うぬぼれ野郎は俺だった
●名前 半田 努
●性別 男
●年齢 35歳
●彼女 なし
●独身一人暮らし
ハハハ(笑)
大学卒業後、新卒で入社して13年
身を粉にして働いてきた会社
辞めた
その後のことなんて何も考えちゃいなかった
(※不具合が出ましたのでスレ立て直しました🙇)
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みんなもう寝てんのか...
15メートルおき位に燈る街灯。
その周りを蛾が飛ぶ。
左手にくたびれたビジネスバック。
右手にはたった今買った大量の酒と肴が入った24時間スーパーの袋。
俺は燈る街灯を見上げて立ち止まった。
その場に膝から崩れ落ちそうだった。
その日の朝、会社の雰囲気が変だった。
同じ営業企画部の奴らが浮かない顔をして何か喋っていた。
俺『おはよう』
何事かと思いながらも、気にせず部屋に入った。
なぜかみんな俺の方をじっと見ている。
コートをハンガーに掛けてみんなの顔を振り返り見ながら
『何?』と言った。
田口…
俺より年上だからっていつも上から物を言いやがる
実際はただのリーダーじゃねぇか
俺は係長なんだよ、俺より下じゃねぇか
リーダーなんてな、職位をもらえない奴がお情けでつけてもらうものなんだよ
また次頑張ればいいって…
俺『...何のこと?』
みんなの顔から完全に笑顔が消えていた。
田口『今回の企画さ、お前の案じゃなくてテツの案でいくことになった』
俺『はっ?』
状況がよく掴めない。
俺『どういうこと?』
箕輪『半田』
嫌味な野郎がしゃしゃり出てきやがった
仕事はできないのに口だけは達者な奴って、お前のことを言うんだよ
俺が席につくと、藤本、田口、箕輪の三人が俺の周りに集まってきた。
ただ俺の様子を見ている。
なんなんだ...こいつら...
その状況に俺は少しづつ苛ついてきた。
案が変わった...?
俺の頭から血の気が引いていくのが分かった。顔が硬直した。
俺『えっ?どういうこと?俺の案でいくってもう決まったでしょ?』
三人『...』
俺『何?分かるように説明してよ』
俺はそのままの姿勢で三人に聞いた。
三人のうちの誰かが俺に向かって説明し始めた。
どういうことなんだ...
俺の耳には全く入ってこなかった。
みるみるうちに怒りの感情が溢れてきた。
三人のうちの誰かの話が終わった。
結局、俺の案は干されたってことを言ったんだろう
三人はしばらく無言で俺を見ていた。
俺がどんな言葉を発するか待っているらしかった。
机の上の透明マットの下にあるカレンダー見ながら言った。
俺『てかさぁ...俺、どんだけの時間かけてあの案つめてきたと思ってんの?』
三人は黙って聞いてる。
俺『なぁ?お前ら何言ってんのか分かってんの?』
三人はしばらく黙っていたが、偉そうな田口が口を開いた。
そこに岩本部長が『おはよう』と言って部屋に入ってきた。
岩本部長…
自分の思い通りにならないと直ぐに機嫌が悪くなる自己中野郎
自分をヨイショする人間だけをいい場所に配置換えさせてきた
自分の考えが全て。
それに刃向う奴は徹底無視する幼稚なうじ虫みたいな野郎
俺はこのクソ野郎にどれだけ神経使ってきたか...
怒りで顔が強ばり始めた。
気持ちだけはなんとか平静を保とうとした。
部長の方へ行こうとしたが三人が邪魔だった。
足の前にあった椅子を蹴飛ばした。
彼らを避けて課長の席に行こうとしたが
田口が突っ立ったまま避けようとしない。
どけよ
田口の左半身に思いっきりぶつかって俺は部長の席に向かった。
部長はコートを脱ぎながら俺を見た。
岩本部長『おう』
俺『案が変わったって、どういうことですか?』
かろうじて落ち着きながら責め口調で部長に言った。
脱いだコートをハンガーに掛けて、椅子に座って奴は言いやがった。
岩本部長『お前の案も良かったけど、今回は西野の方が頑張ったな。まぁ、次回期待してるぞ』
そっからもう覚えちゃいない。
暴言吐きまくってゴミ箱は蹴るわ、鞄は机に投げつけるわで
俺の体中から怒りの感情が一気に噴出した。
部長に向かって大声で叫んだ。
怒りで頭に血が上って顔から上が熱い。
頭がチクチクする。
他の部署の奴らが手を止めて俺を見てる。
社の長いフロアーをドスドスと音を立てて歩いた。
途中、鞄が誰か知らない奴の机に『ドン』とぶつかった。
35歳の俺。ここまで大衆の面前で怒り丸出しするとは...
セキュリティドアを開けて会社を出た。
俺は怒りにまかせて物凄い形相で廊下を歩き
下に降りる2号基のエレベーターのボタンを掌で『バン』と叩いた。
頭がチクチクしやがる
マフラーとコートを持った方の手の爪で左側の頭を掻き毟った。
上ってきた1号基のエレベーターのドアが開いて西野が出てきた。
西野哲也…
部署の中で唯一俺と同い歳
俺ら二人は営業企画部の中で一番若い。
だが歳だけくった他の脳無し連中と違って、二人とも係長職をもらった。
それだけ俺たち二人は部長に目をかけてもらっている。
みんなは気づいていないが、西野は俺に相当ライバル心を抱いている。
やたらと自尊心も強いし面倒くせぇ奴だ。
だが俺と違って社交的で話が上手い。
いろんな情報も持ってる。
だからみんなはお前が言うことは常に正しいと思っていやがる。
奴は仕事の中身じゃなく、周りの連中をいかに自分の手の内に入れるか、
そんなことばかり考えてるくだらねぇ奴だ。
何か言おうとしていたようだったが、構わずエレベーターのドアを閉めた。
閉まったエレベーターのドアを思いっきり蹴ってやろうと思った。
故障して止まったら面倒くさいことになる。
寸でのところで思い留まった。
とにかく会社から早く遠ざかりたかった。
謝ったところで今回の企画が俺の案に戻る補償も無い。
それにあんな態度までして戻れる限度を超えてる。
俺はゆっくりエレベーターを降りて、三、四歩歩いた。
『ガタン』
背中越しにドアが閉まる音が聞こえた。
『もういいや、やってらんねぇよ』
外に出ると太陽が少し眩しかった。
俺の熱くなった頭を冷やしてくれる、丁度いい寒さだった。
コートを着てマフラーを首に巻いて、駅に向かって歩き出した。
このまま真っ直ぐ家に帰りたくねぇなぁ...
一通り端から端まで路線図を見たが、ピンとくる場所は無かった。
もう一度端からゆっくり見た。
俺の後ろを会社へ向かうリーマン達が通り過ぎて行く。
路線図を見上げている頭が急に重たく感じた。
その頭をゆっくり下げて
目の前の切符販売機をただじーっと見つめた。
会社を出て駅まで歩くうちに、怒りはかなりおさまっていた。
かと言って、今更会社には戻れなかった。
『俺は何してんだろ』
虚しくなった。誰もいない場所に行きたくなった。
背広着たサラリーマンが、こんな時間に何してんだと思われたくなかった。
とにかく誰の目にもつかない、落ち着ける場所に行こう
何年か前、仕事で帰宅時間が遅くなって家に帰れなくなった時があった。
俺の駅は都心から少し離れている。
そんなところに、日付が変わった後まで電車は走ってくれない。
電車で行けるところまで行き、そこにあるビジネスホテルに泊まった。
なかなか使い勝手のいいホテルだった。
たしかあのビジネスホテル、チェックインの時間、昼12時だったよな
そのビジネスホテルがある駅は大きな駅で周辺も栄えている。
よし、あそこに行けば会社の奴らに昼休みに会うことも無いし、
なんか店もあんだろ
自宅から会社間の定期券範囲だったから
切符を買うのをやめて定期で改札を通った。
目的地が出来て安堵した。
携帯でホテルの空室状況を調べた。
昼12時から入れるシングルの部屋が一つ空いてる。
9,000円か….
「ナイトチケット特典付き宿泊パック」と書いてある。
ホテルの目の前にある映画館で、
夜22時から上映する映画が見られるらしい。
特に見たい映画は無かった。
落ち着ける場所を確保するためだ、仕方がない。
駅のホームで早速ホテルに電話をして予約を取った。
ホテルのある駅に着くまではおよそ40分。
駅に着く頃には10時過ぎてるな
着いたら本屋で暇つぶしして、それからチェックインしよう。
今頃会社の中でどんな会話が繰り広げられているんだろうな
あいつら俺のこと、何話していやがるんだろう...
ホームに電車が入って来た。
まさかついさっき、上司に暴言吐いて会社を辞めてきたなんて
ここにいる誰も想像できないだろうな。
そう言えばさっきゴミ箱蹴ってたよな...俺
まさかこんな一日の始まりになるとはな
どこか営業先にでも行く宛があるサラリーマンのふりをして
俺は鞄を網棚に乗せた。
窓の外に気持ちの良さそうな晴れた景色が流れている。
頭の中はさっきのことでいっぱいだった。
自分が会社でしたことを考えると、うつむきたくなった。
うつむいたところで、もうどうにもならない。
始まったばかりの今日という長い一日をどう過ごすか
俺は今日、どう過ごすことが正解なんだろう…
電車は減速し途中駅に停車した。
ホームにあるガラスに自分の姿が映っている。
自分とは思えない妙な違和感を覚えた。
目を逸らしたくなるほど情けなく滑稽に見えた。
目を大きく見開いて見てみても、
映っているのは確かに自分自身だった。
俺はこんなところでこんな時間にいったい何をしているんだ...
俺は今日、普通に仕事に行って家に帰る
そんな普通の一日をおくる予定だった。
なんでこんなことになってしまったんだ...
『テツが部長に言ったらしいよ』
『お前の案じゃダメだって。今回の企画には合ってないってさ』
なんなんだ...あいつら...
再び怒りが込み上げてきた。
摑まっているつり革を思いっきり握りしめた。
ビジネスホテルがある駅に到着した。
時刻は10時15分。
『あと1時間45分もどこで時間を潰そう...』
予定通り、まず駅の本屋に入った。
新刊がたくさん並んでいる。
立ち止まって本を一冊手に取って開いた。
縦に流れる文字を上から下へとなぞる。
同じ行を何度も何度もなぞった。
どんなに目を凝らして読もうと試みても頭の中を支配するのは
企画が西野の案に変更されたことだった。
しかも俺になんの断りもなく...
昨日の飲みの席で西野が俺の企画を散々コケにした挙句、
自分の案にするよう部長に取り入りやがった。
俺は昨日、部長の誘いを断って飲みには行かなかった。
昨日はそんな気分ではなかった。
特に用はなかったが真っ直ぐ家に帰った。
俺も昨日飲みに行ってれば、西野の暴走を止められたんだな。
俺がその場にいたら、そんな勝手なことはできなかったはずだ。
俺がいない時にあの野郎...
俺の案でいくと決まったことなのに...
あいつ一人納得いってなかったんだな...
てか、俺がどれだけ真剣にあの企画を作ってきたと思ってんだよ。
あいつ、いったい何様なんだ。
飲みに行った、行かなかったでこんな結果になっているのか?
しかも部長のやつ、なんで西野に言われたからって
一度決まったことを簡単に変えやがったんだ...
他の奴らもそれで納得しやがって...
俺のことをなんだと思ってんだ。
あの企画は最高だった。あんな企画、俺しか考えつかねぇ。
みんなもそう思っていたはずなのに、なんでなんだ?
西野の何の変わり映えしない普通の企画より、
俺が作ったものの方が絶対客も喜ぶはずだ。
部長も斬新だって言っていたのに...なんでなんだ...
違う本を手に取ってみても同じだった。
頭に浮かんでくるのは西野のほくそ笑む顔だった。
あいつ、どんな言い方して部長に取り入ったんだ…
立ち読みに集中できず、気が紛れる本を物色しながら
店内を歩き回った。
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