ナイト・ソルジャー

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2026/02/08 12:49(更新日時)

夜の街を行き交う人々を誘いかける女達と男達。
競い合う視線の先に積み上げられたシャンパンタワーは、誰も支える事はできない。
終わらないビンゴとルーレットは、街のどこかで繰り返される。



No.4412784 (スレ作成日時)

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No.1

ネオンライトの中を、高級車が行き交っている。
サリーは、セットしたばかりの、ウェイブがかかった髪を揺らしながら、タクシーから降りた。
今日は、遅刻できないーー
携帯を開いて、時間を確認し、店への階段を上がる。
ヒールに付いた汚れを、入口のマットでこすり落とし、自動ドアをくぐり抜ける。
「お疲れ様です」
ドアの向こう側にいた男の子が、すれ違いに声をかける。
「お疲れ」
別の黒服の子が、サリーにタイムカードを持ってくる。
「今日、早出だったんですけど、リューさんたちが同伴が入ったんで、サリーさん、深夜勤、いいですか?」
「、、、、そのつもりで、メール飛ばしたんでしょ?」
「はい。そう聞いてますけど」
サリーは、ラメ入りのショールを黒服に投げつけて、
「レストルーム、3番、誰も入れないで」と、店の奥へと、足早に、ヒールの音を響かせて行く。

No.2

まだ薄暗く、オリーブグリーン色に沈んでいる店内で、顔なじみの客が、面白がるような表情をサリーに向ける。
そのうち、サリーのヒールのかかとが、大理石のフロアの上で、止まった。
(マスカラ、忘れた、、)
唇をかみしめて、レストルームのドアを開け、スツールに腰をおろす。バックを放り投げて、ポーチを取り出し、アイペンシルを探す。
鏡に向かって、いつもより濃いめに瞼(まぶた)をなぞり、じっと、瞳を見つめる。
手をのばして、タイムカードを引き寄せ、その横に置いてあるシフト表に目をやる。
女の子たちの名前の一番上に、ミミが載っている。
(また、あの女、、、、)
ドア越しに、最近流行りの音楽が流れてきた。
ラテン系のビートの中で、うるさい常連客たちが奇声をあげているのが、聞こえてくる。

No.3

「ミミちゃん、今日、まだ?」
「あ、すいません、まだ着いてません。サリーさんなら、今、準備中なんですけど、、」
激しいリズムの曲のはずなのに、客と、店の男の子の会話が、しっかりと耳に飛び込んでくる。サリーは、イライラして、ドレッサーの台の上に、シフト表をたたきつけた。
シフォンのドレスの胸元を、少し大きめに開いて、細い香水のボトルを右手に持ち、首もとにスプレーする。
レストルームの中が、ラベンダーのような、かすかに妖しい香りに包まれていく。

No.4

髪の毛のウェイブのかかり具合も、ドレスのしわの寄り方も、なんだか微妙に気に入らない。サリーは、思わずため息をつく。
(今日は、絶対に、負けられない、、、、!)
きつい目で鏡を見据え、立ち上がって、全身をざっと点検する。
買ったばかりの、ブルーとピンクの色が混じり合ったような、光沢のあるドレス。胸の中央には、一例にキラキラとダイヤモンドのように光る小さな飾りが、深い谷間を彩(いろど)っている。ウエストを、きつめに細いリボンの付いたベルトで結んでいるから、ゆらゆらと揺れるドレスのすその効果もあって、鏡に映(うつ)すと、実際のスタイル以上にボリューミーに見える。

No.5

手ぐしで、髪の毛のウェイブを整えなおして、サリーは、ゆっくりと鏡に向かって微笑んで、もう一度、リップグロスの光り具合を確かめた。
濃いレッドのバックを手に取り、レストルームの廊下のロッカーに入れて、ドアの近くにいた黒服の男の子に「フロントに預けておいて」と、手渡した。
店内には、さっき入ってきた時よりも大勢の男たちがいる。
ソファーに座っている男たちの傍(かたわ)らの中には、ネコのように甘え声を出す女の子や、もたれかかる女の子に腕をからませようとしている男もいる。まだ学生のような顔立ちの男の子たちが、タキシードを着て、所狭しと生けられた花々を、さりげなくチェックしている。
歩く時に、枝葉や花粉がドレスやスーツに引っかからないようにだろう。今までに何度も、ドレスの端が破れたとか、スーツにしみができたとか、クレームがついた事があるのだ。
注意を怠(おこた)って、店での立場を悪くするわけにはいかない。
男の子たちが、店内のインテリアや準備に気を配るのは、彼ら自身の身を守るためなのだ。
「サリー」
歩いていると、不意に、後ろから呼びかけられた。
ふり向くと、伸びかけた髪を無造作にセットし、地味なようでしっかり高価そうな濃いグリーンのジャケットを着た男が、サリーに片手を上げている。

No.6

「、、、、遅いじゃない」
ソファーに座っている男の所まで引き返し、見下ろしながら言うと、
「店の片付けが、ちょっと長引いちゃって」
と言いながら、男の右手が、テーブルの上のグラスを取る。
「今日はゆっくりできるの?」
「うーん、どうかなあ」
男の胸元には、細い金色のチェーンがかかっていて、その下は、Vネックの白いランニングシャツだ。
「お前はどうなの?調子は」
「私はいつでも絶好調よ」
「ふーん」薄笑いを浮かべながら、見定めるような瞳で、男は、サリーを見つめる。
「ま、せいぜいがんばれよ、サリーちゃん」
「わざわざ冷やかすために呼び止めたの?私だってヒマじゃないんだからね」
「知ってるけどさ」
男は、ビンテージ物らしいジーンズのポケットを探る。タバコを取り出すためだろう。サリーは、冷ややかな視線を男に向けて、「じゃ、また後で」と、その場を立ち去る。
「あ、サリー来てるじゃん」という声と、華やかに肌を露出した色とりどりのドレスの女の子たちの一瞥(いちべつ)が飛んでくる。

No.7

さりげないロココ調のカウンター付近で、何か準備しているリーダー格の男の子に、サリーは近づいていく。
「お疲れ」
「あ、サリーさん、お疲れ様です。今日もよろしくお願いします」
「あのさ、ミミって、もう入ってるの?」
「ミミさんですか。今日は、ダブル同伴ですね」
ダブルで同伴というのは、この店では、かなりトップクラスの客を持ってないとできない事だ。
「、、、、また?あの娘(こ)、最近店でちゃんと仕事してるの?」
「指名は、ダントツですね。サリーさんに、迫っちゃってますね」
ウェイブがかかった髪をかき上げて、かすかに眉をしかめ、サリーは、ルームに向かう。
ルームの中は、猫足の長いソファーが何台か置いてあり、指名を待つ女の子が数人、しゃべったり、ネイルのケアをしながら座っている。
一番奥のソファーにサリーが座ると、ルームの中に、かすかな緊張が漂(ただよ)った。
一瞬の後に、女の子たちは、再び客のうわさや、最近はまっているアーティストたちのことについて、しゃべり始める。

No.8

サリーは、一人、ソファーに座って、ぼんやりと無意識に金の細いブレスレットをもて遊びながら、今夜来る予定の客のことを考えていた。
それぞれの固定客、不定期に顔を出す客、皆それなりに大手で働いているので、週末ともなるとサリー目当てにやって来て大枚をはたいていくが、今日は、店側の事情でサリーの入る時間帯がズレたのだから、その分、浮いた時間をどう埋め合わせるかだ。

No.9

早く出て、景気のいい客に、どんどん酒を抜いてもらおうと思ってたが、予定より時間が伸びると、短期決戦というわけにもいかない。
近頃どんどん指名客を増やしている新人の女の子たちに、がっちりとつかまれている客層を、どう動かすかーー
(あーあ、学校に行ってる頃は、数字を出す授業なんて、かたっぱしからサボってたのに、今になってめんどくさい計算しなきゃいけないなんて、どーゆうことよ)
ちらほら、女の子たちが指名で呼び出される。皆、奥に座るサリーに遠慮がちに、でもキラッと瞳を輝かせて、ルームを後にする。

No.10

キラキラとデコレイトされた白い携帯を開けたり閉じたりしながら、サリーは、「そろそろかな、、、、」と、エメラルド色の掛け時計を見上げた。
「今日はのんびりしてるじゃん」
同じ頃に店に入った女の子が、声をかける。いかにもギャル風に金髪をなびかせて、胸元から肩まで開いたドレスを着ているが、こうしてルームの中で見ると、新人の女の子たちとの年の差がくっきりとしている。
「今のうちにね」
「あんたは、あせんなくても、セレブ客つかまえてるしね」
サリーは、黙り込んで答えない。タバコがなかったか、小さなポーチをのぞき込んでいる。

No.11

「そっちこそどうなのよ?」
「あたしねえ、そろそろやめよっかな」
「そればっかり言ってるよね」
「彼氏とさあ、ちゃんと一緒に暮らそうかなぁと思ってんのよ。この店での指名は、いいとこほとんどあんたに持ってかれてるし。あ、それとあの子、ミミね」
サリーは、表情を変えない。下手な挑発に乗るつもりはないのだ。
その時、ルームのドアが開いた。
「サリーさん、ご指名です」
サリーは立ち上がり、「じゃ、お先」と、女の子たちに告げると、男の子に先導されてフロアへとヒールを踏み出す。

No.12

奥まったテーブルに着くと、男の子は、「お待たせいたしました」と頭を下げ、立ち去る。
「なあんだ、社長サンたちかあー、でも、よかったあ、今夜もよろしくお願いしまーす」
声のトーンを上げてあいさつし、中年の男性の横に、ふわりと、サリーが座る。
「いやあ、サリーちゃんがいるって聞いてさ、お、ラッキー!って思ってね、最近ついてるよな。他のテーブルに取られなくて良かったよ」
そう言いつつ、男性は、高級そうなシャツに包んだ体を、サリーにすり寄せてくる。

No.13

「社長サンこそ、景気いいよねえ、毎晩来てるんでしょ?いろいろ女の子たちから聞いて、ちゃんと知ってるのよお」
そう言いつつ、サリーは、わずかに少しずつ体をずらして、テーブルに向き直り、酒やオードブルの入り具合を、さりげなくチェックする。
社長と、その取り巻きの社員たちは、5、6人で、キャビアやらサーモンやらチーズやらを取り合わせたカナッペをつまみ、シャンパンやウィスキーを飲んでいる。若い社員に混じり、見慣れない中年の男性もいるので、たぶん、商談相手だろう。

No.14

「こんばんは」
サリーがあいさつすると、男性は、頬をゆるめた笑い顔になった。
「うわさのサリーちゃんかあ、、素敵な人ですね。社長さんの好みにピッタリじゃないですか」
「そう。俺も、いろんな店まわってきたけどさ、このサリーちゃんが、すごいのよ、指名のサービスが。120点プラスかわいい女の子もついてくるからね。仕事抜きで飲みたいんだけど、これでまた、ガードが固いったら」
「やあだ、私、かるい女じゃないんですよ」
「また、そんな事言って、、、、夜遊びしてるの知ってるんだよ、いろいろとこっちにも情報が入ってくるんだから」
そう言うと、社長の顔が、わずかにくもった。
「あれ、あのグラスないの?」
「これですか?」ヘルプの女の子が、小首をかしげて、キラキラと光るネイルの手でシャンパングラスを差し出した。
「いやいや、そんなんじゃなくてさ、、、、輸入物のグラス、あったじゃん、あれ、他のテーブルで使ってるの?」
「このあいだ、ドンペリ飲んだ時のですか?」

No.15

サリーが言うと、社長が、不機嫌そうに答える。
「そう。確か、サリーちゃんだったよねえ?レア物だから、めったに出ないって言って、一気飲みさせられてさ。おかげで、二日酔いになっちゃったよ、久しぶりに」
「ちょっと待ってね」
サリーが立ち上がり、円柱形の柱の影に入って携帯を開こうとすると、黒服の男の子が、通りすぎていこうと、目の前を横切った。
「ちょっと」サリーが呼びかけると、
「はい?」男の子は、前髪を揺らしながらふり向く。

No.16

「直輸入のグラスセットあったでしょ、あれ、今どこにあるの?」
「あ、グラス類は、マネージャーの指示で、他のところに渡っちゃったんですけど」
「他のところ?どこよ?」
男の子は、言いにくそうに、最近開店した新しい店の名前を告げた。
「どういうこと?私がちょっと休んでる間に、いつの間にそんなことになってるの?誰が勝手に決めたのよ?」
「それが、、、、 ミミさんの常連の固定客で」
また、あの女か、、、、 そう思いながら、サリーは、男の子に替わりのグラスを持ってくるように指示して、テーブルへと引き返した。

No.17

「ごめんね、社長サン、今、ちょっと出払ってるみたい」
「出払ってるって、あのグラス?サリーちゃん、このあいだ、オレとカンパイしてくれたじゃない、仕事の成功を祝ってって」
社長がタバコを取り出し、ヘルプの女の子が黙って金色のライターを差し出す。
「うーん、そうなんだけどお、でも、あのグラス使いたいって人、他にもいるのよね」
「サリーちゃん、オレが来ない間に、浮気してるんだ?」
「えー?浮気してんのは、社長サンのほうでしょー?このあいだ、他の女の子と歩いてるの見たわよー?」
「うーん、わかった。じゃ、ジャンケンしよう。オレが勝ったら、席替えして、サリーちゃんと、そっちのかわいい彼女の間ね」
ジャンケンは、グー対パーで、サリーが勝った。女の子たちが、歓声をあげる。

No.18

「くっそぉー、オレも弱くなったなぁー」
社長は、シャンパンを一気に飲み干した。
ボトルを運んできた男の子が、「サリーさん、ご指名です」と、耳打ちする。
「ごめんね、社長サン、私ちょっと、別のところに行ってくるから」
「あっそ。じゃ、このボトル、誰と飲もうかなぁ」
ヘルプの女の子たちが、微笑んで、次々とグラスを手に取る。それを横目で見ながら、サリーは、別のテーブルへ、ヒールを鳴らしながら歩を進める。

No.19

「こっちこっち」
いきなり声をかけられて、ふり向くと、ダークグレーのスーツにメガネをかけた男が、手を振っている。
「、、、、あれ、久しぶりですねぇ」
「いや、ちょっとサリーちゃんにプレゼント渡そうと思って、遅めに来たんだよね。今日は店にいるって聞いたからさぁ」
「プレゼント?」
にっこりと笑って、サリーがソファーに座ると、男は、派手なデザインの包装紙にくるまれた箱をカバンから取り出し、テーブルの上に置いた。
「パチンコで、一人勝ちしたんだよね」

No.20

「うわー、すごーい、ちょっと開けていい?」
「どーぞ」
テーブルの女の子たちが、じっと、包装紙をガサガサと開くサリーの手元を見つめている。
中から出てきたのは、ブランド物の財布と、香水だった。
「、、、、ありがとう、えー、でも、もらっちゃっていいの?だいぶ元手(もとで)がかかってるんじゃない?」
「いや、そーでもない。今回は、楽勝だったし。ついてる時って、何やってもついてるんだよね。今度はスロットやってみようかな」
「スロットねぇ、いいじゃん。わー、でも、この、プレゼントをくれる気持ちが、うれしいよねえ」
「うん。今日、ミミちゃん来てないみたいだし。サリーちゃんなら、大事に使ってくれるんじゃないかなぁと思って」
サリーは、ちょっと眉をしかめた。あきらかに、ミミとサリーのどちらがNo.1になるか競わせて面白がっているパチプロ男に、微妙にイラついた。

No.21

「ミミはねぇ、ダブルで同伴入ってるから。モテモテなのよ」
「へー、すごいねえ。サリーちゃんと同期くらいでしょ?」
「私のほうが、ずーっと上なのよ。年も、勤続年数も。
あ、そうだ。なんかフルーツでも食べる?景気いいんでしょ?」
「じゃ、フルーツ食べたい人、手ぇ上げてー」
女の子たちが、笑いながら、「はーい」と、ネイルで彩(いろど)られた片手を上げる。
その時、「おーい、サリー」と、隣のテーブルから声がかかった。
「何か欲しい物ある?」
サリーがふり返ると、薄く細いサングラスをかけた、青いワイシャツの男と目が合った。

No.22

見ると、隣のテーブルの上には、様々なラッピングのかかった小箱や袋がたくさん置かれていて、それをグラスやオードブルがずらりと取り囲んでいる。
よくわからないローマ字が印字されたTシャツや、その上に派手なグリーンやオレンジ色のタンクトップを着ている男たちに、ヘルプの女の子たちがひとりずつついている。以前から、よく見かける、どこかのデザイナーズクラブのメンバーに違いない。
男たちの視線と共に、女の子たちの鋭い視線が、一瞬、サリーに向かって飛んできた。

No.23

「そうねぇ、、どれにしようかな、一番かわいいのがいい!」
キラキラと輝くリボンや、チョコレート色の長方形の箱、淡い色のセロファンでくるまれた包み、そういう物の中から、青いワイシャツの男は、真っ赤なラッピングの正方形の箱を取り上げて、サリーに軽く放り投げた。
「はい。どーぞ」 
「ねえ、あたしは?」ヘルプの女の子が、よく響く甘えた声で尋ねる。
「どれでもいいよ。どれが一番好き?」
「あ、私もそれがいい!」
「こっちに色ちがいでもう一個あるから」
隣のテーブルの喧騒を横目に、サリーが、「開けちゃっていい?」と、パチプロ男に聞いて、包みを開くと、箱の中には、薄い水色の綿に埋もれた金色のネックレスが入っていた。
「また、貢ぎ物が増えたねえ」
グラスをかたむけながら、パチプロ男が言う。サリーは箱を閉じ、「おうちに持って帰って、大事な宝物にするの」と、笑った。

No.24

男の子がテーブルのボトルを取り替え、サリーが最初の一杯に口をつけようとしたその時、入り口の扉のあたりがざわめきだした。
「お、ミミちゃん、やっと来たな」
誰かの声がする。思わずサリーが扉に向き直ると、金色がかった茶髪で、端正な顔立ちの男にエスコートされたミミが、微笑みながら、薄いストールを、黒服の男に預けている。
「こっちにおいで」
黒いメガネをかけた男の呼びかけ。それに愛想よく頭を下げ、ミミは、テーブルのすき間を通って、中央の白く輝くフロアへと歩き続ける。

No.25

「あれ、銀座で売ってたドレスよね」
ヘルプの女の子が、隣に座っている子に耳打ちする。
「一番出てるやつ?」「そうじゃない?私もあんなの着てみたーい」「でも可愛いよね、ミミさん、今日うれしそう。さすがIT同伴。光り輝いてるよね」
ソファーの中央で固まってしゃべっている女の子たち。
サリーは、なんだかイラついた様子で、「ちょっとごめんね」と、男たちに言い残し、テーブルを後に、席を立った。

No.26

レストルームで化粧を直し、青色のシフォンのすそをなびかせて、電機屋の社長の席へ行こうとすると、
「サリー」
と、呼び止められた。
グリーンのジャケットの男が、ヘルプの女の子たちの中で、ウィスキーの水割りを飲んでいる。
「ご指名?」
「うん。お前、No.1狙ってるんだろ?ちょっとオレの所でゆっくりしていけよ。金入ったからさ、No.1取らせてやるよ」
「そう?そういう事だったら、入らせてもらおうかな」
サリーがテーブルに近づくと、カラフルなキャミソールやドレスを着たヘルプの女の子たちが、固まって席を空けた。

No.27

「サリーさん、カクテルどうぞ」
女の子の一人が、グラスをサリーに差し出す。
カクテルを飲みながら、横目でミミのテーブルの様子をうかがうと、派手な歓声と共に、ワゴンに載ったドンペリや入荷して間もない輸入品のフルーツが、セットで運ばれていくのが見えた。
女の子たちが、客の男たちの話に相づちをうちながら、楽しそうに笑い声をあげる。

No.28

歓声が上がる方向を見ると、ミミが、外国人のような髪色の男性と、流行中のダンスを、左右対称で踊っている。
その周りで、女の子たちが、一斉に2人をスマホで撮影し始め、ネクタイをゆるめだした男性たちが、「すげー」と言いながら、次々とダンスに加わり、スーツの上着をソファーにかける。
誰かの上着が、ソファーからすべり落ちた。

No.29

「、、、あと、どれくらい時間あるの?」
サリーが、男に尋ねる。男は、おもしろそうに笑いながら、
「オレ?今日はオールでいけるよ」と、言う。
「じゃ、もう一本頼んでいい?」
「どーぞ」
「ちょっと!ボトル追加!」
サリーは、男の子の1人に手を上げる。小走りで去った男の子は、やがて、シャンパンのボトルを持ってきた。

No.30

もうすでに何杯もあけているような男は、全く酔ってない表情で、チラチラとサリーとミミのテーブルを見ている。
「、、、なんか、盛り上がらないよねえ、もうちょっと、派手にやろうよ!」
「ミミの所は、豪華な顔ぶれだよなあ」
「そう?私、あの子のやり方って気にくわない。No.1なんてどうだっていいんだけどさ、なんか、プライドみたいなものがないような気がする」
「またそんなわかったような事言って。お前だって入ってすぐの頃は、あの手この手で指名取りまくってたじゃん」
「私は私なりのプライドがあるわよ。人の客に手を出さないとかね」
男は、黙ってタバコを取り出し、サリーはライターでそれに火をつけた。
「ほら、イッキ、一気!」
甲(かん)高い声で、男たちがはやし立てる。若い男の子が、ネクタイをゆるめながら、グラスの酒を飲み干している。

No.31

大きな拍手と歓声の中で、ミミは、嬉しそうに、隣に座っている男に向かって笑いかけている。
「あの娘(こ)、一点物のダイヤ買ってもらったらしいね、羽振りいいよなあ」
タバコの煙を燻(くゆ)らせながら、男が言う。
サリーは、「IT企業が何よ。ブランドのメーカーしか英語がわからないやつに、酒の原価がわかるかっつーの」
と、つぶやき、イライラして、「ちょっと!誰かいないの!」と、男の子を呼ぶ。
グリーンのジャケットの男は、タバコを灰皿でもみ消した。
「何?お前、もう酔いが回ってんの?で、いったいどうしたいんだよ、言ってみろよ」
「、、、、もうちょっと、ここで様子見てる」
サリーは、シャンパンを一息に飲む。
今夜、No.1になれるかどうかわからない。でも、戦いは続いている。

No.32

いつか、この世界も崩れていくことは、なんとなくわかっている。こんな、熱気の渦の中の浮かれ騒ぎが、いつまでも続くはずはないから。
それでも、やっぱり負けられない。まだ、引いてしまうわけにはいかない。
男は、じっと、グラスをかたむけながら、サリーがどう出るかを待っている。
ミミが、ゆっくりと立ち上がり、男たちに酒を注いでまわり、ふと、サリーに気付いて、笑いかけてくる。
サリーは、動じない。じっと、向こう側のテーブルを見据えながら、以前一緒に飲んだ男たちの酔い様を眺めている。
横に座っている男が、片手を上げて、黒服を呼んだ。やがて、サリーのテーブルに、二本目のドンペリが運び込まれる。

No.33

かたわらの女の子たちは、ドンペリをあけながら、ちらちらとサリーを見つめている。
負けられないーー サリーは、自分に言い聞かせる。
髪をかき上げて、グラスを手に取る。
「乾杯しようか」
男が、じっと、サリーの指先を見つめながら、言う。
はしゃぎ始めた女の子たちが、「サリーさん、カンパイしましょう!」と、次々とグラスを手に取り、キラキラと瞳を輝かす。
サリーは、にっこりと笑って、「じゃあ、このお店に来てくれたお客さん達に、愛を込めて、乾杯!」と、グラスを上げる。
ざわめきの中で、ふと、ミミの鋭い視線が飛んできた。
夜の宴(うたげ)は続く。女の子たちは、みんな、ほろ酔いの中で、戦いの行方を見つめている。


〈END〉

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