
酔っているなーと、、冷静に思った。
酔っているときに、こうも蛍光灯の下でいると
冷静になろうとする分に酔いが回ってくる。。
「あ、あ、、ありがとうございます」
なんでも受け取るインド人、、なんかかわいかった。
>> 14
その後も詮索してくる俊樹がうるさいので
適当に店を出た。
(俊樹、好きなんじゃないのかな、、保田のこと)
酔いも回り、そんなふ…
「おにーさん、東京はじめて?」
「あ、出張でたまに、、今は引っ越してきました」
「国はどこ?」
インド人は、キョトンとしていた。
「まあいいや、そのおいなりさんの油揚げだけ食べたいから
中身だして」
相手が外人だから、何かやりやすさを感じて
好き放題なことを、初対面なのにいってのけた
「あ、ちょっとタクシー乗るけど、お寿司たべにいこうよ、
おいなりさんしか、ここないから。すーしー、、ね」
私は食べかけ飲みかけのトレイを奪うように片づけ、
相手の手を引いて富士そばをでた。
恵比寿観光大使にでもなった、、気分で。
>> 14
その後も詮索してくる俊樹がうるさいので
適当に店を出た。
(俊樹、好きなんじゃないのかな、、保田のこと)
酔いも回り、そんなふ…
抵抗することも、
行きたいと胸を躍らす様子もないインド人は
「きょとん」としたまま、タクシーに乗った。
「これ、ナンパか何かですか?」
笑いもせずに、インド人は聞いてくる。
カタコトの日本語ではなく、流暢な日本語で
「特別だよー。明日休みだし、これから予定があったんだけど、
行きたくないのって、日本語は全部わかる?」
インド人は少し笑って、頷いた。
「運転手さん、築地の場外おねがいします」
酔っているからもあるけど
見知らぬ外人との行動は
旅行気分にさえなれた。
彼の名前は
小峰といった。
ボブでもジョージでもなく
小峰さん、、小峰 遼さん。
私は名乗らなかった
「きみでもあなたでも、いろいろ日本語から選んで呼んでいいよ」
名乗りたくないわけでもないが
これから何かをはじめるのが嫌だった。
今日ここで酒を飲んだことが
旅の1つだったように。
二度と会うことはせずに、終わっていいと思っていた。
別に、待ってるんだかなんだかわからない
男の家に戻る気はないし
今、目の前の小峰さんがやりたいとお願いしてくれば
別にこだわることもなく、やってしまったと思う。
でも小峰さんはそんなこともなく
日本酒の話、
仕事を何をやっているのか
六本木の家のそばに、インドカレーがある話とか
そういうことばかり、話をしてくれた。
その話の向こう側に、セックスがあると感じさせることのない
ある意味素直で、下衆な
よくある男の形ではなくて
わかりやすく、面白く
話してくれた。
「池上彰みたいだね。説明の順序と流れがいい。やっぱ頭はいいんだね」
「それは訓練かもしれないけど、、でも手がよく動いちゃう」
「それは顔が顔だから、違和感ないよ」
時折、外人いぢりをいれながら
私たちは話していた。
>> 22
店員が、あったかいあがりと
彼に領収書を持ってきた。。
時間が飛んでいる、、寝たのか?
「目を覚ますのもあれだけど、お茶飲んでください。お水のがいいですか?
気分は悪くないですか?」
「いや、まじで寝落ちしました。平気です」
彼は笑ってくれた。
いきなり声をかけ
蕎麦屋から連れ出し、
インド人扱いし
寿司をふるまうつもりが奢られ
日本酒飲んで、寝る始末
最低な女に、笑ってくれていた。
「あの、実は俺仕事の途中で、
データがあがってくるの待ってたんです。。
時間つぶしに飯食って~って感じで。
まだ始発まで時間あるので、
シャワーだけ浴びたら会社向かうんで、
あなたはそのまま部屋で寝てから帰ったらいんじゃないですか?
築地とか、この辺ならビジネス多いから」
彼の人柄的に、
1ミリもいやらしくない
ホテルへの誘いだった。
「うん、眠たい」
「じゃあ、予約しちゃうんで、お茶もう少しのんでください」
彼はスマフォでさくさくと
ホテル予約をはじめた。
ホテルが決まったようだった。
「立てますか?」
ふらっと、椅子から立ち上がった私に、彼は手を差し出した。
やっぱりなんていうのかな、、
顔が外人だから、
エスコート当たり前教育というか。。。
いやらしさがないんだよなー。
酔っぱらってやりこんでやろうか、、っていう感じがしないんだよな。
それはそれで素晴らしくて
意地悪もしたくなるもんだ、、と
まとまらない「酔っ払い脳」は、彼の手をかりた。
「要介護ですよ、、今日はすいません、、、」
私は重たいディレクターズバッグを、彼に渡した。
「重いですね。。これ、紙入ってるな」
「紙?」
「手帳とか、ノートとか。。そういう紙って、あなどれないですよ
重たくしますからね。。
僕のパソコン1キロないから、結構鞄軽いですよ」
持ちたくないので、鞄を渡したのに
彼は私に自分の鞄をよこした
「あ、本当に軽い」
一応はもってみた。
彼の顔は誇らしげだった。。
ああ、こういうことに
なんか全力かけるタイプね。
「じゃあ、ねむたいんで」
私は彼の鞄を返し、
手ぶらのまま、ふわふわと店を出た。
排卵生涯で子供が難しいって言われても
ピンとこなかった。
「あたし、子供欲しいなんていったっけ??」
って、医者の顔みたくらいに。。。
子供を産みたい、って気持ち
ごく自然の当たり前、、なんだろうな。
ただ、それよりも
「女子機能の欠如」って、機械的に故障個所を見つけられた、、そんな気分だった。それに対して、何の感情も持つことができない自分がいた。
「産めないの」って話せば、つらいねと女友達は泣いてしまうかも
男なら、結婚としての付き合いはやめとこう、、って思うのかも。
それが世間一般の「当たり前の感情」っていうのは、心得たとして。
今後どんな人生で、恋愛をしていけばいいのか
思うのは、それだけだった。
かといって、排卵の治療をするのも煩わしかった。
もう、半年も放置している
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ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
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