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帰路

No.129 13/03/24 22:05
まるだまる ( D6kL )
あ+あ-

 家の前に着くまでの“美咲”は、ご機嫌で、機会があるごとに名前を呼ばされた。

 今日は部屋の明かりが点いておらず、はるなさんはまだ帰ってきていないようだ。 

 週末だというのに忙しいのだろうか。

「まだ、はるなさん帰ってないみたいですね」

「そんなに遅くならないと思うよ。いつもありがとね。おやすみなさい」

「お礼はいらないって言ったでしょ。おやすみなさい」

 いつもなら、ここで直ぐに家に入る美咲なのに、今日は何故か動かない。

「どうしました?」

「最後にもう一回名前呼んでほしい……」

 照れくさそうに俯いて呟いた。

 もう何度か言わされた後だったので、仕方ないなと思いつつ、少し慣れつつあった俺は、この駄々っ子動物のおねだりに応じることにした。

「おやすみ、美咲」

 言った途端、美咲はくわっと目を見開いて俺を睨みつけると、

「今、みみさきって言った?」

「言ってねぇし! そこ普通繋げないだろ!」

 台無しだよ。すんごい残念だよ。すんごい格好良く決めたつもりだったのに。どんだけトラウマ持ってんだよ?

「ごめんごめん。もう一回お願い」

「もうやだ」 

「えー、もう一回だけ! 変な受け取り方しないから」

 俺は明日会えない事を思い出した。どうせなら……。

「……明日ファミレスのバイト九時くらいに終わるんで、その後、店に行きますから」

「へ? 何で?」

 美咲は目を丸くして驚く。

「帰り道、一人だと危ないから送ります」

「えー、いいよ。明人君遠回りになっちゃうでしょ?」

「仕事の後、挨拶してから行けばちょうどいい時間位だし、俺がそうしたいから行くつもりですけど、美咲さ、いや、美咲は嫌?」

「嫌じゃない……どっちかって言うと嬉しい」

 俯きながらぼそぼそと呟く。

「んじゃ決定。それじゃあ美咲、また明日。おやすみなさい」

「うん。おやすみなさい」

 美咲は満面の笑みを浮かべたまま、部屋へ向かった。

 いつものように少し時間を空けて美咲の部屋の窓を見ると、美咲が小さく手を振っていた。

 俺は手を振って答え自分の家への帰路へと足を進めた。

 一人になって、急に恥ずかしくなってきた。

 自分で決めたとはいえ、年上の女性を呼び捨てだなんて、でも、美咲の喜んだ顔を思い浮かべると、なんだかどうでも良くなってくる。

 すごく嬉しそうだった。

 こんな俺でも喜んでくれる人がいると思うと、それだけで救われるような気がした。

 いつも帰路の時は、陰鬱な空気が俺を包んできていたけど、今日はなんだか温かい何かが俺を包んでいて、その温かいものが何か分からないまま、帰路を進んでいく。

 ずっとこのまま包まれていたいと思うほど、それは優しく温かいものだった。

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