白い花瓶
いつもの様に遊びに行った実家の玄関先で、白い花瓶を見つけた。
「あ、あの花瓶。こんなところにあったんだ…」
何年振りに目にしたんだろう。
最近、実家の母が兄の建てた家に同居する話が出ているらしく、実家にある使わない物やいらない物を片付け始めていた。
実家に行く度に少しずつ、部屋がスッキリしていくのは分かっていたけど…。
そのおかげで、すっかり忘れていた懐かしいあの頃の記憶が蘇ってきた。
隆からもらった花瓶。
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隆と出会ったのは中学一年生になった春。
小学校と違って中学は校区が広く、市内の小学校が7校集まってできていた。
だから生徒の数も増え、初めて会う子も沢山いて、なんだか世界が広がる気がしていた。それだけでも楽しみだった中学校生活。
入学式の日のクラス発表。1年2組、35人。
その中に、隆がいた。
クラス発表、まずは同じ小学校から来てる子を探す。
と言っても…私が通っていた小学校は、中学の校区の中でも一番大きかったので35人いるクラスの中で、半分は知っている子だった。
「あ、真美も美樹も同じクラスだ。やったね。」
私は1-2のクラス名簿から小学校から仲良しグループだった2人の名前を見つけて安心した。
教室に入ると、50音順に机に名札が貼ってあり、もうほとんどの生徒が席に着いていた。
とりあえず、真美と美樹の席を確認してから、私も席に着いた。
ラッキーなことに、隣の席は小学校から仲の良かった男子、優太だった。
「郁も2組だったんだ。知ってる奴が隣で良かった。」
優太も私と同じだったみたい。
入学式が始まるまでの時間、私はずっと優太と他の小学校から来た子のことをコソコソ話していた。
担任の先生が教室に入ってきて、入学式の流れを軽く説明して、みんなで体育館へ移動した。
よくある校長先生の長い話に、よくある展開。
面倒くさいだけの儀式も1時間程度で終わって、また教室へ戻る。
初日だということもあり、HRも簡単に済まされ、12時前には下校になった。
とは言っても、今日から中学生ってテンション上がっちゃってる子供たちが大人しく帰る訳もなく。同じ小学校から来た子、それぞれがグループに分かれて話をしたり、じゃれあったり…
なかなか帰ろうとせずにいた。
私達のグループもそうだった。
真美と美樹、優太と優太の親友の良介。
初め私達はその5人でしゃべっていた。しばらくして、他の小学校から来ていたが、美樹と塾が一緒で仲が良いという浩子が加わった。
浩子は天然で面白く、初めて会った私達ともすぐに馴染んだ。
「ねぇ、部活どうする?いっぱいあって何に入るか悩むよね~。」
なんて、さっそく部活動について話していた。
部活動は強制ではないので、特に部活に入らなくても良いのだが、みんなも私もどれにしようか…入る気満々だった。
優太と良介は小学生の頃から野球をしていたので、中学でも続けるんだと言って、明日にでも入部届けを出しそうな勢いだった。
やっぱり男の子には野球は人気だな~。
入学してから一週間…
入学式の翌日から普通に授業も始まり、あっという間に新入生気分も抜けていった。
クラスの子の顔と名前も大体、一致してきた。
そうなると始まるのが、イケメン討論会(笑)
なんとな~くの雰囲気や人気が分かってきて、クラスで誰が一番かっこいいかを討論する。
いつものメンバーでよく話したものだ。
真美も美樹も違う小学校だった男の子の名前ばかりを出す。
やっぱり、新鮮な出会いの方がドキドキ感もあるし?
見慣れた顔より違う学校だった子の方が1割増し格好良く見えていたような気がする。
あくまでも気のせいだったな~って、今になったら分かるんだけど(笑)
入学から一週間。
大体の人が、それくらいで部活を決め、入部しはじめる。
私もそうだった。
いろいろ迷ったけど、バトミントンにした。
真美と美樹と浩子はバレー部。仲良しグループで私だけが別の部活だ。
特に理由があったわけではないが、私はバレー部に入りたいとは思わなかったので。なんとなく興味があったバトミントンにしたのだ。
真美たちとは、部活が違っても帰りは一緒に帰ろうねって約束してたから、先に部活が終わった方が教室で待って、特別な事がない限りみんなで一緒に帰っていた。
部活は違っても、運動部は大体みんな似たような時間に終わるので、そんなに長時間待つことも、待たされることもなかった。
他の部の子たちと帰る時間が重なることも多かった。
野球部もそうだ。
帰り道にある、駄菓子屋でしょっちゅう優太たちと重なった。
「郁、いいところに来た。おごって~」
「優太がおごってよ。」
そんな会話があたりまえのようにあって、その駄菓子屋からは優太たちも混ざって、更に団体で帰る。
いつものパターンだ。
その中に隆も居た。
隆も1年2組。
野球部に入って、それで優太や良介と仲良くなったらしい。私のクラスの野球部はこの3人だけ。
だから?気付くと教室でも3人で居るし帰りも3人。
いつの間にか超仲良しさんになっていた。
初めて話した時の隆の印象は…うさん臭い奴?いつもニコニコしてて、人が嫌がることは絶対に言わない&しない。
絵に描いたようなイイ人。
顔は…お世辞にも格好イイとは言えない(笑)中の下?くらい。
絶対にいい人キャラ作ってるんだと思ってた。
でも、それが素なんだって分かるのに、そんな時間はかからなかった。
休み時間や帰り道、みんなで集まってる時も、裏表なくさりげない気が使える。隆の存在はみんなをホンワリした空気で包んでくれた。
っていうのは、言い過ぎかも知れませんが…
そんな隆の雰囲気に惹かれていくのにも時間はかからなかった。
学生の頃は必ずと言っていい程、クラスに目立つグループができて、そういう人たちが中心になって仕切ったりするものだが、私達のクラスにはなかった。
3~4人の仲良しグループはいくつかあったが、みんなの仲も良く、男女の仲も良かったと思う。
みんながそれなりに仲の良いクラスだったから、男女の仲がイイからって冷やかされたりもなかったし、本当に平和な教室だった。
入学してから1ヶ月が過ぎた頃。
もうクラス全員の顔も名前も覚えただろうってことで、初めての席替えをすることになった。
先生が作ったクジ。窓際がイイなぁ~とか思いながら引いたら…大当たり?窓際の1番後ろの席だった。
隣は隆。
すごい運を一度に使ってしまったような気がするくらい、この席替えは私にとって嬉しいことばっかりだった。
隆の隣の席。
それまでは、真美や優太みんなと一緒に居る時ぐらいしか、隆と話すことなかったのに、この席になってからは違った。気付いたら、隆とばかり話すようになっていた。
隆の隣は、なんだかすごく居心地が良かった。
自分で言うのも何だけど…私はひねくれ者で、なかなか素直になれない性格だ。
後で気付いて後悔するのだが、思っていることと反対のことを言ったりして、人を傷つけることも度々あったと思う。
隆は、それを全部分かってくれているかのように、私が変なこと言っても
「また~、ホントは反対なんでしょ」
とか言いながら軽く流したり、決して怒ることなく相手してくれた。
中学1年生にしては落ち着いていたのかもしれない。
隆の前では何しても大丈夫って、安心感があった。
これは私のこじつけかもしれないけど。
それから3ヶ月、席替えの度に隆の近くが続いた。
何の裏工作もなく(笑)
運命…なんて言うのは、ちょっと言い過ぎだけど。隆を好きになるのは当たり前の様な状況だった。
最初はすごく気の合う優しい友達、だったのが…
いつの間にか、とても大切な存在になっていた。
隆に会う為に学校に行っていたようなものだ。
私が中学生の頃は、まだ付き合ったりしてる子は少ない時代で、3年生でもほんの一部ぐらい。
大半が、友達同士でキャッキャ言いながら好きな人の話をする程度だった。
私も毎日のように、好きな人の話で真美たちと騒いでばかりいた。
と言っても…私以外の3人は、体育祭なんかで同じ組になった先輩を好きだったから、私と隆の関係を羨ましがる&くっつけようとする話ばっかりだった。
誰かのキューピット役。それも楽しい年頃だったからだろう。
周りが勝手に盛り上がってるのを必死で止めた記憶がある。
隆のことは好きだった。
でも、付き合いたいとか?そんな気持ちは全然なかった。まだまだ子供だったから、ただ毎日顔を見れて話ができて…
それで満足だった。
自分の気持ちが隆にバレて、今までみたいに話せなくなるのも怖かったし。
夏が近付く頃、私達のグループに彩子が加わっていた。
これがまた、超が付く程のおせっかい。大阪のおばちゃんタイプ?
とにかく、人の世話やくのが大好きで、言いたいことは言う、やりたいことはやる。
サバサバした性格の姉御肌な子だ。
私と真美と彩子。
美樹と浩子。
私達は2つに別れることも多くなった。
仲が悪くなったわけではない。
彩子の好きな人も同じクラスに居て、その話を聞かされるのが面倒になった美樹と浩子が避難する…みたいな(笑)
彩子がクラスメイトの透を好きだって話は有名だった。
というか、誰にも取られないように?
自分からクラスの女子全員に宣言していたから。
透はそこそこモテていたが、彩子の勢いが怖くて諦める。そういう子が何人かいたのを知っている。
彩子の作戦勝ちだ。
彩子の好きな人が隆じゃなくて良かった(笑)
おせっかいで、いろんなことに首を突っ込みたがる彩子のおかげで、自分だけじゃ何も出来なかった私も行動を起こすことになる…。
私が隆を好きなことは、彩子にも話していたので、頼んでなくても協力してくれた。
彩子は彩子で、自分の為に動いていたような気もするけど(笑)
夏休み中の花火大会、バーベキュー、体育祭・文化祭の打ち上げ…
何かと、クラスでのイベントを企画してくれた。
休みの日には真美たちと、それぞれの好きな人の家を探索しに出掛けたりもした。
今思えばストーカー!?って感じだけど。
女5人で地図を片手に自転車で走り回るのは、相当楽しかった(笑)
本当に…バカなことばっかりしてました。
毎日が楽しかった。
このクラスになれて良かった。
私は学校生活が本当に楽しくて仕方がなかった。
そんなある日…
彩子が慌てて私の元にやってきた。
「郁!知ってた?隆、転校するんだって。」
え?なに…??
私は一瞬、彩子が何て言ったのか分からなかった。
「だから~、隆!転校するらしいよ?」
「嘘…。」
「ホントだって。今、本人が優太たちと話してたの聞いたから。」
私はすぐに隆に聞きに行こうかと思ったけど、やめた。
というか…本当にそうだったらと思うと、足が動かなかった。
隆が転校…
本当のことを聞くのが怖かった。
なのに、私はすぐに事実を知ることになった。
優太も、その時に初めて聞いたらしく…クラス中に報告するかのように
「隆、転校するんだって。」
と言った。
優太の横で、隆が『そうそう』って感じで頷いていた。
「本当に転校するの?」
私は勇気を出して聞いてみた。
隆は私の気持ちを知らない。
だから、いつものノリで軽く答えた。
「三学期が終わったら、だけど。親の転勤で隣の県に引っ越すことになって。」
ずいぶん前から決まってたらしい。
隆も言い出し難くて、今まで黙ってたんだって…
優太や良介と引っ越し先のことを話してる隆を見て、なんだかよく分からない涙が込み上げてきた。
ここで泣いたってどうにもならないことぐらい分かってたし、隆に泣き顔を見られるのもイヤだったから…
私は教室から飛び出した。
彩子と真美が私の後を追ってきた。
「びっくりしたね」
真美が言った。
「三学期いっぱいって言ったら、あと半年もないね…」
彩子が言った。
「ねぇ、もっと早く言ってくれたら良かったのに~。隆のバカ(笑)」
私は2人が変に気を使わないように、精一杯笑って言った。
そんな様子を見て、彩子はすぐに隆の文句を言い出した。
私を励ますつもりだったのだろう。
「あんな水臭い奴より、いい人いるって。また違う人、探しな。」
その日、家に帰ってから隆のことばかり考えていた。
隆のことは大好きだ。隆がいるから学校も楽しいし、毎日が充実してる。
全ての事が『隆が居るから』に繋がる。
その隆が居なくなる…
想像がつかなかった。
隆が転校するという話を聞いてから、ずいぶん悩んだ。
このまま好きでいていいのか、諦めた方がいいのか…
これが一番無駄な時間だったのかも知れない。
いくら悩んでも、行き着く答えは1つだったから。
やっぱり隆が好きだ…
今のままで充分。
隆が居る間、楽しい時間だけを過ごせるように頑張ろう。
いつも笑っていようと決めた。
真美たちにも宣言しておいた。
「とりあえず…私の気持ちも、隆の転校も。どうにもならない事だから、その時が来るまでは今まで通り。みんなでバカやってよぅよ。」
「郁がそれでいいなら、そうしよう。」
みんなが隆の転校の話を聞く前の状態に戻ったような感じだった。
きっと、隆もその方が良かったと思う。
「よそよそしくなったら怖いじゃん」
って、良介に話してるの聞こえたから。
しばらくは本当に普通に『今まで通り』が続いた。
でも、時間が経つにつれ…彩子がうるさくなっていった(笑)
得意のおせっかい病だ。
二学期も終盤。
もう何日かで冬休み。冬休み前にはクリスマスがある。
彩子はクラスでのクリスマス会を企画していた。
そこまでは、いつものこと。
イベントの度に、何かと集会を開いては…透にくっついて猛アピールしてた彩子(笑)
今回のも当然ソレだと思っていた。
「私、クリスマス会までに透に告白する」
彩子が急にそんなことを言い出した。
正直、彩子の気持ちは透にもバレバレで望みは薄い感じだった。今更告白しなくてもいいような気もしてたけど。
彩子は自分で決めたことは押し通す人だから…って。
みんな分かっていたから、応援するしかなかった。
私も、彩子のそういう行動力はすごいなって思っていたから、出来るだけ協力してあげることにした。
というのは建て前で…
前にも書いたが…
当時は告白とかする子も少なく、手を繋いで一緒に帰ってる子たちを見るだけでも、ちょっとドキドキしたぐらいだ。
そんな頃の話だから、彩子に協力するのも半分は興味津々だったからで(笑)
告白した後のことなんて考えてなかったのが正直なところ。他人の告白に首を突っ込めるのが楽しみだった(笑)
私も友達に対しては、おせっかい病だったのだろう。
うちの学校は進級する時、クラス替えがあったから…彩子も焦ってきていたのだろう。
12月にもなれば、このクラスのメンバーで過ごせる時間も残り少ないなっていうのも、なんとなくリアルになっていく。
クリスマスを機会に、何か行動を起こしたくなる気持ちは私にも分かった。
12月19日
彩子が告白するから、付き合って(側にいて)というので…
いつもの4人で付いててあげることにした。
と言っても…電話での告白だったから、みんなで透を取り囲む訳ではナイ(笑)
電話というのも、公衆電話。
携帯なんて無い時代だったので…
みんな部活が休みになる、19日の日曜日に学校の近くの公園に集まることになった。
公園に集まってからしばらくは、何て電話するのか。
そんな話し合い?になったが、あまり必要なかったようだ。
彩子は勢いに乗っていた(笑)
「え!?もう掛けるの?!」
4人全員で突っ込んだぐらいだ。
彩子は1人、電話ボックスに入ると、透の家に電話を掛けた。
「あ、透?私、彩子だけど。もう気付いてたと思うけど、私ずっと透のこと好きだったんだ。」
あっという間の告白。早口な上に、キツい言い方…
彩子らしいって言えば、彩子らしい。
「付き合って欲しいんだけど。」
さすが彩子だね~なんて、少し離れた所で様子を見ていた私たち。
すぐに彩子が電話ボックスから出て来た。大きく腕でバツ。
『付き合う』ということに対しての返事はNOだった…。
今まで通り彩子とは友達でいたい。そう言われたらしい。
それでも彩子はピンピンしていた。
内心はやはりショックを受けていたんだろうけど…
すぐにビックリするようなことを言い出した。
「郁も告白しなよ。隆、転校しちゃうし。後悔したくないでしょ?」
…え?
「私が電話してあげるから!」
いやいや(苦笑)
「真美、美樹、手伝って。」
そう言うと、彩子はすごい早さで電話帳をめくり出した。
真美も美樹もノリノリだ…。
心の準備も何も無いまま…。
隆の家の番号を見つけた彩子はすぐさま電話を掛けた。
「嘘!?マジで掛けるの??」
さすがに、私が『うん』と言ってナイのだから、本当に電話をするとは思っていなかった。
が、甘かった…。
相手は彩子だ。
止める暇もなく、電話を掛けていた。
「ちょっと待ってよ!」
私が電話を切ろうとした瞬間、彩子は電話ボックスの扉を閉めた。真美と美樹は扉を押さえて、私をブロックしていた。
悪乗りだ…
私は隆に気持ちを伝えるつもりはなかったのに。
何の準備も無いまま、告白させられることになってしまった。
全部、彩子が言ってしまった…
「郁が隆のこと好きなんだって。」
「うん。」
「好きな人いるの?」
「いや。」
「じゃ、OKでしょ?」
「え…あぁ。」
彩子が電話ボックスの扉を開けて言った。
「郁、OKだって!」
それを聞いて、受話器を受け取った…のは美樹だった(笑)
「郁と付き合うってこと??」
「あ~、うん。」
私が言うべきセリフを、彩子と美樹が全部言ってしまってから、やっと。
電話を代わってくれた。
「もしもし、隆?ごめんね、いきなり。こんな予定じゃなかったんだけど…。
でも、本当なんだ。私、隆のこと好きだから。それだけ分かってくれてたら嬉しいから。これからも、今まで通りでお願い。」
そう伝えると、電話を切った。
みんなサプライズな告白が上手くいったと…興奮していた。
私からしたら…
『隆は断れない状況だっただけ』のような気はするが。
それでもやっぱり嬉しかった。
その日は、その電話のことを何度も思い出し、なかなか寝付くことができなかった。
次の日の朝。
隆と顔を合わせるのが、緊張して緊張して…教室に入るのにかなりの勇気がいった。
彩子たちは冷やかす気満々だし(笑)
私はいつも以上に『いつも通り』を心掛けた。
ふぅ…
「隆、おはよう。」
「あ~おはよ。」
隆は本当にいつも通りだった。
ホッとした。
「昨日はゴメンね~。」
なるべく明るく、精一杯の笑顔を作って言った。
隆も彩子の性格は分かってる様で(笑)
彩子の方をチラッと見て『アイツだろ?』って感じで、笑いながら頷いた。
告白なんてするつもり無かった。
でも、そんな隆の優しい顔や仕草を見たら…これで良かった。素直にそう思えた。
それから冬休みが始まるまでの一週間、本当に今まで通りでいつも通りの毎日だった。
期末テストの結果を2人で比べ合ったり、みんなで騒いだり。相変わらずと言えば、相変わらずだったけど。
隆が、私の気持ちを知っていてくれて、それでも何も変わらず接してくれていることが、すごく幸せに感じた。
本当に私のことを好きでいてくれたのか、そこまでは彩子たちも聞いてくれなかったから分からないままだったけど…。
それでもいいかって思えるぐらい、その頃の隆との距離感は心地良かった。
冬休み初日。
彩子が企画したクリスマス会。
クラスの子がほとんど参加した。
中学生のクリスマス会だから、大したことをするわけではなかったけど。
学校以外で好きな人に会えるっていうのは、すごく嬉しかった。
私服姿を見れるだけでも大興奮ものだったから(笑)
3時間ほどで、クリスマス会もお開きになり、みんな仲のイイ子同士で帰って行った。
隆もクリスマス会が終わったら、優太と良介が家に遊びに来ることになっていたらしく…3人で帰って行った。
私は隆にクリスマスプレゼントを用意していたが…すっかり渡すタイミングを逃してしまった。
どうしよう、コレ…
渡しそびれたプレゼント。
前日、浩子には話していたので、
「隆、帰ったね。家まで渡しに行く?どうせ、一緒に居るの優太と良介じゃん。気を使うこともないでしょ。」
そう言って、隆の家まで付き合ってくれることになった。
一応、家に行く前に電話して、チャイムが鳴ったら玄関まで隆が出て来てねって約束してから向かった。
さすがに、家の人に会うなんてことは中学生だった私には耐えられそうになかったので(笑)
男の子にプレゼントをするのは、産まれて初めてのことだった。
何を贈ろうか、すごく悩んだのを今でも覚えている。
相手に聞けば間違いないんだろうけど。それは恥ずかしくて出来なかった。
雑貨屋で小一時間…迷って迷って、プラネタリウムのルームライトに決めた。
今なら分かるが、きっと中学生の男の子が喜ぶ物じゃあナイだろう(笑)
隆の部屋に置いてもらって、寝る時なんかに点けてくれたり。それを見ながら、少しでも私のことを考えてくれたりしないかな~なんて…
独りよがりな妄想を膨らませながら選んだのがソレだった。
ピンポーン
隆の家に着き、チャイムを鳴らした。
浩子は気を利かせたつもりか、隆の家に着く少し前の路地で待ってくれている。
家の前で、チャイムを押すまで。
何度か、隆の家と浩子の居る所とを行ったり来たりした。
彩子と違って、浩子はおっとりしている子だった。私が浩子の所に戻る度に、静かに落ち着いた口調で励ましてくれた。
チャイムを鳴らすと…約束通り、すぐに隆が出て来てくれた。
「これ、クリスマスプレゼント。そんなキャラじゃないから、渡そうか迷ったんだけど。良かったら使って?」
徹夜で考えていたセリフは、飛んでいってしまい…ありきたりなことしか言えなかった。
隆に対して、女らしい部分を見せるコトが異常に恥ずかしかったので。
普段と違うコトをする自分は、いっぱいいっぱいだった。
「ありがと。俺、プレゼント用意してないわ。ゴメンな。」
少し照れたように隆が言った。
「期待してないし(笑)気にしないで。」
隆の照れ笑い…なんかすごくかわいくて、そんな顔が見れただけで嬉しかった。
やっぱり学校で会うのとは違う。
いつもとは違うドキドキが、くすぐったい感じで…
ちょっと大袈裟だけど、こういうのを幸せって言うんだろうな~って思った。
それから、冬休みの間…隆に会うことはなかった。
遊ぶ約束も何もしなかったし、電話もナシ。
部活も、午前と午後で時間が分かれてたし。真美たちと遊ぶことはあったけど、本当にいつも女だけで、隆には一度も会わないまま。
何かしたと言えば…年賀状を出したぐらい。
『あと3ヶ月だけど、よろしくね。』
自分で書いておいて、ちょっと寂しくなったけど。
隆と会えるのも、あと3ヶ月…
それが、だんだんリアルになっていく気がしていた。
隆からも年賀状がきた。男の子らしい、おおざっぱな感じの年賀状。
でも、私には特別な物。友達から届いた年賀状とは別に、机の引き出しにしまった。
何度も出して見てはニンマリしてた。
年も明けて一週間。明後日からまた学校が始まる。
やっと隆に会える。
早く、冬休み終わらないかな~なんて思っていた、その日。
隆から小包が届いた。
自分宛ての小包が送られてくる心当たりもなかったし、差出人が隆の名前だったから、とても驚いた。
本当に本人から?
一瞬、疑ってしまったぐらいだ。
花瓶って…
私、そんなキャラじゃないのに(笑)
隆が選んだの??
そんな隆の姿を想像して、ちょっと可笑しくなったが…思わぬ贈り物に胸が躍った。
まともなプレゼント?初めてだな~。
これも年賀状と同じ、特別な引き出しにしまった。
何度も出しては手にとって…隆のことを想った。
だけど…
私はあることに気付いて、悲しくなった。
『○○県』
隆が引っ越すことになっている場所だ。
そう言えば、休み中に○○県に下見ついでに家族で遊びに行くと言っていた。
それに気付いてしまったら…
あんなに嬉しかった隆からの贈り物が、急に色褪せて見えるような…何とも言えない、寂しい感情に襲われた。
せっかくの贈り物。
嬉しかったのもつかの間だった。
きっと、隆は私がそんな気持ちになることなんて考えていなかっただろう。
ただ、喜んでくれると思っていたに違いない。
だけど、私には…
もうすぐ、遠く、私の知らない所へ行ってしまう。
まだ先のことだと思っていた別れが。
想像以上に近付いているんだという現実を、突き付けられたようだった。
新学期が始まって、久しぶりに隆に会った。
一応『お土産』のお礼を言った。
「○○県のお土産はナシだよ~。」
と、冗談混じりな感じで言ってみたが、隆には訳が分からないようだった。
確かに…私にしか分からないだろう。
私は、それから何年も花瓶を使うことはなかった。
中学生が使う物じゃないから…と言えば、そうなのだが。
『お別れの印』のような気がして。
実際に使う気には、なれなかった。
残される側の気持ちは、残して行く方には分からないのだろう。
そんな思いばかりが頭の中を覆っていた。
三学期はなんだかんだと学校の行事も多く、本当に毎日があっという間に過ぎていった。
私と隆の関係も、何も変わらず…それまでと同じだった。
ホントに両思いなのか?それすら分からない関係だったが、もう残り少ない時間を考えると…良くも悪くも?このまま曖昧なぐらいの関係が丁度いいんじゃないかと思えた。
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