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あの人が俺の前に現れた

レス201 HIT数 113652 あ+ あ-

自由人
16/06/29 14:57(更新日時)

俺は異性を好きになったことがない。

30年間生きてきたが、
まるでわからない。

だが、何だかおかしいんだ。
あの人は何者なんだ?

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No.2019517 13/10/30 15:13(スレ作成日時)

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No.1 13/10/30 15:23
自由人0 

恋だの愛だの、なんじゃそりゃ…

俺は生まれてから30年
特定の女を特別に好きになるなんてことは
経験がない。

そうだ。
俺は相当の変わりもんだよ。

いつからだ?
自分が変わってるということに
気づいたのは…。

恋愛感情だけじゃない。
俺にはその他にも欠けた感情がある。

No.2 13/10/30 17:24
自由人0 

恋愛感情なんてなくても
セックスはできるんだよ。
俺は女に困ったことはない。
なんだろうな、
女ってのは、俺のように少し変わった男に惹かれるのか?

それはもう勉強済みだ。

俺は恋愛も、その他の感情についても
研究してきたつもりだ。

No.3 13/10/30 17:45
自由人0 

俺は俗に言うSだ。
それも究極のな。
だからセックスして本当の俺を知れば
女は怖くなるみたいだ。
逃げていくやつもいる。

だが、俺には関係ない。

逃げたいやつは逃げればいいんだ。
セックスの相手なんてすぐに見つかる。

No.4 13/10/30 22:05
自由人0 

女の好きっていう感情は
束縛と嫉妬が伴うんだな。
なぜ特別な存在になりたいのか。
なぜ俺の全てを知りたい?
なぜ好きとか
愛してるとか
そんな言葉を求める?

No.5 13/10/31 07:49
自由人0 

好きだから付き合ってください
だって?
でも俺はこういう男だから
あんまり期待しないほうがいい。
それでもよければ付き合ってもいいよ。

俺と付き合いたいと言ってくる女は
俺に何を求めてるんだ?

女を観察していても、いまいち読めない。
急に泣き出したり、癇癪をおこしたり
昨日は誰と何してただのしつこく聞いたり。
何で連絡くれないの?ってなんだ?
わたしたち付き合ってるんだから
せめて1日に一回くらいメールくれてもいいでしょ!って…
おいおい、俺ははじめに言ったはずだ。
忙しいから連絡できないことが多いし、
何よりオマエに好きいう感情がないことは。

それでもいいの
と言ったくせに、女はこれだからわからん。

No.6 13/10/31 07:58
自由人0 

あたし、やっぱりダメかも…別れて!

ほらなー。またか…。だから言っただろ。
人の気持ちは必ず変わる。
言葉なんてものはな、当てにはならないんだよ。全ては女がそれを証明してくれる。

好きだとか愛してるとか、所詮は
その時の高ぶった感情から発せられる鳴き声みたいなもんで、
そこに永遠や真実なんてあるわけがないんだよ。

結局自分が満たされなければ、簡単に崩れてしまうような、そんなにまでも
もろくて、当てにならない感情なんだよ
恋愛なんてもんは。

No.7 13/10/31 11:09
自由人0 

俺のこと、可哀想な人だという人もいるな。
俺が孤独に見えるんだと。
愛だの恋だのがわからないと
可哀想にみえるらしいな。
まあ、俺は家庭にも恵まれていないしな。

でも、そんなところに
母性本能をくすぐられるんだと。
女ってのは、ある意味不思議な生き物だ。
理解はできないが、ありがたいな。

こんな俺に興味をもち、近づいてくる女がいるからこそ、俺も何かと便利に使わせてもらってるしな。

No.8 13/10/31 11:32
自由人0 

顔がきれいな女、
スタイルがいい女、
優しい女、意地悪な女、
傲慢な女、積極的な女、
欲の深い女、頭のいい女、バカな女、
いわゆる天然の女…
いろいろいるもんだな。

俺は何人もと付き合ってきたが、
どの女も研究材料でしかなかった。

食事をしていても、セックスをしていても、
まあ、特別な気持ちはわかない。

大事だと思えないんだな。どうでもいい存在だ。だから、乱暴なこともできる。
苦しんだり、悲しんだり、泣き叫んだりする姿に興奮するし。

相手が去っても何も感じない。

冷たい?
よく言われるな。
だからって、何を変える必要がある?
変えられないんだよ。気づいたらこの俺だったんだから。

No.9 13/10/31 12:45
自由人0 

あの人に初めて会ったのはいつだったか。
後でわかったんだが、
俺より10も歳上だった。見た目は、そんなに歳を感じないな。
一般的にいえば美人だな。それから、一般的にいえばおばさんだ。
その人は、本当の俺を知らないから
にこやかに接してくれた。
感じのいい人だな、それ以外は何も感じなかった。まあ、そのくらい普通のレベルの女だった。
初めて会った時はな。

No.10 13/10/31 13:07
自由人0 

そのおばさん。
そうだな…俺がSだから、その人はMとでも呼ぶか。

俺の仕事仲間の知人ということで、
ある日、俺の仕事を手伝ってもらうことがあった。
気がついたらもう昼飯の時間で、他の仲間は別の仕事場にいってしまい、俺はMと二人になった。
時間が時間だしな。近くにあるラーメン屋にMを誘った。

下心?

なかったわけじゃない。まあ、普通におばさんだが、普通に綺麗だし、いい人だしな。

今まで一緒に仕事をしたことはあったが、食事をしたのは初めてだった。だから、とりあえず、様子見だ。俺の得意な観察から入ることにした。

No.11 13/10/31 15:00
自由人0 

俺はチャーシューメン、
Mは普通の醤油ラーメンだったかな。

私、猫舌だから…と言って
ゆっくり食べ出したM。

俺はもともと早食いだから、どんどん食べた。

いつもなら、ここで、一緒に食べている相手には、引かれてしまうところだ。
あんまり俺が豪快に早く食べるので、
ねえ、もっとゆっくり食べてよ
とか
どうしよう…追い付けない…
とか
言われてしまうところだが。

Mは俺の食いっプリを見てこう言った。

あら、早い!それじゃ、私も頑張るからね

げっ、マジかよ。
深呼吸したMは、俺のスピードに合わせて
一気にラーメンをすすりはじめた。

猫舌だろ?(←俺の心の声)

時々、アチッアチッと言いながら、すごい勢い。
アチッって…。
普通ならここは、あっつ~い!じゃないのか?(笑)

結局Mは、ほとんど俺と同じくらいに食べ終えた。

すっごく早かったでしょ!

と、勝ち誇ったようなMを見て、俺は苦笑いした。

そ、そうだね。

この人、変わってるなぁ…。

No.12 13/10/31 15:26
自由人0 

ふとみると、Mの左手薬指に指輪が光っていた。
そうか、この歳なら、結婚してるよな、フツウは。
俺はSだが、常識くらいはしってるつもりだ。
歳上には敬語をつかえるぞ。

Mさんは、お子さんいらっしゃるんですか?

はじめて質問した。まあ、社交辞令レベルの質問だがな。
Mは指輪をちょっと触りながら答えた。

はい。中学生の子どもが一人…。

へえ。中学生の子どもがいるとは、正直驚いたな。でも、40くらいの歳ならこれもおかしくないな。

No.13 13/10/31 15:33
自由人0 

それから何の話をしたかな。
いろいろ話したが、どれもこれも話題が平凡な割には、笑ってしまった。
Mの話は、なんだ?何がおもしろいのかよくわからないが、笑ってしまう。

顔か?表情がおもしろいのか?
いや、話し方か?
ジェスチャーがおおげさ?
いや、お笑いのセンスがあったりして?

俺は話をしながら、一生懸命分析しようとしていた。

No.14 13/10/31 15:42
自由人0 

ラーメン屋を出ると、
俺たちは別々に帰った。

俺は、あんまり楽しかったので、
素直にまた話がききたいなと思っていた。
まあ、でもそんなこと言ったら、
既婚者のMに気持ち悪いと思われてしまうだけだろうし。しかも、キャラじゃないしな。
普通に挨拶して別れた。

No.15 13/10/31 16:20
自由人0 

午後の仕事を早めに切り上げて
家に帰ってきた俺は、
スマホのチェックをしていた。
明日の仕事のスケジュールやら、いろいろだ。

ふとMの顔が頭に浮かんだ。

おもしろい人だったな。ああいう人もいるんだな。
俺は職業柄、沢山の人を見てきたつもりでいたが…。

No.16 13/10/31 18:12
自由人0 

よく、会ったとたんビビっときたとか、
赤い糸を感じたとか
胸が苦しいとか、キュンキュンするとか?
そういった非科学的な現象を
あらゆる人たちから聞いたりするし、
恋をしている人間の、突然興奮して
大声をあげてキャーキャー言ったり
跳び跳ねたりする姿も見てきたりもしたが、

まるで理解ができない。

あれは、なんで恋愛の話になると
男も女も、興奮したり、顔を赤らめたりするんだ?
ドキドキするって、それは心臓に異常をきたしているんだろう?

No.17 13/10/31 18:21
自由人0 

でもな、俺だって人間だ。
そういう感情とか、症状とか、
一体どんなものなんだろうなんてことは考えて、
ちょっと経験してみたかったりもした。

でも俺には無理だった。
縁のない世界だった。わからないものは仕方ない。割りきるしかないだろう。

ずっと諦めてきたんだ。
そして、いろんな女から諦められてきたんだからな。

恋愛なんて知らなくても生きていけるさ。
生きてきたんだしな。

No.18 13/10/31 21:28
自由人0 

Mと2回目に会ったのは、現場での仕事の時だ。ラーメン屋の時とは感じが違っていた。

その日は、黒髪を1つに束ねていた。
凛々しくて、男の俺からみてもかっこいい。
男らしくも見える。

改めて気づいたが、
Mは、すらりとした長身で、手足が長い。

言っておくが、このくらいの女性のチェックは
いつでもしている。
Mに限ってのことではない。

それから、べつに、年上に弱いわけでもない。
俺は年下だろうが、年上だろうが、分け隔てなく、どの層の年齢とも付き合ってきたしな。
50を越えた女性ともベッドを共にしたことだってある。

No.19 13/10/31 21:51
自由人0 

Mは、俺に気づくと、にこにこと近寄ってきた。

先日はありがとうございました。

Mは、そう言って丁寧に頭を下げた。

No.20 13/11/01 08:35
自由人0 

俺とMは、職場が違うんだが、
ジャンル的に同じところがある。
出会いも縁だな。仲間の知り合いっていう出会いも、まあ、ありがちなことだがな。

No.21 13/11/01 08:51
自由人0 

その日は、同僚もMも含め3人で飯にすることになった。
現場近くのファミレスだ。
話の内容は仕事のこと。まあ、当然だな。
Mは、聞き上手だが、
自分の意見もきちんと言える。
観察中の俺としては、

この人はバカじゃないな

と感じた。

No.22 13/11/01 09:15
自由人0 

俺は、バカは嫌いだが、
利口すぎる女もいやだ。どこか
自分の知識を鼻にかけて威圧的な女は
この手でそのプライドをズタズタにしてやりたくなる。
まあ、バカな女は相手にもしたくないから
利口な女の方が、関わりがいがあるというものだ。

Mは、どんなタイプだ?

利口だが、本当の利口なタイプだな。
本当に利口なやつは、自分を出しすぎない。
でも隠しすぎない。

話はどんどん膨らむ…
話が終わらない。おもしろい。
Mの考え方は、おもしろい。

No.23 13/11/01 10:40
自由人0 

この時、
自分の中に不思議な感覚が襲ってきたのを
今でも覚えている。
不思議すぎてわけがわからなかった。

この人と関わることは、俺にとってきっとプラスになるに違いない。

そんな感じだったのか…
それから、今振り返ると多分あの時に
直感的に

この人なら俺をわかってくれるかもしれない

と感じたんだろうな。

それと同時に

この人を俺の思い通りに動かしてやりたい

とも思ったな。

でも、あの不思議な感覚は、今でも説明が難しい。

No.24 13/11/01 10:49
自由人0 

これから
連絡をとりやすいように…ということで
どちらからともなく
連絡先の交換をした。
メールアドレスと電話番号。

まあ、ここからが俺の腕の見せどころか…。

俺!いつもの調子を取り戻せ!

とにかくこの女と寝てみなければ
はじまらないだろう?

No.25 13/11/01 17:18
自由人0 

それから
メールのやりとりが始まった。
内容はいたって真面目。
仕事に関係した話ばかりだ。
仕事に対しての情熱は、同じものを感じた。
Mの文章はとても丁寧で、読みやすく、
興味深い内容だった。

俺は、正直、
今までの女とのメールには疲れていたんだ。
くだらない絵文字やら、顔文字やら
そんなものを入れないと、感情を表現できないやつらばっかりだったし、
しかも、内容がほとんどのないのに
つながっていたいだけのメールなんかも
うんざりだった。

Mとのメールは、一週間に一度あるかないか、
二週間くらいあくときもある。
それくらいが、心地よかったし、
内容が濃いのでメールが楽しみでもあったな。

No.26 13/11/01 17:31
自由人0 

俺は、何とかMのプライベートを知りたかったが、なかなかその話題にはならなかった。

なんだろうな。
この女はスキがないのか。

だだ、ひとつわかったことがある。
Mの旦那は、2年前に他界していた。
事故でとしか言わないから別に詮索しなかったが。
まあ、これで、もし俺がMと何かあっても
不倫にはならないわけだな。
別に俺としては不倫になろうが構わなかったが。

Mは、きっと死んだ旦那のことを今でも想っているんだろう。
指輪を外していないということは
そういうことだろうな。

No.27 13/11/01 20:51
自由人0 

俺は、その日も別の女を抱いていた。
俺を求める女の気持ちはわからないが
利用してやる。

俺の言う通りにするんだな。

女も性欲の、かたまりだ。
セックスをして、生きていることを実感したいのか?
俺を独占しているような錯覚で満足しているのか?
俺がおまえを好きになると思うか?
こんなセックスくらいで?

俺は、ただ、俺の存在を確信するだけで
おまえのことは何とも思っちゃいないんだ。

こんなことで愛を確かめあってるやつらが
滑稽でもあり
羨ましくもあるな。

No.28 13/11/02 00:35
自由人0 

俺は、Mと寝てみたかった。
どんな感じ方をするのか見たかった。
喘ぐ声も、顔も、調べたかった。

だから、仕事の打ち合わせにこじつけて
二人で会う約束をしたわけだ。

Mは、何も疑う様子もなく承知した。

でもな、いきなり襲うほど俺はバカじゃない。
1回やるだけの女はいきなり襲うが
Mのような女には、そのやり方は利口じゃない。

No.29 13/11/02 00:46
自由人0 

待ち合わせたのは、いつか昼飯を一緒に食べたファミレスだった。

俺の方が遅れた。

Mは、

こんにちは

と気持ちいい笑顔をみせた。

俺は、素直に、綺麗な顔立ちだなと思った。

1対1で向い合わせで座ったのは
はじめてだった。
ラーメン屋ではカウンターだったし
その次は、二人きりじゃなかったしな。

Mは、化粧してるんだろうか。
…いや、しているな。
ナチュラルメイクってやつか?
目のまわりに線をかいたり、つけまつげをつけたり、一切していない。
こんなシンプルなメイクなのに、綺麗にみえるのは、顔立ちが整っているからなんだろう。
なんてことを、考えたりしていた。

No.30 13/11/02 01:01
自由人0 

あ、まただ。
なんだ、この感覚は。

Mといると、いつもの調子が狂う。
俺がリードしているようで、Mの雰囲気に飲まれる。
でもこの感覚がなぜか気持ちいい。

Mは、しっかりした印象だが、なにか
抜けている。マヌケ…?
ドジっぽいし、落ち着きはないし
相変わらずおもしろい。
それなのに、なんだろうな。
この安心感は。

俺は、母親の愛に飢えて育ったから
この人に母を求めているのだろうか?

10歳も年上。そうかもしれないな。

俺は、Mを観察しながら
自分のことも、そう分析した。

No.31 13/11/02 01:19
自由人0 

俺は、いまだかつて
年上の女に、この言葉を当てはめたことがあるだろうか。

かわいい人だな

俺は、素直にそう思ってしまった。
かわいい服装の女や、可愛さを演じる女なら
山ほど見てきた。

しかし、かわいいという言葉が
当てはまるのが、この40歳のMだなんてな…
おかしいだろ?
俺も自分で笑えたよ。何を血迷ったことを考えているのか…。

でも確かにかわいい人だ。
子どものように純粋な感性をもちながら、
男のような論理的な考え方もする。
理性と感情のバランスがとてもよく、
相手をスッと受け入れ、また、相手からも受け入れられる…
反応が素直で、嫌味や、いやらしさがなく、
そこに裏を感じない。
わざとらしくない。

そこに、人としてのかわいらしさを
感じた。

こんなに誉めても、何もでてきやしないのに
俺は、ここまで観察していた。
心の中だけだがな。

No.32 13/11/02 21:56
自由人0 

だいたい、いつもなら
二人で食事する段階で
女が俺を好きになるパターンで、

そのあとは別に苦労もしないで
セックスにもちこめるはずなんだが。

Mはもう少し時間がかかりそうだな。
俺は、そう思っていた。

でも強引ではあったが、
次もまた二人で食事をしたいことは
伝えて、OKの返事はもらえた。

これからだな。



No.33 13/11/03 10:12
自由人0 

噂によると
Mは、かなり人気者らしいな。

女性からも好かれているらしい。

男性からも人気があり、年齢関係なく
みんながMのまわりに
集まるんだとか。

そりゃそうだろう。
俺だって、また会いたい、話したいと
思うんだからな。

なんだろうな、
男性に人気があるわりには
媚びてない。
男らしさがある。
だから女性からも人気があるんだろう。

チラッチラッと聞くMの噂が
嬉しかったりもした。

No.34 13/11/03 17:16
自由人0 

俺の仕事は変則的で
平日は夕方から夜まで入ることが多く、
土日祝は、朝から夜まで仕事になることがほとんどだ。
だからMと会えるとしたら
平日の昼間しかない。
平日だって朝から仕事のこともあるから、なかなかMとのスケジュールも合わない。

そうなると、電話やメールで話すことが多くなった。

No.35 13/11/03 17:32
自由人0 

俺は、Mと話しているうちに、
自分のことを知ってほしいと思うようになっていった。

そうだな…肝心なことは、だいたい話したと思う。
自分のことを知られるのは怖くなかった。
Mなら俺を受け入れてくれるように思えた。
俺の生い立ちも、この普通ではない本性も
話した。

Mは、驚いた様子もあったが、淡々と自分の中でかみ砕き、理解し、返事をしてくれた。
そして時々質問もしてきたな。
俺は、それに対して正直に答えた。
電話やメールは顔が見えないが
誠意をもって接してくれることが
嬉しかった。

それと同時に、Mの身体を手に入れるのも
時間の問題だろうと思ったりもした。
まあ、それが一番の目的だからな。
とにかくMを手にいれたかった。

今思うと、その時の俺は、今までの俺に似合わず必死だったな…(笑)

No.36 13/11/03 19:04
自由人0 

久しぶりにMに会えた。
時間的には忙しく、昼飯だけでもということで…。

その日に何を話したのか
あまり覚えていない。

飯のあと少し時間があったので
俺の車でそのへんをドライブすることになった。
というより、ドライブに誘ったんだ。

あっという間に時間は過ぎて
またもとの駐車場に戻ってきた。

それじゃ、またね

とMが挨拶をした時だったかな…
俺は、Mの首筋に手をまわし、Mを引き寄せた。
多分Mは、びっくりしていたんだろうが
抵抗をするスキを与えないように
俺は、Mにキスをした。

柔らかい唇だった。

Mが下を向き、俺の胸をそっと押したので
二人の唇は離れた…

No.37 13/11/03 19:23
自由人0 

Mが言った。

好きでもないのにどうして…?

俺に恋愛の気持ちがわからないことを
知っているMにとっては、
このキスの意味がわからなかったんだろう。

俺は、正直に答えた。

したくなったから、したんですよ。
ダメでしたか?

Mは、眉間にシワをよせた。
そして言った。

あのね、私、おばちゃん…ですよ…

No.38 13/11/03 19:33
自由人0 

俺は、その時、はじめて
Mが、俺との年の差を意識していることを知った。

それと同時に俺の頭に少し血がのぼるのがわかった。

あなたの、どこがおばちゃんなんですか?

咄嗟に出た言葉だった。

俺も普通に40歳はおばさんだと思っていたかもしれない。
だが、Mは、おばさんなのか?
誰が何と言おうと、俺にとっては
Mは、おばさんじゃない。
一人の女性だ。

No.39 13/11/03 19:41
自由人0 

笑いたいやつは
笑えばいい。
キモいと思いたいやつは、思えばいいんだ。

でも俺は、40歳のMを求めている。

俺を感じている時のMの顔が見たい
感じているときの声がききたい
身体に触れたい、身体を確かめたい。
Mをめちゃくちゃにしたい。
いじめたい。壊したい。

それが俺の本心だった。

No.40 13/11/03 21:37
自由人0 

俺がキスをしたことで、
もうMが会ってくれなくなるんじゃないかと
心配になった。

別れ際、Mが

またね

と言ってくれた。
俺は、ホッとした。

No.41 13/11/05 08:47
自由人0 

Mと会えるときは、
どんな短い時間でも嬉しかった。

二人だけになれるときはキスをした。
Mは、いつも遠慮がちだったが、俺を受け入れてくれた。
そんなMが新鮮だった。毎回、まるで初めてキスをするかのように反応していた。

俺はもういい加減、我慢ができなくなっていた。

あなたとセックスがしたい

ついに言ってしまった。
Mは、困ったような顔をした。そして
俺を見つめた。

あなたは、私に何を求めていますか?

わからない。俺もあなたに対しての感情がわからないんだ。
あなたとセックスをしてみないとわからない。

正直な気持ちだった。

Mは、うつむいて考えていたが、小さな声で言った。

いいですよ…。

この時、Mがどんな気持ちだったのか、俺にはどうでもよかった。
セックスすることを許してくれたことが嬉しかったんだ。

No.42 13/11/05 13:09
自由人0 

ホテルに入った。
Mは、明らかに緊張していた。

部屋の入り口に立って

やっぱり、やめて、他のことしませんか

そうMが言った。
おもしろい人だな…
他のことって、何をするんだろうか…

ためらっているMの手をひいて
ベッドまで連れてきたが、立ったままだ。

とりあえず、座って話しませんか?

俺が言うと、少し安心したように
Mは、ベッドに腰かけた。

No.43 13/11/05 13:26
自由人0 

ここまで来て、ベッドに座ってお話するだけ
なんてあるわけがないだろう。
心の中でそう思って
Mの身体を優しく倒した。

Mは、小さな声をあげたが、
俺はキスで口をふさいだ。
舌を絡ませたが、Mは、抵抗しなかった。
首筋に舌を這わせると、小さくのけぞった。

俺はどうやって彼女の服を脱がせたのか
覚えていない。俺にしては珍しく興奮していたし、緊張もしていた。

Mの身体を見て俺は思わず言った。

とってもきれいです…

Mは、首を横に振った。

でも、お世辞ぬきで綺麗だった。

No.44 13/11/05 15:12
自由人0 

本当はもっと、普段他の女にしているように
痛めつけてやりたかった。
泣くほどにいじめてやりたかった。
だが、必死で抑えた。
これで嫌がられたくなかったからだ。

Mの感じる顔を見て、感じる声を聞いた。
そして肌を感じた。
それだけで、その日は充分だった。

思ったとおり、Mは、感じやすい体だった。
俺の肌にピッタリ合う…そう思った。
そして今まで体験したことのない安心感があった。落ち着く…。

また次も会ってほしい…。

答えはまだそれしか出せなかったが。


No.45 13/11/06 09:50
自由人0 

Mに会えない日が続くと、イライラするというか、落ち着かなくなる。
これは、俺にとっては珍しい感覚だから
俺は俺自身を分析しようと必死だった。

考えてみればMに出会ってから、
不思議な感覚ばかり。どれもこれも、初めて経験する興味深い感覚だ。

俺はMを好きになったんだろうか?
いや、まさかな…。
まだわからない。これだけの情報じゃ、恋とは判断できないじゃないか。

普通のやつらは、どこから、どう、恋愛だと区別してるんだ?どういう状態になって、相手を好きだと判断する?
俺にはわからん…好きという感覚がわからない。

毎日考えてもわからないから、
流れに身をまかせるしかないじゃないか。

俺はMが、今どこで何をしているのか気になるが、Mは、俺を一体どんなふうに思っているんだ?

おいおい…やはり調子がおかしいぞ。

俺は、今まで付き合ってきた女のことに、
興味なんかなかったはずだ。
相手が俺をどう思おうが、
関係なかったじゃないか。

そんなことを考えながら、俺は日々を過ごしていた。

No.46 13/11/06 10:18
自由人0 

Mに会える日は、嬉しかった。
そして同時に体が欲しかった。

Mは、俺を受け入れてくれた。そのたび、俺は彼女とひとつになる安心感を得ていた。

俺は、このMの体が欲しいだけなのか。
それとも、Mの心が欲しいのか…。
いや、両方?

Mの、亡くなった旦那は、俺のモノより
大きかったんだろうか。
俺は、旦那よりも上手くできているだろうか。
旦那はMと、どんなセックスをしていたんだろうか…。

考えるとジリジリする。
…で、これが、男女の特別な嫉妬というのか?
俺には、この嫉妬というやつも
初めての体験だな。

嫉妬…やきもち…
いつも受け身の立場だったが、反対の立場になると、
結構しんどいんだな。

人に執着すると、嫉妬がおこる…
俺はMに執着しているのか?
Mがいい。
Mじゃなきゃいやだ。
これは、立派な
Mに対する執着だよな。

冷静に理論的に…俺は、いつもの俺を保ちながら、分析を続けていた。

No.47 13/11/06 11:46
自由人0 

俺は、とりあえず自分の気持ちはわからなかったが、
Mには、俺のことを好きになってほしかった。

他の女のように、電話やメールをしてきてほしかったし、
俺のことを気にかけてほしかった。

Mから連絡をしてくることは
ほとんどなかった。
他の女のように、会いたいなどとは
いっさい言わない。

Mは、俺に会いたいと思わないんだろうか。

皮肉なもので、どうでもいい女からは
連絡がくる。
今までは、いいように利用してやったが、
今となっては、M以外の女を抱くのは
疲れさえ感じている。

どんなに女たちが俺を求めようが
俺が求めているのは、Mだけだった。

今までの俺を知っているやつは
きっとびっくりするだろうな。

俺は確かにMにこだわっている。
生まれてはじめて、女にこだわっている。

No.48 13/11/07 13:42
自由人0 

俺はこの先、結婚なんかする気はなかった。
それはそうだよな。
人を好きになれないのに
結婚なんかできるわけがない。

俺はいつだって自分のことが一番大事だし
自分のためだけに生きてきたからな。

でも、俺はMと結婚したくなっていた。

ついに、酔った勢いでMに電話していた。

俺と結婚してほしい

ドン引きだよな…
この俺がプロポーズなんて。
しかも、俺の全てを知っているMに…。

Mは、言った。

酔ってるからそんなこと言ってるのね。
あなたは、私を好きではないでしょう?

好きとか、愛してるとか言えれば、
俺のことを受け入れてくれるのか?
好きだ
なんて言葉は、いくらでも言える。

俺はあなたのことが好きだよ

Mは、うーん…と悩みながら少し笑った。

あなたに、好きがわかるの?

俺は言った。

わからない。

俺は正直だ。わからないものは、わからない。
好きという感情がわからない。

No.49 13/11/07 20:43
自由人0 

これじゃ、ちっともSじゃない…
俺は、こんな俺じゃなかったはず。

くそっ…

こんなに、女に振り回されるのは
はじめてだから
生活のペースまで狂ってきた。

No.50 13/11/08 07:53
自由人0 

自分を取り戻すために、違う女を抱いた。
いつもの乱暴で冷酷な俺になる。
セックスをしていても、この女にはなにも感じない。
女が悲痛な顔をするのが、たまらなく快感なだけだ。
この女の命さえも俺が支配している気になる。
そこにゾクゾクするな。

ここまではいつもと同じ。
だが、ここからがいつもと違う。

俺の中に、寂しさがある。
Mを抱いたときには、安心感があった。

余計にMを思い出した。

Mの全部が、俺を離さない。
温かさ、優しさ、Mには溢れている。
人としての魅力。女性としての魅力。
全てがそろっている。
Mの存在感が俺を変えていく。

No.51 13/11/08 07:57
自由人0 

忙しい…
とにかく忙しい…。

Mとは時間が合わずに、会えない。

女に会えなくて辛くなったのは
生まれてはじめてだ。

No.52 13/11/08 09:24
自由人0 

俺は、はじめての感覚を自覚していた。
ひとつひとつの、自分の感情と、
この俺の心臓の鼓動を照らし合わせても、
これは、きっと
人を好きになるという現象なんだと。

俺は生まれてはじめて、
人を好きになった。愛しさを知った。

Mを思うと、セックスをしたいというよりも
彼女を抱き締めたかった。
強く抱き締めて、優しく抱き締めて、離したくない気持ち。
これが、今まで俺が
手に入れたくても、手に入れられなかった感情なんだ。

俺は、この人間らしい感情に、
心地よさを感じていた。

小学生でも知っている
好きという感情…俺は30にして
手にいれた。
Mがいてくれたおかげで、
俺は欠けていた自分を手にいれた。

No.53 13/11/08 09:36
自由人0 

俺は、この気持ちをMに伝えた。
Mは、何と言うだろう。
信じてくれるだろうか。
Mは、静かに聞いていた。
電話の向こうで彼女はどんな顔をしているんだろうか。

多分、この俺が、今さらこんなことを言っても
また何かの冗談みたいに聞こえるんだろう。
俺だってまだ、夢をみているような気持ちなんだから、無理もない。

俺は心をこめて正直に話すしかなかった。

俺はあなたが好きです。

彼女は静かに言った。

ありがとう。私は、あなたに、そんなふうに思ってもらえてとても幸せです。

その言葉に、彼女の優しさや深さを感じていた。俺の言葉を信じてくれたことへの感謝の気持ちもあった。

ただ、彼女は、俺を好きだとは言ってくれなかった…

No.54 13/11/08 13:26
自由人0 

今まで付き合ってきた女たちが
俺の心を手にいれようと必死だったが、
今は、俺がその立場になったわけだ。

何でそんなに、好きだとか
愛してるとか言ってほしいのか
俺にはわからなかった。

そんなのはただの言葉じゃないか。
そんな不確かな、うわべだけの言葉を並べたって、なんの意味もない。
そう思っていた。

だが、今は、Mに
俺を好きだと言って欲しい。
俺は我儘な男だ。本当に。

どうしたら、Mは俺を好きになってくれるんだ?

No.55 13/11/11 08:21
自由人0 

Mはこう言った。

あなたと私は歳が違いすぎるよ
あなたが、好きという感情を手にいれたのなら
私よりも条件がいい女性をちゃんと選んで。

やっぱりMは、歳の差を気にしていたし、
子どもがいることも気にしていた。

俺の幸せを考えてくれていた。

それじゃあ、なぜ俺とセックスをした?

Mはしばらく無言だった。

No.56 13/11/11 19:26
自由人0 

わからない…
私はあなたに、同情していたのかもしれない。
私は、こんなにおばさんで…
あなたは、私の母性を求めていると思ったの。
だから私は
あなたを抱きしめてあげたかった…。
そうすることで、
あなたが、もしかしたら人の温もりや、
愛情を思い出せるかもしれないと思ったから。

ただ、
あなたが、私を好きになるなんて
想像もしていなくて。
だから、今はあなたの気持ちをきいて
すごく戸惑ってるの。

よく考えてみて。あなたと私は
10歳も歳が離れているよね。
今は気にならないとしても、
これから先は、あなたにとっては
若い女性と恋愛したほうが幸せになれるに
決まってるよ。

Mは続けて話した…

No.57 13/11/11 21:01
自由人0 

私は、あなたを愛してる。
だから、あなたの幸せをいつも祈ってる。
あなたには、いつも笑っていてほしいし、
人生を楽しんでほしい。

でも、私はあなたを好きになっては
いけないと
いつも思っているの。
私はあなたを求めてはいけないの。
私があなたを好きになったら
私はあなたの全てを知りたくなってしまう。
それは、あなたの大嫌いな束縛だよね。
今何してるの?今日は誰といたの?
そんな、あなたの大嫌いなことを
私は聞いてしまうようになると思う。

No.58 13/11/11 23:44
自由人0 

私は、あなたの、特別な人になりたくなってしまうと思う。
でも、あなたは、そういう女が嫌いなはず。
だから、私はあなたを好きにならない。
ただ、あなたの幸せだけを祈ってる。
ただ、愛してる。

きっと、あなたも、
今は私を好きだといっているけど、
以前、あなたが言っていたように
人の気持ちは必ず変わる…。
あなたも、変わるはず。

Mは、ゆっくりゆっくり
そう話した。
一字一句は違うかもしれないが
こんなようなことを、俺に話したんだ。

No.59 13/11/11 23:54
自由人0 

俺にはよくわからなかった。
いや、
全くわからなかった。

愛してるのに
好きにならないって…?

ただ、俺の中では
また新しい感情が生まれていた。

Mを大事におもった。
俺にとって、Mは大事な人だ。
俺は、Mから離れられないだろう…。

Mのことは、いじめたくなかった。
壊したくなかった。
こんなことを思ったのは初めてだった。

No.60 13/11/12 08:32
自由人0 

俺はMに言った。

会いたい。

Mは電話のむこうで
どんな、顔をしているんだろうか。
きっと、眉間にシワをよせて
困ってるんだろう。

Mに会ったら、
絶対に抱きしめたい。

歳の差が何なのか。
40のMは、正直、20代の女より女性だ。
しかも、そのへんの40の女性とは違う。
綺麗なだけじゃない。
かわいいし、おもしろいし…
人としての温かさ、包容力、母性…
優しくて柔らかい…
深さ…魅力…

人は年齢じゃない。

No.61 13/11/13 16:26
自由人0 

久しぶりにMに会えた。

心臓がうるさい。

俺はMにキスをしていた。
キスをせずにはいられなかった。

会いたかった…

そんなクサい言葉まで吐いていた。

Mは少し抵抗したようにみえたが、
俺はそんなことはどうでもよかった。
Mを強く抱きしめて
もう一度キスをした。

このままずっと一緒にいたい。
Mを離したら
またいつ会えるのかもわからない。
このまま
さらってしまいたかった。

No.62 13/11/14 00:11
自由人0 

Mは、俺を少し押すようにして
唇をはずした。
それでも俺は求めた。
Mは小さく応じるが、ためらっては唇をはなした…。
そして言った。

あのね、ダメだよ…やっぱり、だめ。
私はあなたには、ふさわしくないよ。
子どもだっている…。

俺はそんなこと、聞き飽きていた。

俺は、あなたがいいと言っているのに
だめなんですか?
俺は、あなたがいいです。
多分、あなたでないと、俺のことはわかってもらえない。
俺には歳なんて関係ないんですよ。
俺はあなたを諦めません。
俺は変わらない。
それは、これからの俺を見ていたらわかることです。

俺は、一生懸命話したつもりだ。
言っておくが、俺から離れようとした女を
ここまで引き留めたのは、これが
はじめてだ。

必死な自分を、自分で観察したいくらいだった。それくらい、俺のなかでは、
大事件が起きていたんだ。

こんなに人を好きになり、人に執着している。
人生の大事件だよ…。

No.63 14/01/23 09:16
自由人0 

Mは、
ありがとう
と言った。

なぜ、ありがとう?

俺にはこのありがとうの意味がわからなかった。

私みたいなおばさんを
そんなふうに思ってくれて。
私なんかに…。
なんだか、もったいないなぁ…。

そうMが言った。

嬉しそうなのに嬉しそうじゃない。
Mの表情はやっぱり困っている感じだった。

俺は、正直、自分のことしか考えていない。
相手がどう思おうがいい。
Mがいることで、自分が幸せになれる。
自分勝手なんだろうな。

でも、この世に自分勝手じゃない奴なんて
いるのか?
みんな自分がかわいいんじゃないのか?
人のため、あなたのため、なんて言っていても
結局は自分が満たされたいだろ?

俺は、今の自分にはMが必要だと判断した。
それを、わかってもらわなければ困る。
わかってもらえなければイヤだ。
わがままと思われてもいい。

No.64 14/01/24 08:02
自由人0 

キスもするし
セックスもするのに
俺とMは、まだ恋人になれていない。

俺は、そんな関係には慣れている。
セフレみたいな女が山ほどいたからな。
セックスだけの関係なんて
珍しくもないだろう。

だが、俺の中では、Mはただのセフレではない。

Mは、少しずつ俺に
身体だけじゃなく、気持ちもさらけ出してくれるようになってきていた。

No.65 14/01/24 11:02
自由人0 

俺は、Mに特別な感情がありながらも
他の女とも、今までどおりに付き合っている。

女が望めば、セックスもしてやるし、
その場の雰囲気で俺が欲情すれば
俺が女を襲うこともある。

Mはそれをはじめから知っている。
知っていて俺に抱かれている。

でも、これだけは言える。
Mのことは他の女たちとは違う。
俺の中ではMは別格なんだ。
それも、きっとMはわかってくれているんだろう。

きっとわかってくれる…俺は勝手に思い込んでいた。

だが、違ったんだな。
そう、Mだって人間だ。女だ。
神でも仏でもなければ、マリアさまでもないわけだ。

ある日、Mは言った。

こうして会うのが、私でなければいけない理由はある?

と。

No.66 14/01/24 17:41
自由人0 

俺は多分、精神科かどこかにいけば
名前がつく病気なのかもしれないな。

俺は、確かにMに甘い言葉も言った。
酔ったときなんかは酷かったな。
結婚したいなんてことも口走った。
Mに会いたくて仕方なかったし
Mを失いたくなかった。
確かに、Mは今までの女たちとは違う。

だが、俺はM一人だけを見て生きていくつもりはない。

やはり、一般的にみれば、
この俺は異常なんだろうな。

なぜ一途に一人の女を見なくちゃいけない?
俺にはわからない。
好きという感情は手にいれたのに
そのあとがわからない。
どう大事にしたらいいかわからない。

根本的に俺は変われない。

Mはきっとそんな俺を見抜いていて
不安なんだろう。

No.67 14/01/24 19:58
自由人0 

俺は昔から不思議だった。

あなた「だけ」をアイシテル
おまえ「だけ」をアイシテル

なぜ「だけ」にこだわる?
そのあまりにも安易で不確かな「だけ」の言葉をなぜ求める?

Mもそうなんだろうか
言ってほしいんだろうか

あなた「だけ」を抱きますよ、と。

あなただけ
あなたしかいない

なぜ人は、そんな言葉に安心する?
そんなものは
俺にとってはウソでしかない。
人の気持ちは必ず変わるからだ。
俺はそんな人間たちを散々見てきたし
俺も「だけ」にこだわったことなどない。

言葉ではなんとでも言える。
言葉ではその場しのぎで雰囲気を飾ることができる。
言葉に酔うこともできる。

でもそこにどれだけの真実があるというのか。

No.68 14/01/24 20:14
自由人0 

確かに、今はMにしか安心感を感じない。
今のところ
Mしか本当の俺を理解していないと思う。

だが俺はM一人だけを想い続けることに決心がつかない。
Mのことはずっと想いながら、同時に他の女も
見定めていくんだろう。
ここでMに対しての罪悪感はない。
Mも、俺を好きになったとしても、
きっと必ず他の男に惹かれることがあるにちがいない。
亡くなった旦那を忘れずにいながらも
俺に抱かれたように。

だが、Mの記憶に俺は残る。
セックスをしたからだ。
一つになった記憶は、そう簡単にはなくならない。
うわべだけの、どんなに甘い言葉よりも
セックスの方がどんなに確かなものか。

その時だけは
相手を見て、相手の肌を感じ、相手の声をきく。
相手の存在を自分の肉体で確かめられるから
自分の存在も確信できるのだ。

言葉などいらない。

No.69 14/01/25 00:21
自由人0 

俺は、Mが何を考えているのか
よくわからなかった。
というか、あまりわかりたくもないしな。

正直、面倒くさかった。
女のそういう感情に振り回されるのは好きじゃない。

俺は相変わらずマイペースだった。
腹が減れば、Mの顔が浮かび、
一緒に飯を食いたいと思った。
眠る時は
Mが隣にいたら安心できるのにと
思ったりもした。
Mの匂いも思い出した。

その日も、
俺は当たり前のようにMに会っていた。
俺が会いたいといえば
Mは時間を作ってくれた。
セックスは毎回じゃない。
セックスが目当てじゃないのに、Mに会いたいと思う自分に、俺は自分らしさを感じられずにいたが、それも心地よかった。

Mを自宅に送っていく車の中で
Mがポツリと言った。

私、もうあなたとは会わない。
会いたくないの。

予想していたような、
予想していなかったような…
そんな言葉をきいて、
その時、俺はどんな顔をしていただろう…。

No.70 14/01/25 15:53
自由人0 

その日はそれなりに楽しく過ごしたつもりでいた。
Mだってよく笑っていた。
何か気に障ったんだろうか。

俺は一瞬の間に頭の中で1日のことを
思い出していた。
何一つ思い当たる出来事はなかった。
少なくとも俺は楽しく過ごしていたのだから。

第一、Mはいつ
そんなことを言おうと決めたのだろうか。
会う前から?

俺に会わない、会いたくない?

まあ、他の女には何度も言われてきた言葉だ。
他の女に言われた時は
何だか腹立たしかった。
俺の存在を否定されたようで。
もちろん理由はきいた。だが、
あ、そう。わかった。で、済んだ。
理由はだいたいみんな同じだった。
俺の本性がわからないのだと。
俺の特別な女になれないことが悲しいのだと。
愛されていないことが辛いんだと。
俺とのセックスが怖いという女もいたな。

それを聞くと、やっぱりなと納得するしかなかった。
それに、引き留める理由もない。
俺は女たちに情がわかなかった。執着できなかった。
俺についてこられないのなら、仕方がない話だ。

でもMに言われるとさすがに堪えるな。
せっかくここまで俺の思い通りになっていたのに。
俺は平静を装ってMにきいた。

俺はイヤだよ。
なぜそんなこと言うの?

No.71 14/01/25 21:20
自由人0 

Mは少しうつむきながら
静かに話しはじめた。

俺は運転をしながら
時々Mを視界に入れながら聞いていた。


あのね、私、何か勘違いしてたみたいなの。

Mはもともと
言葉を選びながら話す。

長くなりそうだな…俺は思った。
いつもの道をそれて、遠回りすることにした。

俺は、Mがこれから何を言おうとも
また引き留めたいと考えていた。
会えなくなるのは絶対にイヤだった。
俺にとってプラスにはならないからだ。

No.72 14/01/29 18:41
自由人0 

私、あなたのことを全て理解していると
勘違いしてたの。
それから、恥ずかしいんだけど、
あなたもは、私を必要としてくれていると
思っていたの。
あなたをわかってあげられるのは
きっと私しかいないんだろうなって
思っていたの。
おかしいでしょ?

そう言ってMは少し笑った。

No.73 14/01/29 21:56
自由人0 

俺は、Mが何を言いたいのか
よくわからなかった。

Mはそんな俺が、余計なことを話す前に
次の言葉を続けた。

つまりね、
私は、つい普通の恋人同士みたいに
思ってしまっていたみたいなの。
あ、無意識にね。無意識に。
私は前にも話したよね。あなたを愛してるって。幸せを祈ってた。
でも、いつからか、違ってしまったのよ。
私ね、あなたを好きになってしまったみたいなの。

俺はMの話を聞きながら、
この人はやっぱりおもしろい人だなと思っていた。

No.74 14/01/30 02:48
自由人0 

Mは話し続けた。

好きになるといけないね。
いろんなことが、辛くなる。
私って、どんなふうに見える?
もういい歳のおばさんだけど、中身は
そのへんの女子高生と変わらないのかも。
ちっとも大人になれないのよ。
愛してるとかいうけど、本当のところは
わかってないのかもしれない。
ごめんね。何を言ってるのかわからないでしょう?
あのね、ダメなのよ。
そういうのを見るのは、辛くて。
恥ずかしいけど、とても嫉妬してしまうの。
だから私には無理かなと思うの。

ん?何を言っているんだろう?
俺はわからなかった。
そういうのを見るのは?何を見るのは?

俺がMに質問するより早く
Mが俺の方を向き、
俺の首を触った。
そして、少し低い声でゆっくりと言った。

ここに、キスマーク、ついてるの。
一日中、それを見てたけど
耐えられそうにない。
だから私はもう
あなたと会いたくないの。

No.75 14/01/31 09:04
自由人0 

俺がキスマークの言い訳を考えている中で、
それを見抜くように
Mは言った。

あなたが、誰と何をしようが
私には何か言う資格もないのにね。
私は、あなたが何をしようが
あなたが幸せなら、それでよかったの。
はじめはね。
でも、好きになってしまうとね、
そうじゃないの。
私だけを見てほしいし、私だけを愛してほしい、私とだけセックスをしてほしい。
そんなわがままなことしか考えられなくなるのよ。
私ね、今さらだけどわかった気がする。
無償の愛って、親子関係にしか成立しないんじゃないかって。
男女の恋愛関係の中で
見返りを求めない愛ってないんだと思う。
夫婦でも同じ。
自分だけを愛してほしい欲求はいつもつきまとう。

Mは一気に話している。

俺は目に入ったコンビニの駐車場に
車を入れた。

No.76 14/01/31 22:39
自由人0 

あ、ごめんね。
私がこんな話をしたから帰れないね。
話、やめるから出てもいいよ。

そうMは言ったが、俺は

話をききたいからいいよ

と伝えた。

Mは、少し俺の顔を見ていたが
またすぐに下を向くと
再び話しだした。

あのね、私ってどんな女に見える?
私ってね、すっごく嫌な女なんだよ。
全然関係ないんだけどね、
私ね、死んだ旦那に浮気されてたことがあったの…。

………俺はちょっとギョッとした。
しかも、今日のMの話は、珍しく飛びすぎている。
俺に会いたくないという話から、ここまで飛ぶのか。
何が言いたいのか。
それでもMの話は興味深かった。
俺は適度に相づちをうちながら
聞いていた。

No.77 14/02/03 01:16
自由人0 

旦那は浮気を反省して、
私のところに戻ってきた。だけど
私は、毎日裏切られた哀しみと
不安の中にいたの。
そんな中、旦那が病気になり、
私は出来る限りのことをしてきた。
旦那を愛していたから。
旦那は毎日病室で私を待ち、
私に感謝してくれたの。
そして、最期のときまで
私を見つめ、私の手をにぎり、
私にありがとうと言ってくれたの。
私は、旦那を亡くした寂しさで
泣いて暮らしたよ。
でもね、
こころのどこかでホッとしてた…。

No.78 14/02/03 12:37
自由人0 

俺はMの話をききながら、
Mも普通の女なんだなと思っていた。

これまで、Mを他の女とは違うと思ってきたが、そうではなかった。
俺のすべてを受け入れてくれるかもしれないなんて、俺は勝手に思い込み、妄想し、Mに勝手に甘えていたんだな。

そんなことを考えながら
Mの横顔をみた。
Mは焦点の合わなくなった視線を窓の外に向けていた。

俺はMに少しだけがっかりしていたが、
不思議と嫌ではなかった。
これもおもしろい感覚だった。

Mは、またポツリポツリと話をはじめた。
今度は勢いがない。静かな語りだった。

No.79 14/02/04 07:52
自由人0 

自分の大好きな異性、大切な異性が、
一生、自分の隣で、自分だけを見て
自分だけを愛してくれるなら、
そういう保証があるなら、
私も旦那に生き返ってほしいと思ったかもしれない。
でも、わからないでしょ。
生きていたら、また違う人をすきになるかもしれないでしょ。
そして私はまた傷つくでしょ。
だからね、私は
亡くなった旦那に対して、
哀しいとか寂しいとかもちろんそういう感情はあるけれど、
それとは反対にホッとした気持ちがいつもどこかにあるの。
私って、どこまでも嫉妬深くて、
自分が大切な女なのよね。
あ、もしかしたら、
あの世で好きな女性ができてるかもしれないけどね…ふふ。
それはもう諦めるわ。

Mはそう言って少し笑った。

No.80 14/02/04 08:10
自由人0 

俺はふと思っていた。
こんなに人間としても、女性としても魅力があるMと結婚しながら、なぜ旦那は浮気したんだろうか。
旦那はMに甘えていたんだろう。
Mの大きな愛の中にいて安心していたんだろう。
最後にはMの胸の中に戻ることも、
いや、戻りたくなることも、全てわかっていたに違いない。
それなのに、バカなことをして
情けない旦那だな…
俺は死んだ旦那のことを、心の中で同情しながら笑っていた。

そして、ふと気がついた。

あ、俺も同じか…。

No.81 14/02/06 10:53
自由人0 

ごめんね。話がとんじゃった!
Mが言った。

私ね、そういう女だから、
あなたとは一緒にいられないよ。
あなたは、私じゃなくてもいいでしょう?
私の他にもデートする相手がいるし
セックスする相手もいる。
あなたを好きと言ってくれる相手もいる。
私じゃなくてもいいはずなのよ。
私はあなたを好きになってしまったから
それに耐えられないの。
そのキスマーク見てるだけで
泣きそうになる。今日はすっごく我慢しちゃった。すっごく疲れたし。
だから、あなたとはもう会いたくない。
私も、よく考えてみたら
あなたにはふさわしくないって、自分でわかっていたし
こんなおばさんが、また恋をするなんて
夢みたいな話で…
本当に感謝してるよ。
この夢みたいな思い出だけで
死ぬまで頑張って生きられそう!
あ、死ぬまで生きるって、
当たり前か!

Mは自分で突っ込み、自分で笑った。

俺は、その時思った。
俺はMのこういうところが好きなんだよなぁ。

No.82 14/07/03 11:20
自由人0 

俺は、うまい言葉が浮かばずに、
結局Mを送り、
家に帰ってため息をついた。

俺は、病気だな…
そう思った。

Mは、大切な人だとわかっているのに
Mの幸せを考えてあげられない。
Mの気持ちに応えようとしてあげられない。
どこまでも、
自分が、自分が、自分が…

自分が一番大事で、
それを譲れない。

俺はそうやって生きてきたんだから
仕方ない。

他の女に求められれば
それに応じてしまう。
そこで、生きていることを実感できるし、
誰と関係を持とうが
俺は変わらない。

セックスはそんな崇高なものではない。

好きな人としかできない
好きな人じゃないといやだ
そんなものではない。

Mが俺から去ろうとしているのに
俺は
これからはMだけを愛し
Mだけを抱くとは
どうしても言えない。

でも、Mを失うことは
とても考えられない。

俺のことを理解してくれなんて
やっぱり無理なことなんだろうか。

No.83 14/07/05 00:36
自由人0 

今までのことだが、

俺から離れていく女は、
俺を好きになった女だ。

俺が一人の女で満足できないから
辛いらしい。
俺は
わたし『だけ』を愛してほしいという女の
心理がわからなかった。

俺から離れない女は、
みんな割りきれるやつばかり。
俺をセックスの相手、都合のいいときに会える相手としてみている。
俺もそれで充分だった。

だから、俺を好きになって
勝手に苦しくなって
離れていこうとする女のことを
引きとめたことはない。

面倒なだけだからだ。

だが…Mが俺から離れることは、どうしても嫌だった。
こんなに焦ることが今まであっただろうか。
どんな理由でもいい、
どんな形でもいい、
俺のそばにいてほしいと思った。

No.84 14/07/05 00:55
自由人0 

俺は、Mにメールを送った。

俺はあなたと離れるなんていやだ。
なぜ結論を出そうとするの?
終わりなんてない。
俺にはあなたが必要。
俺が求めているのはあなた。
俺が会いたいと思うのはあなた。
他のやつなんてどうでもいい。
ただ求められたらセックスするだけ。俺はそうすることで生きている実感を得てきたから、これからも変われない。
ただ、ひとつだけ言えるのは、こうやって
俺から離れていく人をひきとめるのは
あなただけということ。
こんなに人に執着するのはあなただけ。
だから、もう会わないなんていわないで。


これが、俺の嘘のない気持ちだった。

No.85 14/07/09 13:59
自由人0 

世の中のだいたいのルールが
俺には理解できないし
納得できない。

なぜ浮気や不倫がダメなのか。
なぜ自然の摂理に逆らうのか。
人間は動物だろ。
本能ってやつを無視してるルールが
世の中には山ほどあるだろ。
身体が求めるもの
頭が求めるもの
それは違っていいんだ。
誰だって、誰かだけを愛するなんて
無理だ。
いつだって、人の気持ちは変わる。
誰かを思いながら
他の誰かのことも、いいなと思っている。
昨日は愛した人でも
今日は死んでほしいと思うほど
憎しみでいっぱいになることもある。
好きだの、愛してるだの
所詮、その時の気分なんだよ。
俺は正直に生きているだけだ。
セックスは、誰とでもできる。
身体さえ反応すれば物理的にできることだし
気持ちなんかなくても快楽は得られる。
ただ、本当に心が求める人はいる。

俺にとってはMだ。

他の誰といても、何をしていても
充たされないものは確かにある。
本当に求めているもの以外は
所詮、代用だ。

Mは、旦那に浮気されたことを
ずいぶん悩んでいたようだが、
俺に言わせれば、そんなこと
大したことじゃない。
そんなことはお互い様だし
自然なことだ。
人は、いつだって、どんな時だって
好きな人が変わってもなんら不思議はない。

俺はきっと
みんなとは違う考え方なんだろうな。
みんなから非難されるような
考え方の持ち主なんだろう。

俺は致命的に変われないのだ。

No.86 14/07/10 10:30
自由人0 

俺は、
Mのことを考えていた。

セックスの時のMを思い出すと
俺はたまらなくなる。

他の女たちと比べてしまう。

Mの中に指を入れると波打つように締まってくるのがわかる。
俺のものを、優しく丁寧に口の中に含み
俺のツボを攻めてくるその姿は、
見た目の清楚さ、真面目さからは
とても想像ができない。
でも、いやらしくない。不潔さがない。

俺は、入れるまでに時間がかかる方だが、
Mの時は違う。我慢ができなくなる。

Mの中にいるときは、上からMの感じる顔を見ているだけで幸せになれる。
本当は、いじめたい。痛めつけたい。
首さえしめたくなる。
その衝動は、一生懸命抑える。
嫌われたくないからだ。
無意識にMの身体を噛んでしまう時はある。
痕をつけたい
傷をつけたい、残したい…
俺の性癖は異常だろうか。

No.87 15/03/12 09:09
自由人 

ある日、Mが言った。

ずっと一緒にいたいよ

と。

俺はこんな言葉、何十人という女の口から聞いてきた。
なんて嘘っぽい言葉か。軽々しく傲慢な言葉か。
そんな言葉をきくたびに吐き気がしたものだ。
大体が、セックスの最中に言う女が多い。
気持ちよくなって頭が麻痺しているのか?
気持ちよくなっていれば、何でも言えるのか?
こんな言葉で俺が喜ぶとでも?
俺がお前に傾くとでも?ふざけるな。
いつか気が変わるくせに責任のない言葉を吐くな。

だが…
Mに言われた時は
何の違和感も嫌悪感もなかった。不思議だった。心のなかで
俺も一緒にいたいよ
と思っていた。
口から出そうだった。だが飲み込んだ。
自分が信じられないくらい素直で怖かったからだ。
Mの言葉が、例え傲慢でその時の感情で
気まぐれに発せられた言葉だったとしても
それを噛み締めたかった。

Mを強く強く抱き締めた。
俺は完全にイカれてる。
自分で自分を笑いながら、それでもこれでいいと思えた。

No.88 15/03/12 09:19
自由人 

Mは、俺の考え方や、今までの生き方、
そういうものを全部のみこもうとしてくれていた。
Mは真面目な女だ。
自分の常識では当てはまらないことがあると
立ち止まり、俺に投げかけてくる。
俺のことを理解しようとしてくれる。

俺のこの、病気ともいえる性分を、性癖を、
全て受け止めようとしてくれる。

俺は絶対に言えないが
ありがとうと思っていた。Mのその気持ち、
存在に、ありがとうと。
俺は、やっと人間らしい心を手にいれたような気がしていた。
30すぎてやっとだ。

No.89 15/03/12 15:43
自由人 

Mを抱いていた。
毎回思うが、なんだろうな、この処女のような反応は。
どこを触っても、舐めても
はじめてのようにビクンと小さく反応する。
少し眉間にシワを寄せているが
目は俺をまっすぐ見ている。
俺のモノがMの中で暴発しそうになっている。

俺の性癖が疼く。殺したい…。
今、この時、この瞬間
Mは俺のものだ。俺を見て、俺を感じている。
小さく喘ぐその口のなかに
舌をねじこんだ。苦しいか…?
俺は次の衝動にかられる。
Mの首に手をかけた。細い首だ。
Mは少し反応したが抵抗はない。
俺はキスをしながら手の力を入れていった。
殺したい…殺したい…
ぐっと絞めていく。
俺を想っているまま死んでくれ。
死ぬ瞬間まで俺を感じてくれ。

No.90 15/03/12 23:41
自由人 

俺の指に、Mの脈が伝わってきた。
Mは苦しそうにギュッと目を閉じた。
Mの顔色が変わってくる。
俺の中に命がある…
苦しむその姿が美しく見えて仕方なかった。
俺のモノを受け入れながら
俺に舌を入れられながら
Mは俺に首を絞められている…

ダメだ…
このままいくと
Mは失神するだろう…
いくらMでも、俺を怖がるに違いない。
俺を嫌いになるに違いない。
俺から離れるに違いない…。

No.91 15/03/12 23:47
自由人 

そうだよ…
殺したい願望はあるが
それをしてはいけないことはわかっている。

Mの苦しむ顔を見ながら
Mの永遠を手にいれたかったが、
俺はそれより
またMと話し、
Mのぬくもりを感じたいと思った。

No.92 15/03/12 23:54
自由人 

俺は、Mの首から手を離し
Mを息苦しさから解放した。
そのかわり
俺の願望の全てをかけて
Mの中に入れていたものを一気に突き上げた…

Mは俺にしがみつきながら身体をのけぞらせた。

殺さなくてよかった…
俺はこうして Mの感じている姿を見ることができている。

No.93 15/03/14 18:32
自由人 

ごめん…
首しめちゃった…
俺はMに謝った。

Mは少し笑って大丈夫だよと
言った。
そして冗談ぽく
苦しかった~!と言って
また笑った。

Mは続けて言った。
私が死んだら、もう話もできないし、会えなくなっちゃうよ?一緒にいられなくなるよ?

俺は思わず
いや…ちがう…
と言った。

No.94 15/03/14 23:33
自由人 

俺があなたを殺しても
俺はあなたを食べるよ。
だから
俺の中にあなたは生き続ける。
あなたは、俺が死ぬまで
俺の中にいる。
生きて隣にいるより
その方がずっと近いし
一緒にいられる。

生きていたら
いつか離れてしまう時がくるけれど
俺があなたを食べたら
ずっと離れないということになる。

本当は、あなたが
俺から去る前に
俺の手であなたを殺し、
すべてを食べたいよ。

これが俺の性癖なんだよ…。

だけど、この世の中で
それは認められていない。
やっちゃいけないことになってるから
俺はやらない。
ただそれだけの話だよ。

でも、あなたが生きていてくれた方が
いいことだってある。
あなたが俺のそばにいてくれるなら、
俺はあなたの温もりを感じられる。
あなたに甘えることだって
安らぎを感じることだってできる…。

No.95 15/03/16 07:57
自由人 

俺は、自分に言い聞かせるように
Mに話していた。

Mは時々哀しそうな顔をしながら
時々俺を見ながら
時々うつむきながら
時々うなづきながら
静かに聞いてくれた。

俺に殺人願望があるなんて
引くよな…

俺がそう言うと

No.96 15/03/16 09:10
自由人 

Mは少し真面目な顔で
首を振った。

大丈夫。
あなたは何も悪くないよ。

そう言って俺の頭を撫でた。

No.97 15/03/17 08:10
自由人 

俺は、悪くないのか…?
心が解き放たれる気持ちだった。

人を殺したい

この願望をもっていることは
悪いことだろう?
この願望をもっているやつは
悪いやつだろう?

俺は今までそう思って生きてきたんだ。

それなのに、Mは
こんな俺を怖がらずに
頭を撫でてくれた…

俺は安心感の中にいた。
ああ…
Mが俺の母親だったらよかったのになぁ…
そう思った。

そのとたん、
俺の中で一気に子どもの頃の記憶が
よみがえってきた。

思い出したくもないのに
いつまでもつきまとう記憶が。

No.98 15/03/18 10:21
自由人 

俺は幼少期のことは他人にはあまり語りたくなかった。
その頃のことを思い出すだけで
俺はここにいなくなる。
俺が消えてしまう。

俺は虐待をうけていた。

虐待にも種類があるらしいな。
虐待だと気づいたのも、
種類があることを知ったのも
中学を卒業してからだった。

俺は
小さいころ空気のようだった。
まるで俺は存在していなかった。
とくに父親には俺が見えていないかのようだった。
姉と妹には笑いかけ、話もするのに
俺はそれをしてもらった記憶がない。
なぜ自分だけそうされるのか
わからなかった。

寂しい寂しい寂しい…

毎日どんなふうに過ごしたのか
よく覚えている。
ひたらすら一人でいた。
夜はとくにこわかった。
真っ暗で静まり返った部屋に一人でいると、
本当に俺は
自分がいなくなっていくような感覚に襲われた。
体はあるのに、なぜ
自分はいないのだろう…。
生きている実感などなかった。

誰も俺のとなりで寝てはくれなかった。
飯はひとり別の部屋で食べさせられた。

ある夜、俺は苦しくて飛び起きた。
目の前には父親がいた。
俺の首をしめていた。鬼のような形相で。
俺が蹴りあげた足が父親の腹に当たり
父親はしりもちをついた。

その瞬間、とっさに俺は外に飛び出した。
裸足だった。

父親がはじめて俺を見てくれた
父親がはじめて俺に触れてくれた

けれどそれは
俺を殺すためだった

真っ暗な道路をうろうろと歩いた。
家に帰れば殺される。
だが、俺は家以外にいく場所なんて
知らなかった。
小学校3年生だった。

No.99 15/03/19 23:18
自由人 

そっと家に帰り
息を殺して布団に入った。

家の中は
何事もなかったように
静まり返っていた。
それが、なんとも言えず不気味だった。

夢だったのかと思った。
夢のわけがない…
俺の首にはしっかりと感触が残っていた。

眠れなかった。
眠ったら殺される…
気持ちが安らいだことはなかった。

No.100 15/03/19 23:33
自由人 

俺は、その時のことを
1日たりとも忘れたことはない。

俺は父親に殺されそうになったことを
次の日母親にも話した。
だが、母親からは何の答えもなかったことを覚えている。

この人は俺を守ってはくれない

俺はそう感じていた。

母親は、
飯は与えてくれた。
菓子パンみたいなものが多かったが。
洗濯もしてくれた。
服もそろえてくれた。

ただ、それは
世間から非難されないための
最低限の世話にすぎなかった。

俺は母親に抱きしめられたこともないし
優しく話をきいてもらったこともない。

母親は、俺が生きようが死のうが
どちらでもよかったんだろう。

どうなってもいい…
俺はきっとそんな存在だったのだろう。

No.101 15/03/20 11:28
自由人 

俺は、そんなふうにして
自分の存在を自分で感じられずに
行き場のない思いだけを抱えて
いつも消えそうになりながら生きていた。

もちろん友だちはいた。
先生もいた。
思春期になると
俺を泊めてくれるような面倒見がいい先輩たちもいた。

ある日、セックスを覚えた。
乱交パーティーのようなものに誘われたのがはじまりだ。
まだ中学生だった俺は
その初めての経験で目が覚めた。

No.102 15/04/01 19:43
自由人 

俺のモノをその女の穴に入れると
女は気持ち良さそうに喘いだ。

俺はその時、はじめて
自分の存在を実感できた。
俺が動けば女が声をあげる。
俺がいなければ
この女は気持ちよくならない。
俺は確かにここにいる。

セックスは俺の存在を確認させてくれる大事な儀式になった。
叩いたり噛みついたりすることも
セックスの中では許された。
女たちはみんな、気持ちよくなっていると頭がおかしくなっているんだろう。
乱暴なことをされても
むしろ興奮していた。

俺はそれからというもの、
自分の存在が危うくなると何度も何度も
セックスをした。
どうすれば気持ちよくさせることができるか、
それも数をこなせば習得できた。

女たちは、俺のセックスを上手いといった。
俺とセックスをするために金を払う女も出てきた。

だが、俺はそんな女たちには興味はなかった。

俺はただ、自分の存在を確かめるために
セックスをした。
イクときは、決まって思い出していた。
父親が俺を殺そうとした時の恐ろしい顔と
俺を空気のように扱う冷たい顔を。

自分が人間になりきれない哀しさと
虚しさが押し寄せてくる。
だが、
俺を感じて悶える女たちがいる限り
俺はちゃんとこの世に存在するのだ。

No.103 15/04/02 15:15
自由人 

それと同時に
俺には殺人衝動が芽生えていた。
はっきりといつからだったかは覚えていない。

女があまりにも無防備になる姿をみて
人間の弱さを知った。

女が俺の下にいるときは
これで首をしめたら死ぬんだろうなと
考えていた。

俺の手によって
誰かが苦しみ、その命を終わらせる…
俺が誰かの命を握っている
そんな感覚はきっと最高なんだろう。
自分が存在するからこそ
相手の命に触れられるのだから。

だが俺は必死にその衝動を抑えるしかなかった。
殺してしまったら
この世では生きていけない。
俺は自由にはなれない。
だから、ひたすら我慢するしかないのだ。

No.104 15/04/02 18:35
自由人 

俺はつまり

プレイ上、Sなのではない。
本物のサディストだ。

俺の願望をいえばきりがない。
俺は頭の中で
いつだって人間をギタギタに切り裂いている。
ぐちゃぐちゃにしている。
全てを打ち明ければ
誰もが怖がるだろう。
気分が悪くなるだろう。

俺は自分を隠すしかない。
だがそれを隠せば隠すほど
俺はいなくなる。

俺はちゃんと生きているんだろうか…

俺はいつだってその疑問を持ち続けて
息をしている。

No.105 15/04/04 01:00
自由人 

俺はこんな自分の生い立ちを、
性癖を、
弱点を、
他人に話したことはなかった。

どいつもこいつも信用ならなかったからだ。
俺は誰も信じていなかった。

いつも、どんなときも常に緊張していた。
人間という人間の全てに警戒していた。

女とセックスした後でさえ
うっかり眠ってしまうなどということはしない。
眠るという行為は一番隙がある。
殺されるかもしれない瞬間だ。

だが、
なにもかも不思議だ。

なぜMには、話せるのだろう。
なぜMの前では眠れるのだろう。

そしてMはなぜ
こんなに恐ろしい俺を受け入れてくれるのだろう。

ああ…
Mが俺の母親だったらなぁ…

俺はもう一度そう思い、ため息をついた。

きっと笑われるようなことなんだろう。
この歳になって
俺はまだ
愛がほしいと思っている。
両親からの愛が。

愛ってなんだろう。
どんなものなんだろう。
親の愛というのは
そんなに温かいものなのか。
知りたくて知りたくて求めているが
答えなど永遠にでない。

俺の両親は結局俺を抱きしめてくれないまま
死んだ。
父親は俺が高校生のときに事故死。
母親は俺が二十歳のときに病死した。

No.106 15/04/04 01:05
自由人 

結局、聞けなかった。

なぜ俺を虐待してきたのか。
俺のなにが悪かったのか。
俺を嫌う理由はなんだったのか。

死んでしまっては
永遠に答えは出ない。

両親からの微笑み、
温もり、
安心感…

それを手にいれることは
俺にはできなかった。

No.107 15/04/10 15:20
自由人 

あなたは、本当によく頑張って
ここまで生きてきたね。

Mは俺にそう言った。

俺は他人にそんなことを言われたことがなかったから違和感があった。

俺は頑張ってきたんだろうか…?

俺はずっと自分が悪(あく)だと思っていたから
頑張るとか頑張らないとかがわからないよ。

そう俺がいうと

あなたは、悪(あく)なんかじゃないよ。
本当によく頑張ってる。
たくさん我慢をしてる。
殺人衝動とも闘ってる。
あなたが持つ性癖は、あなたのせいじゃないんだよ。 あなたは何も悪くない。
あなたはね、とても優しい人だよ。

Mはそう言って
優しい眼差しを俺に向けた。

No.108 15/04/22 15:59
自由人 

俺は今まで
ひとに、そんなふうにあったかく受け入れてもらったことはなかった。

それ以前に、
俺はひとを信じてこなかったため
受け入れてもらえるように自分から心を開いて
弱味を見せることもしたこともないのだから
無理もないか…。

いつだって
一人で考えてきた。

俺はなぜ両親から愛をもらえなかったのか。

俺が何か知らないうちに、気づかないうちに
悪いことをしたに違いない。

殺人願望も秘密にして生きていこう。
誰かに話したら
俺は異常者扱いになるに違いない。

そうやって
俺は自分を悪者にしながら
世間から隠れるように生きてきたんだ。

No.109 15/04/23 07:58
自由人 

俺は、Mと一緒にいる時間を
一番大事にしたかった。

とはいっても、
Mと会える日は月に1回か2回。
会えたとしても
仕事があるため昼食を食べる程度の時もある。

朝から会えても
Mは子どものために早く帰るので
夕方はせいぜい4時ごろまでしか会えない。

もっと一緒にいたい
独り占めにしたい
さらってしまいたい

そんな欲望はいつでもあるが、
求めすぎてはいけない。
お互いの生活パターンを変えすぎては
うまくいかないことが起きてくるからだ。

俺は、この瞬間Mと一緒にいることより、
この先、ずっと長い期間
一緒にいることを考えている。

俺にはどうしてもMが必要だ。
Mでなければならない。


Mもまた
俺と一緒にいることを楽しんでくれているようだが、
子どものことはとても大切にしている。

女は、狂いやすい。
狂う女をやまほどみてきた。
その場の感情で全てを投げ出してしまうような危うい女は少なくない。

気持ちよくなれば簡単に
中に出して…!
なんてことを声をうわずらせて叫んでいるのだから。

しかし、Mはそういう女ではなかった。
わきまえている。

だからなおさら俺は
Mに惹かれた。
尊敬すらしている。

笑ってしまうな。
女を尊敬できる日がくるとは。
この俺が。

No.110 15/04/24 14:30
自由人 

ラインがはいる。

明日あいてる?

Mからではない。

俗にいうセフレからの連絡だ。

ヤルだけの女たち…
一体何人いるのだろうか。
自分のセフレの人数さえ把握していない。
長く続いている女もいれば、
数回で疎遠になっていく女もいる。
忘れた頃に連絡してくる女もいる。
セフレなのだから
互いに割りきった都合のいい関係だ。
はじまりも
終わりもない。
付き合っていないということは
そういうことだ。

俺は自分の性癖から
女とのセックスはやめられなかった。
女とセックスしている時は
俺は存在している、それを実感できる唯一の作業だからだ。
セックス以外に
何が俺の存在を証明してくれる?
強いてあげるなら
殺人という行為ができたときだろうな。
それができないのなら
セックスしか思い浮かばなかった。

No.111 15/04/27 16:35
自由人 

久しぶりじゃん!
元気にしてた?

と女は言った。
この女とは、2ヶ月に1度くらいの回数で
関係がある。

女には彼氏がいる。
彼氏とのセックスに不満があるわけではないそうだ。
ただ、俺とのセックスも気持ちがいい
それだけの理由でセフレになっている。

女の運転でいつものホテルに入った。

余計な話はしない。
セックスをするために会っているのだから。

No.112 15/04/28 07:48
自由人 

女の感じている顔を上から見ながら
腰を突き動かした。

ああ…俺は確かに存在している…

俺はだいたいセックスの時、
頭の中は違うことを考えている。
女を見ながら
俺は俺のことを考えている。
そしてもっと俺自身を満足させるために
女を殺したくなる。
その衝動を抑えるのに必死だ。

女はそんなことも知らずに
あえぎ声をあげて俺にしがみついた。

相変わらずキスもセックスも
うまいね


女は着替えをしながら
笑って言った。

彼もそのくらい上手いといいんだけどなぁ

と続けた。

彼としてるとね、あなたを思い出すんだ。
あなたのキス、とろけそうなんだもん。
ねぇ、もう一度して。

俺は希望に応えて
女にキスをした。

ホテル代は女が払う。
だいたいの女がそうする。

私が誘ったんだもん。
ありがとね♪

と。

No.113 15/04/29 16:39
自由人 

俺の感情は全く動かない。
今までも
何回同じことを繰り返してきただろう。

どんなに美人を抱いても
巨乳を抱いても
俺にとってセックスは
ただ自分自身の存在の有無を哀しいほどに確認する作業。

それに対して礼を言う女たち。

需要と供給

こんな言葉がぴったりだと
俺は思っていた。

愛だの恋だの女に何の感情もわかない。
魅力も感じない。
愛着や執着もない。
これは人間としては欠陥だろう。

こんな俺から離れていく女たち。
逆に
利用する女たち。

いつだってそれで構わなかった。

だが、今の俺はちがう。
確かに変化がわかる。

Mがいる。
俺にはMがいる。

他の女を抱きながら
それを強く実感していた。

そして心の中で
Mをいつだって激しく求めている。

No.114 15/04/30 07:48
自由人 

俺はいつも気がつけばMを思い出していた。

今までに特定の人を常に思い出すとか
その人のことを考えて会いたくなるとか
そういう経験がなかった俺は
少しの戸惑いと、
それとは反対に心地よさも感じていた。

それは、今までの
冷たくすさんだ不安定な日々を癒してくれるようなものに感じた。

常に人を警戒し、疑って生きてきた俺に
Mは安心感をくれた。
安心して過ごすということが
どれだけ幸せなことか。

ではなぜ
俺は他の女とセックスしなければならないのだろう…
そこには矛盾がある。

心で求めているのはMだけだ。

だが、俺には
求められることが必要なのだ。
誰かに必要とされることで
やっと生きていられるのだから。
存在する証をくれるのだから。

俺は、俺の運命を
生い立ちを
そうすることでしか受け入れられなかった。

弱い。
だから、
Mだけを抱けない。
俺を求める女もまた必要だからだ。

足りなくて足りなくて
俺はいつももがいている。

この俺を治してくれる人がいるなら
治してほしい。

Mだけを抱いて生きていかれるように。
誰からも求められなくても生きていけるように。

No.115 15/04/30 22:14
自由人 

ああ…
またキスマークついてるよ…

Mは食事中にそう言って
俺の首筋を指さした。

Mの顔は
なんとも言えない、苦笑いなのか
呆れているのか
哀しんでいるのか、諦めているのか…
そのどれも当てはまる表情だった。

俺を見ないように
Mは一生懸命ドリアを食べていた。

俺は、しまったと思いながらも
言い訳も思い付かず黙ってしまった。

Mは下を向いて食べながら
言った。

仕方ないよね。
それがあなたなんだから。
あなたは、求めてるし、
求められてる。
あなたが誰とセックスしても
私は別にあなたと付き合ってるわけじゃないから
何も言えないし…。
それはわかってるつもり。
でも、やっぱりなんだか
とても哀しくなってしまう。
いやな女でごめんね。
嫉妬深いのは治らないみたい。
つまり、
あなたは私じゃなくても
いいのよね…。

Mはため息をつきながら
水をのみ、また食べ続けた。

Mは言った。

ごめんね。
今日はなんだか早く帰りたくなっちゃった。
これ食べたらバイバイしよう!

Mはもう笑っていた。

でも
俺の目は見てくれなかった。

No.116 15/05/02 23:41
自由人 

ああ…
いつもこの繰り返しになってしまう。

俺はそのたび
どれだけMが必要かを話す。

わかっている。
たいていの人に理解されないようなことをしているのは俺だ。

どの女を抱こうが
何も感じないというのに
Mは俺に言う。

私じゃなくてもいいのよね

と。

いや、Mでなければ駄目なのだが、
Mには通じない。

でも、わかろうとしてくれているのは
痛いほどよくわかる。


Mは辛そうに言う。

私、旦那に浮気されてたでしょう?
だから自信がないのよね。
私は、あなたと同じように求めてる。
変わらない愛を。
私だけを愛してくれる人を。
でも、あなたは
誰とでもセックスしてしまう。
誰かに誘われたら行ってしまう。
私は、自分がいらない存在に思えてしまうの。

No.117 15/05/03 16:11
自由人 

俺はMを何だと思っていたのだろうか。
まるで、聖母みたいに思っていたのかもしれない。
俺の救世主のように。

だが、それは甘えすぎていた。
俺はMに甘えていた。

Mは普通の女性だ。
俺には特別な存在だが
普通の女性なのだ。

愛されたい願望をもち
嫉妬心をもち
いつもそれと闘っている
一般的な女性なのだ。

Mは言った。

みんな自分が一番大事なんだよね。
みんな自分勝手。
あなたを受け入れようと、何度も
同じジレンマを乗り越えてきて、
よし!頑張れそう!と思っても
また同じことでへこたれてしまう。
あなたを理解したい。
その思いと同時に私は、
私を理解してほしいと強く思う。


食べ終えたドリアの皿を
店員がさげにきた。

Mは
ありがとうございます
ごちそうさまでした
と店員に笑顔を向けた。

No.118 15/05/04 00:30
自由人 

Mは食後のコーヒーを飲みながら言った。

私ね、思ったんだけど
あなたと身体の関係があるからこんなに辛いのかなって。
あなたとセックスするのをやめて、
普通のお友だちになるっていうのはどうかしら。
そうしたら、わたしは
今までのように何度も辛くなることはないと思うの。

俺は首を振った。

それは考えられない。だめだよ。
俺にはセックスが必要で、
あなたとのセックスは
他の女とのセックスとは訳がちがう。
俺が求めてるのはあなたなんだよ。

俺は落ち着いて話したつもりだったが、
内心は焦っていた。

俺は言った。

俺から離れないで。
二度とそんなこと言わないで。

Mはため息をついた。

離れるんじゃないよ。
セックスをしないだけ。
いつでも会えるよ。
あなたの価値観のなかでは
セックスは誰とでもできるものなんだろうけど、
私にとっては違うの。
セックスは、誰とでもできるものではないの。
特別な感情をもっている人としかできないの。
それが私の価値観。
だから、あなたのことを理解するためには、
あなたから身体を離す必要があるの。
そうしないと私は、
あなたを理解するどころか
嫉妬ばかり…。
私は、自分がかわいいから
自分が苦しまないようにしたいの。



俺はMをまっすぐに見て言った。

俺から逃げないで

と。

俺は思っていた。

苦しんでくれ。
俺のことを考えて苦しみ、狂ってくれ。
嫉妬してくれ。
俺を心の中に存在させてくれ。
生かしてくれ。
と。

No.119 15/05/06 19:35
自由人 

店員に笑顔をむけて
会計をすませるMを見ていると
たまらない気持ちになった。

俺だけが知るMの顔を見たい。

俺とセックスしている時の顔。
店員が知るよしもない顔。

今すぐに。

俺から離れようとすることは
許さない。

離れられないようにしてやる。

俺は気持ちをおさえながら
店を出て、Mと車に乗った。

やっと二人だけの空間。
昼間だから
二人の姿は外から丸見えだ。
だが、そんなことはどうでもよかった。

Mが助手席でシートベルトに手を伸ばしたが
俺はそれをさせないように
Mを引き寄せた。

No.120 15/05/08 15:01
自由人 

Mの唇を舌でこじあけた。

Mは俺の腕をたたき
押し退けようとしたが
そんな抵抗は
男の俺にとってどうってことないものだった。

Mの唇をなめまわし
口の中もなめまわした。

Mが抵抗しなくなることはわかっていた。
Mは俺の舌を受け入れ
自分の舌を絡めてきた。

俺から離れることなんかできないくせに
なぜ簡単に言ってのける?

Mのスカートの中に手をいれると
もう大事なところが
俺を待っていた。

こんなに身体が離れられないのに?
なぜ
俺から離れたいと言う?

俺は無言でMから唇を離すと
車を発車させた。

Mは慌ててシートベルトをすると
俺の横顔をじっと見ている。

ねえ、どこへいくの?

Mの質問には答えない。
答える必要もない。

俺は、したいようにする。
Mにわからせてやる。

俺から離れられないということを。
誰にも見せたことがない顔を
俺の前でさせてやる。

俺は前だけを見て無言のまま
車をはしらせた。

No.121 15/05/10 07:48
自由人 

ラブホテルの駐車場に車を荒々しくとめると
Mが

もうセックスはしないよ
あなたは他のひととすればいいんだから。

と言った。

俺はイライラした。

降りろ

低い声でMに命令した。

Mはびっくりした様子だったが
俺は続けた。

いいから、早く降りろ。


Mはシートベルトをはずし
静かに降りた。

俺はMの腕を強引につかむと
ホテルの中に入った。

部屋のことなんてどうでもよかった。
今すぐMをめちゃくちゃにする場所さえあればよかった。

部屋を決め、無言のMを引っ張りながら歩いた。

部屋に入ると
俺はもうどうにも抑えきれなくなっていた。

絶対離れられないようにしてやる

俺の気持ちはそれしかなかった。

Mを壁に押し付けると
俺はMの耳に口をつけた。

俺はあなたとセックスできなくなるなんて
考えられませんよ。
他の女が離れてもどうでもいい。
あなたが離れなければそれでいい。

俺はそうMに囁き、
Mの耳を舐めた。
耳の中、耳の裏までしゃぶりつくしたころ
Mの力が抜けていくことがわかった。

わかってくれますか?

俺はMの目を正面から見て言った。

Mは俺の目をじっと見つめながら
小さくうなづいた。

俺はMの唇に舌を入れた。
Mは何の抵抗もせずに受け入れた。
キスの音だけが部屋の中にいやらしく響いた。

首筋に舌を這わすと
Mが小さな声をあげた。

そう、おまえはここが感じるんだよな。
いいよ、なめてやる。
おまえが感じたいのなら俺はいくらでもなめてやる。

俺は心の中でMに話しかけながら
Mを抱いた。

No.122 15/05/11 17:47
自由人 

もっと、もっと
狂えばいい…
気持ちがいいならもっと欲しがればいい。
めちゃくちゃにしたい。
理性なんて捨ててしまえ。
ぐちゃぐちゃになった顔が美しいのだから。
よそゆきの顔は俺の前では必要ない。
俺はどんなおまえでもうけとめてやる。

Mの感じる顔を、俺はまっすぐ見ていた。
どんな表情も逃さないように。
声もしぐさも全て俺だけのもの。


Mは、まだぐったりとして
呼吸がととのっていない。

俺も全てを放出し、クタクタになっていた。

俺の汗を受けてか、
それともM自身の汗なのか…
Mの顔は光っていた。

Mは、かすれた声で言った。

あなたが、私のこどもだったらなぁ…。

俺はドキッとした。
まったくMの言葉は予想ができない。
他の女ならば
愛してるだの
セックスがよかっただの
ずっと一緒にいたいだの言うはずなのに。

Mはかすれた声で、息を整えながら続けた。

私は、
あなたを赤ちゃんから育てて…
毎日毎日抱っこして育てて…
たくさんかわいがって…
あなたを救いたかった…

私なら、あなたをひとりぼっちにはしない。
あなたに愛を教えたかった。
生きている喜びを味わえるように。
愛されていることが実感できるように。
存在している自分をちゃんと認識できるように。
私は…
あなたを育てたかった…。

あおむけになったMの目から
涙が出て、
つぎつぎと髪に流れていった。

No.123 15/05/11 22:41
自由人 

俺は同情されているのか…。

だが、悪い気はしなかった。
俺はMの前では
嘘をつかなくてもいいのだから。

何が哀しいのだろう。
なぜ泣いているのか。

俺がかわいそうな人間だからか?

親の愛を受けられずにここまで来て
俺は普段、自分の存在すら実感できない。

セックスに依存し、
セックスの時だけ居場所を得る。

殺人衝動を隠し
愛や恋を理解できず
誰を信じることもできず
心をひらけない

この俺はやはり
かわいそうなのだろうか。


Mの涙の意味はわからなかったが、
俺は思っていた。

俺はMから生まれたかったと。

そして思わず口走っていた。

俺をあなたの子宮に入れてくれ。
そしてあなたは俺を産んでくれ。
あなたの子どもにうまれて
あなたに育てられたい。
あなたとずっと一緒にいたい。

と。

馬鹿げたことだろうか。

俺は、なんだかできそうな気がしていた。

こんなセックスなんかの繋がりではなく
もっともっと深いところで
Mと繋がりたかった。

言葉ひとつで
さよならになってしまう関係など
捨ててしまいたかった。

No.124 15/05/13 23:17
自由人 

Mは、俺の目に手を当てた。
まるで
目を閉じなさいというように。

俺は目を閉じた。

Mはそのあともずっと
俺の目を撫でていた。
そしてその手は
額にいき、そのあと髪を撫でた。

優しい優しい手だった。

俺はもう目を開けようと思わなかった。
このまま眠りたい
そう思った。

Mの前でなら眠れる
警戒せずに眠れる…

気持ちがよかった。

髪の生え際を撫でられると
くすぐったかった。

安心感でいっぱいになった。

普通の家庭で育つ子どもは
きっとこうやって
眠りにつくのだろうな…
俺はそんなことを想像した。

一度も経験がなかった
誰かのそばで
安心して眠るという行為…。

俺は優しいMの手を感じながら
眠りについた。

それは本当に幸せな瞬間だった。

俺の気持ちは
ずっと幼い頃に戻っていたように思う。

ああ、
今、こんなふうに幸せな気持ちで眠ることができる子どもたちが
沢山いてくれたらいいな

俺はそんなことを考えていた。

No.125 15/05/14 13:04
自由人 

どのくらい眠っただろうか…

隣でMも眠っていた。

俺が目を覚ましたことに気づいて
Mも目を開けた。

ぐっすり眠れた?
そう言ってMはクスッと笑った。

俺は思わず

うん。
久しぶりに熟睡した…
とても幸せだった…

そう答えた。

時計を見れば眠っていたのは
ほんの1時間くらいだったから
俺はびっくりした。
もっともっと長い時間眠っていたように感じていた。

幸せ
そんな言葉が自然と出てくることが
俺らしくないなと
違和感をおぼえたが
正直な気持ちだった。

Mは

私も幸せだった。
あなたがぐっすり眠ってくれたから。

と言って
また目を閉じた。

今度は俺がMの髪を撫でた。

本当にかわいらしい人だと思った。

俺たちは
なんて不思議な関係だろうか。
恋人でもなく
友だちでもなく
親子でもなく…

ただ、すべてが当てはまるような気がしていた。


Mは、ハッと突然目をあけると
こう言った。

ねぇ!こんど二人でボール遊びしない?
バドミントンでもいいな!

No.126 15/06/01 15:21
自由人 

ニコッと笑ったMの顔に
無性に色気を感じた。

色気とはなんだろうか。

女たちのほとんどは、
何か誤解しているかもしれない。
いや、
ほとんどの男たちもまた
誤解しているのかもしれない。

胸の谷間をみせるだの
上目遣いで相手を見るだの
唇をツヤツヤにするだの
足を露出するだの

そんなことを色気と捉えている人は少なくないだろう。

というか、
世間一般では
そういうのを色気と呼ぶのか。

だが、俺にとっての色気は違う。

媚びていない
いやらしくない

表面的なものにはとらわれない。

内面からにじみ出る真面目さや
誠実さ
優しさやユーモアの中から
俺は色気を感じとる。

真逆の顔をさせたくなる…

そう、Mみたいな女に。

俺はまた
たまらなくなって
Mを抱いた。

No.127 15/06/01 23:16
自由人 

Mの感じる顔を見ながら

それを見ていたい俺とは別の俺が
疼いている。

噛みつきたい。
いや、むしろ、食べたい。
苦しむ顔がみたい。
首をしめたい。

殺したい…。

俺はこの性を恨んだ。
俺は鬼なのか。
生まれつきなのか。
それとも
育った環境のせいなのか。

なぜ俺は

人を殺したいのか
食べたいのか

Mの隣で
こんなに安らげるようになったというのに
残酷な俺の中の性が暴れたがる。

同時に思い出す
俺を殺そうとした父親の顔を。
するととたんに
俺は消えそうになる…
いなくなってしまう

いやだ
俺は居る
俺は存在している

我にかえりMの身体に自分の一部を突き立てた。

Mを見て、やっと実感する。

俺はいま、ここに居るんだと。
存在しているんだと。

そして必死で俺は俺を殺す。
殺してはダメなんだと言い聞かせる。

だが、
本当は、なぜダメなのかが
わからなかったりする。

一応、社会のルールだからと
自分を納得させるしかないのだ。

No.128 15/06/02 15:02
自由人 

ある日、Mは
俺に会いたいと言った。

Mから俺に会いたいというのは
初めてではないだろうか。

とても新鮮に感じていた。

セフレからの誘いには
心が全く無表情だが、
Mからの誘いは
素直に嬉しくて
自然に機嫌がよくなるのがわかる。

Mに会うときはいつも
俺はまるで
子どもが遠足に行くときのように
心がはしゃいでいた。

もちろん
そんな様子はなるべく隠しているつもりだが、

Mには見透かされているような気がする。

待ち合わせ場所で顔を合わせると
Mは

おはよう

と挨拶をしたあと
俺の顔を見て
かわいらしく
ニヤッと笑った。

この時俺は
自分の顔がニヤけていたことに気づく。

No.129 15/06/02 20:32
自由人 

で、今日はどこで何をしたいの?

と、俺はMにきいた。

Mは

今日はね、
公園で
キャッチボールをします!

と言ってグローブ2つとボールを俺に見せた。


俺はまた素直に嬉しかった。

Mはこうやって
俺をいつも明るい方へと導いてくれる

俺が体験したことがないことを
教えてくれる

こんなに特定の人に執着したのもMがはじめてだった…

すべてMが俺を変えてくれている。

俺はそんなことを思いながら
生まれてはじめてのキャッチボールを楽しんだ。

俺が投げたボールをMが受け、
またボールを俺に投げてくる。

この当たり前のやりとりが
楽しくて仕方なかった。
言葉など交わさなくても
お互いの気持ちが伝わるようだった。

俺はふと思った。

親子のキャッチボールは
こういうところがいいんだろうな…

とくに、父親と息子のキャッチボールは
どんなに思春期になっても
言葉がいらないからいいのだろう…

幼少期のキャッチボールも
また言葉がいらないふれあいなのかもしれない。


お互いの存在が確立しているから成立する。

ごく当たり前のことだが、
俺は感動していた。

ああ…
もっと早く知りたかった。

No.130 15/06/02 23:15
自由人 

俺は一人でいるときも
Mとのキャッチボールのことを思い出していた。

本当に楽しかった。
心から。

Mの言葉を思い出していた。

あのね!
キャッチボールって
楽しいけど!
誰とやっても同じように楽しいわけじゃないのよ。
人によっては
合わなくて、長い時間できないこともあるの。

私は息子とは
ずうっとキャッチボールできたけど、
旦那とのキャッチボールは
だんだん楽しくなくなって
あんまり長くできなかったなぁ。
あなたとは不思議!
はじめてするのに、
本当に楽しい!
ねぇ!
楽しいよねー!

ボールのやりとりをしながら
息をはずませて
Mが俺に話してくれた。

Mはいい母親だ。
こうやって
息子のキャッチボールの相手をしてきたのだから。

そうしてきただけあって
Mは上手い。
時々豪速球もきたし、
俺の本気球も軽々ととった。

ああ
またMに会いたい。

俺はしょっちゅう
そんなことを思っている。

元来の俺を知るやつは
こんな俺を見たらびっくりするだろう。

ふとテレビをみると

また事件だ。


ー『人を殺してみたかった』ー

俺は、またか…と
ため息をついた。

No.131 15/06/04 07:52
自由人 

人を殺してみたかった
だと?

ああ、わかるよ。
痛いほどわかる。
俺だって、死ぬ前に
それができたらどんなに幸せだろうと思う。

もう脳が常に殺したい衝動にかられているのだから
コントロールだって容易じゃない。

わかる。
わかるよ。

ただな。
よく考えろ。

この社会のルールじゃ、
殺しちゃいけないことになってる。

殺したら最後、
逃げ切ることなんてできない。

一生不自由な生活になるか、
死刑か。

俺はいやだね。
自由に生活したいし、
生きていきたい。

だから、俺は本性は隠していくしかない。

生きたまま人を解剖し
苦しむ顔が見たい
人間を生きたまま食べてみたい
なんて
そんな本当のことを知られたら最後、
自由な生活は奪われる。

実際に殺人を犯していくやつら。
ある意味、幸せなんだろうな。
願望を果たして。

だが、俺から言わせれば
馬鹿なやつらだ。

耐えろ。
悟られるな。

この日本という国に生まれた以上
ルールを守れ。
我慢しろ。自分を抑えろ。

欲望を抑えて苦しみ生きているひとは
ごまんといる。

甘えるな。

俺は、ニュースの画面の犯人に向かって
つぶやいた。





No.132 15/06/04 23:21
自由人 

俺のように
殺人願望をもっている人間は
多かれ少なかれ
自分の性癖に悩まされたに違いない。

なぜ自分の考え方が
世の中に受け入れられないのか。
殺したいから殺すということが
なぜ許されないのか。

なぜ自分は一般の人とは違う衝動にかられるのか。

その悩みは、
いつしか自分を特別扱いすることにつながる。

自分は特殊な人間。

そうおごった人間は
ますます
自分を奇妙な人種へと変えていく。
そういうやつらは、
分析能力が低い。
視野が狭いのだ。

だから、欲望のまま
殺人を実行してしまう。

若ければ若いほど
視野が狭い。
だから、犯罪につながりやすいのだ。

だが、

思い通りにならずに苦しんでいるのは
自分だけなのか…?
そこに気づけた人間は
殺人を思いとどまるだろう。

足の不自由な人が
自由にうごく足を欲しがっても、

目の不自由な人が
何もかもを見たくても、

耳の不自由な人が
全ての音を聴いてみたくても、

どんなに手を施しても
それが不可能だったとき

そのあと
どうするのだろう。

ただ、ひたすらに
自分と向き合い
己の人生を、運命を
分析し、

今あるルールの中で
生きるしかないのだ。


それは、
殺人願望、殺人衝動をもつ人間も
同じだ。

その苦しみを
甘んじて受ける。

その一生のなかで
自分なりの喜びをみつけていく。


それ以外に道はない。

みんな、どうにもならない苦しみを抱えながらも、
うまく折り合いをつけて
幸せを探している。

人間なんてみんなそうだ。

俺はそう分析したとき、
決めたのだ。

生涯、人を殺さずに
最期のときを迎えよう…と。





No.133 15/06/06 15:24
自由人 

それに、
今の俺にはMがいる。

俺は、
Mと一緒にいられることで
ずいぶんと心が穏やかに安定していた。

ひとりぼっちで
長い夜をすごしていた幼少期のことを思い出す回数も
以前よりずいぶん少なくなった。

自分が消えそうになり
存在が薄く感じるときは

Mにメールをした。
電話もした。

電話に出られない時は
Mは必ずすぐに
ラインかメールで
返事をくれた。

大丈夫だよ
あなたは薄くなんかないよ
消えたりしないよ
ちゃんといるよ。
思い出してね。
消えそうになったら
ちゃんと私を思い出してね。

Mはそう言ってくれた。


俺は今まで、
そういう根拠のない
社交辞令のような言葉に
なんの意味も感じなかった。

むしろ
嫌悪感しかなかった。

一見優しくみえる
そんななんの信憑性もない言葉よりも、

実際に目の前にある肉体の方が
ありがたかった。
セックスさえできれば
簡単に俺の存在を確認できるのだから。

だから、
セックスの相手は誰でもよかった。
相手は、ただ俺の存在を確認するための道具にすぎなかった。

だが、
Mからの言葉は
すんなりと俺の心に入ってきた。
そんな言葉のやりとりだけで
俺は自分を取り戻せるようになっていた。

No.134 15/06/09 15:54
自由人 

セフレからの誘いも
会うかどうか
考えるようになっていた。

わざわざ休みの日を合わせたり
時間をさいたり…

そこまでして会う価値がある女なのかどうか。

答えはハッキリしている。

価値はない。
いや、ちがうか。
俺という人間の存在を証明するという点では、
セフレにも価値はある。
だが、
その他のことについては
一緒にいてなんのメリットもない。

魅力も感じなければ
興味もわかない。


セフレに誘われると
まず、その日にMと会えるかどうか確認する。
Mに会えなかったら
セフレを相手にしてやるか、
会わないかを決める。

自分でも信じられない行動だが、
常にMが基準になってしまった。
優先させるのはMと一緒にいること。


俺の中では
これ以上ないくらいMを大事に思っていたが、

一般的な感覚だと、やはり理解されないようだ。

セフレとの関係はすくなくなったものの
未だにあることを知ったMは
そのたびに
ため息をつき哀しそうな顔をした。
そしてまた
遠くを見つめてしまう。

俺は、またMが離れることを考えているんじゃないかと不安になるから

何を考えてるの?

ときくが、
Mは決まって

ううん…と首をふり
下を向きながらこう答える。

別に、なんにも…。
言っても仕方のないことだし
言う資格もないことだから…。

と。

今思えば、
Mは必死に俺への想いを断ちきろうとしていたにちがいない。

俺はなぜ
大切なMのことをもっと大事にできなかったのだろう。

なぜ俺は、セフレとのセックスをやめられなかったのだろう。

No.135 15/06/11 08:50
自由人 

ある日、俺の仕事の先輩とMが
何やら楽しそうに話をしているのを見た。
先輩というのは、もちろん男だ。

仕事上、Mと他の男が話をするのは
よく見ていたし
それはごく普通の光景だった。

だが、
俺はなんとなく
胸騒ぎを感じていた。
直感というやつか。

先輩の歳は、38。
独身だが、なぜ独身なのかわからないくらい
顔は整っていた。
仕事熱心で真面目で優しく、
男の俺からみても尊敬できるいい男だ。
もちろん女性からの人気も高い。
最近は、彼女がいた時期もあったが、
仕事が忙しかったりですれ違いが増え、
別れたときいていた。

先輩は、Mと楽しそうに会話していた。
Mもまた、にこやかだった。

これはヤキモチだろうか。


咄嗟に、急ぎの用事を見つけて
先輩を呼んだ。
Mと離れてもらいたかった。

No.136 15/06/13 10:00
自由人 

それから数日経ったころだったか、
Mが俺に言った。

あのね、
わたし、今度のお休みに
ドライブに誘われちゃった。
Jさんに。

Jというのは、俺の先輩の名だ。

俺はなんとなく嫌な気持ちがして、
思わずMにきいた。

お休みの日っていつ?
息子さんはどうするの?

Mは、

お休みっていうのは、
私の仕事の平日休みね。
来週の火曜日なの。
だから、息子は学校だよ。
J さんが、お休みを合わせてくれたの。
この前、立ち話してたら、
今の季節はどこに出掛けても気持ちいいですね
っていう話になって。
そしたら、ドライブに誘われて。
あ、でも
どこにいくかは決まってなくて…。

そう、一気に話した。

Mは俺の反応を心配していたのかもしれない。

俺は
面白くない気持ちを隠して

そう。

とだけ言っておいた。

本当はもっと言いたいこともあった。

だが、どれもこれも矛盾したことばかりだった。

No.137 15/06/13 12:00
自由人 

だいたい、俺は
いくらでもセフレとセックスするような男だ。

その俺が
Mが誰と何をしようが
どうこう言える立場ではない。

しかも俺とMは
付き合っているわけではない。
つまり、恋人同士ではない。

Mは俺のものではないし、
俺はMのものでもない。

何か特別な約束を交わしたわけでもない。

だから、
俺はMの行動にいちいち干渉できる立場にない。

それはわかっている。
わかっている。

だが、これだけは言える。
誰からもわかってもらえなくても
俺にとっては
Mは特別な存在なのだ。
だから
Mの行動には興味や執着がある。

俺の知らないところで、
MがJ 先輩と会う…?

どんな顔をして会う?
話し方はどんなだろう。
俺といるときとは違うのだろうか。

俺は知りたかった。
Mの全てを。

俺の知らないMを見たかった。

そんなふうに思う自分と、
そう思うことに矛盾を感じる自分と、

俺は、自分がよくわからなくなる。
ただ、無性に寂しくなる。

No.138 15/06/14 07:46
自由人 

Mは言った。

あなたも他の人と会ってるんだもんね。
私だって、そうしていいということだよね?
私たちは付き合っているわけじゃないし…。

と。

俺は勝手なやつだな。
俺は誰と寝たっていいんだ。
変わらないから。
誰と寝ようが、会おうが、
Mしかいないのだから。

だが、Mは他の男と会ったりしてはダメなんだ。
Mは、変わる。
きっと俺でなくてもよくなるだろう。
Mは変わってしまう。

そんな思いが頭の中をぐるぐると
駆け巡った。


俺はMに言った。

火曜日、俺もついていくよ。
一緒にいく。

Mは、

ええっ?!

と、へんな声をあげて笑いだした。

なにいってるの?
無理に決まってるでしょう?

Mは、まだ笑っていた。

冗談だとでも思ったか…?

俺は、

無理じゃないよ。
俺はあなたと一緒にいたいし。

といった。

Mは俺の真剣な顔を見て
笑いをとめた。


あなたは、誰に対しても
そんなふうに思うの?

Mが聞くから、俺はこたえた。

いいや、違う。
他のひとが、誰と何をしていても
全く気にならない。
でも、あなたのことは、
知りたい。
もし、あなたとJ先輩が付き合うことになったとしても、
セックスをするようになったとしても、
俺はそれを見ていたいと思う。
俺と一緒にいるときのあなたも、
そうでないあなたも、
俺は全部知っていたい。

俺はMを見つめながら話していた。
Mもまた、
俺を見つめて聞いていた。

No.139 15/06/17 11:54
自由人 

あなたって、本当に変わってるね。

Mが、真顔でそう言った。

私だったら、
あなたが他の人とデートしたり
セックスしたりするのを
見たくないもの…。


大抵の人がそうなのだろう。


俺は、とにかく知りたいんだよ。
知りたい。
あなたが、俺以外の男に対して
どんな声をあげるのか
どんな顔をするのか。

そう言うと、
Mは

やだ…

と恥ずかしそうに目をそらした。


あ、でも、
実際にデートについていったりは
さすがに無理だよね。
我慢しておくよ。

俺はとりあえずMを安心させておいた。

No.140 15/06/17 15:22
自由人 

火曜日は落ち着かなかった。
俺は仕事をしながら
Mと先輩のことを考えていた。

考えてみれば
Mのような女が、モテないわけがない。
旦那が死んだ以上、
デートの誘いがあってもおかしくない。

俺は前に、
Mの恋愛遍歴をきいたことがあった。

Mは言った。

私はね、女って感じじゃないでしょう?
だから、恋愛の対象になってなかったんだと思う。
私を好きだと言ってくれる人もいたけど、
何となくうまくいかなかったなぁ…。
私は、すぐに
こんな私のどこがいいんだろう?って
考えちゃうから。
ダメな私を好きだという相手も
またダメに見えてしまうのよね。

付き合っても長続きしなかったけど、
旦那は違ったの。
いくら私が自分に自信がなくても、
旦那はしつこいくらいに私を必要としてくれて。
だから、結婚できたんだと思う。

そんな話をしていた。

Mは鈍感なのか、
鈍感なふりをしているのか、
よくわからないが

Mのことを
女として感じない奴はいなかっただろう。
男友達を装って
Mの近くにいたやつらがたくさんいたに違いない。
恋愛の対象にしたくても
Mは高嶺の花すぎたのだろう。
気まずくなるよりは
友達としてMの近くにいたほうがよいのだから。

No.141 15/06/22 08:32
自由人 

火曜日がすぎ、
水曜日がすぎ、
木曜日がすぎ…

俺はMに連絡をとれずにいた。

なぜだろう
遠慮していた。

ふと思った。

Mは俺からの連絡を待っているだろうか?

それとも
Mから連絡がないということは
俺を忘れているのだろうか?

J先輩とうまくいったのだろうか…

ざわざわと胸が騒がしかった。

Mが俺ではないやつを選ぶ?
Mが俺を忘れていく?

一気によみがえってきた。
誰にも相手にされずに
一人で夜をすごしていたこと、
飯をひとりで食べていたこと…

俺は居るのか
居ないのか
ちゃんと生きているのか
存在しているのか

実感できない怖さ

その感覚が戻ってきた。

ああ…
まただ。俺は過去に引き戻される。

消えそうだ…

弱い。なんて弱いのか。
自分の弱さに嫌気がさした。

なぜ俺はひとりで生きられないのだろう。



ちょうどよく
セフレからの連絡が入る。

Mからの連絡ではなかったことに
苛立った。

人妻29歳のセフレに会うしかない。

今すぐ会えるよ
俺はそう返事をした。

馬鹿な人妻
おまえに会いたいわけではない。
俺の存在を確認したいだけだ。

お互いさまか。

人妻もまた
俺のテクニックが欲しいだけだ。
旦那と違う味を思い出しただけだ。
気晴らしだ。

似た者同士というわけだな。








No.142 15/06/22 09:08
自由人 

すっごく会いたかったよ♪

人妻は俺に会うなり、そう言った。

どんな理由があるせよ、
今日のこの瞬間に俺を思い出し、
会いたいと思い、
実際に会ってくれるのだから
有り難い。

この人妻は
俺の子が欲しいといい、
俺の子を産んだ。

いや、本人がそう言っているだけで
嘘かもしれないが。

俺には全く興味がないことだ。

俺の子を産みたいといわれたときも
俺は責任をとれないよ?
つくるだけ。
と念をおしてある。

人妻は、俺の子かもしれない子どもの写真を見せてきた。


ほら、こんなに大きくなったよー!
来年小学生!

この女の考えていることがわからない。
旦那の子として育てている子どもの写真を、
俺に見せてなんになる?

疲れる…俺は正直そう思っていた。
面倒なおしゃべりなどしたくなかった。

さっさとホテルに行って
することだけしたら早く離れたい。

そう思っていた。

No.143 15/06/23 07:51
自由人 

ホテルに着くと
人妻が俺に甘えてきた。

痛めつけてやりたいという欲望が
俺の中で溢れてくる。

手がうずく。

怪我をさせたらヤバイ。
だが、ギリギリのところならいいだろう。

俺は乱暴に人妻を抱いた。

痛いっ!

人妻は時折痛みに顔を歪める。

もっと痛がれ。
もっと苦しめ。
泣け。
ぐちゃぐちゃの顔を見てやるよ。

心の中で笑いながら
人妻の身体を弄んだ。

不思議なものだ。
痛いと言いながら、だんだんそれが快感になるやつもいる。

人妻は、俺に
痕はつけちゃダメだよ…っ!
痛いっ…!
そう言いながらも
俺にしがみつき、よがり声をあげている。

白い肌に俺の痕がつく。
俺はそれがおもしろかった。
本当は、そのまま噛みちぎってしまいたいくらいだった。

No.144 15/06/24 14:22
自由人 

今日のあなたは、いつもより乱暴だったね。
激しくて激しくて、壊れるかと思っちゃった…。ちょっと怖くて、ゾクゾクした!

人妻は言った。

俺は、答えなかった。

ねぇ、今日、私よくなかった?
あなた、イカなかったでしょう?
気持ちよくなかった?

さらに話しかけてくる人妻に、
俺は着替えをしながら答えた。

あ、違うよ。
多分疲れてるんだと思う。
でも気持ちよかったよ。





そうだ。俺は、またイケなかった。
時々ある。
自分の存在を確かめることに集中してしまうと、
相手に何も感じなくなるから
興奮しなくなる。
だから、途中でモノが萎えるのだ。

だが、そんなことは人妻には言わない。
面倒だからだ。
だいたい、説明したって不可解なことだらけだろうし、
俺の生い立ちを話すのは疲れる。


そう。
大丈夫?身体は大事にしてね。
ちゃんと食べるんだよ!

人妻は俺を心配する言葉を吐いた。

なんと嘘くさい社交辞令だろうか。

俺は、Mを思い出した。
Mもまた社交辞令を言うのだろうか。

俺を思う言葉は、嘘なんだろうか。

信じられるものなど
この世にはない。

ひとは、思ってもいないようなことでも
顔色ひとつ変えずに
平気で言葉にできる。

簡単に人を信じられるやつがいるが
全く羨ましい限りだ。

親にさえ警戒して生きてきた俺には
信じるということが
浅はかでくだらない妄想にしかみえないのだ。


そんな俺が、
Mと一緒にいるときは
安心感を得られるのだから不思議だ。

頭のなかは
Mのことだらけだった。

No.145 15/06/25 15:43
自由人 

Mが先輩と二人で会ってから
一週間が経ったころ、俺はMに
電話をした。

Mの

お久しぶり

という言葉が、なんとなくよそよそしく聞こえた。
だが、その次の

元気にしてた?

という言葉は、いつもの優しいトーンで
俺はホッとした。

今度、いつ会える?

俺はいろいろなことを聞きたいのを我慢して
会える日だけをきいた。

Mは、

今、忙しい季節に入っちゃったから、
1日お休みはとりづらいかも…
ランチの時間でよければ会えるけど…。

そう言った。

少しの時間でもかまわないよ。
会いたい。

俺は正直に話した。

Mが日にちと場所を提案してきたから
俺は了承した。

やっとMに会える…


Mが先輩とどうなっていようが
この際どうでもよかった。
俺を拒否せずに
会い続けてくれるのなら。

No.146 15/06/26 14:28
自由人 

その日、俺は約束の時間よりずいぶん早く待ち合わせ場所についた。

Mが俺の車をみつけて
いつものように窓の外から軽く会釈してきた。

久しぶりに会う感覚で、
とりあえず何を話せばいいか思い付かなかったが、
Mを助手席に座らせると
車をはしらせた。

俺たちは無言だった。


信号が赤になると、俺は
Mの腕をつかんで強引にキスをした。
せずにはいられなかった。

Mは一瞬抵抗したが、俺の舌を受け入れた。

青信号になると
俺はまた無言で運転した。


Mは、俺の方を見ながら

どうしたの。
いつもと違う感じだね。
何かあったの?

優しい声でたずねてきた。

俺は、思わず

先輩とのデートはどうだった?

と聞いた。



ん…?うーん…。
えーっと…。
何から話せばいいのかな。

Mは窓から見える景色に目をやりながら
少し戸惑っていた。

No.147 15/06/27 08:59
自由人 

ドライブしたよ。
海が見たいって話したら
海に連れていってくれた。
ついでに水族館にも行ったし、
帰りはお寿司食べてきた!


Mは一気に話したが、
俺は
そんなことが聞きたいわけではなかった。

で?先輩は、何か言ってた?

とりあえず冷静にきいた。

Mは、

うーん…。

そう言ってしばらく黙っていたが
やがて口を開いた。

私と一緒にいると楽しいって。
次も二人で会ってほしいって。


なんとなく、何か隠している気がした。
それだけか?俺は心の中で思った。

Mは言った。

でも、ほら、
私は旦那がいないとは言っても
子持ちだから。
Jさんだって本気じゃないよ、きっと。

そう言いながら、あははと軽く笑った。


それで、あなたは先輩のこと
どう思ったの?

俺は一番聞きたかったことをたずねた。

Mは

ねぇ、今日は会うなり質問ばっかりだね。
どうしたの?
ところで、なに食べる?
ランチの時間終わっちゃうよ!

話をそらした。


ダメだよ。
あなたは俺に話さなきゃ。
俺はあなたを知りたいと言ったはず。

俺が強い口調でいうと
Mは

まだわからないよ。
でも、楽しかった。
それだけだよ。

吐き捨てるように早口で言った。

No.148 15/06/29 12:06
自由人 

怒らせてしまった…

俺は
怒っているMを観察していた。

何やらわけのわからないことで怒りだし、
泣いたりわめいたりする女は
散々見てきた。

女たちのくだらない思い込みと
感情の起伏の激しさ、
被害妄想的な自己嫌悪、
八つ当たり、
俺はそういうものにうんざりしていた。

涙をみせて同情を買おうとする女もまた
滑稽にみえる。

俺に、そういうものは通用しない。
なにも心は動かない。

冷たい男だと罵る女、
突き放されて快感を得る女、

いろいろといるが
Mはどうなんだろう。

No.149 15/07/01 14:40
自由人 

なんとなく
気まずい雰囲気でファミレスに入った。

注文を済ませると
Mが口を開いた。

本当はね、J さんに、
本気でお付き合いを申し込まれたよ。
1日一緒にいて
今までの気持ちに確信が持てたって。
結婚を視野にいれて
お付き合いしたいと言われたの。
子どもの話をしたけど
構わないって。
とても真剣に話してくれたから
私も考えてみようと思ってる。
で…

そこまで話してから、Mは
水を一口飲んだ。

で、ね。
もし、私がJ さんとお付き合いするように
なった場合は、

私はあなたとは
もう二人で会ったりしないつもり。




俺は心の中で
冗談じゃない、そんなことは
絶対認めない
と思った。

そう簡単に俺から離れようとしても
無駄だ。


俺は、M に

それは無理な話だよ。
あなたが必要だから、
俺はあなたとは離れない。
そんなバカなことは考えない方がいい。
J 先輩と付き合っても
結婚しても構わない。
ただ、俺はずっとあなたに干渉していくよ。
あなたが俺から離れられないようにする。
あなたは、俺にとっては
稀な人間なんだよ。
今まで俺は、他の誰にも言ったことがない。
あなたにしか言わない。
あなたはとても大事な人だよ。

そう言った。

No.150 15/07/02 10:42
自由人 

Mは、俺の目をじっと見て言った。

それは、いつもきいてる。
あなたは、私に執着しているんでしょう?
でもね、
あなたは、致命的に変われない。
あなたは、私を幸せにしてくれない。
あなたは、いつも自分が一番。
それは私も同じかもしれないけど
それでも、あなたの幸せを祈ることはできる。
あなたは、
私の幸せを願うことなんてできる?
私のために、
自分を変えてみようと思ったことはある?

私は、あなたのことが好きだと思ったから
あなたが誰と関係を持とうが、
一生懸命認めようとしてきたよ。
自分が変わればいいんだと思った。
だから、我慢してきた。

あなたは?
私のために、何かを我慢したことある?
しようとしたことは?
変わろうとしたことは?

いつもあなたは、自分を押し付けてきた。
私を変えようとしてきた。
わかってくれ
わかってくれ
受け入れてくれ
そればかり。

私は本当に
あなたのことがわかりたかったし、
あなたに幸せになってほしかった。
今まで悲しい思いをしたぶん、
取り戻してほしかった。

あなたは、私に
興味をもった。
他の女性には感じない感情を
持ったのかもしれない。
でもそれは
私には理解できない。
なぜなら、あなたは
他の女性といくらでも寝れるから。

たとえ私が
それをやめて、私だけを見てほしいと頼んでも
あなたは、きいてはくれないでしょう?

いや、俺は、こういう人間なんだよ
と説得するだけでしょう?

いつも、私たちは
この繰り返しなんだよ。

No.151 15/07/02 13:33
自由人 

Mは静かな口調だった。
一生懸命話しているが
決して興奮しない。激情しない。

この冷静で論理的な話し方に
俺は惹かれる。
年上の魅力を感じる。

俺はMよりずっと年上の女とも関係をもっている。

だが、
ここまで論理的に落ち着いて話せる女はいない。

だいたいが、
感情的になる。
冷静を装っても、怒っているのがわかる。
そして
客観視ができない。
視野が狭い。

二言めには、
なんで!
どうして!
最低!
なんていう単語を吐き捨てる。

歳は関係ないということだな。

俺はMに決定的なことを言われているわけだが、
その話し方に魅了されて
ますますMを気に入ってしまった。

No.152 15/07/03 09:11
自由人 

料理が運ばれてくると
Mは店員にニコリと笑い
ありがとうございます
と言った。

今まで真剣に話をしていた時の顔を
サッと変える、
その切りかえの速さ。
そこにも魅力を感じる。

さあ、食べよ!
今日は、時間もないし!

Mは明るく言って
俺にフォークを渡してくれた。

Mは食べながら言った。

でもね、
私、J さんを信じたわけじゃない。
私は人を信じるのが怖いの。
あんなにニコニコ美味しそうに
私のつくるご飯を食べ、
私の身体を求めてきた旦那が
浮気してたんだから。
人なんて、
いくらでも口ではうまいことも言えるし、
なんでもできる。
そのショックからは立ち直れない。
J さんが、いくら私を好きになってくれたとしても
哀しいけど、信じられないの。

私はもう
誰かに依存して裏切られるのが
いやなの。

あ、関係ないけど
あなたね、ちゃんと鏡みたほうがいいよ。
またキスマークついてるよ。
前もそうだったよね。
私はあの時にあなたを諦めておけばよかった。
なんで
嫉妬しながらも、あなたをわかろうとしたんだろう?
今キスマークを見ても
嫌な感情はあの時と同じ。
あなたは、私じゃなくても
誰でもいいんだから。


そこからは何も話さず
黙々とMは食べ続けた。

俺は

あの女だな。
いつもキスマークをつけるのは…。
と、人妻のことを思い出していた。

No.153 15/07/06 13:15
自由人 

そうだ。
俺たちはいつもこの繰り返しだ。

俺は他の女を抱かなければ
生きていけない。

Mは自分だけを愛してほしい。


俺もMだけをみて
Mだけを抱いて生きていければ
どれだけ幸せだろうか…

今までの、
俺の生きているということを証明する保険を
全て解約することができるのだろうか…。

女たちとのセックス…
俺がここに存在する証。
生きていると実感できる行為。
最も最短な手段。

俺はそれをMのために捨てられるのだろうか…。

No.154 15/07/06 22:39
自由人 

そんなことを考えていると、

Mは口を開いた。

ごめん。
あなたには、あなたの傷がある。
私にも私の傷がある。
こればっかりは
私の思いであなたを縛れないし、
あなたもまた
私を縛ることはできない。
こんなふうに
私の感情をあなたにぶつけてごめんね。
私、
正直いうとイライラしてた。
浮気した旦那にも
他の人と寝るあなたにも
こんなろくでもない女をデートに誘うJ さんにも。
自分の気持ちもよくわからなくて
なにもかも、なかったことにしたくなるの。
ちょっと不安定だよね。
八つ当たりしてごめん。


いや、俺は
八つ当たりだと捉えてないよ。
あなたはいつも
人が理解しやすいように話ができる。
俺は、そういうところが
気に入ってるんだよ。

俺がそう言うと、
Mは恥ずかしそうに少し笑った。

No.155 15/07/09 15:57
自由人 

俺は、
Mと一緒にいられる時間が大事だったし、
一緒にいることが、幸せだった。

もちろん、Mを失うことなど
考えたくもなかった。

Mが他のやつを好きになったとしても構わない。
俺との時間さえ作ってくれたらそれでいい。
会っているときは
間違いなくMは俺と居るのだから。

Mは俺をどうするつもりだろう。

俺はまるで
自分が迷い猫か、捨て猫のようにみえた。

誰に拾ってもらえるか
ブルブル震えながら待っている
みすぼらしい猫のよう。

同情でもいい。
Mに拾って抱いてほしかった。

だからといって
俺は自分を変えられない。








その日、別れてからは
Mからの連絡がパタリと来なくなった。

何度も俺からラインやメールを送ろうとしたし、
電話もしようとした。

だが、できなかった。

なぜか怖かった。
Mが俺を拒否したら…
否定したら…


俺はきっと消えてしまうだろう。

No.156 15/07/13 15:49
自由人 

仕事もそれなりに忙しかった。
だから少し気は紛れた。

J 先輩は
気のせいだろうか、
俺とは正反対で
今までよりイキイキと仕事をしている気がした。
もしかしたら、Mとうまくやっているのかもしれない。

だからといって、
Mに確かめたりするのは
相変わらず怖かった。

だが、Mのことを知ることができない状況も怖かった。

俺の心は
荒れていた。

他の女で満たそうとした。
誘ってくる女と
片っ端からセックスしてやった。
デートもした。

Mとした、キャッチボールまで
他の女としてみた。

そうするたび、
俺はますます荒れていった。

他の女といると
とてつもなく疲れてしまった。

ただ、セックスの最中だけは
俺は俺を取り戻した。

誰でもいい。
もっと顔をぐちゃぐちゃにして
俺を感じ、声をあげればいい。
セックスは
特別なものでも、愛の証なんかでもないんだよ。
ただの行為だ。
軽々しく淫らに求めあえる快楽の行為。



M…
俺は、あなたに会いたい。



No.157 15/07/21 13:03
自由人 

俺は
体調を崩して仕事を休むことになった。
熱が下がらぬまま3日間、
ろくに物も食べられずに寝込んでいた。

多分J 先輩からきいたのだろう。

Mから、ラインが入った。


お仕事休んでるんだって?
大丈夫?

久しぶりのMからの連絡に
俺はホッとしたし、嬉しくて
多分少しニヤけたのかもしれない。

Mの顔と声を一気に思い出し
会いたくてたまらなくなった。

俺は、熱にうなされていることをいいことに
素直なラインを返した。

だめ。
あなたにきてほしい。
看病して。


Mがそばにいてくれたら
俺はきっとそれだけで
ずいぶん長く生きられるだろうと思った。

No.158 15/07/24 12:03
自由人 

看病してくれそうな人、いないの?
あなたが呼び出せば
喜んで来てくれる女性はたくさんいると思うんだけど…。
こういうときは甘えてみたら?

Mからの返事だった。


来てくれそうな女性?
多分、いるだろう。
でもそれがなんだ?
セフレになにを求めるというのだ。
一緒の空間にいても
なんの安らぎにもならない女を
ここに呼んでも意味がない。

Mはわかってない。

No.159 15/07/31 07:19
自由人 

俺はあなたに甘えたい。
他のひとには何の期待もしない。


そう返信するだけで精一杯だった。


しばらくしてMからの連絡。

おうち、どこ?
何かほしいものは?


朦朧とする意識のなか、
俺はやっと救われる思いがした。



どのくらい時間がたっただろうか。
チャイムが鳴った。


Mだった。

久しぶりのMの姿、表情に
俺は自分が何者か忘れてしまった。

Mを部屋に引き寄せると強く抱きしめた。

大丈夫?
ほんとに熱い…

Mは俺を布団に寝かせた。

No.160 15/08/01 11:28
自由人 

気がつくと、後頭部のあたりが
ひんやりしていた。
部屋の中は
なにやらいいにおいがしている。

男のむさくるしい一人暮らしの部屋に
あたたかい空気が流れていて違和感がある。

いつのまにか眠ってしまったんだ。
Mが来てくれたところまでは覚えている。

そのあとは…?と考えていたところで
Mがベランダから入ってきた。

どうやら、俺の臭い下着まで洗濯してくれたらしい。

Mが

おはよ。
どう?調子は。
だいぶうなされてたけど。

と言ってクスッと笑った。

え、うなされてた?
何か言ってた?

俺がきくと

うん、
言ってたよー、
『M~…M~…』って
わたしの名前を何度も呼んでた!

そう言って、また
うふふと笑った。

俺が、
そうか、そんなこと言ってたのか…
と考えていると

Mは

うそうそ。
ジョウダンだよ。
静かによく眠ってた。

また笑った。

俺の額に手を当てると

あら。だいぶ下がったみたいだね!

と言った。

Mがそのまま立ち上がろうとするから、
俺はとっさにMの腕をつかんだ。
Mの身体が俺の上によろめいて覆い被さった。

ああ、やっと
近くにいられる…

俺はしばらくMを抱きしめていた。
Mは抵抗せずに
静かに俺の頭をなでてくれていた。

No.161 15/08/07 11:29
自由人 

Mといるときだけに感じられる安心感。
いや、安心感という言葉だけでは
おさまらない。

俺は
この気持ちが何者なのか、
知っているようで、知らない。
というより
知らないふりをしていたほうが
ちょうどいいように思えた。

愛してるなんて言葉は
安っぽすぎて
使いたくない。当てはまらない。

俺は、だから
愛を知らないのか。

俺の中にわく感情はただひとつ。

食べたい。

無性に、

Mを、

このまま食べたい。

最後まで生きていられるように
指の端から食べてやりたい。

俺は

Mが自分の中に入り、
自分と一体化するさまを
想像していた。

一生涯許されることのない
俺の欲望だ。

No.162 15/08/11 09:35
自由人 

ねえ、食べる?


Mが俺の耳元で言うから驚いた。



雑炊作ったんだけど、食べる?


訂正版(?)がきこえて
ああ…雑炊のことか…。
俺はホッとしたような。
期待はずれの正解に一瞬落ち込んだような。
部屋のいいにおいの正体がわかって
すっきりしたような。
いろんな気持ちで

うん、食べる。

と返事をした。


じゃ、用意するね。

Mは俺から離れようとするが
俺はまだMを離したくなかった。

うん、食べたい。

俺は相変わらず返事だけするが
腕はMを抱きしめたままだった。

じゃ、用意するね。

Mは笑いながら言った。
俺が離さないから、おかしいらしい。

うん。お願い。
食べたい。

俺も相変わらずMを抱きしめたまま答える。

んもう、どっちなの?

Mは俺の耳元で笑っている。

俺は思わず言ってしまった。


あなただよ。あなたを食べたいの。

No.163 15/08/13 10:17
自由人 

こんなおばさんを食べたいの?
もうヨボヨボシワシワの割には
へんな脂はついてるし…
きっと美味しくないよ?
もっと、若くてピチピチの女の子を選んだ方がいいと思うよ。

Mは少しも驚かない様子で
たのしそうに言った。

俺は、

あなたは、ヨボヨボでもシワシワでもないし
本当に魅力的だよ。
たとえ、あなたがもっと歳をとって
おばあちゃんになっても
きっと俺はあなたを食べたいんだと思う。
他の人の肉なんて食べたくないんだよ。
あなたを食べたいの。

本気で話した。

No.164 15/08/14 06:35
自由人 

Mは
今度という今度はしばらく黙りこんでしまったが
静かにこう言った。

うん。じゃあ、また考えておくね。
わたしもまだまだ
生きなきゃいけないから
今すぐ食べられてしまっては困るし。
とりあえず今日は
雑炊を食べておいてよ。


それは、俺が一番満足のいく答えだった。
俺はやっとMを優しく解放した。

Mは俺から離れる時に
俺の顔を優しく撫でて
今度は目をあわせてニコッと笑った。



ねえ、
J 先輩とはうまくいってるの?

俺は、台所に立った後ろ姿のMにたずねた。

Mはチラッと俺を振り返って
また少し笑った。

Jさんは本当にいい人だね。
わたしのこと、真剣に考えてくれてる。
一緒にいて楽しいし
お付き合いしてもいいかなぁと思ってる。
でも、まだ踏み込めていないの。

雑炊の準備をしながらそう言った。


俺は、まだ正式に付き合っていないことに驚いていた。


もう付き合っているのかと思った。

つい俺が言ってしまったら、

Mは

誰かと真剣に付き合っていたら
こんなふうにあなたのところには来ないよ?

ちょっと眉間にシワをよせて言った。



雑炊はうまかった。
久しぶりにまともなものを食べた。

風呂に入っていなかった自分の身体が
急にきもちわるくなり
俺はシャワーを浴びた。

No.165 15/08/15 07:31
自由人 

全身の汗を洗い流して戻ると、
Mは、雑炊やらの洗い物をすませ
帰り支度をはじめていた。

Mは俺に気づくと

そろそろ帰るね

と言って、またニコリとした。

俺は

もう少し居てよ

と頼んだが、Mは

これ以上一緒に居て、
食べられちゃったら困るからさぁ…
逃げるように帰るわけ。

そう言って笑い、立ち上がった。


俺は思わずMを抱きしめると言った。

今日は食べたりしないよ?
あなたの匂いをかいで、
あなたを舐めて
あなたの顔を見ていたいだけ。


そのあとは、
俺たちはもうどちらからともなく
キスをしていた。

Mの一番弱い耳から首筋にかけては
いつものMの匂いがしていた。
俺はたまらなくなって
それを全部嗅ぎとるように匂いをかぎ
全てを舐めた。
耳の中を舐めると
Mの力が抜けていくのがわかった。



すごくいいにおいだよ…

俺が思わずそう言うと

Mが首を振ってこたえた。

おばさん臭しか…しないはず…。




それをきいて俺は


そんなんじゃない…

と言ったが、
言うのが面倒くさいくらいだった。
そんなことよりも
Mの全てを舐めつくし
Mにおばさん臭などと言わせないようにしたほうが早いと思った。

Mの感じる顔も、声も、
反応も
久しぶりで懐かしく、
俺は
いつも以上に興奮していた。



Mが何度も絶頂をむかえ
何度も俺にしがみつき
その力も弱くなってきたころ
俺も果てた。
本当はもっともっと苛めたかった。

本当はこのまま
食べながら殺してしまいたかった。

俺は今回も
我慢した。

そのかわり
Mの生きている息づかいをきき
Mの肌のぬくもりを感じることの幸せをかみしめた。




No.166 15/09/17 00:21
自由人 

Mが帰ったあと
俺はMの匂いが残る部屋で、すっかりよくなった体調を不思議に思いながらくつろいでいた。

ふと、携帯が鳴る。

セフレからの連絡だ。
今度の相手は、現役短大生。
胸が大きいのが魅力だが、あとは何とも感じない。
顔は好みではない。
何かと俺を神のように敬い、俺が雑に扱えば扱うほど、まとわりついてくるような女だ。

あの…明日あいてますか?

短大生は甘ったるい声で聞いてきた。

会えるよ。何時にする?

俺は即答した。
久しぶりに、短大生の大きな胸を弄ぶことを考えていた。
俺を求めてくる女たちの多さ。
俺はそこに優越感さえ感じていた。

No.167 15/09/17 09:55
自由人 

待ち合わせ場所に車で迎えにいく。

短大生は、胸元の大きくあいたブラウスと
ヒラヒラのスカートという出で立ちで現れた。

いかにも、セックスしてください
と言っているような服装だ。

俺を見ると会釈をして
車に乗り込んできた。

いつもの場所でいい?

俺は短大生にきくと、返事など聞かないうちに
発車させた。
車の中はお互い無言で、短大生は緊張している様子だったから
俺にしては珍しく少し気を利かせて世間話をしてやった。
短大生は甘ったるい声で
うふふと笑っている。


ホテルについて部屋に入ると
久しぶりだからか、短大生は
何やらもじもじしている。
その初々しさに
俺も少し興奮してきた。

こっちにおいで

俺が誘うと、嬉しそうに俺に身体を預け、
短大生は甘ったるい声で言った。

あの…わたし
他の人ともしてみたんです…エッチなこと…。
でも、あんまり気持ちよくなくて…。
あなたとしてる時の感じが忘れられなくて、
それでまたつい、連絡しちゃいました。

そう。それでいいと思うよ。
君はまだ若いから、いろんな人としてごらん。
俺を思い出したら、連絡くれればいい。
俺がまた君に教えてあげるからね。

俺はそう言いながら
短大生の服を乱暴に脱がした。
そこからは、俺の気分でやり方をかえる。
優しく快感に浸らせてやることもできるが、
俺の本性は別のところにある。

こいつを泣かしてやろう

俺の粗悪な部分が顔をだし
初々しい女を痛めつける。

悲鳴に近い声をあげながらも
快感に酔いしれている短大生をみて、
こいつは、俺のすることに何でもついてくる女だなと思った。

あああ…!
壊れちゃう…!ダメ!痛いっ!きゃあぁ…!

短大生が顔を歪ませて
泣き出した。

俺はますます興奮した。
その顔を踏み潰してやりたかったが、
さすがにそれをしたら
次回に繋がらなくなると思い、やめた。

No.168 15/09/17 11:40
自由人 

こんな俺について来られない女は去っていく。
そうでない女はまた次も連絡してくる。

俺の、正体不明なところに
魅力を感じるという女もいる。

苛められるプレイにハマる女もいる。

もちろん本気で恋してくる女もいる。
ストーカーまがいのことをしてくる女もいる。

出会いは様々で
飲みにいった先でたまたまそうなることもあれば、
友人からセックスの相手を探していると紹介されることもある。

一人去っても、また一人、また一人と
セフレはわいてくる。

俺は自分の存在だけを確認できればいいのだから、
誰かに必要とされれば
それだけで意味があり、
それを断ることは、俺自身の存在を否定することになるのだからそれはしない。

求められたら求められたぶん応える。
だが、執着はしない。
思い出したりもしない。
自分から呼び出そうとも思わない。

そう。
M以外には。

今まで自由奔放に生きてきた俺の
最大の変化はそこだ。

なぜかMには執着し
Mを失うのは恐怖であり
Mには常に会いたいと思う。

そこが自分の感情ながら不思議なところなのだ。

これは、
多分誰にもわかってもらえないだろう…




俺は、

〈また必要とされるように〉
短大生のケアをし、
フォローをする。

それでも離れていくやつは仕方ない。


短大生はありがたいことに、

なんか、今日はすごく激しくて刺激的でした。
わたし、こういうのも好きです。
また連絡してもいいですか。

そう言っていた。

No.169 15/09/19 11:58
自由人 

短大生を送るために
ホテルを出て車に乗り込んだ。

プライベートなところまで詮索しない。
セフレの家がどこだろうが、
俺には関係のないことだ。
待ち合わせた場所まで送っていく。

別れ際、短大生は何を思ったか

あの…キスしてくれませんか

と俺に頼んできた。

俺はなんの躊躇もなく
女の首に手をまわしキスしてやった。
軽く済ませるつもりだったのに
女が俺の背中にしがみつくから、
自然に深いキスになってしまった。

長いキスが終わると
短大生は軽い挨拶をして降りていった。

さて、と。

俺は発車させようとして
ギクッとした。

Mが、いた。

もちろん車の外に。
道を挟んだ向こう側に。

こんな偶然あるものなのか。
なんのイタズラなのか。
俺の頭の中は少しパニックだった。

見られた…?


Mはこちらを見ていた。
俺と目が合うと
なんともいえない顔をして
歩いていってしまった。
車の進行方向とは逆のほうに。

No.170 15/09/21 11:25
自由人 

俺は真っ白になった頭の中を
どうすることもできずに
車を発進させていた。

Mを追うことなんてできなかった。

Mのことだ。
またきっと俺から離れていくに違いない。

俺はどうすればMを引きとめることができるか、
その言い訳ばかり考えていた。

どんな言葉を並べても
今回はきっと
Mは俺に失望したに違いなかった。

昨日の今日だしな…。

体調が悪くてMに見舞ってもらったくせに
今日の俺は他の女とイチャイチャ…
許せるはずがない。

他の誰に見られてもどうってことのない場面だったが、
やはりMだけには
見られたくなかった。

この、後ろめたく、取り返しのつかない感情は
やはり俺にとっては特殊なもので、
自分自身に興味がわくくらいだった。

…が…

そんなことをいっている場合ではないことは
何となくわかっていた。

だが、俺にはどうしようもなかった。

言い訳をするわけにもいかず、
開き直るわけにもいかず、
俺はただ
自分勝手であろう感情をMに知ってほしかった。

Mに離れてほしくない。

ただ、それだけの思いで過ごした。

No.171 15/10/14 15:25
自由人 

それから1週間。
俺は
何度も何度もMの顔を思い出しながら過ごした。

短大生とのキスを見られた…

その大失敗を悔やんだ。

Mは多分、もう、許してくれない気がした。
いや、
俺たちは付き合っていない。
だからどんな表現が適当なのかわからない。

俺は本当に、バカだ。
今までにないくらい落ち込んだ。


その落ち込みに、
追い討ちをかけるような知らせが届いた。


その日仕事に行くと、
J 先輩が朝からニヤニヤ話しかけてきた。

俺さ、ついにオッケーもらったよ!
Mさんと付き合えることになった!


ああ…
俺は、どんな顔になってるのだろうかと思ったが
隠すこともできず

おめでとうございます

と言うのが精一杯だった。

No.172 15/10/15 08:01
自由人 

その夜、俺は我慢できなくなり
Mに電話をした。

もしもし…

Mは出てくれた。


電話したくせに、
話したいことがまとまっていなかった。
何から話せばいいかわからなかった。


J さんから聞いたよ。
付き合ってるんだって?


そう言ってしまってから
ああ。これじゃない。言いたいことは。
と思ったが遅かった。



うん。
付き合うことになったよ。


Mからの短い返事は、どこか冷たかった。


Mは、無言でいる俺にイライラしたのか、
自分から話し始めた。


わたし、本当は、
あなたと居たかったよ。
だから、あなたのところにも行ったし…。
でも、
あなたは、やっぱり
わたしだけを必要としてくれない。
前からわかっていたけどね。
でも、実際見てしまうとなんだか…
一気に目がさめてしまったよ。
わたしにするように、
他の子ともキスしたりセックスしたり
デートしたり食事したりしてるんだよね。
なんだか、それが
とても哀しいというか。
わたしには、やっぱり無理なんだなと…


そこまで話して
Mは言葉を詰まらせた。

No.173 15/10/16 15:50
自由人 

俺は、いつだって
Mが特別だよ?
他の女には何も感じない。

そう俺は言ったが、Mは

でも、それが本当だという証明は誰もできない。
あなたの心の中は、あなたにしかわからない。
口では何とでも言えるかもしれない。
演技だってできるかもしれない。
わたしの旦那だって…
浮気しながらも、私を好きだの愛してるだの
言っていたんだよ?
私を抱いていたんだよ?
私はすっかり信じていたの。
でも、
真実は違ったんだもん。
あなたのことだって、
いったい何を信じればいいっていうの?
私じゃなくても、あなたは
やっていけるじゃないの。
本当はJ さんだって信じられないよ。
でも
もういいの。
私は誰も信じない。信じたふりをするだけ。
裏切られたときのショックを和らげるために。
それでもいいの。
J さんと付き合っていれば、
何かが見えてくるかもしれない。
あなたのこともきっと忘れられる。
誰とも付き合わないと言いながら
私を大切だと言い、
私に執着し、
それなのに、他のひとを平気で抱けるあなたのことなんか
早く早く忘れたい。
それだけよ。
あなたのこと、なんにもわからないわ。
なんにも理解できない。
いつまでたっても、この繰り返し。
私は、ずっと寂しいまま。
私だけを必要としてくれる人がいないんだから。
だからもう
あなたとは、おしまいよ。
連絡先も消してね。

声を震わせて一気に話した。

俺は、
ギュンとしめつけられる胸を
どうすることもできなかった。

No.174 15/10/19 08:05
自由人 

今までだって何回も
Mが俺から離れそうになったことはあった。

俺の性癖が理解されずに…。

だが、なんとか繋ぎ止めてきた。

Mの優しさに甘え、キャパに甘え。
俺は自分を押し通してきた。

それがずっと続けばいいと
自分勝手に思ってきた。
俺は、
Mのために
自分を変えようなんてしなかった。


でも、いま
まさに目の前でMが俺から去ろうとしている。
それが、キツかった。

今までにない後悔が
どっと俺の胸に押し寄せた。

俺はなぜ人を大切にできないのか。
せめて
失いたくない人くらい
大切にできたらよかったが。
いや、
俺のなかでは
今までになく、大切にしてきたつもりだった。
言葉にも出してきた。

だが、根本的なものを
変えられなかった。




無言の俺に、
Mは言った。


今まで、ありがとうね。
あなたの全てを受け入れられずにごめんね。
あなたと一緒に居られたことは
本当に楽しかったの。
不思議だった。
家族になりたかったな。
あなたには
やっぱり幸せになってほしいよ。
ちゃんと
人を好きになり、愛せたらいいね。
もし、
願いが叶うなら…

そこまで話して、しばらく無言のMだったが、
また
続けた。

もし、願いが叶うなら…
私がいつか、
おばあちゃんになって
いよいよ死んでしまうというときになったら……

あなた、
私を食べていいよ…

あ、ムシャムシャ食べちゃダメだよ。
みんなにバレちゃうから。
こっそり
目立たないところを選んで
一口だけね。
食べさせてあげる。

生きたまま、食べたいんだもんね。
私が死にそうになったら
願いを叶えにおいでね…
ほら、多分、 年齢的に
私のほうが先に逝くだろうしね。

そこまで話して
Mは急に明るくアハハと笑った。

こんなときまで
冗談半分なことを言う。
いや、
冗談ではないのか…?

人を生きたまま食べたいという
俺の願いを
叶えようとしてくれていたこと。

ありがたかった…
どこまでも温かいひとだ。

本当に離れてしまうなんて
信じられなかった。
どんな会話でもいい。
繋がっていたかった。

No.175 15/10/20 14:14
自由人 

俺、やっぱりどうしてもMと離れたくない。
どんな形でもいい。
繋がっていたい。

俺はMに伝えた。

Mは言った。

ううん。
それはダメだよ。
J さんと付き合う以上、
あなたとはもう終わりにしなくちゃならないの。
裏切られる辛さはよく知ってるつもり。
人にそんな思いさせたくないから。

あなたがもし、
私だけを愛してくれるなら…
私だけを…

そこまで言ってMはまた止まった。

ああ…無理だね。
無理だ。
ごめん。忘れて…。

私たち、もうおしまいだよ。

さよなら。



俺の言葉を待たずに
Mが電話を切った。


俺はしばらくそのまま動けなかった。
自分でもなにを考えているのか
わからなかった。


俺のなかに、
無表情の俺がいた。
いや、
俺は実際、無表情だったかもしれない。

No.176 15/10/20 16:30
自由人 

俺は、
俺自身が
薄くなっていくのがわかった。
存在が、
なくなっていく…。
俺の記憶が一気に戻ってくる。子どもの頃の記憶だ。
愛されない、相手にされない、空気のような自分。
俺は何のために生まれてきた?
俺は本当にここにいるのか?
いないのか?

消えてしまう…!

恐怖で眠れなかったあの頃の。
長い長い途方もなく長い時間。

引き戻される…!


肉体と精神がバラバラだ。



生きたい…
生きたい…
俺はここにいる。
消えたくない。



誰でもよかった。
誰でもいい。
どんなやつでもかわまわない。
俺の存在を証明できるのなら
誰でも。


手当たり次第に
あさった。
今すぐ会えるやつを。
さがしまくった。

No.177 15/10/21 19:10
自由人 

俺はその日から
いろんな女とセックスしまくった。
毎日毎日、欠かさずに。
1日に何人もとすることもあった。

どうでもいい女たちを
痛めつけ、
その歪んだ顔を見て
その時は気分が晴れた。

俺の存在を確認できるその行為で
俺はその瞬間を生きていた。

俺が居るから、
女が泣き叫ぶ。
これ以上の存在確認があるだろうか。

メールだのラインだの
そんな文字のやりとりが何になるのか。
あの嘘だらけの、ごっこ遊びが。

身体を重ね合わせてナンボだ。


ただ、 俺は
毎回、
最後までいかなかった。
イカない。
ということは、つまり、
出さないのだ。
イッた振りをして終わらせた。

俺にとって、
『出すこと』が目的ではないのだ。
自分の存在さえ確認できれば
どうでもよかった。

No.178 15/10/24 07:10
自由人 

自分の存在が確認できても
頭にあるモヤモヤは晴れなかった。
毎日、
常に、
Mを思い出していた。
思い出すという表現は当てはまらないかもしれない。

Mのことを考えていた。

俺から去ったMに対して
怒りのような感情もあった。

俺の前に現れ、
俺の感情を変えておいて、
いとも簡単に離れていった。

そんなことを考えながらも、
俺はなんて勝手な人間だろうと思う。

俺が変われなかったことを棚にあげて
Mを責めている。

Mは俺を否定したんだろうか。
いや、ちがう。
Mは、
いつも俺がしているように、
自分を守っただけだ。

Mは悪くない。

いや、
俺から離れたMはひどい。

こんなことを
繰り返し考えている。


俺をこんなにボロボロにしたM。

なんて存在の大きなことか。

No.179 15/10/25 15:32
自由人 

それでも
俺はMに連絡をとろうとは思わなかった。

こわかったからだ。
また拒否されて
自分をバラバラにするのは
いやだった。

Mからもまた
連絡はこなかった。

俺と離れたMは、
どんな感じなんだろうか。
仕事で見かけることはあっても
心の中までは覗けない。

Mは俺がいないほうが、
やはり、
幸せなんだろうか。

幸せなんだろうな。


俺の方は、
Mのかわりになるやつが現れることもなく、
相変わらず
何かに飢えたやつらが
ますます俺にまとわりついた。


ショップを経営する60近い女に
店でアルバイトしないか誘われた。
それだけじゃない。
金で俺を買いたいのだそうだ。

あなたの言い値で時給をはらうわ。
あなたの暇な時に来てくれればいい。
そうね、
私と泊まりの旅行にも行ってほしいの。
もちろんお金ははずむわよ。
飲み食い代もホテル代もタダ。
夜は相手になってよね。
それは別料金で払うわ。
あなたのサービス次第では
その場で金額をプラスさせるから。



バカな女だが、
悪い話ではない。
要するに、性欲を満たしてやれば
金は入ってくるわけだ。

俺はその女と
契約をした。

No.180 15/10/25 16:32
自由人 

その女は、
独身で、自分のためだけに金をつかってきた。
服のセンスもいいし、
スタイルもいい。
シワやシミはどう隠してるのか。
見た目は40代だろう。
とても60近くには見えない。

街の一等地に自宅兼店をかまえ、
悠々自適に暮らしている。

きれいな女だったから、
抱くことには抵抗はなかった。
女の要望どおりに抱いていれば
ボーナスもあった。

今日は、激しくして。
めちゃくちゃに。


というときもあれば、

今日は、優しくね。
私をとろけさせて。

とねだるときもある。


具体的に指示も出してくる。


舐めてちょうだい。
もっと…
もっとしてくれたら
プラス一万ね…


俺は、女と一緒にいるときは
時給をもらい、
その他特別なことをするときは
特別料金をもらい、
セックスはまた別料金。
セックスのサービスによっては
また別料金をもらっていた。

俺は、もともと
誰でもよかったのだから、
その女の身体を利用して、毎回
金をもらいながら、
俺自身の存在を確かめていた。

ただひとつ。

サディストの俺が
女の言いなりにセックスしなければならないことは、
不満ではあったが。

No.181 15/10/27 15:15
自由人 

はじめはよかった。
どこまでも落ちぶれてやろうと思った。

誰になんと思われようが
どうでもよかった。

俺はただ、その時を
生きていた。



だが、

他の女を知れば知るほど
他の女と関係を持てば持つほど

俺にはMの存在が深く体内に沈んできた。

Mだったらこう言うだろうか。
Mだったらこんなふうに笑うのに。
Mだったら…

Mに会いたい

俺はMに会いたかった。
Mに必要とされたかった。
Mと抱き合いたかった。
Mと一緒にいたかった。

あの安らぎの感覚は
Mとでなければ味わえないことが
俺にはわかる。
それがとても
重い。

くそったれだ。

No.182 15/10/27 15:21
自由人 

俺は、ばかだ。

人生の中で
そんな人に出会えるなどと
予想もしていなかった。

まさしく奇跡だったのに。

そう。俺にとって
Mといた時間は奇跡だった。


それなのに俺は…

ばかだ。

自分のことを、これほど嫌いになり
ばかだと思ったのは
初めてだった。


俺は、ばかだ。
大ばかものだ。

No.183 15/10/28 08:24
自由人 

人間とは不思議なものだ。

満たされた状態を知らないということは、
ある意味幸せなことかもしれないと思った。

俺は子どものころから、
満たされたことがなかった。
だいたい、
満たされる感覚がどんなものかも知らずに生きていた。だから、その時は
満たされていないことに気づかずに生きていたことになる。

そして、俺はついこの間まで、
その状態のまま生きてきたのだ。

だが、Mと出会って
心が満たされることがどんな感覚なのかを知った。

一度満たされた心は
またそれを求めてしまう。
俺にとっては
それは不幸なことなのだ。
下手に知ってしまった幸せを
求めれば求めるだけ
俺は手に入らないもどかしさを感じることになる。


なにをしても
誰といても満たされないことを
常に感じてしまう。

Mといる時以外は
俺は満たされていない。

その虚しさに、
どうしたら慣れることができる?

セックスしているのに
こんな抜け殻のようになった自分を
どうすることもできず
途方に暮れてしまう。

No.184 15/12/07 15:53
自由人 

そんな精神状態で生活していたせいか、
俺はついに、身体をこわした。

怠さがとまらない。
微熱もあった。

はじめは風邪かと思ったが
なんとなく違う気がしてきた。

俺はもともと医者は好きじゃない。
できれば自力で治したかった。

真っ先に、Mの顔が浮かんだ。
Mの顔を見ることができたら
俺の身体はよくなってしまうんだろうな。
そんなことを思っていた。

もう他の女を抱く気力もなくなっていた。
演技をするのも疲れた。
虚しいだけだった。

それにしても、身体がきつい…。



ついに俺は仕事場で倒れた。

No.185 15/12/08 11:05
自由人 

目を覚ましたのは
病院のベッドの上だった。

いや、本当は救急車の中で意識は戻った。
J先輩が俺を呼ぶ声をきいていた。
ただ、返事をする元気がなかった。
薄目を開けたら
先輩が安心したように俺の手を触った。

そこから俺はまた目をつむり
眠ってしまったようだ。

病院であることはよくわかっていた。
白い天井がいかにもだった。

まるでドラマみたいだなと
冷静に考えた。

近くにいた看護師が
俺に話しかけ、そのあと出ていった。
そして
J 先輩が入ってきた。

ここは、処置室みたいなところなんだな、
少しずつ周りがみえてきた。


おまえ、いつから体調悪かった?
ダメだろ無理したら。
しばらく休んでろ。
で、おまえ、検査するってよ。
いいか、ちゃんと調べてもらうんだぞ?

J先輩の言葉に

はい

としか言えなかった。
身体が重かった。力も入らない。

俺は病気なのかな…まさかな。
多分アレだ。
恋わずらい…?
心の中で笑った。

No.186 15/12/09 09:54
自由人 

俺はそのまま検査入院となった。

そんな大袈裟なもんじゃないんだがな…
調べてもらうほどのことじゃない。
俺はただ
寂しすぎておかしくなったんだろう。
Mのことが
こんなに俺の人生を左右させるなんて
思っていなかった。

一日中ベッドに寝ているというのも
退屈なものだが
やっと俺は俺の人生をゆっくり振り返れる気がしていた。

ここにMがいてくれたらな…

俺の頭からMがいなくなることがない。
なんという滑稽な現象なんだろうか。

No.187 15/12/12 07:27
自由人 

こんなふうに寝たきりの生活をしていると
つい、弱気なことを考えたりするものだ。

もし俺があと少ししか生きられないとしたら…

そんなことが頭によぎった。

もしそうだったら
俺はどうするのだろうか。

最後に何をしたいだろう。

この世にはいろんな死に方があるが、
病気で死ねるのは
ある意味幸せだと俺は思ってきた。

考える時間があるからだ。

例えば交通事故は無理だ。
唐突すぎて、覚悟もなにもない。

自殺は問題外だが。

さて、
やり残したことはなんだろうか。
だいたい
これで思い残すことなく死ねる…!
なんていうタイミングって、あるものなのだろうか?

暇なんだな。
こんなことを1日中考えているのだから。

俺は白い病室の中でため息をついた。

No.188 15/12/12 11:40
自由人 

検査入院ということだけあって、
毎日、なにかしらの検査を受けた。
いろいろ説明はしてくれるが
俺にはどうでもよくて
頭に入ってこない。

検査が必要ならやってくれ

そんな感じだ。

大部屋のベッドが空いてなくて
身分違いにも、個室にいる。
個室は高いんだよな…

そんなに長くいるわけではないし
一人の方が気楽か。

パジャマやらタオルやら
必要なものはレンタルできるんだな…
俺には身の回りの世話をしてくれるような人はいないから
このシステムは助かる。

こうなってみると改めて思う。
セックスする相手がどれだけいても
意味がないものだなぁと。

俺の入院を知らないセフレたちからは
相変わらず場違いな連絡が届く。

いちいち返すのも面倒くさく、
それに状況を話したところで
いろいろと心配されるのも疲れるから
全てスルーした。

相変わらず会いたいのは
Mだけで、
なのにその気持ちをどこにぶつけることもできず。ただ、虚しさを
静かに受けとめていた。

そんなある日、
J先輩が病室に顔を出した。

見舞ってくれる人がいるなんてことが
ありがたかった。

先輩は言った。

悪い。
今日、Mも一緒なんだけど
入っていいか?


え…!あ…っ…どう…ぞ…!

俺は明らかに取り乱していただろう。

No.189 15/12/19 11:29
自由人 

Mが入ってきた。

しつれいします…
すみません。突然私なんかが…。


Mは、精一杯
仕事上だけの付き合いのフリをしてくれた。

あ、お久しぶりです。
すみません、こんなところに来ていただいて…

俺は愛想笑いをし、Mを見た。

Mは俺だけにわかるように眉間にシワを寄せた。


そこからは、
俺はもっぱらJ 先輩と話し、
MはJ 先輩の斜め後ろに腰かけて
じっと話を聞いていた。



悪い。俺、トイレ行ってくるわ。

J 先輩がいうから

この部屋トイレ付いてますよ!
使ってください

と俺が言ったのに、

いくらなんでも使わねぇよ!と笑い
J 先輩はトイレを探しに廊下に出ていった。


あたりまえだが、
俺はMとふたりになった…。

No.190 16/01/07 07:55
自由人 

ごめん…

俺の口から出た言葉だった。


Mは、
なんで謝るのよ…?
と言った。

俺の頭のなかではいろんなことがグルグルしていた。
Mが大事なのに、
他の女と遊び、キスを見られたこと…。
何も言い訳などできるわけがなく
どうしようもない感情が渦巻いた。

俺はとっさに
Mに手を伸ばした。
すこし離れているから触れることができなかった。
Mは、しばらく俺を見ていたが
俺の手を握ってくれた。

たまらず引き寄せると
バランスを崩したMの髪が
俺の顔に触れた。

Mの香りを感じて
そのまま無意識に抱きしめてしまった。



ただ、ちゃんとわかっている。
J先輩が戻ってきてしまう。

早くMを離さなければ。

No.191 16/01/07 18:17
自由人 

もちろん、離した。



俺は、二人が帰ったあと
ぼんやりしていた。

Mの匂いと感触を忘れたくなかった。

Mはどう思っただろう。
ろくに目を合わせないまま帰ってしまった。


俺はまたひとりだ。
ひとりぼっちだ。
また幼い記憶がよみがえる。
自分が居るのか居ないのかわからない、あの感覚。
存在を確かめるためのセックスは
今はもうできない。
それくらい俺の身体は弱っていた。
というより、
病院にいるのだから、状況的に無理だ。
だから俺は、
この感覚から逃れることはできない。

誰も俺を救えない。


誰も…?

いや、Mは、Mだけは
俺を救えるかもしれなかった。

だが。
俺のどこからも、Mの匂いは探せなかった。

No.192 16/01/08 07:52
自由人 

その夜、
ふと目が覚めて携帯を確認すると
Mからラインが入っていた。

こんなふうに連絡をもらうのは
どのくらいぶりだろう。

俺は飛びつくように
ラインを確認した。


何か必要なものはある?


短い言葉だったが
Mらしい。

余計な言葉を使わないが
優しさがにじみ出ているような気がした。
俺は一気に
自分の体が安心感で満たされていくのがわかった。

地獄から天国にきた気分だった。

必要なもの…?
俺はすぐに思いついたものを伝えた。

どうしてもあなたが必要です。


と。

No.193 16/01/09 22:08
自由人 

夜中だったが、
Mからはすぐに返信がきた。

それ以外で!

と。

俺はまたすぐ打ち返す。

それ以外に必要なものはないです。

と。


ここまで、この俺が
素直に自分を表現できるなんて。
誰が想像できただろうか。

No.194 16/01/21 08:49
自由人 

Mは、次の日
病室に顔を出した。

どう?調子は。

そう言ってニコリと笑った。


俺は気がついたら立ち上がっていて、
Mを抱きしめていた。
自分でもびっくりしていた。
なんだか、格好悪い気もした。

だが、
自分の気持ちのままに行動できることが
心地よかった。

人が来ちゃうよ!

Mの言葉で、仕方なく
Mを離した。
けれど
また、たまらなくなって
抱きしめた。

Mの髪を撫でて
首筋に唇を当てた。

いいにおいがして
俺の身体はビクッと反応した。
同時にMの身体が反応するのもわかった。

俺とMの吐息が同時に漏れた。

ああ、このまま。
このままMの中に入りたい…。

ここが病室でなければ
俺は抑えられなかっただろう。

No.195 16/01/24 08:03
自由人 

ベッドに座り、Mと話をしていると
看護師が入ってきた。

検査の結果のことで、先生からお話があるんですが、
どなたか家族の方も一緒にお話を聞いていただけますかね?


そう聞かれて
俺は咄嗟に言ってしまった。

あ、俺には両親がいないし、
身内はみんな遠くに住んでいるので…
婚約者のこの人に一緒に聞いてもらいます。


Mが一瞬目を大きく開けて
俺を見たのを、
俺は横目で感じたが
そんなことはどうでもよかった。

看護師は、

では、また先生の時間と調整して
あらためてお知らせしますね。

そう言って
こちらの都合をメモして出ていった。




ちょっと!

Mは言ったが
俺はMが何か言い出す前に話した。

ごめん。
でも俺、身内なんていないようなものだから。
M…悪いけど
一緒に話をきいてよ。


Mは眉間にシワを寄せていたが
了承してくれた。

No.196 16/03/20 02:37
自由人 

俺の身体は、
自分が思っていたより
ずっと悪かった。

医者の話を一緒に聞いていたMが
静かに涙を拭いた。

俺は自分のことなのに
自分のことじゃないみたいに
心がどこかに浮遊していた。

返事はしていたが
上の空だった。


俺は
このまま死ぬのだろうか。
死ぬのだろうな。

そういうことを
言われているのだな。

そのくらいのことしかわからなかったし
覚えていない。

No.197 16/06/25 18:22
自由人 

病は気から…という言葉を思い出していた。

医者の話を聞かされてから、俺の身体は、
みるみるうちに悪くなっていった。
俺は小心者なんだろうか。
こんなことなら、病名など聞かなければよかった。

ちくしょう…


生きることに執着してきたのに。
自分の存在を確かめるために生きてきたのに。

俺はここで死ななければならないのか。

なんのために生きてきた?
なんのために?

思い出そうとしても思考力が追いつかなかった。
完全に、落ち込んでいる状態だ。

No.198 16/06/27 10:14
自由人 

生まれたら、いつか死ぬ。
そんなことはわかっていたことだ。
いつまでも生きているやつなど誰もいない。
誰がいつまで生きられるか、そんなことはだれにもわからない。
病気じゃなくても、交通事故で死んだり、災害に巻き込まれたり、通り魔に襲われたり…それこそいろんな理由で突然死ぬことだってある。
どっちがいいんだろうか。
病気で余命宣告を受けても、覚悟をもって死ねる方がいいのだろうか。
何も知らないまま、死の恐怖を感じる間がないまま、あっという間に去れる方がいいのだろうか。

No.199 16/06/27 11:58
自由人 

いずれにしても、だ。

この世に、この生に、
後悔を残さずに死ねることなど、まずないんじゃないかと俺は思っている。

誰だってひとつやふたつやり残したことがあるだろうし、
やり残したことがなかったにせよ
もうちょっとこうありたかった、みたいな思いがよぎったりするんじゃないだろうか。

残される方もまた同じだ。

毎日、子どもを愛し、抱っこもしてやり、
美味しいご飯も食べさせてやり、精一杯向き合っていても、
ある日突然その子がいなくなれば
他に何かができたかもしれない、もう少しこうしてあげればよかった、もっと抱っこしたかった、
そんなふうになるんじゃないだろうか。

人なんてもんは、どこにも完璧なんかなくて、
一時の満足ですら、すぎてしまえば
どこか足りない。
そういう生き物なんだろうな。

俺は今、死と隣り合わせだが、
ほんとは誰もが死と隣り合わせだ。
自分も他人も誰も彼もが平等に隣り合わせ。

そう思ったらなんだか、みんな同じすぎて
みんな哀しすぎて
どうしようもなく安心できた。

No.200 16/06/27 14:48
自由人 

治療をどうするか考えていた。

治らないのに、治療という言葉はおかしいのか…。

俺はどの道、もう長くない。
だからどうしたらいいかわからなかった。

たとえ1日や2日長く生きるとしても、元気で生きられるわけではなく、
苦しみながらやっと生き延びるのであれば
たとえ1日早くても、このままなにもせずにその時を迎えようか…。


ドアのノックで、目を開けた。

Mだった。

俺のなかのどこかがゆるむ気がした。

Mは少し笑って

調子はどう?と言った。

Mは続けた。

わたし、もうJ さんとは別れたからね。
だからなんの罪悪感もなく、あなたのところに来ることができるよ。

No.201 16/06/29 14:57
自由人 

俺は、思った。

Mは、一人を選ぶ人なんだなぁと。
一般的には、ほとんどがそうなのだろうか。
J先輩と付き合いながら、俺に会うことは
Mにとっては罪悪感があったのだろう。
で、俺を選んだ。
俺のためにJ 先輩と別れた。

その行為は、今まで俺にはできなかった。
Mを大事に思いながらも、他の女と会い、セックスをしていた。
それを自分の生い立ちや性癖のせいにして。
いや、せいにして、というのは違うか。
俺にはそこはコントロールできないのだから。

Mは、それを簡単にやってのけた。
それが不思議だった。
しかも、
俺はもう長くないのに。
平均寿命よりかなり早く死んでしまうことがわかっているのに。
MはJ 先輩と別れてきた。
俺にはわからなかった。
嬉しかったが、わからなかった。

俺はMにきいた。
なぜ?別れてきたの?と。

Mはキョトンとして言った。

そうしたかったからだよ?

と。

そうか…そうしたかったのか…。
心の中で繰り返した。

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