ハル
だいぶ寒さも和らいできた4月の初め、家庭支援センターの小山さんと校庭の隅で話をしていた。
たわいもない家での子どもの様子を時々、笑いながら話す。
私たちの横を校舎に向かって、歩く同年齢くらいの女性。
春休みなのに、どこに行くのかな?
後ろ姿を見送りつつ、ふと、そんなことを思った。
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体育館からまた保健室に戻ると、坂本先生があることを教えてくれた。
一度、校長室に戻った新居先生たちはそのあと、受け持った子どもたちの学年を訪ねてくれるという。
私とコウタはそのまま、クラスの廊下前で新居先生が来るのを待つことにした。
教室では帰りの会だろうか?
机にランドセルが用意してあったが、なぜかざわざわとしていた。
「コウタ。田村さん」
階段の方から新居先生の声。
今日のために切ったのか、髪は短くなっていた。
やっぱりカッコイイ…(笑)。
新居先生は廊下にいる私たちを見て、すぐに教室に入れていないコウタを知り、少し笑って、
「コウタ、先生の学校においで」
今度はもどかしそうに、
「あ~ホントにおいで。コウタをみたい」
それから私に向かって、
「今、特別支援級にいるんですよ。少人数で個々に丁寧に教えてあげられるから、コウタもいたら…と思ってしまいます」
……優しい優しい新居先生、
その言葉だけで、私はとても嬉しいです。
新居先生とお別れしたコウタは、それから少しずつ教室に入れるようになっていった。
登校手帳以外に坂本先生考案の
シール帳を始めた。
教室にいれたら1シールで、朝の会から終わりの会までの学校にいる時間を細かく分けた。
これだと1日8~10シール貼れるのだ。
シール好きのコウタにしてみると、すごーくたまる感覚らしい。
毎日、保健室に行って、頑張った時間分、シールを貼ってもらっていた。
「コウタくん、喜んじゃって😁」
坂本先生がたんまり貼ってある
シール帳を見せてくれた。
「毎日、来れて、終わりまでいるし。おうちではどうかしら」
「はい、朝の行きたくないは今はありません。運動会の練習もあるから、楽しいみたいです」
それから私は苦虫をつぶしたような感じで、
「ただ…教室がうるさいって」
坂本先生に言ってみた。
坂本先生は、
「そうねぇ」
と肯定も否定もしなかった。
4月から5月と移り変わる1ヶ月の間に、特定の子たちの私語が多くなり、小さなケンカやトラブルが多くなって、先生の言葉もその子たちに届かなくなっていた。
運動会の練習は3クラス合同ということもあり、何とか成立していたが、他の専科の授業も騒ぎ放題になって、大人がもうひとりいないと学校生活が成り立たなくなっていた。
4月初めのハキハキと明るいいずみ先生からは想像できない。
コウタはそんなクラスの状況でも、特にどうと感じることはないのか?
…淡々と進む授業の合間にたびたび怒号が入って、何も見ない聞かない感じないフリーズな状態になっているのかもしれない。
コウタだけでなく、真面目に勉強したい子どもたちもフリーズに…。
だけど、困っているのは騒ぎを起こす子たちも同じだった。
運動会は雨の予想をかいくぐり、少し競技を抑えながら全競技を終わらせることができた。
10時ぐらいに校門に入ってきた新居先生を見つけ、声をかけた。
それからは校庭をぐるりと回る間、たくさんの人たちから声をかけられると立ち止まって、あいさつや話をする。
楽しく談笑や少し真剣な様子で話したり、前に学校にいたときと同じに話をしていて、変わらない新居先生に安心した。
子どもたちの席は不審者対策で保護者や一般の人は近づけないようになっていた。
けれど、新居先生は子どもたちのところへ。
競技の邪魔にならないように、順番ではない子どもたちの席を回り、そこでも人気ぶりを見せていた。
運動会が終わったあと、コウタと話すと、嬉しそうに“新居先生に会った”と言っていたので良かった。
私も会えたし、話せて、気持ちが落ち着いた。
自分でもおかしいと思うが、この頃の私は斉藤先生と話してないことがプレッシャーでストレスを感じていた。
毎週、短い時間だけ話していた私と一緒にコウタを見守ってきたハズの斉藤先生が、たった2週間程度の春休みをはさんだだけで、全く口もきかない話もしない人になったことに重圧を感じてしまったのだ。
頼りや支えといつの間にかなっていた人の喪失感…ではなく、あくまで“話ができない”ことにストレスを感じていた。
話がしたいと思うが担任ではなくなった先生は自分とは話をしない…自分から先生に声をかければいいのに、担当の子どものお母さんと話して戻っていく姿ばかりを見送り、先生もこちらを見ない。
私が吉野先生を待ってひとりでいても、斉藤先生は私の前を素通りして、お母さんと話をして戻る。
私はその間、ずっと緊張状態なのだ。
ハルからずっと調子が狂いっぱなしだった。
春休みの人
斉藤先生の先生らしくない態度
私は担任じゃなくなって、先生と話さなくなって……
だから、担任じゃなくなったからだと思おうとしてるのに、春休みの人のことを思うと、何で?とずっと堂々めぐりしてて…。
先生の異動があったのに、
2年も経つのに先生に会いに来るなんて。
私なんか週1で姿は見るけど、何も接点なくて、先生の後ろ姿をいつも見送っちゃうし、気になるし、だけど、全然、話せなくて、変な緊張状態が続くし…。
それなのに、先生が、
“好きと思う人にはちゃんと”なんて言うから、春休みの人のことかと思っちゃうし……。
ああ、私。
先生のこと、、、好きなんだ。
…いつの間にか、好きだったんだ。
コウタが帰りの車の中で、聞いてきた。
「お母さん、朝、斉藤先生とケンカしたの?」
「どうして?」
「んー、斉藤先生のおまじないの話したら、お母さん、怒ったみたいだったから…」
子どもは鋭い…
「怖かったね、ごめんね。もうしないよ」
私は作った笑みでごまかし、でも、コウタを哀しませることはしないようにしようと思った。
「ぼくね、新居先生がいなくなってイヤだったの。いて欲しかった。そしたら、斉藤先生がおまじないを教えてくれたんだ」
コウタは少し元気になって、
「先生もお別れはあるって。ずっとそれは仕方ないと思ってたって。だからいつも何もしなかったって」
コウタは身体の向きを私に向けて、
「でもね、お別れのときに先生と、ちゃんとバイバイしてくれた人がいて、それから、また会えたよって言ってた!」
なぜかコウタが自慢げ(笑)。
「だから、ちゃんとバイバイしたらまた会えるんだって」
「じゃ、また会えてコウタも先生も嬉しかったね」
「うん!新居先生、運動会来てくれた。また来るって」
コウタが嬉しそうに笑った。
私もつられる。
嬉しかった…素直な気持ち。
春休みの人も先生が好きだったんだろうね。
ずっとずっと、私よりも長く。
教頭先生がコウタのクラスに入った日、学校から帰るとコウタはプンプン💢として言った。
「ぼく、明日から教室行かない。坂本先生のところに行く!」
コウタの決心は揺るがなかった…私の予想した、ひと波乱の幕開けだった。
教頭先生とコウタは相性が悪い。
だけど、それはクラス役員をしていない保護者たちですら、コウタと同じだった。
教頭先生はひと言ひと言にトゲがあり、本人は自覚なしで攻撃と怒りをぶつけてくる人だった。
紙面上、記載してあることが正論で、そこからゆずることはなく、逆にあやふやなことには怒り、じゃ、私が間違っているんですね!とこちらが取り付くひまもない。
教頭先生と話していて、場を和ませる話やたったひと言が自分の意にそぐわないと、それだけでそっぽなのだ。
それが同僚先生や保護者、地域の方々でも同じだった。
学校のPTAや地域行事はたびたびそれで滞り、コウタがプンプン💢だったってことは今日、もう何かあったということを意味していた。
教頭先生が入って、そろそろ1ヶ月が過ぎようとしていた頃、コウタのいない休み時間に坂本先生と保健室で話をしていた。
「20日ですよね…1ヶ月期間が終わるの」
「そうね。私が心配なのは、コウタくんが教室に戻るかよね」
私もその懸念はしていた。
「ここが気に入ってますよね(笑)」
「私につつかれながら、あれやれこれやれ言われて、頑張ってやってる(笑)」
大きな窓から校庭を眺め、坂本先生は言った。
「ま、戻らないって言っても戻すけどね」
私は坂本先生の冗談ともつかない言い方が好きで、子どもたちも先生の切り返しにユーモアを含んでいるのを知っていて、よくなついていた。
コウタもそのひとり☺。
ずっとずっとこんな気持ちを持ったまま、3学期の学校公開日を迎えた。
コウタもあれから落ち着いていたし、クラスも小さなトラブルはありつつも、3年生も後半に差し掛かると、変わらないのだろうと慣れに近い感覚になってしまっていた。
諦めモードというのか…
誰かが悪いと言ってたら、先には進めないからというと聞こえはいいかもしれないけど、手を打っても、手を尽くしても変わらない現実の前に、頑張りが利かなくなる感じ。
1日1日、頑張らせて、ごまかして、すかして、なだめて、励まして…そうして迎えた3学期。
いずみ先生も頑張っているのは分かっていたけれど、ここまでのように思い、逆に誰も何も言わなくなっていた。
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