繰り返した不倫
なぜあんなん人と、不倫をしたのか・・・・・・・
結婚していて、顔は悪く、背も低い、性格も悪く、嘘つき。
若い時の過ち。
今でも、胸が苦しく吐き気がする。
二人の男。
思い出しながら、ゆっくり書いて行きたいと思います。
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サービスは、整備士さん達との関わりが多く、車検や整備関係で来客したお客様の受付や事務、車の引き取り、納車などが仕事内容だった。
そこには、小谷さん(29歳)と田口さん(25歳)という女性が働いていた。
二人に紹介され・・・・
「今日から入社しました。よろしくお願いします。」と挨拶をした。
仕事バリバリ、意地悪そうでちょっと怖そうな小谷さん。
小谷:「へぇ~、よろしく~・・・・ってか髪スゴいね~」
私:「あっ・・・スミマセン」
と言うと、営業の木村さん
木村:「ちょっと、新人イジメるなよ~。可愛いじゃん」
小谷:「全然、可愛くない!若いだけじゃん」
私は、小谷さんにムッとし、営業の木村さんにはドキッとしてしまった。
地味で優しそうな田口さん。
田口:「よろしくね。わからない事あったら、何でも聞いてね」
印象通り、やさしい口調だった。
二人とは、今でも付き合いがあるくらい、仲良くなるのです。
いろんな波乱を乗り越えた後に・・・・・・・
仕事は、思った以上に難しく、なかなか覚えられず、周りにも迷惑をかけていた。
社会人としての自覚が薄く、失敗だらけの私は、簡単な仕事しか出来ず、みんなが忙しくても、私だけ暇だった。
今思えば、私のいたポディションは、いわゆる仕事が出来ない人がいる場所だった。
給湯室でコーヒーを飲んでいると、木村さんが入ってきた。
木村 : 「どう?仕事は慣れた??」
私 : 「いえ。なかなか仕事も覚えられないし、先輩怖いし・・・・・」
木村 : 「あ~小谷???アイツ、口は悪いけどいい奴だよ。澤田さんの事、真剣だから怒ってくれるんだよ」
私 : 「もう・・・辞めたい」
木村 : 「何言ってるの。まだ入社して3ヶ月だろ。もうちょって頑張れよ」
私は、木村さんの言葉が嬉しかった。
仕事より木村さんと、もっと仲良くなりたくて、会社を続けた。
小谷さんと田口さんの指導のおかげで、少しずつ仕事が出来るようになって来た。
小谷:「澤田、そろそろ引き取り行ってみる?」
引き取りとは、お客様の所へ車を取りに行く整備の送りや迎えをする事。
私:「はい。行ってみま す」
小谷:「じゃあ、整備士来るまで待ってて」
入社してから、営業さん事務員の女の子とは、話していたが、整備士さんとは初めての接触になる。
工場の方から、つなぎを着た、男の人。
藤田さん(30歳)
小谷:「今日から澤田さん外に出すからよろしくね」
藤田:「そう、じゃあ澤田さん、行くかぁ~」
車に乗り二人で、お客様の家に向かう。
その時、??????
お客様の所???喫茶店???
私:「あの、ここは?」
藤田:「あ~、結衣ちゃん引き取り始めてかぁ!朝、引き取り出る時みんなモーニングしてくんだぁ。もちろん、会社には内緒ねっ」
ラッキー!休憩出来る!
お店に入り、慣れたように、私のコーヒーも一緒に頼む藤田さん。
藤田:「仕事どう?慣れた?うちの会社、上の奴ら最悪だろ?みんな辞めたがってるよ」
私:「まだ、よくわかりません。でも、社内でいろいろ対立がありますね」
藤田:「あっ気づいてた?結衣ちゃんも慣れてきたねぇ」
そう、社内は誰かと誰かが仲が悪かったり、社員が社員の要望すべて無視だったり、営業とサービスで対立していたり、グチャグチャだった。社員の多くが辞めたいと思っていて、辞めるタイミングを見計らっていた。
小谷:「結衣、今日も飲みいく?」
私:「いいね~、行く行く」
小谷:「今日は木村も誘おっか~」
私:「えっ?いいよ」
木村さんが来る?やった~!!!仕事以外で会う事なんてなかった。
嬉しく、嬉しくてすぐに友達に連絡した。
中学からの先輩で、中村綾さん。
妹のように可愛がってくれて、ディスコ、クラブなど、始めての場所に連れて行ってくれたのも、綾さんだった。
私→『綾さん、どうしよう・・・・今日、木村さんと飲めるよ~』
綾→『マジ!チャンスだよ!!!気持ち伝えてみな』
私→『無理~!怖いよ』
綾→『入社してから、一年以上片思いしてたじゃん。そろそろ気持ち伝えなよ。木村さん居たから、仕事頑張れたでしょ』
私→『うん…』
気持ちを伝えてみようと、ドキドキしたがら飲みに出かけた。
薄暗く、大人な感じのバー。
カクテルを飲みながら、会社の愚痴で盛り上がった。
「澤田は、好きな人いるの?」
急に小谷さんから聞かれた。
「うん・・・・いるけど片思い・・・・・・」
「へぇ~、誰~????知ってる人?」
木村さんに聞かれ、動揺してると、小谷さんが照れくさそうに話し始めた。
「実は、私、付き合ってる人いてね。
会社で噂になるの嫌で隠してたんだけど、澤田には話しておこうと思って。」
私:「えっ?誰ですか?」
小谷:「木村だよ」
私:「・・・・・・・・・・・・・」
木村:「ビックリしただろ~」
小谷:「はぁ、スッキリしたわぁ、前から言いたかったけど、なかなかキッカケないしね」
それ以降は、ほとんど何を話したのか覚えていないが、適当に話しを合わせていた。
早く帰りたかった。
ぼ~としたまま時は過ぎ、ショックを受けている事が、バレないようにするので必死だった。
ようやく家へたどり着いた。
しばらく身動き取れずに、座っていた?
何があったのか受け入れられず、時が止まっていた。
すると、着信が・・・・・・・
綾さんからだ。
「もしもし・・・・・」
「あっ、結衣?今日どうだった?」
「あっ・・・・・・」
我に返った。
急に泣けてきた。
「綾さ~ん、わぁ~ん」
「結衣、どうした?何があった??????」
「きっ・・・きむっ・・らさん・・・・彼女・・・・・いた」
「そうなの!!!!気持ち伝えたの???」
「つたえて・・・・・・ない」
「とにかく、今から行くわ」
綾さんの家は、車で3分と近かった。
すぐに来てくれた。
「大丈夫?????」
泣いた事で、少し落ち着いていた。
「木村さん、彼女いた」
「うん」
「相手が・・・・・会社の先輩で、かなりお世話になってる人」
「マジ?????それじゃ・・・・・・・」
「そう・・・・・諦めるしかない」
「気づかなかったの???」
「うん…」
2人は、誰にも気づかれず付き合っていたのだ。
仕事が出来る2人。
隠し事も上手だ。
「私、木村さん居たから、仕事頑張れた。いつか付き合いたいなんて、夢みながら・・・・これから、どうしよう。2人一緒の所見たくないし、やる気無くなった。もう、どうでもいい!!!!!」
「何言ってるの!!!!そりゃショックなのはわかる!!けど、結衣はもう社会人でしょ!
学生とは違う!もっと責任もって仕事しな!!!!」
綾さんは、いつも間違った事すると、叱ってくれた。
ウジウジしてると、さらっと大した事ない。なんとかなる!って励ましてくれた。
「うん・・・・努力してみる」
この後、綾さんも止められないほど、間違った事に突っ走ってしまう。
それからも、小久保さんとの引き取りが増えて行った。
段々と、打ち解け合って行った。
車好き。
うどん好き。
会社嫌い。
釣り好き。
共通の話題も増え、整備士の中で、一番仲良くなった。
何年も先輩のはずなのに、友達みたいだった。
会社でも、私達は仲がいいと思われてからは、居心地が良く小久保さんのお陰で、みんなから優しくされた。
変な会社・・・・・・・・・・
お昼休み。
小久保:「結衣、昼飯行くか?おごるよ!」
「行く、行く~」
大好きなうどん屋。
小久保さんと、始めてのお昼ご飯だった。
お店に入ると
藤田さんと新人の整備士Aがいた。
藤田:「お~、珍しいな~、2人で昼飯???」
小久保:「おぅ、どうしてもうどん食いたくて、結衣誘った~」
「おごりだもんね~!」
と言いながら、同じ席に着いた。
少しずつ、木村さんを見ても何とも思わなくなっていた。
小谷:「今日も引き取りよろしく」
よっし!サボリ!!!!!
今日は、店が忙しく整備士はバタバタしていたので、工場長とだった。
もちろん、モーニングはなし・・・・・・・・
車の中で、話しながらお客様の所へ。
「最近、小久保と仲いいなぁ~。結衣ちゃん可愛いから焼いちゃうなぁ~ハハハッ~。ってか、よく小久保上手く扱えるなぁ」
「指示には従わないし、困ったもんだぁ。まぁ、腕は確かだから、いいかっ」
工場長と小久保さんは、よく喧嘩している所を目撃している。
なぜか、飲みに行ったり気は合うみたいだが、仕事となるとぶつかった。
しばらくして、有り得ない噂が女子社員の中で流れた。
私が、木村さんを好き。と言う噂。
はっ??????
今さら?????
無視無視。と平気だったが・・・・・・・・・・・・・・・・・
噂を知った次の日の朝。ロッカーへ行くと小谷さん。
「おはよ~」
ス~とすれ違った。
無視???????????????
今、無視したよね。
あの噂のせい?
ドキドキした。久しぶりだ。人から避けられるの。
用事があり話し掛けても返事もしてもらえない。
私なんか居ない人。ユーレイにでもなったみたいだ。
2日目も同じ。
3日目も同じ。ユーレイ状態・・・・・・・・・・
仕事も何とか終わり、帰り駐車場で、小谷さんにバッタリ。
「 おつかれさま」
言ってみた。
無視・・・・・・
車に乗ると、我慢していた涙が・・・・・・・・・悲しくて苦しくて寂しい。
小谷さん・・・・誤解してる。もう好きじゃない。
2人が付き合っている事知って、諦めたよ~。
しばらく、泣きじゃくった・・・・・・・・・
「私の噂、知ってる?」
「あ~、なんか聞いた」
「小谷さんと木村さんの事・・・・・」
「2人が付き合ってる事?」
「知ってるの????」
「みんな知ってるだろぅ?」
「そうなんだぁ。私が木村さんの事好きって聞いて小谷さん怒ってるみたい。一言も話してないから、何を考えてるか分からない」
「本当、アホな噂だよなぁ。女って面倒だな。だってさぁ、結衣がそんな事するわけないのに、小谷もちょっと考えりゃ分かるのにな」
「えっ????そんな事って????私が木村さんが好きって噂。他にも何か??」
小久保さんが聞いた噂。
私が木村さんを好き。
何回もアタックしてるけど振られてると。
付き合ってる小谷さんの悪口を言い回してる。
はぁ・・・・・・・・・・・・・・
私って、女子社員が嫌われてる。
毎日、会社に言って職場の人達と会ってるのに、知らない事だらけだ。
いつの間に、小谷さんと木村さんの関係をみんな知ったのか?
女の子達と普通に話してるし、仲良くしてたつもりなのに嫌われてる?
小谷さんとは誤解が解けずこのまま?
これって夢か?????
涙が止まらない。
「気にすんなよ。ほっとけよ。
嘘なんだし、そんなバカなヤツら無視、無視」
「女の世界は怖いの!明日からどうしたら???会社行きたくない」
「大丈夫だって。何かあったら俺呼びな」
「そんなの・・・・・・・・」
「私、別に会社に必要とされてないし、何か嫌われてるみたいだし・・・・辞めても誰も困らないよ」
小久保:「・・・・・・・・寂しい・・・・」
えっ・・・・・ドキドキドキドキドキドキ・・・・・さみしい???????????????
小久保:「とにかく、明日は来いよ!」
「うん・・・・・車ありがとう帰るね」
車から降り、自分の車へ。
ぽ~としながら、エンジンをかけ車を走らせた。
後ろから、小久保さんの外車。
そっかぁ、家近いって言ってなぁ。
バックミラーで小久保さんの車を確認しながら走る。
なんか変だぞ。
ドキドキしてる。
小久保さんの車が気になる。
結局、あと5分で家という所の交差点で、私は左折。小久保さんは直進して行った。
あ~あ。
うん???あ~あ???って?
別にいいよ!・・・・・・・・
もうすぐクリスマス。
小谷さんに無視されてから、一週間ほど過ぎた。
毎日辛かった。
女子社員達も特に何かしてくる事もなく、普通に話している。
小久保さんが側にいてくれたから、助かった。
仕事を終え、家に帰ると携帯が鳴った。
・・・・・・小谷さん・・・・・
ドキドキ・・・・・・・・
どうしよう・・・・・・・・・
恐る恐る出てみる。
「もしもし」
「結衣・・・・・・・・・・」
しばらくの沈黙
小谷:「あの・・・・・・・・ごめん」
小谷:「結衣が木村を好きで・・・・・・・いろいろ聞いてさぁ、ショックで我を見失ってた忘れた。木村とも話してなかったし、一瞬、信じそうになった」
「誤解だよ」
小谷:「分かってる。昨日木村から聞いた」
小谷:「何がなんだか分からないって。
結衣が自分を好き?有り得ないって。
そんな素振りをされた事もないって・・・・・・
私さぁ、会社に敵多いから嫌がらせだと思う。
結衣、巻き込んでごめん」
「誤解って分かってくれれば、それでいいよ!」
しばらく話して、仲直りできた。
「じゃぁ、また明日」
電話を切ろうとすると
小谷:「あっ、黙ってろって言われたんだけど、小久保から電話あって怒られたよ。
事実を知らないくせに、無視するなって。結衣がお前の悪口なんて言うか?友達の彼氏に手出すか?ってね。
目が覚めたわ。感謝だよ。小久保って、人当たりあまり良くないけど、優しい人だね。」
電話を切った後、嬉しくて涙が出た。
そうだ!!!!お礼の電話しよう。
携帯を手に持った。
あれ?・・・・・・・・・・・・
小久保さんって奥さんいたよなぁ
夜に電話して、変な誤解されたら悪いよ。
明日お礼言う事にした。
本当に小久保さんは、既婚者って感じじゃないよなぁ。
ついつい忘れちゃう。
まぁ、関係ないかっ。友達だしねっ。
特に何も考えず、その日はスッキリして良く眠れた。
次の日。
交差点で会える時間に合わせて家を出た。
青信号だ・・・・・・・・・
右折をする時、左をみると
いたぁ~~!!!!!
信号待ちをする小久保さん。
手を振る暇はなかったが、電話かかってくる。
バックから携帯を出して待っていた。
あれっ?????かかって来ない。
しばらく待っても鳴らない。
モヤモヤする
かけてみよう
ドキドキしながら、かける。
話し中だった
誰と話してるんだろう。なんか気になる。
バックミラーで、小久保さんの車が来ないか確認した。
何回も・・・・・・・・・・・・・
会社が近くなってきた。
信号待ちしていると、隣に大きな黒い車。
小久保さんだぁ~!!!!!
笑顔で手を振ってくれている
私も振り返した。
会社の駐車場に車を止めた。
駐車場からお店までは、少し離れていた。
小久保さんと一緒に歩いた。
「昨日、小谷さんから電話あったよ。
小久保さん・・・ありがとね。小谷さんに電話してくれて。」
「あ~、ちょっと気になったからね」
何か素っ気ない・・・・・・
いつもこんなもんかぁ。
いつもの小久保さんに戻った?
「優しい所あるねぇ~」
冗談ぽく言った。
それからは、話しも弾まずお店に着いた。
「じゃぁ、仕事頑張れよ」
「はい~」
と言って別れた。
何だか、物足りない。
友達として、最近、距離が縮まった?なんて、思ったけど、気のせいかっ。
小久保さんとは、会社では仲が良いが、飲みに行ったりプライベートでの付き合いは、全くなかった。
唯一、朝偶然、交差点で合った時だけ電話をくれた。
今日は、なかったが・・・・
さぁ、仕事頑張ろっ。
その日は、いつもより忙しかった。
お正月休みが近いから、終わらせたい仕事が沢山あった。
小谷:「今日も朝引き取りあるなぁ。
結衣は、無理そうだね。田口さん、行ってくれる?」
田口:「いいよ。なんか、朝出るの久しぶり~」
私は・・・・・・・・ガッカリ。
「よしっ、行こ~」
と言いながら、小久保さんが事務所に入って来た
今日は、小久保さんだったのか~。
残念・・・・・・
んっ???????????????
何、残念って・・・・・・・
モーニング行けないから?サボれないからだよね
2人は、並んで何か楽しそうに話しながら、駐車場の方に歩いて行った。
イラッ!!!としたが・・・・
いやいや。友達だし、他の人と仲良くしているとムカつくなんて、子供かっ!!!
と自分に突っ込んだ。
なんとなく、2人が帰って来るまで落ち着かない
ソワソワ・・・・・・・
すると
「ただいま~」
田口さんだ。
笑顔で帰って来た。
時間的に間違えなく喫茶店行ったよなぁ・・・・・・・
はぁ・・・・・・・・・・・・
しばらくすると、小久保さんが入って来た。
なにやら、引き取って来た車について真面目な顔で話している。
ドキドキ・・・・・・・・・・・・・
何、このドキドキ??????
すると後から
小久保:「結衣!!!!!忙しそうだな」
「えっ?????」
すごくビックリした。
ビックリした私を見て、小久保さんは、もっとビックリした顔をしていた。
「頑張れ~」
と肩をポンッ!!!!!
さっきのソワソワは????
と言うくらいルンルンだった。
自分でも、何がなんだか・・・・・・・・・全く分かっていなかった。
1日の仕事を終え帰ろとすると、洗車場に小久保さんの車。
車を洗っていた。
小久保:「お疲れ~。
そう言えば、チェンジャー欲しい?」
「欲しい~」
「いい中古、手に入ったから、今から時間あれば付けてやるよっ。車、持っておいで。」
「ほんと!持ってくる」
嬉しくて、走って駐車場まで行った。
「じゃぁ、ちょっと待ってて。二階でコーヒーでも飲んでていいよぉ」
しかし、私は、隣で取り付け作業を見ていた。
凄い器用だぁ。
手際よくて、早い。
車のすべてを知り尽くしているみたい。
カッコいい!
うん????・・・・・・カッコいい????
イヤ・・・そんな筈はない
間違ってもカッコいいとは言えない。
顔もイマイチ。背も低い。服のセンスもない。色気もない。
だから、気楽に友達でいれるんだよ。
気を取り直して、二階にコーヒーを飲みに行った。
二階で、コーヒー飲みながらテレビを観ていると小久保さんから終わったと電話があった。
急いで降りて行く
車の中を見ると、綺麗に配線を隠し、お願いした通り、トランクに本体が置いてあった。
「これ、リモコン」
「ありがとう。ご飯でもおごるよ」
「いいよ。こんな事くらいで。」
すると、工場長が来た。
工場長:「おっ、チェンジー付けたのか?いいなぁ。小久保が付けてあげたんだ。珍しいなぁ~。女の子の車世話してあげるの始めてみたぞ~。」
そうなの??????・・・・・・・・
小久保:「そんな事ないよ。まぁ、工賃高く貰わないとなぁ~」
工場長:「お前らしいなぁ~、結衣ちゃん、ぼったくられないようになぁ~」
「はぁ~い」
工場長は、帰って行った。
「じゃぁ、もし調子悪かったら言って。お疲れ~」
「ちょっ、ちょっとぉ~本当にお礼・・・・・・」
「いらねぇ~よ。じゃあなっ」
ドキドキドキドキドキドキ
頭に酸素が回らない。クラクラする。
何?
自分の気持ちに気づいてからも、出来るだけ普通に小久保さんと接した。
朝は、会わないように時間をズラした。
好きになってはいけない
気持ちにブレーキをかけていた。
そしてクリスマスイブの日。
私は、会社の用事で外へ出ていた。
クリスマスイブなので、道が混んでいて、なかなか会社に戻れない。
綾さんと会う約束がある。もう、17時30分。暗くなっていた。
早く帰りたい。
あまりに渋滞なので、裏道に入った。
細い道。止まれのある交差点。
見渡しが悪いので、止まってから少しだけ前に出て左右確認した瞬間。
ガシャ~ン
・・・・・・・・・・・・
何だ?
事故だ。
交差点の右側から、ものスゴいスピードで走ってきたのだ。
ボンネットがグシャグシャだ。
車が動かせない。
どうしよう。
警察を呼んだり、相手の人と話したり、会社に電話したりバタバタした。
警察の人が来るまで時間がかかった。
話しが終わると、会社の次長が積載車で迎えに来てくれた。
事故車を車に乗せ会社へ帰る。
時間はもう20時過ぎていた。
「次長、すみませんでした。」
「後は、会社で進めるから。聞いた限り相手の方が悪そうだし、まぁ今日はしっかり休んで」
ロッカーまで荷物を取りに行った。
綾さんに行けない事を電話した。綾さんの声を聞いて肩の力が抜けた。
そして、今年最後の仕事納めの日。
会社で、珍しく忘年会。
ドキドキした。
服を何着ていこうか、悩んだ。
小久保さんは、服に全く興味がない。
派手過ぎても引かれそう。
無難だけど、オシャレで可愛く見える服を選んだ。
電車に乗り、駅前まで行き小谷さんと一緒にお店へ向かった。
小久保さんの隣に座りたい。
タイミングが合わないと無理だよなぁ。
緊張しながらお店に入る。
すぐ、小久保さんを探した。
いた・・・・・・・・
すでに小久保さんの周りの席は空いていない。
長いテーブルが三列ほど並んでいて、座敷だった。
小久保さんの両隣は、工場長と藤田さん。
前には、若い女子社員達だった。
みんなミニスカートにセクシーなトップスを着ている。
コンパニオンみたいだ。
だから、年は近くても仲良くなりたくない?常識ハズレな行動が多い。
嫉妬しながら、離れた席に座った。
気になって、忘年会どころじゃない。
営業、サービスの人達がお酌をしに席をたち始めた。
小久保さん達の席は、何だか盛り上がっていた。
行けない・・・・・・・・・・
綾さんにも、小久保さんへの気持ちは話してなかった。
「もしもし、結衣。今何してる?」
「会社の忘年会だよ。帰りたいよ」
「忘年会かぁ。面倒だね。
今クラブに居るから、終わったらおいでよ。」
「わかったよ」
電話を切り、一刻も、早く帰りたい気持ちを押さえて部屋へ戻った。
私の席どけだっけ?????
あった、あった。
えっ???
小久保さん????
席を外している間に、小久保さんが私の席に座っていた。
ドキドキしながら席に向かう。
好きな気持ちがバレないように、普通に話し掛けた。
「私の席なんだけどぉ」
「知ってる。向こうの席酔っ払いばっかりで、ダルくてさぁ。
まぁ、ここ座りな。」
冷静を装いながら、頭は緊張で真っ白になっていた。
小久保さんの隣。
嬉しくても、喜んでいる事がバレないように普通にしていた。
たわいもない話し。
誰にも邪魔されない2人の時間。
小久保さんは、ジュースを飲んでいた。
「あれっ。飲まないの?」
「明日も釣り早いからさぁ」
そうだよ。小久保さんは釣りしか見えてない。奥さんの事、ほったらかしで毎日行っているんだもん。私なんか、仕事終わればスッキリ忘れるよね。
片思い、辛いなぁ。
なんて考えてると、小久保さんがライターを出して煙草に火をつけた。
ジッポみたいな玩具のライター。
ふたを開けると、キラキラ光った。
じーっと見ていると
「結衣、これあげるわ」
とライターを差し出してきた。
めちゃくちゃ嬉しい。
ものすごい喜んでいると。
「こんなんで、そこまで喜んでくれるなんて変わってるなっ。」
小久保さんの物だから嬉しいんだよ。
なんて、言えない・・・・・・・・
小久保さんが隣に来てから、帰りたい気持ちはなくなり、むしろ帰りたくない・・・と思っていた。
「さぁ、皆さんそろそろお開きにします」
幹事が言った。
嫌だよ。帰りたくない。もっと一緒にいたい。
ゾロゾロとみんな部屋を出て行く。
なかなか、立てない。
離れたくない。
すると、小久保さんがゆっくり立ち上がり
「さぁ、行くかぁ、サービスは今から二次会だってさぁ。行きたくねぇ~な。結衣も行く?」
「えっ?」
もちろん行きたいよ。
けど、綾さんとの約束あるし、男の中に女一人って・・・・誰かに気持ちバレてしまいそうだよ
行きたい気持ちを必死で押さえ約束があるからと断った。
「そうか、残念だな。結衣と話してると楽しいから、来てほしかったなっ」
と冗談ぽく言いながら頭をヨシヨシしてきた。
ドキッ・・・・・・・・
すると、綾さんが私の様子がおかしい事に気づいた。
「結衣。何かあった?」
もう、一人では抱えきれない。
綾さんに言おう。
パニックになっている頭を整理しながらゆっくり話し始めた。
「私、綾さんに言ってない事が
ある」
「うん」
「好きな人がいるんだ。
始めは自分の気持ちに気がついてなかったんだけど・・・・・・気づいた時には、もう止められないくらい好きで。」
「相手の人は、知ってるの?」
「知らないし、言えない」
「うん?どうして、言えないの?」
「・・・・・・・」
「何?問題でもあるの?」
恥ずかしくて、なかなか言えない
「結衣?」
「その人、結婚してる」
小さい声で言った。
ハァ・・・・・・・・・・
綾さんが、思いため息をつく。
しばらく沈黙が続いた。
「結衣・・・わかってるよね。
駄目だよ。
相手に気持ちバレてないなら、今のうち諦めな。」
「わかってる。わかってるから、誰にも言わないで、静かに片思いしてた。
けど、今日の忘年会で、気持ちが押さえ切れなくなって・・・会いたくてたまらないいよ。
綾さん・・・苦しい・・・」
「それでも駄目!!!
もし、相手に気持ち伝えたらもっと苦しくなる。何かあったら、大変な事になる。
今と比べものにならないくらい傷付く。」
綾さんが、言ってる事は、わかっている。
しかし、理性を失うくらいに小久保さんに惹かれてしまっていた。
「結衣。諦めな。絶対、幸せになれない。
幸せになれる人見つけよう。」
「・・・・・・」
私は、黙ったままライターを見つめていた。
すると『ピピピ~ピピピ~』
携帯が鳴った。
こんな時間に誰だろう?
携帯に出る気分ではないが、嫌々携帯を取り出した。
えっ…?
《小久保さん》
何度みても、小久保さんと書いてある。
「もしもし、どうしたの?」
「もしもし、結衣?今どこ?」
「今、先輩と遊んでる。」
「ちょっと会えないかな?」
ドキドキ・・・
どうしたんだろう???何かあったのかなぁ…。
理性を失っている私しに断る事なんて出来なかった。
どんな形でも、会いたい。
「いいけど、車ないし、どうしたらいい?」
「店まで、迎えに行くよ。」
店の場所を教え着いたら電話をくれる事になった。
嬉しい!会える!!!
店に戻ると、ソワソワしながら、携帯を目の前に置いて待っていた。
その前に、綾さんに先に帰る事を言わなくては。
小久保さんに会いに行くなんて言えない。
「綾さん。そろそろ帰るよ」
「そう?じゃぁ、送っていくわ。」
「い、いいよ。」
「え?だって歩いて来たでしょ」
「うん。友達が迎えに来てくれるって。」
「ふぅ~ん・・・わかった」
ヤバい!バレてる???
なんとなく、怪しまれているような空気。
しかし、綾さんに怪しまれても、なんとし
ても小久保さんに会いたい。
何となく、気まずくて小久保さんが着く前に、店を出る事にした。
「もしもし、もうすぐ着くよ」
「わかった。広い道まで出るね。」
急いで、明るい広い道まで出ると、大きな黒い外車がちょうど走ってきた。
近くまでくると、小久保さんの車は止まった。
急いで乗り込んだ。
嘘みたい。会えた。
小久保さんの車に乗ってる。
あの雨の日と、今日が二回目。
緊張する。
「結衣。ごめんな。こんな遅くに・・・」
どうしたんだろう、なんか元気がない。
「いいけど・・・どうしたの?」
「どっかに止まるわ」
と言うと、無言で車を走らせた。
とても話しかけられる空気ではなかった。
しばらく走ると、大きな川沿いの静かな駐車場に車を止めた。
小久保さんの顔を見ると、下を向いたまま何も話さない。
「どうしたの???」
・・・・・・・・
「結衣・・・・どうにも・・・とめ・・・られない・・・・・」
「え・・・・何????」
「俺・・・・最低だ・・・・」
「よくわからない。」
「何度も、何度も自分の気持ち止めようとした。
けど・・・・・・けどさぁ・・・・無理なんだよ!!!
心配で、心配で、仕方ないんだよ!!!」
「何???」
小久保さん・・・・・・泣いてる?
だんだん家が近づく。
もっと、一緒にいたい。
離れたくない。
けど・・・・駄目・・・・・・
すると、小久保さんが急に手を握ってきた。
ドキドキドキドキ・・・・・・
「結衣・・・俺さぁ…離婚するんだ。」
「はい???だって奥さんもうすぐ子供産まれるじゃない???」
「あ~、前から不仲でさぁ、子供産まれて落ち着いたら離婚する事になったる」
「嘘・・・・・・・・」
嬉しかった。
小久保さんが、離婚???
そうしたら、不倫じゃない!!!
「離婚したら、もう一度告白する。」
「うん」
そう言って車を降りた。
まだ、付き合えない。
けど、いつか付き合える。
待っていたい。
ほんの何分か前と、全く違う気持ちだった。
「もしもし・・・・」
「もしもし、今何してる?」
「家だけど・・・」
「ちょっと、会えないかな?」
「うん・・・いいけど・・・」
「さくら公園の駐車場で、待ってる。」
さくら公園は、家から車で3分。
大きな公園で、駐車場は夜になると暗くほとんど人は居ない。
急いで車を走らせた。
あっという間に着き、少し駐車場を走ると、小久保さんの車があった。
隣に車を駐車して、緊張しながら助手席のドアを開けた。
「結衣、乗って。」
本当に小久保さんが、目の前にいる。
アイドルと始めてのデートみたいに信じらんない気持ちで、いっぱいだった。
しかし・・・間違えを起こさないように、必死で冷静に話した。
「どうしたの?」
「休み中、結衣に会えなくて、寂しくて我慢出来なかった。」
小久保さんも、私と同じ気持ちだったのかぁ。嬉しい!・・・けど、駄目だ。
「結局してるのに、そんな事言わないで。夜出てきて、奥さん何にも言わないの?」
「今、釣りの帰り。それに、俺に感心ないからどこに行こうが、何にも言わん。」
「へぇ~、なんか寂しい結婚生活。」
「まぁ、その内終わるし、ほとんど家居ないから、気にならない。
家庭内別居してるからなぁ。」
奥さんと、別れるのは嬉しいけど、結婚って何かイヤだなぁ。と思った。
今までと、変わりなく友達のように接した。
30分ほど、話すと・・・・
「そろそろ、帰るかぁ。」
と、小久保さんが言った。
奥さんと、家庭内別居とか言いながら無難な時間に帰るのかぁと、少しムッとした。
「何???結衣怒ってる?」
「別に・・・・・」
「今日は、会えて嬉しかった。又、電話するわぁ。」
そして、家へと帰った。
そして、私達の関係を変える大きな出来事があった。
いつものように、仕事を終え小久保さんからの電話を待っていた。
なかなか、鳴らない電話。
待ちきれず、会社まで戻り彼の車を確認すると・・・・・
ない!
帰ってしまった。
おかしい。
いつもなら、必ず電話があるのに。
何?????
嫌な予感・・・・・
モヤモヤしたまま、家に帰った。
気になる。
寂しい。会いたい。
小久保さんの事で、頭がいっぱいで、何も手につかない。
何してるの?
電話したいのに、出来ない悲しさに泣けてきた。
待っても、待ってもならない電話。
明日が、待ち遠しい。
明日、会社で会えるまで、我慢だ。
気持ちを隠しているから、どうして電話くれないの?なんて、聞けない。
さりげなく、聞いてみよう。
ほとんど寝ずに朝を迎えた。
朝、通勤の時にも毎日電話がある。
携帯を目の前に置いて、会社に向かった。
かかって来ない・・・・・・
鳴らないまま、会社に着いた。
彼が、来るのを待った。
来ない・・・・・・
小久保さんは、休みだ。
おかしい?
何かあったの?
気になるが、会社の人には、聞けない。
胸が、締め付けられそう・・・・
ぼ~としたまま、何とか仕事をし、1日を終えた。
帰り、小谷さんに飲みに行かない?と誘われた。
気乗りはしなかったけど、鳴らない携帯を待ってるのに疲れたから、行く事にした。
「結衣と飲みに来るの久しぶりだねぇ。最近、変わった事あった?」
「う~ん・・・特には、ないかなぁ」
「彼は???」
「好きな人は、居るけど微妙で・・・・」
「そうなの???上手くいきそう?」
「どうかなぁ?いつか、付き合いたいと思ってる。」
「へぇ、一番楽しい時だね。」
そうか、両思いと分かって付き合うまでって一番ワクワク、ドキドキして楽しいよなぁ。
なんで、こんなに苦しいの?
小谷さんに、相手を言う事も出来ない。
適当に、友達の紹介で出会った人と嘘をついた。
家に帰っても、知らず知らずに、携帯が気になる。
トイレにも、持っていった。
お願い。鳴って!!!
今までに、味わった事のない苦しさ。
なんで、こんな思いしなくちゃいけないの?
気持ちは、隠さないといけない。
人に言えない。
電話も出来ない。
会いたいとも言えない。
待ってるばかり。
もう、嫌。
何が奥さんと、上手くいってないだ!!!
ふざけるな!中途半端に私に好きなんて言って。
いきなり、電話なくて!!!
このまま、大嫌いになってやる!!!
奥さんと、産まれてくる子供と・・・・
はっ・・・・・・・・・・・・・
体が震えた。
涙が自然と出てくる。
もしかして・・・・産まれた???
だから、連絡ないの?
分かってはいたが、嫉妬でいっぱいになっていく。
土日と、仕事は休み。
小久保さんからは、電話はない。
携帯の前で、ずっと待った・・・
何もしないで、ずっと・・・
日曜日の夜。
ピピピ~・・・・
小久保さんだ!!!
久しぶりに見る。待ちに待った小久保さんからの電話。
「もしもし。」
「もしもし。なかなか、電話出来なくてごめん。ちょっと、会えない?」
「いいよ。」
ドキドキしながら、いつもの公園へ急いだ。
先に、小久保さんが着いていた。
小久保さんの車に乗り込む。
「夜、遅くにごめん。寝てた?」
「ううん、寝てないよ」
「結衣には、言っておきたくて。
子供、産まれた・・・」
「そう。男の子?女の子?」
不機嫌そうな低い声で、聞いた。
「女」
「へぇ・・・・可愛い?」
「わからん・・・サルにしか見えん」
「ふぅ~ん。」
嫉妬で、泣きそうになった。
「俺、別れるから。結衣が、好き」
「好きとか、簡単に言うな!私が、どんな気持ちで・・・」
怒鳴っていた。
ワンワン泣きながら。気持ちを隠すのは、限界だった。
「結衣・・・・」
「何が子供産まれただよ!!!
電話、急にしないで。どんな気持ちで待ってたと思う?
もう、嫌だ!!!
好きなの!!!大好きなの!!!」
「結衣!!!」
と、言うとキツく抱き締めてきた。
小久保さんの温もり・・・ずっと、こうしたかった。抱き締めて欲しかった。
「苦しいの。何とかしてよ。」
「ごめん。結衣。
もう少しだけ、待ってて。すぐに、迎えに行く。」
「うん」
始めて自分の気持ちに正直になってスッキリした。
もう、友達のフリをしなくていいんだ。
しばらく、キツく抱き合っていた。
幸せで、いっぱいだった。
小久保さんが、時計を見る。
ドキッとする。帰るって言われる。
この日から、時計を見る素振りが大嫌いになる。
「さぁ、そろそろ帰るかぁ。」
嫌だ。帰りたくない。奥さんの所、帰ってほしくない。
「イヤ・・・・・・・」
「また、明日電話するから。」
「わかった・・・」
困らせれば、離れていきそうで、我がままは言えない。
この我慢が、私を益々追い詰めて行く事になる・・・・
この日から、両思いとお互い分かってはいるけど、付き合っているような、不倫のような曖昧な関係が始まった。
すべて、小久保さんのペース。
電話も出来ない。
かかって来るまで、ただ待って、会う約束も出来ず、会おうと言われるまで待っている。
辛い日々。
いつか、付き合える日までの我慢だと耐えていた。
2月14日、バレンタイン。
チョコレートを渡したいが、手作りだと重いし、奥さんが何と思うか・・・結局義理チョコっぽい、無難な物を選んだ。
夜、小久保さんから電話があり、近くの公園で会う事になった。
「今日も仕事疲れたなぁ~」
小久保さんが、後部座席に横になる。
「今日、バレンタインだよね。
これ、食べて。」
「お~、嬉しいなぁ。結衣から貰えるなんて、思ってもなかった。」
嬉しそうに、ラッピングを空け中を見た。
7個ほど入ったチョコレート。
「食べてもいい?」
「うん、いいよ。」
1個ずつ、味わって食べている。
見ているだけで、幸せだった。
会っている時は、普通のカップルみたいに思いたかった。
気がつけば、全部食べてしまっていた。
箱は、大事にとって置くよ。と、ダッシュボードの中にしまった。
なんだか、嫌な気分。
持って帰れないから、全部食べて箱まで隠したの?
そんな事を考えてしまう、自分が嫌になる。
小久保さんが、チラッと時計を見る。
ドキッ・・・・・・・・
「そろそろ、行くかぁ。」
まだ、会って30分くらいなのに。
いつも、会社帰りか釣りの帰りに30分~1時間しか、会えなかった。
奥さんに、バレないように言い訳出来る時間に帰るんだろうなぁと思っていた。
「いつも、すぐ帰るね。」
少し、いじけた顔で冗談ぽく言ってみる。
「ごめんよ。今度どっか行こう。結衣行きたい所ある?」
「釣り!!!小久保さんがいつも行ってる所がいい!!」
「よっしっ!今度の日曜日に行こう。」
「うん。」
待ち遠しい。
ものすごく楽しみに、日曜日を待った。
そして、待ちに待った日曜日。
いつもの公園で、待ち合わせ。
朝から、会うなんて始めて・・・
小久保さんの車に乗り、海へ向かう。
目をつぶっても行けれそうなくらい慣れている。
「なんか、朝から結衣とデート。嬉しいな」
「いつも、夜だもんね。」
「ごめん・・・もう少し待って・・・」
「ねぇ…赤ちゃん元気?」
「わからない・・・全然会ってない。」
「えっ?」
「今、実家帰ってる」
そうかぁ、赤ちゃん産んで実家帰ってるんだぁ。
だから、朝から1日一緒に居られるんだ。
複雑・・・・・・
「奥さん、いつ帰ってくるの?」
「さぁ…気が向いたら帰って来るんじゃねぇの?話してないから知らん。」
「へぇ・・・・・」
憂鬱になる前に、この話しは止めよう。
あっという間に海へ到着。
手際よく準備をしている。
本当に毎日来ていんだなぁ。
餌をつけて、海に投げ私に渡す。
釣れたら魚を取って又餌をつけてくれる。
一つ一つの行動が嬉しい。
短時間でしか、会えなかったから今まで知らなかった小久保さんの優しさが、もっと好きになる。
しばらく釣りを楽しんでいると、おじさんが近づいて来た。
「おぅ!今日はどうだ?」
「あんま、良くないよ。」
海でよく会う人らしい。
「あれぇ~、お前彼女いたの?」
「まぁ~ね…」
「いいなぁ、デートかぁ、彼女さんコイツ釣りばっかで、寂しいでしょ?」
どうしよう・・・・・・
「も~おっさん、彼女に話しかけるなよ~」
「はい、はい。邪魔者は消えます!」
おじさんは、少し離れた所で釣りを始めた。
「ねぇ…おじさん、小久保さんが結婚してるって知らないの?」
「あ~、知らないなぁ。聞かれた事ないし、釣りの話ししかしないしな。」
「へぇ・・・・」
「結衣が、彼女になったら自慢しまくるけどなっ。」
そうだよなぁ、まだ、彼女じゃない。
ちょっとした事でも嬉しくて、小さな事でも傷つく。
情緒不安定。
当たり前の事が、当たり前じゃなくなって、感覚が麻痺していく。
夕方まで、釣りを楽しんだ。
「そろそろ行く?飯でも食いに行くか?」
「うん。」
1日遊んで、夜ご飯まで一緒。普通のカップルみたい。
「何食べたい?この近くに魚がウマい店あるけど。」
「うん、そこがいい。」
車で5分で、着いた。
小さなお店だけど、おしゃれで常連さんばかりな感じだ。
「こんばんはぁ~。」
「おぅ!いらっしゃい。
何だ???彼女かっ?????」
「まぁ~な。可愛いだろ?」
「何だか不釣り合いだなぁ?彼女さん、コイツのどこがいいの?おじさんの方が、カッコいいぞ!」
笑ってごまかした。
「結衣、何食べたい?」
「小久保さんのオススメでっ。」
「じゃぁ、適当に頼むわぁ。」
ズラリと美味しそうな料理が並ぶ。
私達は、いつも車の中で会ってばかりだから相手が何が好きかとか、何も知らない。
又、憂鬱になりそう・・・
美味しい料理を沢山食べて、嫌な事は考えないようにした。
食事も終わり店を出て、いつもの公園まで、帰った。
もう、帰るよなぁ・・・離れたくないなぁ・・・
「結衣、もう少し一緒にいられる?」
「うん、今日は遅くまで大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。しばらくは、沢山会えると思う。」
「本当に?」
「休みの日とか、行きたい所ある?」
「映画観たり、水族館行ったり、普通のデートしたい。」
「わかった。今度の休みは、映画でも行くか?」
「やったぁ~!」
嬉しい。普通のデート。
けど、奥さんが帰って来るまで限定。
複雑だ。今を楽しもう。
自分の気持ちに嘘ばかりついていた。
お互いの気持ちが分かり頻繁に会うようになってから、半年ほどが過ぎた。
相変わらず、会社帰りに会って車の中で、話しをしている。
付き合っている訳でもなく、友達でもない。
奥さんと別れると聞いてから、半年以上過ぎているのに、まだ・・・・・
信じて待っているけど、いつになるんだろう?
彼女でもないのにいつ別れる?なんて、聞けないでいた。
ただ、待つだけの日々が辛くなってきた。
その頃、会社では中途採用で女子社員が、2人入って来た。
それと同時に、会社内で大きな移動があった。
私と小谷さんは、サービスから営業へ移動になる。
お店の受付になった。
これから、小久保さんと引き取りに出られない・・・・・
寂しいなぁ・・・・・・・・
新入社員の1人は、サービスになった。
私より2歳年上で、上原早紀。
元ヤンな感じで、派手な化粧。姉御キャラ。
私は、苦手な感じ・・・・・・
給湯室で、コーヒーを飲んでいると上原さんが入って来た。
「私も、コーヒー飲んでいい?」
タメ口だぁ~!!!
「うん、いいよ。」
「この会社どう?なんかさぁ、偉そうな上司とかいるよねぇ。」
「まぁねぇ、あんまり関わらなければ大丈夫だよ。」
上原さんの迫力に圧倒されながら少し話していると、小久保さんが入って来た。
「おっ、俺もコーヒーちょうだい!」
「いいよっ、入れてあげるわぁ。」
上原さんが、コーヒーを入れる。
私が、入れたかったのに・・・・
3人で、コーヒーを飲む。
小久保さんと上原さんは、楽しげに話している。
小久保さんも、元ヤン?な感じなので話しが合うのかなぁ・・・・
「あっ、そう言えば後で引き取りあるよ。多分俺と。」
「マジ?宜しく!」
小久保さんと上原さん、引き取り行くんだぁ。
今までは、私だったのに・・・・
2人を見てると、理由はないけどモヤモヤする。
会社の帰り、小久保さんから電話がきて、川沿いの駐車場へ待ち合わせをした。
「お疲れ~、受付はどう?」
「退屈だよ。外には、出れないし。
そう言えば、上原さんの引き取りどうだった?」
何気なく聞いてみたけど、本当はすごく気になってた。
「べつにぃ~、普通だった。」
「ふぅ~ん・・・なんかさぁ、上原さんってちょっと・・・馴れ馴れしいよね。」
「そう?気にならないけど。」
あ~最悪だぁ~!
なんで、悪口言ったんだろう。嫉妬だ。
バカみたい。
「奥さんどう?帰ってきた?」
「まだ・・・まぁ、別れるつもりだから、このまま帰って来ないかもなぁ。」
じゃぁ、別れ話し早く進めればいいのに。
お互いに別れたいなら、何をモタモタしているんだろう?
焦る。
「そっかぁ、私は、待ってればいいんだよね?」
「うん、もう少しだけ待って。」
もっと急かしたい。
言いたい。
早く別れて。
焦る気持ちが、爆発しそうだったから早々奥さんの話しは切り上げた。
支店は、受付と営業さんしか居ない。
営業さんが、営業に出てしまえば私だけで店番をする。
暇だった・・・・・
暇だと、考えたくていい事ばかり考えて憂鬱になる。
お昼。コンビニで買ってきたお弁当を食べながら雑誌を読んでいた。
ピンポーン
お客さん??
店にお客さんが来店するのは珍しい。
見に行くと、
小久保さん。
「どうしたの?」
「結衣、寂しがってないかな、と思って遊びに来た。」
「お昼ご飯は?」
「いらない。焦って来たから買う
暇もなかったし。」
「じゃぁ、私の半分あげる」
上原さんへの嫉妬も忘れるくらい嬉しくて2人でお弁当を食べた。
幸せ。
「今度、結衣の手作り弁当食べたいなぁ。?」
「いいよ。来週は、本店だから作って行くよ。」
「やったぁ~!」
子供のように無邪気な笑顔で喜ぶ小久保さん。
可愛い!
時間は、あっという間に過ぎ小久保さんは本店に帰って行った。
夕方になると営業さんが帰ってくる。
私も本店に帰り、小原さんの仕事を手伝う。
支店にいると、寂しい。
1人で、事務仕事をコツコツやるだけ。
上司は、暇でも店が開いている事が重要らしい。
絶対、私が居ることは、無駄だと思っていた。
今日は、本店の日。
約束のお弁当を作って会社へ出勤した。
お昼休みに川沿いの駐車場で、待ち合わせをしていた。
楽しみで、朝からワクワク、ドキドキする。
少しコーヒーでも飲んで落ち着こうと給湯室に入ると・・・・
あっ・・・・・・・・・・・・
小久保さんと上原さんが、2人で話しなが、コーヒーを飲んでいた。
クラクラする。
目の前が、真っ白・・・・・・
どうして?????
私が、2人の仲を心配してるの知っているのに、わざわざ2人でコーヒー飲んでるの?
怒りが爆発しそう!
冷静を装いロッカールームまで急いだ。
入った瞬間に泣けてきた。
どうして???
我慢してる事、言いたくても言えない事沢山あるのに!!!
これ以上、不安にさせないでよ!!!
もう嫌だ!!!!!
思いっきり泣いて、何事もなかったように店に戻った。
お昼休み。
川沿いの駐車場へ行く。
先に小久保さんがいた。
車に乗りお弁当を食べる。
「ウマいなぁ!!!
朝から作るの大変じゃなかった?」
「頑張ったよ。」
心は。ボロボロなのに笑顔で話す。
小久保さんは、追い詰めると面倒になり逃げる人。
我慢しないと。
こんなに、自分の気持ちに嘘をつくのは、始めて。
我慢・・・・言いたい・・・・我慢・・・言いたい・・・我慢出来ない!!!
「ねぇ・・・・最近、上原さんと仲いいよね。前にちょっと心配って言ったよね・・・」
ものすごく優しく言ってみた。
「さぁ~、そんな事ないよ。」
やっぱり、面倒そうな態度。
イラッとする。
「すごい一緒に話してる所見るんだけどさぁ・・・」
「はぁ・・・・
話しかけてくる。無視できん。」
ダルそうに言う。
なんで、心配ないよって言ってくれないの?
不安にさせる態度とるの?
「あんまり、仲良しだと不安」
「だからさぁ、関係ないって!」
少し怒る。
「奥さんの事で、我慢してるの。
これ以上の嫉妬は、耐えられない。」
「だから~!!!俺は、知らん!」
知らない?って何だ???
もっと、気の利いた返事は出来ないのか?
「私達って、付き合ってないよね?」
「あぁ・・・・・・」
やっぱり付き合ってないよね。
「だから、ちょっとした事でも不安になるの。
逆に、私に好きな人出来たらどうする?」
「わからん・・・・何も言えない・・・」
どん底に突き落とされた。
全く仕事に集中出来ない。
頭の中は、小久保さんと上原さんの仲良く話す姿ばかり。
本当は、何もないかもしれない。
けど、奥さんへの嫉妬が、上原さんに向いてしまっている。
待っているだけで、付き合ってもいない。
どうやって愛されていると、信じればいいの?
不安になっても、面倒な顔される。
ただ、大丈夫だよって言って欲しいのに・・・・
私って何?
涙が溢れてきた。
急いでトイレに駆け込む。
鏡で、自分を見ると顔色が悪く、輝いていない。恋愛している女のオーラではない。
ゾッとした。
なんとか仕事を終え、川沿いの駐車場で、小久保さんを待った。
今日は、気持ちを伝えよう。
もう、限界だ。
最近の私おかしい。
奥さんの事も、上原さんの事もハッキリ聞いてみよう。
なかなか、電話が鳴らない。
おかしい・・・そろそろ仕事終わってもいい時間。
ピピピ~
小久保さんからだ。
「もしもし、駐車場で、待ってるよ。」
「ごめん、今日行けない。」
「えっ、どうして?」
「サービスだけで、飲み会。上原さんの歓迎会まだやってなくて、今日やるだってさぁ」
「そうなの?どうしても聞いてほしい話しあるのに・・・・」
これ以上、我慢出来ない。
半年以上、言いたい事も聞きたい事も、グッと我慢してきた。
「終わったら会えない?」
「わかった。終わったら電話する。」
「待ってる・・・」
苦しい・・・・・・・
しばらく駐車場で、ぼ~としていた。
ピピピ~
あっ、綾さんから・・・・
「もしもし、久しぶり。今日何してる?」
クラブで、会ってから話していなかった。
小久保さんの事を秘密にしているから、綾さんに嘘をつきたくなくて、距離を置いていた。
「夜、約束あるんだけど・・・それまでなら大丈夫。」
「じゃぁ、後で家行くね。」
急いで自宅まで帰った。
どうしよう・・・・
小久保さんの事話したら怒られるよなぁ。
綾さんが、来た。
部屋に入りコーヒーを飲みながら話した。
「結衣、最近どう?」
「うん、あんまり良くないかなぁ。」
「なんか、痩せた?ちゃんと食べてる?」
「うん・・・」
「あの日から、結衣が気になってたんだけど、言い辛い話しありそうでね・・・」
綾さんは、何でもお見通しだ。
「別に、そんな事ないよ・・・」
「そう?なら良かった。」
綾さんは、笑顔で話しを続けた。
「宝来のシュンくん、覚えてる?」
宝来は、綾さんと良く行くラーメン屋の店長。すごくカッコ良くて、店長狙いで女の子達が、ラーメンを食べに行く。
私達も、シュンくんを見て癒された。
カッコイイだけじゃなく、男らしくて優しい。
「もちろん、覚えてるよ。」
「久しぶりに食べに行ったらさぁ、結衣が最近来ないって、寂しがってたよ。」
「えっ?」
「結衣、彼氏いるかも聞かれて。今度、一緒に行こうよ。」
「うん・・・」
シュンくんが???
小久保さんの事がなかったら、凄く喜んだよなぁ。
しばらくシュンくんの話しで盛り上がっていた。
ピピピ~
小久保さんからだ。
綾さんに怪しまれないように、部屋の外へ出た。
「もしもし」
「もしもし、ごめん、今日帰るわぁ」
「えっ。どうしたの?」
「歓迎会疲れたから寝る。」
はっ???疲れたから寝るぅ???
「どうしても話ししたかったのに・・・」
「無理、寝たい。」
何?
怒りで手が震えるが、なんとか冷静に話す。
「約束守れないのに、もう少し言い方あるんじゃない?だから・・・」
「だから?何???」
「上原さんの事も、もう少し違う言い方してくれたら、不安にならないのに・・・」
「又、上原の事?ウザッ!!!」
「何、その言い方!!!上原の事だって言いたい事我慢してるんだよ!!!
ウザいほど、言ってない!!!」
怒りで、泣きながら怒鳴っていた。
綾さんが、ビックリして部屋から出てきた。
バレてもいい。
この怒り収まらない!!!
しばらく、何も話せず泣いていた。
「結衣・・・さっきの電話・・・」
「・・・・・この前話した人・・・」
「付き合ってるの?」
「付き合ってない。」
「じゃぁ?????????」
「不倫はしたくないから、付き合ってない。何もしてない。キスも・・・・・・」
「うん???ごめん・・・ちょっと分からない。相手は、結衣をどう思ってるか知ってる?」
「・・・・・うん・・・・・・好きって言ってくれた。」
泣きながら、何とか話した。
「えっ?・・・・・・・・・・」
「奥さんと別れるまで、待ってて・・・ほしいっ・・・・て・・・・」
「はぁ?何それ???」
「私から、会いたいとも言えないし、電話も出来ない。
このハッキリしない関係が、辛くて。
会社でも、他に仲良くしてる女の子がいて・・・・昔の私達を思い・・・・出しちゃって・・・辛くて。
やっぱり、付き合ってないのに、待つのは苦しい・・・」
「結衣・・・・・・苦しいね。こんな事になってるなんて。
付き合って、不倫してるかと・・・・・」
「もう・・・・終わったよ。」
「さっきの電話?」
「会いたい言うなら、もう会わないって。・・・・・あの人・・・・私を・・・好きじゃないとわかったから、私も忘れる。もう、待たない。」
綾さんと朝まで、今まであった事などを話した。
始めて自分の気持ちを聞いてもらって、少しスッキリした。
それから、しばらくして綾さんから電話があった。
宝来にラーメン食べに行こうと誘われた。
小久保さんの事を忘れていないから少し戸惑った。
けど、このままではいけないと言い聞かせ宝来へ行く事にした。
「いらっしゃい。結衣ちゃん久しぶり~。」
やっぱり、シュンくんはカッコいい。
綾さんと、カウンター席に座る。
シュンくんは、他のカウンター席の女の子達と料理をしながら話している。
モテるなぁ~・・・・・
「結衣、あれからどう?大丈夫?」
「この前は、ありがとう。お陰でなんとか生きてる。泣く日も少なくなってきたよ。」
「よかった。早く幸せにならないとね。」
「お待たせ~。」
シュンくんがラーメンを持ってきた。
「シュンくん、ちゃんと結衣連れてきたよ。」
綾さんが、ニヤニヤしながら話す。
「おぅ。ありがとう。結衣ちゃん最近来ないから気になってたんだ。」
「いろいろあってね。来る余裕がなかったんだ~。」
「これからは、来いよ~。」
「はい、はい。売り上げに貢献しますよ。」
シュンくんは、忙しそうにしていた。
「結衣。なんだかシュンくん忙しそうだね。せっかく来たのに。」
「シュンくん、常連の私が急に来なくなったから、心配してくれたんだね。」
「そうかなぁ~・・・この前は、そんな感じじゃなかったけど・・・」
「綾さんの勘違いだよ。シュンくん優しいからねっ。
帰ろっ。」
お会計をして、シュンくんを見るとお客さんと話していたので、そのまま店を出た。
綾さんは、不満そうに車に乗った。
私も乗ろうとした時、
「結衣ちゃん」
振り返ると、
シュンくん・・・・・・・・・
「ちょっといい?」
「えっ?いいけど・・・・」
綾さんに車で少し待っていてもらった。
「急にお店に来なくなったから、気になってた。
寂しかったんだ。
よかったら、携帯番号教えてくれないかなぁ?」
「いいけど、お客さんによく聞くの~?」
冗談ぽく聞いた。
「結衣が、始めて。」
「そうなの???私って凄いねぇ。」
「本気だよ。」
ドキッとした。
「今度、会ってくれる?」
「私、いろいろあって・・・・・」
「結衣、痩せたけど、今辛いの?」
「今、立ち直ってる最中。」
「じゃぁ、俺、立ち直るの協力するわ。」
「ありがとう、なかなか難しいよ~。」
「又、連絡する。今日は、ありがとう。」
シュンくんは、走って店に戻って行った。
車に戻ると、綾さんが満足そうに、
「やっぱりねぇ~、前から結衣に気があると思ってた。」
「いつから?」
「ずっと前からだよ、2年くらい前かなぁ。」
「それはないよぉ。まだ、分からないし・・・」
「そう?結衣は、鈍感だからねっ。」
「綾さん、私、男の人信用出来ないから・・・・」
「焦らないで、ゆっくり行こうね。」
「うん。」
シュンくんの気持ちは、イマイチよく分からないけど、気分は良かった。
このまま素直にシュンくんの気持ちに答えていれば、これ以上苦しまなくてよかったのに・・・・
小久保さんから電話がなくなってから1ヶ月ほど過ぎた。
今日は、サービスが妙に忙しそうにしていた。
受付に座り事務仕事をしていると、
工場長が走って来た。
「ごめん、澤田さん。
今日サービスすごい忙しくて、引き取り出る人がいないんだ。
行ってくれないかなぁ?」
「はい、わかりました。」
出掛ける支度をし、工場へ向かっていった。
「じゃぁ、行ってくるわ、誰が一緒に行くの?」
えっ?
まさか、小久保さんと・・・・・
「澤田さんと行って。」
やっぱりそうだ。どうしよう・・・・・・
「じゃぁ、行くかっ。」
小久保さんは、動揺する様子もなく私に声を掛けるとスタスタと歩いていく。
小走りに追いかけ、車に乗った。
気まずい・・・・・・・・・
チラッと小久保さんを見ると平気な感じで運転している。
小久保さん、平気なんだぁ。
あれから、私の事すっかり忘れて生活してたんだろうなぁ。
奥さん、帰って来たのかなぁ。
はぁ・・・・・・・・・・・
ロッカーで、少し休んでいると、
ピピピ~
シュンくんからだ。
「もしもし。」
「ごめん、仕事中だよね?」
「うん、でも今サボってる所。」
「あ~、見つかったら怒られるぞ。」
「じゃぁ、電話切らなくちゃ。」
「おい!ちょっと待って。今日、夜予定ある?」
「別に・・・・・・」
「ご飯でも、食べに行かない?」
「うん・・・・」
「仕事終わったら連絡して。」
行くと言ってしまったけど、体が重い。
どうしよう・・・
戸惑いながら、仕事に戻った。
ゴミ箱を見ると、ゴミがいっぱいでこぼれそうだった。
気晴らしに、焼却炉まで捨てに行ってこよう。
トボトボ外を歩いて、焼却炉まで行った。
前を見ると、
小久保さんが、休憩で焼却炉の前でタバコを吸っていた。
小久保さんは、私に気づくとすぐ火を消した。
私は、ゆっくり焼却炉へ歩いて行くと、無言ですれ違った。
苦しい。
「ねえ・・・・・・・・」
無意識に言葉が出てしまった。
「うん?」
小久保さんが、振り向いていた。
「・・・・・・・・・・・」
「何?」
何を言ったらいいんだろう?
言いたい事は、山のようにあった。
けど、言葉にならない。
「ごめん、何でもない。」
小久保さんは、そのまま工場の方へ行ってしまった。
冷たすぎる。
また、涙が出てきてしまった。
1日、何回泣くんだろう。
どうして、忘れられないの?
今まで、彼氏と別れても、振られてもこんなに辛くはなかった。
ご飯は、食べれたし仕事中に泣く事なんてなかった。
きっと、あの日、小久保さんに自分の本当の気持ちを言いたかった。
けど、会ってもらえず、終わってしまった。
あの日から、時が止まってしまっている。
今の状況が、まだ、信じられない。
夢に思える。
小久保さん、助けて。
長い1日も、やっと終わり帰りにいつも小久保さんと待ち合わせしていた、公園の駐車場へ行ってみた。
1ヶ月ぶりだ。
1人で、来るのは始めて。
暗くて、誰もいない。結構怖・・・・
小久保さんと2人だと、怖くなかったのになぁ。
また、涙が出てきた。
早く前に進みたいよ。
はっ!!!
シュンくんとの約束。
時計を見ると、もう20時になっていた。
急いで電話をする。
「もしもし、ごめんね。遅くなって。」
「お疲れ~、遅くまで大変だったね。
疲れてない?会うのまたにしようか?」
優しい・・・
どうして、そんなに優しいの?
小久保さんには、人としても見てもらえないくらい、冷たくされてるのに。
涙が止まらない。
「どうした?大丈夫?」
「うん、今からでも大丈夫だよ。」
「家まで、迎えに行くよ。」
家までの道順を教えた。
独身の、人は家まで来てくれるんだぁ。
小久保さんとの事で、感覚が麻痺してる。
急いで帰り、服を着替えてシュンくんを待った。
シュンくんから、着いたと電話があった。
外へ出ると、黒い大きな車が止まっていた。
小久保さんの車に少し似てる。
また、思い出しちゃった。
助手席の、ドアを開けると、
シュンくんだ。
「乗って~。」
「おじゃまします。」
シュンくんが、車を走らせた。
「何食べたい?」
う~ん・・・・・・・・
何も食べたくない。
最近は、食欲もなく、食べ物を見ると吐き気がする時もあった。
「あまり食べれないかも。」
「じゃぁ、俺がよく行く店でいい?
つまみが多いけど、美味いんだぁ。」
20分くらい走るとお店に着いた。
不意陰気のいい、静かな感じのお店。
「シュン、いらっしゃい。」
店のオーナーは、シュンくんの友達。
ナオヤくん。
最近、彼女に振られたらしい。
「結衣ちゃん、何飲む?」
「お茶で。」
「お茶で、いいの?」
「うん。」
食べ物は、オーナーの今日のオススメにしてもらった。
料理が出てくるまで、話しをして待っていた。
すると、カップルが入って来た。
よく見ると、女の人は妊娠している。
「あっ、シュンくんだぁ。」
「お~、久しぶりだなぁ。
お腹、大きくなってきたな。」
「一緒に座ってもいい?」
えっ・・・・知らない人と話す気分じゃないのに。
「駄目だよ。デート中。」
「いいでしょ、ねっ?彼女さん?」
「うん・・・・・・」
嫌だ!なんて、言えないよ。
女の人は、かなり強引に座って来た。
男の人は、後に続く感じで座った。
シュンくんが、私を見てごめん、の合図を送った。
2人は、宝来のお客さんらしい。
だから、シュンくんあまり強く言えないんだ。
私達の料理と、2人が頼んだ料理が運ばれた。
けっこうな量が並んでいる。
料理の匂いが、プンプンした。
気持ち悪くなりそう・・・・
「彼女さん、名前聞いていい?」
「あっ、結衣です。」
「私は、陽子。旦那のヨシ。宜しくねぇ。」
「結衣ちゃんも、よく宝来行くの?」
「はい。」
「シュンくんとは、宝来で?」
「えっ・・・・・」
「質問ばっかだ。俺達付き合ってないし。」
「そうなの?」
しばらく、あれこれ質問された。
見かねたシュンくんが、2人の話しに話題をかえてくれた。
「2人、仲良くなって良かったよ。」
「そう、私達さぁ離婚するつもりだったのよねぇ。」
えっ???
この話題やだなぁ・・・・・・・
陽子さんは、話しを続けた。
「結婚してから、毎日喧嘩でさぁ。
部屋の物どれだけ壊したかぁ、ねっ?ヨシの」
「スゴかったね。」
「本当に憎たらしくて仕方なかったわ。
離婚の話しが出た時に、妊娠がわかって・・・・
私、切迫流産で入院した時に、不安で毎日泣いてる私をヨシが支えてくれて。
やっぱり、この人と一緒にいたいと、思って。」
聞きたくない。
胸が、苦しく、辛い。
陽子さんは、まだ、話しを続けた。
「やっぱり、夫婦はそう簡単には壊れないよねっ。
毎日、ご飯作って、彼のパンツまで洗って・・・・・・。」
「おい、おい、ノロケ過ぎだぞ~。」
小久保さんも同じだったの?
私の知らない世界があった。
毎日、奥さんの料理を食べて洗濯してもらって・・・・・・
私を待たせている間に、愛が復活したの?
もう、小久保さんの事で頭がいっぱいになった。
何も聞こえない。
涙が、溢れてくる。
ゆっくり立ち上がり、フラフラしながら外へ出た。
小久保さんが、欲しい。
小久保さんが、欲しい・・・・・
奥さんへの嫉妬で、おかしくなりそう。
待ってたのに。
ずっと、待ってた!!!
もう、帰りたい。
戻って夫婦のノロケ話しなんか聞きたくない。
小久保さんに会いたい。
「結衣ちゃん、どうした?」
シュンくんが、お店から出てきた。
「ごめん、調子悪くて・・・疲れたのかなぁ?」
「じゃぁ、帰ろう。車で待ってて。」
さっきの話しが、頭の中をグルグル回る。
避けてきた小久保さんの家庭の想像をしてしまう。
家も知らないのに・・・・・
「お待たせ、大丈夫?
無理させちゃって、ごめん。」
「ううん、私が悪い・・・・・」
しばらく無言のまま、家に向かった。
「・・・・何か、悩んでたら言ってな。
聞くだけしか出来ないかもしれないけど・・・」
「ありがとう。」
もの凄く、モヤモヤしたまま家に帰った。
次の日、寝不足のまま会社へ行った。
今日は、支店へ行く日。
小久保さんを見るのも辛いから、丁度いい。
相変わらず暇だ。
お客様に出すDMを作っていた。
考え事をしても、出来る簡単な仕事。
小久保さんとの半年間の生活を思い出していた。
言葉、行動、見つめる目を思い出すと、間違えなく愛されていた。
なのに、急になぜ冷たくなったの?
あ~、駄目だぁ~。
気晴らしに、体を動かそうと外の新車の洗車でもしよう。
季節は、秋。
少し水は冷たいけど、気持ちがいい。
新車は、全部で6台ある。
全部、洗えば夕方になりそう。
頑張ろっ!
夢中で、洗っていると新車を載せた積載車が入って来た。
展示用の車だ。
また、1台洗車する車が増えてしまった。
「展示用の車、持って来たよ。」
えっ?・・・・・・・・・・・
小久保さんの声。
後ろを振り返ると、小久保さんが立っていた。
「はい。」
私は、返事だけして洗車を続けた。
すると、積載車で持ってきた新車を小久保さんが洗い始めた。
「あの・・・・いいよ。私洗うから。
本店忙しくないの?戻って。」
「いい。暇だから。」
そう言うと、目も合わせず洗車を始めた。
全く会話はないけど、同じ場所に2人で居られる事が、嬉しかった。
小久保さんは、洗車も早い。
早いのに、とても上手で車はピカピカになる。
あっという間に、1台洗った。
もっと、一緒に居たいのに。もう、帰ってしまう。
「他のも、洗ってくわぁ。」
「いいよ。私、洗うから。早く本店帰って。」
「手伝うわぁ。」
そう言うと、次の車を洗い始めた。
目も見てくれないけど、嫌われてないような気がして、嬉しかった。
なにも話さず、黙々と2人で洗車をした。
展開してある車がピカピカになった。
「ありがとう。本店の仕事大丈夫?」
「あ~、大丈夫。帰るわぁ。」
待って。待ってよ~。
「どうして?手伝ってくれたの?
私の事嫌いでしょ?」
思わず聞いてしまった。
また、冷たくされる・・・・・・
怖い。
「太陽の日差し、苦手だろ?」
積載車に乗り込みながら、言った。
そのまま、店を出て行ってしまった。
私が、日差しが苦手って覚えていたんだ。
日差しを長時間浴びていると、体が痒くなってブツブツが出来る。
夏でも、長袖を着たりカーディガンを羽織っていた。
だから・・・・・・・・・・・
ありがとう。
ドキドキが、止まらない。
久しぶりの優しい言葉。嬉しい。
夢のような1日だった。
ぼゃ~としていると、営業さんが外周りから、帰って来た。
「澤田さん、ごめん。今からお客さんの所に納車があって。
迎えに来てくれないかな?」
今からかぁ・・・・・
本店戻れるの、20時過ぎる。
小久保さんに、今日のお礼言いたかったのに。帰っちゃうなぁ・・・・・・
しぶしぶ、迎えに行った。
やはり、帰って来たのは20時前。
ゆっくり、本店へ帰った。
時間を見ると、もうすぐ20時30分になる所。
駐車場に車を置き、お店に歩いて行くと工場にまだ灯りがついていた。
あれ?まだ、誰か仕事してるんだ。
工場の前を歩いていると、工場長とすれ違った。
「結衣ちゃん、今日は、遅かったね。」
「サービスの人も、残業ですか?」
「小久保の担当の車がなぁ。
原因不明の異音で、調べてて。まだ、原因がなぁ。」
「そうなんですか?」
「昨日から、小久保、頭悩ませてる。
神経質なお客さんで、ちょっとの音でもクレームが来るんだ。
小久保も、ピリピリしてるわぁ・・・」
そんな時に、私の洗車を手伝ってくれたの?
胸が、キュンとした。
急いで、1日の報告書を書き仕事を終わらせた。
「お疲れ様。」
あっ、気がつかない・・・・・・
しばらく、小久保さんを見つめていた。
気配を感じたのか、私に気がついた。
「あっ、ビックリした~。」
「ごめん。お疲れ様。」
「・・・・遅いねぇ・・・残業してた?」
「うん・・・小久保さんこそ、洗車なんてしてる場合じゃなかったんじゃない?」
「別に・・・・気晴らしだよ。」
「ありがとう。忙しかったのにごめんね。」
イソイソと立ち去ろうとすると、
「結衣!!!」
振り向くと、小久保さんが私を見つめていた。
久しぶりに、小久保さんが私を見てる。
ドキドキ・・・・・・・・・・・
「遅いから、気をつけて。」
「うん。小久保さんも無理しないでね。」
「うん。」
工場を出て、駐車場へ歩く。
涙が、溢れてきた。
大好き・・・・・・・・・・・
今日の小久保さん、いつもと違う。
少し、人として見てくれた気がする。
次の日も、ドキドキしていた。
支店の仕事を終え、本店に戻ると、
サービスの事務所で、小久保さんと次長が話していた。
まだ、異音の原因が解らないらしい。
お客さんが、車に乗っている時に後ろからギシギシ音が聞こえくるらしいが、整備士の誰が乗っても確認出来ないらしい。
小久保さんは、疲れきった顔をしている。
心配・・・・・
でも、私には何も出来ない。
癒やしてあげられるのは、奥さんしかいない。
給湯室で、コーヒーカップを洗っていると、小久保さんが入って来た。
「コーヒー飲ませて~。」
アツアツのコーヒーを入れてあげた。
「仕事、大丈夫?」
「あ~、困ってる。お客さんの言ってる音が解らなくてさぁ。」
「小久保さんでも、解らない事あるんだぁ。」
「いっぱいあるよ!」
「そうかぁ、大変だね・・・・」
「コーヒー飲んだら、元気出た。戻るわ。」
「・・・無理しないでね。」
「おぅ。」
そう言うと、部屋から出て行った。
大好き・・・・・・・
奥さんと別れるのを待っていた頃より好き。
小久保さんしか見えない。
いつものように、車を止め思い出を振り返る。
周りには、大きな木が沢山ある。
誰も居なくて暗い。
ポツリとある少ない電灯。
何回も来ていると、怖くなくなりこの暗さと静けさが、妙に落ち着く。
こんな気持ちでなければ、長くは居られない場所だろうな。
しばらく、景色を眺めていると
一台の車が入って来た。
めったに車は来ないのに、珍しい。
少し怖くなり車のエンジンをかけた。
見ると入ってきた車が、こっちへ近づいてきた。
早く行こ。
と思いバックミラーを見ると
あれっ??????
暗くて良く見えないけど、ヘッドライトが外車っぽい。
うん?????????
どんどん近づいて来て、隣に止まった。
あれ?????????
黒色?大きな車???????
あっ・・・・・・・・・・・
小久保さんの車???
まさか、こんな所に来る訳ないよね。
よぉ~く、運転席を見てみると、小久保さんさしき人が・・・・・・・・・
ヤバい!!!!
なぜか、すごく見られてはいけない物を見られてしまった気分。
どうしよう。
頭が、パニックだった。
このまま帰ろうか?
降りて確認しようか?
電話してみようか?
どうしよう・・・・・
考えている内に
ドン!!!
見ると小久保さんが降りてきた。
やっぱり小久保さんだ。
下を向いていると
コンコン。
小久保さんが、助手席のドア側に立っていた。
窓を開けると
「何してるの?女の子が危ないぞ。」
「ちょっと・・・・休憩。」
「休憩???家近くなのに?
危ない!!!駄目だよ!!!」
「そう?そんな危なくないよ。」
・・・・・・・・・・・・・
「小久保さんこそ、どうしたの?」
「・・・・・・・散歩しようかと」
「散歩???????」
「参ったなぁ・・・・ここで会うなんて・・・・」
どうしよう・・・・
このまま帰ったら一生後悔しそう。
もう、こんな偶然ない。
今なら、小久保さん普通に話してくれてる。
「ちょっと、乗って・・・・」
勇気を出して言った。
小久保さんが、助手席に乗ってくれた。
・・・・・・・・・・・・
しばらく、沈黙が続いた。
「・・・散歩・・・・するの?」
「あっ・・・・しない・・・」
じゃぁ、なぜ・・・・・
はぁ・・・・・・・・・
小久保さんが、ため息をついた。
「本当、凄い偶然だよな。こんな所で
・・・」
「私・・・小久保さんが、忘れられなくて辛くて。
ここに来ると、少し落ち着くから・・・」
「俺も・・・・・・・」
「えっ?私の事嫌いでしょ?」
「嫌いじゃないよ。」
「じゃぁ、どうしてあんなに冷たくするの?どれだけ、辛かったかわかる?」
「ごめん・・・・・」
・・・・・・・・・・・・
「ねぇ、どうしてあの日会ってくれなかったの?
あの日から、時間が止まってるの。
すごく・・・辛かった・・・・・・」
泣いて上手く話せなくなった。
「どうしても言わなきゃ駄目か?」
「気になる。
急に冷たくなって・・・会わないって言われて・・・・・話してもくれなくて・・・・・」
「ごめん・・・・・・・」
「どう・・・・して?」
「結衣と喧嘩した少し前に、アイツから電話あった。」
「アイツ???
・・・・・・奥さん????」
はぁ・・・・・・・・
「話しがあるから、歓迎会終わったらすぐ帰って来いって。
・・・・どんな話しか予想がついた・・・・
結衣を巻き込めない・・・・・」
「奥さん、どんな・・・話しだったの?」
「別れない・・・って・・・」
体が震えた。
泣き崩れ、息が出来ない。
諦めなくてはいけないと、分かってた。
言葉にされてない分、どこかで期待してた。
もう、待っても意味がない。
小久保さんとは、一生、結ばれない。
こんなに、好きなのに。
現実が、一気にのしかかって来た。
苦しい・・・・・・・・
「別れないから・・・・私に・・・冷たくしたの?」
「・・・・別れる・・・・けど、時間がかかる。
結衣を待たせられない。」
「そんな・・・・・・・・・」
「冷たくしたのは・・・
結衣に嫌われたかった。ハッキリ出来ないのに、会ったり出来ないし、俺も結衣を忘れないと会いたくてたまらなくなる。」
・・・・・・・・・・・・・
「でも・・・どんなに努力しても、忘れられない。
結衣が、心配だし気になって気になって仕方ない。」
涙が、止まらない・・・・・・
「支店に来てくれた時・・・・・」
「あの時は、仕事で行き詰まってて・・・結衣に会いたくて、自分で支店に新車運ぶって名乗り出た。
・・・・すげぇ・・・癒された・・・
洗車する時は、帽子かぶれよ。」
「心配して・・・手伝って・・・」
「忘れないといけねぇのに、全然ダメで。
会いたくて、会いたくて・・・・気づいたらここに、来てた。」
「・・・・もう・・・・・忘れないといけない・・・・・よね?」
「もっと、早く出会いたかった。」
「そんな・・・・・・事言わないでよ!」
悲しい・・・・・・・・・・
「もう、待っててもらう事出来ないから・・・・いつ別れられるか・・・」
「だったら・・・始めから好きなんて言わないでよ!
こんな、思い出の場所に来ないで!!
どんな気持ちで待ってたと思う?
電話も出来ないし、会いたいとも言えない!いつ、別れるかも、聞けない!
辛かった。本当に辛かった。
わかる???
小久保さんにわかる???」
怒鳴っていた。
小久保さんが私を抱き寄せる。
「ごめん。
大好きなんだ。結衣。
これからも、ずっと思ってる。」
「もう、冷たくしないで。普通でいてよ。」
「結衣・・・・・・わかった。」
しばらく、抱き合っていた。
離れなくない。
けど、今離れないと帰りたくないとワガママを言ってしまいそう。
「そろそろ帰らないと・・・」
「そうだな。結衣・・・いろいろごめん。辛い思いさせて・・・」
「辛いのは、これからだよ。
だから、気が変わらない内に早く降りて。
別れて私と付き合ってって、愚図る前に。」
小久保さんは、車を降りようとドアを開けたが・・・・・・・
もう一度、私を抱き寄せキスをした。
小久保さんとの初めてのキス。
こんな最後に・・・・・・
「結衣・・・・ずっと好きだから。」
そう言うと、車を降りて行った。
次の日。
なんとか、仕事に行く。
今日も、支店の仕事だった。会いたいような会いたくないような微妙な気分。
会ったら、どうしたらいいんだろう?
今までみたいに、冷たくされたら怖いし。
もう、完全に終わった私の恋なのに小久保さんの事ばかり考えちゃう。
小久保さんが、奥さんと別れない限りどうにもならない。
支店の仕事を終え、本店に帰った。
駐車場から工場を通りショールームまで行く。
一通り探したけど、小久保さんの姿は見当たらない。
ホッとしたような、ガッカリしたような、よくわからない・・・・・・
急に小久保さんが、洗車場から出てきた。
えっ、ここにいたんだ。
すれ違う時、恐る恐る顔を上げた。
「結衣、お疲れ~。」
「お疲れ様~。」
無視されなかった。
嬉しい。
それかは、小久保さんは普通に接してくれた。
電話もないし、個人的に会う事もないけど、会社で会った時は、無視もされない。
気持ちは、随分楽になった。
ハッキリしない状態は、本当にキツい。
私が、ただ小久保さんを諦めればいい。
それが、出来るなら初めからこんなに苦しむ事はなかった。
土日休みを使って少しずつ忘れよう。
会わなければ、頭の中から消えるはず。
しかし・・・・そんなに甘くはなかった。
土曜日。
綾さんから、電話があった。
誕生日会をしてくれるとの事。
いろいろあって、すっかり忘れていた。
おしゃれなお店を予約してくれて、2人で静かな誕生日会。
ステーキがメンイのコース料理。
彼氏が居なくても、寂しさはなかったけど小久保さんと過ごせない寂しさはあった。
おめでとう、の電話が掛かって来ないかと、ほんの少し期待したけど・・・来るはずもない。
コース料理に満足して、2人でカラオケにいく事にした。
綾さんとは、カラオケによく行く。
2人でノンストップ12時間でも歌えるほどのカラオケ好き。
この日も、すでに12時を過ぎていた。
「ねぇ、結衣、お腹すかない?」
「そうだねぇ」
コース料理は、上品な感じだったのでお腹いっぱいにはならなかった。
「宝来、行こうよ」
「宝来、1時まででしょ。間に合うかな?」
「今からすぐ行けば大丈夫だよ」
私達は、急いで店を出て宝来へ急いだ。
宝来へ無事到着。
「いらっしゃい」
シュンくん・・・・・・
「何にする?」
「いつもので」
「はいよ~」
閉店間際に行ったから、いつもよりお客さんは少ない。
私達のラーメンが来る前に、他のお客さんは帰って行った。
貸し切り状態。
「ごめんね。もう閉店時間じゃない?」
「いいよ、貸し切って!」
シュンくんは、他の従業員も先に上がってと帰らせていた。
申し訳ない。
ちょうど、シュンくんが店の片付けが終わった頃、私達も食べ終えた。
「じゃぁ、私、先帰るわ」
「ちょっと、綾さん・・・」
「シュンくんに送ってもらってよ」
「えっ?どうゆう事?」
「結衣ちゃん、ごめん。綾さんにお願いした」
そうゆう事かぁ。
気がつかなかった・・・・・
綾さんは、私を置いて先に帰った。
シュンくんは、カウンター席の私の隣に座った。
「この前は、ごめんね。急に帰る事になっちゃって。」
「俺こそ、無理させてごめん・・・ちょっと待ってて。」
そう言うと、席を立った。
少し気まずいけど、このドキドキ感、悪くない。
「はい、お誕生日おめでとう」
「えっ?凄い!!!」
今まで見た事ないくらいの大きな薔薇の花束。
感動して、涙が出て来た。
シュンくんは、私の頭をヨシヨシしながら
「結衣ちゃん、この前、元気なかったから心配だったよ。」
「ありがとう。凄く綺麗、元気になったよ」
「俺、結衣ちゃんの事大好きなんだ。側にいてほしい。」
「私なんか、好きでいてもらえる女じゃない」
「どうして?結衣ちゃんは、素敵だよ」
「違う・・・素敵じゃない」
奥さんのいる人好きになって、愛してもらう資格はない。
「俺は、結衣ちゃんじゃないと駄目なんだ。付き合ってほしい」
「ごめん・・・無理なんだ。」
「好きな人いる?」
「うん・・・片思い。なかなか諦めれなくて・・・」
「じゃぁ、諦めれるまで待つ」
「絶対、駄目!!!」
今まで、自分が別れるまで待っていた。
本当に待つのは辛い。
人を待たせるなんて、有り得ない。
「迷惑かな?好きでいるのも駄目かな?」
「迷惑なんて・・・私も今まで好きな人を、待ってたの。
辛くて苦しかった。結局、待っても結ばれなくて・・・今でも引きずってる」
「俺は、待ってても辛くない。
片思いも、楽しいよ。」
はっ!とした。
結婚してる人を好きだから、こんなに苦しいの?
普通は、片思いでも楽しいの?
「とにかく、待たないで。
シュンくんなら、モテるでしょ?凄く可愛いお客さんのシュンくん見る目、ハートになってたよ」
「結衣ちゃんは・・・・特別だよ・・・」
「・・・・・・」
「初めて店来てくれた時に、一目惚れしたんだ。
話しているうちに、どんどん好きになってさぁ。
最近、来なくて・・・・・・・
結衣ちゃんと、もっと一緒にいたいなぁって思ってさっ・・・・・」
「ごめんね。私、まだ・・・他の人好きになれないと思う」
「そっかぁ・・・」
「シュンくんは、私には勿体無い」
「じゃぁ、友達でいて。絶対、待たないから」
「うん!」
「よしっ、この話しは終わり」
朝まで、いっぱい話した。
久しぶりに、沢山笑った。
朝方、家まで送ってもらった。
「ありがとね。素敵な花束もっ。」
「また、連絡する。友達だから遊んでくれるよなっ。」
「うん」
シュンくんと別れて、家に入った。
携帯の着信を確認する。
小久保さんからの、おめでとう電話もメールもない・・・
私、何やってるんだろう?
一刻も早く忘れないと、幸せにはなれない。
わかってる。
でも、忘れられない。
お昼近くまで、寝ていた。
ピピピ~
綾さんからだ。
「もしもし、シュンくんとどうだった?」
「うん・・・付き合って言われたけど断わっちゃった。
私、バカだよね。」
「結衣、まだ・・・あの人、引きずってるの?」
「自分でも、どうしたらいいのか分からない」
「結婚してるくせに、結衣に待てとか、冷たくしたり優しくしたり。おかしいよ。
早く忘れて、シュンくんと・・・」
「シュンくんとは、友達だから。」
「結衣・・・・・」
こんな時でも、1日、小久保さんが何回も頭の中に出てくる。
もう、消えてよ・・・・・・・
当たり前のように、シュンくんの隣で飲んでいた。
お酒を飲むのは、久しぶり。
すごく、お酒が弱いので殆ど飲まない。
飲んだ後の気持ち悪い感じが駄目だった。
今日は、カクテルをコップ半分飲んだだけで、顔は真っ赤。
気持ち悪くなる前に、酔いをさまそうと外へ出た。
寒い。
コート羽織ってくればよかった・・・・
震えながら酔いをさました。
すると、店のオーナーでシュンくんの友達のナオヤくんが店から出て来た。
「顔、真っ赤だね。あれだけで?結衣ちゃんは弱いなぁ。」
「私は、食べる専門なの!」
「へぇ~、あれだけで酔えるなんていいなぁ」
「ナオヤくんは、強いの?」
「酔えないよ。特に彼女に振られた時は、酔いたかった。」
「辛かったんだぁ」
「まぁ~ね、浮気されててさっ」
「そうなの・・・」
「もう、忘れたけどなっ。
結衣ちゃんは、シュンとどうなの?」
「友達だよ。シュンくんは、私には勿体無いよ。」
「そうかっ?シュンも同じ事言ってたぞっ。結衣ちゃんは、俺には勿体無いってな。」
「そんなん・・・・」
「本気だったみたいだよ。店の女の子と友達にだってなった事ないんじゃないかなぁ。」
「そうなんだ。よかった友達になれて。」
「結衣ちゃんの彼氏。俺立候補しようかなぁ。
このまま、2人でどっか行っちゃうか?」
「ナオヤくん、軽すぎ」
「その方が、気が楽だろっ?」
と言うと、私にコートをかけてくれた。
店の駐車場を出た所で、不安になった。
「ちょっとぉ、離してよ。戻りたい!」
「何処行こうかぁ、タクシー呼ぼうかなぁ」
絶対、酔ってる。
「ナオヤくん、しっかりしてよ!」
「うるさいなぁ。俺、浮気されて落ち込んでる。慰めてよ。」
「なんで、私が?」
「シュンを振って、好きなヤツと上手くいってるんだろ?幸せだろ?」
「はっ?何それ?」
「とにかく、行こうよ」
ナオヤくんは、よろけながらも凄い力で引っ張る。
「もう、離して!!!」
駐車場の方へ、戻ろうとすると後ろからギュッと抱きしめてきた。
「いい加減にして!!!」
本当に嫌。
止めてよ~。
大声で、何回も叫んだ。
「結衣!!!」
綾さん・・・・・・・・・
駆け寄って来た。
「ナオヤくん、何してんの?」
「おぅ、綾さん」
やっと、離れてくれた。
私に掛けてくれたコートを取り店に戻ろうとするナオヤくん。
「ちょっと、結衣に何した?」
「別に。ちょっと付き合ってもらいたかっただけ」
「そんな感じじゃなかったけど。」
「結衣ちゃん、大袈裟なんだよ。」
と言うと、ナオヤくんは店に戻った。
「結衣・・・・・・」
腕がズキズキ痛む。
見ると赤くなり爪で引っ掻いたような傷があった。
「これ、ナオヤくんが?」
「私、バカにされてるよね。」
「許せない、ちょっと言ってくる。」
「何もなかったし・・・・」
「ケガしてるじゃん。
何もなかったにしても、結衣、長い時間戻って来なかったよね。その間・・・言ってくる。」
「もう、帰ろ。この店に来るとロクな事ない。」
恐る恐る、店に荷物を取りに行った。
シュンくんは、女の子と話していた。
顔見知りなのか、妙に親しそうに。
あなたの友達、最悪だったんだよ。
何、呑気に女と話してるの?
シュンくんの側へ行き
「先、帰る。」
とだけ言い、綾さんと店を出ようとする。
ナオヤくんは、居ない。
お店の男の子に聞いてみると、
奥で寝ているらしい。
呑気な人。
覚えてすらいないだろうなぁ。
手、腕、痛いんですけど・・・・・
私達の分のお金を払い店を出ると
「結衣ちゃん、どうかした?何か怒ってる?」
「起こるも何も、ナオヤくん、最低だね。」
と綾さんが言う。
「あいつ、何かした?」
「結衣を無理やり連れ出そうとした。手と腕見てよ!」
綾さんは、私の腕をシュンくんに見せた。
私は、放心状態でどうでもよかった。
バカにされてる事が、ショックでこの場から、早く立ち去りたかった。
「結衣ちゃん・・・・あいつ、何した?」
「浮気されてショックだから、慰めてほしいって。
どっか行こうって無理やり引っ張られた。酔ってたとはいえ、もう会いたくない。」
「ごめん・・・あいつ、酒癖悪くて・・許せないな。」
友達の事だけに、シュンくんもショックを受けていた。
「なんで、結衣ちゃんにそんな事・・・」
「とにかく、今日は帰るから。」
呼んでいたタクシーが来た。
綾さんと乗り、家まで帰ってその後も家で一緒にいた。
最悪な年越しになった。
朝まで、綾さんと話していた。
ナオヤくんの悪口は、すぐに言い飽きてしまい、昔の思い出話しに花がさいた。
中学生の時に付き合っていた人の話しや、ハチャメチャな事をしていた頃の話し。
不思議とナオヤくんへの怒りも無くなった。
朝ごはんを食べて、綾さんは帰った。
冷静になると、私も少し酔っていたんだろうな。
今なら、もう少し上手く断れた気がする。
ふっと、シュンくんとナオヤくんの事が気になった。
小久保さんとの事以来、自分から電話するのが苦手になってしまった。
相手が今何をしているのか、分からないから怖い。
よっぽど親しい友達以外、電話はほとんどしない。
シュンくんに電話出来なかった。
1日。
実家に帰ろうかと思っていたが、疲れているし1人でいたい気分だから、明日にしよう。
ビデオをレンタルして、のんびりした。
恋愛からアクションまで観て気がついたら夜。
正月から、何しているんだろう?
急に寂しくなる・・・・・・・
23時。
携帯が鳴った。
・・・・・・・・・・・・・
小久保さん?
たしかに、小久保さんだ。
どうしたんだろう?
不思議に思いながら電話に出た。
「もしもし……‥」
「ごめん、忙しい?」
「忙しくないけど・・・・」
「神社、行った?」
「行ってないけど・・・」
「今から、行かないか?」
「???」
「俺も行ってなくてさぁ。無理かな」
なんだろう?
友達としてだよなぁ。
「いいけどさぁ・・・どうして・・・」
「なんとなく、連れは皆付き合ってくれないし・・・」
「ふぅ~ん・・・」
「今から、迎えに行くよ。」
「私、ノーメークだし凄い格好だけど笑わないでよ。」
「今更、気にならん。」
気にしてよ・・・・・・・・
こうして、小久保さんと2人で神社へ行った。
久しぶりに一緒に車に乗った。
今までは、奥さんの事が気になったり言いたい事、聞きたい事も聞けず辛い気持ちで会っていた。
今日は、憂鬱な気持ちもなく本当の友達になれたような気がした。
すごく、楽しい!
油断した・・・・・・・・
夜中なので、誰も居ない。
肝試し感覚で、ダッシュで競争しながらお参りをして車に戻った。
笑いが止まらない。
2人でケラケラ笑った!
テンションも上がり、カラオケに行く事にした。
小久保さんは、歌う事が苦手で俺は音痴だぁ、なんてよく言っていた。
必死で歌う姿が、面白くて又笑いが止まらない。
朝までカラオケをし、モーニングへ行く。
まだ、テンションは下がらない。
小久保さんの話しが面白くて笑ってばかり。
顔の筋肉が痛くなってきた。
楽しい朝食を食べ、車は家へと向かった。
帰りたくない・・・・・・・
「結衣、久しぶりに公園の駐車場行こうか」
「うん。」
車は、駐車場へ入っていった。
頻繁に来ていた頃と、気分は全然違うけど、あの頃の憂鬱な気持ちが蘇る。
二度とあんな待つばかりの生活はしたくない。
「今日は、楽しかったなっ。結衣と普通に付き合っていたらすっげぇ楽しいだろうなぁ」
「変な事言わないで!」
・・・・・・・・・・・・・
「彼氏出来た?」
小久保さんが、聞きづらそうに言う。
「まだ、いない。すぐ、彼氏つくるよ。」
「結衣・・・・・・・・・」
小久保さんは、私をジッと見つめていた。
嫌。ドキドキする。
心臓の音が、小久保さんまで聞こえそう。何か話さないと・・・・
「小久保さんの歌、面白かったね。あんな必死な姿、あんまり見られないよね。」
「結衣・・・アイツ、又、出て行った。」
アイツ・・・・奥さんだ。
「へぇ、そんな話し私にしないでくれる?」
「忘れられない。大好きだよ、やっぱり結衣じゃないと駄目だ。」
「止めて!!!私がどんな思いで諦めたと思う?
やっと、平気になって泣かなくなって、ご飯も普通に食べられるのに。
奥さんと仲良くしてよ!!!」
「無理だ。今度こそ、離婚する。アイツの実家に行って別れてくる」
「別れなくてもいい。私は、望んでないから。もう、嫌なの!!!
電話出来なかったり、待ったり、少ししか会えなかったり、辛すぎる。
私は、彼氏がほしい。普通に付き合ってくれる彼氏!!!」
「付き合って!!!」
「・・・・・はい????付き合うって、冗談でしょ?」
「本気だよ。どうしても結衣と一緒にいたい。」
「全然、会えないくせに!電話も奥さんいたら出られないくせに!よく言うわ!」
「結衣!」
小久保さんが、抱きしめてきた。
ドキドキ・・・・・・・・・
「ちょっと・・・・・」
すごく、ドキドキする。
なんで????
忘れたのに。努力したのに・・・
「俺、結衣の事忘れたいのに忘れられない。
努力したのに、結衣が頭から離れない。」
「とにかく、離して。」
これ以上、抱き合っていたら気持ちが戻ってしまいそう。
しっかりしないと!!!
「離したくない。もう、離さない。
待ってとかも言わない。付き合ってほしい。俺が、離婚する前に結衣に好きな人出来たら、俺が、諦めるから。」
「不倫するって事?」
「すぐに不倫じゃなくなるよ。」
頭の中が、グジャグジャだ。
無理矢理、気持ちを抑えて忘れようとして来たのに、抱き締められただけで、閉じ込めた感情が溢れてきそう。
まだ、好き・・・・・・・・・・
「私、もう辛い思いも寂しい思いもしたくない。」
「いつでも、電話して。いっぱい会ってデートしよう。もう、寂しい思いはさせないよ。」
「私に好きな人出来たら別れてくれるの?」
「あぁ、その前に離婚するけど。」
「奥さんとの事いろいろ聞くよ。早く別れてって急かすよ。」
「うん、それでも一緒にいたい。
もう、離さないから・・・・・」
「うん……ねぇ、今日から小久保さんって私の彼氏なの」
「うん、ってか、小久保さんって止めない?」
「なんて呼べばいい?」
「マサでいいよ」
「マサ、なんか照れくさいなぁ。」
照れている私にマサは、優しくキスをした。
マサとの両思いが分かってから、一年。
ただ、会って話して中途半端な私達から、付き合う、そう不倫が始まってしまった。
遅くても、夏までには友達や親にマサを合わせたい。
彼氏と堂々と言える日は、遠くないと信じていた。
その日も、夜まで一緒にいた。
こんなに、長い時間一緒に居るのは初めてだった。
1日一緒にいても、まだ、足りない。
マサは、私の家に泊まった。
マサに抱かれた・・・・・
やっと、一つになれた・・・・
幸せで、次の日も布団の中で2人でイチャイチャしていた。
何気なく携帯がバイブになっている事を思い出し見てみると
シュンくんから、何件か着信が入っていた。
この前の事かなぁ・・・・・
マサと付き合ったから、なんとなく、電話しにくい。
その後の着信も出ないでいた。
明日から、仕事だ。
ずっと一緒だったのに、離れるのが寂しい。
しぶしぶ、バイバイした。
部屋に1人・・・・・・
今までと変わらないのに、マサが部屋に入った瞬間から違う部屋になったみたいな気がした。
なぜか、泣けてくる・・・・
信じてるから、いつかずっと一緒に。
ピンポーン
誰だろう????
「はい」
「俺だよ」
マサ?
帰ったはずなのに?急いでドアを開けた。
マサは、照れくさそうに
「明日、早く起きて帰る。夜も一緒にいよう。」
嬉しくて、抱きついた。
そして、また、抱かれた・・・・・・・・
次の日、マサは朝早くに帰り私も会社へ行く支度をした。
出勤時、久しぶりのおはようコール。
さっきまで一緒に居たのに、声が懐かしい。
本店の日は、給湯室で、一緒にコーヒーを飲むのが日課になった。
支店の日は、お昼休憩の時に必ず電話で話した。
支店の日。
お昼休憩に電話しても出ない、かかっても来ない。
どうしたんだろう?
トラブルかなぁ?
心配で、ご飯どころではない。
ピンポーン
お客さんかなっ?
見に行くと・・・・・
「マサ!!!!」
「結衣!ビックリした?」
マサが、内緒で会いに来てくれた。
嬉しくて抱きついた。
「心配したんだよっ」
「ごめん、会えて嬉しいよ」
優しくキスをした。
何回も何回もキスを・・・・・・
今まで、抑えていた気持ちが溢れ出て、全く周りが見えなくなっていた。
奥さんとまだ、別れていない事を忘れてしまうくらい夢中だった。
会社が、終わるとマサから毎日電話がある。
週の半分は、彼は釣りへ行く。行かない日は家に来た。
朝まで、一緒に過ごし出勤する日々が続いた。
今日は、マサが釣りに行く日。
会社も終わり、家に着くとマンションの駐車場の前に黒い車が止まっていた。
シュンくん。
駐車場に入り車を止め外へ出ると、
シュンくんが、車から降りて来た。
「シュンくん、どうしたの?」
「結衣ちゃん、電話にも出てくれないし、この前の事、怒ってるよな・・・」
「あっ、怒ってないよ。私もナオヤくんも酔ってたし。」
「ごめんな。ナオヤも反省してる。
腕の傷は、大丈夫?」
「うん、何ともないよ。わざわざ、ごめんね。」
「電話、どうして出てくれなかった?」
「ごめん・・・・・・彼氏出来た・・・シュンくんとは、友達だけど・・・何となく言いづらくて・・・・・・」
「そうかぁ、彼氏・・・友達って言ってても好きって顔に書いてあった?
彼氏・・・・・ちょっと、ショックだな・・・時間が経てば、本当の友達になれると思うから、電話には出てな。」
「わかった。」
「彼氏に優しくしてもらってる?」
不倫なんて、言える訳ない。
「うん、優しいよ。」
「いいなぁ、俺も早く彼女ほしくなってきた」
「シュンくんなら、すぐ出来るよ」
「当たり前、結衣ちゃん、いつか俺振ったの後悔するかもなっ。」
本当だよ。
後悔するよ。
お正月、シュンくんの電話に出ていたら、マサとこんな事になっていなかったかもしれない。
しばらく、立ち話しをしてシュンくんは帰って行った。
季節は、春になった。
マサとは、相変わらずの日々だった。
1人部屋で、ゆっくりしながら雑誌を見ていた。
もう、春かぁ。
暖かくなってきたからなぁ。
あれっ?
もう春?
マサは、毎日釣りか、家に来ている。
いつ、奥さんと別れ話するの?
別れるって言ってから3カ月以上経ってる。
どうなっているんだろう?
まだ、奥さん実家にいるハズ。帰って来ているなら、こんなに会えない。
モヤモヤする。
電話してみよう。
緊張しながら、電話をかける。
あれ?
出ない・・・・・・・・
釣りをしているから、気がつかないのかなぁ。
もう一度、かけてみる。
やっぱり、出ない。
着信に気がついて、かけてくれるかもとお風呂にまで、携帯を持って行った。
結局、朝まで電話はなかった。
出勤の時、携帯が鳴った。
「昨日は、ごめん。釣りしてて・・・」
「そうなんだぁ」
「何だった?」
「朝から話す話しじゃないから、仕事終わってから話すね。」
「ごめん、今日も釣り。」
「今日も行くの?話したい事あるんだけど」
「悪い。今、シーズンでさぁ。どうしても行きたいんだ。」
「わかった。」
なんか、モヤモヤするなぁ。
そして、次の日も話しは出来なかった。
春から、週半分は家に来ていたのが、釣りに行く前少し会ったり週一回家に来たりするくらいになった。
不満だ。
一年もかかって付き合ったのに。
寂しい思いさせないって言ったのに。
奥さんと別れるって言ったのに。
どうなってるの?
久しぶりに、綾さんと宝来へラーメンを食べに行く約束をしていた。
仕事が終わった後、マサから電話があり釣りの帰りに家に来てくれる事になった。
やっと、ゆっくり会える。
すごく楽しみにして、綾さんと宝来へ行った。
比較的、お店はお客さんが少なく綾さんとたわいもない話しで、盛り上がっていた。
時計を見ると、23時を過ぎている。
そろそろマサから、電話が掛かってくる。
いつも、釣りの帰りは23時~24時頃
もうすぐ、会える。
数日前から、気になっていた奥さんの事。
何も話してくれないから、どうなっているのか知らない。
今日は、絶対に聞いてみよう。
マサからの電話が待ち遠しく、携帯を眺めながら、綾さんと話していた。
「そろそろ行こうかぁ」
「うん」
私達は、お会計を済ませ外で少し話していた。
今日は、現地集合、現地解散だった。
すると、シュンくんがお店から出てきた。
「ありがとなぁ」
「美味しかった、ご馳走さま~」
しばらく、3人で話していると
ピピピ~
マサからだ。
2人から、少し離れて電話に出た。
もちろん、2人共付き合っている事は知らない。
不倫しているなんて、恥ずかしくて言える訳ない。
「もしもし、釣り終わった?」
「あ~・・・」
何かおかしい?妙にテンションが低い。嫌な予感・・・
「帰り来るよね」
「今日は行けない」
「どうして?」
「どうしても・・・・」
やっぱり、おかしい!
マサの態度が冷たい時は、何か隠している事がある。
約束したのに・・・
「話しあったんだけど・・・」
「また聞く。今日は行けない」
「今、海?」
「・・・・・・・」
何?
変な空気・・・・・・
電話の向こうが、妙に静か。
マサの声もいつもより低い。
「ちょっと、電話で話していい?」
「ダメだ・・・・」
「えっ?」
「もう、切るわ」
「ちょっと待ってよ!また、急に冷たくなるの?
最近、釣りばっかりで全然会えないから話しも出来ない。
5分で、終わるから切らないで!」
「無理」
マサの冷たい態度に頭は真っ白になり、涙が溢れてきた。
「もう切る」
プ~、プ~、プ~
切られた・・・・・・・
ショックで、泣き崩れた。
ビックリした、綾さんとシュンくんが走ってきた。
綾さん:「結衣、どうした?」
「ごめん、なんでもない」
シュンくん:「何でもないって・・・」
綾さん「もしかして・・・あの人?」
シュンくん:「彼氏か?喧嘩?」
綾さん:「彼氏って?結衣、あの人と付き合った・・・・・?」
「綾さん・・・黙っててごめん。」
綾さん:「どうして?この前、電話でもう会わないって言われて、終わったよね」
「うん、しばらくしてまた連絡あって・・・」
綾さん:「あの人は、駄目だって。止めなよ。」
シュンくん:「駄目って?どうゆう事だよ。優しい彼氏だろ?」
「2人共、ごめん・・」
綾さん:「また、何かあったの?」
「また、冷たくなった。寂しい思いさせないって、いっぱい会おうって言ってくれたのに、3カ月で元通り不安で寂しくて・・・」
綾さん:「もう、終わろう。未来は、ない。あんないい加減な人、無視してよ!」
わかってる。
マサの言う事、信じてる訳じゃなくて、信じたいだけ・・・
私は、都合のいい女。
都合が悪くなると、冷たくして突き放す。
最低男。
どれだけ嫌いになりたかったか。
忘れたいか。
忘れようとすると戻ってくる。
奥さんと別れてもないのに堂々と!
終わりにしたい。
けど、今の辛く苦しい日々より、別れた方がもっと苦しい。
あの頃は、そう勘違いしていた。
もう会わないと言われた日から、今日までの事を2人に話した。
2人は、ほとんど口を挟まず聞いてくれた。
そして、話し終わると
綾さん:「結衣、わかってると思うけど、止めなよ。
あの人、最低だよ。
都合良く、結衣を振り回しているだけだよね。」
シュンくん:「同じ男として、恥ずかしい。一体、ソイツ、何やってんだよ!おかしい。」
「うん・・・・」
綾さん:「今は、辛くても必ず忘れるから」
シュンくん:「俺、結衣ちゃんが幸せならって諦めたけど、そんなヤツだったら諦めきれない。
絶対、おかしい」
2人の言っている事は、頭ではわかっていた。
でも、諦められない。
マサの奥さんと別れるからと言う言葉が、忘れられない。
離婚すれば、普通に付き合える。
今、辛くても、いつか幸せになれる。
だって、マサは私を愛してくれているから・・・・・
何かに取り付かれているかのように、思考回路がおかしくなっていた。
2人は、朝まで私を説得しようと話してくれていた。
うん、うん、と聞きながら私達は違う!普通の不倫じゃない!絶対、幸せになれる。と自分に言い聞かせていた。
綾さん:「結衣・・・まだ、諦めれない?・・・そんなに好き?」
「・・・・・うん・・・」
綾さん:「どうして、冷たくしたなら最後まで突き放してくれないの?これじゃ、結衣が忘れられない!」
綾さんは、泣いていた・・・
シュンくん:「男は、バカからさぁ・・・結衣ちゃんが受け入れる限り何回でも戻ってくると思う。
本気で、別れる気もないくせに。」
「そんな事ない!別れるよ!彼が言ってたもん。今度こそ、離婚するって!」
完全にシュンくんに八つ当たりしている。
シュンくん:「別れるって言ってから、どれだけ経ってるよ?
奥さんと結衣ちゃんと両方上手くやってんだよ!」
「違う!奥さん、実家で一緒に住んでない!このまま、離婚するんだもん!」
シュンくん:「はっ?別居してて、別れたいならとっくに別れてるでしょ?
だって、奥さんが出て行ったって言ってるんだろ?
本当は、その男が離婚したくないんじゃねぇの?」
「何言うの?違う!酷い事言わないで!」
シュンくん:「誰が酷いよ!その男だろ?奥さんだって騙されてるんだよ!」
「奥さんの話ししないで!シュンくん、どっちの見方?
奥さんが、騙されてる?そんなの知らない!」
綾さん:「ちょっと、2人共、落ち着いて。外出よっ。」
3人で、車に乗り宝来の駐車場で続きを話す事になった。
私は、涙が止まらない。
シュンくんに言われた事。
何度も思ってきたけど、そんな事ないと蓋をしてきた。
人から言われると、現実を突き詰められているようで悲しくとても苦しい。
綾さん:「落ち着いた?」
「うん」
綾さん:「彼に会わせて」
「えっ?絶対無理・・・面倒な事嫌いだし、綾さんに会ってくれないよ」
綾さん:「そうでしょ?私もそう思う。結衣・・・ハッキリ言うよ。
愛されてない。結衣だって、わかってるよね?」
「そんな事ない。どうして、綾さんもシュンくんも彼を悪く言うの?」
シュンくん:「なぁ、2人だけの問題じゃないよな?
その男には、奥さんと子供がいて。大切な人裏切って、結衣ちゃんと付き合って。冷静になって。その男、優しいか?」
「・・・・・・奥さんが・・・彼を大切にしなかったから・・・・彼は、悪くない」
シュンくん:「結衣!!!!」
綾さん:「ちょっと・・・シュンくんも熱くなり過ぎ。結衣?そんなの本心じゃないよね?昔から、人を傷つけたりする子じゃない。」
シュンくん:「わかってるよ・・・結衣ちゃんが好きだから・・・・」
泣きすぎて訳が分からない。
2人に話さなかったのは、恥ずかしさもあったけど、不倫を止められるのが嫌だったのかもしれない。
忘れたくても無理で。
奥さんと子供の事考えると胸が張り裂けそうで。
一生懸命、考えないようにしてきた。
ゴールデンウィーク
5日間の連休
マサとは、前もって会う約束をする事はなかった。
休み中、連絡はあるか、会えるのか不安だったけど、『無理』と言われるのが怖くて聞けなかった。
1日目
一日中連絡を待ったが、なかった。
2日目
夜の11時
マサからの電話があった。
「もしもし」
「明日、何してる?1日、デートしよっか?」
「うん」
「何処か行きたい所ある?」
「温泉入りたい」
「いいねぇ、じぁ、7時に迎え行くな」
久しぶりに、一日中一緒。
嬉しい・・・けど、綾さんとシュンくんの言葉を思い出す。
2人と話した日から、少しマサへの気持ちが変わった。
一緒にいる時間が、夢の中にいるような感覚。
愛されてると、実感して別れないと思っている自分。
遠くから、冷静に見ている自分。
何が本当で嘘なのかも分からない。
別れる、別れない、別れる、別れないの繰り返し・・・
明日、別れると決めても電話で優しい声を聞くと別れないに変わってしまう。
毎晩、眠れない。
明日は、1日一緒。
勇気を出して聞いてみよう。
奥さんとどうなっているか。
付き合った時、言ってくれた。
離婚を急かしても離れない。
寂しい思いさせないって、電話してもいいって・・・・
もう一度だけ、信じてみよう。
次の日
マサは、7時に迎えに来た。
片道3時間ほどの温泉に決めた。
沢山話して笑って、信号待ちでキスしたり、ラブラブで温泉へ向かう。
いつ、あの話しをしようか迷ったけど、温泉に入ってからにしようと決めた。
温泉旅館に着き、日帰りで温泉と部屋を数時間貸してもらい食事をする。
一人で、露天風呂に入り、この後話しをする事に緊張する。
ポカポカに温まった。
部屋に戻ると、マサは、先に戻っていた。
「気持ちよかったなぁ」
「うん、露天風呂サイコーだねっ」
「結衣と旅行初めてだよな」
「私、旅行大好きなのに全然行けないもんね」
「これからは、行けるよ」
そう言うと、抱きしめてきた。
これからは、行ける?
何か進展でもあったのかな?
聞くなら今だ!
「ねぇ、奥さんとどうなってるの?」
「うん?離婚するよ」
「話し進んでるの?」
「その話し後で」
キスをしてきた。
振り払い話しを続けた。
「今、話してっ。」
笑顔で優しく言った。
「何を?」
「だから、奥さんといつ離婚するの?」
「するよ」
「いつ?まだ、奥さん実家?」
「おぅ・・・・こんな時にそんな話し止めよう」
「そんな話しって・・・すごく大事な事でしょ?」
「別れるから、信じて」
「何をどう信じたらいい?マサ釣りばっかりだし、寂しい思いしてるよ」
「ごめん・・・もう少し減らす。」
「私の事、好き?」
「大好きだよ。結衣が、一番!アイツとは終わってる」
「奥さんに、離婚の話しした?」
「してる・・・もう少しだからさぁ」
そう言うと、優しくキスをし体に触れてきた。マサは、すでに息づかいが荒い。
抱かれた・・・・・・・・
マサに抱かれている最中、なぜだか涙が出てくる。
泣いている事に気付かれないようにすぐに拭き取った。
腕枕をしてもらい、少しのんびり寝転がっていると
「おっ、もうすぐ食事の時間だな。もう一回風呂行く?』
「そうだね。行こう!」
もう一度、露天風呂に入る。
今は、余計な事は考えないでマサとの
時間を楽しみたい。
今だけは・・・・・・・
部屋に戻ると、食事の支度が始まっていて次々と料理が運ばれた。
美味しい料理を、マサと一緒に食べる。
同じ時間に、同じ料理を食べている。それだけで嬉しい。
このまま、ずっと一緒にいたい
「マサ、また、来られるかなぁ…私達」
「当たり前だろ、また、来よう」
「・・・・・・」
「今度は、泊まりたいな」
「うん……今度は、私だけのマサと来たい」
「今でも、結衣だけの俺だよ。大好きだから、結衣しか見えないから。」
「嘘、釣りばかり・・・」
「しばらく行かない。」
「うん」
お腹もいっぱいになり、旅館を出た。
帰り道は、あまり話す事はなかったが、同じ空間に居られるだけで嬉しい。
帰ったら夕方だよなぁ。
この後、どうするんだろう?
聞けないまま、車はマンションに着いてしまった。
「今日は、楽しかったなっ。また、行こう!」
「うん……マサ、帰るの?」
「疲れたから寝るわぁ。また、連絡する。」
「明日は?」
「明日は、朝から釣り行くよ」
「えっ?さっき、しばらく行かないって言わなかった?」
「あ・・・・明日は、どうしても行きたいんだ。」
何???
「マサって、約束守らないよねぇ。奥さんと本当に離婚するの?」
「そんな事言うなよ・・・明日だけだから・・・」
なんか、モヤモヤする。
「じゃぁ、釣りの帰りに寄ってよ」
「いいよ」
「あっ、やっぱりいい。私から、電話するよ。」
「わかった、じゃぁな!」
マサは、イソイソと帰って行った。
もう少し余韻に浸っていたかったのに・・・
約束を守らない口だけのマサ。
知らない内に、マサに対して不信感を抱くようになっていた。
次の日
珍しく綾さんとシュンくんが、家に来た。
もちろん、私を説得する為に。
綾さん:「あれから、どう?」
「昨日、日帰り旅行行って来たよ。」
シュンくん:「マジか?」
「2人と話してから、少し冷静になってはきた。好きな気持ちは変わらないけど、冷静に見ている自分がいる。
やっぱり、何かモヤモヤする・・」
綾さん:「何かあったの?」
「彼は、約束を守らない・・・昨日、釣りはしばらく行かないって言ったのに、すぐ後で、やっぱり行くって・・・私って何なんだろう。
大事にされてる感がないような・・」
シュンくん:「きっと、その場凌ぎで適当に嘘言うんじゃないかなぁ。
面倒な事とか特に考えずに話すんじゃないの?」
綾さん:「そうゆう人いるわぁ!浮気する人に多い気がする。適当な事言う人・・・ごめん・・結衣」
「いいよ。その通りだから。今までは、気づいているのに、気がついていない振りしてた。
浮気する人って、基本嘘つきだし、自分大事だよ。
けど・・・好きなんだぁ。取り付かれているよね。」
綾さん:「ちょっと、安心した。この前の結衣と違うから。
すぐ、彼を嫌いになるよ。」
「どうかなぁ・・・なかなか・・・」
シュンくん:「結衣ちゃん、彼は、今釣りしてるの?」
「そうだけど、何で?」
シュンくん:「いや・・・本当に釣りか?」
「えっ……さすがに釣り行っていると思うよ。だって、最近、釣りばっかりだから」
シュンくん:「それも本当か?結衣ちゃんの話し聞く限り、相手も結衣ちゃんに夢中だろ?
そんな時まで、趣味に没頭するか?男だぞ!ごめん・・・その・・・性欲・・・」
「いいよ。言いたい事わかる。もし、嘘ならずっと騙されてた・・・でも・・・嘘ではないと思うよ。」
綾さん:「結衣からは、あまり連絡しないんでしょ?なら、バレないよね?」
・・・・・・・・・・・・・・・
シュンくん:「結衣ちゃん、電話してみな?」
「えっ?今?」
最近は、全然会えなかった。彼は、何より釣りが好きな人。
だから、我慢していたし疑う事もなかった。嘘つかれてたなんて、絶対ない。
もし、嘘なら許せない。
どんな思いで、寂しくても我慢してたか。
電話するの怖い。
でも、確かめてみなくては・・・・・
「ごめん、これ以上無理だよ。」
何も分かっていないのに、電話を切られただけなのに・・・ショックで泣いていた。
弱い。
シュンくん:「ごめん、焦りすぎてたかも・・・・早く、目さましてほしくて・・・今日は、もう止めよう。」
綾さん:「結衣、大丈夫?」
「うん、1人で考えたい・・・」
綾さん:「わかった・・・私達、帰るね」
2人は、帰ろうと玄関へ向かった、その時
プルルル~、プルルル~
マサだ!!!
「待って!!彼から電話!!!」
2人は、急いで戻ってきた。
もう、心配させないでよぉ。
きっと、釣りの帰りだ!
「もしもし」
明るい声で出た。
「もしもし・・・・・」
うん?
テンション低い。小さい低い声で聞こえづらい。
周りは、シーンとしていて静か。
前にも、同じような事あった。
綾さん:「結衣・・・・」
「ごめん、行きたい所がある。」
シュンくん:「一緒に行くよ。」
「ううん、一人で行ってくる。」
綾さん:「結衣、大丈夫?」
「後で、すべて話すね。」
綾さん:「じゃぁ、このまま結衣の家で待ってる。」
「うん・・・・ごめんね。すぐに戻るから・・・・・」
2人は、私の家で帰りを待っていてくれる事になった。
心強い。
マサの口から何かを聞いた訳ではないけど、『パパ』ですべてが分かってしまった。
私は、急いで車に乗りマサの家に向かう。
何も考えず、怒りに身を任せていた。
マサの家は知らない。
いつも会う交差点から近い事はわかっている。マンションに住んでいるらしい。思い当たるマンションがあった。
何度も、行ってみたいと思っていたけど現実を知るのが怖くて一度も近づく事はなかった。
交差点まで来た。
ドキドキしてきた・・・・・・・
左折をして、思い当たるマンションへ向かう。
あっという間に、着いた。
そこは、マンションが何棟も建ち並んでいる。
どれだろう?
ゆっくり、車を走らせた。
緊張で、自分が何をしにここまで来ているのか忘れそうになっている。
マサの車、ここにもない。
ここにもない。
早くしないと、暗くなって見つけにくくなる。
ゆっくり走りながら、マサの車を探す。
この辺りのマンションではないのかなぁ・・・・・・
諦めて帰ろうとした時
あっ!!!
あった!!!
黒い大きな外車、間違えない。
やっぱり、マサは家にいた!
少し離れた所へ車をとめ、しばらくマサの車を眺めていた。
すると、信じられない光景が目に入った。
なんと、マンションからマサが出てきた。
奥さんと子供も一緒に・・・・・・
始めて見る奥さん。
マサより少し年上な感じで、普通の主婦。
派手で性格悪そうな奥さんを想像してたけど、全く違った。
物静かな性格良さそうな感じで、マサが好き放題出来るのは、この奥さんだからかぁと妙に納得した。
不思議と冷静で、全くショックではない。
マサへの愛情が、一瞬で覚めたのがハッキリわかった。
マサにドン引きした。
マサは、私に気づく事なく車に乗り何処かへ出掛けて行った。
笑いが止まらない。
私は、何をしていたの?
アイツ、普通の既婚者。家族サービスしてる普通の男。
何の魅力もない。
アホらしい。
バカ男。
一気に現実に戻った。
夢の中に、迷い込み出られなくなっていたけど、やっと目が覚めた。
もっと、早くここへ来ればよかった。
スッキリした気持ちで、綾さんとシュンくんの待つ家に帰った。
「ただいま~」
「お帰り~」
「ちゃんと、話すね。・・・・・」
電話をした時から、マサの家まで行って来た事、奥さんと子供を見た事を話した。
綾さん:「やっぱり、最低な男だね」
シュンくん:「本当だなっ。」
「嘘付きで、調子いい男だよ。
気持ちは、あっという間に冷めた。彼の言葉を信じて、私が現実だと思っていた。けど、違った。家族が現実で私は、嘘。
二番目なんて、絶対嫌。
あんな男の二番目なんて吐き気がする。大嫌い!」
シュンくん:「やっと、目が覚めた?よかった。本当に良かった。」
綾さん:「どうするの?このまま連絡取らないよね?」
「彼は、私が嘘に気付いた事知らない。多分、当たり前のように連絡あると思う。
もう一度、会おうと思ってる。」
綾さん:「ダメだよ。また、上手い事言われて気持ちが戻ったらどうするの?」
「それはない。絶対戻らない。
家族といる姿見たんだよ。本気で冷めた。
私に嘘付いて、ずっと上手くやっていたんだよ。
別居中だなんて・・・・離婚するから待てだなんて・・・・許せないよ。」
シュンくん:「そんなヤツに又会ってどうするの?」
綾さん:「そうだよ、もう会わない方がいいって。」
「わかってる。けど、真実が知りたい。
何処までが嘘なのか・・・・
このまま終わりにしたら、ダメな気がする。最低、最悪の思い出にしたい。
二度と気持ちが戻らないように、すべてが知りたい。」
シュンくん:「傷つくぞ・・・・」
「大丈夫・・・・もう、泣かないから。
彼にも、きちんと別れてを言いたいしね。」
綾さん:「わかった・・・」
綾さんとシュンくんが帰り、一人部屋で今日の事を思い出していた。
奥さんと子供を見た。
今でも信じられないけど、あれが現実。
昨日まで、マサとは付き合っている彼氏だと思っていた。
けど・・・違った・・・・・・
嘘ばかりの関係。
私の一年は、何だったんだろう?
無駄な時間を過ごしてしまった。
公園で、マサを待っていた。
冷静に考えると、何で当たり前のようにこんな所で会わないといけないんだろう?
今まで、すべて彼に合わせてきた。
何で?
私は、独身。
こんな所じゃなく、ご飯食べに行ったり映画みに行ったりしたかった。
どうして合わせてしまったんだろう・・・・
ワガママを言えば、彼は面倒な都合の悪い女はいらないから、すぐ別れれたのに。
マサが、駐車場に入ってきて車を隣にとめた。
覚悟を決めマサの車に乗り込む。
「お疲れ~」
笑顔で言うマサ。
この前の不自然な電話の切り方、気にしてないのか???
「お疲れ~、今日は釣り行かないの?」
何て答えるだろう?
「結衣に会いたいから行かないよ」
「・・・そうなんだぁ。」
「すごく会いたかったから、嬉しいよぉ」
手を繋いで来た。
触らないで欲しい。その手で家に帰り子供を抱っこするの?
さり気なく離し
「この前、釣れた?」
「うん?いつ?」
「温泉行った次の日。」
「あ~、釣れなかったよ~・・・」
嘘付き・・・・・・・・・
「そう言えば、奥さんってまだ実家なの
?」
「そうだよ。このまま離婚するよ」
・・・・・・・・・・・・・・・
「奥さん、別れてくれるの?」
「あ~・・・この話し止めよ」
と言うと抱き締めてきた。
「やめて!!!!!!」
本気で叫んでいた。
奥さんを触った手で、抱いている手で私を触っている。
私を抱いた日に、奥さんを触っていたのかもしれない。
有り得ない!
「どっ、どうしたの?」
マサは、ビックリした顔で見ていた。
「あのさぁ、もう嘘付かないでくれる?」
「何の事?」
「全部だよ。」
「俺が何を嘘付いた?わからん!」
少しイライラしている。
怒りたいのは、私!
「釣りなんて、毎日行ってないよね?」
「はっ?行ってるし。」
「嘘でしょ?だから、あんなに素っ気ない電話になるんだよ。」
「知らん!」
「また、そうやって逃げる。もういいから正直に話して。
この前、見た。家族でいる所。」
「はっ?そんな訳ない。」
「温泉行った次の日、釣り行くって言ったよね。
夕方、電話した時すごく冷たくすぐ切ったよね。切る瞬間聞こえだの。」
「なっ、何が?」
「パパが!」
「はぁ・・・・・・」
「それで、頭にきて行ったの。マサのマンション。そしたら3人で出てきた。
何で、別居中の奥さんと笑いながらマンションから出てくるの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「本当の事教えて。じゃないと、奥さんにあなたの浮気バラすよ。」
「わかった・・・・・」
真実を聞ける。
これが、私への罰。
不倫をしてしまった私への・・・・
「何で、忘年会の帰り私に告白したの?」
「本当に好きだったからだよ。嘘はない。」
「離婚するまで、待っていて欲しいっていつたよね?あれは・・・」
「あの時は、本当にアイツ出て行ったんだよ。結衣が好きだから別れようと思っていた。」
「じゃぁ、奥さんが帰って来て急に冷たくしたのに、今度は付き合ってって言ったのは何で?」
「それは・・・・・・・」
「正直に言って。」
「あの時は、離婚出来ないと思ったから・・・・待っててとも・・・言えなくて・・・・・」
「はっ?だから不倫してって事?」
「本当は、奥さんが別れたくてマサが別れたくないんじゃない?」
「違う!本当にアイツとは終わってる」
「じゃぁ、別れるの?」
「別れない・・・・・」
「何で?」
「・・・・・・・・・・・」
「何で?」
「言いたくない・・・・」
「はっ?散々騙しておいて、私には知る権利がある。」
・・・・・・・・・・・・・
しばらく、沈黙が続いた。
「都合が悪くなると、黙ったり冷たくしたり、無視したりして逃げるんだね。
釣りも嘘だよね。行く振りして家に帰っていたんだよね。」
「ごめん・・・本当の事言って結衣を傷付けたくなかった。」
「今更、いいよ。
奥さんが好きだったら、嘘なんか付かないで私と別れてくれればよかったのに。」
「アイツは、嫌いだよ。」
「もう嘘はいい・・・・・」
「本当だよ・・・別れないのは・・・・子供が・・・可愛い・・・ごめん。」
「あっ・・・・そう言う事。どうして気が付かなかったんだろう。
当たり前の事なのに。これからは、奥さんと子供だけ見て大事にしてあげてね。」
「えっ?俺達、別れるの?」
「当たり前じゃない。」
「どうして?俺は、結衣が好きのに?別れたくない。」
「何言ってるの?私は、不倫するつもりはない。バカにしないで!」
「結衣に好きな人が出来るまででいいから、付き合っていたい。」
最低男だ。
小久保さんと別れてからも、1日何回も電話がかかってきた。
あの日以来、一度も出ず無視しているのに1日何件も着信がある。
そんな日々が、何ヶ月か続いた。
仕事でも不満が積もり退職を決めた。
小谷さんを飲みに誘い、会社を辞める事を報告した。
「もう少し頑張れない?」
「もう限界なんだ。
入社した頃は、お金貰えればそれなりの仕事でいいと思ってたけど、今は、もっとやりがいのある仕事がしたい。必要とされたいんだ。」
「今の仕事じゃ駄目?」
「もっと、必要とされたいし、今の会社の人は冷たすぎる。」
「たしかに、仲間意識とか全くないよね。ミスがあれば人のせいだし、あら探しばかりされるし・・・・」
「ごめんね。もう、決めたんだ。」
そして、3カ月後、退職した。
会社を辞め、しばらくはバイトをした。
会社を辞めてからも小久保さんからの電話は続いたが、ある日突然なくなった。
理由は、しばらくしてからわかった。
久しぶりに小谷さんと飲みに行った日。
前の会社の思い出話しをしている時。
「結衣、そう言えば小久保と仲良かったけど、最近連絡とってる?」
「全然だよ。元気?」
「うん、元気だよ。ちょっと前に家建てたんだよぉ。
あんな安い給料で、よく建てれるよねってみんな噂してる。」
「へぇ~・・・・・・・」
あんなに毎日電話かけてきてたのに、ちゃっかり家建てて・・・・本当嫌なヤツ。
「あとさぁ、子供、二人目出来たんだってさぁ。奥さんと仲悪そうだったのに、分からないもんだよねぇ。」
だから、パッタリ連絡無くなったんだ。
相変わらず、勝手なヤツ。
離婚するなんて、言ってたのに・・・・・私に好きって言ってたのに・・・二人目ねぇ・・・・・
本当に
大嫌い!
二度と会いたくない。
小久保さんは、何事もなかったように
幸せになっている。
私は、何も変わってない。
そして、一年後、バイトを辞め就職する事にした。
職種に悩んだが、やっぱり車が好きな私は以前とは全く違うメーカーのディーラーの試験を受ける事にした。
試験の日。
予想外の学科試験。国語と英語だったが、全く解らない。
10点あればいい方・・・・・・・・・・
面接試験は、社長と直接話した。
上手く自分をアピール出来たけど、学科試験が・・・・・・・・・・・・
家に帰り落ち込んでいると、綾さんから宝来へ行こうと誘われた。
閉店間際に行き、お店が終わるのを待ってシュンくん、綾さんと3人でよく話していた。
今日も、閉店してから3人で話した。
シュンくん:「試験どうだった?」
「全然駄目だった。落ちたよぉ」
綾さん:「そうなの?まだ、わからないでしょ?」
「いや、わかってる・・・・・・・」
シュンくん:「アイツから連絡ある?」
「アイツ?あっ、小久保さん?最近は、全くないよ。家建てて、子供二人目出来たみたい。」
綾さん:「うわぁ~、最低だね。」
小久保さんの最低話しに盛り上がり試験の事を忘れられた。
次、頑張ろう!
25歳 夏。
新しい会社へ就職した。
初めての出勤。
緊張しながら、お店へ入った。
前の会社と違い、みんな朝からバタバタしていて、とても忙しそう。
オドオドしていると、女の人が声をかけてきた。
鈴木さん。29歳
キャリアウーマンな感じで、すごく怖そうな人。頭が良くて、テキパキした感じ。
「澤田さんだよね?」
「はい、よろしくお願いします。」
「じゃぁ、さっそくショールームの机拭いて。」
「はい。」
一通り朝の掃除の仕方を教えてもらった。
朝礼で、全員揃ってラジオ体操。
営業、サービス、事務員。女子社員は、私と鈴木さん二人だけだった。
前の会社とは、真逆でアットホームな感じでみんな仲がいい。
けど、仕事はとても忙しくどんな仕事も一人一人がハークしている。
難しい。
仕事を覚えるのに必死で、しばらくは仕事人間になっていた。
入社した次の日から、経験者と言う事で次々仕事を頼まれた。
営業からサービス受付、事務仕事まですべて覚えなくてはいけない。
お客様の点検の車が入った。
「澤田さん、工事に行って点検ノート持ってきて。」
「はい。」
工場へ歩いていると、
「お前、何やってるだ!!!ちゃんと確認しろ!!!!」
誰が、怒っている。
みると、整備士の人だった。
工場長の桑原さん 30歳
第一印象、怖い。
前の会社の工場長に比べて、すごく若い。
点検ノートを探しても、以前と車種が違うので、なかなか見つからない。
「この車、リフト上げるよ。」
桑原さんだ・・・・・怖い。
「スミマセン、点検ノートが見つからなくて」
「はぁ?まだ、出してねぇの?わからないならすぐ聞けよ」
「スミマセン・・・・・」
桑原さんは、サッサッと点検ノートを出して、渡してくれた。
「ありがとうございます」
怖かった。
見た目も、話し方も怖い。
無事、午前中の仕事を終えお昼休憩。
お昼は、会社全体が休みになるからみんなで業者に頼んだお弁当を食べる。
毎日、一緒に整備士と食べるから、あっという間に仲良くなった。
土、日曜日は、営業もショールームにいる。
毎週、展示会などしていた。
今日は、一日杉田くんが居る。
自然とテンションが上がった。
お昼休み、いつものようにみんなでお弁当。
次々と社員が休憩室に入ってくる。
杉田くんは・・・・私の隣に座った。
ムードメーカーの杉田くんは、いつも話しの中心でみんなを笑わせる。
素敵だなぁ・・・・・・
「おっ、今度の休み、カラオケいかない?」
杉田くんが言った。
鈴木さん:「いいねぇ~、澤田さんもカラオケ好きだったよね?」
「うん、大好き」
桑原さん:「俺も行く!」
桑原さんは、仕事ではすごく怖い。プライベートでは、ちょっと怖いけどオチャメな一面もある。
次の休みにカラオケに行く事になった。
鈴木さん、桑原さん、杉田くん、営業の山下さん、サービス受付で社長の息子大田さん、ナルシストっぽい感じで変わっている坂口さん
このメンバーでよく遊びに行くようになった。
すると、一台の大きなワンボックスカーが入ってきた。
「あ~、俺、俺」
と、桑原さんが車に近づいて行った。
鈴木さんや、山下さん達も近づいていく。
車から、ぽっちゃりした可愛らしい感じの女の人と、2歳くらいの女の子が降りてきた。
鈴木さん:「ミヨちゃん、久しぶり~、まゆちゃん大きくなったねぇ」
ミヨ:「お久しぶりです。」
どうやら、奥さんと子供らしい。
前に、携帯の待ち受け画面で、子供の写真を見せびらかしていた。
小久保さんの事があってから、子供が苦手で特に興味もなかったから『可愛いですね』と適当に流していた。
杉田くん:「お~、まゆちゃん」
自然に抱っこをして、子供を笑わせていた。
杉田くんは、子供が大好きだった。
桑原さん:「さぁ、そろそろ行くぞ」
ミヨ:「それじゃ、また、家に遊びに来て下さいね」
鈴木さん「行く、行く。ミヨちゃんの手料理美味しいんだよねぇ」
ミヨ:「まぁ、嬉しい!いっぱい料理作って待ってますから、是非、皆さんでっ遊びに来て下さいね。」
素敵な奥さん。
社交的だし優しいし。
亭主関白そうな桑原さんには、サイコーの奥さん。
桑原さんは、帰っていった。
「じゃぁ、私もそろそろ帰るね。」
鈴木さん:「ちょっと待って!杉田、酔ってるから送ってあげてくれない?」
杉田くんを私が・・・・・・・・・・・・
杉田くん:「いや、いや、悪いよ。俺、歩いて帰りま~す!」
鈴木さん:「バカ!そんなに酔ってるのに歩いて帰る?」
「いいよ、杉田くん送ってくよ」
杉田くん:「マジで?それじゃぁ、よろしくお願いします」
杉田くんを送って行く事になった。
ドキドキする。
杉田くん:「はぁ、酔っちゃったなぁ、澤田ちゃん、ごめんな。」
「いいよ。」
なんだか、いつもの杉田くんと違う。妙に落ち着いている。
話すと面白くて、冗談を言って必ず笑わせてくれる人なのに、冷静だ・・・・・・・
素の杉田くんを見た気がした。
「いらっしゃ~い」
杉田くんとカウンター席に座ると、シュンくんがビックリした顔で、
「あれ~?????結衣ちゃんとスギ???どうなってるのか?」
「同じ会社で働いてるの。」
シュンくん:「えっ?スギ、仕事辞めた?」
杉田くん:「そうそう、辞めて、今ディーラーの営業してる」
シュンくん:「あ~、それで、結衣ちゃんと同じ会社に・・・・・」
「シュンくんと杉田くんが、友達だったとはねぇ。」
シュンくん:「昔なっ、連れの連れで、飲み会なんかでよく一緒でさぁ。」
杉田くん:「懐かしいなぁ……、昔は、俺らモテたのになぁ。」
今でも、二人共、十分カッコいいよっ。
シュンくんは、お客さんに呼ばれ行ってしまった。
「杉田くんって、前はどんな仕事してたの?」
「俺?整備士」
「えっ?整備士から営業?」
「前は、モータースの整備士だったんだけど・・・・ミスしちゃってクビになって・・・・俺、金ないし困ってたら桑原さんが声かけてくれて、とりあえず、営業で入ったんだ。」
「へぇ~、いろいろあるんだね。」
「まぁなっ。はぁ~、今日も疲れたな」
「杉田くんでも疲れるんだぁ。いつも、面白いし元気だから疲れるのかなっ?」
「うん・・・・そうだよな・・・・・」
まただ。
素の杉田くんの表情。
ラーメンを食べ終わりシュンくんを呼んでお会計をした。
シュンくん:「ありがとな、結衣ちゃん又連絡する。スギもたまには飲みに行こうな。」
杉田くん:「おう!」
私達は、店を出て杉田くんを家まで送る。
杉田くん:「ねぇ、シュンと友達?」
「そうだよ。」
杉田くん:「遊んだりしてるんだよねぇ?」
「うん、初めは店の常連客だったんだけど、段々仲良くなってね。」
杉田くん:「へぇ・・・・シュンが店の客と遊ぶなんて珍しいなぁって思ってな。」
「そう?ところで、ここ真っ直ぐでいい?」
杉田くん:「うん」
マンションまで着いた。
杉田くん:「ありがとね。又、宝来行こうな!」
「うん、じゃぁ、又明日会社でねっ」
そして、家に帰った。
疲れた・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の日。
体がダルい。昨日の疲れがとれてないのかな・・・・・・・
会社に行き、いつも通り出勤した。
いざ仕事が始まると、ダルい体を忘れがむしゃらに働く。
とにかく、忙しい。
無事ミスもなく、一日が終わった。
家に帰ると、着替える気力もなくベッドに倒れ込んだ。
しばらくすると、携帯が鳴った。
シュンくんからだ。
「もしもし」
「昨日は、ありがと。今、近くまで来てるんだけど、何してる?」
「ごめん・・・なんか調子悪くて寝てる」
「風邪?熱計った?」
「まだ・・・・・・・」
「薬買ってくよ。何か食べたい物ある?」
「何にも食べたくないなぁ……」
「とりあえず、行くわ。カギ開けれるか?」
「うん・・・・・・・」
フラフラしながら、カギを開けておいた。
ガチャ
シュンくんが来てくれた。
「結衣ちゃん、大丈夫か?」
「うん」
シュンくんは、私のオデコに手を当てた。
「熱っ、すげぇ熱じゃん。計った?」
「まだ、あそこに体温計あるから取ってくれる?」
計ってみると、39度以上の熱があった。
意識がモウロウとする中、シュンくんが買ってきてくれたヨーグルト少しと薬をなんとか飲んで眠った。
プププ~、プププ~
携帯が鳴る。
誰?
時計を見ると、12時30分。
シュンくんは、ソファーで横になっている。
携帯をとって見ると
うん???杉田くんだ。
「もしもし」
「ごめん、寝てた?」
「あっ・・・うん、どうしたの?」
「何だか寂しくて・・・・」
「えっ?何かあった?」
「そうゆう訳じゃないけど・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
駄目だ。熱で、全く頭が働かないよ。
「結衣ちゃん、今から会えない?」
「ごめん、ちょっと無理」
「そうだよなぁ、いきなりだよなっ。俺、何やってるんだろう?」
「杉田くん、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。ごめんね。今、家?」
「うん、体調悪くて寝てるんだ。」
「ごめん、そんな時に。もう切るわ」
電話を切った。
何だったんだろう・・・・・・・
気にしている余裕はない。とにかく体がダルい。
朝まで、ぐっすり眠った。
なんとなく、体が楽になった気がした。
「結衣ちゃん、大丈夫?今日は会社休めば?」
「人が少ないし仕事山済みだから、休めないなぁ・・・・・」
「仕事かわってから、忙しそうだよな。でも、体は大事にしなよ。」
「そうだね。とりあえず行って今日の仕事だけ終わらすよ。」
「無理すんなよなっ。」
シュンくんと家を出て、私は会社へ向かった。
そう言えば、シュンくんと二人で一晩過ごすの初めてだったよなぁ。
心配して、泊まってくれたんだ。
優しいなぁ。
いつものように、朝から目が回る忙しさ。
お昼の休憩まで、一気に仕事を片付けた。
座ってご飯を食べようとした瞬間、吐きそうになる。
クラクラして、寒気で体が震える。
ヤバい・・・・・・・
一口も食べれずに、座ったまま机にうつ伏せになっていた。
鈴木さん:「澤田さん、大丈夫?」
「スミマセン、早退してもいいですか?」
鈴木さん:「仕方ない、帰って病院いきな。」
「はい。薬飲んで少し楽になってから帰ります。運転・・・無理そうなので。」
「わかった。休んでいきな。」
しばらく座ったまま、寝てしまった。
「おい!お前、何やってる?」
顔を上げてみると
桑原さんだ。
「スミマセン・・・体調が悪くて・・・・」
「はっ?みんな仕事してるぞ!体調悪くたって、こんな所で寝るな!」
何?なんで、頭ごなしに怒ってくるの?
「スミマセン・・・」
理由を言わなくちゃ・・・頭が、ホワホワして上手く話せない。
「体調悪いなら、早く帰りなよ!」
帰りたいけど、床と天井がグルグル回ってて帰れないんだよ。
「今からここでミンティングするから、早く帰りな。」
グルグル回って気持ち悪い。
少し薬がきいてきたのか、何とか歩けた。
途中、社長とすれ違った。
一応、普通に歩いたつもりだ。
鈴木さんに帰ると伝えて、駐車場までフラフラしながら歩いた。
なんとか、車までたどり着いたけど力尽きた。
目が回る。
運転なんか、無理だよ。
救急車?お店に?
駄目だよ。
タクシーを呼ぼうと携帯を出す。
見ると、シュンくんからメールが入っていた。
『体大丈夫か?無理しないで辛かったら帰りなよ』
シュンくん・・・・・・・・・・・
無意識に電話をかける。
「結衣ちゃん、大丈夫?」
「早退したんだけど、目が回ってて運転出来ないよ。」
「今、会社?迎えに行く。」
「シュンくん・・・」
迎えに来てくれるまで、シートを倒して横になった。
駐車場は、店の前で広いお客様の駐車場の隅に縦に並べて置いてある。
私の車がまだある事に気が付いた営業の山下さんが、車まできた。
「澤田さん、どうした?こんな所で。早退するんだよね。」
「うん、運転出来ないから迎えに来てもらうんです。」
「言ってくれれば、空いてる子に送ってもらえたのに。
こんな所で寝てないで、休憩室で待ったら?」
「いえ、桑原さんに・・・怒られちゃって、今からミンティングみたいで・・・」
「あ~、社長とな。危なかったねぇ、寝てる所見られたら何て言われたか・・・」
社長は、風邪や怪我は自己管理不足。休む人がいると、いつも怒っていた。
たしかに、社長が風邪を引いたり、体調が悪そうな所を見た事がない。
「とにかく、困った事があったら言いなよ。みんな助けてくれるから。」
「はい・・・迎えが来るまでここで待ちます。」
電話から、10分ほどでシュンくんが来てくれた。
抱きかかえられて、車にのり病院へ着いた。
診察の結果、ストレスと疲れで耳の奥にある器官?が炎症しているとの事だった。その器官が炎症すると、目が回ったりするらしい。
高熱と炎症で、点滴をするため一日入院する事になった。
「無理し過ぎだよ。今日は、ゆっくり休んで。」
「いろいろありがとう。シュンくん今から仕事だよね?もう大丈夫だから。」
「わかった。お大事に。」
はぁ・・・・怖かった。
目がずっと回ってるって怖い。大変な病気にでもなったかと思った。
夕方になり、少しずつ楽になった。
コン、コン。
「結衣、大丈夫?」
「綾さん!どうして?」
「シュンくんに聞いて、ビックリして飛んできたよ」
「そんな、大袈裟な。大丈夫だよ」
「仕事のストレス?」
「多分ねっ。」
「そんなに大変なの?」
「うん・・・場違いな所に入っちゃって。みんな頭がよくて仕事が出来るんだぁ。
ついて行くのに必死で・・・・・・」
「頑張りすぎたんだね。結衣は、何にでも一生懸命なんだよ。力抜かないと。」
「余裕がなくて。前もディーラーだったでしょ?だから、出来て当たり前、出来なきゃなんで?になるの。
車売った事も、事故車の対応した事もないのに・・・・
仕事終わってからも、勉強しないと。」
「大変だったね。」
綾さんに話しを聞いてもらってスッキリした。
その後も、忙しさと疲労で体がボロボロになっていく。
次の日。
退院した。一日お休みをもらい久しぶりに家でゆっくり寝た。
プププ~、プププ~
杉田くんから電話だ。
「結衣ちゃん、大丈夫かぁ?昨日、入院してたんだって?」
「うん、でも、もう大丈夫だよ。」
「今日、結衣ちゃん居ないから鈴木さんバタバタだよ。」
「申し訳ないなぁ。明日は、行くから。」
「あっ、桑原さんも心配してたよ。」
「そうなの?昨日、怒られちゃって。」
「桑原さんって、言い方厳しいけど本気で後輩が可愛いからだよ。俺も、すげぇ面倒見てもらってるからなぁ。
分かってあげて・・・・・」
「ふぅ~ん・・・・怖いけどね。」
「まぁ~なぁ、慣れるまではキツいかもなぁ。」
私には、桑原さんの事まだ理解出来なかった。頭ごなしに怒って・・・苦手。
次の日。
体も楽になり会社へ出勤した。
鈴木さんに迷惑をかけた事を謝り、社長に嫌みを言われて一日が始まった。
朝から力仕事。
新車に付ける用品を車の中に運ぶ。オプションが多い車の用品袋は、かなり重い。
ヨイショ、ヨイショ
引きずりたくなるくらい重い。相変わらず、皆忙しそうだ。早く運ばないと、整備士さんが車に用品を取り付ける時間になっちゃう。
気持ちは焦るのに、上手く運べない。
すると、
「お~い、みんな澤田さん手伝ってやれ!」
叫びながら、桑原さんが走ってきた。
持っている荷物を持ち
「これは、どこ?」
「あっ、あそこの車です。スミマセン、ありがとうございます。」
「昨日、調子悪かったんだろ?無理するな。」
あっという間に、整備士さん達が袋を運んでくれた。
休んだツケは大きく、ものすごく忙しい。
休憩時間が遅れてしまい、急いで休憩室へ行った。
同じように、休憩が遅れた桑原さんと整備士の杉浦くんが、ご飯を食べていた。
桑原さん:「澤田さんも遅いねぇ、忙しい?」
「はい、昨日お休みしたので。」
杉浦くん:「入院したんだってね。大変だったね。」
「まぁ~ね、一日で退院したから大した事ないけどね。」
桑原さん:「この前は、タイミング悪かったな。社長にここで寝ている所見られたら何て言われたか。」
だから、あんなに急いで部屋から出るように言ってくれたんだ。
「スミマセンでした。」
桑原さん:「あの時、迎えに来てもらったんだって?困った時は、みんなに相談しろよ。」
「ここの会社の人は、みんな優しいですね。前の会社なんて、自分の事ばっかりで助けてもらったり、心配してもらったりなかったので・・・・仕事も自己責任で、誰かに相談したりする事もなかったんです。」
杉浦くん:「冷たい会社だなぁ。」
桑原さん:「うちは違うから。何でも相談して大丈夫。」
杉浦くん:「そうだよ。桑原さんに言えば、助けてくれるぜっ。」
桑原さん:「おう、任せとけ。」
「心強いですね。」
初めて桑原さんとこんなに話した。
優しい人だったんだ。人は、見た目だけじゃ分からないなぁ。
お昼を急いで食べ仕事に戻った。
山積みの仕事を必死で一つ一つ片付ける。事務仕事中にお客さんが来店すれば、接客をしないといけないから、なかなか終わらない。
18時、定時の時間がきても終わらない。
徹夜覚悟で、頑張っていると、仕事が終わった鈴木さんが手伝ってくれた。
桑原さんや、整備士の人達も手伝う事はないかと声を掛けてくれた。
お客さんが飲んだコーヒーカップを洗ったりゴミを集めてもらったり、忙しくて出来なかった雑用をお願いした。
夜になり、営業が帰ってきた。
報告書など、自分達の仕事が終わると私の仕事を手伝ってくれた。
ワイワイガヤガヤと、大勢で夜遅くまで残業した。こんなに楽しい残業始めて。
みんな優しい。
涙が出そうなくらい嬉しかった。
無事に徹夜する事もなく、みんなのお陰で終わる事が出来た。
家に帰り遅い夜ご飯を食べながら、会社の人達に感謝した。
みんなが助けてくれなかったら今頃まだ会社だった。
すると、杉田くんからの電話が鳴った。
「結衣ちゃん、お疲れ~。」
「お疲れ~、今日はありがとね。みんな手伝ってくれてめちゃくちゃ助かった~」
「いつも頑張ってるのみんな知ってるから助けたくなるんだよ。
体は、もう大丈夫なの?」
「うん、大丈夫」
「そう言えば・・・・・」
「うん?」
「シュンに迎えに来てもらったの?」
「そうなんだぁ、迷惑かけちゃった・・・」
「・・・・シュンと付き合ってる?」
「付き合ってないよ、友達」
「よかった・・・・・」
「えっ?」
「いや、なんでもない。仕事落ち着いたらまた、飯でも食いに行こうよ」
「うん」
電話を切った。
あれ?シュンくんと付き合ってなくてよかったって事?
どうゆう意味でよかったんだろう?
なんか、ドキドキする。
まさか・・・・・・両思い?
まさかね。
3月のお疲れ様会も兼ねて、社員全員参加で花見をする事になった。
仕事が終わった人から順番に現地に向かう。
今日中に終わらせたい仕事があった私は、残業だった。
現地へは、車で1時間ほどかかる。他の人達は乗り合わせしながら行ってしまい、ほとんど居ない。
焦って駐車場を走って車に乗ろうとすると
「結衣ちゃん~、乗りなぁ。」
桑原さんだった。
見ると、杉田くんが助手席に乗っていた。
私は、後部座席に乗った。
「俺たちが、最後だな。」
「そうなんだぁ。花見間に合うかなぁ。」
「大丈夫だよ。みんな待っててくれるだろ」
「そぉすよね。」
あれ?杉田くんは、桑原さんに敬語なんだぁ。
後ろから、二人の話しを聞いていた。
杉田くんは、桑原さんにすごく気を使っている感じがした。
他の社員には、いつも笑いを取ったりお調子者なのに・・・・・・・・・・・・
現地に着くと
「お~お疲れ様。こっちへ来て食べなよ。」
社長もいた。
社長は、厳しい人だけど認められれば大事にしてもらえる。
意見も聞き入れてもらえ、同じ目線で話しが出来る。
鈴木さんと桑原さん、営業の森下さんと言う一番営業で出来る人は、社長から認められていた。
私は・・・・・バカだ!とよく言われていた。
いつか、認めさせる!
私の目標だ。
社長に誘導され、社長の隣は、私と桑原さん。桑原さんの隣に杉田くんと座った。
社長:「3人共ご苦労様。残してある食べ物、いっぱい食べろよ。」
桑原さん:「はい、今日は大変だったですよ。変な客に捕まっちゃって。」
社長:「そうかぁ、杉田の客か?」
杉田くん:「はい、癖がある人なんで・・・」
社長:「お前の客は、癖ある人多いな。」
杉田くん:「はい・・・・・・・・」
社長:「澤田、お前はもっと頑張れ。」
「あっ、はい。」
社長:「経験者だから、もっと出来るのかと思ったのに、全然知識なくてビックリした」
「スミマセン・・・・」
社長:「わたしは、即戦力が欲しかった。だから、もっと頑張れ。」
泣きそうだった。
頑張ってる、必死で。
最近は、責任ある仕事を任されたり努力が少し実ったと・・・やっと、人から必要とされていると、感じて嬉しかったのに、まだ、まだ、足りないんだ。
桑原さん:「いやぁ、社長、澤田ちゃん頑張ってますよ。最近じゃ助けてもらう事だってあるんですよ。
こんな短期間で、戦力になるなんてすげぇ努力してますって。」
社長:「そうかぁ?コイツは、バカだからなぁ。本当は、違う子を採用するつもりだったけど、鈴木さんが澤田の方がいいって言ったから雇ったんだぞ。
澤田、鈴木さんの期待に応えろよ。」
何?何?意味わからない。
社長がバカと言うのは、テストだ。本当は、落ちてたんだ。
鈴木さんが私を???
混乱している。みんなに聞かれている。
恥ずかしい・・・・・・・・・・・・・・
酔っているにしても、社長は本気で話している。
桑原さん:「社長、言い過ぎですよ。澤田ちゃんバカじゃないですって。」
社長:「いいかぁ、澤田、もっと目配りをしろ。必死で努力して一人前になれ。お前はバカなんだから。」
「はい・・・・・・・・・」
社長:「杉田、お前はなぁ、いい加減過ぎる・・・・・・・・・・」
次は、杉田くんと話し始めた。
耐えきれずコッソリ席を外した。
人に見えない木の陰で、泣いた。
「澤田、大丈夫?」
鈴木さんが、心配そうに声を掛けてくれた。
「鈴木さん、いつも迷惑かけてスミマセン」
「社長の言ってる事、気にしちゃ駄目だよ。あの人、何にも分かってないからさぁ」
「本当は、社長私じゃなくて他の人を・・・・」
「あ~その話し、社長、はぁ???って思うような子を採用しようとしてたから、止めたんだ。何人も面接に来た女の子見たけど、澤田が一番だと思った。
半端な気持ちじゃ、うちはやっていけれないでしょ。何人辞めていった事か・・・・・・
澤田は、逃げない子って一目で分かったからさぁ。」
「でも・・・頭悪いし・・・・・」
「学科試験?私は、止めたんだよ。だって、国語、英語?出来たからってなに?仕事とは関係ないじゃんねぇ。」
鈴木さんって、なんて強いんだろう。社長と対等に話しして。
やっぱり憧れで、私の目標だ。
「私、もっと頑張ります。」
「期待してるよ。落ち着いたら戻っておいでよ。みんな、心配してるからさぁ。」
そうだ、みんなに聞かれたんだ。
負けないぞ!!!
気持ちを落ち着かせて、みんなの所へ戻ろうと歩いていると、桑原さんがこっちに向かって歩いて来た。
「澤田ちゃん、気にすんなよ。見込みがないヤツに頑張れなんて言わないからさっ。
社員は、みんな分かってるから。俺も澤田ちゃんの努力知ってるから。」
「有り難うございます。悔しいから、もっと頑張りますよっ。」
「おう!」
元の場所に戻ろうとすると、営業の木下さんに声を掛けられ、なんとか社長の隣は免れた。
帰りの車の中で、杉田くんもかなり言われてたと落ち込んでいた。
無事に会社まで着くと杉田くんに呼び止められた。
「結衣ちゃん、今から時間ある?」
「うん、帰るだけだけど。」
「宝来にでも行かない?」
「いいよ。」
杉田くんの車で、宝来へ向かった。
お店に入るとシュンくんがいた。
忙しくて、なかなか来られなかったから仕事中のシュンくんを見るのは久しぶりだった。
やっぱりカッコいい。
シュンくん:「いらっしゃい!」
いつものカウンター席に座り、いつものメニューを注文した。
「シュンくん、この前はありがとね。」
シュンくん:「あれから、体調はどう?無理してないか?」
「大丈夫だよ。いっぱいご飯食べるようにしてるし、元気!」
杉田くん:「仕事キツいもんなっ、なのに社長あんな事・・・・・」
シュンくん:「うん?何かあった?」
「別に・・・・・・・・・・」
シュンくんは、お客さんに呼ばれた。
杉田くん:「結衣ちゃん、大丈夫?俺も、いい加減だの責任もてだの言われたよ。営業で入ったけど、いつか整備の方に移れる話しだったけど、どうなんだか・・・・・」
「そんな、話しになってたんだ。でも、杉田くんがツナギ着てる姿想像出来ないねぇ。スーツに見慣れちゃって変な感じ。」
「そう?結構似合うんだぞ!はぁ・・・なんか落ち込んじゃうなぁ。結衣ちゃんもあそこまで言われて腹立たないの?」
「まぁ~ね、ショックだったけど、悔しいから頑張る事にした。鈴木さんも桑原さんもちゃんと見ててくれてるしね。」
妙に前向きな事ばかり言っていた。
本当は、社長は私を不採用にしていた事にかなりのショックを受けていたけど、まだ気が張ってるせいか、強い自分を演じていた。
「結衣ちゃんは、すげぇなぁ。俺なんて辞めたくなったもん。」
「辞めたら悔しいよ。私なんて、バカばかり言われてるんだよ~」
「ひっでぇ~よなっ・・・・・・・」
いつもの美味しいラーメンを食べて、お会計をした。
シュンくん:「後で電話する。」
「わかった、ごちそうさま~」
店を出て、会社へ向かった。
会社に着いた。
「それじゃ、お疲れ様ねっ。」
「結衣ちゃん、俺って情けないよな・・・」
「えっ?どうして?そんな事ないよ。」
「社長と話してて、自分が駄目人間に思えてきた。」
「駄目人間じゃないよ。気にしないで元気だして!社長と仕事している訳じゃないし、他の社員が杉田くんの事、認めてくれたらそれでいいじゃん。」
「そうだよなぁ。なんか、段々ムカついてきたぞ!頑張るわっ」
「おう!頑張ろっ!」
自分の車に乗り、家に帰った。
杉田くんと居ると、妙にプラス思考になって自分とは少し違うキャラになる。
前向きなテンションのまま、シャワーに入りスッキリした。
すると、シュンくんから電話があった。
「ごめん、遅くに。寝てた?」
「ううん、今シャワー入った所。」
「ちょっと、気になってさぁ。結衣ちゃん、今日なんかあった?」
「あ~、社長に説教されたよ。」
「そうなの?」
「本当はさぁ、私、不採用だったみたい。」
あれ?おかしいなぁ・・・シュンくんと話して気が抜けた?
勝手に涙が出てきた。
「どうゆう事?」
一通り社長に言われた事を話した。
「学科試験出来なかったのに、おかしいと思ったんだ。社長、後悔してるよね・・・私採用してさぁ・・・バカだから。」
「おい!結衣ちゃんはバカじゃないよ。社長が後悔してるかなんて、わからないし。
鈴木さんっていう先輩が、結衣ちゃんを進めてくれたんだろ?よかったなっ、結衣ちゃんの良さを分かってくれてる先輩が側にいてさっ!」
「でも・・・迷惑ばっかりかけて・・・」
「世話が焼けるほど、可愛いんだぞぉ。結衣ちゃんが努力してる事、見ていてくれてるから益々世話焼きたくなるんじゃないかなぁ?」
「どうかなぁ・・・・」
「俺には、わかるなぁ。鈴木さんが結衣ちゃんにしようって社長に言った気持ち。」
「そう?私には、さっぱり。」
「とにかく、余計な事考えずにいつも通り仕事したら?」
「そうだね。」
「気合い入れ過ぎだと、失敗するぞぉ。」
「はい!」
元気が出た。
杉田くんを慰める私。
シュンくんに慰められる私。
なんか変な感じ。
社長に言われた事が、頭から離れず更に努力した。
一通り仕事も覚え、整備以外は基本なんでも出来るようになった。
気が付けば、暑い夏になっていた。
桑原さんが家を建てたので、みんなで新築祝いを持って行く事になった。
杉田くんの車に鈴木さんと私、3人で向かった。
すると、突然鈴木さんが、
「杉田と澤田って、どうなってるの?付き合った?」
電話したり、ご飯食べ行ったりしているけど、何ともハッキリしない関係だった。
「付き合ってないよ。ねっ?杉田くん。」
杉田くんは、何て言うだろう・・・・・
「あっ、付き合ってないよなぁ。」
そうだよね。
けど、どうゆうつもりで連絡してくるんだろう。特に用事がある訳でもないのに・・・・
なかなか、聞けずにいた。
「杉田はさぁ、頼りないよね。ハッキリしてあげなよ。」
「そうだよなぁ、俺って頼りないよなぁ。」
たしかに頼りない。
電話でも、寂しいよ~が多い気がする。
そこが、可愛いんだけど。
もっと、突っ込みたかったが、桑原さんの家に着いてしまった。
うわぁ~、大きなお家!
玄関を入ると、奥さんが出迎えてくれた。先に来ている人達が奥さんの手作り料理を食べ始めている。
「凄い豪華。全部奥さんが作ったんですか?」
奥さん:「大した物はないよ。簡単料理ばかりでごめんね。さぁ、座って食べて。」
桑原さん:「食べて、食べて。」
杉田くんの隣に座った。
奥さんは、みんなの飲み物を運んだり料理を作ったり忙しそう。
私は、席を立ち
「お手伝いする事ありますか?」
奥さん:「大丈夫よ。ゆっくりしててね。」
「スミマセン・・・」
料理も上手だし、優しい奥さん。
新築の家に可愛い子供。
桑原さんは、幸せだなっ。
隣にいる杉田くんに思わず
「結婚っていいね。」と言っていた。
「そうだな・・・俺は、金ないしな・・・」
「お金ねぇ・・・結婚には大事かなぁ。」
「大事だせっ。こんな立派な家絶対無理だよなぁ。」
「愛があれば、大丈夫だよ。」
「愛は、いっぱいあるぜっ!」
冗談だよなぁ。
杉田くんの気持ちがわからない。聞いてみたいけど、怖いような微妙な感じ。
すると、杉田くんの携帯が鳴った。
社長からで、杉田くんのお客さんが事故したらしく、車が動かないので代車を持って行って欲しいと言う電話だった。
杉田くんが、桑原さんに謝りながら帰ろうとすると、鈴木さんも用事があるから乗せてってと言って二人で帰ってしまった。
私は、どうやって帰ったら・・・・・・
みんなも帰る事になり、外へ出ると桑原さんが、
「澤田ちゃん、杉田達と来たよな?」
「うん、帰っちゃいました・・・・」
他の人達の車は、乗り合わせて来ているので定員オーバーで乗れない。
タクシーを呼ぼうと携帯を出すと
「俺、送ってくわ。」
「桑原さん、いいですよ。タクシーで帰ります。」
「いいって。来てくれたんだし、送ってくから待ってて。」
そうゆうと、車庫まで走って行った。
ちょっと、気まずいけど断れないし・・・・
ブロロロ~
桑原さんは、相当な車好きでエンジンやらマフラーやら、いじりまくっている。
会社用、プライベート用、3台くらい車があった。
目の前に止まると、凄い迫力。エンジンの音がすごい。
こっ、これに乗るの???
目立っちゃう・・・・・・・・・・・・
助手席に乗り、車は出発した。
すごい音。
ギアチェンジする度、ブロ~ンブロ~ンと独特の音と振動がある。
段々、音にも慣れ快感になってきた。
「桑原さん、今日はごちそうさまでした。」
「こちらこそ、来てくれてありがとう。」
「奥さん、料理上手ですね。毎日、食べられるなんて桑原さん、幸せですねっ。」
「いや~、今日は特別だよ。いつもは、あんなんじゃないよ。」
「二人を見てると、結婚もいいなぁって思いますよ」
「そうかぁ?そうでもないよ。いろいろあるからねぇ・・・・・・・・・・・・」
「へぇ・・・」
「それより、澤田ちゃん、仕事頑張ってるなぁ。安心して任せられるよ。」
「本当ですか?嬉しいなぁ~。」
「すげぇ、努力してるからなぁ?」
「そんな事ないですよ。でも、みんな凄い賢いから、頑張らないと・・・・」
「いやいや、要領いいし、よく気が付くようになったよ」
嬉しかった。
見ててくれてる人が居るだけで、励みになる。頑張れる。
家に帰りのんびりしていると、杉田くんからの電話が鳴った。
「もしもし、結衣ちゃん、先に帰っちゃってごめんよ。無事に帰れたか心配で。」
「私、置いてきぼりだったんだからぁ。帰り乗れる車なかったしさぁ、杉田くん、私に何も言わずに帰っちゃうし・・・・・」
珍しく杉田くんに甘えてみたくなった。
いつも、どこか頼りなくって守ってあげなきゃと思わせるタイプの杉田くん。
逆に桑原さんは、頼りになるしどんな時でも助けてくれそうな安心感のあるタイプの人。
もちろん桑原さんに恋愛感情はなかったけど、さっきまで、一緒にいたせいか杉田くんに甘えも大丈夫か確かめてみたくなったのかも。
「ごめんなぁ。そうだよね、一緒に行ったんだから声くらい掛けていかないとな。
俺は、駄目だな・・・・・・・」
「そんな事ないよ。冗談だってばぁ。
社長から電話あって、杉田くん焦ってたから私の帰りの心配まで、出来ないよね。」
「本当、ごめん。で、どうやって帰って来たの?」
「桑原さんに送ってもらったの。」
「二人で?」
「そうだよ。桑原さんの車最高だねぇ、又乗りたいなっ。」
「ふぅ~ん。なんか、嫉妬しちゃうな。桑原さんって、妙に結衣ちゃんに優しい所あるし・・・・・」
「えっ?何言ってるの~、桑原さん結婚してるし、会社の先輩と後輩以上の感情はないよ。もちろん桑原さんもね。」
「そう?ならいいけど。」
それよりも、嫉妬しちゃうの方が気になる。寂しいは、よく言うけどそれ以外杉田くんの私に対する気持ちを聞いた事はなかった。
今だっ!
季節は、冬になった。
杉田くんとは、何の進展もなく何故だか電話があるけど、一日の出来事を話したり愚痴を聞いたりする程度だった。
恋愛は、上手くいく相手なら一瞬で好きになって、あっという間に付き合ったりするのに、上手くいかない相手とは、どんなに時間があっても、なかなか進まない。
あまりに時間が経ちすぎて好きとか、付き合いたいとか思わなくなっていた。
私の中で、友達になった。
一年も終わり、新しい年がきた。
恋をする事も忘れ、仕事人間になっていた。
1月。
会社の仲良しな人達と、ボードに行く事になった。
去年は、寒い所も苦手だしボードもやった事もなく、誘われてはいたけど断り続けていた。今年は、何か新しい事にチャレンジしてみたくて、行く事を決めた。
私だけ初心者。
鈴木さんに、ボードも手袋もすべて一式を借りて、夜中の3時に待ち合わせをし出発した。
桑原さんが運転手で、助手席に杉田くん。
後ろには、山下さん、大田くん、坂口さん、三列目に鈴木さんと私で座った。
運転手の桑原さん以外は、みんな寝ていた。私は、寝れずに外を眺めていた。
すると、鈴木さんが
「澤田、寝れない?」
「うん、初めてのボード緊張しちゃって。私、滑れるかなぁ?」
「人にもよるけど、初めは滑れないかもね。諦めないで、何回も通えば滑れるようになるよ。
これから、いっぱい誘うからね。」
「うん。」
「杉田に教えてもらう?私でも良ければ教えるけど。」
「鈴木さん、教えて下さいよぉ。」
「ねぇ、杉田とどうなってるの?告白くらいされた?」
「まさかぁ、杉田くん、私の事友達だと思ってるよ。」
「前に相談されたよ。澤田と付き合いたいけど、告白する勇気がないとか・・・・もう、見てるとイライラするわぁ!」
「そんな事を?初めはお互いに好きなのかさぐり合ってる感じがしたんだけど、今は友達みたいだよ。」
少しドキドキした。
忘れかけていた恋愛が、戻って来そうなワクワクする気持ち。
今日は、どんな一日になるのか楽しみになってきた。
最低最悪の一日になるとも知らずに・・・・
スキー場に到着した。
慣れない雪道を、何度も転びそうになりながら進んだ。
初めてのリフト。
鈴木さんとなんとか乗る事が出来た。
降りる時も一苦労で、危うく降りれずに下に戻ってしまう所だった。
山の上で、滑り方を一から教えてもらった後、いざ実戦。
滑り出しから、かなり急な坂で初心者には難しい。
鈴木さんに支えてもらいながら、滑り出した。
滑ると言うよりは、ブレーキをかけながら少しずつ進んだ。何回も何回も休憩しながら。
鈴木さんも、私のペースに合わせて教えながら進んでくれる。
長い時間かけて、下まで降りた。
午前中で、3回ほど滑ったけど、なかなか上達しない。
鈴木さんは、ワンツーマンでずっと教えてくれていたので、一度もまともに滑れてなかった。
お昼の時間になり、みんな揃って食堂で食事をした。
山下さん:「澤田ちゃん、どう?少しは滑れるようになった?」
「まだ、まだ、全然滑れないよぉ。久しぶりの運動で体力もないし、すぐ疲れちゃう。」
鈴木さん:「沢山滑れば、その内滑れるようになるよ。」
桑原さん:「俺なんて、初心者で頂上置いてかれて散々な目にあったけど、一番滑るようになるのに近道だったよ。」
山下さん:「澤田ちゃん、女の子だよ。有り得ないでしょ。」
「うん、無理。」
話しをしながら、食事をしていると4人組の男の人達がこちらに向かってきた。
「おう、杉田偶然だなっ。」
杉田くん:「わぁ、ビックリした!久しぶりだな。」
杉田くんの大学時代の友達らしい。しばらく思い出話しで盛り上がっていた。
「じぁ、後で久しぶりに一緒に滑ろうぜ。」
杉田くん「いいよ。」
4人組は、立ち去っていった。
食事も終わり、また、滑る事になった。
午前中、鈴木さんは私に付きっきりで全然滑ってなかったので申し訳ない気持ちだった。
「鈴木さん、私、もう少し休みたいからここで休んでますね。」
鈴木さん:「そう?じゃぁ、先滑ってくるね。戻ったら一緒に行こうか?」
「鈴木さん、まともに滑べれなかったから今日は、もういいですよ。」
鈴木さん:「だって、まだ一人じゃ無理でしょ?せっかく来たんだから、少しコツをつかんでおくと、次来た時にいいよ。」
「でも・・・・・・・・・」
これ以上は、申し訳ない。
杉田くん:「じゃぁ、後で俺と行くか?さっきの連れと滑ったら戻って来るよ。」
「いいの?私、全然滑れないよ。」
杉田くん:「いいよ。ちょっと、休んでな。」
鈴木さん:「杉田、よろしくね。澤田、まだ滑れないから、ちゃんと教えてあげてね。」
ベンチに座って杉田くんを待っていた。
杉田くんと一緒に滑るなんて・・・ドキドキしちゃう。
雪山に二人っきり。
嬉しいやら、緊張しちゃうやらで、ソワソワしていた。
しばらく待っていると、遠くから杉田くんの姿が見えた。
ゴーグルをしていて、凄くカッコいい。
忘れていた、杉田くんへの気持ちが一気に盛り上がった。
「お待たせ~、ごめん少し休ませて。」
「うん、なんか疲れてない?」
「連れと、競争してさぁ。久しぶりにマジで滑った。」
「勝ったの?」
「もちろん!」
「凄いね。杉田くん、上手いんだぁ。」
「まぁ~なぁ~!」
ベンチに、二人で座って話しをしていた。
知らない人から見たら、カップルに見え留ほど、くっついて座っていた。
「そろそろ行く?」
スノボーは、どうでもよくなっていた。このまま二人で居たい。
「本当に私滑れないよ。いいの?」
「任せとけって。」
私達は、リフト乗り場へ向かった。
リフトの乗り降りすらも、まだ上手に出来ない。
杉田くんと二人乗りの椅子に座り上へ向かう。
さっきまで、お天気だったのに曇ってきてしまい雪がパラパラ降ってきた。
上に着く頃には、吹雪になり辺りは暗くなってきてしまった。
板を履いたままリフトに乗れない私。
慣れない手つきで履いていると、さっきの4人組が後ろからやって来た。
「あっ、杉田見つけた。さっきは、ヤラレタよ!もう一回勝負しようぜっ。」
杉田くん:「わりぃ、この子初心者だから置いてくのは・・・・・」
「頂上じゃないんだから、大丈夫だよね?」
私:「えっ?そんなん・・・・・・」
「これ滑ったら、俺達帰るんだ。」
ちょっと、止めてよ。
吹雪いてきてるし、人少ないし怖いよ。
けど、明らかに杉田くんは行きたそうで、無理して断ってる感じ。
友達も、一人で行けるだろう?って感じでみている。
私が滑れば30分以上かかるけど、上手い人なら10分もかからない。
私:「杉田くん、いいよ。下まで降りたら、また戻って来てくれる?私、凄く時間かかるから・・・・・・」
杉田くん:「マジ?いいの?じゃぁ、すぐ戻ってくるからなっ。」
杉田くんと友達は、滑り出した。
あっという間に見えなくなってしまった。
さっきまで、まえ山いたのに今は全然いない。初めて一人しさ
一人、ポツンと取り残されてしまった。
ゆっくり、滑ってみた。
午前中の疲れてと運動不足で、足がガクガクしてバランスがとれない。
すぐに転んでしまう。
吹雪で、視界も悪く寒くて心細い。
冷たい地面に座り上を見ると、まだ、数メートルしか滑っていなくて、途方に暮れる。
このままでは、日が暮れちゃう。
午前中、鈴木さんがずっと側に居てくれた有り難さが身にしみる。そして、杉田くんからは愛されてないんだなぁと実感した。
どんどん吹雪いてきた。
焦る。
一気に滑ってしまおうと、覚悟を決めた。
立ち上がり、板を坂道と垂直に向けて滑り出した。
どんどんスピードが上がる。
ブレーキすらまともに出来ない私が・・・・
転んだ。
凄いスピードで転んだから、どうゆう風に転んだのか分からないけど、すごい格好で倒れていた。
パニック。
急いで起き上がろうとしたけど、
あれっ?
板が動かない。
何度、起き上がろうとしても動かない。
よく見てみると、板が地面に刺さっていて抜けなくなっていた。
しばらく、地面に倒れたままでいた。
少しずつ落ち着いてきた時
杉田くんがすぐ戻ると言っていた事を思い出した。
あれから、30分以上は経っている。
どうして来てくれないの?
周りを見渡しても、人はほとんど通らない。
たまに滑って来ても、通り過ぎてしまう。
何とかしなくちゃ。
力を振り絞って起き上がり、片足をなんとかボードから外す事が出来た。
もう一方も外そうとするが、なかなか外れない。雪がボードと靴の間に詰まって固まってしまいうまくロックが外せれない。
多分、10分以上ガチャガチャやっていたと思う。
ようやく、外れ雪に刺さったボードを抜いた。
どうしよう。
まだ、下まで半分も滑っていなかった。
怖くてもう滑れないよ。
私は、ボードを手に持って歩いて降りる事にした。
かなり恥ずかしかった。
それにしても、杉田くんが来ない。
あれから、1時間くらい経っているのにどうして?
寒さと、寂しさ、ボードの重さ、杉田くんが来ない虚しさに泣けてきた。
歩いても、歩いても、下が見えない。
だんだん、人も通らなくなって来た。
吹雪で、誰も滑らないのかなぁ・・・・・
涙が凍ってしまいそう。
誰か!!!!
来てよ~!
助けて。
後ろから、ザ~、ザ~と音がした。
見えにくいが、誰かが滑って来る。
帽子にゴーグルで顔もわからない。
あっという間に私の前で、見事に止まった。
「大丈夫か?」
と言いながら、ゴーグルを外した。
「桑原さん・・・・・・・・・・」
「立てる?」
安心して、ワンワン泣いていた。
「怪我した?」
「してない・・・・です。転んで・・・・怖くて、歩いてここまで来たんです。」
「歩いて来たの?」
桑原さんは、もの凄いビックリした顔をしていた。
「もう、滑りたくない。」
「わかった。じゃぁ、歩いて行こう。」
桑原さんは、自分のボード私のボードを持ち歩いてくれた。
さっきまでの不安は、嘘のように安心感でいっぱいになった。
桑原さんが、来てくれた。もう、大丈夫。
そう思った。
「みんな心配してるぞ。」
みんな、私が居ない事に気づいてくれたんだ。
みんなは、リフトではなくゴンドラで上級者コースへ行っていた。
戻って来て、私と杉田くんを探したがいなかった。しばらくすると、杉田くんだけ見つかったけど、私が一緒にいない。
聞いてみると、私が一人で滑ったよ。と言った。
ところが、私が見当たらない。
ビックリして、手分けして探してくれたみたいだった。
桑原さんは、まさかとは思ったけど念の為コースを見に来てくれた。
だって、滑り出してから2時間ほど経とうとしてるんだもん。まさか、歩いてるなんて予想も付かなかったよね。
「ごめんなさい。」
「いいよ、無事ならさっ。まだ、歩ける?
休憩する?」
「大丈夫です。桑原さんこそ重いですよね。
自分で持ちます。」
「余裕だよ。これで、走れるぞ。」
優しい。
やっとの思いで、下まで降りた。
吹雪で、リフトは止まっていた。
もし、桑原さんがすぐに探しに来てくれなかったら・・・・今頃、まだ一人で歩いていた。ぞっとした。
「寒いだろ?食堂の中に入ろう。」
食堂に入ると
鈴木さんと山下さんが、心配そうに走ってきた。
鈴木さん:「澤田、大丈夫?一人で滑ってたの?」
「うん・・・怖かった・・・・・・」
鈴木さん:「杉田にお願いしておいたのに、アイツは何やってたの?」
杉田くんが、申し訳なさそうに歩いて来た。
桑原さん:「お前!何やってんだよ。」
杉田くん:「結衣ちゃん、ごめんね。連れと話してて遅くなっちゃって。とっくに滑って来てると思ってた。」
言葉も出なかった。
やっぱり、杉田くんは頼りにならない。
愛は、完全に冷めた。
雪山で、何があったか話しながら温かいコーヒーを飲んで、やっと現実に戻った気がした。
鈴木さん:「最初に怖い思いすると、二度と滑らない人いるけど、澤田は大丈夫?」
「今の所、滑りたくないかなぁ・・・・」
杉田くん:「マジで、ごめん。」
桑原さん:「杉田、酷いぞ。澤田ちゃん、初心者なんだからさぁ、一緒に滑ってあげないと駄目だぞ。可哀想に・・・・・」
「いいよ。私が下手だからさぁ、こんな事になっちゃって。」
気を取り直して、温泉に入りに行く事にした。
とても静かな温泉で、露天風呂は私と鈴木さんの二人だけだった。
「澤田、さっきは大変だったね。やっぱり、
私が一緒に行けばよかった。」
「そんな事ないですよ。怖かったけど、桑原さんが来てくれてよかった。」
「桑原、澤田が居ないって聞いて、すぐリフト乗ったからね。
かなり吹雪だったから、すごい心配してたんだよ。」
「桑原さんって、怖いと思っていたけど優しい人ですよね。」
「杉田は、優しいけど肝心な時にイマイチだよね。澤田の事好きだと思ってたから上手くいってほしいのになぁ。」
「もう少し、頼りになる人がいいです。」
露天風呂で、のぼせるまで鈴木さんと語った
帰り道、みんなクタクタで寝ていた。私は、目を閉じると雪山の光景が目に浮かび怖くて寝ている場合ではなかった。
サービスエリアで、助手席の桑原さんと席を交代した。
運転手は、杉田くんだ。
かなり、気まずい空気がしばらく流れた。
「結衣ちゃん、さっきはごめん。
桑原さんにも、怒られたよ。俺って本当に駄目だよな。」
「そんな事ないよ。
私が、一人で大丈夫って言ったんだからさぁ
、杉田くんは、悪くないよ。」
少し話して、沈黙のままサービスエリアに着いて休憩した。
私は、助手席に座ったままでいた。
「さぁ、行くかぁ。」
桑原さんが、運転席に乗って来た。
なぜか、ホッとした。
杉田くんとの空気が、耐えられなかったからだよね・・・・・・・・・・・
「桑原さん、さっきは有り難うございました
。」
「全然いいよ。あんな吹雪で、怖かっただろ
?」
「うん・・・けど、無事に降りてこれてよかった。」
「そうだな。」
それからも、仕事の事、車の事など話しは尽きず楽しい時間を過ごした。
一度も休憩する事なく、走りつづけた。
「桑原さん、運転大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。澤田ちゃんと話してると楽しくて疲れないなぁ。」
「本当に?じゃぁ、頑張って話さなきゃ。」
「いやいや、眠くなったら寝なよ。」
その後も、ずっと話していた。
結局、休む事なく帰って来た。
クタクタの体で、家に帰りすぐにベッドに入った。
目を閉じると、また、吹雪で怖い景色が出てくる。
そして、上の方から滑ってくる桑原さんが出てきた。
何故だか、胸がドキドキする。
好きとかではなく、憧れ?手の届かない存在??なんて、思っていた。
私の中で、理想の人になっていった。
次の日
久しぶりに、綾さんとシュンくんと会う約束をしていた。
朝起きると
「痛い~~!」
全身、筋肉痛。
手、足の指の先まで筋肉痛。
一つ一つの動きが、痛くて全然上手く動けない。
こんなに筋肉痛は、生まれて初めてだった。
ボードって凄い運動量なんだなぁ。続ければ体が引き締まるかも?
なんて、思った。
家で、待ち合わせをしていたので綾さんシュンくんが来た。
動くたびに
「痛っ、痛っ!」
と、言っては二人に笑われた。
結局、家で食事をする事になった。
まずは、私がボードに行った事に二人はビックリしていた。
たしかに、スポーツには無縁でしかも寒がりで雪山なんて絶対行かない!って言っていた
。
ボードでの出来事を話した。
シュンくん:「怖かったね。スギとはどうゆう関係なの?」
「始めは好き?だったかも・・・けど、今は会社の人。」
シュンくん:「スギは、いいヤツだけど、ちょっと頼りないかな?」
「そうそう。」
綾さん:「なんだぁ、やっと好きな人できたと思ったのに。けど、結衣を置いて滑っていくってどうよ?有り得ないよねぇ。」
「ううん、私がいいよって言ったんだもん
けど・・・・・」
シュンくん:「本当に一人で大丈夫って思ったの?」
「そう!そこなの。
置いてかれた事はいい。けど、一緒に滑ってほしいって言えなかった事が、嫌で。
杉田くんには、いつも気をつかってて、一緒にいると疲れるし、安心出来なかった。
桑原さんが来てくれた時、安心したし話してて疲れないし、こうゆう人がいいなぁって。」
綾さん:「桑原さんって人、好きになった?」
「まさか!桑原さん結婚してるんだよ。」
シュンくん:「結衣ちゃん!!!!」
「やだなぁ、違うよ。桑原さんは、前の彼とは違う。家族が大事で奥さんとも仲良しだよ。子供の写メ見せて自慢してくる人だよ。
好きになんてならない!」
シュンくん:「ならいいけど・・・同じ事繰り返すなよ。」
綾さん:「心配・・・・・・・・・・・」
私は、好きではない事を必死で話した。
必死になる必要なんてないのに・・・・・・
そして、何事もなかったように仕事が始まった。
杉田くんからは、ボード以来連絡はなくなり、桑原さんとは、以前より話す事が多くなった。
2月14日、バレンタインの日。
みんなで、お昼ご飯を食べる。桑原さんは、
奥さんの手作り弁当だった。
中を開けると、小さなチョコが入っていた。
「奥さん、可愛い。今日、バレンタインだからチョコ入れてくれたんだね。」
桑原さん:「カミさんじゃないだろぅ。子供
だよ、きっと。アイツが入れる訳ない。」
「そう?優しい奥さんなのに・・・・・」
桑原さん「外ではな。」
鈴木さん:「たしかに、チョコ入れるキャラではないよね。」
よく分からなかった。
あんなに優しそうで、桑原さんを支えてる感じがするのに・・・・・・
鈴木さんのリアクションも、違和感を感じた。
しかし、私には関係ないし深く考えるのは止めた。
怖い思いをしたボード以来、一度も行っていなかったけど、鈴木さんの説得でもう一度だけ行ってみる事にした。
鈴木さん、山下さん、桑原さん、私の4人だけで。
前とは違い、人数が少ないから気は楽。
このボードで、桑原さんとの距離が縮まる。
今回は、違うスキー場へ行った。そこには、
スノボー教室がありインストラクターが教えてくれる。
鈴木さんに迷惑かけれないし、とりあえず午前中の教室だけ申し込んだ。
鈴木さん達とは、別行動でみんなはゴンドラで頂上へ行った。
私は、集合場所へ向かった。
あれ?誰も居ない。
すると、先生らしき人が歩いてきた。
第一印象 カッコいい!
「今日は、一人だけだね。インストラクターの上坂です。よろしくね。」
えっ?ワンツーマンレッスン?
ドキドキしちゃう。
「よろしくお願いします。私・・・全然滑れないんですけど・・・」
「大丈夫だよ。一から教えるから。」
さっそく、教室用に用意された緩めの坂道で練習スタート。
本当に一から分かりやすく手取り足取り教えてくれる。
転びそうになると、後ろに着いていて支えてくれる。上手に滑ると、もの凄い誉めてくれた。
途中、風が強くなり立っていられないくらいの吹雪になった。
先生は、私が風で倒れないように盾になってくれ肩に手を回し支えながら歩いてくれた。
相手は、仕事。
わかってはいるけど、お姫様のように大切にされ私を守ってくれる夢のような時間だ。
休憩室で、先生と二人で吹雪がおさまるのを待った。
「結衣さんは、どこから来たの?」
「○○県です。」
「えっ?俺の実家があるよ。」
話しを聞けば、隣の市だったけど車で30分ほどの距離だった。
冬は、スキー場で仕事をし夏になると実家へ帰りバイトをしているらしい。
夢の中にいる私は、運命なんてバカな事を考えていた。
鈴木さん:「ちょっとぉ、見てたよ。先生、めちゃくちゃカッコいいね。」
「うん、ビックリした。」
山下さん:「ワンツーマンだったの?ラッキーじゃん。」
鈴木さん:「先生と澤田、いい感じだったよね。カップルみたいにさぁ。」
「そう?女の扱いが上手だったよ。教え方も上手だけど。」
桑原さん:「アイツ、下心あるぜ。」
鈴木さん:「あってもいいよ。カッコいいもん。」
「たしかに・・・・・・・・・」
桑原さん:「バカ言うな!午後は、俺らと行こう。」
正直、迷った。
もう一度、お姫様気分を味わいたいような、
バカバカしいような、よく分からなかった。
後悔のないように、一応、申し込みをしようと受付へ向かった。
受付へ向かう途中、教室の集合場所を見ると3人の女の子達と、先生がいた。
笑いながら楽しそうに話している。午後からは、ワンツーマンではない。
しかも、グループの子達と受けるなんて・・
・・・・
鈴木さん達は、すでにゴンドラに乗って頂上へ行っちゃったし、どうしよう・・・・
教室には行かず、ベンチに座り通り過ぎる人達を眺めていた。
「澤田ちゃん!ここにいたのかぁ、探したよ
。」
「桑原さん。ゴンドラに乗ったんじゃ??」
「あ~・・・澤田ちゃん、教室は?」
「辞めたの、3人グループで受ける子がいて、
何となく嫌で。」
「良かった。あの先生、ちょっとな・・・」
「うん・・・・・・」
「今から、滑る?」
「本当に?でも、私、まだまだ下手だし滑るの遅いよ。」
桑原さんは、私に付き合ってくれると言って一緒にリフトに乗った。
何か変な感じ。
モタモタと滑り、転ぶ私の後ろからペースを合わせて滑ってくれた。
転べば、手を差し伸べてくれる。
今まで知らなかった桑原さんの一面が、見えてくる。
一緒に滑れば滑るほど、どんどん見えてくる
。
安心感でいっぱい。
何度か滑った後、休憩する事にした。
「澤田ちゃん、上手になったね。」
「本当?教室受けたしねっ。先生カッコ良かったし、今日は、ボードが楽しい。」
「ふぅ~ん・・・・・・・・・・」
「奥さんとは、ボード来るの?」
なぜ、ここで奥さんの話しを出してしまったのかわからない。
自分の気持ちにも気付いてないのに、防衛反応なのかなぁ?あえて、奥さんの話しをする事で、好きではないアピール?自分に?
「昔は来たよ。今は・・・来る訳ないよ。」
「えっ?どうして?」
「家、めちゃくちゃだよ。」
「奥さんと仲良しでしょ?素敵な奥さんなのに、めちゃくちゃって・・・・・・・」
「聞いてくれる?」
何を聞くのかドキドキした。
この時、桑原さんの事を安心出来て頼れる優しい人。怖い顔から、カッコいい顔に見方が変わってきている事には、気が付いていた。
ただ、奥さんと仲良しで家族を大切にしている人だから、好きになる事はないと確信していたからこそ、2人っきりでも緊張感もなかった。
今から、何を聞いても揺るがない覚悟を決めた。
「2年くらい前から、喧嘩が増えてきて今なんて毎日喧嘩だよ。」
「そんなに、何が理由で喧嘩するの?おっとりした感じの奥さんなのに。」
「おっとり?外ではな。家では鬼だよ。
喧嘩の理由かぁ・・・同じ空気を吸ってるのも嫌で、同じ空間に居るだけでイライラするんだよ。」
「好きで結婚したのに、どうして?」
「結婚する時は、違ったんだよなぁ。
一緒に暮らすと本性が見えてくるんだ。結婚は、当たりハズレがあるよ。相性が良ければ上手く行くんだろうけど。」
「へぇ、凄く意外だね。」
結婚している男の人は、奥さんを悪く言ったり結婚は墓場なんて言う人もいた。
きっと、奥さん側にもいろいろ言いたい事があってお互い様なのに。
「一番許せないのは・・・・・・・・・」
「何?」
何だろう?
少し沈黙が続いた。
桑原さんは、少し遠くを見ながら話しを始めた。
「喧嘩すると育児放棄するんだよ。子供がお腹すいたって泣いてても無視してあげないし、部屋にこもって出て来なくなる時もある。」
「子育てした事ないから、わからないけど、
奥さん、いっぱいいっぱいなんじゃないの?
余裕がないって言うか精神的に弱ってるんじゃないの?」
「だからって、子供に八つ当たりして怒鳴ったり、たまに、叩いたりする時もあるんだぞ
!子供は、関係ねぇのに・・・」
「桑原さんが、奥さんを助けてあげたら?」
「無理だよ。何かしようとすれば文句言われるし、俺達、離れた方がいいんだよ。子供が可哀想でな。」
夫婦の事なんて未婚の私には、わからない。
結婚生活は、難しい。
離婚は、もっと難しい。
小久保さんの時の事を思い出してしまう。
まさか、『前の不倫の事思い出したくないし、既婚者の男の愚痴なんて聞きたくない』
とも言えずに話しを聞いていた。
「何だか疲れたよ。」
「桑原さん・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何を言えばいいのか、気の利いた言葉が見つからない。
すると、
「結衣さ~ん。」
先生だ。タイミング悪い・・・・・・
「どうして、午後から来なかったの?待ってたのに。」
「疲れちゃって・・・・・」
「大丈夫?午前中頑張りすぎちゃったかな?」
「そうかなぁ・・・・・・」
今は、先生と話してる場合じゃないし、何となく桑原さんの前で止めてほしい。
桑原さんを気にしながら、適当に返事をしていた。
「今から、一緒に滑らない?あっ、教室じゃないよ。」
「いやぁ・・・今日はもう滑らなくても。」
それ所じゃないよ。
早く行ってほしい。
「じゃぁ、電話番号教えてよ。実家行ったら連絡するから。」
「ちょっと・・・・・・・・・・・」
本気で聞いてきてるの?
出会ったばかりで、しかも先生で、相手は仕事で。信じられない!軽すぎる!
桑原さん:「澤田ちゃん、俺ちょっと滑ってくるわぁ。」
そう言うと、桑原さんは行ってしまった。
待って~~~!!!
この場を抜け出す言い訳を考えていた。
「教えてよ。」
「ちょっと、無理・・・・・」
「なんで~?」
結構、しつこい!
インストラクターとしては、最高だったけど男としては、イマイチ。
必死で、この場を抜け出す理由を考え思わず出た言葉
「私、彼氏いるから。」
「なぁ~んだ、そうだったのかぁ、残念。とりあえず俺の番号渡しとくから気が向いたら手間よしてよ。」
そう言うと、立ち去って行った。
一人で、ポツンとベンチに座っていると、鈴木さん達が帰ってきた。
午後からの教室を受けてない事を話すと鈴木さんの方が残念がっていた。
桑原さんとの話しが途中な事が、妙に気になる。
しばらくすると、桑原さんも帰ってきた。
私は、すぐ駆け寄って行き
「さっきは、話しの途中でごめんね。」
「いや、アイツと滑ったの?」
「ううん、疲れてたし・・・・・・・」
「澤田ちゃんさぁ、会って間もない人に電話番号教えるとか、やめた方がいいと思うよ。
誰にでもホイホイついて行くと危ないぞ。」
「ちょっと、誰にでもってヒドいよ。」
「だってそうじゃん。午前中、アイツにもデレデレして、番号まで・・・まぁ、いいけどなっ。」
そう言うと、みんなの方へ行ってしまった。
何?
何であんな事言うの?
ヒドいよ・・・・・・・・・・・
桑原さんに言われた言葉が、頭から離れない
悲しくて、泣きたい気分
どうして?話しが中断したから怒ってる?
その後も、桑原さんの態度は少しおかしく一言も会話する事もなく帰る時間になった。
鈴木さん:「澤田、助手い?眠かったら私か山下が座るけど。」
いつも、車では寝れない私は遠出する時は、
助手席担当になる事が多い。
運転手は、桑原さん。
鈴木さんは、いつも通りに私が寝ないだろうと聞いてきた。
すると、
「俺、眠くないから一人で大丈夫だよ。みんな後ろ乗りな。」
やっぱり何かある。
桑原さん、私に怒ってる。
私が、軽い女に見えたから話しもしたくないの?
自分を全否定されているようで、悲しい。
鈴木さんは、不思議そうな顔をしながらも何も聞かず私と2列目に座った。
山下さんは、いいよ俺座るわ、と言いながら助手席に座った。
何?何?何?
胸が痛いよ。
モヤモヤしてるのも嫌だし、帰ったら直接聞いてみようと決めた。
車に乗っている間中ドキドキして、どうにかなりそうだった。
鈴木さん達とも別れ自分の車に乗った。
電話しようか携帯を持ちながら迷っていたその時、
プププ~
携帯が鳴った。
桑原さんだ!
急いで出た。
「もしもし、良かった!出てくれた!
さっきは、ごめん。言い過ぎた。怒ってるよね?」
「えっ?私が?怒ってないよ。ただ・・・ちょっと傷付いたかな。」
「ごめん。心にもない事言った。何かムカついて・・・アイツ、澤田ちゃんに馴れ馴れしいから腹立って・・・」
先生に?腹が立った?
人として許せない?苦手なタイプ?
まさか・・・・・・・・・・・・・・・
ないよね。
「私、番号教えてないし・・・軽いとか言われたら嫌だよ。」
「軽いなんて、思ってないから。自分でも何であんな事言ったのか・・・ただ、イライラして、マジでごめんな。」
「わかってくれてれば、いいよ。」
最低最悪の気分から、スッキリして最高の気分で、鼻歌を歌いながら運転した。
こんなに、気持ちが浮き沈みするなんて変。
寒い冬も終わり春が来た。
あの日以来、桑原さんから奥さんの愚痴を聞く事はなくなった。
仕事は相変わらず忙しく、店の売り上げはどんどん増えていき、支店が出来る事になった
。
この先、一年で仕事、恋が大きく変化する事になる。
支店は、本店より大きな店構え。
オープンに向けて、人員増加のため新入社員が、次々と入社した。
もうすぐオープンという日。
急に社長に呼ばれた。
「ギリギリまで迷ったが、澤田さん、支店へ移動してください。」
「私がですか?」
「澤田さんは、よく頑張ってくれている。信頼しているから、支店でみんなをまとめてくれ。期待してるぞ。」
嬉しかった。
やっと、社長が澤田さんと呼んでくれた。努力してきて良かった。
そして、オープン一週間前。
支店へ移動するメンバーが発表された。
営業は、5人。山下さんは店長になった。
サービス3人。桑原さんが工場長。
桑原さんと同じでホッとした。
何かあっても助けてもらえる安心感。
オープンに向けて、毎日支店へ行きお店のレイアウトしたり、掃除したり、バタバタとしていた。
大量に出血していた。
ヤバい!
急いで病院へ行かなくては。
駐車場を歩くが、激痛で何回も座り込み治まると歩きを繰り返しながら何とかあるく。
「どうした!大丈夫か?」
桑原さんが走ってきた。
「お腹痛くて・・・・・・」
「すげぇ痛そうだけど、病院行くなら送ってくよ」
「いや・・・・いいよ・・・・痛い~!!」
「送るから、待ってろ!」
「ダメ・・・だって産婦人科だし、自分の車で行きたい。」
「わかった。カギ貸して!」
桑原さんは、私の車で病院まで送ってくれた。激痛で痛い~しか言ってなかったと思う
産婦人科に着くと桑原さんに支えてもらいながら、診察券を出す。
待っている間、何回も大丈夫?と気遣ってくれた。
名前を呼ばれ、緊張しながら一人で診察室へ入った。
診察の結果、子宮が炎症をしていた。
炎症の腫れで、大きなデキモノ?が出来ていて手術で切ればすぐ治るけど、薬で治すなら時間がかかると言われたが、迷わず薬を選んだ。
子宮内洗浄をしたり、何かいろいろ処置してもらった。
先生に無理をしていないか?
ストレスはないか?
疲れが溜まってないか?
聞かれた。
それらが、原因らしい。
すべて思い当たった。
待合室に戻ると、桑原さんがいた。
すごくホッとする。
「長い時間待たせてごめんね。」
「先生、何て?」
一通り診察結果を話した。
「やっぱり澤田ちゃん、シンドイよな。今の状態じゃぁ、負担が大きすぎるよ。俺が何とかするから。
明日は、休みな。社長には言っておくから」
「ありがとう」
「家まで、送ってくわ。」
「でも、桑原さんの車会社だよ。」
「大丈夫。明日は、別の車で行って明後日、
俺が澤田ちゃんの車で迎えに行けばいいだろ」
なるほど~と感心しながら、明後日の朝、桑原さんと出勤出来る事がちょっと嬉しい。
家まで送ってもらい、桑原さんは私の車で帰って行った。
痛みは、薬で引いてきたが病院の処置した時の痛みがありお腹に違和感がある。
すぐにシャワーを浴び、ベッドに横になると携帯が鳴った。
時間通りに迎えに来てくれた。
不思議な気分。
会社に桑原さんと一緒に行くなんて、変な感じ。
「調子はどう?」
「今は、お腹痛くないよ。さすがに一日じゃ治らないけど、今日も仕事頑張る!」
「無理すんなよ。これから、少しづつ会社変わってくと思うから」
「えっ?社長に何か言ってくれたの?」
「あ~、言ったよ。状況話して、人を増やして欲しいってね。社長が、叶えてくれるかはわからんけどな。」
「ありがとう。人が増えてくれたら嬉しいなっ。」
本店から、支店に移動になってから通勤に1時間くらいかかるようになった。
今日は、あっという間に会社に着いた。
何事もなかったように、いつも通り朝の掃除を始めた。
すると、珍しく社長が朝から支店へ来た。
社長が朝礼で話しをした。
本店から、新人が一通り仕事を覚えたら支店に営業2人、事務の女の子1人を増やしてくれる。
平日も営業2人をショールームに待機させる事にする。と発表された。
桑原さんが、話しをしてくれたからだ!!
これで少し楽になれると思ったが・・・・・
支店に来る前に、本店の仕事が出来ずクビになったり、すぐ辞めてしまう新人ばかりだった。
何とか、支店に来ても問題ばかりで、益々疲れていった。
今日は、新しい社員が移動してくる日。
営業48歳 梅村さん
営業経験者で、社長の友達。エロおやじ
事務20歳 神田さん
可愛くて甘えん坊
自分仕事プラス、新人指導にしばらくはバタバタした。
梅村さんは、始めは紳士的で真面目に仕事をしていたが、だんだんボロが出てきた。
店長の山下さんとペアーでショールームにいる事が多かったが、年上だしベテランの営業なので、敬語を使い気を使っている感じだった。
私には、セクハラがすごかった。
ショールームに居る日は、必ず食事に誘われ
断っても断っても何度も。
仕事を教えている最中に、手を握ってきたり腰に手を回して来たり、かなり気持ち悪い存在。
社長と友達だと言う事で、黙っていたが段々みんなも変な人だと少しずつ気付いていた。
ある日、神田さんが事務所から泣きながら出てきた。
「どうしたの?」
「梅村さんに手を触られました。気もち悪い。もう、一緒に仕事するの嫌です。」
周りは、神田さんの鳴き声を聞いて営業さんや桑原さんまで様子を見に来ていた。
私は、心の中で『それだけで?泣く?』と思ったけど、若いし汚れてないんだから仕方ないと思う事にした。
結局、店長が社長に言って梅村さんは、注意を受けた。
神田さんは、みんなから同情され手を触られたショックで、本店へ移動になった。
凄すぎ!
私は、また、女一人になった。
夏になった。
大騒ぎになったにも関わらず、セクハラを辞めない梅村さん。
誰かに相談したかったけど、どのレベルで言ったらいいのか・・・・・・
当時27歳の私が、手や腰を触られたくらいで騒ぐのもおかしい?
食事に毎日誘われたからって、断ってるし大した事ではない。
ずっと、我慢した。
店長が、お客さんに呼ばれ外出してしまいショールームには梅村さんと二人になってしまった。
桑原さん達がいる工場は、ショールームの隣にあるが、お互いの様子は全くわからない。
私は、事務所にショールームに置くカタログを持ちにいった。
すると、梅村さんが入って来た。
「澤田ちゃん、ここに居たんだぁ。
一回くらい食事してよ。僕、寂しいなぁ。」
鳥肌がたつほど気持ち悪い。
仕事だから、表には出さないけど嫌いだ。
「無理ですよぉ。」
いつも通りサラッと断りカタログを揃えていると
ガザッ!!!
何?
自分の胸の下辺りに、黒く日焼けしていて決して若いとは言えないハリのない腕。
右肩の上には、顔。
背中には、体がピッタリくっ付いている。
梅村さんに後ろから抱きつかれていた。
首には、鼻息の荒い息がかかる。
「ちょっと!!!!」
振り払おうとするが、なかなか離れない。
「いいじゃん、減る物じゃないし!」
気持ち悪い~!!気が狂いそうだった。
「離せって!」
思い切り振り払った。
「何?駄目なの?」
もう限界だった。
確かに、20歳の子に比べたら私なんかセクハラされたって大した事ないかもしれない。
けど、私だって女なんだよ!!!
「ふざけるな!この前セクハラで注意されたのに、同じ事繰り返すな。
ここでは、私はアンタの先輩なのよ!二度セクハラすんな!」
スッキリした。
「ハハハハハハハハ」
梅村さんは、笑っていた。
凄くバカにした顔で。
何笑ってるの?
悔しいよ。
梅村さんは、笑いながら再び抱き締めようと近付いてきた。
「今度セクハラしたら、社長に言うよ!」
「そんなん、神田さんじゃあるまいし止めてよ。彼女、手触ったくらいで騒いで。」
笑いながら触ろうとしてきた。
急いで工場の方へ逃げた。
整備士の人達は、15時の休憩中。
どうしよう・・・・・・・
桑原さん・・・・・・・・
怖かったよ。本当は、めちゃくちゃ怖いんだよ。
どうして、強がってなくちゃいけないの?
気付いてよ。助けてよ。
工場の入り口で、どうしたらいいのか分からずウロウロしていた。
ショールームへ戻れば梅村さんが居る。
もう嫌だ。
すると、桑原さんが私がウロウロしている事に気が付いた。
「澤田ちゃん、何してるの?」
あんな事があって、パニックになりウロウロしている私は、かなり違和感があったと思う
今日は、久しぶりに綾さんとシュンくんのお店へ行く予定なのに、残業で遅くなりそうだし、気分は最悪。
ショールームでは、営業さん達が外回りから帰ってきて賑やかになった。
すると
「何やってんだよ!」
店長が、梅村さんに怒鳴っている。
お客さんに出来もしない約束をして、クレームが来たらしい。
本当に、いい加減な人。
梅村さんは、ニヤニヤしながら言い訳ばかり
「ふざけんなって!」
店長の怒鳴り声に気が付いて桑原さんもショールームに入って来た。
「スミマセン。でもねぇ・・・・・・・」
何度言っても言い訳ばかり。
店長は、頭にきて梅村さんの胸ぐらを掴み殴りそうになった時
桑原さんが止めに入った。
何なのこれ!梅村さん来てから店の中がグチャグチャ。いい加減にしてほしい。
梅村さんは、ケロッとして外へ出て行った。
店長は、私の隣に座り
店長:「澤田ちゃん、ごめんね。怖かった?」
「ううん、梅村さんの態度、私も有り得ないと思う。」
店長:「俺も耐えられなかった。桑原さん居なかったらマジで殴ってたよ。」
「でも、暴力は止めて。」
店長:「わかったよ。ごめん。」
桑原さん:「アイツは、駄目だな。ただ、年取ってるだけだな。車もろくに売れないし」
セクハラの事言いたい。
けど、大した事ないじゃんって思われたら嫌だし、どうしたらいいの?
綾さんとシュンくんに相談してみよう。
最悪な一日が終わり、やっと家に帰る事が出来た。
いつものように、宝来の閉店間際に行き3人で話していた。
私は、梅村さんのセクハラの事を相談した。
綾さん:「有り得ないてしょ、早く誰かに言いなよ。」
シュンくん:「迷う事ないって。完全にセクハラだよ。抱きつくって有り得ないだろ、俺の結衣ちゃんに何すんだよ!殴りに行きてぇ~!」
「この年で、セクハラで騒ぐなんて恥ずかしいよ。」
綾さん:「年なんて関係ない!おっさん調子に乗り過ぎ!店長に言ったら?一緒にボード行ったり仲良しだから言いやすいでしょ?」
「まぁねっ。何だかこうゆう事って相談しづらいんだよね。」
シュンくん:「みんな結衣ちゃんの見方になってくれるって!」
「そうかなぁ・・・・・・・」
悩んだけど、綾さんとシュンくんの説得で明日店長に話す事にした。
会社へ出勤すると、朝からバタバタしていて
店長と話せる状況ではなかったから、夕方話す事にした。
一日、何て言おうか?考えながらソワソワしていた。
夕方になり、営業さん達が外回りから帰り始めた。店長はまだ帰らない。
いつも夕方になると、社長が来る。私が帰った後、ショールームで店番をする為に。
社長には、話しを聞かれたくないから店長早く帰って!と祈ったが・・・・・・・
「ご苦労様。」
社長だ・・・・・・・・・・・・・・・・・
仕事も終わりタイムカードを押し店長を待つ事にした。
すると、社長に呼び止められ事務所に来るようにと言われた。
何だろ?
全く分からないまま事務所に入ると、社長の前に座るように言われた。
「澤田さん、梅村の事どうゆうつもりだ?」
「はぃ???」
何だろ?セクハラの事かな?
「とぼけるな!何の事か分かるだろ!」
様子がおかしい、社長、怒ってる。
「何の事ですか?分かりません。」
「本当に分からないのか!じゃぁ、聞くけど
梅村に酷い事しているのか?」
「いいえ、していませんが。」
「梅村が昨日、私に相談してきたぞ!
澤田さんが、他の営業と話している態度に比べ冷たい。自分の客が来店しても、接客してくれないし、コーヒーも出してくれないと。
仕事を澤田さんに聞いても、素っ気なくして教えてくれない。仕事がやりずらいそうだ」
社長を誰の事言ってるの?
私が???
全く身に覚えがない。かなり混乱した。
「私が、梅村さんにですか?」
「そうだ!梅村が言っていた。これは、
かなり低レベルなイジメだぞ。
澤田さん、お前、頑張ってると思っていたのにイジメなんてして。ガッカリした。」
「社長、私、イジメなんてしていません。」
「じゃぁ、梅村が嘘言っているのか!そんなハズはないだろ!」
「でも、私は、そんな事してません。」
「梅村が、イジメられてると思うくらい冷たい態度しているんじゃないか?」
たしかに、梅村さんは嫌いだよ。最低な人だから。
けど、私も大人。仕事だと割り切って付き合ってきたし、梅村さんのお客さんにまで冷たくする訳ない。
「そんな態度した覚えもありません。」
「お前!まだ、嘘付くのか!そんな奴、この会社に必要ないぞ!!!」
「社長・・・・・・・・・・・・・・」
「もういい!」
バタン!!!!!!
社長は、怒って出て行ってしまった。
放心状態だった。
社長が言っている意味が、全く分からない。
手と足が震えてくる。
どのくらい放心状態だったのか分からないが、しばらくすると、自分に何が起きているのか少しづつ理解してきた。
理解するにつれて、涙が溢れてくる。
必要ない。必要ない。必要ない。必要ない。
何度も何度も頭の中で必要ない。がグルグルとまわる。
必要ない。とは・・・・クビだ!
どうして?
会社に必要とされたくて、必死で頑張って来た。入社した頃は、寝る間も惜しんで勉強した。毎日の残業で、遊べなくても一日も早く一人前になりたくて頑張ったのに。
なのに・・・・必要ない?なぜ?
梅村さんが、嘘を付いたの?
この前、セクハラで怒ったから?
そんな嘘まで付く人なの?
気付けば、声を出してワンワン泣いていた。
社長は、私ではなく梅村さんを信じたって事だよね。
信用されてると思っていたのに。
梅村さんの嘘で、私の努力を台無しにされた
セクハラなんて、バカな事して挙げ句の果てに嘘なんて・・・・・・最低。
少し冷静になり、真っ先に桑原さんの顔か゛浮かんだ。
助けて・・・・・・・・・・・・・・・」
泣いて、化粧は崩れ顔はグチャグチャだったと思うが、気にしてられない。
桑原さんを探して工場を歩いていた。
居た!!!
お客さんの新車の用品を取り付けていた。
「桑原さん~・・・・・・・」
桑原さんは、振り返ると同時にビックリした顔になり
「どっ、どっ、どうした?」
「私、社長に・・・・必要ないって。クビみたい・・・・・どうしよう・・・・・」
「何で!!!必要ない?どうゆう事?」
桑原さんは、私を支えるように歩きだし、事務所に入った。
私達は、隣同士で座り泣いている私の肩を抱きながら、頭をヨシヨシしてくれた。
「話せる?」
とても優しい口調。
「うん。」
社長に言われた事、梅村さんの嘘、セクハラ
、今日店長にセクハラの相談をしようと思っていた事を話した。
「アイツ、最低だな!どうして、すぐ言ってくれなかったんだ?」
「だって・・・・恥ずかしいし、いい年してセクハラってね・・・・・」
「バカ!!何言ってる!澤田ちゃんにセクハラなんて、許せねぇ!」
ちょっと待ってて。
桑原さんは、ショールームへと事務所を出て行った。
私は、ポカ~ンとしていた。
桑原さんの温もりが、肩に残っている。
ドキドキ・・・・・・・・・・・・・
桑原さんは、すぐ戻って来た。
「社長、本店に戻ったらしい。梅村も居ないし、山下に話せる?」
「店長に?うん、大丈夫。」
すぐに、店長が来てすべてを話した。
店長:「許せないな。セクハラも嘘も。」
桑原さん:「アイツの言う事信じて澤田ちゃんを必要ないってのも、許せねぇ!」
店長:「社長は、梅村の事何も分かってないな。」
桑原さん:「今から社長に文句言いに行ってくる。」
店長:「俺も行くよ。あと、鈴木さんにも報告しよう。一番怒りそうだな。澤田さんの事を一人前に仕込んだ人だからな。
言ってもいいか?」
「はい、私はどうすれば?」
桑原さん:「俺達に任せて帰りな。」
「えっ・・・・でも・・・・・・」
店長:「泣きはらした顔で、店をウロウロ出来ないだろ?大丈夫だから、安心して帰りな
」
どんな話しをするか気になったが、たしかに、この顔でお客さんに会ってしまったら大変だから、裏口からそっと帰る事にした。
帰りも、自分はクビになるのか不安でいっばいだった。
そして家に帰ったが、気になって何もする気になれない。
桑原さん達が、本店に向かってから2時間ほど
経っていた。
どうなっているんだろう・・・・・・・・
すると、携帯がなった。
本店の電話番号だ。
誰だろう?
恐る恐る出る。
「もしもし…」
「あ、私だけど・・・」
この声は、社長!!
「はい、お疲れ様です。」
「梅村の事だが、すまなかった。私の誤解だったみたいだな・・・・」
「あっ、はい。」
「梅村に問いただしたら、嘘を付いたと言われた。アイツ、セクハラをまだしてたのか!
そうゆう事は、報告してくれ!」
「はい・・・・・・・」
「梅村は、今月いっぱいで辞めてもらうから
、それまでに同じような事があったら、言って下さい。」
「はい。」
社長が、私に謝るなんてビックリして、返事しか出来ない。
「お前は、先輩から大事にされてるな。」
「はい。」
「山下には、梅村について詳しく聞いた。日頃の澤田さんの努力もなっ。」
「そうですか・・・・・・」
「桑原と鈴木には、怒られたよ。
澤田さんの何を見てるのかってな。澤田より梅村を信じるなんて、おかしいって。
鈴木なんて、澤田さんに謝れって言われたよ」
先輩達の優しさが、嬉しくて涙が出て来た。
私を見ててくれる人が居るなんて、すごく幸せ。
そして、社長の話しはまだ続いた。
「桑原には、必要ないってどう言う事だ?努力して頑張ってる澤田さんの事をクビにするのはおかしい。そんな社長の下では働けない
。クビにするなら自分も辞める、なんて言われちゃったよ。」
「桑原さんが、そんな事を?・・・・」
「これからも、頑張って下さい。」
「はい。」
「あっ、それと本当にクビにするつもりはなかったから。」
社長との電話を切った。
携帯を握り締めたまま、動けない。
ドキドキする・・・・・・・・・・・・・
今までは、自分の気持ちに嘘をつく余裕があった。
違う、違う、と否定出来た。
けど・・・・・・・・・・・・・・・・・
社長の話しを聞いてハッキリわかった。
私・・・・・・・・・・・・・・・・・・
桑原さんが、
好きだ。
ただ、頼りになって落ち着くだけじゃない。
この胸のドキドキ感
桑原さんの事を考えるだけで、泣けてきそう
会いたい
私、どうにもならないくらい好き。
暑い夏も終わり、季節は秋になった。
相変わらず、桑原さんの事をコッソリ好きで
、話すだけで幸せだった。
桑原さんも、私に恋愛感情はないけど、後輩として助けてくれたり、優しくしてくれていた。
出会った頃の怖さなんて、全く感じない。
毎日、会えるだけで嬉しかったのに・・・・
本店の工場が物凄く忙しくなり、本店の工場長では手に負えないと、桑原さんと入れ替わる事になってしまった。
支店にいる私は、本店に用事がない限り行く事はない。
週に1、2回、ほんの数分だけ。
寂しすぎる・・・・・・・・・・・・・
新しい工場長が来てから支店もしばらくはグチャグチャになってしまい、桑原さんがどれだけ凄い整備士だったのか、思い知らされ更に好きになってしまう。
心にポッカリ穴が空いてしまった。
「今日、仕事終わったら時間ある?」
「えっ?うん。」
「鈴木とか山下と久しぶりに家来るんだけど
、澤田ちゃんも来る?」
「そうなの?」
もちろん行きたいよ。けど・・・奥さんと子供も居るし・・・耐えられるか不安。
逆に仲良しな所を見れば諦められるかもしれない。
「ちょっと、みんなに話したい事もあるしさぁ、おいでよ」
「わかった。帰りに行くね。」
嬉しいのに怖いよ。
片思いの人の家に行って家族と会うなんて。
でも、行かなきゃ!
行って、自分が好きになってはいけない人を好きなんだって、実感してこなくちゃ駄目だよね。
複雑な気持ちで仕事を終え、緊張しながら桑原さんの家へむかった。
恐る恐るチャイムを鳴らすと、桑原さんが出て来た。
みんなは、既に飲み始めていた。
机の上には、買ってきたつまみが沢山並べてある。
あれ?奥さんは?
不思議に思いながら、席に座っていると
「澤田ちゃんは、飲まないかな?」
桑原さん、私がお酒苦手って覚えててくれたんだ。
「何飲む?」
「お茶で。」
久しぶりにゆっくり会えたのに、妙に意識してしまい、あまり話せない。
みんなが、少し酔いが回り始めた頃
桑原さんが、深刻そうな顔で話し始めた。
「ちょっと、話しあるんだけど、いいか?」
さっき言っていた話しだ。
桑原さん:「実はさぁ、2カ月くらい前に子供連れてカミさん実家に出て行ってさ・・・」
鈴木さん:「えっ、嘘?全然知らなかった」
またかぁ・・・・・・・・・・・・
どうして奥さん出て行くんだろう?
しっかり、旦那を捕まえて置いてよ。せっかく奥さんに会って忘れようと覚悟したのに。
居ないんじゃ、忘れられないよ。
桑原さん:「何年か前から、仲悪くて喧嘩ばかりしてたんだ。」
山下さん:「あ~、この前も喧嘩して車のガラス割られたって言ってたよな。」
鈴木さん:「マジ?まぁ、外ではいい顔してるって、バレバレだったから有り得るかぁ」
「えっ?見た目凄く優しそうなのに。鈴木さん良く見抜いね。」
鈴木さん:「わかるよ。ちょっと、わざとらしい所あるもん、澤田は、すぐ騙されるタイプだよね。」
たしかに・・・・騙されやすいかも・・・・
桑原さん:「そこが、澤田ちゃんのいい所だよ。」
桑原さん・・・・・・・・
桑原さん:「毎日喧嘩してて、子供にまで当たり散らして、アイツも限界だったんだろうな。俺も疲れた・・・・・」
鈴木さん:「出て行ってから連絡は?」
桑原さん:「全くなかった。けど・・・昨日急に夜来たんだよ・・・・・・・・別れようって・・・・・・・・・・・・」
えっ?えっ?えっ?
別れる???
嘘?
嘘だ。騒ぐ夫婦に限って別れない。
騒ぐくせに、ちゃっかり仲直りとかして、離婚しないんだ。
そんなに嫌いならさっさと別れればいいのに、別居したりして。
小久保さんの時の思いがよみがえり、イライラしてきた。
奥さん!!!
意地張ってると奪っちゃうぞ!!!
そして、持ってきた紙を机の上に広げた。
何だろう?
良く見ると・・・・・・・・・・・・・・
これは!!!
離婚届!!!
桑原さんの名前の隣に奥さんの名前が書いてあった。
生まれて初めて見る離婚届。
紙切れ一枚なのに、もの凄い重みを感じた。
しばらく、みんな無言で離婚届を見つめていた。
桑原さん:「昨日、アイツが自分の名前書いて持ってきたんだ。
別れたいとずっと思ってたけど、実際コレ見た時は、凹んだよ。
名前書くときなんか、手が震えた。」
鈴木さん:「コレ、いつ出すの?」
桑原さん:「明後日、アイツが取りに来て出すって言ってた。」
山下さん:「マジでかぁ・・・・」
桑原さん:「離婚してスッキリするかと思ったけど、なんだか気が重いよ。
コレ出した瞬間から、他人だからなぁ。」
山下さん:「たしかに・・・今までの生活ってなんだったのかって思いそうだな。
こんな紙切れ一枚で、すべてが終わるんだもんな。」
鈴木さん:「子供は?」
桑原さん:「アイツが連れて行くよ。養育費は、払う。前から、離婚の話しはちょくちょく出てて、子供とは絶対離れないって言ってたから・・・・・・・子育て出来るか不安だけど、実家にいるから大丈夫だと思う。」
私は、何も言えなかった。
桑原さんに片思いしていた自分が恥ずかしくてこの場から逃げ出してしまいたい。
私の知らない桑原さんの世界がここにあった
奥さんと子供との沢山の思い出がこの家に。
桑原さんに片思いしてる最中もずっと。
会社に居る間の彼しか、私は知らない。
桑原さんが、凄く遠く感じた、
明後日、離婚する事を会社の人にはしばらく言わないつもりらしい。
桑原さんが、離婚・・・・・・・・・・
私は、桑原さんを好き・・・・・・・・
でも、離婚する事が嬉しくない。
いつもの強くて頼れる桑原さんと違って、疲れ切っていて小さく見えた。
奥さんと子供の存在が、とても大きかったんだ。気落ちして、小さく見えるほど大切なものを失おうとしてる。
離婚したからって、気持ちを伝える事なんて出来ない。
もう、忘れないといけない。
桑原さんにとって私は後輩。それだけ・・・
みんなは、結婚とは!で話しが盛り上がり明るい空気に変わっていた。
私は、全く話しが耳に入らず夢でも見ているような感覚で、ボヤ~としていた。
帰りたい。
桑原さんを見ると辛い。
私は、みんなより先に帰る事にした。
玄関で、ブーツを履いていると
「車まで、送ってくわぁ」
桑原さん。
車は、歩いて3分ほど離れた所に止めてあった
。ほんの少しだけど2人で歩ける。
最後、後3分、好きでいさせて下さい。
私達は、ゆっくり歩き始めた。
「ごめんな。ビックリさせて。」
「ううん。」
「離婚って、本当に大変だわ。2人だけの問題じゃないからな・・・・・・・」
そうかぁ、離婚すると親とか親戚、会社、友達も巻き込むんだ。
「桑原さんは、奥さんと別れて寂しくないの?」
「寂しくはない。マジで限界だったから。」
そうなの?奥さんとの離婚で、昔を思い出したりして寂しくならないの?
「寒くなったぁ・・・・・・・」
そう言うと、コートを脱いで私の肩にそっとかけてくれた。
ドキドキする。
桑原さんの温もり・・・・必死で気持ちを押し殺そうとしているのに、溢れてくる。
どうして、こんなに好きになってしまったの
?
私の正義の味方みたいな人。
ゆっくり歩いているのに、目の前には車。
嫌!!!
もっと、好きでいたいよ。
見ていたい。
「仕事はどう?」
「えっ?」
最後に仕事の話しかぁ・・・・
ただの後輩だもんね。
「新しい工場長と、上手くやってる?」
「う・・ん、始めは大変だったよ。工場長、
愛想ないし、職人さんって感じで段取りとか考えてくれないし。
でもね、段々扱い方がわかってきたの。最近じゃぁ、仲良しだよ。」
「そっかぁ・・・俺も澤田ちゃんに上手く扱ってもらってたからやりやすかったよ。本店は、大変だぁ。鈴木はあんな感じだしな」
気付けば、車の隣で立ち話しをしていた。
「澤田ちゃんと一緒に仕事していたかったよ
ぉ。ツー、カー、の仲だったもんな。」
桑原さんも感じていてくれたんだ。
朝、桑原さんを見ただけで、体調や気分がわかる。あれやこれで、だいたい何が言いたいのかわかる。
毎日、朝から晩まで一緒に仕事して家族みたいだった。
「うん、凄く安心して仕事出来たよ。」
「今の工場長とも、そうなるんだろうなぁ・
・・・・・・・」
なれないよ・・・・・・・・・・・
桑原さんが、好きだから、いっぱい見てるから、言葉が少なくても何を考えていたのかわかったんだよ。
「どうかなぁ・・・・・」
もっと一緒に居たいよ。
けど、そろそろ帰らないと桑原さん迷惑だよ
「じゃぁ、そろそろ行くね。コートありがとう。」
「気をつけて帰れよ。」
「うん。」
帰りたくない。
しばらく会えない。
車のドアを開けて乗り込もうとした時
「離婚したら、電話していい?」
「えっ?いいけど・・・・・・・・・・・」
「電話するよ。じゃぁな。」
私は、車に乗り走り出した。
離婚したら、電話?どうして離婚したら??
何でだろう?
どんな内容でも、電話をかけてくれるなんて嬉しい。
次の日も、本店へ行く事はなく、1日桑原さんが心配で胸が痛かった。
夕方になり、店長が帰って来た。
誰も居ないすきに、桑原さんの事を聞いてみた。
「桑原さんと会った?」
「あの事だよな。俺も気になってて本店行った時、桑原探したけど、ちょうど出掛けてて会えなかったんだよ。」
「そうなんだ、昨日、奥さん来たのかなぁ」
「どうなったのか・・・・・・・・・」
話してる途中で、他の営業が帰って来てしまい途中で終わってしまった。
仕事も終わり、今日も会いたい気持ちを抑えて家に帰った。
気になって何も手に付かない。
今日も携帯から離れられずに桑原さんからの電話を待っている。
鳴らない
離婚したら、連絡するって言っていたけど・・・・・ないって事は、離婚していないって事だよな?
私、何やってるんだろう・・・・・・・・
鳴らない携帯ばかり見つめて馬鹿みたい。
勝手に好きになって、片思いして、心配して
、電話を待って・・・一人で何やってるんだろう。
携帯ばかり気にしている自分が嫌になり、携帯を置いてコンビニでも行く事にした。
買いたい物がある訳でもなく、飲み物だけ買いドライブをした。
考えない!考えない!
言い聞かせながら、車を走らせる。
一時間ほど走り帰ってきた。
本当は、真っ先に着信を確認したい所だがぐっと我慢しお風呂に入る。
《私、気にしてません!》のふりをしながら
ゆっくりお風呂に入る。
そろそろ携帯を見てみようと、手にすると着信ありの点滅が・・・・・・・・・・
誰だろう?まさか!!!!
恐る恐る確認する。
《桑原さん》
と出ている。
嘘???????????
連絡くれたんだ。こんな時に限って、手元になかった。
あれだけ待っていたのに、諦めたら電話があるなんて、神様って意地悪。
ソファーに座り、気持ちを落ち着かせてから電話をかけ直した。
プルルルル、プルルルル、プルルルル
「もしもしっ。」
出たっ!!!
「あっ、さっき電話した?ごめん、出られなくて・・・・・」
「うん、話しあってさ・・・昨日、アイツ朝来て離婚届け持って行った。午前中に出しに行ったから、俺バツイチになった。」
「うん・・・大丈夫?」
「あ~・・・実感湧かないわぁ。アイツ、離婚届け渡したら、すげぇムスッと受け取って何も言わずに出て行った。
アイツにとって俺は、最低な旦那だったんだろうな・・・・・人として自信なくしたよ。
俺って、嫌な人間なんだな・・・・・」
「そんな事ないよ。桑原さんは、優しい人だよ。」
「嘘でも、ありがとう。」
「嘘なんかじゃない!」
「嬉しいなぁ・・・・何年も、アイツと喧嘩ばっかで疲れたよ。澤田ちゃんに癒やしてもらいたいな・・・・・」
えっ?
どうゆう事だろう?
「うん!!!元気あげるよ!!!」
冗談ぽく返してみた。
「おう!いいねぇ~。」
しばらく、明るく冗談を言い合ったりしていた。
本当は、ドキドキしているのに。
好きな気持ちを再確認してしまっているのに・・・・・・・
離婚の話しを聞いて電話を切った。
私は、桑原さんを好きでいてもいいの?
離婚したんだし、無理して忘れなくても片思いしていてもいいの?
思いもしなかった突然の離婚で、戸惑っていた。既婚者を好きになってしまいバレてしまわないように隠しソッと見てきた。
でも、忘れないといけないと常に思いながら片思いしていた。
これから、どうすればいいのか分からない。
電話で話してからは、一度も話しをする事なく一週間ほど過ぎた。
突然、桑原さんから電話があった。
「今から気晴らしにドライブ行くんだけど、
一緒に行かない?」
正直少し戸惑った。
きっと、離婚して寂しいから私を誘っている
。もちろん、私の気持ちなんて知らないだろう。
友達や後輩のように接しないといけない。もう、隠す理由はなくなったのに、今更好きなんて態度をする訳にはいかないし・・・・・
けど、会いたい。
今まで通りの態度で行こうと決めた。
家の前まで迎えに来てくれた。
前に乗ったスポーツカーだ。ミッション車でエンジンとマフラーの音が凄い。
乗っているだけで楽しい。
隣には桑原さん。
不思議な気分だった。まさか、2人でドライブするなんて夢にも思わなかった。
こんなに近くにいるのに、手が届かない。
気持ちを伝えるチャンスは、いくらでもあるのに言えない。
今好きなんて言ったら、結婚している時から好きだったとバレてしまう。
絶対引かれる・・・・・・・・・・・・・・
車は、細い坂道をどんどん上がっていく。
エンジンをふかす音がたまらない。
頂上へ着くと凄く綺麗な夜景が広がっていた
こんなに綺麗だと、現実離れしてしまい気持ちがどんどん盛り上がっちゃうよ。
2人で外へ出て無言で、眺めていた。
寒い・・・・・・・・・・・・・
腕をさすっていると、ソッと着ていたコートを肩に掛けてくれた。
優しくしないでよ・・・・・今までも、沢山助けてくれたし優しくしてくれた。
優しくされればされる程、苦しいよ。
好きって、抱きついてしまいたい。
出来る勇気は、ないけど・・・・・・・・
特別なにかあった訳でもなく、ただ優しくしてくれる桑原さん。
私の事をどう思っているかなんて、さっぱり分からない。ただ、大事にしてくれている事は、伝わっているが離婚した寂しさを埋めるために一緒にいるのは、複雑な気持ちになってしまう。
ゆっくり夜景を観て、家まで送ってくれた。
「澤田ちゃん、また、誘ってもいいかな?」
「うん、いいよ。」
部屋に入り溜め息をついた。
桑原さんと会えるのは、嬉しいけど・・・私の気持ちを知ったら、きっと誘われなくなってしまう。
離婚したばかりの桑原さんには、私の気持ちは重いはず。
このまま隠して会わないといけない。
辛いなぁ・・・・・・・・・・・・・・・
モヤモヤした気持ちのまま、桑原さんからのドライブの誘いに何回か付き合った。
離婚から1ヶ月ほど過ぎた。
2月も終わり頃。もうすぐ春がくるのに私の心は、切なくて痛い・・・・これ以上、気持ちを隠して友達のふりをするのは辛い。
手を伸ばせばすぐに届いてしまう所に居るのに、すごく近いのに、もう隠せない。
気持ちを伝えるか?
距離を置いて、会わないか?
迷っていた。
もうすぐ3月。
3月は、毎年めちゃくちゃ忙しくなる。その前にご飯でも食べてゆっくりドライブしようと誘われた。
嬉しいし、会いたいけど怖い。
もうこれ以上は無理だけど、気持ちを伝えるか距離を置くか決められないまま約束の日が来てしまった。
オシャレなイタリアンレストランで食事をして、ドライブをした。
チラッ、チラッと桑原さんを見てしまう。ギアチェンジする筋肉が引き締まった腕。
大きな目に高い鼻。彫りの深い横顔にドキドキしてしまう。
こんなに好きで、忘れられるの?
どうしたらいいのよ!!!
大声で叫びたい。桑原さんが大好き!!!
モヤモヤしている事にたえられず、車を運転させてもらう事にした。
思っていた以上に、面白い。
遊園地の乗り物でも乗っているかのようにはしゃいでいた。
今日の目的地は海。
1時間ほど運転して到着した。
2人で、暗い浜辺を歩いたり走ったりしながら遊んでいた。
その後は、浜辺に座りボ~と海を眺め波の音だけが聞こえてくる。
このまま時が止まればいいのに。
ずっと一緒に居たいよ。
暗闇の静かな浜辺に2人っきりで、気持ちを抑える事なんて出来るわけなかった。
伝えよう
そう決め緊張しながらタイミングを見計らっていたその時
桑原さんがソッと手を繋いできた。
ドキッ!
ヤバい。ドキドキが手に伝わってしまいそう
「なぁ・・・・聞いてもいいかな?」
「うん?何?」
「俺さぁ・・・・・・・・・・・・」
「何?」
「ちょっと待って!恥ずかしいな・・・・」
「どうしたの?」
「あの・・・澤田ちゃんの事・・・好きなんだ・・・・・・」
嘘???今、なんて言ったの?
聞き間違え?だよね。
「えっ?」
「そうだよな、ビックリするよな。離婚したばっかだからな・・・・けど、ずっと前から思ってたんだよな・・・・・・・」
ぽか~んとして、言葉が出ない。
何も考えられない状態で、しばらく無言で固まっていた。
「澤田ちゃんは、俺の事・・・どう思ってるかなぁ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「どうって・・・・・・・・・・・・・・」
あまりに突然で、言葉に詰まってしまう。
「今までいっぱい助けてくれて・・・私にとっての救世主って言うか・・・・・・雪山でも助けてくれたし、調子悪かった時も病院まで連れて行ってくれて・・・・梅村さんの時も・・・・とにかく頼ってばかりで・・」
「いや、俺が澤田ちゃんの事ほっておけないんだよ。
危なかっしいしさぁ、強がってるけど弱い所あるし、体壊すまでがんばっちゃうし、心配で目が離せなかった・・・気付いたら大好きになってた・・・・・」
「私、そんなに危なかっしいかなぁ・・・」
「あ~、心配だよ。変な男寄ってくるし・・スノボー教室のアイツ!かなりムカついた。
嫉妬したんだ・・・・・梅村もなっ。」゜
「そうだったの・・・・・・・・・・」
「ずっと好きだったんだ。離婚するまで言える訳ないもんなっ。
離婚したばっかだし、会社の一部のヤツしか知らないから、まだ早いかもって悩んだけど
、我慢出来なかった。ごめんな、ビックリさせて。」
「ううん・・・ビックリしたけど嬉しいよ。
だって・・・・私も好きだから・・・・」
桑原さんは、目をまん丸にして驚いた顔をした。
「マシで?やった~!!!」
そう言うと、私を強く抱き締めた。
夢みたい。こんなに好きな桑原さんに抱き締められている。
手の届かない人だと思っていたのに、私の所に居る。信じられない気持ちと、片思いしていたつもりが、両思いだった嬉しさに涙がこぼれ落ちた。
「結衣・・・・好きだよ。」
優しく涙を拭いてくれた。
「桑原さん・・・好き。」
再び、抱き付いた。
「付き合ってくれる?」
「うん」
私達は、付き合う事になった。
会社の人達には、内緒で、鈴木さんと山下さんにだけ、報告した。
2人は、やっぱりねって感じのリアクションだった事にビックリ。いつの間に、私達の気持ちに気付いていたのか・・・・・・・
会社では、澤田ちゃん、桑原さんと呼び合い2人っきりになれば、結衣とコウジと呼んだ
なんともくすぐったいような、恥ずかしいような・・・幸せだった。
この後、天国から地獄へと突き落とされる。
綾さんと、シュンくんにも報告するため宝来に集まってもらった。
今まで片思いしていた事、コウジに沢山助けてもらった事、すべて話した。
もちろん離婚してまだ1カ月しかたっていない事も。
綾さん:「離婚したばかりだよね・・・ちょっと心配はあるけど・・・彼は、結衣を大事にしてくれてるみたいだし・・・よかったね。」
シュンくん:「今度こそ、幸せになってほしい・・・これで、結衣ちゃんを諦めれるかもなっ・・・」
「うん?シュンくん?」
シュンくん:「綾さんは、知ってるけど、まだ好きだったんだよなぁ。結衣ちゃんの事」
「ごめん・・・知らなかった・・・・」
と言いながら、知っていたかも・・・・
シュンくんは、いつも側にいてくれて甘えさせてくれる。辛い時は、手を差し伸べてくれて、大切な人だ。
一度、シュンくんの気持ちに答える事が出来なかったから、今更・・・好きになってはいけない人に自然となってしまった。
「結衣ちゃんが、幸せになるなら応援するよ
友達だからなっ!!!」
「ありがとう・・・・・・・・・・・」
コウジが、どんな人か沢山話して盛り上がった。
一年で一番忙しい3月になった。
毎日の残業で、疲れていたが付き合い始めでラブラブな私達は、どんなに遅くなってもデートをした。
何回会っても夢のような気持ちで、毎日が幸せでいっぱい。
いつもコウジに守られている安心感。絶対離れたくないと思った。
3月中旬
相変わらず忙しく9時頃まで残業をし、今日もコウジが家に来た。
コウジの家の敷地内には、実家があるため離婚したばかりで彼女?と思われないように行く事を避けていた。
2人でくつろいでいると実家の母から電話があった。
車のタイヤがパンクしたらしい。父は出掛けてしまっていて、どうしようとの相談だった
話しの内容を聞いていたコウジが、
「俺、交換してあげるよ。」
「えっ?実家だよ。」
ビックリした。
コウジが、母に会うなんて・・・いいの?
今から行くと伝え電話を切った。
「実家だけど・・・大丈夫?」
「もちろんだよ。お母さん困ってるんだろ?
」
「だけど・・・・・・・・・・」
「俺は、結衣に本気だから、お母さんに会いたいし!」
「ありがとう!よろしくね。」
コウジが、母に会ってくれるなんて嬉しかった。小久保さんが親に会うなんて有り得ない事だったから・・・・・・・・・
彼の車で、実家へ向かった。
車の中で、コウジが真剣な顔で話し始めた。
「俺さぁ、いつも思ってたんだ。結衣と結婚したら楽しいだろうなって。
一緒に居ると落ち着くし、安らぐんだよ。」
「嬉しいなっ。私もコウジと居ると楽しいよ」
「結衣との事、真剣だから。」
「うん。」
心が満たされ幸せ。
何が起きても、コウジが居てくれたら乗り越えられる。仕事が大変でも頑張れる。愛の力は凄い!
あっという間に実家に着いた。
母が出てきた。
「わざわざすみません。」
「始めまして、桑原です。」
「遅くにごめんなさいね。あら!会社の人?
」
コウジは、会社帰りに寄ったから会社の名前がバッチリ入ったつなぎを着ていた。
社内恋愛が、一目でバレた。
「はい、そうです。」
コウジは、早速、タイヤ交換を始めた。
パンクしたタイヤは、修理出来るらしく持って帰り修理したら又持ってきてスペアと交換する事になった。
又、2人で来るのか。
照れくさくて胸がくすぐったい。
「ありがとう、助かったわ。又、ご飯でもゆっくり食べに来てね。」
「はい、又来ます。」
ほんの数十分で、母とコウジは仲良くなった
好きな人と親が仲良くするって、凄く嬉しかった。
もうすぐ3月も終わる。
会社帰り、休みなど毎日のように会って幸せを感じた。
実家にも修理したタイヤを持って行き、母の手作り料理を2人で食べた。
今日も仕事帰りにコウジが家へ来て私の作った簡単な料理を一緒に食べマッタリとしていると携帯が鳴った。
誰だろう?
「えっ?杉田くん?」
「杉田?」
杉田くんからの電話なんて、どの位ぶりだろう?
ボードの件以来、パッタリ連絡が無くなったし、私が支店に行ってからほとんど話す事もなかった。
「もしもし・・・・・・・・・・」
「あっ、もしもし・・・久しぶりだね。今、
大丈夫?」
「う、うん。」
「ずっと連絡したかったんだけど、ボード以来ちょっと出来なくて・・・結衣ちゃん怒ってるよな・・・と思って・・・・」
突然、どうしたんだろう。
一人暮らしの杉田くんは、すごく甘えん坊で寂しがり屋。昔から、寂しくて意味もなく連絡があった。
今は、コウジと付き合っているから、私には寂しさを埋めてあげる事は出来ない。
杉田くんを好きになった事で、私には甘えさせてあげだけより、甘えたり甘えられたりする人。頼りになって安心出来る人がいいと分かった。
「ボードの事、全く怒ってないよ。」
「本当?良かった・・・・・・・・」
「また、寂しくなっちゃったの?」
「まぁねぇ・・・ごめんね。結衣ちゃんの声聞いて元気が出たよ。」
コウジは、テレビを観て話しの内容を聞かないようにしている感じだった。
今までのように、杉田くんと中途半端な関係にはなれない。
ずっとハッキリしてくれなかったのに、なぜ今頃電話なんなして、どうゆうつもり?
「寂しいって・・・何かあったの?」
「いや・・・別に・・・ただ、結衣ちゃんに会いたくて・・・」
「どうして?ずっと連絡なかったの・・・いつも曖昧だし・・・・」
「ごめん・・・そうだよな・・・結衣ちゃんの事が頭に浮かんで・・・つい・・・」
「寂しいからって、電話されても・・・私、
彼氏出来たし・・・・・」
「えっ?そうなの?・・・・・・・・・」
「うん」
「俺、バカだよな。
これからも連絡しちゃ駄目か?友達としてでもいいから!」
「それは無理だよ。」
「そんな寂しい事言うなよ。寂しいなぁ」
「今まで曖昧にしてきたのに、どうして今更彼氏出来た私に連絡するとか変だよ?」
「やっと勇気出して電話したんだぜ。彼氏いてもいいからさぁ・・・・・・」
「無理だよ。」
だんだんイライラしてきた。
寂しいからって、電話は無理って言ってるのにしつこいし、今までも振り回して、これからも寂しい時だけ連絡して、バカにされている気分だった。
「どうしても駄目かな?」
「だからさぁ」
続きを話そうとした時、コウジの手が私の携帯に。
「結衣、俺が話す!」
私から携帯を取り上げた。
ちょっと!!!!!!!!!!!
「あのさぁ、結衣に寂しいからって電話するの止めてくれないか!」
杉田くんの声は、聞こえないけどコウジの話している内容で大体わかった。
『桑原さん?』とビックリしていたと思う。
「そうだけど、俺達付き合ってるからさぁ」
『知らなくて・・・すみません・・・・』
謝ったんだと思う。
「知らなかったにしても、彼氏居る子に・・
・・どうかと思うけどな。」
『はい、すみません』
「結衣にかわるよ」
携帯がかえってきた。
「もしもし。」
「ごめんね。知らなくて、桑原さんと付き合ってたんだね。
じぁ、もう諦めないとな・・・・どうしてもっと早く告白しなかったのか・・・今更、
後悔しても遅いよな。」
「杉田くん・・・・・・・・・・」
何って用事もなく、電話を切った。
「杉田からよく連絡あったの?」
「ううん、ボードの件以来なかったんだけど
・・・・・」
「ボードって、吹雪の日に取り残された時の
事か?」
「そうそう!あの日、コウジに助けてもらったんだよね。」
「あの日かぁ、すっげー心配したんだぞ。結衣が居ないって知って無意識にリフト乗って探したんだよなぁ。
あの時から、好きだったんだよ。」
「滑ってる姿、かっこよかったね。めちゃくちゃホッとしたんだから。」
「ってか、もう杉田の電話でるなよ。」
「うん。」
私達は、抱き合った。
私には、コウジしかいない。
ずっと、すっと、一緒にいられますように。
そう祈った。
そして、忙しい3月も終わり4月になった。
残業も少なくなり、仕事の後、ご飯を食べに行ったり映画を観たり、沢山デートを楽しんでいた。
早く仕事が終わった方が、電話を毎日して、大体その日に何をするか決めていた。
4月中旬
少し残業で遅くなり、コウジからの着信を確認したが、まだなく、残業しているようだった。
仕事も終わり、いつものように電話をしてみるが出ない。
忙しいか、お客さんと話しているんだろうなと、とりあえず家に帰った。
家に帰りしばらくして時計を見ると、すでに9時を過ぎていた。
まだ、連絡はない。
どうしたんだろう???
付き合い初めてから、連絡がとれない事なんてなかった。
毎日、電話で話している。
仕事で何かトラブルがあったのでは?と心配した。
結局、電話はなく次の日になった。
朝、電話してみたが出ない。
支度に忙しいのかなぁ・・・・・・・・・
本店に行く用事もなく、モヤモヤしたまま1日仕事をした。
帰りに、電話してみたが出ない
10時頃まで、電話したが出ないし、かかって来ない。
どうしたの?
だんだんと不安になってきたが、一昨日まで普通だった。
家で、ラブラブだった。
昨日から、気持ちが冷めたとは思えない。
事故とかなら、すぐに会社でわかる。
じゃぁ、何?
2日も連絡ないなんて・・・おかしい。
コウジ・・・何だか怖いよ。
会いたい。
連絡がとれなくなってから3日目
待っても待っても鳴らない携帯。
絶対、何かあった。けど、何なのか想像もつかない。
コウジが会社に出勤しているかどうか鈴木さんに聞いてみる事にした。
妙に緊張する。
鈴木さんから、もしかしたらショックな話しを聞いてしまうかもしれない。
勇気を出してかけてみた。
「もしもし、澤田です。ちょっと聞きたい事があって・・・・・・・」
「どうしたの?」
「あの・・・桑原さんって会社に来てる?」
「えっ?来てるよ。」
「1日もお休みしてない?」
「うん、休んでないよ。どうして?」
「3日間、連絡とれなくて・・・何か変わった事とかない?」
「ないよぁ。あっ、そう言えば、最近機嫌がめちゃくちゃ悪いよ。喧嘩とかした?」
「してないよ。なのに、急に連絡とれなくて
・・・いきなり嫌いになったのかなぁ・・」
「それはないでしょ。どうしたんだろうねぇ
・・・明日、聞いてみようか?」
「うん・・・・」
明日、鈴木さんがコウジに聞いて連絡してくれる事になった。
3日前までの、コウジは普通だった。何回も好きって言ってくれたし優しかった。
嫌われた訳じゃないと信じてる。
「澤田?今日も、桑原来てたよ。
昨日より更に機嫌悪い。話しかけづらくてさぁ、昼休みに何気なく、最近澤田に連絡してる?って聞いてみたら・・・・・」
「うん・・・・・・・・・・・・」
「ああ・・・だけ言って部屋出て行っちゃって、午後からも聞ける不意陰気じゃなくてさぁ。」
「そうなんだ。ありがとう、ごめんね変な事お願いしちゃって。」
コウジ。
私の事忘れちゃったの?
ずっと片思いしてて、やっと側にきてくれたのに。
本気だよって、母に会って一緒に食事までしたのに。なのに、なぜ???急に私の前から消えてしまったの?
あんなに近くに感じたのに、今はすごく遠くて今までの一緒に居た時間は夢だったの?
怖い。
苦しい。
会いたい。
理由も分からないまま一週間が過ぎた。
明日は、本店で3月のお疲れ様会がある。仕事を18時までで終わらせ駐車場でバーベキューをする
社員以外でも、家族や彼氏彼女を呼んでみんなで楽しむ。コウジと『同じ会社だから、私達は呼ぶ必要ないねっ!』なんて、微笑み合っていた。
会いたいけど、明日会うのは怖い。
思いっきり無視されたらどうしよう。
急に別れを告げられたらどうしたらいいの?
眠れない夜を過ごし、バーベキューの日がきた。
今日は、18時に仕事を終わらせる為、お客さんの来店予定も少な目にし、営業は外回りせずに店内に居た。
予定通り18時に終わる。
いよいよだ。
1日いろいろ考えた。仮病を使ってバーベキューに行くのをやめようか・・・・・
行ったらコウジに『どうして連絡くれないの
?』と怒るか!・・・・・・・・・・・
全く無視しようか・・・・・・・・・・
結局、何も私からはアクションを起こさずコウジの様子を静かに伺う事にした。
付き合っている彼氏に会うのに、信じられないくらい緊張する。
一週間前までは、幸せでずっと側に居てくれると信じていたのに、今は、信じられない。
どうか、コウジが普通に接してくれますように。
なぁ~んだ、そうだったのか!心配して損したっ!なんて言う理由でありますように。
祈る気持ちで本店へ向かった。
到着すると、本店の人達がバーベキューの支度を始めていた。
社員の家族や彼女も来ている。
私達は・・・・・・・・
どうなっちゃうんだろう・・・・・・・・・
車から降り、トボトボ歩き出した。
歩きながらコッソリ、コウジを探す。
いた!!!
消えて居なくなったコウジがここに居た!!
一週間ぶりのコウジ。
私には、長い一週間だったけど、たった一週間。何も変わってない、私の知っているコウジが居る。
自然に涙が溢れそうになる。
目が合ってしまったら、リアクションに困るから、まずは、気付かないふりをして鈴木さんの所へ行った。
「あっ、澤田。桑原と話した?」
「ううん、怖くて近づけないよ。遠くに居て様子を伺うよ。」
「話し出来るといいね、桑原、今日も機嫌悪いよ。」
コウジを見ると、確かに笑顔がない。
入社した頃の怖いイメージに戻ってしまったみたいに。
支度も終わり、バーベキューが始まる。
焼いているコンロは、2台。
2メートルほどの間隔で置いてあり、コウジとは違う場所にした。
食欲もあまりなく、お肉を焼く係りになった
チラッとコウジを見ても、目が合わない。
全く私を気にしている様子がないように思える。
頭でも打って、記憶喪失にでもなったの?
悲しくなる・・・・・・・・・・・
すると、社長が
「お~い、澤田さん、その肉こっちも焼いてくれ~!」
マジで・・・・・・・・・・・・・
行きたくない。
下を向きながら隣のコンロへ行った。
コウジが居る。恥ずかしい・・・・・・・・
私が大嫌いになったかもしれないコウジが。
出来るだけコウジから離れた所から、お肉を焼こうとするが、手が震えて上手く掴めない
みんなにバレてしまわないように、震えをなんとか隠しながら焼く。
「大丈夫?熱いだろ?」
杉田くんだった。
この前、あんな事があって気まずいはずなのに、コウジとの気まずさに比べたら全然平気だった。
むしろ、避難場所のようだ。
「大丈夫だよ。」
「俺、代わるわ。」
ありがたかった。
私は、すぐその場所から逃げ鈴木さんの居る隣のコンロへ戻った。
まだ、一度もコウジと目も合っていない。
コウジ、私ここに居るよ。
一度も見たくないほど嫌い?
どうして?私、嫌われるような事した?
一週間、悩み考えすぎて頭がパンクしてる。
疲れちゃったよ
周りを見れば、みんな楽しそうに話しながらバーベキューしたり花火をしたりしている。
コウジに笑顔はなく、モクモクと食べている
私は、今にも泣き出しそうな顔で、ただ座っていた。
店長が隣に来た。
店長:「なぁ、桑原と何かあった?お前ら何か変じゃない?澤田は、元気ないし、桑原は機嫌悪いし・・・」
鈴木さん:「やっぱり桑原も変だよね。」
「喧嘩の方が、マシだよ。相手が何で怒っているのか分かるから。
私は、どうして桑原さんに避けられてるのか分からない。もう、嫌・・・・・・・」
店長:「桑原、何考えてるのかなぁ。あんなに澤田に優しかったヤツが。」
「あまりに変わりすぎて、訳が分からない。
自分から、理由を聞きたいけど連絡取れないし・・・今は・・・聞く勇気も元気もない」
どよ~んとした空気で3人で話していると、
一台の車が駐車場に入って来た。
私は、ボ~と見ていた。
どこかで見た車だなぁ。誰の車だっけ???
バン!!!
ドアを閉める音がして、人が降りて来た。
女の人かぁ。
うん?????????????????
あの・・・・人は・・・・・・・・・・・
おっ・・・・おっ・・・・・・奥さん???
コウジの別れた奥さんだ!!!!!!!!
気づいた時と同時に、コウジが奥さんの所へすごい血相で走っていった。
私は、呆然とその様子を見ている。
まるで、映画のワンシーンを観ているかのように。
「お前!!!!何しに来た!!!!!」
コウジ、すごい怒ってる。
「別にいいでしょ。」
奥さん、余裕の笑顔で答えてる。
「帰れって!!!!!!!!!」
コウジ、怒鳴ってる。
「え~、せっかく来たのにぃ。嫌よっ。」
奥さん、怒られてるのに気にせずこっちに歩いて来ている。
「おい!!!!!帰れって!!!!!!!」
益々、怒ってる。
「桑原、いいじゃないか。さぁ、こっちへ」
社長、奥さん、呼んでる。
「すみません。ちょっと、こっち来い!」
コウジ、奥さんの手を引っ張って車まで連れて行った。
あれ?????????????????
何だこれ???????????????
鈴木さん:「ねぇ、何でミヨちゃんがいるの
?」
店長:「何でだ?どうゆう事?」
しばらくコウジは、奥さんと言い合っていた
コウジ、奥さんと喧嘩したのかぁ。
えっ?
全身が痺れてきた
どうして私の彼氏の元奥さんが、あそこに居るんだ?
2人から目が離せない。
見たくないのに見てしまう。
コウジは、ずっと奥さんに怒っている感じだった。
奥さんは、そのまま車に乗り帰った。
一気に形の力が抜け、我慢していた涙が溢れてくる。
鈴木さんと店長は、みんなに見えないように体で隠してくれていた。
奥さんが、ここに来た理由なんて知らないし知りたくもない。
けど、コウジが私の前から消えても一応まだ付き合っている。今は、私が彼女なのに、どうしてコウジと奥さんが、2人で居る所を見せるの???
絶対に見たくないのに。
離婚したって、子供が居るんだから奥さんと会う事もあるとは覚悟してたけど、ここには絶対来てほしくなかった。
だって、今日の行事は、社員にとって大切な人を連れて来る場所だから。
ショックで頭が痛い。
私が、消えてしまいたい
コウジから、私の方が消えたい。
そうすれば、私を見なくてすむでしょ?
ねっ、コウジ・・・・・・・・・・・・
涙が止まらない。
こんな所で、泣きたくないのに。
お願い、止まってよ。
鈴木さんと店長が、何を言う訳でもなく肩をさすってくれている。
店長「おい!どうゆう事だよ!」
鈴木さん:「何で、あの子が来るの!?」
コウジだ。
そこにコウジが居る。
私から姿を消したコウジが・・・・・
久しぶりに、近くに居る。
ゆっくり顔を上げた。
ずっと下を向いて泣いていたから、目がほやけてよく見えない。
だんだん、ハッキリ見えて来た。
目の前にコウジが居た。
今までに見たこともないような悲しい顔をして私を見ている。
一週間ぶりに、コウジと見つめ合った。
「結衣・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「話しがしたい。」
「・・・・・・・・・・・」
「結衣・・・・・・・・・」
「私は・・・話したく・・・ない。」
「結衣、聞いてほしい。」
「聞きたくない。」
「頼む!聞いてほしい。」
「何を?一週間、消えた理由?あの人が来た理由?そんなの知らない。」
「結衣・・・・・・・・・」
「どうして、どうして傷つけるの?私がどんな気持ちで・・・・・・・・」
「話しを聞いてほしい。」
「今日は、無理・・・・これ以上、悲しい話しだったら耐えられない。」
「ごめん・・・・でも、どうしても話したくて・・・・・」
鈴木さん:「今日は、そっとして置いてあげなよ。澤田、まいってるからさぁ。」
「結衣。」
「ごめんね、今は、かなり混乱してる。明日にして。」
「わかった・・・・・」
コウジは、ずっと側に居た。
多分、周りの人にも聞かれてしまっていたと思うが、知らない振りをしてくれた。
バーベキューも終わり、みんな帰り始めた。
車に乗ろうとすると、コウジが来た。
「明日、電話するから。」
複雑。
さっきまで、コウジの連絡を待っていたのに
今は、怖い。
明日、どんな話しがあるのか不安
一週間、全く電話ももらえなかった私には、
いろんな想像が出来てしまう。
しばらく車の中にいた。コウジと元奥さんが一緒に居る姿が、頭から離れない。
泣いても、泣いても、涙がどんどん流れてきてしまう。
見たくなかった。
気が付いたら車を宝来の方へ走らせていた。
宝来へ一人で行くのは始めてだった。
家で一人でいるのは耐えられない、人がいるお店なら、気が紛れるかも?と思った。
泣き顔がバレないように、化粧をしお店に入る。
「いらっしゃい。」
真っ先にシュンくんが見えた。
「あれっ?結衣ちゃん一人?」
「うん、たまにはいいでしょ?」
笑顔で答えた。
カウンターの一番隅に座る。
「何にする?」
「あっ・・・・・・・・・・」
そうだ!宝来へ営業時間に来たんだから、もちろん何か食べないと変だよね。
お腹も空いてないし、食欲なんて全くないよ
どうしよう・・・・・・・・・・・
「餃子で!」
「餃子?珍しいねぇ・・・・・」
ヤバい・・不思議そうな顔で見られている。
「今日は、どうしても餃子が食べたくて我慢出来なかったの。」
「へぇ・・・・・ちょっと、待ってて。」
怪しまれてるかなぁ。
何で宝来に来てしまったんだろう・・・・
誰も知っている人が居ないお店に行けばよかった。
「お待たせ~!」
「ありがとう、頂きます!」
食欲はないけど、一口食べてみた。
美味しい。
アツアツで、肉汁がジュワッと出てきて、たまらない。
一つ一つゆっくり食べながら、シュンくんの事を見ていた。
よく働くなぁ。
自分のお店で、責任とかプレッシャーとか大変だろうに、仕事の愚痴を聞いた事ない。
いつも、相談したり愚痴ったり甘えちゃうのは私。
いつも近くに居て、助けてくれて大切な人なんだよなぁ。
なのに、コウジは・・・・・・
一体、何を考えているんだろう?
明日、何を話すんだろう?
別れよう?
元奥さんが、やっぱり好き?
子供が可愛いから、彼女はまだいらない?
沢山考えている内に、止まったはずの涙が出そうになってきた。
帰らなきゃ!
急いでレジまで行った。
よかった!バイトの子だ。
「帰るの?」
振り向くとシュンくんがいた。
「うん、ごちそうさまっ!」
「結衣ちゃん、何かあった?」
「えっ?何で?何にもないけど!」
「泣いたんじゃない?」
「ううん!」
「そうか?何か変だよ?」
「大丈夫!大丈夫!じゃぁね、バイバイ!」
急いでお店を出た。
シュンくん、ごめん。
また、彼氏の事で泣いているなんて知られたくない。
元奥さんの事で泣いているなんて恥ずかしい
車に乗り、家に帰った。
その日の夜。
シュンくんから、電話があった。
隠していたつもりなのに、何かあったと気付かれていた。
「結衣ちゃん、どうした?彼氏と何かあった
?」
「何にもないよ。」
「何もないのにあんな顔して一人で店に来ないだろう?」
「どんな顔してた?」
「今にも泣き出しそうな悲しい顔。前にも見たことある顔。」
「そっかぁ・・・そんな顔していたんだ。
ちょっと、彼とあってね。」
「やっぱり・・・好きな人と付き合えたんだから、結衣ちゃんは笑ってないと駄目だよ。
あんな悲しい顔・・・俺まで辛くなる。」
「ごめん・・・・・・・」
「あっ、でも辛い事あったらいつでもおいでな。慰めてやる!!!」
「ありがとう。」
詳しい事情は、言えなかった。
シュンくんは、いつも優しい。
コウジは・・・・・良い時と悪い時の差が激しい。頼りになるし、安心出来るけど、一度歯車が合わないと一気に崩れてしまいそうな不安はある。
明日が怖い。
連絡が取れなくなった理由、元奥さんが、店に来た理由をハッキリさせないと。
不安な夜を過ごし朝が来た。
朝から緊張しながら、コウジからの連絡を待った。
お昼過ぎ、コウジからの電話が鳴る。
久しぶりに見る《桑原さん》の表示。
どれだけ、これが見たかったか・・・・・
今から家に来ると言われたが、コウジの気持ちがハッキリ分かるまで、家には入れたくなかった。
家とコウジの家のちょうど中間地点にある大きなパチンコ屋の駐車場で会う事にした。
久しぶりに会うのに、いつものデートとは違う。まだ、何も聞いていないのに、憂鬱な気持ちで支度をする。
信じたいのに、今はマイナスな事ばかり頭に浮かんでしまう。
だって、元奥さんを見てしまったんだから、
連絡がなくなった理由は、元奥さんが関わっているのでは?と考えてしまう。
適当に、化粧をしてラフな格好で出掛けた。
駐車場は、車で10分ほどで到着した。
まだ、コウジは来ていない。
深呼吸をして、覚悟を決めた。
ブォ~ン、ブォ~ン
コウジの車のマフラーの音が遠くから聞こえて来た。
あっという間に隣に止まった。
私、頑張る!
コウジは、車を降りて私の車の助手席に乗った。
「久しぶりだね・・・・」
「ごめん・・・・」
コウジは、下を向いて私の顔を見ようとしない。
全く笑顔はなく、元気もない。
あんなに強そうなイメージのコウジが、とても小さく見える。
そんなに深刻そうな顔されたら、益々、不安になってしまう。
コウジが、話し始めるまで無言で待っていた
「連絡出来なくてごめん。」
「どうしたの?私を嫌いになった?」
「違う!大好きだよ。」
「じゃぁ、どうしたの?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ひとまず、嫌われてなかった事にホッとした
少し気持ちが楽になつたので、早く理由が知りたくなったが、コウジは黙ったまま。
「ねぇ・・・どうしたの?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
長い沈黙
今思えば、何も言わずに、嫌いになった!と言われた方が、楽だった。
長い沈黙の後、予想もしなかった理由を聞いてしまう。
コウジは、やっと顔を上げ私を見た。
とても辛そうな顔。
何?
どうしたんだろう?怖いよ。
「あのなっ・・・・・・・・・・・」
「ちょっ、ちょっと待って・・・何か聞くのが怖いよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コウジは、また、下を向いた。
どうしよう。
コウジの話しを聞きたいけど、このドヨンとした空気は、何?
私の事は好きって言ってくれた。なのに、他にコウジが辛そうにする理由は、何?
やっぱりハッキリ聞こう!
「コウジ・・・・話して・・・・・・・」
「わかった・・・・・・ハァ・・・・・・」
コウジは、深いため息をついた後、話し始めた。
「俺達、付き合い始めて2カ月くらいだよな。
付き合う前から・・・ずっと・・・好きで・
・・・やっと付き合えたのに・・・・」
「何?」
コウジが泣きそうだ。
私も怖くて泣いてしまいそう。
コウジは、再び顔を上げ悲しそうな顔で、話して始めた。
「結衣・・・俺・・・・」
「うん。」
「離婚・・・・・・・・してなかった。」
「えっ?何?」
「離婚してない。」
離婚してない?って言った?
そんなハズない!
聞き間違え?
「離婚してないって言った?」
「うん・・・・・ごめん。」
嘘だ!
「何でそんな事言うの?嘘でしょ?」
「ごめん、嘘じゃない。」
「絶対、嘘!私の事嫌いになったなら、別れようって正直に言ってよ!」
「嫌いじゃない!好きだよ!
俺だって、まさか離婚してないなんて思ってもなかったよ!!!」
「嘘よ!!!!!!」
訳が分からず、パニックになった。
離婚してない。
その言葉だけが、頭の中をグルグルまわる。
続きを聞く余裕などなく、ワンワンと泣きまくった。
「結衣、聞いてくれ!!!」
「嫌!何も聞きたくない!!!ヒドい!ヒドい!ヒドい!」
「俺だって!どうしたらいいのか!!!」
「何行ってんの!?嘘つき!!!!」
私は、怒鳴っていた。
我を見失い泣きまくった。
コウジが、離婚してない。
全く訳が分からずに、どのくらい泣いただろうか?
気が付けば辺りは薄暗くなり益々気分は落ちていく・・・・・・
ヒクヒクなりながらも、涙は止まらず目はパンパンに腫れ痛くなった。
泣きながらも少し頭が働くようになった。
「どうゆう事?」
「アイツ、離婚届け出してなかった。」
「どうして?出してないなら、出せば?」
「そうしたいんだけど・・・・・・・・」
「何?隠さず話して!」
長い時間話していたが、泣きながらで半分以上覚えていない。
コウジの話しによると
奥さんが、離婚届けを渡たして実家に帰った。
コウジがサインして、奥さんに渡し出しに行ったハズが・・・・・
一週間ほど前、急に連絡があり『なんで、連絡して来ないのよ!」と怒りの電話。
コウジは、『知るか!離婚したのになんだよ!!』と言うと、離婚してないと。
奥さんは、コウジがまだ好きで離婚届けを渡してコウジの気持ちを試したかった。
しかし、サインして渡され何の連絡もないから、焦って連絡して来た。
コウジが、離婚したくない。と実家まで迎えに来るのを待っていたらしい。
そして、先日奥さんが帰ってきた。
私には、耳をふさぎたくなるような話しだった。
まさか、奥さんがコウジを試してたなんて。
そして、今、コウジは奥さんと同じ家で暮らして居るなんて・・・冷静なんかで、居られる訳がなかった。
だって、私が彼女だよ!!!
「どうして・・・こんな事に・・・・」
「ごめん・・・結衣を巻き込んでしまった」
「何とかしてよ!私の中でコウジは、彼氏。
奥さんは、元奥さんだよ!
同じ屋根の下に住んでるなんて有り得ない。
胸が張り裂けそうなくらい、苦しいよ。」
「わかってる。何とかするから・・・・」
「コウジも騙されていたんだよね?弁護士とかに相談してよ。」
「うん・・・・・とにかく、少しだけ時間が欲しい。」
「待てって事?嫌だよ!今すぐ離婚してよ」
「アイツが家から出て行かないんだよ。
あんなに、仲悪かったのに。俺も意味が分からないんだよ?」
「意味なんて分からなくていいから、早く離婚してよ。じゃないと、不倫してる事になるのよ!冗談じゃない!私は、コウジの彼女でしょ?」
「そうだよ。結衣が大好きだよ。
何とかするから!ただ、結衣と付き合ってる事をアイツに知られたらマズい。結衣を巻き込んじゃうから・・・・・・」
「コソコソするって事?嫌よ!」
小久保さんの時の事が、頭をよぎる。
また?不倫なの?どうして?
二度とあんな辛い恋愛したくなかった。
コウジは、私の事を本気だと言って実家にまで行ってくれた。
小久保さんとは違うよね?
信じてもいいよね?
離婚していなかったと聞かされ『はい、わかりました。別れます』なんて言える訳がない
いくら話しても答えなんて出ない。
その日は、帰る事にした。
私との事を奥さんに、バレてはいけないと、
必要最小限の連絡にすると言われた。
自分に何が起きているのか、分からない。と言うより、受け入れなれない。
泣きすぎとショックで、フラフラしながら、
やっと家に到着した。
しばらくは、ぼんやりとしていたが、冷静になればなるほど辛く気持ちのやり場がない。
お風呂に入れば、コウジとの思い出が浮かび
涙が止まらない。
ベッドに横になれば胸が苦しくて横になっていられない。
ソファーに座れば、胸が張り裂けそうになり泣き崩れてしまう。
一体、どうしたらいいの・・・・・・・・
眠れない夜が何日も続き、ご飯もろくに食べれない。体は、どんどんボロボロになるのにコウジからの連絡はない。
朝の日差しは、眩しすぎて早く夜になってと思うのに、夜になれば眠れず静かすぎて壊れてしまいそう。
コウジ。
あなたは、私の救世主だよね?
いつも助けてくれたよね?
なのに今は・・・あなたによって傷ついてボロボロになってるよ。
消えてしまいたい。
心からそう思った。
あの日から、二週間ほど過ぎた頃、
シュンくんが、前に会った時に様子がおかしかったのに全く電話に出ないと心配して、綾さんと突然家に来た。
二人の顔を見た瞬間、ようやく我に帰った気がした。
二週間、家と職場をただただ往復し、感情も麻痺しておかしくなり、生きているという実感もなかった。
まず、二人は私が痩せた事にビックリしていた。そして、怒られた・・・・・・
もう、一人では抱えきれないと思いコウジから突然、連絡がなくなり、バーベキューで奥さんが現れた事、そして、離婚していなかった事を話した。
綾さん:「なんで!こんな事に?その奥さん
、どうゆうつもり?」
シュンくん:「いや、男が悪いだろぅ!!!
奥さんにそこまでさせる程、追い詰めたんだろ?」
「違うよ!相性が悪かったの!離婚届けまで出して試すなんて、最低だよ!」
シュンくん:「そうか???だって、結衣ちゃんの事が好きなら一番傷つけない方法を考えるだろぅ?そんな話ししておいて、連絡ないんだろ?俺なら、心配で無視なんて出来ないよ」
「奥さんに、バレたらマズいからだよ・・・
離婚するのに、不利になるから・・・・」
綾さん:「同じ会社だよね。バレないように連絡する方法なんて、いくらでもあるよ。
二週間も放置なんて・・・結衣の気持ち考えたら出来ないよ。」
「別れて、私の所へ来てくれるなら、連絡なくても待てれるよ!」
シュンくん:「好きな人を待つって・・・痩せてボロボロになっちゃ意味ないだろう?
ソイツの事考えて幸せな気持ちになるか?癒されるか?」
「今は・・・・違うよ。けど!!!今までは癒されたよ。奥さんが戻って来るまでは。」
綾さん:「結衣。今は、まだ受け入れられないから、好きにしたらいい。
けど、ご飯は食べな。体の調子が又悪くなったらどうする?』
「うん・・・・・・・・・・・・・・』
シュンくん:「あと、連絡は取れるようにしときな。倒れても分からないだろ?」
「うん・・・二人共ありがとう・・・私、また、同じ事くり返してバカだよね。
まだ、自分がどうしたいのか分からない。」
シュンくん:「落ち着いたら、また、話そ」
綾さん:「結衣、明日は、宝来に行って食べよ!お腹いっぱい食べれば元気になるよ」
「うん・・・・・・・・・・・・」
二人は、夜中に帰って行った。
こんなに大切な友達がいるから、寂しくなんかないのに・・・どうして、コウジにこだわってしまうの?
次の日
宝来へ閉店間際に綾さんと行った。
久しぶりにマトモな食事なのに、なかなか喉を通らない。
一生懸命、半分くらい食べた。
他のお客さんは、楽しそうに話し、美味しそうにラーメンを食べている。
私は、ドヨ~ンとし景色がすべて真っ黒に見える。嫌な夢をずっと見続けているみたい。
早く目覚めたい。
綾さんとシュンくんと特に何を話す訳でもなく、ただ側に居てくれた。
きっと、一人だと更に辛くなると思って側に居てくれたんだと思う。
有り難い。
帰り際シュンくんから
「辛かったら、いつでも連絡しておいで。店に来てもいいし。とにかく結衣ちゃん・・・
何が結衣ちゃんにとって幸せかよく考えないと・・・・・・」
私が、どんな決断をしてしまうのか二人には分かっていたようだった。
私自身、この時には、分からなかったのに。
暗闇から抜ける事が出来ずに1ヶ月ほど過ぎた。
コウジから急に会いたいと連絡があった。あの日以来、一度連絡がなかったのに。
仕事帰りに、パチンコ屋の駐車場で待ち合わせをした。
久しぶりにコウジに会う。
この1ヶ月、私は地獄だった。世界がまるで変わってしまい、辛い毎日だった。
コウジは、どうだったの?
私の事をスッキリ忘れて、元の家族と上手くやってた?
少しは、私と会えなくて寂しいと思ってくれた?
会えるのは嬉しい!けど、怖い気もする。
仕事も終わり、パチンコ屋に行った。既にコウジは、着いていた。
車を降りて、コウジの車に乗った。
コウジだ!
見た目は、前と変わっていないように思えた
「結衣、久しぶり・・・元気だった?」
「元気な訳ないよ・・・どうして連絡なかったのに、今頃連絡を?」
「ごめん・・・結衣に会いたくて。」
コウジの顔は、疲れていた。
言いたい事、沢山あったのに言葉にならない
沈黙の後、コウジから話し始めた。
「まだ、離婚出来そうにない。けど、結衣は好きなんだ。・・・・・待っててくれる?」
「えっ‥‥?離婚できるの?」
「するよ。今の生活は、耐えられないからな
。」
私もコウジが好き。
けど・・・又、待つの?
二度と同じ事は、繰り返したくない。
「待てない・・・・・・・」
「どうしても駄目か?このまま、結衣と終わらせたくない。付き合っていたいよ。」
「待てない!」
あんなに、一カ月辛くてコウジに会いたかったのに、待たないとその場で決めた自分に驚いた。
気が変わらない内に、コウジと離れないと。
「今まで、いっぱい助けてくれてありがとう。奥さんと仲良くね。」
「そんな事、言うなよ!別れたくない!」
「無理だから・・・・・・」
「絶対、別れる!辛い思いはさせない!幸せにするから!」
「無理だよ。じゃぁね!」
車から降りようと、ドアを開けた。
会社で待ち合わせ、空港へ行った。
コウジがいる。
お互い声を掛ける事なく、目も合わさない。
微妙な距離を保ちながら、出発時間を待つ。
まだ、時間があるので、それぞれ自由に待つ事になった。
鈴木さんに誘われ、コーヒーを飲みながら待つ事にした。
「澤田、聞いたよ。桑原、離婚してなかったんだって?大丈夫?」
鈴木さんと店長は、最近、コウジから聞いたらしい。
二人以外の社員は、離婚騒動の事すら知らない。当たり前のように結婚しているものだと思っている。
なのに私は・・・・まだ、忘れられず引きずっていた。小久保さんの時のように、惨めになりたくないために、必死だった。
「ショックだったよ。桑原さんとは、別れたけど・・・なかなかねぇ。」
私達の状況を知っていてくれる人が居るだけで、心強かった。
今までコウジと仲がよかったが為に、避け合っている私達は、違和感があったと思う。
出国し、飛行機はグアムへと到着した。
コウジと付き合っていたら、どれだけ楽しかったか・・・・・・・・・・・・
ホテルに到着。
高級感があるステキなホテルで、目の前には海。ホテルの一階は、ブランドのお店がズラリと並んでいて、ホテルに居るだけで十分楽しめそうだった。
オシャレなソファーに座り、チェックインの手続きを待っていた。
あれ?なんか、急にクラクラするぞ・・・・
体が、身震いして寒い。
おかしい・・・・・熱が出たかな?
どんどん熱が上がっていくのが、自分で分かった。
店長が手続きを終え部屋を発表した。
社長の奥さんが、勝手に部屋割りをしていた
私は、神田さんと同じ部屋だった。
神田さんは、可愛い子で甘えん坊。ほって置けないタイプ。
海外旅行は、初めてで、グアムには全く適していない服装で来ていた。
胸が見えそうなキャミに、ミニスカート、高いヒールのサンダル。
このサンダルがキッカケで、、コウジと大喧嘩する事になるなんて・・・・・・・・・
部屋に入るなり、神田さんは大きな手鏡を出した。
彼女は、ジッと鏡を見ていた。
そう言えば、いつも鏡を見ている。
仕事中も、机に鏡を置き1分間隔で見る。食事中も鏡を目の前に置き、見ながら食べる。
どこで、何をしていても鏡を見ていた。
可愛いから、そんなに見なくても大丈夫なのに・・・逆に、可愛いから自分にうっとりしているようにも見えた。
神田さんが、トイレに入った。すると
「澤田さ~んっ、ちょっとぉ!!!」
どうした???
「流し方がぁ、わかんない~。」
そっかぁ、海外旅行は初めてだからなっ。
枕高すぎぃ~
コンセントが合わない~
靴のままイヤ~ン
お肌のお手入れの何番目かに塗る美容液の量が少ない~、どうしよう~
次々とビックリ発言が続いた。
海外旅行初めてだからなっ。仕方ないねっ。
体がどんどん辛くなってきらから、適当に返事をした。
内線で、ホテル周辺を散策しよう!ロビーに集合との電話。
自分で触っても熱いと分かるくらい、熱が上がっている事がわかった。
このままでは、3泊4日の旅が台無しだ。
散策には行かず、夕方まで寝る事にした。
神田さんは、一人ロビーへ向かった。
ベッドに横になると
ピンポ~ン
誰だろう。
ドアを開けると杉田くんだった。
「今から皆で出掛けるんだけど、連絡あった
?」
「うん、神田さんは、もう行ったよ。私は、
ちょっと休憩してるよ。」
「どうしたの?大丈夫?」
「うん、ちょっと熱っぽいだけ。」
「風邪かなぁ・・・薬持ってくるから待ってて?」
杉田くんは、すぐ薬を持ってきてくれた。
本当に助かった。
荷造りの時に、風邪薬までは思いつかなかった事に後悔していたから。
「一人で大丈夫?」
「うん、寝てるだけだから大丈夫だよ。」
杉田くんは、皆の所へ行った。
薬を飲み、すぐにグッスリ寝てしまった。
目が覚め起き上がると、体が随分楽になっていた。
杉田くんの薬、凄い!
時計を見ると17時になっていた。
皆は、どうしたんだろう?
携帯は使えないし、とりあえずホテルのロビーまで行って見る事にした。
ロビーへ行くと、皆がソファーに座っていた
杉田くん:「あっ、結衣ちゃん。大丈夫?今から呼びに行こうと思ってたんだぁ。」
鈴木さん:「今から、ちょっと遠くまで夜ご飯食べに行こうと思って。澤田も行くよね」
熱は、下がったけど、まだ少しだるかったがせっかく来たんだし、頑張って行く事にした
皆は、立ち上がり歩き始めると
「澤田ちゃん、神田さんちゃんと面倒見てやれよ!」
コウジだ。
「えっ?」
「さっき、一人で来させて寝てたんだろ!ロビー分からなくて迷ってたんだぞ!」
ロビーを迷った?
たしかに、一階は、ブランドのお店やレストラン、二階がロビーになっているけど・・・
迷うか?迷っても私の責任か?
杉田くん:「桑原さん、結衣ちゃん、熱あって寝てたんだから仕方ないよ。」
「ちゃんと面倒見てやれ!」
何て態度!
昔の頭ごなしに怒るキャラが戻ってる。
呆気に取られ、何も言えなかった。
雑誌に載っているお薦めのレストランを目指してバスに乗り、降りてからはひたすら歩いた。
私が寝ている間に、コウジと神田さんは妙に仲良くなっていた。
バスに乗る席も、歩く時も、隣で神田さんはコウジにベッタリ甘えている。
しばらく歩いていると
神田さん:「イヤ~ン、足が痛くなってきちゃったぁ。」
コウジ:「大丈夫?少し休憩しよ。お~い!
皆、止まって!」
歩道で、皆で神田さん休憩に付き合った。
《そんなサンダル履いてるからだよ!》
再び歩き始めても、二人はノタノタ歩き私達と500メートル以上離れてしまった。
コウジ:「お~い!澤田ちゃん!少しは、神田さんにペース合わせてやれよ!」
私?????????
「神田さん、足痛いなら、楽な靴買ったら!
」
杉田くん:「そうだよ。あの辺に靴屋あるよ
。行こっか?」
神田さん:「え~!でも、この靴、気に入ってるからぁ・・・変な靴ヤダしぃ・・・・」
「なら、この辺りのお店に変えてもらおっか?」
杉田くん:「そうだよ。まだ、距離あるから無理でしょ?」
「え~、でも、あのレストラン行ってみたいしぃ・・・ゆっくり行けば大丈夫!」
《おい、おい、ゆっくり過ぎるでしょ?》
コウジ:『ゆっくり行こっかっ?」
何故?あからさまに神田さんに優しくするの?
ムカついた!
鈴木さん:「どうしたの?」
コウジ:「神田さん、足痛いから俺達ゆっくり行くわ。先、行ってて。」
鈴木さん:「ってか、神田、サンダル変えたら。それじゃ、痛くなるよ!」
さすが、鈴木さん!スカッとした。
鈴木さんは、呆れながら先に行く事になった
私と杉田くんも、歩き始めると
「澤田ちゃんも、付き合ってやれよ!先輩だろぅ!」
また?
いい加減、我慢出来ない!
「何で私が?それに、何でそんな言い方されないといけないの?」
「はっ?そんな言い方って、お前が優しくしてやらないからだろ!」
「だから、足痛いなら靴買えばいいでしょ!
子供じゃあるまいし!」
「おい!気に入らないなら帰れよ!」
「どっちが、気に入らないよ!アンタが私の事、気に入らないんでしょ!帰る!」
バス停の方へ、歩き始めた。
杉田くん:「結衣ちゃん、待って!俺も行くわ!」
コウジ:「杉田、神田さんと行ってくれ!」
杉田くん:「えっ・・・・でも・・・・」
コウジ:「いいからっ!」
コウジは、私の腕を掴んだ。
「待てって!」
「帰る!」
「一人なんて、危ないだろ!」
「ヒドい人!神田さんに優しくして!何なの
!」
「仕方ないだろ・・・結衣だって、優しくしてやれよ。嫉妬してるのか?」
「はっ?何で私が?神田さんに嫉妬しないといけないの?部屋も一緒だし、私だって我慢してるのに!どこに嫉妬するって言うの?」
「どこって・・・若さ・・・・」
「最低!」
若さ?何て無神経な失礼な発言なんだろう。
有り得ない!
無我夢中で歩いた。
振り向く事もなく、バス停へ着いた。
すぐ、ホテルまでのバスが来た。
乗ろうとすると
コウジも後から、来ていて同じバスに乗った
離れた席に座る。
横になりながら考えた。
嫉妬。
私は、コウジと神田さんが仲良くしていた事に、ヤキモチを?
まだ、そんなに好きなの?
諦めの悪さに、自分が嫌になった。
数時間して、神田さんと杉田くんが一緒に部屋へ帰って来た。
神田さん:「ただいま~、結局、足痛くてサンダル買っちゃったぁ。ほら、ペッタンコ!
ダサいでしょぉ?」
「ううん、可愛いよっ!」
無邪気に笑う神田さんに妙に癒された。
私、どうかしてた。
あんなに、コウジに怒って。数ヶ月間のコウジへの感情を今回の事でぶつけてしまった。
そう、コウジに呼ばれ駐車場へ行った日。
離婚したとの報告かも?と心のどこかで、期待していた。
しかし、コウジから出た言葉は、待ってて
だった。
あの時、怒りにまかせて怒鳴って、自分をさらけ出していたら・・・・・・・・
惨めになりたくなくて、悔しくて、強がっていた。
ごめん・・・言い過ぎたね。
杉田くんは、皆に私が調子悪いから先にホテルに帰ったと伝えてくれていた。
夜になり、ホテルのレストランでディナーを楽しんだ。
コウジの事を、諦めて前に進もうと決めたら
久しぶりに、心から楽しい事を、楽しいと思えるし、美味しい物は、すごく美味しいと感じる事が出来た。
ディナーを終え部屋に戻ろうとした時
「結衣、ちょっといいかな?」
コウジだ。
「うん。」
「話したいんだ・・・浜辺でも散歩しよう」
二人で、夜の浜辺を歩く。
夜の海は、昼とは違いとても静かで、ほとんど人もいなかった。
「昨日は、ごめん。」
「私こそ、言い過ぎちゃった。」
「悪いのは、俺だから・・・杉田に嫉妬して大人気ない態度をとった・・・情けねぇよ」
「杉田くん?・・・・・・・」
「杉田、結衣の事、前から好きだろ?最近、妙に結衣と一緒にいるし・・・ここ来てからも、いつも側で結衣を助けてるだろ?
俺の役目なのに・・・結衣が、他の男となんて嫌だよ!」
「コウジ・・・・・・」
「頼むから、側に居てほしい。」
「コウジは、結婚してるんだよ。私だって、
受け入れられないくらい辛かった。でもね、
離婚出来ないでしょ?」
「離婚するよ!」
「いつ?」
「頑張るから!1日も早く別れてくるから」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「私は、コウジの事、諦めるよ。待たない」
「結衣・・・・・・・・」
昨日は、あんなに冷たく怖い顔していたのに
今は、優しくて、とても悲しそうな顔。
この先も、冷たくなったり優しくなったりするんだろうな。
コウジ・・・・・・・・・
自然に涙が出る。
「そんなに、辛いか?」
コウジの抱き締める腕が、強くなる。
「結衣、離したくないよ!」
「コウジ、辛い。」
コウジの腕は、緩み優しくキスをした。
涙が溢れ出てくる。
少し唇を離し
「辛いんだな…もう・・・俺も諦めないと駄目だな…」
コウジも泣いてる・・・・・・・・・・
私は、再びコウジに抱き付いた。
「コウジも辛かったんだね。私だけが苦しんでいるとばかり思ってた。ごめん。」
しばらく抱き合っていた。
「結衣、俺達、友達になれるかな?」
「どうかな?まだ、わからない。」
「友達なら、いいか?」
「うん。頑張ってみる。」
抱き合いながら、友達になった。
「そろそろ、戻ろう。」
「そうだな。」
浜辺を歩き始めると、手を繋いできた。
「ちょっと、友達は手は繋がないでしょ?」
「そっかぁ、ごめん。ごめん。」
私達は、部屋へ戻った。
1月1日
年賀状が届いた。
一枚、一枚、丁寧に見ていく。
すると、桑原と言うハガキが出てきた。
あれっ?
なんと、家族写真の年賀状。
コウジと友達になってからは、皆で遊んだりたまに、電話があったりしていた。
違和感のある、ぎこちない友達関係だった。
年賀状を見た瞬間、本当にコウジは友達だと思えた。
未練は、なくなり私の中でコウジは消えた。
家族写真、ありがとう。
心から感謝した。
1月2日
コウジから、電話があった。
「もしもし、あのさぁ・・・変な年賀状、ごめんな。アイツが勝手に出したんだ。」
「いいよ。幸せそうな写真だったね。」
「幸せじゃないよ。俺は、今でも結衣を思ってる。」
「もう、友達だよ。」
「なら、一番の友達になる!」
「どうかなぁ・・・・・・・」
今までとは違い、ドキドキしない。
何ともない!
少し話して、電話を切った。
年賀状以来、コウジとは顔を合わせば挨拶をするが、電話をしたりする事もなくなり、友達と言うよりは、会社の人って感じになった
私は、仕事と音楽活動に夢中で、恋愛からは
、しばらく遠のいた。
そして、春。
復帰以来、初めてのライブの日が来た。
ライブハウスを貸し切り、単独ライブ。
友達、昔からのファンで席は埋まり、知らないお客さんはいない状態で、アットホームな不意陰気だった。
暖かみがあって、観に来てくれる人達に感謝しながらも、いつかライブハウスを新しいお客さんでいっぱいにするぞ!と夢を描いた。
「こんばんは~、お久しぶりです。」
ステージから、皆の顔がよく見える。
入り口から、綾さんとシュンくんが入ってきた。
さり気なく、目で合図を送った。
3曲名も終わり頃、再び入り口のドアが開いた
コウジだ。
観に来てくれたんだね。
特に問題もなく、ライブは終わった。
メンバー達と楽屋で余韻に浸った後、お客さんの所へ顔を出した。
それぞれ、自分のお客さんの所へあいさつに回る。
すると、コウジに呼び止められた。
「ちょっと、いいか?」
なんだか機嫌が悪そうな感じだった。
外へ出て話をした。
「結衣、お前なんでバンド組んだ事、俺に言わないよ!今日のライブだって杉田から聞いたんだぞ!」
正直、なんで言わないといけないのか?と思ったが、
「ごめん。連絡とってなかったし、最近会わないから・・・・・・・・・・」
「はっ?普通連絡してくるだろ?」
なぜ?
「そんなに怒らないで。今日は、ありがとうね。」
「俺は、賛成してないから。変な男寄って来そうだし、ファンだって増えるだろ?」
「ファンが増えるなんて嬉しい事だよ。」
「バカか!俺は、嫌だ!」
だから、なぜ?
「とにかく、反対だから!」
そう言い放って帰って行った。
ポカ~ンとしたまま、しばらく立っていたが
気を取り直して、ライブハウスへ戻った。
綾さんとシュンくんをメンバーに紹介し、メンバーを二人に紹介した。
「ギダーのナオヤ。ベースのトモ。ドラムのヒデ。マネージャーのハナ。」
綾さん:「結衣をよろしくお願いします。」
ナオヤ:「はい!」
メンバーと二人とは、すぐに仲良くなり私の昔のドジ話しを綾さんに暴露されたり、盛り上がった。
綾さんは、19歳のライブ初心者の頃から応援してくれていて、来られるライブはすべて来てくれていた。
メンバーより、私の調子を知り尽くしていて、今日は良かった、今日は手抜きしたでしょ?など、バレバレだった。
一番のファンで、一番の先生。
シュンくんも、活動休止前の数回観に来てくれた事はあった。
今回のバンドには、熱烈ファンだぁ!って応援してくれた。
ライブ当日。
車で2時間ほどかけて、ライブ会場へ到着。
早く着いたのに、入り口にはファンの人達でいっぱいになっている。
半分以上が、女の子でバンド名の入ったタオルを首に巻いていた。
ライブハウスの中は、満員で立ち見でギュウギュウだった。
ファンの人達の熱気に圧倒され、ライブが始まる前から、テンションが上がる。
いよいよ始まる。
周りのテンションが更に上がり、キャーキャ
ーと女の子達の歓声。
パッとステージが明るくなり、
『ソル・ライ』
と、ギターボーカルが叫んだ。
その瞬間、時が止まった。
カッ、カッ、カッコいい!
背は高く、筋肉質な体に整った顔。そして、
オーラがすごかった。
歌い始めから、すぐに引き込まれ歌い方、ギターの弾き方、動き、すべてがカッコいい。
一曲目は、ボーカルをひたすら見ていた。
MCも面白いし、いきよいがあった。
途中から、少し余裕が出来て、ギター、ベース、ドラムをみると、全員カッコいいじゃん
最後には、大ファンになっていた。
ライブも終わり、しばらく放心状態だった。
「どうだった?よかったでしょ?」
ヒデに声をかけられ、ハッと現実に戻った。
「すごい。こんな凄いバンドがいるなんて・・・・・オーラもすごかった。さすが、
デビューしているだけある!」
「そうだろっ!」
私は、ソル・ライのタオルとCDを買った。
ファンの人達は、ソル・ライに一目会いたいと出口で待っていた。
するとヒデが
「楽屋行く?」
「えっ?えっ?楽屋?入れるの?」
「大丈夫、俺、ここのライブハウスのオーナーと知り合いで、ソル・ライに紹介してもらったんだ。そしたら、メンバーと意気投合しちゃって、そのまま打ち上げ参加させてたもらってさぁ。今日のライブ行く事も言ってある。」
ヒデ!凄い!
たしかに、ヒデは私より音楽歴も長くて顔も広い。
有名人と知り合いだったり、ビックリする友達もいた。
「行きたい・・・けど、緊張しちゃうよ。」
「大丈夫、いい人達だからさっ!うちのメンバー紹介したいし、行こ!」
オドオドしながら、楽屋へと足を運んだ。
コン コン
「はぁ~い」
中にソル・ライのメンバーが居る。
ドキドキして、心臓が爆発しそう。
ヒデがドアを開けると
「やぁ!ヒデ!」
「おはようっス!」
ヒデは、気軽に挨拶している。
私達は、恐る恐るヒデの後に続いた。勇気を出して中を見渡すと
眩しい!
メンバー達が、キラキラ輝いて見える。
「おつ、ヒデの知り合い?」
「バンドのメンバーだよ。紹介するよ。この子がボーカルで結衣、・・・・・・・
この前、デモ渡したメンバーだよ。」
《え~!!!ヒデ、私達のデモ渡したの?恥ずかしい・・・・・・・・・・・・・・》
「よろしく!」
ソル・ライのボーカルと目が合った。キャッ
!恥ずかしい。顔がカンカンに熱くなる。
「そう言えば、結衣達、ソル・ライのメンバー知らないよね。紹介するよ。
ボーカルの渉、ギターの真、ベースの和、
ドラムの海だよ。忘れてた、マネージャーのユッチィ。」
「どうも~!」
マネージャーのユッチィは、見ただけで吹き出してしまいそうな面白キャラ。
アフロヘアーで、カッコいいソル・ライの中に居ると癒される感じだった。
頭が、ポア~ンとしていて何を話したのか覚えていないが、ソル・ライは、この後、次のツアー場所に移動するから忙しいと言う事で
短時間で引き上げて来た。
ちゃっかり、買ったCDにサインを貰って。
帰り道、ソル・ライのメンバーの顔ばかりが頭に浮かぶ。
特にボーカルの渉の大ファンになった。
ライブ以来、車の中ではソル・ライのCDばかり聞いていた。
バンド練習の日も、時間があればソル・ライの話しで盛り上がる。
毎日、頭の中は、ソル・ライ一色で楽しくて仕方なかった。
毎週、土曜日の自分達のライブにも力が入る
より一層、メンバーとの結束が強まり、より良い演奏が出来るようになった。
ライブハウスも、新しいお客さんが入るまでに上達した。
今日も、チケットはなんとか完売し、満席の中、気持ちの良いライブが出来た。
ライブも終わり、お客さんと話していると
コウジが中へ入って来た。
「もう、ライブ終わっちゃったよ。」
「結衣、まだ、ライブしてたのか?」
「もちろん!何で?」
「俺は、反対してるだろ?」
すると、ヒデが耳元で
「彼氏?」
「違うよ。コウジ、外に出よう。」
2人で外へ出て、話しを続けた。
「ライブなんて、チャラチャラして男目当てだろ?」
「はっ?違うよ。」
「メンバー皆男だし、客も男が多いだろ?」
「私は、音楽がやりたいだけだよ。」
「メンバーの中に、結衣が好きなヤツとか居るだろ?」
「いません!皆、真剣にやってるのにバカにするような事、言わないでよ!」
「結衣が、鈍感なんだよ!」
「そんな話しする為に来たの?なら、帰って
!」
私は、走ってライブハウスの中へ戻った。
綾さんは、ギターの真がカッコいいと、すぐにソル・ライのファンになった。
マネージャーのハナは、面白いバンドだねって少し冷静な感じ。
シュンくんもは、ちゃっかりCDを買って、サイン貰うって張り切っていた。
コンコン
「はい~!」
今日も、ドキドキしてる。
心臓が爆発しそう。
ドアを開けるとソル・ライのメンバーがいた
やっぱり眩しい。
キラキラ輝いている。
ヒデとメンバー達が、楽しそうに話している
私達は、ただ突っ立って何も話せない。
綾さんは、真がいるぅって興奮して可笑しなテンションだし、シュンくんも、固まってサイン貰うどころじゃない。
すると、ドラムの海が、
「今から打ち上げ行くから、皆もおいでよ」
えっ?私達も?
やった~!!!
お店と集合時間を聴いて、楽屋を出た。
綾さんと抱き合って喜んだ。
そして、いよいよ打ち上げ会場へ行った。
お店の中に入ると、すでに人が集まっている
ソル・ライの関係者や、友達で30人ほど集まっていて、個性的な人達ばかり。
女の子達は、モデルのようにスタイルがよく可愛い人達ばかり。
場違いだ・・・・・・・・・・・・・・・
ソル・ライとは、随分離れた場所に座り、世界の違う人達なんだと、思い知らされた。
すると、ドラムの海が私達の席へ来た。
海:「楽しんでる~?」
ヒデ:「なんか、凄いっすね!!」
海:「何が?」
ヒデ:「皆、芸能人みたいだよ。オーラがすげぇ~し!」
海:「そんな事ないよ。ヒデ達だって、音楽やってるだろ?仲間だよ。」
海さん、何ていい人だろう。
ライブ中は、カッコ良くて、手の届かない人って感じなのに、話すと優しくて素朴な感じがする。
しばらく、海は、私達の席で話していた。
すると
「俺も入れて~!」
渉さんが来た。
ドキドキドキドキ・・・・・・・
緊張して、渉さんを見る事が出来ない。
ヒデと、何かを話していた。
緊張をごまかすように、渉さんは見ずシュンくんと、綾さんと話していた。
すると、誰かが隣に座った。
「結衣ちゃん?だったよねっ??」
渉さんだ~~!
私の隣に!!!!!!!!!!!!
「あっ、はい。」
「今日、ライブどうだった?楽しめた?」
「あっ、はい。」
何やってんだ~!私っ!!!
もっと、マシな返事出来ないの~!
大ファンの渉さんが、目の前。
緊張と恥ずかしさに、何がなんだかわからなくなっていた。
「あっ、結衣ちゃん達のデモ聴いたよ。なかなかいいねぇ。結衣ちゃん、いい声してるし、うたなんて、俺より上手だよ。
一回、ライブ観てみたいなぁ。」
渉さんに、誉められたっ!!!
興奮して、おかしくなりそう!!!
綾さん:「そうですよ。結衣、才能あるんですよぉ。一度、ライブ、見てあげて下さい」
「ちょっと、綾さん・・・・才能なんて・・
ないよ・・・・・・・」
渉:「俺は、結衣ちゃんのうた、好きだよ。」
「ありがとうございます・・・・嬉しいです」
渉:「マジ、今度ライブ行くなっ。」
そう言うと、他の席に行ってしまった。
嬉しい。嬉しすぎる!
私達のスタジオ練習の日。
それぞれに、個人練習していると、ヒデが皆を止めた。
「この前の、ソル・ライの打ち上げで、渉が俺達のライブ観に来るってさっ。日程が合えば来てくれると思うから、頑張ろうな!」
渉さんの話しは、本気だったの?適当に、観に行くって言っていると思ってた。
「そんなん、緊張して、うたえないよ~!」
「結衣、何年うたってるよ?大丈夫だって」
「大丈夫じゃないよ!渉さんの前でうたうなんて!何万人の前でうたうより、緊張するよ
。恥ずかしいよ・・・・・・・・・・」
この時も、現実に渉さんが来るハズないと、信じていなかった。
ソル・ライのライブ以来、2回ライブをしたが、渉が来る事はなく、観に来る事も忘れかけていた。
そして、寒い冬になった。
チケットも売れるようになり、少し大きめのライブハウスへと移った。
そこには、楽屋があり本番までお客さんと会う事はなかった。
いつも通り、ライブが始まりうたいながらお客さんを見渡す。
あっ!
あのカッコいい人。お客さんの中でも一際目立っている。
渉さんだ!
隣には、ソル・ライのマネージャー、ユッチィが居た。
急に緊張して、力が入ったが、無事ライブ終了!
終わってすぐ、渉さんは楽屋に来てくれた。
あの、渉さんが、私達のライブを観て楽屋へ来てくれるなんて夢みたい!
渉さん:「お疲れ~!」
ヒデ:「渉、ビックリしたよ。まさか、今日観に来てくれるなんて!」
渉さん:「ごめん、ごめん。スケジュール急に空いてさぁ。
今日のライブよかったよ。デモで聴くよりやっぱいいな。」
ヒデ:「ありがと。今から打ち上げいくんだけど、よかったら一緒に!」
渉さん:「もちろん、行く行く!」
渉さんが、私達の打ち上げに?
嬉しい~!
夢のような時間が流れた。
斜め前に座る渉さんを見ながら、うっとりしていた。
ユッチィ:「みんな、聞いてくれるかなぁ。
ヒデのバンドと共演したいと思ってるんだけど・・・どうかな?」
ヒデ:「マッ、マッ、マジで!もちろん、俺は喜んで!結衣は、どう?」
ドキドキドキドキ・・・・・・・・
ソル・ライと共演?
憧れのソル・ライと同じステージに?
「えっ???共演?」
渉さん:「結衣ちゃんは、嫌かな?」
「嫌なんて、そんなん・・・・夢みたいな話しだけど、私達とソル・ライじゃ・・・大丈夫なの?」
渉さん:「面白いと思うぜっ!」
怖かった。
数年前、まだ、バンドではなくソロでうたっていた頃、自分とは釣り合わないレベルの高い歌手との共演。
なぜ、ここに私が居るのか?うたう理由も分からなくなって、頭が真っ白になった事があった。
もちろん、その日のライブは大失敗。
ソル・ライと共演したら、又、自信喪失、自分が人前でうたう理由が分からなくなってしまいそうだった。
ヒデと席を外し、話しをした。
「他のメンバーは、賛成だけど結衣は気が乗らない?」
「乗らないって言うか・・・ソル・ライのファンの前で、うたえないし、怖いよ。」
「結衣なら、大丈夫だよ。もっと自分持てよ
。」
「・・・・ソル・ライは、大好きだよ。けど、ファンとしてライブ観てればそれで・・
一緒にライブなんて・・・・・・」
「俺達にも、チャンスだよ。沢山の客の前で演奏出来る。」
「他のボーカルにするとか・・・・・・」
「バカ!結衣じゃなきゃ、意味ねぇよ!」
ヒデと話していると、
「ちょっといいかなぁ?」
渉さん・・・・・・・・・・・・
私の目の前に渉さんが!!!
ドキドキするぅ~~~~!!!
渉さん:「結衣ちゃん、俺達とライブ、何か引っかかる?」
「うちのバンド的には、特に・・・ただ、私自信の問題で・・・・・・」
渉さん:「うん?」
「ソル・ライと共演したら、私が台無しにしそうで・・・・・」
ヒデ:「結衣、めっちゃ自信ないからなぁ。
渉さん、何とか言ってやってよ。」
渉さん:「どうして?台無し?ない!ない!
俺達が結衣ちゃんのうた聴いていいと思ったんだぜ。」
「はい・・・・・他のボーカルでは駄目ですか?」
渉さん:「嫌だよ!結衣ちゃんじゃないと。
もう少し考えてみて!」
はぁ・・・・・・・・・・・・・・・・
すごく幸せな話しなのに、気乗りがしなかった。
ソル・ライは、ファンでいい。
また、頭が真っ白になって、うたえなくなったら・・・・・・・・
人前で、ライブする意味が分からなくなったら・・・・・・・・
ソロではないから、メンバーに迷惑かけてしまう。
とにかく、怖かった。
その日には、答えが出せず、又、返事をする事になった。
ユッチィと携帯の番号を交換し、何かあったら相談してと言ってくれた。
メンバーに申し訳ない。
どうしても、昔の大失敗が頭をよぎる。
うたで、生活している訳ではないから、甘えていたのかもしれない。
バンド命ならば、すぐにでも飛びかかりたいくらい魅力的な話しだ。
そして、いつもの生活、仕事が始まる。
相変わらず、バタバタし忙しい毎日を送った
私の気持ちを大きく変えた運命の日。
残業が終わり夜遅くなってしまい、急いで駐車場へ向かうと見慣れた車が止まっていた。
コウジだ・・・・・・・・・・・・・
車に近づくとコウジが降りてきた。
なんだか、久しぶりで懐かしくも思える。
「お疲れ~!遅かったね。」
「うん・・・どうしたの?」
「ちょっと、話し合ってさぁ。いいかな?」
「うん・・・・」
駐車場で、立ち話しが始まった。
「結衣、最近どう?」
「どうって?頑張ってるよ。」
「俺は、全然ダメだよ。結衣が忘れられない
。やり直せないかな?」
「奥さんとは?」
「別れるよ。時間はかかるけど・・・・・」
「はぁ・・・・・・・・・・・・・・」
溜め息が出た。
別れても、何も変わらない人。
「本気なんだよ。今までもこれからも。」
「別れてもないのに、よく言えるね。」
「結衣だって!バンド辞めないだろ!!すっげぇ、嫌だよ!周り男ばかりだろ?」
「結婚してるコウジと、何が同じ?関係ないでしょ?」
「俺が彼氏だったら、絶対有り得ない!今でも結衣が好きだから、辞めてほしい!」
「無理だよ。」
「そんなに辞めれねぇの?なんの為に?才能あんの?デビューでもすんの?
それとも、男に囲まれて楽しいか?
俺が、嫌だって言ってるのに、何で辞めねぇの?」
鳥肌がたつくらいムカついた!
そこまで何で言われなくてはいけないのか?
彼氏でもない、既婚者に、別れてから束縛されないといけないのか?
「何でそんな事言うの?」
「嫌なんだよ。他の男と居るのが!
バンドなんて辞めろ!才能ないだろ?」
「もう、帰る!」
急いで車に乗り、走らせた。
涙が自然に出てくる。
どうして?何で?あんな事を?
才能ない・・・・・・・・・・
ないよ。
けど、楽しいから・・・・・・・・・・・
コウジを見返してやりたい!
心からそう思った!
家に帰っても、イライラが収まらない。
ムカつきすぎて頭が、ホワホワする。
ふっとユッチィの事を思い出した。
何となく電話をかけると、すぐに出てくれた。
「結衣ちゃん!どうした?」
「突然、ごめんね。この前の話し、やってみようかなぁ。」
「本当に?大丈夫?」
「私が、足引っ張らないかなぁ?迷惑かけたらごめんね。」
「いいよ。いいよ。遊びだと思って気楽にさぁ。ちょっと、待ってよ!」
『結衣ちゃん、俺達とやるって~!』
向こうには、ソル・ライメンバーが居たみたいだ。
「もしもし、渉だけど。よかったよ。決めてくれて。けど・・・急にどうしたの?大丈夫?」
「うん・・・ちょっとあって・・・悔しくて
。もっと、上手になりたいなぁって思って」
「そうなんだ。俺達は嬉しいよ!結衣ちゃんなら、絶対大丈夫だよ。俺より才能あるからなぁ。」
渉さん・・・・・・・・
コウジとは、正反対。
嬉しかった。
この後、ヒデ達にも連絡し、ソル・ライとの共演が決定した。
めちゃくちゃ練習して、絶対成功させる。
コウジに、男目当てなんて言わせないくらい上手になってやるぞ!!!
ライブは、3カ月後に決まった。
いつも以上に練習に力が入る。スタジオ練習の後、メンバーとマネージャーのハナと宝来へラーメンを食べに行った。
シュンくん「いらっしゃい~、あっ、お疲れ~」
ナオヤ「どうも~!今日は、ハナも連れてきたぞぉ~!」
シュンくんとナオヤは、私達の初ライブ以来
意気投合したみたいで、仲良くなっていて、
頻繁に宝来にも来ているようだった。
いつも、綾さんとシュンくんと3人のたまり場だったこの場所が、違った風景に見える。
シュンくんとも、気楽に話せない。
シュンくん:「そうそう、ソル・ライとライブするんだって?すっげぇ、絶対、観に行くよ!」
ナオヤ:「おう!頑張るよ!」
ヒデ:「結衣が、決断してくれて本当良かった。」
シュンくん:「結衣ちゃん?迷ったの?」
「まぁ、いろいろね。」
ハナ:「シュンくんは、結衣と長い付き合いだけど、音楽やるの?」
シュンくん:「全然!俺は、聴く専門。」
ハナ:「カラオケは?」
シュンくん:「あっ!好きだよ。下手だけどスカッとするからなぁ~!」
ハナ:「今度、行こうよ!」
シュンくん:「いいねぇ。」
シュンくんは、お客さんに呼ばれて行ってしまった。
ナオヤ:「やったなっ!」
ナオヤが、ハナにコッソリ話した。
うん?
ハナは、シュンくんが好きなの?
まさかねっ
私、聞いてないし・・・・・・・・・・・
メンバーと別れて、家に帰るとすぐ綾さんから電話があった。
「結衣、ライブの練習どう?思い詰めたりしてない?」
綾さんは、何でもお見通しだ。
「うん、頑張ってるよ。あの時みたいになったらって考えると怖いけど・・・・・」
「結衣は、昔と違うし新人の頃より何倍も成長してるから、大丈夫だよ。」
「ありがとう。そうそう、今度、宝来行かない?今日、行ったんだけど何か落ち着けなくて・・・」
「いつも、閉店してからくつろいでるからねぇ。他のお客さん居ると落ち着かないよね
。来週にでも行こうよ。」
そして、一週間後、閉店して宝来へ綾さんと行った。
いつもの風景。
いつものシュンくんと綾さん。
ホッと出来る場所だった。
ライブまで、後、1ヶ月になった。
チラシが出来上がり、市内の飲食店や、お店
など、メンバーで分担して配る事にした。
ナオヤ:「宝来は、ハナねっ!」
ハナ:「うん!!!」
やっぱり、おかしい。
ハナは、シュンくんが好きなの?
もしかして、付き合ってる?
聞いてないけど・・・・・・・・・・・・
シュンくんは、私の友達だし、言ってくれればいいのに・・・・・・
何か、寂しいなぁ。
無事にライブのチラシも配り終え、後は、本番を待つばかりとなった。
毎日、毎日、練習、練習。
車を海まで走らせ、一人で何回も何回もうたった。
しかし
目をつぶれば、あの時の光景が目に浮かぶ。
うたい始めての高音。
ピアノ伴奏に合わせ声を出しているのに。
出ない。
声が・・・・・・・・・・・・・・・・・
思いっきり、出しているのに。
出ない。
頭が、真っ白になった。
夢の中にいるようだった。
ハッと気が付いた時には、サビに入る手前まできていた
その後は、声が出たが、どううたったのか全く覚えていない。
関係者に謝りまくり、かなりの自信喪失。
しばらく、ライブに出なかった。
あの頃の私には、ステージが大きすぎた。
思い出すと、鳥肌がたつ。
怖い。
けど、コウジにあんな事言われて悔しい。
もう一度、試してみたい。
自分の力を。
あっという間に、ライブまで一週間になった。
リハーサルを兼ねて、ソル・ライのライブを観に行った。
相変わらず、大人気。
一週間後、この場所で私達もライブをする。
渉さんのように、キラキラ輝きたい!
渉さんのうたは、元気と勇気が出る。
嫌な事、憂鬱な事があっても、ライブ中はすべてを忘れさせてくれる。
ライブ後、楽屋へ行った。
初めて来た時よりは、少し慣れてきた。
ユッチィ:「当日は、ぶっつけ本番だから、今から少しステージで音だしして、音響さんと話して置いて。」
ぶっつけ本番・・・・・・・・・・・・・・
そして
ステージへ上がった。
いつもと反対だ。
ソル・ライは、こんな風にお客さんを観ているんだぁ。
ぼゃ~としている間に、メンバーの音合わせが終わった。
「じゃ、ボーカルねっ、適当に伴奏つけてうたって。」
ドキドキドキドキドキドキ・・・・・・
本番でもないのに、足がガクガク震える。
怖い。
メンバー達が、前奏を始めた。
待って、待ってよ!
ガクガク震えながら、何とかうたったが・・・・ヒドい!
次は、ソル・ライとの初合わせ。
渉さんにハモる。
音響さん:「じゃぁ、始めから少しやってみて。」
メンバー達は、全く引けを取らず、堂々とソル・ライメンバーと演奏している。
渉さんがうたい始めた。
あんなに、練習したんだ!
頑張ろ!
「電車で帰るんだよね?送ってくよ。」
渉さんが???????????
信じられない。隣に渉さん。
2人で、ゆっくり歩き始めた。
「結衣ちゃん、今日、どうした?調子悪そうだったけど。」
「ごめんなさい。
自分でも、信じられないくらい怖くて。」
「どうして?」
歩きながら、昔の大失敗を話した。
「そっかぁ、なんか、分かるなぁ。俺も昔、
先輩バンドと共演した時、ビビって失敗した事あるよ。」
「渉さんにもあるの?」
「あるある!!でもさぁ、人は、人。結衣ちゃんの声でうたえる人は、結衣ちゃんしか居ないんだぜ。
」
「でも、私、自分の声、好きじゃない。」
「結衣ちゃんは、嫌いでも好きな人は、沢山いるじゃん。
だから、人に聞いてもらえるライブってやつが出来るんだよ。誰一人、結衣ちゃんのうたに魅力感じなかったら、ライブの話し来ないよ。」
「コーラス、私でも大丈夫?」
「結衣ちゃんがいいの!結衣ちゃんの声が好きなんだ!だから、自分を信じなって!」
「うん!」
「じゃぁ、ビビってる結衣ちゃんにお守り」
そう言うと、首に掛けていたネックレスを私の首に掛けてくれた。
そのネックレスは、渉さんがいつもライブの時につけている物だった。
「これっ!いいの?大切な物なんじゃ?」
「そうだよ!だから、絶対ききめがあるお守りだよ。いつも通りうたいなっ!結衣ちゃんは、才能ある!俺が保証する!」
そして、渉さんと別れ電車に乗った。
ぽ~・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ネックレスを握りながら、、胸がキュンとした。
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
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