Missing
大学生五人が廃墟へ行く事になった。老婆の幽霊を撮影するために…
武志
晃
政人
麻子
香奈
この五人に一体何が起こるのか…。
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「チン…」
煙草を口にくわえ、ジッポライターで火を点けようとしながら、晃が言った「ほらな!言った通りだろ」優越感に浸りながら皆を見渡す。
「薄気味悪いなこの建物」政人は眉をひそめて呟いた。
五人は老婆の幽霊が出ると噂される建物の前に居た。入口は何重にも板が打ち付けられ、窓は鉄格子、壁にはツタが這っていて、廻りは草が覆い茂っていた。
「やっぱり止めようよ」麻子は香奈にしがみつきながら、怯えた表情を浮かべている。「大丈夫よお化けなんて居るわけないわ」香奈は強気な発言をしながらも不安げな表情だ。「武志!ビデオカメラ回して!」晃はおどけたように武志の前に立つ。「ん?あぁ」胸騒ぎを覚えた武志だったが、ここまで来て引き返す提案は出来ず、晃の要求に従った。
「さぁ!遂に噂の老婆が出現する幽霊病院に辿りつきました!」
晃はアナウンサーにでもなったかのような口調でカメラに向かって叫ぶ。政人は建物をライトで照らしている。「もうすぐ日が沈んじまうな…」
この建物への道路は無く、森に囲まれている。車を停めて森に入り、1時間ほど獣道を歩き辿り着いた場所だった。
「隔離精神病棟だったって本当かなぁ」政人はビデオカメラで撮影している武志に語りかけた。
「らしいね…噂じゃ患者だった老婆の幽霊が出るって聞いたけどね…」
「もう帰りたいよ」麻子は今にも泣き出しそうに香奈に抱きついている。「老婆の幽霊は果たして本当に存在するのでしょうか!」
軽いノリの晃はカメラに向かってふざけている。政人は入口を捜しに歩きだし、ライトで病院を照らしていた。一旦カメラを止めた武志は政人の後を追った。後の3人も続いて歩き出す。
「しかしなんでこんな場所に病院なんて在るんだろ」
「道路もねぇしさ…」
「幽霊スポットになるわけだよ」呆れた口調で晃が呟く。縮こまり、震える麻子の肩を抱きながら香奈は言う。「あれ?」「今、あそこの窓に誰かいなかった?」
皆が驚きと恐怖の表情を浮かべた。「おまえ適当な事いうなよ」半分笑いながらも晃は呟く。「どこの窓?」武志はカメラで写そうと香奈に問いかける。「あそこの2階の窓…少し開いてるでしょ?」皆に人影があった窓を教えようと、指をさす。
※この物語キモいな💧こんな物語書くんじゃねぇよ!って思う方がいらしたら、閉鎖するかもです。もっとキモいスレになってしまう可能性大ですがご意見、ご感想を頂けたら嬉しいです🙇※
「あれ…カメラが動かない」武志が不思議そうにカメラを見つめる。「バッテリーちゃんと残ってたのか?」政人が眼鏡に手を充て武志に歩みよる「キャー!」
香奈が目を見開き、2階の窓を凝視して叫んだ。「おい!なんだよ!」
「誰か居るよ!今動いた!」香奈の発言に皆が怯み、背筋を凍らせた。
「嘘だろ…」
晃は懐中電灯で問題の鉄格子がついた窓を照らす「少し開いてっけど、人なんて…」
「居るわけねぇじゃん」
武志は引き返した方が最善だと考えを巡らせていた。「やっぱり帰ろう…カメラも駄目だし、撮影は無理だ」「麻子も泣き崩れてるし引き返そう」
皆が引き返す事に同意した時には風が強く吹き始めていた。「まずいな…こりゃ雨降ってくるぜ」「戻るまでビショ濡れになるんじゃない?」
「山の獣道を雨風の中を歩くのか?」
風に木々は揺れ始め、不気味に唸りだした。次第に大粒の雨も混じりだし皆を不安にさせる。
「この建物に一旦非難するしかないんじゃないか?嵐の中の山道は無理だ!」政人が入口となりそうな場所を捜し、見回しながら皆を促した。
瞬く間に雨風は強まり、屋外の五人に襲い掛かった。「とにかく早く入口を捜そう!」武志がビデオカメラを抱え込みながら叫ぶ。
麻子と香奈は二人で体を寄せて、「来なければよかった」と言わんばかりの表情を男性陣に向ける
「あったぞ!」
少し先を探索していた政人が声を張り上げた。
"非常口"誰もがそう認識していた。建物の側面に位置し、板貼りも鉄格子も付いていない鉄製の扉「鍵が掛かってるな」
晃はそう告げると、扉の硝子部分を拳で割った。外から内側のノブまで手を伸ばし、非常口のロックを解除した。
フラッシュバック。香奈はこの建物に入るや否や、見た事も体験した事もない映像が断片的に脳裏を駆けめぐった。
女性の悲鳴、血が飛び散り人が倒れる。断末魔のような声。老婆の曇った醜い笑い声と共に、一瞬にして香奈の意識を占領し、そして気を失わせた「おい!香奈!」
武志が倒れる寸前の香奈を両腕で支える。
「ちょっと!香奈」
麻子は動揺し、武志と共に体を支える。
動揺したのは、晃と政人も同じだった。この時点で、此処へ来た事への後悔と異空間に迷い込んでしまったかの様な感覚を香奈意外の四人は感じていた。
廃墟と化した病院内は電灯が点くはずもなく、暗闇に包まれていた。床には砂や埃が積もり、数年、数十年は人が使用した形跡がない。
「とりあえず休めそうな場所を捜そう」武志がそう言うと、香奈をおぶった。先頭を歩く晃と政人は、懐中電灯を頼りに病室を次々に見て歩く。
ほぼ見てきた病室はもぬけの殻だった。ベット等も無く、天井から電源コードがぶら下がっている。しばらく歩くと、正面口のひらけたホールへ出た。入口は板で頑丈に固定されている。外側で晃と武志が撮影を行った場所の院内側だ。受け付けらしき小部屋に政人が懐中電灯を照らす。「ん!なんか書類が有る」政人は書類を物色する。「カルテっぽいな…」晃も同様に受け付けの小部屋で物色を始める。「このロッカーに下着とかあったりして?」ニヤけた晃に政人は鼻で溜め息をつく。「あれ?」晃は急に真顔になった。
「どうした?」政人が晃に歩みより、何があったのか視線の先を照らす。「茶色の絵の具か?」
晃は不思議がり政人に語りかける。
ロッカーは茶色の絵の具で塗られたかの様に、手の痕が残されていた。
ロッカーの下から床も、茶色の液体が固まったかのような状態だ。
「これ血なんじゃない…か?」
政人の表情が曇る。晃はその言葉と同時にロッカーを開けた。
「うぉぉ!」
晃はロッカーを開けると後ろへのけぞり、息を荒立てた。続いて政人も中身を覗き、すぐさま吐き気が沸き起こった。
「うぅ…」
二人共、言葉にならない悲鳴をあげていた。
ロッカーの中には死体が放置されていた。切断された腕と脚だけ。這うように二人は、武志、香奈、麻子と合流した。
「バ…バラバラの死体」晃は涙目になりながら、恐怖で顔を歪ませる。政人は嘔吐を繰り返していた。
「嫌…」麻子は気がおかしくなりそうな感覚になり、その場にうずくまった。武志は冗談で晃が言っていないと悟り、携帯を取り出した。「警察へ通報しよう」「死体遺棄現場じゃないか!」
香奈は武志の背中で気を失ったままだ。
だが、携帯の電波は無情にも遮断され、外部との連絡手段は絶たれていた。外は暴風雨が勢いを増し、雨が滝のように流れ落ちる音と、窓の隙間から入り込む不気味な風の音が五人を包み込んでいた。
22時13分
武志は腕時計を見て、唇を噛んだ。「夜が明けるまでこの建物に居るしかないのか…」
麻子は震える身体を両腕でキツく抱え、うずくまったままだ。
「まさか殺人鬼がまだこの建物に居る…なんてことないよな?」
晃はひきつった顔で武志に問い掛ける。
政人も吐き気が治まり、言葉を発した。
「血は固まって、茶色くなってはいたけど腐敗はしていなかった…」
「まだ血生臭さが残っていたし、殺されてから日は絶ってないんじゃないか?」政人はそう言い終えると、吐き気を抑えようと胸を押さえる。
「まだこの建物に犯人が潜伏している可能性があるってことか…」
武志はしばらくうつむき考え込んだ。
「この建物から脱出しやすい部屋を拠点にして、そこで夜が明けるのを待とう」「男が3人だし殺人鬼が現れても対応できるだろう」
晃と政人もしばらく考え込んだが、武志の提案にのった。
五人は非常口付近の一室に集まり、座り込む。
香奈も目を覚ましたが、受け付けの死体の事は誰も伝えようとはしなかった。あまりの悲惨な出来事に香奈の精神が耐えられないと察したからだ。
>> 11
そぅままさん☆
楽しみにしていただけるだけで感激です(ToT)
レスありがとうございます🙇🎊
文章は難しいとつくづく思います。至らないところも多々あると思いますが、引き続き読んでいただけたら嬉しいです😊
大粒の雨が鉄格子と窓に当たる。台風と思われるほどに外は荒れていた。室内では、床に懐中電灯が置かれ、その光を囲むように五人は座り込んでいる。
悲日常的な出来事を体験し、精神的ショックから誰もが悪夢を見ているかのような錯覚に陥っていた。
麻子の心は限界に達していた。一点を見つめ、小刻みに震えている。無理もない、廃墟の病院、しかも死体遺棄現場から数十メートルしか離れていないのだ。そして犯人がこの建物に居ないと言いきれない状況。
武志は着ていたブルゾンを麻子に羽織らせた。政人もジャケットを香奈の肩に掛けて恐怖心を少しでも和らげようとした。「政人ありがと…さっき気を失った時にね…」香奈はポツリと話し出した
「殺される寸前の映像とか、泣き叫ぶ声とか、真っ赤な血や不気味な笑い声なんかが一気に流れ込んできたんだ…」
晃が続けて言った。
「この場所の強い念みたいなものに感化されたってことかもな!」そう言い終えるとジッポの火を口元の煙草に近づけた。「でも大丈夫、お化けやら殺人鬼が出たって俺がブチのめしてやんぜ!」晃は体格もよく、いざとなったら頼もしい存在だ
麻子も震える声で呟きだした。「みんな行方不明…なるわ…学校で噂を…聞いた事あるもの…」
政人が眼鏡を指で直しながら何かを思い出すように語りだした。
「その噂は聞いた事がある…他の学部の数人の生徒が一斉に行方不明になったって」
「警察沙汰で大騒ぎになったらしい」
「いつの話しだ?」
晃が煙を吐きながら、口を挟む。
「そこまでは知らないが…病院かどこかの心霊スポットへ出掛けたまま、帰って来なかったって!」
「ここっぽいな…」
晃は煙草を床で無造作に消す。
「とにかく皆離れな…」武志がそう言った瞬間、遠くでガラスが割れるような音が連続して聞こえた。
「ガシャン…ガシャン…ガシャン…ガシャン…」
皆が黙り込み、同じ方向に顔を向けた。
風によってガラスが割れたとは思えない。一定の感覚を開けて、一枚一枚人為的に割っていったような音だ。全員が五人以外の存在を確実に想像してしまった瞬間だった。「誰…」
「嫌…」
「野郎…」
晃の目付きが変わった。普段は温厚で冗談まじりの会話をする男なのだが死体の発見や隔離されている状況から、普段の彼の行動と違っていた。
晃は懐中電灯を握りしめ室外へと勢いよく飛び出した!「待て!あきら!一人は危険だ!」武志は晃の後を追おうと立ち上がり廊下へ出た。一瞬振り返り、政人に目で合図を送る。「香奈と麻子を…」と心の内で言い放つと暗闇に消えた晃の後を追い、武志は走り出し暗闇に消えた…。
「武志待って!」
麻子は声を張りあげた。武志に二度と会えない気がしたからだ。武志の足音が遠ざかると麻子はうつむき、肩を落とした。政人は武志と晃が危険な状況に足を踏み入れたことを感じていた。もっとも、この建物に居ること自体、危機感を覚えるが暗闇に消えた二人は無傷では戻って来れないだろうと直感した。
「香奈!麻子!俺は今から携帯の電波の届く地帯を探しに行こうと思う」「警察に救助要請したらすぐに戻るから、ここで待っててくれないか!」政人にとっては女性二人きりにさせるのは忍びないが、外部と連絡を取らずに朝まで待つリスクは大きいと感じていた。
「二人はこの場でジッとして武志と晃の帰りを待ってて」
香奈と麻子は不安げな表情を浮かべたが、政人に小さく頷いた。
政人は携帯をポケットにしまい込むと懐中電灯を握り、非常口を開け、荒れ狂う暴風雨の中を走り出した。
隔離精神病棟内1F
中央ロビーまで武志は猛スピードで駆け抜け、2階へと続く階段の前で立ち止まった。懐中電灯を持っていなかったため、真っ暗闇である。「まずった…見えねぇ…」階段の段差がうっすらと見えるだけだった。上の階で晃の足音が聞こえたのを確認すると叫んだ。
「晃ぁー!待て!」
何か叫び声と怒声が聞こえ、不安と焦りが心を占領していく。
「くそっ!聞こえてねぇ!」暗闇の階段を感覚で駆け上がる。
息も荒くなり、脈が速まっていく。
二階に上がると、ガラスの破片が一面に広がっていた。廊下側の窓は割れており、強風と雨が容赦なく入り込んでいた。武志は一階の中央ロビーを過ぎたあたりから目眩が起こった。原因は全く解らず、暗闇で三半規菅がイカレたのか…と気にしつつも、晃の声を頼りに階段を這って昇っていく。(晃は犯人を追っているのか?発見したってことか…)
やがて猛々しい声が近づき、四階で晃の姿が目に入った。
犯人…殺人鬼も晃の側に居るはず…。
武志は確認しようと晃の懐中電灯が照らす先を見つめ、驚き、すぐさま晃に叫んだ。
「晃!壁に向かって何やってんだ!」「誰もいねぇじゃねーか!」
武志はそう叫んだつもりだった。しかし意識が途切れそうになり声を出す事が出来なかった。
晃は真っ白の壁に懐中電灯を向け、怒りをあらわにしていた。
「ババア!もう逃がさねーぞ!殺してやる」
晃は狂喜に震えていた。まるで己が殺人鬼の様に。表情からも般若の仮面を被っているかのような形相だった。
(晃…お前…幻覚を見てるぞ…しかも狂人じみて…元のお前に戻れ…)
心で叫ぶが晃に届くはずもない。
武志はやがて、薄れゆく意識の中で晃が幻覚の婆さんを追って、五階…屋上へ…駆け上がる足音と扉が閉まる音を聞いた。(誘導されてる…行くな晃!)武志は意識を取り戻すべく、ジーンズのポケットに入っていた車のキーを右手に握り、左手の甲に突き刺した。
非常口付近の一室。
香奈と麻子は密着して座っていた。少し肌寒く、外の雨風の音が室内を満たしていた。隅にはダンボール箱、板、錆びたベットの脚等が無造作に置かれている。床から何まで埃が積もっていた。
「ねぇ麻子…この病院は不気味だけど、なぜ皆はあんなに焦って動揺しているの?政人は救助要請とか言って嵐の中に飛び出してしまうし、晃は激怒していたし、武志は危機に直面したような顔で走っていくし…」
麻子は香奈の横顔をジッと見つめて語った。
「ロッカーに死体があったのよ!しかもバラバラに切断されていたって。だからこの病院内に犯人が潜んでいるかもしれないの!香奈は気を失っていたから知らないだろうけど」
「え?!」
「晃と政人が見たって」香奈はにわかに信じきれずにいた。しばらく考えた後に麻子を驚かせる一言を発した。
「もう一度確認しに行きましょ?」
「え!?」
麻子は目を丸くした。
「嫌よ!見たくないわ」香奈は軽くため息をついて麻子の肩を叩いた。
「あの男達三人は早とちりが多いのよ。学校でもいい加減な事ばっかりやってるし、授業抜け出すし」
「大丈夫きっと何かの間違いよ…こんな場所で殺人鬼が居るなんて…ありえないわ。なかなか戻って来ないから心配だし、武志と晃を連れ戻して政人の帰りを待ちましょ」
香奈は時間の経過と共に男性陣三人が心配でたまらなくなっていた。じっとして居られなかった。死体を確認し、武志と晃と政人の無事を一刻も早く確認したかったのだ。もしも死体遺棄をこの目で確認したら、男性陣を助けに行こうと心に決めていた。
麻子も渋々頷き、香奈と共に待機場所から離れ、中央ロビー受け付けへと歩き出した。
政人は森の中にいた。ぬかるんだ地面、行く手を阻む草木、雨と風と闇で視界が極端に悪く、走る事は不可能になっていた。
圏外 1:14 3/13(木)
「くそ…まだ圏外か」
携帯をパチンッと閉じる
頭から爪先までずぶ濡れだった。体温も奪われていて武者震いを起こす。(来た道は覚えてる…もうすぐ車を停めた道路に出るはずだ…皆は無事だろうか…)
政人は後ろを心配そうに振り返った。
眼鏡を外し、付着した水滴を払い、懐中電灯を前方へ向けて歩き出した。
隔離精神病棟内4F
左手の甲からドクドクと血が流れ出す。
武志は歯を食いしばり、痛みに耐えていた。
「くぅぉ…」
目眩が完全に治まったとみるや、階段を駆け上がり、屋上の重々しい扉を体当たりする勢いで開けた。
「晃ぁぁー!」
彼は屋上の縁で呆然と立ち、笑っていた。後一歩踏み込めば命は無い。
武志は走った
指先が晃の服に触れた…
紙一重だった…
晃の体は何も無い暗黒へ傾き、武志の手からユラリと離れていった…。
武志は自分の額を左手で鷲掴むと、力無く膝をついた。涙と雨と血が顔一面を濡らしていた。
>> 24
そぅままさん😊
こんばんわ♪
楽しみにしてもらえると本当に嬉しいです。
ありがとうございます☆とても励みになります。p(^^)q
彼ら五人のストーリーは漠然と頭に浮かんではいるのですが、私にも検討がつかないんです(^-^;
当初予定していた流れと全く違う行動をとるから…(笑)
完結まで見て頂けたらうれしいです😊
おやすみなさい🌠
香奈と麻子の声が廊下の壁で反響する。
「もう…怖い…後ろに誰か、付いて来てそうな気がする…」
「麻子ぉ…
くっつきすぎよぉ」
麻子は香奈の服を掴み、脇から顔を出すように香奈の背に密着していた。時折、窓に映る自分の顔に驚き、うろたえる。
香奈は前方を懐中電灯で照らし、晃と武志が倒れていたりはしないか、目を凝らしていた。
中央ロビーに差し掛かると香奈は眉を寄せた。
「何かしら…埃が舞っているわ…キラキラしてる…」
空気中に舞う小さな塵が、懐中電灯に反射し光っていた。
「埃アレルギーだから吸い込みたくないなぁ」
麻子はハンカチを口にあてた。中央ロビーの受け付けに到着すると、二人共無言になった。
問題のロッカーは半開きの状態だったが、香奈と麻子の位置からはよく中を確認できない。
無言で近づく…
二人共鼓動が早くなり、顔がひきつる。恐る恐るロッカーを覗いた。
「キャァァーー!!」
「キャーーーー!!」
有ると分かっていたものの度肝を抜かれた。
ロッカーには肘から掌までの腕の一部が二本。
膝からくるぶしまでの足が一本。血まみれの状態で放置されていた。
香奈は後ずさり、麻子は腰を抜かし滑るように後退し、棚に激突、頭上からカルテや書類やらを被ってしまった。
武志は三階の階段を下っていた。倒れまいと壁に背を付け、左手の止血のため、右手で手首を強く握る。
晃の死が頭を駆け巡り、落ちた瞬間が何度も何度も繰り返される。
(落とされた…いや幻覚で狂い、自ら落ちた…?何故幻覚を見た…?あの時の目眩と関連が有るのか…?)
武志の心は打ちひしがれ、絶望感と虚しさが心を満たし、不可解な幻覚症状に疑問を抱いていた。
…とその時、階下から女性の悲鳴が微かに聞こえ、麻子と香奈の身を案じる気持ちで焦りが湧き起こった。
「麻子ーー!!香奈ーー!!」
声を振り絞り、足を速める。
政人は身体が冷えきっていた。手足の感覚はなくなり、震える手で携帯を開く。
圏外 2:02 3/13(木)
「なんでだよ!」
苛立ちを表わにする。普段は苛立つ事等、滅多に無い。冷静に物事を対処できると自負していたが、今回はその自信が打ち崩されていた。
好転した事といえば、風が弱くなっただけである
しかし、雨は相変わらず途切れる事なく降り続き、草木に当たり騒々しい音をたてる。
(無理かもしれない…もしかしたら、道を間違え、見当違いの場所へ進んでいるかもしれない)
不安が頭をよぎり、孤独な遭難を意識した。
「皆…ごめん」
うなだれ、不甲斐ない自分を責める。
嘲笑うかのように木々が立ちはだかり、闇が政人の不安を煽っていた。
香奈と麻子は、受け付けの小部屋の隅で抱き合うようにして座り込んでしまった。
「麻子!もう出るわよ!気がおかしくなるわ!」
香奈は麻子の顔を見る。麻子は唇をぶるぶると震わせ、ロッカーを指差した。
香奈は指先を辿り、ロッカーを横目で見る。
信じられない光景に驚愕し、全身の毛が逆立つ。
ロッカーにあるはずの腕の一本が床を這って、徐々に自分達の方へ迫っている。指だけでゆっくりと前進していた。
ズル……ズル……ズル…
二人揃って2度目の絶叫である。
政人の唇は青くなり小刻みに震えるた。
ふらふらと前進していた時、木々の間から、光がちらっと視界に入った。
「あ………あ!」
紛れも無く、車のヘッドライトが移動する光だと察しがついた。
そして、携帯の着信音が鳴った。(繋がった!)焦る指で携帯を耳にあてた。
「おい!政人!いったい何処に居んだよ!」
「カズ!」
「部屋にもいねぇし、携帯つながらねぇし」
同じ学部の小林和也だ。聞き慣れた口調ですぐに分かった。
「明日までのレポートの事なんだけどさぁ」
政人は何をどう説明したら良いか、頭の整理に困惑した。
「カズ!大変なことに巻き込まれてるんだ!」
「はぁ?」
「魅来留山の廃病院知ってるだろ!?そこに死体があった!」
「え!?」
「犯人がまだそこに潜伏しているんだ!」
「おぃ…なんだそりゃ」「武志達はまだそこに居るから―」
政人は背後に何者かが立っていることに気がつかなかった。雨の音と闇に気配は紛れ、携帯に気を取られていたからだ。
政人は右手の携帯がフッと抜き取られた事で、ようやく背後の人物二人に気がついた。
振り向くと、黒いレインコートを着た男二人が立っている。
(救助隊?……ではなさそうだ……)
フードを被っているので顎しか見えない。
ガムをクチャクチャと噛む背の高い方が、携帯を隣の男に渡した。
無言で携帯を耳にあてると、すぐに後ろの雑木林に投げ捨て、政人の髪を掴むと顔を近付けてきた
「お前…死体を見たのか?」
歯がボロボロで口臭がひどく、政人は嫌悪感と共に極めてヤバイ状況に陥った事を自覚していた。絶対犯人………だ。
「……………」
政人は無言でその男を凝視した。
「白い粉は見たか?」
「……………」
(白い粉?何の事だ?)
口臭のひどい男は鼻で笑い、政人の脇腹と顔を殴り、ガムの男に顎で合図する。
ガムの男は拳銃をモソモソと取出し、政人の後頭部に向ける。
一秒の躊躇すらない。
ダン!…ダン!
香奈と麻子は、受け付けの小部屋を出てパニックに陥っていた。「手が動いた!!」もう収拾がつかないほど動揺していた
と、同時に香奈は天井に無数のゴキブリが這うのを目の当たりにする。「イヤーッ!」麻子は床や壁がぐにゃぐにゃに歪む映像で吐き気を催す。
武志が落ちた懐中電灯を口にくわえ、香奈と麻子を両手に抱えて引きずるように歩かせた。
(やっぱり二人共幻覚を見ている…中央ロビー付近は何かある!幻覚を引き起こす強力な薬…揮発性の高い薬物か?または少量吸い込むだけで神経に混乱を引き起こす物質か?)武志は息を止めて二人を歩かせる事はできなかった。また目眩が始まる。
そして非常口へ繋がる廊下を見た時、信じられない光景が飛び込んだ。
晃が立っていた。真っ直ぐと武志を見つめ、なにか呟いている。
「た……け……し……」喉の病んだ老人のような声で語りかける。
武志は言葉を発しかけるが、グッとこらえる。
(消えろ!晃が生きているはずはない…幻覚…幻覚だ…幻覚だ!)目をつむり、涙が込み上げ、胸が熱くなる。
もう一度晃を見ると姿は消えていた…。
その後、かろうじて正気を保ち続け、香奈と麻子を3階まで誘導する。
―3F中央階段踊り場―武志は膝を抱え座り込んでいた。香奈と麻子は意識が無くなったように眠っていた。
頭上の窓を見ると、雨が降り続いているのが分かる。
隙間から少量の風が入り込み、亡者のうめき声のように音をたてていた。どこからともなく水滴の落ちる音も聞こえ、時計の振り子のように時を刻む。
武志はぼんやり考えていた。理不尽な死を迎えた人間はその後、どんな未来が待っているのだろうかと…。
歴史の講義の記憶が思考をかすめる。
マルティン・ルターは、死は人生の終末ではない生涯の完成である―
と言った。
(理不尽な死が生涯の完成か…?)
怒りにも似た感情が沸き起こる。
(人間の魂は永遠に完成には至らず、カルマを背負い無限に生き死にを繰り返すんじゃないか…)
そんな事を武志はぼんやりと考え、暗い深海に居るような感覚になっていた。
やがて香奈と麻子は目を覚ました。「よかった…武志無事だったんだね」麻子は少し頭が朦朧とする中、武志に微笑んだ。
香奈も目を覚まし、政人が救助を求めて一人で森へ入っていった事を武志に報告する。
「晃が屋上から飛び降りた……」
伏し目がちに武志はそう告げた。
二人はショックを受け、全身の力が抜ける。
香奈は呆然と遠くを見詰めるような視線。
麻子は顔をくしゃくしゃにして泣いた。
「おそらく、この病院内に殺人犯は居ない。夜が明けたら、この病院で政人が呼んだ救助隊を待とう。晃も置いていかれたら怒るかもしれない…」
武志はそう言い終えると深いため息をついた。
侵入した形跡のある非常口の扉を見るなり、背の高い男はガムを吐き捨てた。
「鼠が入り込んだ」
小太りの男が、扉を蹴り開けて呟く。
「見つけたら殺れ」
二人は黒いレインコートを脱ぎ捨てると、特種な防塵マスクを装着する。「鼠狩りは物を確認してからだ…」
背の高い男はその言葉を聞くや否や、鼻で息を大きく吸い込みブルブルと震えた。
「武志!左手が血だらけじゃない!」
麻子が心配そうに声を張り上げる。
香奈はその左手を見てから、懐中電灯を持ち3階の廊下へ出た。
左右に光を照らし、麻子に声を掛ける。
「麻子!元は病院だったんだから、どこかに応急処置の道具が残ってるかもしれない!探しに行きましょ」
麻子は強く頷くと武志に言った。「武志ここで待っててね」
二人は真剣な面持ちで3階の廊下へと進んで行った。
香奈と麻子は病室を一部屋、一部屋、見て歩いた
闇への恐怖心もあったが何とか堪えていた。
いつの間にか雨がやんでいたので、静寂の暗闇が不気味さを駆り立てる。
どの部屋もガランとしており、棚があっても何も置かれていなかった。
「何も無いわね…」
香奈が肩を落とす。
麻子は身震いを起こしながら、そろそろと部屋の内部をくまなく見る。
「政人は無事かしら?」香奈は辺りを照らしながら不安げに呟く。
「きっと携帯で警察を呼んでくれているわよ」
麻子はそう返すと後方の香奈を返り見る。
「……そうよね」
窓の外を心配そうに見つめた。
武志は階下から、微かに誰かがガラスを踏む音を聞いた。
(ん?誰だ…政人が戻ったのか…それとも救助隊か…?)
2階は一面割れたガラスで敷き詰められている為、音の主は2階に居ると武志は予想した。
だが…死体の一件もあり、まだ殺人犯の可能性も捨てきれないでいた。
武志はゆっくりと立ち上がり、そっと2階へと足を進めた。
香奈と麻子は3階の一室を覗くと、声を張り上げた。「あ!有りそう!」
6畳ほどの室内には薬品のケースが床に散乱し、棚がずらりと並んでいた。
二人は逸る気持ちで棚を物色する。
Bromperidol
Chlorpromazin
Levomepromazine…
「何の薬か分からない」「読めないわ…」
「包帯とか消毒液があれば良いんだけど…」
棚の引き出しやガラスケースを開け、しらみ潰しに探す…。
「包帯発見!」
麻子は香奈に得意げに見せる。
「麻子ナイス!」
二人の声が3階の廊下まで、こだましていた。
武志は2階中央階段の物陰で、ガラスを踏む音の主を確かめようと顔を覗かせる…。
(二人組……)
二人で話し合っている姿を確認したが、聞き取る事はできなかった。
やがて二人の男は2階廊下へと進む。
武志は耳を澄ます……。
「出てこい鼠!」
ガラスを叩き割る音や、部屋を荒らす音が聞こえた。
武志の全身に電撃が走る
鼓動が速まり、呼吸が乱れる。(まずい…見つかれば殺される)
即座にバラバラ死体遺棄の犯人だと察しがついた
武志は階段を素早く駆け上がり、3階の香奈と麻子を捜した。
懐中電灯の光りで直ぐに発見できた。
全力で駆け寄り、息を整える。
麻子は少しニコりと口を上げ、得意げに包帯を見せた。
「武志!腕みせて」
武志は麻子の口を掌で塞ぐと、逸る口調で二人に告げた。
「これから、絶対にしゃべるな!犯人が2階に居る!」
「見つかれば命は無い」
「俺が3階の隅にできるだけおびき寄せるから、香奈と麻子は4階で待機しろ!」
「隙を見計らって1階に降り、全力でこの病院から脱出しろ!」
「俺は時間を稼いでから脱出する」
「1階に降りたら口を塞ぎ、できるだけ呼吸をせずに走れ!」
「いいな?」
香奈と麻子は目を丸くさせ、武志の真剣な口調に尋常ではない危険が迫っている事を理解した。
香奈と麻子が4階に行ったのを確認すると、武志は3階の中央階段に立ち、そばに落ちているガラスの破片で左手首を切る
ポタポタと床に血を垂らし、階下の気配に全神経を傾ける。
香奈と麻子は4階の壁に身をかがめた。鼓動は早くなり、全身がガタガタと震え出す。麻子は両手を組み、神に祈った…。
>> 45
そぅままさん♪
こんばんわ😃
もう少しで終わりです🎊いつも読んでもらえて嬉しいです♪
ありがとぉ🙌
なんか残酷な物語になってしまいました(^-^;
それも狙いなんですけどね(笑)最後までお付き合いお願いしますね~!
おやすみなさ~い🌠😊
武志の足元には血溜りができていた。
人間の血液の量は体重の13分の1。血液を流しすぎて、意識を無くす事を恐れた。
「こんな所で死んでたまるか…」
唇を噛み締める。
血痕を残しながら、3階の廊下へと歩きだす。
夜明けが間近に迫り、ぼんやりと闇が取り払われ始めていた。
左手首からの血の雫が歩いた軌跡となり、武志の後方に続いていた。
左手の全体がジンジンと痛み出す。甲と手首の損傷で思うように動かせない。
廊下の途中で足に消火器がぶつかった。ゴロりと転がった消火器を右手で拾う。
ズシリと重みがあり、未使用だとすぐに察しがついた。
(奴らは拳銃を持っている可能性が高い…できれば戦闘にならずに時間を稼ぎたいが…)
右手の消火器を強く握る
だいぶ中央階段から離れた場所に倉庫らしき部屋を見つけ、中に入ると立ち止まった。
段ボールや汚れた布団等が置かれ、埃っぽく湿った部屋だ。
そこで麻子から受けとった包帯を取出し、止血の手段として左手首に巻き付ける。
じわじわと包帯は真っ赤に染まっていった。
香奈と麻子は犯人の声を聞いた。
(真下に居る!)
(来ないで…!)
二人は4階の階段で、身を最小限に縮こまらせながら震えていた。
「ねずみが血を流しちゃってるぜぇ?」
「どこに居やがる!」
「カチッ」
嘲笑うかのような声と、拳銃の撃鉄を起こす音が壁に反響し響く。
麻子は自分の心臓の音が犯人に聞こえてしまうのではないかと心配する。
香奈は身体を硬直させていたが、震えが止まらない。
犯人二人の声は遠ざかっていった。
香奈と麻子はホッと胸を撫で下ろしたが、恐怖でなかなか足が動かなかった。
犯人二人は武志の血痕を追う。背の高い男は口笛を吹きながら拳銃をいじり、小太りの男は廊下の血痕に注目して、ニヤニヤと笑みを浮かべた。
やがて倉庫部屋の前に立ち止まる。
武志は犯人のすぐ隣の部屋で息を潜めていた。
(よし…!後はタイミング……)
汗が額から流れ落ち、腕が小刻みに震える。瞬きする事もなく、息を殺した。
「行くわよ!麻子!」
香奈は振り絞るように声を発した!
「あ…足が動かない」
完全に身体の制御と心の信号が交差できず、麻子はうろたえていた。
「麻子!早く!」
香奈は麻子の腕を引っ張り、強引に動かせた。
「武志が死んじゃう!」
麻子はすでにグシャグシャに泣いていた。
香奈も一瞬胸が苦しくなるが、何も言わずに麻子を力強く引っ張る。
小太りの男が中腰になった瞬間だった。
素早く忍びよった武志は消火器を振り下ろす!
(死ね!!)
19年の月日の中で、本気で人への殺意に満たされた瞬間だった。
「ガッ!!」
鈍い音と共に小太りの男は倒れ込む。
「テメー!!」
背の高い男は拳銃を武志に向け発砲した!
「ダン!!」
武志と男は殺意が全身を支配していた。心境は全く同じ、目の前の相手を殺す事に無我夢中になる
背の高い男が発砲した弾丸は、武志の左肩を貫く
武志は体当たりして、相手の右腕を掴む。拳銃が目の前で閃光を放つ。
「ダン!」
弾丸が窓に当たり、バリンと割れる。
男は武志を殴り、殴り、殴った。
3階の階段を下り始めようとした香奈と麻子は、発砲音と乱闘の音を聞いた。そして、武志が逃げる余裕の無い事を悟る。
逃げるのか?助けに向かうのか?瞬時に迷う…。
「武志…」
「香奈!武志を置いて逃げれない…」
香奈は数秒考え込み、麻子と目を合わせて言った
「行こう!」
一欠けらの勇気を振り絞り、二人は武志の元へ駆け出した。
武志は左目に血が入り、視界が狭まる。
拳銃を持つ男の右腕を両手でしっかり掴むと、床の出っ張りに叩きつけた「ガッ!」
拳銃と男の手が離れると即座に首を絞める。
男は脇から武志の顔面に拳を叩きつける。
「ゴッ!」
だが、直撃を回避し手の力を緩めない。
男の顔は苦痛に歪み、目は血走る。そして、武志をなおも殴る。
「ガコッ」
武志の横面に直撃する。「ガッ!」
手の力は緩み、吹き飛ばされる。
その時、麻子と香奈が視界に入った。
(え?!)
今度は男が武志の首を絞める。男は完全に息が上がっていて、武志は息ができない。
男は我を忘れ、殺しの快楽を味わい始める。
意識を失いかける武志は拳銃を足で蹴り飛ばし、床を滑らせる。
(撃て!)
武志は心で叫ぶ。
香奈は拳銃を拾うと、ぶるぶると震える手で構える。
「ダン!」
至近距離から発射された弾丸は、男の胸と武志の心臓を貫いた。
男は武志に覆い被さるように倒れ込む。武志は目を見開き、その目線は天井を真っ直ぐ見つめていた。
麻子は香奈の後ろで力無く崩れ落ちる。
香奈は茫然と立ちつくしたまま、武志を殺してしまった事に後悔した。
やがて自責の念が肥大し、精神がガラスを割ったように壊れる。
「麻子ごめん…あんたの彼氏まで殺しちゃった」
泣き崩れる麻子は返答できない。
香奈は拳銃を自分のこめかみに向ける。
「武志…麻子…ごめんね…」
「香奈やめて!!」
「ダンッ!」
麻子の顔に血しぶきが飛び散った―
――エピローグ――
テレビに廃病院が映し出されていた。
「こちらは凄惨な事件現場です」
「4人の大学生と麻薬密売の犯人2人、身元不明の遺体、計7体の遺体が発見されました」
「またこの建物へ続く山道にも、大学生1人の遺体が発見され―」
おやつを食べながら、二人の看護婦がテレビに見入っていた。
「この事件よ!これこれ!503号室の患者さんってこの事件の生き残りのお嬢さんらしいわよ」
「重度のPTSDを患っているって話しよ」
「どんな事を体験したのかしらねぇ~酷い事件ねぇ~」
二人の看護婦は煎餅をかじりながら、またテレビを見つめる。
503号室では真っ白な光りが差し込み、穏やかな風がカーテンを揺らしていた。
彼女はベットに半身を起こし、遠くを眺める視線のまま少しも動かない。
「白川さん」
看護婦が語りかける。
「……………」
「後で体温を計りましょうね」
看護婦はニコリとして病室を出た。
視線は全く動こうとはしない。身体も硬直したように佇んでいた。
やがて病室に彼らがやって来て彼女を取り囲む。
「おい麻子!退院したら皆で桜見に行こうって計画なんだ」
明るい笑顔で晃は言った
「お前は飲むと厄介だからなぁ」
政人は晃に呆れたように呟く。
「麻子!早く元気になってね!今度おいしいスイーツ持ってくるね!」
香奈はニコニコで微笑む
武志も優しい眼差しで微笑む。
小鳥が窓の縁にとまると皆の姿は消えた…
彼女の口元に少し笑みが浮かび、頬に一筋の涙がこぼれ落ちた。
―完―
最後まで読んで頂いた方、チラ見して興味無くした方、少し読んだ方もありがとうございました。🙇
特にそぅままさんには応援して頂き、深く感謝しております。
またヒョッコリ書き始めるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします🌠
>> 61
そぅままさん⭐
最後まで読んでもらえて本当に嬉しいです。
応援レスが強力な励みになりました。ありがとうございました😊
よく見ると予定していたワンカットの書き損じ、文章自体のミスも多く、課題が多く残る結果になってしまいました(^-^;
最後の最後でもミスってます😩ハゥ…笑
またアイデアが浮かんだ時は書くかもしれません😤フンヌッ!
その時はよろしくお願いしますね♪😊
―Missing―
『失われた約束』
『あたし、コーヒー牛乳は飲めないから、脩くん飲む?』
『良いの?君ちゃん』
脩が給食を自分の席まで運び、座ろうとした時、隣の席の君代がそう言って微笑んだ。
『じゃぁ貰うね』
脩は笑顔で答えると代わりに牛乳プリンを君代の御膳に置く。
『交換ね』
脩が目を細め、ニコリと微笑みながら言う。
日直が『いただきます!』と号令をかける。
『いただきます!』
教室中の生徒が一斉に手を合わせ、給食を食べ始めた。
君代は皆と同じように声を出す事ができなかった。咳が邪魔をしていた。『コン、コン』
他のクラスメートより少し遅れて箸を持つ。
明野星小学校の校庭には桜が咲き乱れ、ふわりとする暖かい風に校舎は包まれていた。
君代は咳を鎮めようと胸を押さえる。
『大丈夫?』
脩は口にご飯粒をつけて心配そうに君代を見つめた。
『うん…大丈夫』
新学期が始まり、四年生に上がった二人だったが、クラス替えで離れる事はなかった。
君代は、また脩と一緒のクラスである事を心から喜んでいた。
『コーヒー牛乳嫌い?』脩は真っ直ぐに君代を見つめて問い掛けた。
『また喘息がひどくなってきたから、お薬飲まないといけないんだ。お母さんからコーヒーとか、紅茶は飲んじゃ駄目って言われてる。』
『そっか…』
瞳の奥にキラキラと星を忍ばせ、優しい脩の目を見るのが君代は好きだった。
午後の授業は算数。
先生は分数の式を問題として黒板に書き込んでいる。教室にチョークと黒板のぶつかる音が響く。
私の前に座る脩くんは、鉛筆で頭を書く。
算数は苦手だと三年生の時から知っている。
サッカーが好きで体育の授業の時はニコニコなのに…机の横にはサッカーボールがぶらさがっていて、よく使いこまれているのが解る。表面がボロボロだから。
いつも後頭部に寝癖がついていて、後ろの席の私はクスリと笑ってしまう
背丈は私と同じくらい。少し私の方が高いかもしれない。顔立ちはスッキリしているし、サッカーでは一際輝いていてカッコイイ。結構クラスの女の子から人気があるのが心配。
脩くんは女の子とはあまり喋らないけど、私には喋りかけてくれる。
私は外見に自信は無い。目もパッチリしてないし、鼻ぺちゃだし、病弱で咳ばっかり。それなのに脩くんは心配してくれたり、喋りかけたりしてくれるのが嬉しい。
君代はボーっと目の前に座っている脩の後ろ姿を見つめていた。橘先生がこちらを見ている事に気がついた君代は、はっとした顔をして、そそくさとノートに目を移す。
下校の時刻。
ランドセルに教科書やら、ノートを詰め込む。教室はガヤガヤと雑談や笑い声で賑わっていた。
ランドセルに帰り支度を済ませ、目線を上げると脩くんと目が合った。
「ねぇ…君ちゃん!
銀河鉄道999って知ってる?」
「え?」
「漫画なんだけどさ」
「…う~ん。何回か聞いたことあるような…」
「やっぱり知らないかぁ俺の周りで読んだことある人いないんだ…」
少しハニカミながら、脩くんは言った。
「僕等の生まれる前からある漫画なんだけど、最近読んでるんだ」
「どんな内容?」
私は知りたくなった。脩くんが好きな漫画なら私も読んでみたいからだ。
「銀河鉄道999…汽車が宇宙を走るんだ。機械の身体を手に入れるために鉄郎とメーテルが旅をするって物語」
「君ちゃんのお母さんやお父さんなら知ってると思うよ」
脩くんは微笑する。
「今度読んでみるね」と告げたかったが咳の衝動に負けてしまった。
「コンッ…コンッ」
咳と担任の美咲先生の声で、脩くんとの会話は途切れてしまった。
「ハイ!じゃみんな気をつけて帰るのよ。宿題忘れないように」
美咲先生はクラスの皆を見渡すように言った。
校庭のグラウンドが、夕焼けに照らされて黄金色に染まっていた。
君代は正門を出て歩道を歩きながら、金網ごしにサッカーをしている脩を見る。
脩のコーナーから蹴ったボールは放物線を描き、ゴール前の人物へと向かう。息の合ったシュートでボールがネットへ突き刺さった。
「脩くんカッコイイよね」君代の目線の先を追っていた瞳が語りかける。
「うん…」
「君代ちゃんと脩くんって仲がいいから、羨ましいなぁ」
「席が近いし…三年生の時から知ってるから…」ハニカミながら君代は顔がほんのり赤くなっている事に自分自身で気付いていた。
しばらく海岸沿いの通学路を二人で喋りながら歩き、やがて瞳はバイバイと君代に手を振り、T字路を曲がった。
一人で海を眺めながら歩いていると、後ろからドリブルをしながら走ってくる脩が見えた。
脩は君代に気付くと、ドリブルを止めてボールを手に持つ。
二人で目が合い、脩が元気な声で言った。
「君ちゃん一緒に帰ろう」
君代はまた顔に熱を持ちつつも、うつむき気味に頷いた。
無意識のうちに恋心を抱く君代は、鼓動の高鳴りと嬉しさを噛み締めていた。
「この先の駄菓子屋の横の階段を昇っていくと、今は使われていない駅があるんだけど、そこから眺める星空は最高なんだ。明野星駅…いつか天体観測に行こうよ!」
「行きたい!」
脩が何かを思い出すように語る横顔を見つめながら、君代は笑顔で返す。
この日の会話は大部分がサッカーと銀河鉄道999の話題だった。
会話に夢中になっていたため、二人の時間の進み具合は早かった。
晩御飯の時間。
脩と脩の姉がテーブルに座りながらテレビを観ていた。母親が唐揚げの盛られた皿を置くと、すかさず脩が手を伸ばす。
「バチン!」
「痛っ」
「行儀悪いなぁ。素手で食べんな…」
姉の葉月が脩を叱る。
その時、テレビに臨時ニュースが流れた。
「予定を変更してお伝えいたします。先ほど、米航空宇宙局NASAより通達を受けたアメリカ、モッシュ大統領は地球の公転軌道と極めて近い距離を直径50kmの彗星が5日後に通過すると発表しました」
「マサチューセッツ工科大学リンカーン研究所の合同グループが彗星を発見し、NASAと共同して正確な彗星の位置と軌道をシュミレートしたところ、現在火星の軌道付近を高速度で通過しており、深刻な問題となる地球との衝突の可能性は無いとしています」
「彗星の名前は第一発見者の名を取り、ミクール彗星と命名され、大規模な流星雨が肉眼でも世界的に観測できると予想されています」
「また、彗星の発見が遅れた事が問題視され、地球接近天体の探知システムの在り方が問われています」
「それでは映像を―」
脩は目を丸くして、テレビの臨時ニュースに釘づけとなった。
君代の家は集合住宅の五階。父親と弟の三人で暮らしている。
和室に居た君代は、母の仏壇に手を合わせた後、宿題を終わらせようとテーブルに向かう。
教科書とノートをランドセルから取出した時、襖から弟が飛び込んできた。
「すげーよ姉ちゃん!星!星が近づいてきてるんだって!」
「何よ!星?」
「テレビ!早く」
弟の言葉に促され、居間のテレビに目を移す。
CGで描かれた彗星の映像が映し出され、地球へ向かっていた。
青緑色の巨大な岩の塊が暗黒の宇宙空間を移動している。
全体的にガスと塵を雲のようにまとい、太陽と反対側に尾を形勢している
君代は驚きと興奮を覚えつつ、ナレーションに耳を傾ける。
「ミクール彗星は、
時速575,000km。質量は数十兆トン。地球と最も接近するのは4月23日と予想されています」
と、不意に電話のベルが鳴った。
はっとした顔をして君代は受話器をとった。
「もしもし上原です」
「………………」
「もしもし……」
「………………」
君代は気味の悪い無言電話に不快感を抱く。
「瞳だよ~ん。えへへ」「なんだ、瞳ちゃん悪戯は止めてよ…もう」
「あははは」
理解に苦しむ事をする瞳に君代は鼻で息をする。「どうしたの?」
「実はね…脩くんにラブレター渡そうと思うんだけど直接渡すの恥ずかしいから、君代ちゃんから渡してもらっていい?お願い!」
「えー!?」
「脩くんと仲が良いから君代ちゃんに頼もうと思ったの」
「う~ん……ごめん」
自分も脩くんが好きなのに、他人との橋渡しなんてできない。君代は断った。
「そっか…そうだよね」「そういう事はやっぱり…ちょっと」
雰囲気を変えようと君代は別の話題をふった。
「彗星が来るってね!」「そう!ビックリだよね!」
その後は、彗星の話しが続いた。
次の日の放課後。
瞳は脩へ話しかける。
「あのさ、脩くんに話しがあるんだけど」
「何?」
「ちょっといいかな」
恥じらいも見せず、積極的に脩にアプローチする瞳。
脩は横目でチラっと私を見る。
私は目を逸らしてしてしまった。これからどんな内容を話し、どんな手紙を渡すのか知っていたから。その役目を断った自分は部外者であると認識していた。
瞳に誘導され、脩は屋上へと上がっていった。
君代は脩の気持ちが瞳へ傾く事が不安だった。どのような反応をするのか気にもなってもいた。
帰り支度を済ませ、ランドセルを背負うと、不安を打ち消すように小走りに学校を後にした。
帰り道、夕暮れの空を見上げると尾の付いた星が目に止まった。
(あ!彗星…)彗星から宇宙へのイメージが膨らみ、銀河鉄道999のことを思い出す。
(本屋さんに寄り道しようかな…)
君代はいつもと違う道へ歩き出した。
君代は商店街の一角にある古本屋に着いた。中に入るとおじいさんが一人で店番をしていた。
「いらっしゃい」ペコリと君代は頭を下げてから、漫画の置かれているスペースを探す。
(スリーナイン…スリーナイン…)
本棚の上の方に置かれていた。「あった!」と思わず声が漏れる。手を伸ばしたが届かなかった。そこへおじいさんがヨタヨタと歩みより、一冊を抜き取ってくれた。
「お嬢ちゃんのお目当ての本はこれかな?」
「は…はい。ありがとうございます」「銀河鉄道999…ホホッ」老眼鏡を指で上げ、漫画の表紙を見てから君代に手渡した
君代はもう一度頭を下げると漫画を買おうと財布を覗く。(210円……)自分の財布の中身に「はぁぁ…」と、思わずため息が出る。
「ふぉっふぉっ此処で観ていくかい?」お金が無いことを察してくれたのか、おじいさんは笑いながら言ってくれた。
「いいですか?」少し照れながらも、君代はおじいさんの言葉に甘えた。椅子まで出してくれるとは思ってもみなかった。ちょこんと座り、ページをめくる…。
一冊読み終えた頃だろうか…店に小学生が入ってきた。「チリン…」入口に付けられた鈴が鳴ると君代は漫画から目を移し、入ってきた人物と目が合った。
「あれ!?君ちゃん!」「脩くん」
ラブレターの件はどうだったのだろうか…君代は無性に気になっていた。「脩くん…瞳ちゃんから手紙を渡された?」
単刀直入に質問してしまった。
「瞳ちゃんには、ごめんって伝えた…今好きな人が居るからって…でも何で知ってるの?」
「あ…昨日、瞳から聞いてたんだ」
君代は内心ホッとしていた。しかし、瞳の心境を思うと痛々しさが残った。
(好きな人って誰かな…私だったら嬉しいな…)
「コホン…コホン」咳で気管支が不快になる。
漫画を隣で読む脩は、君代に何かを閃いたように言った。
「君ちゃん!彗星が来たら、流れ星がいっぱい降るじゃん!」
「うん…」
「そしたら、君ちゃんの咳が治りますようにってお願いしようと思うんだ」
「流れ星にお願いしてくれるんだぁ」
二人はニコリと微笑み合う。
「23日…一緒に流星を見に行かない?」
初恋の相手に初デートを申し込まれた。
「うん」
君代は照れながらも小さく頷く。
脩は顔を赤くしつつ、照れ隠しに頭を掻いた。
雨の中、大量の人間が傘をさし歩く。君代は煙草を灰皿に置くと、コーヒーをすすりながら渋谷の交差点を見下ろす。
電光掲示板の流れる文字をぼんやり見て、昔の事を思い出していた。
[ミクール彗星15年ぶりの再接近――二度目の大流星雨に期待が高まる――]
(思い出してしまったじゃない……)
悲しげな表情でぼんやりと雨で濡れた街を見る。
(彗星が来なければ初恋の相手、脩は死なずに済んだのに…私の生きる道も変えてしまった彗星)
携帯の着信音が鳴る。
「ごめん今日出れないかな…女の子全員出ててさぁ…コスモホテル503号室」
「……」
(なにもかもが嫌になる…この世から消えていなくなりたい)
君代は左手の手首の傷を見た。
「もしもし…聞いてる?」
返答もせずに携帯を切り、バックに入れる。
(脩…もうすぐあなたのそばに行くわね…あの約束の場所で…)
君代はヒールをコツコツと鳴らしながら、階段を降りていった。
「君ちゃんパス!」
後ろから声がした。
驚いて振り向くとボールがアスファルトを伝って転がってきた。
慌てて足で受け止める。
「うまいうまい」
悪戯っぽく脩くんは笑う
「もう」
お返しに強めに蹴り返すと、脩の頭上を飛び越えそうになる。
「あ!」
脩は慌てた様子もなく、素早く後退して胸でボールを受け止める。
「今日の夜、迎えに行くからね!彗星があんなにハッキリと見えるよ」
太陽が沈みかけた海の遥か上には、月が滲み、彗星が尾をひきながらキラキラと輝いていた。
「待ってるね」
二人は肩を並べて歩く。
夜の海岸沿いの道を自転車で走り抜ける。
運転する脩のお腹を掴み、後ろに君代が座る。
「すごい!!」
夜空を見上げて脩は叫んだ。
彗星が一直線に輝きながら東から西に凄い勢いで通り過ぎる。
「すごい!!」
「スリーナイン!!」
虹色に光りを放つ列車が星空を走るようだった。信じられない光景が目の前に広がる。
「うぉー!!」
脩は拳を振り上げて叫んだ。
「わぁー!!」
君代も声を張り上げる。
幻想的な彗星に照らされた道を二人は走り抜けていった。
駄菓子屋の横に自転車を停めてから階段を掛け上がる。
君代がつまずきそうになると、脩は君代の手を握った。
すでに大量の流星が二人の頭上に降る。
彗星の尾の位置と地球が重なり、彗星の塵が大気に触れて発光していた。赤、青、黄、緑、紫と様々な色の星屑だった。
誰もいない駅につくと、二人共息を整える。
街灯が無く、まるで宇宙空間に浮かんでいるかのような錯覚が起こる。
「君ちゃん!すごいね」「こんな夜空見たことない」
君代は脩の横顔を見るとニッコリ笑顔で流星を眺めていた。
手を繋いだ二人が流星雨の夜に溶け込む。
15年も前の事が色褪せる事なく記憶にある。
君代は電車の窓ガラスに映る自分を見る。
髪はライトブラウンのグラマラスカール。上品とは言えないメイクに肩の露出したカットソー。
(脩君が今の私を知ったら、何て言葉をかけるだろう…)
雨の水滴と灰色の景色が重なり、悲しげな表情が映る。
今まで関係のあった男はすぐに忘れられるのに…15年前の彼は記憶から消えたことはない。
初恋、彗星、流星雨、死別と印象が強かったから。
君代は東京を離れ、故郷の約束の場所へと向かっていた。
「あ!そうだ」
脩は何かを思い出したように言った。
「お菓子もってきてたんだ。君ちゃん食べよう」
脩は背中にしょっていたリュックを開け、中から可愛い花の絵柄が描かれたアルミ製の小箱を取り出した。
中を開けると、彩り豊かに包装されたチョコレートや飴等、小さなお菓子が入っていた。
二人は星空がよく見える廃駅の片隅にあるベンチに座り、お菓子をつまむ。
すぐ側には一本の桜の木があり、時折吹く風にあおられてヒラヒラと花びらが舞う。
流星雨は途切れることなく降り続く。
「君ちゃんの病気がよくなりますように」
チョコレートを食べながら無数の流星に願いをかける。
「脩くん、ありがと」
二人で一緒に微笑み合う
「あのさ…もしもこの先二人が離ればなれになってたら、15年後の4月23日にまたこの場所で会わない?」
ひらめいたように脩が言う。
「いいよ。約束ね」
君代は脩の目をじっと見つめて言った。
……二人が約束を交わしたその時。
「ギュン!」
一筋の光が走った。
「ボン!!」
さほど離れていない藪の中へ空から何かが突き刺さるように落ちてきたのだ。
「隕石!」
「え!?」
脩は驚いた表情で言う。その声に驚いた君代は後ろを振り返る。
「流星が落ちた!」
「ほんとに!?」
好奇心にあおられ、二人は何かが落ちた場所に向かった。
落ちた場所はすぐに分かった。草が薙ぎ倒され、白い煙りを上げている。その中心に輝く石を発見した。
「虹色に光ってる…」
「隕石…?」
二人は顔を見合わせ、恐る恐る近付く。
「彗星の破片かなぁ?」「星のかけら?」
にぎり拳ほどの小さな石だった。その石は所々に宝石が埋め込まれたかの様に七色に輝いていた。
幼少時代を過ごした場所は、不自然なほどに15年前と何も変わっていなかった。
かつて君代の住んでいた集合住宅の前をバスで通り過ぎる。
小学高近辺にある海沿いの道でバスを降りた。
君代は小さなため息をつくと傘をさし、歩きだした。
脩が亡くなった後、良い事なんて何もなかった。
父親は再婚したが、継母の虐待に毎日のように苦しめられ、父が他界すると私と弟は捨てられた。
その後、親戚の家を転々とするが邪魔者扱いで肩身の狭い生活が続く。
弟は家出し、行方が分からなくなった。自分は高校を中退し、上京。
信用していた男に裏切られ、騙されて借金を作ってしまう。
昼はスーパーで働き、夜は売りをする生活。
「もう楽になりたい…駄目だな…あたし」
君代は伏し目がちに自らの人生を悔いる。
脩は『星のかけら』を手にとる。
「うわぁ…」
「すごいね」
二人の瞳に七色の光が映りこむ。
「再会の約束と同時に落ちてきたんだね」
君代は不思議な石に見とれながら言った。
「じゃぁ15年後に再会する時までどこかに隠しておこうか!」
また脩はひらめいたように言った。
「え?持ち帰らないの」「あの桜の木の下に埋めて隠しておこう。15年後にまた二人が再会した時に掘りおこすってのはどう?」
「ん~分かった覚えておくね」
微笑しながら君代は頷いた。
それから二人は『星のかけら』をお菓子の小箱に入れ、桜の木の下に埋めた。
「タイムカプセルお菓子箱」
脩は君代と顔を合わせ満足げに微笑む
いつのまにか流星雨もすっかり流れなくなり、いつもの静かな星空に戻っていた。
「君ちゃん、帰ろうか」「うん」
二人は自転車の置いてある場所へ、石造りの階段を手を繋いだまま降りていった。
コツコツとヒールが音を起てる。
(この石造りの階段を登るのは15年ぶり…天国への階段ね…)
君代は生気を無くした瞳のままゆっくりと階段を登る。
(15年前…脩くんは流星雨を観た後、自転車で私を家まで送ってくれた。それ以来、彼と手を繋ぐことも話すこともできなくなってしまった。なぜなら…その数十分後に事故にあい、帰らぬ人になってしまったから…)
酔っ払い運転のトラックに轢かれて即死だった…
君代はすでに花が散ってしまった桜の前に立つと、辺りを見渡した。
(ベンチもあるし…桜は散ってしまってるけど、ほとんどあの時と変わってないわね…)
桜の木の下にしゃがみ込むと鞄からスコップを取出し地面を掘る。
しばらくして、カツンとスコップがタイムカプセルに当たった。
ホッとした表情を浮かべ、お菓子の小箱を15年ぶりに手にする。
箱の表面の花柄は色褪せ、鉄の縁の部分は錆ついていた。君代は箱に付着した土を払う。
君代は小箱を大事に抱えるとベンチに座り、鞄から睡眠薬とペットボトルの紅茶を取り出す。
小箱の蓋をとると、『星のかけら』が七色の鈍い光を放っていた。
(脩くん…もうすぐそちらに行きます…再会の約束は天国でね…)
小刻みに震える手で大量の睡眠薬を口に含むと、一気に紅茶で胃に流し込んだ。
「………」
『星のかけら』を両手にに持つと、自らの最後を待つ。
……と、その時
『星のかけら』が眩しく輝きだした。七色の光は瞬く間に君代を包み込む。
「な…なに?なんなの」
強力な重力が発生したかのように辺りの景色が歪みだす。
「きゃー!」
悲鳴の声を発した次の瞬間、君代の意識は時空を飛び越えた。
「脩くんカッコイイよね」
15年前の同級生…瞳が語りかけてきた。
「は??」
「君代ちゃんどうしたの?」
「え??」
君代は身体が小学生に戻っていることに気がついた。
「一体、なんなの!?」
「大丈夫…?」
懐かしい顔の…まだあどけない姿の瞳が心配そうに君代を見つめていた。
「君代ちゃん?」
「あ…う…うん」
明らかに君代は動揺していた。心は変わっていないが、身体が過去の自分だった。
「君代ちゃんと脩くんって仲がいいから、羨ましいなぁ」
「15年前じゃない!」
全く意味の分からない君代の返答に瞳は困惑した。
君代はパニックに陥っていた。
(夢?天国?あの世?違う…タイムスリップ)
「瞳ちゃん…ごめん…脩に会ってくる」
「うん…じゃぁ先に帰るね」
瞳は首をかしげると手を振った。
君代の心臓がドクドクと高鳴る。
(こんな事が…有り得ない…タイムスリップなんて)
夕暮れの校門の前でしばらくウロウロしながら脩が現れるのを待つ。
「あれ?君ちゃん」
懐かしい声が後ろから聞こえた。15年ぶりの再会だった。
「う…う…」
君代は言葉が出ず、目に涙を浮かべた。
「さっき君ちゃんが見えたから、一緒に帰ろうと思ってたんだ…何で泣いているの?」
脩は君代の側に来て言った。
「う…うぅ…何で死んじゃったのよぉ」
「ははっ僕は死んでないよ!足だってあるし、何言ってるの?」
脩は屈託の無い笑顔で笑った。
君代はハッとした。
“過去を変えることができるかもしれない”
君代は鼻水を啜り、涙を拭いながら言った。
「流星雨の夜は自転車で来ちゃ駄目よ!死んでしまうわ!」
脩はキョトンとした顔で君代を見つめた。
そして、脩が何かを言いかけた瞬間…君代は七色の光に視覚を遮られ、意識が飛んだ。
気がつくと25歳の君代に戻っていた。
ベンチ、桜の木、紅茶、睡眠薬、お菓子の小箱、星のかけら…。
(何も変わっていないか……)
君代は指を口に突っ込み、吐いた。(まだ死ねない…もう一度過去へ戻れるかもしれない…)
星のかけらを両手に持つと願いを込めた。
(過去へ連れていって)
星のかけらが輝きだすと自分の周りの景色が時間を逆行するように動きだし、やがて眩しい光に包まれた。
気がつくと、君代は自宅の前にいた。
「頭が痛い…」
タイムスリップは身体に異変をもたらすのではないかと不安になる。
周りを見渡すと、自転車に乗った男の子がT字路を曲がり、見えなくなった。
「脩!」
(間違いない、最後に見送った姿だ!)
「待って!」
(トラックにひかれる前だ)
呼び止めることができれば未来が変わる。
君代は全力で走りだし脩の後を追った。
10才の身体は思ったよりも早く走れない。
君代はすぐに躓き、道路の小脇に転倒してしまった。
「脩ー!」
掌と膝に擦り傷ができ、目に涙が溢れる。
「ゲホッゲホッ」
気管支が悲鳴を上げる。
しばらくうずくまっていると自転車のブレーキの音が聞こえた。
「君ちゃん!」
自転車から飛び降り、駆け寄ってきた男の子は脩だった。
「脩…よかった…戻って来てくれたんだ…」
「微かに君ちゃんが僕を呼ぶ声が聞こえたから戻ってきたよ」
脩は心配そうに君代の傷を見る。「大変だ血が出てる」
君代は嬉し涙を流し、顔をくしゃくしゃにしてニッコリと微笑む。
(脩の死を回避することができた…)
君代は安堵の溜息をついた瞬間、眩しい光りに包まれた。
君代はタイムスリップに伴う光では無い事に気が付く。ヘッドライトの光が君代と脩を照らす。
「まさか…」
「何で!」
(事故現場はここじゃない!)
驚愕している暇はなかった。迫り来るトラックが自分達の方向へ真っ直ぐに向かって来ている。
「君ちゃん!」
脩は君代を抱き起こそうと手を伸ばす。
「駄目!!」
君代は脩を道の外れへ渾身の力で突き飛ばした。そして、ぎゅと目を閉じて一縷の望みに賭ける。
(未来へ戻ってぇ!!)
「ドン!」
鈍い音が耳に響いた。
脩の顔は絶望に満ち、言葉にならない叫び声を上げた。
「無重力…」
君代はそう感じた。
脳の信号がまったく届かず、身体をピクリとも動かすことができない。
「あぁ…私…死んだのかな…トラックにひかれたから…」
視覚と思考はぼんやりと機能していた。
暗黒の空間にふわりと浮かび、身を任せるように身体の全ての力を抜く。
様々な色の小さな流星が沢山自分の身体の脇を通り過ぎて行く。
「きれい……」
その一つの流星が君代の身体と接触すると、脳に鮮明な映像が眩しい光と共に飛び込んできた。
「?…お葬式…脩…」
その映像はお葬式だった。皆、喪服姿でしんみりとしている。
参列者をよく見ると脩と脩の両親、自分の父親と弟の啓二が居た。
「皆泣いている…」
遺影が視野に入った。
(私の顔…私のお葬式なのね…)
一瞬で場面が切り替わり、学校の教室の映像が飛び込んでくる。
机の上に綺麗な花が置かれ、その真後ろの席では脩がうつむき涙を堪えていた。ふとももの上で握りこぶしを作り、小刻みに奮えている。
先生は教卓に手を付き、暗い表情で口を動かしていた。
映像はそこで途切れた。自分に接触した流星は体を貫通して飛び去っていった。
(未来を変えちゃった…脩は死なずに済んだけど、あたしが死んじゃたみたいだね…)
「なんだか…眠たくなってきた…」
宇宙空間のような無重力の世界に身を委ねる。
君代はゆっくりと目を開けた。
(どれくらい眠っていたのかな…)
ぼやけた視界が次第に鮮明になってゆく。
(はっ!)
(この人は?…誰?)
君代はベンチに横たわり男性の膝を枕にして頭を乗せていた。
真下から見るかぎり20代。首から肩にかけてしなやかにカーブしており男らしさと繊細さを醸し出している。
少し悲しげな表情を浮かべ、視線は遠くを見つめていた。
夜空には流星が無数に走り15年前の約束の日だと察しがついた。
君代はその男性を見つめながら脩の面影を感じていた。
「…脩?」
その声に反応するように下を向き、君代と目を合わせた途端、小学生の頃の脩に姿が変わってしまった。
「あの…」
「気がついたみたいだね」大人びた口調で少し嬉しそうに脩は言った。
「もしかして未来から来た君ちゃん?」
「そう!何故分かるの?」
「僕も同じように未来から来たから」
「え?どうゆう事?」
少し間を開けて脩は答えた。
「君がトラックにひかれて亡くなり、15年経った世界から星のかけらを使って過去を変えに来たんだ」
「あなたは未来の脩?」「そう。君に命を救われた未来から来た」
「私も死んでしまったあなたを助けようとして過去に来たのよ!未来は一つじゃないの?」
脩は首を横に振った。
「そう。一つじゃない。僕も何度かタイムスリップして気がついたよ」
君代は起き上がり、ベンチに座り直す。
「タイムスリップして過去を変えても…元の未来は全く変わらないんだ」
「何で!?」
困った表情で脩に詰め寄る。
「過去を変えた時点で別の未来がそこから枝別れする。新しい平行宇宙が生まれるだけなんだ」
「そんな…」
「君代ちゃんの生きる未来では僕は死んでしまっているんだね…」
脩は残念そうに肩を落とす。
「じゃぁ…今、未来の脩と話しているこの時間から離れてしまえば…もう話す事はできなくなってしまうのね…」
「うん……でもまさか約束した日にお互い15年ぶりの約束の再会になるなんて思いもしなかったよ」
そう言って脩は笑った。
「別の未来で生きるあなたと話しができて、とっても嬉しい…同じ未来じゃないのが残念だけど」
「僕も君ちゃんが生きている未来があることを知れてよかったよ」
流星雨が次第に止みはじめていた。
「そろそろかな…」
「戻ってしまいそうね」「君ちゃん元気でね」
「脩くんも…」
そう言って脩は君代の頬っぺたにキスをした。
天から七色の星のかけらが落ちて来た…と同時に二人の心はそれぞれの未来へと戻っていった。
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