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闇の中の天使

No.74 13/02/19 20:53
中谷月子 ( ♀ ezeSnb )
あ+あ-

≫73


ふと、私はこんなに勉強をする人間では無かったと思った。

前の私は、学校が終わると、仲の良い友達とハンバーガーショップに行って、大したことのない話題に声を上げて笑い、宿題は適当にすませたり、たまにはサボることもあった。
休日には友達とあちこちに遊びに出かけて、そう、ごく普通の女子高生だった。

弟の事件が無ければ、きっと今でもあの暮らしをしていただろう。
小さな悩みはその時その時にあったが、それはとても陳腐な悩みで、今となっては何を悩んでいたのかさえ思いだせない程度のものだ。
今、私は自らの意思でこうして勉強して、毎日を決まったスケジュールの中、過ごしている。
今までの私は何だったのだろう。
今の私が本当の私?
これまでの私が本当?

劇的に変わった生活を苦に思わないのは、おば様のおかげだ。
佐伯さんや矢島さんが守ってくれているという安心感があるからだ。

私はもっと、もっと心身ともに強くならなければいけない。
そうしっかりと思ってから、再び机の上の教科書に目を落とした。


「ただいま」
玄関からおば様の声が聴こえた。
「おかえりなさい。大丈夫ですか?」と、私はおば様に声を掛けた。
ご主人を亡くし、疲れてしまっているのではないかと心配した。
おば様は、「ゆかりちゃん、わたしが着替えをすませたら、お茶にしましょう。塚田さん、用意をお願いね」と言った。
「かしこまりました、奥様」

おば様の好きなアールグレイの紅茶と、甘さを抑えたビスケットがテーブルに置かれた。
「ゆかりちゃん、そんなに心配そうな顔はしなくてもわたしは大丈夫ですよ」と、おば様が言った。
「私、結局、一度もお見舞いに行かないままで…」
「それは、前にも話したでしょう?主人はお見舞いを嫌う人でしたから。それに、思い残すことが無いくらい、好きなことを好きな時に好きなだけやってきた人ですから、わたしは今になって‘ああしてあげればよかった’とか‘こうするべきだった’なんて、後悔が無いのですよ。主人の寿命です。わたしは安らかな気持ちで主人を見送ることができました」
「そうですか」
「ですが…、ひとつだけ…」
「何でしょうか?」
「病室に残されていた主人の遺品の中に、亡くなった娘の写真を見つけました。思い通りに生きてきた主人でさえ、娘の死は無念だったのだとつくづく思いました」
「私が…、私がその無念を晴らします」
「ゆかりちゃんが?」
「はい。私はこれから虐めの無い学校作りを目指します」
「そう、ありがとう」
おば様は、私の手を両手でしっかりと握った。
暖かい手だった。
だが、おば様の表情はとても悲しく見えた。







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