白百合の聖女

レス5 HIT数 478 あ+ あ-


2022/03/08 03:48(更新日時)

刺激が欲しい。
何かを変えるような、そんな刺激が欲しい。

なにも俺は、取引困難な危険なドラックが欲しいと言っているわけじゃない。
それでも、刺激を得ることはそう簡単ではないのだ。俺が唯一情熱を注げたガールズラブ(百合)も、漫画だけでは妄想だって尽きてしまった。
コンビニで、万引きをすることだって当然の刺激を得られるだろう。だが、違う。俺が求める刺激とは決定的に違う。
何が違うのか。それは、命だ。
俺は、俺自身の命を賭けての刺激が欲しい。
こんな、命を粗末に扱うような願いは、神の手によって叶えられることはないだろう。
なのに――


「どうして俺、こんな場所にいるんだ?」


この物語【白百合の聖女】は、刺激を求めた男子高校生がなんやかんやしてなんやかんや周りの人たちに大勘違いされて聖女と讃えられる物語である。
なお、続くことは(多分)ある。

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No.3488648 (スレ作成日時)

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No.1

俺の名前は、前田 悠人(まえだ ゆうと)。ごく普通の高校二年生だ。
そして、今まさに俺は、、、
『迷子!』になっている。
この場所が、中世ヨーロッパの街並みに似ていることだけは分かっているが、ここが正確にどこなのか、一ミリも分からない。
俺は、道の真ん中で脳内をフルカンストさせ、ひたすらに、考えた。
結果、答えは出なかった。

当然のことだろう。
動揺してたこともあるので、ここに来た少し前の事さえ思い出せない。
しかも、問題はもう一つあったのだ―――
近くのショーインドーを鏡代わりにして、自分の今の姿を確認する。

「女の子――に、なってる?」

自分の声のはずなのに、どこか気味が悪い。
想像してみてくれ。自分の声が、ある日突然、5オクターブほど高くなっていたら違和感しかないだろう。そんな感じのことが、今まさに起きている。
ショーインドーから除いた俺は、ボロボロの布切れを一枚纏った、白髪青眼の訳あり美少女になっていた。
「おいフィシア、待てぇ‼」
後ろから、野太い叫び声が聞こえてくる。
「ん?はっ?!」
男は、、、こちらに血眼でとっしんしてきていた。
うおぉおぉ、戦闘か! 戦闘だ‼
当分の間の刺激は、吸収できるだろうな、と、前田悠人――もとい、フィシアは悟った。

No.2

やべ、負けちゃった。
てへっ。と、心の中で笑ってみせるが、笑い事ではない。
フィシアは、負けたのだ。しかも、現在進行形で町の真ん中で暴力を振るわれている始末である。

屈伏そうな男が突進してきた時、前田は勝ちを確定としていた。理由は、前田の前世に関係があった。
前田の前世は、ごく普通の高校。それ自体は、正解なのだが、その認識は前田としての認識であった。前田が生前得意としていたことは、人を殴ることと攻撃を交わすこと。
これだけ聞くと、どれだけのヤンキーだったんだ!と、思うかもしれないが、違う。
前田は、ヤンキーではなく、問題児だったのだ。
冒頭で語っていたように、前田は『刺激』というその物が好きなのだ。
刺激、と、聞くと性や味覚(だいたい三大欲求)を思い浮かべるだろう。だが、前田には、人間の三大欲求が欠乏していたのだ。
性行為は勿論のこと、慈癒を生まれて一度もしたことがない。して食事もこだわりが全くなく、カロリーメイト三昧生活を送っていた。もしかしたら、刺激さえもらえたら食事は落ちているゴミで済ませるかもしれない。
睡眠時間は、大体三十分程。これだけ聞くと、前田はショートスリーパーなのか、と思ってしまうだろうが、違う。期待してしまった皆様すまない。前田は、睡眠時間が短いことから、脳の働きも能力も、劣っていた。
そんな前田の『刺激』の前提条件は、これまた冒頭で言ったように、命を掛けたものであることであった。
そんな、命はどうでもいいと言うような前提条件の前田だからこそ、危機感が欠如していたのだ。
幾度、拉致や誘拐、銀行強盗との遭遇、ネットで薬の密輸を頼まれるだの、数えたら切りがないほど事件に遭遇してきたか。
だが、なら前田は別に騙されたり危険なめに遭いそうになっただけじゃないの?何で戦闘が得意なの?(だけ、ではないだろう、などの異論は受け付けない)と疑問に思うだろう。
だが、違う。 (違う。が多い気がする?、、、、、、気にすんな。)
かくして、真相は――前田の刺激を求める好奇心にあった。 ・・・
前田は、危機感がないとはいえ、自分の力で頑張れば脱出できそうな事でもわざと引っかかったりした。
特に、銀行強盗がちょうど現れたときには、自ら人質になりた、、、、、、なると、言い放ち、強盗犯自身が怖がっていた。強盗犯が「撃つぞ!」と、怖いもの知らずに

No.5

銀行内を歩き回っていた前田に叫ぶと、前田は嬉しそうな顔で一言、、、、、、「来いっっ!」と両手を広げて受け止めるポーズをし、叫ぶように言ったのだ。そんな前田の異常な行動に驚き、というより恐怖で数分間動かなくなった強盗犯。そのほんの数分の間に警察が到着して突入し、無事に強盗犯は、逮捕された。
前田の狂気的な死への刺激好奇心が、皆を救ったのであった。

その後、前田は事情を聞いた警察官からこっぴどく叱られた。だが、前田の行動を自己犠牲として勘違いした警察官や銀行員たちが、前田に感謝状を贈呈したのだった。

そんな事を毎回、毎回、危険に遭うたび繰り返していたら、当然乱闘だって起こる。よって、前田は戦いが得意になる訳だ。

その度に、様々な勘違いを起こしてしまったが、否定するのも面倒くさいので、首を縦に振り続けていた。

ここまでの話は、前田の事情。

今、自分は前田ではない。 無力で軟い女児、フィシアなのだ。
フィシアの生活状況を知らないにせよ、ショーインドーでフィシアの姿を確認した時、どれだけ貧弱な身体をしているのだろう、と、思った。
腹回りは骨が浮き立っており、腕なんて、何もしなくても折れそうなほど細くて脆く感じる。
だから薄々気付いていたのだ、フィシアの体で挑んだとしたら勝算は0%だろうな、と。
なら何故逃げなかったのか。もう、ここまで前田の性質を理解しているなら、わかるだろう。
前田にとって、この機会はピンチではなくチャンスなのだ。

――刺激を得られる、絶好のチャンスだ。

前田は、今まさにそれが違う形で叶って、男に殴られながらも、不敵に微笑んでいた。

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