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山川弘美の日常

レス316 HIT数 86010 あ+ あ-

モモンガ( PZ9M )
12/05/26 20:38(更新日時)

あたしは今人生最大の崖っぷちだ



外見はめちゃくちゃダサいわけでもないがナイスバディでもない



彼氏は(当然)いないしお洒落でもない





家の中でコタツとマッタリするのが好きで黒色の長い髪は常にでこだし2つ分け




極度の近眼なのでカワイクない細い黒色のフレームの眼鏡をかけて生活をしている




家にいるときは常にピンクのプレイボーイのジャージ


ベランダにキティちゃんのサンダルだってある(しかしヤンキーではない)






ちなみに彼氏いない歴は22年
ときめいた事もない


自他ともに認める『ダサ川ダサ美』である




だってしょーがないよ
キレイになる方法もわかんないしセンスのいい友達もいないんだもん




あたしの回りにはいつも『平凡』『並』『普通』しかいない




このまま平々凡々なOL生活が続いていくかと思われたあたしの毎日を激変させたのは





一本の『眼鏡』だった



しかしこの眼鏡
そんじょそこらにあるヨン様眼鏡とはちょっと違う




『欲しいものが見える』



魔法の眼鏡だったのだ!
(^_^)v




一人で吉牛が食べれちゃう22才のちょいダサOLが魔法の眼鏡を手にしたら…?

No.1158277 08/12/03 15:07(スレ作成日時)

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No.1 08/12/03 15:22
モモンガ ( PZ9M )

あたしは山川弘美


22才のOL事務員




普通に短大まででて


普通に会社に就職をして





普通に会社に通っている




今流行りの『バナナ』ダイエットだってするし




死ぬ気で貯めた500円貯金で憧れの『スカーフ付きコーチバッグ』だって買った





今年の流行りがパープルだってのもコタツの中で見た『QVC』のキャストが何回も教えてくれたから知ってる






でもそんなあたしは万年マイラブプレイボーイで




情けないかなジャージマンなのだ




会社から帰ればこのまま朝まで過ごす




近所のスーパーにだってこのままいくしお気に入りの『服部くん』は今日も爽やかにあたしにお釣りを返してくれる






でも24時間365日いつも一人なんだよね




友達だっているにはいるが正直人間関係がうざったい




あたしにかかせないのはリモコンを押すと直ぐに笑顔で対応しているテレビと身体中暖めてくれる愛するコタツだった

No.2 08/12/03 15:38
モモンガ ( PZ9M )

しかしそんな生活を続けてはや三年




まわりの同期は着実に彼氏をゲットして幸せの分だけ巻いてある髪の量が増えていく





あたしは自慢じゃないが生まれてこの方恋人はおろか恋もしたことがない




世の中の仲良しカップルを見るたびに解せない思いで過ごしている





『そばにいられるだけで幸せなのまぁくん!』




『ずっと一緒にいようね!』




そういいながら愛するまぁくんからもらった小さな指輪にため息をつき



『あいつ意外とせこかったなぁ~食事もコースじゃなかったし車も国産だし』




そう言いながら『我が社人気No.1』のOLまみちゃんはゆるくなった巻き髪を手慣れた様子で巻き直すと





『今回はインターネットにすっかな』



と指輪の写真をアップで撮っていた




女って怖い



男の前では『安めぐみ』でも




女の前だと『金髪豚野郎』だ






このギャップを生き抜いていかなくちゃいけないならあたしには心臓の面積が狭すぎる

No.3 08/12/03 15:54
モモンガ ( PZ9M )

このまま無難に変わらぬ生活をしていけばいいしあたしには関係のないエリアだ




そう思って会社の女子トイレで隣に居合わせたまみちゃんの押すシャッター音を聞いていると




『ねぇ山川さんて毎日楽しい?』



まみちゃんが指輪の向きを変えながらあたしに話かけてきた





意外だった





まみちゃんは完全に特別なエリアの人であたしと課も違うから挨拶もしないしましては話なんかした 事もない





あたしは咳払いをしながら



『まあまあ楽しいですよ』



無難に答えた




『ふ~ん…そっか!まあまあ楽しいんだね。まみは生きてきて20年しか経ってないけど毎日楽しいよ♪彼氏もたくさんいるし…あ!特定のはいないんだけどね。』




なんなんだ



なんなんだ…




まみちゃん自慢か?



彼氏自慢か?




あたしは突然のまみちゃんとの会話をすぐに切り返す事もできずとりあえずニッコリ笑って前の鏡で髪を整えた



(早くずらかろう。関わることなかれだ)

No.4 08/12/03 16:07
モモンガ ( PZ9M )

あたしが手早くクシとピンをしまい始めると




『ねぇ山川さん明日の夜ちょっと空けてもらえないかなぁ』


今度は体の向きを変えてもっていたサマンサタバサのキラキラポーチにカメラをしまいながら話かけてきた




『え…何で?仕事の話?』



あたしが恐る恐る聞くと




『やだなぁ違うよ♪会社帰りに会社の話なんかしてどうするのよ♪山川さんてオモローい!』




『……じゃあ何かな?何か話があるの?』



『えっとね!コンパ!!まみのお兄ちゃんとそのお友達とまみの友達と3対3で』




ねぇ



あたしたち友達じゃないよね?



あたしの記憶が正しければあたしたちは初対面のはず…




しかもなぜあんたとコンパに行かなくちゃならんのか!



ええ!?まみさんよ





あたしは唖然としながらも作り笑い100%で答えた




『ああ…コンパか~残念だけど明日はだめなんだよね、わざわざ誘ってくれたのにごめんなさいね』



『え~!?用事ある人なの~?まみの予想では直行帰宅型間違いなしだったのになぁ』

No.5 08/12/03 16:24
モモンガ ( PZ9M )

(はい正解~)



あたしは心の中で親指を立てながらまみちゃんを誉めたけど同時に『直帰型』と見破られた事にじわじわと怒りが込み上げていた




『それにあたしコンパってあんまり得意じゃないし…なんでまたあたしなの?可愛いお友達ならたくさん同じ課にいますよね』




『山川さんて本当にオモロいね~さてはまだまだコンパが何かを知らないな~?コンパとは可愛い子だけで開催しても面白くないんだよ。
良い子・悪い子・普通の子が必要なの♪




ちなみに良い子はまみ♪



悪い子は河村ちゃん




普通な子は山川さん♪



めっちゃ楽しそうじゃない~?
ちなみにお兄はOLに大人気のニッソン自動車勤務だよ♪
悪くはないでしょ?』




いつのまにかまみちゃんはあたしのかなり至近距離まできて目をキラキラさせながら話し込んでいた



『ああ…普通の人材としては適任なんだけどあたしあんまり知らない人と喋れないし…』



『いいよいいよ♪喋りはまみと河村ちゃんに任せて山川さんは…って呼びにくいね♪『山ちゃん』ってよんでもいい?




山ちゃんはさもくもくと会に参加しといてよ♪女の子達は勿論タダだからさ』

No.6 08/12/03 16:41
モモンガ ( PZ9M )

誰かこいつをつまみだしてくれ…




しかも『悪い子』河村さんは社内でも1、2を争うセクシーボイスの持ち主でナイスバディの持ち主だが意外に団体行動を好まず一人でいるのが好きなタイプだった




あたしは河村さんについては面識もあったし割と話せる存在だった




しかしそんな河村さんもまみちゃんとコンパに行くとはなぁ…





想像してほしい



化粧もろくにしない黒髪眼鏡のダサいOLが




傍らにクルクル巻き髪の安めぐみ




傍らにセクシーボイスの天海祐希を連れたっていたら?




まぁ…これはあくまで例えであるが




撃沈間違いなしでしょ




そんな会合より




『お電話どんどん込み合ってきています!』の通販番組でも見ながらコタツと丸まっていたい…





そんな妄想をふくらませていると




『山ちゃん…このままだと楽しいお一人様暮らしに突入しちゃうかもよ?


たまには生の男の匂いもかかないと♪』




綺麗にセットし終えた完璧なまみちゃんスマイルでにっこりと笑いを浮かべていた

No.7 08/12/03 17:00
モモンガ ( PZ9M )

『あの…でもあたしは』



そこまで言うとまみちゃんの電話がなった




まみちゃんは手でごめんねのポーズをしながら電話に出た




『は~い♪まみです♪あ!お兄ちゃん?うん、明日の人数?今三人目が決まった所だよ!今回の人材は楽しめること間違いなしだよ♪お兄ちゃんもイケメン揃えてよね♪じゃあまたあとでね~♪♪』




まみちゃんは電話を切ると



『ってなわけだからよろしくね♪



明日また場所と時間は連絡するからね』



そう言うとあたしの頭をポンポンとなでながら



『じゃあね山ちゃん♪』




と女子トイレをあとにした




これが昨日の午後5時10分ごろの出来事になる





もうわけがわからない展開だ





しかし本当にわけのわからない展開になるのはそれから四時間後の話である…




それはまた次回のお話です(∋_∈)



どうなる

山川弘美!



どうした?



山川弘美!





まずは家に帰って素敵なプレイボーイのジャージを着てから考えよう…




あたしはフラフラした足取りで暖かいコタツの中を目指した



(続くのだ~)
(T_T)

No.8 08/12/03 20:18
モモンガ ( PZ9M )

こんにちわ🙇
人生3作目を楽しんでわくわくしているモモンガです




このお話は頭の中にめちゃくちゃ妄想が渦巻いていて楽しく書けるかな~




と楽しんでいましたが、実は大ニュースがありまして(ドキドキ)




先日書いたきらきらぼしですが



今さっき某出版社様よりお電話を頂きまして(こちらに先日色々問い合わせていたのですが)


『一度原稿に書いたらウチに送ってみませんか?』とお電話がありました




モモンガの人生でこんなことはなかなか起こるもんじゃありません





勿論


書いてみたけどだめだった~



も当然ありえますが…(というかその可能性の方がめちゃくちゃ高いですが)



やるだけやってみようかな…って思いまして最近遅筆になっておりましたがちょっと真面目に原稿用紙に向かうことにしました🙇





なので山川さんのお話は当分お休み致します🌱




書きはじめたばかりでなんなんですがすみません




また落ち着いたらこちらにも顔を出させて頂きます🌱



頑張ってきますね!🙆モモンガより

No.9 08/12/03 20:44
かん ( ♀ I5c6h )

>> 8 横レスすみません💦
モモンガさんはじめまして…
2作とも涙流し感動しながら拝見していました。
どの話も心にジ~ンと読んでいて情景がイメージ出来るとっても素敵な作品でした
小説化し出版出来たら、いいですね
その日を楽しみにしております
執筆活動応援しております
勿論このお話も楽しみにしております
いきなりお邪魔して失礼いたしました🙇🙇🙇

No.10 09/01/02 07:07
モモンガ ( PZ9M )

>> 9 かんさん🌱



長々とお返事お待たせしました💦



執筆は順調かつ遅筆です(笑)



かんさんはどのようなお正月をお過ごしですか?





私は看病正月真っ最中です🙇🇯




なかなか思うように執筆が進まず泣きながら書いてます💦




かんさんは風邪などひかず元気に楽しいお正月をお過ごし下さいね🇯





遅くなりましたが感想寄せていただき大変ありがとうございました🙆




ひろみちゃんの日常はしばらくお休みしますが必ず書きに来ますのでまたのぞきに来てくださいね🌱



お待ちしています🙇



それではよいお正月をお過ごし下さいませ🙆🇯



ももんがより🌱

No.11 09/01/04 12:34
モモンガ ( PZ9M )

今日はなんだかめちゃくちゃ疲れた



そして明日まみちゃんとイケメン三人衆とコンパなんて…




いっそ素っぴんにジャージで出勤したろか?



ああああ…
憂鬱すぎる


あたしは食べ残したミカンに顔を押し付けながらいつものコタツの位置で深いため息をついていた





横をちらりと見ると日々使い回している限られた洋服達が無造作につまれていた



『この中で何を着ていったらいいのかわからん…



無難にTシャツにGパンなの…?



結婚式の為に買った一張羅のピンクのワンピース?




それとも就職の時に着たベージュのス―ツ?




誰かあたしんとこにピーコさんを連れてきてよ…




辛口でもいいから教えてほしい。


ええいくそ~
まみちゃんめ~




なんてね
実はまみちゃんのせいじゃないことはちゃんとわかってるよ

あたしが優柔不断なだけ



知ってるさ

No.12 09/01/05 08:53
ホロロ ( ♀ ZJPKh )

はじめまして モモンガ様😊

横レス 失礼致します❗

昨日から 前2作品 続けて 涙しながら読ませて頂きました。

とても素敵なお話でしたね🎆

子育て中の私に 妊娠した日 出産し始めて娘を抱いた日 子供が入院した日 様々な事を思い出しながら 忘れかけていた 大事な想いを もう一度確認する きっかけを下さり ありがとうございます❤

今回の作品は また違ってた感じですね。

更新 楽しみにしてます。がんばって下さいね❗

No.13 09/01/06 00:19
モモンガ ( PZ9M )

>> 12 ホロロさん🌱


ありがとうございます🙇ももんがといいます




きらきらぼしとラブレタ―と読んでくださったとの事とても嬉しく拝見しました🙆




今回の作品は誰にでもおこりうる日常の心の中に起きる変化を楽しく描いていきたいと思いトライしてみました💦



ちなみに弘美の日常は想像もありますが 昔の私とダブらせた所もあり携帯を打つ手が思わず早くなる時があります😹





楽しく


でもときにはきゅんとくるようなお話になればいいと思っています🙇




ゆっくりな更新になると思いますがどうぞよろしくお願いします😺





ももんが🌱

No.14 09/01/06 00:32
モモンガ ( PZ9M )

でもさ

不細工で地味な女は長いものに巻かれて適当に笑って生きるか




派遣の品格のようなバリバリキャリアで一旗あげるか





どっちかしかないと思うんだよね




特にあたしみたいに可もなく不可もなく




中肉中背の普通の不細工は微妙に真ん中で…




髪の毛を染めることも巻くこともできない





そのくせ危機感もあんまりなく
『ま…いっかぁ』を繰り返し発している





そんなんだからだめなんだよね




あたしもガネ―シャ 見習って1980の靴でも磨こうかな…





『考えてたらお腹好いてきた…服部くんに会いに買い物でもいこうかな』




コタツの上にあった食べかけのミカンを口にいれるとそばにあったグレーのコ―トに財布を突っ込み外へと出た






外は夜の10時をまわっていた事もあり静かなものだった




築25念のボロいアパートにもウチと一階に一つしかもう明かりもついてなかった




お年夜は寝るのも早いなぁ…

No.15 09/01/19 10:51
モモンガ ( PZ9M )

夜道を歩いて五分くらいで広い通りに出る



いつも会社へ向かう道のりは悲しいかな体に染み付いていて歩く歩幅も一定に



同じスピードで歩いていた




回りには家族連れや腕を組むカップル



携帯をいじりながらiPodを聞くサラリーマンなど以外に人通りは多かった




いつも家に帰ったら めったな事では外に出ないあたしには結構新鮮な光景だ




ス―パーの看板が見えてきた




いつも会社が終わってそのまま直行してるから




今の時間に服部くんがいるかどうか…




あ、服部くんていうのはあたしのお楽しみアイテムでいつも1番レジにいるイケメン大学生なんだけど




風貌がレミオロメンなのにヨン様並の笑顔で親切に応対してくれるから



いつ行っても彼のレジには老いも若きもひしめき合っている



ディズニーランドで言えばプーさんのハニーハント並の人気だ





まぁ行ったことないあたしが言うのもなんだけどね(笑)



そうこう言っているうちに店内についた



この時間でも結構な人だなぁ…

No.16 09/01/19 18:08
モモンガ ( PZ9M )

あたしは自慢じゃないが料理は全然できない




故に


納豆やら卵焼きやら卵かけご飯位しかまともにできない




短大を卒業するまで料理上手な祖母と母



それに料理人の父と弟をもち



あたしは鍋どころかフライパンも持たない人生を送っていたからね




目が覚めれば朝食が
昼になったら昼食が

夜に戻れば夜食が




なんて素晴らしい実家時代…



『あ―あ

独り暮らしがしたいなんて言うんじゃなかったなぁ…』




手に握りしめたミカンを見つめながらあたしはため息をついていた




たしかに独り暮らしは気楽だ





すっぴんでパンツ一枚でも



風呂上がりにアイス食べてながらゴロゴロしても




誰も何も言わない





というか見向きもされなくなった

という方が正しいかな?




一通り店内を回りあたしは1番レジに並んだけど残念ながら服部王子はいなかった




『レジ袋はおつけしますか?』



少し小太りのおばさんが微笑んだ




『はい、お願いします…』



肩を落としながら袋に商品を詰め替えてあたしは足早に店を出た

No.17 09/01/19 19:04
モモンガ ( PZ9M )

店を出ると何やらヤンキー ちっくな集団が店の入り口でたむろしていた


最近のヤンキーは上下スエットにダウンジャケットなんだね…



てあたしも似たような格好じゃん




あああああああ…何か視線が痛い



やっぱりジャージの下位着がえてこれば良かったかなぁ?




遠まきにみたヤンキーなお兄ちゃんとお姉ちゃん達がやたら盛り上がっている




こんな時にそしらぬ顔で通り過ぎれない山川弘美…




大人なのにごめんね



あたしはくるりと振り替えると今来た道を戻り少し遠回りだが店の反対側の道から帰ることにした



これがあたしの今後の運命を左右することになろうとはこの時まだ知るよしもなかった…






ああ



弱気なあたしのバカ野郎~!!

No.18 09/01/20 04:47
モモンガ ( PZ9M )

しばらく通りを歩くとぽつりぽつりと街灯が見えてきた


さっきと違い今歩いている道は駅の裏手になるから人通りはまあまあだけど隣接するコンビニ以外はなんにもない



『夜に通るとなんかこわいな~早く帰ろう…』



さっきス―パーで買ったカフェオレを一口飲むと白い息がまわりに広がった




『ん~いいね~』




足早に歩いていると小さな公園が目についた




日頃公園に入るなんて事もないが入り口にちょうど街灯もあるしゆったりめのベンチもある



『飲む間、ちょっと休憩していこっかな』



買い物袋をばさっと置くとあたしはおもむろに腰をかけた




深いため息をつきながら上を見上げると小さな星がてんてんとしていて何だかちょっといい気持ちになってきた

No.19 09/01/20 05:35
モモンガ ( PZ9M )

『しかし今日は寒いなぁ…




帰ったらお風呂わかさなきゃなぁ…』




って別に明日のコンパに期待していて綺麗にするわけじゃないよ





いつもメリットなのにパンテ―ンにしたのも





ついでにトリ―トメントも買っちゃったのもあくまで気分転換だからね





ってあたし
やる気まんまんじゃないですか





一応あたしにだって返信願望はあるよ




なんてっても
腐っても女子だしね



だけど生まれついて我が家はみんなジャージ―ズ




渡る世間は鬼ばかりじゃないけど



実家は地元ではなかなか名の知れた中華料理店で朝から晩までお客さんは絶えない





小さいときから両親も祖父母も店に立っていてあたしと弟はできるだけの事を自分でしていた




料理は弟

掃除や洗濯はあたし


いつも小学生へ行くときにみんなは可愛いウサギやリボンのついたゴムにフリルのついたスカートをはいていたが




朝から母と祖母は仕込みに忙しくてあたしは髪をとかすと祖母の使っていた黒いゴムをさっと結びポニーテール以外の髪型はしなかった

No.20 09/01/20 05:47
モモンガ ( PZ9M )

しかも店が職場だからいつもみんな動きやすいようにジャージで過ごす




職場では白い上衣に着替えるけど




学校から帰ってもいつも私服はそんなもんだった





弟は部活でサッカーをしていた事もあり一年の大半はジャージ姿だし




あたしは母に
友達のお誕生日会やみんなで集まって買い物にいく日にも




けしてオシャレをしたいとは言えなかった




『弘美はこれでいいわね?』


いつもそう言って買ってきた新しい服はGパンにTシャツだった





親子揃って買い物にいく時間もなく



授業参観にも万年不参加の我が家で育ったあたしは




青春の大半をもったいなくも家事をもって制してしまった…



その間


オシャレや恋にはとんと無縁で興味もわかなかった





そんなこんなで19歳になったあたしはこのままじゃいけないと短大を出た後に店をついだ弟にすべてを託して




一念発起で独り暮らしをするために実家を出たのであった

No.21 09/01/20 06:01
モモンガ ( PZ9M )

しかし社会人デビューしたからといって生活が一変するわけもなかく…




あれから三年



あたしは22歳にもなっていまだ恋もオシャレも知らないままだ




雑誌をみたり
仕事帰りに美容院を覗いたりもしたけど



あんな雑誌から抜け出したみたいな人たちがいる世界にどうしても勇気が出せなくて踏み込めなかった






『かと言ってこのままもなぁ…』




あたしが深いため息をついて空を見上げるとさっきよりも強く星が光っていた





『さっ…帰ろうかな』




あたしは飲みかけのカフェオレをぐいっと飲み干すとベンチの脇にあったゴミ箱に缶を投げた





その時だった




『はっくしゅ―ん!』





公園の中から誰かが大きなくしゃみをした




(え?誰かいるの?)



あたしは姿勢はそのままで目だけを公園の中へと動かした





ぼんやり街灯が光る中



公園のベンチに誰かがうつ伏せて頭を下げている






(こわ~浮浪者かな…早く帰ろう)




そう思い荷物を持ちその場を立ち去ろうとすると



公園の中から誰かが立ち上がった

No.22 09/01/20 06:20
モモンガ ( PZ9M )

そのひと影はまっすぐとあたしに向かって歩いてきた




(こわい…どうしよう…走るか?走るか弘美?)



そう思いクルッと背中を向けるとあたしは走り出した




その瞬間



『待って!あの…ティッシュ持ってませんか?』




意外な声にあたしは立ち止まった





女の人だ




後ろを振り替えると鼻の頭を真っ赤にした茶髪の綺麗な女のひとが鼻をすすっていた





『ごめんね驚かせて…鼻が…とまらなくて…ティッシュ持ってないかな…』





あたしはコ―トに入っていたポケットティッシュを彼女に差し出した




『ち―ん!ち―ん!』




後ろを振り返りながら思い切り鼻をかんでいる




綺麗な人は何をやっても嫌みがないなぁ…




黙ってみていると女の人は照れくさそうに笑ってあたしにお礼を言った




『ありがとうね、助かっちゃった』


ティッシュを返そうとした彼女に



『いいですよ
差し上げます、それよりこんな所にいたら危ないですよ?』



そう言うと彼女は何回か頷き『ありがとうね、今…人を待ってて…そうだ、ちょっとだけ一緒に話しない?』




そう言うと彼女はさっきまであたしが座っていたベンチに腰をお

No.23 09/01/20 08:19
モモンガ ( PZ9M )

そういうと彼女はさっきまであたしが座っていたベンチに腰をおろした




『あの…あたし』



『まぁまぁ、たまにはこんな出会いもいいじゃない?』




そう言うと白いコ―トの右側から小分けされたチョコレートを取りだしあたしに差し出した





普通なら完全に走り去るシチュエーションなんだけどあたしはなぜかすんなりとチョコレートを受けとると隣に座った




隣に座った女の人は短い前髪に腰まである長い髪を前後に揺らせてチョコレートを楽しそうに剥いていた



横顔は上から照らされる白い街灯の光に浮かび上がって更に白く




そんなにアクセサリーはつけていないのに整った目鼻立ちが美しく女のあたしからみても相当な美人だ




芸能人で言ったら



そうだなぁ…
最近テレビでみた『飯田みゆう』に似てる




年は多分25位だけど最近お笑いやバラエティーに出てくるマルチタレントで女優さんもしている






あたしの隣にいる彼女はすっぴんに眼鏡をしているが完璧に化粧をしたらきっともっと綺麗になるんだろうな




そう思いながらチョコレートを食べていると彼女があたしを見てまじまじと言った

No.24 09/01/20 08:34
モモンガ ( PZ9M )

『あなたもったいない。磨けばすごく綺麗になるのに』




『…あの、新手の勧誘ですか?あたしお金とか全然ないですよ』




彼女は吹き出して大笑いした


『あっはっは…
そういうのじゃないのよ、あなたの将来性の話




あなた近い未来に株がかなり上がるから』




『株?トレード?あたし株なんてもってませんよ』



『違うわよ、あなた自身の評価の数値。

今はそうでもないけど直に上がるわ



仕事か恋愛かはわかんないけどね』





美人なお姉さんは頭のネジが少し緩い人なんだろうか…




あたしはちからなく笑うと聞いてみた




『あたしの将来性ってなんなんでしょうか…?あたし自分にそんなものがあるようにとても思えないんですけど…』




するとお姉さんは眼鏡をゆっくりはずしてこう切り出した




『あたしが一年前にいてもすっぴんにそばかすだらけで男友達もいない、万年80キロの眼鏡OLだったって言ったらあなた信じる?』





あたしは黙って首をふった




『でも実は本当なんだな、これが』



お姉さんは手元に外した眼鏡を指でなぞると嬉しそうに息をかけて吹いた

No.25 09/01/20 11:16
モモンガ ( PZ9M )

『あたしね、去年の今頃までただの頑張ってる普通のデブだったの





髪の毛も今のあなたとおんなじ真っ黒で



見た目はそんなんだし性格もはっきりしてなくて会社でもいつも地味な存在でね



自分でもこんなはずじゃなかったっていつも思ってた…




でもね




ある日を境に変わる努力をはじめたの




それまでの自分を一変するような発見があったわ





それからしばらくしてほどなく人生を変えるような奇跡が起きたのよ




信じられる?




たった一年で自分が変わるのよ




今まで25年間何も変わらなかったあたしの人生がたった一年間で全て変わったのよ?





生き方も
考え方も
物の見方もね』




そう言うとお姉さんはにっこり笑った




スゴイ


今あたしの目の前にいる色白スレンダー美人が




一年前まで体重80キロのすっぴんOL…



あたしはなめまわすように彼女の足の先から頭の上まで何度も見た




どう見たって体格はあたしと同じ位だし(勿論お姉さんの方が痩せてるけど)




身長だって少し高いくらいだと思う



あたしが160だからいいとこ165位かなぁ…

No.26 09/01/20 11:42
モモンガ ( PZ9M )

『あなた…変わりたいと思ったことない?』


『ありますよ。変われるものなら今すぐにでも変わりたいと思います…でも…』


『変わり方がわからない…どう頑張ったらいいのかわからない…違う?』


あたしは黙って頷いた


『努力するっていっても何から頑張ったらいいのかわからない時ってあるよね?そんな時はまずこれ かな、はいどうぞ』



お姉さんはあたしの手にさっき渡した眼鏡を差し出した




『これは…?』




『これはあたしが変わるきっかけになった魔法の眼鏡。あたしも一年前にあなたと同じように悩んでいるときにある人にもらったの。最初はうさんくさいなぁ~って思ったけどね、これも何かの縁だからあなたにあげる。私にはもう必要ないから』





お姉さんは立ち上がるとさっきのス―パーの方角から一台の車に手を降った




クラクションが短く響くと窓が空き、中からいかにもやりてって感じの美人さんが声をかけてきた




『飯田さんごめんなさい、遅れちゃった!押してるらしいから早く乗って!』



不思議なお姉さんは立ち上がると


『今の話は二人の秘密ね。あたし飯田みゆうっていう一応芸能人なんだ良かったら連絡して?』

No.27 09/01/22 16:32
モモンガ ( PZ9M )

そう言うとお姉さんはカバンの中から一枚の名刺を取り出した





『松竹梅タレント事務所所属




飯田美優(みゆう)』




あたしが驚いて顔をあげると





『今の話は二人の秘密ね』




軽くウインクをすると後部座席に滑り込んだ





あたしは呆然としながら発進する車を左手に見送るとその場にヘタヘタと座り込んだ





『…本物かよ



びっくりするからこういうのやめてよ~



しかも魔法の眼鏡ってありえないし』





あたしは右手に握りしめていた眼鏡を目の高さまで持ち上げるとまじまじと見つめた





透明のフレームに耳にかける部部にオシャレなデコレーションがついている



右側にピンクのバラと小さなラインスト―ン





左側に薄い紫のバラにラインスト―ン






普通にオシャレな眼鏡にしか見えない…




『魔法の眼鏡ねぇ…』





あたしはかけていた眼鏡をはずし




恐る恐るその眼鏡をかけてみることにした

No.28 09/01/22 16:44
モモンガ ( PZ9M )

『よしかけるぞ』




あたしは息をのみ魔法の眼鏡をかけてみた




恐る恐る目を開けるが視界になんら変化はない





意外に度はあっていて不自由はない程度だが





魔法だといわれるほど何も変化はない





『なんだよ~飯田さん~



ギャグはテレビだけにしてよ~




普通のOLをからかわないでよね~




あ~期待して損した』





そう言って眼鏡をはずそうとした時に右側のピンクのバラに手がかかった







『カチッ』





あれ?なんだ?ボタンなのこれ…





そう思いカチカチと押しているとス―パーの方から一人のサラリーマンが歩いてきた




なにげなく見ていると頭の上に何かがみえる



『何?』




あたしは眼鏡をはずして目をこすった





そしてもう一度眼鏡をかけ直した




するとサラリーマンの頭上に325という数字が見えた




『何だこれは…』




あたしは呟きながらサラリーマンをガン見していた




『325』という数字は動かずそのままサラリーマンの頭の上に乗っている




あたしは今まで自分が使っていた眼鏡に差し替えてみた





顔をあげるとサラリーマンだけしか映っていない…

No.29 09/01/22 17:00
モモンガ ( PZ9M )

あたしはもう一度魔法の眼鏡をかけてサラリーマンを見た




やっぱりサラリーマンの上には325が乗っている





『325ってなんなんだよ…




なんで数字が見えるの?』





ドキドキする胸を押さえながらあたしら今きた道を戻りもう一度人通りの多い道へと引き返した






大通りに出るとそこには唖然とする光景が広がっていた





道行く人の頭の上には様々な数字が浮かび上がっている




ある人は920


ある人は1059


ある人は125





そしてそれはよく見ると女にはなく男の人の頭の上にしかない




『わけがわからない…なんなんだこれは…』




しばらく人の往来を見ているとあるおじいさんの頭の数字が高速回転で上がり始めた





さっきまで2058だったのが今では2714になっている




よく見ると数字は上がったり下がったり




そのままだったり様々だ





するとおじいさんがかかってきた携帯に足を止めて話し出した




『もしもし…わしだ。…うん、うん!よしよくやった!上がったか。あ~そうか600万の小遣いアップだなぁ』




そう言って豪快に笑いながら歩き出した

No.30 09/01/22 17:15
モモンガ ( PZ9M )

あたしは頭の中で電卓を押した



2714…
2058…



差は656


おじいさんは600万の収入が入ったと話していた…





もしかして




もしかしてこれは…




頭の上に年収が乗っているんじゃ!?




もしくは財産!?




あたしは思わず口を押さえて後ろを振り返った




『えらいこっちゃあ…



ひとの財産がわかっちゃうなんて…




この眼鏡があれば貧乏と金持ち一目瞭然じゃん…』






あたしは紫のボタンをもう一度押してみた




すると頭の数字は消え



普通の日常風景に変わった




これが魔法の眼鏡の威力なのか…




『えらいもんもらってまったなぁ…』




そういって眼鏡を触るともう一つのピンクのバラに手がかかった




『…これを押すと何が見えるの?』



息をのみもう一度ボタンに手をかけたが



怖くなり手を引っ込めた





『いかん…





これ以上ファンタジーが起きると頭がおかしくなる…





今日はもう帰ろう…』




既にヤンキーのいなくなったス―パーを横切りフラフラした足取りでこたつの待っアパートへと向かった





今日はもう早めに寝よう




はずした魔法の眼鏡をポケットに入れるとあたしは静かに目を閉じたのだった

No.31 09/01/22 17:30
モモンガ ( PZ9M )

みなさまへ🙇💦



すいません



誤字脱字が多くあり読みにくいと思いますがどうぞお許し下さい💦




そして前ページに

『もう一つのピンクのバラにてがかかった』



とありますが


最初に押したのがピンクのバラなので



次に押すのは紫のボタンです🙇💦




書き直そうと思いましたが削除して書き直すとこのスレが消えてしまうかもしれませんから気をつけて下さいねと





前に教えてくださった方がみえたので




今回はこちらにて訂正させてください🙇




申し訳ありませんでした💦





そして


明日から右手を手術しますので当分携帯にはさわれなくなります💦




しばらくこちらはお休み致しますが




またよろしかったらぜひ覗いて下さいね🙆





長文失礼致しました🙇🌱




ももんがより🌱

No.32 09/01/22 22:29
なみえ ( 40代 ♀ ISXe )

>> 31 久しぶりに除くとモモンガさんの新作が…。一気に読ませていただきましたと同時に手術とは…😨 いったいどうされたの⁉ どうか、お大事にしてくださいね🙏 頑張って💪💪💪

No.33 09/01/23 03:08
モモンガ ( PZ9M )

>> 32 なみえさんへ🌱



またまたお会いできて嬉しい限りです🙇




手にガングリオンができまして




大きさや位置からとった方がいいだろうという事になりました💦




多分二センチか三センチ位だけ切ると思いますが😿




今から怖くてドキドキしています💦




山川さんのお話は前作とかなりテンポが違いますが




これから弘美の目を見張る『変革』が始まります




どうぞお楽しみになさっていて下さいね🌱





ちなみに近いうちに弘美は恋をする予定です✊




どんな相手にしようかなぁ🙆





いけない…



妄想だらけになってしまいます💦



ではでは




また遊びにきて下さいね😺

お待ちしています✊



🌱ももんがより🙇

No.34 09/01/23 09:23
かん ( ♀ I5c6h )

モモンガさん
おはようございます😊
また来てしまいました💦
今日は手術との事
何も出来ない私ですが手術が成功するように祈っています🙏
更新は回復してからでいいのでゆっくり療養してくださいね🎵
頑張って‼モモンガさん

No.35 09/01/23 12:52
モモンガ ( PZ9M )

かんさん🌱



お久しぶりです🙇





今リアルに病院の待合室です😿





あと10分で手術にはいります✊




めちゃくちゃ不安ですががんばります~




励ましのメールありがとうございました🙇🌱







ももんがより🌱

No.36 09/01/27 09:31
モモンガ ( PZ9M )

翌朝いつもより早く目が覚めたあたしはいつも通りに着替え出社の準備をした






どんなに考えたってあたしに変わる要素も変わろうという強い意思もない





一日の付け焼き刃でどんなにオシャレをしたところであたしはまみちゃんにや飯田さんみたいに輝けるわけはないのだ






あたしは一番無難なグレーのアンサンブルにGパンを 合わせて入社の時に買った黒いヒ―ルを履いた




笑われるかもしれないがこれがあたしなりの精一杯なんだからしょうがない





その上からまたまたグレーのコ―トを羽織り家を出た





『さっむ~!』


あたしは両手をポケットに入れて駅までの道をいそいだ




ポケットには魔法の眼鏡が入っていたけど使うときもないだろうと思っていた




だって人の財産なんか見たって喜ぶのはセレブ婚目指してるOLか詐欺師くらいなもんでしょ?






別に見たからってあたしのお金になるわけじゃないしさ

No.37 09/01/27 09:47
モモンガ ( PZ9M )

そんな事を考えているうちに駅についた




相変わらず凄い人だ

あたしは押し込まれるように電車の中へと入った






毎朝思うけどあたしと同じ時間に駅に着くOLさんっていつも何時に起きるんだろう…




滑らかな肌に
プルプルの唇
頬には薄いピンク




髪の毛もふわふわのクルクル…




近寄ると気持ちいい臭いもする




ちゃんと朝ごはんとかたべてんのかなぁって位に細いし




何よりオシャレだ





こん位に可愛かったらさぞかし今夜のコンパでも盛り上がるだろうになぁ…





ああ…帰りたくなってきた




あたしは電車の広告の脇についているエチケットミラーを横目で見ながらため息をついた




化粧もうすい
薬用リップしか塗ってない唇
頬は寒くて赤いだけ

髪の毛は真っ黒でいつもの1つ縛り



洋服はいつもグレーか黒かベージュ…




毎日が同じことの繰り返し




それでも何も変わらない自分




変わる勇気も方法もわからない…




片手が電車のゆれでポケットの眼鏡に触れた




『本当にこれで何かが変わるのかな…』





あたしは再び鏡を見た

No.38 09/01/27 09:59
モモンガ ( PZ9M )

こんな不細工が笑う日がいつかくるのかな…




睨むように鏡を見ていると後ろから聞き覚えのある声がした




『おはよう、歯にノリでもついてるの?』



顔を声の方に向けると河村さんがク―ルな眼差しであたしの方を見ていた





『あ、おはようございます。朝から会うなんて珍しいですね、河村さんもこっちの方だったんですね』



河村さんは黙ってうなずいた



河村さんは身長が170センチはあろうかという長身でサラッとした艶のある髪が耳の辺りまでかかっている






肌はしっとりしていて化粧も薄づきだが顔の作りが美人仕様なのでそれだけでもういい感じの人だ





襟をたてた白いコ―トしか見えないがエレガンスなタイプだ



『あの…河村さんて今日の飲み会に行くんですよね。あたしも誘われてまして…あの、よろしくお願いします』




『聞いたわ、あなたが来るなんてちょっと意外な感じよね。私も半ば無理やりって所だけど』



そう言うと河村さんは髪を耳にかけ直し少し微笑んだ

No.39 09/01/27 10:39
モモンガ ( PZ9M )

会社までは乗り換えなしの4駅




しばし河村さんと仕事の話をして電車は駅に到着した





『さて、今日もがんばらなくちゃね。あたしはこのまま外回りだからまたあとでね。夜に会いましょう』



電車から降りると河村さんは手を小さく降り足早に階段を降りて行った




白い膝丈位のコ―トにベージュのパンツス―ツ




襟元には淡いグリーンのマフラーがかけられていて重たさは感じられなかった




『格好いいなぁ…仕事してますって感じだよね~




良かったぁス―ツ来てこなくて…


かぶってたら致命的だったよね』




あたしは小さく手を降り返しながら会社への道へと進んだ






あたしが勤める会社は大手の三橋電気の子会社で社員若干100名程の規模である





自社ビルではなくいろんな企業が集まっている50階建ての商業ビルの13階





そこにあたしたちのフロアーがある



受け付けに挨拶をしてガ―ドマンに一礼をする




三機あるエレベーターの1つに乗り込み外側に体を向けると景色がみるみる小さくなっていく




いつも通りの順番でエレベーターが止まっていく

No.40 09/01/27 13:24
モモンガ ( PZ9M )

『13階でございます』





エレベーターのガイダンスが流れ何人かがあたしと一緒に降りたった




降りてすぐに社名が壁に飾られていて進むと二人の受け付け嬢がにこやかに座っている





ちなみにまみちゃんはここの担当





そして更に奥に進むとガラス張りのフロアが見えるここがあたし達の仕事場だ






ドアをあけるとそこはいくつかの部署に分けられている





広報課
営業一課
営業二課
(ちなみに河村さんは一課)
秘書課
(さっきの受け付けね)
残るはあたしのいる事務局




以上




ちなみに事務局は一番奥の窓際に位置する





手前側は出入りの激しい営業席と商談スペースになっている




中央は左手に秘書課
右手に広報課





奥に参りまして左手は会議室


右手に事務局




それぞれの課にコ―ヒ―メ―カ―と紙コップがあり自由にお茶休憩もトイレも行けるのでうちにはいわゆる給水室はない



わりと移動も自由であたしは仕事に関しては何の不満もいまの所ない




あとお気づきかと思うがうちの会社に社長室はない



社長は毎日好きな場所に座り仕事をする

No.41 09/01/27 13:39
モモンガ ( PZ9M )

確か前にテレビで見たけど世界のユニクロの本社もそうなんだってね





規模はまったく違うけど社長室がないというのはとてもいいよね





社員に緊張感も出るし社長も新鮮なんだろうね




ちなみに今日は営業二課に座ってた




みんな頑張ってね~



心の中でガッツポ―ズを取るといつもの自分の席へと腰をかけた




『福島さんおはようございます』



『山川さん今日はまた一段と早いね~』




コ―ヒ―をすすりながら細い目を更に細くして笑っている




これが我が事務局のキャップで福島敏夫(推定50才後半)




いつも消して怒らず穏やかかつ迅速、的確であたしは密かに尊敬している




うちの会社の隠れキ―マンだ




福島さんは社長にも『福様』と呼ばれ一目置かれている人だ




見た目は蛭子さんだけどね




机に乗っていた書類に目を通しながらあたしは軽く笑い




『眠れなくって早くきちゃいましたよ』



そう答えた




福島さんは相変わらずニコニコしながらパソコンを打ち込んでいる





ちなみに事務局は全部で8人





そのうち二班に別れている

No.42 09/01/27 19:01
モモンガ ( PZ9M )

あたしのいる班が二班でもう1つのグループが一班




うちにはあたしと福島さん




それと…





『おはよう…ございます…』




『おはよう~早川ちゃん、今日も声にパワーがないねぇ…



一番若いんだから元気だしてね』



福島さんが目が細めて笑った




『あ…はい…すいません…気をつけます…』



あたしの前に福島さん



横には早川りかが座る





早川りかは今年の新入社員





短大卒の20才




見た目はフワフワしてて可愛いのだが天然というか



気が小さいというか…



いつも口の中でむにゃむにゃ言っているタイプ




けしてブリブリではないがたまにイラッとしてしまう



ちなみに珠算、暗算、パソコン、漢検、英会話、速記、電卓全て一級




動作は鈍いができる女である




そして最後は…




『みなさんおはようございます』




慌ただしく席につくといきなりチオビタドリンクを飲み干した





机に置いたカバンからは娘さんが作ったのだろう



可愛い花柄の鶴が飛び出していた




あたしの右斜め前に座ったのが小川春美

二女の母でありシングルマザ―である

No.43 09/01/27 19:36
モモンガ ( PZ9M )

『おはようございます、小川さん朝からチオビタですか?



お疲れ様です』


あたしが言うと小川さんはフ―ッと言いながらビンを机に置き





『ちょっとやな事があってね



あんまりムカつくから一駅分走ってきちゃったよ』





額に滲む汗を片手で一払いすると豪快に笑い伝票をまとめだした





小川さんは小学生の双子のママさんでお子さんが幼稚園に通ううちからうちにいるらしい






シングルで働くママは少なくないが働きながらしかも双子を育てるのは並大抵の事じゃないと思う





小川さんは時間五分前には机に滑り込み定時五分後には机に姿はない




まさに風のようにやってきて風のように去る




しかし仕事は正確で時間に厳しい人なのでみんな何も言ったりしない





子供さんに何か起きて仕事を休んだとしてもその次の日は二倍速で仕事をする人だ





そう考えるとうちの班ってあたし意外はみんな出きるんだなぁ~




あたしももう少しがんばんなきゃね~





クリックする手がいつもより早い音を出している




あたし達の仕事は主に伝票の仕訳作業に備品の発注、雑用関連に電話応対だ




一年365日ほぼ毎日同じ仕事を淡々とこなしている

No.44 09/01/31 04:30
モモンガ ( PZ9M )

あたしは机の上に積まれた伝票を一枚一枚入力しながらコーヒーを一口飲み隣をチラッとみた




気が小さく声も小さい資格マニアの彼女だがやはり肩にするりと落ちるツヤツヤの巻き髪に今時の可愛いファッションが似合っている



体も華奢だし指先もきれいだなぁ…




あ、ちなみにうちには制服はない




会社名と部署、名前と出入りに使う身分証明が入ったカードを首からぶら下げているだけだ




秘書課の受付二人だけは白いジャケットにバッチをはめているがそれ以外は一律で特に規定はない





『あの…なにか…?』



あたしがはっとすると不安そうに早川さんが顔を覗いていた





『ああ、何でもないよ、ちょこっとボーっとしちゃった。ごめんね』





あたしは姿勢をただし机に向かい直した




いかん、まわりに敏感になりすぎだ




集中しなくちゃね




すると画面の受信トレイに一通メールが届いているのに気がついた






社内報かな?





クリックすると全面丸文字で入力されたまちゃんからの連絡 メールだった

No.45 09/01/31 04:37
モモンガ ( PZ9M )

やまちゃんへ♪


(^_^)vいえい!まみだよん~



お元気!?



今日はひとつ宜しくね( ^_^)人(^_^ )




イケメンズ用意万端だよん♪




時間はちょこっと遅くて8時に『味彩』に集合ね♪



まみは終わったらエステ言って髪とネイルしてから行くし河村ちゃんも営業先から直接来るって~





やまちゃん場所わかるよね?





じゃあ8時に現地集合で(≧ω≦)b

楽しみ~♪
じゃあねぇ♪




まみより♪

No.46 09/01/31 04:51
モモンガ ( PZ9M )

まて




あたしは行くなんて一言も言ってないぞ…




ってまぁ


行くんだけどね…



あっそうですか…




エステにネイル




うらやましいねぇ




あたしには未知の世界だわ





集合場所はいつも会社で飲み食いしているお馴染みの和食処か





とりあえず安心した~


こじゃれたフランスやらイタリアやらの店ならどうしようもなかったなぁ




なんせ中華しか馴染みがないもんね



その日は気分が落ち着かず何回も席を立ったり座ったりしながら過ごした






気がつくと針は五時を少し回っていて小川さんの姿はもう既になかった






『山川ちゃんお疲れ~今日は用事があるんでこれにて上がりますね~』




目を細めて福島さんが立ち上がり帰り支度をしていた



『あ…お疲れ様です』




あたしは最後の伝票を入力してホチキスで書類を止めた





隣の早川さんもそわそわしながら身なりを整えている




今日は金曜日という事もありいつもよりみんな帰り支度が早い





飲み会やコンパ
習い事に接待…



色んな予定があるんだろうな…

No.47 09/01/31 05:08
モモンガ ( PZ9M )

パソコンの電源を消した後



椅子にかけてあったコートに袖を通してフロアを見回した



既にまみちゃんの姿もなくいつもより人の姿もまばらに感じた





おそるべき花金





金曜日って人の気持ちをはやらせるよね





次の日が休みだという解放感…かな




仕事も終わったしとりあえず外にでも行こうかな…





あたしはあてもなく会社の近くをブラブラすることにした



駅の周りはビルが多く建ち並んでいるが少し路地を入れば路面に面して服屋さんや雑貨屋なんかもあるので見ていて飽きない





あたしは最近できた小さな美容室の前を通りかかった



あんまり気にしてなかったがよく見ると店内は木の柱に白や緑の壁、ガラスやビー玉などがアクセントになり光に当たってすごく綺麗だった




店の中は閑散としていて店内では店長らしき男の人が丁寧に鏡を拭いているようだった

No.48 09/02/02 04:03
モモンガ ( PZ9M )

こんな所で髪とか切ったらあたしも少しは変わったりするのかな…





というか




男の人に髪なんか触られたら失神するかもね




あたしは1人半笑いになりながらその場を後にしようとした



すると不意に誰かが腕をひっぱった





振り向くとそこにはクリンクリンのくせ毛の金髪に目鼻立ちのしっかりとした絶対あたしより年下だろう男の子が息を切らせながら立っていた





『あの…




あの…すいません



お姉さんお願いがあるんだけど…』




エステの勧誘か
先祖の供養か
外国の絵画か
それとも宝石か




どちらにしてもあんまりうれしくない誘いに違いない




『あ…すいません



あたし急いでるんで』



そういうとあたしは金髪くんの手をそっと払い会釈をして前を向いた





しかし金髪くんは引かなかった




というか泣きそうな声で懇願してきた




『お願いします!



俺に髪の毛切らせて下さい!




カラーもカットも無料です!
お願いします!』




あまりの大声に周りの人たちが一様に振り返った



あたしは慌てるように振り返り頭を下げている彼に頭をあげるように促した

No.49 09/02/02 04:16
モモンガ ( PZ9M )

『あの



頭上げて下さい


みんな見てるし…
困ります』




『俺、まだ新人で店でシャンプーしかしたことないんですけど



今カットモデルを探してて…



なかなかみんな初心者の俺にはまかせられないみたいで切らせてくんないんですよ…






朝から声かけてんですけど




何がいけないんだろう…』



金髪くんはクリクリの頭をかきながら口を少し尖らせてすねて見せた






明らかに見た目18か19の金髪頭の男の子に『髪の毛切らせて下さい』ってオフィス街で言われてもなかなか道行くOLは切らせてはくれないだろうなぁ





あたしは顔をあげてまじまじと金髪くんの顔を見た





身長は170位かな


身長の割には肩周りががっしりしている



白い長袖にアーガイルのベストを着て形の良い穴の空いたイマドキのGパンをはいている




オシャレな子だ




あたしは時計をちらっと見た




今は5時と少し回った所





髪を切るくらいの余裕はある





しかしその度胸はなく微妙だ





でもこん高校生みたいな子ならそんなにドキドキもしないかな…

No.50 09/02/02 04:28
モモンガ ( PZ9M )

あたしはあんまり困った顔をしている金髪くんが実家の弟とダブってみえて少し笑った




『笑わないでくださいよ~』




困ったように金髪くんも笑う







『…いいですよ



あたしで良かったらどうぞ



髪も長いし切りがいがありますよ多分』




そう言うと
『よっしゃああ』と小さくガッツポーズをしてあたしの手を取りその場を回り始めた



『お姉さん!ありがとう!!





お礼に絶対絶対!
綺麗にしますからね!!』




そう言うとさっき見ていたガラス張りの美容院に向かい





大きく両手で丸を作りその場で跳ねてみせた





鏡を拭いていた店長らしき人が片手を上げて手をふっている





どうやらこの店の従業員みたいだ





『ちょうどこの店なんですよ、どうぞこっちきて下さい』






ご褒美がもらえたワンコみたいに金髪くんはあたしの二歩前を軽快に歩いていた



単純というか
可愛らしいというか…






あたしのまわりにはあんまりいない気持ちが顔にはっきりとでるタイプの子だった

No.51 09/02/02 04:37
モモンガ ( PZ9M )

金髪くんが木製のドアの前に立つとにっこり笑ってドアを開けてくれた




『いらっしゃいませ~』





ドアの部分には磨りガラスに文字が刻んであった




『リトルルーム』





変わった名前だな





そう思いながら店内に入ると




新築ならではの木の優しい香りに加えアロマだろうか…




ゆったりとした甘い香りが部屋中に流れていた






店の中にはいろんなガラス製品が所処に飾られていて



透明感のあるすっきりとした印象だ



『お姉さん



こちらに必要事項だけお願いします』



あたしはメンバーズカードに名前や住所などを書き込んでいった




その間金髪くんは最新のヘアカタログをめくり




何度もあたしの方を見ては頷いている

No.52 09/02/02 04:50
モモンガ ( PZ9M )

あれ




そういえばさっきのもう1人のお兄さんは…




姿が見えないな





トイレでも行ったのかな?





キョロキョロしながら周りを見回した





『ありがとうございます!




えっと…弘美さん



ヒロさん!



ヒロさんて呼んでもいいですか?





俺はケンジ!





川井ケンジっていいます!



今日は宜しくお願いします!』





あたしは頑張って笑うと手荷物をケンジくんに預けて側にあった大きな木の椅子に腰をかけた





『えーっと…




まずは髪の毛を下ろしますね』






丁寧にゴムをはずすと手際よく髪をつかみゆっくりとときはじめた




『弘美さんさー




最近結構縛ってばかりじゃないです?





毛先も少し痛んでるし…






思いきってアゴの辺りまで切りませんか?』




ケンジくんがゆっくり顔を近づけてきた





自慢じゃないが山川弘美




この年になるまで肩より短くした事も




髪を染めたこともありません





しかもアゴの辺りまで!




悪いけどいくらなんでもそりゃあ無理な相談だよ

No.53 09/02/02 05:06
モモンガ ( PZ9M )

『あたし短いのはちょっと勇気が…』




前に置かれた鏡を見ながら話していると




鏡の向こうからにっこり笑いながらさっきみた男の人が両手にグラスを持って近づいてきた






『いらっしゃいませ




ようこそルームへ』




そう言って彼は穏やかな笑顔であたしに暖かい紅茶を差し出してきた





『暖まりますよ』





端正な顔立ちに茶色の眼鏡をかけていて



青と白のストライプ のシャツに明るいブルーのGパンが実によく似合う






年の頃はおそらく30代前半



両手に指輪らしきものはない






合格






さっき路面からみてた時も思ったが





このお兄さん



かなりあたしのツボに当たってる





見た目はね






あたしはもらった紅茶を息をかけながら飲むと彼に聞いてみた




『今よりあたしが似合う髪型ってあると思いますか…?』






彼は横から前に回り少し髪を持ち上げてみせた




何度か繰り返すうちに





『ケンジが言うみたいに短いのはどうですか?





僕も短い方が可愛くなる気がしますね』

No.54 09/02/02 05:25
モモンガ ( PZ9M )

ケンジくんと店長(らしき人)は雑誌をパラパラめくると何回か話し合い






全体的き優しい印象のあごにかかるくらいの緩いパーマヘアを進めてきた





しかも茶色





染めるんかい!



こんなん可愛いいほっそい子がやるから 似合うんだよー






黒ぶち眼鏡のOLにはどうせ似合わないよ…







あたしが二の足を踏んでなかなか髪を切るのにとまどっているとケンジくんが言った




『ヒロさん




ヒロさんさぁ
本当の自分知らないでしょ?





眼鏡外して
髪明るくして
長さを変えてみなよ






新しいヒロさん



きっと今よりいい顔で笑わせる自信あるよ、俺!』








となりでそのようすを見ていた店長も黙って頷いている





あたしを可愛くす自信…





どこからそんなものがくるかはわからないけれどそれが本当ならぜひあたしもこの目でみて見たいのだ







『ヒロさん




切ってもいいかな?任せてもらえる?』

No.55 09/02/03 11:00
モモンガ ( PZ9M )

『今まで髪型変えたり…短くした事ないんですよね。本当に大丈夫かな…時間も8時までしかないんだけど…』



『約二時間半ってとこだよね…大丈夫!ちゃんと可愛く仕上げますから安心して!』




二人は笑って鏡越しにあたしにブイサインをしてみせた




意外




こういうとこに勤めている人達ってもっと冷めているっていうか…





もっとあたしみたいな地味な人間にはたいして興味ないかと思ってたけど何だかフレンドリーだ…






カットモデルなんて勿論、いままで髪を切るなんて駅前の安っすい『大人2000円』みたいな散髪屋さんしか経験がないから






まさかこんなオシャレな店で髪を切ってみてもらえるなんて思いもしなかった






まるで…




まるでお姫様みたいだね






深めの椅子に腰かけているあたしに一人は髪を丁寧にとかし、もう一人はカラーの用意をしている





あたしはドキドキする胸を押さえながら鏡の中の自分をじっと見ていた

No.56 09/02/03 11:13
モモンガ ( PZ9M )

『ヒロさん



眼鏡はずしてみてくれます?』



ケンジくんが聞いてきた




『どうせなら出来上がりにびっくりした方が面白いでしょ?』





白い歯を見せて可愛らしく笑う顔はやはり弟にどこかにている





あたしはうなずいてお馴染みの黒ぶち眼鏡を外した




『じゃあお預かりしますね




首にケ―プかけますからね、そのままじっとしてて下さいね




カットした後にカラーをして部分的に緩くパ―マしますんで宜しくお願いします!』





まったく視界の見えないな状況であたしは返事をした





鏡に映る自分がボンヤリとしているのがやっとの状況





次に眼鏡をかけるとあたしはどんな風になっているんだろうか





『じゃあ切りますよ』





肩におろした髪がためらいもなくザクザクと切られていく






なんとも凄い


首もとがだんだん涼しくなっていく




何だかくすぐったい…






店内には楽器だけのゆっくりしたメロディが流れ




相変わらず甘いアロマの香りが漂っていた

No.57 09/02/03 11:24
モモンガ ( PZ9M )

あたしはボンヤリ映る自分を見ながらリズムよく動くハサミの音を聞いていた






あかん





昨日あんまり眠れなかったせいか





それとも髪をさわられて心地いいからか





だんだん瞼が下がって力が抜けてきてしまった





『眠かったら寝ていいですよ




髪を洗うときに起こしますから』





隣から店長の声が聞こえる




あたしは頷くようにゆっくりと眠りについてしまった







なんだかとてもいい気持ち…






あったかい…







あたしはウカツにも 初対面の




しかも男二人の前でしっかりと眠ってしまった





緊張はしていたが眠気にはかなわなかったようで




しばらくして肩をゆすられて目が覚めた




『お―いヒロさん~




洗うから起きてよ~』





びっくりして前のめりになっていた体を椅子の背もたれまで起こすと頭に何か巻き付けられてベタベタしていた




『おはようございます、お疲れ様です』



後ろから髪をさわりながら店長の声がした

No.58 09/02/03 11:37
モモンガ ( PZ9M )

『すいませんすっかり寝ちゃってて…




はずかしいなぁ…』




『ん?そんなことないですよ、髪を触ってると結構寝る方多いんです。大丈夫ですよ』




椅子の向きを変えながら店長が笑って言った





体の向きを反対にして椅子を倒されると髪を流し始めた







これまた顔にタオルはかけられるもののかなり恥ずかしい





いつも小太りのおじさんに洗われてもなんとも思わないがやっぱりイケメンに洗われると照れくさいもんだなぁ




『かゆい所はありませんか?』





あったってあなたには言えませんよ





ねぇ?
世の中の女子はみんなこう思うんじゃないかなぁ






『あ、大丈夫です』



流されながら足元でケンジくんの声がした




『ヒロさん鏡みたらびっくりしてびっくり返らないでよ~』



『凄く変わりましたよ』





続けて店長が言う




タオルで頭をふかれながら首筋に水が流れ込む





うわ~



短い






頭がめちゃくちゃ軽い





あたしは今どうなってしまっているのだろう

No.59 09/02/03 11:52
モモンガ ( PZ9M )

再び椅子の向きを変えられて





ぼんやりと何かが映る鏡が見えた





さっぱりわからん




あたしが興味津々に鏡に近づこうとするとあたしの肩を誰かが戻した





『ずるはだめですよヒロさん!




乾かすから体まっすぐしてくださいね』





ケンジくんがドライヤーで頭を乾かし始めた





『ヒロさんねぇ、俺めちゃくちゃ感動かも





女の子ってやっぱりすげぇな~





和田アキコのビフォアアフターに出れますよマジで』





ビューティーコロシアムの事か?





あんな劇的に変わっているのか?





胸が何だかドキドキして変な汗が出てきた




『山川様




パ―マですが…良かったら日を改めませんか




お時間は少しありそうですがカラーと続けると負担になりますし





少し落ち着かせてからまた来ていただいた方がいいと思いまして




いかがでしょうか?』





『あ、わかりました。じゃあ今日はここまでにします』




店長に答えるとケンジくんが叫んだ





『できた!



出来上がりです!店長どうですか?』

No.60 09/02/03 12:45
モモンガ ( PZ9M )

『お~!いいねいいね!




色も綺麗に入ってるし長さも丁度いいな




この仕上がりなら早速明日からカットも担当してもらえるな』




『まじですか!?


本当に?やったぁ―ヒロさんのお陰だよ




あとはヒロさんが気に入ってくれたら万々歳ってとこだよね』





そう言ってケンジくんはあたしの右手に眼鏡を乗せた





『はい、どうぞ。ご覧下さい』





心臓が爆発しそうな位ドキドキしている





あたしは深呼吸をして眼鏡を広げた






ゆっくりと耳にフレームをかけるとおそるおそる顔を上げた







そこには見たこともない





別人のあたしがキョトンとした表情でこちらを見ていた






短く切られた髪はくしゃっとボリュームを出されアゴのラインに綺麗に収まっている






前髪はスパンとまっすぐだったのが少し短く切られ斜めに向いている




凄い




可愛くなっている…




黒髪貞子が




平山あやになってる




まさにそんな感じ…




ぽかんとしているあたしに



『ヒロさん口開けすぎ』




ケンジくんが笑って言った




『すごく可愛くなりましたね



似合ってますよ』




店長が隣で満足そうに微笑んだ

No.61 09/02/03 17:09
モモンガ ( PZ9M )

開いた口がふさがらない





意味は違うがあまりに違いすぎて口元が閉まらない




『…ヒロさん?』
『山川様?』



二人が同時に口を開いた




あたしは恥ずかしくって服で顔をこすった





不覚にも嬉しくて涙が出てしまった






自分でもびっくりした






最近泣いたことなんかなかったからかなぁ…





なかなか止まらない涙にケンジくんがオロオロしだした





『ヒロさん大丈夫?気に入らなかった?




短すぎたかなぁ…
ごめんね




どうしたらいいかな…


ヒロさん?顔あげて?』





あたしは首をブンブン降りながら気持ちを落ち着かせようと必死に深呼吸をした





『違うんです…




あの
あんまり可愛かったからびっくりして…




あたしこんな風になれるなんて夢にも思わなかったから…




あの
泣いたりしてすいません』




あたしは鏡越しに二人に深々と頭を下げた




美容院で泣くなんてうっとおしい客だと思われてんだろうなぁ…





穴があったら入りたい

No.62 09/02/03 18:01
モモンガ ( PZ9M )

少しして店長が口を開いた




『山川様…女の子っていうのはいつでも変われるんですよ





前髪を少し切ったり



いつもと違う服を着たり




お化粧をしたりとかね





いつだって違う自分になれるんです





もしなりたいのになれなくて不安だったり困ったりしたならいつでもここに来てください






僕たちはそのために この店にいるんですから…





この『リトルル―ム』って店の名前は






そんな自分を変えたいと思う女の子達のもうひとつの居場所でありたい





そんな想いを込めて作ったんですよ』





店長の優しい声が店の音楽に乗ってあたしの心なかにじんわり染み込んだ





『そうですよヒロさん!俺も店長もいつもいますからいつでも遊びに来てください!!女の子を綺麗に可愛くするのが俺らの仕事っすから』





ケンジくんも笑っていた





なんだかここは居心地がいい…





あたしは息をゆっくりはきながら小さく頷いた

No.63 09/02/03 18:18
モモンガ ( PZ9M )

それからしばらく話をして次回のパ―マの予約をしてあたしは席を立った






レジの奥にある扉からケンジくんがコ―トとカバンを取り出してきた






立ち上がったあたしは新しく変わってあか抜けた髪型とは不釣り合いなグレーや黒ばかりの地味な服に少しビックリした




鏡をまじまじと見ているとケンジくんが鏡を覗いてきた



『どうしたんですか?』




『あっ




うん…こんな可愛くしてもらうと何て言うか…






服がついていかないなぁと思って…』




『そうっすねぇ…




髪も明るくなったし



ヒロさんスタイルがいいんだからもったいないよなぁ…




店長どう思います?』





『そうですね



せっかく髪も軽くなったし




どうせなら服もイメージチェンジしたらもっと可愛くなるかもしれませんね




山川様これから少し時間ありますか?





もしよかったら隣に友達のやっている服屋があるんですが少し覗いてみませんか?』

No.64 09/02/04 02:56
モモンガ ( PZ9M )

『あっ



友達っていってもオシャレなおばあさんでね



趣味で集めた海外の小物やお洋服が素敵なんです





色も素敵だし山川様なら似合いそうな気がしますよ』




『いや…そんな~



あたしセンスないしいつも地味な色しか持ってないんですよ




ちょっと自信ないかも…』





あたしは苦笑いをしながら両手を激しくふってみせた






店長は腕時計に目を落とすとおもむろにレジの奥に入り中からベージュのジャケットをはおった





カッコいいイケメンが更にかっこよくなった





あたしがボケッとしていると店長が小さく手招きしながら店のドアを開けた





『山川様行きましょうか?




デートしましょう』




もし人間の感情に音がついているならばあたしはその瞬間大爆発していただろう




デート…





なんて甘美な響き…




山川弘美




自慢じゃありませんが生きてきてこの方デートなんかした事なぞありません

No.65 09/02/04 03:07
モモンガ ( PZ9M )

デートどころか恋もまだな素人です




男の隣で歩いたことなんて家族か仕事でかどちらかで…






こんなイケメンと歩いたら窒息してしまうかもしれません





ああ神様~





もうやめて~





『ヒロさん?どうしたの?





俺が留守番してるから店長に選んでもらいなよ




変える前に俺にも見せてね』




ケンジくんが背中をグイグイ押して入り口まであたしを追いやった





『さ、行きましょうか?




ケンジすまないがすぐ戻るからちょっと頼むな




何かあれば隣にいるから呼んでくれたらいいよ』




ケンジくんは頷くと笑って手のひらをヒラヒラさせていた





あたしはもじもじとしながら店長の横を通りすぎた





振り向くとにっこりしながら店長が歩きだしている






本当に?







本当にあたしこの人と買い物すんの?






途中で絶対鼻血でるかも…





『山川様




はやくはやく 』




お隣の入り口で手招きする店長は子供みたいだった

No.66 09/02/04 03:19
モモンガ ( PZ9M )

店長のお勧めのお店はこじんまりとしたパリの雑貨屋さんみたいでドアをあけると聞いたことのないフランスっぽい陽気な音楽に色とりどりのワンピースやバックなんががたくさん飾られていた





店長が店の中に座っていた白髪のおばあさんに声をかけた




『ヨウコさん





お客様だよ
何か素敵なの見つけてあげてもらえる?』




『あら~


誰かと思ったらお隣の牧野君じゃない~



お元気?なぁに突然?』





おばあさんはあたしの方を見てニヤリと笑った



『ははん…




さては彼女…?





お店サボッていけない子ね』





あたしは慌てて両手と首を激しく降った



『ちっ



違いますよ!
違いますよ!




あたしはただの…』




そこまで言うと店長が口に手を当てて答えた




『ならいいんですがね?残念ながらうちの大切なお客様です




お洋服を探しにお連れしました』





おばあさんはあたしを舐めるように見ると『なるぼどねぇ』



呟いた

No.67 09/02/04 03:29
モモンガ ( PZ9M )

『牧ちゃんはそこに座ってな』




おばあさんはゆっくり立ち上がりあたしのそばにやってきた




『こんばんわ




ちょっと色々計らせてもらうよ?』





そう言うと片手であたしの背中やうで回りをペタペタ触ってきた





あたしはグルンと回されてなすがままになっていた





『ふ~ん




バランスはいいけどケツが小さいね




あんまり広がったもんよりボリュームの少ないストンとしたそう長くない丈がいいだろう





あんたおっぱいはなんセンチあるの?』




『え?おっぱい…





おっぱい…?』




あたしは店長の方をチラッと見た





カウンターの奥で顔を覆って笑っている




こんな場所で胸のサイズなんてとても言えないよ





あたしがためらっていると




『あ~もう面倒くさいねぇ』





おばあさんが片手でおもむろに胸の片方を触ってきた




『……?!』
絶句するあたしに一言

No.68 09/02/04 03:43
モモンガ ( PZ9M )

『はいCの65…



まぁまぁって所だね



じゃあこれだね



着てみなさい』




おばあさんがあたしに水玉と小さな花柄の切り返しになっているかわいらしい淡いオレンジ色のワンピースを渡してきた




『これにこのブ―ツはいてごらん





靴下はこれね




アクセサリーは…』




おばあさんはあたしにじゃんじゃん商品を渡してきた




あたしはそれをかかえると店の奥にあるフィッティグルム―に入った






カ―テンの向こうでは店長とおばあちゃんが何やら話をしているようだ…





何だか凄い事になっちゃったな…





綺麗になれるのは嬉しいけどできれば小刻みに頼みたいもんだ




『どうだい?



着れたかい?』




『あ、は~い




着れました


どうでしょうか?』




カ―テンを開けると笑っていた店長が黙ってあたしの方を見直した





『凄く似合ってますね




驚きました




さすがはヨウコさん ですね』

No.69 09/02/04 04:04
モモンガ ( PZ9M )

フィッティグル―ムの中には鏡がなかったので店の中央まで出て鏡を見た







そこには朝までの黒ぶち眼鏡に黒髪ヘアの地味なグレーのコ―トを着たあたしはいなかった






そこには髪を短く切り茶色いふわふわの毛先に




淡い白地にオレンジ色の花柄の膝が少し見える位の長袖のワンピースを着て



薄い黒の長めのソックスに渋い大きなボタンがついた茶色い長めのブ―ツ




手には毛糸でできたフワフワの白色のバック




いったいこれは誰?




あたしは誰?





鏡にへばりつくように見ているとおばあさんがため息をついた





『60点』




『えっ?60点?何で?




あたしが不細工たからですか?』




店長は吹き出して笑っていたけどあたしは真剣に聞き返した




『う~ん





あんたに問題があるとしたら




間違いなくその眼鏡だね』





確かにせっかくの服に黒ぶち眼鏡はないよね





だからといって言ってね




眼鏡に変えなんて…




替えなんて…





あたしはフィッティグに置いておいたグレーのコ―トのポケットを探った

No.70 09/02/05 02:39
モモンガ ( PZ9M )

あたしは昨日の不思議な眼鏡をコ―トに入れっぱなしにしていた事を思い出した




思った通り右側のポケットには眼鏡の感触があった






後ろからおばあさんがのぞきこんできた




『なんだい



シャレた眼鏡をおもちじゃないかい





こんな地味な眼鏡よりこっちの花柄のがセンスがいいよ





視界に困らないならこっちにしときな』




そう言うとおばあさんはあたしの手から眼鏡を抜き取りかけていた眼鏡をサッと取り去った






『あっ…でも…』





あたしが躊躇していると人差し指を左右にふりながら




『いいかい



見えているものが全てあんたの価値じゃないよ?





慣れ親しんだこの黒い眼鏡の姿もあんただし






こっちの新しい花柄の眼鏡もあんただ




人間っちゅうもんはいつも安全で普通の姿しか求めようとしない





そうだろ?




こんなもんでいいかな?





これくらいなら大丈夫だよねってね』

No.71 09/02/05 02:47
モモンガ ( PZ9M )

『でもそれがあんたの求める本当の姿なのかね…?





あんたがこれくらいって自分に線をひいてしまったら





あんたはそこでおしまいだよ





それよりもっと頑張りたい




綺麗になりたい


可愛くなりたい




そう思うならあんたはしなくちゃいけない事がある





あんただけじゃないね



最近の若い人みんなそうさ





『人をよく観察する』ってことさ





自分に欠けているのは何か



自分に足りていない部分はどこか





何をしたらもっとよくなるか…ね





あたしはもうヨボヨボのばあさんだけどあんたはまだまだ変わる事ができる




何もかも理由をつけて二の足踏んでないでさっさと動くことだね





今のあんたに足りないのは『変わろうとする意識』だね』





おばあさんはあたしの耳に不思議な眼鏡をゆっくりかけながらそう教えてくれた

No.72 09/02/05 02:57
モモンガ ( PZ9M )

『さて…長々と話をしちまったね




さて、どうする?





新しいあんたは出来上がったけど





中身のあんたはちゃんとこれを使いこなせるかい?』




『はい…




ありがとうございました




まだこのあたしにはなかなか届かない部分もたくさんあるけど




あたし



変わりたいんです





だから




頑張りたいです




これ…



全部下さい!』





店長が椅子から立ち上がりこっちに歩いてきた




『山川様…




あの…無理はしなくていいんですよ?




服一枚ならともかく…



それ丸ごととなると結構しますよ?




大丈夫ですか…?』




店長があたしの耳元でこっそり言った





『いいんです





こんなキッカケでもないとあたし服なんて本当に買わないんで





こんなによくしてもらってかえって申し訳ない位です』




『そう言ってもらえると僕も嬉しいです




ヨウコさんを紹介したかいがありましたよ』

No.73 09/02/05 03:10
モモンガ ( PZ9M )

『こう見えてヨウコさんは




昔お洋服のデザイナーだったんですよ



ね?




すごくサイズも色もその人に合うものを的確に言ってくれて





僕はヨウコさんならどなたを紹介しても大丈夫だと自負しているんですよ』



『おや




牧ちゃんはお世辞もカットもうまいもんだ




こんな年寄り誉めたって何にもなりゃしないのに




ハハ…あんた本当にいい男だよね




あたしがもう少し若かったら絶対惚れてたよ』





おばあさんはそういうと店長に軽くウインクをした




店長は肩をすくめて楽しそうに笑っていた





あたしは人生で初めて



大人買いならぬ





ボディー丸ごと買いをしてしまった





何だか気持ちがよくて笑えてくる





自分が変わるってこんなに気持ちが良いことなんて





遅いのかもしれないけど初めてしることができた






おばあさんの言うとうりだ





ただ黙って突っ立ってたって




誰もあたしに幸せなんかくれない




綺麗もかわいいもどっちも自分から手にいれなくちゃね

No.74 09/02/05 03:33
モモンガ ( PZ9M )

『はい



ありがとさんね



おつり落とすんじゃないよ』




おばあさんがお釣と一緒にあめ玉を一個あたしの手のひらに載せてきた






『そう言えばあんた名前は?




あたしはヨウコだよ




間違っても『おばあちゃん』なんて呼ばないでおくれよ?





これ以上老け込みたくないからね』




あたしは少し笑うと


『わかりましたヨウコさん




あたしはヒロミです



山川弘美





また寄ってもいいですか?








今日は凄く楽しかったです』




荷物を受け取りながらあたしは深々と頭を下げた




『ヒロミね




覚えとくよ


きっとまたきておくれよ』






あたしが店のドアを開けると後ろから店長がドアを高い位置で押さえてくれた





『ヨウコさん



今日はどうもね



また今後遊びにきますよ』





ヨウコさんは頷くと片手をゆらゆらさせてまた奥の椅子へと腰掛けにいった

No.75 09/02/06 04:12
モモンガ ( PZ9M )

あたしと店長が外へ出るとあたりはもうかなり暗くなっていた





あたしは慌てて時計に目をやると針はもう既に8時を少し回っていた




『やっば~



時間あんまり気にしてなかった!どうしよう~



あっ
あの店長さん


今日は本当にありがとうございました




凄い…いい経験ができて凄く嬉しかったです





あの、あたしこれから待ち合わせなんですいませんがこれで失礼します』




『こちらこそ何だかお忙しいのに無理な事言ってすみません




でも、本当に素敵になりましたよ





前の山川様も
今の山川様もどちらも本当のあなたですけど





今のあなたの方がたくさんいい顔で笑ってますよ





やっぱり女の子はこんなに変わるんだなって




僕もいい勉強になりましたよ




ぜひ今度はパーマをかけに遊びにきてくださいね』




店長は優しく笑うとジャケットの内側から一枚の名刺を取り出した

No.76 09/02/07 00:15
モモンガ ( PZ9M )

そこにはお店の名前と連絡先




そして店長の名前が書かれてあった




『今更ですが店長をさせてもらっています




牧野温志といいます

どうぞよろしくお願いいたします』




あたしはそれを受けとると店長にもう一度お礼を言い、ケンジくんによくお礼を言ってもらうよう頼んでその場を後にした






両肩に紙袋をひっさげて




はきなれないブーツ はアスファルトに高い音を響かせている




足元と首筋には夜の冷たい空気が容赦なく吹き付ける





その度に肩をすくめて体を震わすが



それはけっして嫌なものではなかった




店に着くまでの道のりで何人もの会社帰りのサラリーマンやOLとすれ違ったが



なんだかいつもよりも優しい気持ちで通り過ぎる事ができた



そんな自分に驚きつつ




こんな自分もこの中にいたんだなぁと思わず嬉しくなって笑ってしまった

No.77 09/02/07 00:29
モモンガ ( PZ9M )

味彩までは店から走れば10分しない位だった




店の前まで着くとあたしの息は完全に上がっていたが



肩から落ちそうな紙袋をもう一度かけ直し




店の回りを見回した




味彩は寄り合いの店がいくつか集まる五階建のビルの一階にある





玄関には赤ちょうちんがかかっていて黒い墨で店名が描かれている




出入り口は酔っぱらったサラリーマンがほろ酔い気分で何人か話し込んでいる





中は意外に広くお座敷がメインだが




料理もおいしくてメニューも豊富な事から(しかも安い)ここいらの会社帰りのサラリーマン達でいつもひしめきあっている





あたしはまわりを見回したが河村さんもまみちゃんも見当たらない




『もう中にはいっちゃったよね~





うわ~どうしよう』



入り口の前でうろたえていると背後からお酒臭い中年のサラリーマンがからんできた





『うっわ~



どうしたの?可愛いお姉ちゃんがこんな所で~



わかった!彼氏とデートだなぁ?




それとも一人?
おじさんが二件目に連れてっちゃるぞ



さぁおいで~』

No.78 09/02/07 00:44
モモンガ ( PZ9M )

『いえ、あの


あたし待ち合わせなんで…』



あたしがおじさんから離れて店に入ろうとすると急に右手をつかんで歩き出そうとした






うわ~


こわいよ~





絡むならどっかのホステスと飲んできてよ~





『あっ



あの、あたし本当に…』




そう言いかけたときに誰かがおじさんの肩を叩いてきた





『すいませんね



俺の連れなんで離してもらえますか?




連れていかれちゃうと困るんで』




見上げるとこれまた長身のイケメン





今日はイケメンデーなんか?





さっきの店長がオシャレなノンビリイケメンなら





こっちはいかにも『仕事してます!』って感じのハキハキしたできるイメージのイケメンサラリーマンだ





『はい、おっちゃんありがとう。




手ぇ離してね』




笑いながらおじさんの手からあたしの手をはずすとイケメン2号はあたしをぐいぐいとひっぱり店の前まで連れていった





『あのさ―



子供じゃないんだからああいう酔っぱらいはうまく交わしなよ?



下手に暴れたらああいうおっちゃんはめんどくさいよ』

No.79 09/02/07 00:57
モモンガ ( PZ9M )

『あっ、はい



すいませんでした





ありがとうございましす』





あたしが頭を下げると思いっきり紙袋が肩から地面に落ちた



『ブッ。




小学生のランドセル状態だな





はい荷物貸して




この店にはいんの?もってやるよ』




そういうとイケメン2号は地面に落ちた紙袋を軽々と片手で2つ持ち上げた




『ほら、入るよ』




あたしが何をいうまもなく店の扉が開き中から食べ物のいい匂いが広がってきた



『はい、いらっしゃいませ!お二人様ですか?』



白いねじりはちまきに坊主頭の大将が半袖姿でちょうどビールを運んでいた




『おっ、誰かと思ったらハルやんか。



えっ、まさかコレ?』





大将がニヤッとしながら小指を立ててみせた



『おっちゃん相変わらず下品丸出しだなぁ





まぁそんな所が好きなんだけどさ



ちゃうよ



この人はお客様




待ち合わせみたいだよ』






あたしが慌てて店内をのぞくと奥の座敷からくるくる巻き髪のまみちゃんが立ち上がった

No.80 09/02/07 01:11
モモンガ ( PZ9M )

あたしが前に出ようとするとまみちゃんはお店のスリッパを履いて怒った顔で近づいてきた





『もぅ!おっそいよ!みんな先に始めちゃってるよ~仕事なら仕事で遅くなるってちゃんと伝えてよ』





『お兄ちゃん!』




え?お兄ちゃん?


あたしじゃなくて?




隣にいたイケメン2号は



『ゴメンゴメン



ちょっとトラブってさ。




松田と立石はもうきてんだろ?』




『うん来てるよ




兄ちゃんがいなかったら仕切る人がいないじゃん~




うちらもさ…』





そう言いかけてまみちゃんがあたしの存在に気づいた




『ちょっと…



兄ちゃんまさかコンパに女連れてきたの?





ありえないんだけど』





まみちゃんがイケメンを軽く睨んだ




『ちゃうって



ちょうど一緒に入っただけ




荷物もってあげてんの』




二号が手に持っていた紙袋をあげてみせた




『あの




あたし山川ですけど…』




あたしが恐る恐るまみちゃんに言うと




まみちゃんは一緒間を置いて




『え?



うちの会社の?
経理の?




眼鏡の山川さん?』

No.81 09/02/07 06:40
なみえ ( 40代 ♀ ISXe )

お久しぶりです💖 手の具合はいかがですか?作品、楽しく読ませていただいております。モモンガさんの作品はいつも心があたたまり忘れていたものを思い出させてくれます。山川さんのこれからの展開が楽しみです。それにしても、イケメン二人とはうらやましい😲

No.82 09/02/08 03:16
モモンガ ( PZ9M )

なみえさんへ🌱



うわ~い😺
なみえさんだ🌱



またまたまたまた!お会いできて嬉しいです!




山川さんはどんどん不思議な展開になりそうです(泣)





イケメンに出会ったり



自分に自信をつけたりしながら弘美がみつける『本当の幸せ』とは何か?




私も楽しみです😺💦



きらきらぼし以上にロングランになりそうな予感です💧





またよかったら遊びに来てくださいね🌱





なみえさんと話せて嬉しかったです🙇




ももんがより🌱

No.83 09/02/08 18:08
モモンガ ( PZ9M )

奇妙な間が空いた後に横であたしたちを見ていたイケメンが


『何?同じ会社なんか?世間は狭いなぁ』




笑って言ったがまみちゃんはそれを無視してあたしの手をひいて奥の座席に連れ込んだ




『ちょっ…



ちょっと待って




あいたた』



前のめりになりながらお座敷の入り口につくとまみちゃんはおもむろにあたしに抱きついてきた




『山ちゃん!



カッコいい!やるよね~!



まさかこんなサプライズを用意してくるとは』




座席でサラリーマン二人とビールを飲んでいた河村さんが慌ててグラスを置いて口元をハンカチで押さえた



『…え!?



山ちゃんて…

この子山川さんなの?




あら~また凄い変わりようね…




経理の事務さんからしっかり女の子に変身しちゃったじゃない





よく似合ってるけどあんまり変わったから驚いちゃった』




河村さんとまみちゃんは何でかあたしの変身を喜んでいるようだ





座敷に座っていたサラリーマン二人も軽く頭を下げながらチラチラあたしを見ている

No.84 09/02/10 00:41
モモンガ ( PZ9M )

『あのさぁ


あんまよくわかんねぇけど、知り合いならすわんない?



時間もねえしさ』





そう言うと二号はあたしの荷物を座席に置いて靴を脱ぎ始めた




『やまちゃん!




やまちゃんも早く上がって♪』




あたしは言われるがままに席の真ん中に鎮座した






『さて♪みんなこれで揃いましたね♪




それではただいまよりニッソン自動車のみなさんと




かわいこちゃんチ―ムの親睦会を始めたいと思いま―す♪』





まみちゃんがいつもにましてキラキラした可愛らしいネイルをつけた手でグラスをもった




『ちょっとアクシデントがあったりして遅くなりましたが楽しく飲みましょう!


ではみなさんカンパーイ!』



二号の号令で一気にグラスの音が豪快に響いた




あたしがビールに少し口をつけると右となりにいた河村さんが少し赤い顔で話しかけてきた

No.85 09/02/10 00:54
モモンガ ( PZ9M )

『しかしまぁ寒い時期にばっさりいったわね



まさか今日の為に?』





あたしは首を左右に振ると今日体験した大まかな話をした




カットモデルに誘われて


服を選ぶのを店員さんに手伝ってもらった事などだ




『へぇ―


そんな気のきく美容室ならあたしも今度いってみようかしら』



『じゃあまみもまみも♪



こんなに山ちゃんを変えた美容師に興味ある~♪




まみ、まだ美容師と付き合った事はないんだよね♪




兄ちゃんは昔にあったよね、あれってさ…』





まみちゃんが二号に話をふりはじめるとみるみる表情が固くなっていった





『こら、バカまみ




余計な話はいいからつまみ!



みんなにとったれよ』



『あっ


すいません、あたしとりますね』




あたしが中央にあった小皿に手を出すと正面に座っていたサラリーマンがあたしの手を遮った




『いいよいいよ




女の子達は座ってて、何か嫌いなものとかある?』




ルパン三世ばりの揉み上げ兄さんが話しかけてきた



『俺は松田




ニッソンにいながら松田ってね』

No.86 09/02/10 01:05
モモンガ ( PZ9M )

『しかも俺ら営業だからいつもからかわれるんだよね




はいどうぞ』




ルパンがおつまみを少し盛ってくれたのであたしはそれを受け取りまみちゃんの前に置いた




『わ~♪松田さんって気がききますよねっ




まみってトロイからいつもお兄ちゃんに叱られちゃうんですよね~♪



松田さんみたいに気のきく優しい彼氏ほしいなぁ♪』




まみちゃんはそういうと両手を絡ませてアゴのあたりでほおずえをついてみせた





すげぇ


目がキラキラしてる


あたしにはあんなセリフ吐けない…






まみちゃんはルパン狙いなんかな…




ルパンもまんざらじゃなさそうな顔で仕事の話なんかをしながらマイト―クを膨らませている





更にその隣の地味めの眼鏡くんはさっきからしきりに携帯をいじっている





あまりお腹もすいてないのかお皿の位置もあまり変わっていないようだ





『ちょっとトイレ行ってくるね』




河村さんがフラフラと立ち上がった




顔は赤いがなんとか大丈夫そうだ




あたしは空いたお皿を回収すると新しいお皿の補充を店員さんに頼んだ

No.87 09/02/10 01:17
モモンガ ( PZ9M )

あたしが目の前にある小皿から枝豆をヒトツマミすると二号が話しかけてきた





『なぁ



まみが言ってたコンパ初心者ってあんた?





そんな気を使わなくてもいいよ



まみはバカだからほっとくとして、いつも会社で気を使ってんだから今日位は楽しく飲もうぜ』




『いやいや



そうは言われてもあたし…つい




こういうのやっちゃうんですよね


習性というか…



習慣というか…』




『ふ―ん…


あんた面白いな、彼氏とかいないの?』




『いたら…



きませんよ、他の人と飲みになんて』



そう言って口をつけたビールを半分飲み込んだ





しかし内情はドキドキして会話に困るばかりだ




『彼氏いるの?』




みんなにしたらこの日常的な会話すら



あたしには


『俺と付き合わない?』



位に聞こえてしまう




すいません



免疫がないんですぐ妄想しちゃうのかも




あたしは室内の熱気で曇った眼鏡を一度はずすとレンズを軽く磨いた

No.88 09/02/10 01:40
モモンガ ( PZ9M )

ふと指先にバラの花びらがあたった




人の財産がわかる眼鏡…




いやいや。


そんなの覗いちゃいけないよね?




他人の財産なんて…




他人の…





収入…





あたしは喉をごくりとならすと目の前に座っている三人を見比べた





左側には携帯をさかんに打つサラリーマン



見た目は30前後


紺色のス―ツにチェック柄のシャツ



まだ一言も買わしていないが使われたおしぼりもきっちりたたまれているし




ひょっとしたら几帳面?なのかも…




真ん中はまみちゃんお気に入り?



の松田さんことルパン






明るいグレーのス―ツにピンクと白のストライプのシャツをきてネクタイはもうはずしてかなりリラックスしている様子



多分平均的にモテそうなタイプだと思う




そしてまみ兄




眼鏡くんと同じく紺のス―ツにチェックシャツ




さっきもおじさんから助けてくれたしあたしにも話しかけてきてくれる所をみると意外に気ぃ使いなのか…




三人の中では一番体格ががっしりしているように見える




さてここで問題です




この中で一番お金持ちメンズはだ―れだ?

No.89 09/02/16 02:44
モモンガ ( PZ9M )

あたしはまわりを見回してからお茶を一口のんで改めて三人を見た




場の雰囲気もあるが髪の毛を切った位で勢いづくあたしを誰か止めて(泣)




しかし好奇心が先に立ちあたしは右のフレームに手をかけた



『カチッ』




音がした瞬間




あたしの横をスッと横切る大将の頭に三桁の数字が見えた



‐125




えっ


初めてのマイナス表示




借金や損失がある人にはマイナスがつくのね




あたしは辺りを見回した



どのテ―ブルに座っているサラリーマンも数字の羅列が続いている




すごい




あたひの左隣でいつもより何オクターブか高い声をだしているまみちゃんがこの機能をしったら間違いなく一番高い数字の彼の前で




『ここ、いいですかぁ?』


なんてさらっと言ってのけそう




あたしにゃこんな機能使いこなせないよ



そう思いながらルパンの頭に目線を送ると



87





…二桁かぁ


この年で100万ないってのは厳しいね~



意外と浪費家なのか?

No.90 09/02/16 02:55
モモンガ ( PZ9M )

なんて思いながら目線は右のまみ兄へ



ちらっ





『えっ!!』




あたしは思わず声をあらげてしまった



みんなは何事かと思い『山ちゃんお茶なんかで酔わないでよ』と一気に笑いだしたがあたしの目だけは緊張で笑えない





マイナス





マイナス1000





マイナス1千万!!




何事か!まみ兄!!



同じ兄妹なのにまみちゃん何もしらないのかなぁ…




ってまぁ

しっかり確かめたわけもないからウカツに口には出せないんだけどね…




でもさ、これが本当ならばえらいこっちゃ!




こんな所で呑気に飲んでる場合じゃないじゃんか




あたしがまみ兄の頭をずっと見ていると



『何?俺に視線集中じゃん



恋はするなよ山川



火傷しちゃうぜ』




お笑いの狩野ばりにイケメン顔で笑いをとっていたが



借金一千万のまみ兄の火傷には絶対会いたくないよ




こっちからお断りさ…

No.91 09/02/16 03:10
モモンガ ( PZ9M )

こんなに元気で笑ってるまみ兄の身に何があったのか…




ちょこっと興味はあるけど知ったからってあたしには何にもしてあげられないしなぁ…




株かなんかで損したのか…



だまされて取られたか…




どっちにしても何にしても何だか意外な結果だったなぁ…




あたしを見てにんまり手を降るまみ兄は外見からは想像もつかない借金をお持ちだ





あたしはもう一度お茶を飲み視線を左へとゆっくり移した




まみ兄を見て


ルパンを見て…



うつむきながらお新香をつまむ眼鏡君とバチッと目があった




にっこり笑いながらあたしは頭の上の数字を数え出した




あれ?




あれ?




この人何かおかしいよケタが多い…




154025



六桁…



万…
十万…
百万…
千万…
億万…




じゅうごおくえん…




15億!!!!





あたしは目を見開いて口を押さえた




ビックリを通り越して不思議な気持ちになっていた




だって億万長者なんて見たことないよ



宝くじだって当たった事もないし…



『凄い…




億…』




あたしが呟くとすかさずまみちゃんが反応を示した

No.92 09/02/25 12:02
モモガー☆ ( ♀ qotN )

初めまして🙇とても面白くて一気に読んでしまいました👀
続き楽しみにしています。

No.93 09/03/03 10:21
モモンガ ( PZ9M )

モモガ―☆さん


はじめまして🙇
ももんがといいます




山川さんのお話をお読み下さって有難うございます




長らくお休みですいません💦



実は以前手術をした右手の腫瘍ですが再発したらしくかなり痛くなってしまいました💦




まだ手術したばかりなのでまだ開けることはできず



痛み止めだけ飲んでます😿



すいませんが今しばしお待ち気ださいませ💦




また遊びにきて下さると嬉しいです🙇





有難うございました🌱





ももんがより

No.94 09/04/23 10:16
笑い袋 ( 40代 ♂ xcYYh )

モモンガさん😃

お久しぶりですよね😥
違ったらごめんなさい🙇

きらきらと弘美さんを読ませて頂きました😃

きらきらは…泣いちゃいました。心のあったかくなって泣きました。

本になったら絶対買います🙌

弘美も面白くて先が気になります😃

手は大丈夫ですか😥

書けるようになったら、また書いてください👋

楽しみに待ってます。
ではo(^-^)o

  • << 98 笑い袋さん🌱 長々とおまたせしました🙇💦 まずはお詫びさせてくださいね ああ💦 すっかり日もくれて夏間近になる季節に なってしまいました ての方もずいぶんよくなりましたし 環境もととのいつつあるので もう少ししたら また休止中の山川さんのお話も書いていきたいと思っています もうしばらくお待ちくださいね😺🌱 ももんが 最近ヘルパー目指して講習をうけております 介護について学ぶたびに 人はひとりじゃ生きていけないなぁ 助けたり 助けられたり 学んだり与えたり でも なかなかその笑顔の裏の本心には触れられません ももんが 今まで生きてきてたくさんの人の手を借りてきました 今度はももんがが両手両足 背中も肩も 全部使って返していきたいなぁ そんな風に思っています 笑い袋さん 私もそんな名前のように色んな事を笑い飛ばせる人間になりたいです😺 また良かったら遊びにきてくださいね🌱 ももんがより🌱

No.95 09/04/29 22:25
なみえ ( 40代 ♀ ISXe )

ご無沙汰してます💖手の具合はいかがですか? 元気に戻られる日を楽しみに待っています💖💖💖

No.96 09/05/22 18:04
なみえ ( 40代 ♀ ISXe )

手の具合はいかがでしょうか?心配です💖 1日でも早くお元気になられる日を祈っています🙏

No.97 09/05/24 21:38
ミイ ( 40代 ♀ SiGAh )

私も 読ませて頂きましたよ。 主人公の 気持ちになって 楽しませてもらいました。😊
手の具合 とても 気になってます。 大丈夫なんでしょうか…

No.98 09/06/19 22:20
モモンガ ( PZ9M )

>> 94 モモンガさん😃 お久しぶりですよね😥 違ったらごめんなさい🙇 きらきらと弘美さんを読ませて頂きました😃 きらきらは…泣いちゃいました。… 笑い袋さん🌱



長々とおまたせしました🙇💦



まずはお詫びさせてくださいね




ああ💦



すっかり日もくれて夏間近になる季節に なってしまいました




ての方もずいぶんよくなりましたし



環境もととのいつつあるので




もう少ししたら



また休止中の山川さんのお話も書いていきたいと思っています




もうしばらくお待ちくださいね😺🌱




ももんが



最近ヘルパー目指して講習をうけております



介護について学ぶたびに




人はひとりじゃ生きていけないなぁ



助けたり

助けられたり



学んだり与えたり



でも




なかなかその笑顔の裏の本心には触れられません




ももんが



今まで生きてきてたくさんの人の手を借りてきました




今度はももんがが両手両足


背中も肩も



全部使って返していきたいなぁ




そんな風に思っています




笑い袋さん


私もそんな名前のように色んな事を笑い飛ばせる人間になりたいです😺



また良かったら遊びにきてくださいね🌱



ももんがより🌱

No.99 09/06/19 22:33
モモンガ ( PZ9M )

なみえさん🌱



お久しぶりです😺🌷


わ~い🌱なみえさんとまたお話できて凄く嬉しいです



なみえさん🌱




私さっきも笑い袋さんに書いたんですが






介護の勉強中です




ももんが介護を少し間違った解釈でとらえていました




介護って


足りないところに手を貸すんじゃなくて



足りないことをどうしたいのか引き出したり



できる方法を探すお手伝い


なんですね



オムツやトイレを介助したり




食事や着替えを介助したり



話を聞いたり


相談したり
はなしあったり…




勉強すればするほど目の前の悩みが


ちっぽけに思えてしまうから不思議です


なみえさんは近況で何か変わった事がありましたか?



私は某メーカーのエッセイに入賞しまして来月公式HPに文章が載るんですが



悲しいかな実名掲載があるのでここでは㊙です💦



でも思いがけず頂いた賞に胸がワクワクしています🌱



なみえさん




また良かったら遊びにきてくださいね🌱


待ってます🌷



ももんがより😺

No.100 09/06/19 22:38
モモンガ ( PZ9M )

ミイさん🌱



ありがとうございます😺ももんがです🌱



手の方はもう大丈夫です



ご心配かけました🌷



ももんが



8月にはもう少しちょくちょく遊びにくるつもりです😺




7月は自己都合でなかなかこれませんがしばらくお待ちくださいね💦



ミイさんは最近何かいいことありましたか?


また良かったらこちらにも遊びにきてくださいね😺🌷




待ってます~🌷




ももんがより🌱

No.101 09/07/28 17:10
モモンガ ( PZ9M )

『ねえねえ



その万年筆ってブルガリの限定だよね




本物?』



さえない眼鏡くんが胸ポケットから会社の手帳にささっている万年筆を取り出した




さすがまみちゃん


見てるとこが違うよ


あたしは感心しながらじゃこおろしに醤油をかけながらやり取りを見守った




『よくわからないな…



うちにあったのを持ってきたから、別に何でもよかったんだけどね』



『えっ、本物?』


まみちゃんの声がまた1タ―ブほど上がって眼鏡くんを見つめた




おいルパンはどうしたルパンは



そのやりとりに半ばトンビにあぶらげのルパンが観念したように眼鏡くんの肩に手を回した





『あきらめろ



お前に身に付いた金持ちオ―ラはそうかんたんには消えないみたいだぞ



なんでそんな高ぇ万年筆もってくんだよ

バレバレじゃんか~』



ルパンは眼鏡くんの肩をパンパン叩くと胸から取り出したタバコに火をつけた




その隣ではまみ兄が笑いをこらえた顔をしている

No.102 09/07/28 18:29
モモンガ ( PZ9M )

『うっさいな


俺はいやなんだよ、あの世界と関わるの』



眼鏡くんがブルガリの万年筆を胸ポケットにしまった



『あの~



お父様ってなにされてるんですか?』




眼鏡くんはまた携帯に目線をおとしバツが悪そうに小さなため息をついた



『こいつね、呉服屋 の若旦那



しかもおっかさんは旅館も経営してて姉さんはレストラン経営してて



いわいる勝ち組家族

…だよな!若旦那』



ルパンが眼鏡くんの背中をバンバン叩く



『お前やめろってベラベラと…


若旦那なんて関係ないよ、俺あと次ぐ気なんてサラサラないし




親父の会社の中から選抜すりゃいいんだよあんなの』





ありゃりゃ残念



ただのお金持ちのボンボンじゃないんだね




でもいるとこにはいるもんだなぁ




ほら~


まみちゃんの視線釘付けだよ



めっちゃわかりやすいんすけど




こういうわかりやすい態度が幸せにつながるのかねぇ…




あたしはじゃこおろしを噛み締めながら考えていた

No.103 09/07/28 20:58
モモンガ ( PZ9M )

まみちゃんの意思とうらはらに若旦那は携帯に視線を落としたままなかなか会話に入ろうとはしなかった





業を煮やしたまみちゃんが席替えタイムを要望したがあえなく却下





『お金持ちだけど



まみの隣にはイマイチ地味かな



今日のストライクかと思ったのになぁ』



トイレの鏡の前でまみちゃんが誰かに携帯電話電話を始めた



『あっ♪まさひろくん~?


ごめんねこんな時間に~



ん?


まみ…何だかまさくんに会いたくなっちゃって…



こんなの迷惑だよね


えっ?迎えに?


悪いよそんな…


そう?いいの?



うん♪わかった♪



今から出るね~』




さっきまでルパンにあなたみたいな優しい彼氏が欲しいって言ってませんでしたっけ?



あたしが手を洗っていると


まみちゃんが至近距離で耳打ちした



『彼氏ならルックス



旦那なら財力だよ




顔は一年で見慣れてもお金は一年限りじゃ困るもんね




山ちゃんも手近で手をうっちゃだめだよ♪




ちなみにうちのお兄ちゃんは辞めといた方がいいよ』

No.104 09/07/28 21:11
モモンガ ( PZ9M )

『顔はいいけどお金ないからね



好きになると苦労するよ』



新色の口紅らしき真新しい箱を取り出すと手慣れた様子で中身を取り出した



『あの人ね



昔の彼女に大金つぎ込んで大変みたいだし



見た目がいいからモテる割には誰にも本気にならないしね



まぁ、補足ね』



唇に『内緒ね』のサインをするといたずらっぽい顔をした



ふ―ん…




前の彼女に一千万…




どんな理由があるか知らないけどめちゃくちゃ大金だよね




そんだけ好きだったって事か…




あたしはまみ兄はアホやなぁって思う反面




それだけ真剣に誰かを好きになれるなんて羨ましいな…




そんな風に思った




気楽なお一人様が今のところ一番あたしにはいいけど




誰かを好きになってみたい



なんてね

No.105 09/07/29 08:58
モモンガ ( PZ9M )

あたしが席に戻るとまみちゃんは忽然と消えており




ルパンと河村さんもいなくなっていた



なんやねん、もう
コンパのビギナーを一人残すなんて姉さんあんまりだよ



浮かない足取りで座席に戻るとまみ兄がご機嫌な様子で待っていた


『お~山ちゃんも早く早く




なんかみんな帰っちまってな花が足りないとこよ




まぁ早く上がれ上がれ』




あたしは靴を脱いで二人の前に鎮座した



あたしがすっかり冷めたほっけに箸をのばすと眼鏡くんが口を開いた




『…和食好きなの?さっきから渋いのばっかり食べてるよね



おもしろいね』



あたしはほっけを口にしながら回りを見回した




サラリーマン達に挟まれている通称『女子』のみなさんは大抵が



ビールではなくサワ―を片手に



サラダやスパゲッティやら


ポテトやらウインナーやら



小さくて食べやすそうな一口サイズをマイ小皿に移して食べていた



けしてあたしのように


冷奴やらじゃこおろしやらもろきゅうやらほっけではない



この変からしてあたしには『女子力』が足りないんだろうな…

No.106 09/07/29 20:22
モモンガ ( PZ9M )

やっぱり可愛い女の子は難しいな


ほっけもじゃこもお新香もあたしには必要なんだもん




『やめた

無理は体に悪いや』



あたしは正座していた足を崩して前髪をピンで固定すると深く深呼吸をした


『あ―やっぱり外見だけかえても中身はかわらないや』



あたしが言うと



『中身をみずに外見や価値観だけで判断されるよりマシだよ』




携帯から目線を外すとあたしの方をみて言った




『若旦那はすぐ外見で判断されちゃうの?』



『ああ、どの女もどの上司も同僚も俺の中身なんかみちゃいないよ



知りたいのは僕の資産やステイタス



素敵な生活だけ



もううんざりでね、親父の反対押しきってサラリーマンに転身したけど結局どこも一緒




やっぱ若旦那はそんなにいいのかね』



眼鏡くんは携帯を折り畳むと天井にむかって軽く伸びをした



『おいおい



俺はお前が金持ちだろうが貧乏だろうが


財テク上手な同僚だと思ってるぜ



みんながみんなお前の外側しかみてないわけじゃないさ



金があろうがなかろうがお前はお前



…な?山ちゃん』

No.107 09/07/29 20:35
モモンガ ( PZ9M )

あたしが慌ててうなずくとまみ兄は話を続けた



『お前さ、もっと自信持てよ



金持ちのお前もサラリーマンのお前も違いなんか最初からないさ



あるとしたらお前自身の引いたラインがそうおもわせるんじゃねぇか?




金持ちなお前にすりよってくる女がいたとしてもお前がそいつをコントロールしてやりゃいいだけの話だろ?





お前がふるいにかけられるんじゃなくて


お前がふるい落としてやれよ』



眼鏡くんは黙っていたがあたしは何回も深く頷いた






お金があってもなくても



素敵な外車があってもなくても




あたしなら



ジャージにすっぴんでゴロゴロしてても眉毛にマジックで落書きされても




こたつの中でくっついて寝転びながら日曜日にはサザエさん とか見て




まったり過ごしたい



それがあたしの『幸せ』なんだと思う




お金よりも

セレブな生活よりも


好きな人と同じように笑えたり



悲しいときに聞いてくれたり



情けない顔でも『ぶさいくやなぁ』って笑いとばしてほしい



見た目が綺麗になっただけじゃ


幸せはつかめないんだ

No.108 09/07/29 20:48
モモンガ ( PZ9M )

『飲もう!


ね、今日は三人で飲みましょう!



明日は土曜日だし大通りでタクシーもあるし




みんなで飲みましょう!』




あたしが言うとまみ兄が立ち上がった




『よし!飲むぞ!俺も今日は飲む!!




お前も今日は飲め!』




ビールの入ったジョッキを眼鏡くんに傾けた




『女の子からのお誘いじゃ断れないですね




今日は三人で飲みますか』




あたし達はあらためてグラスを傾けた




前の彼女に大金を出したまみ兄も




家柄と自分の間で悩む眼鏡くんも





消えかかった眉毛で笑うあたしも



みんな




みんな幸せになりますように






この日は結局閉店近くまで楽しく飲みあかしあたし達はタクシーを相乗りしてそれぞれの家路へとついた




あたしが目を冷ましたのは次の日のお昼も近い頃で




お天道様はとうに高い位置へと上がっていた




『ん…



頭が痛…』



無意識にさわるといつものジャージじゃなくて安物の薄いパンツになぜかしらサイズのでかいシャツを着ている



『…?…こんなの


あたし…もってたっけ…』

No.109 09/08/01 14:57
モモンガ ( PZ9M )

足の裏で確認中…



うんいつもの畳



横をチラリと見るとコンパの為に引っ掻き集めた服が散乱している




見慣れたカレンダーのかかった壁に天井も異常なし





あたしはほっとした




なぁんだあたしの部屋じゃんか



OKOK




しかし予想に反した結果が三秒後に待っていた




あの




足の裏に何かあたるんですけど…





恐る恐る布団をめくると見慣れない大きな足の裏





あたしは目をつぶり神様に祈った




『神様あたしの初体験はこたつの中だなんてあんまりです



パンツもこんな安物じゃなくて可愛いリボンがついたのがよかった~



あぁ…しかも昨日のブラは上下違うやつだ




もうショックすぎます




寝てるまに終わってるし』




本気で泣きそうになりながらあたしはその場に座り直した




あたしいったい誰とやっちゃったんだろう…





こたつをはさんで反対側にごつごつした長い手が見える




心臓がいつもの100倍の早さで動いている

No.110 09/08/01 15:13
モモンガ ( PZ9M )

こたつの腕組みしながらうなだれた




チェックのシャツから香るかすかなタバコの匂い…




シャツのボタンは意外にも一番上までしっかりかかっていた


パンツにも…違和感はない…けど




ブラもないしパンツ一丁でまさかほうりださないよね



組んだ腕の隙間から放り出した手が動いて見えた




『ふわぁぁ…


んだこれ…背中がいてえなぁ…




おっ、目が覚めたか山ちゃん』




むくりと起き上がったランニング姿の爽やかなまみ兄があくびをしながら起き上がってきた





『あ…おはようございます


あの…これは一体』



『お前なぁ



ここまで大変だったんだからな~』



まみ兄があたしの鼻をこついて窓にほしてある昨日のワンピースとブラを指差した




あぁ死んでしまいたい…




ブラ干されてるし…




あたしは顔を伏せながら事実を半分思い返していた





タクシーで相乗りしたあたしたち





まずはいちは近い場所にある若旦那をおろして次はあたしの番になった





しかし不覚にも降りたところで滝のようなゲロ…




担がれたあたしはアパートの鍵を兄に渡し意識がとんだ…




おそらくゲロまみれのあたしを介抱してくれたんだろうな…

No.111 09/08/01 15:27
モモンガ ( PZ9M )

『すいません…』



蚊の鳴くような声で謝ると笑いながらまみ兄が答えた



『気にすんな


ゲロの介抱なんて毎月何人もしてるし



まぁ…女の子はそんなにないけどな



でも山ちゃん気を付けないと



俺みたいなのじゃなかったらやられっちまうぞ



簡単に鍵なんて渡すなよ




友達だとしても信用すんなよ』



まみ兄の顔が少し怖く見えた



『な~んちゃって』


笑ってあたしの頭を撫でてみせる




パンツ一丁でブラもつけずにあたしは何を初対面の人と話をしてるんだろう…




『ごめん山ちゃん喉乾いたからお茶かなんかあったらもらえる?』




『あっ、はい


冷たいのでいいですか?』




立ち上がったあたしにまみ兄は苦笑しながら顔を下に向けて指を指した




『やまちゃんパンツみえすぎ』



『ぎゃああああっ』



近くにあった服を適当にたぐり寄せて慌てて着替えを済ませた




着ていた借り物のシャツを軽く洗濯するとよく晴れた空のしたベランダに干すことにした



土曜日の午後




同僚の兄とお茶を飲みながらまったりしているなんて…



数時間前の生活からは想像もつかない

  • << 113 …前言撤回 デリカシー不足だよパンツパンツって… 『まみちゃんのお兄さんこそよく飲むんですか? 彼女ができてからも飲み会とかに参加しちゃうタイプとか? っていうか彼女いないんですか?あたしと一緒ですね』 『いやぁお誘いは無限大なんだけどいまいちピンとこなくてね~ 理想が高いんかな』 麦茶を飲みながら勝ち誇った顔でにやにや笑う なんかむかつくなぁ 『な~んて まみちゃんが言ってた昔の美容師の彼女が忘れられないんじゃないですか? おもいっきし派手に振られたとか』 まみ兄の表情がこわばった あたし 踏んじゃいけない地雷をふんだのかな なんか嫌な雰囲気… 『あの…ごめんなさい あたしあんまりよく知りもしないのに… 思い出したくないよね、きっと…』 しゅんとするあたしにまみ兄があたしの頭を撫でた 『違う違う 山ちゃんのせいじゃないよ ちょっとね 思い出しただけ 気にすんな』 大きな手が何だかあったかい

No.112 09/08/01 18:20
モモンガ ( PZ9M )

>> 111 『麦茶しかないけど…暖かいコ―ヒ―とかじゃなくていいです?』




『うん全然平気


ありがとな』




なんとなくまったりしているしている…



男の人と二人きりだって言うのにあんまりドキドキもしない



まぁ借金一千万もあるんだからドキドキしてもあかんのだけどね



『なぁ』




まみ兄が話を切り出した




『若旦那がさ誉めてたぜ



あんた若いわりに金持ちに全然媚びなくて新鮮だったってさ



山ちゃんって昨日がコンパデビューって本当?




まみからちらっと聞いた感じだと男っけなしの今時いない地味なOLがくるから楽しみにしててって言ってたけど全然可愛いし…




飲み会とかもっと参加すりゃあいいのに』





可愛い…





可愛いだって!



聞いた?




いや、あたしは聞いたことない単語だよ



耳の穴からはなの穴から口の中から煙がでそう~






もう後頭部陥没で死んでもいい~




『山ちゃん聞いてる?顔赤いぞ



ちゃんと腹巻きしとけよ



薄いパンツもいいけど女の子は子供も生むんだし気を付けないとな』

No.113 09/08/01 18:32
モモンガ ( PZ9M )

>> 111 『すいません…』 蚊の鳴くような声で謝ると笑いながらまみ兄が答えた 『気にすんな ゲロの介抱なんて毎月何人もしてるし … …前言撤回



デリカシー不足だよパンツパンツって…




『まみちゃんのお兄さんこそよく飲むんですか?





彼女ができてからも飲み会とかに参加しちゃうタイプとか?



っていうか彼女いないんですか?あたしと一緒ですね』



『いやぁお誘いは無限大なんだけどいまいちピンとこなくてね~




理想が高いんかな』



麦茶を飲みながら勝ち誇った顔でにやにや笑う



なんかむかつくなぁ



『な~んて

まみちゃんが言ってた昔の美容師の彼女が忘れられないんじゃないですか?




おもいっきし派手に振られたとか』



まみ兄の表情がこわばった




あたし



踏んじゃいけない地雷をふんだのかな



なんか嫌な雰囲気…



『あの…ごめんなさい



あたしあんまりよく知りもしないのに…



思い出したくないよね、きっと…』



しゅんとするあたしにまみ兄があたしの頭を撫でた



『違う違う



山ちゃんのせいじゃないよ



ちょっとね



思い出しただけ



気にすんな』




大きな手が何だかあったかい

No.114 09/08/01 18:56
モモンガ ( PZ9M )

『昔の話しはもうおしまい!



しかし今日もさみぃなぁ…麦茶飲んだらトイレ行きたくなった




ちょっと行ってくんわ、貸してね』




まみ兄は立ち上がると携帯を無造作にこたつにおいた





シルバーのauか



機種はおんなじか…



なんとなく開いた携帯をあたしは慌てて閉じた




中の待ち受けには短い髪の綺麗な女の人が優しそうに笑っていた




隣でブイサインをしているのは今より少し若いまみ兄だった




なんだ…



やっぱり忘れられないんじゃんか…




あたしは携帯を元の位置に起きなんとなくうつ伏せた




なんなんだろう




なんかむかむかする




昨日飲みすぎたのかな



それとも本当にお腹が冷えたのか…




あたしがもんもんしていると



『やまちゃん腹減った



何か食いにいこう

奢るよ』




ベランダに干してあったシャツを羽織ながらまみ兄が言った





みなさん

山川弘美




22年で初めての食事のお誘いです




壁にかかったプレイボーイのうさぎが



『やったじゃんか』


と話しかけているように見えた…

No.115 09/08/02 03:59
モモンガ ( PZ9M )

あたしとまみ兄は何を話すわけでもなく自然に駅の方へと向かった




あたしはブラを洗いパンツに失笑したちょっと背の高いまみ兄の後ろをちょこちょこついて歩いた




ようこさんのところで買った可愛いブ―ツにあう服もなく



結局スニーカーにいつもねGパン


それに不思議な柄のTシャツにグレーのコ―トだ




あたしは両手をポケットに入れなんとなくやりきれない思いでいた



目元には結局いつもの黒い眼鏡だし



理由はわからないがなんとなくテンションも上がらない…



あたしの二、三歩前をあるきながらまみ兄が不思議そうに聞いてきた



『なんなん山ちゃん

そんな後ろ歩いて、寂しいから横おいでよ



不自然やで


一列って』




あたしは少し歩幅を会わせたが


タイミングを見計らい少しずつ


また後ろにずれた




だって



みんながまみ兄を見てる




明るい街中だとよりわかる




少し柔らかい癖のある長めの髪




肩幅もあるからスーツ姿もかっこいい




さらにイケメン



さらに爽やか




さらに優しい




もう無理だよ


隣に並んだらあたしなんて伊勢海老の隣にあるツマ…



いや



バランか…

No.116 09/08/02 04:11
モモンガ ( PZ9M )

急にまみ兄が立ち止まった




『山川


手ぇだせ』



『え?


転ばないですよあたし



それに寒いし』




あたしが驚くとまみ兄はあたしの左手をポケットから取り出した



『確保完了』




そういってなに食わぬ顔であたしの左手を繋ぐと顔色一つ変えないで歩き始めた



左手の



いや



体の左側が全部もっていかれたような気分




思った通り大きなあったかい手



手袋なしでも身体中が熱い




口から心臓が飛び出るってこういう時に使うのかな



駅前に差し掛かった時に携帯電話のお店のガラスに映るあたしは




格好は変わらないけど



やっぱりほんの少しだけ女の子みたいに見えた




『せっかくだから遠出しない?



一回ウチに帰って車出すから




付いてきてくれる?』




あたしが黙って二回頷くとまみ兄は『待ってて』と改札券を買いに駅の中に入っていった





ほどいた指はまだ暖かくてなかなかあたしの高揚はおさまらなかった

No.117 09/08/02 04:30
モモンガ ( PZ9M )

うちの駅から一つ乗り換えた線の終点にまみ兄の



いや




まみちゃんの家は建っていた




なかなかの豪邸





でも意外



なんだかまみちゃんにもまみ兄にも似つかわない(余計なお世話か)純和風な日本邸宅




入り口は横開きで門には大きな表札



『…?白川流?』




あたしが表札の隅にかかれていた言葉を読み上げると



『父親がね、お茶やってるんだ



ちなみに母親はいないから気ぃつかわなくていいよ、入っておいで』




まみ兄はおもむろに扉を開けて中にはいった




扉の中にはそりゃあ見事な日本庭園が広がっていた



松なんてあたしの実家にもないよ



凄いなぁ


あたしが感心していると中から黒いタ―トルに花柄のミニスカートのまみちゃんが現れた



『うそっ


やまちゃんお持ちかえっちゃったの?



やめてよ~


いくらなんでも自宅に連れ込むのはルール違反だよ兄ちゃん




あたしにだって心の準備があるんだからね!



ってか山川さん…



食われちゃったのか…』




あたしが頭を左右にぶんぶん振るもおかまいなしに



『忠告したのにねぇ…



苦労の連続だよ、山ちゃん』



まみちゃんがあたしの肩をポンと叩いた

No.118 09/08/02 08:32
モモンガ ( PZ9M )

『あほな事言っとらんと勉強してらっしゃい、まみさん

今日は親父様の手ほどきがある日でしょ?』



まみ兄はまみちゃんの顔を不細工にひっぱりながら遊んでいる




『おにぃひゃんだけずるひよ』



『なんだぶさいく聞こえないなぁ』



『おにいちゃんだけずるいよ!おんなじ兄妹なのに…』



まみちゃんがそこまで言うと奥の座敷から人の声がした



『何をしているんだ


早く稽古に入るぞ』



白髪混じりの長髪に着物姿の男性




『わかりました


今参ります』




まみちゃんが聞きなれない丁寧な言葉で受け答えしている



『今 帰ったのか



相変わらずだな』



お父さんらしき人の視線が兄とあたしに移った




『あっ


はじめまして

お邪魔しております

私は…』



そこまで言うとまみ兄が言葉を遮った




『おやじ殿


おはようございます



まみのお友達の山川さんですよ



まみに会いに来てくれたらしいです』



あたしは慌ててまみ父に深く頭を下げた


『生憎だがまみは今から稽古でね



申し訳なかったね



また日を改めてもらえますかな』




何だか凄い迫力




あたしは頷くだけで精一杯だった

No.119 09/08/02 08:48
モモンガ ( PZ9M )

『山ちゃん悪いけど門の所で待っててくれる?



すぐ着替えて車出すわ』




あたしは頷くとさっきの大きな門の前に出た





間もなくして銀色のアウディからクラクションが鳴らされた



『お待たせ山ちゃん

乗って乗って』



助手席の扉があくと共に中からスローテンポのバラードが流れてきた




『お邪魔します』



足と手が同時にでるくらいの緊張



シ―トベルトが体に食い込む感じだ



『さぁ、行くか』



まみ兄は手慣れたバンドルさばきで車を動かすとしばらく楽しそうに車を走らせた





『山ちゃんさっきはごめんな



俺あの人はどうも苦手でさ




まぁ、まみから聞くと思うから白状するけど俺とまみは本当の兄妹じゃないんだ



正確にはまみがあの家の長子




俺は母の連れ子でね


父の血筋は入ってないの




正当に父の血筋が流れるサラブレッドはまみだけってわけ




だからお茶の世界に俺は関係ないってわけ




はなから期待されてなくてめっちゃ楽だよ



まみには可哀想だけどね』




あたしはうまい返し言葉もみつけられないまま黙って兄の話に聞き入っていた

  • << 121 『大将変わってないっすね~ 久しぶりっす 今日は妹の友達連れてきましたよ うまいもん食わせようかな~って思ったらここしか思いつかなくて』 『嬉しいこと言ってくれんなぁ もぅチャーシュー大盛りにしとくよ あれでいいんだろ?』 『あ!ネギも大盛りで!』 カウンター越しに話すまみ兄はなんだかイキイキしていて 笑った横顔も素直な感じ ちいさな見開きのお品書きを見ていると 『断然塩味がオススメ 予想を裏切るうまさだよ 期待してて っていうか食ってみて、是非』 あたしは軽くうなずくとまみ兄と同じ塩ラ―メンを一つ頼んだ 『ここさ昔に結構かよっててさ 見かけはいまいちなんだけど味は日本一 古いし汚いし流行ってないし でもめちゃくちゃ旨いしめちゃめちゃいい大将なんだよ だからすっごいここはとっておきなんだ まみだって連れてきてないんだぜ』 うわぁ これって『お前は特別だよ』 って事? 免疫のない女にはいったらあかん~ あたしはお水を飲みながら気を落ち着かせた

No.120 09/08/02 20:07
モモンガ ( PZ9M )

>> 119 その場の雰囲気で当たり障りのない会話で話をつないだものの気の利いた言葉もやはり出なかった




車は10分ほど走るとあたしの予想を反して意外な場所に止まった




『着いたかぁ



やまちゃんそっち降りれるか?』




『あ、はい大丈夫です』



大丈夫…ですけど




何故にラ―メン屋なん?




よくわかんないけどドラマとか小説とかだとコジャレた洋食屋とかじゃないの?



まぁ…



付き合ってもないし友達でもないし


ブラまで洗った女なんかラ―メン屋で充分ですな



すいません



『山ちゃん早くこっちおいで



入り口狭いけど気をつけてな』




そこは見た目にお世辞にも素敵なラ―メン屋という感じではなく






屋根が水色のトタンで覆われて白い木の壁には『一心』と書かれていた



『営業中』という赤い暖簾をくぐり店の扉を空けると中はカウンター席のみ



10人も座ればいっぱいっていう感じの店だった




『いらっしゃ―い



おぅ!久しぶり

なんだお前


彼女連れなんて久しぶりじゃねぇか~』



ねじり鉢巻にピンクのポロシャツが似合ってる元気のいい店長が1人




まみ兄は店内を大きく見回していた

No.121 09/08/02 20:28
モモンガ ( PZ9M )

>> 119 『山ちゃん悪いけど門の所で待っててくれる? すぐ着替えて車出すわ』 あたしは頷くとさっきの大きな門の前に出た 間もな… 『大将変わってないっすね~


久しぶりっす



今日は妹の友達連れてきましたよ



うまいもん食わせようかな~って思ったらここしか思いつかなくて』



『嬉しいこと言ってくれんなぁ



もぅチャーシュー大盛りにしとくよ



あれでいいんだろ?』



『あ!ネギも大盛りで!』




カウンター越しに話すまみ兄はなんだかイキイキしていて



笑った横顔も素直な感じ




ちいさな見開きのお品書きを見ていると



『断然塩味がオススメ




予想を裏切るうまさだよ


期待してて




っていうか食ってみて、是非』




あたしは軽くうなずくとまみ兄と同じ塩ラ―メンを一つ頼んだ




『ここさ昔に結構かよっててさ




見かけはいまいちなんだけど味は日本一



古いし汚いし流行ってないし




でもめちゃくちゃ旨いしめちゃめちゃいい大将なんだよ





だからすっごいここはとっておきなんだ



まみだって連れてきてないんだぜ』





うわぁ



これって『お前は特別だよ』


って事?




免疫のない女にはいったらあかん~





あたしはお水を飲みながら気を落ち着かせた

No.122 09/08/02 21:38
モモンガ ( PZ9M )

『へい!お待ち!



ネギ塩チャーシュー大盛りに塩チャーシューね




共にチャーシューは俺のおごりね』




額に滲んだ汗を手で軽く拭うと熊みたいな笑顔で店長が笑った


『いっただきます』



箸を両手に挟むとどんぶりに一礼して



まずは麺を食べる



『…!おいしい!



腰が強いですね


それに小麦の味もちゃんとする



こんなに麺にス―プが絡んでるのに麺自体の味も負けてない



ス―プもさっぱりしてるのにコクがあって…




ダシに少しするめ入ってます?


少し香ばしいような…


なんだろう?


とにかくめちゃめちゃ美味しいです!』



店長は感心したようにあたしをのぞきこんだ



『お嬢ちゃん



ラーメン食べなれてる感じだね




あたり

少しだけするめも入ってます


なかなかこれ当てる人いないよ




若ぇのに大したもんだよ



うちでバイトしない?可愛いし大歓迎だよ』



『すげぇ


山ちゃん実はラーメン通選手権とか出てんの?』



あたしは手を左右にして苦笑いをした



『実家も作ってるんですラーメン



中華料理屋なんです』




『まじっ?うわぁ…


俺もう撃沈や…やべぇな』



まみ兄はわざと小さくうなだれてみせた

No.123 09/08/03 14:14
モモンガ ( PZ9M )

『やっぱしうまいわここのラ―メン


久しぶりでもあの頃と一緒ってわかるもんな




…!あ―もうなんだよ』



まみ兄のポケットから携帯の着信音が聞こえた




『ごめんちょっと電話してきていい?



まみ兄は片手でごめんを大将とあたしにしながら小さく背をかがめて一端外へと出ていった



『お姉ちゃん



アイツと付き合ってんの?』



期待に目を潤ませ店長が聞いてきた




『違います違います


本当にあたし妹さんと同じ会社なだけで



ちょっとお世話になったのが縁っていうか何て言うか』




『そっか…




あれからまだ三年だもんな




まだちょっと時間はかかるわな』




店長が店のカウンターに貼ってある一枚の写真に手をやった




見覚えのある二人





まみ兄の携帯に映っていた彼女だ




そのとなりには何人かの友達とおぼしき人に混じりまみ兄と大将も写っていた



『店長何気に若いですね



ここで撮ったんですか?』




店長は外のまみ兄をチラッと目で確認すると氷の入った水をゴクリと飲み干した



『そう


この日はねこの子の誕生日会だったんだよ』

No.124 09/08/03 14:27
モモンガ ( PZ9M )

『この子ね



内緒だけど昔のあいつの彼女




二年くらい付き合ってたかなぁ…




優しい子でさ




美容師だったんだけどね』




『…別れちゃったんですか?



お似合いに見えるのに』



店長はもう一度まみ兄の様子を確認すると



少し口ごもった声で言った





『…自殺




しちゃったんだよ』




あたしは思ってもみない返事に言葉を失ってしまった





何で?っていう気持ちは勿論あるけど





それ以上に何で好きな人を残して死に急いでしまったのか




写真の中で優しく笑う彼女に胸が傷んだ




『あれから今日までどうしてたのか…






アイツも相当へこんでてね





でも良かったよ




またアイツの笑った顔みられてさ




お姉ちゃん、自覚ないけどひょっとしたらひょっとするかもよ??』



店長が豪快に笑った



『なになにたのしそうやん




俺も混ぜてよ』




まみ兄がまた小さく背をかがめて暖簾をくぐってきた




『な~いしょ



俺とお姉さんの秘密の花園だもんね~』



『うわ~でたよ



あまりのフルさにひいてまうわぁ』



まみ兄がおどけて笑った

No.125 09/08/03 14:35
モモンガ ( PZ9M )

そのあともまみ兄と大将は昔話に花をさかせて会話を楽しんでいた



きっとこの店はまみ兄にとったらとても大事な思い出の場所で





きっと

良いこともそうじゃないことも



いっぱい詰まった場所なんだなぁ





何でまみ兄はここへあたしをつれてきたんやろ



あたしはどんぶりに残った麺を勢いよくすすりとった

No.126 09/08/03 22:46
モモンガ ( PZ9M )

『そんじゃあ…ぼちぼち行くか山ちゃん



何か久しぶりにきたのにおまけまでもらって申し訳ないっす



また…ちょくちょく来ると思うんで



また寄らせてもらいます』



『おお~また来いよ



期待しないでまってっから



またな』





お会計をすますと(勿論まみ兄のおごりで)



最初にきたように背を縮めて店を出た





あたしが最後に振り返ると『頑張れよ』と何かしら激しく誤解している店長はあたしに口パクでエ―ルを送ってきた




まぁいいんだけどね




外に出ると店との温度でか鼻先がキンとした

『うお~長居しすぎたか?


何か冷えてきたな…


つまんなくなかった?




よく考えてみたら女の子にトタン屋根のラーメン屋なんか恥ずかしかったかな




ごめんな



俺そういうのダメなんだよな~』




まみ兄はしまったなぁ



って顔をしてたけどあたしは久しぶりに実家にいたような気持ちになりどこかホッとしていた




大きな寸胴から香るラーメンの匂い



壁一面にもられた食器やお品書き





懐かしい記憶が呼び起こされた

No.127 09/08/03 23:00
モモンガ ( PZ9M )

『そんな事ないですよ



凄い美味しかったし

思わず実家に帰りたくなっちゃいましたよ、本当』



『そっか



ありがとな




山川はいいやつだな


まぁ…だから誘ったんだけどさ




時間…まだいいならちょっと腹ごなしに歩かない?』




まみ兄が車のロックを確認して歩き始めた




住宅街に挟まれている細い通りをまっすぐ歩くとしばらくして上り坂が現れた





日頃出歩かないなまかわOLにはキツイ斜面だがこれも何かの縁だ





頑張るけどさ…




本当に



あたし、体が重いんだな~前に進まないよ




IKKOさん見習ってあたしも朝から歩くか?



…夢の中でしか無理だな…



額と背中に汗がジンワリしてきた頃



まみ兄が後ろを振り返った




『あと少しだから頑張れ



手ぇ貸すか?』




つかまりたいのは山々だけどそんなんできるわけないじゃんか~





さっきのもそうだけどまみ兄は天然スキンシッパーだな




よくいるじゃん



(あたしは知らんけどさ)



『何かあれば話聞くし、連絡いつでもしろよ』とか




『あんまり無理すんなよ』




とか言ういう人

No.128 09/08/03 23:10
モモンガ ( PZ9M )

ほんでもってやたら頭を撫でたりとか



荷物とかさりげなくもったりする人~




(しつこいようだがあたしはされた事ないけどね)




あ、いいの?
ひょっとしたら行っちゃっていいの?




って思うんだけどいざ頑張ってみると




『ごめんな


お前の事そんな風にみた事なかったから…




でもこれからも友達でいてくれるか?』


みたいなさ~




じわじわせずに早く殺って下さい(泣)




未練でちゃいますから…



ってね


どうもそんな気がするよ




簡単に言うと優しい



勘違いしちゃうよね



あたしも時折ぐっとくるもん




あたしは息を小さくまとめながらほはばはせまくと




そんな事を考えていた





坂を上がりきると住宅はまばらで道なりに遊歩道のような大きな公園につながる道が伸びていた




『うわぁ大きな公園



久しぶりだな~近所にもあるけど凄い小さいから




なんかいい気持ち』





しゃがみこんで道端の花を見ているとまみ兄が話し出した

No.129 09/08/03 23:23
モモンガ ( PZ9M )

『ここさ


さっきのラ―メン屋くると必ず腹ごなしに来ててさ





何かちょっとすっきりしたろ体も』




あたしが頷くとまみ兄は無造作に遊歩道の柵を乗り越え芝生の上へと寝転んだ




『すっげ―…


空が高いなぁ



めっち気持ちいいぞ



山ちゃんもこいよ』




えっ



隣で寝るの?




距離はどこら辺まで?





あたしはとりあえずまみ兄の近くでちょこんと座って空を見上げてみた





日頃、朝早く黙って歩いて帰るときは目をつぶって寝るように電車に乗り込むあたしは




こんな風に空の高さや青さを感じる時もなかなかなかった




空には




絵の具て書いたような青じゃなくて



少しグレーっぽい水色




やわらかい空の色をしていた



大きな長いふんわりした雲が風の力でゆっくりと流れていく




なんだかめちゃくちゃ癒される



昨日うっかりルームで泣いてしまったような




胸がホカホカと暖かくなる感じがした

No.130 09/08/03 23:38
モモンガ ( PZ9M )

『お兄さんのお気に入りの場所なんですか?ここ…』



『ああ、最近は来てなかったけど昔はよく来たなぁ…




嫌な事とか煮詰まったりした時もね




落ち着くしね





山ちゃんさ



さっきの店最初に見た印象と出るとき何か感じなかった?』




『入るとき…は



まぁ…トタン屋根かぁ、凄いなっていう位で…





出るときは大将おもしろかったし!美味しかったし




またきたいなって思いました』




『だろ?




何かさ山ちゃんもさ


外見や性格に色んな悩みあるみたいだけどさ





俺は山ちゃんの中身っつうか



中にあるもんのほうが見た目より大切だと思うぜ』




『でも…



でもさ、お兄さんも山田花子より海老ちゃんのが可愛いなぁっておもうでしょ?



森三中よりスザンヌのが可愛いと思うでしょ?





何ていってもはじめは見た目だよ



見た目から入ってはじめて性格や中にあるもんじゃないのかなぁ…』

No.131 09/08/03 23:54
モモンガ ( PZ9M )

『確かに好みは海老ちゃんやスザンヌだよ



でもさ




花ちゃんには花ちゃんの



森三中には森三中の魅力があんだよなぁ




まぁ価値観かもしれないけどね





俺なら




海老ちゃんとスザンヌと花子ちゃんと森三中が混ざったタイプがいいなぁ






何でもポジティブシンキング



あきらめないへこたれないくじけない



綺麗になる努力もちゃんと続けて




まわりにもちゃんと気がつかえる


ただ可愛いいよりうんといいよ





今すぐにってわけじゃないけど




今からそれのうちの『何か』を変化させながらちょっとずつ変えて生けれは




スザンヌみたいな森三中や




海老ちゃんみたいな花子ちゃんも




ひょっとしたら相武紗季みたいな光浦康子もできるかもしんないぞ』





あたしは想像しながらおもわず吹き出してしまった




まぁ




でも言ってることはだいたいわかるよ




発展途上でも



努力すりゃ中身も外見も光る




そういう事だよね

No.132 09/08/04 00:23
モモンガ ( PZ9M )

説明は回りくどいけどそれがまみ兄があたしを励まそうとして言ってくれているという事はすぐにわかった






誰だっておいしいご飯食べたいよね




そんな時に『これしか作れない、嫌なら食べなくていいよ』



って出された見た目の悪い開き直りのご飯より



『こんなんしか作れないけど一生懸命作ったんだ』って言われた何となく見た目の悪いご飯なら




だいたい後者のほうが美味しく感じるんじゃなかろうか?



人は中身か外見か?




恋する乙女の永遠の課題だよね




でも答えは意外な所にあった




外身がいいだけでもだめ



中身だけでも評価されにくい




やっぱり



どっちかじゃなくて


どっちも頑張ろうって気持ちが大切なんだね




外身がわかった上で中身も



中身がわかった上で外身も




どんな風にでも変えていける




そんな風に



まみ兄の言葉がすんなりと心の中に入り込んできた

No.133 09/08/04 18:19
モモンガ ( PZ9M )

『は~っ


風呂に入りながらのオロナミンCの美味しさをみんなに教えてあげたいよね』




しかし…足が痛い




はきなれない靴に


見慣れない洋服



小さくまとめられた頭に




信じられない出来事



人間ちょっとした事がきっかけで色んな事がおきるんだな~




あたしは左手をお湯から出してまじまじと見つめた




『成り行きとはいえ男の人と手までつないだんだよな~



車に乗って


塩ラーメン食べて



公園行って…』





あれからあたし達はたわいもない会話を楽しみ(…と思ってるのはあたしだけかもね)




少したってからまた店まで帰り


ここまで送ってもらって別れた




帰り際に


『またラーメン巡りしよう』




と、まみ兄に携帯番号を書いた紙を渡された





ラーメンめぐりなら家族でいってほしいよ




世の中のカップルはだいたいこんな感じで付き合ったり





連絡をとりあったりしてるんだろうか…



QVCの通販にもびびっていまだに電話 できないあたしが



『ラーメン食べにいこうよ』なんてどうしたら言えるんだろうか





ああ…もう

No.134 09/08/04 18:32
モモンガ ( PZ9M )

鏡に映ったあたしは少し前のあたしとどこが違うんだろう




髪型が短くなって



髪の毛の色が違うだけだよね





でも、たったそれだけの事をあたしは22年間自分からしようとは思わなかった




わからない



はずかしい




どうせこんな感じ




って簡単に諦めたり



傷つく事からいかに素早く遠ざかるか




自分を守ることばかりで



自分から変わろうなんて真剣に考えた事もなかった





可愛い人は元からかわいいし



美人な人は作りが違うんやろうって思ってた





でも店長やケンジくんは不細工な眼鏡OLのあたしをハサミで



言葉で励ましてくれた





ヨウコさんは白髪の髪をひとつにまとめて杖をつきながら綺麗な赤色のワンピを着ていた


歳なんか関係なくお洒落を楽しんでいて



あたしに洋服で勇気を与えてくれた




『なにもできない』んじゃない



あたしは



『やらなかった』だけだ





あたしは曇った鏡をてでなぞると



『絶対綺麗になるぞ


眼鏡なんかにたよらなくたって





自分の目で乗り越えなくちゃいけない』




そう呟いた

No.135 09/08/04 20:29
モモンガ ( PZ9M )

『かと言って一体何からすればいいのか…



う~ん…』




頭をドライヤーで乾かしながらない知識を前回にして考えてみた






まずは見かけから





安易だけど一番手っ取り早い




月曜日…は美容院は全国的に休みだよね



じゃあ



服…でも買うか




上級なOLには敷居が高いから



まずは初級のOLからだな



あたしはアカマルのついたユニクロンやしまむらやのチラシをくずかごに捨てた




『まずは手当たり次第やってみよう』




明日はまみちゃんのいつも読んでいるねえさん雑誌に挑戦だ



中身は?





う~ん


1日一膳?



くらいしか思い付かないなぁ…



そうだ


いつものス―パーでの買い物




お会計の時に


『ありがとう』って言ってみよう




1日三回、朝昼番


ちょっとした事でもいいから感謝してみよう



そしたら何か変わるかな…




『…今日はとりあえずよく頑張ったね




あたし


…ありがとうね』




薄れいく意識の中でいつものようにプレイボーイのジャージを着て眠った




神様、夢の中ではまみ兄に堂々と電話できますように…

No.136 09/08/04 20:53
モモンガ ( PZ9M )

翌日いつもより30分早く起きて朝食を食べた



今までならさっと後ろを縛るだけでよかったが短くなった髪をどうにかこうにかセットしなくてはならない



これは大役だ




鏡の前で左から右へ右から左へと髪を流してみる




『う~ん…どっちがいいんだろうかわからん…』




まぁいいや走ってるうちにまた元に戻るだろうし




とりあえず適当にしておこう服は…




まさかオレンジのワンピースをきていくわけにもいかないよね





やはりいつものGパンにTシャツしかないわな

でも気のせいかいつもより何だかましな気がする




『さて、行きますか!』




あたしは足早に駅までの道を急いだ




歩きなれた道も何だか髪が軽いだけで少し明るく見える





たまに信号で止まるたびにウィンドウに映る自分をチェックしたりとかね






なぁんだなんかなんか幸せな感じじゃんか






ちょっとした早起きや頑張りで髪を綺麗にまいたり綺麗にお化粧する電車でのOLさん達の気持ちがほんの少しだけわかった気がした

No.137 09/08/05 02:14
モモンガ ( PZ9M )

定刻よりかなり早く会社についたあたしはデスクのまわりを整頓して駅についた時にキオスクストアーで買った『アネキャンパス』を取り出した




雑誌を買うなんて中学の時に好きだった芸能人の切りぬきを集めた以外にはほぼゼロに等しい




そんなあたしがファッション雑誌を読むなんてのは


ある日倖田來未と蛭子よしかずがフライデ―されるくらいないんだから、本当人間わかんないもんだよね



今月号は(先月号はしらんけど)


『夏かわスタイル売れ筋100アイテム

人気スタイリストも大人買い秋の最新アイテム50』



だって夏のアイテムも揃わないうちに秋のアイテムもなぁ



…しかもみんな顔小さいなぁ…


足は長いし


手は長いし



背は高いし



おっといかん、ひがみ根性がまたうっかり顔を出してしまう


あたしでも着れそうな無難なやつで会社にも着てこれるようなカジュアルなやつは…



あたしがパラパラと雑誌を読んでいると珍しくまみちゃんが足早に向かってきた

No.138 09/08/05 02:27
モモンガ ( PZ9M )

『おはよう山ちゃん』


『あ、おはようございます



昨日はどうもお邪魔しました』



あたしが言い終わるのを待ちかねたようにまみちゃんが切り出した



『ねぇ、やった?』


『…は?』



『だから!兄貴と!



やっちゃったのかって聞いてるの



山ちゃんわかる?』



…何で朝イチ番の質問がこれなんだろうか…



やったって…多分アレの事だよね




あたしは無言で頭をふった



『え―



あいつやんなかったんだ―




さすが真面目がとりえだねぇ…




てっきりお泊まりで着替えにきたのかと思ったよ



違うんだぁ』




いや…あながち違わなくもないけど




いいや




面倒くさいから黙っておこう…



『でもさ、手くらいはつないだっしょ?



キスは?』




一瞬



まみ兄と繋いだ手の感触が左手に蘇った



いかん…



顔が緩む…




まみちゃんはすかさず言った




『それはしたんだ…



そうか…兄貴にはやまちゃんだったかぁ



河村さんなんかいいかなぁって踏んでたのになぁ



わかんないもんだよね』




そういうとまみちゃんはあたしの両手をギュッと握った



『至らぬ兄だけどよろしくね』

No.139 09/08/05 02:42
モモンガ ( PZ9M )

『いやあの…


あたしは別に』



『いいのいいの




そっかぁ、ついに兄貴も恋する気持ちになったかぁ



うんうん



苦節三年




まみちゃんよく頑張ったよ~



自分で自分を誉めたくなっちゃうね』





三年…


まみちゃんの言っている三年は



おそらくラーメン屋の大将が言ってた



『まだ三年しかたってないもんな』



の三年と一緒なんだろうな…



まみ兄は亡くなった彼女をまだまだ忘れていないと思う




あたしは何だか急にむなしい気持ちになってきてしまった




『あれ、山ちゃん



それって最新のアネキャンパス?




え~?どうしたの?読んだら回してほし~な』




『あ…いいですよ



差し上げますよ


読みたいところもう終わったし…



はい、どうぞ』




『えっ♪まじで♪



山ちゃんサンキュー♪♪



ちょうど買いたいカバンが載ってたんだぁ♪』





そう言って笑ったまみちゃんはやっぱり可愛い



アネキャンパスもよくにあってる





あたしはさっきまでの活力は消え、やるせない気持ちになってしまった

No.140 09/08/07 02:33
モモンガ ( PZ9M )

お昼を知らせるチャイムが鳴った


あたしのお昼は屋上へ行く事が多い


社員食堂もあるんだけどパチンコ玉みたいにひしめき合うなかで食べるのはなんだか落ち着かない



料理の苦手なあたしが作るお弁当は大概しゃけおにぎりに茹で玉子


それに麦茶



ちょっと贅沢をしたい時はコンビニで買ったお菓子なんかもつくのだが…




『えっ~?山川さん髪の毛切ったんだ?凄い~お似合いだね~』



この反応もう朝から何回聞いたのだろうか


世の中の人はよくテレビなんかで『ばっさり切っても全然気づかれないんですよ』



と怒っているがあたしに至ってはさすが地味道まっしぐらなだけあり周りの反応が早い



『ありがとうございます』



とりあえずスマイルしとく


『だけど寒いのに思いきったね~心境の変化?』



これもみんな言うがあたしは失恋の前に恋もしたことないんだよ



『いえいえ知り合いの美容院で頼まれただけです』



世の中見た目が変わると反応が早い内面に比べると評価しやすいんだろうな



見た目も充分大事な要素ってことだな~



あたしは頭を下げてエレベーターに乗り込んだ最近はめっきり寒いので屋上にはほとんど人の姿はない

No.141 09/08/09 01:11
にーぴったん ( ♀ 2uyEh )

つい見かけて全部読んじゃいました。
続き楽しみにしてます。
手もお大事にされてくださいね。

ちなみに私、山川弘美さんと一字違いです(笑)

No.142 09/08/09 02:45
モモンガ ( PZ9M )

に―ぴったんさん🌱



はじめまして🙇ももんがといいます


山川さんといち字違いとは!



🙇💦



しかし…




実はこのお話のタイトルの山川さんは私の前の会社の後輩からかなりの字を頂戴しています🙆




名前ってかなりの確率でももんがは身近な人の名前をつけちゃいます✨




また良かったら遊びにきてくださいね🌱



ももんが

No.143 09/08/11 17:09
幸 ( 10代 ♀ VMXe )

やばい…ファンになりました(笑)物語に引き込まれてしまいました💦

他の方のレス読んだら他にも作品あるみたいなので読んでみます😃
頑張って下さい✌

No.144 09/08/11 18:16
モモンガ ( PZ9M )

>> 143 幸さん🌱



山川さんのお話読んでくださりありがとうございます😺



ももんがと申します🌱



今までの作品は2作品で



『きらきらぼし』と


続編の『ラブレタ―』です



山川さんとはだいぶ内容が異なりますがよろしかったら覗いてみてくださいね😺




お話しできて嬉しかったです😺🌱



ももんが

No.145 09/08/11 18:28
モモンガ ( PZ9M )

知ってるかな



最近の屋上事情ってすごいんだよ




国の温暖化防止にかける意気込みだと思うけど




屋上もかなりのエコなんだよね



うちのビルはかなりの高層だけどなんと屋上には木が生えている




花もある




なぜか野菜もある





そしてあたしはたまにお弁当の際にくすねたミニトマトなんかをのせてみたりもする(よい子のOLは真似しないでね)



あたしにはお気に入りの場所がある




屋上にエレベーターがつき短い階段を上がると中央の階段を更に左に曲がる




突き当たりに給水塔が並んで置いてあるんだけど



その一番端のタンクの脇にここを管理している腰の曲がったじいさんがいる部屋がある





そこにいるじいさんがあたしの弁友のマッキ―である



マッキ―はくれよんしんちゃんのヒロシの父ちゃんみたいに万年つるぴかの陽気なじいさんで




たまに下ネタなんかも言ういやらしいが働き者のじいさんだ



あたしがこの会社に入ってはじめて話したのもマッキ―かもしれない

No.146 09/08/11 18:47
モモンガ ( PZ9M )

入社後入ったはいいが完全に浮いていたあたしは会社のみんなとランチに行く事もできず机の上でいつもマイ弁当を食べていた



『なんや若い女の子が一人で弁当かそんなんじゃ他フロアーのイケメンとランチデ―トできんぞ』



それがマッキ―の第一声だった



つるつるの頭にたれ目の可愛いおじいちゃん



白いポロシャツに薄いベージュのチノパンに白いスニーカー



マッキ―はいわゆるビルの管理人でお掃除おじさんだ



あたしは不信に思いながらも会話を続けた結果マッキ―による『この会社の穴場』である屋上を教えてもらったのである



それから3年



雨が降ろうが風がふこうがあたしはマッキ―とのランチを意外と楽しみにしている




小さな管理室兼掃除道具入れにつくとあたしは小さなノックを二回した




『マッキ―お昼食べよ!』




『おっ、ひろちゃんいいよ入って―



見てみて~可愛いやろ!『ぱふゅ―む』の新しいポスター



あ―ちゃんめっさ可愛い!



…ってやまちゃん可愛らしくなったなぁ!茶色い頭にあっとるなぁ



俺は染める髪もないけどなぁ



おっさんが染まるのはあ―ちゃん一色やし』

No.147 09/08/11 19:07
モモンガ ( PZ9M )

『マッキ―…


それ、絶対他の社員の前でやったらいかんよ



どんびきだよ、もぅ』




あたしはアルミホイルから朝握ったおにぎりを取り出していた



『お茶入れるわな』



手慣れた様子でマッキ―はいつもの玄米茶を入れてくれる




マッキ―の部屋は六畳くらいのコンクリート続きの部屋だ



真ん中には事務机に書類があり電話に伝票が積み上がっている



その奥には小さな白い冷蔵庫や電子レンジがあるが掃除のいき届いた綺麗な部屋だ





そしてその壁一帯には『ぱふゅ―む』のあ―ちゃんが丁寧に一枚ずつ貼られている



御年65歳



すばらしいアイドル魂だよね




『ねぇマッキ―』


『なんや』




『マッキ―は奥さんとかいないの?』



『ふ―ん…奥さんねぇ…


おったようなおらんような…



今は一人でおる方がええわ、性にあっとるよ』






そう言って偽物ブランドのセカンドバックから上品に笑う白髪頭の女の人の写真を 見せてきた




『嫁はんや



もう10年以上前に病気でいってまいましたがな』




玄米茶から柔らかい香りと白い湯気が立ち上ってきた

No.148 09/08/12 14:13
モモンガ ( PZ9M )

『ひろちゃんはアルツハイマ―って知っとるか?




うちの嫁さんなぁそれにかかってしまいましてなぁ




最後なんかは徘徊する元気もなくてな




車イスに座りっぱなしで…



親切な方ですねって


わしをわからんまま一緒に過ごしてましたわ




まぁ…



介護もキツくていつもしんどい思ってたけど





死んだら死んだで



あぁ…もっと優しくできんかったかいなぁなんて思うだけですわ




でもできるだけの事はしたから後悔らしい後悔はありませんな、はいひろちゃんお茶』



『まっき―も大変だったんだね



アルツハイマ―って痴呆の事だよね



前に見たよ


役所こうじぃの『明日の記憶』だっけ…




アルツハイマ―ってゆっくり進行するんだよね




うちはおじいちゃんもおばあちゃんもまだ元気だから実感はないけど…



奥さん



まっき―と最後まで一緒できっと幸せだったろうね



あたしならそう思うけどな…』



『幸せだったかどうかはわかんねぇけど、頭で忘れててもどっかでいい記憶だけ持って嫁が天国いけりゃあ俺はそれでいいんさ』


マッキ―は雲の隙間からこぼれる太陽の光を優しい顔で見ていた

No.149 09/08/12 14:28
モモンガ ( PZ9M )

『さ、それよりメシメシ




見て、今日わしロッテリアンの絶妙バ―ガ―買ったの



どんだけ絶妙か気にならない?



半分食べて不味かったら返金してくれるんやって



うまくても半分食べれば返金やに』




マッキ―は玄米茶を飲みながらハンバーガーをほうばった



あたしもマッキ―から受け取ったお茶に口をつける



甘くてほっとする味だ



『ねぇマッキ―



マッキ―はあたしの事どう思う?』




マッキ―は口から食べかけのレタスとお茶を吹き出すと口もとを押さえた




『ひろちゃん



いや、まずいって



わしは確かにこの会社の中ではひろちゃんはかなりのマブダチだけど




わしはまだ嫁さん一筋やし



わし65歳やろ、ええと…ちょっとまってや』



『マッキ―…




本気ならおしりひっぱたくよ』




マッキ―は肩をすくめながらお茶をつぎなおした




『ちょっと聞きたいんだけど



あたしってやっぱりブサイク?




周りより性格もいかん?






やっぱり内面より外見なんかな



マッキ―はどう思う?』

No.150 09/08/12 19:54
モモンガ ( PZ9M )

『ははん…


さてはひろちゃん気になる男ができたな?



わしに隠し事はなしやで~


そやろ?違うか?ズバリやろ』


マッキ―は残りのハンバーガーを半分残すところが指についたタレも綺麗に食べきっていた




あたしはしゃけのちょっと焦げた所を指でよけながら言った


『違うよ、好きな人なんかいないけどさ


ちょっと色んな人と出会う機会があってさ



自分を変えるにはどうしたらいいのかなって考えるようになってね



それであたしなりに思ったのは外も中も少しずつ変えていったらいいんじゃないかなって…



でもさ



なんか自分が頑張っても目標っていうか自分が変わった姿なんか誰も望んでないんじゃないかって…



虚しくなったりしてさ、変わることに意味なんかそもそもあるのかな…』



『う~ん…わしは女心にはとんと疎いからなぁ



だけど死んだ嫁がないっとったわ



ちゃんとこっちを向いて下さいって



いつも一緒におるのに何をいっとるんかいなって思ってたけど…




嫁がなアルツハイマ―にかかってから何の因果かその通り嫁を四六時中見ることになった時に色んな事がわかったんや』

No.151 09/08/12 20:09
モモンガ ( PZ9M )

『いつも当たり前みたいに飯食ってさ


風呂入ってさ



服着てさ



冷えたビール飲んでさ




枝豆なんかもついてきてさ




眠くなったら布団に倒れ込んどった



それがな、わし当たり前と思うとったん


だってわしだって仕事頑張っとったし



家のために頭下げたり書類書いたり残業しとったもん




でもな




嫁はいつも家の中では穏やかやったし



そんなんケンカもせんかった



でもな、何もまわらんのや嫁がおらんと



飯も風呂も着替えも掃除も買い物も町内の集まりも家計のやりくりもな




嫁がおらんとなんも…


たのしくないんや』




マッキ―は綺麗に手を拭いた後に優しく微笑む奥さんの写真をもう一度見つめた

No.152 09/08/12 20:22
モモンガ ( PZ9M )

『ひろちゃん


わし思うんや



人間さ誰だっていい生活やいい環境で生活したい



いい飯も食いたいし

いい格好もしたいな


だけどな、それは一人じゃあつまらんのや



『お疲れ様』って枝豆もってきてくれて



うちわであおぎながら風呂上がりのわしに笑ってくれた



嫁がいたから




楽しかったんや




着飾ることもせんし


派手でもなかったけど



わしにはもったいない良い嫁さんやった




見た目でも中身でめなく




そのまんまのそいつがいいって




そういう相手にひろちゃんもいつか会うやろうな




ブザイクでも性格が悪くても



ひろちゃんじゃなきゃいかんって男がさ



そしたらわしに紹介してな




きっちり見極め足るわ



わし、こう見えても人を見る目はあるんやで





おかげでいい嫁さんゲットしましたしな』




マッキ―は大切な奥さんの写真をハンカチに巻いていつものセカンバックにしまった




あたしはなんとなくマッキ―の言わんとすることがわかった気がした




見た目や中身や財産や




本当に大切な人に出会ったらそんなのとるに足りない事

No.153 09/08/12 20:46
モモンガ ( PZ9M )

自分を飾ったり変えたりして価値をあげるのは色んな人と出会ったり自分の自信を作り上げる材料に過ぎない





いつかその中から本当に大切な人にあったら



その人がかっこよくなくてもブザイクでもだらしなくても




自分にとって必要なら何もかも受け入れてしまうんだろうなぁ




例えそれがすべてプラスにならなくても





いいなぁ



あたしもいつもジャージでも




いつもすっぴんでも



ご飯うまく作れなくても




笑って話せる誰かに会えるのかな…





『はい牧野ですけど』



マッキ―が机の上の電話をとった



どうやら社内からの電話らしい



時計をみると一時五分前になっていた




あたしはメモ用紙を一枚取ると




(ありがとう(^O^)また明日お昼くるね!山野)




そう書いて持ってきたカバンを持ち席を立った



エレベーターに向かう途中、空を見上げた




幸せだったろうマッキ―の奥さん




今日もがんばり屋の旦那さんは元気ですよ




あたしはそう心の中で呟いた

No.154 09/08/13 03:04
モモンガ ( PZ9M )

席に戻るとパソコンの受信トレイに通知が来ていた




まみちゃんからだ





あたしはチラッと彼女の机を見たが真面目にお仕事をしているようだ




それもそのはず




今日の社長は秘書課にデスクがある




御愁傷様だね

まみちゃん




あたしは受信トレイを開けた



『山ちゃんへ(^_^)v


お疲れ様!さっきはアネキャンパスありがとね♪♪


お礼に山ちゃんにとっておきの情報を教えてあげる♪♪



うちの兄貴は超甘党で密かに『マダムマツダ』のケ―キバイキングに通ってます



多分今日も行くんじゃないかなぁ?



いわゆるスイ―ツ男子なわけ♪♪



山ちゃんもお暇ならいってみたら?



特にメロンショ―トケ―キがお勧めだよ♪♪




健闘を祈る♪まみ』




う―ん…まだ誤解してるなぁ




まぁいいけどさ




てか『マダムマツダ』って何?



知らないんですけど…




文面からするとケ―キ屋さんだよね



う―ん…



まみ兄がバイキングにねぇ…



にわかには信じがたいがすごいよね



想像するだけでゆるんでくる頬をあたしは必死に押さえ込んでいた

No.155 09/08/13 19:35
理子 ( deWHh )

おひさしぶりです。
お体の具合はいかがですか?
何事も無理はしないで下さいね。

楽しみに読ませて頂いています。
ご本になるのを楽しみに待っています😊

No.156 09/08/14 00:59
モモンガ ( PZ9M )

理子さん🌱


お久しぶりです😺


ただいま仕事が終わりました🌱



夏場は解放感もあってかももんがの勤めるス―パーも10代とおぼしき子供たちが今の時間でも沢山入ってきます😹💦



大丈夫かなぁ…



なんて思いながらレジを通すももんがでした🌱




理子さんは夏場の思い出はもう作られましたか?




もう少したったら季節は違いますが山川さんにも何か素敵な思い出を作ってあげたいです🙆🌱




よかったらまた遊びにいらしてくださいね🌱お待ちしています🙇



ももんがより

No.157 09/08/15 17:08
モモンガ ( PZ9M )

『あ―っ…もぅ社長のいるデスクはだるいよね!



お化粧直しもできないしさ




お菓子も食べらんないしさ




マニキュアだって塗り直せないんだよ?信じられる!?』



『まぁまぁ…



社長も社員に混じってラフに動きたいんですよ




うちの社長変わってますしね…』



『そりゃあ河村ちゃんは外回りだしさ



他企業のかっこいいお兄さん達に癒されるからいいよね~



まみも絶対こんどの移動には営業にチャレンジしちゃうんだから』




あたしを間に挟みながらまみちゃんと河村さんがガ―ルズト―クを楽しんでいる



みなさん


こんにちわ山川弘美22歳です




わたくし只今会社を終えてこちらのまみさんの鶴の一声でマダムマツダに潜入いたしております




彼女いわくこれは


コンパの『反省会』なのだそうです




…っかさ何の『反省』なん?



あたしにはさっぱりわからないけどとりあえずは来てみました



『ってか松田さんとかわむらっちどこにあれから行ったの~?』

No.158 09/08/15 17:18
モモンガ ( PZ9M )

『え?松田さん?


ああ…あの人…



松田さんっていうんだ



今初めて聞いたわ



朝あたしの方が先に出たし…連絡も聞かなかったから…』



『え――――っ!?

河村ちゃんもうやっちゃったの



早すぎない?せめて一回は呼吸おこうよ~



おいしいご飯も食べずにやっちゃうなんて河村ちゃんがっつきすぎだよ~



もったいない!』



『そうかしら?



セックスなんてただの余興でしょ?



気にいったらするし
気にいらなかったらしない


付き合っても付き合わなくてもするときはするんだし



そこから始まる出会いもあるんだから



そこまで驚く話しかな?


何もみんな処女でもないでしょう』



そう言った河村さんの言葉を聞いてまみちゃんがあたしを軽く指差した




河村さんもまみちゃんもここがケ―キ屋ってわかってます?



イチゴもフォークからそりゃ落ちるよ




あたしは顔を両方の頬に合わせながら首を静かにふった

No.159 09/08/15 17:33
モモンガ ( PZ9M )

『何?山川さんってまだなの?



えっ


私とそんなにかわらないわよね?』


河村さんが目を丸くしてあたしの顔を覗きこんできた



『まみが21でしょ


山ちゃんが22



河村ちゃんが25だよね?』




『それは今時貴重な存在よね…




こういう話題きわどい?



ごめんね私うまれてずっと女系のミッションスクールで大学まで上がったからこうい話しなんて日常茶飯事なのよ



別になんとも思ってなくてもとりあえずはやっちゃうのよね



今時の言葉で言えば肉食系女子になるのかな?




会話や価値観も大切な事だけど私にはセックスの相性ってのもかなりのウェイトでね


まあまあかなって思うととりあえずはつまんじゃうのよね』



河村さんはチョコレートをフォークで刺すと一口でほうばった



肉食系女子…




たしかに河村さんのイメージだけどリアルすぎてなんだかしんどいなぁ…




外見でもなく中身でもなくとんでもないお題がでたよ



こんなの予定外や~

No.160 09/08/15 17:46
モモンガ ( PZ9M )

河村さんにとってはルパンもチョコレートも同じレベルなのか…



『ちょこっとつまみ食い』




おいしかったらまた食べるけど


そうでもなければまた違うチョコレートを探す…





河村さんあなどれず…



ただの綺麗なお姉さんじゃあないんだね


さすが『悪い子』


普通なあたしには道のりが遠すぎるよ…



『でもさ、山ちゃんも兄貴と朝帰りしたんだよね』



『あらあら、それはそれは…



同僚のお兄さんだしと思って遠慮したんだけど




私も本当はお兄さんの方が好みなのよね



山川さんあなどれないなぁ』




二人が顔を見合わせて幾度となく頷いた



『…で、やったの?』



河村さんが声をひそめる



だからここはケ―キ屋さんだってば




興味津々な二人にあたしは小さく首をふり『あるわけないです』と答えた




『え――?


いい大人が一晩中一緒にいてセックスなし?




何してたのよ山川さん




お兄さんもなんと言うか…



貴重よね…』

No.161 09/08/15 17:59
モモンガ ( PZ9M )

『我が兄貴ながら情けないよね



27にもなってさ…


昔なら多分食っちゃってんだよね



まぁ…昔の何とかで今はだいぶおりこうに…』




『おりこうに…何だ

このお喋り娘…



この空っぽの脳みそにホイップクリームつめたろうか』




まみちゃんの背後から紺色のス―ツにストライプのシャツを着たまみ兄がまみちゃんのこめかみにげんこつをあてながらグリグリしている



『痛い痛い~



もうやめてよ~せっかくの反省会に誘ってあげたのに



そんなんじゃ山ちゃんに嫌われるよ』



『おお山ちゃん



今日はバカな妹に付き合ってくれてありがとな



左から聞いた話は右から流せよ




こいつに関わるとロクな事にゃならん』



あたしは苦笑いを浮かべて注文していたメロンショ―トを口に運んだ



『かわいくないなぁ



ここのケ―キ大好きなくせに~



今日はあたしらのお陰で堂々と食べられるよ?



感謝こそしてもらってもゲンコツもらういわれはないなぁ』



まみちゃんがムスッと口をとがらせている

  • << 164 別に自分の事を攻められている訳じゃないのに うつむいたら涙が出そうだった 別にまみ兄が好きとか気になるとかそんなんじゃないけど 胸の中がムカムカして渦をまいているようだった まみちゃんもムスッとして足をブラブラしている 『山ちゃんごめんな まみが変な事言って… 気ぃ悪くしんといてな? うちの妹頭のねじが少し緩くてさ~ あ、きたきた俺の分 はい、ありがと』 到着したケ―キにやっと、まみ兄の表情が少し緩んだ 何だかもうこの場から逃げたしたいよ 何だか自分の気持ちに説明がつかなかった 『あの…あたし帰ります』 『えっ?なんで?』 まみちゃんとまみ兄が声を揃えた 『ほら~兄貴が怖い顔するからだよ 場の雰囲気悪くする天才なんだから』 『何でだよ お前が頭にくる話題ばっかり降るからだろ 山ちゃんには全然関係ないのに… って… 山ちゃん…どうした? 俺、何か傷つけちゃう事言った… 言ったかな』 あたしは頭を左右に振りながら小さく肩を震わせていた この時の気持ちに説明なんてできないけど 涙があとから止まらなくなっていた

No.162 09/08/15 20:36
モモンガ ( PZ9M )

『う…まぁ嫌いじゃないけど常連ってほどじゃないぞ


ほら…ほかのみんな引いてる感まるわかりなんだけど…



お前何喋ったんだ』



まみ兄とまみちゃんがじゃれている間に河村さんの携帯のバイブが鳴った



『…はい


ええ!?



今更そんな


先方がですか…


…はい、わかりました。すぐ戻ります』

『どうしたんですか?何かトラブルですか…?』



あたしが慌てて河村さんのジャケットを渡すと大きなため息をついた



『うん…詳しくはまだ言えないんだけど



今度うちの会社で扱う新商品のCM撮りでね



クライアントがOK出してた女優さんが事故起こしちゃってね



商品のイメージに合わないからって企画自体を白紙に戻したいって…』



『ええ?だって代打でいいんじゃないの?いるんでしょ控えの人』



まみちゃんも身を前に乗り出した



『う~ん…


気難しい社長でね



構想からOKまでどんだけかかったと思ってんのよ、あのハゲ親父



絶対オシャカになんかしないわよ』




河村さんは最後のチョコレートスポンジを口にほうばると勢いよくコ―ヒ―を飲み干した


『悪いけど行くわね』


河村さんは軽く手をあげて足早に店を後にした

No.163 09/08/15 20:56
モモンガ ( PZ9M )

『かっこいいな~


働く女はああじゃなくっちゃな


まみ、無理だと思うけどお前も見習えよ


あ、すいません俺ホットにメロンショ―トと濃厚ミルクとタルトチョコレート』



…メニューも見てないのに言えてる…



まみ兄はネクタイをゆるませると一番上のボタンをはずしグラスに入った氷水を一気で飲み干した


『はぁ~生き返るなぁ』




『おっさんくさい



そんなんじゃ天国にいる理香さんも鼻で笑ってるよ』



言った瞬間まみ兄の顔が少し曇った



『お~ま~え~は~



喋れんように口の中そこのクリームチ―ズ塗り込んだろか




このお喋り娘が』



『いいじゃん、もう


兄貴が山ちゃんとうまくいったらいいのになぁ~って



まみは応援してんだよ~



だってそうじゃん



この三年で女がらみの朝帰りなんて山ちゃんとだけじゃん?



気に入ってるんなら理香ちゃんに遠慮なんかしなくても…』



『まみ、うるさい



それ以上喋るな



山ちゃんに失礼だぞ



理香と山ちゃんは関係ない



お前も余計な詮索はするな』





まみ兄の少し尖った声が胸に突き刺さった

No.164 09/08/15 21:11
モモンガ ( PZ9M )

>> 161 『我が兄貴ながら情けないよね 27にもなってさ… 昔なら多分食っちゃってんだよね まぁ…昔の何とかで今はだいぶおりこうに…』… 別に自分の事を攻められている訳じゃないのに



うつむいたら涙が出そうだった



別にまみ兄が好きとか気になるとかそんなんじゃないけど



胸の中がムカムカして渦をまいているようだった




まみちゃんもムスッとして足をブラブラしている




『山ちゃんごめんな


まみが変な事言って…

気ぃ悪くしんといてな?



うちの妹頭のねじが少し緩くてさ~




あ、きたきた俺の分


はい、ありがと』




到着したケ―キにやっと、まみ兄の表情が少し緩んだ




何だかもうこの場から逃げたしたいよ



何だか自分の気持ちに説明がつかなかった



『あの…あたし帰ります』


『えっ?なんで?』


まみちゃんとまみ兄が声を揃えた



『ほら~兄貴が怖い顔するからだよ



場の雰囲気悪くする天才なんだから』




『何でだよ



お前が頭にくる話題ばっかり降るからだろ




山ちゃんには全然関係ないのに…



って…



山ちゃん…どうした?



俺、何か傷つけちゃう事言った…



言ったかな』




あたしは頭を左右に振りながら小さく肩を震わせていた



この時の気持ちに説明なんてできないけど



涙があとから止まらなくなっていた

No.165 09/08/15 21:33
モモンガ ( PZ9M )

『山ちゃん



山ちゃん…ちょっとお前も何か言えよ』



まみちゃんはしばらくあたしを見ると



『まみは知らない~


兄貴がわるいんだよ~だ




この罰はここのお会計と山ちゃんを家まで送ることね



いいか



絶対やんなよ』



まみちゃんはまみ兄にビシッと指を刺すと



『さ~て


どの子とデ―トしてこようかなぁ



あ♪帰りは遅くなりま~す



それじゃあ♪』



『おい…お前ちょっ…



あ―あ…



いっちまった…




山ちゃん?
山ちゃんよ~



ごめんなぁ…俺多分どっかで変な事いったんだよな…



うわぁ…



妹の連れは泣かすし


生クリームは食べてるし…




俺、今ぜって―怪しい設定だよな



うわ―


どうしよう』




困った様子でまたまたケ―キを口に運んでいる



あたしは泣きながら


困った顔でケ―キを食べるまみ兄が可笑しくて



つい笑ってしまった


『あ、笑った



今の顔おもしろかった?



リプレイ リプレイ』


『辞めてくださいよ…



ぷっ、みんな見てますよ』




『いいのいいの


今の俺の使命は山ちゃんを笑わせることにつきんの



はい笑って笑って』

No.166 09/08/15 21:46
モモンガ ( PZ9M )

あたし達は何となく和んだ後に



とりあえず店を出ることにした




泣いたことに理由はつけなかったが




まみ兄もそれ以上は聞いてこようとはしなかった




会社からこのマダムマツダまでは地下鉄を乗り継いで来ていたが




帰りはまたしてもまみ兄が送ってくれることになった



『何だか毎回すいません…



しかもしっかり奢ってもらっちゃって…』



『うん?いいのいいの




そんなんは気にしないのよ




お兄さんお金持ちなんだからさ』



車からはまたあの日のスローバラードが流れていた




借金一千万が不意に頭をよぎったが



この話には断じて触れてはならないのだ…




車は会社の前を通りあたしの家の方へと進んでいた




あたし達は無言で特に何を話すわけでもなくしばらくを過ごしていた





まみ兄が思いきったかあたしに話しかけてきた



『さっきの…



まみが言ってた話…



何かまみから聞いた事ある?』



『いいえ…



あ…あの



昔の彼女さん…ですよね



きっと』



『うん…そう…




女々しいんやけどね


三年前まで付き合ってた子がいてね



理香って子…



まぁ…その…


死んじまったんだけどね』

No.167 09/08/16 02:31
モモンガ ( PZ9M )

『詳しく話すとかなり長くなっちゃうから省略ね


…でもバカな妹から間違った情報が伝わってもやだしな




山ちゃんちょっと車停めてもいい?』




まみ兄は車を車線から外して店じまいしているコンビニの前にゆっくり止めた




『山ちゃん何飲む?』



『あ…じゃああたしが出します



さっきの払ってもらっちゃったし



何がいいですか?』


『ん~じゃあブラックで宜しく



あったかいのね』



あたしは少し笑いながら同じものを2つ買った




『はい、どうぞ』



車の硝子越しにプルトップを立てて渡した



まみ兄はそれを受けとると



『懐かしいねぇ…



理香も…



彼女も俺に缶ジュース渡すときに必ずここ立ててくれたなぁ…




気の利く子でね…




俺より3つ年上で



生きてたら今年30かぁ…』



まみ兄の吐いた息が夜の空気に染みたように白く変わっていく



あたしはただ黙ってまみ兄の話に聞き入っていた



気の利いた台詞なんか出てくるわけもなかった

No.168 09/08/16 03:21
モモンガ ( PZ9M )

『今から言う話は俺の独り言ね



改まって人に話した事もないしさ




…正直

まだ三年って気持ちの方が俺ん中ではデカイんだ



ごめんな




えっと…


どっから話そうかな…



うん、とりあえずは俺が大学生んときから通ってた美容院があって



そこの店に移動で入ってきた人が理香



前の彼女ね



ばっさり短い髪でね


身長なんか俺とほとんど変わらないくらいでかくてね



よく笑ういい子だったな…




美人と可愛いの中間みたいな人でね



後輩の面倒もよく見るお節介焼きで




趣味はパン作りと美容関連



とにかくいつも忙しそうにしてたよ




俺が一念発起して告白して…




ありがたい事にうまくいってさ



彼女、夢があってさ



『独立して店を持ちたい』ってずっと頑張ってた




付き合ってちょうど2年が過ぎた頃にさ



海岸の近くのサ―フショップが閉店するって話がでたんだ



一緒に見に行ったら白い外観でこじんまりしてたけど中はデカイプロペラがあったりボードが飾ってあったりしていい雰囲気だったよ

No.169 09/08/16 03:32
モモンガ ( PZ9M )

彼女もそこがすっかり気に入ってね



売り出しは土地と建物込みで3500万



中のインテリアもそのまま使っていいって条件だった



何よりこの話を理香に持ちかけたのは理香の昔からの友達でね



凄く信頼のおける人だからって



溜め込んだ1500万を頭金に理香は契約しようとしたんだ




それが…



アイツら…』




まみ兄の顔がいつの間にか両手の中にうずくまっていた




何があったのか右手の握りこぶしで自分の太ももを叩き出した



鈍い音が何回かした頃に小さなため息をゆっくり吐き出しまた話の続きをしだした




『…アイツらは



理香の金を踏んだくってトンズラしたんだよ



1500万全部持って…



しかもあんな…』


そこまで言うとまみ兄はしばらく固く口をつぐんだ



あたしは隣で黙ってうなずくしかできなかったが




まみ兄の彼女への優しさや想いに対する強さは容易に想像してとれた




『お兄さん



もういいですよ…


そんな辛い話


まだ無理ですよ



あたし…』

No.170 09/08/16 03:42
モモンガ ( PZ9M )

『アイツらはゴミだ



アイツらは理香に…


理香を…



理香を壊したんだ』



それが女の人に対してどんな状態をさしていたのか



バカなあたしにも想像がついた



『壊した』という表現は亡くなった彼女へのお兄さんの未だにある愛情がそう言わせたのだと思う




こんな辛い話



あたしはどう聞いたらいいんだろう…



聞いたあとに



どんな言葉をかけたらいいのだろうか…



『俺がその異変に気が付いたのは翌日だったよ




携帯にも電話にも出ないから心配で店に様子を見に行ったんだ




そしたら店も無断で休んでるって…




慌てて自宅へ飛んでったよ



彼女、独り暮らしでね



俺も鍵をもらったばかりだったんだ



でも…鍵は開いてたよ…




中はいつもと変わらなかったよ




何にも変わらなすぎてわかるまで凄く時間がかかったよ






彼女が寝ていたベッドにもリビングにも


彼女の姿はどこにもなかった

No.171 09/08/16 03:45
モモンガ ( PZ9M )

『アイツらはゴミだ


アイツらは理香に…

理香を…理香を壊したんだ』



それが女の人に対してどんな状態をさしていたのかバカなあたしにも想像がついた



『壊した』という表現は亡くなった彼女へのお兄さんの未だにある愛情がそう言わせたのだと思う




こんな辛い話あたしはどう聞いたらいいんだろう…




聞いたあとにどんな言葉をかけたらいいのだろうか…



『俺がその異変に気が付いたのは翌日だったよ携帯にも電話にも出ないから心配で店に様子を見に行ったんだそしたら店も無断で休んでるって…





慌てて自宅へ飛んでったよ彼女、独り暮らしでね俺も鍵をもらったばかりだったんだでも




…鍵は開いてたよ…中はいつもと変わらなかったよ



何にも変わらなすぎてわかるまで凄く時間がかかったよ




彼女が寝ていたベッドにもリビングにも彼女の姿はどこにもなかった

No.172 09/08/16 20:03
モモンガ ( PZ9M )

部屋中くまなく探したよ



嫌な予感がして…



友達とこれから契約しに行くからって電話があった時に





俺がついて行ってればあんなことには…




あたしはどうする事もできなくて


話を静止しようか聞き続けていいものか迷っていた



『山ちゃんごめんな~


いきなりこんなダ―クな話されてもテンション下がるわな~




だよな~

ごめんごめん


もうやめよっか』




まみ兄は残っていた缶コ―ヒ―に口をつけた




あたしはそれ以上聞くこともせず



まみ兄も話そうとはしなかった




結局…



その彼女がどこで自らの命を絶ったのかはわからなかったが



彼女にも


まみ兄にも




お互いの人生を大きく変えてしまうほどの何かがあった事だけはわかった




まみ兄はあたしの家の前までくるといつもの明るい笑顔でまたなと言った




何だかその笑顔が少し痛くて胸の奥が傷んだんだ

No.173 09/08/17 02:37
モモンガ ( PZ9M )

『しっかし重い~



これが好きな人の弱音とかでさ


あたしがまみ兄を好きな設定なら…


『あたしじゃ駄目ですか…』




みたいなさぁ


ねぇ~昼ドラじゃんこれ




百万が一もありえないけどね』





あたしは湯船につかりながら今日の事を振り返っていた



恋愛免疫力も
男性免疫力もないから



うかつに接近すると『うっ』って反応しちゃうけど

きっとこれは恋ではないはず

ケ―キ屋で涙がでたのも


なんていうか…


頑張ってる自分じゃなんか歯が立たないっていうか…



うまく言えないけどきっと自分に自信なんかないし



劣等感…みたいな気持ちに近いのかな



自分らしく頑張りたいと思ったり



誰かと比較してへこんだり



自信をつけて自分らしくって結構難しいよ




そもそもあたしが他の人より勝るものってあるのか?

No.174 09/08/17 02:52
モモンガ ( PZ9M )

なんだろう…



早寝早起き?




意外に字が綺麗?





料理は作れないけど舌がこえてる?





『伝票の入力が早い!!』



…って地味だよね~



これが早くてもあんまし自画自賛にはなんないよね…』



他の人にないあたしだけの強みかぁ…



そういうのを一個ずつ持つ度に



仕事もプライベートも何か





強い気持ちで向かっていけるのかな




『まぁ、とりあえずは今日もよく頑張った頑張った



あたし



お疲れ様』



ちょっとずつ新しい自分になれるように


自分が好きになれるように…





あたしも頑張ろう!




『神様



マッキ―の奥さんも
まみ兄の彼女も



空では幸せに二人を見てるんですかね




お互い『頑張れ』って伝えられたらいいのにね




風呂場で鼻まで湯船につかりながら今日のあたしはそんなことを考えていた

No.175 09/08/17 09:52
モモンガ ( PZ9M )

翌朝会社に行くとなんだか社内が慌ただしい



社長も若干ご機嫌が悪い



何だ?何だ?


そう思っていると営業の主任が二人部下を引き連れて緊急ミ―ティングを始めた



そのなかには昨日連絡を受けて早く帰った河村さんの姿もあった





『だめだなぁ…暗礁に乗り上げたなこりゃ』


誰かがあたしの後ろで話している



しっかり聞き耳



なんだなんだ




『あれでしょ?来年の春に出す予定の美顔機のモデルが不倫の相手と事故ったってあれ




クライアントの社長の好みがうるさくてなかなか次が難しいみたいだよね



ポスター撮りやらしゅざいやらイベントやらもう時間ないんでしょ?




よっぽどの人材の代打じゃないと新商品自体この世にでないかもね~




あんなにみんな頑張ってたのにね』





みんながその動向を気にしながら作業に取り組んでいる



机を囲む河村さんにも疲労の色が隠せない

  • << 178 『みんなが大変そうなのにすいません あたし何にもできなくて… あ、ちょっと早いけど何かお腹に入れますか?買ってきましょうか?』 『本当?助かる… じゃあ通りにあるサバウェイでアボガドサンドとポテトのセット頼める?』 『ああ、いいですよそれくらい…ちょっと待っててくださいね 財布出しますから』 あたしは自分のカバンから財布を取り出そうと探った 『なんだこれ?』 カバンの底に二枚名刺が落ちていた 一枚はまみ兄のもの 一枚は… 『おった 芸能人… これ飯田みゆうさんの連絡先だ そっか…あたしあの日連絡先もらってたんだっけ…』 そこには所属事務所と名前 名刺の裏にはピンクのキラキラペンで携帯電話の番号が書かれていた ひょっとしてひょっとしたら ひょっとしたりするのかも? 前方には途方にくれる同僚 機嫌の悪そうな社長 これはお役にたてるのかも あたしは通りのサバウェイに向かいつつ手のなかに握りしめた名刺を片手に歩き出した

No.176 09/08/17 17:30
モモンガ ( PZ9M )

詳しく話すとこうだ



来春そうそうに発売される美容美顔機のイメージガ―ルのモデルが事故ったのだ



しかも同席していたのは妻帯者



そう、二人は不倫中だったのだ




しかも彼女のお相手が人気俳優Aだったためマスコミに騒がれてしまった



タ―ゲットだった30-40台の主婦は心中穏やかではないだろう



キャッチコピ―の『今の私からこれからの私へ』が虚しくみえる




こういう場合にはたいてい代打を打つ代わりのモデルやタレントがいるんだけど



今回のクライアントの社長が好みにうるさいのだ



今回はウチとその会社の共同作品になるのでこちら側の一存だけでは何もかも決められない




へたすればこの企画へたるかも…




詳しくはわからないが相手側の社長をうならせる人材を手配するしかないのだが



発売価格やらなんやらもう決まっているならそこにはまっているタレント代はそんなに変更できないのが常だろう



しかも人気のあるタレントなんかは急にはおさえられない

No.177 09/08/17 17:43
モモンガ ( PZ9M )

『ああ…もうどうしたらいいのよ…




あっちもこっちもダメだめってさぁ…




可愛くて明るくて清潔感のある企画にピッタリのこのギャラにあう人~』



机の上にうつ伏せて河村さんがぐったりしている



机の上には何人もの名前とペンで消された後が続いている



『お疲れ様です…



代打むずかしいんですか?




今日はずっと社内なんですね』




あたしがコ―ヒ―の入った紙コップを手渡すと河村さんは弱々しく受け取った



『あ~山川さん…


ありがとう助かる




他のメンバーはモデル事務所をかけまわったりクライアントの社長をコネにいってる




こんな状況だからって甘んじて妥協した人選にするつもりには絶対したくないんだって




あ~どうしよう



この一年みんなで企画から何から何まで力を合わせてようやく発表までこぎつけたのよ




絶対発売中止になんかしたくないのに…』




きのうまでの勢いもト―ンダウンしている




こればっかりはあたしに何かできるわけでもないが何か力になれないか考えてみた

No.178 09/08/17 17:55
モモンガ ( PZ9M )

>> 175 翌朝会社に行くとなんだか社内が慌ただしい 社長も若干ご機嫌が悪い 何だ?何だ? そう思っていると営業の主任が二人部下を引き連… 『みんなが大変そうなのにすいません



あたし何にもできなくて…




あ、ちょっと早いけど何かお腹に入れますか?買ってきましょうか?』





『本当?助かる…


じゃあ通りにあるサバウェイでアボガドサンドとポテトのセット頼める?』



『ああ、いいですよそれくらい…ちょっと待っててくださいね



財布出しますから』



あたしは自分のカバンから財布を取り出そうと探った



『なんだこれ?』




カバンの底に二枚名刺が落ちていた




一枚はまみ兄のもの



一枚は…






『おった




芸能人…



これ飯田みゆうさんの連絡先だ




そっか…あたしあの日連絡先もらってたんだっけ…』



そこには所属事務所と名前




名刺の裏にはピンクのキラキラペンで携帯電話の番号が書かれていた




ひょっとしてひょっとしたら




ひょっとしたりするのかも?





前方には途方にくれる同僚




機嫌の悪そうな社長



これはお役にたてるのかも




あたしは通りのサバウェイに向かいつつ手のなかに握りしめた名刺を片手に歩き出した

  • << 181 『あ、そんな悪いです ちゃんと必要なら買いとりますから言って下さい』 あたしがサンプルを差し返そうとすると店長はにっこり笑って言った 『山川様の綺麗に一つ貢献します もしつけてみて気に入ったらまた来店された時にお買い上げ下さい 今ね、シャンプーやトリ―トメントの新作内覧会に行ってきたんです どんどんいいものは使ってみないとね 僕の趣味は女の子を綺麗にする事ですから なんて…言い過ぎかな』 店長はあたしにサンプルを渡すと照れたように人差し指を鼻に当てた もうカッコいいから止めて~ 惚れてしまうやろ~ みんな何でこんなカッコいいイケメンがあたしみたいな眼鏡OLに話しかけてんのか不思議だろうなぁ 悪いね悪いね あたしはサンプルの蓋をあけて臭いを嗅いでみた 柔らかい甘い匂い… 『ありがとうございます 近々お店の方にもパーマをかけに行かせてもらいます その時はまたお願いしますね』 店長はお待ちしていますねと言い笑顔でレジのカウンターの列へと並んでいった

No.179 09/08/17 20:57
モモンガ ( PZ9M )

トゥルルルルル…


トゥルルルルル…




『七回目の電話もでない…か』






やっぱりガセだよね~



そりゃ…眼鏡はちょっと本物みたいだけど




芸能人が見ず知らずのあたしになんか連絡先を教えるだなんて…




あたしっておめでたいんだやっぱり



『アボガドサンドのセットお待ちのお客様



大変おまたせ致しました~』



平日の昼間ということもあり比較的店内は空いていたがポテトを作る時間があったのであたしは果敢にも名刺の裏の電話番号にかけていた


やっぱり無駄な抵抗だったか…




『おいしそうですね


山川様のお昼ですか?』



きき覚えのある声が頭の上から響いた



『…!あ


店長さん



美容室の…ですよね?』




ダッサイあたしと対照的に今日も店長は綺麗な青色のシャツに白いベスト


それに古い感じのデニムにスニーカー



頭には茶色のハンチング(だっけ)



眩しいくらいの男前です



よく見ると店内のおしゃれな女の子達の視線がチラチラ痛いんですけど(泣)

No.180 09/08/17 21:08
モモンガ ( PZ9M )

『山川様もココよくみえるんですか?



僕も今日はどうしてもサンドイッチ食べたくなってしまって…




山川様…



髪の毛、カサカサですよ


ちゃんとお風呂上がりにトリ―トメントしてますか?』



店長があたしはあたしの左側に座ると頭の上から毛束をもってパラパラと髪質を確認しだした





『冬はね、特に乾燥しやすいんですよ



会社の中にも暖房入ってませんか?



そういうときは洗い流さないトリ―トメントや美容液で保湿しとくといいですよ



あ、良かったらこちら差し上げますよ



洗い流さないトリ―トメントです



うちの試供品なんで悪いですけど…



ちょうど最後の一個です



ハイどうぞ』




店長は持っていたヘアカタログや新商品の入った紙袋からサンプルを一つ取り出すとあたしの目の前に差し出した

No.181 09/08/17 21:23
モモンガ ( PZ9M )

>> 178 『みんなが大変そうなのにすいません あたし何にもできなくて… あ、ちょっと早いけど何かお腹に入れますか?買ってきましょうか?』… 『あ、そんな悪いです



ちゃんと必要なら買いとりますから言って下さい』



あたしがサンプルを差し返そうとすると店長はにっこり笑って言った




『山川様の綺麗に一つ貢献します




もしつけてみて気に入ったらまた来店された時にお買い上げ下さい




今ね、シャンプーやトリ―トメントの新作内覧会に行ってきたんです



どんどんいいものは使ってみないとね



僕の趣味は女の子を綺麗にする事ですから





なんて…言い過ぎかな』



店長はあたしにサンプルを渡すと照れたように人差し指を鼻に当てた




もうカッコいいから止めて~





惚れてしまうやろ~




みんな何でこんなカッコいいイケメンがあたしみたいな眼鏡OLに話しかけてんのか不思議だろうなぁ




悪いね悪いね




あたしはサンプルの蓋をあけて臭いを嗅いでみた




柔らかい甘い匂い…




『ありがとうございます


近々お店の方にもパーマをかけに行かせてもらいます



その時はまたお願いしますね』




店長はお待ちしていますねと言い笑顔でレジのカウンターの列へと並んでいった

No.182 09/08/17 21:40
モモンガ ( PZ9M )

『あ…やばい


ポテトせっかく焼いてもらったのに冷めちゃうや』



店長に頭を下げ店を出ると腕時計の時間はちょうど11時にさしかかる所だった




会社に戻ると相変わらず河村さんは机に伏せって名前を書いた紙とにらめっこしていた




『はいどうぞ



アボガドサンドの到着です


一息付いてくださいね



朝御飯もまだなんですよね』




あたしは河村さんのまわりにいた営業さん達のぶんも熱いコ―ヒ―を入れた



『あっどうも』



みんなホッとした顔でそれを受けとる




ピリピリしていた空気が少しだけ和むような気がした




『それじゃあ、あたし戻りますね』



何度も頭を下げる河村さんに手をふりながら自分の席に戻った

  • << 184 『たなびく長い髪に愛嬌のあるキャラクター… 国民の認知もあり明るくて清潔なイメージ… あたしはあの日公園でみた飯田さんをイメージに重ねて合わせていた 茶色のサラサラのロングヘアに色白の肌 愛嬌のある笑顔に庶民性もある イメージだけなら100点満点 …なんだけどなぁ… こんな時に魔法でも使えたら今すぐこのピンチを救えるのにねぇ 『あっ…』 あたしは眼鏡の存在を思い出した そういえばあの不思議な眼鏡… 右側はお金持ちバロメーターだけど 左側はどんな機能がついてんのかなぁ… ひょっとして魔法やミラクルは起こせないのかなぁ… あたしはカバンの底にあった透明の眼鏡を取り出した 『試してみるか…』 いや… 会社では辞めておこう 万が一えらいことが起きても困るしなぁ あたしは今夜家に帰ったらこの眼鏡の秘密を探ろうともう一度ハンカチでレンズを擦るとカバンの中へと静かに戻した

No.183 09/08/18 20:25
モモンガ ( PZ9M )

>> 182 『はぁ――っ…』



あたしが長いため息をついていると蛭子さん似の福島さんが短く笑った




『らしくないなぁどうしたの山ちゃん』


『あっ、すいません仕事中に……今営業のデスク行ったんですけど何か大変そうで




勿論あたしに何ができるわけでもないんですけどね


でも何か落ち込んでる顔を見たくないっていうか…なんかじっとしてられなくて…』




あたしは山のような書類を選別しながら日付順に入力を始めた




『あぁ…うん僕も聞いたよ何か新商品の企画がこけそうだってね



でもまぁ大丈夫だよ見ててごらん、足かけ一年頑張ってきたチ―ムがこんなところで止まるもんか




営業の神様がきっと味方してくれるよ大丈夫』




『だといいんですけどねぇ…


みんなの健闘を祈るしかないわよね』




小川さんも向かいから口を挟んできた




『聞いた話だとクライアントの社長が凄くこだわりのある人でイメージ先行らしいわ



売り出しが春だから美顔機片手に髪がなびく画


で、優しくて明るくて清潔なイメージ年配からも若者からも好まれる風貌で愛嬌も必要



重視そんなタレントもモデルもすぐにつかまんないわよ、ねぇ』

No.184 09/08/18 20:36
モモンガ ( PZ9M )

>> 182 『あ…やばい ポテトせっかく焼いてもらったのに冷めちゃうや』 店長に頭を下げ店を出ると腕時計の時間はちょうど11時にさしかかる所だ… 『たなびく長い髪に愛嬌のあるキャラクター…



国民の認知もあり明るくて清潔なイメージ…





あたしはあの日公園でみた飯田さんをイメージに重ねて合わせていた




茶色のサラサラのロングヘアに色白の肌


愛嬌のある笑顔に庶民性もある



イメージだけなら100点満点




…なんだけどなぁ…



こんな時に魔法でも使えたら今すぐこのピンチを救えるのにねぇ





『あっ…』




あたしは眼鏡の存在を思い出した




そういえばあの不思議な眼鏡…



右側はお金持ちバロメーターだけど



左側はどんな機能がついてんのかなぁ…



ひょっとして魔法やミラクルは起こせないのかなぁ…




あたしはカバンの底にあった透明の眼鏡を取り出した




『試してみるか…』





いや…




会社では辞めておこう




万が一えらいことが起きても困るしなぁ




あたしは今夜家に帰ったらこの眼鏡の秘密を探ろうともう一度ハンカチでレンズを擦るとカバンの中へと静かに戻した

No.185 09/08/22 21:33
モモンガ ( PZ9M )

つつがなく業務が終了すると小川さんがすっくと立ち上がり福さんに頭を下げている




『お、時間だね


今日もお疲れ様』



細い目を更に細めて福さんは小川さんを労う




できる男は部下に寛大だ



仕事さえきちんとこなしていれば福さんは嫌みなど一言も言わないで小川さんを見送る




『あ…そうそう小川さんこれ娘さんに持っていってあげて』



『プリキュアのノート?


この間は鉛筆セット頂いたばかりじゃないですか…悪いですよ』



『だって僕がこんな可愛いノートで会議に出席できないでしょう?



いいからいいから


ほら、早くしないと娘さんに怒られるよ』



『いつも本当にすいません…


じゃあありがたく頂きますね


また明日』


小川さんは福さんに一礼するとあたしたちにも茶目っ気たっぷりにウインクをして小さく手を降った



しかし福さんは上司の中の上司やなぁ




毎度のことながら感心する




福さんはシンママの小川さんの採用の際もかなり社長と粘って交渉を味方したらしい



それは別に縁故とか事情があるわけでもなかったという

No.186 09/08/22 21:46
モモンガ ( PZ9M )

『福島さん…プリキュアのノートなんてどこで買われるんですか?



前も2つ鉛筆持ってきてましたよね』



右となりの早川さんがゆっくりした口調で福さんに聞いてきた




『ん?あれ?



いつもいく本屋さんでねポイント毎に買い物券がもらえるんだよね



ちまちま集めるのも性分じゃなくてね



小川さんの娘さんにプレゼントしてるの』




福さんは手元にある書類に紐を通しながら優しい顔をしてみせた





小川さんはそっかぁと納得した顔をして机を片付けている



福さんの嘘つきめ



あたし本当は知ってるんだ




福さんはちまちましたことが逆に好きであちこちのポイントカードやら会員証やら細々と集めている




本が好きな福さんがそんなに簡単にポイントを使うとは考えられないなぁ


だって500円で1ポインだよ




500ポイントでやっと500円券もらえるのにそんなにすぐには貯まらないよね?

No.187 09/08/22 22:09
モモンガ ( PZ9M )

福さん自身の体験が小川さんの背中を押す部分が多いんだろうな




福さんもシンママの家庭で育っているから働くお母さんの大変さも



それを待つ子供の気持ちもわかるんだろう…




あたしもちっさいときから自営で家族総出で働いていたのが当たり前でなかなか遊びに連れてってとか




可愛い服がほしいとか言えなかったもんなぁ…



だってお母さんなんかいつも素っぴんで頭なんかもボサボサでさ




割りと綺麗なのにピンで前髪とサイドを止めるだけ




肩くらいのボブは白い三角巾で常に覆われていて




汗だらけで盛り付けしてるお母さんに買い物に行きたいんだけど…なんて言えなかったもん





多分福さんにもそんな経験があるんだろうなぁ…





あたしはいい上司に恵まれてるんだな



福さんありがとう




福さんと目が合うと変わらず優しい笑顔でいた





『お先に失礼します』




早川さんが席を立ち上がりあたしたちに一礼した


『あ、あたしも行くよ


途中まで一緒にいこう』




あたしも慌てて福さんに頭を下げて鞄を持った

No.188 09/08/23 01:20
モモンガ ( PZ9M )

『せっかくだから一緒に下まで行っていい?』


早川さんはちょっと驚いた顔をしたあとに


『はい、もちろん』と可愛く笑った




そりゃあ驚くわな



社内の人間とはそんなに親しくなければ喋りもしないあたしが




同じ課とは言え後輩のこの事はお茶はおろかプライベートを共にするなんて今まではありえなかったからだ




人って髪の毛ひとつで変わるもんだ



しかしこの子はよくみると可愛いな


肩くらいの柔らかい巻き紙に上手なお化粧


ちなみに本日は淡いピンクの白とのストライプのシャツワンピース



それにベージュのジャケットを羽織っている




足元はパンストに茶色のメッシュのキチントしたサンダル



鞄は小さめの新作のボォッテガト―ト


(まみちゃんにあげたアネキャンパスに載っていた)




今時の正しいOLさんの姿だ



見習いたいもんだ




しかし右手にも左手にも指輪はないしいつもそんなに慌てては帰らない




彼氏は…



いないのかな

No.189 09/08/23 01:36
モモンガ ( PZ9M )

あたしが込みだしたエレベーターの奥へと体をおいやられていると不意に早川さんが接近しながら質問してきた


『山川さんの彼氏ってカッコイイですね



あたし、こないだ見たんですよ



夜のデート




髪型が違うから自信はなかったけど会社でみてヤッパリ…って思って…



いいなぁあんな素敵な彼氏


友達紹介してくださいよ』



『えっ…と


あたし…彼氏なんていないよ?



物凄い誤解だから解除しといてね



誰かと見間違ってない?デートなんかする相手いないんだけどな』



『え?あれ彼氏じゃないんですか…?



この間…いつだったかな?


犬の散歩してた時に山川さんが背の高いカッコイイ人と歩いてるの見ましたよ



凄い楽しそうだったから彼氏さんかなって思ってました



うちはちなみに…』



早川さんの説明を聞いたあたしは思わず吹き出してしまった



『違う違う



それは秘書課のまみちゃんのお兄さんだよ



しかもラーメン屋いった後だよ?


彼氏なんて言ったら怒られちゃうよ』



『そうなんですか…


そっかぁ、凄いお似合いなのに



付き合ったりしないんですか?』

No.190 09/08/23 01:48
モモンガ ( PZ9M )

あたしは思わず吹き出してしまった



前の彼女を忘れられずにいて借金が一千万もあるんだよ




喉元まで言葉がでかかったけどそれをぐっと堪えた



『確かにね~



まみちゃんのお兄さんはカッコイイし優しいけど…



あたしじゃ無理無理


ラーメン食べたりケ―キ食べたり散歩したりこたつ入ってまったりしたりさぁ



そんだけだよ』




あたしがそういうとやわら早川さんがあたしの肩をガシッとつかんだ



『山川さん…



それって普通しませんよ?



つかぬことをお聞きしますがそのお兄さんから連絡先は…』



『連絡先?


ああ…またラーメン食べようねって名刺ならもらったけど…』



あたしは鞄の底から2つに折れたまみ兄の名刺を取り出した



早川さんはそれを見ると深いため息をついてあたしに戻した



『山川さん…もったいない…




ニッソン自動車の正社員で営業で背も高くてイケメンで…




あとは何が足りないんですか?』




『チ―ン…一階でございます』




エレベーターが丁度一階に到着した

No.191 09/08/23 02:00
モモンガ ( PZ9M )

『足りないとこ…ってさ普通は好きになってから付き合ったりデートしたりするんじゃないの?



あたしお兄さんに何にも言われてないよ?




誤解だよ誤解



あたしたちはそんなんじゃないもん』




そう言いながら会社の外に出ると案内板の所にしゃがみこんでいる見慣れた男がいた





まみ兄だった



『おっせぇな山ちゃん



もう10分も待ったぞ』




あたしは頭が真っ白になった




だってあたし約束なんかしてないもん



あたしわ慌てて後ろを向くと携帯を確認した




受信トレイに一通




まみちゃんからだ




『ハァイ山ちゃんお元気してる?


昨日はケ―キおいしかったね♪



またみんなで行こうね♪♪



あ、そうそう♪今週の金曜日ねまみの誕生日なの~





まみの誕プレ探しにバカ兄についてってやってくんないかな♪



ついでに誕プレよろしく~♪♪




兄貴には営業ついでに5時きっかりに下で待つようにメールしといたよん♪



山ちゃんどうせ用事ないよね?ひとつ宜しくね♪♪



なるべくティファニーニのアクセサリーで宜しくね♪




まみちゃんより』

No.192 09/08/23 02:11
モモンガ ( PZ9M )

『やられた…』


あたしは携帯をしずかに閉じた



今の今だよ



しかも昨日の今日で



更にあたしまた変な服着てるし…




ティファニーニの場所なんて知らないし




後ろを振り向くとまみ兄と早川さんが何やら話している




何かこうやってみると凄くお似合い




背も高くてパリッとしたス―ツのまみ兄と小さくてクルクル巻き髪の可愛い早川さん…



あたしもあんな風だったら『どうしたのこんなとこで』なんて側にいけるのかな…



またわけのわからない気持ちになってきた



なんなんだろう



この劣等感



『どうした山ちゃん?馬鹿まみの買い物…


行くだろ?』



あたしはちょっと下を向くとまみ兄に言った



『この子、早川さん



あたしのデスクの後輩なんだ



前にねお兄さんの事見てファンになったんだって



悪いけど今日は用事があるから早川さんとプレゼント見てきてくれますか?』



『えっ…?やだちょっと山川さんてば


本人の前で言わないでくださいよ~



しかも誕生日プレゼントって何ですか?』



耳打ちする早川さんにまみちゃんのメールの説明を手短にした

No.193 09/08/23 02:23
モモンガ ( PZ9M )

『ごめんなさい


あたし今日はこんなんだし


髪の毛切りにいく約束してて



まみちゃんから聞いたのもついさっきだから



今日はちょっと…』



何となく顔が見られないあたしにまみ兄がしゃがみこんで顔を見上げた



『山ちゃん


前に俺言ったよね



何かコンプレックス持ってるみたいだけどそんなの関係ないって




髪の毛切るなら待ってるから行っておいでよ



なんからしくないぜ



どうしたんだよ』



『どうしたもこうしたも…




約束なんか最初からしてないし



あたしもいつも暇な訳じゃないんです



今日は早川さんと行ってきてくださいよ



可愛いいし良い子だし



お兄さんにお似合いですよ



凄く…』




あたしはそれだけ言うと二人の横を通りすぎた




もうこの世から消えちゃいたい




なんだか凄い惨めな気持ち…




『山川!待て』



まみ兄の声が後ろから大きくなる



もうほっといてよ


恥ずかしいし!



早歩きをしていたあたしにまみ兄はあっという間に追いついてしまった

No.194 09/08/23 02:36
モモンガ ( PZ9M )

『ちょっと待てって!』



『だから無理なんですってば、今日

あたしは』




そこまで言うとまみ兄が公衆の面前であたしを抱き締めた




広い肩




思ったより太い腕




なんだろう…


いい香り…




じゃなくて!




あたしは腕の中で振りほどきながら小さな声でもがいた



『どういうつもりですか』




まみ兄はあたしを抱いたまま植え込みの側までくるとその場にあたしを座らせた



『…山ちゃん



おしり破れてる』




目を合わさず着ていたジャケットをさっと脱ぐとあたしに渡してきた




あたしは血の気がひく思いでそっとお尻に手をやった




なんなんだ





なんなんだこの裂け目は…



『ありえない…』



小さくうなだれるあたしにまみ兄が言った



『車まわしてくっからちょっと待ってな』




そう言って早川さんの方にかけよって何回か頭を下げていた



そしてそのまま駅の方へと走って行った



パンツ…見えたかな



恥ずかしくて顔があげられない



早川さんが後頭部をツンツンしてくる


『山川さん~』

No.195 09/08/23 02:50
モモンガ ( PZ9M )

『山川さん~



どうしたんですか~

彼氏じゃないなんてウソウソ



めっちゃ優しい彼氏さんじゃないですか



喧嘩中ですか?



『あのまま一人だと不安がるからちょっと一緒にいてやってもらえる?』



だって~


頼まれちゃいましたよ



いい人ですね~



早く仲直りしてラブラブしてくださいよ~



あと2ヶ月もしないうちにクリスマスですよ




山川さん何か可愛いし』




山川さんが隣に座りクスクス笑う




『山川さん



好きなんでしょ




白河さんのお兄さん




違います?』




あたしは目を丸くした




あたしが?




誰を好きだって?






あたしが顔を膝に埋めたまま首を激しく振ると早川さんがあたしの背中を一発叩いてきた



『何、中学生みたいな反応してるんですかぁ




山川さんの顔に『この人が好き』って書いてありますよ?



ひょっとして気づいてないんですか?



自分の気持ちに』




『バタン!』



近くで車のドアを激しくしめる音がした



小走りにこっちに足音がせまる



『あ―


ごめんね…



えっと…早川さん


だっけ』

No.196 09/08/23 03:03
モモンガ ( PZ9M )

『いいですよ約束もないですし



それじゃあこれで失礼します




山川さん


また明日』



早川さんは楽しそうにその場に立ち上がった



あたしは何にも言えずに少し顔を上げて左手を上げた




『じゃあ、あたしはここで』


まみ兄にも同じように頭を下げると何やらまみ兄に耳打ちをした





なんだよもぅ~



本人を飛ばして話を進めないでよ~




まみ兄はその場で何回も頷くと早川さんにてを降っていた




しばらく何にもいわずにいるとまみ兄はあたしを立ち上がらせるとジャケットの袖をウェストで絞りあたしに着させた




『さ、やまちゃん行こうか




まさかそのまま電車で帰れないでしょ?




その可愛い水玉パンツは片道20分の目に耐えられるかな~』



『…見ましたね



もぅ死んじゃいたい』




『おいおい


パンツ見られたくらいで死んでたらとっくに俺の前でもぅ死んでるよ



早く乗りなされ』




そっか…


あたしはもうパンツは二度みられてんだよね




しかもブラも…




あたしまズコズコ歩くとまみ兄の車にゆっくりと乗り込んだ

No.197 09/08/23 06:45
モモンガ ( PZ9M )

まみ兄の車はとりあえず会社近くのショッピングセンターに止められ




まみ兄はあたしにデニム地のワンピースと下に着る黒いスパッツを買ってくれた


『これならスニーカーでも大丈夫でしょ』




そう言ってあたしを店内のトイレまで連れていってくれた



なんだかなぁもぅ




トイレの鏡に映ったあたしはこれ以上なく不細工な顔をしていた




多分早川さんがアホな事を口にしたからヘンに意識してるんだと思う





『明日会社であったら一番ややこしい会社まわしてやるぞ





ホントにもぅ…』




あたしは着替えた服を買い物袋に入れると外で待つまみ兄のもとへと急いだ




まみ兄はベンチの横にある宝飾店のおばさんと何やら話し込んでいた



『山ちゃん着替えた?




さっそくだけどさ



この中から選ぶなら山ちゃんどれにする?』




ガラスのケ―スの箱の上には小さなダイヤモンドのピアスがデザイン毎に3つ置かれていた

No.198 09/08/23 07:03
モモンガ ( PZ9M )

1つはシンプルな一粒タイプ


1つはダイヤモンドに小さな淡水パールが重なったもの



もう1つはダイヤモンドのハ―ト型



あたしは思わず『可愛い』と声を上げてしまった


今まで宝石なんて道を歩いてりゃ幾度と声をかけられましたけど


こんな風に店で選ぶのも楽しいものなんだね



『まみちゃんの誕生日の?』


あたしが聞くとまみ兄が頷いた



『そうそうあいつ何か知らんけどティファニーニのダイヤモンドピアスが欲しいなんて甘えてくるんだけどそんなんは彼氏に買って貰えって話だよな』




でもそう言いながらダイヤのピアスはちゃんと買ってあげちゃうんだよね




『優しいわよねぇ妹さん想い!』



ガラスケ―スの向こうから黒いワンピースを来たおばちゃんがあたしの心を代弁した



『なかなかいないよ?妹の誕生日にプレゼントしてあげるお兄さんなんて



彼女、いい男ゲットしたねあんた幸せになるわよきっと』




横を向くと兄がうんうんうなずいているまぁ否定するのもめんどくさいしいいか…




『そうですよね優しいですよね』



あたしが言うと兄はまんざらでも無さそうにあたしの頭を何回か軽く叩いた

No.199 09/08/23 07:17
モモンガ ( PZ9M )

『ありがとうね~



今度は彼女の誕生日に来てね~ 』




おばさんはニコニコしながら小さなピンクのリボンをかけた白い包みをまみ兄に差し出した



『ありがとね



おばちゃん、また来るわ』




そう言うと兄は何度もお礼を伝えていた



結局まみちゃんの誕生日は彼女が好きなハ―トのダイヤモンドピアスに落ち着いた



『山ちゃんサンキューな




俺一人じゃああいう 店にははいりにくくてさ




助かったよ』



『いえ



あの…あたしこそすいませんでした



この服いくらでしたか?お支払したいんですけど…』



『ん?あぁ、いいよいいよ



それは今日のお駄賃



いいもの見れたしね



目の保養料』



まみ兄はちょっとおどけた態度でいったあとにいつもと同じ優しい笑顔であたしの頭を撫でた



『少しは機嫌治った?




何があったのか知らんけど山ちゃんは笑うに限るぞ





せっかくの可愛い顔が不細工になるぞ』




そう言うとあたしの紙袋を持つと少し前をゆっくり歩いた

  • << 201 『あのっ あの…あの…お兄さん ちょっと待って… あたしそんなに早く歩けないよ…』 あたしは息切れをしながらもまみ兄についていくのがやっとだった まみ兄は四階から一気に一階まで階段をかけ降りると我に帰ったようにあたしの存在に気づいた 『あ…山ちゃん ごめん… ごめんけど…俺帰るわ… また連絡すっから 今日は… あかんわ…』 そういうと深くあたしに頭を下げて肩が寂しそうに 背中は絵に書いたようにしょんぼりしていた さっきのお店のお姉さんと個人的に知り合いだったのかなぁ… ひょっとしたら 今度は前々の彼女だったりして? なんて違うか… なら一体あの人は? あたしがグルグルいらぬことを考えているとさっきの女の人がいまきた階段をかけ降りてきた 『あ… あの…さっきの… 白河さんは…?』 『あ…あの、用事があるからって 今さっき別れたんですが…』 『そう…ですか… わかりました どうもすいませんでした…』 お姉さんはがっくり肩をおとしてしまった

No.200 09/08/24 03:12
モモンガ ( PZ9M )

>> 199 あたしたちはせっかくだからとショッピングセンターの中にある喫茶店でお茶をすることにした



昨日の今日で昔の話はほじくるまいと心に決めていたし


何よりあたしのでか尻のせいでまみ兄に余分なお金を使わせてしまったので何とかして借りを返したかった



『あ…ここは?グリーンカフェだって



なんか外観も可愛いしお茶もおいしそうですよ』




『俺はどこでもいいよ


山ちゃんの好きなとこ入んなさい』



『じゃあ、ここにしますね


すいません二人なんですが』



あたしが声をかけると元気な声で可愛い女の人が振り返った



『いらっしゃいませお二人様です


…か…』



みるみるウエイトレスさんの表情が固まってみえる



?何?


今度はなんなんだ?


あたしが振り替えってまみ兄の方をみるとまみ兄の顔がみるみる険しくなっていった



『山ちゃんごめん


この店はダメだ


行くぞ』


そういうと物凄い力であたしの左手を引っ張っていく



『あっ…あの!!待って下さい白河さん!

あたしの話を聞いて下さい…!』



まみ兄は後ろから訴える彼女の声に耳を傾けようともしない

No.201 09/08/24 03:25
モモンガ ( PZ9M )

>> 199 『ありがとうね~ 今度は彼女の誕生日に来てね~ 』 おばさんはニコニコしながら小さなピンクのリボンをかけた白い包みをまみ兄に差… 『あのっ



あの…あの…お兄さん



ちょっと待って…



あたしそんなに早く歩けないよ…』


あたしは息切れをしながらもまみ兄についていくのがやっとだった




まみ兄は四階から一気に一階まで階段をかけ降りると我に帰ったようにあたしの存在に気づいた



『あ…山ちゃん



ごめん…




ごめんけど…俺帰るわ…



また連絡すっから



今日は…



あかんわ…』




そういうと深くあたしに頭を下げて肩が寂しそうに



背中は絵に書いたようにしょんぼりしていた



さっきのお店のお姉さんと個人的に知り合いだったのかなぁ…




ひょっとしたら



今度は前々の彼女だったりして?



なんて違うか…


なら一体あの人は?



あたしがグルグルいらぬことを考えているとさっきの女の人がいまきた階段をかけ降りてきた



『あ…



あの…さっきの…



白河さんは…?』



『あ…あの、用事があるからって



今さっき別れたんですが…』



『そう…ですか…


わかりました



どうもすいませんでした…』



お姉さんはがっくり肩をおとしてしまった

No.202 09/08/24 04:55
モモンガ ( PZ9M )

階段を上がりかけたお姉さんが不意にあたしを呼び止めた


『あの…あなた




良かったらお茶でも召し上がりませんか?



さっき…入るつもりだったんでしょ?



お詫びにご馳走しますから



もしよかったらだけど…』




茶色のストレートボブにチェックの三角巾をして我を忘れたように階段でまみ兄を追いかけてくるなんてよほど込み入った事情に違いない



ましてや関係者じゃないあたしが関わるなんてやめた方がいい




…いいに決まってるんだけど…




あたしは心の奥底にあった好奇心に勝てずその誘いを受けてしまった




(お茶だけお茶だけ)



まみ兄


ごめんね



お茶したら帰るからね




あたしたちはもう一度四階まで戻ると改めてグリーンカフェに入った



『改めましていらっしゃいませ



お飲み物は何になさいますか?



何でもおっしゃってください



あたしのご馳走ですから』




お姉さんは初め見たときのまま可愛らしい笑顔そのままに喋りだした

No.203 09/08/24 10:41
モモンガ ( PZ9M )

店の中はさながら雑貨屋さんのように可愛らしく店内にはメロディーだけのノンビリとした曲が流れていた





客席は全部で15席くらいかな




向い合わせのテ―ブルの上には小さなガラスのコップに可愛らしい白い花が飾られていてナチュラル




店全体も木製の家具に観葉植物があちこち飾られていてとっても落ち着く



店内にはお姉さんを含めて四人



キッチンに二人と接客に二人




みんなお揃いの茶色と白のギンガムチェックの三角巾にエプロンをしている




そして可愛い




こういうカフェ?はあんまり入らないんだけど基本的にみんなめっちゃ可愛いいし細いんだよね



世の中には可愛い人があふれてんなぁ


いい時代だよ



頑張れ草食男子達~


仕事も恋愛もひくてあまたじゃん~



草食男子と言えばさこないだテレビでみたよ



今や恋人も妻帯者も全体の約七割はセックスレスなんだってね




みんな言うのが

『疲れるんです…』
『めんどくさいんだよね…』


って



平均的に月に一度あればいいくらいだって



あたしには多いのかすくないのかわかんないけどこんな可愛い彼女前にしてもやる気にならないなんて不思議だよね

No.204 09/08/24 11:03
モモンガ ( PZ9M )

『あの…ご注文は?』


お姉さんが不思議そうに聞いてきた


『あっすいません…ん~


じゃあお勧めなんかあればそれを』



『お勧めですか?そうだな~


今日そういえば凄く美味しいケ―キが入ってるんで


オレンジティーは?


さっぱりしていて飲みやすいですよ』



『オレンジ!好きですじゃあそれとお勧めケ―キを一つ』



お姉さんはニコッと笑うとキッチンにオ―ダ―を通していた



店内の壁には時折お客さんの仲のよさそうな写真が木製のフレームにかけられ飾られていた



小さい子供にお母さん


仲のよさそうなカップルや年配の老夫婦…

みんなとっても幸せそう



あたしは壁つたいに写真を眺めていたが一枚の写真の前で目が止まった


おそらくさっきのお姉さん…









まみ兄の元彼女だ…




写真はセピアカラ―でとられていて


お姉さんも今より少し若く髪も束ねて上の方でまとまってる



写真の中の二人はお互いに頬をくっつけて仲良さげに笑っていた



『これは…』



『それ…あたしと親友の写真なんですよ


もう三年前になるかな…いい写真でしょ』




そういうとお姉さんは壁から写真を取り外し懐かしそうに優しく手でなでた

No.205 09/08/26 02:48
モモンガ ( PZ9M )

『この子ね美容師でね…



可愛いでしょ?



あたしもこう見えて昔は美容師だったんですよ』




そこまで言うとお姉さんは写真をもとの位置に戻してあたしを店の奥へと案内した




『さぁ、座って』 


『ありがとうございます…



あ…あの




さっきの友達って



ひょっとしたら『リカさん』ですか…?』




質問したあたしにお姉さんは黙って頷いた



『知ってたんだ



白河さんから…聞いたんだよね




彼…リカとあたしの事なんてあなたに話したのかな…』



『昔…付き合っていた人だって…



すごくすきだったけど…



亡くなったって…


聞きました』

No.206 09/08/26 14:52
モモンガ ( PZ9M )

『おまたせしました』


もう一人の可愛らしいお姉さんがあたしたちのテ―ブルにフルーツのたくさん乗ったタルトとオレンジティーを運んできてくれた



『店長、あとはあたしがやりますからごゆっくり』



『悪いわね


忙しくなったら出るから少し頼むわね』



お姉さんはあたしにも軽く頭を下げると持ち場へと帰っていった




『私も一緒に休憩しちゃっていいかな?

まだ夕方の休憩してなくって』




お姉さんがオレンジティーに口をつけた



『どうぞ、勿論』



そうは言うもののあたし的にはかなり複雑だ




あたしの直接の知り合いでもないし




ましてやまみ兄のあの顔は…




やっぱりはやまったのかなぁ…



あたしは段々この店に来たことを後悔しはじめてきた



『あなたって白河さんの今の彼女?』



『へ…?


あ、違います違います


お兄さんの妹さんと同じ会社で働いていて



今日は妹さんの誕生日プレゼントを買うのに付き合わされて…


じゃない



付き合ってました



付き合うとか彼女とかそんなんじゃないですよ』



あたしはグラスの中の氷をストローでカラカラ回した

No.207 09/08/26 15:02
モモンガ ( PZ9M )

『そうなんだ…


でもリカの話は聞いたんだよね?



白川さんがきっと他の女の子にリカの話をするって



きっとちょっと特別なんだと思うな



あたしは白河さんに嫌われてる



…っていうか誤解されててね



未だに連絡しても電話にも出てもらえなくて…




本当に今日久しぶりに会ったんだ…』



少しの間お姉さんはまぶたを閉じた



静かで


穏やかで



少し…苦しそうな



そんな顔に見えた



『昔…お姉さんと



店長さんと、リカさんとお兄さんに何かあったんですか…?』




あたしはついに核心に触れた



開けてはならないパンドラの箱だったのかも知れないが



お姉さんも



まみ兄も




今をせっかく生きているのに何か…



目に見えない過去の大きなうねりの中に取り残されているように見えたからだ



お姉さんはグラスから口を話すと静かに



一言一言



想いを絞り出すように話始めた





あたしはこの事がやがて




まみ兄を



あたし自身を深く傷つける事になるとはまだこのとき



知るよしもなかった

No.208 09/08/26 16:09
モモンガ ( PZ9M )

『あれは…三年前だったかな



リカがね




ずっと夢に見ていた美容院を開く事が決まってね




あたしが当時付き合っていた彼氏の知人がやっていた店を手放すことになってね



そこをリカに紹介することになったの




リカも…


白河さんも物凄く喜んでね…



あの二人



あの頃結婚の約束もしていてね



多分リカにとっても人生で一番幸せな時間だったんじゃないかと思う






あたしも…




勿論その事をリカの側で喜んだ一人だったのよ』




お姉さんは少し目を伏せると口をキュッと結んだ




『あの日…




リカと店のオ―ナ―との契約の日



あたしも本当は保証人として立ち会うはずだったの



でも…



付き合っていた彼氏から



『俺がちゃんと見てるから大丈夫だ』って連絡がきて…



その日ちょうどリカの契約を祝ってみんなである店を貸しきりにして飾り付けをしていたから




あたしも安易に彼を信じてリカの事を頼んでしまったの




それが一番の…



一番の間違いだった…』

No.209 09/08/26 16:19
モモンガ ( PZ9M )

『契約はその新しい店になる予定の場所で行われたの




前金で1500万という大金をリカは言われたた通り通帳に入れて用意した




それは前日にあたしが銀行についていって確認したし



間違いなくあったものなの




だけど…




リカの夢は叶わなかったの…





リカは…





リカは…』





お姉さんの体か小さく震えていた



きっとこの先はこの間まみ兄に聞いた通りなのだろう





リカさんはその人達にお金を騙されてもっていかれ



女性としてあるまじき仕打ちをうけてしまったんだろう…





それに加担したのはこの人の彼氏で




きっと彼女はまみ兄にもその事を責められて…





彼氏にも裏切られて…




親友を傷つけて



失ってしまったのかも…




あたしは目の前で顔を覆っている彼女を



ただ黙って見つめるしかしようがなかった

No.210 09/08/26 16:28
モモンガ ( PZ9M )

『ごめんなさいね…


ちょっとはっきりとは説明できないんだけど




リカは…



夢も希望も何もかも失ってしまったの




その日のうちにリカは…




海に身を投げたのよ



その事がわかったのは次の日の昼間だった



結局送別会にもリカは現れず




白河さんにも連絡もせず




職場にも来なかったから…




勿論あたしは彼に何回も電話したけど全然つながらなくて…



白河さんや友達とマンションや行きそうな場所全て探したの




そして…



あの店を見に行った時に




リカのカバンや…


財布や…



色んなものが散乱していて





あたしたちは始めてそこで何が起こったか知ったのよ





白河さんは何度も何度も携帯から電話をしてね…




ついに




その着信音が聞こえた先は



海岸の砂浜だった





リカの携帯と




靴と




指輪が揃えて置いてあってね…





真冬の海の中に白河さんはス―ツのまま飛び込んでいった』

No.211 09/08/26 16:37
モモンガ ( PZ9M )

『曇って波の荒い海に胸の辺りまで浸かりながら




リカの名前を絶叫してたわ…




あたしたちみんな




泣きながら白河さんを止めに海に入って




海岸のレスキュー隊があたしたちをみつけて救護してくれて




誰も怪我もせずに浜まで上がる事ができたけど




結局リカの遺体は見つからなかった…





あたしも含めて警察に事情を聞かれてね




半年もしないうちに彼とその仲間たちは別件で捕まったの




リカのお金はもう使い果たされていて



残高のない通帳とリカの判子が証拠として家に帰ってきたの




もともと彼はオ―ナ―に借金があったみたいで



最初から詐欺を働くのをしっていてリカを誘ったんだ…って



あとから刑務所で聞いたわ




全部はあたしのせいなの




リカの夢も


リカの未来も



白河さんの将来も



全部はあたしが壊してしまった…』

No.212 09/08/26 16:47
モモンガ ( PZ9M )

『でもね



白河さんには信じてほしいの




あたしは最初から何も知らなかった



まさか彼がリカを騙そうとしていた事とか




お金を持ち逃げしようとしたとか




リカを…傷つけようとしていたのも…




本当に…



知らなかったの…』




いつの間にか彼女の目からは涙が止めどなく溢れてこぼれ落ちていた




物凄い自責の念にさいなまれた日々が続いていたんだろうな…




もしその日自分がついて行っていたら…



もし…もっと早くその事に気づいていたなら…




あたしはもう一度さっき見た壁にある二人の笑顔を見た



写真の中の頬を合わせる二人の優しい笑顔




この笑顔が崩れる日がくるなんて



誰が予想できるだろうか…




きっと彼女も




まみ兄も




リカさんも




深く傷ついてしまった




あたしの知らない三年間があったんだ…



あたしは言葉を探しながらも何も言えないままじっと下を見つめていた

No.213 09/08/26 17:06
モモンガ ( PZ9M )

深く大きなため息をつきながら息を整えると彼女はニコッと力なく笑った



『でもね…リカの夢は半分は叶ったかな…




そのあとね




結局リカの件で1500万を主犯の親が弁償してね



勿論慰謝料もリカのご両親に支払って…



その物件も白川さんがその親御さんから買い取ったの



謝罪の意味も込めてリカの為に譲渡するって弁護士を通じて言ってきたんだけど




白河さんはリカと同じ1500万で買わせてくれって



断固として支払ったって聞いた…




リカの夢を少しでも現実に形にしたかったのね…




今でもあの店は白河さんがオ―ナ―のはずよ




本当ならリカがいるあの場所を…




白河さんは守っているのかも知れないわね…』





彼女はゆっくりとストローに口をつけてオレンジティーを飲み干した



『何だかごめんなさいね



こんな話しながらケ―キなんか食べられないわよね



この話は二人の秘密ね




また…白河さんから聞く機会もあるかも知れないけど




その時は彼を…



支えてあげてね』




そう言うとおもむろに立ち上がり空になったグラスを手に取った

No.214 09/08/26 17:18
モモンガ ( PZ9M )

残されたあたしは今までにないヘビーな話の内容にため息をつきながら



『来るんじゃなかったよ…』



と、フォークの先で美味しそうなイチゴをこれでもかとつついていた




人の恋路にはやっぱり頭もおしりも突っ込んじゃダメだね…




あたしは無理やりタルトを口に押しやると味もわからないままオレンジティーを飲み干した




帰りにレジの脇にあったハ―ト柄のかわいいラインスト―ン付きの手鏡があったのでそれをまみちゃんの誕生日プレゼントとして購入した




『またよかったら寄って下さいね』



という叶わぬ申し出に


(これるわけないじゃんか…)



と呟きながら笑顔で店を後にした




時計に目をやるともう時刻は夜の8時になっていた




あたしは破れたパンツと秘密の過去と



なんの因果かまみちゃんのプレゼントを抱えて



過去最も思い足取りでアパートへと戻った



1日一善…




今日はお休みだ




神様



私がわるうございました



この事は山川弘美


一生忘れません



ごめんなさい…



そう言うと早々と布団に潜り込んだ

No.215 09/08/26 18:24
モモンガ ( PZ9M )

次の日



あんなに早く布団に 入ったのに眠れなかったあたしにまみちゃんが近寄ってきた



『山ちゃんおっはよ~♪



ってか…何?そのクマ…




お肌のお手入れとかちゃんとしてる?



髪もなんかパサパサだしさ…




女捨てちゃまだまだダメだよ~




その点まみは昨日エステ行ってピッカピカ♪




来るべき金曜日に備えなくちゃなぁ♪



金曜日は悪いけど彼氏達と時間差デートだから有給使わせてもらうね~♪




はい♪有給届け♪』



もとはと言えばあんたがわけのわからんメールよこすからこんな目にあうんじゃい



パンツは破れるわ
(あ…これはあたしのせいか…)



兄の過去の話聞くわ
(…これも違うか…)



眠れなくてクマ作るわ
(あかん…どれもこれもあたしのせいや…)



『はい…確かにお預かりしますね



あ、ここ今日の日付と曜日書いてくださいね…』




『はいはい♪



10月28日の水曜日…



これでいい?』


『はい、バッチリです



いいですよ』



いったん席を離れたまみちゃんがまたあたしの机の横にしゃがみこんだ

No.216 09/08/26 18:37
モモンガ ( PZ9M )

『あの、さ



山ちゃん昨日兄貴となんかあったりした?




なんかさ…昨日帰ってきてから様子が変…っていうかね



ちょっと違うかなって思ってね



山ちゃんに手ぇでも出してぶっ飛ばされたのかなって』



まみちゃんは若干期待を込めたような顔をしながらあたしを見上げた



いやいや



ぶっ飛んだのはあたしの方だよ…



『いやいや


全然何にも…



あ!ちょっと待ってね』



あたしはカバンの中をまさぐると昨日のカフェで買ったプレゼントをまみちゃんに手渡した




『うそっ♪まじで~


っていうかメチャクチャ可愛いんですけど~




山ちゃんって何気にまみの趣味よくわかってらっしゃる♪




ありがとうね♪



まだ兄貴には誕プレもらってないけど



これなら期待できちゃうねっ♪』



まみちゃんはウキウキしながら秘書課のデスクへと戻っていった




『山ちゃんやるね~



朝から白河さんにプレゼント?




仲良しだったんだね~意外な組み合わせ』



福島さんが驚いた顔をして見せた

No.217 09/08/26 18:53
モモンガ ( PZ9M )

『福島さんの真似ですよ



プレゼント大作戦です』




『あれもポイントカ―ドかい?』



福島さんが肩をゆらして笑った



楽しそうな福島さんをよそにあたしは相変わらずブルーな気持ちだった





仕事にまでプライベートを持ち込むのはあたしらしくないけど




海の中でいなくなった彼女の名前を呼ぶまみ兄を想像すると胸が痛くなった





ああもう仕事にならん…




『おはようございます、山川さん』



いつもより明るい声で早川さんが着席した



『おはよう


昨日はみっともないとこ見せちゃってごめんね』



『いえいえ



あれから彼氏と仲直りしました?』




だから彼氏じゃないっちゅうに…



あたしは無言で首をふった



もう否定すら面倒くさい



『ちゃんと仲直りしなくちゃだめですよ




あんなカッコいい人なかなかいませんよ』



『…そうだね』



さっきまみちゃんから受けた有給の申請書に力一杯判子打ち付けた

No.218 09/08/26 20:32
モモンガ ( PZ9M )

気分転換もかねて今日こそは『ルーム』に行こう



予約は確か今週中…



色んな事がおこり過ぎてあたしのちっさい脳みそには入りきらない…



あたしはいつもの二倍速で仕事をこなしていった




プライベートのもやもやイライラは仕事で吹き飛ばすに限る



あたしもし失恋とかしても絶対に仕事で 立ち直るタイプだ



今日は絶対自分のために時間を裂こう




自分がダメなのに人に優しく1日一善なんて絶対無理だ




自分がある程度メンテナンスされていないと並みの力もでやしない



今日は髪まとめて



帰りに駅前のス―パーで久しぶりに服部くんのレジで買い物して




プレイボーイのジャージ着て



ゴロゴロして畳でみかん食いまくってやる



魔法の眼鏡なんてくそくらえだ



あたしはあたしのままが一番なんだ



好きとか嫌いとか恋とか愛とか



あたしには荷が重すぎる




あたしは何かを追い払うように頭を振ると今週分の伝票を全てクリップからはずした



『やったるど今日中に』


一人呟くとパソコンの画面を開いた

  • << 221 『本当の魔法…? 左側のダイヤルにはどんな秘密があるんですか? 魔法っていったい…』 『それはね… あっ、はいゴメンナサイ ごめん山川さん 本番始まるからあたし行くね ちなみにこっちの携帯は仕事用よ あとさっきのCM撮りの件マネージャーに交渉してみるわ ちょっとまっててね じゃ』 電話のあとに感じたのはいつもの日常の中にある『魔法』を体験したような不思議な気持ちだった 実際の『魔法』は謎のままだけど とりあえずは何とかなるかもしれないという淡い期待はもてた 心の中で小さなガッツポーズをしてあたしはマッキ―の待つ屋上へと足を運んだ

No.219 09/08/27 10:19
モモンガ ( PZ9M )

お昼になりみんなが外へとちりだしてもあたしはまだパソコンに向かい続けていた



入力は7割方終わっていたがあたしはまだ席についていた



『ん~


久しぶりに仕事した!って感じだね



さて、マッキ―とのランチにでかけっかな』



持ち上げたカバンの中から微かに携帯の着信音が響いた



携帯には見たことのない番号が通知されていたが意外に長くメロディーが流れていたのであたしはためらいつつもとることにした



『もしもし…?


山川ですけど…』




相手はしばらく静かだった



あたしはイタズラかなと思い電源を切ろうとした


『もしもし…?


飯田ですけど



どちらの山川さんかしら…?ってあたしがかけたんだけど



スイマセン覚えていなくて』




あたしは目を丸くした



というか驚いた



飯田





飯田みゆうだ





電話越しにもあの日の記憶がはっきり蘇る



あたしは慌てて携帯を持ち窓側へと移動した



『あの



あの、あたし山川といいます



以前に駅前で飯田さんに眼鏡を頂いた…』




そこまで言うと携帯の飯田さんの声が突然明るくはじけた

No.220 09/08/27 10:33
モモンガ ( PZ9M )

『山川さんって言うんだ



覚えてるわよ



黒髪眼鏡のダッサイOLさん!



どうしたの~正直驚いたわ』



『…あはは



言いますね飯田さん


実際その通りですけど…




あの、スイマセンこちらこそ…



あ、あの…実は…』



あたしは営業のデスクを見ながら頭を抱えてうつ伏せる河村さんの方を見た



そして会社のCM撮りの話を簡潔にした



飯田さんは突然の事だからと即答はしなかったけれど



力になりたいと申し出てくれた



あたしは図々しいお願いをしたかなと思いつつ何かが変わればいいなと期待していた



『ところでどう?あの眼鏡を使ってみて


心境の変化はあったかな?』




『はい、そりゃあもうビックリしましたよ!



眼鏡触ったらあんな数字がみえちゃうし


色んな見えなくてもいいものまでみえちゃうなんて本当に凄いですね』




『ハハ―ン…


さてはまだ右側の機能しか使ってないわね


そうかそうか



まだ本当の『魔法』は見てないのね』



携帯の向こうで飯田さんが笑った

No.221 09/08/27 10:50
モモンガ ( PZ9M )

>> 218 気分転換もかねて今日こそは『ルーム』に行こう 予約は確か今週中… 色んな事がおこり過ぎてあたしのちっさい脳みそには入りきらない…… 『本当の魔法…?



左側のダイヤルにはどんな秘密があるんですか?



魔法っていったい…』




『それはね…




あっ、はいゴメンナサイ




ごめん山川さん



本番始まるからあたし行くね


ちなみにこっちの携帯は仕事用よ



あとさっきのCM撮りの件マネージャーに交渉してみるわ



ちょっとまっててね



じゃ』





電話のあとに感じたのはいつもの日常の中にある『魔法』を体験したような不思議な気持ちだった



実際の『魔法』は謎のままだけど




とりあえずは何とかなるかもしれないという淡い期待はもてた




心の中で小さなガッツポーズをしてあたしはマッキ―の待つ屋上へと足を運んだ

No.222 09/08/31 22:31
モモンガ ( PZ9M )

マッキ―の部屋(小屋?)に近づくと何やら焦げ臭い匂いがした


ドアの隙間からうっすら煙まで立ち上っている



まさか?!




あたしは小走りに近寄ると勢いよくドアに手をかけた



『マッキ…』




声を出そうとした瞬間勢いよく開けたドアから白い煙がもくもくと立ち上った



あたしは目をつぶり体勢をかがめた



『ゴホッ…ゴホッ…


マッキ―


これは一体…』



室内の煙が薄くなった頃部屋の奥から真っ黒な顔のマッキ―がゆっくりと現れた



『…ゴフッ…ウフッ…



山ちゃん…助かったわぁ



…ゴフッゴフッ



わし、山ちゃんと食べようと思ってサンマ焼いとったんやけど焦がしてしまったわぁ…』




マッキ―の両手には真っ黒の魚らしきものが握られていた



部屋の中は明らかに魚臭くなっていた



真っ黒になった魚を両手にもって


いい歳したじいさんが立ち尽くしてる…




あたしは思わず吹き出して声をあげて笑ってしまった




『なんや山ちゃん


そんなん笑わんといてや



魚…もったいなかったなぁ




どないしよ昼飯…』

No.223 09/08/31 23:09
モモンガ ( PZ9M )

『その前に顔吹きなよマッキ―



服も着替えた方がいいよ




ほらほら急いで急いで



ご飯はあるんでしょ?



おにぎりにしよ



あたし作るからさ』




マッキ―はむせながらもロッカーの中からクリーニングの袋がかかったままのワイシャツを取り出した




あたしは小さな炊飯器からご飯を手にとると塩をつけて形をつけ始めた




『ごめんなぁ山ちゃん



悪い悪い』




マッキ―は新しいシャツを羽織ると机の上にあったタオルで顔をふきはじめた



『山ちゃんは好きな男にいつもそうやっておむすび握ってやってんのか?




えらいなぁ』




『ないない



あたし彼氏も好きな男もいないもん




誰か紹介してよマッキ―』



『またまたそんな事言って




聞いたぞ



昨日会社のエントランスで彼氏と抱き合ってたんだって?




すみにおけないなぁ山ちゃん



わしくらいには彼氏いること言ってくれたらいいのに』



椅子に座り直し机をふくといつものようにお茶を入れ始めた


会社の外で彼氏と抱き合うバカなOLになってる




魔法どころかどんどん魔界方面に進んでるよ



えらいこっちゃ

No.224 09/09/01 21:38
モモンガ ( PZ9M )

おにぎりを二、三個作って紙のお皿の上に味のりをのせた



それにマッキ―の入れてくれたお茶



あたしの持ってきたサンドイッチ



以上があたしたちの昼食になった



今日は曇り空が続いて天気も不安定だ



『雨降らんといいけどなぁ…』



マッキ―は味のりをしおむすびに巻き付けるとパクっと一口食べた



『そうだねぇ先週は降ってないし今週はあぶないかもねせっかく今日は髪の毛綺麗にしようと思ったのに』




『なんや山ちゃん今日は彼氏とデートじゃないんか?



いいなぁわしもデートしたいなぁ老人会の女の子達呼んでカラオケでも行こうかな




パフュ―ムの『ワンル―ム・ディスク』歌うんや知っとる?』





『へぇ―マッキ―ちゃっかり老人会にガールフレンドなんかいるんだ



天国の奥さんに焼きもちやかれちゃうね』




あたしがそう言うとマッキ―は首をゆっくりふった



『あの人は焼きもちなんかやかんやかん



死ぬ前にわしに言ったんや




《あなた、どなたかと幸せにならないと人生もったいないですよ》って




勿論ぼけとんでわしの嫁さんは自分って忘れとるんけどな』

No.225 09/09/02 02:27
モモンガ ( PZ9M )

『今の記憶は忘れとるけど昔の記憶はわりにしっかりあってな




たまに小学生になるんや




そんときにないうんや


《あなたとても親切ね、きっといいお嫁さんができますよ


私もけんちゃんのお嫁さんになって未来そいとげるんです



ずっとずっと一緒にいて



戦争のない時代になってもずっと



一緒にいるんです


好きな人とずっと一緒なんて



なんて幸せなんでしょう》


ってね



あの人の一番いいころは『けんちゃん』が支えてくれたからいいんや



わしがちょっとくらい他の女の子と遊んだかて怒らんと思うよ



山ちゃんなら怒るか?』



『ん~…



あたしが死んだあとに旦那が誰かとデートしたり付き合ったり?




想像だけでけっこういやかな…



マッキ―だって逆ならそう思わない?』



『わし?



わしなら…



そうやね…




ばあさんが元気でも一人でぽつんとおったら心配やなぁ



ちょっと焼きもちやいても




他の誰かとデートしたり楽しゅうしとってほしいわ』

No.226 09/09/02 10:31
モモンガ ( PZ9M )

マッキ―はそういいながら優しい笑顔でにっこり笑った




やっぱりだてに歳はとってないなぁ…



それに引き換えあたしはまだまだ青っぱなだ




側にいてもいなくても



相手の事をおもいあえるなんて…




なんか素敵だよ




あたしなら好きな人にはずっと自分だけ見ていてほしい



死んだあとだって…




もしも大好きな人に大切な人ができるのを目の当たりにするのは辛いよ



でも




本当に大切な相手なら




本当に愛しているなら





その人の幸せを両手で押してあげるのも


笑って見送るのも



愛情の形なんだね




あたしはまだまだ人間ができてないから無理だけど




あたしにもいつか



そんな風に思える日がくるといいな…




ロマンチックな魚臭い部屋であたしはマッキ―の奥さんをうらやましいなと感じていた




それと同時に…




リカさんはこの空の下のまみ兄の事をどう思っているかな…

って


そんな事を頭がよぎった… 

No.227 09/09/02 13:13
モモンガ ( PZ9M )

しばらくして昼食を終えた頃にかばんの中から携帯音が聞こえた



飯田さんだ




一度マッキ―の顔を見るとごめんねのポーズをして部屋のドアを開けた



『もしもし?山川ですけど』



『もしもし?さっきはごめんね飯田です



さっき聞いたCM録りだけど…


ポスターとか広告だけだよね


1日位で終わるなら協力できるかもよ?


そんでこれまた急なんだけど今日



これからは無理かなぁ?



実はこのあと1日入っていた収録がなくなってね




今からオフなんだ



どうかな?



一応聞いてみてくれる?』




『えっ?!今からですか?




本当に?




わかりました!!早速友人に言ってみますね



ありがとうございました!!』




あたしは電話を切るとその場で大きくバンザイをした




これで河村さんもむくわれるよね



早く知らせてあげなくちゃ





側であたしを見ていたマッキ―が何事かと訪ねてきたので眼鏡の話はあえて飛ばして飯田みゆうさんが会社の新商品のイメージモデルに協力してくれる事を説明した




でもマッキ―から出たのは意外なものだった

No.228 09/09/03 16:22
ふぁーむー ( 20代 ♀ OB6Mh )

ももんがさん❤お久しぶりです☺きらきらぼしの時レスさせていただいたふぁーむーです✨
ももんがさんがこのお話を書いているのを今日知って一気に読んじゃいました😃
きらきらぼしやラブレターとは雰囲気が違いますが、やっぱりももんがさんのお話は人をひきつけるものがあると思います✨続き楽しみにしています🙌

No.229 09/09/03 20:17
モモンガ ( PZ9M )

ふぁ―む―さん🌱


お久しぶりです🙇💕


きらきらぼしやラブレタ―とはちょっと違う


テンポのよいコミカルなお話が書けたらなぁと思い始めました




自分にも誰にもあるような弱いところも

コンプレックスに感じていたことも



本当は一番自分らしかったりするし



変えたいと思う気持ちを動かすきっかけをどう実行するか




行動か


それとも理想で終わらせるのか


どちらも自分が選択した現実が『今の自分』




今の自分からこれからの自分へ



幸せになる努力



ももんがもしなくちゃです😿



ちなみにリレー小説『しあわせいろ』にも参加していますので



良かったら感想などは『しあわせいろ🌱感想スレッド』に寄せて頂ければ幸せです💕




🙇💦

No.230 09/09/05 21:53
モモンガ ( PZ9M )

『山ちゃんの気持ちはわかるけどそれはあかんわ



腐っても営業やで




営業には営業なりのプライドがある



企画からプレゼンから…OKもらって集めた資料かかえてまた会社行って…



言い換えれば意地と根性と頭で取った仕事や




それを入社三年目の

しかも事務の山ちゃんがそんなビックネ―ムもってきたら企画は大成功やけど


山ちゃんの友達からしたらトンビにあぶらげやで~』




『そっか…


そうだよね、確かにマッキ―の言う通りだよね…




う―ん…かと言って他にいい方法なんて…』

No.231 09/09/06 06:23
モモンガ ( PZ9M )

『ほんならわしにまかしときな




山ちゃんはその姉さんに今から出てきてもらうんや


いいかい?』



そういうとマッキ―はどこかに電話をしはじめた



電話口でのマッキ―は宝物を見つけた子供みたいにはしゃいでいた




おっさん仕事だよ

仕事…



まぁ言われた通りにするけどさぁ…



あたしも飯田さんにもう一度電話をして一時間後に会社のロビーに集合する約束をとりつけた




『こりゃあおもしろくなりそうだな』



マッキ―がいたずら顔をしてにやりと笑った




一体どうなるんだろう~



(河村さん今からもう謝っとくね)




イチマツの不安を覚えながらも策士のマッキーに全てを任せてとりあえず部署へと戻った

No.232 09/09/06 20:25
モモンガ ( PZ9M )

とりあえず昼が終わり職場へと戻ると机の上では営業のみんながなんとか遅れを取り戻そうと必死にあちこち電話をしていた



話を聞くと何件かはいいタレントさんやモデルさんもいたらしいが相手の社長さんからはOKがでないらしい



『う~ん…てごわいね』



湯気のでたコーヒーを河村さんの席まで運ぶとこともあろうに半分まゆげのない河村さんが目を擦りながら顔を上げた


『…ああ…もう…



どうにもならん感じ…



あのクソ社長いつかうちのチームに刺されるわよ…』



まわりにいたスタッフが全員うなずいていた




怖い…




ここんとこ相当プレッシャーがかかっているのか



何回も何回も企画から練り直したり


話し合いの場をもったり



営業も大変な仕事だなぁ




(いっそ飯田さんの話を今すぐしたら…)



そうは思うけれどマッキーに促されてるし




ここは一旦流そう…



あたしは自分の持ち場につくともくもくと仕事をしはじめた



約束の時間まであと一時間



山川弘美&マッキーのゲリラ作戦実行までみんな待っててね!




(って誰にいってんだあたしは…)

No.233 09/09/08 19:19
モモンガ ( PZ9M )

実際のところ自分のした事が今でも信じられないでいる



芸能人と電話して待ち合わせてるなんて…



口元が緩んで誰かに大声で叫んじゃいたい




『飯田みゆうがくるぞ~!!!





しかもうちの会社に!!!』





言ったらみんなひっくり返るだろうなぁ…





そんな事を考えながら身のはいらない仕事をしているとパソコンの受信トレイが点滅した



『誰からだろう…』



画面に合わせてクリックするとマッキ‐からのものだった




『山ちゃんへ



ハロー30分ぶりの牧野です(^o^)/



あんなぁさっきの話やけど今からいう場所に友達のタレントさん連れてきな



ほんでもって



営業の友達もあとからよんでや




ちょっとおもろい事になりそうやで



楽しみにしとってや( ^_^)人(^_^ )




牧野』





やたら顔文字が多いけどこのさいこれは無視だね




あたしはパソコンに書かれていた場所に思わず二度見してしまった




なんで…



ス‐パー銭湯なん…?

No.234 09/09/08 19:29
モモンガ ( PZ9M )

あたしはマッキーの策がわからないままにとにかく飯田さんにあったらどうやってスーパー銭湯なんぞに連れ出せるか




そればかりに頭をひねっていた



『飯田みゆう銭湯にあらわる』




そんな三面記事が現れたら責任がとれないよ…




でもまぁしかし



おもしろいにはおもしろいけどさ



あ~


でも上手くいかなかったらあたし達どうなるんやろうか…




それより会社抜け出して銭湯なんて…



それもいいのか?




『なんだかわかんないけど



何か楽しそう』



にやつくあたしに福島さんが



『どうしたの?楽しそうだね?


なんならもう1社書類増やそうか?』



と伝票の束を最高に爽やかな顔で机の上に置いてきた



(ちがう~)

No.235 09/09/08 20:21
モモンガ ( PZ9M )

約束の時間が間近に迫り



あたしは『マッキーに頼まれた備品の配布』を手伝うべく席を一旦離れた



河村さんには『30分後に連絡したメールの場所にきてほしい』と連絡した



『今は無理だよ』と不思議そうな顔をしたが『おりいって相談が…』の申し出にそれならと快諾してくれた




高速エレベーターを降りてエントランスをぐるりと見回すと


いた!




黒いキャスケットにベージュのトレンチコートの襟をたてた美人発見!




あたしは小走りに歩み寄ると声をかけた



『…飯田さんですか?』



様変わりしたあたしを見て一瞬『誰?』的な顔をしたが



胸元から魔法の眼鏡をちらりとみせると大きく頷き明るい笑顔をみせてくれた



『山川さん~


うわ~顔ちっちゃかったんだね~


ショート似合う



あたしじゃなくて山川さんがビフォア、アフターした方がうれるんじゃない?美顔器』



『何をわけのわからない事を…




ってか飯田さん


一生のお願いがあるんですけど


あたしとちょっと出かけてもらえませんか?』

No.236 09/09/09 11:42
モモンガ ( PZ9M )

タクシーの中しばし静まり返った車内



飯田さんは笑いすぎて黒くなったマスカラ涙を目でこすりながらうつむいてまだ笑っていた



『…笑いすぎですよ


そんなん可笑しいですか?』



必死に声を殺している飯田さんはあたしの膝をバシバシ叩きながら頷いている




そりゃそうだわな



制服きたダッサイOLが今をときめくタレントに



『ス―パー銭湯いきましょう!



今すぐに!』



なんてね



飯田さん鳩が豆でっぽうくらったみたいな顔してたよ




『え?撮影は?』




困惑する飯田さんを半ば無理やり止めておいたタクシーに押し込んだが飯田さんは耐えきれずに車内で爆笑し始めた




しかもタクシーのうんちゃんも怪訝な顔をしている



美人とブサイクがタクシーに相乗りして


しかもこんなお昼に銭湯までタクシーで



ああ…



またバックミラーでガン見してる



あやしくないから別に


(いや…あやしいか?)




窓を流れる景色を見ながら飯田さんがやっと息を落ち着けて話だした

No.237 09/09/09 17:21
モモンガ ( PZ9M )

『あ~笑った!


これで一年は笑わなくてもいいや


は~苦しかった』



そういいながら花の刺繍がしてある綺麗なブランドのハンカチで目頭を押さえた



『…本当にすいません



急なお願いで



しかも銭湯なんかに連れていくなんて…』




『ううん


びっくりしたけどね


それなりになんか訳があるんでしょ?



いいわよ


とことん付き合っちゃう



なんなら湯船でもぐろうか?』



飯田さんは鼻をつまみながら水に潜る真似をしてみせた




美人なのに本当に気さくな人だなぁ…



それにしてもマッキ―どうするつもりなのかな…?




あたしは言われた通り銭湯が間近に見えときたあたりでマッキ―の携帯にメールを打った

No.238 09/09/10 11:54
モモンガ ( PZ9M )

『ありがとうございました』


あたしはタクシーの運ちゃんの手からお釣りをもらうと急いで飯田さんの元に駆け寄った



『しっかし本当にきたわね…銭湯』


飯田さんは帽子を目深にかぶりサングラスをはめた



『…はぁ



とりあえず受付をしてロビーで待てと指示がでました』



あたしは力なく笑うと飯田さんを銭湯の入り口まで誘導した


駐車スペース約80台
駐輪スペースもでっかいひさしがついたのが3つ


身障者用のスペースが三台


いわゆる普通の二階建ての銭湯だった



『いらっしゃいませ~

ようこそ梅の湯へ~』



赤いハッピを着たちょびひげのおっさんが近づいてきた



『いらっしゃいませ~


あの~ひょっとしたら三橋電機の山川さん?』



『…はい


そうですけど…』


めっちゃ怪しいチャーリ浜やな



にせもんだけどさ




『おまたせしました


それでは早速ご案内しますね


ゆっくり入って下さい



あ、靴なんかそのままで



直しておきますから


どうぞどうぞ』


チャーリ―はあたしと飯田さんの手をとると受付を通り抜けて二階へと連れ出した

No.239 09/09/10 12:09
モモンガ ( PZ9M )

二階の階段を右に大きく曲がると左側に女湯


右側に男湯


の、のれんがかかっていた


『それじゃあまたあとでうかがいますから


ごゆっくり』



『あ、あの

ちょっと…お金とかは?


ね!おじさん!!』



あたしの声にもただただにっこりして手を左右に降るだけだ



なんだ?




『…まぁ

意図はよくわかんないけどとりあえず入ろうか?』



あたしのすぐ近くで飯田さんが楽しそうに笑ってみせた


『うわぁテンション超あがるんだけど



銭湯なんて一年くらいきてないや


めっちゃ楽しい~



山ちゃんも脱いで脱いで!』



『…あははははは』



銭湯といえど平日の女湯はおばちゃん達の熱気でひしめきあっていた



マイ塩
マイパック
マイドリンク
マイ美容液


すげ~


ちょっとしたエステサロンじゃんか



おばちゃん達の美と 休養と娯楽の総合エンターテイメントやな



あたしが人間ウオッチングしているといいださんは素早く着替えてバスタオルに身を包んでいた



『あれ?そういえばタオルは?』



『そこのカゴ


ご自由にお使いくださいだって』

  • << 241 あたしは潔く制服を脱ぐと三枚1000円の安物パンツを脱ぎ始めた 『何が悲しゅうて風呂はいるん?』 今さら愚痴など誰に届くわけもない わかっちゃいるけど呟かずにはいられない 平日の銭湯といえどあながちすいてはいない パンツを下ろしながら人間ウォッチングた 『ぬし』ってからには昔からきてんだよね はばが聞いて 昼間に自由に毎日これて おそらく年配者 健康に気を使い おそらくおせっかい 毎日銭湯にくるんだから高血圧でもない 目にみえないぬしをプロファイリングで追い詰めていく 『…わかんないよ誰か船越さん連れてきて崖までぬしを追い詰めてもらってよ…』 小さく呟くと近くにいたおばあちゃんがあたしのおしりをパチンと叩いた 『あんたお尻小さいねぇそんなんで赤ちゃん産めるの? あたしのおっぱいみてごらんよこれでも八人の子供を育てたんだよ』 豪語するおばあちゃんのおっぱいは重力に逆らいながら不思議かな上向きだった 『…凄いあたしの胸より断然でかいし綺麗え~ お母さん凄いね八人も産んだおっぱいじゃないね』 そういうとおばあちゃんはガハハと笑って椅子に座り直した

No.240 09/09/13 09:18
モモンガ ( PZ9M )

あたしは飯田さんに化粧をおとして浴場に先に行ってもらうことにした



その隙にしゃがみこんでマッキ―に電話をした



『…もしもし?マッキ―?あたし、山川です



言われた通り梅の湯来たよ



飯田さんにはお風呂に来てもらった



そんでこれからどうしたらいいの?




…は?主?



『銭湯のぬしを探すの?




って主って何?


…もしもし?



もしもし?!




…切りやがった


あたしはドラクエの戦士じゃないぞ



『銭湯の主を探せ』


ってなんのこっちゃ


もうわけわかんないよ~』




あたしは頭をかきむしるとため息をついた



会社抜け出して
芸能人と風呂入って銭湯の主を探すOLなんてあたしはなったつもりはないよ




『変わりたい』って確かに思ってたけど


何かおかしな方向に傾いてないかな


(いや、確実に傾いてるよね)

No.241 09/09/13 09:39
モモンガ ( PZ9M )

>> 239 二階の階段を右に大きく曲がると左側に女湯 右側に男湯 の、のれんがかかっていた 『それじゃあまたあとでうかがいますから ごゆ… あたしは潔く制服を脱ぐと三枚1000円の安物パンツを脱ぎ始めた


『何が悲しゅうて風呂はいるん?』


今さら愚痴など誰に届くわけもない


わかっちゃいるけど呟かずにはいられない



平日の銭湯といえどあながちすいてはいない



パンツを下ろしながら人間ウォッチングた



『ぬし』ってからには昔からきてんだよね


はばが聞いて
昼間に自由に毎日これて
おそらく年配者
健康に気を使い
おそらくおせっかい
毎日銭湯にくるんだから高血圧でもない


目にみえないぬしをプロファイリングで追い詰めていく


『…わかんないよ誰か船越さん連れてきて崖までぬしを追い詰めてもらってよ…』


小さく呟くと近くにいたおばあちゃんがあたしのおしりをパチンと叩いた


『あんたお尻小さいねぇそんなんで赤ちゃん産めるの?

あたしのおっぱいみてごらんよこれでも八人の子供を育てたんだよ』


豪語するおばあちゃんのおっぱいは重力に逆らいながら不思議かな上向きだった


『…凄いあたしの胸より断然でかいし綺麗え~

お母さん凄いね八人も産んだおっぱいじゃないね』


そういうとおばあちゃんはガハハと笑って椅子に座り直した

No.242 09/09/13 09:54
モモンガ ( PZ9M )

『だてに銭湯に通ってないよ



今の年よりはねアクティブなのよ



美味しいものちょびっと食べて

水泳や銭湯行って

カラオケに絵手紙教室


毎日病院とかに行って早くから並んでるじいさんばあさんいるだろ?



あたしはあんまり好きじゃなくてね



どうせ余生短いんだ


財産なんか残さずに葬式代だけ残してパッと使っちゃえばいいのよ



溜め込んだところで誰が得するって子供だけでしょ?



あほらしいわ』



おばあちゃんはすらりと伸びた足を組み替えるとあたしにウィンクしてみせた



その風貌や雰囲気はヨウコさんを彷彿とさせる




やっぱりこういう自信や個性が光ってる人ってカッコイイ



あたしも年をとったらこんな風に言えるように笑って年をとりたいなぁ



『あ、いけない飯田さんほかりっぱなしだった』


『どれ、あんたが行くならあたしももう一回入ろうかね』



おばあちゃんとあたしが浴場に入ると中はどえらい事になっていた

No.243 09/09/16 10:10
匿名 ( ApyXh )

※横レスごめんなさい※

モモンガさん、初めまして。

昨日はきらきら星も一気に読ませてもらい、この小説もモモンガさんの物だと知り今日又最初から読ませてもらってます。
誤字脱字が気にならない位に『読みたい気持ち』が沸いて来ます。モモンガさん、文書能力が高い方ですね。これからも楽しみにしてます。

最後にお願いが有ります。
小説の世界に浸ってるのに横レスは現実に戻るのでモモンガさんの感想スレをお願いします。

私のこの横レスも申し訳ないのでお返事は要りません。

宜しくお願いします。

No.244 09/09/16 11:39
モモンガ ( PZ9M )

匿名さん🌱


はじめまして😺
ももんがと申します


お礼レスは結構です


とのお申し出でしたがやはりお礼が言いたくてレスさせて頂きました




誤字脱字が本当に多くて本当にすいません😿💦




これから減らせるように心がけますね💦



あとよろしければ



『ももんが感想スレ』なるものがありますので




よかったらご意見バシバシお願いします😺





みなさんに楽しんでいただけるように




頑張りたいと思います🌱




ももんがより😺

No.245 09/09/21 12:10
モモンガ ( PZ9M )

扉を開けると湯船の中ではタオルを頭に巻いたノリノリの飯田さんがこれまた放漫なボディーのおばさまたちに取り囲まれて持ち歌を披露していた




『ありゃ…ばれちゃってるし…』


あたしが肩から吐くようにうなだれると後ろからおばあちゃんが飯田さんを指差した



『あれ!…ほら何だっけあの子…



動物奇想大天外に出てる…



飯田ナントカって子


違うかね?なんでまた銭湯で歌なんて歌ってるんだい?』



おばあちゃんの言葉がおわるやいなや


湯船の中では眉毛の消えた飯田さんが


バスタオルいっちょうにヘアブラシをマイクにしておばちゃんのリクエストに次々と答えている




失笑気味に近づいていくと割れんばかりの拍手に大喝采だ



『ありがとうね~

おばちゃん方サンキュー!!!』



飯田さんもナンチャッて歌謡ショ―にまんざらでもないみたいだ



飯田さんはあたしを見つけるとテンションが上がった声であたしを風呂の中から手招きした

No.246 09/09/21 14:07
モモンガ ( PZ9M )

『え?あたし?

なになに?』



周りの大爆笑のおばちゃんたちに背中を押されて飯田さんの横に並ぶと一斉に拍手が起こった



『みなさ―ん!こちらが先程お話しした三橋電気の山川さんです



元々は通りすぎても気がつかないほどのジミィ~な女の子だったんだけど




やっぱりきれいになる努力を怠らないとこのように変身をとげることになるわけです



やっぱね~あたしも思うけどやっぱり努力の上の努力よね




簡単に綺麗になるならエステも警察もいらないよね~




って違うか!』




さすがバラエティーもこなすだけあって回りは笑いの渦に包まれていた



あたしは楽しそうに笑うみんなの顔を見ながら改めて大切な事を思い返していた




自分達の会社の現状や商品の心配ばかりをしていて



新商品の向こうにあるこういう使う側のおばちゃんやお姉さんの顔なんて浮かんでいなかった





営業って売ってなんぼ


成功してなんぼだと思っていたけど


一番嬉しいのは
『使ってみてよかったよ』っていうリアルなお客様の声なのかもしれないね

No.247 09/09/21 14:44
モモンガ ( PZ9M )

しばらくみんなのようすを見ているとさっきのおばあちゃんがニコニコしながらあたしの横へと座ってきた



『あんた芸能関係の人だったの?


今日は何かキャンペーンでもあったのかい?



何だか楽しい銭湯になったよ



ありがとうね』




『いえいえ



本当はキャンペーン…しようかなって思ってたんですよ



方法はイマイチわかんないんですけどね(笑)




でも…なんか



みんなの楽しそうな顔見てたらもうそんなのどうでもよくなっちゃった』



あたしが笑って言うとおばあちゃんが聞いてきた



『何のキャンペーンだったの?試しにいってごらんよ



力になれるかわかんないけど少なくともいいか悪いか位はあたしが見てあげるよ



これでも先見性にはたけてんのよ



流行りのものから新商品まで



こういうとこでは『口コミ』が最大にいかされるからね』



なるほど…
昼間の主婦の休養を兼ねた情報交換の場所でもあり



子育ての一段落した団塊の世代はお金もこれからは自分のためだけに使うことができるし



こういう浴場でセルフケアをするお客様を美顔器の客層にするってのはあながち間違いでもないかもね

No.248 09/09/21 14:59
モモンガ ( PZ9M )

『なにしてんの山川さん…ここで相談ってある意味凄いんだけど…』




同じくバスタオルにお見事な美脚と豊乳をお持ちになる河村さんが立ち尽くしていた




『あ…河村さんだ

あはは



凄いとこでお会いしますね』




『って自分が呼んだんでしょ?



…っうかどうなってんの?



掃除のおじさんから『山川さんに渡してくれ』って紙袋渡されたし


来てみれば受付のおじさんから風呂に行けって案内されるしさ



それに…』




河村さんは小さな声で耳打ちをしてきた


『なんでまたここに飯田みゆうさんがいるのよ?



わけわかんないんだけど』




あたしは全てに小さくうなずきながら説明のしょうがない事態をどうすればよいかを必死にひねり出すべく考えていた



『まぁ…とりあえず一端でましょうか?


せっかくだから河村さんもお風呂入ってきてね』




あたしは河村さんからマッキ―から預かったという紙袋が入ったロッカーの鍵を受けとるとご機嫌な飯田さんの腕をとり浴場をあとにした

  • << 250 取り出した美顔器のスイッチを入れると暖かいミストが出てきた なんやこれ 使えっていうの? わかんないよマッキ― 一台はあたしに? まさかんなわけないわな あたしは手早く服に着替えるとおずおずと飯田さんの側に寄っていった 『あ、着替えたよ とりあえずどうしたらいいかな あ、何?これ例の美顔器? 試していいの? やらせてやらせて』 飯田さんはすっぴんにヘアバンドをすると化粧なおしのスペースに座り顔を軽くふいて器械のスイッチを入れた 霧のようなミストが顔にかかると目をつむったままで歓喜の声をあげた 『うわ― めっちゃ気持ちいいよコレ! 何かいい香りもするし思ったより軽いね ハンディタイプだから片手でももてるし 凄くいいよね 携帯もできるじゃん』 まわりのギャラリーも着替えながら芸能人ねメイクアップをかたずと見つめている こんな機会なかなかっちゅうか絶対ないもんね 普段こんな綺麗な芸能人がどんなセルフケアしてるかなんて 興味ありありやわな

No.249 09/09/24 11:15
モモンガ ( PZ9M )

河村さんはポカンとした顔をしていたが今は説明している暇はないのだ




『あ~楽しかった!バレバレだったけどね。


よかったの?さっきの人、同じ会社の人じゃないの?』




『とりあえず先に用意しましょうか?


まずは着替えてもらって…ってメイク道具とかもってますか?まさかそのままじゃマズイですもんね』




『あ、とりあえずトラベルセットは持ってるよ。メイク道具も万全だし、じゃあとりあえず着替えるから』




バスタオルを巻き直して飯田さんが自分のロッカ―へと向かう




勿論多くのギャラリーがとりまいていてちょっとした騒動だ



あたしはその隙にもらった鍵でロッカーの紙袋を取り出した



社名の書いてある白い紙袋の中には




ハッピ三枚
タンバリン一個
ラッパ一個
(いずれもおもちゃ)



それに新製品の美顔器が二台




それにマッキ―からの手紙が入っていた





『山ちゃんへ



いいお湯やった?




後で援軍送るから仕込みよろしく



とりあえず広間に集合な




頑張って―な(^o^)/



牧野』




なんなんや…
一体…

No.250 09/09/24 11:25
モモンガ ( PZ9M )

>> 248 『なにしてんの山川さん…ここで相談ってある意味凄いんだけど…』 同じくバスタオルにお見事な美脚と豊乳をお持ちになる河村さんが立ち尽く… 取り出した美顔器のスイッチを入れると暖かいミストが出てきた



なんやこれ



使えっていうの?




わかんないよマッキ―



一台はあたしに?



まさかんなわけないわな




あたしは手早く服に着替えるとおずおずと飯田さんの側に寄っていった



『あ、着替えたよ


とりあえずどうしたらいいかな



あ、何?これ例の美顔器?



試していいの?



やらせてやらせて』




飯田さんはすっぴんにヘアバンドをすると化粧なおしのスペースに座り顔を軽くふいて器械のスイッチを入れた




霧のようなミストが顔にかかると目をつむったままで歓喜の声をあげた




『うわ―



めっちゃ気持ちいいよコレ!




何かいい香りもするし思ったより軽いね



ハンディタイプだから片手でももてるし



凄くいいよね


携帯もできるじゃん』




まわりのギャラリーも着替えながら芸能人ねメイクアップをかたずと見つめている



こんな機会なかなかっちゅうか絶対ないもんね



普段こんな綺麗な芸能人がどんなセルフケアしてるかなんて



興味ありありやわな

No.251 09/09/24 11:37
モモンガ ( PZ9M )

『それ

中にはラベンダーの香りのする美容液がミネラルウォーターと入れてあるんですよ』




後ろから綺麗に髪を整えながら河村さんが現れた



『もう始末書もんだからね



山野さんも同罪だよ



まだ発売もしてない新商品持ち出したなんて社長に知られたらあたしたち…




間違いなくクビよ




でもこれ以上ない宣伝の場を潰すほどあたしもバカじゃないわ




詳しくはあとで聞くからとりあえず宣伝するわよ!』




河村さんの顔がいつの間にかいつもの仕事バリバリのキャリアウ―マンの顔に変わっていた




『今まではメイクを落として毛穴を広げるだけだったけど



これはある程度時間が経つとセットした美容液がミストとして噴射されるんです



今はラベンダーの美容液が入ってますが別にいつも自分がつかっているものをセットしてもらってもいいんですよ?』



河村さんが飯田さんに詳しく説明を始めた




まわりの椅子にはさっきのおばちゃんたちが『へぇ~』といいながら興味深々で眺めている



飯田さんは嬉しそうに色々河村さんに質問している



なんかよくわからんけどみんないい具合で食い付いてきてる

No.252 09/09/24 13:28
モモンガ ( PZ9M )

なんだかわからない程の人だかりと興味津々のおばちゃん達



何だかこれっていいんじゃない?



遠巻きに人だかりを眺めているとさっきのおばあちゃんがあたしのおしりをまた叩いた



『えっ?


あ、おばあちゃん



さっきは話の途中でごめんね



結局凄い人だかりになっちゃったね』




あたしが笑っていうとおもむろに片手を出してきた



『ちょっとアタシにも貸してみてよ


何だかちょっとおもしろそうじゃない?』



あたしはもう1つの美顔器を持っておばあちゃんの顔に当ててみた




『あ~!こりゃいい香りだね



冷たくもないし
暑くもないし丁度いいね



こんだけかるけりゃ年寄りにもいいんじゃないかい?



これは充電式?』



振り返った河村さんがおばあちゃんにも説明をする



『はい!充電式ですが旅行に対応もできるように単3四本でも動きます



勿論防水対応です!』



『へぇ…いたせりつくせりだね



で?気になるこっちの方はどうなのさ』



おばあちゃんが親指と人差し指でワッカを作ってみせた




金額だね



あたしも気になってたんだよね

No.253 09/09/24 13:46
モモンガ ( PZ9M )

『値段はなんとこの装備で12000円


色は白とピンクです

…どうですかね?』


おばあちゃんは美顔器のスイッチを切ると左右上下を何度も見上げたりしながら再度スイッチをつけた



『いんじゃないかい?

ほら、最近出てるゲルマロ―ラあるだろ?


あれどうしてヒットしたかわかるかい?


手軽さ軽さ値段


そして何より持ち運びの便利さだよ


どんなにいいものでもいつも使えなきゃ意味がないからね



その意味ではどれも合格これなら売れると思うよ』



にっこり笑うおばあちゃんにあたしたちは手を取り合いその場で跳び跳ねた



『お―い!山川さ―ん化粧すんじゃうけどいいのかなぁ?美顔器のお陰でツルッツルのピカピカよ



これあたしも一台ほしい!


ね、いつ買えるの?』



河村さんの顔が一気に輝いた



『はい!こちらは今月末の発売予定です

予約も承っておりますのでお近くの電化量販店か三橋電機までお願いします』



『そっか、もうすぐなんだね~じゃあ早速予約しちゃおうかな!


あたし…ピンクで』


『あ!ありがとうございます』



河村さんが頭を下げると続いておばあちゃんが言った

No.254 09/09/24 14:00
モモンガ ( PZ9M )

『あたしも一台協力しようかね?



こんだけいいのなら早く使いたいもんだよ』



おばあちゃんが鏡の前で化粧水をつけはじめた




それを見てか回りにいたおばちゃん達が


『あたしも…ちょっと使ってみてもいい?』



一人が口火を切り出すとあっという間に美顔器のお試し会場のようになってしまった




河村さんが


『こんな営業方法があったなんてね…



これはいけるわよ』



小さな声であたしに耳打ちした


『あっ



そう言えば広間にいかなくちゃ』




あたしはマッキ―に言われた通り河村さんと飯田さんを連れて一階の大広間(いわゆる休憩所)に腰をおろした




女湯からは美顔器を試したおばさんもばあさんも道行くじいちゃんもおじちゃんも飯田さん見たさにみんな集まってきた



その様子をみてさっき浴場まで案内してくれたおじさんがご満悦な様子で駆け寄ってきた



『じゃあそろそろ始めちゃって下さいね』



あたしは眉を潜めながらおじさんに聞き返した



『…何を?』



『何って…勝ち抜き大ジャンケン大会』



うすらバ―コドのおっさんが両手をブイサインしながらニコニコと答えた

  • << 262 山川弘美の日常をお読みのみなさまへ🌱 た…💧大変長らくお待たせ致しました🙇 月曜日から少しずつですが更新を始めたいと思います🌱 またよかったらお付き合いくださいませ😺 それではまずはお詫びとご挨拶まで🌱 😺ももんが😺

No.255 09/09/28 20:52
モモンガ ( PZ9M )

小説をお読み頂いているみなさんへ🌱




最近は更新が遅くなりご迷惑をおかけしております🙇




同時進行している



『しあわせいろ』のリレー小説がなかなか進まず



このままどちらも…


というのが難しくなってきました




ですのでまずは『しあわせいろ』が終結するまでしばらく『山川さん』はお休みさせて頂こうと思います





楽しみにしてくださっているみなさん




本当にごめんなさい



🙇🌱





ももんが

No.256 09/11/20 20:51
なみえ ( ♀ ISXe )

お忙しいですよね😔 でも、ファンとしては、続きが早く読みたくて…😥 わがままでごめんなさい🙏

No.257 09/11/22 15:09
モモンガ ( PZ9M )

なみえさんへ🌱



楽しみにしてくれているのにごめんなさいね🙇



あとちょっとだけお待ち下さいね💦




いつも応援してくださってありがとうございます😃🌱




ももんが🌱

No.258 09/12/05 07:02
Kママ ( 20代 ♀ a1uAh )

>> 257 楽しみに待ってます☺

No.259 09/12/08 01:58
モモンガ ( PZ9M )

Kママさんへ🌱



こんにちわ😺

ももんがです⭐



更新がなかなか進まずごめんなさいね💦



良かったらぜひまた遊びに来てやってください😺🌱



ももんが

No.260 10/03/12 07:48
ハル ( 30代 ♀ E3wL )

更新楽しみにしてます🍀

No.261 10/03/12 21:15
モモンガ ( PZ9M )

>> 260 ハルさん🌱


ありがとうございます


更新がんばります🙇❤



ちょっとお待ちくださいね🌱




ももんが

No.262 10/03/14 06:51
モモンガ ( PZ9M )

>> 254 『あたしも一台協力しようかね? こんだけいいのなら早く使いたいもんだよ』 おばあちゃんが鏡の前で化粧水をつけはじめた そ… 山川弘美の日常をお読みのみなさまへ🌱


た…💧大変長らくお待たせ致しました🙇



月曜日から少しずつですが更新を始めたいと思います🌱



またよかったらお付き合いくださいませ😺




それではまずはお詫びとご挨拶まで🌱





😺ももんが😺

No.263 10/03/14 18:28
右往左往 ( 30代 ♀ WPjHh )

>> 262 嬉しいです🙌ずっと待っていました。
私の楽しみ増えた⤴
ありがとうございます✨

No.264 10/03/14 21:16
モモンガ ( PZ9M )

>> 263 右往左往さん🌱



ありがとうございます😺❤


何せ3ヶ月…



4ヶ月…ぶり💦




😹『銭湯でのぼせとるがな!』


弘美の一喝が聞こえてきそうです💧



また明日から宜しくお願いします😺❤




ももんがより🌱

No.265 10/03/14 23:59
まりん ( ♀ YZ7mnb )

ももんがさん
お帰りなさい😂
待ってました~。

明日から楽しみが復活です🎵

No.266 10/03/15 01:40
モモンガ ( PZ9M )

まりんさん🌱



あ…あまりにもテンションが違う作品なので😹うまく前みたいにもってこれるか~💦




また明日から(もう今日だ😹)



頑張ります🌱





よかったらまたお付き合いくださいませ🌱😺





ももんがより😸

No.267 10/03/15 01:53
モモンガ ( PZ9M )

大広間は前髪をかきみだしたばあちゃんじいちゃん



好奇心まんまんのママさん達




そんなの知らねぇから早くアイス~
早くジュース~


のお子さま達…を見ながら足をセルフサービスでもんでいるパパ達で溢れていた



『ん~!結構結構!!大満足ですね


久しぶりの賑やかな部屋ですね~』




注文された料理に生ビールがアルバイトさん達によってあちこちに運ばれる中



湯上がりピッカピカの美人芸能人にサイドを固める凡人OL



(…片方は美人)




美顔器片手にじゃんけん大会をはじめようとしていた




はたからみたらぼったくりセールスだ



よくあるじゃん



『欲しい人は手を上げてー!!』みたいなやつ



あんなんとは違うからね(笑)




まぁとにかくみんな楽しそうにワクワクしてます



ざっと100人位




マイクの音量を確かめていた河村さんが先頭きって喋りだした

No.268 10/03/20 03:49
モモンガ ( PZ9M )

『ではみなさん急きょはじまりました大ジャンケン大会ですがこんなにご参加下さり本当にありがとうございます



今回のゲスト!みんなご存知!飯田みゆうさんです



飯田さんとジャンケンをして頂き負けた方はその場へ座って頂き



勝った方は最後には直接対決です



優勝者にはこの度新発売になります三橋電機の最新式美顔器に飯田さんのサインをつけてプレゼント~




みんな美顔器ほしいですか~?』



『ほし~い!!』
『お~!!』
『イエーい!!』



みんなバラバラな答えだがお酒が入っているお父さんたちは『みゆうちゃんカワイイ~!!』と別のテンションで盛り上がっている



よこでは『美顔器ってなに?』とお母さんの服をひっぱっている子供もいて



さながらちょっとしたお祭りのビンゴ大会みたいになっている



会社で真面目に仕事してるみんなもまさかあたしたちが美顔器片手にジャンケンしてるなんて(しかもしつこいようだけどスーパー銭湯だし)


思いもよらないよね~


わかったらこわいけど~

No.269 10/03/24 17:24
モモンガ ( PZ9M )

だけど河村さんて凄いなぁ



当のあたしでさえひいちゃうような現場でさ


会社の服きて袖まくって


美人なのに気取らず拳突き上げてジャンケンしてさ


現場に動じないで冷静に先も読んで…


なにより楽しそう



営業の仕事が本当に好きなんだね



飯田さんとはねあがり喜んでいるジャンケンの勝者は60代のおばあちゃんだった



もらった美顔器にサインをもらい何度も頭を下げながら顔を赤らめて席へ戻っていった



そのあとはバ―コ―ド店長のたってのお願いで急きょ握手会を広間で行い



長蛇の列にもかかわらず飯田さんは凄くたのしそうに笑っていた




小さいこにも大人にもおばあちゃんにもおじさんにも



同じ目線に動いて笑顔で会話を交わす



二人の仕事を見ていてなんだかあたしは胸にこみあげてくるものがあった



見事なプロの仕事



現場から逃げないお金をもらうプロの仕事



それを伝票上ではない生の現場でまじまじとみせつけられた感じだった

No.270 10/04/14 05:20
モモンガ ( PZ9M )

結局会場は終始盛り上がりを見せたまま美顔器はお試し大会の絶好の機会を得て大好評




飯田さんはかけつけたマネージャーに大目玉を位ながらもオフにも関わらず始終すっぴんに近い顔で笑いながら退場し




両手にスーパー銭湯の無料チケットとノベルティの白いタオルを山のように貰い河村さんの運転する社用車で帰るころにはもう退社間際の時刻だった




河村さんはビルの地下に車を止めると座席をリクライニングにして大きく体を伸ばした



『あああああー!!!疲れたぁぁぁ!!』




そういうといつものクールな横顔を見せてクスッと笑った



『久々よ


こんなに楽しい営業


お陰で予約も何本かとれたし


宣伝にもなったし




銭湯にはリースで毎月おけることになったし




何より芸能人が宣伝してくれるからね』



そういうと勢いよく座席を元に戻した



バックミラーの向きを変えてカバンの中から取り出したシャネールの口紅をさっと引いた


『ん、よし


山川さんは?いいの?化粧直し…』

No.271 10/04/14 05:35
モモンガ ( PZ9M )

そう言われて向けられたバックミラーを覗くと



角度の微妙な申し訳ない感じの眉毛

すっぴんしゃんな見慣れた自分がそこにいた


あんまり目まぐるしくて眉毛もひとりぽっちだった



『あ~


こりゃまずい…いくらなんでも』



苦笑いを浮かべて眉書きを探すと河村さんが『こっち向いてみて』


顎を軽く持ち上げた




『!?』



不意に会う目線に女ながらドキドキする


天海祐希に顎つままれたら誰でもドキドキするよね



目をみはっていると河村さんは器用にブラシを使い私物の粉をまんべんなく叩き始めた



『動かないでね


じっとしてて。



あたし…こう見えても昔は化粧品の会社に勤めてたのよ



毎日毎日お客の顔に落書きしてたの


フフっ


何か今日は色々思いだしちゃったなぁ…』




そう言い、笑いながらポンポンと器用に頬のあたりをたたく



あたしはされるがままに目を開けたり閉じたりしながらドキドキした心臓を静めるのに精一杯だった

No.272 10/04/15 01:41
モモンガ ( PZ9M )

車内でじっとしていると気づいた



河村さんてエエ匂い



よく男が『すれ違いざまに香りに気づいて振り替える』ってCMあるじゃん?洗濯剤やら柔軟剤やらシャンプーやら



見てて『そこまで振り向かね~!!』とかテレビに向かって言ってたけど



やっぱりいい匂いの女はエエもんだ



ちょっと甘い


でも爽やかな…



なんていう香りなんだろう?社内の男どもにもいるようないないような…




『…山川さん



鼻の穴開いてるよ



何か匂うの?』




ハッとして目を開けて左右に小刻みに首をふった




『さっき車に乗る前につけたんだけど…


気になるかしら?』



『ううん!違いますよ






いい香りだなって思って



何つけてるんですか?』



『ブルガリ


オムの方ね


さっぱりしてて好きなのよ


学生の時からずっとこれなの』




そういうと優しい顔をしてあたしの唇に口紅を軽く塗った

No.273 10/04/15 01:50
モモンガ ( PZ9M )

ブルガリア…ヨ‐グルトなら知ってるけど


なんだっけ



オム?



オムって?



オムライス
オムレツ
オムレット
オムニバス…




あかん
わからん…



まぁとにかく
ブルガリアのオムはいい香りだって覚えておこう



こうやって少しずつでも色んなこと覚えていかなくちゃね



うん、うん




山川弘美

少しずつですが前進してる感じです



向かい合わせのこんな美人には急にはなれないけど



いつか自信がもてたらあたしも買ってみよう



ブルガリア




『山川さん笑わないで


ラインがずれちゃう』



『…すみまへん』




油ギッシュな唇をムハムハすると河村さんがカバンから大きな手鏡を取り出した



『即席にしてはいいんじゃない?



山川さん化粧っけないからうすいピンクのグロスにチ‐クだけ薄くしといたわ


マスカラは透明にしたから目の際に少しだけライン入れました



すっぴんじゃないけど気にならないでしょ?』




覗いた手鏡にはナチュラルな眉毛



さらさらな顔のあたしがいた



おそるべき化粧マジック

No.274 10/04/15 02:01
モモンガ ( PZ9M )

『…すごい



河村さんてプロみたい』




『だから!プロだったんだってば~


聞いてた?



まったくもぅ』




隣で笑いながら身支度を整えた河村さんが『さて、いくわよ』と後部座席からコ‐トを取り出した



あたしは頷くと大量の白いタオルとチケットを傍らにピカピカ光っている携帯を見た




マッキ‐からだ




『ごめん河村さん



あたし用事済ませてから戻るから先に会社戻っててください』




そういうと河村さんに頭を下げてマッキ‐の待つ屋上へと向かった



メールには




『ミッションクリア❤ご褒美あげるから部屋においでませ』


とあった




ミッションって銭湯の主だよね





結局誰だったかわからないけど盛り上がったのは確かだよね



健康志向のおばちゃんたちはホントに頼もしい




子育て終わって
お金をかける先が子供や家族から自分にあって


時間もあって
ゆとりもあって
少し贅沢ができる富裕層


狙わない手はなかったね



さすがマッキ‐



ってさ



何でマッキ‐が指示とか出せちゃうわけよ?


う‐ん

No.275 10/04/15 02:20
モモンガ ( PZ9M )

みるみるエレベーターは最上階を越えて屋上へと着いた



あたしはモヤモヤする頭を整理しきれずマッキ‐のいる用務室の前に立った




中からは聞き覚えのある可愛らしい声がした



それに合わせたダミ声のおっさんの声




『ポリリズム❤
ポリリズム❤
ポリリズム~❤』



扉を開けると作業服にほうき片手でマッキ‐が踊っていた



『おっ❤きたね


お疲れ山ちゃん



聞いたよ~かなり向こうで盛り上がったんだって?


やるじゃん


よく頑張ったの』




そう言うとマッキ‐はCDを止めてあたしを部屋の中へと手招きした




あたしは1、2歩足を進めると目をぱちくりさせた




マッキ‐のいつもいる席に見慣れた後頭部



『…?』




あたしが近づくと椅子を反転させてにこりと笑ってみせた



『お帰り❤山ちゃん』




この二人のツ‐ショットが今後のあたしの地味ぃ~なOL生活を一変させるとは




お釈迦様でも
鳩山首相でも



QVCのキャストでも気づかないんだな



これが




あははは~




どうにでもなれや~(泣)

No.276 10/06/17 19:33
モモンガ ( PZ9M )

山川さんをご覧頂いているみなさまへ🌱




ボケボケももんががスランプなんかになり親指をもじもじさせている間に




鳩山さんから菅さんに代表も変わってしまいました😹




思い付くがまま打つのは簡単なんですが山川さんはイメージ通り楽しく書きたいのでもう少し私のメンタルが元通りになるまでお待ち頂けますか‥?




多分書き出したら止まらないと思うのですが



本当にすいません🙀



🌱ももんがより🌱

No.277 10/06/17 19:50
匿名 ( 30代 ♀ NWaAh )

ずーっと楽しみに待ってました。早く良くなって戻って来て下さい!待ってま~す😁

No.278 10/06/17 21:20
モモンガ ( PZ9M )

匿名さん🌱



ありがとうございます😺❤





できの悪いお母さんで申し訳ありません💦



早くモチベーション上げて書きたいと思います😃




本当に本当にありがとうございます🌱




ももんが😺🌱

No.279 10/06/24 10:50
モモンガ ( PZ9M )

『…さん…



山川さん…』




誰かが体を揺らしてる

ちょっと待って

今ジュンセとクルージングデートなの


やっぱり男は誠実なのが一番だよ


アニョハセヨ~
サランヘ~
マジッセヨ~
ヨンサマ~




『ヤマカワヒロミ!!』



頭の中心から足の小指まで貫くほどの大声で目が覚めた



周りには驚いた顔したこじゃれた姉さん方



顔を上げて前を見ると半笑いしてバカにした顔のまみ兄がいた



『お前よ~せっかく昇進祝いしてやるってのにヨダレたらしてアニョハセヨいってんじゃないよ



しかもジュンセって誰だよ』




首を傾けながら着ていた上着を椅子にかけると一気にテーブルに置いてあった(あたしの)水を飲み干した



ジュンセとはあたしが最近はまっている韓流ドラマの役名



気は優しく力持ち
そしてイケメンお金持ち
だけど鼻にかけない正義の人



いねぇよそんな人



でもいい


今は胸がキュンとするのがマイブームなのだ



癒しだね


あたしがにやッと口角をあげていると再び顔をひねらせ『わかんないヤツだなぁ』といい鼻先をつままれた

No.280 10/06/24 11:19
モモンガ ( PZ9M )

赤くなった鼻をいじっているとまみ兄が顔をのぞきこんできた


『…で?万年事務員の山川がなぜまた営業に?

まさか移動願…なわけないわな、その顔じゃあ』


右ほほをテーブルにつけてウルウルしているあたしだって知りたい位だよ

っていうかありえない

あたしが

このあたしが!


営業って!!!



この信じられない悪夢はさかのぼる事五時間前


マッキーの部屋に入った時からだった


踊るマッキーの傍らに見慣れた後頭部


振り返ったその人は確か今朝も見た

グレーのスーツに青いストライプのシャツ濃紺のネクタイに少し焼けた肌


うちの社長だ


何故用務員室のおじちゃんと?あたしが驚いて目をぱちくりしていると社長が口を開いた


『お疲れ様山川さん今営業から連絡もらったよ、随分頑張ったみたいじゃないか健康ランドの営業は楽しかったかい?』


『…!?!?』



河村さん?うっそ~ん。なんでん?


あたしが苦笑いしていると社長が続けた


『しかし、結果オーライとはいえまずは私に相談してほしかったですね。


お父さん』

No.281 10/06/24 12:14
モモンガ ( PZ9M )

はい??



お!倒産
尾頭さん
おとう山


お‥お父さん‥



ただいま気持ちは1000%あのシーン
(どのシーンだよ)



スンミがウンソンと写ってる写真発見~


なんでや~おまえら家族なんか~い!


って‥



あたしは半笑いしながらも般若のようにするどい眼差しでマッキーを見つめた



マッキは社長の後ろにさっと隠れると『キャッ、山川さん怖いわ~社長、お宅の社員にあんなメンチ切る人が混じってる~』


背中にメラメラと怒りの炎が点火し額からはわけのわからない汗が吹き出す


『まっきー‥わかるように説明してよ』

やっと開いた言葉を捻り出すとマッキーの代わりに社長が話し出した


『驚くのも無理はないです

父とは会社では滅多に接しませんしね

改めて紹介しますね
牧野一郎

私の父で三橋電機の初代社長です。今は現役を退いて会長職をお願いしています

公にはしていませんがね

父はちょっと変わってますし』

社長はそういうと笑いながらため息をついた

マッキーは社長の背中からひょっこり顔を出すと『ごめんね❤』と可愛らしくブイサインをだしてきた

No.282 10/06/24 12:28
モモンガ ( PZ9M )

『‥‥話はこうですか?



私と河村さんを知り合いの銭湯に口利きして二人で営業に出し



中にはこれまた老人会でお知り合いのご婦人がお店にたくさん通ってらして




どんな営業をするか私達を試した‥と



なおかつ

もうすでに飯田さんのプロダクションに連絡してCM契約して相手側にも納得してもらった‥と



手早いですね、会長』




『先手必勝❤
油断大敵❤』


睨むように社長の後ろを覗くと『だからごめんて~』とまっきーは何度も頭を下げてきた



『まぁ冗談はさておき


山川さん



父とも話し合ったんですが


明日から事務から営業に移動してもらうことになりました



突然で何ですがあなたには外商の才がありそうだ



幸い福島さんには先程了解頂けましたしね



辞令は退社までに出ますので一つ宜しく』




背後のまっきーが社長の背中からダブルピースしてみせる



ちょっとまてハゲ親父よ

No.283 10/06/24 14:10
モモンガ ( PZ9M )

それから事務局に戻り

あたしは福島さんに散々異動したくないむね抗議したがあえなく却下


『山川さん大抜擢だね


大丈夫だよ



ああみえてしんちゃんは人を見る目があるからね』


驚いて福島さんを見ると(シーッと)口に人差し指をあてて笑ってみせた



知ってたんだ‥マッキーが社長のお父さんだって事


でもでも‥



しりごみしているあたしに福島さんがにっこり笑って言った


『山川さん行ってらっしゃい

はい、異動届❤』



みんなが見つめる中とどめを刺され、あたしは3年勤めた事務局を(何の同意もなく‥)後にすることになった



前方には

『事務から営業へ』

しかも


『落ちかけていた企画を拾った事務員』

を好奇心いっぱいの目で見つめる営業一課・二課の皆さん


ねぇ‥あたし何かしたっけ?


この会社で生きていくならもう営業しかないのか‥


うえ~ん


あたし風呂はいってジャンケンしてただけなのにぃ~


『はぁ‥‥』



くっきり痕がついた右頬をゆっくりはがすように顔をあげた


あまりのブサイクさにまみ兄が吹き出した

No.284 10/06/24 19:33
モモンガ ( PZ9M )

『なんちゃう情けない顔だよ山川弘美



右側半分潰れてんぞ

ったく‥


まみから電話もらった時は何事かと思ったけど


なんちゅうこたないな



ほれほれシャキシャキせいシャキっと!』



半目の寝ぼけまなこにグラスを傾け軽く当ててきた




『冷たい~』


口をへの時にして見上げるとまた楽しそうにグラスを押し付ける




『もぅ~せっかく河村さんがお化粧してくれたのに取れちゃうじゃないですか』



わざと頬をふくらませると笑いながら頬についた水滴を手のこうで撫でた



『ごめんごめん



せっかく時間空けて来たんだからどっかメシいこうぜ』




一瞬にして水滴なんか蒸発するかと思った



あたしは慌てて頬を押さえるとのぞきこむまみ兄に小さく『アリガト』と呟いた

No.285 10/07/08 11:23
北海道23 ( tGGCh )

読ませていただきました!*゜

すごく面白いです(・^Д^g)♪

ドラマ化になったら良いなぁ...❤

No.286 10/07/08 17:36
モモンガ ( PZ9M )

北海道23さん🌱


ありがとうございます🙇


ももんがといいます



ドラマ‥




脳みそが吹き飛ぶようなお言葉で(笑)


ありがとうございます



続きがなかなか書けなくてすみません💦

明るくて楽しいお話にしたいのでリアルでへこんでいたりするとなかなか進まずご迷惑おかけしています😿



でも❤読んでくださってるよって皆さんからメールいただく度にがんばろうって力がでます



ホントにありがとうございます❤




また良かったら遊びにきてくださいね😺



🌱ももんが🌱

No.287 10/09/06 08:38
弥生 ( ISXe )

早く読みたい‼

No.288 10/09/16 18:32
さくら ( E3wL )

楽しみにしてます❗

No.289 10/10/21 15:53
黒ネコ ( 20代 ♀ LKl4nb )

こんにちははじめまして😄
お体は大丈夫ですか?
楽しく読ませてもらってます✨
続きが見たいですが、モモンガさんが無理しないで更新するのを待ってます😄
これからも大変だと思いますが頑張って下さい🎵
1ファンとして応援してます😌

No.290 10/11/14 02:47
モモンガ ( PZ9M )

🌱弥生さん
🌱さくらさん
🌱黒ネコさん



みなさんホントにありがとうございます🙇💦


そしてホントにごめんなさい💦




もう少しだけお待ち頂けると嬉しいです


でも今日は少しだけ…



書きます🙇




ホントに気持ちだけの更新でゴメンナサイ



🌱ももんがより🌱

No.291 10/11/14 03:01
モモンガ ( PZ9M )

さぁ


さぁさぁさぁ!!



この微妙な距離感


世の中のかわいこちゃんたちはどう間合いとってんのさ



歩けば触れそうな微妙な手


スピードはわざと合わせてくれているのか抜きつ抜かれつをキープ


ああもぅ


いっそ抜いてくれ


あたしがわざとスピードを緩めるとすかさず立ち止まり『どうした山ちゃん、歩くの早い?』


にこやかに立ち止まるまみ兄はやがていやらしくニヤニヤする

『お前また


こんなあたしが営業なんてできない



こんな地味ぃなあたしがこんなイケメンの横なんて歩けない


世の中のお姉さん達ゴメンナサイ!とか思ってる?だったら…』


いいかけた兄の横をナイナイと首を横に振りながら静かに抜かした



心中その通りでくやしすぎるんだけどさ



ってかあたしたちはあれから少しお茶を飲みながら雑談したあと兄の大好きなあのラーメン屋さんに移動することにした



営業への昇進祝いにラーメン屋か…


うんうん
地味ぃなあたしにはちょうどいいサイズだけどね

No.292 10/11/14 03:17
モモンガ ( PZ9M )

『今日は車じゃなかったんですね』


『ん?あぁ…車検だしててさ

明日戻るよ


何も心配しなくてもちゃんと家まで送りますよ』


横を見るとわざとウインクしてみせる


だから免疫ないから倒れるっつぅの!


あたしは慌てて顔を戻すと地下鉄の入り口に足を運んだ


急いだからかズルッと下半身が宙にういた


『…っきゃあっっ!』



目をつむって手をつこうとすると横にいたまみ兄が反対側の手でとっさにあたしの身体を抑えてくれた



『山さんだめじゃん~このまま階段スライダーしちゃったら赤いお尻で明日営業だよ(笑)


それとも俺に見とれて滑っちゃった?』



あたしが慌てて体制を立て直そうとすると『ほら、貸して』と兄がカバンをもってくれた



こともあろうに何故かしっかり手をつないでしまっている



『ほら、今度は気をつけて降りなよ


滑っちゃったら今度は白いパンツ見られちゃうよ


今度はおじさんに』


あたしが慌ててスカートに手をやると『うそだって』と楽しそうにまた笑った



何なんだ一体
パンツパンツって

No.293 10/11/14 03:34
モモンガ ( PZ9M )

あたしの前を半歩先に歩くまみ兄と手を繋いでいるあたしは周りからどんな風に見られているんだろうか

端からみたら普通のサラリーマンとOLのカップルに見えるのか…

駅のエチケットミラ-で自分をのぞくのが大嫌いだったあたしが

今は少し赤い顔をしてドキドキしながらとなりの彼を見上げている…


何でこうなったのかは自分でもよくわからないし

まみ兄を正直どう思っているのかもわからない

このドキドキは恋なのか

ビギナー特有の胸の高鳴りなのか

それともパンツを二度もみられた親近感からか…


いやコレは違うな…

いずれにしろこれは神様があたしにくれた最初で最後の魔法かもしれない


あたしは意外に柔らかいその手を少しだけあったかいって思ってしまった


これからどうなるのかは神様と打つのが遅い作者のみが知る…!?




でもこれラブコメじゃなかった…すまん


とりあえず上手いラーメン食べて明日に備えようこの気持ちには少しフタをして
考えるのは明日の服のことだけだ~


では!また!!



アデュ~!

No.294 10/12/13 17:47
弥生 ( 40代 ISXe )

まみ兄が大好き💓

No.295 11/09/28 02:18
ももんが ( PZ9M )

お久しぶりです🙇

本当にどれくらいぶりかで寄らせていただきました🌱


皆様震災は大丈夫でしたか‥?


私は親戚が被災したものの元気に過ごしております😺



あれからだいぶ月日がたったので母の介護もずいぶんマシになったのでまた書きにきたいなぁなんて思っています


不定期でふらりと現れますがまた良かったらお付き合いください🙇🌱



ももんが

  • << 297 やった✨待ってました~😂💕 また読ませて頂きます☆

No.296 11/09/28 02:42
ももんが ( PZ9M )

さて

みんな覚えてる?


山川宏美だよ


あほな作者が怠けてる間にめちゃくちゃ時間がすぎてしまったけど


あたしはどうしてるかって?


そりゃあ毎日毎日自分磨きして~

コラーゲンとって~
むくみケアして~


髪の毛サラッさらにしちゃって~


ショート丈のジャストサイズのジャケットにできる女の必須アイテム

パンツandパンプスはいて~


カバン?


勿論エコバックじゃなくてよ~



おほほほほ~




っなわけないじゃん


今年の秋も相変わらずキティサンダルにジャージメガネですけど何か?(笑)



進歩な~い


このくそ作者め!



でもね
変わったとこも一点


それは



『ただいま~
あ~寒っ


山ちゃん肉まん買ってきたよ

ピザまんもあるけど食う?』



『食う~

肉まんもピザまんも』


『そんな食べると脇につくぞ脇に


最近ちょっとたるんできたんじゃないか?』


『ちょっと!やめっ‥

くすぐったいってば!!』



狭いおんぼろアパートにジャージィなカップル‥



そう!
カップル!!


カップルっちゃったんです!!


相手は!?
(詳しくはまた後日)


狭いコタツにみかんと肉まん


地味なあたしについにきた春


自力でつかんだ春に眼鏡の力など忘れていた昨今



ホコリをかぶった眼鏡はそう遠くない未来またあたしの人生を大きく変えようとしていた



じゃじゃ~ん!!

No.297 11/10/02 23:36
しの ( ♀ HJ0L )

>> 295 お久しぶりです🙇 本当にどれくらいぶりかで寄らせていただきました🌱 皆様震災は大丈夫でしたか‥? 私は親戚が被災したものの元気に過… やった✨待ってました~😂💕
また読ませて頂きます☆

No.298 11/10/05 06:38
ももんが ( PZ9M )

🌱しのさん


更新おまたせしました😺



のんびりですがまた書いていきたいと思います🙇



良かったらお付き合いくださいませ



🌱ももんが🙇

No.299 11/10/05 07:07
ももんが ( PZ9M )

は~るがき~た
は~るがき~た
ど~こ~に
きた~



ふん♪ふん♪ふん♪



ってうかれすぎ?
っていうかはしゃぎすぎ?



だってしょうがないじゃん~




ちょっと前まで男の子の隣になるだけで(惚れてしまうやろ~)ってなっちゃうくらいご縁のなかったあたしが



散歩のついでに肉まん買ってきてくれる優しい彼ができたんだよ


か.れ.し



からしじゃないよ
かれしだよ~


今風にいうとカレシ?(やや上がり風)



カレシ?
かれし?
彼氏?


いや~
何て素敵な響き


肌も心もうるおっちゃうよね~


でも!まだ!
まだ!!!


まだ!何もありません!!!


もちろんです!!!

向かいあってにっこりするくらいがマックスですから!



っちゅうか
ホントに何にもしてこない…



草食系なのか
ジャージには発情しないのか…



そもそもホントに付き合っているのかも謎だなぁ



ちょっと聞いてくれる?


さかのぼること1ヶ月


ある日の夜



突然まみ兄から電話があったのよ


『はい?もしもし?どうしたんですか、夜になんて珍しいですね』


『ん~
ちょっと山ちゃんの声がききたくなっちゃってさ

今、大丈夫?』



(直立不動)



『なによ、また固まってるの(笑)

ハイ、動いて動いて』



『あのね~からかってるなら切りますよ~


これでもあたし忙しいんですから』



『なに?珍しいじゃん?買い物でもしてたの?外?』


『ううん、明日行く会社の概要に目通そうかなと思ってて』



『あ、そうか
山ちゃん営業にまわったんだったよな

どう?やっぱり事務より大変?』



『ん~
大変さが違う感じかな


事務はいつもやること決まってるけど正確にこなさなきゃいけないし時間におわれる感じ

でも営業は正確さよりバイタリティや変化球を受けたり返したりするテクニックがかなりいるかなぁ


なぜあたしなのかなって今でも思うよ』


『そうだよなぁ
何でなんかなぁ』



『そこは「そんなことないよ、君ならできるよ」くらい言っておこうよ』



『何?自信ないの?はじめたばっかりなのに、山ちゃんらしくないなぁ』


『あるわけないじゃん、そんなの

正直こわいよね』

No.300 11/10/15 20:52
右往左往 ( 40代 ♀ WPjHh )

右往左往です。
やったー✨待ってました⤴
楽しみ増えた。
ゆっくりで良いのです😃
久しぶりに除き見して良かったです😃

No.301 11/10/25 11:01
ももんが ( PZ9M )

『まぁ、あせらなくてもいいんじゃないの?山ちゃんのいいところが目にとまっての大抜擢だろうしさ


愚痴らない
愚痴らない


バリバリ働く女ってカッコ良くて俺は好きだけどなぁ』



(‥‥!!!!!)



『はい固まらないのそこ~(笑)動いて動いて』



『‥‥あのさぁ、電話代もったいないから切るよ


用事があるなら三秒 以内に言ってよ』



『あ、そうだ

騙されたと思ってドア開けてみ

いいもん届いてるから』



『何?荷物?何かあたしに送ったの?』


『うん、ま~そんなもんかな。なまものだから早めに渡したいからさ』


『え~

あたしジャージだし頭ボサボサだし‥』


『そんなの今更動じねぇよ(笑)早く開けて』


こんなそんなでコタツの上のみかんや脱いだ服を押し入れの中に突っ込み

壁にかけた小さな鏡で慌ててまゆげを書くと右左を確認して小走りで玄関を開けた

No.302 11/11/02 16:07
芹香 ( ♀ ISXe )

続き読みたい!まみ兄好き😍

No.303 11/12/16 00:11
のっぽさん ( 30代 ♀ LzPL )

密かに、ももんがさんを尊敬しています☺情景描写やストーリー展開など素晴らしいです。

きらきらぼしの続編を検索して探しているのですが見つかりません💦どこにあるのでしょう?ぜひ読みたいです。

No.304 11/12/26 04:47
ももんが ( PZ9M )

『……?何も見えない』


寒さで腰をかがめながら腕を組み魚眼レンズをのぞくが誰もいない


『?なまものって…』


(ガチャ)



あけた瞬間すかさずドアを閉めようとした


『いやん、山ちゃん閉めないでよ~


お土産あるからさぁ』


そこにはドアの真横で体操座りしながら寒さで鼻を赤くしたまみ兄がにっこり笑っていた


携帯を二つに折ると立ち上がりながらコートを払いあたしの目の高さに白い袋を差し出した


『何…これ

っていうかこんな時間にだね、男の人がうっかり女の子の部屋にくるとね…』


『虎野』


『えっ?』



『せっかくお持たせ人気ナンバーワンの虎野の大判焼き買ってきたのになぁ


あっためて食べるとさぞかしうまいのになぁ



栗入りの限定なのになぁ』



(虎野の生どら焼き…!!いくら世間の動向に鈍いあたしでも知っている




開店前の朝から並んでもなかなか買えず昼間には店が閉まってしまうからOLには買うことができない名菓…!


食~べ~た~い~)


『あ、ありがとう…
じゃあ遠慮なく頂いて…って


何上がり込んでるのさ!!』


『いやぁ、外寒くてさぁ


やっぱりコタツはいいやね。


特に山ちゃんのコタツはみかん意外にこんな素敵なものにも出会えるしさ


しっかし地味なパンツはいてんなぁ白に水色の水玉って(笑)


コタツであっためてはくってばぁちゃん意外に初めて見たわ俺』



ああ寒い


真っ白



まだその中には肌着もブラも靴下もありますから~


さわらないで~



勢いよくドアをしめるとコタツの下の下着をかき集め水玉パンツをぶんどるあたしにまみ兄は笑いながらお土産どら焼きを差し出した


『これ食べたら三秒で帰ってよ

あたしこれからテレビ見て寝るんだから』


『はいはい

山ちゃんただでさえすっぴんでこわいんだからスマイルスマイル』


指でみけんのしわをのばしてみせる


その指先はホントに冷たくて


何でこんな夜に突然きたのか


何で手袋もしないでやってきたのか


どら焼きを食べながらあついお茶を堪能している時はまだそんなに不思議には感じなかった

No.305 11/12/26 04:50
ももんが ( PZ9M )

🌱芹香さん🌱

ありがとうございます🙇


ほんとにゆっくりですが書いていきたいと思いますので良かったらまたのぞいて くださいね🌱


ももんが

  • << 314 今度はいつ頃に更新予定でしょうか? せかしては申し訳ないと思いながら今日はどうだろうと1日に5回はのぞいています。早く読みたいです。

No.306 11/12/26 04:55
ももんが ( PZ9M )

🌱のっぽさんへ🌱


ありがとうございます


きらきらぼしの続編は『ラブレター』というお話なのですがここからまだ探せるかな💦ずいぶん前のお話なので🙆


携帯の検索で

ミクル小説ラブレター

で検索したらでるかもしれませんね


わたしもあとでやってみますね🌱


ももんが🙇

No.307 11/12/26 05:42
ももんが ( PZ9M )

のっぽさんごめんなさいね🌱今マイスレで調べてみたらラブレターは三年前の作品なのでもう見られないみたいです…😿

なので良かったら簡単にはしりだけ…


お空に帰ったゆうせいは兄夫婦の赤ちゃんとなりまたこの現世へ…



主人公はあれから何とか前向きに生きようとお空に向かって約束します


何年かたち…仕事を通じて知り合った男性に好意を寄せられますが悩みます


自分だけ幸せになっていいのか

このまま進んでいっていいのか悩みます

そんな折


ゆうせいの命日に甥っ子(生まれ変わったゆうせい)とバスに乗り海へ行きます


今までいろんは場面でお空のゆうせいに手紙を書いては出せずにダンボールにしたためてきました


それを紙飛行機にして甥っ子と空へ飛ばしたのです



そこへ呼び出した彼が登場し


一緒に紙飛行機を飛ばします


『ゆうせいくん、君のお父さんになってもいいですか』と言いながら…


彼は病死した奥さんの間に小さな子供が二人いるお父さんっていう設定でした


そこで二人は気持ちを確認しハッピーエンドに向かっていく…ってお話です🌱


ちなみにお母さんが海に飛ばした最後の手紙は神様が雲の上で拾い上げ読みます


そしてまた新たに新しい雲の上の子供達に会いに行く時間になる…というラストにしました🙇


本当ならぜひ読んで頂きたかったのですが申し訳ありません🌱


偶然のっぽと同じハンドルネームなんですね🙆驚きました


のっぽママもお辛い経験をされたのですね…きらきらぼしが満レスになってしまいお返事ができませんでしたが、きっときっと


それでも赤ちゃんはのっぽママを選んできてくれたのだと思います


のっぽママさんとお空の赤ちゃんに素敵なクリスマスが過ごせますように…


1日遅いですが

メリークリスマス🌱


🙇ももんがより

No.308 11/12/26 05:46
ももんが ( PZ9M )

🌱さくらさん🌱
順番が前後してしまい申し訳ありません💦

いつものぞいてくださっているようでありがとうございます


良かったらゆっくりですがまた遊びにきてくださいね🙇🌱


ももんがより

No.309 11/12/26 05:50
ももんが ( PZ9M )

🌱右往左往さんへ🌱
おひさしぶりです🙆
本当に私もたまにしかこれなくて申し訳ありません💦

右往左往さんはお元気ですか?


これからも良かったら声かけてもらえると嬉しいです🌱


ももんがより🙇

No.310 11/12/26 08:48
猫 ( ♀ 3Aafi )

こんにちは。私もモモンガさんのファンの1人です😌

『ラブレター』
拡張スレ検索で
探してみて下さい。

きっと見つかりますよ💕

No.311 11/12/26 09:52
ももんが ( PZ9M )

🌱猫さんへ🌱


わざわざありがとうございます🙇


一度試してみますね

コメントありがとうございました🙆🌱


ももんがより

No.312 11/12/26 22:31
笑い袋 ( 40代 ♂ xcYYh )

>> 311 ももんが様😃

お久しぶりですo(^-^)o

でしゃばって🙇すみません🙇

俺のマイスレに有りましたので載せますね☝
ラブレター

http://mikle.jp/thread/1158875/

これ☝だと思います🙇

No.313 11/12/27 06:44
ももんが ( PZ9M )

🌱笑い袋さん🌱


🙇🙇本当にありがとうございました🌱

どうにか見てほしいなと思っていたので嬉しいです!


みなさんも笑い袋さんもお優しいですね

何だか朝からほっこりしてしまいました


🙇🌱ももんがより

No.314 12/01/03 03:48
芹香 ( ♀ ISXe )

>> 305 🌱芹香さん🌱 ありがとうございます🙇 ほんとにゆっくりですが書いていきたいと思いますので良かったらまたのぞいて くださいね🌱 もも… 今度はいつ頃に更新予定でしょうか? せかしては申し訳ないと思いながら今日はどうだろうと1日に5回はのぞいています。早く読みたいです。

No.315 12/04/27 20:16
夏姫 ( ♀ ISXe )

早く続きが、読みたい🆘 読みたい🆘 読みたい🆘 読みたい🆘 読みたい🆘 読みたい🆘

No.316 12/05/26 20:38
夏姫 ( ♀ ISXe )

ずーっと待ち続けてます😱

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