白線引き

001


久しぶりの休日


慣れないお酒

友人の結婚祝いの引き出物のシャンパングラスに不似合いなオレンジ色の缶から注ぐカシスオレンジ


『シャンパンは買えなくなったもんね』無言で呟いていた

だから 少しでも似ている
少しでも自分らしいものを選んだつもりだった


昼間に行った閑散とした近所のドラッグストア

グレーの買い物籠に一つだけ入れた『カシスオレンジ』の缶は 冷たくもなく ただカラコロと歩く度に 右に左に揺れた


湯美は可笑しくなってしまった

お嬢様育ちらしく、くすりと籠を覗き笑っていた


『何年振りだろう、お酒なんて買うの』

• 共感0
• レスに返信

002


休日に 何してるかな？ と 誰かを思ったら

もう 恋を しているんだ


気付いてた


今朝 見た夢のせいにしてた

違う

無理やり恋したはずだったのに

自分で ぬかるみに 足を 入れたのに

わかってた

身体を自ら 恋愛モードにしてしまったから

そこに 気になる あの人との会話 そして 暗示するような夢

だから 脳が混乱しているだけ

今は それを収める為に 少しお酒に頼るだけ

• 共感0
• レスに返信

003


ふと目にした 記事


〈ポルチオ オーガズム＞

文字だけなのに

不思議な憧れ

〈中でイクのはクリでイクのの数倍気持ちいい＞

そんな文字がキラキラして見えた


結婚して すぐにセックスレス

下手な主人とは満足にイったこともない

あの最中に思い出すのは 一番好きだった学生時代の彼氏


虚しい夜を 何年過ごして来たんだろう

子育てで眠れない夜に

夫の不倫で

拍車がかかった


すれ違いざま 夫の腕が自分にかすれるのさえ 気分が悪くなった


身体は したくて したくて

動物としての 種の保存本能が叫ぶ


不倫した夫に抱かれることは 心が壊れると脳が叫ぶ

したい したい

乱れる ほどに

何もかも忘れて


不倫したくせに別れないと逆ギレする夫


だから 誰かに抱かれたら
私が不倫したことになる


小さい頃から正義感のとてもつよい娘だった

出来る訳ない

出会い系なんて

出来る訳ない
結婚しながら他人を求めるなんて


ただ、日々、身体と心が 噛み合わなくなっていく

自分の中の不協和音が大きくなるのを自覚していく

切なさが
言葉に出来ない悲しみが溢れる

このままじゃ 私が壊れてしまう


出よう とりあえず 家を出よう

どこか 夫と違う空間へ

お願い

• 共感0
• レスに返信

004


『私はだれ？』


子育てをしている 日本中の母親が一度は 浮かべる 言葉

学校では 男子より 勉強も出来た

いつから私は 私じゃなくなったんだろう

小学校の頃 呼ばれていた 苗字は 結婚した途端 まるで 存在しなかったかのように 私の前から消えた


だから 同窓会で 私を呼ぼうとした 初恋の子は 戸惑いながら 初めて 下の名前で呼んだ

『ゆみちゃん』

まるで自分だけが あの頃に戻れず、取り残されたようで

会場で笑いながら、寂しく立ち尽くしたのを思い出した

『壁の花なんかじゃない 咲かない種が壁際に落ちてるだけ』

• 共感0
• レスに返信