両想いだろ?

レス185 HIT数 33636 あ+ あ-


2012/12/15 09:18(更新日時)





ねぇ。


オレのこと、好き?





オレは、大好きだよ。


だからさ~




オレのこと、好きになってよ。





No.1844572 (スレ作成日時)

投稿制限
スレ作成ユーザーのみ投稿可
投稿順
新着順
主のみ

No.1





「ねぇ、付き合おっか?」


「はあぁ?馬鹿じゃない?」


「いいじゃん」


「何がいいのよ。」


「ん?だって、オレ、あんたの事、気にいったし~」




こんな馬鹿げた会話をするのも、オレのやり方。


だって、十分っしょ?

オレの気持ち、伝えるには。




たださ~

この子が、全然オレになびいてくんないんだよね。



ま、そこがいいとこでもあるんだけどさ。




No.2

>> 1



オレの名前?

聞きたい?



干潟笙。

ひがたしょう、って読む。

笙って字は、竹のように真っ直ぐ、そして強く生きられますように。って、親が付けてくれた。


まぁ、おかげで?
オレの身長、竹のようにグングン伸びて182センチ。
ちょっとやそっとじゃ、くじけねぇ!
そんなハートの持ち主に育ちました~


しかも、モテる。
自分でいうのも、何だけどさ。

学校でも、コクってきた女子は、数え切れねぇ。


そんなオレは今、大学3年生。
一人暮らししてる。


縁あって、親戚の知り合いのとこでバイトさせてもらう事になったんだけどさ。



そこで見つけたのが、さっきの女子。


これがまた、超好みのタイプでさぁ。


どストライク!



ただ、なかなかオチねぇの。

No.3

>> 2



この彼女。

歳は23。
そ。 オレより年上。

正確に言えば、今年誕生日がきたら。24。

だから、オレより三つ上って事。

名前は、片桐澪夏。


バイト先のおやっさんの娘で。

だから…。

お嬢様。


名前が名前だけに

「れいか、お嬢様~」
って、からかって呼ぶと。


ものすげえ形相で睨んでくるんだ。これが!





No.4





見た目は、可愛い系っていうより、綺麗系。


158センチの身長に、落ち着いた髪色のさらさらヘアのボブスタイル。

目は二重で、ぱっちりおめめって言うんじゃなく。
どちらかって言うと、切れ長なんだけど。

睫毛が長いの!


いつも、すっぴんに近いんだけど、マジ。
違和感ねぇ!


だから~

黙ってりゃ、ほんと、どっかのお嬢様~って感じなんだけどね。



「もう一回、言ったら。……ころす。」


冗談なのにさ~
口がわりいのなんのって!



No.5

>> 4



でも別に。
オレ、Mってワケじゃねぇから!


まぁ確かに、周りからはチャラいって言われるけどさ。



結構、硬派なとこもあったりすんだ。


女の子たちと遊ぶ事、多いけど。

特定の彼女は、そうそう簡単にはつくらねぇ。


だって、オレ。

マジで好きになったやつしか、興味ねぇし。



だから、この澪夏ちゃん。

ぜってぇ、オレの方振り向かせてやる!





No.6

>> 5



まぁ、確かに。

お嬢様っつっても、おやっさんの仕事は、電機関係の仕事で。

ほとんどの仕事が、エアコンの取り付け取り外し。


大会社の社長とは、大きく違うからな。

お嬢様~
ナンテ言う雰囲気じゃないって事は、本人は勿論!
オレだって、分かってるさ。


だけど。

すぐムキになって、怒るから。
それが面白くて、つい、な。



そんなオレと澪夏ちゃんを見て、おやっさんもおばさんも笑ってる。


「兄弟喧嘩みたいだ。」って。


「誰が兄弟なのよ!血いなんて、繋がってないし!」
って反論する澪夏ちゃん。




No.7

>> 6



兄弟じゃねぇのは、分かってるけど。


家族になりてぇ!


そう、いつか~


だってさ、この澪夏ちゃん。
口はこんなんだけど、料理、サイコーなんだ!


時々、おばさんも仕事に着いていく事があるんだけど。


そんな時、澪夏ちゃんが飯作ってくれる。

あ、オレ。
よく、夕ご飯おやっさんちで世話になってて。


澪夏ちゃんも、仕事してるから。
毎日ってワケにもいかねぇみたいだけどさ。



バイトは正直、楽とは言えねぇ。


けど。
おやっさんちで食べる、澪夏ちゃんの手作り料理。


疲れも、吹っ飛んじまう。





No.8

>> 7



そんなある日。

疲れ果てて、夜遅くにおやっさんと二人、帰ってきた。


おばさんは、いつもおやっさんが帰ってきてからじゃないと、風呂には入らねぇ。


でも、オレは、当然風呂には入らねぇから。



「澪夏~、干潟くんにご飯の用意してあげて~」

おばさんが、2階の自分の部屋にいた澪夏ちゃんに声を掛ける。


「えぇ~!なんで~」

半分キレながらも、階段を降りてくる澪夏ちゃん。



おばさんはそんな澪夏ちゃんを無視するように。
おやっさんと風呂に入ってった。


仲、いいんだよな。

おやっさんとおばさん。
いくつになっても、必ず一緒に風呂入って。



オレも。

そうなりてぇ~



もちろん、澪夏ちゃんと!






No.9





ブツブツ言いながら。

オレの飯、用意してくれる。


いつも飯食わせてもらってるリビングからは、澪夏ちゃんのいるキッチンは見えねぇ。



オッ!
いいにおい~

カレーじゃん!


「はい…。」

テンション低いままの澪夏ちゃんが、皿に盛ったカレーを運んできてくれた。

「サンキュー!」


「あのさ。干潟くん。」

スプーンを持った途端、澪夏ちゃんがオレの名前を呼ぶ。



「ん?なに?」

一口目のカレーを頬張りながら、返事するオレ。






No.10

>> 9



「なに?じゃなくてさ。」

どした?澪夏ちゃん。

あ!
ついに、オレに。
こ・く・は・く?


キラキラモードで、澪夏ちゃんを見つめる!



「干潟くん。あなた、私より下、だよね?」

なんだ!そんな事?

「そだね!でも、オレ的には全然!気にしねぇよ~」


だって、そうだろ?
3歳年上の彼女なんて。
今時、全然珍しくもなんともねぇし~


「何が気にしないのよ!私が気にするの!!」


へぇ~
澪夏ちゃんて、意外に人の目?とか、気にするタイプなんだ~


「大丈夫!オレの方は、全く問題ないから!」


何口目かのカレーを食いながら。

「澪夏ちゃんのカレー!うめぇ~」


まさかこんなに早く、澪夏ちゃんとつきあう事ができるようになるなんて~


笙スマイル全開で、澪夏ちゃんを見つめた。







No.11

>> 10



「ねぇ。なにか、勘違いしてない?」


オレのスマイルとは対照的に、超不機嫌モードで睨んできた。


あらら?

もしかして?


「オレ…。なんかした?」

「それ!!」

うん?

「なに、なに?」


そろそろ、皿の上のカレーがなくなりそう。


「そのタメ口~!!!」
タメ口…

なんだ。


そんな事か!


「澪夏ちゃん!お代わり!」


オレは、何事もなかったかのように、空になったカレー皿を差し出した。






No.12

>> 11



大きくため息をついた後、立ち上がった澪夏ちゃんは、空になった皿をオレの手から受け取った。


その時。だった…


澪夏ちゃんちのリビングに置いてあるテーブルって、直接床に座るタイプ。

だから、座ってるオレから見ると、立ち上がったまま前屈みになった澪夏ちゃんの胸元が見えてしまい……


ブラは着けてたけど…!

完全に胸の谷間が見えてて!



おぉっ…!

やっべぇ~!



よくよく澪夏ちゃんを見ると、パジャマ姿なんだよ。

下は足首までのパンツなんだけど、上は初夏らしくノースリーブ!


だからさ!

見えちまったんだよ~!




No.13

>> 12



オレ、別に童貞ってワケじゃねぇ。


女の子の裸だって。

まぁ、普通に見た事あるけどさ。




澪夏ちゃんだぜ?


あの胸の谷間!

ありゃ、Cカップはあるな。


キッチンに向かって歩いていく澪夏ちゃんの後ろ姿。



ヤバッ!

薄手の生地なのか、下着がうっすら見えてんだけど…!



ピンクの花柄パンツ…!



クソっ…!!


ここがおやっさんちじゃなかったら!




オレ。

ぜってー、澪夏ちゃん、襲ってる!





No.14

>> 13



「なに、ぶつぶつ言ってんのよ。」

テーブルの上に、おかわりのカレーを置きながら、澪夏ちゃんは言う。


え?オレ…
声にだしてた!?

「なんか、聞こえた?」
「なんかって?」



よかった―!

聞こえてねぇ。


「また、ぶつぶつ言って。気持ち悪い!」

「き!気持ち悪い…って!そりゃないよ~」



とか言いつつ。

澪夏ちゃんをチラ見すれば。



テーブルに平行に座り、テレビを観てる澪夏ちゃん。


横から見る澪夏ちゃんの身体のライン。

やっぱ、上のシャツも薄くてさ~

ブラの形も、わかんだよな!





No.15

>> 14



なんで、そんなセクスィーな格好してんだよ~


テンション上がりっぱなしのオレと!オレ、Jr。



って。

ここは、澪夏ちゃんち。


自分の家にいるんだから、リラックスしてても、なんの問題もない。ワケで。


にしてもさ。



無防備すぎるぜ。

澪夏ちゃん。




澪夏ちゃんのカレーも、一層旨く感じるっつうの!



絶対、オレの彼女にするからな!




「はい!三杯目!!」


「ハァ…、よく食べるわね…」
呆れたように、オレから皿を受け取る。

「えっ~だってっ…」



澪夏ちゃんの下着が見えて、テンション上がって~なんて言ったら。

きっと、半殺しの目に遭う……!



「澪夏ちゃんのカレー!サイコー!」

ここはひとまず、冷静に対処。


「ふーん。」


なのに澪夏ちゃんは。


オレの顔なんて見もしねぇで、キッチンの方へ行っちまった。






  • << 26 澪夏ちゃんと入れ違いに、おやっさんが風呂から上がってきた。 「先に頂いてます!」 おやっさんに挨拶する。 こうみえて、オレ。 礼儀はきちんとやってる方だって、自負してる。 まぁ、エラそうに言う事じゃねぇけどさ。 「おぅ!腹一杯食ってけ。」 おやっさんが、タオルで顔を拭きながらオレに声かけてくれる。 「はい!ありがとうございます!もう、三杯目です。」 「そうかぁ!うちのかみさんのカレー、旨いだろ?」 ニコニコ笑いながら、胡座をかくおやっさん。 え……? 「はい。三杯目」 ニヤニヤしながら、オレの目の前に三杯目のカレーを置く、澪夏ちゃん…。 「お…おばさんのカレー。」 「まだまだ、おかわりしていいぞ~」 「え…、あ、はい。……ありがとう…ございます。」 呆然とするオレの前で、必死で笑いをこらえてる…澪夏ちゃん…。 澪夏ちゃんが、鬼に見えるぜ…… 今までのオレのテンション…… どーしてくれんだよ~~~

No.18

>> 16 主さん、 文才サイコー!(^o^)
こんばんは。
レス、ありがとうございます☆

文才なんて全くないです💧

ほんとに気分転換に、書きたい時に書いてるだけで。


だから、こんなところを覗いて下さった事。
本当に感謝します💧

ありがとうございます
m(_ _)m☆


No.19


いつの間にか、削除されたレスがありますが……
もしかして、不快な思いをされた方がいらっしゃるという事かもしれませんね………



申し訳ありませんでした
m(_ _)m💧




No.21

>> 20
こんばんは☆
レス、ありがとうございます
m(_ _)m


あくまで『お話』として、捉えて頂けると…
ありがたく思いますが…
m(_ _)m


No.23

>> 22
こんばんは☆
レス、ありがとうございます
m(_ _)m


仕事をしながらなので、スローペースになる事が多々あります。

その上、面白いかどうか…💧

気長にお付き合い頂ければ、有り難いですm(_ _)m


No.25

>> 24
おはようございます☆
レス、ありがとうございます。

楽しみにしていただき、本当にありがとうございますm(_ _)m


自スレ設定という事ですね?
読みやすいという事であれば、そうしようかなと思います。

ありがとうございます☆


No.26

>> 15 なんで、そんなセクスィーな格好してんだよ~ テンション上がりっぱなしのオレと!オレ、Jr。 って。 ここは、澪夏ちゃんち…



澪夏ちゃんと入れ違いに、おやっさんが風呂から上がってきた。


「先に頂いてます!」

おやっさんに挨拶する。

こうみえて、オレ。


礼儀はきちんとやってる方だって、自負してる。


まぁ、エラそうに言う事じゃねぇけどさ。




「おぅ!腹一杯食ってけ。」


おやっさんが、タオルで顔を拭きながらオレに声かけてくれる。


「はい!ありがとうございます!もう、三杯目です。」



「そうかぁ!うちのかみさんのカレー、旨いだろ?」

ニコニコ笑いながら、胡座をかくおやっさん。


え……?


「はい。三杯目」

ニヤニヤしながら、オレの目の前に三杯目のカレーを置く、澪夏ちゃん…。



「お…おばさんのカレー。」

「まだまだ、おかわりしていいぞ~」

「え…、あ、はい。……ありがとう…ございます。」



呆然とするオレの前で、必死で笑いをこらえてる…澪夏ちゃん…。



澪夏ちゃんが、鬼に見えるぜ……





今までのオレのテンション……




どーしてくれんだよ~~~







No.27

>> 26



バイトは、毎日行ってるわけじゃねぇ。


平日は基本、学校あるから。


だから、土日がバイトの日。っていうパターンが多い。




今日は土曜日。

いつものように、オレは愛車で澪夏ちゃんちに向かう。



ちょうど、車を止めて降りようとした時だった。澪夏ちゃんが仕事に出掛けようとしてて。


朝から、澪夏ちゃんに会えるなんて!


ラッキー!




「わかった?澪夏?
今日の夜は、空けておきなさいよ~」

家の中から、おばさんの声が聞こえる。


「わかったよ…。」


生返事の澪夏ちゃん。




玄関からでてきた澪夏ちゃんがオレに気付いて。

「あ…」


あ?って、なんだよ~

朝からテンション互いオレに向かって~
しかも。


「はぁ…」




ため息までついてるし!







No.28

>> 27



「ちょっと~澪夏ちゃん?人の顔見てため息つくなんて、失礼過ぎるっしょっ!」


軽く口を尖らせながら、拗ねてみる。



「仕方ないでしょ。まんま、干潟くんのせいなんだから。」


鞄から、車のkeyを取り出しながら、オレを横目で見る。


「へっ?なんだよ。オレのせいって~」



「お母さんに聞いて。」

「え?おばさんに…?」


余計、わかんないねぇよ~



ひとりいじけてるオレを。

無視するかのように。


澪夏ちゃんは、車を発進させた。




くぅ~!
相変わらず、つめてぇ~



でも、今日も。

可愛かったぜ。澪夏ちゃん!



しかも、このあとに知る出来事が、更にオレのテンションを上げてくれるなんて。





この時のオレは、まだ知らなくて~








No.29

>> 28



「えっ?マジですか!?」


この事だったんだ!


「そう~。急で悪いんだけどね。
干潟くん、来れそう?」


「もちろんです!」


あったりまえじゃ、ないっすか!

「ほんとに?なんか予定とかなかった?
せっかくの土曜日だし~」

「いや~、ないですよ~!」


思いっきり、だちと約束あったけど~



「そう~?良かった。
じゃあ、また後でね。」



おやっさんとオレが、仕事に出かける前、車の外からおばさんと話した内容だ。



詳しく言うと。

おやっさん家族と、おやっさんの仕事関係の社長さんとで、飯食いに行くから、オレも誘ってもらったって話!




たださ。


さっきの澪夏ちゃん?

なんで、ため息ついてんだ~?


オレは、澪夏ちゃんと飯食いに行けるってだけでさ、こんなにウキウキなのにさ~






No.30

>> 29



さすがにこんな事、おばさんに聞くわけいかねぇし。



とりあえず、仕事に集中するべ!







土日は、この仕事の所謂稼ぎ時ってやつで。



一応、オレの分も弁当作ってもらってんだけど。


ゆっくり食ってる暇なんかなくて。



おやっさんと二人、超短時間で昼飯済ませる。




そんなんだから、おやっさんにも聞く暇なくてさ。





結局、仕事終わらせて、おやっさんち戻ってきても疑問は解けねぇままだった。







No.31

>> 30



オレとおやっさんが帰ってきた頃には、おばさんも澪夏ちゃんも出かける用意済ませてて。


おやっさんはいつも、すぐ風呂入んだけど。

オレは、今日だけシャワー使わせてもらった。


汗塗れのまま、食事に行くの可哀相だからって。


ありがてぇ~


オレ以外はもう、ほとんど準備終わらせて、待っててもらってるから。



急いで、シャワー浴びる。



頭から掛ける少しぬるめのシャワーに、ちょっとビクッとなりながらも、


「フーッ!気持ちいい!」



シャンプーを使わせてもらおうと思って、辺りを見渡せば…

明らかに違うシャンプーとコンディショナーのセットが二種類。



恐らく。

一つはおやっさんとおばさんが使ってるやつで。
もう一つは、澪夏ちゃんが使ってるやつ。




オレは迷わず。




澪夏ちゃんが使ってると思う方を使う!



…って!

オレ、変態か!!




いや…


ここは、変態と思われようが思われまいが。




澪夏ちゃんと同じ香り。
漂わせてぇ~!





やっぱ。




オレ、…変態。………






No.32

>> 31



「すみません。お待たせしました!」




澪夏ちゃんちのシャワーで、身も心もきれいさっぱりになったオレは、おやっさんちの車に便乗させてもらう事になった。

オレはオレで、どうせ帰りは車だから、自分の車でも良かったんだけど。


なんでも。
飯食うとこが、山道を行ったとこで。
駐車場もあんま、広くないらしい。


それに、おやっさんの知り合いの社長さんって人は、そこで待ち合わせてるから。
余計、駐車場が足りなくなる可能性があるとかで。


一緒に行く事になったってワケ。




おやっさんは、酒飲むから。行きは、おやっさんが運転して、帰りはおばさんが運転するらしい。

だから、運転席にはおやっさん。
助手席には、おばさん。


つう事は。




後部座席には、オレと。


澪夏ちゃん!





No.33

>> 32



車の中では、おやっさんとおばさん、そしてオレの三人で話が弾んでた。

そんな中、澪夏ちゃんはほとんど?いや。
全くと言っていいくらい、何にもしゃべんねぇ。

まぁ、いつもの事だけど。




チラッと、澪夏ちゃんを見る。



窓の方を見て、何かを考えてるみてぇだ。




「ねぇ。どうかした?」

オレの質問に、



一瞬だけ、オレを見たかと思えば。
すぐさま視線を窓の外に戻して、



「別に。」


冷たく返す澪夏ちゃん。

そりゃないぜ!


あ!

「腹でもいてぇとか!?」


「………!」



はい…

思いっきり、睨まれました。



そんなオレ達を見て、おやっさんもおばさんも笑ってたけど。




もう。

その目的の場所に着く頃には、辺りは薄暗くなってて。

しかも、けっこうな山道だった。


確かに、運転には自信のあるオレでも、ちょっとヤバかったかも!







No.34

>> 33



店に着いた時、ちょうど知り合いの社長さんも着いたばっかりだったみてぇで。


初めてだったオレは、軽く挨拶する。


「どうも!真鍋といいます。干潟くん。だったっけ?」


歳は、おやっさんより少し若そうだけど。


なんかこう……
上から目線っつう感じが出てなんな。



ま、社長っていうぐらいだから。
それなりに、すげーんだろうけど。

ただ。
オレは、興味ねぇ。





「やあ~、澪夏ちゃん!元気そうだね~」


澪夏ちゃんを見つけた真鍋さんが、近寄ってくる。


ん?
澪夏ちゃんの事、知ってんのか?



「どうも。ご無沙汰しております。」


深々と頭を下げる澪夏ちゃん…




なんだか…

妙に、仰々しいな。







No.35

>> 34



通された部屋は畳の部屋で。


所謂、お座敷ってやつか。




5人で座るには広すぎるテーブルがあって、横を見ると、襖で仕切ってあった。





おやっさんと真鍋さんが窓際に並んで座り。


向かい側に。


おやっさんの目の前におばさん。


その横に澪夏ちゃん、そしてオレ。




まぁつまり、真鍋さんの目の前が澪夏ちゃん。みたいな……




予約をしてたらしく。


早速、料理が運ばれてきた。



大皿に綺麗に並べられた刺身。



うまっそう!!




すぐ横には、大好きな澪夏ちゃん。

そして目の前には、美味そうな刺身たち~~~



オレ。マジで幸せ。




No.36

>> 35



ただ、誰も手を出そうとしねぇ。


こんなに美味そうな料理が並んでんのに!




なぜだ?


誰も食べねぇんだったら!

そう思って、箸を持とうとした時………





澪夏ちゃんが素早くオレの右手を押さえつけてきた。


なに!?
って声が出そうになったと同時に。

「待って…!」

ほんとに聞こえるか聞こえないか、わからねぇような声で。


澪夏ちゃんが言う。

訳が分からないオレが、澪夏ちゃんを見ると……



表情ひとつ変えずに、前を見てる。





オレの右手の上には、

澪夏ちゃんの白い手がしっかりと乗せられてて。



おやっさんと真鍋さんの談笑が続いている中。



澪夏ちゃんからは、ただならぬ緊張感が伝わってきた。








No.37

>> 36



訳はわからねぇけど。


ここは。

澪夏ちゃんに従おう。



おばさんを何気に見ると、やっぱり何も食べずに、おやっさんと真鍋さんの話をじっと聞いてる感じだ。


そのうち、酒も運ばれてきて。


澪夏ちゃんが、その場で膝立ちする…。直前。

オレの耳元で澪夏ちゃんが囁いた。



「私が合図するまで、箸をつけるのは待って。」


小さく頷くオレ。



日本酒なんだろう。

澪夏ちゃんが目の前にいる真鍋さんに向かって。

「どうぞ。」
そう言って、徳利を差し出す。



「ああ~、澪夏ちゃん。ありがとね。」



テーブルの上に置いてあったお猪口を取って、座ったまま、前に突き出す真鍋さん。



「あ、いえ。」

そう言いながら澪夏ちゃんは、真鍋さんのお猪口にお酒を注ぐ。






No.38

>> 37



それを見計らったように、おばさんがおやっさんのお猪口にも酒を注いでいく。




そしてまた、膝立ちしたままの澪夏ちゃんが、真鍋さんのお猪口に注ぐ……。




なんだ、これ……


世に言う。



接待ってやつじゃねぇのか………





何回か、こんな場面が続いた後。



「さあ~、食べましょ~」

ご機嫌になった真鍋さんが、皿の上にある刺身を一口食べた。



その時。

「食べていいよ。」

って、澪夏ちゃんが。




けど。オレは…


どうしても、箸をつける気にならなくて。


だって、そうだろ?



なんで。


澪夏ちゃんが、こんな…
まるで。
ホステスみてぇな事……



やんなきゃ、いけねぇんだ!!





でも、その間も。


澪夏ちゃんは、真鍋さんの酒を注いでいく。



どんどん。

そのうち、真鍋さんが、
「ほら~、澪夏ちゃんも飲みなさ~い」
澪夏ちゃんに進めてきた。



皿の上の料理もどんどん、無くなっていく。


No.39

>> 38



「はい。ありがとうございます。頂きます。」


は?

マジかよ??


澪夏ちゃん……



そう返事した澪夏ちゃんは、今度は真鍋さんに向かってお猪口を差し出すと。

真鍋さんは、澪夏ちゃんのお猪口に……。



お互いのお猪口に交互に酒を注いでいく、真鍋さんと澪夏ちゃん…。




「食べないの?」

そんな事を繰り返している澪夏ちゃんが、思い出したように、オレに声をかけてきた。


食べないの?って……



ねぇ、それ、マジで言ってんの。




オレは、このイライラをどうする事もできなくて。


立ち上がって。


部屋を出た。





No.40

>> 39



外灯しかない駐車場で、オレは一人、煙草を吹かしてた。




なんでだよ……!


澪夏ちゃん…。




クソッ!!


オレは吸ってた煙草を思いっきり、地面に叩きつけた。








「煙草。こんな所に捨てちゃ駄目でしょ。」


「!!……」


澪夏、ちゃん………



オレが捨てた煙草を拾い上げ、近くにあった吸い殻入れに捨てた澪夏ちゃん。



なんで。

ここにいんだよ。



聞きたい事はいっぱいあるのに……



頭の中がぐちゃぐちゃで、コトバが浮かんでこねぇ……




あの、真鍋…っ




「ハァ~」


澪夏ちゃんが、ため息ついた。

ため息つきたいのは、オレの方だよ…?




だから、つい……


「アイツの相手、しなくていいのかよ…!」

こんな、
クソみてぇな、事。


聞いちまってた。








No.41

>> 40



「してきたわよ。」

……!?


………………

……




…わかってる!

いや…

やっぱ、


わかんねえ!!



オレはヤダ!



だから!!



「だから今ごろは、つぶれてる。」

…………

「は!?…」


つぶれてる…


「真鍋…?」

「そう。ま・な・べのオヤジ。」

あ…

オヤジ…って



「あのオヤジね、お父さんに仕事回してくれてるんだけどさ。
なんていうか、いつも。
上から目線で。
今日みたいに、たまにご飯に誘ってくるんだけど。
なぜか、今日は干潟くんもって話になったらしくてさ。」




駐車場の片隅にあったベンチに座りながら。
澪夏ちゃんが、気だるそうに話しだした。








No.42

>> 41



オレも黙って、澪夏ちゃんの横に腰掛けた。



「ま。あのオヤジが考えてる事なんて、手に取るようにわかるから。
特に問題はなかったんだけどね。」


「い…、いや!問題あんだろ!めちゃくちゃ、あるじゃん!」


またもや興奮したオレは、いつのまにか、手にした煙草を握りつぶしてた。

そんなオレをチラッと見た澪夏ちゃんが

「そうね。
あったとしたら…。
干潟くんね。」


なんて。
足を組み直しながら、ちょっと遠くを見つめる。


「オレ?いやいや!オレじゃないっしょ!
問題なのは、あのオヤジと……!……」


身を乗り出しながら、澪夏ちゃんに訴えようとして。
思わず、澪夏ちゃんの名前をだしそうになる。









No.43

>> 42



いや。

わかってんだ。


澪夏ちゃんは、なんも悪くねえって事、ぐらい…


ただ…オレは、……



あんなくそオヤジにお酌して!

しかも、澪夏ちゃん……

一緒に飲んだんだぜ?……!



オレは…。






「あのオヤジね。
いつも、そうなの。」

オレの不満を抑えるように、澪夏ちゃんが静かに話す。



……いつも。

…って?

「なにが……?」


「人を試すような事をしてくる。」

「え?試す?」



「そう。
お父さんが干潟くんを雇ったって聞くと、どんな人間なのか知りたくて。あ、勿論本人はそんな事、これっぽっちも口にださないけどね。
だけど、さっきも言ったけど。
見え見えなの。アイツの考えてる事なんて。」


いつのまにか、《オヤジ》から《アイツ》になってるよ…

オレも、人のこと言えねぇけど。




静かに話しだした澪夏ちゃんを見てると、オレもちょっとだけ冷静になってて。




No.44

>> 43



「自分は、非常識なくせして、人には常識を求めてくる。」



常識……



「!!…それっ…て!」

「そ。あの場合、一応。
アイツが私たちを招待してるから、アイツより先に箸をつける訳にはいかないの。」



「………そっ…か…」




もしあの時、澪夏ちゃんが止めてくれなかったら。


「おやっさんの仕事。……無くなってた?」



今更ながら。

オレは。
オレのした事に、後悔した……

礼儀はちゃんとしてるなんて。

は…笑える。……



ガキだな。オレ…



「大丈夫よ。」

「大丈夫…な訳、ないよ…」

ごめん。澪夏ちゃん…

すみません。おやっさん……

オレのちっぽけなヤキモチのせいで。



「実際、起きた時には、何も覚えてないから。あのオヤジ。」


え?覚えてない…って?

それに澪夏ちゃん…
また、オヤジに戻ってるし……



「どういう事?」








No.45

>> 44



「言ったでしょ?
つぶれてるって。」


うん?

あ…

「いや、言ったけど…さ。ただ、酒飲ませたぐらいで?」

「そうよ。
あのオヤジ、酒好きなくせして、酒、弱いのよ。
だから、最初っから、ガンガン飲ませてたでしょ?」

思い出してみる。

……………

いや…、確かに。
そうでしたけど…


「いつも、ああやって、私が、相手しながら、飲ませてんの。
お母さんは、全くダメだし。
かと言って、お父さんは自分も飲んじゃって、役に立たないから。」


えっと…

自分のお父さんの事、役に立たない…って?

澪夏ちゃん…。

あははは…



さすが…。澪夏ちゃん!って感じ。です。




って!

いやいや!

ちょっと待てよ!


「澪夏ちゃん!だって…かなり、飲んでた?よね……?」





「そう?別に、私は普通だけど?」


「いや。だって、オレが部屋を出てからだって、飲んでたんじゃねぇの???」




「まぁね~干潟くんが、拗ねてる間に~。日本酒を五合、瓶ビールの大を5本、焼酎のお湯割りを3杯。こんなとこかな~」


何気に、オレの事拗ねてる…とかつついてるし……

しかも。
自分たちが飲んだアルコールの量、きちんと把握してるし……









No.46

>> 45



澪夏ちゃん…

いや、


姉さん…。



コワイッす……



「ん?なんか、言った?」

「あ!いえ!」



た…頼もしいっす……。





「ハァ…」

今度は、オレがため息ついた。


「何?ため息なんかついちゃって。」


なのに澪夏ちゃんは、オレと違って、怒ったりしねぇ…。


ほんと。

ガキ…。








「オレ…。」


「ねぇ。」

「え…?」


「夜景。………キレイだね。」



夜景?



澪夏ちゃんと二人、座ったベンチから。

街の夜景が見えた。



「そだね。」


「あたし。あんまり、夜景なんて観た事ないんだ。」



「そう、なの?」

「うん。」



確かに。
ここからも、夜景は見える。

ただ、山って言っても、ちょっと小高い所って感じだし。

夜景だって、街の灯りはかなり少なくて。









No.47

>> 46



「あ!オレ!連れてってやるよ!」


「え?連れてってやるって…?」

「夜景のキレイなとこ!」

「え…、……いいの?」

「ん?いいに決まってんじゃん。」


あれっ?

なんだかいつもの強気な澪夏ちゃんじゃねぇな?

ま。いっか。



「こんなとこ、目じゃないってぐらい、すんげーんだぜ!」




澪夏ちゃんと真鍋のオヤジとの事も、解決したオレにとっては。


夜景を観に行けるってだけで、めっちゃ嬉しくて。





澪夏ちゃんの微妙な変化に。
それ以上、気付く事はなかった。





No.48

>> 47



部屋に戻ったオレと澪夏ちゃん。


するとそこには、真鍋のオヤジの姿はなく。



キョロキョロするオレに、目配せする澪夏ちゃん。


その視線の先には、最初に部屋に入った時に気付いてた襖が…。


オレは、そっと襖を開ける。



そこには。


顔を真っ赤にして、すっげえいびきををかきながら、布団に寝る真鍋のオヤジの姿。




いくら、酒よえーからって。

オレの隣には、思いっきり普通の、澪夏ちゃん。


オレの視線に気付いた澪夏ちゃんが、ニヤリと笑った……


やっぱ。
マジ、コワいっす……。



でも、今更だけど。

澪夏ちゃんのおかげで、オレは今、普通にここにいられるんであって。


マジで感謝です。




あ、真鍋のオヤジの事だけど。
このオヤジは、いつもこうなるから。
澪夏ちゃんが最初っから手配してて、ここに泊まっていくようになってるらしくて。

朝になって、本人は覚えてないから。
いつも、店の人が上手く話してくれて。
恐縮しながら帰っていくらしい。




これも、澪夏ちゃんに言わせると。
思惑通りらしくて。


『事を荒立てる事なく、上手く付き合っていくのよ。』って、澪夏ちゃん。




はい。尊敬します!






No.49

>> 48



真鍋のオヤジ程じゃねぇけど。

酔っ払って一人では歩けなくなってるおやっさんを、オレが背負って車まで運んだ。



「ありがとね~。干潟くん~」
酔っ払ってるおやっさんを、助手席に乗せてると。

おばさんがオレに礼を言う。


「あ!いえ。」

礼なんて。

言われるような事、してないっす…。



「はい。」

そんな感傷に浸ってると、いきなり澪夏ちゃんが何かをオレに差し出す。

「?…なに?」

「お腹、空いてない?」
「え?…あ。」

そういえば。オレ…

結局、何にも食ってなかった…


「腹…減った…」

「でしょ。お店の人に言って、適当に詰めてもらったから。まぁ、刺身は流石に…ね。楽しみにしてたみたいだけど?」


あ…


改めて、今日の事思いだしてみた。


クソ…

真鍋のオヤジのせいで…

………



いや、結局は。

オレが未熟で、


ガキだったから。



なのに。

そんなオレを、おばさんも澪夏ちゃんも。


責める事なく……。





「ありがとうございます…。いただきます!」

おばさんや澪夏ちゃんが作ってくれたものじゃねぇけど。


みんなの愛情がいっぱい詰まった弁当を。



オレは、有り難く受け取った。







No.50

>> 49



バイトじゃない日に、おやっさんち行くの。


初めてだからか。



妙に緊張すんな…




今日は、澪夏ちゃんと約束した《夜景》を観に行く日。





オレは、前日、バイト中に。

おやっさんにきちんと今日の事、報告した。



だって、仮にもおやっさんの娘さんだし。



おやっさんちに迎えに行くのに、何にも言わねぇなんて。

あり得ねぇだろ?



おやっさん。

ちょっとだけ、困ったような顔したけど。



「そうか。澪夏の事…よろしくな。」

って。


「あ…、はい!」


よろしくな。なんて、かしこまって言われると…。

ちょっと、照れちまったけど。




任せて下さい!

この前の、真鍋のオヤジ…あ…!
真鍋…さんの件もあるんで!




なんて口には出さねぇけど。


澪夏ちゃんの事。




ちゃんと、楽しませてきますから!







No.51

>> 50



家の中に入ると、おばさんが奥から出てきた。


オレの顔を見るなり。


「澪夏~!干潟くん、来てるわよ~」

二階の自室にいる澪夏ちゃんに、声を掛ける。

「あ…!すみません!」
オレが恐縮してると…

ニッコリ笑いながら。

「何、してるのぉ~
早く、しなさ~い。」

ってまた、澪夏ちゃんに向かって階段下から、急かすおばさん。

「あ、あの、いいっすよ!オレが、予定より早く来すぎたんで!」


そう。オレは。

気合いが入りすぎて、予定の時間よりかなり早く、着いてしまって。







「そうよ。まったく…!こっちの身にもなってよ!」

階段を降りてくる澪夏ちゃんの声が聞こえてきて。


ヤベッ!
超、機嫌悪そう!

「澪夏ね~。あなた、迎えにきてもらってんだから。早めに準備しておくのが、礼儀でしょう~」
なんて言いながら。
おばさんは、オレに申し訳なさそうに言ってくれる。……んだけど…。



ほんとにもう…、いいっすよ……おばさん…



だって。澪夏ちゃん。
怒らせると、マジこえ~し!

オレは、苦笑いするしかなくて。


おばさんに頭下げてた。
下げた頭の視線の先に、澪夏ちゃんの足先が見えたから。


顔を上げると……




「……………」

オレは。


言葉を、失った。










No.52

>> 51



ウエスト辺りで分かれたツートンカラーのワンピース。

メイクは相変わらずのナチュラルメイクだけど。


足首が見えるか見えないかぐらいの丈が。



なんつうか。



清楚な中にも、大人の色気を醸し出してる?ってゆう感じがでててさ。




「なによ。」


オレ、

澪夏ちゃんから目が離せなくなっちまってて。



澪夏ちゃんの声が入ってこねぇ。





「ちょっと…!何、じろじろ見てんの!」



小声で怒る澪夏ちゃんに。






「……!!…わ!ごめん!」

我に返ったオレ。




いつもの、ラフな格好の澪夏ちゃんももちろんいいんだけど…。




ナンなんだ!
このオーラは?
って思うぐらいの、感動モノで。




ハァ~

オレ。やっぱ。



マジ、好き。





恋してんな。






気持ち悪い!とか、言うなよ。








No.53

>> 52



我を忘れるぐらい。

澪夏ちゃんに見とれてる頃には、おばさんの姿はもう無くて。




「じゃあ…、行ってきます。」



奥にいるおやっさんやおばさんに、一声かけた澪夏ちゃんは。


まだ、完全に気を取り戻してないオレの横を。




初夏らしいサンダルを履いて、開きっぱなしの玄関をでていく。





その様子に、はっとしたオレも、
「……あ、じゃ!あのっ、行ってきます!」



同じくおやっさんやおばさんに声をかけて。






澪夏ちゃんの後を追った。






No.54

>> 53



「助手席、でいいの…?」



先に歩いてた澪夏ちゃんが、チラッとオレに目をやりながら聞いてきた。


「え!?もちろんだよ?」

何言ってんの?




ちょっとだけ、間があって。

「そう…、彼女……」

「え?彼女?」




「干潟くんの彼女に、悪いから。」

なんて。
思いもよらねぇセリフが聞こえてきて。



「は!?何言ってんの?澪夏ちゃん!オレ!彼女いねぇし!」


「そう。…」



「いやいや…。つうか、オレは澪夏ちゃんだけだから!」





澪夏ちゃんは前を向いたまま。

それ以上、オレの言葉にはなんの反応もないから。



どんな顔してんのか、わかんねぇ。





ねぇねぇ!
そこは、なんとか言ってよ~






「じゃ。…お邪魔します。」


助手席のドアを開ける前、オレに…ってゆうより。
車に向かって、話しかける澪夏ちゃん。




「あ…、はい。どうぞ。」


なんだか、オレも。




自分が車にでもなったような、変な気分で返事した。







No.55

>> 54



なんだかわかんねぇけど。


車内は、妙な空気が流れてて…。




車に乗った途端、何にも喋んなくなった澪夏ちゃん。


オレも、喉に何かが引っかかったみてぃに、
言葉が見つけだせなくて。



しばらく、お互い無言のまま。


走ってた……。







「お父さんに…、今日の事、話した?」

唐突に、話しだした澪夏ちゃん。


え…

あぁ。


「うん。だって、やっぱ。黙っておくにはいかねぇって思って。」

「………そう。」



「なに…?なんか、あった?」


横を見ると。
澪夏ちゃんは少し伏し目がちに、一点を見つめているようで。



不安になったオレは…

「もしかして…言わない方が……よかった…?」




「あ…。ううん!そんな事ないよ…!」



澪夏ちゃん…




「ほんとに?」

確かめるように、聞き直す。



「うん。いや、ただね。遠いから。気をつけて行くように。って、言われたの。」






No.56

>> 55



単純なオレは。

「そっかぁ!…あ!オレも、ちゃんと安全運転で行きますから!って、おやっさんに言っておいたから~。」



「…そう。」

「うん。だから、安心して?」

「ありがと。」


オレが澪夏ちゃんを連れて行こうとしてるとこって。

片道2時間はかかるとこで。


結構遠いから、おやっさん、心配してくれたんだろな。



あ!オレじゃなくて、澪夏ちゃんの事ね!










「に、してもさ。」


それまで、黙り込んでた澪夏ちゃんが話しかけてきた。


「ん?」

「車、でかいよね。」

「あ?…あぁ~。」


オレの愛車。

2000ccのケンメリ。


周りからは、そんな金のかかる車なんて。って、いっつも言われる。



確かに、古いから。

メンテナンスは時間も、金もかかる。



けど。


このスタイルとエンジン音が、オレにはたまんねぇ。






それに―――。








No.57

>> 56



「オレが、軽にって。
可笑しくない?」



「え?…」


澪夏ちゃんが、オレの身体を見回しながら、

「あ、……そうね。」

納得したように返事した。


「友達にもさ、お前、軽、似合わねえな~って言われるし。」




そう。
オレのこの身長じゃ。
まるで、おもちゃに乗ってるみたいだ!って、よく言われんだ。





「デカすぎるのも。不便な事って、あるのね~」

って。
澪夏ちゃん?

また、人が傷つくような事を。


だからオレも!


「チビちゃんには、わかんねぇ悩みだろうな~」


って、横目で。
にやつきながら、応戦すると。







No.58

>> 57



「チビじゃない!」


ムキになって答えるから。


「チビじゃん。」
って。

内心ニヤニヤしながら、オレがまた言うと。


「チビじゃないもん!あたしは、普通!」

って、身体ごとオレの方向いて、本気で怒ってくるから。


「オレから見れば、チビなの。」


って言いながら。

右手はハンドル。
左手は澪夏ちゃんの頭の上に手のひら置いた。





話の流れで、澪夏ちゃんの頭を触ってしまったけど。



考えてみれば。

澪夏ちゃんの身体に触れるのって、真鍋のオヤジの件以来で。
まぁ、あの時は、なんつうか。
突発的だったって事もあったし。
正直、澪夏ちゃんの手に触れてる。なんて、意識してなかったからな。



勿体ねぇ事、しちまったけどさ。



今は。

オレの方から、触れてるワケで。







髪の毛、柔らかけぇ…



できる事なら、このまま………

「ちょっと!」


「え!?なに!?」


「ハンドル!危ないでしょ~!!」



あ……

そこ…?



澪夏ちゃんのマジ切れで。

オレのアマ~い想いは、見事に打ち消されてしまったのです……。






No.59

>> 58



笑ったり。

怒ったり。


時には、笑い過ぎて、涙流したり。


でも。
そんな時間も、オレには楽しくて。



あっという間に、目的地までの半分は過ぎてて。



夜景を観る事が目的だったから。

その頃には、だいぶ暗くなってた。



当然。
夜景が見えるとこだから、山道を走るんだけど。



それまで二人で、途切れる事なく喋ってたのにさ。





いきなり、黙ってしまった澪夏ちゃん。



しかも。
なぜだか、固まってる…





今走ってる所は、山道で…当たり前だけどさ、民家もなくて。



車のライトが当たる所以外は、真っ暗で。







No.60

>> 59



え…っ?

この、シチュエーションって。



あ、あれ?

まさかの…


キスしちゃっても、いいの…?



「れ、澪夏ちゃん…?」

運転してるから。
オレは、もちろん前を向いたまま、なんだけど…


ど…どうしよう……

どうする?



…車、止める?




「あ…あのさ!」


名前呼んでも、黙ったまま、返事しないから。
もう一度、声をかけた…。




「黙って…っ!」


「え!」



「そのまま走って…!」

あ…?


「はい……?」




こんな場所じゃ、イヤだったのか?



真っ暗な車中じゃ。

澪夏ちゃんの表情を

読みとる事はできなくて。




悶々としたままのオレは、車を走らせる事しかできなかった。






No.61

>> 60



気付くと、目的地に着いてしまってて…。



オレは、車を駐車場の枠内に入れる。

シフトレバーをパーキングに入れ、サイドブレーキを引いた。



そして、心の中で。

ふーっ…と。溜め息をつく…






「ごめん…」

澪夏ちゃんの謝る声。


「あ…えっ……と、…」
澪夏ちゃんが何に謝ってるのか。
オレの思考回路では、すぐには理解できなくて。

その先のセリフがでてこない。



「さっき…。黙ってって、言った…でしょ?」


あぁ…

「うん…」


でも、それはオレが空気読めなかった…からで。たぶん。

きっと………




「途中、電話ボックス…あったよね?」


「え…?」


それはもう、何年も使われてないんだろう。

電話機のない、ボックスだけの奇妙な物体だった。



「あぁ、うん。あったね!」



「………」


何にも、話そうとしない澪夏ちゃん。


「ん?電話ボックスがどうしたの?」








No.62

>> 61



「……あたし、…見えるんだ……」


見える?
いきなり、何言い出すんだ?澪夏ちゃん。


「見えるって、なにが?」




「あの、電話ボックス…、人が立ってた………」

身じろぎもしねぇで、一点を見つめる澪夏ちゃんの横顔。


「は?人が…?」

オレの問いに、ゆっくりと顔を上げ、こくりと頷いた。


「んなわけ、ないじゃん~!だって、電話機もない電話ボックスに、誰が?なんのために?」


「…………………………………………」


オレの顔に穴があくんじゃないかってぐらい、凝視する澪夏ちゃん。


「……!?」


え…え…えっ………


「えぇ~~~~~~!!!!!!」



瞬間…

オレの叫び声に驚いた澪夏ちゃんが、両方の耳を押さえながら。

「~~~~~!!!!」
声にならねぇ声を上げてた…。





そんなミステリー、

なんか…




いらねぇ~~~~~~!






No.63

>> 62



すっかり気持ちが萎えてしまったオレは。


夜景の事なんか…


ぶっ飛んでしまい。



ハンドルに両手をかけたまま、うなだれてた。





「まぁ!気にしない!気にしない~」

そんなオレに、澪夏ちゃんは脳天気なセリフを放つ。



いやいや。
言い出しっぺは、澪夏ちゃんだし…



「ほら!夜景。」



「あ…」

そう、だった…



今日は、澪夏ちゃんと夜景観にきたんだ!




まぁ、澪夏ちゃんが言うように、気にしなきゃいいんだから。



澪夏ちゃんに見えても……。




オ、オレには…

見えねぇし…!






No.64

>> 63



「…………」



夜景の観える場所に来た途端、いきなり黙ってしまった澪夏ちゃん。


周りは、カップルだらけで。



確かに、ベラベラと喋るような雰囲気じゃないんだけどさ。




正直、オレとしては。


肩でも抱いて…なんぞ、考えてみるんだけど…



さっきの事もあるからな。




ここは、少し。



様子を見てみるか…。





しっかし。

ここの夜景は、何度来ても…



「綺麗……」


え…


突然発した澪夏ちゃんの言葉に、ちょっと驚いて。


澪夏ちゃんの横顔をチラリと、覗いた。




「凄いね…」



もしかして。


「感動とか、してくれてる?」


「うん… 」



「そっか~!」



怖い思いしてでも…!


連れてきた甲斐があったぜぇ~





テンション、上がるっつうの!









No.65

>> 64



「んっ……」



ん…?



妙な声に、辺りを見回すと。





……マジかよ!





すぐ横のカップルが、キスしてやがった…!



よくよく見ると……

男が、女の腰に手を回して…



かなり、密着してる…







オレはというと……

ただ…。


澪夏ちゃんの横に突っ立ってるだけで……





他人のキスシーンなんて。

興味ねぇけど。







こういう場合、



どう…するよ?


オレ。







No.66

>> 65



更に。




「ア…ン」


なんて、声まで聞こえてきて。





ヤベェ…






神様?


何ゆえに、このオレに。


このような試練を……?






マジで、ほんとにヤバい…です。







クソッ…


ここは、もう!



勢いで……!





学習しねぇのは、オレがバカだっつう事で……!







澪夏ちゃん……!








……………


……………







No.67

>> 66



「!!…」



澪夏ちゃん…!?








澪夏ちゃんの左手が、


オレの右手を、




しっかりと握ってて…






へ?



どういう事?




「れ…!澪夏ちゃん…!」



精いっぱいの小声で、そう叫べば。


また、更に澪夏ちゃんのオレの手を握る手に力がこもる。




いや!違う…っ!



そうじゃなくて…!





オレは、澪夏ちゃんと。

キスしてぇんだ!






今度は心の中で叫んでみる!






強行突破だ…!






オレは、身長差のある澪夏ちゃんの顔に近づくため、下から顔を覗き込んだ。







No.68

>> 67



「………澪夏ちゃん…」




澪夏ちゃんが、泣いていた。


「!……ごめん…。」




オレのさっきまでの勢いは、どこにいっちまったのか…。



「どうか、した…?」



澪夏ちゃんの思いもかけない涙に、少し動揺したオレは。
こんな単純な質問しかできなくて。




「…ううん。何でもない…!」


澪夏ちゃん…



「何でもないのに、泣いたりするのかよ。」




ペタンコのサンダルを履いた澪夏ちゃんが、横にいるオレを見上げる。





そんな澪夏ちゃんを、オレは逆に見下ろした。





オレたちはしばらく、お互いの目を見つめ。








「感動したの…。…夜景に。」


視線を夜景に戻した澪夏ちゃんが、答えた。







No.69

>> 68



オレの手は。


握ったままだった…




そういえば。


真鍋のオヤジの件の時も、オレ、澪夏ちゃんに手、握られてたな…。








感動して、流す涙か。


「…………」






わかったよ…。








オレは。



黙って、澪夏ちゃんの手を振り払って。








逆に、


ギュッと



握りしめてやった。










No.70

>> 69



いてぇくらいに。


ギュッと。






でも、澪夏ちゃんは。




何も言わず、オレに手を握りしめられたまま。


夜景を見つめていた。








「ほんと。感動もんだな。」


オレが言うと、



黙ったまま、こくりと頷いた。









澪夏ちゃん……


「マジで。………キレイだ。」





「うん……」



小さな声で、また、頷いた。








その時は、周りの雑音なんて、聞こえなくなってて。







そばに。


オレの横にいてくれるだけで。




それだけで………。



オレは。




…………。








No.71

>> 70



もうすぐ、澪夏ちゃんの誕生日。



何が欲しい?


なんて、聞くのもな。




24歳の女性が、欲しがるものって…。






あ…。

夜景を観に行った帰りは。



…なんも、なかったぜ?




澪夏ちゃんの、あんな訳ありの涙なんか見せられちゃ。



オレも、手だせねぇし…!





決して…、!





あの…





電話ボックスが、怖くて。なんて事じゃ、ねえからな!







No.72

>> 71



オレ、バイト代は殆ど愛車に注ぎ込んでるからな。


金、マジでないんだよな。

どーすっかな。




例のごとく、バイト終わりに澪夏ちゃんちで飯食わせてもらいながら。


ぼーっと考えてた。



「何?ふられた?」

オレの真ん前で、テレビを観てた澪夏ちゃんが、予想もつかない事を口走った。


「は?ふられたって?オレの事?!」



しかも、オレの方なんて見もしないで!



「違うの?なんだか、さっきからぼーっとしちゃってるから。」


だから…


「じゃなかったら、好きな女の子でもできたとか?」



え?今さら?
確かに、オレ、澪夏ちゃんの事、好きだし。


いや。それにしたって。
その質問の仕方は、おかしくねぇか?

オレは。

「澪夏ちゃん?オレはね、澪夏ちゃんの事、考えてたの~」






No.73

>> 72



「え?ふられたばっかりなのに、もう、別の女の子の事考えてんの?」

なんて、またまた、噛み合わねえ会話を始めようとするから。



「違うでしょ!!オレは、澪夏ちゃんの誕生日に、何贈ろっかなって、悩んでたの!」


って、ついムキになって。

本年をポロリ。





「…!!!」


やっべえ…!
言っちまった…



しかも、身まで乗り出して。




おやっさんとおばさんは、風呂入ってて。

いなかったから、それ以上恥ずかしい思い、しなくて済んだんだけどさ。



なんつう事、言わせんだよ…!




半分いじけたオレは、横目でチラッと澪夏ちゃんを見る。





相変わらず、澪夏ちゃんの視線はテレビの方だ。


聞いてないのかよ~




良かったのか、悪かったのか。


オレは、妙な安堵感を覚えていた。






No.74

>> 73



「サボテン。」


ん?…

何?


「サボテンが、どうかした?」


「だから。あたしの誕生日。」


「え?……」



相変わらず、オレの方は見ねぇ澪夏ちゃん。




サボテンが……、

誕生日プレゼント…?




「ねぇ。澪夏ちゃん、それ、本気で言ってんの!?」


だってさ、サボテンって。




「サボテンの何が悪いのよ。」


そう言った後、澪夏ちゃんはキッチンの方へ消えていく。



いや…。

別に、悪くない。





「悪くは、ないです…。」


ドレッシングを手にして戻ってきた澪夏ちゃんに、返事するオレ。





「じゃあ、そういう事で。」


そう言って。

澪夏ちゃんは、サラダを食べてたオレにドレッシングを渡して、また座った。









No.75

>> 74



普段は口悪くて。


冷たい態度の澪夏ちゃんなのに。

さりげなく、ドレッシング持ってきてくれたり。





オレの事、見てないようで。

意外に見てくれてる。





サボテン。なんて言ったのも。


金がねえオレの事、気遣って。

言ってくれたんじゃねぇかって思う。






やっぱ、オレたち。



両想いだろ?







No.76

>> 75



明日は、澪夏ちゃんの誕生日。


バイトが入ってないオレは、前日の今日、例のサボテン持参だ。



正直、ほんとにサボテンでいいのか。

マジで悩んだけど。



素直に、澪夏ちゃんの思いやりに、応えるしかねえか。

って思って。




なるべく、見た目?可愛いやつで。

陶器の植木鉢に入ったサボテンに、リボン着けてもらって。






渡すまでは、愛車に乗っけて。





「ねぇ、澪夏ちゃん!ちょっと、来て!」



飯、世話になって、帰る時に澪夏ちゃんに声かけた。





No.77

>> 76



「え?なに!?」

なにって…


ここで聞く!?



「もう…!いいから。来て!」

空気が読めない澪夏ちゃんの腕握って、外に連れ出した。





「1日早いけど。
はい。これ。誕生日プレゼント。」


愛車の横で、澪夏ちゃんにサボテン渡すオレ。


「え…」

だから!
その天然な反応、今だけ止めてよ。


そりゃあね。


「…ほんとに、サボテンがいいのか迷ったよ?
でもさ、…」



「ありがとう…」



あれ?
やけに素直じゃねぇ?



「あ、いや。……ごめんね?こんな物しかやれなくて。」

頭かきながら、苦笑いするしかねぇ。



「………ううん。」


「ほんとはさ、もっといいもの、渡したかったんだけど。…ごめん。」




「そんな事ないよ。嬉しい。」


オレの顔見て、笑ってくれる。





「澪夏、ちゃん…」



…………

「オレ。」


澪夏ちゃんの肩に手を置こうとした………




「…彼女でもないのに。」







No.78

>> 77



なんで!
そんな事言うんだよ…!



「澪夏ちゃん…。
オレの事、嫌い?」



今のオレ。

めっちゃ、女々しい…



けど。


「嫌い…なんかじゃ、」

「だったら!好き?」

聞かずにはいられなくて。







いつのまにか。

オレは、澪夏ちゃんの両肩に手を置いてて。





「だから…、好き…とか、嫌い…とかじゃなくて…」









No.79

>> 78



澪夏ちゃん……


「オレは…、好きだよ?」





「干潟くん………」




オレの気持ち。



受け取ってよ。





オレ…こんなに、キュンキュンしてんのに。



なんで。


「オレのどこが、イヤ?」

「イヤなんて、」

「じゃあ!どうして!付き合ってくんないの?」




「………だから、それは…!」




………

…………………



静かな駐車場に響く、携帯の着信音。




オレのじゃねえ。



澪夏ちゃんの携帯だ。





「はい……」


澪夏ちゃんは、興奮したオレの腕をゆっくり引き離しながら。


携帯を耳に当てて、話しだした。








No.80

>> 79



ねぇ、


澪夏ちゃん…

オレじゃ、ダメなの?




それとも他に、




好きなヤツでも……






「……わかった。…うん……。」



誰と話してんの?




オレには相手の声は
聞こえねぇ。



「わかったって…!」




澪夏ちゃんが急に声を荒げた。




なに?


どうしたの。





話を無理やり終わらせた澪夏ちゃんが、携帯をポケットに仕舞った。





気になるけど……



オレはさっきの事もあって、






声をかけるのをためらってた。






No.81

>> 80



片手に。

さっきオレが渡したサボテンをぶら下げたまま。


澪夏ちゃんは、オレの愛車に背を向けて、夜空を見上げた。






「この前の夜景ほどじゃないけど…。綺麗だね。」


そんな、楽しい過去の事話すもんだから。




オレも思わず、夜空を見上げた。





「……うん、」



きれいだね。



…………





でもやっぱり。


さっきのオレの質問に、ちゃんと答えてくんないから。




それ以上…

なに喋っていいのか、



わかんねぇし…





この、間。が…


なんともいえねぇな………





「ねぇ、干潟くん…」


夜空を見上げたまま、オレの名前を呼ぶ澪夏ちゃん。



「……なに…?」






「どこか、連れてって…」


「へっ?」




さっきの質問どころの話じゃねぇ…

とんでもないセリフが澪夏ちゃんの口から、聞こえたような?






No.82

>> 81



こんな時って…

なんて言えばいいんだよ…!





「えっ…と」
「明日!飲みに行こう?ね?あ、明日って、干潟くん忙しい?」



オレがあたふたしてるうちに、澪夏ちゃんがオレのスケジュールを確認する。


「あ、明日……、は、……」


明日…って……


澪夏ちゃんの誕生日じゃん!



いや…!まさか!
誕生日当日に澪夏ちゃんに誘われるなんて…!

思ってもみなかったオレは。



サークルの奴らと飲みに行く約束してたなんて事は。



どうでもよくなっちまって。








ちゃっかり、澪夏ちゃんと明日のデートのスケジュールを確認して。



「じゃ、明日」


そう言って、澪夏ちゃんは自分ちへと戻っていき。



オレも。



ウキウキ気分で、アパートへ帰った。





No.83

>> 82



ただこれがさ!

浮かれてるだけじゃ済まねぇような、話なんだよな!



オレは、昨日アパートに帰ってきてからも、ずっと悩んでて。



澪夏ちゃんに
「どこか連れてって!」
なんて言われた時は、テンパっちまって。


なんだっけ…

あの…


あっ!ロミオとジュリエット!みてぇな?


あ…
あれって、許されぬ恋ってやつだよな?


ま!オレと澪夏ちゃんには、そんなもんねぇし!



って。

それより!オレ。




やんなきゃいけねぇ事が、沢山あんだよ!







No.84

>> 83



澪夏ちゃんの誕生日。


オレは、澪夏ちゃんと話し合って決めた待ち合わせ場所に来てた。




またまたオレは、時間よりもかなり早く着いちまって…!



どんだけ、って話だよ!

いや…

てかさ、誰だってこんな状況、興奮すんだろ!




「ねぇ、干潟くん…?」
「なに?」

「干潟くんの地元で、飲みたい…」

「え?オレの?」



そう。
オレの実家は、大学があるここからは、少し離れてて。
って言っても、まぁ、車で2時間ぐらいなんだけど。


「いや。それは、全然構わないけど?……でも、そうなると…、その日は帰れなくなるけど………。!?」

「うん…、そだね…。」


れ…!澪夏ちゃん!?



それって…!



お泊まり!?………






「わ、わかった。…」


心臓、ハンパねぇ…!





て、こんな会話があったわけで。



な?

男だったら、興奮すんだろ?






No.85

>> 84



そんな妄想を膨らましてると…



オレの携帯にメールが入ってる事に気付く。

開いてみれば、
【そっち、行ってもいい?】

澪夏ちゃんからのメール。




え?来てたの!?

急いで、返事のメールを打つ。


【もちろん✌】


辺りをキョロキョロと見回してると。



助手席の窓ガラスをコンコンと叩く音が。




振り向くと。


澪夏ちゃんが
「いい?」
って口パクで聞いてる。

オレは思いっきり頷いて、手招きした。




ゆっくりとドアが開いて…

「……お邪魔します。」

「あ、あぁ、どうぞ…!」



なんだ、このハンパない緊張は…!


前にも言ったが、オレは。



童貞なんかじゃねぇからな…!





No.86

>> 85



夜景観に行った時も、澪夏ちゃん車に乗せたし。
二人っきりっていうのも、同じ状況なんだけど…


その先が。

あの時とは、大きく違ってて。



やっぱ、この差はデカい…



この緊張感をどうにかしたくて。


「ねぇ…、澪夏ちゃん。」

「……なに。」

「今日さ…、ほんとに、……泊まっても、いいの…?」

「……うん。……なんで?…」

「あっ…いや、あのさ、おやっさんやおばさん、大丈夫かな?…って思って」

「……大丈夫。今日、あたしの誕生日だから、元々、友達と泊まりで飲みに行くって、お父さん達には言ってたし。」


そっか…

じゃ!なんの問題もなく…
じゃない…よな。



「あ…なんだ~そっかぁ。…」


「……………」


って…!

なんだよ~




この沈黙……!



余計に緊張感増してんじゃん…!









「出よ?」

いろんな事考えてたら、澪夏ちゃんの声が聞こえてきて。


ちょっとだけ、自分を取り戻したオレは。


「あ、うん…。」


そう返事して。






そして。

愛車はオレの懐かしの地元へと、走り始めた。







No.87

>> 86



澪夏ちゃんの声に押されるように、ここまで走ってきたけど。



あれから澪夏ちゃん、ほとんど喋んねぇし…






ふっと、澪夏ちゃんを見ると………





「!!」


澪夏ちゃん!?


「スカート…!」

「え?なに?スカートが、どうかしたの…?」

「みじかっ…!」


太もも、半分は見えてんじゃん…!

しかも、ナマ足!



「なによ!そんなに見ないでよっ…」



いやいや、そうじゃなくて~


「オレの車、車高が低いから!前歩いてる人から、澪夏ちゃんのパンツ丸見えになんだよ!」


「え?」


「ほら!見てみ?横断歩道歩いてるヤツ、澪夏ちゃんの方見てるし!」



「!!」

自分で説明しながらも、見てたヤツらに完全に嫉妬したオレは。


「澪夏ちゃんのパンツ見ていいのは、オレだけ!他のヤツには見せねぇの!」



って。オレ……。

気付いたら、澪夏ちゃんの方向いたまま、とんでもねぇ事、口走ってて…



ぜってぇ、また怒られんな……



ごめん…って言おうとした時。




「じゃ…、どうすれば、いいのよ…」

思いもよらず。

か細い声で澪夏ちゃんが聞いてくるから……。



あ…


「えっと…。バッグを…足の上に置いて…。
あとは、なるべく足を立てないようにすれば…」

「…わかった。」





ねぇ…澪夏ちゃん。


そこ…否定しなくても、いいの?







No.88

>> 87



あれから。

時々、澪夏ちゃんをチラ見するけど。



特に、変わった様子もなくて…



気付くと。
車は、懐かしいオレの地元を走ってて。




大学での生活にも、それなりに慣れてきたけど。


やっぱ地元はいいな~





「この辺りって、もう、干潟くんの地元?」


「あ!うん、そう!
って言っても、実際は高校卒業するまでだったけど。」



「え?じゃあ、今は?ご両親は?」


「あぁ。今は、親父の転勤で、別のとこに住んでて。」

「そうなんだ!?」

「うん。ただ、実家はこっちにそのままあって。転勤って言っても、近い場所だったし。数年って話だったから、時々、おふくろが掃除しに来たり。
オレも、こっちの友達に会う時に、実家に泊まったりしてる。」



「そうだったんだ。」






「あ…、もうすぐ着くから。」


飲みに行くつもりで来てたから。

ちょうど、店が開くぐらいの時間に合わせて、向こうをでて。




目的の店近くの立体駐車場に、車を止めた。







No.89

>> 88



車から降りて、澪夏ちゃんと二人歩いてると。


「ねぇ。どこ、連れてってくれるの?」


楽しそうに笑いながら、澪夏ちゃんが聞いてくる。




そんな笑顔見せられたら。
つい、喋っちまいそうになるじゃん!



「内緒!」

「え?内緒?って…」


「まぁ、行ってからのお楽しみ~って事で!」



「え…」




少し戸惑ったのか、歩くペースが遅くなった澪夏ちゃんの腕をとって。


オレは、歩きだした。






「こんばんは~」


澪夏ちゃんの手を引いたまま、扉を開けると……。

店内に鐘の音が響いた。









No.90

>> 89



「笙~!久しぶり~」


中から、オレの名前を呼ぶ声が聞こえる。



「先輩!久しぶりっす!」


右手は澪夏ちゃんの手を握ってたから。
左手で手を上げながら、先輩に挨拶する。



その時だった。


澪夏ちゃんの動きが完全に止まってしまったのは。



「うん?どしたの?」

「このお店って…」

「ん?あ!オレの高校ん時の先輩の店~」

「イヤ…」

「え?なに?」


店内の音楽と他の客の話し声で、澪夏ちゃんの声が聞き取れない。







「こんばんは!」


また、先輩の声。

オレと澪夏ちゃんは、同時に先輩の方を見た。



先輩の視線は明らかに、澪夏ちゃんの方を向いてて。

その事に気づいた澪夏ちゃんは、

「あ…、こんばんは…」

小声で返事をしながら、ぺこりと軽く頭を下げた。





澪夏ちゃんが顔を上げると同時に。

「座って?」


またもや先輩の声。

そして、やっぱその声と笑顔は、澪夏ちゃんに向けられてて。





「あ…」

澪夏ちゃんが、戸惑ってる。


「先輩~!ちょっと!オレの澪夏ちゃんに気軽に声かけないで下さいよ~」


「いいから。笙、彼女、エスコートしろ。」


あ…


「わかりましたよ~」

オレはブツブツ言いながらも、澪夏ちゃんの背中に手を置いて。


「行こ?」


軽く、澪夏ちゃんの背中を押した。








No.91

>> 90



オレは、先輩に言われた通り、澪夏ちゃんをカウンター席に座らせた。


「いらっしゃいませ。」

先輩が、澪夏ちゃんの席の前に立って、にこやかに挨拶する。


「あ…、よ、よろしくお願いします…。」


澪夏ちゃん!
なんか妙に、緊張してねぇ!?
キャラ、全然違うし!


オレが目を点にしてる間に。


「俺。笙の高校ん時の先輩で、水町猛。一応、この店のオーナー。」

「あ…あの、澪夏です…」
「澪夏ちゃん。って言うの?」

!?
「先輩!ちょっと!」
「なんだ?」
「いや、だって!澪夏ちゃん…」
「は?なんだよ。澪夏ちゃんは。笙の彼女か?」

「あっ!」
って、澪夏ちゃんが反応したと同時に。
オレも、
「い…」
なんて。アホな声だしちまって…!


「違うんだろ?」
先輩がにやけた顔で、オレを見る。


「!………そうっすけど!いつかは!……」

ムキになって、先輩に言うと。

「は…。いつかはって。」


「何すかっ!」


「そんな時間、ねぇだろ。」


「は!?どういう意味っすか!」


「あの…!」

先輩と二人、言い合いしてると、澪夏ちゃんが止めるように間に入ってきた。


「あ!ごめん…、澪夏ちゃん…」
オレが謝ると。

「澪夏ちゃん。全く気にしなくていいよ。
俺と笙のいつもの漫才だから。な?笙。」

「漫才って!もう!
先輩、いっつもオレの事、こうやってちゃかすんだから~」




「フッ…」

澪夏ちゃんが笑った。

「あ!そこ、笑うとこ~?」
オレが拗ねて言うと。


「爆笑もんだろ!」
そう言って、先輩も笑ってる。






No.92

>> 91



「ここに来て、初めて笑ったね。」



先輩が、…猛先輩が。
澪夏ちゃんを見て、優しく笑った。

「あ…」

オレは、澪夏ちゃんを見る。
澪夏ちゃんは、猛先輩を見てる。



「ちょっ!先輩!澪夏ちゃん、誘惑しないでよ~」

「誘惑って!」

澪夏ちゃんが、オレを睨んだ。

オッ?
「その顔!今日、初めて見たかも~」


「お前…、そこで嬉しそうな顔するって…Mか、お前は!」



オレを睨みつけてた澪夏ちゃんがまた、笑った。


「笑ってる顔が。一番いいね。」


猛先輩!それっ!

「オレが言おうとしたのに~」




また、笑った。




うん…


澪夏ちゃんのドSなとこも好きだけどさ。

やっば、笑ってる顔って、いいな。


誰だってさ、好きな子には笑ってて欲しいよな。






No.93

>> 92



「と。いう事で!
澪夏ちゃん、何飲む?」

先輩…。

その笑顔……!


「あ…、」

澪夏ちゃんも、心なしか頬赤くなってるみてぇな…!

「あ、じゃあ、水町さんのオススメで…」

「俺のオススメね!了解。」

「お願いします。」


「それと。猛でいいよ。」

「あ…、いえ…。」

「せ、先輩!」


「さっきから、うるせえな~。笙は。ねぇ、澪夏ちゃん?」



だから。その笑顔!

軽く苦笑いしてる澪夏ちゃん。

「だって!猛でいいよ…とか…。あと!オレには 聞いてくんないんすか~」

「あぁ。澪夏ちゃん、歳いくつ?
それと。笙はいつものでいいんだろ?」

「あ…、えっと…」

「……なんか、オレに対する扱い、軽くないっすか?あ…!澪夏ちゃん!今日、誕生日なんですよ~」


「誕生日!?いくつになったの?」


「24!」

「お前に聞いてねぇし。てか、タメじゃん!俺たち。」


「そうなんですか!?」
そう言えば、そうだった……。

「あぁ!だったら、余計、猛でいいよ。」

「あ…いえ、それは流石に。…じゃあ、猛…さんで。」


なんかもう、オレの立場が~


「了解。」

先輩!微笑むな~








No.94

>> 93



「猛さん…て、落ち着いてますよね?
ほんとに、私と同じ歳ですか?」


澪夏ちゃんが、先輩に話しかけてる。


「そう?まっ、俺、嫁さんいるからね。」

「え?結婚してるんですか?」


そうそう!
先輩は、奥さんいたんだった~


「うん。子どもも二人。」

「えっ?二人も?」

そう!しかも、子持ち~

「うん。子ども、可愛いよ。どんなに疲れてても、あいつらの顔見ると、疲れなんていっぺんに吹き飛んじゃうって感じ。」


先輩…
お父さんの顔になってる……。


「幸せ、なんですね。」

澪夏ちゃんが、ぽつりとつぶやいた。

「あぁ、もちろん。嫁さんの事、超愛してるし。」


オノロケだ…

けど。マジで、先輩と奥さん…、あ、奥さんもオレの先輩になるんだけどさ。


超、ラブラブなんだよなぁ~





No.95

>> 94



「はい。どうぞ。」

先輩が澪夏ちゃんの前に差し出したのは。

「これ…」
「ブルーハワイ。」

「え?これが先輩のオススメ?」

「オススメ、じゃないけど。」

「…?」
澪夏ちゃんがきょとんとした顔してる。


「誕生日。おめでとうって事で、ね。
ま、急だったから。ケーキの代わり?って言っても、由来は全然関係ねえけど。」


柔らかい表情で、澪夏ちゃんを見る先輩。


「…ありがとう。…猛さん。」
「うん。」


なんだ!
この…、二人の雰囲気は…!

「ちょっ!ちょっと!先輩!澪夏ちゃん!」


「なんだ。笙も飲みたかったのか?」

「え?…いや…、違いますよ!!」


「はい。お前には、これ。」


そう言って、オレに差し出されたカクテルは、酒に弱いオレには、ぴったりの。

カンパリソーダ。







No.96

>> 95



ブルーハワイのストローに、口をつけて、少しだけ飲んだ後。



「また少し、おばさんに近づいちゃった…。」

そう言いながら、小さく溜め息をつく澪夏ちゃん。


「おばさんだなんて…!オレ、思ってねぇから!」

オレは、赤く染まったカンパリソーダをグイッと飲む。


「おい…笙、お前、飲み過ぎんな!」



猛先輩が、オレを軽く窘めるけど。





澪夏ちゃんには、何にも言わねぇ。


ただ黙って、見てるだけ?
いや…、


まるで、二人にしかわからねぇ事でもあるような。


そんな感じ…で、




「猛さん…」

「うん。」



「結婚…て、」

「うん…」

「いいですか……?」

「あぁ。…いいよ。」






オレは……。



口を挟む事ができないでいた。








No.97

>> 96



………結婚。




澪夏ちゃんは、



オレとの結婚。

考えてんのかな…?




それとも……





結婚はいい。って、そう言った猛先輩の言葉に、嘘はねぇ。


だって、先輩見てると。
ほんと、結婚って。
いいなって素直に思えるから。




でも、澪夏ちゃんは…


どんなふうに、思ってんだろ…





いつの間にか、ブルーハワイを飲み終わった澪夏ちゃんは、次のカクテルを先輩に注文してる。

「今度は、オススメね?」

先輩は、軽く笑いながら、言う。


「あ、はい。」


そんな二人のやり取りをぼんやりと、見ていると。


「笙。お前、どうする?」

先輩の問いに、空になったグラスに気付いた。


「あ…!えっと…」


意味もなく慌てる。


「今日は、それでやめとくか?」


そんな先輩の言葉に、妙にムキになったオレは…

「いえ!もう一杯…!」


「…わかった。」

そう返事した先輩は。



澪夏ちゃんに、ラズール・モヒート。
オレには、マリブコーラを作ってくれた。






No.98

>> 97



「美味しい…」

ラズール・モヒートを飲みながら。



先輩を見る澪夏ちゃん。

「そう?良かった。」



顔を見合わせて、笑ってる。





オレは…


グラスを握った手に、ぎゅっと力を入れた。




それから、


一気にマリブコーラを飲み干した。





でも、先輩は…

今度は、何も言わねぇ…


それが何故だか、オレには虚しくて。





そして、

タバコを吸わねぇ澪夏ちゃんの前じゃ、絶対吸わないオレは。



気付くと、タバコに火をつけて、思いっきり吹かしてた。







「…ちょっと、お手洗い。行ってくるね…。」


「あ…」

そんな、バカなオレの行動に嫌気がさしたのか…澪夏ちゃんは、ゆっくりと席を立って、店の奥にあるトイレへと消えていった。










No.99

>> 98



「笙、お前…。」


澪夏ちゃんがいなくなったカウンターで、先輩がオレになにか言いたそうにしてる。

「……なんっすか…」

完全に拗ねてしまったオレは、覇気のない声で返事する。




「彼女…澪夏ちゃんの事、本気なのか?…」


今、こんな状態のオレに聞くような事っすか…!?




「先輩…」

「なんだ。」

それでも、やっぱり。




「オレ、マジっす。」

言わずにはいられなくて。

一気飲みしたせいで、グダグダになりながらも。先輩に、オレの本気、伝えてぇ…

いくら、先輩でも。


澪夏ちゃんは、渡せねぇ。



「だったら、大事にしてやれ。」

「…え」

「ただし。お前には、あんま時間ねえけどな…」

「え?」


「それと。」

「はい…?」

「さっきのマリブコーラな。」

「はい……」

「酒、入れてねえから。」


「…!?」


「お前が酔っ払って、どうすんだ。彼女…、澪夏ちゃんの事、マジなんだろ。」


「……あ…!」




それって……


い、今までの事って……

全部、オレの…ため?






先輩の優しさが…


胸に染みるっす…









No.100

>> 99



先輩…



「それから…」

「?…」

言いかけて。



澪夏ちゃんの姿を確認すると、

「いや。いい…」


小声で呟けば、

「澪夏ちゃん。おかわりは?」


先輩は、今度は、さりげなく澪夏ちゃんに気を配った。






先輩、なんか、大人だな~


ちょっとの事で、すぐ勘違いして…

拗ねるようなオレとは、大違いだ…。



もっと。


大人なオレになんなきゃ、な。




今のまんまじゃ、オレ、澪夏ちゃんの事…


大事になんか、できやしねぇ!





「干潟くんは、…もう、飲まない…?」

先輩の質問に答える前に、オレに聞いてくる。



「…あ、あぁ…。いや。オレはもういい。」

「そう…?じゃ、あたしも、もう。」

「いや、澪夏ちゃんはもう少し、飲んだら?」

「ううん…」

「あ、オレの事だったら、気遣わなくていいから。」


「う…ん」

「先輩のお酒、美味しかったっしょ?」

「あ…、うん…。」


「だったら。ね?
それに、今日は、澪夏ちゃんの誕生日なんだからさ!」


「…いいの?」


澪夏ちゃんにも、オレ。
気遣わせちまってたんだな…

「もちろん!」


だって、澪夏ちゃんが楽しいって思える事が、オレの楽しみでもあるワケで。






No.101

>> 100



でも…


先輩が言いかけた事と、


澪夏ちゃんと先輩のやり取りには、




もっと、深い意味があった事にその時のオレは気付くはずもなく……。







オレの横で。

最後は、澪夏ちゃんが自分で選んだ、アプリコットオレンジを美味しそうに飲む姿を。



無意識に目に焼き付けるように、




見つめていた。





















No.102

>> 101



先輩の店を出た後、もう一軒寄った。



ただオレは、軽くビールを。

澪夏ちゃんは。





かなり、飲んでた……。


先輩のとことはいえ、やっぱ、オレの知り合いのとこじゃあ、遠慮するよな。





しっかし、澪夏ちゃん……
相変わらず、つえ~な、酒。


オレは、先輩に言われた通り、セーブしてたんだけどさ…

気分はかなり、ハイテンションになってて~








二軒目を出て、エレベーターに乗った。





中は、




オレと、澪夏ちゃんの二人……。




澪夏ちゃんは、端の方で…

普通に立ち。


オレは…、




オレも澪夏ちゃんと距離を取るように、
端に立ち、エレベーターの壁に軽く寄りかかった。








No.103

>> 102



澪夏ちゃんを、横からチラッと見れば。



マジで、あんなに酒飲んだ人かよ!

っていうぐらい、しゃんとしてる。



バッグを左手に、背筋を伸ばして、エレベーターの壁を見つめて。




あぁ。
横顔、いいな…

ちょっとだけぽてっとした唇が、リップで濡れてて…


足も、キレイだ。


「!!」

あの野郎!
澪夏ちゃんのパンツ、見やがったんだろなっ…。


オレは、車での出来事を思い出してた。





今オレが、こんな事考えてるなんて。


澪夏ちゃん、思いもしねぇだろな。









もう一度。


澪夏ちゃんを盗み見した…。








No.104

>> 103



「干潟くん。」

「…!?」


真っ直ぐ前を見つめたまま、いきなりオレの名前呼ぶから。

一瞬、声がでなくて…。


「酔ってる?」

また、こっちの方を見もしないで言うから…


オレのスケベな妄想が、澪夏ちゃんにバレちまったかと思って。



「酔ってないよ…」


気持ち、誤魔化すように答えた。





「酔ってるよね。」

今度は、オレの方顔向けて言う。



「酔ってねぇ。」

目合わせると、バレると思ったオレは。


そう返事した後。



ポケットに手、つっこんだまま下を向いた。







No.105

>> 104



「そう。」


って。



あんまりにも、あっさりと言って、また前を見据えるから。



なんか、オレ。
カチンときて、



いきなり、澪夏ちゃんの横からキスしてやった。




「!?」

もちろん、口にね。


一瞬だったし。


素早かったから。






澪夏ちゃん、抵抗する間もなくて。




目見開いたまま、固まってる。




オレ、謝んねぇから。

だって、澪夏ちゃんが悪いんだからね!





何がって聞かれても、答えらんねぇけど。





とにかく…!


テンション上がりっぱなしって感じだったの!







瞬間、エレベーターの扉が開いて。



「やっぱり、酔ってんじゃん……」




そう言って、澪夏ちゃんはエレベーターを出て行き。


「!?」




オレも、慌てて澪夏ちゃんの後を追って外にでた。











No.106

>> 105



「澪夏ちゃん!待ってよ…!」



確かに…

酔ってるけど…!





「酔ってねぇよ!」


先に行く澪夏ちゃんの肩をつかんで、振り向かせる。


「痛いよ…」

「あ、ごめん…」

謝ると、黙って。

顔、横に向けたまま、オレの顔見ねぇ。




「ねぇ、澪夏ちゃん…。」

それでも、黙ったままだから。

一旦離した手を。


もう一度、

澪夏ちゃんの肩に、


今度は、優しく置いた。



「ね?もいっかい、キスしよ?」


少しずつ、縮まっていく距離。

「やだ!」


「ね?」

30センチ近い身長差を埋めるのに、
オレはちょっとだけ、腰を屈める。

「イヤだ!」


それでも、澪夏ちゃんの唇には少し遠くて。

「澪夏ちゃん。つま先、立てて。」

そう言って、澪夏ちゃんの顎に手をかける。

「イヤ…」

オレの顔、更に近づけると、必然的に澪夏ちゃんは爪先立ちになる訳で。

「や…っ」





さっきのキスって。

澪夏ちゃんとの初キスだったんだよな。



でも、一瞬だったからさ。

よく覚えてねぇんだ。




だから。



今度は、ちゃんと。


忘れねぇように。










「好きだよ。澪夏ちゃん。」





「ンッ……」













No.107

>> 106



やわらかけぇ。


澪夏ちゃんの唇。



オレは、もう一度どころか、もう何度も。


ちょっと離しては、またキスして。




その度に。

澪夏ちゃんが後退りするから、



オレは、澪夏ちゃんの腰に手を回して


ぐっと引き寄せる。



澪夏ちゃんの口からお酒の香りがするのも、


また、逆にそそられんだ。




いつのまにかオレは、


澪夏ちゃんの後頭部も支えてて。





「んっ!…も…」


なに?


一瞬唇を離して、澪夏ちゃんの顔を見下ろした。



「もうっ…無理…」

頬を赤く染めた澪夏ちゃんが、潤んだ目でオレを見上げるから。



「オレも、もうムリ…」









何度も何度も。







キスをした。














No.108

>> 107



遠くから。

騒ぎ立てるような声が聞こえる。



でも、そんなもん、オレには関係ねぇし。




ん?


澪夏ちゃんが、やたらオレの胸を叩く。



しっかり抱き締めてるから、全然痛くねぇけど。



でも、あんまり叩くから。



軽く、唇離してやると…


「ちょっと……」


息切らしたように、澪夏ちゃんが話しかける。




まぁ。

仕方ねぇか。


ずっとオレ、澪夏ちゃんの唇、奪ってたからな。



「なに?…」



答える間もなく。





澪夏ちゃんが、オレの腕とって、走り出した。





え?…え!?


なに!?



「どうしたの!?」


澪夏ちゃんに引っ張られたまま、オレが聞くと。




「後ろっ…!」


オレにキスされてたからなのか。
それとも、急に走り出したからなのか。

わかんねぇけど。



切れ切れの声で、澪夏ちゃんが答えるから。





走りながら、後ろを振り向いたら………。






オレと澪夏ちゃんがいた場所は、すげー人だかりができてて……。



走っていくオレと澪夏ちゃんに向かって、


なんともいえねぇ、



ヤジや奇声が飛び交ってた………






マジかっ!



やっべえ~









No.109

>> 108



「…………」


…………

…………………



「ねぇ…」

息を殺したように黙ってた澪夏ちゃんが、オレに話しかける。


「なに?」


「ほんとに…」

「ん?」


「ほんとに、ここでいいの…?」


「なんで?全然、構わないよ?」


「ん~…」






大勢の野次馬から、逃げるようにタクシーに乗り込んだオレと澪夏ちゃんが、

行き着いた先は……、







オレの実家。




そっ!


今日のお泊まりの場所は、オレの実家。




タクシーを降りるまでオレ、澪夏ちゃんに何にも言ってなかったから。


家の前でかなり抵抗されたけどさ。



まぁ。
時間も時間だったし、あんまり騒ぎ立てるのも、近所に迷惑かけるからって事で~


かなり強引に?
連れ込んでしまったってわけ。





だから、うちの中に入った後も。





澪夏ちゃん。

……めっちゃ、キョドってるしっ!






No.110

>> 109



「もしかして、笑ってる?」



疑問系だけど、明らかに怒りを抑えたような澪夏ちゃんの質問に…


オレは、こらえてた笑いを抑えきれそうにない…




だって…

冷静沈着が売りのような澪夏ちゃんが、


こんなにオドオドしてるなんて、姿。

めったに見れねぇし~!




「ここが…干潟くんの実家じゃなかったら…、」


ん?

オレは声にならない声で、返事する。



「物のひとつやふたつ、…壊してる。」



ひーっ…!

「それだけは、ご勘弁を~~~」






なんて。


馬鹿げた会話をオレはオレなりに、楽しんでた。









それから。


二人別々、シャワー浴びて。







別々に敷いた布団に、横になる。








No.111

>> 110



髪を乾かしてた澪夏ちゃんが、少し遅れて布団に横になった。








「……今からでも、私。…ホテル行こうかな…」



オレに聞くでもなく、澪夏ちゃんは自分に言い聞かせるように、呟く。


顔だけ、澪夏ちゃん見る。

澪夏ちゃんは、天井をじっと見つめてる。




「マジで気にしなくていいから。ちゃんと、親にも言ってるし。」


って。
澪夏ちゃんが…っては、さすがに言ってねぇけど。


「ほんと…?」

「うん。」


女の子、実家に泊めるっつうのは、…やっぱな。しかも、親がいねぇ時だし。


ごめんな。澪夏ちゃん…。

ウソついて。










「電気。…消すよ?」

オレは、うつ伏せになった後。


枕元に置いたスタンドに手を伸ばしながら、澪夏ちゃんに聞く。



「あ、……うん」


小さな声で、返事した後。



澪夏ちゃんは、オレとは逆の方に寝返りうつ。






タオルケットを肩まですっぽりと覆った、澪夏ちゃんの後ろ姿。





ちっちぇーな…












No.112

>> 111



ねぇ、

澪夏ちゃん?





さっきのキス。



オレ、一生忘れねぇから。







だってさ。


澪夏ちゃん、



嫌がってなかっただろ?



オレのキスに、応えてくれてたでしょ?





すっげー、幸せだった。


だからオレ、


ぜってー忘れねぇ!







カーテンの隙間から洩れる外の灯りだけで。


オレは、澪夏ちゃんの背中見ながら、






……考えてた。











No.113

>> 112



「………起きてる?」



え………




そう聞いたのは、オレ…

じゃなく……




澪夏ちゃん…。




澪夏ちゃんに背中向けて寝てたオレは、




「寝てないよ…」

そのままの格好で、返事をする。



でも、なぜか…

その後、
澪夏ちゃんは何にも喋んねぇ。




この沈黙は…

ツラいけど。


オレも、何も口にださねぇ……。






「今日は…、ありがと。」


え?


「飲みに連れてきてくれて……」


あ!……

「いや…」



「楽しかった…。」


そっか…

「うん。…オレも。」



すんげー、楽しかったよ。









「ねぇ…」


「!………」









「そっち…、………行っても、いい……?」



最後の言葉は、消え入りそうな声だった。















No.114

>> 113



ま、ま、待って…!



いや…


それは、願ってもない事で!


あぁ!!いやっ!


そうじゃなくて……!




くそっ…

今さらだけど…



部屋も別々にすりゃあ、よかった~~~





神様~




「だめ………?」


「いや!」


あっ…

いや…、ダメ……です………



無理ッス…







その時。

ふわっと、…



澪夏ちゃんの香りがして……。




オレの背中に
ぴたっと…

澪夏ちゃんの身体が着いたのが分かった。





マジ…


勘弁してくれ~!





No.115

>> 114



「ごめん…」


少しの沈黙の後。



澪夏ちゃんが、背中越しに謝ってくる。



「えっ!え…あ、なにが……?」


オレ、めっちゃ動揺してるよ…






「………ううん。…なんでもない……」


なんでもない?



……って!?




また、沈黙が続く。




………と。



澪夏ちゃんが更に、オレに近寄ってきた。


む…胸が……!
当たってるよ…
澪夏ちゃんのCカップの胸がっ……


もう…



この胸の高鳴り、どうしてくれんだ…!







「寒いね…」



「え?寒い?」


今は、6月。

梅雨の時期だ。


蒸し暑くはあっても、寒いって事は…





「でも、…こうしてると、あったかい…」



頼む…から!


これ以上、密着しないでくれ~!


願いも虚しく。







澪夏ちゃんは、オレの腰に手を回してきた。









No.116

>> 115



片手はオレの背中、もう片方は腰。




澪夏ちゃんの吐息を背中で感じる事ができるぐらい、

完全に密着してる状態で。





オレより小さい澪夏ちゃんは、多分。


枕から頭落としてて。




だから。


澪夏ちゃんのお腹が、オレの腰当たりにきてる。








オレにだって。


ガマンの限界っつうものがあって。




さっきのキスをまた、思いだして。





今。



ここで、オレが振り返ったら。








No.117

>> 116



「一生、忘れない。今日の事……」




不意打ちのように、澪夏ちゃんがそんな事言うもんだから。





オレ、どう言っていいのか分かんねぇ。



必死に答え、探してた。







「あたし…」


…?



「後悔してない…」



「澪夏ちゃん?」


「…………」



泣いてる?

「澪夏ちゃん?!」


とっさにオレは、振り返ろうとした。



ギュッ…



澪夏ちゃんが、

オレの腰に回した手を離して、


今度は、オレの腕を握りしめてきた。





澪夏ちゃん……




それはまるで。

澪夏ちゃんの必死の訴えみてぇで、



オレは、振り返る事ができなかった。




…………


その代わり。


オレはそっと澪夏ちゃんの手を振り解いて、





今度はオレが、澪夏ちゃんの手を上から。

ギュッと。握りしめた……。













その涙の意味も解らずに。







No.118

>> 117



手、ださなかった。




先輩に言われた、

『守ってやれ。』

っていう言葉。



オレ、忠実に守った。

だって、


大事にしてぇって、本気で思ったし。


守んなきゃいけねぇとも思ったし。



あん時、泣いてる澪夏ちゃん、背中で感じて。




正直よくわかんねぇ、って思ったけど…


なんか、



……守ってやりてぇって。






だから。


泣き疲れて、そのまま寝ちまった澪夏ちゃんを。





ゆっくりと振り返ったオレは、

そっと、抱きしめた。






オレの腕の中で

安心して眠る澪夏ちゃん。





おでこに軽くキスしたら。



「ン…」って。




かわいいな…






オレだけの…。



澪夏ちゃん。









No.119

>> 118



あれから。




バイトに行っても、澪夏ちゃんと会う事がない。


夜遅くおやっさんと、仕事から戻っても、


前みたいに、澪夏ちゃんが飯の用意してくれる事もなくて。




車はあるから、多分、部屋にはいるんだろうけど…



忙しいんだろうか…




そのうち、大学が夏休みに入った。



バイトもめちゃくちゃハードになって、



毎日のように、澪夏ちゃんち行くけど。





やっぱり。



澪夏ちゃんには会えなくて……。






No.120

>> 119



時々、澪夏ちゃんの出勤時間とオレのバイトの時間がかぶる事もあったけど。



車の中から、顔見るぐらいで。


話す事なんて、一切なかった…





「電話してみっかな。」


独り言を、呟いてみる。

バイトの帰り、愛車に乗って、携帯取り出す。



澪夏ちゃんの携帯に、かけた。





…………

…………………


「出ねぇ…」





もう、遅いからか?



車の中から、澪夏ちゃんの部屋に目を向ける。




電気は、点いてる…


でも、それだけじゃあな、



寝てるかどうかなんて、

わかんねぇし…






諦めて、携帯を助手席に投げた。







No.121

>> 120



今年は、夏休み、帰れそうにないな…。


猛先輩にも、会いてぇけど。




大学は、9月まで休みだけど。

この残暑と引っ越しシーズンで、9月になってもバイトは忙しい。






バイトがない日は、オレはサークルの仲間と遊んでた。
澪夏ちゃんと会えないから…

半分、投げやりで……。



あれから、何度か電話したし、メールもしてみたけど…




全然、返事がねぇ…





澪夏ちゃん…







「……元気っすか?」



いつものように、夕飯、食べさせてもらってる時。




思いあまって……



おばさんに聞いてみる。






No.122

>> 121



飯を茶碗によそったおばさんが、オレに渡しながら、



「え?…あぁ、澪夏の事?」


こんな事、おばさんに聞くのもどうかって思ったけど……。




「あ、はい。…あの、最近、見かけないんで…」


茶碗に手をかけながら。

内心、恐る恐る聞いてみた。




「元気よ~。ま、ちょっと忙しいっていうのはあるけどね。」


オレの不安な気持ちは対照的に、おばさんは上機嫌で答えてくれた。





「そうっすか!」


元気なら。

いいんだ。…



「うん~。友達との付き合いもあってね、帰りも遅くなる事もあるしね~」



友達と、飲みに行ってんのか。



だったら、……仕方ねぇな。






忙しい上に、付き合い。

だもんな…。








No.123

>> 122



超ハードだった夏休みのバイトも一旦終わり。



10月を迎えてた。




けど……


相変わらず、澪夏ちゃんからの連絡はねぇ…



この時期、バイトに行かなくなった今、おやっさんちに行く事もなくて。




そういや、オレ…


澪夏ちゃんの事、何にもしらねぇような気がする……



職場の事とか、友達とか、……
知ってるのは、家の中での事ぐらいで、


外での澪夏ちゃん、ほとんど知らねぇや…





だから、澪夏ちゃんの事知りたくても…

方法が見つからない……




今頃。


こんな事に気付くなんて…





オレって…




単純バカ………





No.124

>> 123



そんなある日。


猛先輩から電話がかかってきた。


「先輩…!」

「ヨォ!元気だったか?」

「あ、…はい…まぁ……」


澪夏ちゃんの事で悩んでたオレは、曖昧に返事する。


「お前。…正直だな。」

「へ?…」

予想もしない先輩の言葉に戸惑う。


「悩んでんだろ?」


「え…」



「澪夏ちゃんの事で。」

先輩…!?

「あ……のっ!」



「澪夏ちゃん、店に来た。」



え?………

先輩の言ってる意味が、すぐにオレにはのみこめねぇ…


「先輩…、すいません…。オレ、先輩が、何言ってるのか……」



「…だよな。」


先輩?

「あの…!」


「お前、時間あるか?」


時間…?

「あの…、時間って?」


「できれば…、直接話してえからさ。」







No.125

>> 124



先輩は、電話ではこれ以上話せねえって言う。




本音は今すぐにでも、澪夏ちゃんの話聞きたかったけど……



ひとまず、オレは先輩と会う約束して、電話を切った。






「澪夏ちゃん…。」


呟いて。


オレは、自分のベッドに横たわる。




一体……、


どういう事…なんだよ…



オレには、ちっとも連絡してこねぇくせに…


猛先輩に…

会いに行ってたなんて。



…………


…………………


不安と不満だらけのオレには、もうそれ以上、何にも思い付かなくて。





体を横向きにする。




ベッドの真横にあるテーブルに目をやると…


あの日。

澪夏ちゃんに渡したものと同じサボテンが目に入ってきた。






No.126

>> 125



澪夏ちゃんには、言ってねぇけど。



オレ、実は澪夏ちゃんと同じサボテン買って、育ててきたんだ…




こんな事、澪夏ちゃんに言うと…

ぜってー、
「キモイっ!」
って言うと思ったから…

言わなかった。




最初はさ、自分のも買おうなんて思ってもなかった。

けど。

リボンとかいろいろ着けてもらってるの見てるうちにさ。



無性にオレも、買いてぇなって。





今思えばさ…

ストラップとか…おそろのもん、いくらでもあんのに…








マジ…笑えるよな。






No.127

>> 126



いや…、

思うんだ…。


澪夏ちゃんも、このサボテンと同じもん、見てるんじゃねぇかって。




今じゃあ、
オレと澪夏ちゃんを繋ぐ唯一のもの…なんだよな…






オレはベッドから起き上がって、そっとサボテンに触れてみる。



「イテッ…!」


ちっちゃくて、見た目、可愛いのに。





棘…あんだな。………








オレは、指先から少しだけ滲み出た血を、訳もなくしばらく見つめてた。







No.128

>> 127



「悪いな。こっちまで来てもらって。」



猛先輩と会う約束をして、2週間後。

オレは、先輩の店にいた。

営業時間前って事もあって、当然、澪夏ちゃんと来た時みたいな賑わいはなくて。

「いや…、いいっすよ。」

先輩が、オレの顔をちらっと見る。



「インスタント、だけど。」


先輩は、カウンターの向こうから、コーヒーを出してくれた。



「ありがとうございます…」

オレは、先輩が煎れてくれたコーヒーに手を伸ばす。


あったけー……


「うまいっす…」


一口飲んだ後、オレはゆっくりとカップを置いた。



「笙…。」

オレの名前を呼ぶ先輩の顔を見る。


「………お前。…」


そう呟いた先輩の顔は、とても切なそうに見えて。

オレの方から、話を振る方がいいんじゃねぇかって思って。


「先輩…。オレ…、話、聞きますから…。」





No.129

>> 128



先輩から電話があって、ここに来るまで。



オレは、オレなりに。

考えてた……




澪夏ちゃんとずっと連絡取れなくて。

すんげー、心配して。

焦って。


イラついて。





なのに…。



先輩の所には来てた……




その事が何を意味するのか。






「笙…、すまない…」


先輩が謝ってる。




……やっぱ、そういう事…か。






「先輩…、いつから?」

そんな事聞いて、どうすんだ…


頭の中じゃ…分かってんのに。……




聞かずには、いられねぇ……




No.130

>> 129



「いつからって…」

「先輩!オレは!!」


聞いたのはオレの方なのに、先輩の答え聞く前に、気持ち爆発させてしまう。

「先輩から言われたように、オレ…。澪夏ちゃん、大事にしたんすよっ!!!大事に……!した…の…に……」



「笙…?」


「なんすかっ!!!」

オレは、両手を思いっきりカウンターに叩きつけた。



「笙!落ち着け!!」

「落ち着け?」

「ああ!話聞けよ!」

「話…話って……。話なんか、聞きたくないっす!!いくら先輩でも!オレ…、」


オレはいつの間にか、カウンター越しに先輩の胸ぐら掴んでた。



オレも身長高いけど、先輩もオレの身長と殆ど変わんねぇ。
しかも先輩は高校の時からボクシングやってて。

そんな先輩の顔が、苦痛で、少しだけ歪んだ。






No.131

>> 130



「殴りたきゃ、殴れ。」

気付くとオレは、先輩に向かって拳を上げてた。

「俺を殴って、気が済むなら。…いくらでも、殴れ。」


先輩はオレに胸ぐら掴まれながら、真っ直ぐにオレの目を見てる。



…………


「………オレは…」


「気にするな。俺は、お前の気が済むなら、何発でも受けてやる…」




「うぅっ…」




殴れねぇ…

先輩…だから。


じゃ、ねぇ……



さっきの先輩の目見てたら………、



先輩を…殴るなんて……

違う気がした…

理由は分かんねぇ…




だだ、そう感じたんだ……





No.132

>> 131



「笙…。お前の気持ちは、…分かってる。」



オレは振り上げた拳をゆっくり下げながら、先輩の顔を見た。



「……オレの?」

「あぁ。…」


「大事な後輩、だからな。」



先輩…?


「お前、俺と澪夏ちゃんに何かあったって、思ってんだろ。」


?!……


図星だ…

でも…、それ以外に、どんな事、考えられんだよ…



「俺は…、お前の事もだけど。家族も、裏切るような事はしねえ。」



「!……先輩…」



先輩は、オレのせいで乱れた服を直そうともしないで。

ふっ…と軽くため息をついた。



「まぁ…、お前が勘違いすんのも、無理ねえけどな。」


先輩…

「じゃあ、…何でオレに謝ったんすか……」



先輩が話す事、信じられない訳じゃねぇ…


けど。

今のままじゃ…、オレ、完全消化不良だ…






No.133

>> 132



「だよな…。」



先輩の口振りは、どこか、不安定で。


オレは、





それでも…先輩を、頼るしかなくて。




「コーヒー、入れ直すな。」


そう言った先輩の言葉に、はっとしたオレは、カウンターの上にあった飲みかけのコーヒーを見た。


そのコーヒーカップは、見事なまでにソーサーの上でひっくり返って、中身はカウンターの上にまで飛び散ってた。





オレが先輩に飛びかかった時に…


「すいません…」

頭を下げた。


「気にするな。」



手際良くカウンターを片付けた先輩は、新しいコーヒーをオレに差し出した。



礼を言おうとして、……

先輩がまた何かを、差し出したのが分かって。


見ると…


「何すか…?」

白い封筒だった。






「預かった。…澪夏ちゃんから。」



「えっ…?…澪夏ちゃんから?!」


「…あぁ。お前に、渡してくれって。」




予想外の展開に、すぐには手紙に触れられない。




「俺は、手紙の内容は何も知らねえ。あの日…、澪夏ちゃんがここに来た時も、何にも話さなかったしな…」



え…?

「じゃ…!なおさら…何で…オレに謝ったりしたんすか?」





No.134

>> 133



「笙…、…この手紙な、…」

「はい…」



「預かったの…、お前と澪夏ちゃんが来て、…すぐ後だったんだ…」


「?…すぐ後?」



「あぁ…。一週間後、ぐらいだったかな…。」



一週間後……




「澪夏ちゃん、手紙の内容は、一切言わなかったし、俺も敢えて聞かなかった…
だだ一言。
…手紙の事は、渡すまで黙ってて欲しい。…それから…、渡す時期を言われたんだ。」



「それが…、その時期が…、今…って、事っすか…?」



先輩はゆっくり、そして小さく頷いた。




「ずっと、黙ってて…悪かった…」



先輩が謝ってた事って…




あの日…


澪夏ちゃんの誕生日から、すぐ後…



蒸し暑かった6月は、とっくに終わって。





コート無しではいられない、11月に入っていて。




5ヵ月……



この間、先輩は…


澪夏ちゃんに頼まれた事とはいえ、オレに打ち明ける事もしないで…




ずっと、黙って………


耐えてくれてたんだ…







No.135

>> 134



そっと、封筒を手に取る。



封筒の表には何も書かれていない。


ゆっくり、裏返してみる。





澪夏


って、小さな文字が見えた。







先輩は、大切にとってくれてたんだろう…


封筒には、何の汚れもなくて、まるで。

ついさっき、渡されたんじゃねぇか…って思うぐらい、綺麗だった。




「すみません…」


今度はオレが先輩に謝る。




「お前が謝る事は、ねえ…」



「いえ…オレのために、先輩…」

「そんな、綺麗事じゃねえ…」


間髪入れずに、オレの言葉に答える先輩。





「…?綺麗事じゃ、ないって…」








No.136

>> 135



「何度も言ってるが…、俺はその手紙に、何が書いてあるのか、聞いてねえ…。
けど、…いや、…だからこそ、笙に知らせるべきか…
マジで…、悩んだ…」


「…先輩…?」


何を、そこまで?


「…笙」


「?…」



その時。


店の扉が、鐘の音と共に開く。


オレと先輩は、扉の方を振り向いた。


「あ、マスター?ごめん!看板出てなかったんだけど…、寒くてさ。」



先輩の店に来た客みたいだった。


慌てて、時間確認した。


とっくに店を開ける時間は過ぎてて。



「あ…いや…」
「大丈夫っすよ!」
「笙…?」

先輩は、オレに遠慮して客を断ろうとしたみたいだけど。



「どうぞ!今、看板出しますから!」

よく見ると。


後ろに女の子がいて、

寒そうに震えてる。



澪夏ちゃんを、思いだした。



「いいんですか…?」


その女の子が、遠慮がちにオレに聞いてくる。


「はい!寒いですから、どうぞ!」



オレは、素早く手紙をポケットに押し込んで。

二人を、店の奥に案内した後。


「先輩!オレ、看板出してきますから~」



先輩の返事待たずに、外に出た。



「さむっ…」




オレは急いで、先輩の店の看板を出して、電源を入れた。





No.137

>> 136



先輩が。



何を言おうとしてたのか…

今のオレには、



分かんねぇけど。




この手紙読めば


きっと、全てが分かる。




そうだろ?


澪夏ちゃん……。





一旦閉めた扉を開けた。
先輩は、ちょうど注文を聞いてカウンターの中に戻ろうとしてた。


オレの顔見た先輩は、微かに笑った。



「じゃ!先輩また…」


オレも、僅かに笑って。



扉を閉めた…。




店の奥にいた、女の子がオレに頭下げた姿を視界に入れながら。



No.138

>> 137



今から、どうすっかな…




オレは、先輩の店を出た後、駐車場に止めておいた車の中にいた。

携帯を取り出し、時間を確認する。



この時間なら、アパートに戻るのも全然余裕だけど。


…………



ジャケットのポケットに突っ込んだ手紙を出してみた。




慌てて入れたせいで、その手紙は観るも無惨な姿になってしまってて。



「…………」


オレは。




今、何を考えてるんだ…


頭の中が、真っ白。

っていうワケでもない…


どこか…


妙に冷静な感覚もあって。




寒い中、駐車場まで歩いてきた事も、オレの気持ちをそうさせてるのか?




No.139

>> 138



訳もなく、


さっき先輩の店で会ったカップルの事を思いだしてた。




この寒い中、震えてた彼女を気遣って、開いてる店探して?




彼氏は、看板も出てない店に入るのも、内心躊躇したんじゃないか…




それでも…

彼女のために、見知らぬ店の扉を開けた。




そんな彼氏のために、今度は彼女が、さりげなくフォローする。


勿論、オレが看板出してる間に、先輩にも頭下げてたんだろうけどさ。



店の人間でも何でもないのに。
オレにまで、頭下げてた彼女…






…………


なんて…


オレの勝手な妄想だけど。



でもさ、


なんか…

さっきのカップル。



お互いを思いやる気持ち?っつうの?



すんげー

伝わってきた。


自然だったんだよな………







オレと澪夏ちゃん、

は…



…………








No.140

>> 139



少しくしゃくしゃになった、澪夏ちゃんの手紙。



なぜだかオレは、車のダッシュボードに仕舞った。





こっちの友達と、飲むか…

オレは、携帯を取り出した。




同時に、着信音が鳴り、ちょっとびびった。


「誰だよ…」

小さく呟いて、電話にでた。



おやっさんからだった…。



話を聞くと、明日、急な仕事が入ったから、手伝ってくれないかって事だった。



一瞬迷ったけど…


急な依頼で、おやっさんひとりじゃ、どうする事もできなさそうだったから。


オレは、引き受けた。



澪夏ちゃんの事があったから。


本音言えば、…複雑だ。


けど、おやっさんにはマジで世話になってるから。




断る理由なんて、ない。



オレは携帯をポケットに仕舞うと、エンジンをかけ駐車場を後にした。







No.141

>> 140



この時……


手紙を、読んでた方が良かったのか…
悪かったのか……



後になって、考えてみても。


答えは出ねぇ。





どっちにしても。


オレが、



決めた答えだから。






翌日。


オレは、澪夏ちゃんちに向かった。




いつもより、早い時間だ。


昨日のおやっさんの電話で、早めに出るからって話で。


車を止めようとして…


「!」

……車…

澪夏ちゃんの車だ…



まだ、仕事行ってないのか…。




オレは、昨日の手紙を思いだした。



ダッシュボードに目をやる。





手を伸ばしかけて、

…止めた。



おやっさんが家の中から出てきた事に気が付いたから。






急いで、車を降りて、おやっさんの車に向かって走った。




オレと澪夏ちゃんが止めてる駐車場は、自宅から少し離れてるけど。

おやっさんの車は自宅のすぐ横に止めてあって。


「おはようございます。」

オレは、車に乗り込もうとしてるおやっさんに挨拶する。


「ああ!今日は、悪かったな~」

「いえ。オレは、全然構わないんで!」


そんな会話をおやっさんとしながら、二人、車に乗り込んだ。






No.142

>> 141



おやっさんが車のエンジンをかけた。




「お父さん…!」


澪夏ちゃんが、家の中から息を切らしながら、出てきた。



「お弁当…忘れてる。」

「おっ…、忘れてた!」

「もう!せっかく、私が作ったのに…!」

「あ…、あぁ。悪かった…」

「はい…。」


澪夏ちゃんが、運転席に座ってたおやっさんに弁当を渡そうとして。



助手席にいたオレに。


初めて、気付いた…



「…干潟…くん」




澪夏ちゃんは、今日オレが来る事を知らなかったみてぇで…


おやっさんが、話の流れを説明してた。




澪夏ちゃんは、ずっと黙っておやっさんの話、聞いてた。



そして最後に、


「そう…だったんだ…」
うつむき加減に、返事して…




「…ごめんね、干潟くん…」


え…

「あ…、いえ…」


おやっさんを間に、

5ヵ月振りに…

澪夏ちゃんと会話する。


「じゃ、澪夏。…行って来る。」


おやっさんが、澪夏ちゃんの方見て、話してる。

「あ、うん。行ってらっしゃい…。気をつけてね!」


おやっさんがシフトをドライブに入れ、


サイドブレーキを降ろした。



「じゃあな。」

そうおやっさんは言って、アクセルを踏んだ。




「ありがと、干潟くん…っ!」









No.143

>> 142



おやっさんの車が出る直前に聞こえた…




澪夏ちゃんの言葉に。


オレは、




どうしようもねぇ不安に駆られて、


胸がざわついて、しようがなかった…





できることなら、



振り返りてぇ…



抑えきれない衝動と、

オレは闘ってた。






5ヵ月振りに見た澪夏ちゃん………



ちょっと痩せてたな…


けど、キレイになってた……






ごめんね…



と、



ありがと……





この言葉の、本当の意味を知るのは、もう少し後になるなんて。




この時のオレは、気付けなくて。






No.144

>> 143



おやっさんの言うとおり、今日の仕事はいろんな意味で大変だった。



二人でやっても、なかなか終わんねぇ。

ましてや、おやっさんひとりでなんて…。



日が暮れるのも早いから、その前に終わらせねぇと。


幸い、今日の仕事はその一件だけだったんだけど。



お昼を過ぎて、なんとか目処が立ってきた。
これなら、明るいうちに終わりそうだなって、おやっさんも言ってる。


「ちょっと、休憩するか。」




オレはホットコーヒー、おやっさんは家から持ってきたあったかいお茶を。






さっきまでは、忙しくて、

澪夏ちゃんの事、考えずに済んでた。



車が出る間際、オレに向けた、あの言葉と…

表情……


「………」



こんなに悩むぐらいなら、あの手紙…読んでればよかった…






「澪夏な…」




え?


………澪夏…ちゃん?


唐突におやっさんが澪夏ちゃんの名前を口にする。




「どうかしたんすか…」






No.145

>> 144



澪夏ちゃん。


オレ、


澪夏ちゃんの事、



大好きだよ。




綺麗な顔には似つかねぇくらい、毒舌なとこ。



見た目には、想像もつかねぇのに。

すんげー、酒つえーし。




クールで強気な発言が多いけど、
意外と涙もろかったり。


あ、あと。




………見える、んだよね。
思いだしたら、身震いしてきた…

これは、忘れよ…




あと、料理も上手くてさ。


どんな料理も、上手かったな。




強い人間には、強くて。
弱い人間には、優しい。


そして、賢くて。





身長小さいのに、

あ…、これ言っちゃうと、また、怒られっかな。

ま、いっか。



Cカップある胸もさ、


男を迷わす魅力のひとつで。





オレから見たらさ。



ほんと。


マジで。



澪夏ちゃんって、理想の女の子だよ?









No.146

>> 145



そんな、オレの理想の澪夏ちゃんに、ひとつだけ欠点があるとしたら。



…………


……………………








オレは、今。


自分のアパートで。

ベッドを背にして、澪夏ちゃんの手紙を読み終えてた。





澪夏ちゃん。


あのさ…、嘘つくの、下手じゃね…?




オレの事、好きって?





今になって、分かったよ。


今朝、オレに言った『ごめんね…』と、『ありがと…』の意味……が、





昨日、猛先輩がオレに言おうとした事も。


あ…、いや…



先輩、もしかして…!



オレが初めて澪夏ちゃん、連れてった時から…、気付いてた?


澪夏ちゃんの態度とか、様子…

今思い返すと、変…だったよな…



そんな澪夏ちゃん見て、先輩はすぐ、気付いてた……





だから先輩は、オレの事考えて…


手紙の事、黙ってたんだ……




No.147

>> 146



それって…


卑怯じゃねぇ?




オレの…オレの気持ちは、……


どうすりゃいいんだよ…!









「明日、……式なんだ…。」


おやっさんが、独り言みてぇにぽつりと呟いた。



「式…」


「あぁ…、澪夏…、結婚しちまうんだ…」


結…婚……?


「結婚、…するんすか…?」


「あぁ…、分かってはいてもな…。やっぱり、寂しいもんだな…。」



おやっさんの声が、どこか、遠くから聞こえてるみたいで…


はっきり、聞き取れない……


だから、また、同じ質問した。

「澪夏ちゃん…、結婚するんすか…?」


「あ…?あぁ、干潟くんと澪夏は兄弟みたいに仲良くしてもらってたな。 あ…、そういや、澪夏が言ってたな…。
忙しくて、干潟くんと話が出来なかったから、俺からよろしく言っておいてくれって。」


「あ……」


よろしく…?


「今まで、仲良くしてもらって…。俺からも、礼を言わせてもらうよ。」


おやっさんが、改まったように、オレに頭下げた。






No.148

>> 147



先輩が…

悪いワケじゃない



バカでガキなオレが、気付けなかった。

だけの話…




おやっさんの寂しそうな顔に…


オレは……

「おめでとうございます…。」


めいいっぱいの笑顔で、答えるしかなくて。





バイト終わって、おやっさんちから帰ってきて…

澪夏ちゃんのこの手紙、読み終えた今。


澪夏ちゃんは…


何してんだろ……




今朝、久々に会った澪夏ちゃんは、もうオレがこの手紙読んだって思ってたはず…。




早く読んでいれば…

って思ってみたり。



じゃ、読んでたら…

どうだったんだ?


今朝だって、なんか、言えたのか?





言うって、……何をだよっ…




今さら…!


今さら……



何を……





No.149

>> 148



気付くとオレは…


テーブルの上に置いていた車のKeyを握りしめていた。





別に、何か思いついたワケじゃねぇ…。


本能ってやつなのか?




自分でも、よく分かんねぇ…









おやっさんが話してた。

「今日は澪夏、式を挙げるホテルに泊まるから、早く帰んねえと。」




ホテル…



名前も聞いていた。





オレは……、



無我夢中でアパートをあとにした。





No.150

>> 149



「いらっしゃいませ。」

オレは、ホテルのフロントに立っていた。


ホテルマン?が、ぼーっと突っ立ってるオレに和らい声で話しかける。



式場どころか、ホテルでさえ、来た事ねぇオレは…


声をかけられても、何喋っていいのか……



「お客様?何か、ご用でしょうか?」

改めて、話しかけられたオレは…


「あ…、あのっ……片桐…」

「え…?」


澪夏ちゃんの名前を言おうとして、……

「お客様…?」

「!…」

ここまで来て、オレは…
どうしたいんだよ…


何にも考えないで、出てきたオレは、


頭の中が、ごちゃごちゃになって…





「澪夏~」

後ろから聞こえた、澪夏ちゃんと同じ名前を呼ぶ声にはっとする。



オレは、固まったまま身動きできねぇ…



「今日で、独身最後になるんだねぇ~」

「そうそう。ひとり、先に行く!なんて、あり得ないわ。」



「先にって!そんな言い方しなくっても…!」


!…

澪夏ちゃんの声だ…!




「あの…、お客様…」

いきなり振られた声に、びびったオレは、

「…はい!」

思わず、デカい声で返事してた…



一瞬、間があって。



「澪夏?」
「どうしたの?」







No.151

>> 150



……

気付かれた……?


……………


……





オレはゆっくり、振り返った。






そこには。


オレの…


大好きな人、


……澪夏ちゃんが、




立っていた。







「………干潟…くん…」

澪夏ちゃんが、オレの名前を口にする。


「え?知り合い!?」

澪夏ちゃんと一緒にいた友達?のひとりが、澪夏ちゃんに聞いている。
その顔は、かなり驚いた様子だ。



そりゃ、そうだよな…。


こんな非常時に、冷静に考えてるオレもどうだって話だけど…


けど。


澪夏ちゃんは、どう答えていいのか…


いや…、そんな事以上に、なんで今、オレがここに…澪夏ちゃんの目の前にいるのか……
きっと…澪夏ちゃんは、何がなんだか分からねぇはずだ……



そんな澪夏ちゃんの気持ち考えてたら。


オレ…

澪夏ちゃんの顔、見れなくなっちまって。………




澪夏ちゃんから、目を逸らしてしまった。






No.152

>> 151



「ねぇ、澪夏、紹介しなさいよ。」

澪夏ちゃんと一緒にいたもうひとりの友達が、言う。



「え…!?紹介って…!?」
澪夏ちゃんが驚いている。



そんなやりとりが聞こえてきたオレは、また、澪夏ちゃん達を見た。


すると、そのもうひとりの友達?が、オレの方を見ながら、

「澪夏に、こんなイケメンの知り合いがいたなんてね。」


もうひとりの友達とは、明らかに違う反応だ。

妙に冷静っつうか。


……………



「彩矢…!ちょっと…」
澪夏ちゃんの反応を無視するみたいに、


彩矢と呼ばれた友達は、オレに近づいてきて、

「こんばんは。あたし、澪夏の同僚で成田彩矢。あ…、こっちは、同じく同僚の田中千尋。」



握手を求めてきた。


オレは、断る理由も見つからないまま、彩矢っていう人の握手に応えてた。



「もう…!彩矢は、相変わらずだね~」



もうひとりの友達、千尋さん?が呆れたように、澪夏ちゃんに同意を求める。



「あ…、………」

答えに詰まる澪夏ちゃん…。


「仕方なくない?澪夏が、紹介してくんないから。で。干潟?くん?だっけ?」

彩矢って人が、またオレに話しかけてきた。


「あ…、はい…」

「澪夏とは、どんな関係?」


「!?」

どんな…って…!




「うちで…!お父さんのところで…、バイト…してたのよ…。」





このホテルにオレが来て。

予想外の出会いをしてから、
殆ど返す言葉も無くしてたような澪夏ちゃんが。


初めて、まともに喋った答え。





No.153

>> 152



そのまともに喋った答えが……




オレは、

……………

オレは、ただのアルバイト。
…って事。………


これが、この答えが、やっぱ。


現実なのか……





「でもさ、おじさんとこで、バイトしてる子が……、なんで、ここに?」

千尋…さんの、あまりにストレート疑問に、オレは一瞬、息をのむ。


オレと澪夏ちゃんの顔を交互に見る千尋さん…。


どうする…!?

「あっ!干潟…くんは!」


え…

澪夏ちゃん、今度は何を言い出す気?



「…干潟くんも!明日、…友達の結婚式が、あるのよ…!」



「え…!?そうなんだ~」

千尋さんは、びっくりしながらも。

澪夏ちゃんの答えに、何の疑いも感じてないようだ。




オレ。

どんだけ、澪夏ちゃん困らせてんだ……



オレは、澪夏ちゃん困らせたくて…、こんなとこまで来たのか…?




No.154

>> 153



「だったら、ちょうど良くない?」


それまでただ黙って見ていただけの彩矢さんの言葉に、その場にいた全員の視線が彩矢さんに集まる。


「ん?あ、干潟くんも一緒に飲もうって事よ。」
「え?」
澪夏ちゃんが、彩矢さんを凝視する。
「あ~!いいね~そうしよう?」
千尋さんが、にこにこ笑いながら、答える。






オレには、なんの選択肢もねえ。


正直…

もう逃げ出したかった…


自分のしでかした事から…




けど。そんな独りよがりの願いを叶えるような選択肢は、


やっぱ…どこにもなくて。




No.155

>> 154



澪夏ちゃんの顔…


見る事ができねえ……




会いたくて。


もう一度、会いたくて…



来たのに……




澪夏ちゃんを、苦しめてる………



「って言っても。澪夏は明日、大切な式があるからね。そんなに長くは飲まないけど。」


彩矢さんはそう言った後、歩き出した。

一瞬間をおいて、千尋さんも慌てて歩き出す。



澪夏ちゃんは………




小さくため息をついた後。


「……行こう。」

オレに対して言ったのか…
それとも、自分に言い聞かせたのか…
分かんねぇけど。

彩矢さんと千尋さんの後を歩き出した。






気持ちはぐちゃぐちゃのまま、何の整理もつかないオレは、


3人の後を追った……。






No.156

>> 155



たどり着いた先は、ホテルの中にあるラウンジ。


それぞれに、注文して。


澪夏ちゃんは、ジュースを、彩矢さんと千尋さんは軽めのアルコールを。


オレは、…



どうすっかな…


ちらっと、澪夏ちゃんがそんなオレに目をやる。

…………



そんな澪夏ちゃんの仕草に、なぜだかイラついたオレは、ビールを頼む。




それぞれの飲み物が運ばれてきて。



「じゃ、とりあえず、乾杯!」

彩矢さんの一言で、全員が乾杯した……。



「干潟くんって、彼女いるの~?」

唐突に振られた千尋さんの質問にオレは、どう答えていいのか分かんねえ…


「いるに決まってるでしょ。」

オレが答える前に、なぜか彩矢さんが返事した。


「え?」「え?」
オレと千尋さんが同時に、反応する。

「あ…、」
「え?いるの~?」


また、オレと千尋さんの言葉が被る。

「いませんよっ…」
オレは半分、投げやりに答える。


No.157

>> 156



オレの真向かいに座る澪夏ちゃんに目を向けると、


目を伏せたまま、コップに添えられたストローをゆっくりと回していた。



「千尋。そんな事聞いてどうすんの?」

彩矢さんが横目で、千尋さんを見る。


「ん?だって、干潟くん、イケメンだし。彼女いないんだったら、彩矢にお似合いかな~って思って~」


澪夏ちゃんが、ストローを回す手を止めた。


「何それ。彼女いないからって、干潟くんにだって選ぶ権利あるでしょ。それに。」



それに…?


「なに?」

「年上の女は、ね?干潟くん。」


年上の、女…

「…別に、イヤじゃないですよ…」



「そう?あたし、澪夏と同い年だよ?」



澪夏ちゃんと……



「三つぐらい、大した差じゃないわよ~」


呑気な口調で、話す千尋さん。





No.158

>> 157



三つぐらい…

大した事じゃ、ねぇか……




オレは…、その大した差じゃねぇ事を超えられなかった……






「すいません…オレ、ちょっとタバコ吸ってきます…。」



耐えられなくなったオレは、席を立つ。








オレ…


マジで、なにやってたんだ……




澪夏ちゃんにとって、明日は、すんげー大切な日…


そんな大切な日の前日に…
オレ…は………


澪夏ちゃんを傷つけてる……?






「どこ行くの?」


背後から、声がして振り返った。



彩矢さん…?


「タバコでしょ?…こっちよ。」





No.159

>> 158



ホテルの中にある喫煙室だった。



オレは、そんな場所がある事さえ知らずに、外へ出ようとしてた。



「それとも、外の方が良かった?」

彩矢さんが、オレの横でタバコに火をつけながら、言う。


「……?え…」

「フッ…。冗談よ。」


横目でちらっと見る。

この人…

なに、考えてんだ?



オレの事、茶化してんのか?



「明日。友達の結婚式って、嘘でしょ。」


「!!」

オレは、吸ってたタバコを落としてしまう。



な!?なんで…!!

慌てて、タバコを拾おうとしてしゃがみこんだ。


「そんなに、動揺して。」


しゃがみこんだまま、オレは下から彩矢さんを見上げた。


すると、タバコの煙を吐きながら、笑ってる。


…!!


「澪夏に会いに来たんでしょ?」




「!?………」



オレは、ゆっくりと立ち上がった。





No.160

>> 159



「だったら…。なんすか?」


強気な発言ってやつじゃねぇ…。


半分は、ヤケクソ……


それでも、オレは彩矢さんの顔から、目を離さなかった。



改めて彩矢さんを見る…

ヒールを履いているとはいえ、180を超えるオレの身長と、そこまで差は感じねぇ。


澪夏ちゃんとは、大きく違うな…



「若いわね。」

「え…?」

「って事。…かな。」



「言ってる意味、分かんないんすけどっ?」


何が言いたいんだ…!



「さっき、確か、大学…3年って。」


「え?あ…、はい…」

4人で話してる時に、最初に聞かれた事だ。

けど…。


それが、どうしたっつうんだ…


「あなた、澪夏を幸せにできる?」



「は?」




No.161

>> 160



彩矢さんは吸ってたタバコを、灰皿の上でもみ消した。



「あなたと澪夏に、何があったかなんて、知らないし。興味もないけど。
今のあなたに、澪夏を幸せにするだけの力があるとは思えないけど?」





………


…………………



「オレには…澪夏ちゃんを幸せにできない……?」


「そう。澪夏、24よ?」

「…分かってますよ」

そんな事…


「澪夏を、いつまで待たせるつもり?」


「え……?」


「あなたが大学卒業して…。そしたら、澪夏はその時、25。でも、だからってすぐ結婚できる?」

「!?……できますよっ!ガキじゃないんですから!」


「…だから。そこが若いって言ってんの。」


「なっ…、何が…!」


「大学卒業したてのあなたに、家族を養っていける?」


「……!」


「今の就職難の中、仮に上手く就職できたとして。
ほんとの意味で、男が社会人になれるのには、最低でも2、3年。…もしかしたら、それ以上かかるかもしれない。」


「……………」


「2、3年経って…。澪夏は、もう30手前よ?
その時になっても、あなたがモノになってる保証なんて、どこにもないのよ。」




淡々と話す彩矢さんに、オレは何も言い返す事ができない。




No.162

>> 161



いつのまにか。


オレのタバコは、燃え尽きようとしていた。




オレは静かに、自分の吸ってたタバコを灰皿に置いた。





「……どうせ、オレは…」


彩矢さんは、何も言わない。


「オレは…、ガキっすよ!どうしようもないくらいっ…、バカな…ガキ…ですよ………」




彩矢さんが言うような事、考えてもいなくて……


オレは、……


澪夏ちゃんとオレが楽しいなら。それで……


充分だ…って思ってた………



いつか、結婚できたら。

いつか、家族になれたら。
………そんなふうに、思ってた。




でも、………それだけじゃ、



澪夏ちゃん…、

幸せにする事は、



できねぇ……




No.163

>> 162



「でも澪夏…、そんな、ガキなあなたに、惹かれてたんじゃない…?」



え……

「澪夏ちゃん、が…?」

「うん…。あの子…、うーん…、半年ぐらい前からかな?彼との付き合いで、かなり悩んでたんだよね。」

「半年…」

オレがちょうど、澪夏ちゃんちでバイトさせてもらうようになった頃……


「澪夏と彼ってね、もう付き合い長くて。…5年?ぐらいかな~?」

「5年……」

そんなに前から、……



「でさ。その頃、彼の仕事が忙しくなって。あんまり、会えなくなってたみたいで…。
しょっちゅう、喧嘩もしてて。
今年の澪夏の誕生日も…」


誕生日…
澪夏ちゃんの。……

「なんか、…あったんすか…」



「うーん…。彼の仕事が急に入ったとかで…、いろいろ考えてたらしいんだけどね。
…ま、ドタキャンって話で…。」



あの日…

オレが、澪夏ちゃんにサボテン渡した時…

かかってきた電話…って……





No.164

>> 163



「澪夏の彼って、年上なの。…5歳、かな?」


「5歳……。そんなに、離れてるんすか…」


「そう。
当たり前だけど、まぁ確かに、課長っていう肩書きもあって~。
経済的にも、ゆとりがあって。」


「…………」


「それに…」


「………、それに、なんすか…?」


「澪夏の事、大事にしてる…。っていうか、……愛してる…。」





……………



……………………



「でも、澪夏にしたら…。そんな彼でも、会えないっていうのは、きっと…つらかったんだろうな…。」




そんな時に。


オレに……

「あなたに出会ったんじゃない?」


………………




「あなたには、彼にはない…何か…魅力があったのね。」


「魅力……オレに……?いや…魅力なんて、なんも…」






No.165

>> 164



オレは。


ほんと、なんも分かってなくて。




ただ、ただ…



夢中で、澪夏ちゃんの事、想って。






「澪夏…、口にはださなかったけど…。
本気で、あなたとの事、考えてたんじゃないのかな。」


「そんなワケないっすよ…」




最初っから最後までの…、

「オレの片想い…っすよ」



「そうかな?……ねぇ?澪夏の誕生日…、もしかして、一緒だったんじゃない?」

動揺しなかったワケじゃねぇ。


ただ、彩矢さんの口振りは、オレを責めてるようには聞こえなくて。



「あたし、何があったかなんて、聞くつもりはないよ?
でも、澪夏…。その後からかな?
何か、変わった…。」



澪夏ちゃんの誕生日……

先輩の店に連れてって……




先輩……


!!


先輩が結婚してるって知って。


澪夏ちゃん、


『結婚って、いい…ですか…?』

こんな事、聞いてた…



そんな澪夏ちゃんに先輩も、

『あぁ。…いいよ。』



って。…………





No.166

>> 165



あの日を境に。


澪夏ちゃんとは、会えなくなって……




……っ!

会えなくなった…んじゃねぇ…



澪夏ちゃん…


わざとオレに会わねえようにした…んだ…!



メールも、電話も…



「やっぱり、…なにかあったんだ…。」



オレは、敢えて否定も肯定もしなかった。








あの時、先輩と話した澪夏ちゃんは。



結婚を…


決めたんだ。





オレと。


……じゃなく。




明日、
式を挙げる、彼氏と。






No.167

>> 166



オレ…、


やっぱ…フられたんだ。


………


…………………


「はっ…、マジ、オレって…」



誰に言ってるでもなく。


ひとりごとのように、吐いた台詞。





乾いた言葉の先には、何にも潤うものがない。





「オレ…っ…」







ぎゅっとつかまれた腕。それは、彩矢さんの手で。


「……?」


少し高めのヒールを履いた彩矢さんに。


引っ張られるように。



どんどん、歩いていく。




でも、オレの頭の中は真っ白なままで。



何もねえ。



さっきまで4人で飲んでたラウンジを通り過ぎ、




フロントで一旦立ち止まった彩矢さんが、何か喋ってる。



話が終わるとまた、オレの手を握って。







エレベーターに乗る。







No.168

>> 167



カードキーを取り出した彩矢さん。



え…?


「ピッ」
という音で、彩矢さんがドアを開ける。



それと同時に、オレは思いっきり引っ張られ。


勢いで、オレと彩矢さんはベッドになだれ込むように倒れた。



気付くとオレは、彩矢さんの上に乗っかってて。


「うわっ!すい……」

謝ろうとして。



ん?……




オレ今。


キス、してる?




しかも、彩矢さんと……?




ちょ…

「ちょっと…!彩矢さん!」


慌てて、彩矢さんの唇から離れる。




「な…なに、してんすか!?」

「なにって、キス。」

「いや、キスは…分かってますよ…!だから!何で?」

「うるっさいな…」

「は…?う…」



また、キスされてる。


ったく。


なんなんだよ。




オレは、キスされたまま、彩矢さんの顔を見る。





間近で見ると、彩矢さんって綺麗な顔してんな。



角度を変えて、またキスしてくる彩矢さん。





ちょっと。


いい加減にしてくんねぇと………






No.169

>> 168



彩矢さんの肩を掴んで、ベッドに押し付けた。



「なに?」

彩矢さんが眉間にしわ寄せて、軽くオレを睨む。


「ハァ…」

軽くため息ついて、

「あの…、彩矢さん?」
「だから、何?」



「オレ、男。なんすよ。」

「分かってるわよ。しかも、イケメン。あ、それから、」


「?」

「あたしの超タイプ。」


「は?」


「だから。しよ?」


「!?…彩矢さん」



また、彩矢さんがキスしようとしてきた。


「ストップ!」




No.170

>> 169



「もう!いい加減…」
「言ったっしょ。」
「?」



「オレ、男なんすよ。」


「んっ…?」
今度は、オレからキスしてやる。

表情見たら、すんげーびっくりした顔して。




オレからしたら、大人な彩矢さんが、オレの予期せぬ行動?に驚いてる姿って。

ちょっと笑えた。


一度彩矢さんの唇から離れて、顔を見る。



「子どものくせして、余裕じゃない…。」

「…ガキだから、っすよ。」


「え?…どういう意味?」


「女の子の……、彩矢さんの反応が新鮮で……。」

じっと、オレを見上げる彩矢さん。


「あたし…で、……いいの?」


………

「それは、オレの台詞っすよ。」

「干潟くん…」

一瞬、
澪夏ちゃんのオレを呼ぶ声とダブった気がした。


「…いいんすか?オレで…」




No.171

>> 170



「……干潟くんが、……
いい。」



「!……彩矢さん。」






あの時。

澪夏ちゃんとキスした時、澪夏ちゃんは…

オレと、キスしたかったんだろうか?




彩矢さんみてぇに、オレじゃなきゃ…って。

思ってくれてたんだろう…か……。




「彩矢さん。」

「…?」

「笙。って、呼んで下さい。」


「……笙?…」

干潟くん。じゃねぇ。





オレが今から抱く人は、

「彩矢さん…」


「いいよ。無理しなくて。」


そう言って、優しく笑ってくれた。






No.172

>> 171



「彩矢さんっ…」


夢中でキスをした。



彩矢さん…彩矢さん……

オレは、何かを払拭するかのように。

必死で彩矢さんの名前を呼び続ける。




彩矢さんの唇から、首筋、ちょっとずつ下に下がっていくオレのキス。

時折聞こえてくる彩矢さんのアマい声。



澪夏ちゃんは…

オレの腕の中で、どんなふうに鳴いてくれたんだろう……




欲しくても。



どんなに望んでも。





手に入れられなかった…




澪夏ちゃん……。




彩矢さんの体温を感じながら、







オレ…


このまま、澪夏ちゃんの事…






忘れられるのか?






No.173

>> 172



「笙…くん?」


「………っ」


彩矢さんのオレを呼ぶ声に、息を飲む。




「ごめん…」


彩矢さんをこれ以上、見る事ができなくて……。

オレは、上半身裸のままベッドサイドに腰掛けた。




「私じゃ…、駄目、だった?」


まだ、横になったままの彩矢さんが聞いてくる。


「そんな事…、ないっす…」



ゆっくり体を起こした彩矢さんは、



「やっぱり、澪夏じゃないと。駄目…?」



違う……

……



否定したくても、声にならねぇ…



「冗談よ…。」

「彩矢さん…」




オレはまだ、彩矢さんの顔見る事が出来ない。



「澪夏に…、妬けちゃうな。」



「彩矢さん…!オレは…」


彩矢さんの方を振り向こうとして。





No.174

>> 173



「見ないで…。」



彩矢さんの言葉に、オレは動揺を隠せない。


「ごめん…、笙くん。そのまま聞いて?」


………


「はい…」



身なりを整えた彩矢さんが、同じようにオレの横に座る。

少し間があって……



「ちゃんと、澪夏に気持ち、伝えてないでしょ?」


気持ち…


「オレの、?」


「そう。」




あれから、会えないまま。
今日いきなり、澪夏ちゃんの結婚の話、聞かされて…


手紙っつっても、…

澪夏ちゃんの事後報告みたいなもんで……



オレは。


オレの気持ちはまだ、…

何がなんだか分かんねぇまま、こんなとこまで来てしまって…



でも、


今さら…なんて……


オレは、下を向いたまま、必死で答え探してた。


「気持ち…、伝えないと、笙くん…いつまで経っても、澪夏の事忘れられないよ…?」



彩矢さんの言葉が、オレの心臓に突き刺さる。





No.175

>> 174



「私…、部屋、戻るね?」


そう言って、立ち上がった彩矢さん。

「え…?」


オレは、彩矢さんの方へ顔を向ける。



「この部屋、使っていいから。」


「……あ、」


彩矢さんは、オレを見ないまま、ドアの方へ向かって歩き出した。




「明日の式、10時からだから。」

ドアの前で立ち止まった彩矢さんが、背中を向けたまま言う。



「…………」


「……笙くん…?」


「っ…はい…」





「初めてだったな。」


…………



「え…!?」






「一目惚れってやつ。」



…………?


「……彩矢っ…さん!」




そう呼んだ時には、もう彩矢さんの姿はドアの向こうに消えてて。








No.176

>> 175



眠れなかった。


彩矢さんが出て行った後、

オレは、今までの事、思い出していた。




初めて澪夏ちゃんに会った時。


めっちゃ、可愛い!



って思った。




夜景を見に行った時。


泣いて、喜んでくれたっけ…




こんな事で、

喜んでくれるんなら。



何回でも連れてってやりてぇ…



誕生日プレゼントにサボテン渡したな……


サボテンがいいって言った澪夏ちゃん……。



オレへの気遣いってやつ?

益々、好きになっていった。




そして。

その翌日………



澪夏ちゃんとの初キッスか…。





なんもなかったけど…


朝まで、ひとつの布団で寝たんだよな。



おかげでオレ、完全寝不足だったけど。





……

その時も澪夏ちゃん…



泣いてた…




彩矢さん、言ってたな。
澪夏ちゃん。ずっと、悩んでたみたいだって…




夜景観た時も。……


あの時の涙も…

感動して、泣いたんじゃなく?



彼氏との事で、悩んでたから。



………




!…

でも、澪夏ちゃん…

誕生日に…、

オレの背中越しに言ったよな…



あの言葉。



『後悔してない』って…


あれは…!

あの言葉は…




No.177

>> 176


ドアのブザーが突然鳴る。




少し驚きながらも、オレはドアを開けた。



「おはよ!」


彩矢さんだった。


「あ…、おはようございます。」


ちょっとだけ、視線を絡ませた後、


「行くよ!」

「あ、はいっ…?」


オレは、半ば彩矢さんに引っ張られるようにして、部屋を出た。



どこに?って聞く寸前に、

「澪夏のとこ。」

「え?あ、あの!?」

「覚悟決めたんでしょ!?」

「は…?」

「一睡もしないでさ。」

「!!」







連れて来られたのは、澪夏ちゃんの控え室。


【片桐家】


名前を見て、足が止まってしまう。


「大丈夫。」

「?」

「中は、澪夏しかいないから。」


「!?」


「じゃないと、話、できないでしょう?」


「彩矢さん…」

にこっと笑った彩矢さんは、控え室のドアを開けてオレの背中を押した。





No.178

>> 177



ドアの向こうには。



…………


ウェディングドレス姿の、澪夏ちゃん。



「彩矢?」

「………」




まさか、オレが入ってくるなんて。


思っていなかったんだろ。


一瞬、オレとは分からず。


彩矢さんの名前を呼ぶ。



「……澪夏、…ちゃん。」


「………」


オレの存在に気付いて、でも。
声も出せねぇぐらい、オレの出現にびびってるのか…



「…ごめ…ん」


やっぱ、オレがここに来たのって、間違ってた……


謝った後、ドアの方へ向きを変えようとした。


「干潟くんっ……!」


オレの名前を呼ぶ。


「ごめん…。澪夏ちゃんの事、困らせようとか、…そんなつもりじゃ、ないから。」



「分かってるっ…。分かってるよ!」


「…澪夏ちゃん?」


「謝るのは、私の方だから…。干潟くん…、ごめんなさい…。」


ドレス姿の澪夏ちゃんが、頭下げてる。

!?
澪夏ちゃん…?



「泣いてんの…?」


「ごめん…。泣く資格なんて、…私には、ないのに……」


澪夏、ちゃん………



「オレ…」

「……?」


「オレも…、後悔してない。」




……………



「干潟…くんっ…」




No.179

>> 178



「ねぇ…、澪夏ちゃん?」



涙をいっぱい溜めた澪夏ちゃんが、オレを見つめる。


「……」


「オレの事、好き…?」


「………」



「オレは、大好きだよ…。」


オレ。

ちゃんと、喋れてる?


ぽろぽろと、涙の雫を流す澪夏ちゃん。




「だから…、だからさ。……」


澪夏ちゃんのウェディングドレス姿が、きらきらして見れねぇや…。



「好きになって。…とは言わないからさ…」


声も出さずに、涙する澪夏ちゃん。





「オレの気持ち……、受け取ってよ…?」









No.180

>> 179



「………干潟…くん。」


澪夏ちゃんが、オレに近づいてきた。




益々、眩しくて澪夏ちゃんの顔が見れねぇ……




「干潟くん…。」

「おめでとう。」


「え…」

立ち止まった澪夏ちゃん。



「オレの気持ち…、」

「………干潟くん?」



今度は、オレから近寄っていく。


「干潟…くん…」


「結婚…。おめでとう。」


「干潟……」

声になってねえよ?


オレ、ちゃんと。


自分の気持ち、伝えてるよな。




ベタだけどさ…、


澪夏ちゃん……




「幸せになって。」




No.181

>> 180



綺麗だよ…


澪夏ちゃん。





でも、この台詞が言えるのは…オレじゃねえ。





…………





「オレの気持ち、…受け取ってくれる?」




「…………うん。」




「うん。…良かった。」




オレは、静かにドアを開け、出て行った。







これで…



これで、オレは。








ちゃんと、忘れられる。




だって。

最後の最後に……



オレの気持ち、受け取ってくれたんだぜ?











澪夏ちゃん。



オレたち、






【両想いだろ?】










完。





No.182





☆最後まで読んで下さった方へ―――



途中、仕事の関係でなかなか更新が出来ず、ちょっと焦った事もありましたが……。



とりあえず終える事ができ、今は、ほっとしてます。



ほぼ同時進行で書いていた話も、ひとまず終え、今はまた、主役たちとは違う人物の話を書いているところです。



仕事のストレスやプライベートでのストレスなど、日々の生活に追われる毎日ですが……

書く事で、気持ちを落ち着かせる事ができたり。

ストーリーを考えているうちは、嫌な事も忘れる事ができたり。



あくまで、自己満足の世界の中で、書く事がストレス解消になっているのですが……



この話に関しては、もうひとつの話とは違って、元々ハッピーエンドにするつもりはなく、もっと、つらい終わり方にしようと思っていました。


が、書いていくうちに。

まだ若い笙に、得るものがない恋愛をさせるのが、なんだか、つらくなってきて。

最後に助け舟になるような、彩矢を出す事にしました。


やっぱり、こちらも内容的におかしいと感じる部分も多々あったかと思いますが…。



書き始めの頃、気分を害された方もいらっしゃったようでしたし………

申し訳なく思ってます。


ただ、……

書けるうちは、書いていこうかなと、密かに思ってます(^_^)v

それに…

読んで下さってる方がいらっしゃるって事は、本当に、単純に、嬉しいですし。
やる気?にもつながります★


また、どこかで目に付いたら、暇つぶしにでも、目を通して下さい♪




今まで、お付き合いいただき、本当に…

ありがとうございました☆



主。



No.183


☆皆さん、おはようございます。


東北関東地方の方は、その後、どうお過ごしでしょう?

これから、益々寒くなってくる時に、本当に大変だと思います。


また余震があったりするかもしれません…。



どうか万全の体制で、避難されるよう、また、体調崩されないようにと、望んでいます。






さて。

少し、《笙》のその後を書いてみようかと思います。
長く書く予定ではなく。

ただ、このまま、このスレに書くか、別に書くか、現時点では決めていなくて。



まぁ、とにかく。

決めたら、書きます(笑)

もしも、時間に都合がある方は、暇つぶしに覗いてみてやって下さい。


(^_^)v



主。



No.184

>> 183


☆悩みましたが…


新しい登場人物も出てくるので、別スレで書く事にしました。


というか、


もう、書いていますが(^_^;)





毎回の事ではありますが…、

もう一つのお話同様、完全マイペースで書いていく事になりますので(^。^;)


暇な方は宜しければお付き合いください♪



主より。



No.185


現在、体調不良により、二つのお話の更新ができない状態です。

もし、読んで下さってる方がいらっしゃったら…

申し訳ありませんが……もうしばらく、待っていただけると有り難いです。


喉の痛みと、頭痛と…etc.…
薬を飲みながら、戦っています……



主より。



投稿順
新着順
主のみ

新しいレスの受付は終了しました

小説・エッセイ掲示板のスレ一覧

ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少

新着のミクルラジオ一覧

サブ掲示板

カテゴリ一覧