両想いだろ?
ねぇ。
オレのこと、好き?
オレは、大好きだよ。
だからさ~
オレのこと、好きになってよ。
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>> 50
家の中に入ると、おばさんが奥から出てきた。
オレの顔を見るなり。
「澪夏~!干潟くん、来てるわよ~」
二階の自室にいる澪夏ちゃんに、声を掛ける。
「あ…!すみません!」
オレが恐縮してると…
ニッコリ笑いながら。
「何、してるのぉ~
早く、しなさ~い。」
ってまた、澪夏ちゃんに向かって階段下から、急かすおばさん。
「あ、あの、いいっすよ!オレが、予定より早く来すぎたんで!」
そう。オレは。
気合いが入りすぎて、予定の時間よりかなり早く、着いてしまって。
「そうよ。まったく…!こっちの身にもなってよ!」
階段を降りてくる澪夏ちゃんの声が聞こえてきて。
ヤベッ!
超、機嫌悪そう!
「澪夏ね~。あなた、迎えにきてもらってんだから。早めに準備しておくのが、礼儀でしょう~」
なんて言いながら。
おばさんは、オレに申し訳なさそうに言ってくれる。……んだけど…。
ほんとにもう…、いいっすよ……おばさん…
だって。澪夏ちゃん。
怒らせると、マジこえ~し!
オレは、苦笑いするしかなくて。
おばさんに頭下げてた。
下げた頭の視線の先に、澪夏ちゃんの足先が見えたから。
顔を上げると……
「……………」
オレは。
言葉を、失った。
>> 51
ウエスト辺りで分かれたツートンカラーのワンピース。
メイクは相変わらずのナチュラルメイクだけど。
足首が見えるか見えないかぐらいの丈が。
なんつうか。
清楚な中にも、大人の色気を醸し出してる?ってゆう感じがでててさ。
「なによ。」
オレ、
澪夏ちゃんから目が離せなくなっちまってて。
澪夏ちゃんの声が入ってこねぇ。
「ちょっと…!何、じろじろ見てんの!」
小声で怒る澪夏ちゃんに。
「……!!…わ!ごめん!」
我に返ったオレ。
いつもの、ラフな格好の澪夏ちゃんももちろんいいんだけど…。
ナンなんだ!
このオーラは?
って思うぐらいの、感動モノで。
ハァ~
オレ。やっぱ。
マジ、好き。
恋してんな。
気持ち悪い!とか、言うなよ。
>> 52
我を忘れるぐらい。
澪夏ちゃんに見とれてる頃には、おばさんの姿はもう無くて。
「じゃあ…、行ってきます。」
奥にいるおやっさんやおばさんに、一声かけた澪夏ちゃんは。
まだ、完全に気を取り戻してないオレの横を。
初夏らしいサンダルを履いて、開きっぱなしの玄関をでていく。
その様子に、はっとしたオレも、
「……あ、じゃ!あのっ、行ってきます!」
同じくおやっさんやおばさんに声をかけて。
澪夏ちゃんの後を追った。
>> 53
「助手席、でいいの…?」
先に歩いてた澪夏ちゃんが、チラッとオレに目をやりながら聞いてきた。
「え!?もちろんだよ?」
何言ってんの?
ちょっとだけ、間があって。
「そう…、彼女……」
「え?彼女?」
「干潟くんの彼女に、悪いから。」
なんて。
思いもよらねぇセリフが聞こえてきて。
「は!?何言ってんの?澪夏ちゃん!オレ!彼女いねぇし!」
「そう。…」
「いやいや…。つうか、オレは澪夏ちゃんだけだから!」
澪夏ちゃんは前を向いたまま。
それ以上、オレの言葉にはなんの反応もないから。
どんな顔してんのか、わかんねぇ。
ねぇねぇ!
そこは、なんとか言ってよ~
「じゃ。…お邪魔します。」
助手席のドアを開ける前、オレに…ってゆうより。
車に向かって、話しかける澪夏ちゃん。
「あ…、はい。どうぞ。」
なんだか、オレも。
自分が車にでもなったような、変な気分で返事した。
>> 54
なんだかわかんねぇけど。
車内は、妙な空気が流れてて…。
車に乗った途端、何にも喋んなくなった澪夏ちゃん。
オレも、喉に何かが引っかかったみてぃに、
言葉が見つけだせなくて。
しばらく、お互い無言のまま。
走ってた……。
「お父さんに…、今日の事、話した?」
唐突に、話しだした澪夏ちゃん。
え…
あぁ。
「うん。だって、やっぱ。黙っておくにはいかねぇって思って。」
「………そう。」
「なに…?なんか、あった?」
横を見ると。
澪夏ちゃんは少し伏し目がちに、一点を見つめているようで。
不安になったオレは…
「もしかして…言わない方が……よかった…?」
「あ…。ううん!そんな事ないよ…!」
澪夏ちゃん…
「ほんとに?」
確かめるように、聞き直す。
「うん。いや、ただね。遠いから。気をつけて行くように。って、言われたの。」
>> 55
単純なオレは。
「そっかぁ!…あ!オレも、ちゃんと安全運転で行きますから!って、おやっさんに言っておいたから~。」
「…そう。」
「うん。だから、安心して?」
「ありがと。」
オレが澪夏ちゃんを連れて行こうとしてるとこって。
片道2時間はかかるとこで。
結構遠いから、おやっさん、心配してくれたんだろな。
あ!オレじゃなくて、澪夏ちゃんの事ね!
「に、してもさ。」
それまで、黙り込んでた澪夏ちゃんが話しかけてきた。
「ん?」
「車、でかいよね。」
「あ?…あぁ~。」
オレの愛車。
2000ccのケンメリ。
周りからは、そんな金のかかる車なんて。って、いっつも言われる。
確かに、古いから。
メンテナンスは時間も、金もかかる。
けど。
このスタイルとエンジン音が、オレにはたまんねぇ。
それに―――。
>> 56
「オレが、軽にって。
可笑しくない?」
「え?…」
澪夏ちゃんが、オレの身体を見回しながら、
「あ、……そうね。」
納得したように返事した。
「友達にもさ、お前、軽、似合わねえな~って言われるし。」
そう。
オレのこの身長じゃ。
まるで、おもちゃに乗ってるみたいだ!って、よく言われんだ。
「デカすぎるのも。不便な事って、あるのね~」
って。
澪夏ちゃん?
また、人が傷つくような事を。
だからオレも!
「チビちゃんには、わかんねぇ悩みだろうな~」
って、横目で。
にやつきながら、応戦すると。
>> 57
「チビじゃない!」
ムキになって答えるから。
「チビじゃん。」
って。
内心ニヤニヤしながら、オレがまた言うと。
「チビじゃないもん!あたしは、普通!」
って、身体ごとオレの方向いて、本気で怒ってくるから。
「オレから見れば、チビなの。」
って言いながら。
右手はハンドル。
左手は澪夏ちゃんの頭の上に手のひら置いた。
話の流れで、澪夏ちゃんの頭を触ってしまったけど。
考えてみれば。
澪夏ちゃんの身体に触れるのって、真鍋のオヤジの件以来で。
まぁ、あの時は、なんつうか。
突発的だったって事もあったし。
正直、澪夏ちゃんの手に触れてる。なんて、意識してなかったからな。
勿体ねぇ事、しちまったけどさ。
今は。
オレの方から、触れてるワケで。
髪の毛、柔らかけぇ…
できる事なら、このまま………
「ちょっと!」
「え!?なに!?」
「ハンドル!危ないでしょ~!!」
あ……
そこ…?
澪夏ちゃんのマジ切れで。
オレのアマ~い想いは、見事に打ち消されてしまったのです……。
>> 58
笑ったり。
怒ったり。
時には、笑い過ぎて、涙流したり。
でも。
そんな時間も、オレには楽しくて。
あっという間に、目的地までの半分は過ぎてて。
夜景を観る事が目的だったから。
その頃には、だいぶ暗くなってた。
当然。
夜景が見えるとこだから、山道を走るんだけど。
それまで二人で、途切れる事なく喋ってたのにさ。
いきなり、黙ってしまった澪夏ちゃん。
しかも。
なぜだか、固まってる…
今走ってる所は、山道で…当たり前だけどさ、民家もなくて。
車のライトが当たる所以外は、真っ暗で。
>> 59
え…っ?
この、シチュエーションって。
あ、あれ?
まさかの…
キスしちゃっても、いいの…?
「れ、澪夏ちゃん…?」
運転してるから。
オレは、もちろん前を向いたまま、なんだけど…
ど…どうしよう……
どうする?
…車、止める?
「あ…あのさ!」
名前呼んでも、黙ったまま、返事しないから。
もう一度、声をかけた…。
「黙って…っ!」
「え!」
「そのまま走って…!」
あ…?
「はい……?」
こんな場所じゃ、イヤだったのか?
真っ暗な車中じゃ。
澪夏ちゃんの表情を
読みとる事はできなくて。
悶々としたままのオレは、車を走らせる事しかできなかった。
>> 60
気付くと、目的地に着いてしまってて…。
オレは、車を駐車場の枠内に入れる。
シフトレバーをパーキングに入れ、サイドブレーキを引いた。
そして、心の中で。
ふーっ…と。溜め息をつく…
「ごめん…」
澪夏ちゃんの謝る声。
「あ…えっ……と、…」
澪夏ちゃんが何に謝ってるのか。
オレの思考回路では、すぐには理解できなくて。
その先のセリフがでてこない。
「さっき…。黙ってって、言った…でしょ?」
あぁ…
「うん…」
でも、それはオレが空気読めなかった…からで。たぶん。
きっと………
「途中、電話ボックス…あったよね?」
「え…?」
それはもう、何年も使われてないんだろう。
電話機のない、ボックスだけの奇妙な物体だった。
「あぁ、うん。あったね!」
「………」
何にも、話そうとしない澪夏ちゃん。
「ん?電話ボックスがどうしたの?」
>> 61
「……あたし、…見えるんだ……」
見える?
いきなり、何言い出すんだ?澪夏ちゃん。
「見えるって、なにが?」
「あの、電話ボックス…、人が立ってた………」
身じろぎもしねぇで、一点を見つめる澪夏ちゃんの横顔。
「は?人が…?」
オレの問いに、ゆっくりと顔を上げ、こくりと頷いた。
「んなわけ、ないじゃん~!だって、電話機もない電話ボックスに、誰が?なんのために?」
「…………………………………………」
オレの顔に穴があくんじゃないかってぐらい、凝視する澪夏ちゃん。
「……!?」
え…え…えっ………
「えぇ~~~~~~!!!!!!」
瞬間…
オレの叫び声に驚いた澪夏ちゃんが、両方の耳を押さえながら。
「~~~~~!!!!」
声にならねぇ声を上げてた…。
そんなミステリー、
なんか…
いらねぇ~~~~~~!
>> 62
すっかり気持ちが萎えてしまったオレは。
夜景の事なんか…
ぶっ飛んでしまい。
ハンドルに両手をかけたまま、うなだれてた。
「まぁ!気にしない!気にしない~」
そんなオレに、澪夏ちゃんは脳天気なセリフを放つ。
いやいや。
言い出しっぺは、澪夏ちゃんだし…
「ほら!夜景。」
「あ…」
そう、だった…
今日は、澪夏ちゃんと夜景観にきたんだ!
まぁ、澪夏ちゃんが言うように、気にしなきゃいいんだから。
澪夏ちゃんに見えても……。
オ、オレには…
見えねぇし…!
>> 63
「…………」
夜景の観える場所に来た途端、いきなり黙ってしまった澪夏ちゃん。
周りは、カップルだらけで。
確かに、ベラベラと喋るような雰囲気じゃないんだけどさ。
正直、オレとしては。
肩でも抱いて…なんぞ、考えてみるんだけど…
さっきの事もあるからな。
ここは、少し。
様子を見てみるか…。
しっかし。
ここの夜景は、何度来ても…
「綺麗……」
え…
突然発した澪夏ちゃんの言葉に、ちょっと驚いて。
澪夏ちゃんの横顔をチラリと、覗いた。
「凄いね…」
もしかして。
「感動とか、してくれてる?」
「うん… 」
「そっか~!」
怖い思いしてでも…!
連れてきた甲斐があったぜぇ~
テンション、上がるっつうの!
>> 64
「んっ……」
ん…?
妙な声に、辺りを見回すと。
……マジかよ!
すぐ横のカップルが、キスしてやがった…!
よくよく見ると……
男が、女の腰に手を回して…
かなり、密着してる…
オレはというと……
ただ…。
澪夏ちゃんの横に突っ立ってるだけで……
他人のキスシーンなんて。
興味ねぇけど。
こういう場合、
どう…するよ?
オレ。
>> 65
更に。
「ア…ン」
なんて、声まで聞こえてきて。
ヤベェ…
神様?
何ゆえに、このオレに。
このような試練を……?
マジで、ほんとにヤバい…です。
クソッ…
ここは、もう!
勢いで……!
学習しねぇのは、オレがバカだっつう事で……!
澪夏ちゃん……!
……………
……………
>> 66
「!!…」
澪夏ちゃん…!?
澪夏ちゃんの左手が、
オレの右手を、
しっかりと握ってて…
へ?
どういう事?
「れ…!澪夏ちゃん…!」
精いっぱいの小声で、そう叫べば。
また、更に澪夏ちゃんのオレの手を握る手に力がこもる。
いや!違う…っ!
そうじゃなくて…!
オレは、澪夏ちゃんと。
キスしてぇんだ!
今度は心の中で叫んでみる!
強行突破だ…!
オレは、身長差のある澪夏ちゃんの顔に近づくため、下から顔を覗き込んだ。
>> 67
「………澪夏ちゃん…」
澪夏ちゃんが、泣いていた。
「!……ごめん…。」
オレのさっきまでの勢いは、どこにいっちまったのか…。
「どうか、した…?」
澪夏ちゃんの思いもかけない涙に、少し動揺したオレは。
こんな単純な質問しかできなくて。
「…ううん。何でもない…!」
澪夏ちゃん…
「何でもないのに、泣いたりするのかよ。」
ペタンコのサンダルを履いた澪夏ちゃんが、横にいるオレを見上げる。
そんな澪夏ちゃんを、オレは逆に見下ろした。
オレたちはしばらく、お互いの目を見つめ。
「感動したの…。…夜景に。」
視線を夜景に戻した澪夏ちゃんが、答えた。
>> 68
オレの手は。
握ったままだった…
そういえば。
真鍋のオヤジの件の時も、オレ、澪夏ちゃんに手、握られてたな…。
感動して、流す涙か。
「…………」
わかったよ…。
オレは。
黙って、澪夏ちゃんの手を振り払って。
逆に、
ギュッと
握りしめてやった。
>> 69
いてぇくらいに。
ギュッと。
でも、澪夏ちゃんは。
何も言わず、オレに手を握りしめられたまま。
夜景を見つめていた。
「ほんと。感動もんだな。」
オレが言うと、
黙ったまま、こくりと頷いた。
澪夏ちゃん……
「マジで。………キレイだ。」
「うん……」
小さな声で、また、頷いた。
その時は、周りの雑音なんて、聞こえなくなってて。
そばに。
オレの横にいてくれるだけで。
それだけで………。
オレは。
…………。
>> 70
もうすぐ、澪夏ちゃんの誕生日。
何が欲しい?
なんて、聞くのもな。
24歳の女性が、欲しがるものって…。
あ…。
夜景を観に行った帰りは。
…なんも、なかったぜ?
澪夏ちゃんの、あんな訳ありの涙なんか見せられちゃ。
オレも、手だせねぇし…!
決して…、!
あの…
電話ボックスが、怖くて。なんて事じゃ、ねえからな!
>> 71
オレ、バイト代は殆ど愛車に注ぎ込んでるからな。
金、マジでないんだよな。
どーすっかな。
例のごとく、バイト終わりに澪夏ちゃんちで飯食わせてもらいながら。
ぼーっと考えてた。
「何?ふられた?」
オレの真ん前で、テレビを観てた澪夏ちゃんが、予想もつかない事を口走った。
「は?ふられたって?オレの事?!」
しかも、オレの方なんて見もしないで!
「違うの?なんだか、さっきからぼーっとしちゃってるから。」
だから…
「じゃなかったら、好きな女の子でもできたとか?」
え?今さら?
確かに、オレ、澪夏ちゃんの事、好きだし。
いや。それにしたって。
その質問の仕方は、おかしくねぇか?
オレは。
「澪夏ちゃん?オレはね、澪夏ちゃんの事、考えてたの~」
>> 72
「え?ふられたばっかりなのに、もう、別の女の子の事考えてんの?」
なんて、またまた、噛み合わねえ会話を始めようとするから。
「違うでしょ!!オレは、澪夏ちゃんの誕生日に、何贈ろっかなって、悩んでたの!」
って、ついムキになって。
本年をポロリ。
「…!!!」
やっべえ…!
言っちまった…
しかも、身まで乗り出して。
おやっさんとおばさんは、風呂入ってて。
いなかったから、それ以上恥ずかしい思い、しなくて済んだんだけどさ。
なんつう事、言わせんだよ…!
半分いじけたオレは、横目でチラッと澪夏ちゃんを見る。
相変わらず、澪夏ちゃんの視線はテレビの方だ。
聞いてないのかよ~
良かったのか、悪かったのか。
オレは、妙な安堵感を覚えていた。
>> 73
「サボテン。」
ん?…
何?
「サボテンが、どうかした?」
「だから。あたしの誕生日。」
「え?……」
相変わらず、オレの方は見ねぇ澪夏ちゃん。
サボテンが……、
誕生日プレゼント…?
「ねぇ。澪夏ちゃん、それ、本気で言ってんの!?」
だってさ、サボテンって。
「サボテンの何が悪いのよ。」
そう言った後、澪夏ちゃんはキッチンの方へ消えていく。
いや…。
別に、悪くない。
「悪くは、ないです…。」
ドレッシングを手にして戻ってきた澪夏ちゃんに、返事するオレ。
「じゃあ、そういう事で。」
そう言って。
澪夏ちゃんは、サラダを食べてたオレにドレッシングを渡して、また座った。
>> 74
普段は口悪くて。
冷たい態度の澪夏ちゃんなのに。
さりげなく、ドレッシング持ってきてくれたり。
オレの事、見てないようで。
意外に見てくれてる。
サボテン。なんて言ったのも。
金がねえオレの事、気遣って。
言ってくれたんじゃねぇかって思う。
やっぱ、オレたち。
両想いだろ?
>> 75
明日は、澪夏ちゃんの誕生日。
バイトが入ってないオレは、前日の今日、例のサボテン持参だ。
正直、ほんとにサボテンでいいのか。
マジで悩んだけど。
素直に、澪夏ちゃんの思いやりに、応えるしかねえか。
って思って。
なるべく、見た目?可愛いやつで。
陶器の植木鉢に入ったサボテンに、リボン着けてもらって。
渡すまでは、愛車に乗っけて。
「ねぇ、澪夏ちゃん!ちょっと、来て!」
飯、世話になって、帰る時に澪夏ちゃんに声かけた。
>> 76
「え?なに!?」
なにって…
ここで聞く!?
「もう…!いいから。来て!」
空気が読めない澪夏ちゃんの腕握って、外に連れ出した。
「1日早いけど。
はい。これ。誕生日プレゼント。」
愛車の横で、澪夏ちゃんにサボテン渡すオレ。
「え…」
だから!
その天然な反応、今だけ止めてよ。
そりゃあね。
「…ほんとに、サボテンがいいのか迷ったよ?
でもさ、…」
「ありがとう…」
あれ?
やけに素直じゃねぇ?
「あ、いや。……ごめんね?こんな物しかやれなくて。」
頭かきながら、苦笑いするしかねぇ。
「………ううん。」
「ほんとはさ、もっといいもの、渡したかったんだけど。…ごめん。」
「そんな事ないよ。嬉しい。」
オレの顔見て、笑ってくれる。
「澪夏、ちゃん…」
…………
「オレ。」
澪夏ちゃんの肩に手を置こうとした………
「…彼女でもないのに。」
>> 77
なんで!
そんな事言うんだよ…!
「澪夏ちゃん…。
オレの事、嫌い?」
今のオレ。
めっちゃ、女々しい…
けど。
「嫌い…なんかじゃ、」
「だったら!好き?」
聞かずにはいられなくて。
いつのまにか。
オレは、澪夏ちゃんの両肩に手を置いてて。
「だから…、好き…とか、嫌い…とかじゃなくて…」
>> 78
澪夏ちゃん……
「オレは…、好きだよ?」
「干潟くん………」
オレの気持ち。
受け取ってよ。
オレ…こんなに、キュンキュンしてんのに。
なんで。
「オレのどこが、イヤ?」
「イヤなんて、」
「じゃあ!どうして!付き合ってくんないの?」
「………だから、それは…!」
………
…………………
静かな駐車場に響く、携帯の着信音。
オレのじゃねえ。
澪夏ちゃんの携帯だ。
「はい……」
澪夏ちゃんは、興奮したオレの腕をゆっくり引き離しながら。
携帯を耳に当てて、話しだした。
>> 79
ねぇ、
澪夏ちゃん…
オレじゃ、ダメなの?
それとも他に、
好きなヤツでも……
「……わかった。…うん……。」
誰と話してんの?
オレには相手の声は
聞こえねぇ。
「わかったって…!」
澪夏ちゃんが急に声を荒げた。
なに?
どうしたの。
話を無理やり終わらせた澪夏ちゃんが、携帯をポケットに仕舞った。
気になるけど……
オレはさっきの事もあって、
声をかけるのをためらってた。
>> 80
片手に。
さっきオレが渡したサボテンをぶら下げたまま。
澪夏ちゃんは、オレの愛車に背を向けて、夜空を見上げた。
「この前の夜景ほどじゃないけど…。綺麗だね。」
そんな、楽しい過去の事話すもんだから。
オレも思わず、夜空を見上げた。
「……うん、」
きれいだね。
…………
でもやっぱり。
さっきのオレの質問に、ちゃんと答えてくんないから。
それ以上…
なに喋っていいのか、
わかんねぇし…
この、間。が…
なんともいえねぇな………
「ねぇ、干潟くん…」
夜空を見上げたまま、オレの名前を呼ぶ澪夏ちゃん。
「……なに…?」
「どこか、連れてって…」
「へっ?」
さっきの質問どころの話じゃねぇ…
とんでもないセリフが澪夏ちゃんの口から、聞こえたような?
>> 81
こんな時って…
なんて言えばいいんだよ…!
「えっ…と」
「明日!飲みに行こう?ね?あ、明日って、干潟くん忙しい?」
オレがあたふたしてるうちに、澪夏ちゃんがオレのスケジュールを確認する。
「あ、明日……、は、……」
明日…って……
澪夏ちゃんの誕生日じゃん!
いや…!まさか!
誕生日当日に澪夏ちゃんに誘われるなんて…!
思ってもみなかったオレは。
サークルの奴らと飲みに行く約束してたなんて事は。
どうでもよくなっちまって。
ちゃっかり、澪夏ちゃんと明日のデートのスケジュールを確認して。
「じゃ、明日」
そう言って、澪夏ちゃんは自分ちへと戻っていき。
オレも。
ウキウキ気分で、アパートへ帰った。
>> 82
ただこれがさ!
浮かれてるだけじゃ済まねぇような、話なんだよな!
オレは、昨日アパートに帰ってきてからも、ずっと悩んでて。
澪夏ちゃんに
「どこか連れてって!」
なんて言われた時は、テンパっちまって。
なんだっけ…
あの…
あっ!ロミオとジュリエット!みてぇな?
あ…
あれって、許されぬ恋ってやつだよな?
ま!オレと澪夏ちゃんには、そんなもんねぇし!
って。
それより!オレ。
やんなきゃいけねぇ事が、沢山あんだよ!
>> 83
澪夏ちゃんの誕生日。
オレは、澪夏ちゃんと話し合って決めた待ち合わせ場所に来てた。
またまたオレは、時間よりもかなり早く着いちまって…!
どんだけ、って話だよ!
いや…
てかさ、誰だってこんな状況、興奮すんだろ!
「ねぇ、干潟くん…?」
「なに?」
「干潟くんの地元で、飲みたい…」
「え?オレの?」
そう。
オレの実家は、大学があるここからは、少し離れてて。
って言っても、まぁ、車で2時間ぐらいなんだけど。
「いや。それは、全然構わないけど?……でも、そうなると…、その日は帰れなくなるけど………。!?」
「うん…、そだね…。」
れ…!澪夏ちゃん!?
それって…!
お泊まり!?………
「わ、わかった。…」
心臓、ハンパねぇ…!
て、こんな会話があったわけで。
な?
男だったら、興奮すんだろ?
>> 84
そんな妄想を膨らましてると…
オレの携帯にメールが入ってる事に気付く。
開いてみれば、
【そっち、行ってもいい?】
澪夏ちゃんからのメール。
え?来てたの!?
急いで、返事のメールを打つ。
【もちろん✌】
辺りをキョロキョロと見回してると。
助手席の窓ガラスをコンコンと叩く音が。
振り向くと。
澪夏ちゃんが
「いい?」
って口パクで聞いてる。
オレは思いっきり頷いて、手招きした。
ゆっくりとドアが開いて…
「……お邪魔します。」
「あ、あぁ、どうぞ…!」
なんだ、このハンパない緊張は…!
前にも言ったが、オレは。
童貞なんかじゃねぇからな…!
>> 85
夜景観に行った時も、澪夏ちゃん車に乗せたし。
二人っきりっていうのも、同じ状況なんだけど…
その先が。
あの時とは、大きく違ってて。
やっぱ、この差はデカい…
この緊張感をどうにかしたくて。
「ねぇ…、澪夏ちゃん。」
「……なに。」
「今日さ…、ほんとに、……泊まっても、いいの…?」
「……うん。……なんで?…」
「あっ…いや、あのさ、おやっさんやおばさん、大丈夫かな?…って思って」
「……大丈夫。今日、あたしの誕生日だから、元々、友達と泊まりで飲みに行くって、お父さん達には言ってたし。」
そっか…
じゃ!なんの問題もなく…
じゃない…よな。
「あ…なんだ~そっかぁ。…」
「……………」
って…!
なんだよ~
この沈黙……!
余計に緊張感増してんじゃん…!
「出よ?」
いろんな事考えてたら、澪夏ちゃんの声が聞こえてきて。
ちょっとだけ、自分を取り戻したオレは。
「あ、うん…。」
そう返事して。
そして。
愛車はオレの懐かしの地元へと、走り始めた。
>> 86
澪夏ちゃんの声に押されるように、ここまで走ってきたけど。
あれから澪夏ちゃん、ほとんど喋んねぇし…
ふっと、澪夏ちゃんを見ると………
「!!」
澪夏ちゃん!?
「スカート…!」
「え?なに?スカートが、どうかしたの…?」
「みじかっ…!」
太もも、半分は見えてんじゃん…!
しかも、ナマ足!
「なによ!そんなに見ないでよっ…」
いやいや、そうじゃなくて~
「オレの車、車高が低いから!前歩いてる人から、澪夏ちゃんのパンツ丸見えになんだよ!」
「え?」
「ほら!見てみ?横断歩道歩いてるヤツ、澪夏ちゃんの方見てるし!」
「!!」
自分で説明しながらも、見てたヤツらに完全に嫉妬したオレは。
「澪夏ちゃんのパンツ見ていいのは、オレだけ!他のヤツには見せねぇの!」
って。オレ……。
気付いたら、澪夏ちゃんの方向いたまま、とんでもねぇ事、口走ってて…
ぜってぇ、また怒られんな……
ごめん…って言おうとした時。
「じゃ…、どうすれば、いいのよ…」
思いもよらず。
か細い声で澪夏ちゃんが聞いてくるから……。
あ…
「えっと…。バッグを…足の上に置いて…。
あとは、なるべく足を立てないようにすれば…」
「…わかった。」
ねぇ…澪夏ちゃん。
そこ…否定しなくても、いいの?
>> 87
あれから。
時々、澪夏ちゃんをチラ見するけど。
特に、変わった様子もなくて…
気付くと。
車は、懐かしいオレの地元を走ってて。
大学での生活にも、それなりに慣れてきたけど。
やっぱ地元はいいな~
「この辺りって、もう、干潟くんの地元?」
「あ!うん、そう!
って言っても、実際は高校卒業するまでだったけど。」
「え?じゃあ、今は?ご両親は?」
「あぁ。今は、親父の転勤で、別のとこに住んでて。」
「そうなんだ!?」
「うん。ただ、実家はこっちにそのままあって。転勤って言っても、近い場所だったし。数年って話だったから、時々、おふくろが掃除しに来たり。
オレも、こっちの友達に会う時に、実家に泊まったりしてる。」
「そうだったんだ。」
「あ…、もうすぐ着くから。」
飲みに行くつもりで来てたから。
ちょうど、店が開くぐらいの時間に合わせて、向こうをでて。
目的の店近くの立体駐車場に、車を止めた。
>> 88
車から降りて、澪夏ちゃんと二人歩いてると。
「ねぇ。どこ、連れてってくれるの?」
楽しそうに笑いながら、澪夏ちゃんが聞いてくる。
そんな笑顔見せられたら。
つい、喋っちまいそうになるじゃん!
「内緒!」
「え?内緒?って…」
「まぁ、行ってからのお楽しみ~って事で!」
「え…」
少し戸惑ったのか、歩くペースが遅くなった澪夏ちゃんの腕をとって。
オレは、歩きだした。
「こんばんは~」
澪夏ちゃんの手を引いたまま、扉を開けると……。
店内に鐘の音が響いた。
>> 89
「笙~!久しぶり~」
中から、オレの名前を呼ぶ声が聞こえる。
「先輩!久しぶりっす!」
右手は澪夏ちゃんの手を握ってたから。
左手で手を上げながら、先輩に挨拶する。
その時だった。
澪夏ちゃんの動きが完全に止まってしまったのは。
「うん?どしたの?」
「このお店って…」
「ん?あ!オレの高校ん時の先輩の店~」
「イヤ…」
「え?なに?」
店内の音楽と他の客の話し声で、澪夏ちゃんの声が聞き取れない。
「こんばんは!」
また、先輩の声。
オレと澪夏ちゃんは、同時に先輩の方を見た。
先輩の視線は明らかに、澪夏ちゃんの方を向いてて。
その事に気づいた澪夏ちゃんは、
「あ…、こんばんは…」
小声で返事をしながら、ぺこりと軽く頭を下げた。
澪夏ちゃんが顔を上げると同時に。
「座って?」
またもや先輩の声。
そして、やっぱその声と笑顔は、澪夏ちゃんに向けられてて。
「あ…」
澪夏ちゃんが、戸惑ってる。
「先輩~!ちょっと!オレの澪夏ちゃんに気軽に声かけないで下さいよ~」
「いいから。笙、彼女、エスコートしろ。」
あ…
「わかりましたよ~」
オレはブツブツ言いながらも、澪夏ちゃんの背中に手を置いて。
「行こ?」
軽く、澪夏ちゃんの背中を押した。
>> 90
オレは、先輩に言われた通り、澪夏ちゃんをカウンター席に座らせた。
「いらっしゃいませ。」
先輩が、澪夏ちゃんの席の前に立って、にこやかに挨拶する。
「あ…、よ、よろしくお願いします…。」
澪夏ちゃん!
なんか妙に、緊張してねぇ!?
キャラ、全然違うし!
オレが目を点にしてる間に。
「俺。笙の高校ん時の先輩で、水町猛。一応、この店のオーナー。」
「あ…あの、澪夏です…」
「澪夏ちゃん。って言うの?」
!?
「先輩!ちょっと!」
「なんだ?」
「いや、だって!澪夏ちゃん…」
「は?なんだよ。澪夏ちゃんは。笙の彼女か?」
「あっ!」
って、澪夏ちゃんが反応したと同時に。
オレも、
「い…」
なんて。アホな声だしちまって…!
「違うんだろ?」
先輩がにやけた顔で、オレを見る。
「!………そうっすけど!いつかは!……」
ムキになって、先輩に言うと。
「は…。いつかはって。」
「何すかっ!」
「そんな時間、ねぇだろ。」
「は!?どういう意味っすか!」
「あの…!」
先輩と二人、言い合いしてると、澪夏ちゃんが止めるように間に入ってきた。
「あ!ごめん…、澪夏ちゃん…」
オレが謝ると。
「澪夏ちゃん。全く気にしなくていいよ。
俺と笙のいつもの漫才だから。な?笙。」
「漫才って!もう!
先輩、いっつもオレの事、こうやってちゃかすんだから~」
「フッ…」
澪夏ちゃんが笑った。
「あ!そこ、笑うとこ~?」
オレが拗ねて言うと。
「爆笑もんだろ!」
そう言って、先輩も笑ってる。
>> 91
「ここに来て、初めて笑ったね。」
先輩が、…猛先輩が。
澪夏ちゃんを見て、優しく笑った。
「あ…」
オレは、澪夏ちゃんを見る。
澪夏ちゃんは、猛先輩を見てる。
「ちょっ!先輩!澪夏ちゃん、誘惑しないでよ~」
「誘惑って!」
澪夏ちゃんが、オレを睨んだ。
オッ?
「その顔!今日、初めて見たかも~」
「お前…、そこで嬉しそうな顔するって…Mか、お前は!」
オレを睨みつけてた澪夏ちゃんがまた、笑った。
「笑ってる顔が。一番いいね。」
猛先輩!それっ!
「オレが言おうとしたのに~」
また、笑った。
うん…
澪夏ちゃんのドSなとこも好きだけどさ。
やっば、笑ってる顔って、いいな。
誰だってさ、好きな子には笑ってて欲しいよな。
>> 92
「と。いう事で!
澪夏ちゃん、何飲む?」
先輩…。
その笑顔……!
「あ…、」
澪夏ちゃんも、心なしか頬赤くなってるみてぇな…!
「あ、じゃあ、水町さんのオススメで…」
「俺のオススメね!了解。」
「お願いします。」
「それと。猛でいいよ。」
「あ…、いえ…。」
「せ、先輩!」
「さっきから、うるせえな~。笙は。ねぇ、澪夏ちゃん?」
だから。その笑顔!
軽く苦笑いしてる澪夏ちゃん。
「だって!猛でいいよ…とか…。あと!オレには 聞いてくんないんすか~」
「あぁ。澪夏ちゃん、歳いくつ?
それと。笙はいつものでいいんだろ?」
「あ…、えっと…」
「……なんか、オレに対する扱い、軽くないっすか?あ…!澪夏ちゃん!今日、誕生日なんですよ~」
「誕生日!?いくつになったの?」
「24!」
「お前に聞いてねぇし。てか、タメじゃん!俺たち。」
「そうなんですか!?」
そう言えば、そうだった……。
「あぁ!だったら、余計、猛でいいよ。」
「あ…いえ、それは流石に。…じゃあ、猛…さんで。」
なんかもう、オレの立場が~
「了解。」
先輩!微笑むな~
>> 93
「猛さん…て、落ち着いてますよね?
ほんとに、私と同じ歳ですか?」
澪夏ちゃんが、先輩に話しかけてる。
「そう?まっ、俺、嫁さんいるからね。」
「え?結婚してるんですか?」
そうそう!
先輩は、奥さんいたんだった~
「うん。子どもも二人。」
「えっ?二人も?」
そう!しかも、子持ち~
「うん。子ども、可愛いよ。どんなに疲れてても、あいつらの顔見ると、疲れなんていっぺんに吹き飛んじゃうって感じ。」
先輩…
お父さんの顔になってる……。
「幸せ、なんですね。」
澪夏ちゃんが、ぽつりとつぶやいた。
「あぁ、もちろん。嫁さんの事、超愛してるし。」
オノロケだ…
けど。マジで、先輩と奥さん…、あ、奥さんもオレの先輩になるんだけどさ。
超、ラブラブなんだよなぁ~
>> 94
「はい。どうぞ。」
先輩が澪夏ちゃんの前に差し出したのは。
「これ…」
「ブルーハワイ。」
「え?これが先輩のオススメ?」
「オススメ、じゃないけど。」
「…?」
澪夏ちゃんがきょとんとした顔してる。
「誕生日。おめでとうって事で、ね。
ま、急だったから。ケーキの代わり?って言っても、由来は全然関係ねえけど。」
柔らかい表情で、澪夏ちゃんを見る先輩。
「…ありがとう。…猛さん。」
「うん。」
なんだ!
この…、二人の雰囲気は…!
「ちょっ!ちょっと!先輩!澪夏ちゃん!」
「なんだ。笙も飲みたかったのか?」
「え?…いや…、違いますよ!!」
「はい。お前には、これ。」
そう言って、オレに差し出されたカクテルは、酒に弱いオレには、ぴったりの。
カンパリソーダ。
>> 95
ブルーハワイのストローに、口をつけて、少しだけ飲んだ後。
「また少し、おばさんに近づいちゃった…。」
そう言いながら、小さく溜め息をつく澪夏ちゃん。
「おばさんだなんて…!オレ、思ってねぇから!」
オレは、赤く染まったカンパリソーダをグイッと飲む。
「おい…笙、お前、飲み過ぎんな!」
猛先輩が、オレを軽く窘めるけど。
澪夏ちゃんには、何にも言わねぇ。
ただ黙って、見てるだけ?
いや…、
まるで、二人にしかわからねぇ事でもあるような。
そんな感じ…で、
「猛さん…」
「うん。」
「結婚…て、」
「うん…」
「いいですか……?」
「あぁ。…いいよ。」
オレは……。
口を挟む事ができないでいた。
>> 96
………結婚。
澪夏ちゃんは、
オレとの結婚。
考えてんのかな…?
それとも……
結婚はいい。って、そう言った猛先輩の言葉に、嘘はねぇ。
だって、先輩見てると。
ほんと、結婚って。
いいなって素直に思えるから。
でも、澪夏ちゃんは…
どんなふうに、思ってんだろ…
いつの間にか、ブルーハワイを飲み終わった澪夏ちゃんは、次のカクテルを先輩に注文してる。
「今度は、オススメね?」
先輩は、軽く笑いながら、言う。
「あ、はい。」
そんな二人のやり取りをぼんやりと、見ていると。
「笙。お前、どうする?」
先輩の問いに、空になったグラスに気付いた。
「あ…!えっと…」
意味もなく慌てる。
「今日は、それでやめとくか?」
そんな先輩の言葉に、妙にムキになったオレは…
「いえ!もう一杯…!」
「…わかった。」
そう返事した先輩は。
澪夏ちゃんに、ラズール・モヒート。
オレには、マリブコーラを作ってくれた。
>> 97
「美味しい…」
ラズール・モヒートを飲みながら。
先輩を見る澪夏ちゃん。
「そう?良かった。」
顔を見合わせて、笑ってる。
オレは…
グラスを握った手に、ぎゅっと力を入れた。
それから、
一気にマリブコーラを飲み干した。
でも、先輩は…
今度は、何も言わねぇ…
それが何故だか、オレには虚しくて。
そして、
タバコを吸わねぇ澪夏ちゃんの前じゃ、絶対吸わないオレは。
気付くと、タバコに火をつけて、思いっきり吹かしてた。
「…ちょっと、お手洗い。行ってくるね…。」
「あ…」
そんな、バカなオレの行動に嫌気がさしたのか…澪夏ちゃんは、ゆっくりと席を立って、店の奥にあるトイレへと消えていった。
>> 98
「笙、お前…。」
澪夏ちゃんがいなくなったカウンターで、先輩がオレになにか言いたそうにしてる。
「……なんっすか…」
完全に拗ねてしまったオレは、覇気のない声で返事する。
「彼女…澪夏ちゃんの事、本気なのか?…」
今、こんな状態のオレに聞くような事っすか…!?
「先輩…」
「なんだ。」
それでも、やっぱり。
「オレ、マジっす。」
言わずにはいられなくて。
一気飲みしたせいで、グダグダになりながらも。先輩に、オレの本気、伝えてぇ…
いくら、先輩でも。
澪夏ちゃんは、渡せねぇ。
「だったら、大事にしてやれ。」
「…え」
「ただし。お前には、あんま時間ねえけどな…」
「え?」
「それと。」
「はい…?」
「さっきのマリブコーラな。」
「はい……」
「酒、入れてねえから。」
「…!?」
「お前が酔っ払って、どうすんだ。彼女…、澪夏ちゃんの事、マジなんだろ。」
「……あ…!」
それって……
い、今までの事って……
全部、オレの…ため?
先輩の優しさが…
胸に染みるっす…
>> 99
先輩…
「それから…」
「?…」
言いかけて。
澪夏ちゃんの姿を確認すると、
「いや。いい…」
小声で呟けば、
「澪夏ちゃん。おかわりは?」
先輩は、今度は、さりげなく澪夏ちゃんに気を配った。
先輩、なんか、大人だな~
ちょっとの事で、すぐ勘違いして…
拗ねるようなオレとは、大違いだ…。
もっと。
大人なオレになんなきゃ、な。
今のまんまじゃ、オレ、澪夏ちゃんの事…
大事になんか、できやしねぇ!
「干潟くんは、…もう、飲まない…?」
先輩の質問に答える前に、オレに聞いてくる。
「…あ、あぁ…。いや。オレはもういい。」
「そう…?じゃ、あたしも、もう。」
「いや、澪夏ちゃんはもう少し、飲んだら?」
「ううん…」
「あ、オレの事だったら、気遣わなくていいから。」
「う…ん」
「先輩のお酒、美味しかったっしょ?」
「あ…、うん…。」
「だったら。ね?
それに、今日は、澪夏ちゃんの誕生日なんだからさ!」
「…いいの?」
澪夏ちゃんにも、オレ。
気遣わせちまってたんだな…
「もちろん!」
だって、澪夏ちゃんが楽しいって思える事が、オレの楽しみでもあるワケで。
- << 101 でも… 先輩が言いかけた事と、 澪夏ちゃんと先輩のやり取りには、 もっと、深い意味があった事にその時のオレは気付くはずもなく……。 オレの横で。 最後は、澪夏ちゃんが自分で選んだ、アプリコットオレンジを美味しそうに飲む姿を。 無意識に目に焼き付けるように、 見つめていた。
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