明日も泣くだろう
普通に高校卒業時まで行くと思っていた
まさか登校拒否になるなんて
16/05/31 00:46 追記
*現在進行中、実話です、実在する人の名前は仮名です。
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「ママー行ってきまーすッ。」
晃太郎が玄関で叫んでいる、ママは我にかえり涙を堪えて玄関へ急ぐ。
「晃太郎…行ってらっしゃい」
わざと大きく手を振る。
しっかりしなきゃ…。
午後は沢田が来る…。
何を話そう、慎太郎をレールに戻すため沢田だってきっと協力してくれるはずだ。
「慎太郎…お腹空かない?」
トイレから出てきた慎太郎に声をかける
「卵焼き作ってあげる…。」
って…このセリフはママか言っているのではない、慎太郎が言っているのだ。
慎太郎は料理が好きだ、特に卵焼きは、くるくる巻きながら上手に作れるのだ。
「大丈夫なの?今日はママが作ってあげるよ」
「いや作る」
最近の慎太郎は無口で、何か聞いても、うん…と、首をたてに振るか、嫌な時は横に振るかそんな感じだった。
それが自分から卵焼きを作ると言い出した事にママは喜びを感じた、以前なら普通の事なのに。
ピンポーン
表れた沢田は、グレーの背広にスニーカーを履き、黒の大きいワゴン車が背中超しに見えた。
お互いに一礼し
ママはなにから話そうかと思案していたが…
沢田は開口一番
「慎太郎の出席日数のことなんですが」
「え?」
慎太郎は元気ですか?
じゃなくて出席日数??
「あ、あの4月の欠席理由は胃腸炎と言うことでいいですよね?5月はなるべく登校させて欲しいんですよね…。それで」
沢田が言い終わらないうちにママは即効キレた…
「ちょっと待って下さいよ!慎太郎の体の心配より出席日数のほうが大事なんですか?!!あなたは何を考えてるんです?!!」
沢田は…
あぁ…またやっちまったみたいなちょっと困った顔になった
「慎太郎がどうして学校へ行けなくなったか わかってるんですか?!!」
情けない…
六年生の担任としちゃあまりにも、情け無さすぎだろう…。
沢田は眉間に深いシワを寄せて考え込み、そして自分を守るかのように腕を組んだ
「出席日数なんて、そんなのどうでもいいです!!、慎太郎のことは心配じゃないんですか?!!」
ママの怒りは止まらない、2LDKの、リビングに居る慎太郎にママの怒鳴り声は筒抜けだろう。
そして、ママの声は開いている玄関ドアから三棟あるアパート中に響き渡った。
「先生は何年教師をしてるんですか?慎太郎のように学校へ行けなくなった子供の経験は今までになかったのですか?…」
いや、そんなことより、どうして慎太郎が学校へいけなくなったか、その原因が自分にあるということをこの人は分かっているのか、それを言うべきだった。
そして、それでも教師として自分のやり方に信念があるならそれを、こちら側が納得するように説明して欲しい。
そうママは自分の言いたい事を頭の中で整理していた。
すると沢田の口が開いた、ママはその言葉に集中した。
「…20年になりますかねぇ…」
は?
なにが20年?
沢田はママが質問した、教師をして何年になるかってことをずっと考えていたのだ。
ママは唖然として、さっき整理していた言葉は頭から消え去った。
すると
「あの慎太郎は?どうしていますか?」
部屋の奥を覗き込むように沢田が言った、やれやれやっと慎太郎と言う言葉が出た…。
「中へ入って下さい…。」
ママはムッとしたまま沢田を中へ迎え入れた。
沢田が来る事を予想していただろう慎太郎は、ソファーから降りて、テーブルの前で正座していた。
そして沢田を見る目は大きく丸く、口は半開きになっている、慎太郎は驚いた時によくこんな顔をする。
「よう慎太郎、学校来いよ、慎太郎の席が空席になってると先生も淋しいんだよなぁ…」
最初からそういう事を言って欲しかった…。
慎太郎は二度ほど、うんうんとうなずき、《先生なんか大嫌いだ!アイツの話ししないで!》という態度ではない。
「慎太郎、勉強が遅れたら先生が放課後いくらでも教えてやるから心配すんなよ…なッ…。」
慎太郎はうっすら笑みまでうかべてうんうんとまた二度ほどうなずいた。
「みんなみたいにグッチーとかって先生を呼んで慎太郎も寄って来ればいいんだよ…なッ…。」
慎太郎はひたすら頭を縦にうなずく。
慎太郎も意外に素直だし、これは仲好し先生と生徒の会話ではないか…
呆気にとられながらも、慎太郎は単純な性格だし、これで沢田を許せたら、ひょっとして案外簡単に学校へ行けるかもしれない…そうママは期待した。
怒りは即効で冷めて行き、もう余計な事を言うのはよそう、言わないで良かったとさえママは思った。
「じゃ慎太郎月曜日待ってるぞ!」
慎太郎はニッコリして「うん」とうなずいた。
ママは玄関で沢田を見送り
「先ほどは失礼な事を言ってたいへん申し訳ありませんでした。」
と謝罪した
沢田は上機嫌で帰って行った…。
月曜日から慎太郎は学校へ行く、暗いトンネルにやっと光が差し込んだ瞬間だった…。
外に出てババに電話する
…家庭訪問どうだった?…
やはり心配してたのかすぐ聞いてきた。
早口で一部始終話す
「糞野郎だよ、沢田のこと糞野郎だよ、びっくりしちゃって」
…アハハ、慎太郎だって男の子だし、乱暴な言葉ぐらい言うべ…
そう言えば戦いゲームなんかでは、死ね!殺す!この野郎!とかよく言ってた。
「でも、沢田と意気投合だったんだよニッコニコして、それが早く帰れ糞野郎だし…。」
…アハハ慎太郎は、外面良夫君だもの、先生にも愛想よくしたんじゃないの?…その方が早く終わるとかってさぁ…
外面良夫?
なるほど慎太郎は、初対面の友達とか大人には、物おじしないで自分から明るく声をかけて行くタイプだった
「そうか、慎太郎は外面良夫なんだ…」
…そうだよ、あまり考え込むな!…
そんな時カチャ…と玄関ドアが開き、慎太郎が顔を出した
「ママ誰と電話してるの?」
最近慎太郎はママとパパの会話や電話に敏感になっていた
「ババだよババ、変わる?」
「うん」
少しなにやらババと話して
「ママ明日イオン⚪⚪に行こうってババが言ってる」
「え?慎太郎は行きたいの?」
「いきたい映画見たい」
「そう、じゃ行こう!」
明日は土曜日で仕事も学校も休みだ、そうだこんな時こそ気分転換しなきゃ…。
朝になった、いい天気だ。
車で2時間ほどの大型ショッピングモール、イオン⚪⚪へ行く
パパは仕事で行けないから、
ママが運転で車酔いの激しい慎太郎は助手席、後部座席にはババと晃太郎が乗り込んだ
慎太郎は顔の表情は常に暗く気持ち悪さも腹痛も続いていたが、出かける誘いを断ることはなかった。
今思えば自分を変えたいと慎太郎なりに必死に何かを探していたようだ。
だが楽しい事に集中している時はお腹の痛みは忘れて、まわりも賑やかな雰囲気になるのだが、ふと我にかえるとまた慎太郎はお腹が痛いと訴えた。
その繰り返しに回りも神経を使った…。
後部座席で弟の晃太郎がババの耳もとで囁く
「ババ、慎ちゃんの前で学校とか先生の話ししたらだめだよ、慎ちゃんお腹いたくなるからね…。」
「そうなんだ…分かったババ気を付けるからね…。」
晃太郎はニッコリうなずく。
晃太郎は四年生、兄の慎太郎とは違って身長は普通だが痩せていて、足も手も顔も小さくてまだまだあどけない
その晃太郎が兄に気を使っている、けなげで痛々しいとすら思うが、こんなに晃太郎は大人だったのかと困惑するババだった。
見たい映画もなくて、子供達はゲーセンへ向かう
元気に歩く晃太郎とは対照的にその後をフラフラ慎太郎が頼りなくついて行く
人と人が重なり二人の姿が見えなくなるまでボーっと見送るママとババ
「たまに服でも見たら?」
「欲しいものいっぱいあったはずなんだけど、なぁんもいらないなぁ…」
独身の頃はお洒落して流行りのブティックで働いていたママ…
今は普通のお母さん。
結婚してそれなりに幸せに暮らしてきた11年
慎太郎の不登校で人生最大の試練に遭遇していた。
楽しそうな家族連れや若いカップルが溢れるモール内
自分が一番不幸なんだろうなぁと思えて涙がでそうになった
「なんか飲むか?」
ばばがママの肩を叩く
「うん」
客の少ない感じのいいカフェに二人で入る。
「どうにかして、慎太郎を学校へ戻したいよねぇ…前みたいに…」
目には見えない何かにすがるようにバハが言う
「慎太郎はホントは学校へ行きたいのよ…普通にみんなと遊びたいし…でも行こうとするとお腹が痛くなる…だいたい先生の顔見たくないって言ってるし…給食も食べれないし…問題ありすぎて…だからって先生と給食を学校から消しちゃう訳にいかないし…」
ティッシュで涙をふきながら喋り続けるママ
興奮しているのか、段々早口になっていった
「昨日は、肝心な話しはぐらかされた気がする…沢田なんか全然反省してないし、自分が慎太郎にどんな事したのか何も言わないでしょ……言えないのよきっと…私がちゃんと聞き出せば良かった…慎太郎が…【糞野郎早く帰れ!】って思ってたって……それなのに私は、慎太郎は月曜日から学校へ行くんだって単純に喜んでたんだよ…私…いったい何やってんだろ……ほんとに母親失格だよ…慎太郎の気持ち全然分かってない……もう…こうなったら学校へ怒鳴りこみたい……校長先生とか教頭先生とかにみんなぶちまけて、沢田を学校から追放してやりたい……慎太郎が…かわいそうで…ゥッ…ゥッ…」
ママは顔を両手で覆い泣き出した。
先の見えない不安と焦り、そのイライラは全て沢田への憎しみに向けられていた…
だかその憎しみが今のママの生きる力になっているのかもしれない…
学校へ怒鳴り込んで、気持ちが晴れるならそれもいいだろう
でもその後…慎太郎はどうなるのか…
解決に向かうとは思えないババだったが
かなり思い詰めているママに、何も言えずただ黙って聞いているしかなかった。
「思いきって転校させたら?」
ママの気分をちょっと変えようと、何気なく出たババの言葉…
意外に思ったのか、ママは濡れた目をくりっとさせて、同じ言葉を言った
「転校?」
「うん…なにもかも捨ててゼロからスタートさせるってのはどうだろうね、新しい学校新しい先生新しい同級生…」
ママは、溶けたアイスラテをストローでクルクルかきまぜながら
「転校かぁ…」
と呟いた…
「でも、まぁそんなことは最後の最後に考えればいい…そんな手もあるってこ、」
「…転校したら…沢田が喜ぶだけでしょ!…アイツだけがなんで幸せになるの?!そんなの嫌!…絶対…嫌!」
ママはキツい顔をして吐き捨てるように言いきった
この時のママは沢田への怨みで、まるで阿修羅が棲みついた…そんな感じだった…
ババは悲しくママを見上げた…
カフェの窓から外を眺めると沢山の人が行き交う…
見るもの全てが悲しく見えるとは、きっとこんな時の事を言うのだろう…
ママも泣きババも泣いた…
感じのいいカフェには不釣り合いに、片隅で泣き合う親子…
気がつけばあんなに空席ばかりだったお店に、いつの間にか、お客がいっぱい…
今思えば、知り合いが誰も居ない所で良かったとしみじみ思うのであるが…
あの時の二人には、慎太郎に明るい未来が訪れるなどとは夢にも思えず、気持ちは泥まみれ状態だった。
あの後阿修羅と化したママが帰宅して
冷静なパパに説得され一時は平静を取り戻したかに見えたのだが…
2日後に、またママの逆鱗に触れる出来事が起こったのである…
それは週明けの夕方、ママが近所のスーパーへ買い物に行った時のことだ
「あら、慎太郎君のお母さん」
ふいに声をかけられ顔をあげると、慎太郎の同級生のA子ちゃんのお母さんが立っていた。
慎太郎が学校へ行っていないこともあって、ママは少し動揺しながらも
「今晩は…」
と挨拶をした
すると
「慎太郎君大丈夫てすか?」
と聞いてきた
「え?…」
…大丈夫とは…胃腸炎ってことに対してなのか
それとも…
「慎太郎君学校…行ってないんでしょ?」
「あ、はい…」
そうだよなぁ…
もう慎太郎は不登校だとみんなに知れ渡っているんだよなぁ…
悪いことしてる訳じゃないのに、なんか罪人になった気分がした
「A子が、慎太郎が可愛そうだって言うんです
よ…」
し…慎太郎が…可愛そう?
「はぁ?!…どういうことですか?…」
「そりゃもう、沢田先生 酷かったって、あの…でもこれって言ってもいいのかしら…」
「言って下さい、気にしません、詳しく知りたいので、教えて下さいお願いします」
「昼休みもなしで、慎太郎君1人残して、なんでお前だけ給食くえねぇんだ!そんなデカイ図体して!」
…昼休みに…デカイ図体…
「そうなんですって…おまえ、5年生の時は普通に給食食ってたって、みんな言ってるぞ!なんで、急に食えなくなったんだ!って大声で怒鳴って…」
大声で…怒鳴った?…
「沢田先生は、慎太郎君の席の前のイスに後ろ向きに座って、慎太郎君に、頭くっつけて、なに言ってたか、よく聞こえなかったらしいんですけと、とにかく食え!食え!って、ずーーとなじってたってことですよ…」
…その光景が目に浮かんできた…
慎太郎…それでもおまえは…そとづらよしお君…してたの?…
「あれじゃ慎太郎が可愛そうだって、みんな言ってたって、うちのA子なんかその日学校から帰ってきて、泣きながら私にそう言ってきたんですよ…」
…みんなの前で食え!食え!
怒鳴られて、なじられて…
どんな想いがしただろう
慎太郎…
ごめんね慎太郎…
ママは買い物籠を置いて、外に飛び出した…。
やっぱり…
沢田は糞野郎だった…
車のバンドルを叩く!
悔し涙がボロボロ流れる…
給食が食えないことで、今までどれたけ慎太郎が胸を痛めてきたか…
自律神経なんて…
そもそも沢田のせいじゃないか!
沢田が慎太郎の傷口に塩を塗ったんだ!
だから病むようになった…
許せない…
許すもんか!
パパに止められたって、たった1人でも怒鳴り込んでやる!!
校長、教頭、教育委員会、みんなぶちまけてやる!!
あいつの教師生命無くしてやる!
怒りでガタガタ体が震え、ハンドルにしがみつきながら運転して、やっとアパートへ着いた。
パパも帰ってきていた
鬼の形相で部屋に飛び込んできたママに
皆が驚いている…
ママは慎太郎を抱き締めて
「慎太郎!…A子ちゃんのお母さんからみんな聞いたよ!昼休みにたった一人残されて沢田にずっと酷い事言われてたって…可愛そうに…可愛そうに…」
泣き叫んだ
「パパ、助けてよ〰もうイヤだよ〰冷静になんてできないよ〰沢田は、慎太郎に去年まで給食食ってたのになんで食えないんだ!とかデカイ図体して!とかってそんな事言ったんだって!…許せないよ!」
「………」
パパは絶句した。
弟の晃太郎は目を八の字にして立ちすくむ
しかし…
不思議な事に、何故か慎太郎は泣きながら微笑んでいる
今思えば慎太郎はこの時…
やっと分かって貰えた…
なんて…ほっとしていたのではないだろうか…
それなら何故
沢田にああ言われた…こう言われたと自分から親達に言わなかったのか
それは未だに疑問なのだが…
「パパが止めても、ママは一人でも怒鳴り込むからね!!止めたってダメだからね!!」
ママの泣き叫ぶ声はいっそうおおきくなっていった……。
すると沈黙していたパパの顔つきが変わった
「だめだ!!怒鳴り込むなら俺が行く!!沢田に電話しろっ!!」
ママは驚いて
「は…はい…」
バックからスマホを取りだし、沢田の携帯に電話した。
パパは、眉間にシワをよせスマホを持って外へ出た…
ママは後を追い、ドア越しに耳をすませた
「山川です…はい……慎太郎の…はいそうです!」
パパの冷たい言い方…、ママはゴクッ…と生つばを飲み込む…
「あんた慎太郎になに言ったんですかッ?!!!!…慎太郎は……俺の大事な…大事な息子なんですよ!……かなり傷ついているんです……わかってます?………はい?………はい……はい」
パパは、敬語を使い、低音で厳しい言葉をゆっくり響かせていた…
結婚して11年、いやその前の交際期間をいれると14年
穏やかで、優しくて、気楽で、それが良くて結婚した……
でもその穏やかさが最近は不満だった……
ママは自分だけが一人で、もがき苦しみ、泣き叫んでいたと思っていた…
でもパパは口に出さない分…自分よりずっと辛かったのかも知れないと…ママは思った…
ごめん…
また涙が溢れた…
「ママ…」
気がつけば、ママの後ろに慎太郎と晃太郎が心配そうに並んで立っていた。
「行こう…」
リビングへ入り二人を抱きしめる…
やがて電話を終えたパパが顔をだした。
「ママ!明日…校長と教頭、担任とで話し合うことになったぞ…」
「うん…わかった」
望むところだと思った…
沢田の悪行をぶちまけてやる!
「慎太郎…パパ電話で先生を怒っちゃったけど…嫌だったか?ごめんな…」
慎太郎の気持ちを確かめるようにやんわりと謝るパパ…
「悪くない、先生を怒ってくれて、ありがとう」
慎太郎は速攻答えた
いつもの暗い顔ではない、むしろ目が輝いている。
パパとママは正直ホッとした…
だが…
ここでまたひとつの疑問がわいた…
これは慎太郎の本心か?
それほど沢田に腹を立てていたということなのか?
それとも親達が自分のためにこんなに奮闘しているのだから
否定してはいけないと思って外面君の仮面を被っているのか?
これから益々慎太郎の意外な行動に親達は振り回されることになる…
朝になった
気持ちがザワザワして落ち着かないまま時間はすぎていった。
約束の時間は午後6時
パパは会社からまっすぐ学校へ向かう…
あと2時間に迫っていた
「ママ…話し合い…どうなるの?」
「慎太郎…心配なの?」
「うん…」
「う~ん、慎太郎がどうしてこうなったか…なんで学校へ行けなくなったかを、まず校長先生と教頭先生に分かって貰う……」
「…うん…それで?」
「それで?う~ん沢田をクビにして貰う〰」
「クビにできるの?」
慎太郎は驚きの顔ポーズになっている
「たぶん無理〰〰アハハ…慎太郎さぁそんなに心配なら一緒に学校行く?」
「行く…」
「え??まじ?!」
怒鳴り込みに当事者の慎太郎も行く??
「シャワー入る…」
いつもなら、シャワーも歯磨きも、お腹が痛いと牛のように動かなかった人が
すっと立ち上がり風呂場へ向かった…
沢田を許せない、頭の中は沢田への恨みでいっぱいだ
今日はその怨みを晴らすために行く!
だが…
慎太郎が学校へ一緒に行くと言い出した
その理由はどうあれ、それはママの心のトゲをほぐした。
………
バタン!
慎太郎がシャワーを終えてパンツ1つで部屋へ入ってきた
そして、いつものように頭をママの目の前に出した
「臭くない?」
「大丈夫だよ、シャンプーのいい香りがしてる…」
そう言うと、慎太郎は洗濯したばかりのジャージの上下を着て、鏡で身なりをととのえている…
そんな慎太郎をぼんやり見ながら考えた…
沢田に反省を求めて、たとえ謝罪してくれたとしても、それがなんになるのだろう…
それで慎太郎が納得して全てが解決するのだろうか
もう3週間以上も学校へ行っていない、その壁は沢田よりもっと高いのかも知れない
一日も早く慎太郎を普通に戻したい
その為には、校長先生達の力がどうしても必要だ
慎太郎のこれからの方が大事なのだ…
感情的にならずにもっと冷静になろう…
自分ももっと大人になろう…
ママは唇をかみしめた…
そろそろ時間だ…
弟の晃太郎は一人で留守番をすることになった
「こうちゃん、留守番よろしく…」
そういって抱きしめようとするが、晃太郎は
「大丈夫だから…頑張ってきて…」
手をパーにしてママを軽く押した
この仕草は晃太郎が最近よくやる大丈夫サイン
「わかった」
慎太郎と学校へ向かう
慎太郎は前を見据えて何も喋らない、もちろんニコリともしない
学校が近づくにつれお腹を押さえて、う〰と唸りながら前かがみになる
つれてくるべきじゃなかったかなぁ…
沢田と会わなきゃないのになぁ…
そう思ったが到着してしまった…
パパが先に学校に着いていた。
誰もいない校舎の職員玄関から三人は入った
女の先生が挨拶しながら出てきて
「さぁ校長室へどうぞ.…」
今日話し合いをする事を自前に知っているのか愛想がいい
「中ズックとってくる…」
そう言って振り返った慎太郎の顔を見ると
笑っている…
なんで?笑ってんの?
中ズックを履き現れた慎太郎は
笑いをこらえきれないというか満面の笑みだ…
さっきの苦痛な顔はなんだったんだ?
でも…
この時思った
慎太郎は嬉しかったのだ…
学校という自分の懐かしい居場所に、来れたことに
嬉しくてつい笑いがこみあげたのだろう…
校長室に入ると
さっきの愛想のいい女の先生が…
「校長の吉永です…」
頭を下げて挨拶した
この人が今年赴任した校長先生だったのだ
物腰の柔らかさに、申し訳ないが、校長先生のオーラがまったく感じられない
そうこの時は思ったが
この校長先生にはこの先大変お世話になることに…
校長の隣には教頭の高倉、明るくて利発そうな紳士といった雰囲気の人だ
この教頭先生にもこの先お世話になる
そしてその隣に、あの沢田がいた…
見たくもない顔だったが、上目遣いにチラッと見ると
気のせいか目の下にくまができているように見えた、だがその顔を二度見る気にはなれなかった。
なにからどう話しが出るのか重い空気が少し流れた
「慎太郎君ですね、よく来てくれました、体の方はどうですか?」
いきなり吉永校長が慎太郎に聞いてきた
「まだ、お腹も痛いし気持ちも悪いです!あ、でも今は大丈夫です。」
慎太郎は予想以上に明るくはきはきと答え、この空気に一人だけニコニコしている
あんたどこが悪いの?
って感じだ…
むしろ親二人の方がよっぽど病んでいるように見える…
「あの…」
ママが静かに言い出した
「沢田先生にはいつもはぐらかされて、核心にふれた話し合いは、全然してなかったような気がします…
慎太郎が学校へいけなくなった理由は
沢田先生が無理やり慎太郎に給食を食べさせたからです!
慎太郎は、新学期に新しい先生になると緊張かなんかよくわからないんですけど、とにかく給食が食べられなくなるんですよ
無理に食べたら吐くんです
子供が人前で吐いたらどんな気分になります?
親がいたらホローします汚い物も片付けてやれます
でも学校じゃそういかないでしょ?
みんなにどんな目で見られるか…
傷つきますよね…
だから、再三無理に食べさせないで欲しいと言ったんです…
にもかかわらず沢田先生は、昼休みに慎太郎だけ残して 食え!食え!お前だけ特別扱いは出来ないとかなんとか言って…
無理やり食べさせたんです!」
吉永校長と高倉教頭は黙ってママの話しを聞いていたが
時より驚きの表情になっている
はじめて聞いたみたいに「う〰ん」とため息をついている
やはり何も知らないらしい
沢田はなにも言っていなかったのだ…
ママは続けた
「それで慎太郎はトイレで吐いたって言ってました」
涙をぐっと堪えるママ…
吉永校長と高倉教頭は何度か沢田を見るが、沢田は広げた両ひざの上に腕を突っ張っぱり、ずっと頭を上げない
「分かっています…中学へいったら緊張で給食が食べれないとかそんな理屈通りませんよね
会社人になったらみんなの前で出された料理を食べないでいられないのも分かっています…でも……あの…でも…」
だからどうしたいのか…
ママは自分でも解決策がみつからず…
完全に言葉が詰まってしまった…
すると
「あの…担任を変えてもらうとかってできないんですか?」
パパが強気で言ってみた
担任を変えるという奇想すぎる提案に
下を向いたままの沢田の耳がピクンと動いた
かなり動揺しているようだ
数秒時間が止まり、吉永校長が言う
「担任を変えると言っても、生徒との信頼関係もできあがりつつありますので、混乱しますからそれはちょっとできないんですよねぇ」
やはり愛想よく、やんわりと申し訳なさげに断った
パパだって、慎太郎一人のために担任を変えるなどと、そんな我儘がまかり通るとはこれっぽっちも思ってはいない
ただ、慎太郎がいかに沢田を拒否しているかをアピールしたかったに過ぎないのだ
「それは分かりますが、慎太郎は何も言わないんですけど、先生になんか嫌な事を言われたんじゃないでしょうか?」
パパも頑張って言った
沢田はもう逃げられないと思ったのかやっと…顔を上げた
やはり目の下にくまができている…
だがそんたことはどうでもいい
すかさずママが言う
「たとえば…去年までは給食食ってたのに、今年はなんで食えないんだとか、そんなデカイ図体してなんで食えないんだとか…」
そこまで言って沢田が口をはさんだ
「で…てがい図体とか…私は言ってません」
弱々しいがはっきりした口調で言い、
なッそうだろう…
そう哀願するように慎太郎を見た…
こっちはA子ちゃのお母さんの証言を得ているのだ、自信がある…
だが慎太郎は
「ゆってないよ…」
手を横に振りながらそう言った
「えっっっ?!言われてないの?!」
「言ってませんよ…そんなことは、」
沢田はホッとしたのかにやけながら言った
言われてないならなんで昨日そう言わないんだ!
この慎太郎のアホ、馬鹿!
心の中で怒りまくっていたが
ママは、
「すみません、間違った情報でした。ごめんなさい」
そう謝った…
恥ずかしかった…
良くも悪くも、校長室での話し合いで慎太郎の今後が決まった
慎太郎は、自分の教室へは行かず、まっすぐ校長室へ登校する事になった
そこで高倉教頭がマンツーマンで勉強を教える、具合が悪くなったら保健室へ行く…
朝9時にママが仕事へいく時、慎太郎を学校へ送って行く
一般の生徒達との時間差登校は、慎太郎の動揺を避けるため
お昼の給食も校長室で食べる
以前の様に毎日学校へ通う意識を復活させることが第一目標らしい
慎太郎もその決定に嫌がる様子もなく、ママもパパもすべて学校のやり方に任せることにした
不登校生、山川慎太郎がスタートラインに立った
それは新学期から1ヶ月後の5月なかばの事である
おそらく慎太郎は途中で具合が悪くなって早退することになるだろう
学校から早退の連絡がスマホに入ったらババに電話をして慎太郎を迎えに行ってもらう予定だ
ママは、落ち着かない気持ちで仕事場へ向かった
時間は過ぎていく
1時間…
学校からの連絡はまだない
2時間…
……
12時になった…
給食の時間だ…
慎太郎は大丈夫なのだろうか?
給食は食べているのだろうか?
ドキドキしながら、エプロンのポケットからスマホを握る…
パート先のラーメン屋にお客が殺到する
いらっしゃいませ〰〰
味噌ラーメン!
五目ラーメン!
注文をとったり運んだり
「山川さん出前お願い!⚪⚪町の⚪⚪さんチャーシュー麺2つ」
「はい」
お店の軽ワゴンにおかもちを積み出発する…
ウィーン〰〰
スマホが唸る
ドキン!
ついにきたか 早引きか?
でも、ウィーンは一回しかならないから電話じゃない
じゃぁなんだろ?
ラーメンを届けて歩きながらスマホを見ると
ババからラインだ
…慎太郎まだ帰ってこないの?あいつ、生きてるの?😱😱~🎵(笑)…
…死んだってこないから生きてんでしょ(笑)
ババは嬉しいのか文字が踊っている
このまま案外、すんなり、学校へ戻れるかもしれない…
なんの根拠もないのに、なんとなくそんな気がした
汗ばむようないい天気だ…
「なに?校長室?…慎太郎は自分の6年生の教室へ行ったんじゃねぇのか?」
ジジは不服そうにそう言うと眉間に深いシワをよせ、箸を置いて湯呑みに残った冷めたお茶をズズーっと飲み干した。
「校長室よりクラスに行かせたら慣れるのも早いだろうに、そんな別荘みたいな所にいたら、ますます教室に行けなくなるべ…ったく…なに考えてんだか…」
ジジは体中でガッカリして、座椅子にふんずり帰ってテレビのニュースに目をやった
「だってさぁ、1ヶ月も教室へ行ってないんだよ、いきなりみんなの中へ入って行ったらどうなる?…敷居が高くて高くて、落ちたらあんた…ケガするべ!…」
ババが笑いながらそう言うと
「なんだ、この時間まで学校に居れたっつうから…ああ…喜んで損した…」
そうだよね…とババも思った
時計を見上げると午後一時を過ぎていた
その時期は、家庭訪問の期間中で小学校は午前授業が続いていた
下校時間は午後1時30分
ババは自分の車を運転して小学校へ向かった
慎太郎はどんな顔をして学校から出て来るだろう
たとえ校長室でも、慎太郎が最後まで学校に居られた事にババは、ささやかな希望を持っていた
生徒たちが次々広い玄関から雪崩れ出てくる
その中から
「ババー」
ババの車を見つけて弟の晃太郎が駈けてきた
助手席に乗り、屈託のない笑顔をババに向けると、窓から同級生達に「バイバイ」と手を振っている
晃太郎は普通に学校へ行き、友達とも仲好しなようだ
その普通が最近ババには、眩しく立派に見えてしまう
慎太郎だってついこの間までこんな風に普通に学校へ行き、笑顔で車に乗り込んできていたのだ…
だからきっとまた普通に戻れるはずだ…
でも…それはいつだろう…
1ヶ月先か?…
2ヶ月先か?…
まさか一年もかかるのだろうか?…
そんな事を考えてふと気がつくと
慎太郎が車の前に立っていた…
慎太郎の顔は、にっこりしている
良かった…
ホッとした…
「ババ…教頭先生!」
晃太郎が早口でそう言った…
その視線を見ると
慎太郎の後に年配の男の先生が立っている…
「きょっ…教頭先生?!…」
ババは、あわてて車から降りた
「教頭の高倉です…」
高倉は口元に笑みをうかべて軽く頭を下げた
「慎太郎のおばあちゃんです、慎太郎がお世話になります…」
しまった…
おばあちゃんではなく、祖母と言うべきだった…
「これから当分…私と慎太郎君と一緒に勉強しようと思っていますのでよろしくお願いします…それで……慎太郎君が具合が悪くなったら、おばあちゃんが迎えに来てくれると言うことで…よろしいでしようか?」
「はい…私が来ます…よろしくお願いします…」
高倉教頭の丁寧な言い回しにババは何も言えず、何も聞けず
すがるように頭を下げた…
「慎太郎君また明日…」
慎太郎はにこにこしながら高倉教頭に頭を下げ、車に乗り込んだ
カーブを曲がり学校が見えなくなると、
「慎太郎!ねえ…どうだったの?勉強したの?給食食べたの?…気持ちわるくならなかったの?」
矢継ぎ早にババがきく
「……………」
慎太郎は何も答えない
聞こえていないわけないだろう…
ババは、少しイライラして後部座席を振りかえり慎太郎を見た
慎太郎は大きい体を丸めて暗くきびしい顔をしている
「慎太郎どうしたの?慎太郎…」
さっきまで、あんなにニコニコしていたのにどうしたというのだろう
胸弾ませていたババの期待はポキッと折れてしまった…
すると助手席の晃太郎が
「ババ…だから、しんちゃんに学校とか給食のこと聞いちゃぁ…だめだってば…」
怒った顔をして小声でそう言った…
しまった…
自分が勝手に舞い上がっていただけだ…
「あ…しんちゃ、言いたくなかったら何も言わなくていいよ…うん…いいよ…いいよ…ごめんごめん…もう聞かないから…」
ばつがわるそうにババが言うと慎太郎は
「ずっと保健室で寝てた…給食もなかった…」
ポツリと言った
寝てた?
保健室でずっと寝てたの?…
給食もなし?
ババはどんよりした気分になったが
「そ…そうなんだ~」
無理やりへんに明るく返事して慎太郎を見た…
さっきよりもっと暗い顔だ…
きっと慎太郎も今日からなにかが変わると思っていただろう…
いや、みんなが期待していたのだ…
慎太郎だって分かっている…
みんなに自分がどれだけ愛されてきていたか…
その期待に応えられない罪悪感…
いつも元気な晃太郎も黙り混んだまま車は走り続けた…
「じゃ~慎太郎お腹すいたでしょ?みんなでマック行こうか?」
「行く!行く~」
晃太郎が速答する
「え?晃太郎、あんた給食食べてきたんでしょ?お腹いっぱいじゃないの?」
し…しまった、また給食って言っちゃった( ゚Å゚;)
「ポテト食べたいのぉ~」
「そっか、分かった分かった~もうすぐママも仕事終わるから、ママにラインしといてみんなで行こうよ…ねっ慎太郎!」
「うん行く…」
慎太郎も行くと言った
「ババ、スマホ貸して、晃太郎がラインしてあげる」
「できるの?」
「できるよ!」
「晃太郎、間違えんなよ」
慎太郎が後ろから身を乗り出す
パッと空気が明るくなった
元気を出そう
暗い空気を吹き飛ばそう
この闘いはまだ始まったばかりなのだから…
マックにママも来て慎太郎が保健室で寝ていた事を知ることとなる
「そっか…保健室にいたんだ…」
平静を装いながらもがっかりしているママの横で、慎太郎は大きな口を開けてハンバーガーをモリモリ食べている
さすがにお腹がすいているのかほっぺにマヨネーズが付いているのも気付いていないようだ
顔に笑顔はない…
「今日さぁ頭きちゃった」
晃太郎が長いポテトを上から口に入れながら喋りだした
「なに?どした?」
ババもフライドポテトにたっぷりケチャップをつけて頬張り晃太郎に問いかけた
「晃太郎はさぁ…ちゃんと掃除してたんだよ、それなのに掃除ちゃんやってない人がいて…こっちまで先生に怒られたんだよ…」
「…僕はちゃんと掃除してましたって言えばよかったでしょ?」
適当にママが言うと
「言えないよ、先生にそんなこと…言えるわけないじゃん」
「そうだよね親やジジババには口答えできても、先生にはそんなこと言えないものねぇ」
ババが口をテッシュで拭きながら言う
「晃太郎が真面目に掃除してたんなら、それでいいでしょ…ママがちゃんとわかってるから…ね…」
ママが晃太郎の頭をヨシヨシしながら言うと晃太郎はうなずき、これで一件落着となった…
はずだったが…
夜中に晃太郎に異変が起きる…
初めての校長室登校で、今までとは違う、別の緊張感があったのか
慎太郎は夕飯の後、派手に吐いて家中が大騒ぎになった…
こんな苦しそうな慎太郎の姿を家族はもう何度見たことだろう
そんな夜はいつも、慎太郎は眠りにつくまでママに抱きついて離れなかった
それはまるで大きな赤ん坊だ
…
……
「校長室に教頭先生とふたりだけになったら私でも具合悪くなるわよ…」
子供たちが眠りにつき、台所を片付けながらママが言った
「そうだよな、親よりもっと年配の大人と二人きりになるんだから無理もないだろう…慣れるまで仕方ないよ…」
パパが静かに言う
「…………………」
船は、前へ進んでいるのか後ろへ戻されているのか、それとも横波に流されているのか
目指す方向はどっちなのだろう…
皆目見当もつかない…
ただ分かっているのは
慎太郎の教室デビューが、はるか彼方へ遠のいたという事だった…
明日慎太郎は学校へ行けるのだろうか?
心配しながらもママは、日々の疲れにうとうと眠りに吸い込まれて行った
だがその時だった…
「ママーママー気持ち悪い…ママ…」
また慎太郎が呼んでいると思ったが、その声は逆方向から聞こえてきた
「え?晃太郎なの?…」
晃太郎が暗闇の中でうつ伏せにうずくまっている
「こうちゃん?!こうちゃん!どしたの?」
「ウェッッ…ウェッッ…」
窓からの月ひかりに照らされて、ドロッとした物体が晃太郎の口から流れ出た
「晃太郎!!!」
「晃太郎!!」
まさか…
まさか…晃太郎まで…
世界が壊れていきそうな恐怖にママの体はガタガタ震えだした…
「どうしたの?」
パパが心配そうに起きてきた
ママは、汚れたタオルケットをぐるぐる巻いて洗面所へ放り投げ
タオルとビニール袋を持って寝室へ戻ってきた
そして…おもわず泣き崩れた…
「あれ?慎太郎じゃなくて吐いたのは晃太郎か?…てかお前はなんで泣いてんだ?」
パパは目をこすりながら、聞いてきた
「…晃太郎まで吐いたのよ…自律神経かな…二人とも…学校行かなくなったら…もう…どうすればいいの?」
「はあ?なんでそうなるの?馬鹿じゃねぇの?晃太郎は違うよ!」
「違う?…じゃぁなんで吐いたのよ?!食べ過ぎとかクラスで流行りの風邪とかって、もう騙されないから!」
「だから晃太郎はそんなんじゃないよ…心配すんなって」
「そんなんじゃなかったらなんなの?…」
「そ…それは…」
パパは困った顔をして、言葉を探しているようだ
「なんなのよ?!」
パパの膝を揺さぶり涙をポタポタ流すママ
「それは、お付きあい!…」
「え?…」
「兄貴に付き合って吐いたじゃねーの?…もうスッキリしただろう…はは…」
軽く笑いながらそう言うパパ
ママは、きょとんとして涙は止まった
わかってる…
パパはわざとふざけて言っている
ママがあんまり深刻過ぎるから、自分まで深刻になりたくないのだ…
「付き合う?なにそれ…フッ…」
そう言ってママは、少し笑った
「さて…ションベンして寝るかっ、お前も寝ろ!」
パパはトイレへ立った
「こうちゃん…大丈夫?」
晃太郎はうつ伏せに寝て顔だけ横に曲げ、目を閉じたまま「うん」と返事した。
その背中を撫でてやると今度は慎太郎が
「ママー気持ち悪い…」
と言って手を伸ばしてくる
目が覚めているのか、半分夢の中なのか「ママー気持ち悪い」は、習慣になっており
お腹を撫でてやるとまたスヤスヤ寝息をたてた
左手で晃太郎の背中を擦り、右手で慎太郎のお腹をなでる…
晃太郎だけでも良くなってくれないと、身が持たないとママは、思った
気がつくと、トイレへ行ったはずのパパがまだ出て来ない
どうしたのだろう
「パパぁ…どしたのぉ…」
トントンとノックをすると
ジャーとトイレを流す水の音がしてお腹を触りながらパパが出てきた
「下痢しちゃって……」
「下痢?いつからなの?…」
パバまで体壊している、またママは、青ざめる
「おいおい!…俺も自律神経かよ…勘弁してくれよ……もうスッキリしたから大丈夫…寝るぞ…」
やがて、パパのリズミカルなイビキが聞こえてきた…
左手に慎太郎右手に晃太郎…
流れる涙をふく手がない…
…わが家は一体どうなってしまうのだろう…
慎太郎が学校へ行けなくなってからずっと、胸の奥に石のような固まりができていた。
それはおそらく、パパも晃太郎も同じだろう
だからその重さに耐えきれず皆の体が悲鳴をあげているのだ…
外見はいつものように明るく楽しく平静を装っているが、心の中はいつも泣いている
明日こそ 来週こそ 来月こそ、そう思って頑張って来ていたが…
1歩進めば3歩下がる、そんな日々だった…
この子たちが幼い時、ママの首根っこに抱きついて、泣いたり甘えたり…
そんな可愛い日々が忘れられない
おそらくこの先も一生忘れられないだろう
だから
頑張るしかないのだ…
命にかえても守ってやるしかないのだ
白々夜が明けてきた…
時計を見ると5時、涙も枯れて外に出た
そしてババに電話をかける。
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
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