注目の話題
彼氏にカマかけたらクロ 別れるべきか
☆ダブル不倫15☆
妻の過去について

膝をかかえて

レス375 HIT数 71079 あ+ あ-

りのあ( ♀ ij0Bh )
09/10/21 01:54(更新日時)

私は廃車寸前…クズで…ゴミで…そんな私は黙って殴られてればよくて…だけど私だって人間なんだよ…

タグ

No.1158361 09/01/21 13:29(スレ作成日時)

新しいレスの受付は終了しました

投稿順
新着順
主のみ
付箋

No.1 09/01/21 13:48
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『なんでオメーはそうなんだよ💢』
いきなり殴られて蹴られて…倒れたらまた起こされて殴られる


恐怖で声も出ない

でも頬に肘打ちをくらった瞬間
『あ… 火花が散ってる…』
これだけは冷静に まるで他人事のように感じた



そしてまた殴られて…

なんでこんな風になったんだろうね…

なにから間違ったんだろうね…

No.2 09/01/21 15:24
りのあ ( ♀ ij0Bh )

はじめて信也に逢った時…

私は高校2年生だった
当時付き合ってた隆とうまくいってない時に友達のユキから紹介されたのが信也だった。


私よりふたつ上の信也は最初はすごい強引な人に見えて怖かった。


でも話してて楽しく、隆とは違う大人な部分が新鮮だった


はじめて逢った日から信也は毎日のように電話をしてきてくれて隆との相談にのってくれた。


逢いたい、と私が言えば逢いにきてくれた。

そして話しを聞いてくれた後にはいつも必ずきまって『真耶は幸せにならなきゃダメだぞ』と笑って言ってくれた

No.3 09/01/21 15:29
りのあ ( ♀ ij0Bh )

そんな信也に私が惹かれていくのに時間はそうかからなかった


隆に別れを告げた日、隆は泣いて今までの事を謝り
『真耶… 新しい彼氏に幸せにしてもらえ』と言ってくれた


信也に隆と別れた事を告げ
『隆がね… 信也に幸せにしてもらえ…って言ってた』


『大切にするよ』

そんな言葉を当たり前のように聞けると思ってた私は

『あ? 隆になんて言われたくねーな』

信也のその言葉に違和感を感じた

No.4 09/01/21 15:39
りのあ ( ♀ ij0Bh )

機嫌が悪かったんだろう…

私の中の違和感を無理矢理かき消した


付き合ってから1ヶ月…
私は高校3年生になり信也は大学2年生になった。


信也の通う大学と私の通う高校は同じ方向だったから、ほぼ毎日信也は私を高校まで送ってくれた


初めて車を持っている人と付き合い、助手席に乗る


隆にはストーカーのように付きまとう元彼女の存在が常にあり、また元彼女は隆の親とも仲が良かったから私は隆の親からは嫌われていた


でも信也の親は私を『真耶ちゃん』と呼び優しくしてくれた


なにもかもが新鮮だった

No.5 09/01/21 15:44
りのあ ( ♀ ij0Bh )

彼女としての自信
信也から口説いてきたという自信


隆といろいろあった分今度は幸せになりたいという気持ちでいっぱいだった


信也も私のことを受け止めて大切にしてくれる

と思いたかったし信じてた

No.6 09/01/21 15:58
りのあ ( ♀ ij0Bh )

付き合って2ヶ月たった頃、信也と信也の友人とカラオケに行くことになり、私も誘われたのでついていく事にした。

店につくと私と同じ歳くらいの女が2人いてどうやらもともとその2人とも約束していたようだった


2人は信也の友人にナンパで知り合ったらしく、2人は信也とは初対面らしかった


2人のうちの1人 香織は信也の事が気にいったらしく、私が彼女として隣りにいるのもかまわずにずっと信也と話してた


信也もまた嬉しそうだった


そんな2人の姿を見ていて私が面白いわけもない。
途中で信也が『あんまり気にするなよな』と言った時にも返事もしたくなく無言でいた。

それが気にいらなかったのか私がトイレに行こうと部屋を出た瞬間

『ちょっと来いよ💢』

初めて見る表情
初めて聞く怒鳴り声
怖くて声も出ず、抵抗もできずに髪をつかまれたまま外にひきずり出された

No.7 09/01/21 16:08
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『なんなんだよ! あの態度は! あ? お前俺の事シカトしたよな? “気にすんな”つってんのにシカトしたよな? 無言のまま座ってお前何しにきたんだよ!』
『だって…』
『だって じゃねーんだよ! お前1人のせいで雰囲気ぶち壊しだろうが! 連れてくるんじゃなかった!』


胸ぐらをつかまれて私を威圧する信也は何も言えなくなるほど怖かった


逆らえば何をされるか分からない

パニックになっていながらもそう思う私がいた。

しばらく戻ってこない私達を心配した信也の友人が探しにきた


『信也どうした? 真耶ちゃん? 大丈夫?』
『あぁ 大丈夫 大丈夫だから。 わりぃすぐ戻るからさ』
『あ… これやるよ。 真耶ちゃん食べなよ。』

友達はそう言ってどこから持ってきたのか信也にソフトクリームを手渡した

No.8 09/01/21 16:18
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『まじですぐ戻るから。 わりぃな 先に部屋に戻っててよ』
『…大丈夫かよ? すぐ戻ってこいよ…』


本当は部屋に戻って欲しくなかった
でも今の私には発言する権利さえないくらいの状況で、私もまた
『…大丈夫だから。先戻ってて… ごめんね… なんかごめんなさい』
としか言えなかった。

友達が部屋に戻ったあと信也は私に
『土下座して俺に謝れ』
と言ってきた。

なんでよ…
私よりあの香織とかいう女の方が常識ないじゃない…
私彼女なんだよ?
まるで香織が彼女みたいじゃん…
それで私が怒るのの何が悪いのよ


心の中は悔しくて悲しくて理不尽でいっぱいだった。

でも土下座しなきゃもっとヒドい事をされる

ゆっくりとアスファルトに膝をつき両手をつき
『ごめんなさい 許してください』
頭をさげた

顔をあげようとした瞬間 …ボタッ
何かが落ちてきた

ソフトクリームだ…

『舐めろよ』

信也が薄笑いを浮かべてる

No.9 09/01/21 16:36
りのあ ( ♀ ij0Bh )

みじめだった
苦しくて辛くて悲しくて…

なんでよ…
なんでこんなヒドい事できるのよ…



でも舐めなきゃ部屋には戻れない
あんな部屋に戻れないのは別にいいけれど、信也の怒りはおさまらない


無言でうつむく私に
『別れようぜ』
信也が言った。


『…はい』
返事をした瞬間脇腹に激痛が走った


『お前俺と別れたいのかよ? あ? 別れたいのか、って聞いてるんだよ!』


何発? 何十発?
わからない
どこをどう蹴られているのかわからない
痛みも感じる暇がないほど身体中蹴られる


『別れたくないです!お願いだからやめてくださいぃぃ!』
泣き叫んだ


どのくらいの時間だったのだろう
何時間のようにも思えた


『…起きろよ』
信也に言われて立ち上がった


『俺はお前とは別れないから』
『部屋 …いけるか?』

信也の顔を見るともうすっかり怒りは失せていたようだった


『…うん』
とだけ返事して泣きじゃくる私に
『悪かったよ。 本当にごめん。泣くなよ。ほら、みんなが心配するから部屋戻ろ?』


部屋に戻るとみんなは勝手に盛り上がっていた


信也も
『わりぃな! 朝まで歌おうぜ!』

上機嫌で朝まで歌って飲んでいた

No.10 09/01/21 17:01
りのあ ( ♀ ij0Bh )

高校の友人のサトミと香織の地元は一緒だった。

カラオケの件をサトミに話し
『地元に玄海香織っていない?』
『あー 学年は違うし隣りの中学だけど名前だけは知ってる。 名字がわりと珍しいから覚えてる程度。 達也が同じ中学で多分仲間だと思うよ? 今日達也と逢うけど… 玄海香織のこと聞いておこうか?』
『うん なんか気になってさ…』


確かにあの後から信也の行動はおかしかった。

私を嫉妬させるためなのかやたらと香織の名前を出してきた。

聞きたくもない香織情報を私に話して私の反応を楽しんでいるようだった。

私が突っ込んで話しを聞けば
『バーカ 嘘だよ』
で済まされる。


香織に本気になられるのは腹立たしいが、それで別れられるならそれもいいのかも、と考えてた。


信也に違う本気になる女ができれば信也の事だから私が
『別れたくない』
と言っても無理矢理別れるだろう… とも思っていた。


あの一件以来何があっても私から別れを口にすることはできないと私は思っていた

No.11 09/01/21 17:13
りのあ ( ♀ ij0Bh )

後日サトミが彼氏から聞いた話しでは

香織はとにかくナンパ好きな女だということ
最近地元を出てこちらで1人暮らしを始め、水商売を始めたということ

だった。

そういえば信也が香織がこっちで水商売を始めたと話してた事があった。

『なんで知ってるの?香織に逢ったの?』

『バーカ 嘘だよ! だまされたな(笑)』


本当のことだった…

ということは間違いなく信也は香織に逢ってるという事だ。


その頃私は学校が終わったら信也の家に行き信也が大学から帰ってくるのを待つのが日課になっていた。

日課というより信也に決められていた。

学校が終わったら寄り道せずに信也の部屋を掃除して待つこと

学校内でも外でも信也以外の男と話すのはダメ


いつの間にか決められていた

No.12 09/01/21 17:24
りのあ ( ♀ ij0Bh )

その話しを聞いた日も当然私は信也の部屋で信也の帰りを待った。

…どう切りだすか

下手したらまた殴られて蹴られる…


部屋を掃除しながらそんな事を考えていると電話の下からアドレス帳が出てきた。

いつも財布の中に入っているのに電話の下にあるという事はどこかにかけたんだろう


『か行』を見てみた

…あった
『玄海』とだけ書かれている
実家の電話番号
…そして1人暮らしの家の番号


本気なの?
本気ならそれでいい。
今気持ちがモヤモヤしてるのは嫉妬とかじゃなく相手が香織なのだけが嫌なだけ。

本当に本気なの…?


あんなに信也から本気の別れを切り出してくれる事を望んでいたのに、いざ事実を知ると複雑な気持ちになってしまう…
この涙はなんの涙?




部屋に灯りをつけるころ信也が帰ってきた

No.13 09/01/21 17:35
りのあ ( ♀ ij0Bh )

信也は機嫌がいい

『パチンコでも勝った?』
『おぅ! ひさびさの2万発オーバー! 真耶が好きな匂いかな、と思ってコレとってきた!』

信也が差し出したのは【カボティーヌ】という蓋の部分がクローバーのようになっているかわいい香水だった。

爽やかないい香りだった。
嬉しかった。
さっきまで考えていた別れとか嫉妬とか…かき消してしまうほど嬉しかった。

『…ありがとう 嬉しいよ』
『いつもごめんな。なんか最近の真耶疲れてる感じがして。 俺のせいだよな。 わかってるんだ、俺が悪いって。でもつい…頭に血がのぼるとさ… でも俺には真耶が必要なんだよ。 やっと見つけた女なんだよ』

信也が私を抱き締める

ほんの2~3分前までは嬉しさでいっぱいだったのに、『真耶が必要だ』と言われたことでまた不安、恐怖… 心の中が黒い塊に押しつぶされそうになった


それでも私は私を抱き締める信也の背中に腕をまわすしかなかった

No.14 09/01/21 17:53
りのあ ( ♀ ij0Bh )

結局香織の事を切り出せないまま2週間近くがすぎた頃信也がまた香織情報をだしてきた

『香織の1人暮らししてるマンションすげーキレイなんだぜ』

今までの私なら
『なんでそんな事知ってるの? 逢ったの?』
だったが今日は違った

『あぁ…こっちで1人暮らしして水商売してるらしいね。』
『…え? なんでお前知ってるの?』
『サトミから聞いた。っていうより正確にはサトミの彼氏と香織が仲間で、サトミの彼氏からサトミ経由で聞いたんだけどね。』
『… マジで』


信也の焦ってる顔はすぐわかる。
口をすぼませてみたり下唇を噛んでみたり 上唇を舐めてみたり…
目が一瞬丸くなったり…

『でさ、信也この前香織の話ししてきたよね? 私が突っ込んだら“だまされたー”って笑ってたけど、 あれって本当は知ってたんだよね?』

しばらくの沈黙の後
『…香織とはマジで遊びだったからさ 香織には確かに“付き合って”って言われたけど俺が本気なのは真耶だけだから』

珍しく神妙な面持で申し訳なさそうに謝る信也に
『浮気する人は許せないから別れよう』
と言ったら間違いなく
『俺がこんなに謝ってんのにお前なに言ってんだよ!』
と殴られるのは目に見えていた

No.15 09/01/21 18:08
りのあ ( ♀ ij0Bh )

本心から許すとか許さないとかではなく
【信也がここまで謝ってるんだから、“わかったよ。もうしないでね”と言うしかない状況】になっていた


これ以上責めても殴られるだろう。
別れを告げれば、さらにひどい暴力をうけるだろう。


自分の身を守るには許すしかなかった。


『…わかったよ。もう香織とは関わらないで』
『約束するよ。 俺が好きなのは真耶だからきちんと言うよ』


私が万が一浮気なんかすれば私も相手も半殺しにされるだろう

でも信也は浮気しても謝りさえすれば許される。

…暴力ってすごいね
なんでもアリなんだね…

No.16 09/01/21 22:42
りのあ ( ♀ ij0Bh )

香織との件が終わった頃から信也は私に執拗に隆との事を聞いてくるようになった


テレビで隆という名前がでれば
『隆だって』

隆の名字の中村という名がでても
『中村だって』


一体なんなのか…
何が言いたいのか…


『隆とはどんなSEXしたんだ』
『隆の家に何回泊まったんだ』


全て質問系で聞かれ
『言いたくない』
『思いだしたくない』と答えても
『は? 答えろよ! 覚えてるんだろ!』
と脅してくる…


その日もいつものように
『隆の事好きだったんだよなぁ? 俺に相談してたもんなぁ。隆の事好きだったか?』
と聞かれ

またか…
何が聞きたいの?
もううんざりしていた頃だったのもあって

『好きだったね』


その瞬間 頬に激痛が走り横に倒れながら火花が散っていくのが見えた

火花ってこんな感じなんだ…

倒れた私を起こしながら信也は私を殴ってくる。

私はうずくまりながら
『お願いやめて! やめてください!』
と泣きながら頼んだが
『お前なにしゃあしゃあと“好きだったね”なんて語ってるんだよ!』

あのカラオケボックスの時よりひどかった


…もう別れたい
…もう限界だ
…どうして? どうして?


身体の痛みより心が裂けてしまいそうだった

No.17 09/01/21 22:54
りのあ ( ♀ ij0Bh )

それでも

『別れたい』
なんて口に出したらさらに暴力はひどくなる。

泣いて泣いて叫んで泣いて…
どのくらい経ったのかわからないくらいの頃やっと信也は落ち着いてきたみたいだった


その時近所に住む信也の兄から
『真耶ちゃん連れて遊びにこいよ』
と電話が入った


『兄貴のとこ行くぞ。その前に…顔冷やした方がいいな』


鏡で自分の顔を見てみる


右目の下が直径5㌢ほど赤くかなり腫れている
泣いたせいで目はパンパンに腫れている


誰がどう見てもあきらかに何かあった顔だ…

信也の兄にどう説明しようか…
いや…私の両親にもどう説明しようか…


どちらにも本当の事は言えない

信也の兄に本当の事を話せば兄は絶対に信也を怒鳴りつけるだろう

そして怒鳴られた信也はまた私に八当たりをするに違いない…


親には…
娘がこんな惨めな思いをしている事を知ったら悲しむに違いない

今までさんざん迷惑かけてきたのに、これ以上悲しませたくない…

私が考えた答えは
『信也の部屋を掃除していたら棚の上から辞書が落ちてきて目の下の頬骨の部分に直撃した』
だった

No.18 09/01/21 23:05
りのあ ( ♀ ij0Bh )

この理由ならなんとかごまかせる気がした


兄の家に行ったら案の定
『真耶ちゃん!? どうした? …っていうかヒドいじゃん! すぐ冷やさないと!』
お嫁さんのリカちゃんが慌てて冷やしたタオルを持ってきてくれた

『…ありがとう …すみません お借りします』

泣きたかった
今ここでさっきあった事の全てを話してしまいたい
…でも怖い

涙がでてくるのを必死でタオルで冷やしているように見せて 涙を隠した

『さっき… 信也の部屋の掃除してたら棚から本が落ちてきたのが当たっちゃって』
答えるのが精一杯だった…


私の言葉を聞いて一番驚いていたのは信也だった

『…そう…そう そうなんだよ! ホント真耶ってバカなんだよ』

No.19 09/01/22 07:42
りのあ ( ♀ ij0Bh )

帰る前に親にこの顔を見ても驚いたり詮索されないように
『あのね… 顔に棚から落ちてきた本がぶつかっちゃって… 信也の家で冷やしてから帰るからちょっと遅くなるね』


電話で前置きしておいたおかげで余計な事は聞かれなかった


さすがに顔を見て
『ちょ… ちょっとひどいじゃない!』
とは言われたがそれだけで済んだ


部屋に戻る

惨めで辛くて涙がポロポロこぼれてくる


…別れたい
…でも別れることもできない
…どうしたらいいのかもわからない




私の顔は殴られた部分が青くなり…黄色くなっていき…それから治るまで10日ほどかかった

No.20 09/01/22 14:07
りのあ ( ♀ ij0Bh )

そろそろ本格的に進路を決めなければいけない季節がやってきた


もともと子供が好きだった私は幼児教育科のある短大へ進みたいと思っていた


信也もそれは応援していてくれたはずだった

第1志望の短大の倍率は3.4倍


なんとか合格したくて勉強したかったが仮に受験勉強のためであっても信也と逢わない日を作ることは許してもらえなかった


もともと門限は10時で外面のいい信也は私の親の手前があったから10時には帰してくれていた


10時から勉強…

正直全然頭に入っていなかったと思う

No.21 09/01/22 14:13
りのあ ( ♀ ij0Bh )

もちろんそんなくらいの勉強で合格するわけもなく第1志望は不合格だった


不合格と信也に伝えた時はさすがに励ましてくれたのだが、第2志望の短大を受けると伝えると

『真耶 働けよ』
『正直さ 真耶が働けば俺的にもラクだしさ』


『…でも』

逆らえなかった
暴力を受け続けていくうちに信也の顔色だけを伺ってきた私には自分の夢すら押し通す勇気も気力もなかった

No.22 09/01/22 18:58
りのあ ( ♀ ij0Bh )

進学をあきらめた私に担任が 病院で働きながら准看護学校に2年間通い准看護師の資格をとる という方法があると教えてくれた。

准看護師を育成するためにいろんな病院、医院からも求人がきていた

その中のひとつ
鈴原医院
という小児科もあるところを勧めてきた

『杉本は子供が好きだろ? 幼稚園教諭を目指していたくらいだから小児科ならいいんじゃないか?』


確かに小児科なら子供もたくさんくる


親は喜んでいた


後は信也だ。

No.23 09/01/22 19:42
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『あのね… 小児科に勤務しながら准看護師になるための学校に通う っていう話しを担任からもらったんだけど… もちろんお給料も戴きながらなんだけど。 信也はどう思う…?』

おそるおそる聞いてみた

『看護師? いいじゃん! 小児科なんだろ? じゃあ他の男とかとも接することないし。 …いいよ! いいよ!』

信也は喜んでいた


私はホッとした
そして次の日担任に面接をお願いしたい事を告げた



…年があけて2月

面接で採用も決まり、准看護学校の試験も合格し私の進路は決まった。

…3月

卒業式も無事終えた

でも信也は大学での単位を落とし進級できなかったために自主退学した

そして4月になりお互いが働きはじめた

No.24 09/01/22 20:12
りのあ ( ♀ ij0Bh )

私の通う准看護学校は三部制になっていた

月曜日 午前仕事 午後学校
火曜日 午前学校 午後仕事
水・木曜日 一日仕事 夜学校
金曜日 午前仕事 午後学校

という感じだったので時間的にも体力的にもなかなかハードだった

信也もまた塗装工として働き始めていた


私達は相変わらず毎日逢っていた
仕事が終わり信也の家で夕ご飯を食べ10時に家に帰る


そんな毎日だった

束縛はますますひどくなっていく一方で

●女友達だけでも飲みに行くのは禁止
●仕事の飲み会は一次会のみ 帰りは信也が必ず迎えにくる
●仕事以外の話しを男と話すのはダメ


言うことさえ聞いていればひどく殴られたり蹴られたりする事はなかった


もちろんケンカの度に1~2発殴られる事はあったが
『仕事があるから顔だけはやめてください』 と頼みこんでからは身体を重点に殴られたり蹴られたりするようになった

No.25 09/01/22 21:54
りのあ ( ♀ ij0Bh )

夏にさしかかる頃
母が珍しく
『お父さんのボーナスが入ったから真耶に何か買ってあげるよ』
と言ってきたので以前から欲しかった教科書やノートが余裕で入るたっぷりしたトート型のカバンを買ってもらうことにした。


カバンを買ってもらった翌日、さっそく私はそのカバンを持って仕事と学校に行き 帰りにいつものように信也の家で信也の帰りを待った。


信也が帰ってきた
今日は何かあったのか不機嫌そうだ


『お前そのカバンどうしたんだよ…』
信也は目ざとくカバンを見つけて不機嫌そうに聞いてきた

『あ! これ? これね、お母さんが買ってくれたんだ~♪』

嬉しそうに話す私に

『あ? 男だろ! 男から買ってもらったんだろ! 正直に言えよ! 男から買ってもらったんだろ!』

予想外の言葉に唖然とした


『…なに言ってるの? ちがう…! ちがうよ! 本当にお母さんから…』

最後まで話し終わらないうちに、みぞおちに蹴りが入った
苦しくて痛くて、とても立っていられずにしゃがみこむ…

声がでない

いや… 声を出す力がでない

まるで腹部から上の身体の全ての機能が停止してしまったかのように声はおろか息すら吸えなくなっていた

No.26 09/01/23 08:08
りのあ ( ♀ ij0Bh )

うずくまる私の背中を何度も蹴る

背中 脇腹
怒鳴りながら何度も何度も蹴り続ける

『男だって言えよ! 母ちゃんが買ってくれたとでも言えば俺を騙せるとでも思ったのかよ!』
『股開いて男にねだったんだろ!』
『イラつくんだよ!』


…なんなのよ
…バカなんじゃないの?
…死ねよ


『だったら今電話して親に確認してみろよ!!!』
こんなに大きな声が出るなんて自分でも驚いた

『あ? そんな事できるわけねーだろ! なんなんだよ その口の聞き方はよ! お前俺をバカにしてんだろ?』
容赦なく身体を蹴ってくる

『バカにしてんのは信也だろ! 聞く勇気もないくせに勝手にキレてんじゃねーよ!』

『なんだと? お前俺に殺されてーのかよ?』

髪をつかまれ顔をあげられながら信也の顔が近付いてくる…


また顔を殴られる…
でも…
もうどうでもいいや…

『ちょっと! 信也? なにやってるの!』
部屋から聞こえる大きな声に驚いて信也のお母さんが入ってきた


『真耶ちゃん! こっちにきなさい!』
肩を抱いてお母さんの部屋へと連れて行ってくれた

No.27 09/01/23 08:24
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『 …真耶ちゃん 大丈夫? ごめんね… ごめんね… 信也がごめんね…』
お母さんが泣きながら謝ってきた


『お母さん… 泣かないで? お母さん悪くないから…』
泣きじゃくる私をそっと抱き締めてくれた


隣りの部屋では信也のお父さんが信也を怒鳴りつけていた



その怒鳴り声を隣りの部屋で聞きながら、私は買ってもらったばかりのトートは形の崩れを泣きながら直した


しばらくすると
『真耶… 送ってくよ』
信也がお母さんと私のいる部屋に入ってきた

『…真耶ちゃん? 私が送っていくよ?』
お母さんが心配そうに言う

『…お母さんありがとう。 でも… 大丈夫』
無言で信也の車に乗り込んだ

しばらくのお互いの無言の後

『真耶… ごめんな。 本当にごめん』
信也が謝ってきた

『また明日な…』
『愛してるから…』


家につくまで私は無言のままだった


『…おやすみ』

一言だけ挨拶をして車を降りた


部屋に戻ると脱力感しかなかった

…また明日って言ってたな
…行きたくないな
…でも 行かないとまた…

こんな事を考えてしまう自分もまたすごく嫌だった

No.28 09/01/23 08:34
りのあ ( ♀ ij0Bh )

次の日 夜の学校が終わり自宅に帰ろうか信也の家に行くべきか…と悩んでいると私の目の前に車が停まった


信也の車だ

『真耶! 乗れよ!』

昨日の罪滅ぼしなのか信也は上機嫌だった

『腹減ったろ? なんか食いにいこうぜ!』

胸が苦しくなった…

あぁ…
私は一生こうやって暴力と機嫌とりに付き合いながら生きていく運命なのか…
私の気持ちなんてこの人には関係ないんだ…

あきらめて車に乗ると
『昨日は本当にごめんな。 仕事でいろいろとイラつく事があってさ…。 真耶の母ちゃんの買ってくれたカバンもボコボコにしちゃって… ごめんな。』

…仕事でイラついていたから私に八当たりしたの?
…私は一体なんなの?

昨日うけた蹴りで太腿や脇腹はアザだらけだった
打ち身になっていたので身体も痛んだ

『…あのさ もうこれ以上蹴られたり殴られたりするのは嫌なんだ。 もし今後1度でも蹴られたり殴られたりするようなら… 別れたい…』

No.29 09/01/23 09:29
りのあ ( ♀ ij0Bh )

信也は無言だった
無言というより驚いて言葉がでなかったようだった


でも信也の驚きよりそんな事を言ってしまった私自身の方がもっと驚いていた


…また殴られる


覚悟をして下をむく私にしばらくの沈黙の後信也が口をひらいた


『…真耶 本当にごめん お前がそう言ってしまう気持ちわかるよ …でも俺にはお前が必要なんだよ 何をしてもお前は俺についてきてくれてた。 だからお前とは別れたくない。 もう絶対に手をだしたりしない。 誓うよ。 だから別れるとか言うなよ…』


なにも言えなくなった…

No.30 09/01/23 09:47
りのあ ( ♀ ij0Bh )

今はもう好きとかいう恋愛感情はほとんどない
でも… 情はある
毎日夕ご飯を食べさせてくれて、私を娘のようにかわいがってくれる信也のお母さんには恩がある


いろんな思いがグルグル頭を駆け巡った


『わかった… もう絶対に手を出さないって約束してくれるなら…』

この答えをだした自分が心底嫌になった


殴られても蹴られても強引に別れてくれば良かったのに


なのに身体にうける痛みの恐怖を優先してる私…

No.31 09/01/23 11:32
瑠璃 ( lrAHh )

りのあさんはじめまして~
一気に読んじゃいました(>o<")
ひどい彼氏ですね。
今りのあさんが幸せな事を願います☆

頑張ってくださいね。

No.32 09/01/23 11:42
りのあ ( ♀ ij0Bh )

>> 31 瑠璃さんはじめまして😊

読んでくださってありがとうございます✨


これからも頑張って書き続けますね✨

No.33 09/01/23 11:59
りのあ ( ♀ ij0Bh )

その一件以来信也は本当に手をだしたりしなくなっていた


物にあたることはあっても私には手を出さなくなった


ただ…
手や足のかわりに言葉の暴力が始まった


もともと自分以外の人間を認める事ができない人だった
いわゆる【俺様】な男だった


俺が一番正しい
俺は何でも知ってる


私だけでなく友人に対してもそうだった

『ヒロシは知ったかぶりだ。俺知ったかぶりする人間嫌いなんだよね』
『ユウジは仕事もロクにできないくせに口だけは一人前だ。口だけ男なんだよ』


本人に直接言えない分そんな話しをいつも私にしてきた


私はそんな話しを黙って聞いていた。
少しでも
『そんなことないんじゃない?』
とでも言えば間違いなく
『お前 あいつの事好きなんだろ!』
と始まるのが目に見えていたからだ


俺様の信也は人をけなす天才だった

No.34 09/01/23 12:38
りのあ ( ♀ ij0Bh )

怒らせないように顔色を伺いながら信也と過ごして2年が経った

私は進級して2年生になった


2年生になると市内の病院でのグループ実習が始まった


朝9時から昼3時まで実習

慣れない実習が終わると精神的にも肉体的にもぐったりだ


いつものように実習先から信也の家に向かう

『まだ信也が帰ってくるまで時間もあるし…とりあえず休もう…』
疲れもあって日課の部屋掃除もしないまま横になることが多かった

ついウトウトして眠ってしまった日も度々あった

そんな時に限って信也の帰りが早い


自分が汚したにも関わらず
『また掃除してないのかよ… はぁ… お前ってホントなんにもできないんだな』
『部屋掃除も満足にできないなんて女じゃないよな』
『カス人間はたかが掃除もできないんだな』

ひたすら嫌味と暴言が始まる


…私の部屋じゃないんだけど
…私はあんたの家政婦じゃない


口にできたらどんなにいいだろう…

でも言えなかった

すっかり手はでなくなったものの、またいつ爆発するかわからなかったから黙って部屋を片付けるしかなかった

No.35 09/01/23 12:58
りのあ ( ♀ ij0Bh )

夏がすぎ秋にさしかかる頃から
『真耶に子供ができるといいな』
とやたら信也が口にするようになった


結婚…?
子供…?
信也の真意はわからなかったし、まだ学生で結婚なんて考えられなかった私には聞くのも怖かった


信也とのSEXは信也の欲求のまま気のむくままに実に簡単なSEXだった

拒めば
『浮気してるんだろ』
『浮気なんかしたらお前も相手も殺す』
と執拗に責めてくるから拒むこともまた疲れる…


避妊も
『ゴムすると俺が気持ちよくないから』
と自ら避妊することはなかった。

近くの産婦人科からピルを処方してもらおうと思ってると相談すれば
『男の医者のいる病院はだめだ。』
『お前、そんなに股広げたいのかよ』
と責めてくる


当時まだ車を持っていなくて、また仕事と学校と実習で忙しかった私には女医のいる遠くの婦人科まではとても行けなかった。


それに
『子供が欲しい』
なんていつもの気まぐれだろう、と思っていた

No.36 09/01/23 13:10
りのあ ( ♀ ij0Bh )

冬になり雪が降り始めた頃から信也の長期出張が始まった


もともと雪国のこちらの地方よりもさらに山に近い豪雪地方での仕事だったため日帰りでの仕事は無理と会社が判断したために週末のみこちらに帰ってくるようになった


資格試験の近い私にとっては信也の出張は都合が良かった。


週末だけ我慢すれば平日は勉強もできる。


友達と遊ぶこともできる

当時まだ携帯電話なんてごく一部の人しか持っていない時代だった。

主流はポケベルだったので信也からは毎日公衆電話から自宅に電話はきていたが、その電話にさえでれば後は自由だった。


嬉しかった!
本当に嬉しかった。
すごい解放感だった

友達もまた
『真耶が遊べるなんて珍しいね~』
と喜んで誘ってくれた


…充実した平日を送っていた分だけ週末がくるのが辛かった

No.37 09/01/23 13:21
りのあ ( ♀ ij0Bh )

週末は重い足取りで信也の部屋へ向かう

いつものように掃除機をかけて雑巾をかけて帰りを待つ


…信也が帰ってきた

『…おかえり。仕事大変だったね』
『マジ疲れたよ。 ユウキがさ~ ……』
また仕事の同僚の文句が始まる。
よくここまで他人をバカにする言葉がでてくるものだと呆れながら黙って話しを聞く。


『そういえば現場の近くのコンビニにすごいかわいい女の子いてさ~』
『毎日そこのコンビニ使うからすっかり仲良くなっちゃったよ』
『名前は美姫っていうんだって』


聞けばまだ高校1年生のバイトの女の子だった。

『へぇ… でも高校生に手をだすのは犯罪じゃない?』
今さら嫉妬心なんてなかった。


正直どうでもよかった

次の週末も またその次の週末も信也はその女の子の話しを私にしてきた。

そしてその話しからは確実に2人の仲が近くなっている事がよくわかった。

No.38 09/01/23 13:33
りのあ ( ♀ ij0Bh )

その頃私はなんだか食欲がなかった。

ストレスなのか胃がキリキリ痛んだ
吐きはしないまでも吐き気はあった


…受験近いからかな
…信也のストレスかな

平日はなるべく早く休むようにしていたが日に日に具合は悪くなっていく一方だった


胃の痛みはおさまったものの、吐き気は治まるどころか何を食べても吐くようになった

トイレで吐く
水を流す
流した水の匂いでまた気持ち悪くなり吐く


とにかく今まで経験した事のないくらいの気持ち悪さだった



吐いた後ふと頭に…妊娠…の二文字が浮かんだ

もともとすごい生理不順だったため生理が遅れるのはいつもの事だと気にもしなかったが、確かに遅れてる。


手帳を見ると前回の生理から3週間は遅れてる…


確かに思いあたる事はあった

週末しか帰ってこない信也は必ず身体を求めてきていた。
避妊はしていない。
一度だけ
『わりぃ 中で出しちゃった』
『まぁでも子供できたらそれはそれでいいよな』
と言ってきた事もあった…


とりあえず信也が週末帰ってくるのを待って話しをしよう…

不安で押し潰されそうになりながら週末を待った…

No.39 09/01/23 13:53
りのあ ( ♀ ij0Bh )

信也が帰ってきたその日、私はとにかく吐き気と身体のだるさで横になっていた

私が横になっている姿を見て何も知らない信也は

『一週間ぶりに帰ってきて“おかえり~♪”と喜ぶわけでもなくコレですか…』
と吐き捨てるように言った

そして
『美姫は家庭的だし親の借金返すためにバイトして、まだ小さい兄弟の面倒みて健気だよなぁ』
『それに比べて真耶は… グウタラ横になっていい身分だよなぁ?』
『帰ってくるんじゃなかったぜ』


…言葉もなかった
…帰りたい
…でも妊娠してるかもしれないこと言わなきゃ


『…ごめんね。 最近…具合悪くて…』
声をだした瞬間自分でもわからないけど涙がボロボロでてとまらなかった


『…真耶? どうした? 何があった?』
さすがに信也も私の【何か】を察知したようだった。


『…気持ちわるくて …生理も遅れてて… 妊娠したかもしれない…』
『えっ? 嘘だろ? 病院行ったのかよ?』
『…まだ。 でも…昨日検査薬した… 陽性だったから… 多分妊娠してる…と思う』


信也は無言だった。
私もまた涙でそれ以上言葉がでてこなかった

No.40 09/01/23 14:03
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『マジかよ… まいったな… あ、でもまだ病院に行ってないって事は確定じゃないんだろ? えーっと… 病院… 真耶が行ける範囲で女医のいる病院 病院…』
信也はすぐにかたっぱしからタウンページを調べ始めた。


…こんな時でも女医なんだ

情けなかった
さっきの言葉で妊娠を喜んでいないのはよくわかった
間違いなく中絶を勧めてくるだろう


『真耶! 緑町わかるだろ? そこの月と木曜日の当番が女医だからそこ行けよ。』


『…で、妊娠だったらどうするの?』
私の質問に少し言いにくそうに

『…まず月曜日の診察次第だろ? 月曜日の夜電話するからさ。結果でてから考えようぜ』


やっぱり中絶なんだ…

赤ちゃん…
こんなパパでごめんね…

No.41 09/01/23 14:27
りのあ ( ♀ ij0Bh )

月曜日…

学校をさぼって緑町にある緑町病院の婦人科に受診した


受付で妊娠している可能性が高いことを告げると尿を採るように言われた


『杉本さん ①番診察室にどうぞ』


『…杉本さんですね。妊娠反応ですが陽性でしたので妊娠しているようですね。 赤ちゃんの状態を確かめたいので内診室で内診させてください。』
『はい…』


やっぱり妊娠だった…

内診室に入り腟内にエコーが入る
目の前にあるモニターに白黒の私の子宮の中が映しだされる


『袋 見えますか? この小さい丸ね。 これが赤ちゃんの入ってる胎嚢ですね。』

小さな小さな胎嚢がハッキリ見える
この中に私の赤ちゃんが入ってるんだ…


診察室にまた戻りエコーの写真をもらった

『これがさっきも説明した胎嚢ね。大きさからするとまだ5週目に入った頃なんだけど、最終月経からするとちょっと小さいのよね』
『あの… もともと生理不順なので…』

『そう。 じゃあまた2週間後にきてもらえるかしら?』



病院を出た私はもらったエコーを何度も何度も眺めた

No.42 09/01/23 14:52
りのあ ( ♀ ij0Bh )

病院の前のバス停で学校に戻るためのバスを待っていると
『あれ? 杉本さん?』
声をかけられ振り向くと勤務先の医院に営業としてきている板倉さんがいた。

彼は製薬会社と医院を結ぶ卸会社に勤務していたため、毎日違う製薬会社の営業マンと一緒に午前と午後に一度ずつ院長に顔をだしていた。

あまり話した事はなかったが私より4つ年上の板倉さんは優しそうな雰囲気をもつ人だった。


『…あ! こんにちは… あれ? あぁ緑町病院も担当なんですね!』
こんなところであったのでかなり動揺した。
学校をさぼってる事が勤務先の先輩看護師にバレるのは怖かった。

『いや担当じゃないんだけど、薬の至急の配達が入ってね。 杉本さん今の時間学校じゃないの? それに…どこか具合悪いの?』
『…あ ちょっと生理不順で… これから学校にすぐ戻るんです。 あの…立花婦長とかには内緒にしておいてもらえませんか? 学校さぼってるってバレたら怖いので…』
『あー 言わない 言わないよ(笑) 立花婦長怖いもんね(笑) わかる わかるよー。 だって俺なんて院長より立花婦長の方が怖いもん(笑) …これから学校行くなら送ってくよ? 俺も学校の近くの医師会に用があるから』

No.43 09/01/23 15:11
りのあ ( ♀ ij0Bh )

少しためらったが雪も散らついていて寒く、つわりもきつかったので好意に甘えることにした。

『杉本さんとこんな風に話せるなんて思ってもみなかったな~』
『杉本さんって長く付き合ってる彼氏がいるんだって? 結婚秒読みじゃないかって立花婦長から聞いたよ~』
板倉さんは気をつかってたくさん話しかけてくれるが私の頭の中にはさっき見たお腹の赤ちゃんの事でいっぱいだった。


…産みたい
…でも信也は間違いなく反対するだろう
…1人で産み育てていける?
…父親のいない子供を出産する事を親は間違いなく反対するだろう
…生活はしていける?





『はい お姫様到着ですよ。』
学校にはあっという間についた。
板倉さんへのお礼もそこそこに授業に急いだ

No.44 09/01/23 15:19
りのあ ( ♀ ij0Bh )

夜 信也から電話がきた

『…やっぱり妊娠してたよ。 5週目だって。また再来週診察なんだけどね…』
『… 』
受話器から溜め息が聞こえる。


『あのさ… わかってると思うけど、今は無理なんだよ。 俺、貯金なんてなんにもないしさ。 生活していけないだろ?』
『貯金なら私…あるよ? 100万くらいだけど… あるよ?』
『いや… 貯金だけの話しじゃなくてさ。実際の話し… 俺 真耶とお腹のガキを幸せにしてやれないよ』



なにを言っても無駄のように感じた

No.45 09/01/23 15:50
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『とりあえず週末ゆっくり話し合おう』

となかば強引に電話を切られた


貯金はある
高校を卒業し、仕事を始めたその月から毎月5万ずつ貯めてきた。 ボーナスの時は10万ずつ。
通帳には約150万ある

3月に准看護師の資格試験に合格さえすれば月給も今より10万近くは増える。

多分出産予定日は9月初旬だろう。
私1人でも、父親がいなくてもなんとか育てていける!
大丈夫… 
大丈夫…
絶対になんとかなる…



…なにより授かったこの命を自らの選択で失うわけにはいかない。


日に日に赤ちゃんに対するこの気持ちは強くなっていった。


そして週末…


何があっても私1人でも産むことだけは伝えたかった

No.46 09/01/23 16:06
りのあ ( ♀ ij0Bh )

信也が帰ってきた


『…具合は? 大丈夫か?』
『つわりはあるけど… なんとか大丈夫』


信也はゆっくり切り出してきた
『決心はついたか?』

信也のいう【決心】とは中絶のことだというのはもうわかっていた。

私は
『うん… 産むよ』
とだけ答えた。


信也が一瞬驚いたように目を見開き、深く息を吸った
『はぁ? お前なに言ってんの? 産む? だから無理だって俺言ったよな! それを産むなんてお前頭おかしいんじゃないの?』
『だから! 私1人で産むって言ってるの!』
私も声を荒げた

『誰も信也になんて期待してないわよ! 父親いなくたって私がこの子を守るわよ!』


シュンッ

私の頭のすぐ横を何かがかすめた
テレビのリモコンだ…

『お前さ ふざけた事言ってんじゃねーぞ! 1人で産む? 迷惑なんだよ! 俺にとっては迷惑なんだよ! わかる? 迷惑なんだよ! 』
『…迷惑って…』
それ以上言葉がでてこなかった


黙る私に
『だからさ…俺はお前とお前のガキのために苦労なんてしたくねーんだよ。…そこまで言わなきゃわかんねーのかよ』
ボソッと信也が吐き捨てた

No.47 09/01/23 16:48
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『信也と別れて1人で産むの! 認知なんていらない! 信也に迷惑なんてかけないわよ! それならいいんでしょ!』
『は? 何言ってんの? お前の親どーすんだよ。 “父親はナンパされた知らない男の子供です~”とでも言うのかよ? それとも“知らない男達にレイプされた時の子供”とでも言うつもりか? あ? まさか俺が父親なんて言うつもりじゃねーだろうな?』


… 何も言い返せなかった
…信也の言うとおりだ。 父親の事は間違いなく聞かれる。


…でも産みたい
…赤ちゃんを守りたい


『とにかく別れるにしても堕ろした事を確認してからだな。』


もう…ほんの少しでも信也と同じ空気を吸いたくなかった


『帰る…』
『はぁ? まだ6時だぜ? 10時までいろよ』
『帰る… 帰りたい』
『あっそ(笑) じゃあ勝手にどうぞ? 送っていかねーからな。』



黙って身仕度する私に信也はイラついたように一気にビールを飲み干し
『勝手にしろよ! クソッおもしろくねーな!』
とビールの缶を投げ付けてきた。

No.48 09/01/23 17:16
りのあ ( ♀ ij0Bh )

外に出る…
気がつけば雪が降っていた
空を見上げると黒くて暗い大きな大きな夜空から無数の雪が舞いながら落ちてくる


吸い込まれそうだった

溜め息にもならないほどの溜め息しかでない…

涙もでない
表現のしようもない感情に押し潰されそうだった


暗くて大きい、終わりの見えない夜空は私のこれからの未来とよく似ているな、と思った。


どのくらいの時間空を見上げてただろう…


『赤ちゃん帰ろうか…』
駅にむかって歩きながらコートの中に手をいれると何かが触れた


『…?』
そっと出してみる

…それは板倉さんの名刺だった

この前学校まで送ってもらった時にもらった名刺だ…
仕事用の携帯番号が書かれていた…



誰かに気持ちを聞いて欲しい…
慰めてもらいたいわけじゃない…
ただ聞いて欲しい…


板倉さんなら聞いてくれるかな…


でも突然電話したら迷惑だろう…


私もこれから母親になるのにこんな事で異性に相談するなんて母親として軽率な行動だろう…


でも…

でも…


自分の感情と戦っているうちに気がつけば駅まできていた

No.49 09/01/23 17:29
りのあ ( ♀ ij0Bh )

駅の中にある小さな雑貨屋に入った


一角にあるベビー用のコーナーに自然と足がむかう


…少し気が早すぎるかな

つい手にとったものはオーガニックコットンのようなものでできた生成のスタイだった。
スタイの右下には【M】という字が筆記体調で赤い糸で刺繍されている。


…かわいい

なんだか心の中が暖かくなった


…あなたに贈る最初のプレゼントだね


これからの決意もこめてそれを買った

No.50 09/01/23 18:32
りのあ ( ♀ ij0Bh )

次の週…

出張中の信也から電話はこなかった


電話がこないことは精神的にもラクだった

電話がくればまた言い合いになるから、むしろもう放っておいて欲しかった


その週の金曜日

職場で少し遅めの新年会があった

院長に看護師全員、各製薬会社の営業10人、卸会社からは3人

その中には当然板倉さんもいた

『…この前はありがとうございました。』
『いやいや 短い時間だけど杉本さんと話せて嬉しかったですよ~。 その後体調…どうですか? あの時すごい杉本さん顔色悪かったから気になってて』
『あ… はい… 大丈夫です』
『なら良かった!』
少し話すと酔っている立花婦長が
『板倉クン! ほら! こっちに来て! 若い子とばっかりしゃべってないでこっちにも来なさいよ!』


板倉さんは
『やっぱり怖いね』
と言いたそうな顔で笑って立花婦長のもとへ行った。


初めて最後まで飲み会に参加できた。

楽しかった。
羽を伸ばせた感じがした。


帰りのタクシーは家の方向の同じもの同士が乗り合わせた。

投稿順
新着順
主のみ
付箋

新しいレスの受付は終了しました

小説・エッセイ掲示板のスレ一覧

ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少
新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧