蒼い月が出てた
「お前が産まれた日はねえ、雪がチラチラ降って空を見上げたら月が蒼いんだよ」 幼い頃祖母が話していた。 「お前は産声一つあげなくてね、おかしな赤子だった」 それは呪文のように記憶に刻まれている。 昭和40年頃私が記憶している我が家は、腐りかけた木造平屋の掘っ建て小屋。 19歳の両親と55歳の祖母、24歳の父の姉。貧困だった。けど幼い子供にはよく理解出来ず水道もなくトイレも外なんて暮らしでも普通だった。母はいつも顔をしかめ、愚痴を言い人目だけを気にする人間。父は優しいが頼りない人間。そして私はぐずらない泣かない子供だった。
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いつも一人遊びをしてた。近所に小さい子供がいなかったのかわからない。母が人付き合いを避けていたからか。幼いながらに貧乏な自覚があったからか、物をねだった事もない。叔母がたまに買ってあげるよと言っても「まいちゃんいらない」可愛いげのない子供。大人達は多分そう感じただろう。私は大人を信じてなかった。気分次第に怒る親に、可愛いと言いながら酒好きな祖母。幼い子供にもわかるのだ。自分本位な大人が。私は玩具なんかほとんど持っていなかったが、本はあった。勉強だけが大切だと思い込んでた母のおかげだ。3歳ですでにスラスラ黙読してた。本には全てがあった。空想の世界。物語の中は素敵で薄汚い現実から逃避できたから。4歳の時眠り姫の背表紙のお姫様のドレスの色に私は取り付かれた。淡い水色。産まれて初めて欲しくなった物。ドレスじゃなく色。欲しくて欲しくて初めて祖母にねだった。「服が欲しいのかい、じゃあ買いに行くか」信じられないくらい嬉しくて泣きそうだった。
百貨店に着いた。ワクワクしながら祖母と二階子供服売り場に。あちこち見て廻ってしばらくすると、「あっ!あれ」私は駆け出した。マネキンが着ていたそのワンピースドレスじゃないけどまさに淡い水色。ウエストにリボン袖はふわりと膨らんでいる。私はもう釘づけだ。祖母が歩いてきた。「おばあちゃん、まいちゃんこれがいい」期待でピョンピョン跳ねる。「どれどれ、1万2千円?買える訳ないだろう」 私は耳を疑った。「えっ?でもこれがいい。」 祖母はワゴンに山積みの中から黄色いワンピースを持ってきた。「これにしな。580円だ。二枚買ってやるよ」私はもう無表情だ。哀しさと悔しさで言葉が出ない。「いらない」そのままスタスタとエスカレーターに乗り一人百貨店を出た。
行き交う車や市電を眺め私は一人立ち尽くす。あれは夢に見た色だったのに。貧乏だから?まだ四歳の私には1万円の値打ちはわからない。ただただ期待して裏切られた思いだけ。祖母が来て「まいちゃん、服買ってやったよ」恩着せがましく袋を掲げる。私は何も言わず袋を持ちトボトボ歩き出した。その服は一度も着ていない。あの淡い水色ワンピース。何十年もたつ今でもはっきり覚えてる。
幼い頃の私は身体が弱かった。今思えば栄養失調や衛生面のせいもあったんだろうという気もする。夜中に高熱を出す事が多かった。病気をすると母が怒る。よく病気になると優しくしてもらえたって聞いた事あるが、うちは違った。枕元で「医者代はかかるし面倒かけて」愚痴は延々と続く。だから病気になるのが怖かった。少しくらい具合悪くても、お腹痛くても限界まで言えなかった。お蔭さまで我慢強い子供になった。最近よく聞く虐待やネグレクト。に近い感じ。明らかな暴力は少ないけどじわじわいびられるのも今思うと虐待だと。そんな暗い幼児期幸せな報せが。私に兄弟が産まれてくるらしい。久しぶりに舞い上がる。「まいちゃんお姉ちゃんになるんだって」誰にも会う人みんなに話したかった。ある日母と二人昼食中「まいちゃん妹が欲しいな」 「女の子なんかいらないよ、男の子が欲しくて産むんだから」 ふう~ん。「なんで?」「女なんか値打ちないの可愛くもないし」 「...まいちゃんも可愛くない?」 母はふんっと鼻で笑い返事はない。
その日から私は心の中でつぶやき続けた。赤ちゃんは絶対女の子だ。妹だ。神様お願い。妹にして下さい。そしたら父さんも母さんも可愛がらないから、まいちゃんが可愛いがります。まいちゃんが守ってあげます。 愛情薄い環境にいると、愛情を注ぎたくなる。愛されたいの裏返しだ。 10月の晴れた日。その日は幼稚園の運動会。朝起きたら父も母もいない。祖母は仕事休みで朝からちびちび酒を呑んでいた。「おばあちゃん、母さんは?」 「ああ、夕べ夜中に産院に入院したよ」 「赤ちゃん!産まれた?「まださ、今日中には産まれるさ、さっ早く着替えな。運動会だろ、昼頃に見に行くから」 「お弁当いるよ、おばあちゃん作れる?」なんか心配だ。
一人ぼっちで運動会会場に行った。みんな楽しそうだ。かけっこの時間が来た。周りで大人達が歓声を上げてる。皆、自分の子供を応援してる。私の番がきた。よーいピイ笛の音で走り出した。知らない人だらけの中、必死に走る走る。テープが見える。1番だ、けど足が止まる。何故かわからない。嬉しくもなんともない。そしてモタモタして三着でゴール。お昼休憩になった。友達はみんな家族の座る場所を捜して散っていく。私はキョロキョロ当たりを見る。「あっおばあちゃんいた」ホッとしながらおばあちゃんが座る校庭の隅っこに走った。「今さっき着いたんだよ、さあ食べな」プラスチックの蓋を開ける。近くの持ち帰り寿司屋のおいなりとキュウリ巻き。みんなの家のお弁当はおむすびに卵焼きウインナー海老フライ。「おばあちゃん、おやつは買ってくれた?」 「バナナがあるよ」祖母は校庭でも酒をちびちび呑みながら美味しそうにキュウリ巻きを食べている。
まただ。期待してがっかりする。贅沢を言うつもりなんかない。せめてかけっこを見て応援して、お弁当におむすびを食べたいだけだ。おやつだって、よその子みたいにチョコやみかんやスナック菓子を一杯なんて望んでない。でも何でバナナだけ?虚しかった。近くにいた友達のお母さんが、「まいちゃん、これおあがりなさい」おむすびとおかずを少しずつ折り箱の蓋に載せて持ってきた。「あらあ、すまんね、頂くよ」祖母は遠慮なく食べ出した。「まい、食べなよ、美味しいよ」私は「いらない」一言だけ呟きそのまま先生達がいるテントに逃げた。昼休憩も終わり午後の競技の時間。祖母はもういなかった。帰ったのだ。寿司を肴に酒だけ呑んで帰った。私は空腹のまま午後を乗り切り、一人トボトボ家路についた。そういえば朝食も食べてない。歩いてるとくらくらめまいがして、足ががくがくしだした。塀につかまる。駄目吐きそう。でも空っぽの胃からは何も出ない。一歩一歩塀につかまり歩き出す
やっとの思いで家に辿り着けた。ただいま。誰もいないみたい。フラフラしながら部屋に上がると父が寝てる。「父さんいたの?帰ってたんだ」 熟睡中だ。私は炊事場になってる石の流しに近づいた。鍋の蓋をあける。お粥の残りがある。箸をだし鍋ごと啜り夢中で食べた。最後まで汁を飲み干し座り込む。落ち着いた。父が起き上がりこちらを向く。「おぅ、まい産まれたぞ、女だ」 「神様ありがとう。妹だ」一気にテンションがあがる。「赤ちゃん見たい、病院行ったら駄目?」 「明日帰ってくるぞ、明日はお前も休みだろう」 朝から虚しかった気持ちが晴れ晴れしてる。私に妹ができた。私の赤ちゃんだ。翌日母は産着にくるまれた妹と一緒に帰ってきた。私はそろそろと近付き赤ちゃんと対面した。可愛い!小さくてスヤスヤ寝てるその赤ちゃんは5歳の私が初めて愛した人間だ。「名前は?もう決まったの?」男の子の名前ばかり考えてた両親。 「聡美」だよ。父が教える。
さとちゃんか。私はニコニコしながら赤ちゃんの傍に寝そべる。いくら見ても飽きない。父と母は少し離れた場所で何か話してる。違う、喧嘩だ、「子供が二人にもなってこんな一部屋しかないあばら屋にいられないよ!」始まった。愚痴大会。「お金が嵩むから病院だって一晩で退院だ、情けない、とにかくマシな家探して」今回母はしつこかった。いつもは聞き流す父は「うん、会社で少し前借りして、引越し費用にするか」 引越し? どこに?黙って聞いてた。地主の岡部さんのアパート空いてるみたいだしな。明日借りられるか聞いてこよう。「父さん、おばあちゃんも一緒に引越すの?」 「あんな婆とは二度と暮らさないよ」母だ。母は祖母を毛嫌いしていた。「おばあちゃん一人になるよ?叔母さん結婚しちゃったし」少し前叔母はいきなり結婚して県外に出ていた。
「お前は馬鹿だから、あんな婆が好きなんだろ」母が憎々しげに言う。「おばあちゃん一人になると可哀相だなと思って」 いきなり頭を叩かれる。「糞ちびが生意気言うな」ズキズキする頭に手を当て、父を見た。「まい、もう寝なさい。明日幼稚園だろ」父は庇ってはくれない。母の言うなりだ。そのまま無言で布団に包まる。沸々と胸を締め付ける感じ。怒り?違う。憎悪だ。母が嫌いだ。きっと母も私が嫌いだ。親子でもそうゆう事がある。我が子が愛せない母。それは私だけだった。妹に対して母は驚くべき母性を発揮した。それに乗っかり父も妹を溺愛した。 女の子なのに、女の子は可愛くないんじゃなかったの?でも妹に嫉妬なんて感じなかった。妹が可愛がられるのは嬉しかった。何故私だけ?とは考えたけど。数日して引越しが決まった。今住んでる場所から歩きで5分の長屋アパート。六畳二間に四畳半の台所。風呂はない。
その小さな古いアパートは天国に思えた。水道がある。蛇口を捻れば水が出る。今までは外の井戸までバケツで水汲みをしていた。トイレだって家の中だ。前は外の小屋まで用を足しに出ていた。壁だってしっかりしてる。土壁に穴が開いて蛇が侵入してきてたあの掘っ建て小屋とは大違いだ。引越しした明くる日、目を覚ますと母が鼻歌を唄いながら台所にいる。初めて見た朝食作る母なんか。機嫌が良いらしい。私に気付き「おはよ!まいちゃん、目玉焼き食べよ」 「うん!」その日食べた目玉焼きは最高に美味しかった。にこやかな母なんて産まれて初めて見た。おばあちゃんと別居したのもよかったらしい。とにかく優しい母に可愛い妹。幸せだ。幼稚園に行く支度をして外に出た。「おはよう」知らないおばさんだ。
「あらおはようございます」母が挨拶してる。知らないおばさんは女の子の手を引いてる。目が合う。腫れぼったい目のオサゲ。「由美子って言うんだけど気が弱くてね、一緒に行ってあげてね」 「うん、いいよ.行こう」私は駆け出した。まい~!んっ?母が後ろから呼んでる。振り返るとそのオサゲ女の子が泣いてる。「ゆっくり歩いて、手を繋いで行きなさい」由美子ちゃんの母親が偉そうに言う。母はすみませんね、と謝る。「走っただけたよ、走っちゃ駄目なの?」母が怖い顔で「由美子ちゃん置いて走ったら駄目!」なんだか面倒くさい。しくしく泣く由美子ちゃんの手をとり歩き出す。その日から毎日私は由美子ちゃんを置いて走り泣かせるのが儀式になった。由美子ちゃんの母親の上から見下す態度が子供ながらに嫌いだった。あとからわかったが由美子ちゃんちは地主で大きな家で金持ちとか。母は卑屈になりヘコヘコしていたのだ。そう母は家では偉いが世間体を極度に気にする女だったのだ。
泣かない醒めた子供な私とお嬢様で泣き虫な由美子ちゃん。だけどなんだか由美子ちゃんは私が好きらしい。毎日幼稚園が終わると誘いに来る。よく二人で近くのたんぼの中でごっこ遊びしたり、由美子ちゃんの家で、おやつ付きでお絵かきしたり。それなりに楽しく過ごせた。由美子ちゃんはすぐ拗ねて泣くが、まあしょうがないか、半分諦めて付き合う。その頃もう一人同じアパートの加世ちゃんて女の子も仲間に加わった。加世ちゃんは泣き虫じゃなく勝ち気な女の子。気にいらないとつねったり引っ掻いたりする。由美子ちゃんがある日つねられた。大泣きする由美子ちゃん、暴力的な加世ちゃん。私はプチン、何かが切れた。黙ったまま長いサラサラ黒髪の加世ちゃんをまず蹴り顔を思いきり引っ掻いた。でも泣かずに反撃してくる。つかみ合い二人は顔面血だらけだ。そこは加世ちゃんちだったが親は外にいて気付かない。近くに大きなハサミがある。それを素早くつかみ加世ちゃんの髪をむんずと掴みバッサリ切った。
シーン。誰も動かない。加世ちゃんもピタリと止まり、うなだれてる。その時加世ちゃんの母親が入ってきた。「ひっ!何してるの!誰かあ~」 大騒ぎだ。近所中が出て来てうちの母親も走ってきた。「加世を見てよ!自慢の黒髪よ、主人が気にいって毎日とかしてたの。顔も傷だらけよ!」私だって傷だらけだよ。「すみませんすみません」母はひたすら謝る。ふと見ると由美子ちゃんも加世ちゃんもしくしく泣いてる。泣いてない私だけ悪者みたい。「謝りなさい!」鬼の形相で母が怒鳴る。「嫌、悪いと思ってないから謝らない、最初に手を出した加世ちゃんも悪いから。由美子ちゃん泣かした加世ちゃんも謝って」私は5歳児らしからぬ冷静な口調で言い放った。
バシッ!バシッ!バシッその場でボコボコに殴られた。それでも泣かない。母は逆上してる、殴られ蹴られ箪笥で頭を打ち付けくらくらする。「奥さんやめて!もうわかったから」加世ちゃんの母親が間に入る。「まいちゃん大丈夫?加世も悪かったんだね、喧嘩両成敗だからね」 だったらなんで私だけ殴られたんだよ、ババア初めからそう言えよ、ボコラレる私見て怖じけづいたんか。心で呟く。その日以来なんでか加世は私に懐いた。いつもニコニコついて廻る。勝ち気な加世ちゃんは消えて従順な加世ちゃんに変身した。私も由美子ちゃんも加世ちゃんも未熟で勝手な親にはうんざりしてた。だから心のどこかで通じる物があったんだろうな。ちなみに加世ちゃんはあれ以来ショートカットで髪は延ばさなかった。
私は妹が可愛い。毎日少しずつ成長してくるさとちゃん。ミルクも飲ませてあげるし抱っこもする。ミルクはさとちゃん残すと、コッソリ私が頂く。いつも空腹だったからミルクはいいおやつになる。ハイハイするさとちゃん、ヨチヨチ歩きのさとちゃん。暇があれば面倒見た。母も父も聡美には目尻を下げて相手をしてる。私も一緒にあやしてる。だけど疎外感は常にある。父母私みんな聡美が好き。四人家族。だけど私は一人ぼっち。私の居場所がない。なんでだろ。母は私が憎いのか、可愛いと思えないのか。何故かは一生わからないだろう
私は小学校に進級した。うちは貧乏だからランドセルどうするのかな。毎日はらはらしてた。ある日由美子ちゃんちに遊びに行くと「まいちゃん見て、ランドセル」そう言って見せてくれた赤いピカピカのランドセル。うちは買えるかなあ。それからしばらくして母が段ボールを持って私を手招きした。広島の婆ちゃんからだよ。広島の婆ちゃんは母の母親。近くにいる祖母は父の母親。「何送ってきたの?」「ランドセル」パアッと気持ちが明るくなる。急いで開ける。出てきたのは暗いオレンジ色の革で留め金がベルトの古臭いランドセル。由美子ちゃんちで見せて貰ったランドセルは赤で留め金はカチャンと引っ付くのだった。これは何だか昔の人が使うみたいな。まただ。期待してがっかりする。「いらない」ぱあん!平手が跳んできた。「贅沢言うな、貧乏人のくせに」 えっ?それは私のせい?父さん母さんが貧乏なんだよね。私違うよ。納得いかない
貧乏は私が悪いんじゃない。私は普段から何か欲しがったり我が儘も言った事ない。4歳の時水色ワンピースを欲しがっただけ。妹は違った。街の玩具屋さんで一度どうしても人形が欲しいと泣き叫んだ。ミルクを飲ませてオムツを取り替える、そんな人形。結局根負けした両親は人形を買った。驚いた。お金あるの?貧乏貧乏と聞かされ育った私。だから我慢して欲しい物を考えた事ない。家に帰って機嫌よく遊ぶ聡美の横で私は母に聞いてみた。「なんでまいは玩具ないの?買ってくれた事ないよね」母は笑いながら「欲しいって言った事ないじゃないの、何か欲しいの?馬鹿はねだり方知らないんだね」 「聡美は賢いわ、ちゃあんと欲しい物言うんだから」 私が馬鹿?我慢してたのは馬鹿なの?もし私が泣き叫んだりしてねだったら殴られて終わりだよ。沸々とまた心に憎悪の火が点る。「まいちゃん!あそぼ」聡美が笑顔で言う。「はいはい、遊ぼうね」私は何もなかったかのように妹の相手をした。
私は空想好きだ。一年生の時図書室から分厚い本を借りた。赤毛のアン。一気に読んだ。アンは孤児で可哀相な境遇だけど私より素敵な毎日を送ってる。綺麗な小道、可愛い家。自分の部屋まである。物語の情景は素敵でワクワクする。厳しいけど優しい伯母さんや伯父さんに守られて育つ。羨ましいと思えた。「私も本当は孤児でどこかに優しい身内がいるのかも」本気で考えた程だ。私は者心ついた頃からとても地味な服を着てる。紺色と茶色ほとんどズボン。スカートは少しあるが全部紺色。母の趣味らしい。選ばせて貰えない。年に一度正月前に服を買う。ある時私はふんわりしたフリル付きの薄ピンクのワンピースを見つけた。お姫様みたい。深呼吸して母に言う。「これがいい」そのワンピースを見た母の顔。眉間にシワを寄せる。あー駄目か、私はすでに諦めてる。
「何?そんなちゃらついた下品なのが欲しいって?やっぱりお前は馬鹿だね」それでおしまい。買って貰えたのは茶色のセーターとベージュのズボン。学校の友達はみんな可愛い服持ってるのに。うちはなんで?聡美の服も例外ではない。ただ聡美はまだ小さいし、わかってない。男の子みたいな恰好してる。よく知らない人に「可愛いぼくちゃん」と言われてる。両親は嬉しそうに笑ってる。男の子が欲しいって言ってたから?聡美女の子だよ。まあ可愛いがられてるからいいか。 正月だけど別に何も楽しくない。祖母が来て母は機嫌が悪い。祖母はお酒を飲み機嫌よく喋りまくる。「さあさあまい、お年玉だよ」 「ありがとう」袋をあけると500円札一枚。それだけ。他には誰もいない。隣街に従兄弟がいる。母の姉の嫁ぎ先。そこに行けば農家で沢山大人がいるのになあ。
>> 22
正月の三日目、隣町の親類宅に、出かけることになった。(うれしい。)朝から、テンション上がり気味。そこには、いとこが、三人。同い年の、光徳君,ひとつ下の忠志君、そして、妹聡美と同い年の、栄子ちゃん。みんな仲良し。光徳君は本当に優しい。だから、たまに会うのがすごくうれしかった。私たち家族はお昼前に着いた。(よう、来た来た、、おじさん、朝からご機嫌だ。(おめでとうさん、義兄さん、もう酔ってるの?)
大人たちは、挨拶やら、なんやらで、みんな居間に集まってる。(まいちゃん、遊ぼう、)みっちゃんだ。みっちゃんちは、農家でものすごく家が広い。部屋いくつあるかな、なので、子供達がはしゃいでも、誰も文句言わない。いとこ達と私と聡美。みんな大興奮。かくれんぼが家の中でできちゃうんだから。しばらくして、みっちゃんのお母さんが(さあさあ、みんな、ご飯にするよー)私は期待で一杯、だって、お腹一杯食べられる数少ないチャンスだから。
>> 23
ご馳走だ。お鍋になんだか、知らない料理がところ狭しと並んでる。みんなで、わいわい食べるご飯は、おいしい。ふと、気がつく。母がじいっとこちらを見てる。そして、(まい、がつがつ食べるのやめな!行儀悪い。)え?私は固まった。叔母が、(いいじゃない、まい、しっかりたべなさい。)なだめてくれる。母は、(この子は、躾けてもほんとに馬鹿だから、毎日いらいらしどうしよ。)
始まった、私が馬鹿で、駄目な子供だと自慢のように喋りだす。そんな事ないわよと、みんながかばってくれると、母は不機嫌になる。いつものことだ、だけどそれからは、ご飯はおいしくなくなった。(もういいの?)叔母さんは聞いてくれたが、うんお腹一杯。箸を置いた.そのとき叔父さんがにっこりして(はい、お年玉)そういって渡してくれた。
(ありがとう。)うれしかった、おこずかいなんか、貰えないから自分でお金を持てるのがすごくうれしい。おばあちゃんからの500円とこの3000円大金だ。
>> 25 冬休みも終わり、新学期がはじまった。朝食パンを焼いて紅茶をいれる、そう言えば、朝自分で作って食べるようになったのは、いつからかな。憶えてない。まあ、自分でしなきゃ朝食抜きになっただろうし。母は聡美にかかりきり。黙って家を出る。寒い、それに背中が痒い。足もかさかさする。うちは風呂がなかった、銭湯には三日に一回。よけい肌があれてかさかさでかゆい。「おはよーまいちゃん」ゆみこちゃんだ。「おはよ、由美ちゃん」並んで歩き出す。「まいちゃーん、ゆみちゃーん」後ろから女の子が二人走ってきた。最近仲良くなったまりちゃんとさよちゃんだ。最近いつもこの4人で遊んでた。私はまりちゃんが一番好きだった。いつも明るく誰の悪口も言わない。とてもおおらかな女の子だ。さよちゃんは少しむらがあった。いい子ではあったが、ゆみちゃんはあいかわらず泣き虫のわがまま。みんな個性があったけど、私は?どんなにおもわれてたんだろう。
>> 27 何故か私は、たまに一人になりたくなった。とくに理由はない。そんな日は誰に誘われても今日は遊べないって断り、ある場所に行く。そこは何の変哲もない空き地。草が生い茂り古井戸がありそこかしこに苔が生えてる場所。そこで私はのびのび過ごす。私にはとても素敵な世界。苔の匂いも割れて転がる緑のビンも。すごく落ち着くのだ。そこでの私は空想の世界の主人公になる。赤毛のアンになったり、あの大好きな眠り姫になったり。足元のとかげを捕まえて、兵隊役をさせたりした。誰にも教えない特別な場所だった。
- << 30 ある日ふと、今日は母の誕生日だと気がついた。自分は誕生日もクリスマスも、何にもしてもらった事ないけど。「母さんも何にもないよね」わたしは正月におばあちゃんから貰った500円を握り締め少し離れた地区に出来たばかりの可愛いケーキ屋さんに向かった。 「いらっしゃい」優しそうなおじさんだ。「あの、、」「何がいいのかな?」 「はい、母さんの誕生日なんで、これで買えますか?」私は500円を差し出した。 「優しい子だね、これはどう?」小さいけどいちごものってる、可愛い。 「これ、ください・」私はケーキを大事に大事に抱えて帰った。母さんびっくりするかな、笑ってくれるかな、そう、しょせん私はまだ7歳。母の愛情が欲しかったんだと思う。
>> 28 私は学校がとゆうか、先生が嫌いだ。もともと大人に対して不信感があったからかもしれないが。一年生の担任はまだ20代の女教師、ある日、ゆみちゃん、まりちゃん、さよちゃんとふざけてたんだと思う。授業が始まる前だったが、気がつくと予鈴が鳴り終わってた。「あなたたち、皆もう座ってるでしょ、いいかげんにしなさい」イラついた口調だ。ゆみちゃんはすでに泣いてる。まりちゃんさよちゃんは、うなだれてる。先生は私を見て目をつりあげた。しょんぼりしてないから、お気に召さないのだ。「みんな泣いて反省してるよ?まいちゃんは反省できないの?」意味わからん。悪いとは思うが、「すみません」その言葉が気に入ってもらえなかったらしい。大人から見た私は可愛げのない子供なんだろう。
>> 28
何故か私は、たまに一人になりたくなった。とくに理由はない。そんな日は誰に誘われても今日は遊べないって断り、ある場所に行く。そこは何の変哲もな…
ある日ふと、今日は母の誕生日だと気がついた。自分は誕生日もクリスマスも、何にもしてもらった事ないけど。「母さんも何にもないよね」わたしは正月におばあちゃんから貰った500円を握り締め少し離れた地区に出来たばかりの可愛いケーキ屋さんに向かった。
「いらっしゃい」優しそうなおじさんだ。「あの、、」「何がいいのかな?」
「はい、母さんの誕生日なんで、これで買えますか?」私は500円を差し出した。
「優しい子だね、これはどう?」小さいけどいちごものってる、可愛い。
「これ、ください・」私はケーキを大事に大事に抱えて帰った。母さんびっくりするかな、笑ってくれるかな、そう、しょせん私はまだ7歳。母の愛情が欲しかったんだと思う。
>> 32
4年生になった。担任は少し年輩の女の先生。厳格そうで、きちんとスーツを着てる。内心「どうせ、この人もおんなじだろうな」そんな風に思ってた。給食の時間、先生は皆に混じって一緒に食べた。ある日先生は私の隣に座った。にこやかに、「まいちゃん、好き嫌いなくてえらいね。」褒められた。私は給食大好き少女だったので、みんなのように残した事がない。いつも空腹だったから。先生に褒められたのは初めてだ、「まいちゃん、スプーンで食べる時はね顔を食器につけたら駄目よ、ほら、こうして食べてみて」お行儀講座もしてくれた。なんだか素直に聞けた。この先生はよく見てくれていたみたい。
ある日、家の話になった。「まいちゃんのお母さん若いね、先生しかかなり年寄りだわ」「若くても別に何にもいいことないよ」「そう?お母さん好きでしょ?」
「うちの母さんは妹だけが可愛いんだよ」「そんな事ないよ、まいちゃんは明るくて皆の人気者じゃない」うれしかった。愛情に飢えていた私は先生が大好きになった。
>> 33
それから、一学期の終わり、母が個人面談を終えて帰ってきた。なんだか恐い顔してる。
なんにも言わず台所仕事をはじめた。ほっとして、さとみに本の読み聞かせを再開した。
夕方父も帰り夕飯時、母が険しい顔つきで話しだした。「今日まいの個人面談いったら、あの偉そうな女、何て言ったとおもう?」父は「何か言われたのか」
「まいちゃんは明るく無理してます。妹さんと同じようにかまってあげて」だとさ。
他人に何がわかるんだか、まったく、「まい、あんた何喋った?」
「別になんにも」ばしばし!また殴られた。いつもは何も言わなかったが、その日私は無性に腹が立った。「そんなにまいが嫌いなら、なんで産んだんだよ!」
母は息を切らしながら「おろす金が無かったんだよ!馬鹿め。可愛げのない糞ガキが」
おろすと言う意味はよくわからなかったが、決定的にひどい言葉なのはわかった。
>> 35
はじめて叔母の家に行った日、祖母と電車を何回も乗り継ぎ車内で冷凍みかんを食べて、わくわくしてた。お出かけなんかほとんどしたことなかったから。駅の人込みも、電車から見える景色もすべてが新鮮だった。叔母の家は中古の一戸建て。男の子の赤ちゃんも生まれてた。たけるくん。「まい大きくなったねえ、さあさあ上がって、」暖かく迎えてくれる。「まいちゃん、よぅきたなあ」叔父さんも優しい。それにいつも冗談を言って笑わせてくれる。その日の夕食時、叔父叔母、祖母に私。楽しくわいわい食事した。叔父が祖母に話してる。「義母さん、まいは栄養不足に見えるね、和子さんはまいに愛情かけてないんじゃないか」和子は母の名前だ。「かずちゃんはきついからねえ、まいが不憫でねえ」みんなで母の事話してる。「あの人は俺の事も嫌ってるだろ」
「うちの母さんなんで叔父さん嫌いなの?」
「おじさんはねえ、日本人じゃないんだよ、韓国人なんだ、まいの母さんは差別主義なのさ」
>> 36
差別?よくわからないけど、母さんひどい。「まいは叔母さんも叔父さんも大好きだよ」「まい、ありがとう、叔母さんたちもまい可愛いよ」うれしかった。二日後祖母は先に帰った。「夏休みの終わりに叔父さんが車で送ってあげるよ。」それからの一ヶ月楽しい毎日を送った。買い物に行ってなんとローラースケートを買って貰った。「ありがとう、叔父さんありがとう」感謝する私に叔父はにこにこしてる。赤ちゃんのたけるも懐いてくれて可愛い。ふとさとみは元気かな、さとみを思う。だけどここは居心地がいい。可愛いワンピースも買ってくれた。水色じゃあないけど、薄ピンクの女の子らしいワンピース。
あっとゆうまに帰る日がきた。叔父が休みをとり送ってくれる。車の助手席に乗り何やら音楽をかけて走り出した。渋滞でのろのろしか動かない。私はうとうとしてた。「あれ?」気がつくと叔父の手が下着の中に。股間をごしごしさわってる。5歳の私にはその意味すらわからない。ただものすごく不快でいけない事だと本能的にわかった。
>> 37
「叔父さん何してるの?」「まいが可愛いんだよ、だからこれはふたりの秘密だよ。誰にも言ったら駄目だよ、まいが可愛いからするんだからね」そう言ってもっと強引にさすりだした。そのうち空き地に車を止めて私の下着を脱がせて舐め始めた。気持ち悪い嫌だ。私は吐き気をこらえた。しばらくすると「これでおしまい、まだ入れられないからね」
「何入れるの?わからない、」でも終わってよかった。叔父は誰にも言ってはいけないと念をおした。もしもだれかに喋ったら叔父さんたちは離婚してたけるが大変な事になり私の家族も不幸になると。「まいがだまっててくれたら、いままでみたいに楽しく遊びにこれるからね」
私は誰にも言えなかった。その行為の意味さえわからなかったし、いったい誰に言えただろう。」私は自分の居場所が欲しかった。だから叔父の愛情を信じたかったのだ。
>> 38
結局その4年生の夏休み祖母とふたり叔母のいえに行った。そのくらい実家は居場所がなかった。叔父の顔を見た、にこやかに迎えられた。「まい久しぶりだなあ」叔父たちにはもう一人子供が出来てた、女の子「みほっていうんだよ」まだよちよちだ。可愛い。
その次の日祖母と叔母が買い物に行ったのでおじと私そしてたけるにみほの4人で海に出かけた。楽しかった。たけると私は砂でお城作りに没頭してた。叔父はみほを抱っこして海に入ってる。「ぎゃあー」みほの泣き声、波が強くて岩場でみほのあごが切れたらしい。「たいへんや!早く車にのれっ」私とたけるがもたつくと叔父はものすごい形相で「この馬鹿が、急げ」怒鳴ってた。そのまま病院にいき4針縫った。その間おじは「みほごめんな、父ちゃんのせいや、傷残ったら父ちゃんのせいや」私は」わかってしまった。叔父は私のこと本当には思ってない。みほの事は娘だから本当に可愛いんだ。叔父は私なんかどうでもいいからあんな事したんだ。
>> 39
翌日私は祖母と一緒に帰る事にした。なんでよ、まい夏休み中いるんじゃなかったの?「「ううん、友達といろいろ約束してるから帰る」「そう、残念ね」叔母は言ってくれたが叔父は黙ってた。それからはもう叔母の家に行くことはなかった。
帰ってから毎日私はゆみちゃんたちと遊びほうけた。川に入って水遊びしたりまりちゃんちで人形遊び、それからかなり上達したローラースケートでどこにでも行った。その頃近所にとんでもないわんぱく小僧がいた、奴の名前は邦夫。一つ下のガサツもの。みんな恐がってた、道端で会うと必ず悪さをしてくる。ゆみちゃんもさよちゃんも殴られたりおもちゃ取られたり。ある日まりちゃんが財布を取り上げられてるとさよちゃんが走って私を呼びにきた。駆けつけた私は邦夫の顔をいきなり殴りつけた。しりもちをついた邦夫はびっくりしてる。誰にも反撃された事ないのだ。その後素直に財布を返した邦夫は私には逆らわなかった。
>> 40
母は勉強に異常にうるさかった。私は国語は出来た、本を読んでたからだろう。だけど算数は何故か全く出来ない。九九を憶えたり暗記は得意なのに計算になると脳が止まってしまう。だから国語は90点でも算数は30点とか極端な成績だ。母が怒り狂い勉強しろとまくしたてる。だけどどうやって勉強したらいいのかわからない。「なんの為に学校行ってるんだよ、頭の悪い女だね、頭の悪いお前なんかろくな大人にならないよ」「もうほっといてよ、私の事なんかどうでもいいんでしょ」すると「お前の為に言ってやってるんじゃないか」
それは違う。母はだれそれの子供は勉強できるとか、あの子は運動出来るとか、とにかく人と比べて自分がいい思いしたいために怒るのだ。わたしはどんどん無気力になった。友達に関してもものすごく干渉した。新しい友達ができても、「あの子はやめときなさい。母子家庭らしいじゃない」「はあ?何が悪いの?いい子だし、そんなことゆうならうちだって貧乏家庭じゃない」その日アイロンで殴られた。掃除機も飛んできた。あちこち痛くて眠れなかった。
>> 41
そんな毎日の中私が癒されていたのは、空き地に暮らす何匹もの野良猫。普段警戒心の強い野良猫も私だけには懐いてた。そのくらい、一人空き地に座ってたからだろう。
勝手に名前をつけて、給食のパンなんかを残して持って行ったりしてた。猫たちは、いつも一人ぼっちの私に寄り添っていつまでも一緒に座ってた。あの頃何の力もない無力な子供だった私。ひたすら空想の世界に没頭して、日々を乗り越えてた。
六年生になると聡美が一年生に入学してきた。毎日お友達ができるまで一緒に登校した。ある日、朝並んで歩いていると、聡美が「まいちゃん?」「どうした?」
「まいちゃん、どうしてうちは、貧乏なん?あたしのお友達のおうちはみんな、大きいよ。二階建てなんだよ、あたし、あんなぼろアパートいやだよ。」
寂しそうに言う聡美にどう言ってあげたらいいんだろう。
>> 42
「そうだね、いやだよね、だけどあたしたちのせいじゃないし、どうにもできないんだよ。大人になって、いっぱい仕事して、なんでも好きな物買えるようになるからさ。」
「大人になったら?」
「うん。私が働いて聡美になあんでも買ってあげる。」聡美は少し微笑んで「うん!」
そのくらい、貧しい思いしてた、父は体が弱くトラック運転手をしていたわりには、よく休むので薄給だったのだ。母は働く気もないらしく、毎日甲斐性がない父を責めるだけ。
貧しいと心が歪むのかな。だけど、クラスには母子家庭でもっと大変な友達もいたけど、その子のお母さんはとても優しい人みたいで、私はうらやましく思ってた。
その頃から、何故か私は自分が母親になりたいと思うようになってた。自分で家庭を持ち子供を産み自分の母みたいにはならない、いっぱい愛情を注いで育てたいと。
居場所を作りたかった。
>> 43
小学校高学年ともなると、みんな好きな子の話や、バレンタインデーなんかには、わいわいと盛り上がる。「私森下君にチョコあげたいんだよね。」「私も森下君」
クラスの森下君は勉強が出来てスポーツも出来る。絵に描いたような男子。
確かに彼は優しい子だ。席が隣だった私はよく彼に助けられた。「算数の時間、先生に当てられても、わからない時小声で答えをおしえてくれた。あるひ、ノートをとっていると漢字の誤字を教えてくれた。「なんか、森下君にノート見られるのいやだな。」
「どうして?」「、、、森下君綺麗な字だし、私字が汚いから。」
「そんな事ないよ、山本さん、丁寧に書いてるよ、あっここも間違い」(笑)
確かにもてる要素満載だ。だけど私は誰かが好きって感覚がよく理解できなかった。
そういう感情にまだ目覚めてなかったんだと思う。
>> 44
ゆみこちゃんが、森下君にチョコをあげたいと相談してきた。「まいちゃん、一緒に渡さない?」「えっ?なんで?私好きなわけでもないのに」
「まいちゃん、森下君と仲いいから、好きなんだと思ってた」
私は内心チョコを誰かにあげるくらいなら、自分が食べたいとか考えてた。
「ついてってあげるよ」「ほんと?ありがと!」
バレンタイン当日ゆみちゃんはなにやら立派な包みのチョコをひっさげ登校してきた。
「まいちゃん、朝みんながあんまり来てない今のうちに渡したいんだ」
「オーケー。今席に座ってるよ」「まいちゃんが話してくれる?」
「いいよ、」私は森下君の横に立ち、話しかけた。
『森下君このチョコゆみちゃんから」ゆみちゃんは真っ赤で何も言えないみたい。
>> 45
「あ、うん。ありがとう。」森下君が受け取るとゆみちゃんは教室の一番後ろの席に走って戻った。私の席は彼の隣なので席に着く。その日何人もの女の子がチョコを渡しに森下君の席に来てた。放課後「山本さんは誰にあげたの?」森下君に聞かれた。
「誰にもあげない、私好きな人いないから。」「そっか、そうなんだ」森下君が笑ってる。「おかしい?」「いや、おかしくないよ、じゃね、また明日」
帰り道、ゆみちゃんやまりちゃんさよちゃんと、話しながら歩いてると「まいちゃんだけ誰にもチョコあげてないんだね」とさよちゃん。
「私誰か好きって感じがわかんないんだよ」「まいちゃんお子様だね」とはまりちゃん。
「みんな好きな子言い合ってるんだからさ、まいちゃんも好きな子できたら私たちには教えてよね」「、、うん。できたらね」
>> 46 ある日私は学校ですごく気分が悪くなった、朝から熱があったのだが、休むとか言うと母が異常に怒るのがわかっているので無理して登校していた。しかし吐き気もしだして、とうとう保健室に行くはめになった。しばらくして担任の先生がやってきた。この男の担任小学校六年間で一番きらいな先生だった。この人はかなりはっきりえこひいきするので有名な奴だった。私はひいきされない組。成績優秀で家柄のいい子供がお気に入りらしい。「山本、帰ったほうがいいな、休憩時間だから送るよ。」「あ、はい。」先生の車で送ってもらう事になった。車内で先生が言った。「体調悪いなら休んでくれないと、迷惑だよ、お前勉強嫌いなくせにきっちり出席するよな」「、、、。」その後無言で自宅についた。母が出てきて「まあ、先生わざわざ申し訳ないです、迷惑かけまして」へこへこしてる。母は男の人にはしおらしいのだ。「いえいえ、熱もあるみたいなので心配で送らせてもらいました」わたしは二人の社交辞令を無視して家に入った。
>> 47
先生が帰ると母が保険証を投げてよこした。「医者にいって来なさい」
「、、ひとりで?」「母さんいなきゃさとみが帰ってくるだろ」
私はふらふら歩きながらかかりつけの内科に向かった。途中吐き気が治まらなくて
道端の溝に戻した。やっとの思いで内科に着く。そこは古い小さな医院で、先生もかなり高齢だ。受付の看護婦さんに保険証を渡す。「まいちゃん、一人?今日はどうしたの」
私は症状を話す。「そう、すぐ診察室に入ってね。」診察室に入るとそこもものすごくレトロな世界。小さな椅子に黒い革の寝台。戸棚には青や緑の薬瓶。ひそかに私はそこが好きだった。「まいちゃんこんにちは、熱高いね、診察しようか」先生は優しい。
診察をしてなにやら痛い筋肉注射を打たれ「しばらくは安静にね、消化のいい食事にしなさい、お腹も弱ってるからね」
>> 49
その夜父と話し合った結果引っ越すことにしたらしい。聡美は引越し引越しとはしゃいでる。「さとみったら、そんなにうれしいの?そうだおまんじゅうがあったんだ、ばあちゃんが買ってきたの」「おまんじゅう食べる~」母と聡美は仲良しだ。そんなふたりをぼんやり眺めてると、にやにやしながら母が言う。「まいは体調悪いから食べちゃ駄目なんだよ」「、、、。」「見てみて、あの子の顔、意地汚いから泣き出しそうだよ」
おまんじゅう食べたくて悲しいんじゃない。あの意地悪で思いやりのない母が悲しいんだ。もうとっくにあきらめてたけど。それにもう泣けないんだ。悲しいのに涙が出ないんだ。
- << 51 その後引越しも終わり、祖母がまた同居した。そのアパートは一階に台所に六畳一間に、念願の風呂場。二階に六畳二部屋。一階に祖母、二階の一部屋に私と聡美。狭いけど、満足してた。初めて風呂に入った。一人で。うれしくて長々と入ってしまいのぼせてしまったくらいだ。しかし毎日祖母がいる生活は、母にはストレスでしかなく、日に日に険悪になって行った。祖母は工場勤めで夕方に帰ってくる。夕飯時私たちが食事中その傍らで晩酌をしていた。母はそれも気に入らなかった。祖母はお酒が入ると愚痴っぽくなるのだ。
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