そうでござるな〜
スレ建てました。
※注 このスレはあらかじめメンバーが決められている為、途中参加はご遠慮下さい。
では始めます。
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>> 7
高木の鼻がピクピク痙攣している。
これは何かを嗅ぎつけたくてウズウズしているいつもの癖だ。
「…プライベートのことまでは、私もちょっと、分かりません」
私は冷たく言い放って、オフィスへ急いだ。裕子と高木が、この先どんな風にじゃれ合おうと私には関係ない。そう思いながら階数ボタンと閉まるボタンを連打した。
エレベーターの扉が開き最上階のオフィスに着く。
社長のフレディが私を迎えた。
「モーニン、ミキ」
フレディはハワイ生まれのハワイ育ちだが、日本で働き出してから10年以上経つため、日本語に関しては完璧だ。
私のことは、ずっとミキという愛称で呼んでいる。
マッチョな体のわりには、甘えん坊で泣き虫なところがある子どもみたいな男だ。
今朝も天真爛漫なスマイルが、私の瞳に飛び込んできた。
>> 10
「ハ〜イ。なに?!…いや、そんな話は…」
フレディのアロハシャツが汗で滲んできた。
「ミキー。今日スーザンがこっちへ来ることになっていたっけ〜?」
スーザンとは、アラスカ系列のスノー・ホテルの社長だ。トロピカル・ホテルとの合併を狙っていて、たびたびフレディにアプローチをかけている。
「えーと…はい。昨夜深夜にこちらの空港に到着予定で、今日のお昼にランチを共にされる予定で…確かにスケジュールに入ってます」
「えぇぇ!?…すっかり忘れてたよー。場所はどこや〜?」
フレディは最近、関西弁を習得中だ。
「駅前のマクドナルドです」
「…オーケー」
観念したように、フレディは電話を再開した。
フレディはスーザンに怯えている。
合併なんて名ばかりで、スーザンの狙いはトロピカル・ホテルを乗っ取ること。
それをフレディも分かっていたからだ。
リュックサックを背負い、しぶしぶ出かけたフレディを見送り、私はオフィスの窓を眺めた。
バナナを叩き売る行商人。
平和ないつもの光景だった。
そう、その時までは…。
静寂を破るように内線電話が鳴った。
受話器を取ると、ドアの向こうにバイク便の業者さんが荷物を届けに来ている。
私あての小さい小箱。
中を開けると木彫りのペンダントが入っていた。
「ごめんょ 修二」
刻み込まれたメッセージを見た瞬間、私の背中を戦慄が走った。
>> 11
(これは…?)
確かに差出人は修二になっている。しかし私の手元にあるペンダントはとうてい修二が作った物とは思えない。
修二は京都で飾り職人をしているのだ。その修二が作ったにしてはあまりにも稚拙な作りだ。
わけが解らず佇んでいると携帯が鳴った。社長のフレディだ。
「ミキー!申し訳ないが僕のデスクからクーポン券を持ってきてくれないか!」
私は我に返り、ビッグマックのクーポンとチキンフィレオのクーポンを注意深く切り取りロビーへ急いだ。
ロビーへ降りるとフレディが額に汗を浮かべ頬を赤くして待ち構えていた。
その姿はどう見てもトロピカルホテルの社長と言うより日本へ観光に来てテンションが上がってるただのオヤジだった。
>> 12
「ミキーすまない、商談もなんとかまるく収まって会計しようとしたんやわ。そしたらな、スーザンがさっさと店外に出ていってん…なんや割り勘ちゃうんかいとおもたけど呼び戻すのもなんやしなぁ…ここは大人になって払おとしたらクーポン券が無かったんや…
「…どうぞっ」
「?」
フレディがポカーンと口を開けている
「クーポン券です、どうぞっ!」
フレディは「あ…アリガトゴザマス」と言いクーポン券を受け取ると華麗なターンを決め、受け付け嬢に投げキッスをしながら社を後にした…
(まったくこっちは問題が山積みなのにフレディの話し聞いてたらいくら時間があっても足りないわ…
私は受付嬢に軽く頭を下げその場を後にした。
>> 13
その日の午後は、とても穏やかに過ぎていった。スーザンとの会食から戻ったフレディも、小鹿のように軽快なテンポで仕事に取り組んでいる。
木彫りのペンダントのことは…とにかく修二に聞いてみよう。
こんな謝られ方されても、何がなんだか…さっぱり分からない。
そうこう考えているうちに定時を迎え、私は家路に向かった。
オレンジ色に染まった海岸通りを、トップギヤで走り抜ける。
マンションのそばまで来ると、いつも立ち寄る小さなパン屋でフランスパンを買うために、自転車を停めた。
賑わう夕方の買い物客。
子どもを連れた母親。
若い学生風の恋人たち。
その雑踏の中で、間違えるはずのない愛おしい声を私は確かに聞いた。
修二だ。
京都にいるはずの修二が何故?
私へのサプライズ?!
だが次の瞬間、その予想は跡形もなく消え去ることになった。
修二の右手には裕子の左手が、固く繋がれていたからだ。
頬を赤らめる裕子。
優しく見つめる修二。
二人の周りには、ピンク色の風が、これでもかと言わんばかりに暑苦しく吹いていた。
>> 14
(修二…!)
私はただ呆然と2人を眺めていた。
その時、修二が私に気づいた。
「美貴子!ちょうど良かった!君の所へ行く途中で裕子さんに偶然会って…」
修二を良く見ると右手にパンプスを持っている。
「きゃっ!」ちいさな悲鳴と共に裕子が修二にしなだれかかった。
「そこの王将の前で裕子さんに会ったんだよ。ほら、靴がこの通りで立ち往生していたよ」
修二はくったくなく笑いヒールが取れかかったパンプスをこちらへ見せた。
「ミキ~私も久しぶりにあなたに会いたくなって…この前の電話の事も謝りたかったし」
謝る?
何を謝ると言うんだろう。修二には別に女が居ると言った事?
それとも裕子と修二が関係を持ったと匂わせたこと?
私は苛立たしげに2人を見つめた。
>> 16
修二は無意識に後退りを始めた。
具合が悪くなると、自然と足が後ろへ進んでしまう、子どもの頃からの直らない癖だった。
すると、足の裏を不思議な触感よぎった。
フワッとしたような。
モサッとしたような。
はて?
なんだろう…?
修二が振り返ろうとした次の瞬間には、鋭い牙と獰猛な唸り声が襲いかかってきた。
修二が踏んだもの。
それはシェパードの尻尾だった。
散歩途中のシェパードが、お座り、お手をして、お菓子をもらおうとしているその矢先に、修二は彼の尻尾を踏んでしまったのだ。
一目散に逃げる修二。
怒り狂って追いかけるシェパード。
間一髪のところで、タクシーをつかまえて乗り込む修二。
ハァハァ。
助かった、俺。
シェパードからも、美貴子からも…。
>> 17
「修二!」
美貴子の呼ぶ声は届かなかった。
「ウフフフ…修二さんてクールな見かけによらず可愛いわね」
裕子が豊満な胸を揺らしながら小さく笑った。
「昨日から主人が出張で居ないのよ。ワインを持ってきたから今夜は飲み明かそうよ!そのうち修二さんも戻ってくるわよ!」
裕子はネットリと微笑んだ。
この女…
今更私に会いにくるなんてどんな神経をしているんだろう。
修二が戻ってくる前に追い払ってしまいたい。
「わかったわ。でも私、疲れてるの。少しだけね」
美貴子はよろよろとマンションへ向かった。
片足しかパンプスをはいてない裕子は慌てて美貴子を追いかけた。
(それにしても相変わらずね裕子は。胸の谷間を丸出しにして…まるで尻みたいで下品だわ。)
美貴子は小さく舌打ちした。
>> 18
美貴子はアパートに帰りつくと、タオルを濡らし軽く絞って裕子に渡した…
「はい、足の裏、拭いてね。」
裕子は少しビックリしたような顔をして「ありがとう」と言いタオルを受け取って足の裏を軽く拭き取った。
(修二はどこまでいったのかな?)
美貴子は、冷蔵庫を開け何かつまむ食べ物がないか探した…
無い…
牛乳しかないのだ…冷蔵庫のポケットから棚までぎっしりと牛乳で埋まっている。
(裕子と二人きりかぁ…なんか気まずいわね…こうゆう時は牛乳に相談ね)
おもむろに牛乳を一本取り出しそのまま一気にラッパ飲みすると…
「ごめん裕子、冷蔵庫の中めぼしい物がないみたいなの…出前でもとるはね…」と言いながらピザ屋に電話をかけた。
>> 20
一気にピザを口に放り込んだ私を裕子は怯えたような目で見つめている。
この女お得意の表情だ。
女の私相手にそんな顔をしても無意味なのに。
「それはそうとミキ、高木マネージャーはあれから何か言ってきた?ミキにお熱だったもんねウフフ…」
先月私はマネージャーの高木から交際を申し込まれた。
しかしキッパリと断ったのだ。何故なら私には修二がいるから。
「その話しはとっくに終わったわよ。私には修二しか見えないのよ。」
私は口からピザのかけらを飛ばしながら答えた。
「あら…そうだったの?もったいないわね。マネージャーってもてるのよ?ちょっと福山雅治に似てるじゃない?」
…福山雅治が何だと言うのだ。私は渡哲也が理想、福山には全く興味はない。
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