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No.23 12/06/21 00:12
移動図書館 ( LXNhnb )
あ+あ-

「どうしたの?」

気だるい囁き声に、僕は我に返った。

「あ……いや」

胸の高鳴りは、いまだ止まぬ。

喉が、血を求めてごくりと鳴る。

けれども僕の指先は、牙を立てる目星をつけた太ももの付け根に、すでにカサブタになった二つの傷跡を、確かに感じていた。

何夜(いつ)だ?

暗がりに慣れた僕の目は、おそらく普通の人間よりはよく利くのだろう。

乱れた髪の中にある、チサトの細い顎――その下にも、二つの、忌まわしい傷跡がある。

脇の下にも、肘の内側にも、乳房の下にも、ああそうだ、太ももの内側にも、くるぶしの上にも。

たとえ、僕が正気を失って忘れてしまっても、夢中で牙を立てた場所は、醜く彼女の身体に残っている。

僕は、また、一人の人間を壊そうとしているのだ。

そっと手を退け、スカートをちゃんと膝下に引っ張ってから、僕は彼女の上に体重を預けた。

薄いTシャツ越しに、彼女の体温と、鼓動と、熱い血の巡りを感じる。

決して大きくはない乳房の間に頬を埋めて、静かに、呼吸を整えた。

「大丈夫なのに」

少し拗ねたような声がする。

「私は私で楽しんでるんだから、そんなに気を遣わなくても……」

そう言いかけて、口を噤んだのは、僕が堪えきれずに鼻をすすったからだ。

全然、大丈夫じゃないんだよ。

ぎゅっと目を閉じると、涙がぽろぽろとこぼれて、彼女のTシャツに染みを作った。

トクンと胸が高鳴るのを聞いて、チサトが驚いたのがわかった。

それでも、黙って僕の頭を抱き、優しく撫でていてくれた。

「君のことが好きだよ。君が、私に優しくしてくれてるのも、ちゃんとわかってる。だから、怖くないんだよ」

チサトは、なだめるような声で言った。

でも、僕は顔を彼女の胸に押し当てたまま、首をゆっくりと振った。

――違う。

「私を気持ちよくさせてくれて、君の飢えを満たしてあげられるから、お互い様じゃないかなあ?」

――違う、違う!

怖くないのは、当たり前じゃないか。

傷口から君の身体に入り込んだ僕の唾液が、君を洗脳してしまうんだ。

これは、セックスじゃない。

チサトにとっては、「ちょっとイケナイことをしている」程度の認識でしかないのだろう。

しかし、今の僕らは捕食と被食の関係でしかないのだ。

吸血鬼は血を得るために、捕食対象を惑わせる。

それが本能。

君はもうすでに、壊れ始めている。

何も知らないまま、僕に身を捧げようとしている。

そして僕は、それを拒めない。

これも、本能。

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