夢色
遠くで…声がする…。
『彩………………………………………あや…………………………』
心地良い…………………
『祐…ちゃん……………………』
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ッピピッ、ピピピピ……………!
「…ぅ…ん………」
朝日が街を照らしだす。
私は、夢を見ていた。
「祐ちゃん………」
「って誰だろ?」
中谷 彩(なかたに あや)
23歳
いたって普通の社会人。だけど、普通の人のお仕事とは少し違う。みんなの声を聞き、悩み事を解決する。
といっても、聞きに行くのではなく、勝手に声がするだけ。解決といっても、目の前に姿を現す訳ではない。
だって、私の姿は人間には見えないから。
そう、つまり…
私の背中には、羽がある。
私は………………天使だ。
目が覚めると、声が聞こえた。
『貴方は天使。人を救わば救われる。沢山の命を救いにゆきなさい』
羽根がはえ、私は天使になった。それから…私は、この人間界で、悩める人々を救って日々を生きている。
「今日は声がしないなぁ……。平和な1日の始まりだねっ。」
彩はシャワーを浴びて、玄関を飛び出した。
今日は悩める人達の声がしない。彩は久しぶりに、大好きなあの場所へ行ってみることにした。
「やっぱり昼と夜とじゃ全然違うなぁ……。星が一つも見えないよ」
そこはダムのすぐ傍。地元では、流れ星がよく見えると有名な場所だった。
彩は毎週欠かさずこの場所へ来ていた。そして来てはお願いするのだ。
「いつか、祐ちゃんに会えますように……」
……。
「あ~ぁ。流れ星がないと無理かな?でも昼間でも流れてるって、前に来てた人達が言ってたし!……届いてるといいな…。」
彩は毎日夢を見ていた。
切なく、とても愛おしそうに彩の名前を呼ぶ声。
彩は決まってその人の事を、“祐ちゃん”と呼んでいた。
「ほんと……誰なんだろう。」
彩がぼぅっと空を眺めているとき、彩の頭に声が届いた。
【なんで…っ!待って……!】
「誰か…困ってる。」
バサ………ッ!
彩はダムの上を飛び越え、声のする方へと向かう。
しばらく飛んでいると、家の玄関の前でうずくまる女性を発見した。
(あの人か…。)
彩は傍まで飛んでいき、その女性の肩に手を置いた。
(…………。)
彩は手を通して、その女性の心を読み取った。
-酒井 唯子。夫の嘉明と結婚してすぐに、嘉明から暴行を受けはじめた。嘉明は自らが会社で失敗した腹いせに唯子を殴った。その後、嫌がる唯子を乱暴に抱き、我に返った嘉明は唯子に泣いて謝った。そんな日々が続き、唯子は精神的にも、肉体的にも疲れ果てていった。気分転換に外に出ようと、近くのショッピングモールに出掛けた。そこで、仕事中のはずの嘉明を発見。嘉明の隣には、嘉明より一回り程若い女性が甘えるように嘉明にもたれかかっていた…。-
(ひどい…。それでその女性のことを問い詰めたら、追い出されたってわけ……。)
「…許せない。」
彩が呟いたと同時に、玄関のドアが開いた。
「ちっ。…どけ…!お前なんかに用はねぇんだよ。荷物持って消えろ。」
「っ別れてやる…!アンタなんか訴えてやる……っ!!」
唯子は震えていた。怒りからなのか…恐怖からなのか。
たぶん色んな感情が入り交じっているのだろう。
(お仕置きね…。)
彩は嘉明の元へ飛んでいった。
バササッ!
強い風と共に、彩が地上へと舞い降りる。
「ふぅっ…!どうも初めまして……嘉明さん。」
彩は嘉明に話し掛けた。
もちろん彩の姿はおろか、声さえ嘉明には届かない。
嘉明は突然吹いた強い風に、チッと舌打ちをした。
しばらく付いて行くと、ひとつの錆びれたアパートに辿り着く。嘉明はまるで我が家のように鍵を開け、中に入っていった。
彩は表札を見届けてから、鉄のドアをすり抜け部屋へと入っていく。
「あ~来たの~?唯子ちゃん大丈夫だったぁ?」
鼻にかかった女の声。
「外に蹴りだして来てやったよ。」
「…ぷっ。ばかだぁ~唯子っち泣いてるよぉ!」
「関係ねぇよ。それより……」
「っぁ…あん。もぉ……いきなり~?…ぁ……んふふ、ぁん。」
彩は布団のすぐ傍で体育座りをし2人を眺めている。
唯子の事を知っているのだろうか。2人は不倫を楽しんでいるようだった。
「はぁ…っ。あぁ…っ、よし…あき…っ…いいよぉ…っ!」
グチュ…ジュプ…
2人共、頬が赤く蒸気している。もうクライマックスへ向かっていた。
「さて……。彩ちゃんもう限界。」
彩は立ち上がり、羽根をひとつ抜いた。
スゥ……っ。
「天空から舞い降りし我の力、とくと思い知るが良い。」
彩が両手で羽根を掲げ唱える。 バチンッ!!
と突然、部屋の灯りが全て消えた。
「っキャ!なに~!?停電!?」
女が甲高い声で叫びまくる。
【…気持ちいい…?】
「っえ!?何!?」
再び女が叫んだ。
次第に苛立ちはじめた嘉明が声を荒げる。
「うるせぇ!何も言ってねぇよ!」嘉明は苛立ちながらブレーカーを探していた。
「ち…違うのっ!!声が…声がするの…!」
【真由ちゃん。怖いの?】
「ヒッ!っぃや…!!嘉明…っ!」
「うるせぇ!だから喋ってねぇよ!!」
嘉明は尚もブレーカーを探す。手前まで行き、不思議そうに呟いた。
「ブレーカーじゃねぇ…。っち、電池切れか?」
【違うよ…彩の仕業だよ】
「はっ!?なんだ?近くにいるのか真由」
「いないよぉっ!!布団の中だょぉ…っ」
「…は…?だってすぐ傍で声が…」
彩は今度は2人の脳へと話し掛けた。
【2人共…こんな事してていいの…?】
「…ゃぁぁ…っ!」
真由は泣きじゃくり、既に我を忘れていた。
「なんだこれ…!?誰だ!」
【“彩”だよ】
「あや…?」
嘉明は段々焦りの表情を浮かべだす。
【ねぇ嘉明さん。今回は唯子さんに泣いて謝らないの?】
「はぁ…!?なんだこれ…っ。はっ!オレを好きな亡霊か!?」
嘉明は汗だくになりながら、気の抜けた笑い方をした。
(…はぁ。どうしようもない奴。)
彩は溜め息をひとつ吐き、全身に力を込めた。
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